磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置
【課題】十分な記録能力の発揮し、安定した記録特性を得ることが可能な磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置を提供する。
【解決手段】ディスク装置の磁気ヘッドは、記録媒体の記録層に対し垂直な記録磁界を印加する主磁極66と、主磁極にライトギャップを置いて対向するリターン磁極68と、主磁極とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生する高周波発振素子74と、を備え、主磁極およびリターン磁極の少なくとも一方は、高周波発振素子に対向し、磁性体層と非磁性体層を積層した積層構造部80を有している。
【解決手段】ディスク装置の磁気ヘッドは、記録媒体の記録層に対し垂直な記録磁界を印加する主磁極66と、主磁極にライトギャップを置いて対向するリターン磁極68と、主磁極とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生する高周波発振素子74と、を備え、主磁極およびリターン磁極の少なくとも一方は、高周波発振素子に対向し、磁性体層と非磁性体層を積層した積層構造部80を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ディスク装置に用いる垂直磁気記録用の磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置として、例えば、磁気ディスク装置は、ケース内に配設された磁気ディスクと、磁気ディスクを支持および回転するスピンドルモータと、磁気ディスクに対して情報のリード/ライトを行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリと、を備えている。磁気ヘッドのヘッド部は、ライト用の記録ヘッドとリード用の再生ヘッドとを含んでいる。
【0003】
近年、磁気ディスク装置の高記録密度化、大容量化あるいは小型化を図るため、垂直磁気記録用の磁気ヘッドが提案されている。このような磁気ヘッドにおいて、記録ヘッドは、垂直方向磁界を発生させる主磁極と、その主磁極のトレーリング側にライトギャップを挟んで配置されて磁気ディスクとの間で磁路を閉じるリターン磁極、あるいはライトシールド磁極と、主磁極に磁束を流すためのコイルとを有している。
【0004】
記録密度の向上を図る目的で、主磁極とリターン磁極との間に高周波発振素子としてスピントルク発振子を設け、このスピントルク発振子から磁気記録層に高周波磁界を印加する高周波磁界アシスト記録方式の磁気ヘッドが提案されている。この磁気ヘッドは、ギャップ磁界を大きくとるために、主磁極とリターン磁極が対向する面の間の距離を減少させた構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−070541号公報
【特許文献2】特開2010−182361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記磁気ヘッドの場合、主磁極およびリターン磁極と、スピントルク発振子とが近接している。また、主磁極およびリターン磁極は、それぞれ連続膜からなる磁性体で構成されている。このため、スピントルク発振子の発振によって生じる高周波磁界により、主磁極およびリターン磁極の磁化が揺れ、主磁極およびリターン磁極にスピン波が生じることとなる。このスピン波によるエネルギーロスが大きくなり、スピントルク発振子の発振が抑制される。その結果、垂直記録媒体の記録層の磁化反転を行うための高周波磁界の強度が不足し、十分な記録能力を発揮することが困難な場合がある。
【0007】
この発明の課題は、十分な記録能力の発揮し、安定した記録特性を得ることが可能な磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、磁気ヘッドは、記録媒体の記録層に対し記録磁界を印加する主磁極と、前記主磁極にライトギャップを置いて対向するリターン磁極と、前記主磁極とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生する高周波発振素子と、を備え、前記主磁極および前記リターン磁極の少なくとも一方は、前記高周波発振素子に対向し、磁性体層と非磁性体層を積層した積層構造部を有している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)を示す斜視図。
