説明

磁気センサ素子の検査方法および磁気センサウエハ

【課題】小型の磁気センサをウエハ状態で検査するときに磁気センサとコイルとの相対的な位置合わせを容易にし、かつ高精度な検査を実現可能にする。
【解決手段】1つの基板11の主面11a上に、少なくとも1つの磁気センサ素子12と、該磁気センサ素子12の周辺に少なくとも1つのコイル素子13とが形成され、それぞれの磁気センサ素子12およびコイル素子13には電極パッド12b,13bが設けられてなる磁気センサウエハ10における磁気センサ素子の検査方法であって、検査対象の磁気センサ素子12Tの電極パッド12bに測定用の針3を立てるとともに、検査対象の磁気センサ素子12Tの周辺のコイル素子13A,13Bの電極パッド13bに通電用の針4A,4Bを立てた後、通電用の針4A,4Bからコイル素子13A,13Bへ通電することによって、検査対象の磁気センサ素子12Tに検査用の磁界Mを印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部磁界の情報を電気的信号に変換する磁気センサをウエハ上に製造する際に行う磁気センサ素子の検査方法および磁気センサウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサ、フラックスゲートセンサ等の磁気センサは、種々のモバイル機器に搭載されている。近年は、小型化および低価格化の要望に応えるため、多数の磁気センサをシリコン(Si)やガラス等のウエハ上に大量に一括で製造することが多い。この製造には、半導体分野で用いられるプロセス(例えばフォトリソグラフィー法等)が用いられる。
【0003】
多数の磁気センサがウエハ上に形成されてなる磁気センサウエハにおいて、それぞれの磁気センサの磁気特性を検査する方法には、ウエハ状態のまま磁界印加機能を有するプローバを用いて検査する方法と、ウエハをチップ化(個片化)した後でチップ毎にソケットを用いて検査する方法がある。ウエハ状態のまま行う検査方法は、非常に高速で検査可能であるという利点がある。
【0004】
しかしながら大型の電磁石を用いて、ウエハ上に複数形成された磁気センサの1つに磁界を印加する場合には、検査対象の磁気センサのみならず、その周囲の磁気センサにも同時に磁界が印加される。さらに、周囲の磁気センサによって磁束が集中する(集磁される)ことによって、検査対象の磁気センサには、設定より大きな磁界が印加されてしまう。また、電磁石とプローブとウエハの相対的な位置合わせが困難であるとともに、消費電力が大きいという問題がある。
【0005】
特許文献1には、磁界センシング部に磁力を与える電磁石と、プローブピンを備える基体に支持させたプローブカードが記載されている。このプローブカードによれば、電磁石をプローブカードに一体化することにより、従来の大型の電磁石を用いたときの問題点を改善して、チップ1つずつに高精度、低電力で磁界を印加することが可能になる。
【0006】
特許文献2には、磁気センサが形成されているウェハにプローブカードを接触させた状態において、前記プローブカードに設けられた複数のコイルに電流を供給して前記磁気センサに磁界を印加し、前記プローブカードによって前記磁気センサの出力信号を検出する段階と、複数の前記コイルに供給する電流を変化させることにより前記磁気センサに印加する前記磁界の方向を変化させる段階と、を含む磁気センサの検査方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、磁気センサチップをウエハ状態で検査する方法であって、磁気センサチップの電極部にテストプローブ針を接触させると共に、磁界発生手段を磁気センサチップに近接させるようにし、この磁界発生手段により所定の磁界を発生させた状態において、磁気センサチップの動作状態をテストプローブ針からの電気信号により検査することを特徴とする磁気センサチップの検査方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−147568号公報
【特許文献2】特開2007−57547号公報
【特許文献3】特開昭62−55977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のプローブカードには、次の問題点がある。
(1)プローブ部とコイル部とを1チップの大きさ程度に抑える必要性から、チップサイズが非常に小型である近年の磁気センサチップを検査することができない。
(2)磁界センシング部に印加できる磁界はウエハ面に垂直な方向に限られ、ウエハ面に平行な方向には磁界を印加することができない。
【0010】
また、特許文献2、3の検査方法には、次の問題点がある。
