説明

磁歪材料を含む接着により結合された接合部における歪みの測定

接着により結合された接合部の歪みを感知することが、接合部に歪み波を誘導すること、及び接合部における局所的磁気特性の変化を感知することを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
軽量の複合材料は、航空産業にとって非常に有望である。ファイバ複合材料は、従来の合金と比較して、比強度及び剛性を大きく向上させる。比強度及び剛性の向上は、重量が抑制されることを意味し、これは燃料の節約と運転費の低減を意味する。加えて、複合材料は、アルミニウムと同様に腐食せず、疲労に対する抵抗性が大きい。
【0002】
外板、補強材、フレーム、及び桁のような複合材料要素は、互いに結合されて、翼、胴体、及び尾翼といった主要なコンポーネントを形成する。このような複合材料要素は、高分子接着剤により互いに結合される。理論的には、接着のみで、これらのコンポーネントの負荷を支持するために十分な強度及び完全性が得られる。したがって、接着による結合は、主要なコンポーネント中の金属製のファスナーの数を大幅に減らすことができるはずである。
【0003】
しかしながら、実際には、特定の連邦航空規則により、任意の二つの主要な構造的コンポーネントの間に結合される接合部には、最大の剥離を有する(即ち、完全なボンドラインが無い)状態で特定の荷重を担持するという保証が必要とされる。接着により結合された接合部にこのような信頼性が無い場合の解決策は、金属製ファスナーを加えることである。接着により結合された接合部が破損した場合も、金属製ファスナーは接合部を繋ぎ続ける。
【0004】
金属製ファスナーの使用により航空機のコンポーネントの重量が増加する。複合構造への金属製ファスナーの使用は、製造の時間、費用、及び複雑性も増大させる。複合構造を穿孔するために、高精度のマシン及び複雑な手順が使用される。更に、ファスナー用の貫通孔は、落雷及び腐食にとって望ましくない経路を提供することになる。
【0005】
バイパス軸受荷重のための要件を満たすために穿孔された穴の周囲に加えられる複合材料のプライにより、更に重量が増加する。また、ファスナー穴の存在は、複合材料のプライの積層方向の選択を制限し、パネル及び結合された接合部の強度を低下させる(ファスナーを用いずに最適設計されたパネル及び接合部と比較して)。
【0006】
適切に設計、準備、及び制御されていれば、接着剤だけで、主要構造を互いに結合するために十分な強度及び完全性が確保できると考えられる。しかしながら、整合性及び信頼性を提供するデータは無い。
【0007】
接着剤に関するデータは、接着剤中の歪みを測定することにより収集することができる。接着剤中の歪みの分布は、弱い結合、およびその他の構造的不整合に影響されうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
接着により結合された接合部における歪みを感知する感受性を向上させることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、接着により結合された接合部の歪みを感知する方法は、接合部に歪み波を誘導することと、接合部の局所的磁気特性の変化を感知することとを含む。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、システムは、接着により結合された、磁歪材料からなる粒子を含む接合部を有する構造と、接合部の選択された領域内に歪み波を誘導する手段と、選択された領域の局所的磁性特性の変化を感知する手段とを含む。
【0011】
本明細書の別の実施形態によれば、アレイは、接着により結合された接合部を有する構造の選択された領域内に歪み波を感知及び誘導する複数の要素を含む。このような要素は、選択された領域に歪み波を誘導するための少なくとも一つのマイクロメカニカルドライバと、誘導された歪み波により生じる振動を測定するための複数の機械的センサと、選択された領域に弱い磁界を生成するための複数のマイクロ磁気ドライバと、歪み波に対する選択された領域の磁気応答を感知するための複数のマイクロ磁気センサとを含む。
【0012】
本発明のまた別の実施形態によれば、航空機構造の非破壊試験を実行する方法は、正弦波の磁気励起を印加して、構造の接着により結合された接合部に歪み波を誘導すること、接合部の局所的磁気特性の変化を感知すること、及び感知された変化を使用して、接着により結合された接合部を評価することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、接着により結合された接合部を有する構造を示している。
【図2】図2は、接着により結合された接合部を有する構造内の歪みを感知する方法を示している。
【図3】図3は、接着により結合された接合部を有する構造を伝播する歪み波を示している。
