説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及びガラス基板

【課題】中心部の円孔の内径寸法公差を十分に縮小でき、かつ、内周端面の形状バラツキを十分に低減させながら、内周端面を鏡面化することができる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】外周端面及び円孔1の内周端面を研削する端面研削工程と、この端面研削工程の後、端面を研磨する端面研磨工程とを有し、端面研削工程においては、端面のうちの面取り面の面粗さを面取り面を除く内周端面の面粗さよりも低粗さとし、端面研磨工程においては、面取り面を含む端面の全体をブラシ研磨により研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ等の記録媒体として用いられる磁気ディスク用のガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法に関し、特に、磁気ディスク用のガラス基板の内外周端部を面取り形状にする製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化技術の高度化に伴って、情報記録技術、特に、磁気記録技術は著しく進歩している。磁気記録媒体の一つであるHDD(ハードディスクドライブ)等に用いられる磁気ディスクにおいては、急速な小型化、薄板化、記録密度の増加及びアクセス速度の高速化が続けられている。HDDでは、円盤状の基板の上に磁性層を備えた磁気ディスクを高速回転し、この磁気ディスク上に磁気ヘッドを浮上飛行させながら記録及び再生を行う。
【0003】
アクセス速度の高速化に伴い、磁気ディスクの回転速度も速くなるため、磁気ディスクには、より高い基板強度が求められる。また、記録密度の増加に伴い、磁気ヘッドも薄膜ヘッドから、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)や、大型磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)へと推移しており、さらに、DFH(Dynamic Flying Height)制御機構の導入により、磁気ヘッドの磁気ディスクからの浮上量(磁気ヘッドと磁気ディスクの間隙のうち最も狭い距離)が2nm程度にまで狭くなってきている。このため、磁気ディスク面上に凹凸形状があると、磁気ヘッドが衝突するクラッシュ障害や、空気の断熱圧縮、または、接触により加熱して読み出しエラーを生じるサーマルアスペリティ障害を生じる場合がある。このような磁気ヘッドに生じる障害を抑制するには、磁気ディスクの主表面を極めて平滑な面として仕上げておくことが重要となる。
【0004】
そこで、現在では、磁気ディスク用の基板として、従来のアルミニウム基板に代えて、ガラス基板が用いられるようになってきている。軟質材料である金属からなるアルミニウム基板に比べて、硬質材料であるガラスからなるガラス基板は、基板表面の平坦性に優れているためである。また、ガラス基板は、アルミニウム基板よりも硬いため、高速回転時の基板の歪みやバタつきを抑制することができる。これにより、ヘッドとの衝突リスクを減らすことができる。
【0005】
磁気ディスク用ガラス基板は、円盤状に形成され、中央部には、スピンドル軸が挿通されるための円孔が形成されている。すなわち、磁気ディスク用ガラス基板は、ドーナツ状の形状に形成されている。特許文献1には、このような磁気ディスク用ガラス基板の端面部を、環状凹部が形成された円筒研削工具を用いて粗研削し、次に、磁気ディスク用ガラス基板と円筒研削工具とを上下方向に相対移動させ、異なる環状凹部にて仕上げ研削を行う研削工具が記載されている。この研削工具においては、磁気ディスク用ガラス基板の端面部を、粗研削用及び仕上げ研削用の別の研削工具を用いることなく、同一の工具により粗研削及び仕上げ研削を行うことができる。したがって、粗研削及び仕上げ研削を段取り替えすることなく短時間で行え、かつ、ダイヤモンド砥石の寿命を延ばすことができる。
【0006】
ところで、このような磁気ディスク用ガラス基板を用いて磁気ディスクを作成するには、磁気ディスク用ガラス基板上に磁性層等を形成した後、サーボ信号(HDD制御用信号)を磁性層に記録する必要がある。サーボ信号を磁性層に記録するサーボライト工程は、従来、磁気ディスクをHDDに組み込んで、HDDに搭載されている磁気ヘッドにより行っていた。しかし、このようなサーボライト工程は、長時間を要する工程であり、生産性向上の阻害要因となっていた。
【0007】
そこで、現在では、メディアスタックサーボトラックライト方式が採用されている。このメディアスタックサーボトラックライト方式は、複数枚の磁気ディスクを積層させて1本のスピンドル軸に装着し、これら複数枚の磁気ディスクをスピンドルモータによって同時に回転させ、複数の磁気ヘッドを各磁気ディスクに対応させて配置し、各磁気ディスクに同時にアクセスしてサーボ信号を磁性層に記録するものである。