(1)プローブ部とコイル部とを1チップの大きさ程度に抑える必要性から、チップサイズが非常に小型である近年の磁気センサチップを検査することができない。
(2)磁気センサチップとコイル(磁界発生手段)との相対的な位置合わせが難しい。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、小型の磁気センサをウエハ状態で検査するときに磁気センサとコイルとの相対的な位置合わせが容易であり、高精度な検査が実現可能な磁気センサ素子の検査方法およびこの検査方法によって検査することが可能な磁気センサウエハを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、1つの基板の主面上に、少なくとも1つの磁気センサ素子と、該磁気センサ素子の周辺に少なくとも1つのコイル素子とが形成され、それぞれの磁気センサ素子およびコイル素子には電極パッドが設けられてなる磁気センサウエハにおける磁気センサ素子の検査方法であって、検査対象の磁気センサ素子の電極パッドに測定用の針を立てるとともに、前記検査対象の磁気センサ素子の周辺のコイル素子の電極パッドに通電用の針を立てた後、前記通電用の針から前記コイル素子へ通電することによって、前記検査対象の磁気センサ素子に検査用の磁界を印加し、前記測定用の針を介して磁気センサ素子の磁気特性を検査することを特徴とする磁気センサ素子の検査方法を提供する。
【0013】
前記コイル素子は、前記磁気センサ素子へのバイアス磁界印加用または励磁用またはピックアップ用として使用できるものであることが好ましい。
前記検査対象の磁気センサ素子の両側にコイル素子が配置され、前記コイル素子がスパイラルコイルからなり、一方の側のコイル素子に通電する方向を他方の側のコイル素子に通電する方向と同じ方向または反対の方向とすることにより、磁気センサ素子へ印加される検査用の磁界の方向を、前記主面に平行な方向または垂直な方向から選択することが好ましい。
前記検査対象の磁気センサ素子の周辺に2対または3対のコイル素子が配置され、前記コイル素子がスパイラルコイルからなり、前記2対または3対のコイル素子の対ごとに、コイル素子に通電する方向を互いに同じ方向または反対の方向とすることにより、磁気センサ素子へ印加される検査用の磁界の方向を、前記主面に平行な方向、垂直な方向、または斜めの方向から選択することが好ましい。
【0014】
1つの基板の主面上に、少なくとも1つの磁気センサ素子と、該磁気センサ素子の周辺に少なくとも1つのコイル素子とが形成され、それぞれの磁気センサ素子およびコイル素子には電極パッドが設けられてなる磁気センサウエハであって、前記ウエハは、チップ状に切断されるときに、磁気センサ素子が搭載されたチップとなる磁気センサ形成領域と、コイル素子が搭載されたチップとなるコイル素子形成領域とが互いに隣接して設けられ、請求項1、3または4に記載の検査方法によって検査することが可能であることを特徴とする磁気センサウエハを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検査対象の磁気センサ素子と、この磁気センサ素子に磁界を印加するためのコイル素子とが、同一の基板上に形成されているので、相対的な位置合わせが容易である。また、コイル素子は磁気センサ素子と同様のプロセスによって形成することができるので、磁気センサ素子と同程度のサイズのコイル素子が得られ、チップサイズが非常に小型である近年の磁気センサチップの検査にも容易に適用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の磁気センサ素子の検査方法の第1形態例を示す(a)平面図、および(b)断面図である。
【図2】本発明の磁気センサ素子の検査方法の第2形態例を示す(a)平面図、および(b)断面図である。
【図3】本発明の磁気センサ素子の検査方法の第3形態例を示す(a)平面図、および(b)断面図である。
【図4】本発明の磁気センサ素子の検査方法の第4形態例を示す(a)平面図、および(b)断面図である。
【図5】本発明の磁気センサ素子の検査方法の第5形態例を示す(a)平面図、および(b)断面図である。
【図6】本発明の磁気センサ素子の検査方法の第6形態例を示す(a)平面図、および(b)断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
なお、図1〜図6は、基板11,21,31,41,51上に4×4のチップが形成されるように図示しているが、通常、ウエハ上に形成されるチップの個数は多数である。また、基板全体の平面形状は、図示の矩形状に限らず、円形など特に限定されない。
