説明

磁気テープおよびその製造方法、ならびに磁気記録装置

【課題】高い熱的安定性を有する高SNRを達成し得る磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープ。前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末であり、前記磁性層は、反磁界補正なしの垂直方向の角型比が0.6〜1.0の範囲であり、かつ、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を更に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた電磁変換特性と良好な記録保持性とを兼ね備えた磁気テープおよびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記磁気テープを含む磁気記録装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高記録密度化が要求されている。そこで高密度記録を達成するために、微粒子磁性体を使用することで磁性層の充填率を高めることが広く行われている。
【0003】
従来、高密度記録用磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属磁性粒子が主に用いられてきた。しかしながら更に高密度記録を達成するためには強磁性金属磁性粒子の改良には限界が見え始めている。これに対し、六方晶フェライト磁性粒子は、保磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、保磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高保磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト磁性粒子を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粒子は、高密度化に適した強磁性体である。
【0004】
しかし六方晶フェライト磁性粒子は、針状形態の強磁性金属磁性粒子と異なり、板状形態であり、かつその板面の垂直方向に磁化容易軸を持っているため、スタッキング(磁性体がそろばん玉状に凝集する状態)しやすい。磁性粒子は凝集すると、微粒子であっても磁性層中ではあたかも粗大粒子が存在しているかの状態となってノイズが上昇し、これによりSNRは低下してしまう。これに対する対策として、従来六方晶フェライトの分散性を高めることで粒子間の凝集(スタッキング)を防止することが試みられてきた(例えば特許文献1〜6参照)。
【0005】
また、磁性粒子の粒子サイズを小さくすると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気異方性エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、いわゆる熱揺らぎにより記録の保持性が低下してしまう。これに対しては、主に磁性体の熱的安定性を強化することが従来試みられてきた(例えば特許文献7〜12参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−178916号公報
【特許文献2】特開平5−283218号公報
【特許文献3】特開平5−144615号公報
【特許文献4】特開2002−298333号公報
【特許文献5】特開2009−99240号公報
【特許文献6】特開2002−373413号公報
【特許文献7】特開2001−297423号公報
【特許文献8】特開2003−59026号公報
【特許文献9】特開2002−260211号公報
【特許文献10】特開2002−260212号公報
【特許文献11】特開2002−74640号公報
【特許文献12】特開平4−236404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、高密度記録用磁気記録媒体にはSNRの向上および熱的安定性の改善という課題が存在する。
そこで本発明の目的は、高い熱的安定性を有する高SNRを達成し得る磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
強磁性粉末として六方晶フェライト粉末を含む磁気記録媒体については、SNRを向上するためには凝集(スタッキング)を抑制する必要があるとする技術常識が存在し、例えば上記特許文献1〜6には、凝集(スタッキング)を抑制するための提案がなされている。
これに対し本発明者らは、磁気テープにおいてはテープ厚み方向に整列するように六方晶フェライト磁性粒子をスタッキングさせることで、従来の知見と反してSNRが向上し、しかも熱的安定性も向上するとのメカニズムを推定するに至った。これは、テープ厚み方向に整列した六方晶フェライト磁性粒子は、テープ長手方向では粒子間の磁気的相互作用が小さいため記録時のノイズ成分の広がりが小さくなることでSNRが向上し、一方でテープ厚み方向では粒子間の磁気的な相互作用が強いため熱的安定性が向上すると、本発明者らが推定したものである。
