磁気ダンパ
【課題】 磁気ダンパの小型化を図る。
【解決手段】シリンダ10が筒状の導体11とその外周面を被覆するヨーク12とからなる。また、ピストン20を構成する隣接する永久磁石21間にも、好ましくは、軸方向端部に位置する永久磁石21の外側端部にもヨーク22が設けられた構成である。従って、永久磁石21の磁束は、永久磁石21間のヨーク22にその多くが集束し、この集束した多くの磁束がシリンダ10を構成する導体11を貫く。多くの磁束が導体11を貫くが、シリンダ10の外周面がヨーク12により被覆されているため、シリンダ10の外方に流れる磁束が極めて少ない磁束集束型の磁気回路となっている。従って、希土類磁石を増加させなくても、あるいは、シリンダやピストンを大型化しなくても、高い減衰力が得られる。
【解決手段】シリンダ10が筒状の導体11とその外周面を被覆するヨーク12とからなる。また、ピストン20を構成する隣接する永久磁石21間にも、好ましくは、軸方向端部に位置する永久磁石21の外側端部にもヨーク22が設けられた構成である。従って、永久磁石21の磁束は、永久磁石21間のヨーク22にその多くが集束し、この集束した多くの磁束がシリンダ10を構成する導体11を貫く。多くの磁束が導体11を貫くが、シリンダ10の外周面がヨーク12により被覆されているため、シリンダ10の外方に流れる磁束が極めて少ない磁束集束型の磁気回路となっている。従って、希土類磁石を増加させなくても、あるいは、シリンダやピストンを大型化しなくても、高い減衰力が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のシートサスペンション等において使用される磁気ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
シートサスペンションの減衰要素としては一般的に摩擦ダンパやオイルダンパが用いられている。しかし、これらのダンパは、シートサスペンションの共振周波数の上昇をもたらし、腹部共振域の8Hz前後の振動加速度の低減が難しい。一方、上下方向振動入力に対して共振周波数の低減が可能で、8Hz前後の伝達特性の改善が見込まれるエアサスペンションは120mm以上の上下方向のストロークが必要で、大型化、重量増を招来する。また、本発明者らは、磁気ダンパと磁気ばねを組み合わせて速度依存型動吸振器として用いることで、共振周波数の低減と共振峰及び高周波ゲインの低減効果が得られ、フォークリフト等において有効であることを報告している(非特許文献1〜3参照)。また、本出願人は、特許文献1〜3に示したような磁気ダンパも提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−106365号公報
【特許文献2】特開2005−344810号公報
【特許文献3】特開2000−193025号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤田悦則,中川紀壽,小倉由美,小島重行,磁石ばねを利用した組合せ非線形ばねに関する実験的研究,日本機械学会論文集C編, Vol.66,No.645,pp.1445-1452,2000
【非特許文献2】藤田悦則,中川紀壽,小倉由美,小島重行:救急車用防振架台の乗り心地と設計,日本設計工学会誌, Vol.35,No.12, pp.478-486, 2000
【非特許文献3】藤田悦則・中川紀壽・小倉由美・大下裕樹・杉本栄治・小島重行,磁石ばねを利用した振動絶縁機構に関する実験的研究,日本設計工学会誌,Vol.36, No.3, pp.126-135, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の磁気ダンパは、減衰力を強くするためには、希土類磁石の使用量を増やしたり、ダンパ自体を大型化したりするなど、コスト及び重量等の点で問題があった。また、ダンパは回転型と往復型の2つのタイプがあるが、一つのダンパによりこれらの機能を備えたものはなかった。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、永久磁石の配列を工夫することにより、磁気ダンパの減衰力を高め、小型化、低コスト化を図ることができ、しかも、回転型及び往復型の2つの機能を備えた磁気ダンパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ダンパは、シリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能であると共に回転可能に挿入されたピストンとを備えてなる磁気ダンパであって、前記シリンダは、筒状の導体と、前記導体の外周面を被覆するヨークとを備えてなり、前記ピストンは、前記シリンダの軸方向に沿って同極同士を対向させて配置した複数の永久磁石と、隣接する前記永久磁石間に配設されるヨークとを備えてなることを特徴とする。
