説明

磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置及びその検査方法

【課題】磁気ディスクの偏心に対する位置情報復調ミスの低減および位置信号検出精度の向上を実現し、さらには任意の周波数に対して迅速な偏心クロック補正を可能とする。
【解決手段】磁気ディスクから読み出されたサーボ情報を復調するサーボ復調部と、磁気ディスクから読み出されたサーボ情報の周波数に応じた基準クロック72を生成しサーボ復調部に供給するPLLクロック発生部19と、検査装置の動作を制御するテスタ制御部とを備える。PLLクロック発生部19は、磁気ディスクの偏心量に応じて基準クロックの周波数を補正するための偏心補正回路19bを有し、テスタ制御部は偏心補正回路19bに対し、基準クロックの周波数を補正するための補正データ75を生成し、補正データにPLLクロック発生部19の伝達関数の逆数を乗算して供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置及びその検査方法に係り、磁気ディスクに書き込まれているサーボパターンのフォーマットが異なっていても高精度に検査可能な検査装置及びその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDD(ハードディスクドライブ)の磁気ディスクは、高密度化のためナノプリント等の微細加工及びスタンパ技術により、あらかじめサーボパターンが書き込まれているディスク(DTM(ディスクリートトラックメディア)/BPM(ビットパターンドメディア)/磁気転写メディア)が主流になりつつある。磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置においては、磁気ディスクに書き込まれているサーボパターンを復調し、ディスク面ぶれや偏心等によるトラックずれを抑制しオントラックでサーボ制御しながら、データ領域に試験データの書き込み及び読み出しを行って、磁気ディスクまたは磁気ヘッドの良否判定を行う必要がある。
【0003】
一般に磁気ディスクに偏心があると、磁気ディスクから再生されるクロック信号の周期が変動しディスクへの記録再生動作が不安定となる。サーボパターンの復調においては、偏心量の大きさに比例して位置情報(トラックコードやセクターコード)の復調ミスや位置信号検出誤差が多くなる。この問題に対し特許文献1では、電圧制御発振器と、ディスクの偏心量に対応した信号を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記偏心量に対応した信号に従って、前記電圧制御発振器から出力されるクロック信号の位相または周波数を変化させる補正手段とを備えるクロック信号補正回路が提案されている。
【0004】
また、サーボパターンのフォーマットは各ドライブメーカによりあるいは同メーカでも機種により異なっている。そのため、サーボパターンを正しく復調するためには、サーボパターンに対応する専用のチャネル制御ICを入手して検査を実施する必要があり、作業の煩雑さとコストアップが問題となっていた。この問題に関し特許文献2では、サーボパターンの一部の情報を検出パターンとして設定し、前記一部の情報の復調パターンと前記検出パターンを比較し、その結果に応じて検査の動作タイミングを制御することで複数のサーボパターンに対しても対応可能な汎用のサーボ復調回路が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−223502号公報
【特許文献2】特開2010−49775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1では、任意のディスク回転数や任意のサーボパターン周波数に対する偏心補正の迅速な対処法については考慮されていない。また前記特許文献2では、ディスク偏心時のサーボパターン復調精度については考慮されていない。よって、サーボパターンのフォーマットが異なる場合やディスク回転数が異なる場合にディスク偏心が存在すると、偏心補正が迅速にできず、また位置情報復調ミスの発生と位置信号検出精度が低下する問題がある。
【0007】
本発明の目的は、磁気ディスクの偏心に対する位置情報復調ミスの低減および位置信号検出精度の向上を実現し、さらには任意の周波数に対して迅速な偏心クロック補正を可能とする磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置及びその検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置は、磁気ディスクから読み出されたサーボ情報を復調するサーボ復調部と、磁気ディスクから読み出されたサーボ情報の周波数に応じた基準クロックを生成しサーボ復調部に供給するPLLクロック発生部と、検査装置の動作を制御するテスタ制御部とを備える。PLLクロック発生部は、磁気ディスクの偏心量に応じて基準クロックの周波数を補正するための偏心補正回路を有し、テスタ制御部は偏心補正回路に対し、基準クロックの周波数を補正するための補正データを生成し、補正データにPLLクロック発生部の伝達関数の逆数を乗算して供給する。
