説明

磁気カード

【課題】磁気層を有する磁気カードであって、磁気層を隠蔽する印刷層の上に設けられる保護層が、後工程のエンボス加工でも損傷を受けることのない耐傷性を有し、さらに着色用のテッピング箔との密着性に優れる磁気カードを提供するものである。
【解決手段】カード基材の一方の面に、磁気層と該磁気層を隠蔽する印刷層と該印刷層を保護するための保護層を設けた磁気カードであって、少なくとも該保護層が紫外線硬化型樹脂、ワックス、感光性モノマー、光重合開始剤及び体質顔料からなることを特徴とする磁気カードである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード等の磁気カードに関するものであり、特に、磁気層の上に印刷層、保護層を設けた耐久性、信頼性に優れた磁気カードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記クレジットカード、キャッシュカード、IDカード等に用いられる磁気カードは、例えば、図3の断面図に示すように、コアシート1の片面にオーバーシート2を介して磁気テープ3が設けられ、磁気テープ3の上に、印刷層4および保護層5から構成されている。前記印刷層4は磁気テープ3を隠蔽するためのものであり、その上の前記保護層5は磁気カード20の表面耐性を付与するためのものである。
【0003】
前記磁気カード20の最終形態は、前記保護層を設けた後に、プレスによるエンボス加工で凸状のエンボス文字が形成され、さらにエンボス文字部の上に、テッピング加工により着色される。なお、本発明で云うテッピング加工とは、エンボス加工で形成された凸状の文字部に、銀色などの有色の転写箔を用いて、熱転写により着色する加工のことである。
【0004】
前記印刷層4は磁気テープ3を隠蔽することと磁気カード20自体の装飾を兼ねており、オーバーシート2や磁気テープ3との強い密着力が求められる。そのために、一般的には紫外線硬化型オフセット印刷インキおよび溶剤型熱乾燥スクリーン印刷インキが用いられる。
【0005】
前記印刷層4の上には、磁気テープ3と印刷層4を保護する目的で保護層5が設けられている。しかしながら、磁気カードには高い磁気出力や分解能が求められているため、非磁性層である印刷層4や保護層5の膜厚はできるだけ薄くすることが要求される。したがって保護層5をできるだけ薄くして、かつ、耐擦傷性などの耐性を向上させることが問題となっている。
【0006】
また、耐擦傷性などの耐性を向上させるために前記保護層5の架橋密度を単に高くすると、保護層の後加工であるエンボス加工による保護層5の割れが生じる問題がある。またさらに、同じく保護層の後加工であるテッピング加工での密着性の問題がある。このように磁気カードに設ける保護層は、エンボス加工に適応できる被膜強度とテッピング加工に適応できる密着強度の両立が問題となっている。
【0007】
そこで従来は、例えば、磁気テープ3を隠蔽する領域の印刷層と前記磁気テープのない領域の印刷層を2工程で行うことで対応していた(図4参照)。すなわち、磁気テープ3を隠蔽する領域はエンボス加工が行われないため、印刷インキの架橋密度を高くして耐傷性を付与し、一方、前記磁気テープのない領域はエンボス加工及びテッピング加工が行われるため、エンボスの割れが起こらない程度の架橋密度に制御し、かつ、その分テッピング加工での密着性を考慮した印刷インキを用いて印刷していた。
【0008】
上記問題に対して、例えば、特許文献1では磁気記録層の上に印刷層、保護層を設けた磁気カードが開示されている。上記特許文献1は前記印刷層が紫外線硬化型ウレタンアクリレートを含むインクで、後加工のエンボス加工でもエンボス割れがおこらないとされているが、その後に行われるテッピング加工での密着性を同時に満たすことには問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−224836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は上記課題を解決するためのものであり、磁気層を有する磁気カードであって、磁気層を隠蔽する印刷層の上に設けられる保護層が、後工程のエンボス加工でも損傷を受けることのない耐傷性を有し、さらに着色用のテッピング箔との密着性に優れる磁気カードを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る発明は、カード基材の一方の面に、磁気層と該磁気層を隠蔽する印刷層と該印刷層を保護するための保護層を設けた磁気カードであって、少なくとも該保護層が紫外線硬化型樹脂、ワックス、感光性モノマー、光重合開始剤からなることを特徴とする磁気カードである。すなわち、前記印刷層の上に設ける前記保護層のバインダー樹脂を紫外線硬化型樹脂にすることにより、下地の印刷層が紫外線硬化型オフセット印刷層および溶剤型熱乾燥スクリーン印刷層のいずれにも優れた密着性を得ることができる。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記紫外線硬化型樹脂が、前記保護層の全固形分に対して15〜25質量%のポリエステル系樹脂と、5〜15質量%のエポキシ系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気カードである。