【図2】図2は、前記HDDにおける磁気ヘッドおよびサスペンションを示す側面図。
【図3】図3は、前記磁気ヘッドのヘッド部を拡大して示す断面図。
【図4】図4は、記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図5】図5は、前記記録ヘッドの磁気ディスク側の端部を拡大して示す断面図。
【図6】図6は、前記記録ヘッド部分をスライダのディスク対向面側から見た配置図。
【図7】図7は、スピントルク発振子から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子近傍の積層構造部との関係を示す図。
【図8】図8は、積層構造部を持たない比較例に係る記録ヘッド部分をスライダのディスク対向面側から見た配置図。
【図9】図9は、第2の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図10】図10は、第3の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図11】図11は、前記第3の実施形態において、スピントルク発振子から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子近傍の積層構造部との関係を示す図。
【図12】図12は、第4の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図13】図13は、前記第4の実施形態において、スピントルク発振子から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子近傍の積層構造部との関係を示す図。
【図14】図14は、第5の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、ディスク装置として、第1の実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)のトップカバーを取り外して内部構造を示し、図2は、浮上状態の磁気ヘッドを示している。図1に示すように、HDDは筐体10を備えている。この筐体10は、上面の開口した矩形箱状のベース11と、図示しない矩形板状のトップカバーとを備えている。トップカバーは、複数のねじによりベースにねじ止めされ、ベースの上端開口を閉塞している。これにより、筐体10内部は気密に保持され、呼吸フィルター26を通してのみ、外部と通気可能となっている。
【0011】
ベース11上には、記録媒体としての磁気ディスク12および駆動部が設けられている。駆動部は、磁気ディスク12を支持および回転させるスピンドルモータ13、磁気ディスクに対して情報の記録、再生を行なう複数、例えば、2つの磁気ヘッド33、これらの磁気ヘッド33を磁気ディスク12の表面に対して移動自在に支持したヘッドアクチュエータ14、ヘッドアクチュエータを回動および位置決めするボイスコイルモータ(以下VCMと称する)16を備えている。また、ベース11上には、磁気ヘッド33が磁気ディスク12の最外周に移動した際、磁気ヘッド33を磁気ディスク12から離間した位置に保持するランプロード機構18、HDDに衝撃等が作用した際、ヘッドアクチュエータ14を退避位置に保持するイナーシャラッチ20、およびプリアンプ、ヘッドIC等の電子部品が実装された基板ユニット17が設けられている。
【0012】
ベース11の外面には、制御回路基板25がねじ止めされ、ベース11の底壁と対向して位置している。制御回路基板25は、基板ユニット17を介してスピンドルモータ13、VCM16、および磁気ヘッド33の動作を制御する
図1および図2に示すように、磁気ディスク12は、垂直磁気記録膜媒体として構成されている。磁気ディスク12は、例えば、直径約2.5インチの円板状に形成され非磁性体からなる基板19を有している。基板19の各表面には、下地層としての軟磁性層23と、その上層部に、ディスク面に対して垂直方向に磁気異方性を有する垂直磁気記録層22とが順次積層され、さらにその上に保護膜24が形成されている。
【0013】
図1に示すように、磁気ディスク12は、スピンドルモータ13のハブに互いに同軸的に嵌合されているとともにハブの上端にねじ止めされたクランプばね21によりクランプされ、ハブに固定されている。磁気ディスク12は、駆動モータとしてのスピンドルモータ13により所定の速度で矢印B方向に回転される。
【0014】
