説明

磁気ディスクの特性評価方法

【課題】非線形歪みを非線形遷移シフトとパーシャルイレージャとに分離して評価するために、再生波形の5次高調波を用いることができ、且つ前置き補償のためのハードウェアを比較的簡素化することが可能な、磁気記録媒体の特性評価方法を提供すること。
【解決手段】前記磁気記録媒体に複数のビットパターンを記録する。前記複数のビットパターンは、N/2ビット毎に(Nは偶数)磁化反転する第1のパターンと、1周期内に8個の磁化反転を含む周期Nの第2のパターンとを含む。前記複数のビットパターンは、前記第2のビットパターンの3番目の磁化反転及び6番目の磁化反転の位相が夫々所定量だけシフトされた複数の他のビットパターンを更に含む。前記複数のビットパターンの各々の再生波形の5次高調波成分を求めて、パーシャルイレージャα及び非線形遷移シフトΔを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録媒体の特性評価方法に関する。具体的には、高密度な記録においてビットが隣接して記録されることにより生ずる記録信号の非線形遷移シフトやパーシャルイレージャ等の非線形歪みを定量的に評価する方法に関する。本発明の特性評価方法は、固定磁気記録装置用の磁気ディスク媒体、磁気テープ等の磁気記録を行う磁気記録媒体の特性評価に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
現在の磁気記録装置のリードチャネルの信号処理は、従来のピーク検出方式に変わり、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)方式が主流である。線記録密度上昇によりビット間隔が狭くなると、波形干渉により、ピーク検出方式ではビット検出性能の低下が顕著となるが、PRML方式では波形干渉を前提とした検出を行うので、性能劣化をより少なくすることができる。
【0003】
しかしビット間隔が狭くなると、隣接ビットの影響による非線形歪みも増大する。これらの非線形歪みには、磁化遷移位置が本来の形成されるべき位置に対して前後にシフトする、非線形遷移シフトや、再生パルス波形の振幅が、孤立波を線形的に重ね合わせた場合よりも低下するパーシャルイレージャがある。これらはいずれもPRML方式の検出性能を低下させ、エラーレートを悪化させる要因となる。そのため磁気記録装置では、これらの非線形歪みを極力少なくするために、何らかの手段により非線形歪みの量を推定し、その推定値に応じて前置補償を行うのが一般的である。
【0004】
一方、磁気記録の高記録密度化が進んだ現在において、磁気記録媒体や磁気記録ヘッドの評価においても、非線形歪みの評価の重要性が高まっており、より高精度で、より効率的な測定法が求められている。
【0005】
磁気記録媒体の非線形歪みの測定法の内、高調波除去法と呼ばれる方法は、特定のビットパターンを記録再生した場合、非線形遷移シフトが無い場合には特定の奇数次高調波成分がゼロとなり、非線形遷移シフトがある場合には、その量に比例した奇数次高調波成分が現われることを利用するものである。
【0006】
例えば非特許文献1に開示されている方法は、奇数次高調波を除去するビットパターンを構成する一般化された方法を開示している。この構成法の基になるのは次のような原理である。
【0007】
時間間隔qTだけ離れた同極性のパルス波形A、A’が周期NTで繰り返す信号の基本周波数はf0=1/NTであり、そのk次高調波の電圧は式(1)のように表される。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、qは整数、Tはビット間隔、Nは整数、P(kf0)は孤立波のフーリエ変換である。従って、パルス波形A、A’の時間間隔qTのqが式(2)の関係を満たす場合にk次高調波はゼロとなる。
【0010】
【数2】

【0011】
ここで、mは整数である。パルス波形A、A’と反対極性のパルス波形B、B’の時間間隔q’T(q≠q’)も上記関係を満足するとした場合、パルス波形A、A’とB、B’とを重ね合わせた波形のk次高調波もゼロとなる。
【0012】
従って、例えば以下に示す30ビットのパターン(NRZI表記である。)は、1ビット目と10ビット目の間隔が9T、2ビット目と17ビット目の間隔が15Tであり、k=5とした場合、それぞれの間隔が上記条件を満足するので、その再生波形の5次高調波成分はゼロとなる。
110000000100000010000000000000
【0013】
しかし非線形歪みがある場合は5次高調波成分が非ゼロになる。もし2ビット目が非線形遷移シフトによりΔだけ前方にシフトしたとすると、5次高調波電圧はΔがTに対して極めて小さい場合は、近似的に式(3)のように表される。
【0014】
【数3】