かかる新たな知見に基づき本発明者らが相当数の試行錯誤を重ねた結果、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を六方晶フェライト粉末とともに含む磁性層を、反磁界補正なしの垂直方向の角型比が0.6〜1.0の範囲となるように垂直配向させることで、SNRと熱的安定性を同時に向上させることが可能となることを見出すに至った。磁性粒子の粒子間に介在し粒子同士の磁気的相互作用を遮断する効果が顕著に高い成分が共存する状態では、垂直配向処理を施したとしても磁性粒子同士は高い分散状態でランダムに存在すると考えられる。従来は、このように磁性粒子の分散性を高め、磁性層中で粒子同士を凝集(スタッキング)させずに存在させることがSNR向上に寄与すると考えられていた。これに対し、上記化合物は六方晶フェライト磁性粒子への吸着力が適度であるため、垂直配向処理時に粒子同士が磁気的相互作用によってテープ厚み方向に整列することを妨げず、しかも二重結合を有する環構造同士の引力(π−π相互作用)によりその整列を促進すると推察される。これにより垂直配向処理によって六方晶フェライト磁性粒子をテープ厚み方向に整列するようにスタッキングさせることができることが、SNRと熱的安定性を同時に向上することが可能となった理由であると、本発明者らは考えている。
以上の通り本発明は、従来の技術常識とは明確に異なる、本発明者らによる新たな知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、
前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末であり、
前記磁性層は、反磁界補正なしの垂直方向の角型比が0.6〜1.0の範囲であり、かつ、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を更に含むことを特徴とする磁気テープ。
[2]長手記録用磁気テープである、[1]に記載の磁気テープ。
[3]前記磁性層は、下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMが負の値を取る、[1]または[2]に記載の磁気テープ。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
[式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。]
[4]前記磁性層は、前記ΔMが−0.05以下である、[3]に記載の磁気テープ。
[5]前記環構造は、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、およびピレン環からなる群から選択される、[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気テープ。
[6]前記化合物は、ジヒドロキシナフタレン、ビフェニルカルボン酸、アントラキノンカルボン酸、ピレンカルボン酸、およびヒドロキシナフタレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気テープ。
[7]前記六方晶フェライト粉末の平均板径は、10〜30nmの範囲である[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気テープ。
[8]前記磁性層は、六方晶フェライト粉末100質量部に対して1〜20質量部の前記化合物を含む[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気テープ。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の磁気テープの製造方法であって、
六方晶フェライト粉末、結合剤および二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を含む磁性液に分散処理を施すことにより塗布液を調製すること、
調製した塗布液を非磁性支持体上に塗布することにより磁性層を形成すること、
形成した磁性層に対して垂直配向処理を施すことにより該磁性層の垂直方向の角型比を0.6〜1.0の範囲に調整すること、
を含む、前記製造方法。
[10]前記磁性液を、六方晶フェライト粉末と結合剤とを混合して得られた混合物に、前記化合物を添加することにより調製する、[9]に記載の磁気テープの製造方法。
[11][1]〜[8]のいずれかに記載の磁気テープと、長手記録用磁気ヘッドと、を含むことを特徴とする磁気記録装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、記録保持性に優れた高密度記録用磁気テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープに関する。本発明の磁気テープにおいて、前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末であり、前記磁性層は、反磁界補正なしの垂直方向の角型比が0.6〜1.0の範囲であり、かつ、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を更に含む。これにより先に説明したように、SNRと熱的安定性を同時に向上させることが可能となる。
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0012】
磁性層には、六方晶フェライト粉末とともに、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物が含まれる。以下、上記化合物の詳細を説明する。