【0008】
前記ピストンを構成する複数の永久磁石のうち、前記シリンダの軸方向各端部に配置された永久磁石の外側端部にもヨークが設けられている好ましい。
【0009】
前記ピストンを構成する永久磁石及びヨークは、ピストンロッドに支持されてなり、前記ピストンロッドと前記シリンダに、前記ピストンを前記シリンダに対して往復動及び回転動作させる動作機構との連結部が設けられている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、 シリンダが筒状の導体とその外周面を被覆するヨークとからなる。また、ピストンを構成する隣接する永久磁石間にも、好ましくは、軸方向端部に位置する永久磁石の外側端部にもヨークが設けられた構成である。従って、永久磁石の磁束は、永久磁石間のヨークにその多くが集束し、この集束した多くの磁束がシリンダを構成する導体を貫く。多くの磁束が導体を貫くが、シリンダの外周面がヨークにより被覆されているため、シリンダの外方に流れる磁束が極めて少ない磁束集束型の磁気回路となっている。従って、希土類磁石の使用量を増加させなくても、あるいは、シリンダやピストンを大型化しなくても、高い減衰力が得られる。また、筒状の導体からなるシリンダにより永久磁石を取り囲んでいるため、軸方向に往復動する場合及びラジアル方向に回転する場合のいずれの場合でも減衰力が働き、両方の動きが必要な機器に組み込んだ場合の機器の小型化、構造の簡素化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態にかかる磁気ダンパを示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1の断面図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、磁気ダンパのバリエーションを示した図である。
【図4】図4(a)〜(d)は、磁気ダンパのさらなるバリエーションを示した図である。
【図5】図5は、解析に用いた吸引系磁気回路モデルを示した図である。
【図6】図6は、吸引系磁気回路のヨークのB−H曲線を示した図である。
【図7】図7は、吸引系磁気回路の磁束分布を示した図である。
【図8】図8は、吸引系磁気回路の電磁力解析結果を示した図である。
【図9】図9(a)〜(d)は、反発系磁気回路モデルを示した図である。
【図10】図10(a)〜(d)は、反発系磁気回路の磁束分布を示した図である。
【図11】図11は、各反発系磁気回路の電磁力の解析結果を示した図である。
【図12】図12は、各反発系磁気回路の荷重−速度特性を示した図である。
【図13】図13は、各反発系磁気回路の減衰係数を示した図である。
【図14】図14は、振動伝達率の解析値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係る磁気ダンパ1の分解斜視図を示した図であり、図2は、その断面図である。
【0013】
これらの図に示したように、本実施形態の磁気ダンパ1は、シリンダ10、ピストン20、ピストンロッド30を有して構成される。シリンダ10は、筒状好ましくは円筒状に形成された銅等の導体11と、その外周面を被覆する筒状好ましくは円筒状の鉄製のヨーク(シリンダ側ヨーク)12との2重筒構造で形成されている。
【0014】
ピストン20は、本実施形態では環状の複数の永久磁石21と、環状の鉄製のヨーク(ピストン側ヨーク)22とを有して構成される。永久磁石21及びピストン側ヨーク22は、それらの挿通孔21a,22aに非磁性ステンレス等の非磁性体からなるピストンロッド30の先端部側が挿通されることにより支持される。
【0015】
永久磁石21は、隣接配置されたものが同極同士を対向させて配置される。図1及び図2の例では、2つの永久磁石21,21は、N極同士を対向させている。そして、隣接配置される永久磁石21,21のそれぞれの間にピストン側ヨーク22が配置される。また、各永久磁石21,21の外側端部(対向側の反対面)にもピストン側ヨーク22が積層されることが好ましい。なお、このピストン側ヨーク22のさらに外側には摺動抵抗を減らすための摺動部材23が設けられている。
【0016】
なお、本実施形態では、シリンダ10とピストンロッド30の端部には、それぞれシリンダ10の軸方向に沿った往復動やラジアル方向に沿った回転運動を与える任意の動作機構(図示せず)との連結部10a,30aを設けている。
【0017】
