説明

磁気ディスクにおけるサーボパターンの形成方法およびストレージ

【課題】十分に振幅の大きいサーボ信号が得られ且つ高記録密度化に有利なディスクリートトラック型の磁気ディスクの提供を目的とする。
【解決手段】磁気記録のためのユーザデータ領域とサーボ制御のためのサーボ領域とが周方向に沿って交互に配置されたディスクリートトラック型の磁気ディスクにおけるサーボパターンの形成方法であって、複数のユーザデータ領域にトラッキング用の磁気パターンを転写し、回転させた前記磁気ディスクにおける1つのユーザデータ領域内の1つの記録トラックから前記磁気パターンを読み取ってトラッキングしながら当該記録トラックをトレースし、それによって当該記録トラックの径方向位置を検知し、検知した径方向位置に基づいて磁気ヘッドを位置決めして、前記1つのユーザデータ領域に隣接したサーボ領域に前記磁気ヘッドによって磁気サーボパターンを記録することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクリートトラック型の磁気ディスクにおけるサーボ制御のためのサーボパターンの形成方法およびサーボパターンを形成する動作モードをもつストレージに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの外部記憶手段(ストレージ)として広く用いられるハードディスク装置において、面記録方式(長手記録方式)に代わって高記録密度化に有利な垂直記録方式が主流になりつつある。また、一層の高記録密度化に向けて、ディスクリートトラック型の磁気ディスクが本格的に採用されつつある。ディスクリートトラック型の磁気ディスクでは、隣接する記録トラック間の磁気的干渉がガードバンドと呼ばれる非磁性部によって抑えられるので、記録トラック幅および配列ピッチを小さくして記録トラック密度を高めることができる。
【0003】
ディスクリートトラック磁気ディスクにおいても、ガードバンドをもたない旧来型磁気ディスクと同様に、トラッキングおよび所望セクタへのアクセスのためのサーボパターンが必要である。このため、ディスク面が周方向に所定角度ずつ分割する形式でユーザデータ領域とサーボ領域とに区画され、放射状に並ぶ複数のサーボ領域のそれぞれにサーボパターンが形成される。サーボパターンは、トラッキングのためのマーク、クロック生成のためのマーク、およびアドレス情報を含む。周方向において所定間隔で離散的に配置されるサーボパターンにより、いわゆるサンプリングサーボ制御が行われる。
【0004】
ディスクリートトラック型の磁気ディスクでは、ユーザデータ領域におけるガードバンドの形成と同時にサーボ領域にサーボパターンを形成することができる。基板に積層した磁性層を所望パターンにエッチングし、得られた空隙に非磁性体を埋め込み、または空隙をそのまま非磁性部として残せばよい。形成されるサーボパターンは磁性部と非磁性部とで構成され、磁性部と非磁性部の配列(すなわち磁気の有無の組み合わせ)によってサーボ制御のためのビット情報を表す。ガードバンドとサーボパターンとをリソグラフィにより一括にパターニングするので、記録トラックに対してサーボパターンを高精度に位置決めすることができる。
【0005】
しかし、磁性部と非磁性部とで構成されるサーボパターンによって得られるサーボ信号の振幅は、記録トラックからのデータ読取り信号の振幅のほぼ1/2でしかない。それは、記録トラックでは表面に向かう上向きと背面に向かう下向きの2方向の磁化でデータを表すのに対して、サーボパターンでは上向きまたは下向きのいずれかである1方向の磁化の有無で情報を表すからである。サーボ制御の信頼性を高める上で、サーボ信号の振幅の大きいことが望ましい。
【0006】
サーボ信号の振幅の増大に関して、特開2004−110896号公報において、サーボ領域内に非磁性部で互いに分離される複数の磁性ブロック領域を設け、各磁性ブロック領域に複数ビットの磁化反転信号を記録することが提案されている。これによれば、サーボ信号として磁性ブロック領域の配列パターンに応じたバースト信号が得られ、その振幅は記録トラックからのデータ読取り信号と同等である。
