説明

磁気センサ装置

【課題】 温度変化などがあっても、磁気抵抗素子の磁気特性が変動することのない磁気センサ装置を提供すること。
【解決手段】 磁気式リニアエンコーダなどの磁気センサ装置において、感磁面50を構成する磁気抵抗素子10をセンサホルダ6に搭載するにあたって、まず、磁気抵抗素子10の裏面側を接着剤911、912で固定する。次に、感磁面50の周りにおいて磁気抵抗素子10とセンサホルダ6との隙間には、ゴム状の軟質樹脂からなる接着剤92を充填して封止を行うとともに、その背面側にも接着剤92を充填し、可撓性基板16、17と磁気抵抗素子10との接合部分も接着剤92で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動被検出物の移動量、移動位置、移動速度などの検出を行うための磁気センサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気式リニアエンコーダなどの磁気センサ装置では、感磁面を構成する磁気抵抗素子を搭載したヘッドと、ヘッドとの相対移動方向に沿ってS極およびN極が交互に配列され磁気スケールとを対向配置させ、ヘッドと磁気スケールの相対移動を磁気的に検出し、その検出結果をケーブルを介してセンサ装置本体に出力し、その移動位置や移動速度などを検出する。ヘッドでは、磁気抵抗素子がセンサホルダにエポキシ樹脂によって固定、封止されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−304838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁気抵抗素子は、応力によって磁気特性が著しく変動する傾向にある。このため、従来のように、磁気抵抗素子をセンサホルダに固定するのに硬度の高いエポキシ樹脂を用いると、温度変化により樹脂が収縮した際の応力によって、磁気抵抗素子の磁気特性が変動するという問題点がある。
【0004】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、温度変化などがあっても、磁気抵抗素子の磁気特性が変動することのない磁気センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明では、感磁面を構成する磁気抵抗素子と、該磁気抵抗素子を保持するセンサホルダとを有する磁気センサ装置において、前記磁気抵抗素子は、前記感磁面を露出させた状態で前記センサホルダに保持され、前記磁気抵抗素子と前記センサホルダとの間には、ゴム状の軟質樹脂が充填されていることを特徴とする。
【0006】
本発明では、磁気抵抗素子とセンサホルダとの間に充填されているのはゴム状の軟質樹脂であるので、温度変化によって樹脂が収縮しても、樹脂と磁気抵抗素子はある程度柔軟性をもって密着している。従って、磁気抵抗素子に大きな応力が加わらない。それ故、本発明を適用した磁気センサ装置では、磁気抵抗素子の磁気特性が安定しているので、検出精度が高く、信頼性に優れている。
【0007】
本発明において、前記磁気抵抗素子は、前記センサホルダに形成された開口で前記感磁面が露出するように配置されているとともに、前記感磁面の周りにおいて前記磁気抵抗素子と前記センサホルダとの隙間には、前記ゴム状の軟質樹脂が充填されていることが好ましい。このように構成すると、感磁面の周りにおいてゴム状の軟質樹脂が封止剤として機能するため、センサホルダの開口において磁気抵抗素子とセンサホルダとの隙間からセンサホルダの内部に水分が侵入しない。しかも、ゴム状の軟質樹脂は密着性に優れている。それ故、本発明を適用した磁気センサ装置は、耐湿性能に優れており、信頼性が高い。
【0008】
本発明において、前記磁気抵抗素子の前記感磁面、前記センサホルダの前記開口周囲の表面、および前記ゴム状の軟質樹脂の表面は、同一平面上に位置していることが好ましい。このように構成すると、磁気抵抗素子の感磁面と磁気スケールとの隙間を狭めることができるので、検出感度を高めることができる。
【0009】
本発明において、前記ゴム状の軟質樹脂は、接着剤である。
【0010】
本発明において、前記ゴム状の軟質樹脂の硬度は、ショアA30からショアA70までの範囲にあることが好ましい。特に、前記ゴム状の軟質樹脂の硬度は、約ショアA50であることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記磁気抵抗素子では、第1の基板上に磁気抵抗パターンが形成された第1の磁気抵抗素子基板と、第2の基板上に磁気抵抗パターンが形成された第2の磁気抵抗素子基板とが、磁気抵抗パターンが形成されている側の面同士が対向するように配置されているとともに、前記第1の磁気抵抗素子基板および前記第2の磁気抵抗素子基板の各々に可撓性基板が接続されており、前記磁気抵抗素子は、前記センサホルダの内部で第1の接着剤で固定されているとともに、前記磁気抵抗素子と前記センサホルダとの間には、前記ゴム状の軟質樹脂からなる第2の接着剤が充填されていることが好ましい。第2の接着剤としてゴム状の軟質樹脂を用いた場合には、温度変化によって樹脂が収縮しても、磁気抵抗素子に大きな応力が加わらない。従って、本発明を適用した磁気抵抗素子のように、2枚の薄い磁気抵抗素子基板を貼り合わせた構造になっている場合でも、接着剤の応力によって、磁気抵抗素子基板が割れるということがない。