【0013】
前記化合物は二重結合を含む環構造を有するものであり、これによりノイズの低減と熱的安定性の向上を達成することができる。これは、磁性層において六方晶フェライト磁性粒子の粒子間に介在する前記化合物の環構造同士の引力(π−π相互作用)と磁場配向により、六方晶フェライト磁性粒子がテープ厚み方向に整列(スタッキング)するからと推察される。他方、二重結合を有さない環構造では、その他要件を満たすものであってもSNRと熱的安定性を向上させることは困難である。これは、環構造同士の相互作用が不十分であるため、垂直配向処理を施したとしても六方晶フェライト磁性粒子をテープ厚み方向に整列(スタッキング)させることが困難であるためと考えられる。前記環構造に二重結合が1つあればπ−π相互作用を発揮することができるため、環構造に含まれる二重結合は少なくとも1つであればよく、その数は特に限定されるものではない。
【0014】
前記化合物に含まれる環構造は、二重結合を含むという要件とともに、Clog Pが2.3〜5.5の範囲であるという要件も満たすものである。ここで「ClogP」とは、化学構造から計算により予測されたlogP(log[水/オクタノール分配係数])を意味する。本発明における環構造のClogPとは、置換基を除いた環構造のClogPをいうものとする。化学構造からlogPを計算により予測する手法は多数開発されており、後述の実施例ではChem Draw Pro 12.0で計算された値を用いている。ClogPは、親疎水性の指標であり、正の値は親水性、負の値は疎水性を示し、値が大きいほど当該性質が強いことを意味する。前記化合物は、吸着官能基である水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基とともにClogPが上記範囲である環構造を含むことで、六方晶フェライト磁性粒子の粒子間に介在し粒子同士が強固に凝集することを防ぐことができると考えられる。他方、環構造のClogPが2.3を超える化合物は、その他要件を満たすものであっても粒子間の凝集を抑制する効果が不十分である。粒子同士が強く凝集していると、垂直配向処理を施したとしても粒子同士の凝集を解除したうえでテープ厚み方向に整列させることができず、結果的にSNRと熱的安定性を向上することは困難になると考えられる。一方、その他要件を満たすものであっても環構造のClogPが5.5超の化合物は、六方晶フェライト磁性粒子への吸着力が強すぎる結果、垂直配向処理を施した際に磁性粒子同士がテープ厚み方向に整列することの妨げとなり、結果的にSNRおよび熱的安定性の向上を困難にすると推察される。以上の理由から、本発明の磁気テープの磁性層に含まれる前記化合物のClogPは、2.3〜5.5の範囲とし、好ましくは2.5〜4.0の範囲とする。
【0015】
前記化合物に含まれる環構造は、以上説明した2つの要件を兼ね備えたものであれば、単環構造であっても多環構造であってもよく、炭素環であっても複素環であってもよい。また、多環構造としては、縮合環であっても、2つ以上の環が単結合または連結基を介して連結した環集合であってもよい。上記環構造の具体例としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、ピレン環、フェナントレン環等を挙げることができ、好ましい環構造としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、ピレン環を挙げることができる。
【0016】
磁性層に含まれる前記化合物は、以上説明した環構造に、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなるものである。水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基を有することで、六方晶フェライト磁性粒子に適度に吸着し、凝集を抑制することができる。ただしここで、置換基として吸着力の強い官能基、例えばスルホン酸基またはその塩を有するものでは、SNRおよび熱的安定性向上効果を得ることは困難である。これは、六方晶フェライト磁性粒子への吸着力が強すぎる結果、垂直配向処理を施した際に磁性粒子同士がテープ厚み方向に整列することの妨げとなり、結果的にSNRおよび熱的安定性の向上を困難にしているからと推察される。また、スルホン酸基またはその塩のように親水性の強い置換基は、分散が進行する際に会合し粒子同士の凝集を促進してしまう点からも望ましくない。
前記化合物に含まれる水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基の数は、1つ以上であればよく、2つまたは3つ以上であってもよい。適度な吸着力を発揮することから好ましくは、1つまたは2つである。
【0017】
前記化合物は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基の他に置換基を含んでいてもよい。該置換基としては、特に限定されるものではないが、例えばハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、を挙げることができる。ただし前記した理由から、磁性粒子に対して、水酸基およびカルボキシル基よりも高い吸着性を示す置換基の存在は好ましくない。また、化合物としての親疎水性に大きく影響を及ぼす置換基の存在も好ましくない。以上の観点から、前記化合物は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基以外の置換基を有さないことが好ましい。
