説明

磁気ディスクおよび情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】高温で磁気記録層を形成できる磁気ディスクの製造方法の提供。
【解決手段】温度が550℃以上であるガラス基板の上に磁気記録層を形成する工程を有する磁気ディスクの製造方法であって、ガラス基板がモル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを6〜18%、Bを7〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、SiOおよびAlの含有量合計が70%以上、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しないものである磁気ディスクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク、光ディスク等の情報記録媒体に用いられるガラス基板の製造方法および磁気ディスクの製造方法に関し、特には高温で磁気記録層を形成する磁気ディスクの製造方法およびそのような製造方法に好適なガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブの記録容量の増大に伴い、高記録密度化がハイペースで進行している。しかし、高記録密度化に伴い、磁性粒子の微細化が熱安定性を損ない、クロストークや再生信号のSN比低下が問題となっている。そこで、光と磁気の融合技術として熱アシスト磁気記録技術が注目されている。これは、磁気記録層にレーザ光や近接場光を照射して局所的に加熱した部分の保磁力を低下させた状態で外部磁界を印加して記録し、GMR素子等で記録磁化を読み出す技術であり、高保持力媒体に記録できるため、熱安定性を保ちながら磁性粒子を微細化することが可能となる。しかし、高保持力媒体を多層膜にして成膜するには、基板を十分に加熱する必要があり、高耐熱基板が求められる。
【0003】
また、垂直磁気記録方式においても高記録密度化の要求に応えるべく従来のものとは異なる磁気記録層が提案されているが、そのような磁気記録層の形成は基板を高温にして行う必要があることが多い。
ところで、先に述べた熱アシスト磁気記録技術に対応できる基板としてシリコン基板が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−199633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコン基板にはガラス基板に比べて一般的に強度の点で懸念がある。したがって、基板を高温にして磁気記録層を形成する磁気ディスクの製造においてもガラス基板を用いるようにすることが好ましい。
本発明はこのような磁気ディスクの製造方法およびそのような製造方法に好適な情報記録媒体用ガラス基板を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、温度が550℃以上であるガラス基板の上に磁気記録層を形成する工程を有する磁気ディスクの製造方法であって、ガラス基板がモル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを6〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しないものである磁気ディスクの製造方法(以下、第1の方法という。)を提供する。
【0007】
また、当該ガラス基板におけるAl含有量は典型的には7モル%以上であり、第1の方法のこの典型的な態様において、ガラス基板がSiOを65〜69%、Alを9〜12%、Bを7〜12%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で10〜16%含有するものを提供する。
【0008】
また、温度が550℃以上であるガラス基板の上に磁気記録層を形成する工程を有する磁気ディスクの製造方法であって、ガラス基板がモル百分率表示で、SiOを67〜72%、Alを11〜14%、Bを0〜2%未満、MgOを4〜9%、CaOを4〜6%、SrOを1〜6%、BaOを0〜5%含有し、MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量合計が14〜18%、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しないものである磁気ディスクの製造方法(以下、第2の方法という。)を提供する。なお、「Bを0〜2%未満含有する」とは、Bを0%以上2%未満含有する、の意である。
【0009】
また、モル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜16%含有し、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない情報記録媒体用ガラス基板(以下、ガラス基板Aという。)を提供する。
【0010】
