説明

磁気カード及び磁気カードの不正使用防止方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプリイドカード等として利用される磁気カードおよび磁気カードの不正使用防方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年急速に普及したプリペイドカードをはじめとする各種磁気カードは、その普及にともなって偽造・変造などの不正使用に対する安全性が強く求められるようになってきている。不正使用の方法としては、使用済みカードの磁気記録情報を不正に書き換えるものが多いが、それを防ぐ方策としてカードの使用に応じてカードの一部にパンチ孔を開け、磁気記録情報とパンチ孔の個数や場所との照合をする方法が提案されている。
【0003】しかし、現在数多く使用されているプリペイドカードなどの磁気カードは、その多くがカードの一方の面の全面にわたり磁気記録層を有し、かつパンチ孔位置は、カードの走行方向と平行にカードの上側面近傍または下側面近傍に設けられており、カードの中心位置には設けられていない。そのため、パンチ孔が既に開けられている使用済みのカードであっても、カードを逆向きに挿入して正規のトラック位置に対して線対称の位置に、例えば他のカードの磁気記録情報を複写するなどの手段で磁気記録情報を記録することによってカードを偽造することが可能であった。
【0004】この方法による偽造を防ぐために、例えば特開平3−272071号公報に開示されているように、カードを逆向きに挿入したときに情報記録トラック位置となる部位を磁気記録再生出来ないように、印刷などによって磁性体の一部を覆ってしまう方法やエンボス加工を行う方法などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、カードにエンボス加工を施したり、磁性体上を印刷などによって覆うことは、製造工程が複雑になりコスト高を招くとともにカードの外観を著しく損なうという欠点を有している。また、カードの厚さが部分的に異なることになるため、多数のカードを積み重ねたときに傾きが生じ、カード製造時およびエンコード作業などに支障をきたすという欠点も有している。本発明は上述のような問題点に鑑みなされたもので、本発明の目的は、基体上の少なくとも一方の面の全面にわたり磁気記録層が形成されている磁気カードの使用時に、その挿入方向を簡便かつ確実な方法で識別し、よって定められた挿入方向以外で不正に使用されることを防止することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、基体上の少なくとも一方の面の全面にわたり磁気記録層が形成されている磁気カードにおいて、カードの挿入方向識別用の切り欠きを、少なくとも情報記録用トラック位置上または前記情報記録用トラック位置に対する線対称位置上に設け、磁気カードの前端部から発生するエッジパルスと後端部から発生するエッジパルスの振幅値が異ならせたことを特徴とする。また、本発明によれば、基体上の少なくとも一方の面の全面にわたり磁気記録層が形成されている磁気カードにおいて磁気カードの端部から発生するエッジパルスが磁気カードの端部の形状によって異なることを利用し、カードの前部と後部のエッジパルスの出力を比較してカードの挿入方向を判別する不正使用防止法を特徴とし、これにより正規トラックと線対照位置に偽造トラックが形成されたとしてもその不正使用を防止する。
【0007】
【作用】図6の(A)は従来技術による磁気カード10の平面図である。参照番号11Aは正規の情報記録トラック、12はカードの走行方向の中心線、11Bは正規の情報トラック11Aとカードの走行方向の中心線12に対して線対称位置にあるトラックである。図6の(B)は、磁気カード10の正規の情報記録トラック11Aをカード処理装置内の書き込みヘッドで一定の方向に飽和磁化した後、該正規の情報記録トラック11Aをカード処理装置内の再生ヘッドで読み取ったときの再生波形を示す。同図によると、カードの前端部および後端部が、カード処理装置の再生ヘッドを通過するときに大きな振幅のエッジパルスが発生している。これは、一般的にカード端面は走行方向に対して直角の角度をなしているので、アジマス角がほぼ0°の再生ヘッドが、飽和磁化されたカードの端部を通過するときには、単位時間あたりの大きな磁束変化が生じるからである。図6の(C)は、磁気カード10を通常の挿入方向とは逆向きにカード処理装置に挿入して正規の情報記録トラック11Aとカードの走行方向の中心線12にたいして線対称位置にある情報記録トラック11Bに、書き込みヘッドで一定方向に飽和磁化した後、情報記録トラック11Bをカード処理装置内の再生ヘッドで読み取ったときの再生波形を示す。同図によると、図6の(B)と同様にカード両端部からは大きな振幅のエッジパルスが発生している。
