説明

磁気シールド体及び脳磁計

【課題】小型化を容易にする磁気シールド体、及びこのような磁気シールド体を備える脳磁計を提供する。
【解決手段】磁気シールド体11は、脳磁計に用いられ、計測位置Hを外部の磁場から遮蔽する。磁気シールド体11は、両端が開口された筒状の基体40の内壁面40a側に超伝導体からなるシールド膜50が形成されてなり、円筒形状をなす胴部41と、胴部の一端側に連続して設けられ徐々に先が細くなるように形成された絞り部43と、を備え、絞り部側の開口径Dと、当該絞り部側の開口33aと計測位置Hとの距離Lと、の関係が、L/D≧1.13である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳磁計に用いられる磁気シールド体、及び脳磁計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の磁気シールド装置が知られている。この装置は、円筒形状をなす高温超伝導体磁気シールド体を備えている。この装置では、循環する冷却媒体で磁気シールド体を冷却することにより、磁気シールド体の内部空間を外部磁場から遮蔽する機能を有するものである。この種の筒状の磁気シールド体においては、磁気シールド性能は、開口径に関係する。具体的には、磁気シールド体の内部空間内の所定位置における磁気シールド率(外部磁場/内部磁場)Sは、開口径D及び開口面と上記所定位置との距離Lを用いて、S=exp(7.6L/D)で表される。このような関係式から理解されるように、磁場を遮蔽すべき位置における所望の磁気シールド率を達成するためには、開口径Dと遮蔽すべき位置から開口面までの距離Lとを適切に設定しなくてはならない。
【特許文献1】特開平10−256614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、この種の脳磁計用の磁気シールド体においては、最低でも被験者の頭部や頭部周辺に配置されるセンサ類を包囲することが可能な程度まで、太さ方向の寸法を大きくすることが必要になる。そして、太さ方向の寸法に伴って磁気シールド体の開口径Dも大きくなる。そして、そのような制限下で必要な磁気シールド率を確保するためには、磁場を遮蔽すべき位置をある程度開口から離す必要があり、その結果、磁気シールド体の筒軸方向の長さをある程度確保する必要がある。例えば、従来の一般的な脳磁計用磁気シールド体のおおよその寸法は、直径が約650mm、筒軸方向の長さが約1600mmである。以上のように、脳磁計溶の磁気シールド体にあっては、太さ方向の寸法の制限に起因して、小型化が難しかった。
【0004】
そこで、本発明は、小型化を容易にする磁気シールド体、及びこのような磁気シールド体を備える脳磁計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁気シールド体は、被験者の頭が配置される計測位置の周囲に設置され、被験者の脳から発生する磁場を検出するSQUIDセンサと、SQUIDセンサと冷却用の寒剤とを収納する寒剤容器と、を備える脳磁計に用いられ、寒剤容器を囲んで配置され計測位置を外部の磁場から遮蔽するための磁気シールド体であって、両端が開口された筒状の基体の内壁面側に超伝導体からなるシールド膜が形成されてなり、円筒形状をなす胴部と、胴部の一端側に連続して設けられ徐々に先が細くなるように形成された絞り部と、を備え、絞り部側の開口径Dと、当該絞り部側の開口と計測位置との距離Lと、の関係が、L/D≧1.13であることを特徴とする。
【0006】
この磁気シールド体では、円筒形状の胴部の一端側に先細りの絞り部が設けられているので、胴部の太さ方向の寸法を確保しながらも、絞り部側の開口径Dを小さく抑えることができる。従って、所望の磁気シールド率確保のために、開口位置と計測位置との距離Lを極端に大きくする必要がない。その結果、磁気シールド体の筒軸方向の長さを比較的小さく抑えること可能になり、磁気シールド体の小型化を図ることが容易になる。また、開口径Dと距離Lとの関係は、L/D≧1.13とされるので、関係式S=exp(7.6L/D)より、計測位置における磁気シールド率Sは5000以上の値となる。従って、一般的に脳磁計に要求される磁気シールド率を満足することができる。
【0007】