【0009】
本発明による磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査方法は、基準クロックに従い磁気ディスクから読み出されたサーボ情報を復調するステップと、PLLクロック発生部により、磁気ディスクから読み出されたサーボ情報の周波数に応じた基準クロックを生成するステップと、磁気ディスクの偏心量に応じて基準クロックの周波数を補正するステップとを備える。基準クロックの周波数を補正するステップでは、磁気ディスクの偏心量に応じた補正データを生成し、補正データにPLLクロック発生部の伝達関数の逆数を乗算してPLLクロック発生部に供給する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ディスク偏心が存在してもサーボ復調回路における位置情報復調ミスを低減し位置信号検出精度を向上させる。また任意の周波数に対して迅速な偏心クロック補正が可能となる。これより、高精度・高性能な磁気ヘッドの検査装置及びその検査方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による検査装置の一実施例を示すブロック構成図。
【図2】サーボ復調部30の内部構成図。
【図3】PLLクロック発生部19の内部構成図。
【図4】ADC部17における読み出し信号の処理を示す図。
【図5】偏心量Δrと周波数偏差Δf/Fの関係の一例を示す図。
【図6】ディスク偏心時に取得されるトラック位置の変動データの一例を示す図。
【図7】PLLクロック発生部19の伝達特性の一例を示す図。
【図8】PLLクロック発生部19の伝達関数Gpll(s)の求め方を示す図。
【図9】伝達関数Gpll(s)を用いた偏心補正量の補償方法を説明する図。
【図10】磁気ディスクのサーボパターンの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
始めに、本発明で対象とする磁気ディスクのサーボパターンについて説明する。
図10は、磁気ディスクに書き込まれているサーボパターンの一例を示す図である。磁気ディスク10は、ディスク面に同心円状に複数本のトラック10tが形成され、各トラックは、複数個のサーボ領域(サーボセクタ)10sと、実際のデータの記録再生に用いるデータ領域で構成される。符号12は磁気ヘッド、符号14は読み出し信号を増幅するアンプである。サーボ領域10s内のサーボ情報フォーマットは、HDDメーカやHDDの種類によって異なるが、図10には典型的な例を示している。
PA(Preamble Field):サーボ領域読み取りまでの準備を行う領域で、単一周波数の波形(バースト信号)が記録されている。
SAM(Servo Address):サーボ領域の始まりを示すマーカーコードが記録されている領域。
Sector:セクタ番号コードが記録されている領域。
Track:トラック番号コードが記録されている領域。
上記のマーカーコード、セクタ番号コード、トラック番号コードをサーボパターンコード、またそれらの記録されている領域をサーボパターンコードエリアと呼ぶ。
POS(A,B,C,D):1トラック未満の微細な位置情報を得るためのサーボ位置信号(サーボポジション)が記録されている領域(サーボポジションエリア)。
【0014】
次に、本発明の磁気ヘッドまたは磁気ディスクの検査装置について説明する。
図1は、本発明による磁気ヘッドまたは磁気ディスクの検査装置(以下、単に「検査装置」と記す)の一実施例を示すブロック構成図である。
【0015】
本実施例の検査装置は、大別して、磁気ヘッド駆動部1と、磁気ヘッド駆動部1からのアナログ読み出し信号22を処理する信号処理部2と、磁気ディスクへ信号を書き込みする信号書き込み部(図示せず)と、ユーザが検査装置の動作を指示したり検査結果を表示したりするユーザインタフェース4、及びこれらを制御し信号の授受を行うテスタ制御部5からなる。各部の構成は次の通りである。
【0016】
磁気ヘッド駆動部1において、スピンスタンド11は磁気ディスク10を保持し回転動作させ、R/W(リードライト)磁気ヘッド12は磁気ディスク10への信号書き込みと読み出しを行う。R(リード)アンプ14はR/W磁気ヘッド12からの読み出し信号を増幅する。ステージ13はR/W磁気ヘッド12を保持し、サーボ駆動部15により制御される。サーボ駆動部15は、テスタ制御部5からR/W磁気ヘッド12の現在のトラック位置と測定対象トラックとの誤差信号52を受け、ステージ13を制御するステージ制御信号16を生成する。