【図4】図4は、接着により結合された接合部に歪み波を誘導する複数の方法を示している。
【図5a】図5aは、接着により結合された接合部を有する構造の構造健全性を評価する方法を示している。
【図5b】図5bは、接着により結合された接合部を有する構造の構造健全性を評価する方法を示している。
【図5c】図5cは、接着により結合された接合部を有する構造の構造健全性を評価する方法を示している。
【図6】図6は、接着により結合された接合部を有する構造内の歪みを感知するためのシステムを示している。
【図7】図7a及び7bは、接着により結合された、歪み感受性の磁歪材料を含む接合部に歪み波を誘導及び感知するためのアレイを示している。
【図8】図8は、接着により結合された、歪み感受性の磁歪材料を含む接合部に歪み波を誘導及び感知するためのアレイを示している。
【図9】図9は、接着により結合された、歪み感受性の磁歪材料を含む接合部に歪み波を誘導及び感知するためのアレイを示している。
【図10】図10は、接着により結合された、歪み感受性の磁歪材料を含む接合部に歪み波を誘導及び感知するためのアレイを示している。
【図11】図11は、図10のアレイを用いて試験の深さを変化させる様子を示している。
【図12】図12は、航空機構造の非破壊試験の実行方法を示している。
【図13】図13は、航空機構造の非破壊試験の実行方法を示している。
【図14】図14は、航空機構造の非破壊試験の実行方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照する。第1の構造110及び第2の構造120は、接着剤130により互いに結合されて結合された接合部を形成している。接着剤130は、熱硬化性高分子又は熱可塑性高分子である。接着剤130は、繊維マット(荒目地クロス)、又はその他の充填剤といった追加の材料を含んでもよい。接着剤130は、結合線、隅肉、シーラント、パネル被覆物などを形成することができる。接着剤130は、主要構造、又は非主要構造を結合するために使用することができる。
【0015】
接着剤130は、歪み感受性の磁歪材料を含んでいる。磁気歪は強磁性体材料の特性であり、この特性により、強磁性体は磁界の影響を受けると変形する。逆に、磁歪材料が任意のレベルの物理的な歪み(数マイクロストレイン程度又はそれ未満)に曝されると、磁区構造に変化が生じ、小規模な磁界が印加されたときの物質の特徴的な磁化方法を変化させる。このような変化は測定可能である。
【0016】
接着剤130の歪みのレベルは、接着剤130と構造110及び120との間の接着強度の指標となる。接着剤130中の歪みは、重合の間に起こる化学的及び物理的変化により、並びに接着剤130と構造110及び120との間の熱膨張差の係数により大きくなる。接着剤130中の歪みは、有限要素解析により予測することができる。結合された接合部に不規則性が無ければ、結合された接合部の歪みマップは有限要素解析の結果と一致するはずである。直接に接触するが、寸法の変化無しに(即ち、低モジュラス材料により)荷重を移動させることはできない構造と接着剤との間のインターフェース内の領域では、接着剤の歪みのレベルが(有限要素解析と比較して)高いか又は低い。これにより、局所的領域と、a)他の領域における歪み、b)計算又は予想される歪み、c)別の時間における同一領域、及びd)損傷を受けた後の同一領域のうちのいずれかとの間の磁気特性に、測定可能な局所的変化が生じる。歪みのレベルが他よりも高い又は低いことは、剥離、層割れ、及び局所的キャビテーションなどの(10ミクロン〜接合部全体の大きさの)構造的不整合の存在又は素因を示す。
【0017】
磁気特性の局所的差異を測定することにより、構造的不整合を特徴付ける歪みの位置を特定することができる。例えば、接着剤130と構造の表面とが接触しているものの、接合部の荷重下でそのインターフェースに荷重が伝わらない場合、「キッシング剥離(kissing disbond)」が生じている。キッシング剥離は、シロキサン剥離剤のような汚染物の低モジュラス領域の存在により生じうる。
【0018】
磁歪材料は、任意の特定の組成に限定されない。幾つかの実施形態では、磁歪材料は、磁鉄鉱、アモルファス金属、及び強磁性金属といった磁性金属酸化物と、自然ニッケル鉄(NiFe)のような合金とを含みうる。幾つかの実施形態では、磁歪材料は、フェライトか、或いは強磁性金属又は合金の酸化物も含みうる。
【0019】
幾つかの実施形態では、磁歪材料はTerfenol−Dを含みうる。Terfenol−Dは、テルビウム、ジスプロシウム、及び鉄金属からなる合金である。これは、一の形態から別の形態へ非常に高いエネルギーレベルを変換することができる固体の変換素子である。電気−機械変換の場合、Terfenol−Dの磁気歪は、鉄−コバルト合金のような従来の磁歪材料の10〜20倍の歪みを、従来の圧電セラミックの2〜5倍の歪みをそれぞれ生成する。Terfenol−Dは高いキュリー温度(380℃)を有し、これは室温〜200℃で1000ppmを上回る磁歪性能を可能にする。航空機の一般的な使用温度は華氏−65°〜華氏300°であり、一部の樹脂系はこの範囲外で使用される。航空機の幾つかの部品は、エンジンに近いことにより、或いは閉じた領域内の内部航空機システムが放出する熱により、高い高度を飛行中も高温のままである。