【0015】
ここで、P(5f0)は、15Tの孤立波パターンの再生信号の周波数スペクトラムから求めることができる。そのため5次高調波を測定することにより、非線形遷移シフトΔを求めることが出来る。
【0016】
ところで上述の方法はパーシャルイレージャがあると、非線形遷移シフト量が実際より大きく見積られてしまう問題があった。また非線形遷移シフトがビット間隔Tより十分に小さいことを仮定していたため、本仮定が成り立たない場合には、測定誤差が増大する問題があった。
【0017】
非線形遷移シフトとパーシャルイレージャを分離して測定する方法として、例えば非特許文献2は、先ず非線形遷移シフトの影響を受けない方形波信号を用いてパーシャルイレージャを単独で求め、次に高調波除去によりトータルの非線形歪みを求め、そしてそれらの結果から非線形遷移シフト量を求める方法を開示している。しかし、この方法も非線形遷移シフトがビット間隔Tより十分に小さいことを仮定していたため、やはり同様の問題があった。
【0018】
また別の方法として、特許文献1には、ダイビットと孤立ビットを含む30ビットの測定パターンの内、ダイビットのビット間隔に対して前置補償を行い、孤立ビットのみを含む参照パターンとの5次高調波比率が最小となる補償量からパーシャルイレージャを求め、更に5次高調波比率と、パーシャルイレージャ及び非線形遷移シフトとを関係づける所定の式を用いて非線形遷移シフト量を求める方法を開示している。この方法は非線形遷移シフトがビット間隔Tより十分に小さいことを仮定しないので、前述の問題を回避することができた。しかしこの方法はダイビットの間隔を連続的に変化させる前置補償手段を別途必要とした。一般にそのようなハードウェアは高い精度が要求されるとともに、複雑なものとなる。
【0019】
また特許文献2に開示された方法は、ダイビットと孤立ビットを含む42ビットの測定パターンの複数のビットに対して前置補償を行った場合の、再生波形の7次高調波を測定することにより、パーシャルイレージャと非線形遷移シフト量を分離して求めるものである。この方法では特許文献1のように補償量を連続的に変化させる必要がないため、ハードウェアを簡素化することができた。しかし特許文献1より高い次数の高調波を用いるため、よりノイズの影響をより受け易く、測定精度の点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平10−269511号公報
【特許文献2】特開2011−108324号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】IEEE Transactions on Magnetics、Vol.30、No.6、pp.4236−4238、1994年11月
【非特許文献2】IEEE Transactions on Magnetics、Vol.31、No.6.pp.3021−3026、1995年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上述の特許文献1及び特許文献2のそれぞれの問題点に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の目的は、非線形歪みを非線形遷移シフトとパーシャルイレージャとに分離して評価するために、再生波形の5次高調波を用いることができ、且つ前置き補償のためのハードウェアを比較的簡素化することが可能な、磁気記録媒体の特性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、磁気記録ヘッドを用いて磁気記録媒体に複数のビットパターンを記録し、これを読み出して磁気記録媒体の特性を評価する方法であり、複数のビットパターンは、N/2(Nは偶数)ビット毎に磁化反転するビット長Nの第1のビットパターンと、1周期内に8個の磁化反転を含むビット長Nの第2のビットパターンとを含み、8個の磁化反転は、1番目と2番目の磁化反転が隣接し、且つその他の磁化反転はすべて孤立しており、更にq1乃至q6をそれぞれ、1番目と3番目、2番目と4番目、4番目と5番目、5番目と6番目、5番目と7番目、及び6番目と8番目の磁化反転の間隔とし、m1乃至m5を0以上の整数とした場合に、下記の
【0024】
【数4】