【0008】
このメディアスタックサーボトラックライト方式によれば、一度に複数枚の磁気ディスクにサーボ信号を書き込むことができ、これら磁気ディスクを用いて複数台のHDDを組立てられるので、HDDの生産性向上が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3061605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年、磁気ディスクの記録トラック密度は高密度化の一途を辿っており、前述したメディアスタックサーボライト方式を採用するうえで、磁気ディスクの中心部の円孔の内径寸法公差や内周端面形状が、記録トラックの精度に影響を及ぼすようになっている。そのため、円孔の内径寸法公差のより一層の縮小、内周端面形状バラツキの低減が求められ、一方、内周端面は、鏡面化されている必要がある。
【0011】
円孔の内周端面は、ガラス基板を積層させた状態で、セリウムを研磨剤として、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行っている。このブラシ研磨においては、C面部(面取り面)へのブラシ毛材の作用が弱いため、C面部を含む端面全体を鏡面化するためには、研磨の取代を、所定量以上に大きく設定する必要がある。
【0012】
しかし、円孔の内周端面の研磨の取代を大きくすると、円孔の内径寸法公差が拡大し、内周端面形状バラツキが増加してしまう。
【0013】
さらに、前述の理由により、たとえ研磨の取代を大きくしたとしても、C面部の粗さがT面部に比べて高くなってしまい、十分低減できない場合もある。
【0014】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、中心部の円孔の内径寸法公差を十分に縮小でき、かつ、内周端面の形状バラツキを十分に低減させながら、内周端面を鏡面化することができる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板となるガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の課題を解決し、上記目的を達成するため、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、以下の構成のいずれか一を有するものである。
【0016】
〔構成1〕
中心部に円孔を有する円盤状であって、外周端面及び前記円孔の内周端面の両縁部に面取り面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、各端面を研削する端面研削工程と、この端面研削工程の後、各端面を研磨する端面研磨工程とを有し、端面研削工程においては、外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、端面研磨工程の後に端面のうちの面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとが同等となるように、端面のうちの面取り面の面粗さを面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとしておき、端面研磨工程においては、外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、面取り面を含む端面の全体をブラシ研磨により研磨して、面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとを同等とすることを特徴とするものである。
【0017】
すなわち、端面研削工程においては、外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、端面研磨工程におけるブラシ研磨の後に端面のうちの面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとが同等となるように、予め、端面のうちの面取り面の面粗さを面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとしておくものである。
【0018】
〔構成2〕
構成1を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、研削工程においては、環状凹部が形成された円筒状の第1の砥石を用いて、面取り面を含む端面の全体を研削し、次に、環状V溝が形成された円筒状の第2の砥石を用いて、面取り面のみを研削することによって、端面のうちの面取り面の面粗さを、面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとすることを特徴とするものである。
【0019】
〔構成3〕