【0017】
信号処理部2において、ADC部(Analog Digital Converter)17はRアンプ14で増幅したアナログ読み出し信号22をデジタル読み出し信号18に変換する。サーボ復調部30は、デジタル読み出し信号18からサーボパターンを復調し、その復調結果26とテスタ制御部5から設定される検出パターン51とを比較して検査対象(ディスクのサーボパターン)のフォーマットを判別する。位置検出部27は、サーボ復調部30から出力されるタイミング信号32に従って、デジタル読み出し信号18とテスタ制御部5から指定されるサーボ位置信号53を比較し、R/W磁気ヘッド12の指定トラックからの位置ずれを意味する位置情報24を検出する。特性測定部25は、サーボ復調部30から出力されるタイミング信号31に従って、アナログ読み出し信号22から検査対象である磁気ヘッド12または磁気ディスク10の所定の特性を検出して測定結果23を出力する。PLL(Phase Locked Loop)クロック発生部19は、テスタ制御部5から指定される任意周波数設定のための分周比指定74と、磁気ディスク10の偏心によるサーボパターンのアナログ読み出し信号22の周波数偏差分を補正するための偏心補正データ75を入力し、読み出し信号周波数に応じたサーボ復調の基準クロック出力72を生成し、ADC部17とサーボ復調部30と位置検出部27に供給する。
【0018】
図2は、本実施例におけるサーボ復調部30の内部構成図である。パターン復調部34は、デジタル読み出し信号18をもとに、前記サーボパターンコード(SAM、Sector、Track)をデジタル信号パターンに復調し、その復調結果26をテスタ制御部5に出力する。パターン比較部35は、復調結果26のデジタル信号パターンのパターン列とテスタ制御部5が出力する検出パターン51のSAMパターンコードとを比較して、一致するタイミングにて一致検出信号37を出力する。タイミング制御部36は、一致検出信号37をもとに所定のタイミングで、位置検出部27と特性測定部25のそれぞれに動作開始または動作期間を制御するタイミング信号32,31を出力する。
【0019】
上記の構成により本実施例の検査装置では、テスタ制御部5から設定される検出パターン51を磁気ディスク10に書き込まれたサーボパターンに対応させることで、磁気ディスク10に対応したサーボ制御が可能となる。
【0020】
また、サーボパターンのフォーマットが異なる複数種類の磁気ディスクを用いる場合でも、各ディスクのサーボパターンに対応する検出パターン51を設定することで、同一の検査装置において複数種類の磁気ディスクに対応することが可能となる。ここで、検出パターン51については、ユーザがサーボパターンに応じてユーザインタフェース4を介して設定あるいは入力し、テスタ制御信号41を介してテスタ制御部5で生成される。
【0021】
さらに本実施例では、PLLクロック発生部19は磁気ディスク10の偏心を補正するために読み出し信号周波数に応じたサーボ復調の基準クロック出力72を生成するが、クロック周波数やディスク回転数の設定変更による偏心補正テーブルの変更を不要とし、任意のクロック周波数やディスク回転数の設定においてもクロック周波数の偏心補正が容易に実現できるものとした。以下、ディスク偏心に対するクロック周波数の補正方法について説明する。
【0022】
図3は、本実施例におけるPLLクロック発生部19の内部構成図である。PLLクロック発生部19は、任意周波数のクロックを発生するPLL回路19aと、ディスク偏心に応じてPLL回路19aの発生するクロック周波数を補正するPLL偏心補正回路19bから構成される。
【0023】
PLL回路19aにおいて、位相比較器60は、固定周波数のクロック信号であるREF_CLK信号67と任意分周器64の分周出力クロック信号73との位相信号位相を比較し、位相差パルス信号68を出力する。チャージポンプ部61は、位相差パルス信号68を位相差電圧信号69に変換し、補償器62は、PLLループ制御を安定させるためのフィルターやゲインを設定する。電圧制御発振器(VCO:Voltage Control Oscillator)63は、入力電圧71に対応して出力するクロック信号72の発振周波数を変化させる。任意分周器64は、テスタ制御部5が出力する分周比指定74によりVCO63のクロック出力72を任意に分周する。
【0024】