【0018】
図1および図2に示す磁気センサウエハ10は、1つの基板11の主面11a上に、複数の磁気センサ素子12と、複数のコイル素子13とが形成されてなる。
基板11は非磁性基板であり、その具体例としてはシリコン基板等の半導体基板のほか、ガラス基板、セラミック基板などが挙げられる。
【0019】
磁気センサ素子12は、外部磁界に応じた出力を電気的出力(電流や電圧等)として生成する磁気センサ本体(磁気コア)12aと、磁気センサ本体12aを外部装置と電気的に接続するための電極パッド12bを有する。本形態例の場合、磁気センサ素子12はMRセンサであり、その磁気センサ本体12aは、メアンダ形状に作製された4つのMR素子(磁気抵抗素子)がホイートストンブリッジ状に接続されて構成されたブリッジ回路12aからなる。
【0020】
コイル素子13は、渦巻状のコイル配線からなるスパイラルコイル13aと、その両端に設けられた電極パッド13bを有する。コイル配線の材料には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)等を主成分とした非磁性金属が用いられることが好ましい。メッキ等の手法で膜厚が厚くなるようにコイル配線を形成した場合には、大きな電流を流すことができ、そして、より大きな磁界を磁気センサ素子12に印加することができるので好ましい。
【0021】
コイル素子13は、磁気センサ素子12と同程度の寸法に形成されている。また、基板11の主面11a上は、磁気センサ素子12が形成された領域(磁気センサ形成領域)14とコイル素子13が形成された領域(コイル形成領域)15とに区画されている。磁気センサ形成領域14およびコイル形成領域15は、それぞれ境界線に沿って基板11を切断(ダイシング)することにより、磁気センサチップおよびコイルチップに個片化される。本形態例の場合、磁気センサ素子12およびコイル素子13の配置は、図1(a)の縦方向に磁気センサ素子12が並んでなる列と、コイル素子13が並んでなる列とが、横方向に交互に設けられた配置である。
なお、以下の説明では、「磁気センサチップ」および「コイルチップ」という用語を、個片化前のウエハにおいて各チップに対応する領域(磁気センサ形成領域およびコイル形成領域)について使用する場合がある。
【0022】
検査用のプローブ1は、平板状のプローブカード(基材)2と、検査対象の磁気センサ素子12Tの磁気特性を測定するための磁気センサ用プローブ針(測定用の針)3と、磁気センサ素子12Tの周辺のコイル素子13A,13Bに通電するためのコイル用プローブ針(通電用の針)4A,4Bを有する。
このとき検査対象の磁気センサ素子12Tは、コイル素子13A,13Bの中間に配置されている。プローブ針3,4A,4Bは、電極パッド12b,13bとの電気的接続が接触式でなされるものであれば良い。
【0023】
磁気センサ用プローブ針3とコイル用プローブ針4A,4Bとの配置は、検査対象の磁気センサ素子12Tの電極パッド12bに磁気センサ用プローブ針3を立てたときに、その磁気センサ素子12Tに隣接する、両脇のコイル素子13A,13Bの電極パッド13bにコイル用プローブ針4A,4Bを立てることができるように設定されている。
磁気センサウエハ10は、検査の際にはステージ5上に配置される。ステージ5は、磁気センサウエハ10を支持するものであれば良い。さらに、ステージ5が磁気センサウエハ10を(X、Y,Z,θ)方向の少なくとも1方向または複数方向に移動させることが可能なものであれば、より好ましい。
なお、図1および図2では、磁気センサ素子12のうち検査対象のものを符号12Tで、コイル素子13のうち検査対象の磁気センサ素子12Tへの磁界印加に用いるものを符号13A,13Bで表している。
【0024】
図1に示す例では、コイル用プローブ針4A,4Bからコイル素子13A,13Bへ通電する際、各コイル素子13A,13Bから発生する磁界M,Mの向きが磁気センサ素子12Tにおいて反対になる(互いに打ち消し合う)向きに通電する。つまり、図1(b)に示すように、コイル素子13Aから発生する磁界Mの向きは磁気センサ素子12Tの中央部においてほぼ上向きであり、コイル素子13Bから発生する磁界Mの向きは磁気センサ素子12Tの中央部においてほぼ下向きである。これにより、各コイル素子13A,13Bから発生する磁界M,Mを合成して得られる磁界Mの向きが、磁気センサ素子12Tに対しては、基板11の主面11aに平行な方向となる。