【0025】
【数5】

【0026】
【数6】

【0027】
【数7】

【0028】
【数8】

【0029】
を満たし、複数のビットパターンは、第2のビットパターンの、3番目と6番目の磁化反転の位相を夫々所定量Bだけシフトした複数の他のビットパターンを更に含み、複数のビットパターンの各々の再生波形の5次高調波成分を求めることにより、非線形遷移シフトと、パーシャルイレージャとを算出することを特徴とする。
【0030】
本発明の一実施形態において、他のビットパターンとは、第3のビットパターンと、第4のビットパターンと、第5のビットパターンとであり、第3のビットパターンは、第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ進ませたパターンであり、第4のビットパターンは、第2のビットパターンの、6番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ遅らせたパターンであり、第5のビットパターンは、第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ進ませて、6番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ遅らせたパターンであり、第1乃至第5のビットパターンの再生波形の5次高調波成分を求めて非線形遷移シフトとパーシャルイレージャとを算出することを特徴とする。
【0031】
本発明の一実施形態において、他のビットパターンとは、第3のビットパターンと、第4のビットパターンと、第5のビットパターンとであり、第3のビットパターンは、第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ遅らせたパターンであり、第4のビットパターンは、第2のビットパターンの、6番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ進ませたパターンであり、第5のビットパターンは、第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ遅らせて、6番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ進ませたパターンであり、第1乃至第5のビットパターンの再生波形の5次高調波成分を求めて非線形遷移シフトとパーシャルイレージャとを算出することを特徴とする。
【0032】
本発明の一実施形態において、第2乃至第5のビットパターンの5次高調波成分を、第1のビットパターンの5次高調波成分の半分の値で割った値を用いて、非線形遷移シフトと、パーシャルイレージャとを算出とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明の磁気記録媒体の特性評価方法によれば、非線形歪みを非線形遷移シフトとパーシャルイレージャとに分離して評価するために、再生波形の5次高調波を用いることができ、且つ前置き補償のためのハードウェアを比較的簡素化することができる。そのため、信頼性の高い非線形歪みの特性評価が低コストで実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の特性評価を行うための磁気記録媒体の特性評価装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の特性評価方法の手順の例を示したフローチャートである。
【図3】本発明で用いるライトアンプ104で作成される記録電流パターンの例を示すチャート図である。
【図4】シミュレーションで作成した擬似リード信号波形について、本発明の評価方法と、特許文献2に開示されている7次高調波による評価方法で求めたそれぞれの非線形遷移シフトをプロットした図である。
【図5】シミュレーションで作成した擬似リード信号波形について、本発明の評価方法と、特許文献2に開示されている7次高調波による評価方法で求めたそれぞれのパーシャルイレージャをプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の磁気記録ヘッドの特性評価方法の実施形態について説明する。
【0036】
図1は、本発明による磁気記録媒体の特性評価方法を実施するための特性評価装置100の概略構成を示したブロック図である。特性評価装置100は、特性評価対象の磁気記録媒体の特性を評価するために、次のように構成されている。即ち、所定のデータ・パターンを発生するデータジェネレータ103と、データ・パターンに応じた記録電流を磁気記録ヘッド101へ供給するライトアンプ104と、回転する磁気記録媒体102の所定のトラックに対して記録を行いまた再生を行う磁気記録ヘッド101と、読み出した再生信号を増幅するためのリードアンプ105と、増幅した信号波形を測定するための波形測定(Wave−Profile Measuring)部106と、評価部108とを備える。波形測定部106は、観測した波形を測定して、後述するような値を測定し、出力する。評価部108は、各測定値を入力して、最終的に、これらの各測定値に基づいて非線形遷移シフトとパーシャルイレージャを算出する。
【0037】
図1中には磁気記録ヘッド101の詳細は図示していないが、記録素子として記録面に対して垂直方向に磁界を発生する単磁極ヘッド、又は面内方向に磁界を発生するリングヘッドを有しており、また再生素子として巨大磁気抵抗(GMR)素子、又はトンネル磁気抵抗(TMR)素子等を有している。また磁気記録媒体102は、磁性膜の磁気異方性が記録面に垂直に調整された垂直記録媒体又は面内方向に調整された長手記録媒体を用いることができる。
【0038】
また、図1に示すように、特性評価装置100は、波形測定部106からの信号を受けて再生波形を観測者が目視観測するためのオシロスコープ107、算出された非線形遷移シフトとパーシャルイレージャの値を表示するディスプレイ109、ディスク駆動部110、及び特性評価装置100の全体を制御する制御部111なども、更に備えている。オシロスコープ107は、外部接続とすることもできる。また、特性評価装置100には、算出された非線形遷移シフトとパーシャルイレージャを含む測定結果を格納するPC(パーソナル・コンピュータ)120を外部に接続することが可能である。制御部111は、マイクロ・プロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェース等を備えた、基本的なコンピュータの構成を備えることができる。なお、特性評価装置100は、図1に示していないが、装置に通常備えられる、入出力のユーザ・インターフェースを備えている。