構成2を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、第2の砥石の番手は、第1の砥石の番手よりも高番手であることを特徴とするものである。
【0020】
〔構成4〕
構成2、または、構成3を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、端面研削工程前のガラス基板は、平板ガラスより円形に切出されたものであって、円孔は、円形に切出されたガラス基板の中心部を円形に切取って形成したものであることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明に係る磁気ディスクの製造方法は、以下の構成を有するものである。
【0022】
〔構成5〕
構成1乃至構成4のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって得られた磁気ディスク用ガラス基板の主面上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明に係るガラス基板は、以下の構成を有するものである。
【0024】
〔構成6〕
中心部に円孔を有する円盤状であって、外周端面及び前記円孔の内周端面の両縁部に面取り面を有する磁気ディスク用ガラス基板となるガラス基板であって、
外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、端面のうちの面取り面の面粗さが、面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとなっており、端面に対するブラシ研磨によって、端面のうちの面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとが同等となることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、端面研削工程において、外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、端面のうちの面取り面の面粗さを面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとしておき、端面研磨工程において、面取り面を含む端面の全体をブラシ研磨により研磨して、面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとを同等とするので、ブラシ研磨において、面取り面に対する研磨作用が、面取り面を除く端面に対する研磨作用よりも小さくとも、研磨取代を従来より少なくすることができ、端面の全体を鏡面化することができる。そして、ブラシ研磨における研磨取代が少ないので、中心部の円孔の内径寸法公差を十分に縮小でき、かつ、内周端面の形状バラツキを十分に低減させることができる。
【0026】
また、本発明において、端面のうちの面取り面の面粗さを低粗さとするために、環状V溝が形成された円筒状の第2の砥石を用いて面取り面のみを研削することとすると、端面と研削工具の間に非接触部ができ、この隙間に研削液が供給されることにより、研削加工中の加工点への研削液の供給力が向上し、高番手での研削が可能となる。また、加工点の冷却効果が向上し、砥粒の熱やけが起こりにくくなる。これにより、従来より高番手での研削が可能となる。
【0027】
また、本発明において、第2の砥石の番手を第1の砥石の番手よりも高番手にすることにより、研削後の面取り部のチッピング低減及び面粗さの低減が可能となる。
【0028】
そして、本発明は、平板ガラスより円形に切出されたガラス基板であって、中心部を円形に切取って円孔を形成したものに適用して特に好適である。中心部を円形に切取って円孔を形成した場合には、内周端面が一方向に傾斜したテーパ状となっており、その面を面取り面または端面として使用することはできない。すなわち、生産性を考慮した場合、総型砥石による形状加工が必須となるため、その結果、新たに生成した面取り面及び面取り面を除く端面の粗さが同等となってしまうからである。
【0029】
すなわち、本発明は、中心部の円孔の内径寸法公差を十分に縮小でき、かつ、内周端面の形状バラツキを十分に低減させながら、内周端面を鏡面化することができる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法及び磁気ディスク用ガラス基板となるガラス基板を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いて製造される磁気ディスクの形状を示す斜視図である。
【図2】本発明により製造される磁気ディスク用ガラス基板の円孔の内周端面の形状を示す断面図である。
【図3】磁気ディスク用ガラス基板の端面研削をおこなう研削装置の構成を示す側面図である。
【図4】端面研削工程において、第1の砥石により磁気ディスク用ガラス基板の内周端面を研削している状態を示す断面図である。
