説明

磁気ディスク

【課題】DFH技術が積極的に利用されるHDD装置においても十分な信頼性を得ることができる磁気ディスクを提供すること。
【解決手段】本発明の磁気ディスク1は、ディスク基体10上に、磁気記録層12、媒体保護層13、及び潤滑層14を有しており、潤滑層14は、媒体保護層13に固定された分子層である固定層141と、固定層141上で流動する分子層である流動層142とを有しており、潤滑層14を構成する潤滑剤成分は分子内にOH基を有し、潤滑層14を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層142の厚さとの積が0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスクに関し、特に、ヘッド浮上量が非常に低いHDD(ハードディスクドライブ)装置に用いることができる磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気ディスクは、アルミニウムやガラスなどで構成された基板と、基板上に直接又は中間層を介して設けられた磁気記録層と、磁気ディスクの信頼性を確保する目的で設けられるカーボン保護膜及び潤滑層とから主に構成されている(特許文献1など)。ここで、潤滑層には、近年の磁気記録密度の向上と共にヘッド−ディスクの浮上量が低下していることから、間欠的にヘッド−ディスクの接触が想定されるため、ヘッド及びディスクへのダメージ低下のために低摩擦性が求められる。潤滑層に用いられる潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテル系潤滑剤が用いられている。
【特許文献1】特開2006−228422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年のHDD装置では、ヒーターの熱による膨張でヘッドとディスクとの間の距離を調整するDFH(dynamic fly height)方式が採用されているものが多く、そのような方式では、潤滑層を構成する潤滑剤の凝集(Lube Mogul)が起こり易いことが知られている。Lube Mogulは、磁気ディスクの電磁変換特性に大きな影響を与えるクリアランス量の増大を招くことが考えられる他、ヘッドへの潤滑剤のピックアップを起こし易くなり、信頼性が低下してしまうなどの懸念がある。このため、Lube Mogulをできるだけ抑えて十分な信頼性を得ることができる磁気ディスクが求められている。
【0004】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、DFH技術が積極的に利用されるHDD装置においても十分な信頼性を得ることができる磁気ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁気ディスクは、ディスク基体上に少なくとも磁気記録層及び保護層を備えており、前記保護層上に潤滑層を有する磁気ディスクであって、前記潤滑層は、前記保護層に固定された分子層である固定層と、前記固定層上で流動する分子層である流動層とを有しており、前記潤滑層を構成する潤滑剤成分は分子内にOH基を有し、前記分子内のOH基の平均数と前記流動層の厚さとの積が0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)であることを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、潤滑剤の性質及び流動層の厚さを調整することにより、すなわち、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積を0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)に設定しているので、Lub Mogulの発生を抑えて、DFH技術が積極的に利用されるHDD装置においても十分な信頼性を得ることができる磁気ディスクを提供することができる。
【0007】
本発明の磁気ディスクにおいては、前記潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が2.0であり、前記流動層の厚さが0.2nm〜0.6nmであることが好ましい。
【0008】
本発明の磁気ディスクにおいては、前記潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が4.0であり、前記流動層の厚さが0.1nm〜0.3nmであることが好ましい。
【0009】
本発明の磁気ディスクにおいては、前記潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が6.0であり、前記流動層の厚さが0.1nm〜0.2nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁気ディスクは、ディスク基体上に少なくとも磁気記録層及び保護層を備えており、前記保護層上に潤滑層を有する磁気ディスクであって、前記潤滑層は、前記保護層に固定された分子層である固定層と、前記固定層上で流動する分子層である流動層とを有しており、前記潤滑層を構成する潤滑剤成分は分子内にOH基を有し、前記分子内のOH基の平均数と前記流動層の厚さとの積が0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)であるので、DFH技術が積極的に利用されるHDD装置においても十分な信頼性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る磁気ディスクの概略構成を示す図である。図1に示す磁気ディスク媒体1は、ディスク基体10、中間層11、磁気記録層12、媒体保護層13、潤滑層14を順次積層することにより構成されている。
【0012】
ディスク基体(磁気ディスク用基板)1としては、例えば、ガラス基板、アルミニウム基板、シリコン基板、プラスチック基板などを用いることができる。基板1として、表面が平滑な化学強化ガラス基板を用いる場合には、例えば、素材加工工程及び第1ラッピング工程;端部形状工程(穴部を形成するコアリング工程、端部(外周端部及び/又は内周端部)に面取り面を形成するチャンファリング工程(面取り面形成工程));端面研磨工程(外周端部及び内周端部);第2ラッピング工程;主表面研磨工程(第1及び第2研磨工程);化学強化工程などの工程を含む製造工程により製造することができる。