本実施形態によれば、動作機構の動作により、例えば、シリンダ10を固定した状態でピストン20(及びピストンロッド30)がシリンダ10の軸方向に沿って往復動する。これにより、永久磁石21の磁束がピストン側ヨーク22によって集束されてその多くが導体11を貫き、貫いた磁束はさらにシリンダ側ヨーク12を通過するため、その外方に漏れる磁束が極めて少ない。従って、往復動作に伴って高い減衰力が働く。また、動作機構の動作により、シリンダ10に対してピストン20(ピストンロッド30)がラジアル方向に回転運動した場合も同様であり、磁束集束作用と漏れ磁束が極めて少ないため高い減衰力を発揮できる。
【0018】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ピストン20は、図3(a)に示したように、3つの永久磁石21をピストン側ヨーク22を介して連設してもよい。この場合、軸方向端部に位置する永久磁石21の外側端部にもピストン側ヨーク22をさらに設けることが好ましいことは上記実施形態と同様である。
【0019】
また、図3(b)に示したように、永久磁石21として四角形のものを用いてもよいし、半円状に分割されたものを用いてもよい。また、図3(c)に示したように、永久磁石21やピストン側ヨーク22に挿通孔を設けずに接着等により貼り合わせた構成とすることもできる。
【0020】
また、図4(a)に示したように、永久磁石21及びピストン側ヨーク22を積層したものの周囲を合成樹脂25により被覆した構成とすることもできる。この場合、図4(b),(c)に示したように、合成樹脂25の周面に鋼球や樹脂ボールなどを設け、導体11内の摺動抵抗を低下させた構成とすることもできる。さらに、図4(d)に示したように、永久磁石21の一端面と他端面とに、それぞれピストン側ヨーク22として機能し、相互に爪部により係合し合う金具A,Bを合成樹脂25により一体化したものを予め準備し、隣接する金具A,B同士を連結することで、永久磁石21を複数連設する構成とすることも可能である。
【0021】
(解析・実験例)
上記した本実施形態の磁気ダンパ1の磁束集束効果、減衰力の高いことを示すための解析、実験を行った。
【0022】
まず、比較のため、図5に示したように、本実施形態とは異なる吸引系磁気回路について減衰力を解析した。具体的には、図5の磁気ダンパは、希土類磁石を吸引系に配置し、その鎖交磁界を銅板が往復運動する構成である。解析条件は、銅の移動速度を0.1m/s、磁石の残留磁束密度を1.26T、銅の電気伝導率を56×106S/mとした。図6にヨークのB−H曲線を示し、磁場0〜図中Aまではニュートンラプソン法を用いた非線形解析を行い、以降は磁束密度が飽和しているものとした。図7に磁束分布を示す。ここに減衰力に寄与しない漏洩磁束(矢印部)が効果的に利用されていない。図8に電磁力解析結果を示す。
【0023】
次に、磁石配列を反発系に変更し、上記実施形態の磁気ダンパ1における磁束集束化を検証した。図9は、この解析に用いたモデルの断面図を示す。集束した磁束の効率的な利用のために、永久磁石の周りに導体を配置した円筒型モデルとした。なお、希土類磁石と銅の使用量は、図5の吸引系モデルとほぼ同じとした。図9(a)は永久磁石を反発系に配置したモデルでType-Aとした。図9(b)はType-Aの永久磁石のギャップ部にヨークを配置したモデルでType-Bとした。図9(c)は永久磁石のギャップ部と両端部にヨークを配置したモデルでType-Cとした。図9(d)はさらに導体(銅)の外側にヨークを配置したモデルでType-Dとした。このType-Dが図1及び図2に示した上記実施形態の磁気ダンパ1のモデルである。
【0024】
図10は、解析により求めた各モデルの磁束分布を示す。図11は銅の移動速度を0.1m/sとした場合の各モデルに発生する電磁力の解析結果を示す。Type-Aは反発系の配置により永久磁石のギャップ部aに磁束が集束している。図5の吸引系のモデルと比較して約1.2倍の減衰力となった。Type-Bは、ギャップ部のヨークbにより、永久磁石のギャップ部aを通る磁束が増加し、銅を貫く磁束が増加した。その結果図5の吸引系モデルと比較し1.4倍の減衰力となった。Type-Cは、永久磁石の両端部のヨークにより、中心部を通る磁束がさらに増加し、導体外部の空気中を通る磁束のヨークへの誘導により、永久磁石両端部付近での銅を貫く磁束が増加した。その結果、図5の吸引系モデルと比較し1.5倍の減衰力となった。Type-Dは、銅の外側のヨークによりモデル外側に流れる磁束が減少し、銅を貫く磁束が大幅に増加した。その結果、図5のモデルと比較して2.7倍の減衰力となった。ただし、銅外側のヨークにより永久磁石に作用するラジアル荷重が大きくなり、軸受けの設計が重要となる。
【0025】
