説明

磁気パターンニングされた磁性体板

【課題】安価で少ない工程で実施可能な磁気パターンニングされた磁性体板を提供する。
【解決手段】磁気パターンニングされた磁性体板は、一つの表面に平坦な表面領域と凹凸のある非平坦な表面領域とを有する非磁性材料基板と、前記一つの表面に被着された磁性膜とを備え、該磁性膜は前記平坦な表面領域では該磁性膜の本来の磁気特性を保持し前記非平坦な表面領域では該本来の磁気特性を保持しないパターンニングが形成されるように構成されている。また、その製造方法では、非磁性材料基板上の平坦な表面の一部の領域に物理的あるいは化学的に凹凸を設け、該凹凸が形成された前記非磁性材料板の表面上に磁性膜を形成して、前記平坦な表面上では磁性体が本来持つ磁気特性を保持させ、前記凹凸のある領域上では磁気特性を失わせるかまたは変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリペイドカード等のセキュリティを目的としてデータの記録担体に添付される磁性体板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
記録媒体カードとして、現在国内で最も多く利用されているプリペイドカードには、NTT(日本電信電話株式会社)の発行するテレホンカードと日本レジャーカードシステムの発行するパチンコ遊技カードなどがある。
これらのカードは変造,改ざんされ易く、現在大きな社会問題となっている。これらのカードを対象として変造,改ざん防止対策として本願出願人により特願平5−094846号(特開平6−286368号「記録担体カードとその真偽判定装置」)が提案されている。
この発明では、記録担体カードは管理対象情報を記録する第一の記録領域と、該第一の記録領域とは別の位置にアモルファス強磁性体層が配置されるとともに、必要な個数のパンチ穴をあけることを予定して設けられた第二の記録領域とを備えた構成を有している。また、前記第二の記録領域にはセキュリティコードを記録した構成を有している。
これらの構成を有するカードに対しては、第二の記録領域に鑽孔されたパンチ穴の有無を磁気的に読み出して、該第一の記録領域に記録された管理情報と比較して改ざんの有無を判定する方法をとっている。
【特許文献1】特開平6−286368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記先願の発明によると、悪質な改ざんを防止する方法として、通常では入手できない組成と、その素材特有の磁気特性を利用することと、カードの第二記録領域に書換できないように予め書き込んであるセキュリティコードを利用する方法が提示されている。
このセキュリティコードを書き込むためには、磁気的に読み取れる磁気パターンを形成する必要がある。この磁気パターンを形成する方法としては、一般的に、
1)磁性体にレーザを照射し、不要部分の磁性体の磁気特性を消失させるかまたはその磁気特性を変化させる。
2)フォトリソグラフィ・印刷等を利用したエッチングで不要部分の磁性体を除去する。
等の方法がとられているが、これら従来の方法ではパターンニングに長時間を要するか又はコスト高を招くという欠点があった。
【0004】
すなわち、図8は従来のエッチングを利用して磁気パターンを形成した例で、磁性パターンを拡大した模式図である。ここで、1は基材、2は磁性膜、4は保護層である。この従来例によると磁性体2の有無で磁気パターンを形成し、不要部分の磁性体を除去するために多くの工程をかけなければならない。この従来例の主な工程のフローチャートは図9の通りである。
ただし、Aはフォトリソグラフィを利用したエッチング法、Bは印刷を利用したエッチング法である。
従来例によると、パターンニングするためには5〜6工程という非常に長い工程を要する。まず、A方法においては、f31工程で基材1上に磁性膜2を全面に形成する。次いでf32工程で磁性膜2上に予め定められたポジパターンのフォトレジストを塗布する。f33工程では露光を行いポジパターンのレジスト硬化を行う。f34工程では現像を行いネガパターンのレジストを除去する。f35工程ではエッチングを行い、次いでf36工程でレジストを剥離し、最終的な磁性膜2による磁気パターンを形成する。このようにA方法においては全6工程を要し、極めて作業効率が悪い。
また、B方法においては、f41工程でまず基材1上に磁性膜2を全面に形成する。次いでf42工程で磁性膜2上に予め定められたパターンにレジストインクを印刷し、ポジパターンを形成する。f43工程では乾燥を行い、f44工程ではエッチングを行い、次いでf45工程でレジストを剥離し、最終的な磁性膜パターンを形成する。このようにB方法においても全5工程を要し、極めて作業性が悪いという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、従来技術の欠点を除去し、安価で少ない工程で実施可能な磁気パターンニングされた磁性体板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、本発明による磁気パターンニングされた磁性体板は、一つの表面に、平坦な表面領域である平坦部と、凹凸のある非平坦な表面領域である粗化部と、を有する非磁性材料基板と、前記一つの表面に被着されたアモルファス強磁性体からなる磁性膜とを備え、該磁性膜は前記平坦な表面領域である平坦部では該磁性膜のアモルファス強磁性体固有のB−Hヒステリシス磁気特性を保持し、前記非平坦な表面領域である粗化部ではアモルファス強磁性体固有のB−Hヒステリシス磁気特性の最大磁束密度を減少させ保磁力を増大させるか、又は、最大磁束密度を減少させ保磁力を失わせるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると磁気パターンニングが安価に、短時間に可能となり、簡単に磁気パターンニングされた磁性体板を提供して対象製品への埋め込みまたは結合等によりその対象製品の安全保証機能と改ざん防止機能を向上することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で利用する磁性体は基本的には蒸着またはスパッタ等の気相成長による薄膜であるため、その薄膜の磁気特性を検出する場合にその薄膜を形成する基材の表面粗さ(Ra)はおよそ数μm以下でなければ、本来その磁性体が有する磁気特性が現れてこない。