【0013】
中間層11としては、ディスク基体10と磁気記録層12との間に設けることができる層をすべて含み、例えば、密着層、軟磁性層、配向制御層、下地層などを含む。磁気記録層12は、ディスク基体10上に直接又は中間層11を介して形成される。磁気記録層12としては、例えば、複数の種類の酸化物(以下、「複合酸化物」という)を含有させることにより、非磁性の粒界に複合酸化物を偏析させてなるグラニュラ磁気記録層などを挙げることができる。中間層11や磁気記録層12は、例えばスパッタリング法などにより成膜することができる。
【0014】
媒体保護層13は、磁気ヘッドの衝撃から磁気記録層12を保護するための保護層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンは、スパッタリング法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に磁気記録層12を保護することができる。
【0015】
潤滑層14は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により媒体保護層13上に成膜され、その後熱処理又は紫外線照射が行われる。ここでは、潤滑層14の膜厚は1nm〜2nmである。この潤滑層14は、図2に示すように、媒体保護層13に固定された分子層である固定層(ボンド層)141と、固定層141上で流動する分子層である流動層142とを有する。
【0016】
固定層141は、媒体保護層13に化学的に結合(吸着)するものであり、ヘッドとの衝突の際に媒体保護層13との摩耗を防ぐものである。この固定層141は、媒体保護層13上の活性点(吸着サイト:例えば、カルボニル基、ダングリングボンド)に化学的に結合するため、媒体保護層13にコンタミネーションが付着することを防止できる。固定層141は、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)、エリプソメータ、X線光電子分光器(XPS)により測定し、定量することができる。
【0017】
流動層142は、媒体保護層13に物理的(ファンデルワールス力など)に結合(吸着)するものであり、ヘッドの通過などの影響で除去された際に速やかにその部位を修復する。近年の極低浮上ヘッドやDFHを採用すると、ディスクとヘッドとの間の狭スペーシングのために流動層142の潤滑剤の凝集が起こりLub Mogulが形成される。流動層142も、FT−IRやエリプソメータにより測定し、定量することができる。
【0018】
なお、ここで、流動層142とは、潤滑剤をディップコート法で媒体保護層13上に塗布し、熱処理又は紫外線照射を行った後に、使用した潤滑剤に含まれる溶剤で容易に除去される層をいう。したがって、このように溶剤で除去された後の層が固定層141であり、全潤滑層14の厚さから固定層141の厚さを差し引いたものが流動層142の厚さである。
【0019】
本発明者は、潤滑層14の流動層142に着目した。
まず、本発明者は、流動層142の厚さ(量)に着目した。固定層141及び流動層142の厚さは、潤滑層14の成膜条件により制御することができる。例えば、媒体保護層13の吸着サイトの量を、媒体保護層13を構成する材料、例えばカーボンの酸化量や窒素化量で変えることができる。酸化量及び窒素化量を変化させることにより、媒体保護層上のカルボニル基、ヒドロキシル基などの酸化サイト、また、不対電子を持つダングリングボンド量を変化させることができる。このようにして、媒体保護層13の吸着サイトの量を増加させた場合には、吸着サイトと化学結合する固定層141が増加して相対的に流動層142が減少する。一方、媒体保護層13の吸着サイトの量を減少させた場合には、吸着サイトと化学結合する固定層141が減少して相対的に流動層142が増加する。
【0020】
また、熱処理や紫外線照射の条件を変えることにより、固定層141や流動層142の厚さを変えることができる。熱処理においては、加熱温度を上げる、又は加熱時間を長くすることにより、化学結合を進行させ固定層を増やすことができるため、相対的に流動層が減少することになる。逆に、加熱温度を下げる、または加熱時間を短くすることにより、固定層を減少させ、流動層が増えることとなる。紫外線処理においては、照射時間を調整することにより、流動層の量を変化させることができる。また、照射時間を増やすと固定層が増え、流動層が減少する。
【0021】
そこで、本発明者は、上述した方法により流動層142の厚さを変えて種々の磁気ディスクを作製し、これらの磁気ディスクに対してヘッドの浮上試験を行った後に、光学式表面解析装置(OSA)により磁気ディスクを観察してLub Mogulの発生の程度を調べた。その結果を図3に示す。なお、ここでは潤滑剤としてFOMBLIN Z−TETRAOLを精製したものを用いた。図3から分かるように、流動層142の厚さが厚くなればなるほどLub Mogul量(Lub Pool Spot)が多かった。したがって、Lub Mogulの発生を抑制するためには、流動層142の厚さを薄くする必要がある。
【0022】
次に、本発明者は、流動層142の性質に着目した。Lub Mogulの発生は、流動層の性質に関係があると考えられる。これは、Lub Mogulは潤滑剤の凝集であるため、潤滑剤分子の相互作用が働き易い潤滑剤において起き易いと考えられるからである。したがって、潤滑剤分子間の相互作用の弱い潤滑剤を用いることが好ましいと考えられる。
【0023】
一般的な潤滑剤分子(パーフルオロポリエーテル)は、下記式に示すような構造を有する。
X−CH−CF−(CF−O)−(CF−CF−O)−CF−CH−X