【特許文献1】特開2004−110896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1で提案されたサーボパターンによれば、十分に振幅の大きいサーボ信号が得られるものの、記録密度の低下を招くという問題がある。例えば、トラックアドレスを表すビット列の各ビットに複数ビットの磁化反転信号が対応するので、単純に磁性部と非磁性部の組み合わせで情報を表すサーボパターンを設ける場合と比べてサーボ領域を大幅に拡げなければならない。その分、ユーザデータ領域が狭まる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、十分に振幅の大きいサーボ信号が得られ且つ高記録密度化に有利なディスクリートトラック型の磁気ディスクの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するサーボパターンの形成方法は、磁気記録のためのユーザデータ領域とサーボ制御のためのサーボ領域とが周方向に沿って交互に配置されたディスクリートトラック型の磁気ディスクに適用され、複数のユーザデータ領域にトラッキング用の磁気パターンを転写するステップと、回転させた前記磁気ディスクにおける1つのユーザデータ領域内の1つの記録トラックから前記磁気パターンを読み取ってトラッキングしながら当該記録トラックをトレースし、それによって当該記録トラックの径方向位置を検知するステップと、検知した径方向位置に基づいて磁気ヘッドを位置決めして、前記1つのユーザデータ領域に隣接したサーボ領域に前記磁気ヘッドによって磁気サーボパターンを記録するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、構造的に位置が決まっている記録トラックに対して位置決めされたサーボパターンを有するディスクリートトラック型の磁気ディスクを得ることができる。そして、サーボパターンが磁気パターンであることから、記録トラックからの読取り信号と同等の振幅をもつサーボ信号を得ることができる。さらに、記録トラックと同等の記録密度でサーボ制御に必要な所定のビット情報をサーボ領域に記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施において、垂直磁気記録の可能なディスクリートトラック型の磁気ディスクが好適である。まず、この種の磁気ディスクの基本的な構成を説明する。
【0012】
図1のように、磁気ディスク1における円環状のディスク面は、1周を所定角度ずつ分割する形式で複数のユーザデータ領域21と複数のサーボ領域22とに区画されている。ユーザデータ領域21およびサーボ領域22は周方向に交互に並ぶ。ユーザデータ領域21には同心円に沿うように径方向に一定のピッチで記録トラック24が設けられている。サーボ領域22には後述する方法によってサーボパターンが設けられる。
【0013】
図示の磁気ディスク1の構成は角速度一定(CAV)で回転する状態でのアクセスおよび回動式アームによるシーク動作に適合するものであるので、ユーザデータ領域21およびサーボ領域22はディスク面の外周に近づくほど拡がり、アーム先端の移動経路に沿うよう湾曲した形状をもつ。
【0014】
磁気ディスク1は図2に示される積層体である。図2では図1中の破線で囲まれた部分AAの断面が描かれている。磁気ディスク1において、ガラスまたは樹脂からなる基板10の上に、垂直記録の密度を高めるための軟磁性裏打ち層(SUL: Soft Under Layer)11、磁性層間の界面結合を良好にする中間層12、所定の保磁力をもつ記録層13、および保護膜16が順に積層されている。
【0015】
記録層13は、径方向M3において互いに離れた複数の硬磁性体14とそれらの間を埋める非磁性体15とで構成される。硬磁性体14は図2の紙面の表裏方向に延びる帯状にパターニングされており、各硬磁性体14が1つの記録トラック24に対応する。非磁性体15がガードバンドであり、隣接する記録トラック24を磁気的に分離する。なお、記録層13におけるサーボ領域22に対応する部分は硬磁性体14と同質の硬磁性体のみからなる。
【0016】
硬磁性体14の磁化の方向はディスク表面に対して垂直な方向、すなわち厚さ方向に沿った方向である。垂直記録用の磁気ヘッド43によって生じる磁界は、磁気ヘッド43から記録層13を貫通して軟磁性裏打ち層11に達し、軟磁性裏打ち層11内を紙面の表裏方向に沿って通り、再び記録層13を貫通して磁気ヘッド43に戻る。
【0017】
