説明

磁気ディスク用潤滑剤及び磁気ディスク

【課題】熱アシスト磁気記録方式の磁気記録装置に搭載する磁気ディスクに好適に用いられる耐熱性に優れた磁気ディスク用潤滑剤及びこの潤滑剤を含有する潤滑層を備えた磁気ディスクを提供する。
【解決手段】構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が連結基を介して結合している化合物を含有する磁気ディスク用潤滑剤である。上記連結基は、脂肪族基、ホスファゼン環である。基板上に少なくとも磁気記録層と保護層と潤滑層を備える磁気ディスクにおいて、上記潤滑層は上記磁気ディスク用潤滑剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱アシスト磁気記録方式の磁気記録装置に搭載する磁気ディスクに好適に用いられる磁気ディスク用潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたハードディスクドライブ等の磁気記録装置の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、ハードディスクドライブ等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。ハードディスクドライブ等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決する手段の一つとして、垂直磁気記録方式用の磁気記録媒体が知られている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されており、垂直磁気記録方式は面内磁気記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化にとって好適である。
【0004】
しかしながら、情報記録容量の増加の要求は益々高まる一方であり、垂直磁気記録方式による情報記録密度を上回る超高記録密度を達成できるような記録方式の出現が望まれている。
【0005】
その1つの手段として、熱アシスト磁気記録(Thermally Assisted Magnetic Recording)が注目されている。この熱アシスト磁気記録は云わば磁気記録方式と光記録方式を組合わせた記録方式であり、記録媒体に対して光照射することにより熱エネルギーを与えて磁気的に記録した後、急冷して記録媒体の保磁力を大きくして保存する。再生は室温で磁気的に行う。この熱アシスト磁気記録方式によれば、従来の磁気記録方式では記録できないような熱揺らぎ耐性に優れた高保磁力媒体に対して記録再生が可能となるため、良好な熱安定性を保ちながら磁性結晶粒子を微細化できるので、従来の垂直磁気記録方式による情報記録密度を上回る超高記録密度を達成でき、かつ高記録密度時のS/N比の向上が期待されている。
【0006】
ところで、現状の磁気記録方式に使用されている磁気ディスクは、磁気ディスクの耐久性、信頼性を確保するために、基板上に形成された磁気記録層の上に、保護層と潤滑層を設けている。特に最表面に用いられる潤滑層は、長期安定性、化学物質耐性、摩擦特性、耐熱特性等の様々な特性が求められる。
【0007】
現状の磁気ディスクにおいても、たとえば10nm以下の低浮上量においてもフライスティクション障害や腐食障害などが防止できる耐熱性に優れた潤滑層を備えた磁気ディスクや、温度特性が良好な潤滑層を備え、広範囲な温度条件で安定した動作を示す磁気ディスクの提供が課題となっており、とりわけ潤滑層に用いられる潤滑剤の耐熱特性の向上は急務となっている。
【0008】
たとえば、特開2000−311332号公報(特許文献1)には、低浮上型磁気ヘッドを用いても潤滑剤を分解することなく、潤滑特性、CSS特性を向上させるような環状トリフォスファゼン系潤滑剤とパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を組み合わせた潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が開示されている。また、特開2003−132520号公報(特許文献2)には、パーフルオロポリエーテル主鎖の両末端あるいは一方の末端にフォスファゼン環を有するフォスファゼン系潤滑剤を塗布した磁気ディスク媒体が開示されている。さらに、特開2004−152460号公報(特許文献3)には、末端基にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物と、末端基に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を組み合わせた潤滑剤を用いて、極低浮上においても安定して動作し、マイグレーションを抑制し得る付着性の高い潤滑層を備えた磁気ディスクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−311332号公報
【特許文献2】特開2003−132520号公報
【特許文献3】特開2004−152460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の各特許文献に開示されている従来のホスファゼン系化合物のような耐熱性を有する材料を用いることにより、潤滑剤の耐熱温度を例えば最大300℃程度までは高めることが可能であり、現在の磁気ディスクの潤滑層に要求される耐熱性を従来よりも向上させることが可能である。