【0039】
上述した図1の構成とは別な構成でも、同様な機能を持たせることができる。たとえば、波形測定部106、オシロスコープ107、及び評価部108は、汎用の波形測定器(Wave−Profile Measuring Machine)と、この波形測定器からのデータを入力して目的の測定値を算出して、算出した測定値から非線形遷移シフトとパーシャルイレージャを算出するシフトプログラムを実装したPCとを含む構成とすることもできる。この構成の場合、ディスプレイ109やPC120の機能も含むことになる。このようなPCが制御部111を外部機器として接続した場合、このPCが、本発明による手順を管理し、制御部111を制御すると同時に、この手順の一部については、直接実行する構成となる。
【0040】
以下では、図1の構成に基づいて、特性評価方法について説明するが、細部の動作を除く基本的な動作を、上述した別の構成でも同様に実行するが可能である。
【0041】
制御部111は、ユーザからの設定及び開始指示にしたがって、内部メモリに内蔵したプログラムコードにより、特性評価装置100内のそれぞれの構成要素を制御して、最終的に本発明の方法を実行する。実行結果は、ディスプレイ109に表示し、及び/または、PC120に出力される。
【0042】
図2は、本発明による特性評価方法を実施するための手順の例を示したフローチャートで、以下、図2に基づいて詳細に説明する。先ず、ステップ200では、磁気記録媒体102に設けられた測定トラック(図示せず)を磁気記録ヘッド101によりAC消磁する動作を実行する。ここでAC消磁を行う目的は、測定トラックが一方向に磁化されることによる書き込み時の非線形効果の影響を少なくするためである。
【0043】
次にステップ201では、第2のビットパターンを記録し、その再生波形の5次高調波電圧V1を測定する。ここで第2のビットパターンは、1周期内に8個の磁化反転を含むビット長N(Nは偶数)のパターンであり、1番目と2番目の磁化反転が隣接し、その他の磁化反転はすべて孤立しており、更にq1〜q6を、1番目と3番目、2番目と4番目、4番目と5番目、5番目と6番目、5番目と7番目、及び6番目と8番目の磁化反転の間隔、m1乃至m5を0以上の整数とした場合に、前述の式(4a)〜(4e)の関係を満足している。そのようなパターンとしては例えば、NRZI形式で表わされる以下の40ビットのパターンがある。
1100100000000100001000001000001000001000
【0044】
先ずこのビットパターンをデータジェネレータ103から、ビット間隔Tで発生させる。するとこのパターンは、ライトアンプ104により、図3の301に示す記録電流パターンに変換される。そして磁気記録ヘッド101により、このパターンを磁気記録媒体102の測定トラックに記録する。引き続き、磁気記録ヘッド101の再生ヘッド及びリードアンプ105で再生する。次に、波形測定部106により、再生波形の周波数解析を行い、周波数スペクトラムを求め、基本周波数f0=1/50Tの5倍の高調波成分の電圧値V1を求める。
【0045】
次にステップ202,203において、ステップ200,201と同様の手順により、測定トラックのAC消磁を行なった後、第3のビットパターンを記録し、その再生波形の5次高調波電圧V2を求める。ここで、第3のビットパターンは第2のビットパターンに対して、3番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ進ませたパターンであり、その記録電流パターンは図3の302に示される。なお、本操作はデータジェネレータ103から第3のビットパターンが出力される際、データジェネレータ内の図示しない位相補償手段により行なわれる。
【0046】
次にステップ204,205において、ステップ200,201と同様の手順により、測定トラックのAC消磁を行なった後、第4のビットパターンを記録し、その再生波形の5次高調波電圧V3を求める。ここで、第4のビットパターンは第2のビットパターンに対して、6番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ遅らせたパターンであり、その記録電流パターンは図3の303に示される。
【0047】
次にステップ206,207において、ステップ200,201と同様の手順により、測定トラックのAC消磁を行なった後、第5のビットパターンを記録し、その再生波形の5次高調波電圧V4を求める。ここで、第5のビットパターンは第2のビットパターンに対して、3番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ進ませ、6番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ遅らせたパターンであり、その記録電流パターンは図3の304に示される。
【0048】
次にステップ208,209において、ステップ200,201と同様の手順により、測定トラックのAC消磁を行なった後、第1のビットパターンを記録する。引き続き、磁気記録ヘッド101の再生ヘッド及びリードアンプ105で再生する。そして再生波形の5次高調波電圧V5を求める。ここで、第1のビットパターンは20T毎に磁化反転するパターンであり、NRZI形式で表した場合は以下となる。その記録電流パターンは図3の305に示される。
1000000000000000000010000000000000000000
【0049】
次にステップ210では、先ず5次高調波電圧の各測定値V1乃至V5のデータが評価部108に転送される。評価部108では、V1乃至V4をそれぞれ0.5×V5で割る演算を行い、その結果をパラメータY1乃至Y4として記憶する。
【0050】
次にステップ211では、パラメータY1乃至Y4を用いて後述する演算を行い、パーシャルイレージャαを算出する。また、ステップ212では、やはり後述する演算を行い、非線形遷移シフトΔを算出する。そして求めたパーシャルイレージャαと非線形遷移シフトΔをディスプレイ109に表示し、測定処理を終了する。
【0051】
以下、パーシャルイレージャαと非線形遷移シフトΔを求める具体的な方法について更に詳細に説明する。
【0052】
第2のビットパターンの1周期分の時間波形は、非線形歪みの影響を無視すると以下のように表される。
【0053】
【数9】

