説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスク、磁気記録再生装置

【課題】酸化ジルコニウムを研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨するときに、ナノピット、ナノスクラッチが生じ難くするようにした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスク、及び磁気記録再生装置を提供すること。
【解決手段】モノクリニック結晶構造(M)とテトラゴナル結晶構造(T)を有する酸化ジルコニウム砥粒を研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッドで磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板として、金属基板(アルミニウム基板)等に比べて塑性変形し難い性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられる。
【0003】
また、ハードディスク装置における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。例えば、磁性層における磁化方向を基板の面に対して垂直方向にする垂直磁気記録方式を用いて、磁気記録情報エリア(記録ビット)の微細化が行われている。これにより、1枚のディスク基板における記憶容量を増大させることができる。さらに、記憶容量の一層の増大化のために、磁気ヘッドの記録再生素子部をさらに突き出すことによって磁気記録層との距離を極めて短くして、情報の記録再生の精度をより高める(S/N比を向上させる)ことも行われている。なお、このような磁気ヘッドの記録再生素子部の制御はDFH(Dynamic Flying Height)制御機構と呼ばれ、この制御機構を搭載した
磁気ヘッドはDFHヘッドと呼ばれている。このようなDFHヘッドと組み合わされてHDDに用いられる磁気ディスク用の基板においては、磁気ヘッドやそこからさらに突き出された記録再生素子部との衝突や接触を避けるために、基板の表面凹凸は極めて小さくなるように作製されている。
【0004】
磁気ディスク用ガラス基板を作製する工程には、プレス成形後に平板状となったガラスブランクの主表面に対して固定砥粒による研削を行う研削工程と、この研削工程によって主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的として主表面の研磨工程が含まれる。従来、上記主表面の研磨工程においては、研磨剤として酸化ジルコニウム(ジルコニア)砥粒を用いる方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2783329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1では触針式の表面形状測定器によってガラス基板の主表面の表面形状を測定することが開示されている。しかし、このような触針式の測定方法では、近年問題となっている、いわゆるナノピット、ナノスクラッチを測定することができない。ナノピットはガラス基板の主表面に生ずるナノレベルのサイズ(例えば、Rv(AFMで測定したときの粗さ平均面からの深さ)で50nm以下)の凹みであり、ナノスクラッチはガラス基板の主表面に生ずるナノレベルの幅及び深さのスクラッチである。このような微小なサイズの凹みあるいはスクラッチは、従来問題とはならなかったが、近年DFHヘッドによる読み取り及び記録を前提として、磁気記録情報が高集積化されて記録密度が高くなってきたことに伴って、磁気ディスク用ガラス基板の主表面のナノピット及び/又はナノスクラッチの数を低減することが重要となっている。つまり、情報が記録される個々の記録ビットの大きさが従来よりも微細化された結果、従来問題とはならなかったナノレベルのスクラッチ等のサイズが記録ビットに対して相対的に大きな割合を占めるようになったため、ナノピット及び/又はナノスクラッチを含む記録ビットに対しては読み取り及び記録時のS/N(Signal to Noise)比が低下して記録再生不良を生じさせることがわ
かってきた。したがって、磁気ディスク用ガラス基板の主表面のナノピット及び/又はナノスクラッチのレベルを低減することが重要となっているのである。
また、2.5インチ型(直径65mm)の磁気ディスク1枚あたり500ギガバイトを実現するためには、約350kTPI(track per inch)以上のトラック密度、約1700kBPI(Bits Per Inch)以上の線記録密度が必要であり、1ビットのサイズについては例えば15nm×70nmより小さくすることが必要であると考えられる。このように記録密度が向上し1ビットのサイズが非常に小さくなった結果、従来問題とならなかったナノピットやナノスクラッチなどのナノサイズの欠陥であっても1ビットに占める面積(もしくは体積)が相対的に増大するため、磁気的な信号品質(例えばS/N比など)の劣化も無視できないものとなっている。
【0007】
なお、酸化ジルコニウムを研磨材としたガラス基板の主表面の研磨工程(以下、適宜「第1研磨工程」という。)によって生じたナノピット及び/又はナノスクラッチは、コロイダルシリカ等を研磨剤として用いる後研磨工程(以下、適宜「第2研磨工程」という。)によって除去しうるが、そのときの取り代が大きくなり過ぎると、ガラス基板の主表面の端部形状がロールオフ形状になる等の不具合(端部のだれ)が生じやすい。また、第1研磨工程と第2研磨工程の間に、ガラス基板の主表面に圧縮応力層を形成するための化学強化工程を設ける場合には、化学強化工程後の第2研磨工程における取り代が大きくなるに従って、ガラス基板の両主表面で圧縮応力層の厚さに差が生じやすくなる。両主表面で圧縮応力層の厚さに差が生ずると、圧縮応力層が薄い方の主表面の強度低下や、両主表面での圧縮応力の差に起因する主表面の平坦度の悪化(反り等)が生ずる。よって、第2研磨工程による研磨の取り代を抑制できる(例えば5μm以下程度とする)ように、第1研磨工程による研磨で深いナノピット及び/又はナノスクラッチが形成されないようにする必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、酸化ジルコニウムを研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨するときに、ナノピット及び/又はナノスクラッチが生じ難くするようにした磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスク、及び磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、酸化ジルコニウム(ジルコニアともいう。)の結晶構造は、約1100度以下の温度でモノクリニック(monoclinic;単斜晶)となり、概ね1100〜2370度の範囲の温度でテトラゴナル(Tetragonal;正方晶)となり、約2370度以上の温度でキュービック(Cubic;立方晶)となることが知られている。なお、モノクリニックの酸化ジルコニウムを高温にしてテトラゴナルに相転移させた場合でも、常温に低下すると再びモノクリニックに相転移して戻るとされている。そこで、酸化ジルコニウムに、安定化剤としての酸化カルシウム、酸化マグネシウム、あるいは酸化イットリウムなどの希土類酸化物を固溶させると、常温においてもテトラゴナルで安定または準安定の状態である安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアとなる。
そして、上記課題に対して発明者は、研磨液に研磨材として含有する酸化ジルコニウムの結晶構造に着目して鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
