説明

磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法

【課題】本発明は、磁気転写膜の保磁力の影響を受けることなく、磁気テープに記録された磁気情報を正確に再生できる磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法を提供することを目的とする。
【解決手段】磁気テープ151に記録された磁気情報を転写する磁気転写膜10と、
該磁気転写膜10に、レーザー光を集光して照射するレーザー光照射手段50と、
前記レーザー光の照射による前記磁気転写膜からの反射光を検出し、前記磁気情報を検出して読み出す磁気情報検出手段110と、
前記磁気転写膜に外部磁界を印加する磁界印加手段130と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法に関し、特に、磁気転写膜を用いた磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光磁気ディスクに記録された情報を再生する情報の記録再生システムとして、磁性体膜を有する光磁気ディスクと、磁性体膜に対向して配置され、磁性体膜に記録された情報を磁気的に転写する信号転写素子とを含み、信号転写素子に再生用レーザービームを照射し、磁気カー効果あるいはファラデー効果を利用して転写された情報信号を、光学的に読み出すようにした情報の記録再生システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−12716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の情報の記録再生システムを、磁気テープ再生光ヘッドに応用しようとすると、信号転写素子の保磁力の影響のため、小さな波長で、信号転写素子の保磁力よりも小さな漏れ磁界しか発生しない磁気情報については、磁気テープに記録されている磁気情報の転写が正確に行われず、磁気記録の正確な再生ができないという問題があった。
【0005】
一方、信号転写素子の保磁力が十分に低ければ、磁気テープの記録情報を正確に読み出すことが可能であるが、製造過程の条件のバラつき等により、常に十分に保磁力を抑制した信号転写素子を作製することは困難であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、磁気転写膜の保磁力の影響を受けることなく、磁気テープに記録された磁気情報を正確に再生できる磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る磁気テープ再生光ヘッドは、磁気テープに記録された磁気情報を転写する磁気転写膜と、
該磁気転写膜に、レーザー光を集光して照射するレーザー光照射手段と、
前記レーザー光の照射による前記磁気転写膜からの反射光を検出し、前記磁気情報を検出して読み出す磁気情報検出手段と、
前記磁気転写膜に外部磁界を印加する磁界印加手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
これにより、磁気転写の動作点をずらすことができ、磁気転写膜の保磁力に影響されることなく、波長の短い磁気情報も正確に再生することができる。また、磁気転写膜の保磁力の影響が小さくなるので、磁気転写膜の材料の保磁力に拘束されずに、種々の材料の磁気転写膜を使用することが可能となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る磁気テープ再生光ヘッドにおいて、
前記外部磁界の大きさは、前記磁気テープからの漏れ磁界の最大値から前記磁気転写膜の保磁力を引いた値よりも大であることを特徴とする。
【0010】
これにより、磁気転写の動作点を保磁力の外側にずらすことができ、磁気転写膜の保磁力に影響されることなく、波長の短い磁気情報も正確に再生することができる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明に係る磁気テープ再生光ヘッドにおいて、
前記磁界印加手段は、前記磁気転写膜の背面に設けられていることを特徴とする。
【0012】
これにより、取り付け容易な位置に磁界印加手段を設置することができるとともに、磁気転写膜に近接した位置から磁界を印加することができるので、効率的に磁気転写膜に磁界を印加することができる。
【0013】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明に係る磁気テープ再生光ヘッドにおいて、