【図5】端面研削工程において、第2の砥石により磁気ディスク用ガラス基板の内周端面を研削している状態を示す断面図である。
【図6】端面研磨工程において、ブラシ研磨により磁気ディスク用ガラス基板の内周端面を研磨している状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための実施の形態について説明する。
【0032】
図1は、本発明により製造される磁気ディスク用ガラス基板を用いて製造される磁気ディスクの形状を示す斜視図である。
【0033】
本発明者は、図1に示すように、中心部に円孔1を有する円盤状の磁気ディスク2を製造するにあたり、メディアスタックサーボライト方式を採用して、複数の磁気ディスク2に同時にサーボ信号の記録を行うときに、中心部の円孔1の内径寸法公差や内周端面形状が、記録トラックの精度に影響を及ぼすという問題に直面した。
【0034】
そして、メディアスタックサーボライト方式において記録トラックを精度良く記録するには、円孔1の内径寸法公差のより一層の縮小、内周端面形状バラツキの低減が必要であるという知見を得た。一方、内周端面は、鏡面化されている必要がある。
【0035】
図2は、本発明により製造される磁気ディスク用ガラス基板の円孔の内周端面の形状を示す断面図である。
【0036】
この磁気ディスク2の円孔1の内周端面は、図2に示すように、両縁部が面取り面(以下、「C面部」という。)1bとなされて円錐面となっており、これらC面部を除く部分(以下、「T面部」という。)1aが円筒面となっている。
【0037】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、外周端面及び円孔1の内周端面を研削する端面研削工程と、端面研削工程の後、各端面を研磨する端面研磨工程とを有し、これら端面研削工程及び端面研磨工程を通じて、外周端面及び円孔1の内周端面を鏡面化するとともに、内径寸法公差のより一層の縮小、内周端面形状バラツキの低減を図るものである。
【0038】
〔磁気ディスク用ガラス基板の製造工程〕
以下に、上述した超音波洗浄工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造工程について詳しく説明する。なお、各工程の順序は以下の記載に限定されず、適宜入れ替えることが可能である。
【0039】
(1)素材加工工程
素材加工工程では、板状のガラスから、円盤状のガラス基板を得る。ガラス素材としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、主表面の平坦性及び基板強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を提供することができるという点では、アルミノシリケートガラスを用いることが好ましい。
【0040】
板状ガラスは、これらのガラスを材料として、プレス法やフロート法、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法など、公知の製造方法を用いて製造することができる。これらの方法うち、プレス法を用いれば、板状ガラスを廉価に製造することができる。また、ガラス基板は、平板ガラスより円形に切出して得るようにしてもよい。
【0041】
(2)第1研削(ラッピング)工程
第1ラッピング工程では、ディスク状のガラス基板の主表面をラッピング加工し、ガラス基板の形状を整える。第1のラッピング工程は、遊星歯車機構を利用した両面研削装置により、アルミナ系遊離砥粒を用いて行うことができる。具体的には、ディスク状のガラス基板の両面に上下からラップ定盤を押圧させ、遊離砥粒を含む研削液をガラス基板の主表面上に供給し、これらを相対的に移動させてラッピング加工を行う。このラッピング加工により、平坦な主表面を有するガラス基板を得ることができる。
【0042】
(3)形状加工工程(穴部を形成するコアリング工程)
コアリング工程では、例えば、円筒状のダイヤモンドドリルを用いて、ディスク状のガラス基板の中心部に内孔1を形成し、円環状のガラス基板とすることができる。また、円孔1は、円形に切出されたガラス基板の中心部を円形に切取って形成してもよい。
【0043】
(4)端面研削工程
この端面研削工程においては、ガラス基板の内外周端面をダイヤモンド砥石によって研削して、ガラス基板に所定の面取り加工を施す。この端面研削工程においては、少なくとも内周端面のうちのC面部1bの面粗さをT面部1aの面粗さよりも低粗さとする。なお、外周端面についても、内周端面と同様に、端面のうちのC面部1bの面粗さをT面部1aの面粗さよりも低粗さとしておいてもよい。
【0044】
この端面研削工程が終了したものが、本発明に係るガラス基板である。
【0045】
図3は、磁気ディスク用ガラス基板の端面研削をおこなう研削装置の構成を示す側面図である。
【0046】