【0008】図1の(A)は、後で詳細に述べる本発明の一例に従って、磁気カード1の正規の情報記録トラック5A上のカード後端部が、カードの走行方向に対して直角以外の角度となるよう切り欠き6を設けた場合の平面図である。図1の(B)は、磁気カード1の正規の情報記録トラック5Aを、カード処理装置内の書き込みヘッドで一定の方向に飽和磁化した後、該正規の情報記録トラック5Aをカード処理装置内の再生ヘッドで読み取ったときの再生波形を示す。同図によると、磁気カード1の前端部では再生ヘッドが通過するときに大きな振幅のエッジパルスが発生するが、後端部では前端部と比較して小さな振幅のエッジパルス(図1の(A)のaに相当)しか発生しない。これは、該カードの後端部が再生ヘッドのアジマス角と平行でないため、再生ヘッドがカード端部を通過する際の単位時間あたりの磁束変化が、カード前端部と比較すると小さいためである。なお、磁気カード1の正規の情報記録トラック位置5Aのカード後端部に設けた切り欠き6は、一定の範囲の曲率半径を有する円弧であってもよい。すなわち、この場合もカード後端部から発生するエッジパルスの振幅値は、前端部から発生するエッジパルスの振幅値よりも十分小さくなる。
【0009】図1の(C)は、磁気カード1を通常の挿入方向とは逆向きに、カード処理装置に挿入して、正規の情報記録トラック5Aとカードの走行方向の中心線7に対して線対称位置にある情報記録トラック5Bに書き込みヘッドで一定方向に飽和磁化した後、情報記録トラック5Bをカード処理装置内の再生ヘッドで読み取ったときの再生波形を示す。同図によると、カードの前端部から発生するエッジパルスは図1の(B)とほぼ等しいが、カード後端部から発生するエッジパルスの振幅値(図1の(C)のbに相当)は、図1の(B)のaより大きく、前端部の振幅値とほぼ同じ大きさになる。
【0010】すなわち、カードの正規の情報記録トラック位置のカード後端部に、カードの走行方向に対して該後端部が直角以外の角度になるような切り欠きか、または一定の範囲の曲率半径を持つ円弧による切り欠きを設けると、カードを正規の方向で処理装置に挿入した場合のエッジパルスの振幅値と、逆方向に挿入した場合のエッジパルスの振幅値とは異なるので、容易に挿入方向を識別することができる。
【0011】なお、カード端部に設ける切り欠きの位置は、上述した正規の情報記録トラックの位置にのみに限定されることはなく、カードを通常の挿入方向とは逆向きに挿入したときに処理装置の再生ヘッドが通過する箇所すなわち正規の情報記録トラックとカード走行方向の中心線に対して線対称位置に設けられていてもよいし、または正規の情報記録トラック位置と、正規の情報記録トラックとカード走行方向の中心線に対して線対称位置の両方に設けられていてもよい。何れの場合も、カードを正規の挿入方向に処理装置に挿入した場合のカード前端部と後端部から発生するエッジパルスの振幅値と、逆向きに挿入した場合のカードの前端部と後端部から発生するエッジパルスの振幅値とは異なったものになり、このカード前後端でのエッジパルスの振幅値を比較することで、カードの挿入方向を識別することができ、それにより正規の情報記録トラックと線対称位置にある磁性層を利用した偽造による磁気カードの不正使用を防止することができる。
【0012】
【実施例】以下に本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
実施例1図1の(A)は本発明の一実施例としての磁気カードの平面図であり、図2は図1の(A)の磁気カード1の長手方向の断面図である。磁気カード1は、厚さ188μmの白色ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの非磁性のカード基体2の片側全面に、例えば保磁力が2750エルステッドのバリウムフェライト粉などの磁気記録用磁性粉を、バインダー樹脂、分散剤、硬化剤その他の添加剤と溶剤を混合・分散して作製した磁性塗料を塗布・乾燥し10μm程度の厚さに形成した磁性層3、例えば塩酢ビ樹脂、ポリエチレンワックス、硬化剤その他添加剤と溶剤とを混合・分散して作製した塗料を塗布・乾燥し4μm程度の厚さに形成した保護層4とが順次積層されて設けられている。
