説明

磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法

【課題】真円度に優れた磁気ディスク用板状ガラス素材、及び磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造方法を提供する。
【解決手段】磁気ディスク用板状ガラス素材Gであって、溶融したガラスLGの塊を落下させる落下工程と、ゴブGGの落下経路の両側から、互いに対向する一対の型121,122の面でゴブGGを挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材Gを成形するプレス工程と、を有し、一対の型121,122の少なくとも一方は、ゴブGGの落下経路側が凹形状であることを特徴とする磁気ディスク用板状ガラス素材Gの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の主表面を有する磁気ディスク用板状ガラス素材、及び磁気ディスク用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッド(DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド)で磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板には、金属基板等に比べて塑性変形をしにくい性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられている。
【0003】
また、ハードディスク装置における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。例えば、磁性層における磁化方向を基板の面に対して垂直方向にする垂直磁気記録方式を用いて、磁気記録情報エリアの微細化が行われている。これにより、1枚のディスク基板における記憶容量を増大させることができる。しかも、記憶容量の一層の増大化のために、磁気ヘッドの磁気記録面からの浮上距離を極めて短くして磁気記録情報エリアを微細化することも行われている。このような磁気ディスクの基板においては、磁性層の磁化方向が基板面に対して略垂直方向に向くように、磁性層が平らに形成される。このために、ガラス基板の表面凹凸は可能な限り小さく作製されている。
また、磁気ヘッドの浮上距離が短いことによりヘッドクラッシュ障害やサーマルアスペリティ障害を引き起こし易い。これらの障害は磁気ディスク面上の微小な凹凸あるいはパーティクルによって発生するため、ガラス基板の主表面の他にガラス基板の端面の表面凹凸も可能な限り小さく作製されている。
【0004】
ところで、磁気ディスクに用いるガラス基板は、例えば、以下の方法で製造される。具体的には、当該方法では、受けゴブ形成型である下型上に、溶融ガラスからなるガラスゴブ(ガラス材の塊)が供給され、下型と対向ゴブ形成型である上型を使用してガラスゴブがプレス成形されて板状ガラス素材を作製した後、情報記録媒体用ガラス基板に加工される(特許文献1)。
【0005】
この方法では、下型上に溶融ガラスからなるガラスゴブを供給した後に上型用胴型の下面と下型用胴型の上面を当接させ、上型と上型用胴型との摺動面および下型と下型用胴型との摺動面を超えて外側に肉薄板状ガラス成形空間を形成し、さらに上型を下降してプレス成形を行い、プレス成形直後に上型を上昇する。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の元となる板状ガラス素材が成形される。この後、研削工程及び研磨工程を経て磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0006】
研削工程では、例えば、アルミナ系遊離砥粒を用いた研削が行われる。この工程では、粒子サイズが異なる遊離砥粒を用いて第1研削工程と第2研削工程が行われる。第2研削工程で用いる遊離砥粒の粒子サイズは第1研削工程で用いる遊離砥粒の粒子サイズに比べて小さく設定される。これにより、粗い研削と細かい研削をこの順番で行う。
研磨工程は、例えば、酸化セリウム等の遊離砥粒および硬質樹脂材ポリッシャ等を用いた第1研磨工程と、例えばコロイダルシリカおよび軟質樹脂材ポリッシャ等を用いた第2研磨工程とを含む。第1研磨工程で用いる砥粒の粒子サイズは、研削工程中の第2研削工程で用いる砥粒の粒子サイズに比べて小さい。さらに、第2研磨工程で用いる砥粒の粒子サイズは、第1研磨工程で用いる砥粒の粒子サイズに比べて小さい。
【0007】
以上のように、ガラス基板における表面加工では、第1研削工程、第2研削工程、第1研磨工程、第2研磨工程が、この順番に行われ、ガラス基板の表面粗さ等の表面品質が徐々によくなるように加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3709033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、板状ガラス素材を成形する際、ガラス素材が上型および下型の型表面に融着するのを防止するために型表面に離型剤を塗布するが、この離型剤を用いるために板状ガラス素材の主表面の表面粗さは大きい。また、上型および下型の表面温度差が大きく、ガラスコブ(ガラス素材の塊)が供給される下型は高温となる。この表面温度差は、成形された板状ガラス素材の厚さ方向およびこの板の面内で温度分布をつくるため、型から取り出されて冷却された板状ガラス素材の収縮量も板状ガラス素材の厚さ方向およびこの板の面内で分布を持つ。このため、板状ガラス素材はお椀状に反り易く、その結果、成形されたときの板状ガラス素材の平坦度は悪い。
【0010】