本形態例の場合、磁界M,Mを合成して得られる磁界Mの向きは、コイル素子13A,13Bが形成された面(絶縁層15aの上面)より下方ではコイル素子13Aからコイル素子13Bに向かう方向となり、コイル素子13A,13Bが形成された面より上方ではコイル素子13Bからコイル素子13Aに向かう方向となる。磁気センサ素子12Tは、コイル素子13A,13Bが形成された面(絶縁層15aの上面)より下方に位置しているので、図1(a)に示すように、磁気センサ素子12Tに印加される磁界Mの向きは、コイル素子13Aからコイル素子13Bに向かう方向(図1(a)の右向き)となる。
【0025】
図2に示す例では、コイル用プローブ針4A,4Bからコイル素子13A,13Bへ通電する際、各コイル素子13A,13Bから発生する磁界M,Mの向きが磁気センサ素子12Tにおいて同じ向きとなるように通電する。つまり、コイル素子13Aから発生する磁界Mの向きも、コイル素子13Bから発生する磁界Mの向きも、磁気センサ素子12Tの中央部において下向きである。これにより、各コイル素子13A,13Bから発生する磁界M,Mを合成して得られる磁界Mの向きが、磁気センサ素子12Tに対しては、基板11の主面11aに垂直な方向(図2(a)では紙面の奥側に向かう方向)となる。
【0026】
つまり、検査対象の磁気センサ素子12Tの両側に、スパイラルコイル13aからなるコイル素子13A,13Bが配置されている場合、一方の側のコイル素子13Aに通電する方向を他方の側のコイル素子13Bに通電する方向と同じ方向または反対の方向とすることにより、検査対象の磁気センサ素子12Tへ印加される検査用の磁界Mの方向を、基板11の主面11aに平行な方向または垂直な方向から選択することができる。
【0027】
上述したとおり、従来の外部電磁石による磁界印加では、電磁石とプローブカードと磁気センサウエハとの間で正確な位置合わせ(X方向、Y方向、Z方向およびθ方向)が困難なことや、隣接する磁気センサチップに磁束が収束してしまうこと(集磁効果)等の原因により、検査対象の磁気センサチップに印加される磁界の大きさ(値)および方向(角度)が設定とは異なってしまうという問題があった。
これに対して本形態例によれば、検査対象の磁気センサ素子12Tと、これに隣接するコイル素子13A,13Bとの方向(角度)および距離が基板11上で固定されているので、角度および値ともに設定どおりの正確な磁界を精度良く印加することができる。したがって、磁気センサ用プローブ針3を介して小型の磁気センサ素子12Tをウエハ状態で検査するときに、磁気センサ素子12Tとコイル素子13A,13Bとの相対的な位置合わせが容易になる。
【0028】
コイル配線は、フォトリソグラフィー等の半導体プロセスを用いることで再現性よく作製することができる。このため、磁気センサ素子12Tとコイル素子13A,13Bとの位置関係は正確に設定することができる。予め、コイルパターンと通電電流に対する発生磁界との関係を明らかにしておくことで、所望の磁界を精度良く検査対象の磁気センサ素子12Tに印加することができる。
【0029】
コイル素子13の基板11からの高さは、磁気センサ素子12の高さと異なる方が効率良く磁界を印加することができる。このため、図1、図2に示すように、基板11とコイル素子13との間に絶縁層15aを設けても良い。この絶縁層15aには、ウエハレベルパッケージ(WLP)で用いられるような厚さ1〜40μm程度の樹脂などを用いることができる。基板11とコイル素子13との間に絶縁層15aを設ける代わりに、基板11と磁気センサ素子12との間に絶縁層を設けても良い。
また、図1、図2には図示していないが、磁気センサ素子12やコイル素子13を保護するための封止樹脂層(図示せず)を設けることもできる。封止樹脂層には、電極パッド12b,13bを露出するため開口部が設けられる。また、電極パッド12b,13b上には半田バンプを形成しても良い。封止樹脂層は、後述する図3〜図6に示す各形態例においても、設けることができる。
【0030】
次に、2対のコイル素子を用いる形態例について、図3を参照して説明する。
図3に示す磁気センサウエハ20は、1つの基板21の主面21a上に、複数の磁気センサ素子22と、複数のコイル素子23とが形成され、磁気センサ素子22は4つのMR素子からなるブリッジ回路22aおよび4つの電極パッド22bを備え、コイル素子23はスパイラルコイル23aおよび1対の電極パッド23bを備え、1つの磁気センサ素子22の周囲に隣接して4つのコイル素子23が配置されてなるものである。
本形態例では、コイル用プローブ針4A,4B,4C,4Dは、検査対象の磁気センサ素子22Tの周囲の4つのコイル素子23A,23B,23C,23Dに同時に通電できるよう、4組が設けられている。