【0054】
ここで、q1乃至q6は、1番目と3番目、2番目と4番目、4番目と5番目、5番目と6番目、5番目と7番目、及び6番目と8番目のそれぞれの磁化反転の間隔であり、式(4a)〜(4e)の関係を満足する。
【0055】
ここで、隣接する1番目と2番目の磁化反転が非線形歪みの影響を受けた場合を考える。例えば、非線形遷移シフトにより、2番目の磁化反転がΔだけ前方にシフトし、更にパーシャルイレージャにより、1番目と2番目の磁化反転によるそれぞれの再生パルスの振幅が(1−α)(0≦α<1)倍になると仮定する。その場合の再生波形は式(6)のように表される。
【0056】
【数10】

【0057】
ここで、位相補償手段により、3番目の磁化反転の位相をb1だけ進ませ、6番目の磁化反転の位相をb2だけ進ませる操作を行なった場合、再生波形は式(7)のように表される。
【0058】
【数11】

【0059】
更に、本波形をフーリエ変換した場合の周波数スペクトラムは式(8)のように表される。
【0060】
【数12】

【0061】
ここで、P(ω)は孤立波の周波数スペクトラムである。
【0062】
本再生波形の基本周波数は、ω0=2π/NTである。従って、5次高調波成分は式(9)のように表される。
【0063】
【数13】