【0020】
幾つかの実施形態では、磁歪材料はガルフェノール(Galfenol)を含んでもよく、このガルフェノールは、Terfenol−Dとは明確に異なる物理的及び磁気的特性を有する鉄−ガリウム合金である。ガルフェノールの磁気歪はTerfenol−Dの四分の一から三分の一であるが、ガルフェノールの方が遥かに頑丈な材料であり、機械的に過酷な環境に最小の衝撃固化で使用することができる。
【0021】
接着剤130の厚さは、結合される構造に応じて決定される。例えば、結合線は約10ミルの厚さを有する。
【0022】
磁歪材料は、ナノ粒子からフィルムに亘る形態を有しうる。フレーク、ファイバ形状、及びコーテッドファイバのような粒子は、球状又は立方体状の形状よりも、接着剤130と磁性粒子との間における歪みの結合率が高く、したがって望ましい。粒子の大きさ及びフィルムの厚さは、接着剤130が許容する大きさ及び厚みの限界によって決定される。しかしながら、粒子の寸法は、接着剤の構造特性に対する悪影響を最小限に抑えるのに十分小さくなければならない。それでも、形状に応じた有用な粒子寸法の範囲は広く、ナノメートルからミクロンに亘る。磁歪フィルムの厚さは、ナノメートルから数ミクロンに亘りうる。
【0023】
接着剤130に対する磁歪材料の割合は、容積比で0.1%〜30%とすることができる。しかしながら、接着剤の機械的性能と軽量化のためには0.1%〜1%という低い容積比が望ましい。
【0024】
結合された接合部における歪みは、磁歪材料に歪みを生じさせる。このような歪みは、次いで、磁歪材料の磁化に測定可能な変化を生じさせる。
【0025】
次に図2を参照する。図2は、接着により結合された、歪み感受性の磁歪材料を含む接合部中の歪みを感知する方法を示している。ブロック200では、結合された接合部に弱い外部磁界を印加する。弱い外部磁界は弱い正弦波域を生成する。これに応答して、磁歪材料は部分的又は完全に磁化する。
【0026】
ブロック210では、結合された接合部に歪み波が誘導される。縦波又は横波を誘導することができる。結果として、結合された接合部は振動に曝される。この振動は、時間の経過により変動する応力であって構造中を伝播し、磁歪材料の磁気特性に時間と共に変動する変化を誘導する。歪み波は、構造を伝播し、結合された接合部の各地点において、局所的残留応力/歪み及び磁化を変化させる。
【0027】
歪み波は、単一パルス又は反復される応力/歪みパルスとして印加することができる。磁歪材料に対する各パルスの磁気効果は一過性で且つ減衰する。
【0028】
次に図3を参照する。図3は、外部磁力線310と、接着により結合された接合部130に沿って伝播する歪み波320(他の実施形態では、歪み波は接合部130を越えて伝播することができる)とを示している。接着剤を通過する磁界は、歪みの影響を受ける。センサが磁力線310の上方に配置されており、磁気源が磁界dH/dtを提供する場合、センサ電圧は概ね、dB(H,δ)(センサ)/dt.Bセンサであり、磁力線に沿ったBの積分に依存する(電流が、経路に沿った全抵抗の合計に依存しているのと同様)。磁気源の周波数の選択、及びセンサと磁気源との間隔により、磁力線の深度及び感度限界が決定される。
【0029】
歪み波の具体的な効果は、磁歪材料の磁気異方性を変化させることであり(機械的なばね定数と同様)、これは次いで、外部磁界によって材料が磁化する方法を変化させる。磁化対外部磁界の勾配は、透磁率である。外部磁界は正弦波であるので、センサは、一般にBHループと呼ばれる形態の外部磁界に対する磁化の正弦波の依存を測定する。勾配(透磁率)は、歪みに依存する。
【0030】
ブロック220では、接合部の局所的磁気特性の変化が感知される。局所的磁化は、接合部に沿った複数の地点で測定することができる。各センサは、接合部の位置の局所的な変化を観察する。例えば、各地点において、センサは、磁気誘導の変化率(dB/dt)を感知することができる。
【0031】
幾つかの実施形態では、磁化の測定は、歪み波の方向でのみ行われる。他の実施形態では、測定は、歪み波の方向に垂直な方向でも行われる。この効果は、垂直な方向においても同じように大きいが、ポアソン比により異なる符合を有するはずである。固体中の波は縦方向又は横方向でありうるので、磁歪効果は(一の波は他の波より速く伝播するので時間の経過によって分離しうるが)複雑なものになりうる。
【0032】