このような板状ガラス素材の平坦度は、研削(第1研削工程)により向上させることができる。例えば、平坦度の向上のために研削工程における取り代(削り量)を大きくする。しかし、研削工程における取り代を大きくすると、板状ガラス素材の表面に深いクラックが入るため、深いクラックが残留しないように、後工程である研磨工程においても取り代(研磨量)は必然的に大きくなる。しかし、遊離砥粒および樹脂ポリッシャを用いる研磨工程において取り代を大きくすると、板状ガラス素材の主表面の外周エッジ部近傍が丸く削られて、エッジ部の「だれの問題」が発生する。すなわち、板状ガラス素材の外周エッジ部近傍が丸く削られるため、この板状ガラス素材をガラス基板として用いて磁気ディスクを作製したとき、主表面上の外周エッジ部近傍の磁気ヘッドの浮上距離が、主表面上の別の部分における磁気ヘッドの浮上距離より大きくなる。また、外周エッジ部近傍が丸みを持った形状となるため、表面凹凸が発生する。この結果、外周エッジ部近傍において磁気ヘッドの浮上距離が不安定となり、記録及び読み出しの動作が正確にできなくなったり、磁気ヘッドと磁気ディスクが衝突して読み書きが不可能となることがある。これが「だれの問題」である。
また、研磨工程における取り代が大きくなるため、研磨工程は長時間を要する等により実用上好ましくない。
【0011】
そこで、本発明者はプレス成型後の板(ディスク)状ガラス素材の平坦度を向上すべく、「溶融したガラスの塊を落下させる落下工程と、前記塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で前記塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、対向する一対の主表面を有する板状ガラスに成形するプレス工程と」を有する方法を検討している。この方法では、離型剤を使用する必要がなく、また、1対の型の間に温度差が生じにくいため平坦度を良好にすることが可能である。
【0012】
しかし、本発明者が検討を重ねていく中で、上記の方法で製造すると、特に、溶融ガラスの粘度が低い場合に、製造されるディスク状のガラス素材の形状が、落下軸方向が他軸方向よりも長くなることが明らかとなってきた。このような不定形のガラスを磁気ディスク用ガラス基板として使用する場合には、例えば、スクライブ工程と呼ばれる工程にて、一方の主表面側から他方の主表面側にクラックを成長させることによりカッティングし、ディスク状に加工する必要がある。しかし、不定形のガラスは、特に面内の残留応力が不均一であるため、スクライブ工程により、クラックの成長する方向が不安定となり、ディスク状となったガラス基板の外周部に欠けが生じ、歩留まりが著しく低下するという問題が生じる。そこで、上記方法によりディスク状のガラス素材を製造する上で、形状を真円に近づける必要がでてきている。
【0013】
また、ディスク状のガラス素材の形状を真円に近づけることにより外形の加工量が少なくなるため、無駄となる素材も少なくなり、コストの削減にも繋がる。
更に、ディスク状のガラス素材の真円度が例えば10μm以下であると、外周部を加工する必要がなくなるため、外周部からのガラス成分の溶出(例えばアルカリ溶出)を抑制することができる。
【0014】
そこで、本発明は、真円度に優れた磁気ディスク用板状ガラス素材、及び磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点は、磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法であって、溶融したガラスの塊を落下させる落下工程と、前記塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で前記塊を挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、前記板状ガラス素材を加工する加工工程と、を有し、前記一対の型の少なくとも一方は、前記塊の落下経路側が凹形状であることを特徴とする。
【0016】
また、前記塊の落下経路側が凹形状である型は、熱膨張係数の異なる物質からなる複数の板材または薄膜を密着させて形成されており、かつ、前記一対の型が前記塊をプレスすることにより凹形状の前記型が平坦となるように、前記複数の板材または薄膜のうち前記塊と接触する板材または薄膜の熱膨張係数が最も大きくなっていることが好ましい。
【0017】
また、前記ガラスの転移温度Tgは600℃以上であることが好ましい。
【0018】
また、前記プレス工程時において、前記塊の粘度は、700dPa・s以下であることが好ましい。
【0019】
また、前記塊と接触する部分の前記一対の型の温度は、前記ガラスの歪点以下の温度であることが好ましい。
【0020】
また、前記ガラスは、酸化物基準に換算した際に、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、及び、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、有する組成からなることが好ましい。
【0021】
また、前記一対の型が第1の板と第2の板とを貼り合わせてかつ第1の板が前記塊と接触するように配置され、前記第1の板の熱膨張係数は、10×10−6/Kより大きく、前記第2の板の熱膨張係数は、10×10−6/Kより小さいことが好ましい。
【0022】
また、前記第1の板は、Al合金(7075)、SUS304、銅、ステライト(Co合金)、FCD(球状黒鉛鋳鉄)、SDK61(合金工具鋼)、ニッケル(ハステロイ)、またはSS41(軟鋼)であり、前記第2の板は、コルモノイ(Ni合金)、チタン、またはVM40(超硬)であることが好ましい。
【0023】
本発明の第2の観点は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、上記磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法により製造された板状ガラス素材を加工する加工工程、を備え、前記加工工程は、固定砥粒を用いて前記主表面を研削する研削工程と、前記研削工程の後に、遊離砥粒を用いて前記主表面を研磨する研磨工程と、を有する。
【0024】