【0064】
ここで、式(4a)〜(4e)の関係を考慮すると、5次高調波電圧は式(10)のように表される。
【0065】
【数14】

【0066】
ここで、式(11)で表されるYを定義する。
【0067】
【数15】

【0068】
するとYは式(12)のように表せる。
【0069】
【数16】

【0070】
ここで、3番目の磁化反転と6番目の磁化反転の位相補償量を共にゼロとした場合のYの値Y1は、b1=b2=0と置くことにより、式(13)のように表される。
【0071】
【数17】

【0072】
3番目の磁化反転をB(B<T)だけ進ませた場合のYの値Y2は、b1=B、b2=0と置くことにより、式(14)のように表される。
【0073】
【数18】

【0074】
6番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ遅らせた場合のYの値Y3は、b1=0、b2=−Bと置くことにより、式(15)のように表される。
【0075】
【数19】

【0076】
3番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ進ませ、6番目の磁化反転の位相をB(B<T)だけ遅らせた場合のYの値Y4は、b1=B、b2=−Bと置くことにより、式(16)のように表される。
【0077】
【数20】

【0078】
ここで、βとφをそれぞれ式(17)及び式(18)で定義する。
【0079】
【数21】

【0080】
【数22】

【0081】
すると、式(13)、式(16)より、
【0082】
【数23】

【0083】
の関係を得る。式(14)、式(15)より、
【0084】
【数24】

【0085】
の関係を得る。式(19)より、
【0086】
【数25】

【0087】
の関係を得る。式(20)より、
【0088】
【数26】

【0089】
の関係を得る。式(21)、式(22)と(cosβ)2+(sinβ)2=1の関係より、
【0090】
【数27】

【0091】
の関係を得る。式(23)をαについて解くことにより、パーシャルイレージャαは、式(24)のように表される。
【0092】
【数28】

【0093】
また、式(17)、式(22)より、非線形遷移シフトΔは式(25)のように表される。
【0094】
【数29】

【0095】
一方、N/2間隔で孤立ビットが繰り返す第1のビットパターンの再生波形は式(26)のように表される。
【0096】
【数30】

【0097】
従って、本波形をフーリエ変換した場合の周波数スペクトラムは式(27)のように表される。
【0098】
【数31】

【0099】
従って、その5次高調波成分は式(28)のように表される。
【0100】
【数32】

【0101】
式(28)から、孤立波の5次高調波成分P(5ω0)は、第1のビットパターンの再生波形の5次高調波成分V(5ω0)を0.5倍した値に等しいことがわかる。
【0102】
そして式(11)及び前述したY1乃至Y4の定義により次のことが言える。Y1は、第2のビットパターンの再生波形の5次高調波電圧を孤立波の5次高調波電圧で割った値に等しい。Y2は、3番目の磁化遷移の位相をBだけ進ませた第3のビットパターンの再生波形の5次高調波電圧を孤立波の5次高調波電圧で割った値に等しい。Y3は、6番目の磁化遷移の位相をBだけ遅らせた第4のビットパターンの再生波形の5次高調波電圧を孤立波の5次高調波電圧で割った値に等しい。Y4は、3番目の磁化遷移の位相をBだけ進ませ、6番目の磁化遷移の位相をBだけ遅らせた第5のビットパターンの再生波形の5次高調波電圧を孤立波の5次高調波電圧で割った値に等しい。
【0103】
即ち、第1乃至第5のビットパターンの再生波形の5次高調波電圧をそれぞれ測定することにより、Y1乃至Y4を求めることができる。Y1乃至Y4が求まれば、パーシャルイレージャαを式(24)により、更に非線形遷移シフトΔを式(25)から求めることができる。
【0104】
なお、上述の例では、3番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ進ませ、6番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ遅らせる場合について説明したが、逆に3番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ遅らせ、6番目の磁化反転の位相を所定量Bだけ進ませても良い。その場合、式(24)、式(25)はB=−Bと変えたものとすれば良い。
【0105】
次に、非線形性の測定精度についてシミュレーションによりにより検証を行なった。シミュレーションでは非線形性を含む擬似リード信号波形を作成し、非線形遷移シフトとパーシャルイレージャをそれぞれ求めた。擬似リード信号の正規化線記録密度は2.3、S/N比は15dBとした。
【0106】
図4は擬似リード信号波形のパーシャルイレージャを20%に固定し、非線形遷移シフトを0%、20%、40%に変化させた場合の、非線形遷移シフトの評価結果をプロットしたものである。また図5はその時のパーシャルイレージャの評価結果である。図4、図5には比較のために、特許文献2に開示されている7次高調波による方法で計算した結果も示している。
【0107】