記録層13の形成方法は、中間層12上に硬磁性層を積層する工程、硬磁性層を部分的にエッチングする工程、エッチングで生じた凹部に非磁性体を埋め込む工程、および表面を平坦化する工程を含む。非磁性体の埋込みおよび表面平坦化を行うことにより、磁気ディスク1に対して相対移動する磁気ヘッド43の浮上状態を安定にすることができる。
【0018】
以上のように構成される磁気ディスク1において、積層工程が終了した時点では、記録層13が未フォーマット状態である。すなわち、サーボ領域22は、磁気ディスク1を記録媒体として使用する際に必要なサーボパターンを有していない。サーボパターンを用いてサーボ制御を行うことにより、所望の記録トラック24への正しいアクセスが可能となる。したがって、磁気ディスク1をストレージに組み付ける以前または組み付けた後に所定のサーボパターンを形成する必要がある。
【0019】
磁気ディスク1ではサーボ領域22に磁化方向の異なる2種の部分からなる磁気パターンを記録することにより、サーボパターンを形成することができる。ただし、その際に既にディスク面内の配置位置が確定している記録トラック24にサーボパターンを許容範囲内の精度で位置決めしなければならない。ガードバンドのない旧来型の磁気ディスクであれば、線記録方式または磁気転写方式によってサーボパターンを記録することによって記録トラックが画定される。しかし、ディスクリートトラック型である磁気ディスク1では、旧来型の場合と同様の線記録方式の手法でサーボパターンを記録すると、サーボパターンと記録トラックとに製造上の誤差やばらつきに起因した位置ずれの生じるおそれがある。また、磁気転写によるサーボパターン形成では、例えば200Gbit/inch2を超える高記録密度(狭トラックピッチ)の場合、転写用のプレートと磁気ディスクとを非現実的なナノメートルオーダの精度で位置合わせしなければならない。
【0020】
以下、磁気ディスク1におけるサーボパターンの形成方法を説明する。
【0021】
サーボパターンの形成では、トラッキングサーボ制御を行いながら記録トラック24をトレースする。トラッキングによって得られる記録トラック24の径方向位置情報に基づいて記録用の磁気ヘッドを位置決めし、線記録方式でサーボ領域22に所定の磁気パターン(サーボパターン)を記録する。1つの記録トラック24に対するサーボパターン形成が終わるごとにシーク動作を行って、全ての記録トラック24に対してサーボパターンを形成する。記録トラック24の径方向位置(以下、これをトラック位置という)は、ヘッド部32の初期位置とシーク動作の移動量とトラッキングの移動量とから間接的に検知される。
【0022】
記録トラック24の正確なトレースを可能にするため、あらかじめユーザデータ領域21にトラッキング用の磁気パターンを磁気転写によって記録しておく。磁気転写には図3に示すプレート2を転写マスタとして用いる。
【0023】
図3のように、プレート2は磁気ディスク1と同じ大きさの円環状であり、周方向に交互に並ぶ第1部分51と第2部分52とからなる放射状の転写パターンをもつ。第1部分51および第2部分52は、1周を均等に細かく分割するように配置され、角速度一定での回転および回動式アームによるシーク動作に適合する形状とされている。第1部分51の形状と第2部分52の形状は同一である。転写パターンの磁性については、第1部分51と第2部分52とがともに磁性体で且つ磁化の向きが反対である形態と、第1部分51または第2部分52が磁性体で他方が非磁性体である形態のどちらでもよい。
【0024】
プレート2を図4のように磁気ディスク1に重ねて、プレート2の転写パターンに応じた磁気パターンを磁気ディスク1に形成する。形成される磁気パターンは、ディスク面を周方向に沿ってトレースしたときにバースト信号が得られるものである。転写パターンが磁性体と非磁性体とで構成される場合は、プレート2を重ねる前に磁気ディスク1に直流着磁を行って磁性体14を一様に上向きまたは下向きに磁化させておき、プレート2を重ねた状態で反対方向の直流着磁を行って磁性体14の磁化の方向を部分的に反転させる。磁気転写はサーボパターン自体の転写ではなく且つユーザデータ領域21とサーボ領域22との区別を必要としないので、プレート2をミクロンオーダの精度で磁気ディスク1に位置合わせすれば十分である。
【0025】