【0012】
本発明において、前記第1の基板は、セラミックグレーズ基板であり、前記第2の基板は、透明基板である。この場合、前記磁気抵抗素子は、前記第1の基板が前記第2の基板よりも薄く、前記第1の基板が前記感磁面として前記センサホルダから露出していることが好ましい。感度を高めることを目的に磁気抵抗素子の感磁面と磁気スケールとの隙間を狭めようとすると、第1の基板を薄くする必要があるが、第1の基板としてセラミックグレーズ基板を用いれば、第1の基板を薄くしても、十分な強度を確保できる。
【0013】
本発明において、前記第1の接着剤の硬度は、例えば、ショアD60からショアD90までの範囲にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気センサ装置では、磁気抵抗素子とセンサホルダとの間に充填されているのはゴム状の軟質樹脂であるので、温度変化によって樹脂が収縮しても、樹脂と磁気抵抗素子はある程度柔軟性をもって密着している。従って、磁気抵抗素子に大きな応力が加わらない。それ故、本発明を適用した磁気センサ装置では、磁気抵抗素子の磁気特性が安定しているので、検出精度が高く、信頼性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0016】
[磁気抵抗素子の構造]
(全体構成)
図1(a)、(b)、(c)はそれぞれ、本発明を適用した磁気抵抗素子を備えたヘッドと磁気スケールとの位置関係を示す説明図、本発明を適用した磁気抵抗素子を用いた磁気式リニアエンコーダの説明図、および本発明を適用した磁気抵抗素子を用いた磁気式ロータリエンコーダの説明図である。
【0017】
図1(a)において、本発明を適用した磁気抵抗素子10は、工作機械や実装装置のテーブル移動距離、ロボットなどでの回転位置検出、モータ装置における回転速度などを計測するための磁気センサ装置1において、ヘッド5の感磁面50を構成するものであり、ヘッド5のセンサホルダ6内に搭載されている。ヘッド5の感磁面50は、磁気スケール3に対向配置されており、磁気スケール3は、可動体2の側に搭載されている。磁気抵抗素子10は、詳しくは後述するように、90°位相の異なる2個の信号を出力するA相磁気抵抗パターンとB相磁気抵抗パターンとを備えている。
【0018】
本形態において、磁気抵抗素子10は、ABZ相磁気抵抗パターンが形成された第1の磁気抵抗素子基板11と、ABZ相磁気抵抗パターンが形成された第2の磁気抵抗素子基板12とを備えており、これらの磁気抵抗素子基板11、12は、磁気抵抗パターンが形成されている側の面同士が対向するように貼り合わされている。
【0019】
ここで、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12はいずれも、他方の基板の縁から一部が張り出しており、それにより形成された第1の磁気抵抗素子基板11の張り出し領域115、および第2の磁気抵抗素子基板12の張り出し領域125には可撓性基板16、17が圧着などの方法により接続されている。
【0020】
このように構成したヘッド5は、例えば、図1(b)に示す磁気センサ装置1(磁気式リニアエンコーダ)において、移動テーブル(可動体2)の側において直線的に延びた磁気スケール3に対向するように配置されて、移動テーブルの位置などを検出する。また、ヘッド5は、図1(c)に示す磁気センサ装置1(磁気式ロータリエンコーダ)において、回転ドラム(可動体2)の外周面に配置された磁気スケール3に対向するように配置され、回転ドラムの回転位置や回転速度などを検出する。いずれの場合も、磁気スケール3には、N極とS極が所定のピッチで交互に配列されている。
【0021】
(磁気抵抗素子10の製造方法および詳細な構成)
図2を参照して、本形態の磁気抵抗素子10の製造方法を説明しながら、磁気抵抗素子10の詳細な構成を詳述する。図2(a)〜(c)は、本発明の磁気抵抗素子10の製造方法を示す説明図である。
【0022】
本形態では、まず、図2(a)、(b)に示すように、下側の第1の磁気抵抗素子基板11を構成するための第1の基板111と、上側の第2の磁気抵抗素子基板12を構成するため第2の基板121とを準備する。
【0023】