【0018】
以上説明した化合物の好ましい具体例としては、ジヒドロキシナフタレン、ビフェニルカルボン酸、アントラキノンカルボン酸、ピレンカルボン酸、ヒドロキシナフタレン、ナフタレンカルボン酸等を挙げることができる。
【0019】
本発明では、六方晶フェライト粉末とともに前記化合物を含む磁性層について、反磁界補正なしの垂直方向の角型比を0.6〜1.0に規定する。垂直方向の角型比は、垂直方向に配向処理を行うことで制御することができ、垂直方向の角型比が0.6以上になるほど垂直方向に磁場配向させることで、SNRおよび熱的安定性を向上することができる。これは、六方晶フェライト磁性粒子をテープ厚み方向に整列(スタッキング)させることが可能となることによるものと考えられる。なお垂直方向角型比の上限は、原理上1.0である。SNR向上の点からは、垂直方向角型比は0.7以上であることが好ましい。磁性層は、磁性層形成用塗布液を被塗布面に塗布した直後に同極対向磁石中を通過させ、同時に熱風を吹き付け乾燥させることにより形成することができる。このときの磁石の強さ、風量、温度、および塗布速度を適宜調整することにより、所望の範囲内の垂直方向角型比を有する磁性層を形成することができる。
【0020】
前述のように、本発明によりSNRと熱的安定性を同時に向上させ得る理由は、六方晶フェライト粉末の粒子同士がテープ厚み方向に整列するようにスタッキングしていることにあると推察される。ここでスタッキング状態に関する指標としては、下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMが挙げられる。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。ΔMは、磁性粒子同士のテープ長手方向(幅方向)における相互作用がテープ厚み方向での相互作用よりも強いと正の値を取り、逆の場合に負の値を取る。また、その絶対値が大きいほど当該方向における磁性粒子同士の相互作用が強いこと、即ち当該方向での整列の度合いが強いことを意味する。前述のように本発明では、六方晶フェライト磁性粒子同士がテープ厚み方向にスタッキングしていることが、SNRおよび熱的安定性の向上に寄与していると考えられるため、テープ厚み方向での磁性粒子同士の相互作用がテープ長手方向のそれよりも強いことが好ましい。したがって磁性層のΔMは、負の値を取ることが好ましい。また、先に説明したように、テープ厚み方向での整列の度合いが強いほど熱的安定性は向上し、また記録時のノイズ成分の広がりが小さくなることでSNRが向上すると推察され、この点からはΔMは負の値の中で絶対値が大きいほど好ましい。この点から好ましくは、磁性層のΔMは−0.05以下である。また、テープ厚み方向での磁性粒子同士の相互作用が強くなりすぎると実質的な磁化反転体積が増大しノイズが増加するため、低ノイズを維持する観点からは、磁性層のΔMは−0.30以上であることが好ましい。
【0021】
上記の通り磁性層のΔMは、磁性層中での六方晶フェライト磁性粒子の整列の度合い(スタッキング状態)を示すものである。スタッキング状態に影響を及ぼす要因としては、先に説明した二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物、および磁性層における配向状態の制御が挙げられる。前記化合物は、SNRと熱的安定性を効果的に向上する観点からは、六方晶フェライト粉末100質量部に対して1〜20質量部の量で使用することが好ましく、1〜10質量部の量で使用することがより好ましく、3〜8質量部の量で使用することがより一層好ましい。上記好ましい量で前記化合物を使用することで、磁性層のΔMを好ましい範囲に制御することができる。また、配向処理において磁性粒子を磁気的に整列させようとする力は、磁石の強さ、乾燥のために吹き付ける熱風の風量、温度、および塗布速度により制御することができるため、これらを調整することによってもΔMを好ましい範囲に制御することができる。また、六方晶フェライト磁性粒子が適度に分散している湿潤状態の磁性層に垂直配向処理を施すことで、磁性粒子をテープ厚み方向に整列させることができる。所望のΔMを容易に実現する観点から、磁性層形成用塗布液では、後述する実施例で測定される液粒径が40nm〜60nmとなる適度な分散状態を実現することが好ましい。磁性層形成用塗布液調製時には、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物は、六方晶フェライト粉末および結合剤とともに有機溶媒中で分散処理が施される。ここでの混合順序については、(a)前記化合物を六方晶フェライト粉末および結合剤と略同時に有機溶媒に添加する態様、(b)前記化合物を予め六方晶フェライト粉末と混合し分散処理を施した後、結合剤を添加する態様、(c)六方晶フェライト粉末と結合剤とを予め混合した後、前記化合物を添加する態様を取り得るが、六方晶フェライト磁性粒子同士のテープ厚み方向での整列を前記化合物に含まれる環構造同士の引力(π−π相互作用)により促進する観点からは、(a)または(c)の態様が好ましく、(c)の態様がより好ましい。有機溶媒としては、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0022】