例えば、基材としては表面粗さが0.01〜0.1μm程度以下の平坦な表面領域(以下平坦部という)を有するPETフィルム等が用いられる。
このとき基材の表面粗さが数μm以上で多孔質のような基材上の非平坦な領域(以下粗化部という)に磁性体を成膜すると、その成膜された磁性体の本来のB−Hヒステリシス磁気特性が現れず、磁気検出信号が弱くなるか又は消失する。
本発明はこの現象を利用し、エッチング等の煩雑な工程を省き、所望のパターン以外の領域(ネガパターン部)を印刷または物理的または化学的手法で一部表面を粗化してパターンニングした非磁性材料の基板上に磁性膜を形成しようとするものである。
物理的または化学的手法としては例えば、プレスでネガパターン部に凹凸を設けること、レーザ加工で表面を粗化する薬品で粗化すること等種々の方法が挙げられる。
例えばプリペイドカードにパターンニングする場合、パターンニングは直接カードに成膜することもできるし、カードとは別の薄い基材に成膜しパターンニング(磁気スレッドと呼ぶ)した後、これをカードに貼り付けても可能である。
本発明によれば、印刷またはプレス等のみの一工程でパターンニングすることができ、例えばフォトリソグラフィにおけるレジスト塗布・露光・洗浄・エッチング・剥離といった工程を省略することができる。また、レーザ加工のように時間を要する工程をなくすることができ、安価に磁気パターンを形成することができる。
【実施例1】
【0009】
実施例1は粗化インクを基材上に塗布して凹凸を有する粗化部を設けて非磁性材料基板とし、その非磁性材料基板上に磁気パターンを形成した本発明による磁性体板5の例である。図1にその磁性パターンを拡大した磁性体板5の模式図を示す。
1は基材であり5μm〜500μm厚みのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の表面が平坦な非磁性材料が用いられる。
2は磁性膜である。この磁性膜2をアモルファスとする場合には、コバルトCo−ジルコニウムZr系あるいは鉄Fe−珪素Si系などが代表的な組成である。この磁性膜2を形成する方法にはスパッタ,蒸着,メッキ等があり、その厚さは0.01〜1.0μmとすることができる。この磁性膜2は基材1上、粗化インク3上の両方に存在している。粗化インク3上にある磁性膜2は三次元的に点在(分散)することになり、それが本来有すべき磁気特性を示さない理由である。一方、基材1上に形成した磁性膜2は、平坦部の表面上に形成されているため、図5(a)又は図6(a)に示すような本来のB−Hヒステリシス磁気特性を示す。
3は粗化部を形成するための粗化インクであり、非磁性金属,磁性粉,カーボン,セラミック,樹脂などのサブミクロン〜数十μmの粒子をバインダー(樹脂等)で結合させたものである。本発明においては、この層の表面の粗さが磁性膜2の厚さに比べ十分大きい。
4は保護膜であり、磁性体を保護あるいは外観上みえなくしてセキュリティを向上させるために用いられている。また、さらに読み出しヘッドで読み取る際にヘッド−磁性体間の距離を一定に保つ等の働きをするが、本発明においてはこの保護層はあってもなくてもかまわない。
実施例1による主な工程のフローチャートは図2の通りである。まず、第1工程f1においては、所望のパターン以外の領域に粗化インク3を用いて凹凸のネガパターンを印刷し、第2工程f2では、それを乾燥させる。次に、第3工程f3では、磁性膜(アモルファス)2をスパッタ,蒸着等により成膜する。
実施例1によると3工程という非常に短い工程でパターンニングをすることができる。これにより、基材1の表面上に直接形成された磁性膜2は、本来のB−Hヒステリシス磁気特性を示すが、粗化インク3による凹凸のあるネガパターン(すなわち粗化部)上に形成された磁性膜2は本来のB−Hヒステリシス磁気特性を示さない。従って、このようなネガパターンの利用により、改ざん防止機能を有する磁性体板5を作成することができる。
【実施例2】
【0010】
実施例2はプレスで基材1の表面そのものを粗化して凹凸を有する粗化部設けた非磁性材料基板とし、その非磁性材料基板上に磁気パターンを形成した本発明による磁性体板5の例である。図3にその磁性パターンを拡大した磁性体板5の模式図を示す。
1は基材であり5μm〜500μm厚みのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の非磁性材料が用いられる。
2は磁性膜である。この磁性膜2は基材1の表面の一部の粗化された凹凸のある領域(粗化部)の上、何も処理していない平坦な領域(平坦部)の上の両方に存在している。粗化された凹凸のある粗化部上にある磁性膜2は三次元的に点在(分散)することになり、それが本来有すべきB−Hヒステリシス磁気特性を示さない理由である。一方、何も処理していない平坦部上に形成した磁性膜2は平坦な表面上に形成されているため本来のB−Hヒステリシス磁気特性を示す。