ヘッドアクチュエータ14は、ベース11の底壁上に固定された軸受部15と、軸受部から延出した複数のアーム27と、を備えている。これらのアーム27は、磁気ディスク12の表面と平行に、かつ、互いに所定の間隔を置いて位置しているとともに、軸受部15から同一の方向へ延出している。ヘッドアクチュエータ14は、弾性変形可能な細長い板状のサスペンション30を備えている。サスペンション30は、板ばねにより構成され、その基端がスポット溶接あるいは接着によりアーム27の先端に固定され、アームから延出している。各サスペンション30の延出端にジンバルばね41を介して磁気ヘッド33が支持されている。サスペンション30、ジンバルばね41、および磁気ヘッド33により、ヘッドジンバルアッセンブリを構成している。なお、ヘッドアクチュエータ14は、軸受部15のスリーブと、複数のアームとを一体に形成したいわゆるEブロックを備えた構成としてもよい。
【0015】
図2に示すように、各磁気ヘッド33は、ほぼ直方体形状のスライダ42とこのスライダの流出端(トレーリング端)に設けられた記録再生用のヘッド部44とを有している。各磁気ヘッド33は、サスペンション30の弾性により、磁気ディスク12の表面に向かうヘッド荷重Lが印加されている。2本のアーム27は所定の間隔を置いて互いに平行に位置し、これらのアームに取り付けられたサスペンション30および磁気ヘッド33は、磁気ディスク12を間に挟んで互いに向かい合っている。
【0016】
各磁気ヘッド33は、サスペンション30およびアーム27上に固定された中継フレキシブルプリント回路基板(以下、中継FPCと称する)35を介して後述するメインFPC38に電気的に接続されている。
【0017】
図1に示すように、基板ユニット17は、フレキシブルプリント回路基板により形成されたFPC本体36と、このFPC本体から延出したメインFPC38とを有している。FPC本体36は、ベース11の底面上に固定されている。FPC本体36上には、プリアンプ37、ヘッドICを含む電子部品が実装されている。メインFPC38の延出端は、ヘッドアクチュエータ14に接続され、各中継FPC35を介して磁気ヘッド33に接続されている。
【0018】
VCM16は、軸受部15からアーム27と反対方向に延出した図示しない支持フレーム、および支持フレームに支持されたボイスコイルを有している。ヘッドアクチュエータ14をベース11に組み込んだ状態において、ボイスコイルは、ベース11上に固定された一対のヨーク34間に位置し、これらのヨークおよびヨークに固定された磁石とともにVCM16を構成している。
【0019】
磁気ディスク12が回転した状態でVCM16のボイスコイルに通電することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は磁気ディスク12の所望のトラック上に移動および位置決めされる。この際、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の径方向に沿って、磁気ディスクの内周縁部と外周縁部との間を移動される。
【0020】
次に、磁気ヘッド33の構成について詳細に説明する。図3は、磁気ヘッド33のヘッド部44を拡大して示す断面図、図4は、記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図、図5は、記録ヘッドの磁気ディスク側の端部を拡大して示す断面図、図6は、記録ヘッド部分をスライダのABS面側から見た配置図である。
【0021】
図2および図3に示すように、磁気ヘッド33は浮上型のヘッドとして構成され、ほぼ直方体状に形成されたスライダ42と、スライダの流出端(トレーリング)側の端部に形成されたヘッド部44とを有している。スライダ42は、例えば、アルミナとチタンカーバイドの焼結体(アルチック)で形成され、ヘッド部44は薄膜により形成されている。
【0022】
スライダ42は、磁気ディスク12の表面に対向する矩形状のディスク対向面(空気支持面(ABS面))43を有している。スライダ42は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより、磁気ディスク表面から所定量浮上した状態に維持される。空気流Cの方向は、磁気ディスク12の回転方向Bと一致している。スライダ42は、磁気ディスク12表面に対し、ディスク対向面43の長手方向が空気流Cの方向とほぼ一致するように配置されている。
【0023】
スライダ42は、空気流Cの流入側に位置するリーディング端42aおよび空気流Cの流出側に位置するトレーリング端42bを有している。スライダ42のディスク対向面43には、図示しないリーディングステップ、トレーリングステップ、サイドステップ、負圧キャビティ等が形成されている。
【0024】