次に、Type-AからType-Dの試作について減衰力を計測した。計測は島津製作所製サーボパルサーを用いた。サーボパルサーに入力される波形は、1〜4Hzで片振幅10mmのサインを振幅一定の条件で1Hz刻みに与え、荷重−変位特性を求めた。
【0026】
得られた荷重−変位特性から、速度を求め、荷重−速度特性を求めた。図12は、Type-AからType-Dの各モデルの荷重−速度特性を示す。図13に各モデルの減衰係数を示す。
【0027】
Type-AからType-Dの磁束集束型磁気ダンパは、線形性の高い減衰特性となり、解析と実験の結果は同一傾向を示した。Type-Dは、外側の強磁性体に対して発生する軸方向の電磁力により図12(d)中矢印で示す速度の低下しているストローク端付近で変動が見られた。図14は、1自由度のフォークトモデルで、ばね定数20kN/m、負荷質量80kg、減衰係数27(N・s/m)と79(N・s/m)の場合における振動伝達率の解析値と磁気ばね・磁気ダンパを組み込んだ磁気サスの実測値を示す。図14中矢印で示す共振峰の低減効果が認められる。図14中a,b部はリンク部の摩擦により上昇、下降したものと考えられる。
【0028】
以上のことから、反発系の永久磁石配列により、磁束の集束が可能となることがわかった。また、ヨークの配置により漏洩磁束が減少され、磁気ダンパの減衰力が従来型の吸引系磁気ダンパに比べて解析で2.7倍にもなった。従って、本磁気回路の適用で、磁気ダンパの小型化、希土類磁石から低コストの磁石への置き換えが可能であり、低コスト化に資する。
【符号の説明】
【0029】
1 磁気ダンパ
10 シリンダ
11 導体
12 ヨーク
20 ピストン
21 永久磁石
22 ヨーク
30 ピストンロッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のシートサスペンション等において使用される磁気ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
シートサスペンションの減衰要素としては一般的に摩擦ダンパやオイルダンパが用いられている。しかし、これらのダンパは、シートサスペンションの共振周波数の上昇をもたらし、腹部共振域の8Hz前後の振動加速度の低減が難しい。一方、上下方向振動入力に対して共振周波数の低減が可能で、8Hz前後の伝達特性の改善が見込まれるエアサスペンションは120mm以上の上下方向のストロークが必要で、大型化、重量増を招来する。また、本発明者らは、磁気ダンパと磁気ばねを組み合わせて速度依存型動吸振器として用いることで、共振周波数の低減と共振峰及び高周波ゲインの低減効果が得られ、フォークリフト等において有効であることを報告している(非特許文献1〜3参照)。また、本出願人は、特許文献1〜3に示したような磁気ダンパも提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−106365号公報
【特許文献2】特開2005−344810号公報
【特許文献3】特開2000−193025号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤田悦則,中川紀壽,小倉由美,小島重行,磁石ばねを利用した組合せ非線形ばねに関する実験的研究,日本機械学会論文集C編, Vol.66,No.645,pp.1445-1452,2000
【非特許文献2】藤田悦則,中川紀壽,小倉由美,小島重行:救急車用防振架台の乗り心地と設計,日本設計工学会誌, Vol.35,No.12, pp.478-486, 2000
【非特許文献3】藤田悦則・中川紀壽・小倉由美・大下裕樹・杉本栄治・小島重行,磁石ばねを利用した振動絶縁機構に関する実験的研究,日本設計工学会誌,Vol.36, No.3, pp.126-135, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の磁気ダンパは、減衰力を強くするためには、希土類磁石の使用量を増やしたり、ダンパ自体を大型化したりするなど、コスト及び重量等の点で問題があった。また、ダンパは回転型と往復型の2つのタイプがあるが、一つのダンパによりこれらの機能を備えたものはなかった。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、永久磁石の配列を工夫することにより、磁気ダンパの減衰力を高め、小型化、低コスト化を図ることができ、しかも、回転型及び往復型の2つの機能を備えた磁気ダンパを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ダンパは、シリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能であると共に回転可能に挿入されたピストンとを備えてなる磁気ダンパであって、前記シリンダは、筒状の導体と、前記導体の外周面を被覆するヨークとを備えてなり、前記ピストンは、前記シリンダの軸方向に沿って同極同士を対向させて配置した複数の永久磁石と、隣接する前記永久磁石間に配設されるヨークとを備えてなることを特徴とする。
