説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスク

【課題】エッチング処理された内周端面上にポリシラザン化合物を用いて被膜が形成された磁気ディスク用ガラス基板の発塵性を低減する。
【解決手段】中央に円孔を有する円板状ガラス板の内周端面をエッチング処理しそのエッチング処理された内周端面にポリシラザン化合物を塗布し、焼成して前記内周端面に被膜を形成する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、被膜が形成された内周端面の表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。前記製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の上に記録層となるべき磁性層を含む複数の層が積層されている磁気ディスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
磁気ディスクに用いられるガラス基板の製造方法および磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク記憶装置等に使用される磁気ディスクの基板としてガラス基板が用いられている。
このガラス基板は中央に円孔を有する円板状のものであり、その主表面はきわめて高い平坦度および平滑度を有する。一方、その内周端面および外周端面、特に内周端面もガラス基板の機械的強度を向上させるという観点から平滑であることが求められるが、平坦な主表面と違って内周端面は曲面であるために十分な平滑度が得られるような研磨、たとえば#1000メッシュよりも径の小さい砥粒を用いての十分な研磨を行いにくいという問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、内周端面をエッチング処理してガラス基板の機械的強度を支配する深い傷を除去し、次に、そのエッチング処理された内周端面にポリシラザン化合物を含有する液を塗布し、焼成してその表面に鉛筆引っかき値5H以上の硬さを有する被膜を形成するという方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−328665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、磁気ディスク用ガラス基板では機械的強度の向上の他にサーマルアスペリティの原因となる端面からのパーティクルの防止すなわち発塵防止が求められている。
特許文献1で開示されている発明は被膜の硬さに着目し、その硬さを大きくすることにより機械的強度を向上させようとするものであったが発塵防止を意図しているものではなかった。
本発明はポリシラザン化合物が焼成されたものである被膜が形成された内周端面からの発塵を減少させることが可能な磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、中央に円孔を有する円板状ガラス板の内周端面をエッチング処理しそのエッチング処理された内周端面にポリシラザン化合物を塗布し、焼成して前記内周端面に被膜を形成する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、被膜が形成された内周端面の表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供する。
また、前記製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の上に記録層となるべき磁性層を含む複数の層が積層されている磁気ディスクを提供する。
【0007】
本発明者は、前記被膜が形成された内周端面の表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下にすると発塵が少なくなることを見出し、本発明に至った。RaはJIS B0601で規定されるものであり、好ましくは0.4μm以下である。なお、後述するように特許文献1に開示されているポリシラザン化合物を用いた場合には発塵が多かったが、それはそのような被膜の膜厚限界が小さかったため前記Raが大きかったためと考えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリシラザン化合物を含有する液を塗布し、焼成して得られた被膜が形成された磁気ディスク用ガラス基板内周端面からの発塵を少なくすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法(以下、本発明の製造方法という。)においては通常次のような工程を経て磁気ディスク用ガラス基板が製造される。すなわち、円板状ガラス板の中央に円孔を開け、端面研磨、面取り、主表面ラッピング、外周端面鏡面研磨を順次行う。その後円板状ガラス板を積層して内周端面をエッチング処理し、そのエッチング処理された内周端面にポリシラザン化合物含有液をスプレー法等によって塗布し、焼成して内周端面に被膜を形成する。次に、内周端面に被膜が形成された円板状ガラス板の主表面を研磨して平坦かつ平滑な面とし磁気ディスク用ガラス基板とされる。