前記加工工程は化学強化を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、真円度に優れた磁気ディスク用板状ガラス素材、及び磁気ディスク用ガラス基板を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクの一例を示す概略構成図であり、(b)は、磁気ディスクの断面図であり、(c)は、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面を浮上する状態を示す図である。
【図2】本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
【図3】プレス成形において用いられる装置の平面図である。
【図4】(a)は、溶融ガラスと切断ユニットが接触する前の側面図であり、(b)は、切断ユニットが溶融ガラスを切り出した後の側面図であり、(c)は、プレスユニットが溶融ガラスの塊をプレス成形し始めた状態の側面図であり、(d)は、プレスユニットが溶融ガラスの塊をプレス成形している状態の側面図である。
【図5】(a)は、固定砥粒による研削に用いる装置の全体図であり、(b)は、(a)に示す装置に用いられるキャリヤを説明する図である。
【図6】板状ガラス素材を研削するときの状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1の実施形態>
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
(磁気ディスクおよび磁気ディスク用ガラス基板)
まず、図1を参照して、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクについて説明する。図1(a)は、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクの一例を示す概略構成図である。図1(b)は、磁気ディスクの概略断面図である。図1(c)は、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面を浮上する状態を示す図である。
【0028】
図1(a)に示されるように、磁気ディスク1はリング状であり、回転軸を中心として回転する。図1(b)に示されるように、磁気ディスク1は、ガラス基板2と、少なくとも磁性層3A,3Bと、を備える。
なお、磁性層3A,3B以外には、例えば、図示されない付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層等が成膜される。付着層には、例えばCr合金等が用いられる。付着層は、ガラス基板2との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられる。非磁性下地層には、例えばRu合金等が用いられる。垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。保護層には、例えば水素化カーボンからなる材料が用いられる。潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
【0029】
磁気ディスク1について、より具体的な例を用いて説明する。本実施形態では、スパッタリング装置を用いて、ガラス基板2の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、Ruの下地層、CoCrPt−SiO2・TiO2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜される。さらに、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層が成膜される。
【0030】
磁気ディスク1は、ハードディスク装置で用いられる場合、例えば7200rpmの回転速度で回転軸を中心として回転する。図1(c)に示されるように、ハードディスク装置の磁気ヘッド4A,4Bのそれぞれは、磁気ディスク1の高速回転に伴って、磁気ディスク1の表面から距離Hだけ浮上する。磁気ヘッド4A,4Bが浮上する距離Hは、例えば、5nmである。この状態で、磁気ヘッド4A,4Bは、磁性層に情報を記録し、あるいは読み出しを行う。この磁気ヘッド4A,4Bの浮上によって、磁気ディスク1に対して摺動することなく、しかも近距離で磁性層に対して記録あるいは読み出しを行うことにより、磁気記録情報エリアの微細化と磁気記録の高密度化を実現する。
このとき、磁気ディスク1のガラス基板2の中央部から外周エッジ部5まで、目標とする表面精度で正確に加工され、距離H=5nmを保った状態で磁気ヘッド4A,4Bを正確に動作させることができる。
【0031】
このような磁気ディスク1に用いられるガラス基板2の主表面の表面凹凸は、平坦度が例えば4μm以下であり、表面の粗さが例えば0.2nm以下である。最終製品としての磁気ディスク用基板に求められる目標平坦度は、例えば4μm以下である。
【0032】
平坦度は、例えば、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定することができる。
主表面の粗さ(Ra)は、例えば、エスアイアイナノテクノロジーズ社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)を用いて、1μm×1μmの範囲を512×256ピクセルの解像度で測定したときに得られる表面粗さの算術平均Raとすることができる。
【0033】
ガラス基板2の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
アルミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、及び、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%を用いることが好ましい。また、アミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiO2を57〜74%、ZnO2を0〜2.8%、Al23を3〜15%、LiOを7〜16%、Na2Oを4〜14%、を主成分として含有する、化学強化用ガラス材を用いることもできる。