末端の官能基Xとしては、(1)OH基(ZDOL:商品名)(1分子に含まれるOH基が2個)、(2)OCHCH(OH)CHOH(TETRAOL:商品名)(1分子に含まれるOH基が4個)、(3)OCHCH(OH)CHOCHCH(OH)CHOH(Bis−Adduct:Z−TETRAOL中に含まれる不純物)(1分子に含まれるOH基が6個)などが挙げられる。これらの官能基は、(1)から(3)に順に1分子中のOH基が多くなっており極性が高くなっている。これらの各分子は、超臨界精製法、ゲルパーミッションクロマトグラフィー法、分子蒸留法などの各種精製法にて分画が可能である。
【0024】
OH基のような極性の高い官能基を多く有する分子においては、OH基同士が会合するため、分子間の相互作用が大きい。このように分子間の相互作用が大きいと、潤滑剤の凝集が容易となり、Lub Mogulが発生し易くなると考えられる。
【0025】
そこで、本発明者は、上記の傾向を確認するために、相対的に極性の高い官能基(3)を末端に有する潤滑剤と、相対的に極性の低い官能基(2)を末端に有する潤滑剤とを用いて種々の磁気ディスクを作製し、これらの磁気ディスクに対してヘッドの浮上試験を行った後に、光学式表面解析装置(OSA)により磁気ディスクを観察してLub Mogulの発生の程度を調べた。その結果を図4に示す。図4から分かるように、相対的に極性の高い官能基(3)を末端に有する潤滑剤(図4中の■印)の方が相対的に極性の低い官能基(2)を末端に有する潤滑剤(図4中の◆印)よりもLub Mogul量(Lub Pool Spot)が多かった。したがって、Lub Mogulの発生を抑制するためには、相対的に極性の低い官能基(2)を末端に有する潤滑剤を用いる必要がある。
【0026】
上述したように、Lub Mogulの発生には、流動層142の厚さと潤滑剤の性質とが関連することが分かった。すなわち、流動層142の厚さを薄くすればLub Mogulの発生を抑えることができるが、他の信頼性要件を考慮すると、潤滑剤の性質、すなわち分子間相互作用の強弱により、流動層142の最適な厚さは変わると考えられる。本発明者は、これらの要因を考慮して、潤滑層14を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層142の厚さとの積が0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)である場合に、Lub Mogulを抑制して、信頼性の高い磁気ディスクを実現できることを見出した。この積について、特に好ましい範囲は、3.0(nm・OH基の平均数)〜5.5(nm・OH基の平均数)である。
【0027】
例えば、潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が2.0である場合には、流動層142の厚さが0.2nm〜0.6nmであることが好ましく、潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が4.0である場合には、流動層142の厚さが0.1nm〜0.3nmであることが好ましく、潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が6.0である場合には、流動層142の厚さが0.1nm〜0.2nmであることが好ましい。
【0028】
なお、潤滑剤としては、上記官能基(1)〜(3)を末端に有する潤滑剤や、官能基(4)CF、官能基(5)CFClなどを末端に有する潤滑剤が複数種混合してなる潤滑剤がある。この場合においては、複数種混合してなる潤滑剤の分子内OH基の平均数を求め、その分子内OH基の平均数から流動層142の厚さを決定することができる。実際の磁気ディスク用の潤滑剤においては、官能基(3)を末端に持つ潤滑剤の凝集力が非常に強いため、この分子を15%以下に抑えることが好ましい。流動層142の厚さは、上述した方法により適宜変えることができる。
【0029】
このように、本発明によれば、潤滑剤の性質及び流動層の厚さを調整することにより、すなわち、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積を0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)に設定しているので、Lub Mogulの発生を抑えて、DFH技術が積極的に利用されるHDD装置においても十分な信頼性を得ることができる磁気ディスクを提供することができる。
【0030】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
(実施例1)
アルミノシリケートガラスからなる2.5インチ型化学強化ガラスディスクを準備し、ディスク基体とした。このディスク基体上に、DCマグネトロンスパッタリング法により順次下地層及び磁気記録層を成膜した。下地層は、AlRu合金薄膜からなる第1の下地層上にCrW合金薄膜からなる第2の下地層を形成することにより成膜した。磁気記録層には、CoCrPtB合金薄膜を用いた。
【0031】
次いで、プラズマCVD法により、アモルファスのダイヤモンドライクカーボンからなる媒体保護層を磁気記録層上に厚さ6nmで成膜した。なお、成膜にあたっては、低級直鎖炭化水素ガスを用いた。次いで、分子内OH基の平均数が4.0である潤滑剤(TETRAOL)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、120℃で60分間の熱処理を施して潤滑層を形成した。このようにして実施例1の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.1nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は0.4(nm・OH基の平均数)であった。
【0032】
(実施例2)
分子内OH基の平均数が2.0である潤滑剤(ZDOL)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、120℃で60分間の熱処理を施して潤滑層を形成すること以外は、実施例1と同様にして実施例2の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.4nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は0.8(nm・OH基の平均数)であった。
