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磁気ディスクの製造方法
説明

磁気ディスクの製造方法

【課題】磁気スペーシングのより一層の低減を実現することができ、しかも磁気ディスクの耐久性、特にグライド特性及びLUL耐久性に優れ、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの超低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで高信頼性を有する磁気ディスクを提供する。
【解決手段】基板上に、少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層を順次形成する磁気ディスクの製造方法において、分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を上記保護層上に成膜して潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスクドライブ(以下、HDDと略記する)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等の磁気ディスク装置に搭載される2.5インチ径の磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等の磁気ディスク装置に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式用の磁気記録媒体が提案されている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。このような垂直磁気記録媒体としては、例えば特開2002−74648号公報に記載されたような、基板上に軟磁性体からなる軟磁性下地層と、硬磁性体からなる垂直磁気記録層を備える、いわゆる二層型垂直磁気記録ディスクが知られている。
【0004】
ところで、従来の磁気ディスクは、磁気ディスクの耐久性、信頼性を確保するために、基板上に形成された磁気記録層の上に、保護層(一般に炭素系保護層)と潤滑層を設けている。特に最表面に用いられる潤滑層は、長期安定性、耐熱特性、化学物質耐性、摩擦特性等の様々な特性が求められる。
【0005】
このような要求に対し、従来は磁気ディスク用潤滑剤として、分子中にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤が多く用いられてきた。例えば、特開昭62−66417号公報(特許文献1)などには、分子の両末端にヒドロキシル基を有するHOCH2CF2O(C2F4O)p(CF2O)qCF2CH2OHの構造をもつパーフルオロアルキルポリエーテル潤滑剤を塗布した磁気記録媒体などがよく知られている。潤滑剤の分子中にヒドロキシル基が存在すると、炭素系保護層とヒドロキシル基との相互作用により、潤滑剤の保護層への付着特性が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−66417号公報
【特許文献2】特開2000−311332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、最近のHDDでは400Gbit/inch以上の情報記録密度が要求されるようになってきたが、限られたディスク面積を有効に利用するために、HDDの起動停止機構が従来のCSS(ContactStart and Stop)方式に代えてLUL(Load Unload:ロードアンロード)方式が用いられるようになってきた。LUL方式では、HDDの停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと呼ばれる傾斜台に退避させておき、起動動作時には磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク上に滑動させ、浮上飛行させて記録再生を行なう。停止動作時には磁気ヘッドを磁気ディスク外のランプに退避させたのち、磁気ディスクの回転を停止する。この一連の動作はLUL動作と呼ばれる。LUL方式のHDDに搭載される磁気ディスクでは、CSS方式のような磁気ヘッドとの接触摺動用領域(CSS領域)を設ける必要がなく、記録再生領域を拡大させることができ、高情報容量化にとって好ましいからである。
【0008】
このような状況の下で情報記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量を低減させることにより、スペーシングロスを限りなく低減する必要がある。1平方インチ当り400Gビット以上の情報記録密度を達成するためには、磁気ヘッドの浮上量は少なくとも5nm以下にする必要がある。LUL方式ではCSS方式と異なり、磁気ディスク面上にCSS用の凸凹形状を設ける必要が無く、磁気ディスク面上を極めて平滑化することが可能となる。よってLUL方式のHDDに搭載される磁気ディスクでは、CSS方式に比べて磁気ヘッド浮上量を一段と低下させることができるので、記録信号の高S/N比化を図ることができ、磁気ディスク装置の高記録容量化に資することができるという利点もある。
【0009】
最近のLUL方式の導入に伴う、磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、5nm以下の超低浮上量においても、磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきた。とりわけ上述したように、近年、磁気ディスクは面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式に移行しており、磁気ディスクの大容量化、それに伴うフライングハイトの低下が強く要求されている。
【0010】
また最近では、磁気ディスク装置は、従来のパーソナルコンピュータの記憶装置としてだけでなく、携帯電話、カーナビゲーションシステムなどのモバイル用途にも多用されるようになってきており、使用される用途の多様化により、磁気ディスクに求められる環境耐性は非常に厳しいものになってきている。したがって、これらの状況に鑑みると、従来にもまして、磁気ディスクの耐久性や信頼性などの更なる向上が急務となっている。
【0011】
また、近年の磁気ディスクの急速な情報記録密度向上に伴い、磁気ヘッドの浮上量の低下に加えて、磁気ヘッドと磁気ディスクの記録層間の磁気スペーシングのより一層の低減が求められており、磁気ヘッドと磁気ディスクの記録層の間に存在する潤滑層は、従来に増してより一層の薄膜化が必要となってきている。磁気ディスクの最表面の潤滑層に用いられる潤滑剤は、磁気ディスクの耐久性に大きな影響を及ぼすが、たとえ薄膜化しても、磁気ディスクにとって安定性、信頼性は不可欠である。