【0010】
本発明の製造方法によって製造される磁気ディスク用ガラス基板(以下、本発明のガラス基板という。)の外径、内径(円孔の直径)、厚みは特には限定されないが、外径95mmのものであれば内径25mm、厚みが1.0mmまたは0.8mm、外径84mmのものであれば内径25mm、厚みが1.0mmまたは0.63mm、外径65mmのものであれば内径20mm、厚み0.635mm、外径48mmのものであれば内径12mm、厚み0.55mm、外径27.1mmのものであれば内径7mm、厚み0.38mmであるものが例示される。
【0011】
本発明のガラス基板のガラスは特には限定されないが、耐侯性が高いものとしたい場合には以下に示すような耐水性、耐酸性、耐アルカリ性の基準を満たすものであることが好ましい。
耐水性:80℃の水にガラスを24時間浸漬したときの、ガラスからの成分溶出にともなうガラスの減量(溶出量)が0.02mg/cm以下。
耐酸性:80℃の0.1規定塩酸水溶液にガラスを24時間浸漬したときの、ガラスからの成分溶出にともなうガラスの減量(溶出量)が0.06mg/cm以下。
耐アルカリ性:80℃の0.1規定水酸化ナトリウム水溶液にガラスを24時間浸漬したときの、ガラスからの成分溶出にともなうガラスの減量(溶出量)が1mg/cm以下、より好ましくは0.18mg/cm以下。
【0012】
また、本発明の製造方法においては化学強化工程は必須ではないので、NaやLi等のアルカリ金属の含有量をある値以上にしなければならないという制約は存在しない。
本発明のガラス基板のガラスとして、ソーダライムシリカガラス等のアルカリ金属酸化物を1〜20質量%含有するガラス、アルミナシリケートガラス(アルカリ金属酸化物を1〜20質量%含有するものも含む)、無アルカリガラス、結晶化ガラスが例示される。
【0013】
無アルカリガラスとして、下記酸化物基準の質量百分率表示組成が、SiO 56.0%、B 6.0%、Al 11.0%、Fe 0.05%、NaO 0.1%、MgO 2%、CaO 3%、BaO 15.0%、SrO 6.5%であるガラスAが例示される。このガラスの耐水性、耐酸性、耐アルカリ性の各試験における溶出量(単位:mg/cm)はそれぞれ、0.01、0.03、0.67である。
【0014】
中央に円孔を有する円板状ガラス板の円孔の表面すなわち内周端面はエッチング処理する前に#200〜#1000メッシュ程度の砥粒、たとえば#500メッシュアンダーのダイヤモンド砥粒によって研磨しておくことが好ましい。
内周端面が研磨された円板状ガラス板の中心と円孔の中心との差は25μm以下、円孔の真円度は25μm以下であることが好ましい。
また、研磨された内周端面に対しては通常面取りを行い、その後酸化セリウム等の研磨材を用いて前記面取りされた面について鏡面研磨を行う。
【0015】
内周端面のエッチング処理には、一般的なガラスのエッチング方法であるエッチング液を用いたウェットエッチング方法、エッチングガスを用いたドライエッチング方法、等が使用できる。中でも、フッ酸液、フツ硫酸液、フツ硝酸液、ケイフッ化水素酸などのエッチング液を用いたウェットエッチング方法が好適に使用できるが、フツ硫酸液またはフツ硝酸を用いた方法が特に好適である。
このエッチング処理は、円板状ガラス板をエッチング液中に浸漬して行う方法が一般的であるが、スプレー法、その他の方法でも可能である。なお、このエッチング処理は内周端面に高い突起を形成しないようなものであることが好ましい。
【0016】
内周端面のエッチング量、すなわちエッチング処理による内周端面ガラスの除去厚さであるエッチング深さは、好ましくは8〜40μmである。8μm未満では内周端面に存在する深い傷の除去が不充分となり、機械的強度が低下するおそれがある。40μm超では内周端面に高い突起が形成されるおそれがある。
【0017】