また、モル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを7〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない情報記録媒体用ガラス基板(以下、ガラス基板Bという。)を提供する。
【0011】
また、モル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、SrOおよびBaOの含有量の合計のB含有量に対する比(SrO+BaO)/Bが1.2以下かつ上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない情報記録媒体用ガラス基板(以下、ガラス基板Cという。)を提供する。
【0012】
本発明は、これらガラス基板に係る発明は、磁気記録層を形成する磁気ディスクの製造において基板を高温にできるようにするだけでなく、次に述べるようにガラス基板が割れにくくすることも目的とするものである。
【0013】
すなわち、情報記録媒体は持ち運びされる時や使用中などに誤って床などに落とされることが多いが、情報記録媒体の基板としてガラス基板が用いられている場合にはその衝撃でガラス基板が割れる問題があった。
【0014】
本発明者はこの問題を調べるために後述する例4、15、16の基板ガラスからなるガラス基板(ただし、例15のガラス基板は化学強化されたもの)について後述するように、破壊靭性S(単位:MPa・m1/2)およびクラック発生率p(単位:%)を測定し、また、これらガラス基板をマイクロドライブ(PCカード型の超小型ハードディスク)にセットし耐衝撃性指標S150、S175を測定した。結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
通常のガラス製品の耐衝撃性はそのガラスの破壊靭性とともに増大するが、磁気ディスク用ガラス基板においては破壊靭性が増大しても耐衝撃性は必ずしも増大せず、クラック発生率の減少とともに耐衝撃性が増大することがわかった。
また、耐衝撃性指標を測定する際に割れたガラス基板の破壊起点を調べたところ、通常のガラス板などでは傷の多い端部に破壊起点が存在するが、磁気ディスク用ガラス基板においては主表面のクランプやスペーサーとの接触部に破壊起点が存在することがわかった。これは、主表面は記録面であり傷などの欠点は本来存在しないはずのため、落下衝撃により新たな傷が発生し、それが破壊起点になったと考えられる。この事実は、破壊靭性ではなくクラック発生率と耐衝撃性との間に関係があるという前記事実と符合するものである。
【0017】
なお、例15の化学強化されたガラス基板は磁気ディスクに従来用いられているものであるが、徐冷点が500℃と低く熱アシスト磁気記録技術に適用できない。
【0018】
本発明者は先に述べたような事実を見出し、熱アシスト磁気記録技術に適用でき、かつ、クラック発生率が従来の磁気ディスク用ガラス基板と同程度またはそれよりも小さいガラス基板の提供を目的とする本発明のガラス基板の発明をなすに至った。
【0019】
また、本発明は、ガラス板をガラス円板に加工する円板加工工程、ガラス円板の主表面をラッピングするラッピング工程、ガラス円板のラッピングされた主表面を研磨する主表面研磨工程およびこれら工程間、これら工程内もしくはこれら工程後においてガラス円板を洗浄する洗浄工程を有する情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、ガラス板がモル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しないものである情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【0020】
また、ガラス板をガラス円板に加工する円板加工工程、ガラス円板の主表面をラッピングするラッピング工程、ガラス円板のラッピングされた主表面を研磨する主表面研磨工程およびこれら工程間、これら工程内もしくはこれら工程後においてガラス円板を洗浄する洗浄工程を有する情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、ガラス板がモル百分率表示で、SiOを67〜72%、Alを11〜14%、Bを0〜2%未満、MgOを4〜9%、CaOを4〜6%、SrOを1〜6%、BaOを0〜5%含有し、MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量合計が14〜18%、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しないものである情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【0021】
前記情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、ガラス円板は中央に孔を有するいわゆるドーナツ形状のものでもよいし、孔を有さないものでもよい。また、端面については通常は面取り加工が行われる他、エッチング処理や鏡面研磨が行われることがある。
【0022】