【0033】
(実施例3)
分子内OH基の平均数が6.0である潤滑剤(Bis−Adduct)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、120℃で60分間の熱処理を施して潤滑層を形成すること以外は、実施例1と同様にして実施例3の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.1nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は0.6(nm・OH基の平均数)であった。
【0034】
(実施例4)
分子内OH基の平均数が3.9である潤滑剤(Fomblin Z TETRAOL)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、120℃で60分間の熱処理を施して潤滑層を形成すること以外は、実施例1と同様にして実施例4の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.15nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は0.585(nm・OH基の平均数)であった。
【0035】
(比較例1)
分子内OH基が4.0である潤滑剤(Fomblin Z TETRAOL)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、80℃で60分間の熱処理を施して潤滑層を形成すること以外は、実施例1と同様にして比較例1の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.5nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は2.0(nm・OH基の平均数)であった。
【0036】
(比較例2)
分子内OH基が4.0である潤滑剤(FOMBLIN Z TETRAOL)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、150℃で90分間の熱処理を施して潤滑層を形成すること以外は、実施例1と同様にして比較例2の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.075nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は0.3(nm・OH基の平均数)であった。
【0037】
(比較例3)
分子内OH基が4.0である潤滑剤(FOMBLIN Z TETRAOL)をディップコート法で媒体保護層上に塗布し、60℃で30分間の熱処理を施して潤滑層を形成すること以外は、実施例1と同様にして比較例3の磁気ディスクを作製した。この磁気ディスクの潤滑層の流動層をFT−IRで調べたところ、その厚さは0.325nmであった。したがって、潤滑層を構成する潤滑剤成分の分子内OH基の平均数と流動層の厚さとの積は1.3(nm・OH基の平均数)であった。
【0038】
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3の磁気ディスクについてヘッドの浮上試験を行った後に、光学式表面解析装置(OSA)により磁気ディスクを観察してLub Mogulの発生の程度を調べた。その結果、実施例1〜実施例4の磁気ディスクは、LP(Lub Pool)スポットが500以下であり、Lub Mogulの発生が非常に低く抑えられていた。これは、潤滑層の性質と流動層の厚さを本発明の範囲に調整したためであると考えられる。これに対して、比較例1〜比較例3の磁気ディスクは、LPスポットが3000以上であり、Lub Mogulが多く発生していた。
【0039】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材質、個数、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る磁気ディスクを示す図である。
【図2】図1に示す磁気ディスクの潤滑層を説明するための図である。
【図3】流動層の厚さとLub Mogulとの間の関係を示す図である。
【図4】流動層の厚さとLub Mogulとの間の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 磁気ディスク
10 ディスク基体
11 中間層
12 磁気記録層
13 媒体保護層
14 潤滑層
141 固定層
142 流動層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク基体上に少なくとも磁気記録層及び保護層を備えており、前記保護層上に潤滑層を有する磁気ディスクであって、前記潤滑層は、前記保護層に固定された分子層である固定層と、前記固定層上で流動する分子層である流動層とを有しており、前記潤滑層を構成する潤滑剤成分は分子内にOH基を有し、前記分子内のOH基の平均数と前記流動層の厚さとの積が0.4(nm・OH基の平均数)〜1.2(nm・OH基の平均数)であることを特徴とする磁気ディスク。
【請求項2】
前記潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が2.0であり、前記流動層の厚さが0.2nm〜0.6nmであることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
【請求項3】
前記潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が4.0であり、前記流動層の厚さが0.1nm〜0.3nmであることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
【請求項4】
前記潤滑剤成分の分子内OH基の平均数が6.0であり、前記流動層の厚さが0.1nm〜0.2nmであることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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