本形態では、第1の基板111としてセラミックグレーズ基板を準備し、第2の基板121としてガラス基板(透明基板)を準備する。セラミックグレーズ基板は、酸化物もしくは窒化物等からなるアルミナ基板などのセラミック基板の表面にガラス層を形成したものである。本形態では、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12のうち、第1の磁気抵抗素子基板11が磁気スケール3の側に配置されるので、第1の基板111としては、第2の基板121よりも薄いものが用いられている。例えば、第1の基板111は厚さが0.3mmであり、第2の基板121は厚さが0.7mmである。
【0024】
次に、図2(a)に示すように、第1の基板111の表面に、スパッタ法などにより強磁性体NiFe等からなる磁性体膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて磁性体膜をパターニングし、ABZ相磁気抵抗パターン112を形成する。その際、第1の基板111には、磁性体膜によってアライメントマーク(図示せず)を同時形成する。次に、ABZ相磁気抵抗パターン112の表面側に保護層を形成すれば、第1の磁気抵抗素子基板11が完成する。
【0025】
同様に、図2(b)に示すように、第2の基板121の表面に、スパッタ法などにより強磁性体NiFe等からなる磁性体膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて磁性体膜をパターニングし、ABZ相磁気抵抗パターン122を形成する。その際、第2の基板121にも、磁性体膜によってアライメントマークを同時形成する。次に、ABZ相磁気抵抗パターン122の表面側に保護層を形成すれば、第2の磁気抵抗素子基板12が完成する。
【0026】
ここで、第1のABZ相磁気抵抗パターン112が有する磁気抵抗体薄膜も、第2のABZ相磁気抵抗パターン122が有する磁気抵抗体薄膜も、温度特性を向上させるために差動構成となっている。また、出力信号の基本波成分に重畳した高調波成分を取り除くため、第1のABZ相磁気抵抗パターン112および第2のABZ相磁気抵抗パターン122は、いずれも複数個の磁気抵抗体薄膜を備えている。
【0027】
次に、第1の磁気抵抗素子基板11あるいは第2の磁気抵抗素子基板12に光硬化接着剤としてのUV硬化接着剤を塗布した後、図2(c)に示すように、UV硬化接着剤を挟んで第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12とを貼り合せる。あるいは、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12と対向配置させた後、その縁部分からUV硬化接着剤を塗布する。その際、第2の基板121は、透明なガラス基板であるため、第2の基板121を通して、第1の磁気抵抗素子基板11のアライメントマークと、第2の磁気抵抗素子基板12のアライメントマークとを観察しながら、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12の位置合わせを行う。なお、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12にアライメントマークが形成されていない場合には、第1のABZ相磁気抵抗パターン112と第2のABZ相磁気抵抗パターン122とを観察しながら、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12の位置合わせを行ってもよい。
【0028】
次に、透明な第2の基板121の側からUV光を照射してUV硬化接着剤を硬化させ、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12を貼り合せる。
【0029】
ここで、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12とを貼り合せると、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12は、他方の基板の縁から一部が張り出している。このため、2枚の磁気抵抗素子基板11、12を貼り合せて磁気抵抗素子10を構成した場合でも、各磁気抵抗素子基板11、12の張り出し部分115、125に対して、図1(a)に示すように、可撓性基板16、17を圧着などの方法で接続することができる。このようにして、磁気抵抗素子10を製造する。
【0030】
このように構成した磁気抵抗素子10では、第1のABZ相磁気抵抗パターン112と第2のABZ相磁気抵抗パターン122とをそれぞれ別の基板(第1の基板111および第2の基板121)上に形成し、これら2枚の基板を対向配置して磁気抵抗パターンを形成するため、高調波成分を打ち消して検出精度を向上するという観点から複数個の磁気抵抗体薄膜を使用した場合であっても、一枚の基板上に形成される磁気抵抗体薄膜同士の間では間隔を極端に狭める必要がない。従って、複数個の磁気抵抗体薄膜を使用する場合でも、製造工程に極端に高い精度を必要とせず、磁気抵抗体薄膜のレイアウトの自由度が高い。