【0008】
前記ピストンを構成する複数の永久磁石のうち、前記シリンダの軸方向各端部に配置された永久磁石の外側端部にもヨークが設けられている好ましい。
【0009】
前記ピストンを構成する永久磁石及びヨークは、ピストンロッドに支持されてなり、前記ピストンロッドと前記シリンダに、前記ピストンを前記シリンダに対して往復動及び回転動作させる動作機構との連結部が設けられている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、 シリンダが筒状の導体とその外周面を被覆するヨークとからなる。また、ピストンを構成する隣接する永久磁石間にも、好ましくは、軸方向端部に位置する永久磁石の外側端部にもヨークが設けられた構成である。従って、永久磁石の磁束は、永久磁石間のヨークにその多くが集束し、この集束した多くの磁束がシリンダを構成する導体を貫く。多くの磁束が導体を貫くが、シリンダの外周面がヨークにより被覆されているため、シリンダの外方に流れる磁束が極めて少ない磁束集束型の磁気回路となっている。従って、希土類磁石の使用量を増加させなくても、あるいは、シリンダやピストンを大型化しなくても、高い減衰力が得られる。また、筒状の導体からなるシリンダにより永久磁石を取り囲んでいるため、軸方向に往復動する場合及びラジアル方向に回転する場合のいずれの場合でも減衰力が働き、両方の動きが必要な機器に組み込んだ場合の機器の小型化、構造の簡素化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態にかかる磁気ダンパを示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1の断面図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、磁気ダンパのバリエーションを示した図である。
【図4】図4(a)〜(d)は、磁気ダンパのさらなるバリエーションを示した図である。
【図5】図5は、解析に用いた吸引系磁気回路モデルを示した図である。
【図6】図6は、吸引系磁気回路のヨークのB−H曲線を示した図である。
【図7】図7は、吸引系磁気回路の磁束分布を示した図である。
【図8】図8は、吸引系磁気回路の電磁力解析結果を示した図である。
【図9】図9(a)〜(d)は、反発系磁気回路モデルを示した図である。
【図10】図10(a)〜(d)は、反発系磁気回路の磁束分布を示した図である。
【図11】図11は、各反発系磁気回路の電磁力の解析結果を示した図である。
【図12】図12は、各反発系磁気回路の荷重−速度特性を示した図である。
【図13】図13は、各反発系磁気回路の減衰係数を示した図である。
【図14】図14は、振動伝達率の解析値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係る磁気ダンパ1の分解斜視図を示した図であり、図2は、その断面図である。
【0013】
これらの図に示したように、本実施形態の磁気ダンパ1は、シリンダ10、ピストン20、ピストンロッド30を有して構成される。シリンダ10は、筒状好ましくは円筒状に形成された銅等の導体11と、その外周面を被覆する筒状好ましくは円筒状の鉄製のヨーク(シリンダ側ヨーク)12との2重筒構造で形成されている。
【0014】
ピストン20は、本実施形態では環状の複数の永久磁石21と、環状の鉄製のヨーク(ピストン側ヨーク)22とを有して構成される。永久磁石21及びピストン側ヨーク22は、それらの挿通孔21a,22aに非磁性ステンレス等の非磁性体からなるピストンロッド30の先端部側が挿通されることにより支持される。
【0015】
永久磁石21は、隣接配置されたものが同極同士を対向させて配置される。図1及び図2の例では、2つの永久磁石21,21は、N極同士を対向させている。そして、隣接配置される永久磁石21,21のそれぞれの間にピストン側ヨーク22が配置される。また、各永久磁石21,21の外側端部(対向側の反対面)にもピストン側ヨーク22が積層されることが好ましい。なお、このピストン側ヨーク22のさらに外側には摺動抵抗を減らすための摺動部材23が設けられている。
【0016】
なお、本実施形態では、シリンダ10とピストンロッド30の端部には、それぞれシリンダ10の軸方向に沿った往復動やラジアル方向に沿った回転運動を与える任意の動作機構(図示せず)との連結部10a,30aを設けている。
【0017】