すなわち、前記保護層に含まれる紫外線硬化型樹脂の一つであるポリエステル系樹脂の架橋による下地(印刷層)との密着性と被膜強度の向上が得られ、一方、もう一つの紫外線硬化型樹脂であるエポキシ系樹脂により、被膜の架橋密度が制御され、後工程であるエンボス加工での被膜割れを防ぐことができる。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記ワックスが、ポリエチレン系ワックス、テフロン(登録商標)系ワックス及びシリコン系ワックスの3種混合体からなり、前記ワックス中にテフロン(登録商標)系ワックスが5質量%未満、シリコン系ワックスが3質量%未満からなることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気カードである。すなわち、保護層に前記ワックスを添加することにより、テッピング加工での密着性を向上することができ、特に、テフロン(登録商標)系とシリコン系ワックスの上記添加比率が優れた効果をもたらす。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード等の磁気層を有する磁気カードが、磁気層を隠蔽する印刷層を一回の印刷工程で形成し、その上に設けられる保護層が、後工程のエンボス加工でも損傷を受けることのない耐傷性を有し、さらに着色用のテッピング箔との密着性に優れる磁気カードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施態様に係る磁気カードのエンボス加工前後の断面概要図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る磁気カードの製造フローの説明図である。
【図3】従来の一実施態様に係る磁気カードの断面概要図である。
【図4】従来の一実施態様に係る磁気カードの製造フローの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の磁気カードについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施態様に係る磁気カードのエンボス加工前後の断面概要図を示している。図1の(a)に示すように、本発明の磁気カード20は、磁気テープ3を具備したカード基材10上に、磁気テープ3を隠蔽する印刷層4とその上に保護層5を設けた構成からなる。図1の(b)には、前記磁気カード20にエンボス加工とテッピング加工を施した後の、エンボス文字を形成するエンボス部6とその上のテッピング部7の断面図である。前記磁気カードは情報の記録層である磁気テープに損傷を与えないことが最重要であり、その為に前記エンボス加工は、一般的にはカード基材10に具備した磁気テープ3領域を外した領域に行われる。さらにエンボス加工により形成されたエンボス文字の上に、着色転写箔を用いたテッピング加工によりエンボス文字を装飾する。
【0018】
図2に本発明の一実施態様に係る磁気カードの製造フローを示す。すなわち、本発明の磁気カードは、磁気層を有するカード基材10上に、磁気層の隠蔽とその外の領域への絵柄印刷を一回の印刷工程で行い、次に保護層5を設け、その後エンボス加工とテッピング加工を経て製造される。
【0019】
本発明は磁気テープ3が印刷層4によって隠蔽された磁気カードであって、前記印刷層4が一回の印刷工程からなることを特徴としている。従って、本発明の保護層5には従来の印刷層が担っていた密着強度や被膜強度などの物性を補う必要がある。このような理由から、本発明の保護層5は紫外線硬化型樹脂、ワックス、感光性モノマー、光重合開始剤からなるインキ組成物からなることを特徴している。
【0020】
特に、前記紫外線硬化型樹脂が保護層5の全固形分に対して、15〜25質量%のポリエステル系樹脂と、5〜15質量%のエポキシ系樹脂からなることで密着性、被膜強度の向上と、さらにはエンボス加工時の割れを防止する効果が得られる。すなわち、紫外線硬化型ポリエステル系樹脂により、下地(印刷層)との密着性と被膜強度の向上が得られ、一方、もう一つの紫外線硬化型エポキシ系樹脂により、被膜の架橋密度が制御され、後工程であるエンボス加工での被膜割れを防ぐことができる。
【0021】
また、前記保護層中のワックスは、ポリエチレン系ワックス、テフロン(登録商標)系ワックス及びシリコン系ワックスの3種混合体からなり、前記ワックス中にテフロン(登録商標)系ワックスが5質量%未満、シリコン系ワックスが3質量%未満からなることにより、テッピング加工での密着性を向上することができ、特に、テフロン(登録商標)系とシリコン系ワックスの上記添加比率が優れた効果をもたらすことができる。
【0022】
また、本発明に係る感光性モノマーは特に限定するものではなく、通常の紫外線照射で光重合反応を起こす反応性二重結合を有するものであればよい。
【0023】
またさらに、本発明に係る光重合開始剤は特に限定するものではなく、通常の紫外線硬化反応に用いられる光重合開始剤であればよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明の詳細な説明をする。
【0025】
<実施例1>
磁気層を有するカード基材の磁気層面側の全面に、紫外線硬化型オフセットインキ(東洋インキ社製、商品名「FDOニューHF1」)を用いて印刷層を設け、その上の全面に下記組成からなる保護層用インキを用いて、膜厚2.0μmで保護層を設け磁気カードを作製した。なお、保護層の硬化は、2900J/mの紫外線照射の条件下で行った。
