説明

磁気センサおよびそれを用いた電流センサ

【課題】 導電路を切断することなく電流を検出可能な状態にセッティングすることが可能であり且つ精度が高い電流センサを実現可能な磁気センサおよびそれを用いた電流センサを提供する。
【解決手段】 周回方向に垂直な少なくとも1つの断面において分離可能に形成された環状磁路51と、環状磁路51の少なくとも一部を囲むように巻かれたコイル32とを少なくとも有しており、環状磁路51の分離可能な断面の断面積が、環状磁路51の周回方向に垂直な他の断面の断面積よりも大きいことを特徴とする磁気センサおよびそれを用いた電流センサとする。導電路を切断することなく電流を検出可能な状態にセッティングすることが可能であり且つ精度が高い電流センサを実現可能な磁気センサおよびそれを用いた電流センサを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサおよびそれを用いた電流センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの離隔した環状磁路およびそれらを接続する2つの接続磁路からなる磁気回路と、接続磁路に巻回された励磁コイルと、2つの環状磁路を一体的に取り巻くように巻き付けられた検出用コイルとを備えた電流センサが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、被測定電流が流れる導電路を切断することなく環状磁路の内側へ収容するために、分離可能な環状磁路を備えた電流センサが提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4310373号公報
【特許文献2】特開2006−84176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にて提案された電流センサは、高精度な電流測定ができるものの、被測定電流が流れる導電路を切断することなく環状磁路の内側へ収容することができないという問題があった。また、特許文献2にて提案された電流センサのように、環状磁路を分割可能にした場合には、分割部にズレが生じた場合に環状磁路の磁気抵抗が変化するため、電流の測定精度が低くなるという問題があった。
【0005】
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、導電路を切断することなく電流を検出可能な状態にセッティングすることが可能であり且つ精度が高い電流センサを実現可能な磁気センサおよびそれを用いた電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気センサは、周回方向に垂直な少なくとも1つの断面において分離可能に形成された第1の環状磁路と、該第1の環状磁路の少なくとも一部を囲むように巻かれた第1のコイルとを少なくとも有しており、該第1の環状磁路の分離可能な前記断面の断面積が、前記第1の環状磁路の周回方向に垂直な他の断面の断面積よりも大きいことを特徴とするものである。
【0007】
本発明の電流センサは、前記磁気センサを備え、前記第1の環状磁路の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路が配置されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の磁気センサによれば、導電路を切断することなく電流を検出可能な状態にセッティングすることが可能であり且つ精度が高い電流センサを実現可能な磁気センサを得ることができる。
【0009】
本発明の電流センサによれば、導電路を切断することなく電流を検出可能な状態にセッティングすることが可能であり且つ精度が高い電流センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態の例の電流センサを模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の例の電流センサを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の磁気センサおよびそれを用いた電流センサを添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
図1,図2は、本発明の実施の形態の例の電流センサを模式的に示す斜視図である。本例の電流センサは、図1、図2に示すように、円弧状磁路11〜14と、接続磁路21,22と、コイル31,32とを有している。なお、図1は、円弧状磁路11,13が同じ円周上に配置されるとともに互いに接合されて環状磁路51が形成され、円弧状磁路12,14が同じ円周上に配置されるとともに互いに接合されて環状磁路52が形成された状態を示している。そして、環状磁路51,52の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路41が配置されている。なお、本例の電流センサは、導電路41が配置されない場合には、環状磁路51および環状磁路52の周回方向(図1のθ方向,−θ方向)の磁界を検出する磁気センサとして機能する。また、図2は、環状磁路51が円弧状磁路11と円弧状磁路13とに分離され、環状磁路52が円弧状磁路12と円弧状磁路14とに分離された状態を示しており、導電路41の図示を省略している。
【0013】
環状磁路51は、略円環状の形状を有しており、周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な断面61,62において円弧状磁路11,13に分離可能に形成されている。そして、環状磁路51は、分離可能な断面61,62の断面積が、環状磁路51の周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な他の断面の断面積よりも大きくなるようにされている。すなわち、環状磁路51は、分離可能な部分における周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な断面61,62の断面積が、環状磁路51の他の部分における周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な断面の断面積よりも大きくなるようにされている。つまり、環状磁路51は、分離可能な部分が他の部分よりも膨らんだ形状を有している。
【0014】