図3および図4に示すように、ヘッド部44は、スライダ42のトレーリング端42bに薄膜プロセスで形成された再生ヘッド54および記録ヘッド56を有し、分離型磁気ヘッドとして形成されている。
【0025】
再生ヘッド54は、磁気抵抗効果を示す磁性膜50と、この磁性膜のトレーリング側およびリーディング側に磁性膜50を挟むように配置されたシールド膜52a、52bと、で構成されている。これら磁性膜50、シールド膜52a、52bの下端は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。
【0026】
記録ヘッド56は、再生ヘッド54に対して、スライダ42のトレーリング端42b側に設けられている。記録ヘッド56は、トレーリング端側にリターン磁極をもつ単磁極ヘッドとして構成されている。
【0027】
記録ヘッド56は、磁気ディスク12の表面に対して垂直方向の記録磁界を発生させる高透磁率材料からなる主磁極66と、主磁極66のトレーリング側に配置され、主磁極直下の軟磁性層23を介して効率的に磁路を閉じるために設けられたリターン磁極(ライトシールド磁極)68と、磁気ディスク12に信号を書き込む際、主磁極66に磁束を流すために主磁極66およびリターン磁極68を含む磁気磁路に巻きつくように配置された記録コイル71と、を有している。
【0028】
主磁極66とリターン磁極68とに電源70が接続され、この電源から主磁極66、リターン磁極68を通して電流を直列に通電できるように電流回路が構成されている。
【0029】
図3ないし図6に示すように、主磁極66は、磁気ディスク12の表面に対してほぼ垂直に延びている。主磁極66の磁気ディスク12側の先端部66aは、ディスク面に向かって先細に絞り込まれている。主磁極66の先端部66aは、例えば、断面が矩形状に形成され、主磁極66の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。本実施形態において、主磁極66の先端部66aの幅は、磁気ディスク12におけるトラックの幅にほぼ対応している。
【0030】
リターン磁極68は、ほぼU字形状に形成され、その先端部68aは、細長い矩形状に形成されている。リターン磁極68の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。先端部68aのリーディング側端面68bは、磁気ディスク12のトラックの幅方向に沿って延びている。このリーディング側端面68bは、主磁極66のトレーリング側端面67aとライトギャップWGを置いてほぼ平行に対向している。
【0031】
記録ヘッド56は、主磁極66の先端部66aとリターン磁極68との間に設けられた高周波発振子、例えば、スピントルク発振子74を備えている。スピントルク発振子74は、主磁極66の先端部66aのトレーリング側端面67aとリターン磁極68のリーディング側端面68bとの間に挟まれ、これらの端面と平行に配置されている。スピントルク発振子74は、その先端がABS面43に露出し、磁気ディスク12の表面に対して、主磁極66の先端面と同一の高さ位置に設けられている。スピントルク発振子74は、前述した制御回路基板25の制御の下、電源70から主磁極66、リターン磁極68に電圧を印加することにより、スピントルク発振子74の膜厚方向に直流電流が印加される。通電することにより、スピントルク発振子74の発振層の磁化が回転し、高周波磁界を発生させることが可能となる。これにより、磁気ディスク12の記録層に高周波磁界を印加する。このように、リターン磁極68と主磁極66はスピントルク発振子74に垂直通電する電極として働くことになる。
【0032】
図3および図4に示すように、リターン磁極68は、ライトギャップWG、すなわち、スライダのディスク対向面から離れた位置で、主磁極66の上部に接近した連結部65を有している。この連結部65は、例えばSiO2等の絶縁体で形成されたバックギャップ部67を介して主磁極66に連結されている。この絶縁体により、主磁極66とリターン磁極68とが電気的に絶縁している。このように、バックギャップ部67を絶縁体で構成することにより、スピントルク発振子74の電極と兼用している主磁極66およびリターン磁極68を通じて、電源790から効率的にスピントルク発振子74に電流を印加することが可能となる。バックギャップ部67の絶縁体はSiO2以外にも、Al2O2を用いてもよい。
【0033】