前記磁界印加手段は、電磁石であることを特徴とする。
【0014】
これにより、簡素な構成で確実に磁界を印加することができるとともに、磁界印加手段の設置を容易に行うことができる。
【0015】
第5の発明に係る磁気テープの再生方法は、磁気テープに記録された磁気情報を磁気転写膜に転写し、該磁気転写膜にレーザー光を集光して照射し、反射光を検出することにより、前記磁気情報を読み出す磁気テープの再生方法であって、
前記磁気転写膜に外部磁界を印加した状態で、前記磁気情報の転写を行うことを特徴とする。
【0016】
第6の発明は、第5の発明に係る磁気テープの再生方法において、
前記外部磁界は、前記磁気転写膜に対して、前記磁気転写膜の前記レーザー光が照射される側の反対側から印加されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、磁気テープに記録された磁気情報を正確に読み出し、再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの全体構成の一例を示した図である。
【図2】本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの磁気転写膜10の拡大図である。
【図3】参考例として、従来の磁気テープの再生方法を説明する図である。図3(A)は、保磁力が小さい磁気転写膜10の磁化曲線例を示した図である。図3(B)は、保磁力が大きい磁気転写膜10の磁化曲線例を示した図である。図3(C)は、図3(A)と図3(B)の磁気転写膜10の繰り返しの再生スペクトルを示した図である。
【図4】本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの磁界印加手段130の構成例を示した図である。図4(A)は、磁気印加手段130の構成例を示す側面図である。図4(B)は、磁気印加手段130の構成例を示す斜視図である。
【図5】本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法による再生結果の説明図である。図5(A)は、図3(B)の磁気転写膜10に本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法を適用した例を示した図である。図5(B)は、外部磁界印加状態で、最短記録波長の繰り返し信号を再生した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの全体構成の一例を示した図である。図1において、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドは、磁気転写膜10と、レーザー光照射手段50と、磁気情報検出手段110と、磁界印加手段130とを有する。また、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドは、磁気テープ密着手段120と、ローラー140とを、必要に応じて備えてよい。更に、図1においては、関連構成要素として、磁気テープ151を含むVTR(Video Tape Recorder)150が示されている。
【0021】
磁気転写膜10は、磁気テープ151に記録された磁気情報を転写するための手段である。本実施例に係る磁気テープ再生ヘッドは、磁気テープ151に記録されている映像、音声、データ等の情報を、磁気転写膜10と、レーザー光を用いて再生する。磁気テープ151及びそこに情報を記録するVTR150には、様々なフォーマットがあり、記録された情報を直接的に再生するには、記録されたフォーマットのVTRが必要となる。しかし、磁気テープ151に記録された情報を、磁気転写膜10に転写し、磁気転写膜に転写された情報をレーザーで読み取ることができれば、信号処理のパラメータの変更等により、あらゆるフォーマットの磁気テープ151を再生できる。また、回折格子でレーザー光を分割したり、シリンドリカルレンズを用いてレンズを直線状に集光したりする等の処理を行い、複数データトラックを並列同時再生することにより、磁気テープ151の磁気情報を高速に再生することも可能となる。
【0022】
磁気転写膜10による磁気テープ151からの磁気情報の転写は、磁気テープ151からの漏れてくる外部磁界により、磁気転写膜10が磁化されることにより行われてよい。磁気転写膜10は、種々の磁性材料が適用され得るが、例えば、磁性ガーネット膜が適用されてもよい