PLL偏心補正回路19bにおいて、DAC部(Digital Analog Converter)65は、テスタ制御部5がサーボセクタ毎に出力する偏心補正データ75をアナログ補正電圧76に変換する。LPF部(Low Pass Filter)66は、サーボセクタ毎の設定によりDAC部65から出力されるアナログ補正電圧76に対し、0次ホールド段差をなくしディスク回転中連続的で滑らかな回転1次成分の補正加算電圧77に変換する。加算部78は、補償器62から出力される位相差電圧70とLPF部66から出力される補正加算電圧77を加算し、加算された電圧71をVCO63に入力する。
【0025】
以下、本実施例の信号処理部2の動作を説明する。
図4は、ADC部17における読み出し信号の処理を示す図である。ADC部17は、PLLクロック発生部19から出力されるクロック出力72に従い、アナログ読み出し信号22を読み出し信号基本周波数の4倍(あるいは8倍)の周波数にてデジタル変換する。変換されたデジタル読み出し信号18(あるいは18’)は、サーボ復調部30および位置検出部27に入力される。サーボ復調部30では、デジタル読み出し信号18のサーボパターンコードエリアのデータが取り込まれ、基本周波数の1周期単位毎に“0”または“1”のデータにパターンジャッジし、0/1のデータ列から復調結果26を得ている。
【0026】
また位置検出部27では、デジタル読み出し信号18のサーボポジションエリアのデータが取り込まれ、データの演算処理により1トラック未満の微細な位置情報24を復調している。
【0027】
従って、読み出し信号22の基本周波数の4倍(あるいは8倍)の周波数と、PLLクロック発生部19のクロック出力72の周波数との誤差は、サーボパターンコードの復調ミスの増大、さらにはサーボポジションの復調精度の低下につながる。このため、読み出し信号22の基本周波数の4倍(あるいは8倍)の周波数とPLLクロック周波数の誤差は極力小さくする必要がある。
【0028】
次に、ディスク偏心の発生と学習方法について説明する。
磁気ディスク10をスピンスタンド11に搭載する際、磁気ディスク10の中心精度やスピンスタンド11への取り付け精度などの要因により、磁気ディスク10のトラック円中心とスピンスタンド11回転体中心を誤差無く取り付けることは不可能であり、通常10μmから50μm程度の偏心が残留する。
【0029】
磁気ディスクに予め書き込まれているサーボパターンは、内周・外周のどのトラック位置でも同じ周波数・パターン長になるようディスクのトラック中心から放射状に配置されている。ディスクのトラック円中心とスピンスタンド回転体中心に偏心があると、トラック1周の各セクタのサーボパターン周波数は、スピンスタンドの回転体中心からの半径位置変動に応じた周波数偏差を生じる。ディスク半径位置をR、偏心量をΔr、サーボパターン周波数をF、周波数変動をΔfとした場合、周波数偏差Δf/Fは、Δf/F=±Δr/Rで表わされる。
図5は、偏心量Δrと周波数偏差Δf/Fの関係の一例を示す図である。
【0030】
本実施例の検査装置において、磁気ヘッド駆動部1により磁気ヘッド12を任意のディスク半径位置に移動して位置決めできるため、ディスク半径位置Rは既知となる。よって、偏心量Δrを学習により取得することによって周波数偏差Δf/Fを算出することができる。
【0031】
偏心量Δrの学習は次のようにして行うことができる。磁気ヘッド駆動部1により、磁気ディスク10を所定の速度で回転させ、磁気ヘッド12を所定のディスク半径位置Rに移動して位置決め固定する。磁気ヘッド12から読み出したサーボ信号をサーボ復調部30(パターン復調部34)でパターン復調すると、各セクタ毎に復調されたトラック番号および位置情報24(1トラック未満の位置情報)が得られる。これよりディスク1周分のトラック位置の変動量(すなわちディスク偏心量)を求めることができる。
【0032】
図6は、パターン復調により取得したディスク偏心時のトラック位置の変動データの一例を示す図で、(a)はPLLクロックが偏心補正されていない場合、(b)は(a)のデータをもとに作成した近似曲線、(c)はPLLクロックを偏心補正した場合である。なお、(c)については後述する。
【0033】
(a)の場合、PLLクロックが偏心補正されていないことにより所々のセクタにて復調ミス(データ欠落)が存在する。この場合、有効なセクタの復調結果のみ用いて偏心の支配的成分である回転1次成分を近似することで、(b)のように連続したトラック位置情報を得ることができる。そして、(b)の近似曲線を用いて、次式よりディスクの偏心量Δrを算出する。
偏心量Δr=(MAXトラック番号−MINトラック番号)/2*トラックピッチ
また、偏心の方向は、MAXもしくはMINとなるセクタ位置から判別できる。
【0034】