【0031】
また、本形態では、第1の基板111および第2の基板121のうち、第2の基板121は透明基板からなるため、第2の基板121(透明基板)を介して第1の基板111の位置を確認できるので、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12とを高い位置精度で対向させることができる。また、第2の基板121の側からUV光を基板間に照射できるので、UV硬化接着剤で第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12とを貼り合せることができる。従って、熱硬化性樹脂で第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12とを貼り合せる場合と違って、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12に熱応力が発生せず、かつ、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12を加熱装置に搬送する必要もない。それ故、本形態によれば、磁気抵抗素子10を効率よく製造でき、かつ、信頼性の高い磁気抵抗素子10を製造できる。
【0032】
また、本形態では、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12のうち、第1の磁気抵抗素子基板11が磁気スケール3の側に配置されるので、第1の基板111としては、第2の基板121よりも薄いものが用いられている。従って、磁気抵抗パターンと磁気スケール2とのギャップを狭くできるので、感度が高い。しかも、第1の基板111は薄いが、セラミックグレーズ基板であるため、十分な強度を備えている。
【0033】
さらに、本形態において、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12は、他方の基板の縁から一部が張り出しているため、2枚の磁気抵抗素基板11、12を貼り合せて磁気抵抗素子10を構成した場合でも、各磁気抵抗基板11、12の張り出し部分115、125に可撓性基板16、17を接続することができ、各磁気抵抗素子基板11、12からの信号の入力などが可能である。
【0034】
また、第1のABZ相磁気抵抗パターン112および第2のABZ相磁気抵抗パターン122が第1の基板111と第2の基板121とに挟まれているので、外部からの衝撃等に強く、外部温度の急激な変化に対して敏感に反応せず、安定的な温度特性を得ることができる。
【0035】
なお、図2(c)では、第1のABZ相磁気抵抗パターン112と第2のABZ相磁気抵抗パターン122とを隙間なく密着させているが、両者の間に隙間が存在してもよいことを排除する趣旨ではない。また、磁気抵抗素子10を製造するにあたっては、単品サイズの第1の基板111および第2の基板121に磁気抵抗パターン112、122などを形成して第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12を製作した後、第1の磁気抵抗素子基板11と第2の磁気抵抗素子基板12とを貼り合せてもよいが、単品サイズの第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12を複数、切り出すことのできる大型基板の状態で磁気抵抗パターン112、122などを形成し、大型基板を所定サイズの短冊状の中型基板に切断した後、中型基板同士を貼り合わせ、しかる後に、所定サイズに切断するなどの方法を採用してもよい。
【0036】
[磁気センサ装置1の一例]
(全体構成)
図3は、本発明を適用した磁気抵抗素子10を、図1(b)に示すような磁気センサ装置1(磁気式リニアエンコーダ)に用いた場合の説明図である。図4(a)、(b)は、図3に示す磁気センサ装置1に用いたヘッド5を、感磁面を備えた底面の側からみた説明図である。図5(a)、(b)は、図3に示す磁気センサ装置1におけるヘッド5と磁気スケール3との位置関係を示す説明図、およびヘッド5の右側面図である。図6(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、本形態の磁気センサ装置1のヘッド5に搭載される磁気抵抗素子10の説明図、磁気抵抗素子10を回路基板に接続した状態を示す説明図、本形態の磁気センサ装置1のヘッド5に搭載された回路のブロック図、および従来のヘッド5に搭載される回路のブロック図である。なお、以下の説明において、直交する3方向のうち、磁気スケール3の幅方向をX方向、磁気スケール3の長さ方向をY方向、高さ方向をZ方向とする。