図4、図5より、本発明の5次高調波による方法では、非線形遷移シフトが良好な精度で求められることが分かる。一方、7次高調波による方法では非線形遷移シフトが大きい場合に誤差が目立つ。またパーシャルイレージャについても、5次高調波の方が明らかに誤差が少ない。以上より、本発明の5次高調波による方法が7次高調波による方法より測定精度の点において優れていることが示された。
【符号の説明】
【0108】
100 磁気記録媒体の特性評価装置
101 磁気記録ヘッド
102 磁気記録媒体
103 データジェネレータ
104 ライトアンプ
105 リードアンプ
106 波形測定部
107 オシロスコープ
108 評価部
109 ディスプレイ
110 ディスク駆動部
111 制御部
120 PC(パーソナル・コンピュータ)
301 ステップ201における記録電流信号
302 ステップ203における記録電流信号
303 ステップ205における記録電流信号
304 ステップ207における記録電流信号
305 ステップ209における記録電流信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録ヘッドを用いて磁気記録媒体に複数のビットパターンを記録し、これを読み出して磁気記録媒体の特性を評価する方法において、
前記複数のビットパターンは、N/2(Nは偶数)ビット毎に磁化反転するビット長Nの第1のビットパターンと、1周期内に8個の磁化反転を含むビット長Nの第2のビットパターンとを含み、
当該8個の磁化反転は、1番目と2番目の磁化反転が隣接し、且つその他の磁化反転はすべて孤立しており、更にq1乃至q6をそれぞれ、1番目と3番目、2番目と4番目、4番目と5番目、5番目と6番目、5番目と7番目、及び6番目と8番目の磁化反転の間隔とし、m1乃至m5を0以上の整数とした場合に、下記の
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

を満たし、
前記複数のビットパターンは、第2のビットパターンの、3番目と6番目の磁化反転の位相を夫々所定量Bだけシフトした複数の他のビットパターンを更に含み、
前記複数のビットパターンの各々の再生波形の5次高調波成分を求めることにより、非線形遷移シフトと、パーシャルイレージャとを算出することを特徴とする、磁気記録媒体の特性評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体の特性評価方法において、
前記他のビットパターンとは、第3のビットパターンと、第4のビットパターンと、第5のビットパターンとであり、
前記第3のビットパターンは、前記第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ進ませたパターンであり、
前記第4のビットパターンは、前記第2のビットパターンの、6番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ遅らせたパターンであり、
前記第5のビットパターンは、前記第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ進ませて、6番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ遅らせたパターンであり、
前記第1乃至第5のビットパターンの再生波形の5次高調波成分を求めて非線形遷移シフトと、パーシャルイレージャとを算出する
ことを特徴とする、磁気記録媒体の特性評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気記録媒体の特性評価方法において、
前記他のビットパターンとは、第3のビットパターンと、第4のビットパターンと、第5のビットパターンとであり、
前記第3のビットパターンは、前記第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ遅らせたパターンであり、
前記第4のビットパターンは、前記第2のビットパターンの、6番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ進ませたパターンであり、
前記第5のビットパターンは、前記第2のビットパターンの、3番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ遅らせて、6番目の磁化反転の位相を前記所定量Bだけ進ませたパターンであり、
前記第1乃至第5のビットパターンの再生波形の5次高調波成分を求めて非線形遷移シフトと、パーシャルイレージャとを算出する
ことを特徴とする、磁気記録媒体の特性評価方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の磁気記録媒体の特性評価方法において、
前記第2乃至第5のビットパターンの5次高調波成分を、前記第1のビットパターンの5次高調波成分の半分の値で割った値を用いて、非線形遷移シフトと、パーシャルイレージャとを算出とすることを特徴とする、磁気記録媒体の特性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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