前記ガラスAからなり、外径65mm、内径20mm、厚みが0.9mmである円板状ガラス板の内周端面エッチング処理はたとえば、フッ酸および硫酸をそれぞれ5質量%含有するフツ硫酸液中に10分間浸漬して行えばよく、そのときのエッチング深さは約20μmである。
【0018】
エッチング処理された内周端面へのポリシラザン化合物を含有する液(以下、この液をコート液という。)の塗布はたとえば次の(1)〜(4)のいずれかの方法によって行うが、その際コート液が内周端面からはみ出して主表面に及んでもかまわない。
(1)刷毛を用いて塗布する刷毛塗り法。
(2)発泡プラスチック等からなるローラブラシの多孔質表面にコート液を供給し、そのローラブラシのロールを10〜60rpmで回転させながら円板状ガラス板の内周端面に接触させてコート液を転写・塗布するローラ塗り法。この場合、その円板状ガラス板も真空吸着によって保持して30〜50rpmで回転させることが好ましい。
(3)円板状ガラス板を真空吸着によって保持して10〜200rpmで回転させながらその内周端面にディスペンサによりコート液を供給して塗布する直接塗り法。
(4)円板状ガラス板を積層し、その積層体を5〜50rpmで回転させながら、その内周端面にスプレーノズルからコート液を噴霧するスプレーコート法。
【0019】
本発明におけるコート液が含有するポリシラザン化合物は被膜の膜厚限界が大きいものであることが好ましい。このようなポリシラザン化合物としては特開2005−36089号公報または特開2004−77874号公報に開示されている有機ポリシラザン化合物が例示される。
【0020】
次に、このような有機ポリシラザン化合物について説明する。
有機ポリシラザン化合物は下記一般式(A)で表される構造単位Aおよび下記一般式(B)で表される構造単位Bを有し、有機ポリシラザン化合物中では各構造単位は一般に、m、nを正の整数としてAまたはBという形で存在する。以下で述べる構造単位についても同様である。
【0021】
なお、一般式(A)、(B)中のR、R、R、Rはいずれも、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、アルキルシリル基およびアルコキシ基からなる群から選ばれる基または水素であり、RおよびRのいずれか1以上とRおよびRのいずれか1以上とは前記群から選ばれる基である。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
コート液の重合性成分が反応して形成されるコポリマー中のSi−O結合の数をNSi−O、Si−N結合の数をNSi−NとしてNSi−O/(NSi−N+NSi−O)は、好ましくは0.50〜0.99、特に好ましくは0.80〜0.95である。NSi−O/(NSi−N+NSi−O)が0.50より小さいと弾性率が上昇して脆くなる傾向があり、0.99を超えるとポリマー中の架橋点が減少してポリマーの硬度が不十分になることがある。
【0025】
有機ポリシラザン化合物は下記式(C)で表される構造単位Cを有してもよい。
なお、下記一般式(C)中のR、R、R、Rはいずれも、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、アルキルシリル基およびアルコキシ基からなる群から選ばれる基または水素であり、R、R、RおよびRのいずれか1以上は前記群から選ばれる基であり、Rは2価の芳香族基である。
【0026】
【化3】

【0027】
有機ポリシラザン化合物は下記一般式(D)で表される構造単位D、下記一般式(E)で表される構造単位Eおよび下記一般式(F)で表される構造単位Fからなる群から選ばれる1以上の構造単位を有するものでもよい。
【0028】
なお、一般式(D)、(E)、(F)中のR10、R11、R12、R13、R14はいずれも、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、アルキルシリル基およびアルコキシ基からなる群から選ばれる基である。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
有機ポリシラザン化合物は下記一般式(G)で表される構造単位G、下記一般式(H)で表される構造単位Hおよび下記一般式(I)で表される構造単位Iからなる群から選ばれる1以上の構造単位を有するものでもよい。
【0033】
なお、一般式(G)、(H)、(I)中のR15、R17、R18、R20はいずれも、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアミノ基、アルキルシリル基およびアルコキシ基からなる群から選ばれる基であり、R16、R19、R21はいずれも2価の芳香族基である。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