次に、本発明の磁気テープにおいて、磁性層の強磁性粉末として使用する六方晶フェライト粉末について説明する。
【0023】
六方晶フェライトとしては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等が挙げられる。また、六方晶フェライトの平均板径は、10〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜60nmであり、特に好ましくは10〜30nmである。特にトラック密度を上げるためMRヘッドで再生する場合、低ノイズにする必要があるため、平均板径は60nm以下、更には30nm以下であることが好ましい。10nmより小さいと安定な磁化が望めない。100nmを越えるとノイズが高く、いずれも高密度磁気記録には向かない。平均板厚は、4〜15nmであることが好ましい。平均板厚が4nm以上であれば、安定生産が可能であり、平均板厚が15nm以下であれば、十分な配向性を得ることができる。上記粒子サイズを有する微粒子状の六方晶フェライトを含む磁性層では、従来熱揺らぎによる記録保持性の低下という課題が存在したが、本発明では前述の通り熱的安定性を高めることができるため、微粒子状の六方晶フェライトを使用した高密度記録用磁気テープにおいて、良好な記録保持性を実現することができる。
【0024】
六方晶フェライトの抗磁力Hcは高い方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。本発明で使用される六方晶フェライトのHcは2000〜4000Oe(160〜320kA/m)程度であることが好ましい。本発明で使用可能な六方晶フェライトの詳細については、例えば特開2009−54270号公報段落[0035]〜[0037]を参照できる。
【0025】
なお、六方晶フェライト粉末の平均板径は、以下の方法により測定することができる。
六方晶フェライト粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子の板径を測定する。500個の粒子の板径を測定する。上記方法により測定される板径の平均値を六方晶フェライト粉末の平均板径とする。
【0026】
本発明において、前述の六方晶フェライト粉末等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0027】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0028】
次に、本発明の磁気テープの詳細について更に説明する。
【0029】
前記磁性層は、六方晶バリウムフェライト粉末、前記した二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層およびバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0030】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを、所望の性質に応じて適量、市販品または公知の方法により製造されたものの中から適宜選択して使用することができる。カーボンブラックについては、特開2010−24113号公報段落[0033]も参照できる。
【0031】
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気テープは、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0032】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層に関する公知技術が適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0033】
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0034】
本発明の磁気テープの厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0035】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気テープの非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力を持たないことを意味する。
【0036】
本発明の磁気テープには、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0037】
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。いずれの工程についても、個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる各種成分はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。なお磁性層形成用塗布液の調製における六方晶フェライト粉末、結合剤、および前記化合物の添加順序については、先に説明した通りである。
本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。磁気テープの製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0038】