【0010】
モノクリニックのみで構成される酸化ジルコニウムは硬度が低いため、この酸化ジルコニウムの砥粒を研磨材として用いてガラス基板の主表面の研磨を行うと、研磨中に砥粒の破砕が生じる。この砥粒の破砕によって小さい粒径の酸化ジルコニウムが増大し、粒度分布が低粒径側にも広がると、粒径が相対的に大きい砥粒の割合が少なくなり、研磨定盤にかけられた荷重は多くの砥粒に分散せずに比較的大きい粒径の砥粒に局所的に荷重が掛かった状態で研磨されるため、ガラス基板の主表面にナノピット及び/又はナノスクラッチが生じやすくなる。
一方、テトラゴナルのみで構成される安定化または部分安定化ジルコニアは硬度が加工対象であるガラスと比較して高過ぎるために砥粒の破砕が無く、局所的に砥粒に荷重が掛かったときにガラス基板の主表面にナノピット及び/又はナノスクラッチが生じやすくなる。つまり、酸化ジルコニウムには、ガラス基板の主表面の研磨を行うに当たって適切な硬度が存在する。
【0011】
以上の観点に関し、発明者は、酸化ジルコニウム砥粒をモノクリニックとテトラゴナルの両方の結晶構造を含むようにすることで、酸化ジルコニウムがガラス基板の主表面の研磨に適切な硬度となることを見出した。すなわち、モノクリニックとテトラゴナルの両方の結晶構造を含む酸化ジルコニウム砥粒を研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨することで、ガラス基板の主表面にナノピット及び/又はナノスクラッチが生じ難くなる。このような結晶構造の酸化ジルコニウムは、モノクリニックの酸化ジルコニウムをテトラゴナルに相転移が起こり始める温度近傍にて焼成を行うことで得ることができる。
以上のことから、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、モノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造を有する酸化ジルコニウム砥粒を研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を有することを特徴とする。
【0012】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、好ましくは、前記酸化ジルコニウム砥粒において、モノクリニック結晶構造の量に対するテトラゴナル結晶構造の量の比率は、0.7%以上3.0%以下の範囲であることを特徴とする。但し、前記比率は、X線回折によるモノクリニック結晶構造のピーク強度に対するテトラゴナル結晶構造のピーク強度の比率である。ここで、ピーク強度とはピークの積分強度である。
【0013】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記酸化ジルコニウム砥粒は酸化ジルコニウムの1次粒子の凝集体からなり、前記酸化ジルコニウムの1次粒子がモノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造の双方を有することを特徴とする。
【0014】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記酸化ジルコニウム砥粒は、安定化剤を含まないことを特徴とする。
【0015】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記ガラス基板は、破壊靱性値が0.4〜1.5MPa/m1/2の範囲内であるガラスからなることを特徴とする。
【0016】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記酸化ジルコニウム砥粒の平均粒径D50は、0.2〜0.5μmの範囲内とすることを特徴とする。
【0017】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、前記研磨工程では、JIS−A硬度で80〜100の範囲の硬度を備えた研磨パッドを用いて前記ガラス基板の主表面を研磨することを特徴とする。
【0018】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記研磨工程の後、コロイダルシリカを砥粒として含有する研磨液を用いて研磨する後研磨工程を有することを特徴とする。
【0019】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記後研磨工程の取り代が5μm以下であることを特徴とする。
【0020】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記研磨工程と後研磨工程との間にさらに、酸化セリウム砥粒を含有する研磨液を用いて研磨する中間研磨工程を有することを特徴とする。
【0021】
上記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、前記研磨工程と前記後研磨工程との間に化学強化工程を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の磁気ディスクは、上述した磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に少なくとも磁性層を形成したことを特徴とする。
【0023】
本発明の磁気記録再生装置は、上記磁気ディスクと、DFH(Dynamic Flying Height)コントロール機構を搭載した磁気ヘッドとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によれば、酸化ジルコニウムを研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨するときに、ナノピット及び/又はナノスクラッチが生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1研磨工程で使用される研磨装置(両面研磨装置)の概略断面図。
【図2】酸化ジルコニウム砥粒の多結晶構造を概略的に示す図。
【図3】ガラス基板の端部形状のダブオフ値の算出方法を概念的に説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
【0027】
[磁気ディスク用ガラス基板]
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0028】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の組成を限定するものではないが、本実施形態のガラス基板は好ましくは、酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアルミノシリケートガラスである。
【0029】
本実施形態のガラス基板は、ガラス成分全体に対して、55〜75質量%のSiOと、5〜18質量%のAlと、3〜10質量%のLiOと、3〜15質量%のNaOと、0〜5質量%のKOと、0〜5質量%のMgOと、0.1〜5質量%のCaOと、0〜8質量%のZrOと、を含有するアルミノシリケートガラスであって、As及びSbのいずれの元素も含有せず、P、V、Mn、Ni、Nb、Mo、Sn、Ce、Ta及びBiからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の多価元素を含有し、Y、Yb、La、Gd、Nb、Ta、HfOからなる群の中から選ばれる少なくとも1種類以上を含有するガラスであってもよい。
なお、上記多価元素の酸化物を、それぞれ、P、V、MnO、Ni、Nb、MoO、SnO、CeO、Ta、Biとした場合における、上記多価元素の酸化物の総量の、上記CaOに対するモル比率(上記多価元素の酸化物の総量/CaO)が、0.25以上であるとより好ましい。こうすることで、ガラス中の気泡を十分に除去することが可能となる。