【0012】
ところで、従来は、上記潤滑剤の分子中にヒドロキシル基などの極性基が存在することにより、炭素系保護層と潤滑剤分子中のヒドロキシル基との相互作用により、潤滑剤の保護層への良好な付着性が得られるため、特に分子の両末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル潤滑剤が好ましく用いられていた。
【0013】
ところが、従来の分子中に複数のヒドロキシル基などの極性基を有し極性の高い潤滑剤は、分子間相互作用もしくは極性基同士で引き付けあい、潤滑剤の凝集が生じやすい。このような凝集が生じた潤滑剤分子は嵩高く、膜厚を比較的厚めにしないと均一な膜厚の潤滑層が得られにくく、これでは磁気スペーシングの低減を達成できないという問題点がある。また、保護膜上の活性点に対して過剰な極性基は、コンタミ等の誘引および潤滑剤のヘッドへの移着を起こしやすい傾向にあり、HDDの故障の原因となる。
【0014】
また、近年の高記録密度化に伴う磁気ヘッドの浮上量が一段と低下したことにより、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との接触、摩擦が頻発する可能性が高くなる。また、磁気ヘッドが接触した場合には磁気ディスク表面からすぐに離れずにしばらく摩擦摺動することがある。現在用いられている磁気ヘッドのスライダーにはアルミナ(Al)が含まれており、前記パーフルオロポリエーテル系潤滑剤の主鎖のCFO部分はアルミナ等のルイス酸によって分解が起こりやすいことが知られている。このため、磁気ディスクの表面に用いられているパーフルオロポリエーテル系潤滑剤は、磁気ヘッドとの接触等により、主鎖のCFO部分がアルミナによって分解され、潤滑層を構成する潤滑剤の低分子化が従来よりも促進され易くなっている。そして、この分解され低分子化した潤滑剤が磁気ヘッドに付着することで、データの読み込み、書き込みに支障を来たす可能性が懸念される。さらに、近い将来の磁気ヘッドと磁気ディスクとを接触させた状態でのデータの記録再生を考えたとき、常時接触による影響がさらに懸念される。また、潤滑層を構成する潤滑剤が低分子化すると潤滑特性が失われる。そして、潤滑特性を失った潤滑剤は、極狭な位置関係にある磁気ヘッドに移着堆積し、その結果、浮上姿勢が不安定となりフライスティクション障害を発生させるものと考えられる。
【0015】
また、現状の磁気ディスクにおいて、たとえば5nm以下の超低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などが防止できる耐熱性に優れた潤滑層を備えた磁気ディスクや、温度特性が良好な潤滑層を備え、広範囲な温度条件で安定した動作を示す磁気ディスクの提供が課題となっており、とりわけ潤滑層に用いられる潤滑剤の耐熱特性の向上は急務となっている。
【0016】
例えば上記の特許文献2等に開示されている従来のホスファゼン系化合物のような耐熱性を有する材料を用いることにより、潤滑剤の耐熱温度を例えば最大300℃程度までは高めることが可能であり、磁気ディスクの潤滑層に要求される耐熱性を従来よりも向上させることが可能である。
しかしながら、ホスファゼン化合物を含む潤滑剤を用いて潤滑層を形成した場合、磁気ディスクの耐久性に影響する炭素系保護層との密着性が十分に得られないという問題がある。
【0017】
このように、潤滑層の長期安定性に優れ、近年の高記録密度化に伴う磁気スペーシングの低減や、磁気ヘッドの超低浮上量のもとでの高信頼性を有する磁気ディスクの実現が求められ、さらには使用される用途の多様化などにより、磁気ディスクに求められる環境耐性は非常に厳しいものになってきているため、従来にもまして、潤滑層の薄膜化と同時に、磁気ディスクの耐久性、特にグライド特性やLUL耐久性などの特性のより一層の向上が求められている。
【0018】
本発明は、このような従来の事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、磁気スペーシングのよりいっそうの低減を実現することができ、しかも磁気ディスクの耐久性、特にグライド特性及びLUL耐久性に優れ、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの超低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで高信頼性を有する磁気ディスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、磁気ディスクの耐久性に大きな影響を及ぼす潤滑剤と保護層との密着性の向上に関して鋭意検討した結果、以下の発明により、前記課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0020】
(構成1)
基板上に、少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層を順次形成する磁気ディスクの製造方法であって、分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を前記保護層上に成膜して前記潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施すことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【0021】
(構成2)
前記紫外線照射時の雰囲気温度が90〜140℃の範囲であることを特徴とする構成1に記載の磁気ディスクの製造方法。
(構成3)
前記紫外線照射に用いる光源は、少なくとも185nm近傍の波長域を含むことを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスクの製造方法。
【0022】
(構成4)
前記紫外線照射を施す磁気ディスクを収容する所定空間領域を、少なくとも紫外線照射側を該紫外線を透過する透明部材で形成した筐体で覆うとともに、前記筐体内に窒素ガスまたは不活性ガスを流入させながら、前記筐体の外側から筐体内の磁気ディスクに対して紫外線照射を施すことを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
(構成5)
前記潤滑剤化合物は、芳香族基またはホスファゼン環のほかに極性基を有する化合物であることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【0023】
(構成6)
前記保護層は、プラズマCVD法により成膜された炭素系保護層であることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