レーザー光照射手段50は、レーザー光を集光して磁気転写膜10に照射するための手段である。本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドにおいては、磁気テープ151に記録された磁気情報を磁気転写膜10に転写し、磁気転写膜10に直線偏光のレーザー光を照射し、ファラデー効果による偏光面の回転を検出することで、磁気情報を読み取る。つまり、磁気転写膜10は、磁気テープ151から漏れてくる外部磁界により磁化されているが、この状態でレーザー光が照射されると、レーザー光が通過するときに、ファラデー効果により偏光面が回転する。このとき、偏光面の回転方向は、磁気転写膜10の磁化の方向、つまり磁気テープ151からの漏れ磁界の方向により変化する。よって、この偏光面の回転を検出することにより、磁気情報を検出することができる。本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドにおいては、このような磁気光学効果を利用するため、レーザー光照射手段50を備える。
【0023】
レーザー光照射手段50は、レーザー光源20を含み、必要に応じて、無偏光ビームスプリッタ30と、対物レンズ40とを含んでよい。レーザー光源20は、レーザー光を発生させるための手段である。レーザー光源20により発生させられるレーザー光は、種々のレーザー光が適用されてよい。
【0024】
無偏光ビームスプリッタ30は、レーザー光源20で発生したレーザー光を方向付けて、レーザー光を磁気転写膜10に向かわせるとともに、磁気転写膜10から反射した反射光を所定方向に向かわせるための光学手段である。図1においては、レーザー源20から横向きに発射されたレーザー光の進行方向を90度変えさせ、磁気転写膜40に照射されるように方向付けている。また、磁気転写膜10からの反射光は、そのまま直線的に通過させて、磁気情報検出手段110の方に向かわせている。
【0025】
対物レンズ40は、レーザー光を集光する手段である。レーザー光を集光して、ビーム径を小さくした状態で、磁気転写膜10にレーザー光を照射する。
【0026】
ミラー60は、レーザー光の反射光の方向を変えるための光反射手段である。磁気情報検出手段110が、磁気転写膜10の正面に対向して設置できる場合には、ミラー60は不要であるが、図1に示す磁気テープ再生ヘッドのように、磁気情報検出手段110を、省スペース化を図り、レーザー光照射手段20の近隣にまとめて配置したい場合には、反射光が進行する向きを変えるために、ミラー60を用いるようにしてもよい。
【0027】
磁気情報検出手段110は、レーザー光の反射光を検出し、磁気情報を読み取る手段である。磁気情報検出手段110は、反射光から、磁気情報を読み取ることが出来れば、種々の磁気情報検出手段を適用することができるが、例えば、図1に示すようなビームスプリッタ80と差動アンプ100を用いた磁気情報検出手段110を用いてもよい。
【0028】
図1において、磁気情報検出手段110は、λ/2波長板70と、偏光ビームスプリッタ80と、ミラー61と、光検出器90、91と、差動アンプ100とを備える。λ/2波長板70は、反射光の偏光の向きを任意の向きに変換するための手段である。例えば、λ/2波長板70において、反射光の偏光の向きを、45°傾けるようにしてもよい。これにより、次段に存在する偏光ビームスプリッタ80を用いて、反射光の偏光成分による分離を行い易いように、反射光の偏光の向きを調整することができる。
【0029】
偏光ビームスプリッタ80は、入射した反射光を、偏光成分により分離するためのフィルタである。例えば、P偏光成分を透過、S偏光成分を反射というように任意に設定を行うことができる。なお、P偏光成分は、入力ビームである反射光と平行な成分であり、S偏光成分は、入力ビームである反射光と直角な成分である。これにより、反射光を、偏光成分により分離することができ、反射光の偏光状態を2成分について検出することができる。上述のように、偏光面の回転方向は、磁気転写膜10の磁化の方向により変化するので、この変化に応じて、P偏光成分と、S偏光成分は変化することになる。
【0030】
偏光ビームスプリッタ80により分離されたP偏光成分は、そのまま光検出器90に出力され、S偏光成分は、ミラー61に出力される。ミラー61に入射されたS偏光成分は、略直角に方向が変えられて反射され、光検出器91に出射される。
【0031】