磁気センサアレイを使用して、接合部の歪み画像を生成することができる。しかしながら、一部の構造では、センサアレイの大きさは、接合部全体を検査するには十分でない場合がある。したがって、センサアレイは接合部の異なる地点に移動させることができる。例えば、最初の検査は、応力が集中する鋭角及びエッジ近傍といった欠陥に対する感受性が既知であるか又は予測される領域において行うことができる。
【0033】
歪み波は、歪みを感知する感受性を向上させることが分かっている。歪み波は、磁歪材料の磁気応答を、熱による残留歪みによるものを上回るまで改善する。歪み波は欠陥の磁気効果を増大させる。即ち、歪み波の印加によって、欠陥の磁気特性が増幅される。このような感知の感受性は、形状の偶発的なばらつき、材料特性、及び特に結合された接合部における残余歪みの変動について特に向上する。
【0034】
ある種の弱い結合は、接着剤中に誘導された歪みが、低モジュラス汚染物のような隣接する物質のモジュラスに対して感受性であることにより検出可能である。本発明の方法は、高エネルギー振動又はローディングが終了して弱い結合中の塑性歪みが感知された場合に、局所的保証試験として使用することもできる。加えて、局所的領域の測定を行う極めて小さな磁気センサのアレイを使用して、小規模な剥離を検出することができる。
【0035】
歪み波の振動の周波数及び振幅は、結合された接合部を塑性形態にしないように選択することができる。安全な最大歪みは、1000マイクロストレインのオーダーでありうる。振幅は、測定可能な磁気効果を生むのに十分な大きさを有する(少なくとも一マイクロストレイン)、時間と共に変化する歪みを生成するものでなければならない。
【0036】
幾つかの実施形態では、歪みは連続波として印加することができる。連続波と外部磁界とを組み合わせることにより、長時間に亘る測定値の統合と、感受性の増大と、ノイズ除去とが可能になる。他の実施形態では、歪みはパルスとして印加することができ、リングダウンタイム(磁気効果が消失するまでにかかる時間)を使用して結合された接合部を特徴付けることができる。
【0037】
周波数は、接着剤中を機械的な波が伝播するあらゆる周波数でよい。接着剤中で短距離しか進まない高い周波数は、検査される領域を限定するために使用することができる。歪み波の周波数は、さまざまな深さにおいて構造を検査するために変更可能である。
【0038】
次に図4を参照する。図4は、接着により結合された接合部に歪み波を誘導する異なる方法を示している。幾つかの実施形態では(ブロック410)、歪み波は音響的に誘導される(例えば超音波によって)。他の実施形態では(ブロック420)、歪み波は機械的に誘導される(例えばバイブレータを取り付けることによって)。他の実施形態では(ブロック430)、歪み波は一時的な熱励起(例えばフラッシュランプ)によって誘導される。また別の実施形態では(ブロック440)、歪み波は一時的又は周期的な真空(例えば真空ヘッド又はチャンバ)により誘導される。歪み波を誘導するためのドライバは、例えば、機械的インピーダンス装置、音響ホーン、圧電変換器、レーザ、電磁パルサ、一時的又は周期的真空源、又は一時的熱源のいずれかを含むことができる。
【0039】
図5a〜5cは、接着により結合された接合部を有する構造の構造健全性を評価する方法を示している。図5aの方法では、歪み波は接合部の局所的領域に誘導される(ブロック510)。誘導された歪み及び磁気の特性は、局所的な接着剤の機械的特性に依存する。剥離部又は結合が弱い部分に隣接する接着剤は、異常な歪みを有するので、結合が良好な部分とは異なる磁気応答を生成する。
【0040】
ブロック520では、歪みが誘導されている間に局所的領域における局所的磁気応答を測定する。
【0041】
ブロック530では、この領域における機械的振動を測定し、磁気測定値と相関させる。構造的不整合の位置は、機械的な波と磁気的な波との伝播速度が大きく異なることにより、磁気的な振動と機械的な振動の両方を感知して相関させることにより決定することができる。このような相関により、例えば、弱い結合に対する感受性が増大し、他の非構造的な影響に対する感受性は低下する。歪み波と磁気信号とを相関させる場合、誘導された歪みだけを選択しなければならない(それにより結合強度が示される)。
【0042】
歪みに起因しない磁気効果(例えば、接着剤の厚み内の振動又はセンサと接着剤との間の距離の可変性)は、除外することができる。例えば、歪みに起因しない磁気効果は、歪みを加算せずに得られた磁気測定値を抽出することにより除外することができきる。
【0043】
図5bの方法では、結合された接合部の局所的領域に歪み波が誘導され(ブロック510)、この領域における局所的磁気応答が測定され(ブロック520)、磁気測定値がベースラインデータと比較される(ブロック540)。ベースラインデータは、良好な結合を表わす磁化の以前の測定値又は予測データを含むことができる。例えば、予測データは構造の有限要素解析に基づいて取得することができる。
【0044】