なお、図3では、磁気センサ素子22のうち検査対象のものを符号22Tで、コイル素子23のうち検査対象の磁気センサ素子22Tへの磁界印加に用いるものを符号23A,23B,23C,23Dで表している。コイル素子の各対は、検査対象の磁気センサ素子22Tを挟んで対向配置された2つのコイル素子を指す。本形態例では、符号23A,23Bのものが1対となり、符号23C,23Dのものが別の1対となる。
【0031】
コイル用プローブ針4A,4Bからコイル素子23A,23Bへ通電する際、各コイル素子23A,23Bから発生する磁界M,Mの向きが磁気センサ素子22Tにおいて反対になる(互いに打ち消し合う)向きに通電し、これらのコイル素子23A,23Bから発生する磁界M,Mを合成して得られる磁界MABの向きが、磁気センサ素子22Tに対しては、基板21の主面21aに平行で、コイル素子23Aからコイル素子23Bに向かう方向となる。
さらに、コイル用プローブ針4C,4Dからコイル素子23C,23Dへ通電する際、各コイル素子23C,23Dから発生する磁界の向きが磁気センサ素子22Tにおいて反対になる(互いに打ち消し合う)向きに通電し、これらのコイル素子23C,23Dから発生する磁界を合成して得られる磁界MCDの向きが、磁気センサ素子22Tに対しては、基板21の主面21aに平行で、コイル素子23Dからコイル素子23Cに向かう方向となる。
よって、4つのコイル素子23A,23B,23C,23Dから発生する磁界を合成して得られる磁界Mの向きが、基板21の主面21aに平行で、かつ検査対象の磁気センサ素子22Tに対して斜めの方向にすることができる。
【0032】
図3に示す磁気センサウエハ20の場合、磁界印加の方法として、次の例が挙げられる。
(1)コイル素子23A,23Bの2つに通電し、基板21の主面21aに平行で、コイル素子23Aからコイル素子23Bに向かう方向、またはそれとは反対の方向に検査用の磁界を発生させる。
(2)コイル素子23A,23Bの2つに通電し、基板21の主面21aに垂直な方向(上向きまたは下向き)に検査用の磁界を発生させる。
(3)コイル素子23C,23Dの2つに通電し、基板21の主面21aに平行で、コイル素子23Cからコイル素子23Dに向かう方向、またはそれとは反対の方向に検査用の磁界を発生させる。
(4)コイル素子23C,23Dの2つに通電し、基板21の主面21aに垂直な方向(上向きまたは下向き)に検査用の磁界を発生させる。
(5)コイル素子23A,23B、23C,23Dの4つに通電し、上記(1)または(2)で得られる磁界と、上記(3)または(4)で得られる磁界とを合成して、検査用の磁界を発生させる。
【0033】
つまり、検査対象の磁気センサ素子22Tの周辺に、2対のスパイラルコイル23aからなるコイル素子23A,23B,23C,23Dが配置され、これらのコイル素子の対ごとに、コイル素子に通電する方向を互いに同じ方向または反対の方向とすることにより、磁気センサ素子22Tへ印加される検査用の磁界の方向を、基板21の主面21aに平行な方向、基板21の主面21aに垂直な方向、または基板21の主面21aに対して斜めの方向から選択することができる。ここで、基板21の主面21aに対して斜めの磁界を発生するには、基板21の主面21aに平行な方向の磁界と、基板21の主面21aに垂直な方向の磁界とを合成する。
【0034】
次に、3対のコイル素子を用いる形態例について、図6を参照して説明する。
図6に示す磁気センサウエハ50は、1つの基板51の主面51a上に、複数の磁気センサ素子52と、複数のコイル素子53とが形成され、磁気センサ素子52は4つのMR素子からなるブリッジ回路52aおよび4つの電極パッド52bを備え、コイル素子53はスパイラルコイル53aおよび1対の電極パッド53bを備え、検査対象の磁気センサ素子52Tの周囲に3対のコイル素子53A,53B,53C,53D,53E,53Fが配置されたものである。本形態例では、符号53A,53Bのものが1対となり、符号53C,53Dのものが別の1対となり、符号53E,53Fのものが別の1対となる。
この磁気センサウエハ50の場合、コイル素子の対ごとに、コイル素子に通電する方向を互いに同じ方向または反対の方向とすることにより、磁気センサ素子52Tへ印加される検査用の磁界の方向を、基板51の主面51aに平行な方向、基板51の主面51aに垂直な方向、または基板51の主面51aに対して斜めの方向から選択することができる。
【0035】
図6に示す形態例では、コイル用プローブ針4A,4Bからコイル素子53A,53Bへ通電することにより、磁気センサ素子52Tに対し、基板51の主面51aに平行で、コイル素子53Aからコイル素子53Bに向かう方向の磁界MABを発生させる。
