説明

磁気センサ

【課題】簡易な構造でありながら磁気記録媒体に記録された情報を安定に検出することのできる磁気センサを提供する。
【解決手段】磁気ギャップを介する閉磁路を形成したコアと、このコアに巻装されて前記磁気ギャップに加わる磁界を検出する検出コイルとを備え、特に前記コアの前記磁気ギャップに、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加されて前記磁気ギャップに交流磁界を発生させる非磁性金属体を埋め込んで設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出出力(出力電圧レベル)を向上させた簡易な構造の磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
テープやシート等の媒体に磁気記録された情報の読み出しは、磁気ヘッド(磁気センサ)を用いて前記媒体の磁気記録面を走査し、記録情報を示す外部磁化の変化を検出することによって行われる。この種の磁気センサは、基本的には微小幅の空隙からなる磁気ギャップを有し、この磁気ギャップを介する閉磁路を形成したコアに検出コイルを巻装した構造を有し、前記磁気ギャップに加わる磁界により前記検出コイルに生起される電圧を、その検出出力として求めるように構成される。
【0003】
ちなみに磁気センサは、媒体に対する相対的な移動に伴って前記磁気ギャップに加わる外部磁化の変化を前記検出コイルにて磁気量として捉える微分型磁気センサと、前記検出コイルに加えて前記コアに励磁コイルを巻装した励磁型磁気センサとに大別される。この励磁型磁気センサは、前記励磁コイルを用いて磁気ギャップ間に交流磁界を発生させることで、磁気ギャップのインピーダンスを前記媒体の外部磁化(磁気量)に応じて変化させ、これを前記検出コイルを介して検出するものである。従ってこの励磁型磁気センサにおいては、基本的に磁気ギャップと媒体とを相対的に移動させる必要はない。
【0004】
尚、ハードディスク装置等に組み込まれる、磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いた薄膜磁気センサ(磁気ヘッド)においては、そのコアに一定の高周波キャリア電流を流すと共に直流バイアス磁界を加えることで、磁気ギャップに加わる磁界の変化を高感度に検出することも提唱されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−30214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで前述した微分型磁気センサにおいては、必ず磁気ギャップと磁気記録媒体とを相対的に移動させることが必要である。具体的には、磁気センサにて磁気記録媒体の情報記録面をスキャン(トレース)することが必要である。しかもスキャン(トレース)速度によって、磁気センサの検出出力(出力電圧レベル)が変化すると言う問題がある。この点、前述した励磁型磁気センサであれば、磁気記録媒体に対するスキャン(トレース)が不要である。
【0007】
しかしながら励磁型磁気センサは、一般的には磁気記録媒体に対峙させて用いられる磁気ギャップを形成した主コアとは別に参照用の磁気ギャップを形成した副コアを備え、これらの各コアの磁気ギャップに交流磁界をそれぞれ発生させながら、主コアと副コアとにそれぞれ流れる磁束の差として前記磁気記録媒体から受けた磁束の大きさ(磁気量)を検出するように構成される。これ故、励磁型磁気センサは差動型磁気センサとも称され、検出コイルに加えて励磁コイルが必要なことを含めてその構造が複雑であり、またその製作コストが嵩むと言う問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、簡易な構造でありながら媒体に磁気記録された情報を安定に検出することのできる磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するべく本発明に係る磁気センサは、磁気ギャップを介する閉磁路を形成したコアと、このコアに巻装されて前記磁気ギャップに加わる磁界を検出する検出コイルとを備え、
特に前記コアの前記磁気ギャップに、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加されて前記磁気ギャップに交流磁界を発生させる非磁性金属体を設けたことを特徴としている。
【0010】
また本発明に係る別の磁気センサは、磁気ギャップを介する閉磁路を形成し、磁気ギャップ位置を揃えて設けられた複数のコアと、前記各コアにそれぞれ巻装されて前記各磁気ギャップに加わる磁界を個別に検出する複数の検出コイルとを備え、
特に前記複数のコアにおける前記各磁気ギャップに跨って、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加されて前記各磁気ギャップにそれぞれ交流磁界を発生させる非磁性金属体を設けたことを特徴としている。
【0011】