【0013】カードの挿入方向(図1の(A)内に矢印で表示)と平行に設けられた情報記録トラック5A上のカード後端部には挿入方向識別用の切り欠き6が設けられている。また、図1の(A)において、7はカードの走行方向の中心線、5Bは情報記録トラック5Aの中心線7に対して線対称位置にあるトラックである。切り欠き6は、情報記録トラック位置5Aにおけるカード端部の角度が、切り欠き部以外のカード後端面に対してそれぞれ5°、10°、20°傾くように、くさび形に形成されている。
【0014】図3は、本発明の別の実施例としての磁気カードの平面図である。カードの構成、断面の構造は先の実施例と同じである。情報記録トラック5A上のカード後端部に設けられた切り欠き8は、曲率半径がそれぞれ3mm、8mm、20mmの円弧状で、切り込み深さはそれぞれ0.3mm、0.6mm、1.0mmに形成されている。また、比較のために、情報記録トラック位置5Aの上には切り欠きを設けないカードも用意した。このようにして作製したカードを、カード処理装置によって、情報記録トラック5Aに情報を記録した後に読み取りを行ったときのカード端部におけるエッジパルス電圧の振幅値は表1に示すようになった。サンプル1は先端部のエッジパルスの振幅値と後端部のエッジパルスの振幅値がほぼ等しいのに対し、サンプル2、3、4、5、6、7は何れも先端部のエッジパルスの振幅値に対して後端部のエッジパルスの振幅値は1/3以下であった。
【0015】
【表1】


【0016】次に、これらのカードを挿入方向を逆にしてカード処理装置に挿入し、トラック5Bに情報を記録した後に読み取りを行った。このときの、カード端部におけるエッジパルス電圧は、先端部のエッジパルスの振幅値と後端部のエッジパルスの振幅値はサンプル1〜7はともにほぼ等しかった。従って、カード処理装置にて、切り欠きがない場合のカード端部から発生するエッジパルスの振幅値の1/2程度のしきい値電圧で2値化を行えば、容易にカード挿入方向を判別することができる。
【0017】図7は本発明による磁気カードの読み取り装置の一実施例を示す。図中の参照番号10は読み取りヘッド、11は増幅器、12は全波整流回路、13は比較電圧発生回路であり、カード端部に切り欠きがない場合の出力(図1の(B)のaに相当)と切り欠きがある場合の出力(図1の(C)のbに相当)の中間の直流電圧を出力している。14は電圧比較器、15はカード先端検出器、16はカード後端検出器、17、18はそれぞれ出力端子である。
【0018】図8の■は、磁気カード1を図示しないカード駆動機構で正規の方向に読み取ったときの増幅器11の出力波形であり、カードの両端部以外で発生している信号は、情報記録トラック5Aに書き込まれている磁気記録情報である。■は全波整流器12の出力波形、■は電圧比較器14の出力波形であり、ここでは情報記録トラツク5Aに書き込まれている磁気情報と、切り欠きが無い場合のカード端部で発生するエッジパルスとが、それぞれ2値化された信号として出力される。
【0019】これをカード先端検出器15およびカード後端検出器16の出力との論理積をとれば出力端子17にはカード先端の切り欠きの有無を示す信号■が、出力端子18にはカード後端の切り欠きの有無を示す信号■が出力される。磁気カード1を正規の方向に挿入した場合は、前端部からは信号が出力されるが、後端部からは出力されない。
【0020】磁気カード1を逆方向に挿入した場合は、第9図の■’および■’に示すように、前端部、後端部の両方で信号が出力される。従って、カード処理装置にカードが挿入されたときには、先ずカードの前端部と後端部から発生する信号を検証することでカードが正しく挿入されたか否かを直ちに判別することができ、不正な挿入方向の場合はカードの処理を停止しカードを排出させることができる。なお、カード処理装置に、磁気情報読み取りヘッド10とは別に、カードに設けられた切り欠きの有無を識別するための専用読み取りヘッド(図示せず)を設ければ、カード上の切り欠き位置は情報記録トラック位置上又は前記情報記録トラック位置に対する線対称位置上に限定されることなく、カードの挿入方向を識別することができるのは明白である。
【0021】実施例2図4には本発明の第2実施例を示す。なお断面の構成は実施例1と同様である。挿入方向識別用切り欠き9は、正規の情報記録トラック5Aとカードの走行方向の中心線7に対して線対称位置にあるトラック位置5B上に設けられている。その他の点は図1の(A)に示したものと同様である。