光検出器90、91は、光を受光検出して、光量に応じた電気信号を出力する光検出手段である。例えば、光検出器90、91には、種々のフォトディテクタが用いられてよい。回転方向により、光検出器90、91の受光する反射光のレーザーパワーは変化し、出力される電気信号も受光するレーザーパワーに応じて変化することになる。
【0032】
差動アンプ100は、光検出器90、91から出力される電気信号の差から、2つの偏光成分の差を検出し、磁気情報を読み取る手段である。偏光ビームスプリッタ80において、分離の基準となるP偏光成分とS偏光成分は予め設定されているので、これらの信号を比較することにより、反射光の偏光成分を知ることができ、偏光の回転方向を知ることができる。そして、反射光に含まれている磁気情報を読み取ることができる。
【0033】
磁気テープ密着手段120は、磁気テープ151を、磁気転写膜10に密着させるための押圧ガイド手段である。磁気テープ密着手段120により、磁気テープ151は、磁気転写膜10に接触して走行する。
【0034】
磁界印加手段130は、磁気転写膜10に磁界を印加するための手段である。磁界印加手段130は、磁気転写膜10の保磁力を超える大きさ(絶対値)を有する磁界を磁気転写膜10に印加し、磁気転写が行われる動作点を、磁気転写膜10の保磁力の外部に移動させる手段である。よって、磁界印加手段130は、磁気転写膜10の保磁力よりも絶対値が大きい磁界を発生させる。
【0035】
また、磁界印加手段130は、磁気転写膜10に磁界を印加することが目的であるので、磁気転写膜10のなるべく近くに配置されることが好ましい。例えば、磁気転写膜10の側方や、磁気転写膜10のレーザー光が照射される側の反対側、つまりレーザー光照射側から見た磁気転写膜10の背面等に設置されてもよい。また、この位置でなくても、磁気転写膜10に磁界が適切に印加されればよく、磁気転写膜10、VTR構造に応じて適宜変更されてよい。
【0036】
磁界印加手段130から、磁気転写膜10に磁界を印加することにより、磁気転写膜10の保磁力がノイズとならず、線形性を有する磁気特性の範囲で磁気転写を行うことができる。なお、この点の詳細については、後述する。
【0037】
ローラー140は、VTR150の磁気テープ151を走行させて磁気転写膜10の方向に送り出すための回転ガイド手段である。
【0038】
VTR150は、上述のように、映像、音声、その他の情報が磁気情報として記録された磁気記録手段である。磁気テープ151への磁気記録は、磁気テープ151に磁界の方向と大きさが記録されることにより行われてよい。VTRは、種々のフォーマットのVTRが適用されてよいが、例えば、放送用の最短記録波長が0.77〔μm〕であるD−3VTRが用いられてもよい。
【0039】
次に、図2を用いて、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの磁気転写膜10の構成及び機能の一例について説明する。図2は、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの磁気転写膜10の構成を拡大して示した図である。図2において、磁気転写膜10と磁気テープ151の位置関係は、図1とは上下が反対になって示されている。図2において、磁気転写膜10は、レーザーの入射側から順に、基板11と、転写層12と、反射層13と、保護層14とを備える。
【0040】
基板11は、転写層12、反射層13及び保護層14を支持する手段であり、例えば、カドリニウムガリウムガーネット基板(GGG基板)が適用されてもよい。
【0041】
転写層12は、磁気テープ151の漏れ磁界により磁化され、磁気テープ151に記録された磁気情報を磁化により転写する膜であり、例えば、磁性ガーネット膜が適用されてもよい。
【0042】
反射層13は、基板11側から照射され、基板11及び転写層12を透過したレーザー光を反射する膜であり、例えば、アルミニウム等の光反射性を有する金属が用いられてもよい。
【0043】
保護層14は、反射層13及び磁気テープ151の双方を保護するための膜であり、例えば、Ta(タンタル)やダイヤモンドライクカーボンが適用されてもよい。
【0044】
かかる構成において、磁気テープ151が保護層14に接触して走行しているときに、磁気テープ151からの漏れ磁界は、保護層14、反射層13を通過し、転写層12に達し、その漏れ磁界により、転写層12が磁化される。なお、磁気テープ151は、図1に示すように、走行方向に平行な方向に磁化されており、この磁化の変化で磁気情報を記録している。ここで、磁気テープ151の記録波長が大きい(磁化のNS極間の距離が長い)ときには、漏れ磁界が大きくなるが、磁気テープ151の記録波長が小さい(磁化のNS極間の距離が小さい)ときには、漏れ磁界が小さくなるという関係にある。