ちなみに前記非磁性金属体は、前記磁気ギャップに埋設されるものであって、交流電源によりヘッド幅の方向に通電されるものである。また前記非磁性金属体に印加される交流は、例えば200〜300kHzの高周波方形波電圧または高周波方形波電流からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る磁気センサは、検出コイルを巻装したコアの磁気ギャップに非磁性金属体を設けただけの簡易な構成であり、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加される非磁性金属体により前記磁気ギャップに局所的に交流磁界を発生させるので、微分型磁気センサと略同等な構造を呈しながら、差動型磁気センサと略同様に作用して外部磁化(磁気量)に応じた検出出力を得ることができる。即ち、本発明に係る磁気センサにおいては、前記非磁性金属体により磁気ギャップに交流磁界を発生させるので、磁気ギャップ自体に励磁コイルの役割を持たせることができる。従って磁気記録媒体に対する相対的な移動を不要とし、しかも磁気記録媒体に記録された情報を安定に読み出すことのできる、簡易でしかも安価に製作可能な磁気センサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気センサの概略構成を示す斜視図。
【図2】本発明に係る磁気センサの基本構造を示す図。
【図3】磁気記録媒体に記録された情報と、本発明に係る磁気センサにより上記記録情報を読み取った検出出力の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る磁気センサについて説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る磁気センサの概略構成を示す斜視図である。この図1に示す磁気センサは、複数(5個)の磁気ヘッド単体1を並列に一体形成したマルチチャネル型のものであって、各磁気センサ単体1は、基本的には所定幅の空隙からなる磁気ギャップGを形成し、この磁気ギャップGを介して閉磁路を形成したコア2と、このコア2に巻装された検出コイル3とを備えて構成される。尚、図1では各コア2毎に、2つの検出コイル3a,3bを直列接続して設けた例を示している。
【0015】
ちなみに各磁気センサ単体1は、例えばチャンネル幅(ヘッド幅)略15mm、ギャップ幅(空隙長)0.3mm、ギャップ深さ0.5mmの磁気ギャップGを形成したリング状のMn-Zn系またはNi-Zn系フェライト製のコア2に、2つの検出コイル3(3a,3b)を巻回して構成される。この検出コイル3(3a,3b)は、例えば線径0.08mmの絶縁被覆導線を前記コア2に200ターンに亘って巻回した略1.4mHのものからなる。そしてこれらの5個の磁気ヘッド単体1は、磁気ギャップGの位置を揃えて並列に設けられ、各コア2間に設けられた非磁性層(例えばガラス)4を介して積層されて一体化されている。尚、複数のコア2を、一体形成されたバルク品として実現することも可能である。
【0016】
基本的には上述した構成を有する磁気センサにおいて、本発明が特徴とするところは磁気ギャップGの位置を揃えて並列に設けられて積層一体化された複数の磁気センサ単体1における各磁気ギャップGに跨って非磁性金属体5を設けたことを特徴としている。この非磁性金属体5は、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加されて前記各磁気ギャップGにそれぞれ局部的に交流磁界を発生させる役割を担うもので、例えばリン青銅やアルミニウムからなる。具体的には非磁性金属体5は、前記各磁気ギャップGに一体に埋設されるものであって、厚み0.3mm、幅0.5mm、長さ略80mmの板状体からなる。
【0017】
尚、検出コイル3を巻装した1つの磁気センサ単体1だけで磁気センサを構成する場合にも、同様にしてその磁気ギャップGに埋め込んで、例えばリン青銅からなる非磁性金属体5が設けられる。
このようにして磁気ギャップGに埋め込んで設けられる非磁性金属体5は、その両端間に接続された交流電源6から、例えば200〜300kHzの高周波方形波電圧(例えば2VP−P)が印加されて駆動され、該非磁性金属体5の周りに、特に前記各磁気ギャップG内に局部的に上記周波数の交流磁界を生起する。特に交流電源6は、複数の磁気ギャップGに跨って設けられた非磁性金属体5の両端間に交流電圧を印加し、ヘッド幅方向に交流電流を流すことで上記各磁気ギャップGのそれぞれに一括して交流磁界を生起するものとなっている。
【0018】
尚、非磁性金属体5に印加する交流電圧として、正弦波電圧や三角波電圧を用いても良いことは言うまでもない。また上述した交流電圧に代えて、前記非磁性金属体5の両端間に高周波交流電流を印加して前記各磁気ギャップGのそれぞれに交流磁界を生起することも勿論可能である。更に前記非磁性金属体5を複数の磁気ギャップG間に跨って設けることに代えて個々の磁気ギャップG毎に設け、これらの複数の非磁性金属体5にそれぞれ個別に交流電圧または交流電流を印加することも可能である。この場合、個々の非磁性金属体5に印加する交流電圧または交流電流を互いに異ならせることも勿論可能である。
【0019】
このような構造の磁気センサによれば、図2に示すように磁気センサにおける磁気ギャップGを磁気記録媒体7に対峙させたとき、前記非磁性金属体5により磁気ギャップGに生起された交流磁界の大きさが前記磁気記録媒体7から受ける直流磁界によって変化し、これに伴って前記コア2内を通る磁束量が変化する。しかも前記磁気記録媒体7から受ける直流磁界の大きさ(磁気量)に応じて上記交流磁界の変化量が変化する。換言すれば磁気ギャップGに交流磁界が生起されているので、前述した差動型磁気センサと同様に磁気記録媒体7から受ける外部磁界の大きさ(磁気量)に応じて検出コイル3に生起される電圧(検出出力)のレベルが変化する。しかも磁気記録媒体7に対して磁気センサをスキャン(トレース)しなくても、磁気記録媒体7から受ける外部磁界の大きさ(磁気量)に応じた検出出力を安定に得ることができる。