図6の例では、MAXトラック番号=119590、MINトラック番号=119530であり、例えばトラックピッチ=100nmの場合、偏心量Δr=30μm、偏心方向は15セクタ方向となる。さらに磁気ヘッドのディスク半径位置R=20mmの場合には、周波数偏差Δf/F=±Δr/R=±0.15%となる。よって図6の例においては、所定のPLLクロック周波数に対して±0.15%の偏心補正量を与えればよい。
【0035】
次に、算出した偏心補正量と偏心方向に基づき、ディスク1周分の補正量の振幅と位相のSINカーブ(あるいはCOSカーブ)を求め、各セクタ位置での補正量を割り出して偏心補正テーブルを作成する。そして、偏心補正テーブルを参照して各セクタ単位に順次補正量を加算することで、クロック出力周波数を偏心補正量分だけ変動させることができる。
【0036】
ところで本実施例の検査装置においては、任意周波数のサーボパターンに対応するために、PLLクロック発生部19はテスタ制御部5からの分周比指定74により任意にクロック出力周波数を設定可能としている。しかし、クロック出力周波数の設定変更に伴い、任意分周器64の分周比やVCO63の入出力特性あるいはディスク回転周波数が変化することから、PLLクロック発生部19の伝達特性(ゲイン特性、位相特性)は一定ではなくなる。
【0037】
図7は、PLLクロック発生部19の伝達特性の一例を示す図で、偏心補正データ75に対するクロック出力72のゲイン特性と位相特性を示す。これより、クロック周波数が高くなるにつれ伝達特性は大幅に変化し、ゲインは増大しまた位相遅れも増大することが分かる。このため、偏心補正量を一定として入力しても、クロック周波数やディスク回転数の設定を変えるとPLLクロック発生部19から出力されるクロック周波数の補正量は変化してしまう。よって、クロック周波数毎にPLLクロック発生部19の伝達特性を補償した偏心補正テーブルを準備しなければ、所望の補正を実現することができないことになるが、クロック周波数やディスク回転数の設定毎に偏心補正テーブルを準備することは容易ではない。
【0038】
そこで本実施例の検査装置では、PLLクロック発生部19の伝達特性を表す伝達関数Gpll(s)を求めておき、関数式Gpll(s)を用いて演算することにより、任意のクロック周波数における補償された偏心補正量(偏心補正データ75)を与えるようにした。
【0039】
図8は、PLLクロック発生部19の伝達関数Gpll(s)の求め方を示す図である。PLLクロック発生部19を構成する各要素の周波数特性(sは周波数)を分析し、それぞれの要素の伝達パラメータKd,Fa(s),Fv(s)などを決定する。そして、PLLクロック発生部19全体として偏心補正データ75の入力に対するクロック出力72の伝達関数Gpll(s)を求める。図8には、伝達関数Gpll(s)の具体的なパラメータ構成を示す。
【0040】
図9は、PLLクロック発生部19の伝達関数Gpll(s)を用いた偏心補正量の補償方法を説明する図である。テスタ制御部5には、1個の偏心補正テーブル80と補償用に上記の伝達関数Gpll(s)を格納している。この偏心補正テーブル80には、学習によりディスク偏心量から求めた各セクタに対する補正データを格納しており、この補正データはクロック周波数に依存せず一義に与えられる値である。
【0041】
テスタ制御部5は、検査対象となるディスクのクロック周波数sを補償用の伝達関数Gpll(s)に代入して関数値を求める。そして、偏心補正テーブル80から各セクタに対する補正データを読み出し、読み出した補正データと関数値の逆数1/Gpll(s)を演算(乗算)することで補正データを補償する。そして、補償された補正データをPLLクロック発生部19のDAC65へ入力する。
【0042】
PLLクロック発生部19では、前述のようにクロック周波数sに対して関数Gpll(s)で示される伝達特性を有するが、この特性はテスタ制御部5における逆数1/Gpll(s)の演算処理(補償処理)によりキャンセルされる。つまり、PLLクロック発生部19の有する伝達特性Gpll(s)の影響は解消され、クロック周波数やディスク回転数の設定変更による偏心補正テーブル変更は不要となる。よって、任意のクロック周波数やディスク回転数の設定においても、ディスク偏心に対するクロック周波数の偏心補正を極めて容易に実現できる。
【0043】
図6(c)は、PLLクロックを偏心補正した場合のパターン復調により取得したトラック位置の変動データの一例を示す図である。クロック出力に偏心補正を行った状態でサーボパターンを復調することにより、偏心補正していない前記図6(a)と比較し、復調データの欠落(位置情報復調ミス)がなく位置信号検出精度を向上させることができる。また、クロック出力の偏心補正を行った状態で再度偏心量を学習することで、より正確なディスク偏心量を取得できる。その結果、より正確なクロックの偏心補正とサーボ復調が可能となる。
【0044】