環状磁路52は、環状磁路51と同一の形状および構造を有しており、環状磁路51と全体的に対向するとともに、周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な分離可能な断面63,64において円弧状磁路12,14に分離可能に形成されている。そして、環状磁路52の分離可能な断面63,64が、環状磁路51の分離可能な断面61,62と同じ位置になるように配置されている。そして、環状磁路52は、分離可能な断面63,64の断面積が、環状磁路52の周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な他の断面の断面積よりも大きくなるようにされている。すなわち、環状磁路52は、分離可能な部分における周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な断面63,64の断面積が、環状磁路52の他の部分における周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な断面の断面積よりも大きくなるようにされている。つまり、環状磁路52は、分離可能な部分が他の部分よりも膨らんだ形状を有している。
【0015】
円弧状磁路11〜14は同一の形状を有しおり、それぞれ、略半円の円弧状の形状を有している。円弧状磁路11,12は、所定の間隔を開けて互いに対向するように配置されている。そして、円弧状磁路11,12の各々の中央部であり且つ互いに対向する部分である第1部分71同士が接続磁路21によって接続されている。円弧状磁路13,14は、所定の間隔を開けて互いに対向するように配置されている。そして、円弧状磁路13,14の各々の中央部であり且つ互いに対向する部分である第2部分72同士が接続磁路22によって接続されている。
【0016】
そして、円弧状磁路11,13が同じ円周上に配置されるとともに互いに接合されて環
状磁路51が形成される。より詳細には、円弧状磁路11の一方の端面61aと円弧状磁路13の一方の端面61bとが接合されるとともに、円弧状磁路11の他方の端面62aと円弧状磁路13の他方の端面62bとが接合されて、環状磁路51が形成される。よって、円弧状磁路11の端面61aと円弧状磁路13の端面61bとの接合面が、環状磁路51における分離可能な断面61となり、円弧状磁路11の端面62aと円弧状磁路13の端面62bとの接合面が、環状磁路51における分離可能な断面62となる。
【0017】
同様に、円弧状磁路12,14が同じ円周上に配置されるとともに互いに接合されて環状磁路52が形成される。より詳細には、円弧状磁路12の一方の端面63aと円弧状磁路14の一方の端面63bとが接合されるとともに、円弧状磁路12の他方の端面64aと円弧状磁路14の他方の端面64bとが接合されて、環状磁路52が形成される。よって、円弧状磁路12の端面63aと円弧状磁路14の端面63bとの接合面が、環状磁路52における分離可能な断面63となり、円弧状磁路12の端面64aと円弧状磁路14の端面64bとの接合面が、環状磁路52における分離可能な断面64となる。
【0018】
なお、環状磁路51,52において、第1部分71は、分離可能な断面61〜64を含まない部分であり、第2部分72は、分離可能な断面61〜64を含まない部分であるとともに第1部分71と異なる部分である。
【0019】
コイル31は、接続磁路21を囲むように巻かれている。また、コイル32は、環状磁路51,52(円弧状磁路13,14)を纏めて囲むように巻かれている。なお、図1,図2においては、環状磁路51,52の一部である円弧状磁路13,14の一部にコイル32が巻き付けられた例を示したが、センサの感度を高めるためには、環状磁路51,52の全体に渡ってコイル32が巻き付けられているのが望ましい。すなわち、円弧状磁路11,12の全体および円弧状磁路13,14の全体に渡ってコイル32が巻き付けられることが望ましい。同様に、コイル31は接続磁路21の全体に渡って巻き付けられるのが望ましい。また、コイル31の両端には端子31a,31bが設けられており、コイル32の両端には端子32a,32bが設けられている。
【0020】
本例の電流センサにおいて、コイル31には交流が流される。例えば、ある瞬間に、端子31aから入って端子31bから出る向きに電流が流れると、コイル31において、図1のz方向に向かう磁界が発生し、これによって、接続磁路21において、図1のz方向に向かう磁束が発生する。この磁束は、環状磁路51の第1部分71において、図1のθ方向と−θ方向とに分離し、環状磁路51の第2部分72において合流した後に、接続磁路22を図1の−z方向に進む。そして、環状磁路52の第2部分72において、図1のθ方向と−θ方向とに再び分離し、環状磁路52の第1部分71において、再び合流した後に、接続磁路21を図1のz方向に向かう。このようにして、環状磁路51,52および接続磁路21,22によって構成された磁路を磁束が流れる。
【0021】
このとき、導電路41に電流が流れていない場合には、環状磁路51にはコイル32の内部を図1のθ方向に向かう磁束が存在し、環状磁路52にはコイル32の内部を図1の−θ方向に向かう磁束が存在する。この逆向きの2つの磁束は等しいため、互いに打ち消し合ってコイル32を貫く磁束は0となる。コイル31に流れる電流の向きが逆になると、各磁路中の磁束の向きも逆になるが、同様に、コイル32を貫く磁束は0となる。よって、コイル31に交流を流しても、コイル32の両端の端子32a,32b間に誘導起電力は生じない。
【0022】
導電路41に図1のz方向に向かう電流iが流れると、導電路41の周囲に図1のθ方向の磁界が発生し、これによって、環状磁路51,52の両方において、図1のθ方向に向かう磁束が発生する。これに対して、前述したように、コイル31を流れる交流によっ
て生じる磁束は、環状磁路51と環状磁路52とで逆向きになる。このため、環状磁路51,52の一方では、コイル31を流れる交流による磁束の向きと導電路41を流れる電流による磁束の向きとが一致して磁束が増加し、環状磁路51,52の他方では、コイル31を流れる交流による磁束の向きと導電路41を流れる電流による磁束の向きとが逆になって磁束が減少する。
【0023】