また、前記多価元素の酸化物は、V、Mn、Sn及びCeからなる群の中から選ばれる少なくとも1つの多価元素を含有するとより好ましい。V、Mn、Sn及びCeは、特に効果的に気泡を除去することができるため好ましい。
【0030】
後述するように、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法では、モノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造を有する酸化ジルコニウム砥粒を研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を有するが、このような研磨材に対して、上述したガラス組成のガラス基板の硬度は好適となっている。つまり、研磨工程において、ガラス基板の主表面に生ずるナノピットやナノスクラッチを抑制しつつ研磨レートを高くすることができる。
なお、上述したガラスは、アモルファスのアルミノシリケートガラスとするとなお好ましい。アモルファスのアルミノシリケートガラスは、結晶化ガラスのように結晶構造を含まないため均一な構造であり、極めて平滑な表面を得ることができるためである。
【0031】
なお、本実施形態のガラス基板の破壊靱性値Kcは、ビッカース硬度計による計測で0.4〜1.5[MPa/m1/2]であると好ましく、より好ましくは0.5〜1.0である。この範囲内となるガラス組成を用いると、上記研磨材による研磨工程において、研磨レートを良好に維持しつつ、ガラス基板の主表面に生ずるナノピットやナノスクラッチを低減することが可能となる。
ここで、破壊靱性値K1cは、周知のビッカース硬度計の鋭いダイヤモンド圧子をガラス素板に押し込む方法により測定するこができる。すなわち、破壊靱性値K1cは、ビッカース圧子を押しこんだときにガラス素板に残る圧子の圧痕の大きさと圧痕の隅から発生するクラックの長さより次式で求められる。Pはビッカース圧子の押しこみ荷重[N]であり、aはビッカース圧痕の対角線長の半分の長さ[m]である。Eはガラス素板のヤング率[Pa]、Cはき裂長さの半分の長さ[m]である。
【0032】
【数1】

【0033】
例えばWO2012/086664に記載されているように、KOは破壊靭性値を低下させる働きがあり、Y、Yb、La、Gd、Nb、Ta、HfOは、破壊靱性値の向上の点で有利な成分であるため、これらの成分量を調整することによって、ガラス基板の破壊靱性値を調整することができる。また、アルカリ土類金属酸化物の一種であるBaOも破壊靭性値を低下させる働きがある。
【0034】
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板は、円環状の薄板のガラス基板である。磁気ディスク用ガラス基板のサイズは問わないが、例えば、公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板として好適である。
【0035】
[磁気ディスク用ガラス基板の製造方法]
以下、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、工程毎に説明する。ただし、各工程の順番は適宜入れ替えてもよい。
【0036】
(1)板状ガラスの成形およびラッピング工程
例えばフロート法による板状ガラスの成形工程では先ず、錫などの溶融金属の満たされた浴槽内に、例えば上述した組成の溶融ガラスを連続的に流し入れることで板状ガラスを得る。溶融ガラスは厳密な温度操作が施された浴槽内で進行方向に沿って流れ、最終的に所望の厚さ、幅に調整された板状ガラスが形成される。この板状ガラスから、磁気ディスク用ガラス基板の元となる所定形状の板状ガラス素材が切り出される。浴槽内の溶融錫の表面は水平であるために、フロート法により得られる板状ガラス素材は、その表面の平坦度が十分に高いものとなる。
また、例えばプレス成形法よる板状ガラスの成形工程では、受けゴブ形成型である下型上に、溶融ガラスからなるガラスゴブが供給され、下型と対向ゴブ形成型である上型を使用してガラスゴブがプレス成形される。より具体的には、下型上に溶融ガラスからなるガラスゴブを供給した後に上型用胴型の下面と下型用胴型の上面を当接させ、上型と上型用胴型との摺動面および下型と下型用胴型との摺動面を超えて外側に肉薄板状ガラス成形空間を形成し、さらに上型を下降してプレス成形を行い、プレス成形直後に上型を上昇する。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の元となる板状ガラス素材が成形される。
なお、板状ガラス素材は、上述した方法に限らず、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。
【0037】
次に、所定形状に切り出された板状ガラス素材の両主表面に対して、必要に応じて、アルミナ系遊離砥粒を用いたラッピング加工を行う。具体的には、板状ガラス素材の両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液(スラリー)を板状ガラス素材の主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行う。なお、フロート法で板状ガラス素材を成形した場合には、成形後の主表面の粗さの精度が高いため、このラッピング加工を省略してもよい。
【0038】
(2)コアリング工程
円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、円板状ガラス素材の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板とする。
【0039】
(3)チャンファリング工程
コアリング工程の後、端部(外周端部及び内周端部)に面取り部を形成するチャンファリング工程が行われる。チャンファリング工程では、円環状のガラス基板の外周端部及び内周端部に対して、例えば、ダイヤモンド砥粒を用いたメタルボンド砥石等によって面取りが施され、面取り部が形成される。
【0040】
(4)端面研磨工程(機械加工工程)
次に、円環状のガラス基板の端面研磨(エッジポリッシング)が行われる。
端面研磨では、ガラス基板の内周端面及び外周端面をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラス基板の端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティの発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0041】
(5)固定砥粒による研削工程
固定砥粒による研削工程では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて円環状のガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。研削による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間に円環状のガラス基板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作することにより、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることで、ガラス基板の両主表面を研削することができる。
なお、後述する第1研磨工程を行うに当たって、ガラス基板の主表面の表面粗さRaは、0.1μm以下としておくことが好ましい。こうすることで、第1研磨工程において、ガラス基板の主表面の取代を多くし過ぎることなく、その表面粗さを十分に低下させることができる。第1研磨工程において、ガラス基板の主表面の取代を多くし過ぎると、端部形状が悪化してしまう。