図5cの方法では、各対象領域に歪み波を印加してから除去した後、各領域における磁気応答の減衰率を測定する(ブロック560)。この率は、結合が弱いことを示す欠陥又は塑性変形に対して感受性である。したがって、この率とリングダウンタイム(磁気効果が消失するまでの時間)とを使用して接着剤を特徴付けることができる(ブロック570)。
【0045】
次に図6を参照する。図6は、接着により結合された接合部を有する構造中の歪みを感知するシステム610を示している。システム610は、結合された接合部の対象領域に歪み波を誘導するためのドライバ620を含んでいる。ドライバ620は、対象領域に制御された振動又はパルスを与える様々なデバイスのいずれかとすることができる。低周波数方式では、ドライバ620は、構造上のどこに配置してもよく、対象領域から離れていてもよい。圧電変換器のような高周波数方式は方向性であり、結合された結合部のうちの選択された狭い領域を刺激することができる。
【0046】
システム610は、センサヘッド630を更に含む。このセンサヘッドは手持ち式でもよく、又はロボットを利用して配置してもよい。センサヘッド630は、接合部に沿ってスキャンされる単一の磁気センサでもよく、又はマイクロ磁気センサ要素のアレイを含んでもよい。このマイクロ磁気センサは、巨大な磁気抵抗効果(GMR)デバイス、トンネル磁気抵抗(TMR)デバイス、マイクロ磁気コイルなどでよい。アレイの大きさ、形状、又は含まれるセンサ要素の数に特に限界はない。センサヘッド630の形状は、検査対象の構造に対して配置される平坦な表面を含むことができる。センサヘッド630の表面は、構造の平坦な表面又は湾曲した表面に密着するために弾性且つ柔軟性とすることができる。
【0047】
システム610は、対象領域に外部磁界を生成するための磁界生成コイル640も含む。DC又は代用周波数で動作する非接触駆動コイル640は、対象領域の上方に外部磁界を生成することができ、且つ磁歪材料の磁化を設定することができる。
【0048】
磁気測定値と測定された歪みとを相関させるこのような実施形態の場合、システム610は、対象領域における振動を測定するための振動センサ655も含むことができる。例えば、この振動センサ655は、振動の振幅と遅延とを記録するマイクロメカニカルセンサ、光学センサ、又は電磁気センサを含むことができる。
【0049】
システム610は、コントローラ650、及び信号処理プロセッサ又はコンピュータ660を更に含んでもよい。コントローラ650は、ドライバ620、センサヘッド630、及び磁界生成コイル640の動作を制御する。本発明の一実施形態によれば、信号処理プロセッサ又はコンピュータ660は、センサヘッド630の出力を受信して、これらの出力を解析することにより、結合された接合部の構造健全性を評価する。
【0050】
信号処理プロセッサ又はコンピュータ660は、ディスプレイ670にリアルタイム歪み画像を表示することもできる。これにより、技術者は、測定を繰返すことにより、又は磁気的及び機械的信号を変化させることにより(周波数を変化させる、センサのアレイ要素の選択を変化させる、又は積分時間を延長して感受性を上げることにより)、疑わしい領域をつぶさに観察することができる。
【0051】
次に図7aを参照する。図7aは、対象領域に歪み波を誘導し、対象領域に外部磁界を生成し、対象領域における振動を感知し、そして選択された対象領域における磁化を感知する単独アレイ710を示している。アレイ710の要素712は、一又は複数のマイクロメカニカルドライバ、複数のメカニカルセンサ、複数のマイクロ磁気ドライバ、及びマイクロ磁気センサを含んでいる。一又は複数のマイクロメカニカルドライバは、選択された対象領域に歪み波を誘導する。マイクロメカニカルセンサは、選択された領域における振動を検出し、その振動の振幅と遅延を記録する。例えば、マイクロメカニカルドライバ及びセンサは、超音波を利用して音波を誘導して反射された音波を検出することができる圧電要素を含みうる。このような圧電要素は、個々の要素として超音波パルサ/レシーバ及びマルチプレクサを使用してオンにすることができる。選択された対象領域における振動を感知するために同じ圧電要素を使用してもよい。
【0052】
マイクロ磁気ドライバ(例えば微小コイル)は、選択された対象領域に弱い外部磁界を生成する。マイクロ磁気センサは、対象領域において歪みの影響を受ける磁気応答の振幅及び位相を検出する。例えば、マイクロ磁気センサは磁気抵抗装置を含むことができる。
【0053】
図7bについても言及する。音響的に歪み波を誘導する実施形態710では、アレイ710の一の側に音響裏当て材720が設けられ、アレイ710の反対側には柔軟なパッド730が設けられる。柔軟パッド730は、成型されたラバーパッドでもよい。このような実施形態710は柔軟性を有し、検査対象の構造の形状に適合できる。柔軟パッド730は、アレイ710と音響信号を送受信するための超音波の経路となるセグメント化された遅延線740を備えることができる。