【0045】
図2において、対物レンズ40で集光されたレーザー光が、基板11及び転写層12を通過し、反射層13で反射されて再び転写層12及び基板11を通過するが、ファラデー効果により、転写層12を通過したレーザー光の偏光面が回転する。偏光面の回転方向は、転写層12の磁化の向き、すなわち磁気テープ151からの漏れ磁界の向きによって変わるので、偏光面の回転方向を検出することで、磁気テープ151の情報を読み出すことが可能になる。このような動作及び現象で、磁気テープ151の磁気情報を読み出して磁気テープ151の再生を行うことができるが、磁気テープ151の情報を高精度に読み出すためには、磁気情報が磁気転写膜10に正確に転写されることが必要である。
【0046】
図3は、参考例として、従来の磁気テープ再生光ヘッドによる従来の磁気テープの再生方法を説明するための図である。
【0047】
図3(A)は、磁気特性が良好な磁気転写膜10(サンプル1)の磁化曲線の一例を示した図である。図3(A)において、横軸は外部から印加される磁界強度H〔Oe〕、縦軸は磁気転写膜10の磁化強度M〔G〕を示している。図3(A)において、サンプル1の磁気転写膜10は、磁化強度M=0の点における保磁力Hcが小さく、小さな外部磁界Hに対しても、外側の線形領域(H<−Hc、Hc<Hの領域)を用いて、正確な磁気転写が可能な磁気特性となっていることが分かる。このように、保磁力Hcを低くすることができ、例えば、10〔Oe〕以下にすることができれば、漏れ磁界が小さい場合でも、正確な磁気転写は可能となる。しかし、実際には、磁気転写膜10の製作のバラツキから、図3(A)に示すような特性を有する磁気転写膜10を常に得ることは困難である。
【0048】
図3(B)は、磁気特性が良好ではない磁気転写膜10(サンプル2)の磁化曲線の一例を示した図である。図3(B)においても、横軸は外部から印加される磁界強度H〔Oe〕、縦軸は磁気転写膜10の磁化強度M〔G〕を示している。図3(B)において、サンプル2の磁気転写膜10は、磁化強度M=0の点における保磁力Hcが大きくなり、外部磁界Hに対して、非線形の領域が増加している。外部磁界Hが、外側の線形領域(H<−Hc、Hc<Hの領域)においては、正確に外部磁界Hを転写することができるが、保磁力Hcよりも小さい外部磁界に対しては、正確に外部磁界Hを転写できないこととなる。
【0049】
図3(C)は、図3(A)に示す磁気特性を有する磁気転写膜10(サンプル1)と図3(B)に示す磁気特性を有する磁気転写膜10(サンプル2)に対して、D−3VTRの磁気テープ151を用いた場合の、最短記録波長(0.77〔μm〕)の繰り返しの再生スペクトルを示した図である。図3(C)において、横軸は周波数〔MHz〕、縦軸は出力〔dBm〕を示している。図3(C)において、サンプル1とサンプル2の再生スペクトルを比較すると、磁気特性の良好なサンプル1は、−80〔dBm〕レベルの小さな値も出力することが可能であるが、磁気特性の良好でないサンプル2においては、−70〔dBm〕レベルの値が出力下限となっている。よって、サンプル1において記録されている0.1〜0.2〔MHz〕の範囲の−70〔dBm〕以下の5個前後のピークは、サンプル2においては、−70〔dBm〕付近の単なるノイズとなっており、これ以下の小さなピークを出力できていないことが分かる。
【0050】
このように、保磁力Hcが十分に低くないと、従来の磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法では、正確な磁気転写を行うことができないことが分かる。
【0051】
図4は、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの磁界印加手段130及びその周辺の構成の一例を示した図である。図4(A)は、磁気印加手段130及びその周辺の構成の一例を示す側面図であり、図4(B)は、磁気印加手段130の構成の一例を示す斜視図である。
【0052】