【0042】
(6)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、研削されたガラス基板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。この範囲内とすることで、端部形状の悪化を抑制しつつ、表面粗さを十分に低減することができる。第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去、うねり、微小うねりの調整を目的とする。
[研磨装置]
第1研磨工程で使用される研磨装置について、図1を参照して説明する。図1は、第1研磨工程で使用される研磨装置(両面研磨装置)の概略断面図である。なお、この研磨装置と同様の構成は、上述した研削工程に使用される研削装置においても適用できる。
【0043】
図1に示すように、研磨装置は、上下一対の定盤、すなわち上定盤40および下定盤50を有している。上定盤40および下定盤50の間に円環状のガラス基板Gが狭持され、上定盤40または下定盤50のいずれか一方、または、双方を移動操作することにより、ガラス基板Gと各定盤とを相対的に移動させることで、このガラス基板Gの両主表面を研磨することができる。
【0044】
図1を参照して研磨装置の構成をさらに具体的に説明する。
研磨装置において、下定盤50の上面および上定盤40の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド10が取り付けられている。太陽歯車61、外縁に設けられた内歯車62および円板状のキャリア30は全体として、中心軸CTRを中心とする遊星歯車機構を構成する。円板状のキャリア30は、内周側で太陽歯車61に噛合し、かつ外周側で内歯車62に噛合するともに、ガラス基板G(ワーク)を1または複数を収容し保持する。下定盤50上では、キャリア30が遊星歯車として自転しながら公転し、ガラス基板Gと下定盤50とが相対的に移動させられる。例えば、太陽歯車61がCCW(反時計回り)の方向に回転すれば、キャリア30はCW(時計回り)の方向に回転し、内歯車62はCCWの方向に回転する。その結果、研磨パッド10とガラス基板Gの間に相対運動が生じる。同様にして、ガラス基板Gと上定盤40とを相対的に移動させてよい。
【0045】
上記相対運動の動作中には、上定盤40がガラス基板Gに対して(つまり、鉛直方向に)所定の荷重で押圧され、ガラス基板Gに対して研磨パッド10が押圧される。また、図示しないポンプによって研磨液(スラリー)が、研磨液供給タンク71から1または複数の配管72を経由してガラス基板Gと研磨パッド10の間に供給される。この研磨液に含まれる研磨剤によってガラス基板Gの主表面が研磨される。ここで、ガラス基板Gの研磨に使用された研磨液は上下定盤から排出され、図示しないリターン配管によって研磨液供給タンク71へ戻されて再使用されるのが好ましい。
なお、この研磨装置では、ガラス基板Gに対する所望の研磨負荷を設定する目的で、ガラス基板Gに与えられる上定盤40の荷重が調整されることが好ましい。
【0046】
研磨パッド10の材質は、例えば発泡ウレタンであり、砥粒を含浸させたものを好適に用いることができる。研磨パッド10の硬度は、JIS−A硬度で80〜100、より好ましくは90〜100である。研磨パッド10の硬度をJIS−A硬度で80以上とすることで、第1研磨工程におけるガラス基板の端部形状を良好にすることができる。含浸させる砥粒は、例えば酸化セリウムであり、その平均粒径は1〜2μm、含浸量は25〜35重量%とするのが好ましい。含浸量が25%以下である場合、研磨パッドの脆さが不足してスラリーが目詰まりしやすくなり連続生産時に研磨レートが低下し、含浸量が35%以上である場合、研磨パッドが脆いために初期の特性を長期間維持することが困難になるためである。
ここで、平均粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さいほうから計算して50%となる粒径を意味している。
【0047】
図1の研磨装置に使用する研磨液は、研磨材としてモノクリニック結晶構造(以下、適宜単に「モノクリニック」という。)とテトラゴナル結晶構造(以下、適宜単に「テトラゴナル」という。)を有する酸化ジルコニウム砥粒を含む。本実施形態の酸化ジルコニウム砥粒は、イットリウムまたは酸化イットリウム等の安定化剤を含まなくてもよい。
この研磨液は以下のようにして調整することができる。先ず、常温のモノクリニックの酸化ジルコニウムを、例えば1100度を中心として、1000〜1200度程度のモノクリニックからテトラゴナルに相転移が起こり始める温度の近傍に維持して適切な時間焼成を行って粗粉末を得る。そしてこの粗粉末から得られた所望の平均粒径の酸化ジルコニウムの粉末に対し、適切な量の水、さらに適宜、分散剤、再凝集防止剤、pH調整剤、電荷調整剤、高分子凝集剤等の添加剤を加えて研磨液を調製する。
ここで、分散剤としては、リン酸塩、スルホン酸塩、ポリカルボン酸及びポリカルボン酸塩などを用いることができる。このうちリン酸塩としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等を好適に用いることができる。再凝集防止剤としては、セルロース、カルボキシメチルセルロース、マルトース、フルクトースなどの糖類や繊維を好適に用いることができる。pHは、研磨材の分散性の観点から、6以上12以下とすることが好ましい。
平均粒径は、0.1μm以上5μm以下程度とすることが好ましく、0.2μm以上0.5μm以下とするとより好ましい。さらに、粒径の標準偏差SDを0.05μm以上0.15μm以下とするとさらに好ましい。こうすることで、研磨レートとナノスクラッチのレベルを良好に維持しながら、ガラス基板の主表面の表面粗さと端部形状を良好にすることができるためである。
なお、研磨液中における酸化ジルコニウム砥粒の量は、1〜25重量%とすることが好ましい。この範囲とすることで、ガラス基板の主表面の表面粗さと研磨レートを高いレベルで両立することができる。
【0048】
上述した条件で酸化ジルコニウムの砥粒の焼成を行うと、モノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造の双方を有する酸化ジルコニウム砥粒とすることができる。その結果、砥粒の硬度がモノクリニックとテトラゴナルの中間程度となり、ガラス基板の主表面の研磨に適切な硬度となる。
【0049】
以下、異なる焼成温度で作製した酸化ジルコニウムの砥粒による研磨加工前後での粒度分布の変化について、焼成温度が900度(低温)より低い温度の場合と、焼成温度が1000度(中温)の場合と、焼成温度が1100度(高温)の場合とについて説明する。
焼成温度が900度より低い温度の場合には、作製される酸化ジルコニウムの砥粒はモノクリニックのみで構成されるために硬度が低く、この酸化ジルコニウムの砥粒を研磨材として用いてガラス基板の主表面の研磨を行うと、研磨中にて砥粒の破砕が生じる。そのため、砥粒の破砕によって粒度分布が低粒径側へシフトし、粒径が相対的に大きい砥粒の割合が少なくなる。その結果、大きい粒径の砥粒に局所的に荷重が掛かった状態で研磨されるため、ガラス基板の主表面にナノスクラッチ及び/又はナノピットが生じやすくなる。
焼成温度が1000度の場合にも、作製される酸化ジルコニウムの砥粒はモノクリニックのみで構成されるが、焼成温度が上がった分だけ硬度が上がり、その結果、研磨による砥粒の破砕に起因する粒度分布の低粒径側へのシフトが抑制される。しかし、この場合でも、大きい粒径の砥粒に局所的に荷重が掛かった状態で研磨されるため、ガラス基板の主表面にナノスクラッチ及び/又はナノピットが生じやすくなる。
【0050】