(構成7)
前記磁気ディスクは、起動停止機構がロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される垂直磁気記録ディスクであることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【0024】
構成1にあるように、本発明は、基板上に、少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層を順次形成する磁気ディスクの製造方法であって、特定の潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を炭素系保護層上に成膜して潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施すことを特徴とするものである。
【0025】
本発明に用いられる潤滑剤化合物は、分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する化合物である。このような潤滑剤化合物を磁気ディスクの炭素系保護層上に成膜すると、潤滑剤分子の芳香族基またはホスファゼン環と上記保護層はπ−π相互作用(interaction)で近づき、その相互作用により潤滑剤は保護層に吸着するものと考えられる。ディスク面上に塗布したときに、潤滑剤分子が芳香族基またはホスファゼン環を導入した位置で保護層と固定され、潤滑剤分子の中心部がより扁平した状態で媒体上に安定に存在するようにすることが可能になり、保護層上に分子の嵩高さを抑えた薄膜の潤滑層を形成することができる。しかも、潤滑層の膜厚を薄くしても保護層表面を十分に被覆することができる(被覆率の高い)潤滑層を形成することができる。
【0026】
本発明においては、このような分子中に芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を炭素系保護層上に成膜して潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施すことにより、潤滑剤と炭素系保護層のカーボンとの結合反応が起こり、保護層に対する潤滑剤分子中の芳香族基およびその芳香族基周辺の化学結合、または保護層に対する潤滑剤分子中のホスファゼン環およびそのホスファゼン環周辺の化学結合をより強固なものとすることができ、成膜した潤滑層の保護層への付着力をより向上させることができる。
つまり、本発明によれば、保護層との密着性に極めて優れた潤滑層を形成することができるので、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの超低浮上量(5nmあるいはそれ以下)のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで高信頼性を有する磁気ディスクが得られる。
【0027】
また、構成2にあるように、本発明による作用効果がより好ましく発揮されるためには、前記紫外線照射時の雰囲気温度は90〜140℃の範囲であることが特に好ましい。
また、構成3にあるように、前記紫外線照射に用いる光源は、紫外線照射による潤滑剤化合物と炭素系保護層のカーボンとの結合反応を起こさせるのに好適な(反応効率が高い)少なくとも185nm近傍の波長域を含むことが好ましい。
【0028】
また、本発明は、構成4にあるように、前記紫外線照射を施す磁気ディスクを収容する所定空間領域を、少なくとも紫外線照射側を該紫外線を透過する透明部材で形成した筐体で覆うとともに、前記筐体内に窒素ガスまたは不活性ガスを流入させながら、前記筐体の外側から筐体内の磁気ディスクに対して紫外線照射を施すことが好ましい。かかる態様では、上記所定空間領域を、磁気ディスクに対する紫外線照射を施すのに不都合の生じない必要最小限の大きさに選定することで、磁気ディスクに対して紫外線照射を施す雰囲気を、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下とし、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整することが容易になる。また、上記窒素ガスまたは不活性ガスの使用量の節約にもなる。
【0029】
また、構成5にあるように、本発明に使用される前記潤滑剤化合物は、芳香族基またはホスファゼン環のほかにさらに極性基を有する化合物であることが好ましい。このような極性基として好ましくは例えばヒドロキシル基が挙げられる。ヒドロキシル基は、炭素系保護層との相互作用が大きく、上述の芳香族基またはホスファゼン環と炭素系化合物との相互作用に加えて、ヒドロキシル基と炭素系保護層との相互作用による付着性が得られる。
【0030】
また、構成6にあるように、前記保護層は、プラズマCVD法により成膜された炭素系保護層であることが特に好ましい。プラズマCVD法によれば、表面が均一で密に成膜された炭素系保護層を形成でき、本発明にとっては好適だからである。
【0031】
また、構成7にあるように、本発明の磁気ディスクは、特に起動停止機構がLUL方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適である。LUL方式の導入に伴う磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、5nm以下の超低浮上量においても磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきており、このような超低浮上量のもとでも高い信頼性を有する本発明の磁気ディスクは好適である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、磁気スペーシングのよりいっそうの低減を実現することができ、しかも磁気ディスクの耐久性、特にグライド特性及びLUL耐久性に優れ、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの超低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで高信頼性を有する磁気ディスクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
本発明は、基板上に、少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層を順次形成する磁気ディスクの製造方法であって、分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を前記保護層上に成膜して前記潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施すことを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