サーボパターンの記録に使用する装置は、専用のフォーマット装置にであってもよいがそれに限らない。磁気ディスク1を記録媒体として実際に使用するストレージであってもよい。ただし、記録トラック24のトラッキングを可能にするヘッド部を備えていなければならない。
【0026】
図5に示すストレージ3は、磁気ディスク1を矢印M1の方向に回転させるスピンドルモータ31、磁気ディスク1にアクセスするためのヘッド部32、ヘッド部32を支持し且つ自身が回動可能なアーム33、アーム33を回動させるアクチュエータであるボイスコイルモータ34、およびこれらの動作を制御するコントローラ35を備える。コントローラ35は、プログラムを実行するプロセッサを含むハードウェアと、制御プログラムを含むソフトウェアとによって構成される。基本構成は公知のハードディスク装置と同様である。
【0027】
ストレージ3に備わるヘッド部32は、図6のようにスライダ40と一対の読取り用の磁気ヘッド(以下、リードヘッドという)41,42と、記録用の磁気ヘッド(以下、ライトヘッドという)43とから構成される。
【0028】
特徴的な要素である一対のリードヘッド41,42は、スライダ40におけるトレース方向M2の後端に配置され、径方向M3にずれている。トレース方向M2はディスク回転方向の反対方向であり、ヘッド走行方向とも呼ばれる。リードヘッド41,42の径方向M3の配置は、互いの中間位置が記録トラック24の幅方向の中央の真上に在るときに両方が同じレベルの信号を出力するように選定されている。
【0029】
ヘッド部32に代えて図7に示すヘッド部32bを採用することができる。ヘッド部32bでは、一対のリードヘッド41b、42bが部分的に重なるように配置されている。ヘッド部32bには、よりトラック幅の狭い磁気ディスクに適応可能であるという利点がある。
【0030】
ストレージ3に組み付けた時点の磁気ディスク1は、上述の磁気転写によって形成された図8に示すトラッキング用の磁気パターン60を有する。磁気パターン60は、プレート2の第1部分51と第2部分52とにそれぞれ対応する第1磁化部61および第2磁化部62からなり、ユーザデータ領域21およびサーボ領域22にわたって形成されている。サーボ領域22では第1磁化部61および第2磁化部62は径方向に延びる帯状であるが、ユーザデータ領域21では非磁性体(ガードバンド)15によって分断されて径方向に連続していない。
【0031】
図9のようにサーボパターン70の記録は、ヘッド部32によって記録トラック24をトレースしながら行う。ヘッド部32がユーザデータ領域21内に在るときに、一対のリードヘッド41,42の出力を比較するサーボ手法によってトラッキングを行い、ヘッド部32がサーボ領域22内に在るときに、ライトヘッド43によってサーボパターン70の垂直磁気記録を行う。サーボパターン70は垂直磁化方向が互いに反対である磁気マーク71,72からなる。一方の磁化が上向きで他方の磁化が下向きである。
【0032】
トラッキングサーボ制御は、オントラックで且つリードヘッド41,42の出力の差が零になるようにヘッド部32を径方向に微小移動させる。リードヘッド41,42の出力の差が零になるのは、ヘッド部32がオントラックの場合だけでない。オフトラックの場合にもリードヘッド41,42の出力の差が零になる。しかし、リードヘッド41,42と磁化された磁性体との対向面積が大きいほどリードヘッド41,42の出力レベルが大きいので、リードヘッド41,42の出力の“和”に基づいてオントラックであるかオフトラックであるかを判定することができる。あらかじめ出力の和と径方向の位置との関係を求めておけばよい。その関係は、トラック幅W1とガードバンド幅W2との大小関係、およびリードヘッド41,42の径方向の配列ピッチP3に依存する。例えば、トラック幅W1がガードバンド幅W2よりも大きく、且つ配列ピッチP3がトラック幅W1と等しいかまたは大きい場合(W1>W2,W1≦P3)は、オントラックのときよりもオフトラックのときの方がリードヘッド41,42の出力の和が大きい。W1>W2であっても、配列ピッチP3がトラック幅W1より小さい場合(W1>W2,W1>P3)は、オントラックのときの方がオフトラックのときよりもリードヘッド41,42の出力の和が大きい。
【0033】