磁気ディスク用ガラス基板の端面研削を行う研削装置は、図3に示すように、複数の環状凹部が形成された円筒状の第1の砥石10,10と、複数の環状V溝が形成された円筒状の第2の砥石11,11とを備えている。各環状凹部及び各環状V溝は、砥石がなす円筒体の軸に垂直な平面と、この円筒体の周面との交線に沿って形成されている。
【0047】
一方の第1の砥石10及び一方の第2の砥石11は、同軸に連結されており、一体的な円筒体を構成している。他方の第1の砥石10及び他方の第2の砥石11は、同軸に連結されており、一体的な円筒体を構成している。これら一方の第1の砥石10及び一方の第2の砥石11と、他方の第1の砥石10及び他方の第2の砥石11とは、互いに平行な支軸によって軸支され、軸回りに回転操作可能となっている。
【0048】
一方の第1の砥石10及び一方の第2の砥石11は、ガラス基板2の外周側に位置し、軸回りに回転操作されて、ガラス基板2の外周端面を研削する。他方の第1の砥石10及び他方の第2の砥石11は、円孔1内に挿通されて、軸回りに回転操作されて、ガラス基板2の内周端面を研削する。ガラス基板の内外周端面研削を行うときには、ガラス基板も中心軸回りに回転操作される。
【0049】
図4は、第1の砥石により磁気ディスク用ガラス基板の内周端面を研削している状態を示す断面図である。
【0050】
円孔の内外周端面の研削は、図4に示すように、第1工程として、第1の砥石10の環状凹部10aを用いて、内外周端面の全体(C面部1b及びT面部1a)を研削する。環状凹部10aは、断面が台形の凹部であり、C面部1b及びT面部1aを同時に研削する。この第1の砥石10の番手は、例えば、#400である。
【0051】
図5は、第2の砥石により磁気ディスク用ガラス基板の内周端面を研削している状態を示す断面図である。
【0052】
次に、第2工程として、ガラス基板2と円筒状の砥石10,11とを上下方向に相対移動させ、図5に示すように、第2の砥石11の環状V溝11aを用いて、内外周端面のC面部1bのみを研削する。環状V溝11aは、断面がV字状の溝であり、C面部1bのみを研削する。この第2の砥石11の番手は、第1の砥石10の番手よりも高番手であり、例えば、#800である。この第2工程により、内周端面のうちのC面部1bの面粗さを、T面部1aの面粗さよりも低粗さとする。
【0053】
第2の砥石11には環状V溝が形成されているため、内外周端面と第2の砥石11の間に非接触部ができ、この隙間に研削液が供給されることにより、研削加工中の加工点への研削液の供給力が向上し、高番手での研削が可能となる。また、加工点の冷却効果が向上し、砥粒の熱やけが起こりにくくなる。これにより、従来より高番手での研削が可能となる。
【0054】
なお、本発明は、平板ガラスより円形に切出されたガラス基板であって、中心部を円形に切取って円孔を形成したものに適用して特に好適である。中心部を円形に切取って円孔を形成した場合には、内周端面が一方向に傾斜したテーパ状となっているからである。このような場合でも、本発明においては、第1の砥石10により、面取り加工を施すことができる。
【0055】
(5)第2ラッピング工程
第2ラッピング工程では、得られたガラス基板の両主表面について、第2ラッピング加工を行う。第2ラッピング工程を行うことにより、前工程である端面研削工程においてガラス基板の主表面に形成された微細なチッピングを除去することができ、後続の主表面に対する研磨工程を短時間で完了させることが可能となる。
【0056】
第2ラッピング工程は、遊星歯車機構を利用した両面研削装置により、ダイヤモンドシートからなる固定砥粒研磨パッドを用いて研削することができる。ダイヤモンドシートは、ダイヤモンド粒子を研削砥粒として備えていればよく、例えば、PETからなる基材にダイヤモンド粒子を付着させたダイヤモンドシートを用いることができる。
【0057】
(6)端面研磨工程
図6は、端面研磨工程において、ブラシ研磨により磁気ディスク用ガラス基板の内周端面を研磨している状態を示す断面図である。
【0058】
この端面研磨工程においては、図6に示すように、複数のガラス基板2を積層させた状態で、各ガラス基板2の外周端面及び内周端面について、C面部1bを含む端面の全体を、ブラシ研磨方法により鏡面研磨を行う。
【0059】
複数のガラス基板2は、各ガラス基板2の間にスペーサ15を介在させて、積層する。内周端面のブラシ研磨は、円筒状のブラシ12を各ガラス基板2の円孔1内に挿通させ、このブラシ12を軸回りに回転操作することによって行う。ブラシ12は、円柱状の軸13の周面に、多数のブラシ毛材14が放射状に植設されたものである。研磨砥粒としては、例えば、酸化セリウム砥粒を含むスラリーを用いることができる。この端面研磨工程により、ガラス基板の端面は、鏡面状態になる。
【0060】