【0037】
図3、図4(a)、(b)、および図5(a)、(b)において、本形態の磁気センサ装置1は、磁気式リニアエンコーダであり、上記形態に係る磁気抵抗素子10によって底面に感磁面50が形成されたヘッド5と、このヘッド5の感磁面50に対向する磁気スケール3とを有している。磁気スケール3には、A相、B相、Z相などの着磁が施されており、長さ方向においてN極とS極が交互に配列されている。このような磁気センサ装置1では、移動テーブルなどの可動体の側に磁気スケール3を直線的に配置する一方、磁気スケール3に対向するようにヘッド5を配置しておき、ヘッド5からの出力信号に基づいて、移動テーブルの移動位置や移動速度などを検出する。
【0038】
ヘッド5は、略直方体形状の枡状のアルミニウムダイカスト品からなるセンサホルダ6と、このセンサホルダ6の右側開口を覆う矩形のカバー61と、センサホルダ6内から引き出されたケーブル7とを備えている。センサホルダ6には、その背面にケーブル挿入穴67が形成され、正面にもケーブル挿入穴67として利用可能な穴が形成されている。このため、センサホルダ6のいずれの側からケーブル7を引き出す場合でも、共通のセンサホルダ6を用いることができる。
【0039】
センサホルダ6において、磁気スケール3と対向する底面55には、開口57が形成されており、この開口57に磁気抵抗素子10を配置することにより感磁部50が構成される。また、センサホルダ6の底面55では、感磁面50が形成されている底面55の中央領域がその周囲よりも0.2mm〜1.0mmだけ突き出た平坦な基準面56になっており、この基準面56は、底面55全体の面積の約1/2倍程度である。ここで、磁気抵抗素子10の外側の面(感磁面50)は、センサホルダ6の基準面56と同一の平面上に位置しており、基準面56は、底面55での感磁面50の高さ位置を示している。
【0040】
このようなセンサホルダ6内に対しては、図6(a)に示すように、一対の可撓性基板16、17が圧着などの方法で接続された磁気抵抗素子10が配置される。磁気抵抗素子10は、図2を参照して説明したように、セラミックグレーズ基板からなる第1の基板上にABZ相磁気抵抗パターンが形成された第1の磁気抵抗素子基板11と、透明なガラス基板からなる第2の基板上にABZ相磁気抵抗パターンが形成された第2の磁気抵抗素子基板12とを互いの抵抗パターン形成面を対向させ、かつ、面方向にずらした状態でUV硬化接着剤によって貼り合せたものであり、各磁気抵抗素子基板11、12の張り出し領域115、125に可撓性基板16、17がそれぞれ接続されている。ここで、一対の可撓性基板16、17は各々、磁気抵抗素子10からY方向(磁気スケール3が延びている方向/移動方向)に沿って反対側に向けて延びている。また、一対の可撓性基板16、17は、磁気抵抗素子10に接続した状態で、回路基板19との接続端子161、171が互いに表裏反対側を向いているが、一対の可撓性基板16、17は、図6(b)に示すように、一方の可撓性基板16が回路基板19の表面側に接続され、他方の可撓性基板17が回路基板19の裏面側に接続されている。従って、一対の可撓性基板16、17では、互い同一構造の可撓性基板を表裏反対にして用いることができる。
【0041】
(磁気抵抗素子10の固定構造)
図7〜図9を参照して、磁気センサ装置1の製造方法を説明しながら、センサホルダ6に対する磁気抵抗素子10の固定構造を説明する。
【0042】
図7(a)、(b)は、本形態の磁気センサ装置1のヘッド5に用いたセンサホルダの内部構造を示す説明図である。図8(a)、(b)はそれぞれ、本形態の磁気センサ装置1において、センサホルダ6に磁気抵抗素子10を位置決めした状態を示す斜視図、およびセンサホルダ6に磁気抵抗素子10を固定し終えた状態の斜視図である。図9(a)、(b)はそれぞれ、本形態の磁気センサ装置1において、センサホルダ6に磁気抵抗素子10を接着固定した状態を平面的に示す説明図、およびこの状態を磁気抵抗素子の側からみたときの説明図である。
【0043】
図7(a)、(b)、図8(a)、および図9(a)、(b)に示すように、回路基板19に可撓性基板16、17を介して接続された磁気抵抗素子10をセンサホルダ6内に配置するために、センサホルダ6には開口57が形成されているとともに、センサホルダ6内には、開口57から奥まった位置には開口57と対向する素子支持部65が形成されている。また、センサホルダ6には、素子支持部65の両側に可撓性基板16、17を内側に引き出すための隙間62、63が形成されている。
【0044】
従って、ヘッド5を組み立てる際には、まず、一対の可撓性基板16、17が接続された磁気抵抗素子10を、開口57から外側に露出するように配置するとともに、一対の可撓性基板16、17を隙間62、63からセンサホルダ6内に引き込む。