【0034】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、図2を参照して、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローを説明する。図2は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
図2に示されるように、まず、板状ガラス素材をプレス成形により作製する(ステップS10)。次に、成形された板状ガラス素材をスクライブする(ステップS20)。次に、スクライブされた板状ガラス素材を形状加工する(ステップS30)。次に、板状ガラス素材に対して、固定砥粒による研削を施す(ステップS40)。次に、板状ガラス素材の端面研磨を行う(ステップS50)。次に、板状ガラス素材の主表面に、第1研磨を施す(ステップS60)。次に、第1研磨後の板状ガラス素材に化学強化を施す(ステップS70)。次に、化学強化された板状ガラス素材に第2研磨を施す(ステップS80)。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0035】
(a)プレス成形工程
まず、図3を参照して、プレス成形工程(ステップS10)について説明する。図3は、プレス成形において用いられる装置の平面図である。図3に示されるように、装置101は、4組のプレスユニット120,130,140,150と、切断ユニット160と、を備える。
切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から溶融ガラスが流出する経路上に設けられる。切断ユニット160によって溶融ガラスが切断されることにより、溶融ガラスの塊が鉛直方向下向きに落下する。プレスユニット120,130,140,150は、塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形する。
図3に示される例では、4組のプレスユニット120,130,140,150は、溶融ガラス流出口111を中心として90度おきに設けられている。
【0036】
ここで、溶融したガラスの粘度は、成形時(1250℃以上)において、20〜2000dPa・sである。20dPa・sより粘度が小さいと、粘性が低すぎるため板状ガラス素材に成形するのが困難になる。一方、2000dPa・sより粘度が大きいと、短時間で所望の大きさに成形することが困難となる。特に、700dPa・s以下、より好ましくは500dPa・s以下の粘度のガラスに対して、本発明をより好適に適用することができる。また、溶融したガラスの転移温度Tgは600℃以上である。
【0037】
プレスユニット120,130,140,150の各々は、図示しない移動機構によって駆動されて、溶融ガラス流出口111に対して進退可能となっている。すなわち、溶融ガラス流出口111の真下に位置するキャッチ位置(図3においてプレスユニット140が実線で描画されている位置)と、溶融ガラス流出口111から離れた退避位置(図3において、プレスユニット120,130及び150が実線で描画されている位置及び、プレスユニット140が破線で描画されている位置)との間で移動可能となっている。
【0038】
切断ユニット160は、キャッチ位置と溶融ガラス流出口111との間の溶融ガラスの経路上に設けられる。切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から流出される溶融ガラスを適量に切り出して、溶融ガラスの塊(以降、ゴブともいう)を形成する。切断ユニット160は、第1切断刃161と第2切断刃162とを有する。第1切断刃161と第2切断刃162とは、一定のタイミングで溶融ガラスの経路上で交差するよう駆動される。第1切断刃161と第2切断刃162とが交差したとき、溶融ガラスが切り出されてゴブが得られる。得られたゴブは、キャッチ位置に向かって鉛直方向下向きに落下する。
【0039】
プレスユニット120は、第1の型121と、第2の型122と、第1駆動部123と、第2駆動部124と、を有する。
第1の型121と第2の型122の各々は、ゴブをプレス成形するための面を有する部材である。この2つの面は、互いに対向するよう配置されている。第1の型121、第2の型122の詳細な構成は、後述する。
【0040】
第1駆動部123は、第1の型121を第2の型122に対して進退させる。一方、第2駆動部124は、第2の型122を第1の型121に対して進退させる。第1駆動部123及び第2駆動部124は、第1の型121の面と第2の型122の面とを急速に近接させる機構を有する。第1駆動部123及び第2駆動部124は、例えば、エアシリンダやソレノイドとコイルばねを組み合わせた機構である。
なお、プレスユニット130,140及び150の構造は、プレスユニット120と同様であるため、説明は省略する。
【0041】
プレスユニットの各々は、キャッチ位置に移動した後、第1駆動部と第2駆動部の駆動により、落下するゴブを第1の型と第2の型の問で挟み込んで所定の厚さに成形すると共に急速に冷却し、円形状の板状ガラス素材Gを作製する。その後、プレスユニットは退避位置に移動し、第1の型と第2の型を引き離し、成形された板状ガラス素材Gを落下させる。
【0042】
プレスユニット120,130,140,150の退避位置の下には、それぞれ、第1コンベア171、第2コンベア172、第3コンベア173、第4コンベア174が設けられている。第1〜第4コンベア171〜174の各々は、対応する各プレスユニットから落下する板状ガラス素材Gを受け止めて図示しない次工程の装置に板状ガラス素材Gを搬送する。
【0043】
本実施形態では、プレスユニット120,130,140及び150が、順番にキャッチ位置に移動して、ゴブを挟み込んで退避位置に移動するよう構成されている。そのため、各プレスユニットでの板状ガラス素材Gの冷却を待たずに、連続的に板状ガラス素材Gの成形を行うことができる。
なお、1つのプレスユニット120のみを用いて、連続的にゴブを挟み込んで板状ガラス素材Gの成形を行うこともできる。この場合、第1の型121と第2の型122は、ゴブGをプレス成形した直後に開放され、次に落下する溶融ガラスの塊をプレス成形する。