このようにオントラックとオフトラックとの判別が可能であるので、ディスク面の内周部または外周部を非磁性領域としておき、その領域からヘッド部32を径方向に移動させていき、初めてオントラックになった時点から記録トラック24のトレースを始めればよい。その後は、1つの記録トラック24のトレースが終わるごとに所定ピッチだけ径方向に移動させれば、ある程度のずれはあるもののオントラックを保つことができる。
【0034】
トラッキングを行うことによって、ユーザデータ領域21からサーボ領域22に移るときのヘッド部32の径方向位置は、トレースを終えたばかりの記録トラック24のトラック位置に一致する。そのヘッド部32の径方向位置を保持しまたは適宜に補正してサーボ領域22にサーボパターン70を記録すれば、記録トラック24を基準として正しく位置決めされたサーボパターン70が得られる。
【0035】
ヘッド部32がユーザデータ領域21からサーボ領域22に移ったことは、リードヘッド41,42の出力の和を監視すれば判る。サーボ領域22ではリードヘッド41,42の全体が磁性体と対向するので、ユーザデータ領域21からサーボ領域22に移った時点でリードヘッド41,42の出力の和が大きくなる。また、同様の原理でサーボ領域22からユーザデータ領域21へ移った時点が判るので、ユーザデータ領域21へ移った時点から回転の角速度で決まるトラック通過時間が経過した時点を、ユーザデータ領域21からサーボ領域22に移った時点としてもよい。
【0036】
図10は第1実施形態における記憶トラック24とサーボパターンとの対応を示す。図10および以下の説明ではディスク面がn個のセクタからなり、各セクタにユーザデータ領域21およびサーボ領域22の組が対応するものとする。
【0037】
第1実施形態は、ヘッド部32がユーザデータ領域21からサーボ領域22に移った時点の径方向位置にライトヘッド43を位置決めしてサーボパターン70を記録する形態である。第1実施形態には、サーボパターン70を記録するための制御が簡単であるという利点がある。
【0038】
図10(A)のとおり、サーボパターン70の形成に際して、サーボパターン70はそれのトレースの直前にトレースしたユーザデータ領域21(トレースの上流側のユーザデータ領域21)におけるトラック位置を基準として位置決めされる。これに対して、図10(B)のとおり、磁気ディスク1を記録媒体として実際に使用するデータ記録時および再生時には、サーボ領域22のサーボパターン70からを読み取った情報に基づいてヘッド部32の径方向位置を制御するので、サーボパターン70はそれらに対するトレースの下流側に在るユーザデータ領域21に対応する。例えば、最終セクタ(n)のトラック位置に位置決めされたサーボパターン70が先頭セクタ(1)に対応する。
【0039】
このようにサーボパターン70とセクタとの対応がサーボパターン形成時とデータ記録・再生時とで異なるものの、互いに近いセクタの間ではトラック位置にほとんど差異がない場合には、データの記録および再生を支障なく行うことができる。
【0040】
しかし、データの記録および再生におけるサーボ制御をより精密にする上では、サーボパターン70がそれをサーボ制御に用いるセクタ(すなわちトレースの下流側のセクタ)のトラック位置に位置決めされるのが望ましい。次の第2実施形態はそのような位置決めを行うものである。
【0041】
第2実施形態では、サーボパターン70の記録に先立って、記録トラック24を1周にわたって連続的にトラッキングしながらトレースし、各セクタにおけるトラック位置を検知する。詳しくは、図11のように各ユーザデータ領域21のトラック位置と先にトレースした隣接するユーザデータ領域21(上流側のユーザデータ領域21)のトラック位置との差D1,D2を検知して記憶しておく。差D1,D2は上流側トラック位置に対する下流側トラック位置の位置ずれ量であり、トラッキングサーボ制御における径方向の移動量に相当する。差D1,D2の検知および記憶はコントローラ35が行う。
【0042】
サーボパターン形成時には、各ユーザデータ領域21においてトラッキングをしながら記録トラック24を再びトレースし、ユーザデータ領域21からサーボ領域22に移ったときに、図12(A)のように上流側と下流側のトラック位置の差に応じてライトヘッド43の径方向位置を補正する。そして、サーボ領域22における補正後の径方向位置にサーボパターン70を記録する。径方向の位置決めの上で、サーボパターン70は下流側ユーザデータ領域21に対応する。
【0043】