図4(A)において、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッドの磁界印加手段130が、磁気転写膜10のレーザー光照射側と反対側の背面に設置された例が示されている。磁界印加手段130は、磁気転写膜10に、磁気テープ151からの漏れ磁界が加わって、線形領域で動作する外部磁界を印加することができれば、種々の構成とすることができるが、図4(A)においては、電磁石130aを用いて磁界印加手段130を構成している。電磁石130aは、磁気テープ密着手段120の背面に設けられている。これにより、磁気転写膜10に、背面側から外部磁界を印加することができ、前面側のレーザー光の照射に、何ら影響を与えることが無い。また、磁気テープ密着手段120の表面には、フェルト121が設けられ、磁気テープ151を保護している。また、磁気テープ151は、縦方向にはフェルト121に覆われた磁気テープ密着手段120と磁気転写膜10に挟まれて、横方向に磁気転写膜10を擦るように走行している。よって、磁気テープ密着手段120の背面は、磁気テープ151の走行も妨げず、磁気転写膜10との距離も近い位置であるので、磁界印加手段130である電磁石130aを設置するのに好ましいスペースとなっている。かかる観点から、図4(A)においては、設置容易で磁気転写膜10との距離の近い磁気転写膜10の背面側に電磁石130aを設置している。
【0053】
電磁石130aは、鉄心131、コイル132及び直流電源133等の、電磁石130aを構成するのに必要な構成要素を含んで構成される。また、直流電源133の極性は、上側が正極、下側が負極に設定されているが、逆の極性であってもよい。直流電源133の極性を逆にすると、磁気転写膜10に印加する磁界の向きが逆になるので、用途に応じて、適切な向きの外部磁界を印加するようにしてよい。
【0054】
図4(B)においては、電磁石130a及びフェルト121の斜視図が示されている。図4(B)に示すように、電磁石130aは、小型に構成でき、また十分な外部磁界を生成することができるので、磁界印加手段130として、好適に用いることができる。
【0055】
なお、図4においては、磁界印加手段130として、電磁石130aを用い、磁気転写膜10のレーザー光照射側と反対側に設置した例を挙げて説明したが、磁界印加手段130に他の種類の磁界発生手段が適用されてもよいし、磁界印加手段130の位置も、磁気転写膜10の側方等、磁気転写膜10に線形領域で動作する大きさの外部磁界を供給することができれば、任意の位置とすることができる。
【0056】
図5は、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法による再生結果を説明するための図である。
【0057】
図5(A)は、図3(B)において説明した磁気特性を有するサンプル2の磁気転写膜10を用いて、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法を適用した例を示した図である。図3と同様に、横軸は外部磁界H〔Oe〕の大きさ、縦軸は磁化強度M〔G〕の大きさを示している。
【0058】
図5(A)において、サンプル2の磁気転写膜10の磁化特性は、図3(B)と同様に、磁化強度M=0の点における保磁力Hcは大きいが、外部磁界Hout〔Oe〕を印加することにより、磁界の動作点を保磁力Hcよりも大きい外部磁界Hout〔Oe〕の点に移動させ、線形領域で磁気情報の転写を行うことができるようにしている。つまり、磁気テープ151からの漏れ磁界が0の場合には、磁気転写膜10の動作点はHout〔Oe〕となり、ここを動作点として、磁気テープ151からの漏れ磁界を転写する。よって、保磁力Hcよりも外側の線形領域で、磁気テープ151からの漏れ磁界を検出して転写することができる。なお、図5(A)において、Hout〔Oe〕は、[−保磁力Hc+磁気テープ151からの漏れ磁界の最大値]を超えている値であれば、種々の値に設定することができる。
【0059】
なお、図5(A)においては、外部磁界Hout〔Oe〕を正極性とした例を示しているが、負極性としてもよい。その場合にも、絶対値が保磁力Hcを超える外部磁界Hout〔Oe〕を印加することにより、第4象限の線形領域で漏れ磁界を検出及び転写することが可能となる。
【0060】
図5(B)は、図5(A)の状態で、図3(C)と同様に、放送用D−3VTRの最短記録波長である0.77〔μm〕の繰り返し信号を再生した結果を示した図である。図5(B)において、横軸は周波数〔MHz〕、縦軸は出力〔dBm〕を示しており、印加された外部磁界Houtは50〔Oe〕である。
【0061】