また、ガラス板の徐冷点が650℃以上である前記情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
また、フロート法またはダウンドロー法を用いてガラス板を製造する前記磁気ディスクの製造方法を提供する。ダウンドロー法としてはたとえばフュージョン法やスリットダウンドロー法が挙げられる。
また、情報記録媒体が磁気ディスクである前記情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ガラス基板に高温で磁気記録層を形成できるので磁気ディスクの高密度化が可能になる。
また、このようなガラス基板を製造することが可能になる。
また、高温で磁気記録層を形成できるだけでなく、クラック発生率が小さく耐衝撃性に優れる可能性が高い情報記録媒体用ガラス基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の磁気ディスクの製造方法における磁気記録層の材料としてはFePtやSmCoが典型的である。
このような磁気記録層はガラス基板の温度を550℃以上にしてその上に形成されるが、その温度は必要に応じてたとえば600℃以上または650℃以上にすることが求められる。なお、その温度は通常750℃以下とされる。
本発明の磁気ディスクの製造方法においては、必要に応じて、ガラス基板と磁気記録層の間に下地層などの層が形成され、また、必要に応じて、磁気記録層の上に保護膜などの層が形成される。
【0025】
本発明の磁気ディスクの製造方法で用いられるガラス基板を構成するガラス(以下、基板ガラスということがある。)および本発明のガラス基板の徐冷点Tは650℃以上であることが好ましい。650℃未満では磁気記録層形成時にガラスが反り、正常に読み書きできなくなるおそれがある。より好ましくは680℃以上、特に好ましくは700℃以上であり、典型的には750℃以下である。
【0026】
基板ガラスのクラック発生率p(単位:%)は70%以下であることが好ましい。70%超では従来使用されているガラス基板(後述する例15のガラスを化学強化したもの)よりもガラスに傷がつきやすくなる、すなわち応力集中が起こりやすくなる。その結果、弱い応力で脆性的破壊が起こりやすくなる。pは、より好ましくは50%以下、特に好ましくは30%以下、最も好ましくは10%以下である。
【0027】
クラック発生率pは次のようにして測定される。
ガラスを平均粒径2μmの酸化セリウム砥粒で研磨後、平均粒径20nmのコロイダルシリカ砥粒で研磨し、厚さが1〜2mm、大きさが4cm×4cm、表面粗さRaが0.15nm以下であるガラス板を作製し、これを徐冷点もしくはガラス転移点で30分保持後、1℃/分またはそれ以下の速度で室温まで冷却した。このガラス板の表面に、23℃、相対湿度70%に制御した室内において荷重1000gでビッカース圧子を打ち込み、その4つの頂点から発生したクラック本数を測定する。この測定を10回繰り返し、100×(前記クラック本数の合計)÷40をpとする。
【0028】
基板ガラスの耐酸性は、0.1mg/cm以下であることが好ましい。0.1mg/cm超では酸を用いる研磨や洗浄の工程で面荒れが起こるおそれがある。
【0029】
第1の方法で用いられるガラス基板は先に述べたように、モル百分率表示組成が、SiO:62〜74%、Al:6〜18%、B:2〜15%、MgO+CaO+SrO+BaO(以下、ROと略記する):8〜21%、SiO+Al+B+RO≧95%、LiO+NaO+KO<1%であるガラスからなる。
【0030】
このガラスであってAlが7モル%以上であるもの(以下、ガラス1という。)は前記pを小さくしてガラスを傷つきにくくしたい場合に好適な基板ガラスである。
【0031】
前記ガラス基板A、B、Cを構成するガラス(以下、それぞれをガラスA、B、Cという。)はいずれもガラス1に該当し、ガラスを傷つきにくくしたい場合に特に好適な基板ガラスである。
【0032】
ガラス1の密度は、好ましくは2.57g/cm以下、典型的には2.52g/cm以下である。2.57g/cm超ではガラスが傷つきやすくなるおそれがある。
次にガラス1およびガラスA、B、Cの組成について説明する。まず、ガラス1について説明し、その後に、ガラスA、BまたはCとガラス1とで異なる部分があればその部分について説明する。なお、以下の組成の説明では特に断らない限りモル%を単に%と表示する。
【0033】
SiOは必須成分である。SiOが62%未満ではガラスが傷つきやすくなり、好ましくは63%以上、より好ましくは65%以上である。一方、SiOが74%を超えると溶解性が低下し、ガラス製造が困難になり、好ましくは71%以下、より好ましくは69%以下である。
Alは必須成分である。Alが7%未満ではガラスが分相しやすくなって基板を加工・洗浄した後に平滑な表面を維持できなくなり、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがあり、好ましくは7.5%以上、より好ましくは9%以上である。一方、Alが18%を超えると溶解性が低下し、ガラス製造が困難になり、好ましくは16%以下、より好ましくは12%以下である。