以上説明した本発明によれば、テープ厚み方向に六方晶フェライト磁性粒子がスタッキングした磁性層を有する磁気テープを提供することができる。かかる本発明の磁気テープは、テープ厚み方向に磁性粒子を磁化させる垂直記録方式の磁気記録システムにおいて使用してもよく、長手方向に磁性粒子を磁化させる長手記録方式の磁気記録システムにおいて使用してもよいが、特に、長手記録方式において顕著なSNR向上を示すことができる。これは、六方晶フェライト磁性粒子同士がテープ厚み方向にスタッキングするとテープ長手方向では粒子間の磁気的相互作用が小さくなるため、特に長手方向において、記録時のノイズ成分の広がりが小さくなることによるものと推察される。したがって本発明の磁気テープは、長手記録用磁気テープとして好適である。即ち本発明の更なる態様によれば、本発明の磁気テープと、長手記録用磁気ヘッドと、を含むことを特徴とする磁気記録装置も提供される。なお一般に長手磁気記録方式では、例えばFUJITSU.52, 4, (07,2001). 355 図7にあるように、媒体において長手方向に磁化容易軸が揃っているため、記録ヘッドがリングヘッドの漏れ磁束の長手磁界で記録する。一方、垂直磁気記録方式とは、垂直方向に磁化容易軸が揃った磁性層の直下に媒体に裏打ち層(軟磁性層)によるヘッド磁界のリターンパスを設け、単磁極ヘッドの垂直磁界で記録する方式である。本発明の磁気テープは、六方晶フェライト磁性粒子がテープ厚み方向に配向しているため、長手記録方式では、リングヘッドからの漏れ磁束の磁界の垂直成分で記録される。本発明の磁気テープに長手記録方式での記録を行う記録ヘッド(長手記録用磁気ヘッド)としては、磁性層に含まれる六方晶フェライト磁性粒子を長手方向に磁化させ得るものであればよく、具体例としては、リング型インダクティブヘッド、上部磁極および下部磁極を備えたインダクティブ薄膜ヘッドを挙げることができる。また、再生ヘッドとしてはテ−プからの漏れ磁界の長手、垂直磁界の両方を検出する高感度のGMRヘッドを使用することが好ましい。
【0039】
更に本発明は、本発明の磁気テープの製造方法にも関する。本発明の磁気テープの製造方法は、六方晶フェライト粉末、結合剤および二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を含む磁性液に分散処理を施すことにより塗布液を調製すること、調製した塗布液を非磁性支持体上に塗布することにより磁性層を形成すること、形成した磁性層に対して垂直配向処理を施すことにより該磁性層の垂直方向の角型比を0.6〜1.0の範囲に調整すること、を含む。前記磁性液は、先に説明したように、好ましくは六方晶フェライト粉末、結合剤および前記化合物を有機溶剤中に略同時に添加するか、または六方晶フェライト粉末と結合剤とを予め混合した後、前記化合物を添加することが好ましく、後者の態様がより好ましい。即ち、前記磁性液は、六方晶フェライト粉末と結合剤とを混合して得られた混合物に、前記化合物を添加することにより調製することが好ましい。その他、本発明の磁気テープの製造方法の詳細は、先に説明した通りである。
【実施例】
【0040】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。また、以下に記載の「部」、「%」は、特に示さない限り「質量部」、「質量%」を示す。
【0041】
[実施例1]
磁性層塗布液
(磁性液)
バリウムフェライト(平均板径20nm) 100部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 14部
(分子量:70,000、SO3Na基:0.4meq/g)
シクロヘキサノン 150部
メチルエチルケトン 150部
(研磨剤液)
研磨剤液A アルミナ研磨剤(平均粒子径:100nm) 3部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 0.3部
(分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン 26.7部
研磨剤液B ダイヤモンド研磨剤(平均粒子径:100nm) 1部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 0.1部
(分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン 26.7部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ(平均粒径100nm) 0.2部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他成分)
添加剤(表1参照) 5部
ステアリン酸 2部
ブチルステアレート 6部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート) 2.5部
(仕上げ添加溶剤)
シクロヘキサノン 200部
メチルエチルケトン 200部
【0042】
非磁性層塗布液
非磁性無機粉末:α−酸化鉄 100部
平均長軸長:10nm 平均針状比:1.9
BET比表面積:75m2/g
カーボンブラック 25部
平均粒径 20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18部