しかしながら、外部磁界の変化にともなう磁性体の透磁率の変化が線形ではないことにより、コイル31に流れる交流によって発生する環状磁路51,52の磁束が、導電路41を流れる電流iによって生じる磁界によって増加する量と減少する量とが等しくならない。これにより、導電路41を流れる電流iの大きさに応じた誘導起電力がコイル32に発生する。よって、コイル32の両端に設けられた端子32a,32b間の電圧を測定することにより、導電路41を流れる電流iの大きさを求めることができる。このようにして、本例の電流センサは、電流センサとして機能する。
【0024】
また、本例の電流センサは、円弧状磁路11と円弧状磁路13とを分離し、円弧状磁路12と円弧状磁路14とを分離することができる。よって、本例の電流センサは、導電路41を切断することなく、導電路41を流れる被測定電流を検出可能な状態にセッティングすることができる。
【0025】
さらに、本例の電流センサは、環状磁路51,52において、分離可能な断面61〜64の断面積が、環状磁路51,52の他の部分における周回方向(図1のθ方向,−θ方向)に垂直な断面の断面積よりも大きくされている。これにより、分離可能な断面61〜64において接合時にズレが生じた場合においても、接合面(断面61〜64)における断面積が、環状磁路51,52の他の部分における断面積よりも小さくなる不具合を生じ難くすることができる。これにより、接合面(断面61〜64)のズレによる環状磁路51,52の磁気抵抗の増加を低減できるので、精度の高い電流センサを得ることができる。よって、本例の電流センサによれば、導電路を切断することなく電流を検出可能な状態にセッティングすることが可能であり且つ精度が高い電流センサを得ることができる。
【0026】
本例の電流センサにおいて、円弧状磁路11〜14および接続磁路21,22は、例えば、鉄,ニッケル,コバルト等の強磁性体を使用して形成することができる。また、特許文献1に記載されたように、内部に磁性流体が封入された構造体を使用しても構わない。この場合には、磁性流体が存在する部分が円弧状磁路11〜14および接続磁路21,22として機能する。さらに、固体状の超常磁性体を用いて円弧状磁路11〜14および接続磁路21,22を構成しても構わない。
【0027】
(変形例)
本発明は上述した実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良が可能である。
【0028】
例えば、上述した実施の形態の例においては、接続磁路21にコイル31が巻き付けられた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、接続磁路21,22の両方にコイル31を巻き付けるようにしても構わない。この場合には、接続磁路21に発生させる磁束の向きと接続磁路22に発生させる磁束の向きとが逆になるようにする必要がある。
【0029】
また、上述した実施の形態の例においては、環状磁路51,52の各々が2つの分離可能な断面を有する例を示したが、これに限定されるものではない。環状磁路51,52の各々が1つの分離可能な断面のみを有するようにしても良く、環状磁路51,52の各々が3つ以上の分離可能な断面を有していても構わない。
【0030】
またさらに、上述した実施の形態の例においては、環状磁路51,52の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路41が配置されて、電流センサとして用いられる例を示したが、これに限定されるものではない。環状磁路51,52の周回方向(図1のθ方向,−θ方向)の磁界を検出する磁気センサとして用いても構わない。
【0031】
さらにまた、上述した実施の形態の例においては、環状磁路51,52と、接続磁路21,22と、コイル31,32とを有する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、環状磁路51およびそれを囲むように巻かれたコイル32のみによって構成された磁気センサまたは電流センサであっても構わない。その場合には、環状磁路51の内側を通過するように測定対象の電流を流す導電路41を配置すればよい。
【符号の説明】
【0032】
21,22:接続磁路
31,32:コイル
41:導電路
51,52:環状磁路
61,62,63,64:分離可能な断面
71:第1部分
72:第2部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周回方向に垂直な少なくとも1つの断面において分離可能に形成された第1の環状磁路と、
該第1の環状磁路の少なくとも一部を囲むように巻かれた第1のコイルとを少なくとも有しており、
該第1の環状磁路の分離可能な前記断面の断面積が、前記第1の環状磁路の周回方向に垂直な他の断面の断面積よりも大きいことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記第1の環状磁路と同一の形状および構造を有しており、前記第1の環状磁路と全体的に対向するとともに、分離可能な断面が前記第1の環状磁路の分離可能な前記断面と同じ位置になるように配置された第2の環状磁路と、
前記第1および第2の環状磁路における、互いに対向する部分であり、且つ分離可能な前記断面を含まない部分である第1部分同士を接続する第1の接続磁路と、
前記第1および第2の環状磁路における、互いに対向する部分であり、且つ分離可能な前記断面を含まない部分であるとともに前記第1部分と異なる部分である第2部分同士を接続する第2の接続磁路と、
前記第1の接続磁路の少なくとも一部を囲むように巻かれた第2のコイルとをさらに有しており、
前記第1のコイルは、前記第1および第2の環状磁路の少なくとも一部を纏めて囲むように巻かれていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気センサを備え、前記第1の環状磁路の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路が配置されることを特徴とする電流センサ。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気センサを備え、前記第1および第2の環状磁路の内側を通過するように、測定対象の電流を流すための導電路が配置されることを特徴とする電流センサ。

【図1】
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【図2】
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