4は保護層で磁性体を保護あるいは外観上みえなくしてセキュリティを向上させるために用いられている。また、さらに読み出しヘッドで読み取る際にヘッド−磁性体間の距離を一定に保つ等の働きをするが、本発明においてはこの保護層はあってもなくてもかまわない。
実施例2による主な工程のフローチャートは図4の通りである。まず、第1工程f11では、基材1のネガパターン領域にプレスを用いて凹凸を設けて粗化し、次いで、第2工程f12において、磁性膜(アモルファス)2をスパッタ,蒸着等により成膜する。
実施例2によると2工程という非常に短い工程でパターンニングすることができる。これにより、実施例1と同様に改ざん防止機能を有する磁性体板5を作成することができる。
【0011】
以上の実施例において磁気特性判別の原理は、例えば、強磁性体のB−H特性を利用したものであり〔本願出願人の出願に係る特願平7−018343号「安全保護紙とその真偽判定装置」参照〕、アモルファス強磁性体の薄膜では、図5のように平坦部では(a)のような保磁力Hcが小さい本来の磁気特性である角型B−Hヒステリシス特性が得られ、粗化部では(b)のような最大磁束密度Bmが減少し保磁力Hcが増大した非角型ヒステリシス特性が得られる。
また、図6は、膜厚を厚くした保磁力Hcが大きい磁性層の場合であり、(a)が平坦部で得られる本来の磁気特性、(b)は粗化部で得られる磁気特性であり、ほぼヒステリシス特性が消失している。このような特性例でも明らかなように、本発明によれば、平坦部と粗化部で明確な磁気特性の変化が存在し、これらの差異を利用して両領域を互いに区別することができる。
【0012】
図7は、本発明による磁性体板5を用いて作成した磁気カードと呼ばれる記録担体の具体例を示すものであり、11は通常は樹脂材料よりなる磁気カード本体、5は本発明に係る磁性体板、12はセキュリティコード、13はパンチ穴である。
この例は、磁気カード本体11上に磁性体板5を結合させた場合を示している。外観上は、従来の一般的な磁気カードと同様であるが、本発明による磁性体板5を埋め込むための工程が増加するだけで、対象とする製品に適用することができる。なお、磁性体板5の基材1は非磁性材であるため、磁気カード本体11と兼用することができる。この場合、磁気カード本体11そのものが基材1に相当するため、埋込み工程も不要となり、安価な記録担体を実現することができる。また、セキュリティコード12の部分において、本発明特有のパターンニングをするために、高い改ざん防止機能を有し、これにより本発明による磁性体板5を用いて形成した磁気担体カード等の製品の安全保証機能を向上することができる等の特殊の効果を発揮することができる。
【0013】
以上説明したように、本発明によると磁気パターンニングが安価に、短時間に可能となり、簡単に磁気パターンニングされた磁性体板を提供して対象製品への埋め込みまたは結合等によりその対象製品の安全保証機能と改ざん防止機能を向上することができるという利点がある
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す断面略図である。
【図2】図1の実施例の製造工程を示すフロー図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す断面略図である。
【図4】図3の実施例の製造工程を示すフロー図である。
【図5】本発明による磁性体板のヒステリシス特性図である。
【図6】本発明による磁性体板のヒステリシス特性図である。
【図7】本発明による磁性体板を利用して形成した記録担体の具体例を示す平面図である。
【図8】従来のパターンニングを説明するための断面図である。
【図9】図8のパターンニングを実行するための工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0015】
1 基材
2 磁性膜
3 粗化インク
4 保護膜
5 磁性体板
11 磁気カード本体
12 セキュリティコード
13 パンチ穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの表面に、平坦な表面領域である平坦部と、凹凸のある非平坦な表面領域である粗化部と、を有する非磁性材料基板と、
前記一つの表面に被着されたアモルファス強磁性体からなる磁性膜とを備え、
該磁性膜は前記平坦な表面領域である平坦部では該磁性膜のアモルファス強磁性体固有のB−Hヒステリシス磁気特性を保持し、前記非平坦な表面領域である粗化部ではアモルファス強磁性体固有のB−Hヒステリシス磁気特性の最大磁束密度を減少させ保磁力を増大させるか、又は、最大磁束密度を減少させ保磁力を失わせるように構成されたこと、
を特徴とする磁気パターンニングされた磁性体板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−52895(P2007−52895A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194516(P2006−194516)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【分割の表示】特願平8−231288の分割
【原出願日】平成8年8月14日(1996.8.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】