データ記録時および再生時には、図12(B)のようにサーボ領域22のサーボパターン70からを読み取った情報に基づいてヘッド部32の径方向位置を制御し、サーボ領域22の下流側にあるセクタをトレースする。
【0044】
第2実施形態に係る記録トラックの位置ずれ検知には、図13に示す変形例がある。図13の例は、特に偏心により記録トラック24が周方向に対して傾斜している場合に有用である。この例においてもサーボパターン70の記録に先立って記録トラック24を1周にわたってトレースし、各セクタにおけるトラック位置を検知する。この例の特徴は、トレース中にトラッキングサーボ制御をセクタごとに断続させること、および各セクタにおける周方向の中央でのトラック位置を検知することである。
【0045】
トラッキングサーボ制御は各ユーザデータ領域21の周方向中央から下流側に在る次のユーザデータ領域21までの範囲で行われる。ただし、サーボ領域22では一対のリードヘッド41,42の出力が等しくなるので、径方向の積極的なヘッド移動は行われない。すなわち、実質的には図中に斜線を付した範囲(各ユーザデータ領域21のうちの下流側の半分)でトラッキングサーボ制御が行われる。
【0046】
各ユーザデータ領域21のうちの上流側の半分ではトラッキングサーボ制御が行なわれないので、この部分をトレースする期間においてヘッド部32は隣接した上流側ユーザデータ領域21における下流側端部のトラック位置に位置決めされたままとなる。各ユーザデータ領域21の周方向中央でトラッキングサーボ制御を始めることにより、周方向中央でのトラック位置と、隣接した上流側ユーザデータ領域21における下流側端部のトラック位置との差D1b,D2bを検知することができる。これらの差D1b,D2bを記憶しておけば、上述の例と同様に径方向位置を適宜補正しながらサーボパターン70を記録することができる。
【0047】
ここで、ユーザデータ領域21の周方向中央でのトラック位置は1つのユーザデータ領域21のトラック位置の平均値とみなせる。周方向中央でのトラック位置を基準に径方向の位置決めしてサーボパターン70を記録することにより、各セクタの全長にわたって安定したデータ記録・再生を行うことができる。ただし、厳密に周方向中央のトラック位置を検知する必要はない。また、記録トラック24の傾きの様相やヘッド部32の構成、制御の応答性などに応じて検知のタイミングを選定し、周方向における中央以外の位置でのトラック位置を検知するようにしてもよい。
【0048】
第2実施形態には、さらに図14に示す変形例がある。図14の例は、記録トラック24が不規則に蛇行している場合に有用である。この例においてもサーボパターン70の記録に先立って記録トラック24を1周にわたってトレースし、各セクタにおけるトラック位置を検知する。この例の特徴は、各記録トラック24を少なくとも2周するようにトレースし、各セクタの全長にわたって均等に周方向の多数箇所でトラック位置を検知することである。
【0049】
図14(A)のように、1周目のトレースにおいて、あるユーザデータ領域21では周方向の全長にわたってトラッキングサーボ制御をし、次のユーザデータ領域21ではトラック位置を検知するという動作を繰り返す。図14(B)のように、2周目のトレースにおいては、1周目においてトラック位置を検知したユーザデータ領域21では周方向の全長にわたってトラッキングサーボ制御をし、1周目においてトラッキングサーボ制御をしたユーザデータ領域21ではトラック位置を検知するという動作を繰り返す。2周のトレースによって全てのセクタについてトラック位置情報を得る。
【0050】
検知するトラック位置は、上述の例と同様に、検知箇所でのトラック位置と隣接した上流側ユーザデータ領域21における下流側端部のトラック位置との差D1c,D3c,Dnc,D2cである。各セクタに対して多数の検知データが得られる。コントローラ35は、これら検知データに基づいて予め定められた演算を行い、その結果を各セクタに対応する位置ずれ量として記憶する。演算はセクタの位置ずれを代表する値の算出であり、例えば平均値の算出である。
【0051】
サーボパターン形成時には、上述の例と同様に記憶されている位置ずれ量に基づいて径方向位置を適宜補正しながらサーボパターン70を記録する。データ記録時および再生時には、サーボ領域22のサーボパターン70からを読み取った情報に基づいてヘッド部32の径方向位置を制御し、サーボ領域22の下流側にあるセクタをトレースする。