焼成温度が1100度の場合には、作製される酸化ジルコニウムの砥粒には、常温状態でモノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の結晶子が混在した状態となる。モノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の結晶子が混在した状態では、モノクリニックのみで構成される場合と比較して、酸化ジルコニウム砥粒の硬度が高くなるため、酸化ジルコニウムの砥粒を研磨材として用いてガラス基板の主表面の研磨を行うときに、研磨中にて砥粒の破砕が生じ難くなる。そのため、研磨加工の前後で粒度分布の変化が少なく、安定した状態で研磨することができる。この場合、粒度分布の変化が少ないため、砥粒に局所的な荷重が掛かることが少なく、ガラス基板の主表面にナノスクラッチ及び/又はナノピットが生じ難い。
また、モノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の結晶子が混在した状態の酸化ジルコニウムの砥粒は、テトラゴナルからなる安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアの砥粒ほどの硬度がないため、研磨中においてガラス基板の主表面にナノスクラッチ及び/又はナノピットが生じ難くなる。例えば、ナノスクラッチ及び/又はナノピットの深さを250nm以下とすることができる。
【0051】
図2は、焼成温度が1100度の場合の酸化ジルコニウムの砥粒の構造を概念的に示す図である。酸化ジルコニウムの1次粒子単体の直径は、30nm以上2μm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。前述したように、複数の1次粒子が焼成によって焼結した凝集体(研磨砥粒として基本単位であり、「2次粒子」ともいう。)においては、平均粒径が0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。図2は、3個の1次粒子100からなる凝集体200が例示される。
図2に示すように、焼成温度が1100度の場合、酸化ジルコニウムの個々の1次粒子は、「M」で示すモノクリニック結晶構造の結晶子と、「T」で示すテトラゴナル結晶構造の結晶子とが混在した状態となり、かつ1次粒子同士が焼結(凝集)している状態となる。焼成温度を1100度前後で変化させることで、酸化ジルコニウムの粒子に含まれるモノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の量の比率が変化し、硬度の高いテトラゴナルの成分量に応じて酸化ジルコニウムの粒子の硬度も変化する。焼成温度が1100度を大きく超える場合には、酸化ジルコニウムの砥粒は、テトラゴナル結晶構造の結晶子への相転移が生ずるが、常温に戻した場合にはモノクリニック結晶構造に相転移が生ずる。一方、酸化ジルコニウムがモノクリニック結晶構造からテトラゴナル結晶構造に相転移が起こり始める1100度前後の温度範囲、例えば1000〜1200度の焼成温度にて酸化ジルコニウムの砥粒を作製する場合には、酸化ジルコニウムの粒子に含まれるモノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造の量の比率は、例えば温度などの焼成条件との間で相関関係がある。そのため、研磨対象となるガラス基板に応じた適切な硬度となるように、例えば焼成温度を決定することができる。焼成条件にもよるが、テトラゴナルの結晶構造の量の比率は数%程度であることが好ましい。
結晶子のサイズは20〜60nm程度であることが好ましく、例えば40nmとすることができる。
【0052】
酸化ジルコニウムの1次粒子単体の径が30nm以上2μm以下であることが好ましい理由としては、以下が考えられる。すなわち、ジルコニア砥粒の1次粒子径が小さいほど研磨加工中においてガラス基板の主表面との接触点が増えるため(つまり、多くの1次粒子によって接触が行われるため)、相対的にそれぞれの1次粒子が定盤から受ける力が減少し、結果的にガラス基板に生ずるスクラッチが低減する。その一方で、ジルコニア砥粒の1次粒子が小さ過ぎると、ガラス基板との接触面積が低下することで、研磨加工中にジルコニア砥粒がガラス基板上で滑りやすくなり、研磨作用が有効に機能しなくなって研磨レートが低下してしまう。
【0053】
なお、1100度前後の温度範囲で焼成した後、常温に戻したにもかかわらずテトラゴナル結晶構造が残る理由は明確ではないが、以下のように推察される。すなわち、テトラゴナル結晶構造への相転移が生じる下限近傍の温度で焼成することによって、酸化ジルコニウムの粒子を形成する複数の結晶子のうち一部のみがテトラゴナル結晶構造に相転移した状態となるが、相転移した結晶子の周囲はほぼ全てモノクリニック結晶構造の結晶子で囲まれることになる。その結果、テトラゴナル結晶構造の結晶子は孤立したことによって安定化し、常温に戻してもモノクリニック結晶構造へ戻らない。一方、周囲の結晶子とともにテトラゴナルへ相転移した場合は、常温に戻したときに周囲の影響を受けやすいため一斉に相転移してしまうと推察される。
【0054】
酸化ジルコニウムの粒子に含まれるモノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の量の比率は、粉末X線回折装置を用いて測定することができる。この粉末X線回折装置は、多結晶からなる酸化ジルコニウムの粒子のサンプルにX線を照射したときに結晶構造に応じた回折角度の違いを利用したものであって、その測定結果は一般に、横軸に2θ、縦軸に回折強度(Intensity)を示したものとなる。つまり測定結果では、ピーク強度が得られるときの2θの値とそのピーク強度の値は、結晶構造の違いからモノクリニックとテトラゴナルとで異なるようになる。
モノクリニックのピーク強度は結晶面「hkl=-111」に対応するピークの面積(積分強度)とし、テトラゴナルのピーク強度は結晶面「hkl=101」に対応するピークの面積とすることができる。ピーク位置は、ブラッグの式「2dSinθ=nλ」より得る事が出来る。ブラッグの式において、dは結晶面間隔、θは回折角(結晶面とX線が成す角度)、λはX線の波長、nは整数である。粉末X線回折法においては結晶面がランダムに配列しており、配向が起きるような砥粒の場合、配向の影響を受けない条件で測定を行わなければならない。
粉末X線回折装置を用いた場合、モノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の量の比率は、モノクリニックのピーク強度(例えばピーク位置:2θ=28.1)に対するテトラゴナルのピーク強度(例えばピーク位置:2θ=30.1)の比率によって算出することができる。
【0055】
第1研磨工程では、ガラス基板の主表面の表面凹凸について、粗さ(Ra)を0.5nm以下とし、かつマイクロウェービネス(MW-Rq)を0.5nm以下とするように研磨を行う。また、粗さ(Ra)を0.4nm以下とするのがより好ましい。後の最終研磨工程での取代が減り、端部形状が悪化し難くなるためである。
ここで、マイクロウェービネスは、主表面全面の半径14.0〜31.5mmの領域における波長帯域100〜500μmの粗さとして算出されるRMS(Rq)値で表すことができ、例えば、ポリテック社製のModel−4224を用いて計測できる。
主表面の粗さは、JIS B0601:2001により規定される算術平均粗さRaで表され、0.006μm以上200μm以下の場合は、例えば、ミツトヨ社製粗さ測定機SV−3100で測定し、JIS B0633:2001で規定される方法で算出できる。その結果、粗さが0.03μm以下であった場合は、例えば、日本Veeco社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡;AFM)ナノスコープで計測しJIS R1683:2007で規定される方法で算出できる。本願においては、1μm×1μm角の測定エリアにおいて、512×512ピクセルの解像度で測定したときの算術平均粗さRaを用いることができる。