【0020】
特に本構造の磁気センサによれば、磁気ギャップGに埋め込んで設けた非磁性金属体5により該磁気ギャップGに直接的に交流磁界を発生させているので、従来の励磁型磁気センサのようにコア2に巻回した励磁コイルにより生起された交流磁束による検出コイル3への影響を配慮する必要がない。従って従来の励磁型磁気センサのように差動型の構成とする必要がない上、励磁コイル自体も不要なので、その構成の大幅な簡素化を図ると共に、製造コストの大幅な低減を図ることが可能となる。
【0021】
換言すれば本発明に係る磁気センサは、従来の微分型磁気センサにおける磁気ギャップGに、該磁気ギャップGに局部的に、しかも直接的に交流磁界を生起する為の非磁性金属体5を埋め込むと言う簡易な構成として実現することができる。更にはコア2に励磁コイルを巻装すると言う煩わしい作業を要することなく、簡易に、しかも効率的に磁気センサを製作することができる。従って微分型磁気センサと略同様な簡易な構造でありながら、励磁型磁気センサのように安定した検出出力を得ることができ、その実用的利点は絶大である。
【0022】
ちなみに本発明者等の実験によれば、例えば図3(a)に示すように磁気記録媒体7に記録した3mm幅の磁気ストライプを3mm間隔で形成した磁気パターンA、2mm幅の磁気ストライプを2mm間隔で形成した磁気パターンB、1mm幅の磁気ストライプを1mm間隔で形成した磁気パターンC、0.5mm幅の磁気ストライプを0.5mm間隔で形成した磁気パターンDを、本磁気センサを移動させながら順次検出したとき、図3(b)に示されるように略300mVP−Pの出力電圧波形を安定に得ることができた。しかも磁気記録媒体7に対する磁気センサの移動速度に拘わることなく、磁気ストライプ位置毎に出力電圧が大きく変化する検出出力を得ることが確認できた。
【0023】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば磁気センサ単体1の大きさや磁気ギャップGの大きさは、磁気センサに要求される検出仕様に応じて設定すれば良いものである。またマルチチャネル型の磁気センサを構築した場合には、その中の1つを温度補償用として、或いは交流磁界に起因するオフセットキャンセル用として利用することも可能である。更には非磁性金属体5に印加する交流電圧または交流電流の周波数についても、検出仕様等に応じて設定すれば十分であり、複数の磁気センサを並べて用いるような場合には、前述したように各磁気センサ毎に前記非磁性金属体5に印加する交流電圧の周波数を異ならせることで、磁気センサ間の干渉を防ぐことも可能である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 磁気センサ単体
2 コア
3 検出コイル
4 非磁性層(例えばガラス)
5 非磁性金属体(例えばリン青銅)
6 交流電源
7 磁気記録媒体
G 磁気ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ギャップを介する閉磁路を形成したコアと、
このコアに巻装されて前記磁気ギャップに加わる磁界を検出する検出コイルと、
前記コアの前記磁気ギャップに設けられ、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加されて前記磁気ギャップに交流磁界を発生させる非磁性金属体と
を具備したことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
磁気ギャップを介する閉磁路を形成し、磁気ギャップ位置を揃えて設けられた複数のコアと、
前記各コアにそれぞれ巻装されて前記各磁気ギャップに加わる磁界を個別に検出する複数の検出コイルと、
前記複数のコアにおける前記各磁気ギャップに跨って設けられ、所定周波数の交流電圧または交流電流が印加されて前記各磁気ギャップにそれぞれ交流磁界を発生させる非磁性金属体と
を具備したことを特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
前記非磁性金属体は、前記磁気ギャップに埋設されるものであって、交流電源によりヘッド幅の方向に通電されるものである請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記非磁性金属体に印加される交流電圧または交流電流は、200〜300kHzの高周波方形波電圧または高周波方形波電流からなる請求項1または2に記載の磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−277643(P2010−277643A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129046(P2009−129046)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】