【0034】
なお、ガラスをより傷つきにくくするには、SiOおよびAlの含有量の合計が70%以上であることが好ましく、より好ましくは72%以上である。
【0035】
はガラスの傷つきやすさや溶解性を改善する効果があり、必須である。Bが2%未満ではガラスの溶解性が低下し、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、特に好ましくは7.3%以上である。なお、ガラスBにおいては7%以上とされる。質量百分率表示ではBは典型的には8%超である。一方、Bが15%を超えるとガラスが分相しやすくなって基板を加工・洗浄した後に平滑な表面を維持できなくなり、好ましくは14%以下、より好ましくは12%以下である。
【0036】
MgO、CaO、SrOおよびBaOはガラスの溶解性を改善する成分であり、いずれか1成分以上を含有しなければならない。これら成分の含有量合計ROが8%未満ではガラスの溶解性が低下してガラス製造が困難になり、好ましくは9%以上、より好ましくは10%以上である。一方、ROが21%を超えるとガラスが傷つきやすくなり、好ましくは18%以下、より好ましくは16%以下である。なお、ガラスAにおいてはROは16%以下とされ、典型的には15%以下である。
【0037】
これら4成分の内MgOおよびCaOの少なくともいずれか一方を3%以上含有することが好ましい。MgOおよびCaOの含有量の合計MgO+CaOが3%未満ではガラスの溶解が困難になるおそれがある、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがある。しかし、MgO+CaOが18%超では失透温度が高くなり成形が困難になるおそれがあるので18%以上であることが好ましい。
MgOを含有する場合その含有量は典型的には8%以下であり、CaOを含有する場合その含有量は典型的には10%以下である。
【0038】
SrOおよびBaOはアルカリ土類金属酸化物の中ではガラスをより傷つきやすくする成分であるので、SrOまたはBaOを含有する場合それらの含有量の合計SrO+BaOは9%以下であることが好ましい。
また、SrO+BaOと、ガラスを傷つきにくくする成分であるBの含有量との比(SrO+BaO)/Bは1.2以下であることが好ましく、ガラスCにおいては(SrO+BaO)/Bは1.2以下とされる。
【0039】
ガラス1、A、BおよびCは本質的に上記7成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。ただし、その場合であってもそれら成分の含有量の合計は5%未満である。上記7成分以外の成分の含有量の合計が5%以上ではガラスが傷つきやすくなるおそれがある。以下では上記7成分以外の成分について例示的に説明する。
【0040】
ZnOはMgO、CaO、SrO、BaOと同様の効果を奏する成分であり、5%以下の範囲で含有してもよい。ZnOの含有量とROの合計は8〜21%であることが好ましく、より好ましくは16%以下、典型的には10〜16%である。質量百分率表示では前記合計は18%以下が典型的である。
【0041】
LiO、NaOおよびKOはTを低下させるので、これら3成分の含有量の合計は0%であるか1%未満とされる。
【0042】
VなどTiよりも原子番号が大きな原子の酸化物はガラスを傷つきやすくするおそれがあるので、これら酸化物を含有する場合にはそれらの含有量の合計は3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.3%以下である。
SO、F、Cl、As、Sb、SnO等は清澄剤として代表的な成分である。
【0043】
第2の方法で用いられるガラス基板は先に述べたように、SiO:67〜72%、Al:11〜14%、B:0〜2%未満、MgO:4〜9%、CaO:4〜6%、SrO:1〜6%、BaO:0〜5%、RO:14〜18%、SiO+Al+B+RO≧95%、LiO+NaO+KO<1%であるガラス(以下、ガラス2という。)からなる。
【0044】
ガラス2はTまたは耐酸性を高くしたい場合に好適な基板ガラスである。
【0045】
次にガラス2の組成について説明する。
SiOは必須成分である。67%未満ではガラスが傷つきやすくなる。一方、72%を超えると溶解性が低下し、ガラス製造が困難になる。
Alは必須成分である。11%未満ではガラスが分相しやすくなり、基板を加工・洗浄した後に平滑な表面を維持できなくなる、またはガラスが傷つきやすくなるおそれがある。一方、14%を超えると溶解性が低下し、ガラス製造が困難になる。
【0046】
は必須成分ではないが、ガラスの傷つきやすさや溶解性を改善する効果があり、2%未満の範囲で含有してもよい。2%以上では耐酸性またはTが低下するおそれがある。
【0047】
MgO、CaOおよびSrOはガラスの溶解性を改善する成分であり、必須である。MgO、CaO、SrOの各含有量がそれぞれ4%未満、4%未満、1%未満では溶解性が低下する。MgO、CaO、SrOの各含有量がそれぞれ9%超、6%超、6%超ではガラスが傷つきやすくなる。