(分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g)
ステアリン酸 1部
シクロヘキサノン 300部
メチルエチルケトン 300部
【0043】
バックコート層塗布液
非磁性無機粉末:α−酸化鉄 80部
平均長軸長:0.15μm,平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20部
平均粒径20nm
塩化ビニル共重合体 13部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 6部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 155部
メチルエチルケトン 155部
ステアリン酸 3部
ブチルステアレート 3部
ポリイソシアネート 5部
シクロヘキサノン 200部
【0044】
上記磁性液を、バッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散した。分散メディアとしては、0.5mmΦのジルコニアビーズを使用した。研磨剤液AおよびBは、それぞれバッチ型超音波装置(20kHz,300W)で24時間分散した。これらの分散液を他の成分(シリカゾル、その他成分および仕上げ添加溶剤)と混合後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で30分処理を行った。その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過を行い磁性層塗布液を作製した。
非磁性層塗布液については、各成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて、24時間分散した。分散メディアとしては、0.1mmΦのジルコニアビーズを使用した。得られた分散液を0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過を行い非磁性層用塗布液を作製した。
バックコート層塗布液は、潤滑剤(ステアリン酸およびブチルステアレート)とポリイソシアネート、シクロヘキサノン200部を除いた各成分をオープン型ニーダーにより混練・希釈した後、横型ビーズミル分散機により、1mmΦのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後残りの成分を分散液に添加し、ディゾルバーで攪拌した。得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過しバックコート層塗布液を作製した。
その後、厚み5μmのポリエチレンナフタレート製支持体(光学式3次元粗さ計で、20倍対物レンズを使用して測定した際の中心線表面粗さ(Ra値):1.5nm、幅方向ヤング率:8GPa、縦方向ヤング率:6GPa)に、乾燥後の厚みが100nmになるように非磁性層塗布液を塗布、乾燥した後、その上に乾燥後の厚みが70nmになるように磁性層塗布液を塗布した。この磁性層塗布液が未乾状態にあるうちに磁場強度0.6Tの磁場を、塗布面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後乾燥させた。その後支持体の反対面に乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層塗布液を塗布、乾燥させた。
その後金属ロールのみから構成されるカレンダで、速度100m/分、線圧300kg/cm、温度100℃で表面平滑化処理を行った後、70℃のDry環境で36時間熱処理を行った。熱処理後1/2インチ幅にスリットし、磁気テープを得た。
【0045】
[実施例2〜11、比較例1〜16]
磁性層に使用する添加剤の種類、磁性液の分散時間、配向処理条件を表1に示すようにした点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0046】
[比較例17〜22]
磁性体を下記強磁性金属粉末に変更し、磁性層に使用する添加剤の種類、磁性液の分散時間、配向処理条件を表1に示すようにした点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。なお強磁性金属粉末(平均長軸長 30nm、Hc 215kA/m(≒2700Oe))を使用し、実施例1と同様に垂直配向処理を施したところ0.6〜1.0の範囲の垂直方向角型比を実現することは困難であった。
【0047】
評価方法
(1)液粒径
磁性層形成用塗布液における磁性粒子の分散状態を評価するため、上記方法で作製した磁性層形成用塗布液の一部を採取し、同塗布液調製に使用した有機溶媒により質量基準で1/50に希釈した試料溶液を調製した。調製した試料溶液について、光散乱型粒度分布計LB500(HORIBA製)を用いて測定した算術平均粒子径を液粒径とした。
(2)角型比
作製した各磁気テープについて、VSM(振動試料型磁束計)を用いて外部磁場15kOeで磁性層の垂直方向、長手方向の角型比を測定した。
(3)磁気的相互作用ΔM
作製した各磁気テープについて、VSM(振動試料型磁束計)を用いて、以下の方法でΔMを測定した。