本発明において、アルキル基はC1〜C3アルキル基、アルケニル基はC1〜C2アルケニル基、シクロアルキル基はC6〜C8シクロアルキル基、アリール基はC6〜C8アリール基、アラルキル基はC1〜C3アラルキル基、アルキルアミノ基はC1〜C3アルキルアミノ基、アルキルシリル基はC1〜C3アルキルシリル基、アルコキシ基はC1〜C3アルコキシ基であることがそれぞれ好ましい。
【0038】
本発明において、2価の芳香族基はアラルキレン基またはアリーレン基であることが好ましく、特に好ましくはフェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ベンジリデン基、フェネチリデン基、α−メチルベンジリデン基、シンナミリデン基またはナフチレン基である。
【0039】
2価の芳香族基であるR16、R19、R21の他の好ましい態様として下記一般式で表される基が挙げられる。
【0040】
【化10】

【0041】
なお、上記一般式中の(R22)aはハロゲン原子または低級アルキル基であり、好ましくはC1〜C3アルキル基である。
また、aは0〜4のいずれかの整数であり、Zは直接結合しているか、または下記一般式で表される基である。
下記一般式中のR23はハロゲン原子または低級アルキル基であり、好ましくはC1〜C3アルキル基である。bは0〜4のいずれかの整数であり、Yは直接結合しているかまたは二価の基であり、好ましくはYは直接結合しているか、−O−、−S−、−CH−、または−CHCH−である。
【0042】
【化11】

【0043】
16、R19、R21はいずれも、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ベンジリデン基、フェネチリデン基、α−メチルベンジリデン基、シンナミリデン基およびナフチレン基からなる群から選ばれる基であることが好ましい。
【0044】
有機ポリシラザン化合物は特開2005−36089号公報、特開2004−77874号公報等によって公知の方法によって合成できる。
【0045】
たとえば、恒温槽内に設置した反応容器を乾燥窒素で置換した後、キシレン1000mlにフェニルトリクロロシラン(PhSiCl)47g(0.222モル)、ジフェニルジクロロシラン(PhSiCl)56g(0.222モル)、メチルジクロロシラン(MeSiHCl)3.8g(0.033モル)、および1,4−ビス(ジメチルクロロシリル)ベンゼン50g(0.19モル)を溶解させたものを前記反応容器に投入する。
【0046】
次に、反応容器内温度を−5℃とし、水13.0g(0.7222モル)をピリジンl000mlに溶解させた溶液を約30ml/分の速度で反応容器に注入する。この時、注入とともにハロシランと水との反応が起こり、容器内温度が−2℃まで上昇する。水とピリジン混合溶液の注入が終了した後、1時間撹拌を継続する。その後、未反応のクロロシランを完全に反応させる目的でアンモニアを2モル/分の速度で10分間注入し撹拌する。反応終了後、乾燥窒素を吹き込み未反応のアンモニアを除去した後、窒素雰囲気下で加圧濾過し、濾液約2300mlを得る。この濾液を減圧下で溶媒置換したところ、100gの無色透明な粘性樹脂である有機ポリシラザン化合物a1が得られる。
【0047】
得られた有機ポリシラザン化合物a1は、その数平均分子量が2200であり、RおよびRがフェニル基である構造単位A、RおよびRがフェニル基である構造単位B、R、R、RおよびRがCH、Rがフェニル基である構造単位C、R10がCHである構造単位D、R11がフェニル基である構造単位Eを有する有機ポリシラザン化合物である。
有機ポリシラザン化合物a1についてIRスペクトル分祈を行うと、波数3350cm−1にN−H基に基づく吸収、2160cm−1にSi−Hに基づく吸収、1140cm−1にSi−Ph基に基づく吸収、1060−1100cm−1にSi−Oに基づく吸収、1020−820cm−1にSi−HおよびSi−N−Siに基づく吸収、3140cm−1、2980cm−1および1270cm−1にC−Hに基づく吸収、810cm−1および780cm−1にベンゼン環のC−Hに基づく吸収がそれぞれ確認される。
【0048】
また、有機ポリシラザン化合物a1のH−NMRスペクトルを測定すると、δ7.2ppm(br,C)、δ4.8ppm(br,SiH)、δ1.4ppm(br,NH)、δ0.3ppm(br,SiCH)の吸収がそれぞれ確認される。