【0034】
本発明の潤滑層を形成するために用いる潤滑剤化合物は、分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物である。このような潤滑剤化合物に対しては、成膜した潤滑層の炭素系保護層への付着力をより向上させるために、成膜後に磁気ディスクの潤滑層に向けて特に紫外線照射を行うことが好適である。上記潤滑剤化合物は紫外線照射によって、炭素系保護層上のカーボンの活性点(吸着点)に対して効率的に結合するため、炭素系保護層と潤滑層との付着特性(密着力)をより向上させることができる。
【0035】
本発明に用いる潤滑剤化合物としては、分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有するものであれば、その化学構造は特に限定されない。
【0036】
この場合の芳香族基としては、例えばフェニル基が最も好ましい代表例として挙げられるが、このほかに、ナフチレン基、ビフェニレン基、フタルイミジル基、アニリン基なども挙げられる。また、芳香族基は、1分子中に1個とは限らず、複数個(例えば2個)有していてもよい。なお、芳香族基は適当な置換基を有していてもよい。
【0037】
このような例えば芳香族基を有するパーフルオロポリエーテル潤滑剤化合物を磁気ディスクの炭素系保護層上に成膜すると、潤滑剤分子の芳香族基と上記保護層はπ−π相互作用(interaction)で近づき、その相互作用により潤滑剤は保護層に吸着するものと考えられる。特に潤滑剤分子の両末端以外の位置に芳香族基を導入することが好ましく、たとえば直鎖状の潤滑剤分子の主鎖のほぼ中心に、あるいは直鎖状の潤滑剤分子の主鎖を例えばほぼ3等分するような2箇所の位置に芳香族基を導入することが好ましい。ディスク面上に塗布したときに、潤滑剤分子が芳香族基を導入した位置で保護層と固定され、潤滑剤分子の中心部がより扁平した状態で媒体上に安定に存在するようにすることが可能になり、保護層上に分子の嵩高さを抑えた薄膜の潤滑層を形成することができる。しかも、潤滑層の膜厚を薄くしても保護層表面を十分に被覆することができる(被覆率の高い)潤滑層を形成することができる。
【0038】
また、本発明に使用される前記潤滑剤化合物は、芳香族基またはホスファゼン環のほかにさらに極性基を有する化合物であることが好ましい。特に上述の潤滑剤分子の両末端以外の位置に例えば芳香族基を有する場合は、潤滑剤分子の両末端の位置には極性基を有することが好ましい。このような極性基として例えばヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH)、カルボキシル基(−COOH)、アルデヒド基(−COH)、カルボニル基(−CO−)、スルフォン酸基(−SOH)などが挙げられる。なかでも好ましくは例えばヒドロキシル基が挙げられる。ヒドロキシル基は、炭素系保護層との相互作用が大きく、上述の芳香族基またはホスファゼン環と炭素系化合物との相互作用に加えて、ヒドロキシル基と炭素系保護層との相互作用による付着性が得られる。
【0039】
以下に、本発明に用いられる上記芳香族基を有する潤滑剤化合物の例示化合物を挙げるが、本発明はこれらの化合物に限定する趣旨ではないことは勿論である。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

ただし、上記例示の潤滑剤化合物を表わす化学式中、m、nはそれぞれ1以上の整数を表わすものとする。
【0043】
本発明に用いられる上記芳香族基を有する潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば上記例示No.1の潤滑剤化合物については、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有するパーフルオロポリエーテル化合物に対して、アルカリ条件下で、例えばエポキシ基と芳香族基を有している化合物(例えばレゾルシノールジグリシジルエーテル)を反応させることによる製造方法が好ましく挙げられる。他の例示潤滑剤化合物についても、同様の製造方法により得られる。
【0044】
また、本発明に使用するホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル潤滑剤化合物としては、たとえば、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が2価の脂肪族基を介して結合している化合物が挙げられる。上記2価の脂肪族基は、たとえば、主鎖に−(CR)−で示される基を有する基である。ここで、R、Rはそれぞれ水素原子またはヒドロキシル基である。
以下に、本発明に用いられる上記ホスファゼン環を有する潤滑剤化合物の例示化合物を挙げるが、本発明はこれらの化合物には限定されない。
【0045】
【化4】

【0046】
上記潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と、該パーフルオロポリエーテル化合物と反応しうる構造を有する脂肪族化合物の1当量とを反応させることによる製造方法が好ましく挙げられる。上記脂肪族化合物としては、例えば、末端にエポキシド構造を有するエポキシ化合物が好ましく挙げられる。
【0047】
また、その他のホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル潤滑剤化合物としては、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士がホスファゼン環を介して結合している化合物が挙げられる。以下に、その例示化合物を挙げるが、本発明はこれらの化合物には限定されない。
【0048】
【化5】

【0049】
上記例示潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば、連結基部分としてまず、4当量のm−トリフルオロメチルフェノールに塩基を作用させ、1当量の窒化塩化リン三量体と反応させることでシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を用意する。その後、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を反応させることで得られる。
【0050】