【0011】
しかしながら、熱アシスト磁気記録方式の場合、特に高密度記録が可能な光ドミナント記録方式では、急峻な磁気特性の変化を利用するのでキュリー温度付近で記録するため、キュリー温度と常温との間で急加熱と急冷却を繰り返すことになる。そのため、熱アシスト磁気記録方式の磁気ディスクの潤滑層に用いる潤滑剤は、現在の磁気ディスクの潤滑層に要求される耐熱性をさらに上回る耐熱性が要求される。このような熱アシスト磁気記録方式における潤滑剤の耐熱温度としては、少なくとも600〜700K(330〜500℃)程度は必要であると考えられている。従って、従来の潤滑剤をはるかに上回る耐熱性の向上が求められている。
【0012】
本発明は、このような事情のもとで、その目的とするところは、第1に、熱アシスト磁気記録方式の磁気記録装置に搭載する磁気ディスクに好適に用いられる耐熱温度の非常に高い耐熱性に優れた磁気ディスク用潤滑剤を提供することであり、第2に、このような潤滑剤を含有する潤滑層を備え、耐熱性の非常に優れた磁気ディスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意研究の結果、以下の発明により前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が連結基を介して結合している化合物を含有することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤である。
【0014】
(構成2)前記連結基は、脂肪族基であることを特徴とする構成1に記載の磁気ディスク用潤滑剤である。
(構成3)前記脂肪族基は、構造中に少なくとも2個のヒドロキシル基を有することを特徴とする構成2に記載の磁気ディスク用潤滑剤である。
【0015】
(構成4)前記連結基は、ホスファゼン環からなる基であることを特徴とする構成1に記載の磁気ディスク用潤滑剤である。
(構成5)前記パーフルオロポリエーテル基は、その構造中に、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有することを特徴とする構成1乃至4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用潤滑剤である。
【0016】
(構成6)前記化合物の数平均分子量(Mn)が1000〜10000の範囲であることを特徴とする構成1乃至5のいずれか一項に記載の磁気ディスク用潤滑剤である。
(構成7)基板上に少なくとも磁気記録層と保護層と潤滑層を備える磁気ディスクであって、前記潤滑層は、構成1乃至6のいずれか一項に記載の磁気ディスク用潤滑剤を含有することを特徴とする磁気ディスクである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が連結基を介して結合している化合物を含有する磁気ディスク用潤滑剤を用いることにより、熱アシスト磁気記録方式の磁気記録装置に搭載する磁気ディスクに好適に用いられる耐熱温度の非常に高い耐熱性に優れた磁気ディスク用潤滑剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、上記磁気ディスク用潤滑剤を用いて潤滑層を形成することにより、熱アシスト磁気記録方式の磁気記録装置に搭載する磁気ディスクとして好適な耐熱性の非常に優れた磁気ディスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の各実施例及び各比較例の潤滑剤の熱分解特性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
本発明に係る磁気ディスク用潤滑剤は、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が連結基を介して結合している化合物(以下「本発明の潤滑剤化合物」と云う。)を含有することを特徴としている。
本発明の潤滑剤化合物としては、具体的には、たとえば以下に説明する実施の形態1乃至3に係る潤滑剤化合物が好ましく挙げられる。但し、本発明の潤滑剤化合物は、以下の実施の形態1乃至3に係る潤滑剤化合物に限定する趣旨ではないことは勿論である。
【0021】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る潤滑剤化合物は、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が2価の脂肪族基を介して結合している化合物である。
上記2価の脂肪族基は、たとえば、主鎖に−(CR)−で示される基を有する基であり、好ましくは主鎖に更に酸素原子が介在していることである。ここで、R、Rはそれぞれ水素原子またはヒドロキシル基である。また、上記脂肪族基は、構造中に少なくとも2個のヒドロキシル基を有することが好ましい。ヒドロキシル基と炭素系保護層の相互作用により、潤滑層と保護層との密着性を向上させることが可能である。
【0022】
上記パーフルオロポリエーテル基は、その構造中に例えば、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ末端にはホスファゼン環を有するものである。ホスファゼン環は適当な置換基を有していてもよい。かかるパーフルオロポリエーテル基としては、例えば下記式(I)で示される基が好ましく挙げられる。
式(I)
【0023】
【化1】