なお、この有機ポリシラザン化合物a1のNSi−O/(NSi−N+NSi−O)の理論値は0.928である。
【0049】
耐熱性または耐薬品性を高くしたい等の場合には、コート液は下記一般式(J)で表される構造単位Jを有する無機ポリシラザン化合物(以下、この無機ポリシラザン化合物を単に無機ポリシラザン化合物ということがある。)を含有することが好ましい場合がある。なお、無機ポリシラザン化合物中で構造単位Jはlを正の整数としてJという形で存在し、lは一般に10〜10000、典型的には10〜200である。
【0050】
【化12】

【0051】
無機ポリシラザン化合物の末端基は特に限定されないが、一般にシリル基、メチル基、アミノ基、メトキシ基、アルコキシ基またはトリメチルシリル基である。また、その末端には有機ポリシラザン化合物等の他の成分と結合するために、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、カルボニル基等を有していてもよい。
【0052】
無機ポリシラザン化合物はたとえばペルヒドロポリシラザンである。
ペルヒドロポリシラザンの製造法は、たとえば特開昭60−145903号公報、D. SeyferthらによるCommunication of Am.cer.sor., c−13, January (1982)に記載されている。
【0053】
たとえば、内容積1lの四つ口フラスコにガス吹き込み管、メカニカルスターラ、ジュワーコンデンサーを装着し、この反応器内部を脱酸素した乾燥窒素で置換した後、四つ口フラスコに乾燥ピリジンを490ml入れ、これを氷冷する。
次にジクロロシラン51.9gを加え、白色固体状のアダクト(SiHCl・2CN)を生成させる。この反応混合物を氷冷し、撹拌しながら水酸化ナトリウム管(吸収菅)および活性炭を通して精製したアンモニア51.0gを吹き込んだ後、100℃に加熱する。
反応終了後、反応混合物を遠心分離し、乾燥ピリジンを用いて洗浄した後、さらに乾燥窒素雰囲気下で濾過して濾液850mlを得る。濾液5mlから溶媒を除去し樹脂状固体のペルヒドロポリシラザン0.102gを得る。
【0054】
このペルヒドロポリシラザンの数平均分子量は、GPC(ポリスチレン喚算)にて測定すると1100である。
また、IRスペクトル分祈を行うと、波数3390cm−1および1180cm−1のN−Hに基づく吸収、2170cm−1のSi−Hに基づく吸収、1040〜800cm−1のSi−N−Siに基づく吸収がそれぞれ確認される。
【0055】
無機ポリシラザン化合物を添加する場合の配合割合は目的に応じて任意に選択しうるが、有機ポリシラザン化合物と無機ポリシラザン化合物の合計を100質量部として無機ポリシラザン化合物の配合割合は90質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。
この配合割合を変化させることで、特に形成される保護膜の硬度や膜厚限界が変化するので、使用されるガラス基板に応じて適切に変化させることが好ましい。
【0056】
コート液は通常溶剤を含み、その他に必要に応じて触媒等を含有してもよい。
有機ポリシラザン化合物a1のキシレン溶液(固形分濃度5質量%)、このキシレン溶液と前記ペルヒドロポリシラザンのキシレン溶液(固形分濃度5質量%)とを質量比1:1で混合した溶液、等がコート液として例示される。
【0057】
エッチング処理された内周端面へのコート液の塗布はたとえばスプレーコート法によって行う。
焼成は通常オーブンを用いて行う。典型的には210〜220℃に20〜30分間保持する乾燥を行い、その後375℃に保持してコート液を硬化させる。
コート液をガラスに塗布、焼成し、硬化させて得られる被膜の厚みは、典型的には3μm超20μm以下であり、たとえば4〜10μmである。
【0058】
内周端面に被膜が形成された円板状ガラス板はその主表面をたとえば平均粒径2.5μmの酸化セリウムを用いて研磨されるなどして磁気ディスク用ガラス基板とされる。なお、この研磨の際に内周端面からはみ出した被膜は除去される。
【実施例】
【0059】
(比較例1)
酸化物換算の質量%で表示した組成が、SiO:56.0%、B:6.0%、Al:11.0%、Fe:0.05%、NaO:0.1%、MgO:2%、CaO:3%、BaO:15.0%、SrO:6.5%であるガラスAからなる、中央に直径(内径)25mmの円孔を有する外径95mm、厚さ1.1mmの円板状ガラス基板を用意した。このガラスの耐水性、耐酸性、耐アルカリ性の各試験における溶出量(単位:mg/cm)はそれぞれ、0.01、0.03、0.67であった。