また、コイル用プローブ針4C,4Dからコイル素子53C,53Dへ通電することにより、磁気センサ素子52Tに対し、基板51の主面51aに平行で、コイル素子53Dからコイル素子53Cに向かう方向の磁界MCDを発生させる。
また、コイル用プローブ針4E,4Fからコイル素子53E,53Fへ通電することにより、磁気センサ素子52Tに対し、基板51の主面51aに垂直な方向の磁界MEFを発生させる。
これらの磁界MABと磁界MCDと磁界MEFとの合成により、基板51の主面51aに斜めな方向の磁界Mを検査対象の磁気センサ素子52Tに印加することができる。
【0036】
次に、ソレノイドコイルを用いる形態例について、図4を参照して説明する。
図4に示す磁気センサウエハ30は、1つの基板31の主面31a上に、複数の磁気センサ素子32と、複数のコイル素子33とが形成され、磁気センサ素子32は4つのMR素子からなるブリッジ回路32aおよび4つの電極パッド32bを備え、コイル素子33はソレノイドコイル33aおよび1対の電極パッド33bを備えるものである。ソレノイドコイル33aは、基板31の主面31a上に形成された下層の配線、絶縁層35a上に形成された上層の配線、およびこれら上層の配線と下層の配線との間を図4(a)に示すように交互に接続する貫通配線(図示略)からなる。
なお、図4では、磁気センサ素子32のうち検査対象のものを符号32Tで、コイル素子33のうち検査対象の磁気センサ素子32Tへの磁界印加に用いるものを符号33A,33Bで表している。
【0037】
図4(b)に示すように、磁気センサ素子(MR素子)32の基板31からの高さを、コイル素子33のソレノイドコイル33aにおける2層の配線の中間の高さ付近とすることにより、ソレノイドコイル33aの中心を通る磁界を効率よく磁気センサ素子32に印加することができる。磁気センサ素子32の高さを調整するため、磁気センサ素子32と基板31との間に絶縁層34aを設けることができる。
絶縁層34a,35aには、ウエハレベルパッケージ(WLP)で用いられるような樹脂などを用いることができる。
図4には図示していないが、磁気センサ素子32やコイル素子33(ソレノイドコイル33aの上側の配線)を保護するための封止樹脂層(図示せず)を、絶縁層34a,35aの上に設けることもできる。
【0038】
以上の形態例では、磁気センサ素子としてMR素子を用いたが、その他にも、ホール素子、GMR素子、MI素子、直交フラックスゲート素子等、種々の磁気センサ素子に適用することが可能である。コイルも、測定対象の磁気センサ素子に磁界が印加できるものであれば良く、形状や巻数等は特に限定されない。
【0039】
次に、磁気センサとコイルが同じチップに形成された形態例について、図5を参照して説明する。
図5に示す磁気センサウエハ40は、1つの基板41の主面41a上に、複数の磁気センサ素子42と複数のコイル素子43とが形成され、磁気センサ素子42はメアンダ状のMI素子42aおよび1対の電極パッド42bを備え、コイル素子43はMI素子42aの周囲のソレノイドコイル43aおよび1対の電極パッド43bを備えるものである。
ソレノイドコイル43aは、チップ44をMIセンサとして用いる場合は、MI素子42aを高感度領域で使用するためのバイアス磁界発生コイルとして利用できる。また、チップ44を直交フラックスゲートセンサとして用いる場合は、ソレノイドコイル43aをピックアップコイルとして利用できる。
【0040】
図5に示す形態例では、測定対象の磁気センサ素子42Tと同じチップ44内にあるコイル素子43B、並びに、測定対象の磁気センサ素子42Tの両側にあるチップ44のコイル素子43A,43C(つまり、3つのコイル素子43A,43B,43C)にプローブ針4A,4B,4Cから通電することによって、磁気センサ素子42Tに検査用の磁界Mを印加することができる。
また、図5に示す形態例では、測定対象の磁気センサ素子42Tと同じチップ44内にあるコイル素子43Bへの通電はせず、測定対象の磁気センサ素子42Tの両側にあるチップ44のコイル素子43A,43Cにプローブ針4A,4Cから通電することによっても、磁気センサ素子42Tに検査用の磁界Mを印加することができる。
【0041】
上述したように磁気センサチップとコイルチップを別々に配置した場合、1枚のウエハから得られる磁気センサチップの数が減少してしまう。本形態例の場合、
磁気センサ素子42とコイル素子43の両方が形成された領域44は、個片化により、コイル素子を含む磁気センサチップとなる。つまり、磁気センサチップ内にコイル素子が含まれ、そのコイル素子を、検査時に磁界印加用コイルとして用いることができるので、無駄がない。