図5(B)において、外部磁界Hout〔Oe〕を加えていないサンプル2の再生スペクトルと、外部磁界±Hout〔Oe〕を加えたサンプル2の再生スペクトルとが比較されて示されている。外部磁界Hout〔Oe〕が印加されていない従来方式の再生スペクトルが、−70〔dBm〕付近が出力の最低レベルである。これに対し、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法による、外部磁界Hout〔Oe〕を印加した再生スペクトルにおいては、−80〔dBm〕付近まで出力の最低レベルを下げることができている。また、両者のCN比(Carrier to Noise ratio)を比較すると、従来の外部磁界を印加しない再生スペクトルのCN比は21〔dB〕程度であったのに対し、本実施例に係る磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープの再生方法の再生スペクトルのCN比は、26〔dB〕と、5〔dB〕の改善がなされた。実験は、正極性の外部磁界+Hout〔Oe〕を印加した場合と、負極性の外部磁界−Hout〔Oe〕を印加した場合の双方について行われたが、双方とも、同様にCN比が5〔dB〕改善された結果を示している。よって、外部磁界Hout〔Oe〕は、正極性も負極性も、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0062】
このように、磁界印加手段130により外部磁界Houtを磁気転写膜10に印加するだけで、転写性能を大きく改善することができる。また、保磁力Hcを抑制した磁気転写膜10を、高コストをかけて作製する必要が無くなり、磁気転写膜10の製造コストを低減させることができる。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、磁気テープを再生する磁気テープ再生光ヘッド及び磁気テープ再生装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 磁気転写膜
11 基板
12 転写層
13 反射層
14 保護層
20 レーザー光源
30 無偏光ビームスプリッタ
40 対物レンズ
50 レーザー光照射手段
60、61 ミラー
70 λ/2波長板
80 偏光ビームスプリッタ
90、91 光検出器
100 差動アンプ
110 磁気情報検出手段
120 磁気テープ密着手段
121 フェルト
130、130a 磁界印加手段
131 鉄心
132 コイル
133 直流電源
140 ローラー
150 VTR
151 磁気テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気テープに記録された磁気情報を転写する磁気転写膜と、
該磁気転写膜にレーザー光を集光して照射するレーザー光照射手段と、
前記レーザー光の照射による前記磁気転写膜からの反射光を検出し、前記磁気情報を検出して読み出す磁気情報検出手段と、
前記磁気転写膜に外部磁界を印加する磁界印加手段と、を含むことを特徴とする磁気テープ再生光ヘッド。
【請求項2】
前記外部磁界の大きさは、前記磁気テープからの漏れ磁界の最大値から前記磁気転写膜の保磁力を引いた値よりも大であることを特徴とする請求項1に記載の磁気テープ再生光ヘッド。
【請求項3】
前記磁界印加手段は、前記磁気転写膜の背面に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の磁気テープ再生光ヘッド。
【請求項4】
前記磁界印加手段は、電磁石であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気テープ再生光ヘッド。
【請求項5】
磁気テープに記録された磁気情報を磁気転写膜に転写し、該磁気転写膜にレーザー光を集光して照射し、反射光を検出することにより、前記磁気情報を読み出す磁気テープの再生方法であって、
前記磁気転写膜に外部磁界を印加した状態で、前記磁気情報の転写を行うことを特徴とする磁気テープの再生方法。
【請求項6】
前記外部磁界は、前記磁気転写膜に対して、前記磁気転写膜の前記レーザー光が照射される側の反対側から印加されることを特徴とする請求項5に記載の磁気テープの再生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−277671(P2010−277671A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132184(P2009−132184)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】