【0060】
前記円板状ガラス基板の内外周端面を#500メッシュアンダーのダイヤモンド砥粒を用いて仕上げ研磨を行い、内外周の同心度(内周円と外周円の中心間の距離)が25μm以下、真円度がそれぞれ25μm以下となるようにした。次いで、平均粒径9μmのアルミナ砥粒を用いてこのガラス基板の表裏の主表面のラップ研磨を行い、厚さが約0.7mmになるまで研削した。
このようにして得られたガラス基板を、フッ酸と硫酸をそれぞれ5%含むフツ硫酸液中に10分間浸漬し、エッチング深さ約20μmのエッチング処理を行って比較例1のガラス基板とした。
このガラス基板の内周端面表面のRaは1.04μmであった。
【0061】
(実施例1)
比較例1のガラス基板の内周端面に被膜のRaが小さくなるようなポリシラザン化合物を含有するコート液を塗布し焼成して内周端面上に平均膜厚が5μmである被膜を形成した。
被膜が形成された内周端面のRaは0.35μmであった。
その後、このガラス基板の表裏の主表面を平均粒径2.5μmの酸化セリウムを用いてポリッシュ研磨を行い、厚さが約0.635mmであり内周端面からはみ出した被膜が除去された実施例1のガラス基板を得た。
【0062】
(実施例2)
フッ酸と硫酸をそれぞれ5%含むフツ硫酸液中での浸漬時間を5分間とし、エッチング深さを約10μmとした以外は比較例1と同様にしてガラス基板を作製した。
このガラス基板の内周端面のRaは0.70μmであった。
次に、実施例1で用いたコート液と同じものをこの内周端面に塗布し焼成して内周端面上に平均膜厚が2μmである被膜を形成した。
被膜が形成された内周端面のRaは0.45μmであった。
その後、このガラス基板の表裏の主表面を平均粒径2.5μmの酸化セリウムを用いてポリッシュ研磨を行い、厚さが約0.635mmであり内周端面からはみ出した被膜が除去された実施例2のガラス基板を得た。
【0063】
(比較例2)
エッチング処理までは実施例1と同様に行って内周端面のRaが1.04μmであるガラス基板を得た。
次に、特開平11−328665号公報の実施例で用いられたと同じ有機タイプポリシラザンを含有するコート液をこの内周端面に塗布し焼成して平均膜厚が2μmである被膜を形成した。この有機タイプポリシラザンは、Rをアルキル基として−Si(R)H−NH−という一般式で表される構造単位から主としてなり、他に−Si(H)H−NH−という一般式で表される構造単位も有するものである。
このようにして被膜が形成された内周端面のRaは0.75μmであった。
その後、このガラス基板の表裏の主表面を平均粒径2.5μmの酸化セリウムを用いてポリッシュ研磨を行い、厚さが約0.635mmであり内周端面からはみ出した被膜が除去された実施例2のガラス基板を得た。
【0064】
(発塵性テスト)
実施例1、2および比較例1、2のガラス基板について、次のようにして発塵性テストを行った。結果を表に示す(単位:個/cm)。
ガラス基板を純水中に針金で吊るし、47kHz120Wの超音波を3分間印加し、パーティクルカウンターにて発塵量をカウントして、0.3μmサイズのパーティクルの単位表面積あたりの発生量を測定し、発塵性を評価した。
前記発生量は好ましくは100個/cm以下、より好ましくは90個/cm以下である。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
磁気ディスク用ガラス基板の製造に利用できる。また、磁気ディスクとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に円孔を有する円板状ガラス板の内周端面をエッチング処理しそのエッチング処理された内周端面にポリシラザン化合物を塗布し、焼成して前記内周端面に被膜を形成する工程を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、被膜が形成された内周端面の表面の算術平均粗さRaを0.5μm以下とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の上に記録層となるべき磁性層を含む複数の層が積層されている磁気ディスク。

【公開番号】特開2007−257778(P2007−257778A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82852(P2006−82852)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】