【0045】
次に、図9(a)、(b)に示すように、磁気抵抗素子10の裏面側において、磁気抵抗素子10と素子支持部65とに跨るように光硬化性の接着剤911(第1の接着剤)をスポット状に例えば、4箇所に塗布した後、光を照射して硬化させ、磁気抵抗素子10を仮固定する。ここで、接着剤911は、比較的硬度が高いUV硬化性の接着剤であり、その硬度は、ショアD60からショアD90までの範囲にある。
【0046】
次に、図9(a)に示すように、磁気抵抗素子10の裏面側と素子支持部65との間に熱硬化性の接着剤912(第1の接着剤)を塗布した後、硬化させて、磁気抵抗素子10の裏面側を素子支持部65に第1の樹脂で固定する。この状態で、磁気抵抗素子10の外側の面(感磁面50)は、開口57で露出するとともに、センサホルダ6の基準面56と同一の平面を形成することになる。ここで、接着剤912は、ガラス等の難接着材に対して密着強度が高く、比較的硬度が高いエポキシ系などの熱硬化性接着剤であり、その硬度は、ショアD60からショアD90までの範囲にある。
【0047】
なお、本形態では、第1の接着剤として、2種類の接着剤911、912を用いたが、1種類の接着剤のみで磁気抵抗素子10をセンサホルダ6に固定してもよい。
【0048】
次に、図8(b)および図9(a)に示すように、開口57において磁気抵抗素子10の周りに接着剤92(第2の接着剤)を充填し、開口57において磁気抵抗素子10とセンサホルダ6との間に形成されていた隙間を接着剤92で埋める。その際、磁気抵抗素子10の裏面側にも接着剤92を塗布して磁気抵抗素子10の裏面側をセンサホルダ6に固定する。その結果、可撓性基板16、17と磁気抵抗素子10との実装部分が接着剤92で覆われた状態で、磁気抵抗素子10がセンサホルダ6に固定されることになる。この状態で、接着剤92の表面は、磁気抵抗素子10の感磁面50およびセンサホルダ6の基準面56と同一の平面上に位置する。ここで、接着剤92は、硬度がショアA30からショアA70までの範囲のゴム状の軟質樹脂であり、本形態では、接着剤92として、硬度が約ショアA50であるゴム状の軟質樹脂が用いられている。
【0049】
次に、可撓性基板16、17の途中位置を直角に折り曲げて、一方の可撓性基板16を回路基板19の表面側に接続する一方、他方の可撓性基板17を回路基板19の裏面側に接続する。そして、回路基板19をセンサホルダ6内部の左側面内壁に沿うように配置すると、磁気抵抗素子10および回路基板19は、互いに直交した状態でセンサホルダ6内に収納される。次に、ケーブル7をケーブル挿入穴67からセンサホルダ6内に挿入して、ケーブル7を回路基板19に接続した後、センサホルダ6の開口を覆うようにカバー61を取り付ける。このようにしてヘッド5が完成する。
【0050】
ここで、回路基板19には、図6(c)に示すように、センサ回路191、およびこのセンサ回路191から出力された信号に温度補正などを施す付加回路192の双方が構成されている。このような付加回路192は、従来、図6(d)に示すように、ヘッドとは別体のケース内に構成されていたものであるが、本形態では、この付加回路192も回路基板19に構成し、ヘッド5に内蔵させてある。従って、本形態によれば、センサ回路191と付加回路192とを回路基板19上で配線できるため、アナログ信号の状態で伝送される距離が短いので、ノイズの侵入や波形の歪みなどの発生を防止できる。
【0051】
但し、回路基板19にセンサ回路191および付加回路192の双方を構成すると、回路基板19は、従来の回路基板よりも大きく、それ故、ヘッド5自身も従来のヘッドに比較してやや大きくなる。しかるに本形態では、回路基板19をセンサホルダ6内部において左側面内壁に沿うように直立姿勢で配置してあるので、ヘッド5が大型化しているといっても、感磁面50が配置される底面55の面積は狭く、かつ、その幅寸法については従来よりも狭くしてある。
【0052】
このように構成したヘッド5については、感磁面50が形成された底面55を磁気スケール3に対して正確に対向させる必要がある。そこで、本形態では、図3に示すようにヘッド5と磁気スケール3とを配置する際、ヘッド5の底面55のうち、基準面56を磁気スケール3の上面に接触させてヘッド5の基準姿勢を決めた後、そのまま、ヘッド5を磁気スケール3から所定の寸法だけ浮かせ、ヘッド5の位置および姿勢を決める。その結果、基準面56を基準に感磁面50の位置および姿勢が決まることになる。
【0053】