本実施形態によれば、動作機構の動作により、例えば、シリンダ10を固定した状態でピストン20(及びピストンロッド30)がシリンダ10の軸方向に沿って往復動する。これにより、永久磁石21の磁束がピストン側ヨーク22によって集束されてその多くが導体11を貫き、貫いた磁束はさらにシリンダ側ヨーク12を通過するため、その外方に漏れる磁束が極めて少ない。従って、往復動作に伴って高い減衰力が働く。また、動作機構の動作により、シリンダ10に対してピストン20(ピストンロッド30)がラジアル方向に回転運動した場合も同様であり、磁束集束作用と漏れ磁束が極めて少ないため高い減衰力を発揮できる。
【0018】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ピストン20は、図3(a)に示したように、3つの永久磁石21をピストン側ヨーク22を介して連設してもよい。この場合、軸方向端部に位置する永久磁石21の外側端部にもピストン側ヨーク22をさらに設けることが好ましいことは上記実施形態と同様である。
【0019】
また、図3(b)に示したように、永久磁石21として四角形のものを用いてもよいし、半円状に分割されたものを用いてもよい。また、図3(c)に示したように、永久磁石21やピストン側ヨーク22に挿通孔を設けずに接着等により貼り合わせた構成とすることもできる。
【0020】
また、図4(a)に示したように、永久磁石21及びピストン側ヨーク22を積層したものの周囲を合成樹脂25により被覆した構成とすることもできる。この場合、図4(b),(c)に示したように、合成樹脂25の周面に鋼球や樹脂ボールなどを設け、導体11内の摺動抵抗を低下させた構成とすることもできる。さらに、図4(d)に示したように、永久磁石21の一端面と他端面とに、それぞれピストン側ヨーク22として機能し、相互に爪部により係合し合う金具A,Bを合成樹脂25により一体化したものを予め準備し、隣接する金具A,B同士を連結することで、永久磁石21を複数連設する構成とすることも可能である。
【0021】
(解析・実験例)
上記した本実施形態の磁気ダンパ1の磁束集束効果、減衰力の高いことを示すための解析、実験を行った。
【0022】
まず、比較のため、図5に示したように、本実施形態とは異なる吸引系磁気回路について減衰力を解析した。具体的には、図5の磁気ダンパは、希土類磁石を吸引系に配置し、その鎖交磁界を銅板が往復運動する構成である。解析条件は、銅の移動速度を0.1m/s、磁石の残留磁束密度を1.26T、銅の電気伝導率を56×106S/mとした。図6にヨークのB−H曲線を示し、磁場0〜図中Aまではニュートンラプソン法を用いた非線形解析を行い、以降は磁束密度が飽和しているものとした。図7に磁束分布を示す。ここに減衰力に寄与しない漏洩磁束(矢印部)が効果的に利用されていない。図8に電磁力解析結果を示す。
【0023】
次に、磁石配列を反発系に変更し、上記実施形態の磁気ダンパ1における磁束集束化を検証した。図9は、この解析に用いたモデルの断面図を示す。集束した磁束の効率的な利用のために、永久磁石の周りに導体を配置した円筒型モデルとした。なお、希土類磁石と銅の使用量は、図5の吸引系モデルとほぼ同じとした。図9(a)は永久磁石を反発系に配置したモデルでType-Aとした。図9(b)はType-Aの永久磁石のギャップ部にヨークを配置したモデルでType-Bとした。図9(c)は永久磁石のギャップ部と両端部にヨークを配置したモデルでType-Cとした。図9(d)はさらに導体(銅)の外側にヨークを配置したモデルでType-Dとした。このType-Dが図1及び図2に示した上記実施形態の磁気ダンパ1のモデルである。
【0024】
図10は、解析により求めた各モデルの磁束分布を示す。図11は銅の移動速度を0.1m/sとした場合の各モデルに発生する電磁力の解析結果を示す。Type-Aは反発系の配置により永久磁石のギャップ部aに磁束が集束している。図5の吸引系のモデルと比較して約1.2倍の減衰力となった。Type-Bは、ギャップ部のヨークbにより、永久磁石のギャップ部aを通る磁束が増加し、銅を貫く磁束が増加した。その結果図5の吸引系モデルと比較し1.4倍の減衰力となった。Type-Cは、永久磁石の両端部のヨークにより、中心部を通る磁束がさらに増加し、導体外部の空気中を通る磁束のヨークへの誘導により、永久磁石両端部付近での銅を貫く磁束が増加した。その結果、図5の吸引系モデルと比較し1.5倍の減衰力となった。Type-Dは、銅の外側のヨークによりモデル外側に流れる磁束が減少し、銅を貫く磁束が大幅に増加した。その結果、図5のモデルと比較して2.7倍の減衰力となった。ただし、銅外側のヨークにより永久磁石に作用するラジアル荷重が大きくなり、軸受けの設計が重要となる。
【0025】