【0022】実施例3図5には本発明の第3実施例を示す。なお断面の構成は実施例1と同様である。挿入方向識別用切り欠き8は情報記録トラック5A上のカード後端部に、また同じく挿入方向識別用切り欠き9は正規の情報記録トラック5Aとカードの走行方向の中心線7に対して線対称位置にあるトラック位置5B上に設けられている。その他の点は図1の(A)に示したものと同様である。なお、カードの構造、基体材質、磁性粉の種類、各層の厚さなどは実施例に限定されない。特に、少なくともカードの両端部に高透磁率磁性層が設けてあると、エッジパルスの振幅値が大きくなるので、エッジ出力の読み取り、判別には好都合である。
【0023】
【発明の効果】挿入方向識別用の切り欠きを、カードの情報記録トラック位置または前記情報記録とトラック位置とカードの走行方向の中心線に対して線対称位置にあるトラック位置上に設けるという簡便な構成で、カードの挿入方向を判別することができ、よってカードの不正使用を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明による磁気カードの平面図、(B)は正規方向挿入時のエッジパルス波形、及び(C)は逆方向挿入時のエッジパルス波形である。
【図2】本発明による磁気カードの断面図である。
【図3】他の実施例である磁気カードの平面図である。
【図4】別の実施例である磁気カードの平面図である。
【図5】更に別の実施例である磁気カードの平面図である。
【図6】(A)は従来の磁気カードの平面図、(B)は従来の磁気カードの正規方向挿入時のエッジパルス波形、及び(C)は従来の磁気カードの逆方向挿入時のエッジパルス波形である。
【図7】本発明の方法を実施する読み取り装置の一実施例である。
【図8】正規方向挿入時の読み取り装置各部の出力波形である。
【図9】逆方向挿入時の読み取り装置各部の出力波形である。
【符号の説明】
1:磁気カード
2:カード基体
3:磁性層
4:保護層
5A、5B:情報記録トラック
6、8、9:切り欠き
7:中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性基体上の少なくとも一方の面の全面にわたり磁気記録層が形成されている磁気カードに於いて、カードの挿入方向識別用切り欠きを、少なくとも情報記録用トラック位置上または前記情報記録用トラック位置に対する線対称位置上に設け、磁気カードの前端部から発生するエッジパルスと後端部から発生するエッジパルスの振幅値が異ならせたことを特徴とする磁気カード。
【請求項2】 前記カード挿入方向識別用切り欠きは、曲率半径が3mm〜20mmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気カード。
【請求項3】 前記カード挿入方向識別用切り欠きは、切り欠き角度がカード端面に対して5°以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気カード。
【請求項4】 非磁性基体上の少なくとも一方の面の全面にわたり磁気記録層が形成され、カードの挿入方向識別用切り欠きを、少なくとも情報記録用トラック位置上または前記情報記録用トラック位置に対する線対称位置上に設けた磁気カードの使用方法に於いて、該磁気カードの前後端部から発生するエッジパルスの振幅値を比較してカードの挿入方向を判別することによる不正使用防方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】特許第3328372号(P3328372)
【登録日】平成14年7月12日(2002.7.12)
【発行日】平成14年9月24日(2002.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−132329
【出願日】平成5年5月12日(1993.5.12)
【公開番号】特開平6−325480
【公開日】平成6年11月25日(1994.11.25)
【審査請求日】平成12年5月8日(2000.5.8)
【出願人】(390027443)東京磁気印刷株式会社 (8)
【出願人】(000102728)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ (438)
【出願人】(000003632)株式会社田村電機製作所 (18)
【参考文献】
【文献】特開 平1−275193(JP,A)
【文献】特開 平3−125374(JP,A)