紫外線硬化型樹脂 30質量%
(東洋インキ社製、「FDS多色OPニスSRTKXH」)
(保護層全固形分比:ポリエステル系樹脂 20質量%
エポキシ系樹脂 10質量%)
ワックス 4質量%
(東洋インキ社製、「FDタイマコンパウンド」 テフロン(登録商標)系 3質量%)
(東洋インキ社製、「FDスリップ剤R」 シリコン系 1質量%)
感光性モノマー(東亜合成社製、「M−310」) 56質量%
光重合開始剤 7質量%
(BASFジャパン社製、「IRGACURE184」)
体質顔料等、その他添加剤 3質量%
【0026】
<比較例1>
保護層用インキの組成が紫外線硬化型樹脂34質量%、ワックス0質量%である以外は実施例1と同様にして保護層を設け磁気カードを作製した。
【0027】
<比較例2>
保護層用インキが下記組成であること以外は、実施例1と同様にして保護層を設け磁気カードを作製した。
紫外線硬化型樹脂 26質量%
(東洋インキ社製、「FDS多色OPニスTK」)
(保護層全固形分比:ポリエステル系樹脂 17.3質量%
エポキシ系樹脂 8.7質量%)
ワックス 8質量%
(東洋インキ社製、「FDタイマコンパウンド」 テフロン(登録商標)系 5質量%)
(東洋インキ社製、「FDスリップ剤R」 シリコン系 3質量%)
【0028】
<比較例3>
保護層用インキが下記組成であること以外は、実施例1と同様にして保護層を設け磁気カードを作製した。
紫外線硬化型樹脂 31質量%
(東洋インキ社製、「FDS多色OPニスJSTKXH」)
(保護層全固形分比:ポリエステル系樹脂 20.7質量%
エポキシ系樹脂 10.3質量%)
ワックス 3質量%
(東洋インキ社製、「FDタイマコンパウンド」 テフロン(登録商標)系 3質量%)
【0029】
<比較例4>
保護層用インキが下記組成であること以外は、実施例1と同様にして保護層を設け磁気カードを作製した。
紫外線硬化型樹脂 29質量%
(東洋インキ社製、「FDS多色OPニスS5TKXH」)
(保護層全固形分比:ポリエステル系樹脂 19.3質量%
エポキシ系樹脂 9.7質量%)
ワックス 5質量%
(東洋インキ社製、「FDスリップ剤R」 シリコン系 5質量%)
【0030】
<評価項目及び評価方法>
実施例1及び比較例1〜4で得られた磁気カードを用いて、エンボス加工およびテッピング加工を行い、その時の密着性、耐傷性、テッピング適性、及びラミネート時の伸びを、下記の方法にて評価した。評価結果を以下の表1に記す。
<密着性>
保護層上面をJIS D0202−1988に準拠して、テープ剥離試験を行った。剥がれたら×、剥がれなかったら○と判定。
<耐傷性>
爪で保護層上面を擦すり、そこ時、下地の印刷層が削れたら×、変化なければ○と判定。
<テッピング適性>
磁気カードをエンボス加工し、エンボス部に転写箔を転写し、そのときの密着性を(テープ剥離試験)評価。テッピングが剥がれたら×、剥がれなかったら○と判定。
<ラミネート時の伸び>
ラミネートプレスにより印刷した絵柄が、歪んだっものは×(縮み0.1%以上)、歪まないものは○(縮み0.1%未満)。
【0031】
【表1】

【0032】
<比較結果>
実施例1及び比較例1〜4で得られた磁気カードを用いて、エンボス加工及びテッピング加工を行った結果、実施例1である本発明品はいずれの評価項目に対しても優れた性能を示した。一方、比較例1〜4で得られた比較例品は、密着性、耐傷性、テッピング適性及びラミネート時の伸びの評価項目に対して、いずれかに問題があり、実用レベルに至らない結果を示した。
【符号の説明】
【0033】
1 ・・・コアシート
2 ・・・オーバーシート
3 ・・・磁気テープ
4 ・・・印刷層
5 ・・・保護層
6 ・・・エンボス部
7 ・・・テッピング部
10 ・・・カード基材
20 ・・・磁気カード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カード基材の一方の面に、磁気層と該磁気層を隠蔽する印刷層と該印刷層を保護するための保護層を設けた磁気カードであって、少なくとも該保護層が紫外線硬化型樹脂、ワックス、感光性モノマー、光重合開始剤からなることを特徴とする磁気カード。
【請求項2】
前記前記紫外線硬化型樹脂が、前記保護層の全固形分に対して15〜25質量%のポリエステル系樹脂と、5〜15質量%のエポキシ系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気カード。
【請求項3】
前記ワックスが、ポリエチレン系ワックス、テフロン(登録商標)系ワックス及びシリコン系ワックスの3種混合体からなり、前記ワックス中にテフロン(登録商標)系ワックスが5質量%未満、シリコン系ワックスが3質量%未満からなることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気カード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18173(P2013−18173A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152581(P2011−152581)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】