【0048】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの溶解性を改善する効果があり、5%以下の範囲で含有してもよい。5%超ではガラスが傷つきやすくなる。
ROが14%未満ではガラスの溶解性が低下し、ガラス製造が困難になる。一方、ROが18%を超えるとガラスが傷つきやすくなる。
【0049】
ガラス2は本質的に上記7成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を合計で5%未満であれば含有してもよい。上記7成分以外の成分の含有量の合計が5%以上ではガラスが傷つきやすくなる。以下では上記7成分以外の成分について例示的に説明する。
【0050】
ZnOはMgO、CaO、SrO、BaOと同様の効果を奏する成分であり、5%以下の範囲で含有してもよい。ZnOの含有量とROの合計は8〜21%であることが好ましく、より好ましくは10〜16%である。
LiO、NaOおよびKOはTを低下させるので、これら3成分の含有量の合計は0%であるか1%未満とされる。
【0051】
VなどTiよりも原子番号が大きな原子の酸化物はガラスを傷つきやすくするおそれがあるので、これら酸化物を含有する場合にはそれらの含有量の合計は3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.3%以下である。
SO、F、Cl、As、Sb、SnO等は清澄剤として代表的な成分である。
【実施例】
【0052】
表2中のSiO〜BaO、及び表3中のSiO〜KOの欄にモル百分率表示で示す組成を有する17種のガラスを用意した。これらガラスについて、線膨張係数α(単位:10−7/℃)、密度d(単位:g/cm)、ヤング率E(単位:GPa)、比弾性率E/d(単位:MNm/kg)、耐酸性指標A(単位:mg/cm)、歪点TStr(単位:℃)、徐冷点T(単位:℃)、粘度が10dPa・sとなる温度T(単位:℃)、粘度が10dPa・sとなる温度T(単位:℃)、破壊靱性St(単位:MPa・m1/2)、クラック発生率p(単位:%)を測定または算出した。*を付したものは組成から計算または推定した値である。
【0053】
上記測定は、pは前記のようにして、その他のものは次のようにして行った。
線膨張係数:示差熱膨張計を用いて、石英ガラスを参照試料として室温から5℃/分の速度で昇温した際のガラスの伸び率をガラスが軟化してもはや伸びが観測されなくなる温度すなわち屈伏点まで測定し、得られた熱膨張曲線から50〜350℃における平均線膨張係数を算出した。
密度:泡のないガラス20〜50gについて、アルキメデス法にて測定した。
ヤング率:厚さが5〜10mm、大きさが3cm×3cmのガラス板について、超音波パルス法により測定した。
耐酸性:ガラスを90℃、0.1N塩酸に20時間浸漬した時の重量減少量を測定し、これを試料表面積で除して求めた。
【0054】
歪点、徐冷点:JIS R3103に準じて測定した。
、T:回転粘度計により測定した。
【0055】
破壊靱性S:JIS R1607で規定される圧子圧入法(IF法)に準じて測定した。
【0056】
例1〜14は本発明で用いられる基板ガラスであり、このうち例1〜13は前記ガラス1であり、そのうちの例1〜11は耐衝撃性に優れ、例14は前記ガラス2であり耐酸性に優れる。
例15〜17は比較のための基板ガラスであり、例15のpの測定は化学強化したガラスについて行った。
【0057】
また、例4、15、16については耐衝撃性指標S150、耐衝撃性指標S175を次のようにして測定した。
【0058】
150:外径27mmのディスク形状に加工したガラス板をIBM社製マイクロドライブにセットし、このマイクロドライブを150cmの高さから精密石定盤に落下させた。ガラス板が割れなかった場合は再度同じ高さからマイクロドライブを同定盤に落下させ、ガラス板が割れるまでの落下回数を調べる試験を行った。この試験を5回行い、前記落下回数の平均を算出し、耐衝撃性指標S150とした。
175:ガラス板を175cmの高さから落下させる以外はS150を求める場合と同様にして耐衝撃性指標S175を求めた。
本発明者は、先に述べたようにこの結果から、耐衝撃性指標S150、S175は破壊靱性Sとではなくクラック発生率pとの間に相関が認められることを見出した。
また、表4、5に例1〜17のガラスの質量百分率表示組成を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は磁気ディスクおよび情報記録媒体用ガラス基板の製造に利用できる。
【0064】
なお、2010年4月27日に出願された日本特許出願2010−102092号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度が550℃以上であるガラス基板の上に磁気記録層を形成する工程を有する磁気ディスクの製造方法であって、