【0054】
柔軟パッド730はシール溝750を備えることができる。シール溝750は、検査対象の構造にパッド730を真空装着することを可能にする。
【0055】
信号処理プロセッサ又はコンピュータは、接合部に誘導された歪みの2D又は3D画像を生成するように、磁気信号と音響信号とを、互いに、及び発せられた信号に相関させるようにプログラムすることができる。
【0056】
アレイ710の選択された要素を使用して、図5aに示した方法を実行することができる。選択された複数のセンサ要素と歪み信号とを相関させることにより(即ち、複数の要素を使用して磁気的振動及び機械的振動の両方を相関させることにより)、高い解像度及び感受性を達成することができる。
【0057】
アレイはパターン化された要素に限定されない。パターン化された要素を有さないアレイの第1の実施例を図8及び9に、第2の実施例を図10にそれぞれ示す。
【0058】
ここで、図8及び9を参照する。アレイ800は、2レベルのセンサストリップ、即ち、上位のマイクロ磁気センサストリップ820、及び下位の音響ストリップ810を有する。音響ストリップ810はy方向に、マイクロ磁気センサストリップはx方向にそれぞれ延びている。音響ストリップ810は、PVDF又はその他の音響生成材料810から作製することができる。マイクロ磁気センサストリップ820は、磁気センサ材料から作製することができる。
【0059】
特定の音響ストリップ810及び磁気センサストリップ820は、対象領域下(図8の「X」で示す)の歪みを感知するように選択されている。選択された音響ストリップ810は、オンにされると対象領域下に音響的歪み波910を生成することができる。埋設された磁歪粒子は、接着により結合された接合部310内の局所的な歪みに対し、磁界920を生成する。
【0060】
選択された磁気センサストリップ820は、問い合わせを受けると、対象領域における磁化を感知する。各磁歪粒子の磁気効果は局所的であり、それぞれ距離が離れるとともに低下する。対象領域における磁気信号は、その位置での局所的歪み値として測定及び保存される。選択された音響ストリップ810の出力(送信装置の較正された電気機械的振幅により決定された)と選択されたマイクロ磁気センサストリップ820(Vmag−Vmech)とを相関させることにより、対象箇所における磁化(したがって透磁性)対歪みの測定値が供給される。
【0061】
音響ストリップ810は、結合された接合部から反射された歪み波応答も測定することができる。この測定により、種々の構造的特徴及び欠陥(種々の反射音響応答を生成する)を、結合された接合部内の歪みに直接相関させることが可能となる。
【0062】
次に図10〜11を参照する。アレイ1000は、上位のストリップ1010と、下位のストリップ1020とを有している。上位のストリップはx方向に、下位のストリップはy方向それぞれ延びている。各レベルは、交互に配置された音響材料からなるストリップとマイクロ磁気センサ材料からなるストリップとを含んでいる。単純化のために、上位1010には、三つのストリップ、即ち二つの音響ストリップ1014及び1016とその間のマイクロ磁気センサストリップ1012のみが示されており、下位1020には、三つのストリップ、即ち二つの音響ストリップ1024及び1026とその間のマイクロ磁気センサストリップ1022のみが示されている。
【0063】
対象領域は「X」により示されている。対象領域の試験は、一方向(例えばx方向)に延びる二つの音響ストリップを選択し、それに垂直な方向(例えばy方向)に延びる一つのマイクロ磁気センサストリップを選択することにより実行される。選択された二つの音響ストリップは、同時に又は連続してパルスを生成することができる。
【0064】
選択された音響ストリップを切替えて、さまざまな深さにおいて選択領域を検査することができる。音響ストリップとマイクロ磁気センサストリップとの間の距離を増大させると、検査の深さが増大する(例えば、D1からD2へ)。このようにして、試験の深度を変更することができる。
【0065】
音響応答と磁気応答との相関により、磁気のみによる方式のバックグラウンドノイズを低減することができ、極めて小さな欠陥又は接合部の脆弱性に対する感受性を高めることができる。この方式はまた、非構造的な磁気効果(例えば、センサ間の間隔又はセンサと接着エッジとの間隔の変動)に対する感受性を低下させる。加えて、音速と磁気効果の速度(光速)との差は、極めて小さな磁気的センサ及び音響的センサ又はマイクロメカニカルセンサからなるアレイからの信号と相関させると、欠陥の精密な位置決定に使用することができる。また、音響ストリップ自体が、一般的な超音波測定技術を用いて脆弱な領域の位置決めを行うことができる。画像に基づく方式では、各ストリップからの相関信号が、接合部の表示画像の一のピクセルの入力となる。逆フーリエ変換処理と、機械的振動の伝播の有限速度とを使用することにより、更に厚い構造に使用される合成開口技術も提供される。合成開口技術は、構造深部の機構の位置を決定するために、機械的な波又は応力波の周波数及び時間特性を利用する。