直流消磁して測定される残留磁化Id(H)を以下の方法で測定する。直流消磁を行い外部磁場を0Oeにする。その後、直流消磁を行った磁場方向とは逆方向に磁場を200Oe(159kA/m)印加した後に0Oeに戻した時の残留磁化をId(200Oe)、さらに200Oe+200Oe(400Oe(318kA/m))印加し、0Oeに戻した時の残留磁界をId(400Oe)として、これらの動作を200Oe刻みに行い磁場を増加させる。一方、交流消磁からスタートする残留磁化Ir(H)も200Oe刻みに上記同様の操作を行い測定する。残留磁化は、すべて大きさの絶対値(正の値)とし、印加磁界を10kOe(796kA/m)として残留磁化Ir(∞)を測定し、前記式(1)により各磁場でのΔMを求め、その中で絶対値が最も大きな値を△Mとした。
(4)SNR
作製した各磁気テープに対して下記条件で磁気信号をテープ長手方向に記録し、MRヘッドで再生した。再生信号をシバソク製のスペクトラムアナライザーで周波数分析し、300kfciの出力と、0〜600kfci範囲で積分したノイズとの比をSNRとした。
<記録再生条件>
記録:記録トラック幅 5μm、記録ギャップ 0.17μm、ヘッドBs 1.8T
再生:再生トラック幅 0.4μm、sh−sh距離 0.08μm
記録波長:300kfi
(5)熱的安定性
上記(4)に記載の記録ヘッドおよび再生ヘッドを用いて記録密度200kfci で記録再生を行った際の出力を初期値100%とし、2週間後の同一トラックの再 生を行い、出力低下分を減磁率として百分率で表示した。
【0048】
以上の結果を、表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示す結果から、本発明によれば高い熱的安定性と優れたSNRの両立が可能となることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の磁気テープは、長期にわたり高い信頼性と優れた電磁変換特性を示すことが求められるデータバックアップテープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気テープであって、
前記強磁性粉末は六方晶フェライト粉末であり、
前記磁性層は、反磁界補正なしの垂直方向の角型比が0.6〜1.0の範囲であり、かつ、二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を更に含むことを特徴とする磁気テープ。
【請求項2】
長手記録用磁気テープである、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記磁性層は、下記式(1)により算出される磁気的相互作用ΔMが負の値を取る、請求項1または2に記載の磁気テープ。
ΔM={Id(H)+2Ir(H)−Ir(∞)}/Ir(∞) …(1)
[式(1)中、Id(H)は直流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(H)は交流消磁して測定される残留磁化であり、Ir(∞)は印加磁界を796kA/m(10kOe)として測定される残留磁化である。]
【請求項4】
前記磁性層は、前記ΔMが−0.05以下である、請求項3に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記環構造は、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、およびピレン環からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記化合物は、ジヒドロキシナフタレン、ビフェニルカルボン酸、アントラキノンカルボン酸、ピレンカルボン酸、およびヒドロキシナフタレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記六方晶フェライト粉末の平均板径は、10〜30nmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記磁性層は、六方晶フェライト粉末100質量部に対して1〜20質量部の前記化合物を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気テープの製造方法であって、
六方晶フェライト粉末、結合剤および二重結合を含むClog Pが2.3〜5.5の範囲である環構造に水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換してなる化合物を含む磁性液に分散処理を施すことにより塗布液を調製すること、
調製した塗布液を非磁性支持体上に塗布することにより磁性層を形成すること、
形成した磁性層に対して垂直配向処理を施すことにより該磁性層の垂直方向の角型比を0.6〜1.0の範囲に調整すること、
を含む、前記製造方法。
【請求項10】
前記磁性液を、六方晶フェライト粉末と結合剤とを混合して得られた混合物に、前記化合物を添加することにより調製する、請求項9に記載の磁気テープの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気テープと、長手記録用磁気ヘッドと、を含むことを特徴とする磁気記録装置。

【公開番号】特開2012−203955(P2012−203955A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67548(P2011−67548)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】