ガラス基板がモル百分率表示で、SiOを62〜74%、Alを6〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、SiOおよびAlの含有量合計が70%以上、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しないものである磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
ガラス基板が、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で16%以下含有する請求項1の磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
ガラス基板が、MgOおよびCaOのいずれか1成分以上を合計で3%以上含有する請求項1または2の磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
ガラス基板が、MgOおよびCaOのいずれか1成分以上を合計で3〜18%含有する請求項1または2の磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
ガラス基板が、Alを7%以上含有する請求項1〜4のいずれかの磁気ディスクの製造方法。
【請求項6】
ガラス基板が、Bを7%以上含有する請求項1〜5のいずれかの磁気ディスクの製造方法。
【請求項7】
ガラス基板が、SiOを65〜69%、Alを9〜12%、Bを7〜12%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で10〜16%含有する請求項1または3の磁気ディスクの製造方法。
【請求項8】
ガラス基板におけるSrOおよびBaOの含有量の合計のB含有量に対する比((SrO+BaO)/B)が1.2以下である請求項1〜7のいずれかの磁気ディスクの製造方法。
【請求項9】
ガラス基板が、質量百分率表示でBを8%超含有する請求項1〜8のいずれかの磁気ディスクの製造方法。
【請求項10】
ガラス基板の密度が2.57g/cm以下である請求項1〜9のいずれかの磁気ディスクの製造方法。
【請求項11】
ガラス基板の徐冷点が650℃以上である請求項1〜10のいずれかの磁気ディスクの製造方法。
【請求項12】
SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを2〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜16%含有し、SiOおよびAlの含有量合計が70%以上、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項13】
を7%以上含有する請求項12の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項14】
SiOを62〜74%、Alを7〜18%、Bを7〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOのいずれか1成分以上を合計で8〜21%含有し、SiOおよびAlの含有量合計が70%以上、上記7成分の含有量合計が95%以上であり、LiO、NaOおよびKOのいずれか1成分以上を合計で1%未満含有する、もしくはこれら3成分のいずれも含有しない情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項15】
MgOおよびCaOのいずれか1成分以上を合計で3%以上含有する請求項12、13または14の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項16】
SrOおよびBaOの含有量の合計のB含有量に対する比(SrO+BaO)/Bが1.2以下である請求項12、13、14または15の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項17】
含有量が質量百分率表示で8%超である請求項12〜16のいずれかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項18】
徐冷点が650℃以上である請求項12〜17のいずれかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項19】
密度が2.57g/cm以下である請求項12〜18のいずれかの情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項20】
情報記録媒体が磁気ディスクである請求項12〜19のいずれかの情報記録媒体用ガラス基板。

【公開番号】特開2012−111692(P2012−111692A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−50568(P2012−50568)
【出願日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【分割の表示】特願2011−532441(P2011−532441)の分割
【原出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】