【0066】
本発明のシステム及び方法は、限定しないが、複合材料、金属、ハイブリッドからなる、接着により結合された構造、複合構造(層を個々の結合部と考慮することができる)、及び結合された修復部に使用することができる。本発明のシステム及び方法は、限定しないが、自動車の構造、建造物の構造、架橋構造、船舶構造などの非破壊試験を実行するために使用することができる。しかしながら、本発明のシステム及び方法は、航空機構造の非破壊試験に有利に適用することができる。
【0067】
図12〜14は、航空機構造の間の接着により結合された接合部の非破壊試験の実行方法を示しており、接合部は歪み感受性の磁歪材料を含んでいる。航空機構造は、特定の構造に限定されない。構造は、外板、補強材、フレーム、及び桁といった要素を含みうる。構造は、翼、胴体、及び尾翼といった主要コンポーネント(又はその部分)を含みうる。構造は、主要構造又は非主要構造を含みうる。それらは同じ組成(例えば、複合材料、金属、プラスチック)を有しても、異なる組成を有してもよい。
【0068】
幾つかの実施形態では、磁歪材料は結合された接合部全体に印加される。他の実施形態では、接着領域のみを対象とし、よって磁歪材料はそのような領域にのみ適用される。例えば、磁歪材料は、結合された接合線全体に適用されるのではなく、歪みが大きく且つキャビテーション及び剥離が起こり易い領域にのみ適用される。一般的な重ね継手構成の場合、そのような領域の一つは接着剤隅肉の下方領域又は隣接領域である。
【0069】
図12〜14の方法を使用して、航空機の複合構造内部の剥離、層割れ、及びその他の構造的不整合を検出することができる。歪みは、航空機構造にワイヤを取り付ける必要なく、また航空機構造又は接着剤からワイヤを突出させる必要なく、感知することができる。接着剤から突出するワイヤは、接合部を取り囲む大気から湿気又は流体を接着剤の内部へと移動させる経路となり、したがって接合部の初期故障の機会を増大させるので望ましくない。
【0070】
図12に示すように、磁化の変化の感知は、製造の段階でのプロセスコントロールの一部として行なわれる。重合の間、通常は冷却の間に、高分子は収縮し、その結果、形状寸法及び材料特性だけでなく結合強度に応じて歪みのレベルに局所的なばらつきが生じる。プロセスコントロールには、接合部に対して有限要素解析を実行すること(ブロック1210)と、重合及び冷却後に接合部の磁化を感知してベースラインデータを蓄積すること(ブロック1220)とが含まれる。次いで、他の構造の他の接合部において、重合及び冷却後の、或いは一定期間に亘って使用した後の磁化を感知する(ブロック1230)。他の接合部の感知データは、次いで、有限要素解析及びベースラインデータの両方と比較される(ブロック1240)。FEM解析は、形状寸法及び材料の差異を説明し、完全な接合部及び実際の接合部の両方を表示することができる。測定値をベースラインと比較することで、経年劣化の傾向を評価することができる。このような比較により、汚染の存在、部品適合の問題、及び硬化の間の圧力の不均一性が示される。比較により、製造プロセスに関するフィードバックも供給される。このようなフィードバックを使用して製造プロセスを改善することができる。
【0071】
次に13を参照する。磁化の変化は、航空機の健全性のモニタリングの一部としてリアルタイムで感知される。現実的なの数(重量、アクセス動力、メモリなどの特定の限界による)の接合部のリアルタイム感知は、十分に近い位置にプローブを配置できる限り実行可能である。ブロック1310では、接合部有限要素解析を実行する。ブロック1320では、接合部の磁化を感知して接合部の多次元(例えば2D又は3D)画像を記録する。ブロック1330では、この画像を一組のデータ及び有限要素解析と比較することにより接合部の状態を決定する。第1の実施例として、このようなデータの組は、異なる荷重及び条件下の歪みの2D又は3Dの基準画像を含むことができる。感知された画像は、基準画像と比較される。このような比較により、接合部の局所的領域がどの程度臨界歪みレベルに近いかが示される。第2の実施例では、測定された歪みの画像は一組の許容可能な変化と比較される。このような比較は、損傷又は初期の故障があって修理を必要とする結合を特定するために実行される。比較は、飛行中、又は地上でのメンテナンス中に、修理倉庫などで決まって行われる航空機構造の定期点検の一部として実行することができる。
【0072】