【0056】
第1研磨工程では、ガラス基板の主表面の端部形状を示すダブオフ値で0〜+10nmとすることが好ましく、0〜+5nmとするとより好ましい。ダブオフ値は、端部形状の評価基準の基礎となる値であり、ダブオフ値の絶対値が小さいほど、ガラス基板の端部形状が良好であることを意味する。
図3は、ダブオフ値の算出方法を概念的に説明するために、ガラス基板の端部の断面を拡大して表した図である。ダブオフ値を算出するためには、ガラス基板の中心点と、その中心点から外縁に向けて30mm又は29.9mm離れた主表面上の位置(X1とする。)と、その中心点から外縁に向けて31.5mm離れた主表面上の位置(X2とする。)とが、図3に示すように定義される(外径65mmのガラス基板の場合)。なお、ガラス基板の中心点とX1とX2は、ガラス基板を上から見たときには同一線上にある。このとき、X1とX2を結ぶ基準線Lに対して主表面が突出している場合には、ガラス基板の端部はロールオフ形状(図3の(a)の場合)であり、その最大突出量をダブオフ値D(プラス値)とする。逆に、X1とX2を結ぶ基準線に対して主表面が凹んでいる場合には、ガラス基板の端部はスキージャンプ形状(図3の(b)の場合)であり、その最大凹み量をダブオフ値D(マイナス値)とする。ダブオフ値の測定には表面形状測定装置を用いて行うことができる。
1枚の円環状のガラス基板に対するダブオフ値の算出は以下のようにして行う。一方の面について90度間隔で4点(X1とX2について4個の組合せ)のダブオフ値を算出し、得られた4個のダブオフ値のうち絶対値が最も大きい値をその面のダブオフ値(プラス値またはマイナス値である)とする。同様にして、他方の面についてもダブオフ値を算出する。そして、両面のダブオフ値の平均値を、そのガラス基板のダブオフ値(プラス値またはマイナス値である)とする。
第1研磨工程においてダブオフ値を上記範囲とすることによって、後述する最終研磨工程(最終的に極めて小さい粗さとするための微細なコロイダルシリカを用いた研磨工程)により、最終的なダブオフ値を+2〜+10nmの範囲に収めやすくなる。なお、微細なコロイダルシリカによる研磨では、ダブオフ値がプラス側になる傾向がある。最終的なダブオフ値を上記範囲内とすること(僅かなロールオフ形状;図3参照)がよい理由は、フラッタリングが最も厳しい主表面の最外周部におけるヘッドの浮上が安定し、DFH機構による素子部の突き出しを大きくできるためである。
【0057】
(7)化学強化工程
次に、第1研磨後のガラス基板は化学強化される。
化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硫酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラス基板が、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラス基板が化学強化液中に、例えば1時間〜5時間浸漬される。この浸漬の際には、ガラス基板の両主表面全体が化学強化されるように、複数のガラス基板が端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
このように、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。なお、化学強化処理されたガラス基板は洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水等で洗浄される。
【0058】
(8)第2研磨(最終研磨)工程(後研磨工程)
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨による取り代は、5μm以下である。第2研磨工程によってナノピット及び/又はナノスクラッチが全て除去された基板を安定して量産するためには、第1研磨工程において生ずるナノピット及び/又はナノスクラッチの深さの10倍以上の取代とすることが好ましい。本実施形態では、第1研磨工程で生ずるナノピット及び/又はナノスクラッチの深さを250nm以下とすることができるため、第2研磨工程における取代(上下面合わせた値)を5μm以下とすることができる。
第2研磨では例えば、第1研磨で用いた研磨装置を用いる。このとき、第1研磨と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
第2研磨に用いる遊離砥粒として、酸化ジルコニウム以外の砥粒、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径10〜50nm程度)が用いられる。これにより、ガラス基板の主表面の表面粗さをさらに低減でき、端部形状を好ましい範囲に調整できる。また、発明者らの研究によれば、酸化ジルコニウム砥粒は、研磨後のガラス基板の表面に付着しやすいことがわかっているが、酸化ジルコニウム以外の砥粒を最終研磨に使用することで、主表面又は側壁面に付着した酸化ジルコニウム砥粒を物理的に除去することができる。
研磨されたガラス基板を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0059】
[磁気ディスク]
磁気ディスクは、磁気ディスク用ガラス基板を用いて以下のようにして得られる。
磁気ディスクは、例えば磁気ディスク用ガラス基板(以下、単に「基板」という。)の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。磁性層としては、例えばCoPt系合金を用いることができる。また、L10規則構造のCoPt系合金やFePt系合金を形成して熱アシスト磁気記録用の磁性層とすることもできる。上記成膜後、例えばCVD法によりCを用いて保護層を成膜し、続いて表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(パーフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
作製された磁気ディスクは、好ましくは、DFH(Dynamic Flying Height)コントロール機構を搭載した磁気ヘッドとともに、磁気記録再生装置としてのHDD(Hard Disk Drive)に組み込まれる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明を実施例によりさらに説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0061】
(1)溶融ガラスの作製
以下の組成のガラスが得られるように原料を秤量し、混合して調合原料とした。この原料を熔融容器に投入して加熱、熔融し、清澄、攪拌して泡、未熔解物を含まない均質な熔融ガラスを作製した。得られたガラス中には泡や未熔解物、結晶の析出、熔融容器を構成する耐火物や白金の混入物は認められなかった。
[ガラスの組成]
酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなるアルミノシリケートガラスであって、破壊靱性値が0.7[MPa/m1/2]となる組成を選択した。具体的には、SiOを64.1重量%、Alを14.7重量%、LiOを3.6重量%、NaOを11.1重量%、KOを0.4重量%、MgOを0.6重量%、ZrOを2.0重量%、CaOを1.6重量%、そして清澄剤としてNbを1.9質量%、を有する組成からなるガラスとした。
【0062】
(2)ガラス基板の作製