【0052】
以上の第2実施形態と異なる手法でサーボパターン70の径方向位置を下流側ユーザデータ領域21に対応させるのが次の第3実施形態である。
【0053】
第3実施形態では、図15に示すようにサーボパターン形成におけるトレース方向をデータ記録時および再生時のトレース方向と反対の方向とする。サーボパターン形成時においては、第1実施形態と同様にヘッド部32がユーザデータ領域21からサーボ領域22に移った時点の径方向位置にライトヘッド43を位置決めしてサーボパターン70を記録する。データ記録時および再生時には、第1実施形態および第2実施形態と同様に、サーボ領域22のサーボパターン70からを読み取った情報に基づいてヘッド部32の径方向位置を制御し、サーボ領域22の下流側にあるセクタをトレースする。
【0054】
第3実施形態に係るサーボパターン形成は、図16に示す専用のフォーマット装置4によって行われる。フォーマット装置4は、磁気ディスク1を図5のディスク回転方向M1とは逆である矢印M5の方向に回転させるスピンドルモータ71、磁気ディスク1にアクセスするためのヘッド部72、ヘッド部72を支持し且つ自身が回動可能なアーム73、アーム73を回動させるアクチュエータ74、およびこれらの動作を制御するコントローラ75を備える。コントローラ35は、プログラムを実行するプロセッサを含むハードウェアと、制御プログラムを含むソフトウェアとによって構成される。基本構成は公知のハードディスク装置と同様である。
【0055】
ヘッド部72は、図6のヘッド部32と同様に構成されており、スライダと一対のリードヘッドとライトヘッドとを備える。アーム73は、ディスク回転方向M5に適合する向きにヘッド部72を配置する。アクチュエータ74は、図5の構成のストレージ3での使用を前提とした形状をもつユーザデータ領域21およびサーボ領域22に適合したシーク動作が可能に構成されている。
【0056】
逆回転させてサーボパターンを形成したディスクを順回転させて記録・再生することにより、図10に示すサーボパターン70とセクタとの対応のずれが回避できる。
【0057】
以上の第1、第2、第3の実施形態において、磁気ディスク1の構成は例示に限定されない。例えば、サーボ領域22の形状は、並進移動式アームでのシークを前提とする場合には、直線と円弧で形づくられる扇型となる。ディスク回転を線速度一定(CLV)とする場合は、一定幅の帯状となる。必ずしも記録トラック群の配置される環状領域の内周から外周まで径方向に連続している必要はない。磁気転写用のプレート2のパターンはサーボ領域22およびユーザデータ領域21の形状に応じて適宜変更すればよい。また、基板10の片面に記録層13を配した片面構成を図示したが、基板10の両面に記録層13を配した両面構成であってもよい。
【0058】
第2および第3の実施形態において、記録トラック24の位置ずれの検知とサーボパターン70の記録とを1トラックずつ順に行ってもよいし、全ての記録トラック24について位置ずれの検知を行った後にサーボパターン70の記録を1トラックずつ順に行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ディスクリートトラック型の磁気記録媒体の高記録密度化に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】磁気ディスクの概略構成を示す平面図である。
【図2】磁気ディスクの層構成を示す断面図である。
【図3】サーボパターン形成に用いるプレートの構成を示す平面図である。
【図4】磁気ディスクとプレートの重ね合わせを示す図である。
【図5】ストレージの構成を示す図である。
【図6】ヘッド部の構成を示す図である。
【図7】ヘッド部の変形例を示す図である。
【図8】トラッキング用の磁気パターンが転写された磁気ディスクを示す図である。
【図9】ラッキングおよびサーボパターンの記録の概要を示す図である。
【図10】第1実施形態における記録トラックとサーボパターンとの対応を示す図である。
【図11】第2実施形態に係る記録トラックの位置ずれ検知の第1例を示す図である。
【図12】第2実施形態における記録トラックとサーボパターンとの対応を示す図である。
【図13】第2実施形態に係る記録トラックの位置ずれ検知の第2例を示す図である。