【0044】
ここで、図4に示される側面図を参照して、本実施形態のプレス成形工程について説明する。図4(a)は、溶融ガラスLと切断ユニット160が接触する前の側面図である。図4(b)は、切断ユニット160が溶融ガラスLを切り出した後の側面図である。図4(c)は、プレスユニット120が溶融ガラスの塊Gをプレス成形し始めた状態の側面図である。図4(d)は、プレスユニット120が溶融ガラスの塊Gをプレス成形している状態の側面図である。
【0045】
第1の型121、第2の型122は、それぞれバイメタルによって形成されている。具体的には、図4(a)に示されるように、第1の型121は、第1金属板121aと第2金属板121bとを貼り合わせて形成されている。また、第2の型122は、第1金属板122aと第2金属板122bとを貼り合わせて形成されている。第1金属板と第2金属板は、溶接により貼り合わせられることが好ましい。
ここで、第1金属板121a、122aの熱膨張係数は、第2金属板121b、122bの熱膨張係数より大きい。第1金属板121a、122aの熱膨張係数は、例えば、10×10−6/Kより大きい。また、第2金属板121b、122bの熱膨張係数は、例えば、10×10−6/Kより小さい。
第1金属板121a、122aには、例えば、Al合金(7075)、SUS304、銅、ステライト(Co合金)、FCD(球状黒鉛鋳鉄)、SDK61(合金工具鋼)、ニッケル(ハステロイ)、SS41(軟鋼)が用いられる。また、第2金属板121b、122bには、例えば、コルモノイ(Ni合金)、チタン、VM40(超硬)が用いられる。
【0046】
なお、第1の型121、第2の型122のプレス面に、熱膨張係数の異なる複数の薄膜が密着されて形成されてもよい。また、第1の型121、第2の型122はセラミックスによって形成されるものでもよい。
【0047】
第1金属板121a、122aは、第2金属板121b、122bよりもゴブGの落下経路側に配置されている。
また、プレスユニット120がゴブGと接触する前の状態において、第1の型121及び第2の型122は、それぞれ、ゴブGの落下経路側が凹形状となるお椀形である。例えば、この凹形状の面はゆるやかで連続的な曲面で形成された球面であって、金型外径を100mmとしたならば、中心の最も凹んだ部分の凹み量は例えば10μmである。但し、この寸法例は単なる例示に過ぎず、最終的に板状ガラス素材が平坦となるように、金型の材料や板厚や外径、上記凹み量等を設定すればよい。
第1の型121、第2の型122は、ゴブGと接触する前にはゴブGの落下経路側が凹形状となるような温度に、不図示の温度調節機構によって温度が制御されている。なお、第1の型121、第2の型122は、例えば、アール加工によって凹形状に形成される。
【0048】
図4(a)に示されるように、溶融ガラスLは、溶融ガラス流出口111から連続的に流出される。図4(b)に示されるように、所定のタイミングで切断ユニット160を駆動し、第1切断刃161と第2切断刃162によって、溶融ガラスLを切断する。これにより、切断された溶融ガラスは、その表面張力によって、概略球状のゴブGとなる。図4(b)に示される例では、切断ユニット160を駆動する度に、例えば、半径10mm程度のゴブGが形成されるように、溶融ガラスLの時間当たりの流出量や切断ユニット160の駆動間隔が調整される。
【0049】
形成されたゴブGは、プレスユニット120の第1の型121と第2の型122の隙間に向かって落下する。溶融ガラスの粘度が低い場合(例えば、700dPa・s以下)、第1切断刃161と第2切断刃162によって切断したゴブGは、例えば、鉛直方向に延びた形状になりやすい。
【0050】
ゴブGが第1の型121と第2の型122の隙間に入るタイミングで、第1の型121と第2の型122とが互いに近づくように、第1駆動部123と第2駆動部124が駆動される。これにより、図4(c)に示されるように、凹形状の第1の型121と第2の型122の底付近でゴブGの中心と接触する。この際、第1の型121と第2の型122は凹形状であるためゴブGは鉛直方向に広がりにくくなり、第1の型121と第2の型122との間に比較的スペースのある水平方向に広がりやすくなる。そのため、プレス時にゴブGが鉛直方向に延びた形状になっていたとしても、ゴブGの真円度が良くなるようにゴブGが広がる。
なお、凹形状の第1の型121と第2の型122の底付近がゴブGの中心と接触するように、第1駆動部123、第2駆動部124は、それぞれ第1の型121、第2の型122を駆動させるタイミングを制御することができる。
【0051】
第1の型121、第2の型122にゴブGが接触することにより、ゴブGの熱が第1の型121、第2の型122に伝わり、第1の型121、第2の型122の温度が上昇する。第1金属板121a、122aの熱膨張係数は、第2金属板121b、122bの熱膨張係数より大きいため、第1の型121、第2の型122の温度が上昇すると、第1金属板121a、122aは第2金属板121b、122bに比べて大きく変形する。その結果、ゴブGの落下経路側が凹形状であった第1の型121、第2の型122は、図4(d)に示されるように、実質的に平面形状となる。このとき、第1の型121の内面(ゴブGと接触する面)と第2の型122の内面(ゴブGと接触する面)とが、微小な間隔にて近接した状態になり、第1の型121の内面と第2の型122の内面の間に挟み込まれたゴブGが、薄板状に成形される。
【0052】
なお、第1の型121の内面と第2の型122の内面の間隔を一定に維持するために、第2の型122の内面には、突起状のスペーサ122cが設けられる。第2の型のスペーサ122cが第1の型121の内面に当接することによって、第1の型121の内面と第2の型122の内面の間隔は一定に維持されて、板状の空間が作られる。
また、本実施形態では第2の型122の内面に突起状のスペーサ122cが設けられる例について説明したが、第1の型121や第2の型122とは独立してスペーサが設けられてもよい。また、第1の型121と第2の型122とが所定の距離以上接近しないように第1駆動部123、第2駆動部124が第1の型121、第2の型122をそれぞれ制御してもよい。