また、上記例示化合物は、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士がホスファゼン環を介して結合された2量体化合物であるが、これに限らず、上記パーフルオロポリエーテル基がホスファゼン環を介して3量体あるいはそれ以上結合された多量体化合物であってもよい。このような3量体あるいはそれ以上の多量体化合物の製造方法としては、たとえば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ両末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を反応させ、得られた化合物1当量とシクロフォスファゼンのフェノキシ5置換体を反応させることによる例えば3量体の製造方法が好ましく挙げられる。
【0051】
また、上記例示化合物と同様、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士がホスファゼン環を介して結合している化合物であるが、1つのホスファゼン環の置換位置の結合手に複数の上記パーフルオロポリエーテル基が結合している構造の化合物であってもよい。例えば、以下の例示化合物が挙げられるが、本発明はこれらの化合物には限定されない。
【0052】
【化6】

【0053】
上記潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物の3当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ3置換体を反応させることによる製造方法が好ましく挙げられる。
【0054】
本発明に用いられる潤滑剤化合物の分子量は特に制約はされないが、例えば数平均分子量(Mn)が、1000〜10000の範囲であることが好ましく、1000〜6000の範囲であることが更に好ましい。適度な粘度による修復性を備え、好適な潤滑性能を発揮し、しかも優れた耐熱性を兼ね備えることができるからである。
【0055】
本発明に用いられる潤滑剤化合物を上述の合成法により得る場合は、適当な分子量分画により、例えば数平均分子量(Mn)を、1000〜10000の範囲としたものが適当である。この場合の分子量分画する方法に特に制約されないが、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による分子量分画や、超臨界抽出法による分子量分画などを用いることができる。
【0056】
本発明の磁気ディスクの製造方法は、上記の分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を炭素系保護層上に成膜して潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施すことを特徴としている。
【0057】
本発明に係わる潤滑剤化合物を用いて潤滑層を形成するにあたっては、上記潤滑剤化合物をフッ素系溶媒等に分散溶解させた溶液を用いて、例えばディップ法により塗布して成膜することができる。
なお、潤滑層の形成方法はもちろん上記ディップ法には限らず、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法などの成膜方法を用いてもよい。
【0058】
本発明においては、成膜した潤滑剤と炭素系保護層との密着力をより向上させるために、成膜後に磁気ディスクに対して紫外線(UV)照射を施す。すなわち、本発明においては、潤滑層成膜後の後処理として、炭素系保護層に対する潤滑剤分子中の芳香族基およびその芳香族基周辺の化学結合、または潤滑剤分子中のホスファゼン環およびそのホスファゼン環周辺の化学結合をより強固なものとするのに好適な紫外線照射を施す。
【0059】
本発明においては、このような分子中に芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を炭素系保護層上に成膜すると、潤滑剤分子の芳香族基またはホスファゼン環と上記保護層はπ−π相互作用(interaction)で近づき、その相互作用により潤滑剤は保護層に吸着するものと考えられる。そして潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、紫外線照射を施すと、潤滑剤分子の芳香族基またはホスファゼン環の近傍の位置で主鎖が切断することにより生じるラジカルと炭素系保護層上のカーボンの活性点(吸着点)との結合反応が起こる。これによって、炭素系保護層に対する潤滑剤分子中の芳香族基およびその芳香族基周辺の化学結合、または保護層に対する潤滑剤分子中のホスファゼン環およびそのホスファゼン環周辺の化学結合をより強固なものとすることができ、成膜した潤滑層の保護層への付着力をより向上させることができる。
【0060】
本発明においては、上記潤滑剤化合物を炭素系保護層上に成膜して潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して紫外線照射を行う際、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整することが肝要である。
【0061】
すなわち、本発明において、紫外線照射を行う際の雰囲気は、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気とする。雰囲気中に酸素が存在する場合、紫外線照射を行うと、酸素と反応してオゾンが発生する。発生したオゾンは潤滑剤を分解してしまうので、磁気ディスクに対して紫外線照射を施す雰囲気中には極力酸素が存在しないことが望ましい。従って、本発明においては、酸素濃度は5体積%以下とし、最も好ましくは雰囲気中に酸素が存在しないことである。また、本発明において、雰囲気ガスは、窒素ガス、またはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが好適である。
【0062】
さらに、本発明において紫外線照射を行う際の雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整することが好適である。紫外線照射を行う際の雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整することにより、その範囲外、つまり50℃未満、あるいは180℃よりも高い場合と比べると、製造された磁気ディスクのグライド試験、LUL耐久性試験の歩留りを上げることができる。
本発明においては、紫外線照射時の雰囲気温度を90〜140℃の範囲とすることが特に好ましい。
【0063】
また、上記紫外線照射に用いる光源としては、紫外領域の光を発する例えば低圧水銀ランプなどを使用することができるが、紫外線照射による前記潤滑剤化合物と炭素系保護層のカーボンとの結合反応を効率的に起こさせるのに好適な(反応効率が高い)少なくとも185nm近傍の波長域を含むことが好ましい。
【0064】