また、胴部と絞り部とは、内壁面側でなす角度が90°以上かつ180°未満になるように交差してもよい。
【0008】
また、シールド膜はビスマス系酸化物超伝導体からなり、ビスマス系酸化物超伝導体の材料が基体の内壁面側に溶射加工される工程を経て形成されることとしてもよい。
【0009】
また、本発明の脳磁計は、被験者の頭が配置される計測位置の周囲に設置され、被験者の脳から発生する磁場を検出するSQUIDセンサと、SQUIDセンサと冷却用の寒剤とを収納する寒剤容器と、上述の何れかの磁気シールド体と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この脳磁計の構成によれば、磁気シールド体の小型化が図られ、その結果、脳磁計の小型化を図ることができる。また、SQUIDセンサ付近の磁気シールド率として、一般的に脳磁計に要求される5000以上といった値を満足することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化を図ることができる磁気シールド体、及びこのような磁気シールド体を備える脳磁計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る磁気シールド体及び脳磁計の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1に示す脳磁計1は、計測ユニット1A内の計測位置Hに頭が位置するように被験者Pを着座させ、当該被験者Pの脳の神経活動に伴って発生する微弱な磁場を非接触で計測、解析する装置である。この計測ユニット1Aは、計測位置Hの周囲に配置され、脳で発生する磁場を検出するSQUID(Superconducting QuantumInterference Device)センサ3を備えている。また、計測ユニット1Aは、SQUIDセンサ3を冷却するため、このSQUIDセンサ3と液体ヘリウム(寒剤)5とを収納する断熱容器のジュワー7を備えている。更に、計測ユニット1Aは、ジュワー7を包囲するように配置されると共に、被験者Pを覆う筒型体15を備えている。なお、筒型体15とジュワー7との間には断熱材19が充填されている。
【0014】
この脳磁計1では、被験者Pの脳で発生する極めて微弱な磁場を検出する必要があるので、計測位置Hの近傍から外部磁場の影響を除去する必要がある。このため、筒型体15は、筒軸Aが計測位置Hを通るように配置された筒状の磁気シールド体11を備えている。磁気シールド体11は、ジュワー7を包囲して筒型体15の外筒部15aに支持されると共に、筒型体15の上下寸法とほぼ同じ寸法で延在し、外筒部15aと内筒部15bとの間の間隙に内蔵されている。
【0015】
この磁気シールド体11は、図2に示すように、ニッケルからなる筒状の基板40と、当該基板40の内壁面40aの全体に成膜され超伝導体からなるシールド膜50とを備えている。シールド膜50は、ビスマス系酸化物超伝導体からなり、磁束侵入長よりも十分に大きい膜厚を有している。ここで、シールド膜50に用いられるビスマス系酸化物超伝導体としては、例えば、組成式Bi2Sr2Ca2Cu3Oxで表されるBi2223、或いは、組成式Bi2Sr2CaCu2Oxで表されるBi2212が好適に採用される。
【0016】
また、筒型体15(図1)には、磁気シールド体11の外壁面に沿って冷媒を流通させる冷媒管(図示せず)が更に内蔵されている。そして、この冷媒管に、脳磁計1の冷凍機ユニット1Bから送出される極低温の冷媒(例えば、ここではヘリウム)を循環させることで、磁気シールド体11のシールド膜50が、超伝導転移温度まで冷却され、完全反磁性を発揮する。そして、このシールド膜50の完全反磁性によって、磁気シールド体11に包囲された計測位置Hが外部磁場から遮蔽されるので、SQUIDセンサ3においては外部磁場によるノイズをほとんど排除した微弱な磁場計測が可能になる。なお、当然ながら、この脳磁計1は、シールド膜50の下部臨界磁場を超えない外部磁場の環境下で使用される。
【0017】
上記の磁気シールド体11について、図2及び図3を参照しながら更に詳細に説明する。なお、以下では、磁気シールド体11の筒軸Aの延在方向を上下方向とし、図2に示す状態に対応して「上」、「下」の語を説明に用いる場合がある。
【0018】