清澄、均質化した上記熔融ガラスをパイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールする。こうして、アモルファスのガラスブランクを得た。その後、プレス成形により得られたガラスブランクに対して、ラッピング加工を行った。ラッピング加工では、遊離砥粒としてアルミナ砥粒(#1000の粒度)を用いた。
【0063】
(3)コアリング加工、およびチャンファリング加工
円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、円盤状ガラス素材の中心部に内孔を形成し、円環状のガラス基板とした(コアリング)。そして内周端面および外周端面をダイヤモンド砥石によって研削し、所定の面取り加工を施した(チャンファリング)。
【0064】
(4)端面研磨工程
次に、円環状のガラス基板の端面について、ブラシ研磨方法により、鏡面研磨を行った。このとき、研磨砥粒としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。この端面研磨工程により、ガラス基板の端面は、パーティクル等の発塵を防止できる鏡面状態に加工された。
【0065】
(5)主表面に対する第1研磨工程
図1に示した研磨装置にガラス基板をセットし、表1に示す比較例および実施例に係る酸化ジルコニウム(ZrO)の砥粒を研磨材として含有する研磨液を使用して研磨を行い、研磨性能について評価を行った。
研磨工程に使用される研磨液は、比較例および実施例の酸化ジルコニウムの砥粒(10重量%)を純水に混入させて十分に攪拌して生成した。また、このときの酸化ジルコニウムの平均粒径(D50)を1.0μmとし、標準偏差(SD)を0.1μmとした。とした。また、取代は50μmとした。なお、実施例に係る酸化ジルコニウムの砥粒は、常温のモノクリニックの酸化ジルコニウムを、表1に記載した焼成温度にて焼成して粗粉末を得て、この粗粉末から上記平均粒径の酸化ジルコニウムの粉末を作製した。研磨材の砥粒の粒径の平均値(D50)及び標準偏差(SD)は、粒子径・粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA-EX150)を用いて光散乱法により測定した。
なお、表1において、比較例2は、安定化ジルコニアの砥粒であり、安定化剤としての酸化カルシウムを固溶させて作製したものである。安定化ジルコニアでは、結晶子としてテトラゴナル結晶構造が主成分となっている。
【0066】
第1研磨工程では、以下の研磨パッドを使用した。
・材質:発泡ウレタン
・JIS−A硬度:95
・含浸砥粒:酸化セリウム
・含浸砥粒の平均粒径:1〜2μm
・含浸量:30重量%
【0067】
なお、表1において「結晶構造の比率」とは、酸化ジルコニウムの粒子に含まれるモノクリニックとテトラゴナルの結晶構造の量の比率(テトラゴナル/モノクリニック)である。結晶構造の比率は、X線回折装置(マックスサイエンス社製、型式:MXP18A_II、X線:CuKα λ=1.5405Å サンプリング間隔:0.0100deg、スキャン速度:4.0deg/min、管電圧:50kv 管電:300mA)を用いて測定した。モノクリニックのピーク強度(ピーク位置:2θ=28.1)に対するテトラゴナルのピーク強度(ピーク位置:2θ=30.1)の比率を算出し、その比率を結晶構造の比率とした。ここで、ピーク強度とは、それぞれ対応するピークの積分強度(面積)である。なお、ピーク位置は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のデータに基づいている。
【0068】
【表1】



【0069】
表1に示す研磨性能の評価では、以下の基準を満足する場合に「OK」と、満足しない場合に「NG」とした。
・研磨レート:1.0μm/分以上であること
・ナノピット、ナノスクラッチの有無:研磨後の主表面に深さ250nm以上のナノピット、ナノスクラッチが無いこと
ナノピット、ナノスクラッチの有無に関してはさらに、OKの場合について、ナノピット・ナノスクラッチの深さに応じて下記のとおり評価を細分化した。
○○ …深さ200nm以上のナノピット・ナノスクラッチがない
○ …深さ200nm以上のナノピット・ナノスクラッチがある
【0070】
ナノピット、ナノスクラッチの観察方法は、以下の通りである。
研磨後のガラス基板を洗浄し、OSA(Optical Surface Analyzer)を用いて主表面上の欠陥を検出した。検出された輝点をSEMで観察し、凸欠陥(異物の付着)か凹欠陥(ナノピットまたはナノスクラッチ)かの判別を行い、ナノピットとナノスクラッチについてはさらにAFMで深さを測定した。なお、単一の点状凹欠陥をピット、線状の凹欠陥もしくは同一軌線上に連続して並ぶピットの集合をスクラッチとした。
なお、表1におけるナノピット、ナノスクラッチとは、最終製品におけるナノピット、ナノスクラッチとは厳密には異なる。最終製品において問題となるナノピット、ナノスクラッチとは、深さ50nm以下(場合によっては10nm以下)の極めて浅いものを指す。これは、第2研磨工程によりナノピット、ナノスクラッチの深さが緩和されるためである。
【0071】
表1において、比較例1の酸化ジルコニウムの砥粒はモノクリニック結晶構造のみで構成されることから硬度が低いため、研磨レートが低く基準を満足しなかった。さらに、比較例1の酸化ジルコニウムの砥粒では、研磨中の破砕による小粒径の砥粒の増大によりガラス基板の主表面に深いナノスクラッチが生じた。比較例2の安定化ジルコニアの砥粒では硬度が高すぎ、研磨レートは良好であるもののガラス基板の主表面にナノピット、ナノスクラッチが生じた。
一方、実施例1〜3の酸化ジルコニウムの砥粒は、モノクリニックとテトラゴナルが混在した状態である。これにより、ガラス基板の主表面の研磨に適した適切な硬度の砥粒が得られた結果、研磨レートが良好であり、かつガラス基板の主表面に深いナノピット、ナノスクラッチが認められなかった。
なお、実施例1〜3の場合には、第2研磨工程における取り代は5μm以下となり、ガラス基板の主表面の平坦度、表面粗さ、及び端部形状も良好であることが認められた。
【0072】
さらに、実施例3の焼成温度(1150度)にて焼成時間を調整することにより、モノクリニック結晶構造に対するテトラゴナル結晶構造の比率がそれぞれ、2.98%と、3.71%の酸化ジルコニウムの粉末(平均粒径:1.0μm)を作製した。これらの粉末を用いて実施例1〜3と同様にして、ガラス基板の主表面を研磨し、評価した(それぞれ、実施例4,5とする。)。その結果、実施例4,5共に、研磨レートはいずれも基準を満足するレベルであった。ナノピット、ナノスクラッチの有無についての評価は、実施例4(上記比率が2.98%の場合)について○○であり、実施例5(上記比率が3.71%の場合)について○であった。
すなわち、モノクリニック結晶構造に対するテトラゴナル結晶構造の比率が0.7〜3.0%の場合に、特に評価結果が良好となった。
【0073】
上記実施例2と焼成温度が同一であり、かつモノクリニック結晶構造に対するテトラゴナル結晶構造の比率が同一であって、砥粒の平均粒径が実施例2とは異なる酸化ジルコニウムの粉末を作製した。この粉末の平均粒径D50が0.3μmであり、標準偏差SDが0.1μmであった。この粉末を研磨材として用いてガラス基板の主表面を研磨し、評価した(実施例6とする。)。実施例6のナノスクラッチのレベルは実施例2と同等であったが、実施例2よりも研磨レートがさらに向上した。また、実施例6の主表面の算術平均粗さRaとダブオフ値が実施例2よりも良好となった。具体的には、実施例2については、算術平均粗さRaが0.5nmであり、ダブオフ値が+8nmであった。実施例6については、算術平均粗さRaが0.4nmであり、ダブオフ値が+4nmであった。
【0074】