また、本発明による磁気ディスクに対する紫外線照射を施す方法の具体的な実施態様としては、たとえば紫外線照射を施す磁気ディスクを収容する所定空間領域を、少なくとも紫外線照射側は該紫外線を透過する透明部材で形成した筐体で覆うとともに、前記筐体内に窒素ガスまたは不活性ガスを流入させながら、前記筐体の外側から筐体内の磁気ディスクに対して紫外線照射を施すことが好ましい。かかる実施態様では、上記所定空間領域を、磁気ディスクに対する紫外線照射を施すのに不都合の生じない必要最小限の大きさに選定することで、磁気ディスクに対して紫外線照射を施す雰囲気を、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下とし、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整することが容易になる。また、上記窒素ガスまたは不活性ガスの使用量の節約にもつながる利点もある。
【0065】
上述したように、紫外線照射を施す磁気ディスクを収容する所定空間領域は、磁気ディスクに対する紫外線照射を施すのに不都合の生じない必要最小限の大きさに選定することが本発明において好適であるが、例えば2.5インチサイズの磁気ディスクに対して枚葉で紫外線照射処理を行う場合を考えた場合、この必要な所定空間領域は、例えば8000cm(20cm×20cm×20cmの大きさ相当)以下とすることができ、好ましくは4000cm以下であり、さらに好ましくは2500cm以下とすることが好適であるが、これらの大きさはあくまでも一例であり、これに制約される必要はない。
【0066】
このような紫外線照射を施す磁気ディスクを収容する所定空間領域を覆うための筐体は、少なくとも紫外線照射側は該紫外線を透過する透明部材で形成したものであるが、この場合の透明部材としては、少なくとも185nm近傍の波長域を含む紫外領域において透明性の高い合成石英などが好適である。また、この筐体は、少なくとも紫外線照射側が該紫外線を透過する透明部材で形成されていればよいが、この筐体の全体が透明部材で形成されていても勿論構わない。また、この筐体の形状に関しては特に制約されないが、通常は箱型形状、あるいはドーム型形状、もしくは球型形状などが好適である。
【0067】
また、上記筐体内に窒素ガスまたは不活性ガスを流入させながら磁気ディスクに対して紫外線照射を行う場合、筐体内が陽圧となるようにガス流量等を調節することが好ましい。筐体内のガス圧を陽圧とすることで、磁気ディスクに対して紫外線照射を施す雰囲気を、酸素濃度が5体積%以下に極力低減することが可能である。また、筐体内の磁気ディスクに対して紫外線照射を施す雰囲気(筐体内の雰囲気)温度は50〜180℃の範囲に調整されるが、温度を上げる必要のある場合には、例えばヒーターを用いたり、逆に温度を下げる必要がある場合には、適当な冷却手段を用いたり、あるいは流入ガス温度を下げるなど、その雰囲気温度調節の方法は任意である。
【0068】
また、磁気ディスクに対する紫外線照射時間は、厳密には、紫外線照射による前記潤滑剤化合物と炭素系保護層のカーボンとの結合反応が起こるのに必要な時間であるが、通常、光源の強度等にもよるが、大凡5〜15秒間以内が好適である。
【0069】
なお、従来の潤滑層の膜厚は、通常13〜15Å程度であったが、本発明にあっては、従来よりも薄膜化できて、例えば7〜12Å程度の薄膜とすることができる。
【0070】
また、本発明における炭素系保護層としては、特にアモルファス炭素保護層が好ましい。保護層が炭素系保護層であることにより、前記潤滑剤化合物の芳香族基あるいはホスファゼン環と保護層との相互作用に加えて、前記潤滑剤化合物がさらに極性基(例えばヒドロキシル基)を有する場合、この極性基と保護層との相互作用が高まるため好ましい態様である。
本発明における炭素系保護層においては、上記潤滑剤化合物の極性基と保護層との相互作用をよりいっそう高める観点からは、たとえば保護層の潤滑層側に窒素を含有させ、磁性層側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。保護層の潤滑層側に窒素を含有させる方法としては、保護層成膜後の表面を窒素プラズマ処理して窒素イオンを打ち込む方法や、窒素化炭素を成膜する方法などが挙げられる。こうすることで、保護層に対する潤滑剤の密着性をさらに高めることができる。
【0071】
本発明における炭素系保護層は、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜することができるが、特にプラズマCVD法により成膜されたアモルファス炭素保護層とすることが好ましい。プラズマCVD法により成膜することで保護層表面が均一となり密に成膜される。従って、より粗さが小さいCVD法で成膜された保護層上に本発明による潤滑層を形成することは好ましい。
【0072】
本発明にあっては、保護層の膜厚は、15〜50Åとするのがよい。15Å未満では、保護層としての性能が低下する場合がある。また50Åを超えると、薄膜化の観点から好ましくない。
【0073】
本発明の磁気ディスクにおいては、基板はガラス基板であることが好ましい。ガラス基板は剛性があり、平滑性に優れるので、高記録密度化には好適である。ガラス基板としては、例えばアルミノシリケートガラス基板が挙げられ、特に化学強化されたアルミノシリケートガラス基板が好適である。
本発明においては、上記基板の主表面の粗さは、Rmaxが3nm以下、Raが0.3nm以下の超平滑であることが好ましい。なお、ここでいう表面粗さRmax、Raは、JIS B0601の規定に基づくものである。
【0074】
本発明により得られる磁気ディスクは、基板上に少なくとも磁性層と保護層と潤滑層を備えているが、上記磁性層としては、近年の急速な高記録密度化の実現に好適な垂直磁気記録用磁性層とすることが好ましい。とりわけ、CoPt系磁性層であれば、高保磁力と高再生出力を得ることができるので好適である。
【0075】
本発明の磁気ディスクの好適な垂直磁気記録ディスクにおいては、基板と磁性層との間に、必要に応じて下地層を設けることができる。また、該下地層と基板との間に付着層や軟磁性層等を設けることもできる。この場合、上記下地層としては、例えば、Cr層、Ta層、Ru層、あるいはCrMo,CoW,CrW,CrV,CrTi合金層などが挙げられ、上記付着層としては、例えば、CrTi,NiAl,AlRu合金層などが挙げられる。また、上記軟磁性層としては、例えばCoZrTa合金膜などが挙げられる。
高記録密度化に好適な垂直磁気記録ディスクとしては、基板上に付着層、軟磁性層、下地層、磁性層(垂直磁気記録層)、炭素系保護層、潤滑層を備える構成が好適である。この場合、上記垂直磁気記録層の上に交換結合制御層を介して補助記録層を設けることも好適である。
【0076】