【0053】
第1の型121及び第2の型122には、図示しない温度調節機構が設けられている。第1の型121及び第2の型122の温度は、温度調節機構により、溶融ガラスLの歪点以下の温度に調整されていることが好ましい。
【0054】
ゴブGが第1の型121の内面又は第2の型122の内面に接触してから、第1の型121と第2の型122とがゴブGを完全に閉じ込める状態になるまでの時間は約0.06秒と極めて短い。このため、ゴブGは極めて短時間の内に第1の型121の内面及び第2の型122の内面に沿って広がり略円形状に成形され、さらに、急激に冷却されて非晶質のガラスとして固化する。これによって、板状ガラス素材Gが作製される。
なお、本実施形態において成形される板状ガラス素材Gは、例えば、直径75〜80mm、厚さ約1mmの円形状の板である。
【0055】
第1の型121と第2の型122が閉じられた後、プレスユニット120は速やかに退避位置に移動する。続いて、他のプレスユニット130がキャッチ位置に移動し、このプレスユニット130によって、ゴブGのプレスが行われる。
【0056】
プレスユニット120が退避位置に移動した後、板状ガラス素材Gが十分に冷却されるまで(例えば、屈服点よりも低い温度となるまで)、第1の型121と第2の型122は閉じた状態を維特する。この後、第1駆動部123及び第2駆動部124が駆動されて第1の型121と第2の型122が離間し、板状ガラス素材Gは、プレスユニット120を離れて落下し、下部にあるコンベア171に受け止められる(図3参照)。
【0057】
ここで、一般にゴブGをプレス成形する場合、ゴブGをプレス成形する型の中央から周辺に向かってゴブGが広がりながらプレスされる。ゴブGの粘度が低い場合、ゴブGが鉛直方向に延びた形状になりやすいため、作製される板状ガラス素材Gは、水平方向に比べて鉛直方向の長さが長い楕円状の形状になりやすい。
これに対し、本実施形態では、第1の型121、第2の型122が、それぞれ、ゴブGの落下経路側が凹形状であるため、ゴブGの粘度が低い場合においても、ゴブGが鉛直方向に広がりにくくなる。これにより、作製される板状ガラス素材Gの真円度を向上させることができる。板状ガラス素材Gの真円度を向上させることにより、後述するチャンファリング工程における取り代を小さくすることができ、研削工程や研磨工程においてクラックが発生するのを抑制することができる。
【0058】
(b)スクライブ工程
次に、スクライブ工程(ステップS20)について説明する。プレス成形工程の後、スクライブ工程では、成形された板状ガラス素材Gに対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形された板状ガラス素材Gを所定のサイズのリング形状とするために、板状ガラス素材Gの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされた板状ガラス素材Gは、部分的に加熱され、板状ガラス素材Gの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、リング形状の板状ガラス素材となる。
なお、板状ガラス素材をスクライブを必要としない程度の外径、真円度とし、このような板状ガラス素材に対してコアドリル等を用いて円孔を形成することによりリング形状とすることもできる。
【0059】
(c)形状加工工程(チャンファリング工程)
次に、形状加工工程(ステップS30)について説明する。形状加工工程では、スクライブされた板状ガラス素材Gの形状加工が行われる。形状加工は、チャンファリング(外周端部および内周端部の面取り)を含む。
リング形状の板状ガラス素材Gの外周端部および内周端部に、ダイヤモンド砥石により
面取りが施される。
【0060】
(d)固定砥粒による研削工程
次に、固定砥粒による研削工程(ステップS40)について説明する。固定砥粒による研削工程では、リング形状の板状ガラス素材Gに対して、固定砥粒による研削が施される。固定砥粒による研削による取り代は、例えば、数μm〜100μm程度である。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。
【0061】
ここで、図5及び図6を参照して、板状ガラス素材Gを研削する工程について説明する。図5(a)は、固定砥粒による研削に用いる装置の全体図である。図5(b)は、この装置に用いられるキャリヤを示す図である。図6は、板状ガラス素材Gの研削中の状態を説明する図である。
図5(a)及び図6に示されるように、装置400は、下定盤402と、上定盤404と、インターナルギヤ406と、キャリヤ408と、ダイヤモンドシート410と、太陽ギヤ412と、インターナルギヤ414と、容器416と、ポンプ420と、を有する。また、容器416は、クーラント418を有する。
【0062】
装置400は、下定盤402と上定盤404との間に、インターナルギヤ406を上下方向から挟む。インターナルギヤ406内には、研削時に複数のキャリヤ408が保持される。図5(b)に示される例では、インターナルギヤ406は5つのキャリヤ408を保持する。
下定盤402および上定磐404に平面的に接着したダイヤモンドシート410の面が研削面となる。すなわち、板状ガラス素材Gは、ダイヤモンドシート410を用いた固定砥粒による研削が行われる。
【0063】
研削すべき複数の板状ガラス素材Gは、図5(b)に示されるように、各キャリヤ408に設けられた円形状の孔に配置されて保持される。板状ガラス素材Gの一対の主表面は、研削時、下定盤402および上定盤404に挟まれてダイヤモンドシート410に当接する。
一方、板状ガラス素材Gは、下定盤402の上で、外周にギヤ409を有するキャリヤ408に保持される。このキャリヤ408は、下定盤402に設けられた太陽ギヤ412、インターナルギヤ414と噛合する。太陽ギヤ412を矢印方向に回転させることにより、各キャリヤ408はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。これにより、板状ガラス素材Gは、ダイヤモンドシート410を用いて研削が行われる。