ブラシ研磨方法においては、C面部1bへのブラシ毛材14の作用が弱いため、C面部1bを含む端面全体を鏡面化するためには、研磨の取代を、所定量以上に大きく設定する必要がある。しかし、本発明においては、端面研削工程において、内周端面のうちのC面部1bの面粗さがT面部1aの面粗さよりも低粗さとなっているので、研磨の取代を大きくする必要がなく、円孔の内径寸法公差を縮小し、端面形状バラツキを減少させることができる。
【0061】
(7)主表面研磨工程(第1研磨工程)
主表面研磨工程として、まず第1研磨工程を施す。第1研磨工程は、前述のラッピング工程で両主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とする工程である。この第1研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、硬質樹脂ポリッシャを用いて、両主表面の研磨を行う。研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を用いることができる。また、第1研磨工程を終えたガラス基板は、中性洗剤、純水、IPA等で洗浄することが好ましい。
【0062】
なお、両面研磨装置としては、上下側定盤の主表面部に、一対の研磨布(硬質樹脂ポリッシャの研磨パッド)を貼付して使用することができる。この両面研磨装置においては、上下側定盤に貼付された研磨布間にガラス基板を設置し、上下側定盤の一方又は双方を移動させて、ガラス基板の両主表面を研磨することができる。
【0063】
(8)化学強化工程
化学強化工程においては、ガラス基板を化学強化液に浸漬して化学強化処理を施す。化学強化処理に用いる化学強化液としては、例えば、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)の混合溶液などを用いることができる。化学強化処理においては、化学強化液を300°C乃至400°Cに加熱し、ガラス基板を200°C乃至300°Cに予熱し、化学強化溶液中に3時間乃至4時間浸漬することによって行う。この浸漬の際には、ガラス基板の両表面全体が化学強化されるようにするため、複数のガラス基板が端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0064】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス基板の表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化溶液中の相対的にイオン半径の大きなナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス基板が強化される。なお、化学強化処理されたガラス基板は、硫酸で洗浄した後に、純水、IPA等で洗浄すればよい。
【0065】
(9)主表面研磨工程(最終研磨工程)
最終研磨工程として、第2研磨工程を施す。第2研磨工程は、両主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする工程である。第2研磨工程においては、遊星歯車機構を有する両面研磨装置により、軟質発泡樹脂ポリッシャを用いて、両主表面の鏡面研磨を行う。研磨砥粒としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒よりも微細な粒径10nm乃至40nmのコロイダルシリカなどを有するスラリーを用いることがきる。この最終研磨工程において、遊星歯車機構を利用した両面研磨装置を用いて上記第1研磨工程と同様に行うことができる。
【0066】
(10)超音波洗浄工程
最終研磨工程後にガラス基板に超音波を用いた洗浄工程を施す。超音波洗浄工程は、最終研磨工程後にガラス基板の表面に付着したパーティクルを、1種類、または、2種類以上の超音波周波数帯を用いて除去することを目的とする工程である。
【0067】
この超音波洗浄工程においては、ガラス基板を純水、KOH水溶液等に浸した後、超音波を照射する。具体的には、まず、相対的に高い第1の周波数(500kHz以上)で第1の超音波洗浄を行って凝集体を形成した後、続けて、相対的に低い第2の周波数(40kHz以上200kHz以下)で第2の超音波洗浄を行うことにより、ガラス基板表面から第1の超音波洗浄により凝集された凝集体を含むパーティクルを除去する。
【0068】
第1の超音波洗浄と第2の超音波洗浄とは、1回の超音波洗浄工程において周波数を切り替えることにより行うことができる。第1の超音波洗浄の周波数から第2の超音波洗浄の周波数への切り替えるタイミングは、事前に比較的高い周波数で超音波を照射した場合に形成される凝集体の大きさ(例えば、1000nm乃至3000nm)と超音波洗浄時間の関係等を規定し、その条件をフィードバックさせることが好ましい。これにより、第1の超音波洗浄により、凝集体を十分に形成した後に、第2の超音波洗浄を行うことができる。
【0069】
〔磁気ディスク製造工程(記録層等形成工程)〕