次に図14を参照する。磁化の変化は、航空機構造の接着結合に対する理解を深めるために感知される。異なる接着剤を用いて、又は異なる結合プロセスの下で結合された構造を、異なる荷重及び条件下で感知し(ブロック1410)、異なる接着剤又は結合プロセスを評価する(ブロック1420)。このような評価により歪みデータが得られ、この歪みデータによって最良の接着剤を選択することができる。このデータは、構造接合部全体の歪みに対するコンピュータによるシミュレーションと比較され、改良型構造接合部を設計するために使用することができる。データを蓄積することにより、複数年に亘る過酷な使用を通じて「良好な」接着接合部の構造的整合性を追跡することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着により結合された接合部における歪みを感知する方法であって、
接合部に歪み波を誘導すること、及び
接合部の局所的磁気特性の変化を感知すること
を含む方法。
【請求項2】
接合部が、接着剤と、接着剤に含まれる歪み感受性の磁歪材料とを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
歪み波を誘導しながら、結合された接合部に対して正弦波の外部磁界を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
磁気誘導の変化率(dB/dt)を感知する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
歪み波の周波数を変化させることによりさまざまな深さにおいて構造を検査することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
結合された接合部の局所的領域に歪み波を誘導し、これら局所的領域での磁気応答を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
局所的領域における機械的振動を測定して、同じ局所的領域における対応する磁気測定値と相関させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
局所的領域における磁気測定値をベースラインデータと比較する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
各局所的領域に歪みを印加した後で取り除き、各領域における磁気応答の遅延率を測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
単一アレイを使用して、選択された対象領域に歪み波を誘導し、この選択領域における局所的磁気特性の変化を感知する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
アレイが、一方向に延びる音響材料からなるストリップと、それに垂直な方向に延びるマイクロ磁気センシング材料からなるストリップとを含み、歪み波を誘導するために音響材料からなるストリップの一つを選択し、局所的磁気特性の変化を感知するためにマイクロ磁気センサ材料からなるストリップの一つを選択することにより、選択された二つのストリップの交差地点の選択領域を試験する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アレイが、一方向に延びる音響材料からなるストリップ及びマイクロ磁気センサ材料からなるストリップと、それに垂直な方向に延びる音響材料からなるストリップ及びマイクロ磁気センシング材料からなるストリップとを含み、選択された領域に歪み波を誘導するために、一方向に延びる音響材料からなるストリップのうちの二つを選択し、選択された領域の局所的磁気特性の変化を感知するために、垂直な方向に延びるマイクロ磁気センサ材料からなるストリップの一つを選択する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
選択された音響材料からなるストリップ間の距離を変更することにより、さまざまな深さにおいて選択された領域を検査する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
接着により結合された接合部における歪みを感知するシステムであって、
磁歪材料からなる粒子を含む接着により結合された接合部を有する構造と、
接合部の選択された領域に歪み波を誘導する手段と、
選択された領域における局所的磁気特性の変化を感知する手段と
を備えるシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−527756(P2011−527756A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517444(P2011−517444)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/045948
【国際公開番号】WO2010/005647
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】