図2に示すように、磁気シールド体11は、上下両端に開口部33a,31aを有し断面円形の筒状をなしている。磁気シールド体11は、円筒形状の胴部31と、この胴部31の上方に連なって延びる絞り部33とを備えている。絞り部33は、上に行くほど徐々に小径とされる切頭円錐筒の形状をなしている。すなわち、胴部31と絞り部33とは、内壁面40a側においてなす角度αが、90°以上180°未満になるように交差している。前述の計測位置Hは、筒軸A上に位置すると共に、上下方向においても全長のほぼ中央に位置している。
【0019】
ここで、この磁気シールド体11の磁気シールド性能を考える。磁気シールド体11の上端の絞り部33側の開口部33aの開口径をDとし、上端開口部33aが存在する開口面と計測位置Hとの距離をLとすると、計測位置Hにおける磁気シールド率Sは、下記の関係式(1)で表される。
S=exp(7.6L/D) … (1)
この関係式(1)から理解されるように、所望の磁気シールド率Sを確保するには、L/Dの値を所定以上に確保する必要がある。すなわち、開口径Dが大きくなれば、距離Lを大きくする必要がある。
【0020】
これに対し、磁気シールド体11は、先が細くなった絞り部33の存在によって、ジュワー7を完全に包囲し被験者Pを覆うような太さを全体として確保しながらも、上端の開口径Dは小さく抑えることができる。従って、磁気シールド体11では、距離Lの値を比較的小さく抑えながら、所望の磁気シールド率Sを確保することができる。その結果、磁気シールド体11の筒軸A方向の全長を比較的小さく抑えること可能になり、磁気シールド体11の小型化を図ることが容易になる。そして、磁気シールド体11が小型化されれば、磁気シールド体11の製作コストが低減されると共に、磁気シールド体11の冷却のためのエネルギーが低減され脳磁計1の運用コストも低減される。
【0021】
また、具体的には、この磁気シールド体11においては、開口径Dと距離Lとの関係を、L/D≧1.13とすることが好ましい。一般的には、人間の脳で発生する極微弱な磁場を検出し解析するためには、脳磁計1が設置される平均的な環境の地磁気や磁気雑音等の大きさを考慮し、磁気シールド率Sを5000程度にすることが望まれる。そこで、上記の関係L/D≧1.13を満足すれば、関係式(1)より、計測位置Hにおける磁気シールド率Sは、5000以上の値となる。従って、一般的に脳磁計において要求される磁気シールド率を満足することができる。
【0022】
すなわちこの場合、磁気シールド体11の胴部31の直径を従来通り約650mm確保したとしても、例えば、絞り部33によってD=約400mmとし、L=約450mmとすることにより、磁気シールド率Sが5000以上との上記条件を満足することができる。そして、この場合、磁気シールド体11の筒軸方向の全長2Lは、約1200mm程度に抑えることができ、磁気シールド体11の小型化が達成される。
【0023】
また、筒型体15の上部開口15dには、SQUIDセンサ3と計測ユニット1Aの外部とを接続する配線を挿通させる必要がある。更に、液体ヘリウム5の補充作業を容易にするためにも、上部開口15dにあっては、ある程度の開口径が必要である。従って、磁気シールド体11の開口径Dにおいても、ある程度の大きさが必要となる。このような観点から、開口径Dは、350mm以上とすることが好ましい。一方、実際の施工、設置の点を考慮すると磁気シールド体全長(2L)は、2m以下とすることが望ましい。すなわち、Lは1000mm以下とすることが好ましい。そこで、開口径Dを350mm以上とする条件と、Lを1000mm以下とする条件と、から、L/Dは2.86以下とすることが望ましい。
【0024】
続いて、磁気シールド体11の製造方法について、図2及び図3を参照しながら、説明する。
【0025】
まず、基板40を製作するため、ニッケル製の円筒形状の胴部基板41を準備し、同様に、ニッケル製の切頭円錐筒形状の絞り部基板43を準備する。そして、胴部基板41と絞り部基板43とを溶接により接合し、接合部の内壁面40a側を研磨して、基板40を完成させる。その後、基板40の中空部にプラズマ溶射装置を挿入し、ビスマス系酸化物超伝導体の材料(例えば、Bi2Sr2Ca2Cu3或いはBi2Sr2CaCu2)を用い、プラズマ溶射加工によって基板40の内壁面40a全体に溶射膜を形成させる。このとき、プラズマ溶射装置は、基板40の内壁面40aに対して、螺旋状にビスマス系酸化物超伝導体の材料を吹き付け溶射膜を形成していく。その後、形成された溶射膜を焼成してシールド膜50を完成させる。