上述した工程を経て得られたガラス基板の主表面に、例えば、付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層、及び潤滑層を順次成膜することにより、垂直磁気記録ディスクを製造することができる。付着層を構成する材料としては、Cr合金などを挙げることができる。軟磁性層を構成する材料としては、CoTaZr基合金などを挙げることができる。非磁性下地層としては、グラニュラー非磁性層などを挙げることができる。垂直磁気記録層としては、グラニュラー磁性層などを挙げることができる。保護層を構成する材料としては、水素化カーボンなどを挙げることができる。潤滑層を構成する材料としては、フッ素樹脂などを挙げることができる。例えば、これらの記録層等は、より具体的には、インライン型スパッタリング装置を用いて、ガラス基板の上に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiOの非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO・TiOのグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜し、さらに、ディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜することができる。
【0070】
なお、CoCrSiOの非磁性グラニュラー下地層の替わりにRuの下地層を用いてもよい。また、軟磁性層と下地層の間にNiWのシード層を追加してもよい。また、グラニュラー磁性層と保護層の間にCoCrPtBの磁性層を追加してもよい。
【0071】
なお、上記実施の形態における材料、サイズ、処理手順、検査方法などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0072】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例及び比較例について説明する。
【0073】
本実施例では、以下の工程を経て、磁気ディスク用ガラス基板の端面研磨加工までを行った。
【0074】
(1)LAP工程
まず、アモルファスガラスからなる多成分系のガラス基板を用意した。ガラスの硝種はアルミノシリケートガラスであり、具体的な化学組成は、SiOが63.5重量%、Alが14.2重量%、NaOが10.4重量%、LiOが5.4重量%、ZrOが6.0重量%、Sbが0.4重量%、Asが0.1重量%とした。
【0075】
このガラス基板は、ダイレクトプレス法で成形し、円形状のガラス基板とした。これをLAP定盤上で板厚を1.15mmから0.76mmへと加工した。
【0076】
(2)形状加工工程
次に、固定砥粒によるドリルを用いてガラス基板の中央部分に孔をあけ、中心部に円孔を有するドーナツ状のガラス基板2とした。
【0077】
(3)端面研削工程
第1工程により、外周端面及び内周端面に面取加工を施し、第2工程により、内外周端面を鏡面化した。本発明の実施例と比較例との差異を確認するために、実施例と比較例とで異なる加工を行った。
【0078】
実施例においては、環状凹部を有する第1の砥石の番手を#400、環状V溝を有する第2の砥石の番手を#800とした。
【0079】
比較例1においては、第1工程を実施例の第1工程と同様に、環状凹部を有する番手#400の第1の砥石を用いて行い、第2工程を、第1工程と同様の環状凹部を有する砥石を用いて行い、番手を#500とした。
【0080】
比較例2においては、第1工程を実施例の第1工程と同様に、環状凹部を有する番手#400の第1の砥石を用いて行い、第2工程を、第1工程と同様の環状凹部を有する砥石を用いて行い、番手を#800とした。
【0081】
(4)端面研磨工程
実施例、比較例1及び比較例2のガラス基板をそれぞれ100枚作成し、これらをスペーサを挟んで各100枚積層したものをセリウムを研磨剤とするブラシ研磨により、内径端面をそれぞれ15μmの研磨取代で研磨加工した。
【0082】
〔評価結果〕
評価結果を〔表1〕に示す。
【0083】
【表1】

実施例、比較例1及び比較例2のガラス基板の研削工程後の内周端面のC面部1bを顕微鏡で観察したところ、比較例1では幅20μm程度のチッピングが発生していたのに対し、実施例及び比較例2では、幅10μm程度のチッピングに低減されていることが確認された。
【0084】
また、研削工程後の内周端面のC面部1b及びT面部1aの表面粗さをキーエンス製レーザ顕微鏡で測定したところ、実施例では、C面部1bのRzが13μm、T面部1aのRzが23μmと、C面部1bのほうが低粗さであったのに対し、比較例1では、C面部1bのRzが23μm、T面部1aのRzが20μm、比較例2では、C面部1bのRzが20μm、T面部1aのRzが18μmと、T面部1aのほうが低粗さであった。
【0085】