ここで、ヘッド5の底面55では、感磁面50を含む中央領域が基準面56として、その周辺領域よりも0.2mm〜1.0mmだけ突き出た面になっており、この基準面56の面積は、底面55全体の面積の約1/2しかなく狭い。従って、アルミニウムダイカストによってセンサホルダ6を製作する際、この基準面56だけのように狭い領域であれば高い平面精度を確保することができる。また、アルミニウムダイカストによってセンサホルダ6を製作した後、この基準面56のみを機械加工して、基準面56に高い平面精度を確保することも容易である。すなわち、ヘッド5の底面55のうち、感磁面50が形成されている底面中央領域のみが基準面56になっているので、切削加工などを施す領域が狭く、切削加工時間が短くて済む。それ故、本形態によれば、ヘッド5の底面55を磁気スケール3の上面に接触させて基準姿勢を決める際、平面精度の高い基準面56のみが磁気スケール3の上面に接触するので、基準面56全体が磁気スケール3に確実に密接し、ヘッド5の姿勢を正確に出すことができる。従って、ヘッド5をこの姿勢のまま所定の寸法だけ浮かせれば、感磁面50と磁気スケール3との隙間寸法や姿勢についても高い精度で設定することができるので、感度の高い磁気センサ装置1を構成できる。
【0054】
さらに、感磁面50(基準面56)がセンサホルダ6の底面55から突き出た位置にあるため、ヘッド5を磁気スケール3に対向させた状態で、ヘッド5と磁気スケール3との隙間を覗き込んで、感磁面50の状態を確認することもできる。
【0055】
また、本形態のように、回路基板19と磁気抵抗素子10とを直交する向きに配置することにより、底面55の面積を狭くしておけば、例えば、感磁面50を含む中央領域に基準面56を突部として形成しなくても、底面55全体を基準面56にして磁気スケール3の上面に確実に接触させることができる。よって、ヘッド5を磁気スケール3から浮かせた状態において、ヘッド5の姿勢に高い精度を得ることができるので、感度の高い磁気センサ装置1を実現できる。
【0056】
(本形態の効果)
以上説明したように、本形態の磁気抵抗素子10では、第1の磁気抵抗素子基板11および第2の磁気抵抗素子基板12を貼り合せるとともに、それぞれの張り出し領域115、125に可撓性基板16、17が反対側に延びるように接続されている。しかも、可撓性基板16、17は、磁気抵抗素子10から磁気スケール3の長さ方向(Y方向)に延びているので、センサホルダ6の底面55の幅寸法が狭い場合でも、接着剤92によって、可撓性基板16、17も含めてセンサホルダ6に接着固定することができる。従って、磁気抵抗素子10を両側で支持することができるので、耐振動性能に優れている。
【0057】
また、磁気抵抗素子10の周りにおいて開口57との隙間を接着剤92で完全に封止しているので、回路基板19に構成された回路への水分の侵入を防止できる。しかも、本形態では、接着剤92として密着性に優れたゴム状の軟質樹脂を用いているため、本形態の磁気センサ装置1は、耐湿性能に優れており、信頼性が高い。
【0058】
さらに、磁気抵抗素子10は、応力によって特性が変動しやすいが、本形態では、接着剤92としてゴム状の軟質樹脂を用いているため、温度変化によって接着剤92が収縮しても、接着剤92と磁気抵抗素子10はある程度柔軟性をもって密着している。従って、磁気抵抗素子10に大きな応力が加わらない。それ故、本形態の磁気センサ装置1は、検出精度が高く、信頼性に優れている。
【0059】
特に本形態の磁気センサ装置1では、2枚の薄い磁気抵抗素子基板11、12を貼り合わせた構造になっているため、強度が低いが、接着剤92として、ゴム状の軟質樹脂を用いているので、接着剤92の応力によって、磁気抵抗素子基板11、12が割れるということもない。
【0060】
さらにまた、磁気抵抗素子10は、接着強度の高い接着剤911、912でもセンサホルダ6に接着固定されているので、磁気抵抗素子10は、センサホルダ6に確実に接着固定された状態にあり、位置ずれなどの問題が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)、(b)、(c)はそれぞれ、本発明を適用した磁気抵抗素子を備えたヘッドと磁気スケールとの位置関係を示す説明図、本発明を適用した磁気抵抗素子を用いた磁気式リニアエンコーダの説明図、および本発明を適用した磁気抵抗素子を用いたロータリエンコーダの説明図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明を適用した磁気抵抗素子の製造方法を示す説明図である。
【図3】本発明を適用した磁気抵抗素子を、図1(b)に示すような磁気センサ装置(磁気式リニアエンコーダ)に用いた場合の説明図である。
【図4】(a)、(b)は、図3に示す磁気センサ装置に用いたヘッドを、感磁面を備えた底面の側からみた説明図である。
【図5】(a)、(b)は、図3に示す磁気センサ装置におけるヘッドと磁気スケールとの位置関係を示す説明図、およびヘッドの右側面図である。
【図6】(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、図3に示す磁気センサ装置のヘッドに搭載される磁気抵抗素子の説明図、磁気抵抗素子を回路基板に接続した状態を示す説明図、本発明の磁気センサ装置のヘッドに搭載された回路のブロック図、および従来のヘッドに搭載される回路のブロック図である。