【図14】第2実施形態に係る記録トラックの位置ずれ検知の第3例を示す図である。
【図15】第3実施形態における記録トラックとサーボパターンとの対応を示す図である。
【図16】3実施形態に係るフォーマット装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 磁気ディスク
21 ユーザデータ領域
22 サーボ制御
70 サーボパターン
51 第1部分(トラッキング用の磁気パターン)
52 第2部分(トラッキング用の磁気パターン)
24 記録トラック
D1,D2 差(ずれ)
3 ストレージ
31 スピンドルモータ
32 ヘッド部
33 アーム
34 アクチュエータ
35 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録のためのユーザデータ領域とサーボ制御のためのサーボ領域とが周方向に沿って交互に配置されたディスクリートトラック型の磁気ディスクにおけるサーボパターンの形成方法であって、
複数のユーザデータ領域にトラッキング用の磁気パターンを転写し、
回転させた前記磁気ディスクにおける1つのユーザデータ領域内の1つの記録トラックから前記磁気パターンを読み取ってトラッキングしながら当該記録トラックをトレースし、それによって当該記録トラックの径方向位置を検知し、
検知した径方向位置に基づいて磁気ヘッドを位置決めして、前記1つのユーザデータ領域に隣接したサーボ領域に前記磁気ヘッドによって磁気サーボパターンを記録する
ことを特徴とする磁気ディスクにおけるサーボパターンの形成方法。
【請求項2】
複数のユーザデータ領域とそれらの間のサーボ領域とにわたって1つの記録トラックを連続的にトレースしながら、サーボ領域をトレースするときに、その直前にトレースしたユーザデータ領域における記録トラックの径方向位置に前記磁気ヘッドを位置決めして磁気サーボパターンを記録する
請求項1に記載の磁気ディスクにおけるサーボパターンの形成方法。
【請求項3】
複数のユーザデータ領域にわたって1つの記録トラックを連続的にトレースして、各ユーザデータ領域における記録トラックの径方向位置と先にトレースした隣接するユーザデータ領域における記録トラックの径方向位置とのずれを検知し、
検知したずれを記憶しておき、
再び前記記録トラックを複数のユーザデータ領域とそれらの間のサーボ領域とにわたって連続的にトレースしながら、サーボ領域をトレースするときに、その直前にトレースしたユーザデータ領域と直後にトレースするユーザデータ領域との間の径方向位置のずれに基づいて、当該直後にトレースするユーザデータ領域における記録トラックの径方向位置に前記磁気ヘッドを位置決めして磁気サーボパターンを記録する
請求項1に記載の磁気ディスクにおけるサーボパターンの形成方法。
【請求項4】
ディスクリートトラック型の磁気ディスク、前記磁気ディスクを回転させるモータ、磁気ヘッド部、前記磁気ヘッド部を支持するアーム、前記磁気ヘッド部が前記磁気ディスクに対して径方向に移動するように前記アームの配置を変化させるアクチュエータ、およびコントローラを備えるストレージであって、
前記磁気ディスクには、磁気記録のためのユーザデータ領域とサーボ制御のためのサーボ領域とが周方向に沿って交互に配置され、
前記磁気ヘッド部は、径方向に並ぶ一対の読取り用の磁気ヘッドと、記録用の磁気ヘッドとを有し、
前記コントローラは、サーボパターンを形成するフォーマット機能を備えており、回転させた前記磁気ディスクにおける1つのユーザデータ領域内の1つの記録トラックから予め記録された磁気パターンを前記読取り用の磁気ヘッド対により読み取ってトラッキングしながら当該記録トラックをトレースし、それによって当該記録トラックの径方向位置を検知し、検知した径方向位置に基づいて前記記録用の磁気ヘッドを位置決めして、前記1つのユーザデータ領域に隣接したサーボ領域に磁気サーボパターンを記録する
ことを特徴とするストレージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−171527(P2008−171527A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5936(P2007−5936)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】