【0064】
図5(a)に示されるように、装置400は、容器416内のクーラント418をポンプ420によって上定盤404内に供給し、下定盤402からクーラント418を回収し、容器416に戻すことにより、循環させる。このとき、クーラント418は、研削中に生じる切子を、研削面から除去する。具体的には、装置400は、クーラント418を循環させる際に、下定盤402内に設けられたフィルタ422で濾過し、そのフィルタ422に切子を滞留させる。
【0065】
研削装置400では、ダイヤモンドシート410を用いて研削を行うが、ダイヤモンドシート410の代わりに、ダイヤモンド粒子を設けた固定砥粒を用いることができる。例えば、複数のダイヤモンド粒子を樹脂で結合することによりペレット状にしたものを固定砥粒による研削に用いることができる。
【0066】
(e)端面研磨工程
次に、端面研磨工程(ステップS50)について説明する。固定砥粒による研削後、端面研磨工程では、板状ガラス素材Gの端面研磨が行われる。
端面研磨では、板状ガラス素材Gの内周側端面及び外周側単面にブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、板状ガラス素材Gの端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0067】
(f)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、第1研磨工程(ステップS60)について説明する。端面研磨工程の後、第1研磨工程では、板状ガラス素材Gの主表面に第1研磨が施される。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。
第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的とする。第1研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)で用いた装置400を用いる。固定砥粒による研削と異なり、第1研磨工程では、固定砥粒の代わりにスラリーに混濁した遊離砥粒を用いる。また、第1研磨工程では、クーラントは用いない。また、第1研磨工程では、ダイヤモンドシート410の代わりに樹脂ポリッシャが用いられる。
第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させた酸化セリウム等の微粒子(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。
【0068】
(g)化学強化工程
次に、化学強化工程(ステップS70)について説明する。第1研磨工程の後、化学強化工程では、第1研磨後の板状ガラス素材Gが化学強化される。
化学強化液として、例えば、硝酸カリウム(60%)と硫酸ナトリウム(40%)の混合液等を用いられる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄した板状ガラス素材Gが、例えば200℃〜300℃に予熱された後、板状ガラス素材Gが化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、板状ガラス素材Gの両主表面全体が化学強化されるように、複数の板状ガラス素材Gが端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0069】
このように、板状ガラス素材Gを化学強化液に浸漬することによって、板状ガラス素材Gの表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、板状ガラス素材Gが強化される。
なお、化学強化処理された板状ガラス素材Gは洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄される。
【0070】
(h)第2研磨(最終研磨)工程
次に、第2研磨工程(ステップS80)について説明する。第2研磨工程では、化学強化されて十分に洗浄された板状ガラス素材Gに第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。
第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)および第1研磨(ステップS60)で用いた装置400を用いる。第2研磨では、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが第1研磨と異なる。また、第2研磨では、樹脂ポリッシャの硬度が第1研磨とは異なる。
【0071】
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径0.1μm程度)が用いられる。
こうして、研磨された板状ガラス素材Gは、洗浄される。洗浄では、中性洗剤、純水、IPAが用いられる。
第2研磨により、主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2nm以下
の表面凹凸を有する、磁気ディスク用ガラス基板2が得られる。
この後、磁気ディスク用ガラス基板2に、図1に示されるように、磁性層層3A,3Bが成膜されて、磁気ディスク1が作製される。
【0072】
以上が、図2に示されるフローの説明である。図2に示されるフローでは、スクライブ(ステップS20)及び形状加工(ステップS30)は、固定砥粒による研削(ステップS40)と第1研磨(ステップS60)の間に行われる。また、化学強化(ステップS70)は、第1研磨(ステップS60)と第2研磨(ステップS80)との間に行われる。
しかし、これらの工程の順番は、特に限定されるものではない。固定砥粒による研削(ステップS40)の後、第1研磨(ステップS60)、その後第2研磨(ステップS80)が行われる限り、スクライブ(ステップS20)、形状加工(ステップS30)および化学強化(ステップS70)の各工程は、適宜配置することができる。