研磨工程後の内周端面のC面部1b及びT面部1aをそれぞれ顕微鏡で全数観察したところ、実施例では、C面部1b及びT面部1aともに、目残り除去率が100%であったのに対し、比較例1及び比較例2では、T面部1aの目残り除去率は100%であったが、C面部1bの目残り除去率は95%であった。
【0086】
〔メディアスタックサーボライト工程〕
次に、上記〔表1〕に示した条件で研削工程及び研磨工程を行ったガラス基板を用いて磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクに対して、メディアスタックサーボライト方式により、サーボ信号の記録を行い、比較例1及び比較例2よりも、実施例のガラス基板を用いた磁気ディスクのほうが、精度良く記録できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、コンピュータ等の記録媒体として用いられる磁気ディスク用のガラス基板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法に適用される。
【符号の説明】
【0088】
1 円孔
1a T面部
1b C面部
2 磁気ディスク
10 第1の砥石
10a 環状凹部
11 第2の砥石
11a 環状V溝
12 ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に円孔を有する円盤状であって、外周端面及び前記円孔の内周端面の両縁部に面取り面を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記各端面を研削する端面研削工程と、この端面研削工程の後、前記各端面を研磨する端面研磨工程とを有し、
前記端面研削工程においては、外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、前記端面研磨工程の後に前記端面のうちの面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとが同等となるように、前記端面のうちの面取り面の面粗さを、面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとしておき、
前記端面研磨工程においては、外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、前記面取り面を含む端面の全体を、ブラシ研磨により研磨して、面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとを同等とする
ことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記研削工程においては、環状凹部が形成された円筒状の第1の砥石を用いて、前記面取り面を含む端面の全体を研削し、次に、環状V溝が形成された円筒状の第2の砥石を用いて、前記面取り面のみを研削することによって、前記端面のうちの面取り面の面粗さを、面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとする
ことを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の砥石の番手は、前記第1の砥石の番手よりも高番手である
ことを特徴とする請求項2記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記端面研削工程前のガラス基板は、平板ガラスより円形に切出されたものであって、
前記円孔は、円形に切出された前記ガラス基板の中心部を円形に切取って形成したものである
ことを特徴とする請求項2、または、請求項3記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって得られた磁気ディスク用ガラス基板の主面上に、少なくとも磁性層を形成する
ことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項6】
中心部に円孔を有する円盤状であって、外周端面及び前記円孔の内周端面の両縁部に面取り面を有する磁気ディスク用ガラス基板となるガラス基板であって、
外周端面及び内周端面の少なくとも一方について、前記端面のうちの面取り面の面粗さが、面取り面を除く端面の面粗さよりも低粗さとなっており、前記端面に対するブラシ研磨によって、前記端面のうちの面取り面の面粗さと面取り面を除く端面の面粗さとが同等となる
ことを特徴とするガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−80532(P2013−80532A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218764(P2011−218764)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】