式中、m、nはそれぞれ1以上の整数である。Rはホスファゼン環の置換基であり、例えばフェノキシ基またはフェニル基である。
【0024】
本実施の形態に係る潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と、該パーフルオロポリエーテル化合物と反応しうる構造を有する脂肪族化合物の1当量とを反応させることによる製造方法が好ましく挙げられる。
【0025】
上記脂肪族化合物としては、例えば、末端にエポキシド構造を有するエポキシ化合物が好ましく挙げられる。このような化合物を用いることにより、本実施の形態に係る潤滑剤化合物を高純度、高収率で得ることが可能である。このようなエポキシ化合物の具体的例示を以下に挙げるが、本発明はこれには限定されない。
【0026】
【化2】

【0027】
また、上記パーフルオロポリエーテル化合物としては、たとえば分子の一末端にフォスファゼン環を有し、他端にヒドロキシル基を有する下記式(II)で示されるパーフルオロポリエーテル化合物が挙げられる。
式(II)
【0028】
【化3】

式中、m、nはそれぞれ1以上の整数である。Rはホスファゼン環の置換基であり、例えばフェノキシ基またはフェニル基である。
【0029】
つまり、塩基条件下で、末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を塩基に作用させアルコキシドとし、このアルコキシドが、末端にエポキシド構造を有する脂肪族化合物と求核開環反応を行うことにより、パーフルオロポリエーテル化合物同士が上記脂肪族化合物から変じた連結基を介して結合された2量体化合物が得られる。
以下に、本実施の形態に係る潤滑剤化合物の代表的な例示化合物を挙げるが、本発明はこれらの化合物には限定されない。
【0030】
【化4】

【0031】
なお、上記例示化合物は、上記式(II)で示されるパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と、上記ジエポキシ化合物の例示(b)化合物の1当量とを反応させることにより得られる。
また、本実施の形態に係る潤滑剤化合物は、上記パーフルオロポリエーテル基の構造中の、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖の代わりに、例えば、−(CF2CF2CF2O)m−、または、−(CF(CF3)CF2O)m−(mは1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有する構造のものであってもよい。
【0032】
[実施の形態2]
本実施の形態に係る潤滑剤化合物は、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士がホスファゼン環を介して結合している化合物である。
上記パーフルオロポリエーテル基は、その構造中に例えば、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有し、且つ末端にはホスファゼン環を有するものであり、かかるパーフルオロポリエーテル基としては、前述の実施の形態1と同様に前記式(I)で示される基が好ましく挙げられる。
本実施の形態に係る潤滑剤化合物の代表的な例示化合物を以下に挙げるが、本発明はこれらの化合物には限定されない。
【0033】
【化5】

【0034】
本実施の形態に係る潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば、下記の製造方法が好ましく挙げられる。
【0035】
【化6】

【0036】
例えば、連結基部分としてまず上記の反応スキームに示す方法に従い、4当量のm−トリフルオロメチルフェノールに塩基を作用させ、1当量の窒化塩化リン三量体と反応させることでシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を用意する。その後、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を反応させることで得られる。
【0037】
また、上記例示化合物は、構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士がホスファゼン環を介して結合された2量体化合物であるが、本実施の形態に係る潤滑剤化合物はこれに限らず、上記パーフルオロポリエーテル基がホスファゼン環を介して3量体あるいはそれ以上結合された多量体化合物であってもよい。このような3量体あるいはそれ以上の多量体化合物の製造方法としては、たとえば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ両末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を反応させ、得られた化合物1当量とシクロフォスファゼンのフェノキシ5置換体を反応させることによる例えば3量体の製造方法が好ましく挙げられる。
【0038】
なお、本実施の形態に係る潤滑剤化合物においても、上記パーフルオロポリエーテル基の構造中の、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖の代わりに、例えば、−(CF2CF2CF2O)m−、または、−(CF(CF3)CF2O)m−(mは1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有する構造のものであってもよい。
【0039】
[実施の形態3]
本実施の形態に係る潤滑剤化合物も、実施の形態2と同様の構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士がホスファゼン環を介して結合している化合物であるが、本実施の形態の化合物は、1つのホスファゼン環の置換位置の結合手に複数の上記パーフルオロポリエーテル基が結合している構造であることが特徴である。なお、上記パーフルオロポリエーテル基としては、前述の実施の形態1と同様に前記式(I)で示される基が好ましく挙げられる。
本実施の形態に係る潤滑剤化合物の代表的な例示化合物を以下に挙げるが、本発明はこれらの化合物には限定されない。
【0040】
【化7】