【0026】
ここで、胴部基板41と絞り部基板43とが内壁面40a側においてなす角度は、前述の角度αに等しい。この角度αが小さすぎると、胴部基板41と絞り部基板43との境界線上で内壁面40aの不連続性が大きくなり、上記のプラズマ溶射加工による溶射膜が、当該境界線上で均一に形成されなくなるおそれがある。その一方、角度αが大きすぎると、前述の上端開口部33aの開口径Dを絞る効果が十分に得られない。従って、角度αは、90〜180°に設定されることが好ましい。
【0027】
また、磁気シールド体11では、絞り部33の形状として切頭円錐筒が採用されているので、絞り部33を形成するための切頭円錐筒形状の絞り部基板43は、比較的容易に製作することができる。
【0028】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、基板40を、胴部基板41と絞り部基板43との溶接により製作しているが、円筒形状の基板を準備し、その円筒基板の上部を切頭円錐筒形状に塑性加工することにより基板40を製作してもよい。また、ニッケル製の基板40に代えて、セラミック製の基板を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る脳磁計の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る磁気シールド体を示す断面図である。
【図3】図2の磁気シールド体の基板を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1…脳磁計、3…SQUIDセンサ、5…液体ヘリウム(寒剤)、7…ジュワー(寒剤容器)、11…磁気シールド体、31…胴部、31a…胴部側の開口、33…絞り部、33a…絞り部側の開口、40…基板(基体)、40a…基板の内壁面、50…シールド膜、H…計測位置、P…被験者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の頭が配置される計測位置の周囲に設置され、前記被験者の脳から発生する磁場を検出するSQUIDセンサと、前記SQUIDセンサと冷却用の寒剤とを収納する寒剤容器と、を備える脳磁計に用いられ、前記寒剤容器を囲んで配置され前記計測位置を外部の磁場から遮蔽するための磁気シールド体であって、
両端が開口された筒状の基体の内壁面側に超伝導体からなるシールド膜が形成されてなり、
円筒形状をなす胴部と、
前記胴部の一端側に連続して設けられ徐々に先が細くなるように形成された絞り部と、を備え、
前記絞り部側の開口径Dと、当該絞り部側の開口と前記計測位置との距離Lと、の関係が、L/D≧1.13であることを特徴とする磁気シールド体。
【請求項2】
前記胴部と前記絞り部とは、前記内壁面側でなす角度が90°以上かつ180°未満になるように交差していることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド体。
【請求項3】
前記シールド膜は、
ビスマス系酸化物超伝導体からなり、
前記ビスマス系酸化物超伝導体の材料が前記基体の内壁面側に溶射加工される工程を経て形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気シールド体。
【請求項4】
被験者の頭が配置される計測位置の周囲に設置され、前記被験者の脳から発生する磁場を検出するSQUIDセンサと、
前記SQUIDセンサと冷却用の寒剤とを収納する寒剤容器と、
請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気シールド体と、を備えることを特徴とする脳磁計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−254747(P2009−254747A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110351(P2008−110351)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】