以上のように、本発明による磁気ディスクの製造方法によれば、保護層との密着性に極めて優れた潤滑層を形成することができるので、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの超低浮上量(5nmあるいはそれ以下)のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで高信頼性を有する磁気ディスクが得られる。
【0077】
本発明により得られる磁気ディスクは、特にLUL方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適である。LUL方式の導入に伴う磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、例えば5nm以下の超低浮上量においても磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきており、超低浮上量のもとで高い信頼性を有する本発明の磁気ディスクは好適である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。併せて、実施例に対する比較例についても説明する。
(実施例1、比較例1)
本実施例による磁気ディスクは、基板上に、付着層、軟磁性層、第1下地層、第2下地層、磁性層、炭素系保護層、及び潤滑層が順次形成されてなる。
【0079】
(潤滑剤の製造)
前記の例示No.1の潤滑剤化合物を以下のようにして製造した。
分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、両末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル化合物に対して、アルカリ条件下(NaOH)で、レゾルシノールジグリシジルエーテルを反応させることにより製造した。
上記のようにして得られた化合物からなる潤滑剤に対して超臨界抽出法により適宜分子量分画を行った。
【0080】
(磁気ディスクの製造)
化学強化されたアルミノシリケートガラスからなる2.5インチ型ガラスディスク(外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mm)を準備し、ディスク基板とした。ディスク基板の主表面は、Rmaxが2.13nm、Raが0.20nmに鏡面研磨されている。
このディスク基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、Arガス雰囲気中で、順次、Ti系の付着層、Fe系の軟磁性層、Ruの第1下地層、同じくRuの第2下地層、CoCrPt磁性層を成膜した。この磁性層は垂直磁気記録方式用磁性層である。
引き続き、プラズマCVD法により、ダイヤモンドライク炭素保護層を膜厚50Åで成膜した。
【0081】
次に、潤滑層を以下のようにして形成した。
上記のように製造し、超臨界抽出法により分子量分画した潤滑剤化合物(前記例示化合物No.1)からなる潤滑剤(NMR法を用いて測定したMnが2800、分子量分散度が1.10)を、フッ素系溶媒である三井デュポンフロロケミカル社製バートレルXF(商品名)に0.2重量%の濃度で分散溶解させた溶液を調整した。この溶液を塗布液とし、保護層まで成膜された磁気ディスクを浸漬させ、ディップ法で塗布することにより潤滑層を成膜した。
【0082】
成膜後に、磁気ディスクを箱型形状の筐体内に設置した。この筐体は、略13cm四方の箱型形状であり、全体が合成石英ガラスで形成されており、ガス流入口及びガス排気口を設けている。この筐体内にガス流入口を介して窒素ガスを流入させながら、この筐体の外側に設置された光源を使用して、筐体内の磁気ディスクに対して紫外線照射を行った。
なお、上記光源には、光強度比が波長185nm:波長254nm=3:10である低圧水銀ランプ(110W)を使用した。また、上記のように筐体内に窒素ガスを流入させながら、かつ筐体の排気口から排気を行い、筐体内のガス圧が陽圧となるように窒素ガス流量を調節した。こうして筐体の内部はほぼ窒素ガスで置換され、酸素濃度は5体積%以下になっていた。また、紫外線照射時の筐体内部の雰囲気温度を50〜90℃(50℃以上90℃未満)の範囲に調整した。この温度調整は、ヒーターによる磁気ディスクの設置台の加熱、あるいは流入窒素ガスの冷却等により適宜行った。
【0083】
以上のようにして、筐体内に設置した磁気ディスクに対して、10秒間の紫外線照射を行った。紫外線照射後の潤滑層の膜厚をフーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)で測定したところ12Åであった。潤滑層被覆率についても80%以上で良好であった。こうして、100枚の磁気ディスク(実施例1−1の磁気ディスク)を作製した。
また、紫外線照射時の筐体内部の雰囲気温度を90〜140℃(90℃以上140℃以下)の範囲に調整したこと以外は上記と同様にして100枚の磁気ディスク(実施例1−2の磁気ディスク)を作製した。
【0084】
一方、紫外線照射時の筐体内部の雰囲気温度を50℃未満に調整したこと以外は上記と同様にして100枚の磁気ディスク(比較例1−1の磁気ディスク)を作製した。また、雰囲気温度を180℃よりも高い温度に調整したこと以外は上記と同様にして100枚の磁気ディスク(比較例1−2の磁気ディスク)を作製した。
【0085】
次に、以下の試験方法により、上記実施例1−1〜1−2および比較例1−1〜1−2の各磁気ディスクの評価を行った。
(1)グライド試験
グライドヘッドを備えたグライド試験機を用いて行った。なお、グライドヘッドの浮上量は5nmとし、欠陥が検出されない場合を合格品とし、欠陥が1つでも検出された場合は不合格とした。
【0086】
(2)LUL耐久性試験
LUL方式のHDD(5400rpm回転型)を準備し、浮上量が5nmの磁気ヘッドと実施例の磁気ディスクを搭載した。磁気ヘッドのスライダーはNPAB(負圧)スライダーであり、再生素子は磁気抵抗効果型素子(GMR素子)を搭載している。シールド部はFeNi系パーマロイ合金である。このLUL方式HDDに連続LUL動作を繰り返させて、故障が発生するまでに磁気ディスクが耐久したLUL回数を計測した。通常のHDDの使用環境下ではLUL回数が40万回を超えるには概ね10年程度の使用が必要と言われており、現状では60万回以上耐久すれば好適であるとされているので、60万回耐久した場合を合格品とした。
以上のグライド試験およびLUL耐久性試験の合格率を以下の表1に示した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1の結果から、紫外線照射時の雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を行う本発明の実施例によれば、磁気ディスクのグライド試験及びLUL耐久性試験の合格率(歩留り)を向上できることが確認できた。