次に、Type-AからType-Dの試作について減衰力を計測した。計測は島津製作所製サーボパルサーを用いた。サーボパルサーに入力される波形は、1〜4Hzで片振幅10mmのサインを振幅一定の条件で1Hz刻みに与え、荷重−変位特性を求めた。
【0026】
得られた荷重−変位特性から、速度を求め、荷重−速度特性を求めた。図12は、Type-AからType-Dの各モデルの荷重−速度特性を示す。図13に各モデルの減衰係数を示す。
【0027】
Type-AからType-Dの磁束集束型磁気ダンパは、線形性の高い減衰特性となり、解析と実験の結果は同一傾向を示した。Type-Dは、外側の強磁性体に対して発生する軸方向の電磁力により図12(d)中矢印で示す速度の低下しているストローク端付近で変動が見られた。図14は、1自由度のフォークトモデルで、ばね定数20kN/m、負荷質量80kg、減衰係数27(N・s/m)と79(N・s/m)の場合における振動伝達率の解析値と磁気ばね・磁気ダンパを組み込んだ磁気サスの実測値を示す。図14中矢印で示す共振峰の低減効果が認められる。図14中a,b部はリンク部の摩擦により上昇、下降したものと考えられる。
【0028】
以上のことから、反発系の永久磁石配列により、磁束の集束が可能となることがわかった。また、ヨークの配置により漏洩磁束が減少され、磁気ダンパの減衰力が従来型の吸引系磁気ダンパに比べて解析で2.7倍にもなった。従って、本磁気回路の適用で、磁気ダンパの小型化、希土類磁石から低コストの磁石への置き換えが可能であり、低コスト化に資する。
【符号の説明】
【0029】
1 磁気ダンパ
10 シリンダ
11 導体
12 ヨーク
20 ピストン
21 永久磁石
22 ヨーク
30 ピストンロッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能であると共に回転可能に挿入されたピストンとを備えてなる磁気ダンパであって、
前記シリンダは、筒状の導体と、前記導体の外周面を被覆するヨークとを備えてなり、
前記ピストンは、前記シリンダの軸方向に沿って同極同士を対向させて配置した複数の永久磁石と、隣接する前記永久磁石間に配設されるヨークとを備えてなることを特徴とする磁気ダンパ。
【請求項2】
前記ピストンを構成する複数の永久磁石のうち、前記シリンダの軸方向各端部に配置された永久磁石の外側端部にもヨークが設けられている請求項1記載の磁気ダンパ。
【請求項3】
前記ピストンを構成する永久磁石及びヨークは、ピストンロッドに支持されてなり、前記ピストンロッドと前記シリンダに、前記ピストンを前記シリンダに対して往復動及び回転動作させる動作機構との連結部が設けられている請求項1又は2記載の磁気ダンパ。
【請求項1】
シリンダと、前記シリンダ内を軸方向に往復動可能であると共に回転可能に挿入されたピストンとを備えてなる磁気ダンパであって、
前記シリンダは、筒状の導体と、前記導体の外周面を被覆するヨークとを備えてなり、
前記ピストンは、前記シリンダの軸方向に沿って同極同士を対向させて配置した複数の永久磁石と、隣接する前記永久磁石間に配設されるヨークとを備えてなることを特徴とする磁気ダンパ。
【請求項2】
前記ピストンを構成する複数の永久磁石のうち、前記シリンダの軸方向各端部に配置された永久磁石の外側端部にもヨークが設けられている請求項1記載の磁気ダンパ。
【請求項3】
前記ピストンを構成する永久磁石及びヨークは、ピストンロッドに支持されてなり、前記ピストンロッドと前記シリンダに、前記ピストンを前記シリンダに対して往復動及び回転動作させる動作機構との連結部が設けられている請求項1又は2記載の磁気ダンパ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−241933(P2011−241933A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115846(P2010−115846)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月19日 社団法人自動車技術会発行の「学術講演会前刷集No.77−10 ーPROCEEDINGSー 2010年春季大会」に発表
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月19日 社団法人自動車技術会発行の「学術講演会前刷集No.77−10 ーPROCEEDINGSー 2010年春季大会」に発表
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】
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