【0073】
本実施形態では、プレス成形工程において、第1の型、第2の型がそれぞれ、ゴブGの落下経路側が凹形状であるため、ゴブGの粘度が低い場合においても、ゴブGが鉛直方向に広がりにくくなる。また、ゴブGが周辺に広がりながら第1の型、第2の型の温度が上昇することにより、第1の型、第2の型は実質的に平面形状となる。そのため、作製される板状ガラス素材Gの真円度を向上させることができる。その結果、チャンファリング工程における取り代を低減し、研削工程や研磨工程においてクラックの発生を抑制することができる。
【0074】
(変形例)
上述した実施形態では、第1の型121、第2の型122がそれぞれバイメタルによって形成される例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1の型121、第2の型122のうち一方のみが上述した実施形態と同様にバイメタルによって形成され、他方はバイメタルではない型によって形成されるものを用いることもできる。
【0075】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0076】
1 磁気ディスク
2 ガラス基板
3A,3B 磁性層
4A,4B 磁気ヘッド
5 外周エッジ部
101 装置
111 溶融ガラス流出口
120、130、140,150 プレスユニット
121 第1の型
121a 第1金属板
121b 第2金属板
122 第2の型
122a 第1金属板
122b 第2金属板
122c スペーサ
123 第1駆動部
124 第2駆動部
160 切断ユニット
161 第1切断刃
162 第2切断刃
171 第1コンベア
172 第2コンベア
173 第3コンベア
174 第4コンベア
402 下定盤
404 上定盤
406 インターナルギヤ
408 キャリヤ
409 ギヤ
410 ダイヤモンドシート
412 太陽ギヤ
414 インターナルギヤ
416 容器
418 クーラント
420 ポンプ
422 フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法であって、
溶融したガラスの塊を落下させる落下工程と、
前記塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で前記塊を挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形するプレス工程と、を有し、
前記一対の型の少なくとも一方は、前記塊の落下経路側が凹形状であることを特徴とする磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項2】
前記塊の落下経路側が凹形状である型は、熱膨張係数の異なる物質からなる複数の板材または薄膜を密着させて形成されており、かつ、前記一対の型が前記塊をプレスすることにより凹形状の前記型が平坦となるように、前記複数の板材または薄膜のうち前記塊と接触する板材または薄膜の熱膨張係数が最も大きくなっていることを特徴とする、請求項1に記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項3】
前記ガラスの転移温度Tgは600℃以上である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項4】
前記プレス工程時において、前記塊の粘度は、700dPa・s以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項5】
前記塊と接触する部分の前記一対の型の温度は、前記ガラスの歪点以下の温度である、請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項6】
前記ガラスは、酸化物基準に換算した際に、モル%表示で、
SiOを50〜75%、
Alを1〜15%、
LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、及び、
ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、
有する組成からなる、請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項7】
前記一対の型が第1の板と第2の板とを貼り合わせてかつ第1の板が前記塊と接触するように配置され、
前記第1の板の熱膨張係数は、10×10−6/Kより大きく、前記第2の板の熱膨張係数は、10×10−6/Kより小さい、請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項8】
前記第1の板は、Al合金(7075)、SUS304、銅、ステライト(Co合金)、FCD(球状黒鉛鋳鉄)、SDK61(合金工具鋼)、ニッケル(ハステロイ)、またはSS41(軟鋼)であり、前記第2の板は、コルモノイ(Ni合金)、チタン、またはVM40(超硬)である、請求項7に記載の磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの磁気ディスク用板状ガラス素材の製造方法により製造された板状ガラス素材を加工する加工工程、を備え、
前記加工工程は、
固定砥粒を用いて前記主表面を研削する研削工程と、
前記研削工程の後に、遊離砥粒を用いて前記主表面を研磨する研磨工程と、
を有する、請求項1乃至8のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記加工工程は化学強化を含む、請求項9に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214375(P2012−214375A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−81834(P2012−81834)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】