【0089】
(実施例2、比較例2)
(潤滑剤の製造)
前記の例示No.5の潤滑剤化合物を以下のようにして製造した。
分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、両末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル化合物に対して、アルカリ条件下(NaOH)で、レゾルシノールジグリシジルエーテルを反応させる(ただし、レゾルシノールジグリシジルエーテルに対して上記パーフルオロポリエーテル化合物を3当量反応させる)ことにより製造した。
上記のようにして得られた化合物からなる潤滑剤に対して超臨界抽出法により適宜分子量分画を行った。
【0090】
上記のように製造し、超臨界抽出法により分子量分画した潤滑剤化合物(前記例示化合物No.5)からなる潤滑剤(NMR法を用いて測定したMnが3600、分子量分散度が1.10)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑層を成膜し、成膜後に、実施例1と同様の条件で、磁気ディスクに対して紫外線照射を行った。
こうして、紫外線照射時の雰囲気温度を実施例1及び比較例1と同様に変更して得られた実施例2−1〜2−2および比較例2−1〜2−2の各磁気ディスクについての評価を実施例1と同様に行った。
各磁気ディスクのグライド試験およびLUL耐久性試験の合格率を以下の表2に示した。
【0091】
【表2】

【0092】
表2の結果から、紫外線照射時の雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を行う本発明の実施例によれば、磁気ディスクのグライド試験及びLUL耐久性試験の合格率(歩留り)を向上できることが確認できた。
【0093】
(実施例3、比較例3)
(潤滑剤の製造)
前記の例示化合物Bの潤滑剤化合物を以下のようにして製造した。
分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、両末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と1当量のシクロホスファゼンのフェノキシ4置換体を反応させる。次に、得られた化合物1当量とシクロホスファゼンのフェノキシ5置換体を反応させることにより、前記の例示潤滑剤化合物Bを製造した。
上記のようにして得られた化合物からなる潤滑剤に対して超臨界抽出法により適宜分子量分画を行った。
【0094】
上記のように製造し、超臨界抽出法により分子量分画した潤滑剤化合物(前記例示化合物B)からなる潤滑剤(NMR法を用いて測定したMnが6000、分子量分散度が1.20)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして潤滑層を成膜し、成膜後に、紫外線照射時の雰囲気ガスを窒素ガスからアルゴンガスに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、磁気ディスクに対して紫外線照射を行った。
こうして、紫外線照射時の雰囲気温度を実施例1及び比較例1と同様に変更して得られた実施例3−1〜3−2、および紫外線照射時の筐体内部の雰囲気温度を140〜180℃(140℃超180℃以下)の範囲に調整したこと以外は上記と同様にして作製した磁気ディスク(実施例3−3の磁気ディスク)、並びに比較例3−1の各磁気ディスクについての評価を実施例1と同様に行った。
各磁気ディスクのグライド試験およびLUL耐久性試験の合格率を以下の表3に示した。
【0095】
【表3】

【0096】
表3の結果から、紫外線照射時の雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を行う本発明の実施例によれば、磁気ディスクのグライド試験及びLUL耐久性試験の合格率(歩留り)を向上できることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも磁性層と炭素系保護層と潤滑層を順次形成する磁気ディスクの製造方法であって、
分子構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ芳香族基またはホスファゼン環を有する潤滑剤化合物を含む潤滑剤組成物を前記保護層上に成膜して前記潤滑層を形成した後に、磁気ディスクに対して、酸素濃度が5体積%以下である窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気下で、且つ雰囲気温度を50〜180℃の範囲に調整して紫外線照射を施すことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記紫外線照射時の雰囲気温度が90〜140℃の範囲であることを特徴とする請求項1のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記紫外線照射に用いる光源は、少なくとも185nm近傍の波長域を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
前記紫外線照射を施す磁気ディスクを収容する所定空間領域を、少なくとも紫外線照射側は該紫外線を透過する透明部材で形成した筐体で覆うとともに、前記筐体内に窒素ガスまたは不活性ガスを流入させながら、前記筐体の外側から筐体内の磁気ディスクに対して紫外線照射を施すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
前記潤滑剤化合物は、芳香族基またはホスファゼン環のほかに極性基を有する化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項6】
前記保護層は、プラズマCVD法により成膜された炭素系保護層であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項7】
前記磁気ディスクは、起動停止機構がロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される垂直磁気記録ディスクであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの製造方法。


【公開番号】特開2012−9090(P2012−9090A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141845(P2010−141845)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】