なお、磁気センサチップ内に形成されるコイル素子の他の例としては、MRセンサのバイアス磁界発生コイル、平行フラックスゲートセンサのピックアップコイルや励磁コイルが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ホールセンサ、MRセンサ、GMRセンサ、MIセンサ、フラックスゲートセンサ等の各種磁気センサに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…プローブ、3…磁気センサ用プローブ針(測定用の針)、4A,4B,4C,4D,4E,4F…コイル用プローブ針(通電用の針)、10,20,30,40,50…磁気センサウエハ、11,21,31,41,51…基板(ウエハ)、11a,21a,31a,41a,51a…主面(基板面)、12,22,32,42,52…磁気センサ素子、12T,22T,32T,42T,52T…検査対象の磁気センサ素子、12b,22b,32b,42b,52b…磁気センサ素子の電極パッド、13,23,33,43,53…コイル素子、13A,13B,23A,23B,23C,23D,33A,33B,43A,43B,43C,53A,53B,53C,53D,53E,53F…磁界印加用のコイル素子、13b,23b,33b,43b,53b…コイル素子の電極パッド、14,24,34,54…磁気センサチップ(磁気センサ形成領域)、15,25,35,55…コイルチップ(コイル形成領域)、15a,25a,34a,35a,44a,55a…絶縁層、44…チップ(磁気センサ及びコイルが形成された領域)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの基板の主面上に、少なくとも1つの磁気センサ素子と、該磁気センサ素子の周辺に少なくとも1つのコイル素子とが形成され、それぞれの磁気センサ素子およびコイル素子には電極パッドが設けられてなる磁気センサウエハにおける磁気センサ素子の検査方法であって、
検査対象の磁気センサ素子の電極パッドに測定用の針を立てるとともに、前記検査対象の磁気センサ素子の周辺のコイル素子の電極パッドに通電用の針を立てた後、
前記通電用の針から前記コイル素子へ通電することによって、前記検査対象の磁気センサ素子に検査用の磁界を印加し、前記測定用の針を介して磁気センサ素子の磁気特性を検査することを特徴とする磁気センサ素子の検査方法。
【請求項2】
前記コイル素子は、前記磁気センサ素子へのバイアス磁界印加用または励磁用またはピックアップ用として使用できるものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子の検査方法。
【請求項3】
前記検査対象の磁気センサ素子の両側にコイル素子が配置され、
前記コイル素子がスパイラルコイルからなり、
一方の側のコイル素子に通電する方向を他方の側のコイル素子に通電する方向と同じ方向または反対の方向とすることにより、磁気センサ素子へ印加される検査用の磁界の方向を、前記主面に平行な方向または垂直な方向から選択することを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子の検査方法。
【請求項4】
前記検査対象の磁気センサ素子の周辺に2対または3対のコイル素子が配置され、
前記コイル素子がスパイラルコイルからなり、
前記2対または3対のコイル素子の対ごとに、コイル素子に通電する方向を互いに同じ方向または反対の方向とすることにより、磁気センサ素子へ印加される検査用の磁界の方向を、前記主面に平行な方向、垂直な方向、または斜めの方向から選択することを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子の検査方法。
【請求項5】
1つの基板の主面上に、少なくとも1つの磁気センサ素子と、該磁気センサ素子の周辺に少なくとも1つのコイル素子とが形成され、それぞれの磁気センサ素子およびコイル素子には電極パッドが設けられてなる磁気センサウエハであって、
前記ウエハは、チップ状に切断されるときに、磁気センサ素子が搭載されたチップとなる磁気センサ形成領域と、コイル素子が搭載されたチップとなるコイル素子形成領域とが互いに隣接して設けられ、
請求項1、3または4に記載の検査方法によって検査することが可能であることを特徴とする磁気センサウエハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−210348(P2010−210348A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55582(P2009−55582)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】