【0041】
本実施の形態に係る潤滑剤化合物の製造方法としては、たとえば、分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル化合物の3当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ3置換体を反応させることによる製造方法が好ましく挙げられる。
【0042】
なお、本実施の形態に係る潤滑剤化合物においても、上記パーフルオロポリエーテル基の構造中の、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖の代わりに、例えば、−(CF2CF2CF2O)m−、または、−(CF(CF3)CF2O)m−(mは1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有する構造のものであってもよい。
【0043】
以上のとおり、本発明の潤滑剤化合物として、具体的に、実施の形態1乃至3を挙げて説明したが、本発明の潤滑剤化合物は、ホスファゼン環に加えて、その分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有する構造である。上記パーフルオロポリエーテル構造を含めることにより、磁気ディスク用潤滑剤として耐熱性を含む好適な潤滑性能が得られるからである。また、パーフルオロポリエーテル主鎖の長さを適当な範囲に調節することで分子量の調節ができる。例えば、パーフルオロポリエーテル主鎖の長さを適当な範囲で長くすることにより、分子量を大きくして、広範な温度範囲においても潤滑剤の粘度の変化を小さくして潤滑剤の温度特性を改善することができる。パーフルオロポリエーテル主鎖の長さは、特に制約はされないが、主鎖の長さがあまり短いと潤滑剤が蒸発しやすかったり、良好な潤滑性能が得られない場合があり、一方、主鎖の長さが長いと分子量が大きくなり、耐熱性や温度特性の向上には寄与するものの、保護層との密着性が低下する場合がある。従って、上記パーフルオロポリエーテル基の構造中の、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖における上記m+nが5〜100、好ましくは10〜50程度の範囲とすることが本発明にとって好適である。
【0044】
本発明の潤滑剤化合物の分子量は特に制約はされないが、例えば核磁気共鳴吸収(NMR)法を用いて測定した数平均分子量(Mn)が、1000〜10000の範囲であることが好ましく、1000〜5000の範囲であることが更に好ましい。本発明の潤滑剤化合物の分子量を上記の範囲にすることにより、熱アシスト磁気記録方式による記録再生において、熱分解されず、障害なく安定した記録再生を続けられる高い耐熱性に加え、広範な温度範囲での良好な温度特性を備えることができる。
【0045】
本発明において、本発明の潤滑剤化合物からなる潤滑剤を適当な方法で分子量分画することにより、分子量分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比)を1.3以下とするのが好ましい。
本発明において、分子量分画する方法に特に制限を設ける必要は無いが、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による分子量分画や、超臨界抽出法による分子量分画などを用いることができる。
【0046】
また、本発明の潤滑剤化合物からなる磁気ディスク用潤滑剤を用いて潤滑層を成膜するにあたっては、潤滑剤を適当な溶媒に分散溶解させた溶液を用いて、例えばディップ法により塗布して成膜することができる。溶媒としては、例えばフッ素系溶媒(三井デュポンフロロケミカル社製商品名バートレルXFなど)を好ましく用いることができる。潤滑層の成膜方法はもちろん上記ディップ法には限らず、スピンコート法、スプレイ法、ペーパーコート法などの成膜方法を用いてもよい。
【0047】
本発明においては、成膜した潤滑層の保護層への付着力をより向上させるために、成膜後に磁気ディスクの潤滑層に向けて紫外線照射を行うことが好ましい。本発明の潤滑剤化合物は紫外線照射によって、保護層上の活性点(吸着点)に対して効率的に結合するため、潤滑層の保護層への付着力をより向上させることができる。本発明の潤滑剤化合物に対しては、185nm前後の波長域の反応効率が高いため、このような波長域を少なくとも含む紫外線照射を行うことが好適である。なお、照射時間は適宜調節することができる。
【0048】
本発明にあっては、潤滑層の膜厚は4Å〜18Åとするのがよい。4Å未満では、潤滑層としての潤滑性能が低下する場合がある。また18Åを超えると、薄膜化の観点から好ましくない。
【0049】
本発明における保護層としては、炭素系保護層を用いることができる。特にアモルファス炭素保護層が好ましい。このような保護層は、本発明の潤滑剤化合物との親和性が高く、良好な付着力を得ることができる。
本発明において炭素系保護層を用いる場合は、例えばDCマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。また、プラズマCVD法により成膜されたアモルファス炭素保護層とすることも好ましい。本発明にあっては、保護層の膜厚は20Å〜70Åとするのがよい。20Å未満では、保護層としての性能が低下する場合がある。また70Åを超えると、薄膜化の観点から好ましくない。
【0050】
本発明においては、基板はガラス基板であることが好ましい。ガラス基板は剛性があり、平滑性に優れるので、高記録密度化には好適である。ガラス基板としては、例えばアルミノシリケートガラス基板が挙げられ、特に化学強化されたアルミノシリケートガラス基板が好適である。
本発明においては、上記基板の主表面の粗さは、Rmaxが6nm以下、Raが0.6nm以下の超平滑であることが好ましい。なお、ここでいうRmax、Raは、JIS B0601の規定に基づくものである。
【0051】
本発明の磁気ディスクは、基板上に少なくとも磁気記録層と保護層と潤滑層を備えているが、熱アシスト磁気記録に適用する場合、上記磁気記録層は、通常の磁気記録方式では記録できないような高保磁力磁性層を用いることが好適である。たとえば、CoFeTb系磁性層であれば、熱揺らぎ耐性に優れ、高保磁力と高再生出力を得ることができるので好適である。
本発明の磁気ディスクにおいては、基板と磁気記録層との間に、必要に応じて磁気記録層の記録分解能を向上させるための適当な材質の下地層を設けることができる。また、該下地層と基板との間に付着層を設けることもできる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
前記式(II)で示されるパーフルオロジオール化合物の2当量と、前記例示(b)のジエポキシ化合物の1当量とを塩基条件下で反応させることにより、前記の例示の潤滑剤化合物A(実施の形態1に係る潤滑剤化合物)を製造した。具体的には、上記の両化合物をアセトン中で撹拌し、水酸化ナトリウムを加えてさらにリフラックス(reflux)した。なお、反応温度、時間等の条件はそれぞれ適宜設定した。このようにして得られた化合物からなる潤滑剤は、超臨界抽出法により適宜分子量分画を行い、NMR法を用いて測定したMnが5000、分子量分散度が1.2とした潤滑剤を作製した。
【0053】
(実施例2)
分子中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ両末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル化合物の2当量と1当量のシクロフォスファゼンのフェノキシ4置換体を反応させる。次に、得られた化合物1当量とシクロフォスファゼンのフェノキシ5置換体を反応させることにより、前記の例示の潤滑剤化合物B(実施の形態2に係る潤滑剤化合物)を製造した。なお、反応温度、時間等の条件はそれぞれ適宜設定した。このようにして得られた化合物からなる潤滑剤は、超臨界抽出法により適宜分子量分画を行い、NMR法を用いて測定したMnが6000、分子量分散度が1.2とした潤滑剤を作製した。
【0054】
(比較例1)
ソルベイソレクシス社製のフォンブリンゼットテトラオール(商品名)を超臨界抽出法で分子量分画し、Mnが2500、分子量分散度が1.2とした潤滑剤を作製した。
【0055】
(比較例2)
潤滑剤として下記構造のモレスコ社製のホスファゼン系化合物A20H(商品名)を使用した。
【0056】
【化8】