【図7】(a)、(b)は、図3に示す磁気センサ装置のヘッドに用いたセンサホルダの内部構造を示す説明図である。
【図8】(a)、(b)はそれぞれ、図3に示す磁気センサ装置において、センサホルダに磁気抵抗素子を位置決めした状態を示す斜視図、およびセンサホルダに磁気抵抗素子を固定し終えた状態の斜視図である。
【図9】(a)、(b)はそれぞれ、図3に示す磁気センサ装置において、センサホルダに磁気抵抗素子を接着固定した状態を平面的に示す説明図、およびこの状態を磁気抵抗素子の側からみたときの説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 磁気センサ装置
2 可動体
3 磁気スケール
5 ヘッド
6 センサホルダ
10 磁気抵抗素子
11 第1の磁気抵抗素子基板
12 第2の磁気抵抗素子基板
16、17 可撓性基板
50 感磁面
56 基準面
57 開口
65 素子支持部
92 接着剤(第2の接着剤)
111 第1の基板
121 第2の基板
911、912 接着剤(第1の接着剤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感磁面を構成する磁気抵抗素子と、該磁気抵抗素子を保持するセンサホルダとを有する磁気センサ装置において、
前記磁気抵抗素子は、前記感磁面を露出させた状態で前記センサホルダに保持され、
前記磁気抵抗素子と前記センサホルダとの間には、ゴム状の軟質樹脂が充填されていることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記磁気抵抗素子は、前記センサホルダに形成された開口で前記感磁面が露出するように配置され、
前記感磁面の周りにおいて前記磁気抵抗素子と前記センサホルダとの隙間には、前記ゴム状の軟質樹脂が充填されていることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項3】
請求項2において、前記磁気抵抗素子の前記感磁面、前記センサホルダの前記開口周囲の表面、および前記ゴム状の軟質樹脂の表面は、同一平面上に位置していることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記ゴム状の軟質樹脂は、接着剤であることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記ゴム状の軟質樹脂の硬度は、ショアA30からショアA70までの範囲にあることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項6】
請求項5において、前記ゴム状の軟質樹脂の硬度は、約ショアA50であることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記磁気抵抗素子では、第1の基板上に磁気抵抗パターンが形成された第1の磁気抵抗素子基板と、第2の基板上に磁気抵抗パターンが形成された第2の磁気抵抗素子基板とが、磁気抵抗パターンが形成されている側の面同士が対向するように配置されているとともに、前記第1の磁気抵抗素子基板および前記第2の磁気抵抗素子基板の各々に可撓性基板が接続されており、
前記磁気抵抗素子は、前記センサホルダに第1の接着剤で固定されているとともに、前記磁気抵抗素子と前記センサホルダとの間には、前記ゴム状の軟質樹脂からなる第2の接着剤が充填されていることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項8】
請求項7において、前記第1の基板は、セラミックグレーズ基板であり、前記第2の基板は、透明基板であることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項9】
請求項8において、前記磁気抵抗素子は、前記第1の基板が前記第2の基板よりも薄く、前記第1の基板が前記感磁面として前記センサホルダから露出していることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれかにおいて、前記第1の接着剤の硬度は、ショアD60からショアD90までの範囲にあることを特徴とする磁気センサ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−84410(P2006−84410A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271562(P2004−271562)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】