本実施例によれば、汎用サーボ復調回路による位置情報復調ミスの低減および位置信号検出精度の向上を実現し、さらには、任意のクロック周波数に対して迅速なディスク偏心補正を可能とすることにより、高精度・高性能な磁気ディスクまたは磁気ヘッド検査装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…磁気ヘッド駆動部、2…信号処理部、4…ユーザインタフェース、5…テスタ制御部、10…磁気ディスク、11…スピンスタンド、12…R/W磁気ヘッド、13…ステージ、14…Rアンプ、15…サーボ駆動部、17…ADC部、19…PLLクロック発生部、19a…PLL回路、19b…PLL偏心補正回路、25…特性測定部、27…位置検出部、30…サーボ復調部、60…位相比較器、61…チャージポンプ部、62…補償器、63…電圧制御発振器(VCO)、64…任意分周器、65…DAC部、66…LPF部、78…加算部、80…偏心補正テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク上に書き込まれたサーボ情報に基づいて磁気ヘッドを制御し、前記磁気ディスクに信号を書き込みまたは読み出しを行い、前記磁気ディスクまたは前記磁気ヘッドの特性を測定する磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置において、
前記磁気ディスクから読み出されたサーボ情報を復調するサーボ復調部と、
前記磁気ディスクから読み出されたサーボ情報の周波数に応じた基準クロックを生成し前記サーボ復調部に供給するPLLクロック発生部と、
当該検査装置の動作を制御するテスタ制御部とを備え、
前記PLLクロック発生部は、前記磁気ディスクの偏心量に応じて前記基準クロックの周波数を補正するための偏心補正回路を有し、
前記テスタ制御部は前記偏心補正回路に対し、前記基準クロックの周波数を補正するための補正データを生成し、該補正データに前記PLLクロック発生部の伝達関数の逆数を乗算して供給することを特徴とする磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置において、
前記テスタ制御部は、前記磁気ディスクの偏心量に基づき各セクタ位置に対する前記補正データを記述した偏心補正テーブルと、前記PLLクロック発生部の伝達特性を表わす伝達関数を格納していることを特徴とする磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置において、
前記磁気ディスクの偏心量は、前記磁気ヘッドを所定のディスク半径位置に固定し、回転する前記磁気ディスクから読み出したサーボ信号を前記サーボ復調部で復調することで各セクタ位置でのトラック番号を取得し、これよりディスク1周分のトラック位置の変動量として求めることを特徴とする磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査装置。
【請求項4】
磁気ディスク上に書き込まれたサーボ情報に基づいて磁気ヘッドを制御し、前記磁気ディスクに信号を書き込みまたは読み出しを行い、前記磁気ディスクまたは前記磁気ヘッドの特性を測定する磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査方法において、
基準クロックに従い前記磁気ディスクから読み出されたサーボ情報を復調するステップと、
PLLクロック発生部により、前記磁気ディスクから読み出されたサーボ情報の周波数に応じた前記基準クロックを生成するステップと、
前記磁気ディスクの偏心量に応じて前記基準クロックの周波数を補正するステップとを備え、
前記基準クロックの周波数を補正するステップでは、前記磁気ディスクの偏心量に応じた補正データを生成し、該補正データに前記PLLクロック発生部の伝達関数の逆数を乗算して前記PLLクロック発生部に供給することを特徴とする磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査方法において、
前記磁気ディスクの偏心量は、前記磁気ヘッドを所定のディスク半径位置に固定し、回転する前記磁気ディスクから読み出したサーボ信号を復調することで各セクタ位置でのトラック番号を取得し、これよりディスク1周分のトラック位置の変動量として求めることを特徴とする磁気ディスクまたは磁気ヘッドの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−212489(P2012−212489A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76646(P2011−76646)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】