【0057】
(比較例3)
潤滑剤として下記構造の潤滑剤(既知化合物)を使用した。
【0058】
【化9】

【0059】
以上の実施例1,2及び比較例1〜3の各潤滑剤について、熱分解特性の評価を行った。具体的には、熱重量測定装置を用いて、加熱温度に対する各潤滑剤の重量減少率を測定し、その結果を纏めて図1に示した。また、350℃及び450℃における各潤滑剤の重量減少率の値を纏めて下記表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
図1及び表1の結果から明らかなように、本発明に係る磁気ディスク用潤滑剤は、耐熱特性を従来よりも大幅に向上させることができるので、300℃を超える潤滑剤の耐熱温度が要求される熱アシスト磁気記録方式に用いる磁気ディスクの潤滑剤として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し且つ末端にはホスファゼン環を有するパーフルオロポリエーテル基同士が連結基を介して結合している化合物を含有することを特徴とする磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項2】
前記連結基は、脂肪族基であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項3】
前記脂肪族基は、構造中に少なくとも2個のヒドロキシル基を有することを特徴とする請求項2に記載の磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項4】
前記連結基は、ホスファゼン環からなる基であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項5】
前記パーフルオロポリエーテル基は、その構造中に、−(CF2CF2O)m−(CF2O)n−(m、nはそれぞれ1以上の整数である。)で示されるパーフルオロポリエーテル主鎖を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項6】
前記化合物の数平均分子量(Mn)が1000〜10000の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気ディスク用潤滑剤。
【請求項7】
基板上に少なくとも磁気記録層と保護層と潤滑層を備える磁気ディスクであって、
前記潤滑層は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁気ディスク用潤滑剤を含有することを特徴とする磁気ディスク。


【図1】
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【公開番号】特開2011−21165(P2011−21165A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169848(P2009−169848)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】