さらに、実施例6とは、研磨に使用した酸化ジルコニウム砥粒の標準偏差SDが同一であり(0.1μm)、平均粒径D50のみが異なる酸化ジルコニウム砥粒(平均粒径D50:0.1,0.2,0.5,0.7μm)を研磨材として用いてガラス基板の主表面を研磨し、評価した。その結果、平均粒径D50が0.2,0.5μmのいずれの場合も、実施例6と同じ結果が得られた。つまり、主表面の算術平均粗さRaとダブオフ値が実施例2よりも良好となった。一方、平均粒径D50が0.1μmの場合には、合格レベルではあるものの研磨レートが低下してしまい、平均粒径D50が0.7μmの場合には、評価結果について実施例2から特に改善が見られなかった。
【0075】
さらに、実施例6と同一の酸化ジルコニウム砥粒を研磨材として用い、使用する研磨パッドの硬度のみを実施例6(JIS−A硬度:95)に対して変化させて、ガラス基板の主表面を研磨し、評価した。その結果、JIS−A硬度で90の研磨パッドを用いた場合には、実施例6の場合と同等の評価結果が得られたが、JIS−A硬度で85の研磨パッドを用いた場合には、ダブオフ値が+7nmとなり、実施例6の場合よりも若干増加した。
【0076】
なお、ダブオフ値を低下させるために、ジルコニア研磨材を用いる第一研磨工程とコロイダルシリカ砥粒を用いる第二研磨工程の間に、酸化セリウム砥粒を用いた研磨工程を追加で行うことも好ましい。酸化セリウム砥粒を研磨材として用いた場合、端部形状がスキージャンプ形状となりやすく、ダブオフ値を低下させることができる。なお、化学強化工程によりガラス基板の主表面に生じさせた圧縮応力層を多く残すため、上記酸化セリウム砥粒を用いた研磨工程は、化学強化工程前に実施することが好ましい。
【0077】
実施例2のガラス基板に対して、酸化セリウム砥粒を用いた中間研磨工程、化学強化工程、最終研磨工程(後研磨工程)を、この順序で行った。中間研磨工程では、水に平均粒径1.0μmの酸化セリウム砥粒を10重量%含有させた研磨液を用いて、以下の研磨条件にてガラス基板の主表面を研磨した。その結果、コロイダルシリカを研磨砥粒として用いた最終研磨工程後のガラス基板のダブオフ値は、5nm以下となり非常に良好となった。
<研磨条件>
・研磨パッド:発泡ポリウレタン製スウェードパッド(JIS−A硬度:85)
・研磨荷重:100g/cm
・定盤回転数:30rpm
・取代(両面合計):30μm
・研磨装置:第1研磨工程の装置と同様の装置
【0078】
次に、ガラスの組成を適宜調整してガラスの破壊靱性値が異なるガラス基板(破壊靱性値:0.2,0.4,0.5,1.0,1.5,2.0[MPa/m1/2])を作製し、当該ガラス基板の主表面に対して第1研磨を行った。研磨条件は、実施例2と同一とした。破壊靱性値はビッカース硬度計によって計測した。
その結果、破壊靱性値が0.2,2.0[MPa/m1/2]のガラス基板を使用した場合、研磨レート及びナノピット、ナノスクラッチは、実施例2と同レベルであった。研磨レート及びナノピット、ナノスクラッチのレベルは、0.4,1.5[MPa/m1/2]である場合に実施例2よりも良好になり、0.5,1.0[MPa/m1/2]である場合にはさらに良好になった。
【0079】
実施例1〜6によって得られた磁気ディスク用ガラス基板に磁性層を形成した磁気ディスクを作製した。その後、磁気ディスクを回転数が7200rpmのハードディスクドライブ(HDD)に組み込み、当該HDDにてヘッドのDFH機構を使用しつつサーティファイテスト(磁気信号の書き込み/読み出し試験)を実施したが、エラーは発生しなかった。
【0080】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0081】
10 研磨パッド
30 キャリア
40 上定盤
50 下定盤
61 太陽歯車
62 内歯車
71 研磨液供給タンク
72 配管
100 1次粒子
200 凝集体
M モノクリニック
T テトラゴナル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造を有する酸化ジルコニウム砥粒を研磨材として含有する研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨する研磨工程を有することを特徴とする、
磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウム砥粒において、モノクリニック結晶構造の量に対するテトラゴナル結晶構造の量の比率は、0.7%以上3.0%以下の範囲であることを特徴とする、
請求項1に記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
(但し、前記比率は、X線回折によるモノクリニック結晶構造のピーク強度に対するテトラゴナル結晶構造のピーク強度の比率である。ここで、ピーク強度とはピークの積分強度である。)
【請求項3】
前記酸化ジルコニウム砥粒は酸化ジルコニウムの1次粒子の凝集体からなり、前記酸化ジルコニウムの1次粒子がモノクリニック結晶構造とテトラゴナル結晶構造の双方を有することを特徴とする、
請求項1または2に記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記酸化ジルコニウム砥粒は、安定化剤を含まないことを特徴とする、
請求項1〜3のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基板は、破壊靱性値が0.4〜1.5MPa/m1/2の範囲内であるガラスからなることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸化ジルコニウム砥粒の平均粒径D50は、0.2〜0.5μmの範囲内とすることを特徴とする、
請求項1〜5のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨工程では、JIS−A硬度で80〜100の範囲の硬度を備えた研磨パッドを用いて前記ガラス基板の主表面を研磨することを特徴とする、
請求項1〜6のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記研磨工程の後、コロイダルシリカを砥粒として含有する研磨液を用いて研磨する後研磨工程を有することを特徴とする、
請求項1〜7のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記後研磨工程の取り代が5μm以下であることを特徴とする、
請求項8に記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記研磨工程と後研磨工程との間にさらに、酸化セリウム砥粒を含有する研磨液を用いて研磨する中間研磨工程を有することを特徴とする、
請求項8または9に記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
前記研磨工程と前記後研磨工程との間に化学強化工程を有することを特徴とする、
請求項8〜10のいずれかに記載された磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に少なくとも磁性層を形成した磁気ディスク。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気ディスクと、DFH(Dynamic Flying Height)コントロール機構を搭載した磁気ヘッドとを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−84336(P2013−84336A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−210489(P2012−210489)
【出願日】平成24年9月25日(2012.9.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】