バックギャップ部67をSi、Geといった半導体で構成してもよい。絶縁体もしくは半導体からなるバックギャップ部67の一部に電気伝導体を含めて主磁極66とリターン磁極68を電気的に接続してもよい。このような構成にすることで、プロセス加工中の静電気の放電がバックギャップ部67を通じて起こるため、スピントルク発振子74の製造プロセス中の損傷を防ぐことが可能となり、歩留まりを向上することができる。また、バックギャップ部67の電気抵抗をスピントルク発振子74の電気抵抗と同程度以上に設定することで、スピントルク発振子74に十分な電流を印加することができる。
【0034】
図3ないし図6に示すように、スピントルク発振子74は、例えば、Ta/Ruの積層膜からなる下地層74a、膜厚20nmのCoPt磁性膜からなるスピン注入層(第2磁性体層)74b、膜厚2nmのCu中間層74c、膜厚13nmのFeCoAl磁性膜からなる発振層(第1磁性体層)74d、Cu/Ruの積層膜からなるキャップ層74eを、主磁極66側からリターン磁極68側に順に積層して構成されている。そして、下地層74aとキャップ層74eが電極を兼用する主磁極66とリターン磁極68とにそれぞれ接続している。主磁極66の先端部66aのトレーリング側端面67aのトラック幅方向長さは、スピントルク発振子74のトラック幅方向長さよりも長いことが好ましい。
【0035】
発振層(第1磁性体層)74dの保磁力は、主磁極66から印加される磁界よりも小さく、また、スピン注入層(第2磁性体層)74bの保磁力は、主磁極66から印加される磁界よりも小さい。
【0036】
スピン注入層74bおよび発振層74dの材料として、CoPt、FeCoAlの他、CoFe、CoNiFe、NiFe、CoZrNb、FeN、FeSi、FeAlSi、FeCoAl、FeCoSi、CoFeB等の、比較的、飽和磁束密度が大きく膜面内方向に磁気異方性を有する軟磁性層やCoIr等の膜面内方向に磁化が配向したCoCr系の磁性合金膜を用いることができる。
【0037】
また、スピン注入層74bおよび発振層74dには、膜面に対して垂直方向に磁化配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNb等のCoCr系磁性、TbFeCo等のRE−TM系アモルファス合金磁性層、Co/Pd、Co/Pt、Co/Ni、CoCrTa/Pd等のCo人工格子磁性層、CoPt系やFePt系の合金磁性層、SmCo系合金磁性層など、垂直配向性に優れた材料も適宜用いることができる。更に、飽和磁化や異方性磁界を調整するために、複数の上記材料を積層した積層膜を用いることもできる。積層膜を用いた場合には、発振層74dとスピン注入層74bとの飽和磁束密度(Bs)及び異方性磁界(Hk)を調整することができる。
【0038】
発振層74dには、例えば、高Bs軟磁性材料(FeCo/NiFe積層膜)の厚さが5nm〜20nmの膜を用いることができる。この時、例えば、スピン注入層74bには、膜面垂直方向に磁化配向したCoPt合金からなる厚さが2nm〜60nmの膜を用いることができる。
【0039】
中間層74cとしては、Cu、Au、Agなどのスピン透過率の高い非磁性材料を用いることができる。中間層74cの膜厚は、1原子層から3nm程度とすることができる。これにより発振層74cとスピン注入層74bの交換結合を少なくすることが可能となる。
【0040】
スピントルク発振子74の素子のサイズ(積層方向に対して垂直な平面で切断したときの断面の大きさ)は、10nm四方から100nm四方にすることが望ましく、素子形状も直方体だけでなく、円柱状や六角柱状としてもよい。ただし、このサイズに限定されることなく、発振層74d、スピン注入層74bおよび中間層74cに用いられる材料及びこれらの大きさは任意に選択可能である。
なお、スピン注入層74b、中間層74c、発振層74dの順に積層したが、発振層、中間層、スピン注入層の順に積層してもよい。この場合、主磁極66と発振層74dとの距離が近くなり、主磁極66が発生する記録磁界と、発振層が発生する高周波磁界とが効率的に重畳する範囲が、媒体上で広くなり、良好な記録が可能となる。
【0041】
主磁極66およびリターン磁極68の少なくとも一方において、スピントルク発振子74と対向する部分は、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部を構成している。本実施形態では、主磁極66の先端部66aにおいて、スピントルク発振子74と対向および接触する部分は、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部80を構成している。すなわち、積層構造部80は、ライトギャップGWの幅方向に沿って、複数の磁性体層80aと複数の非磁性体層80bとを交互に積層して形成されている。すなわち、各磁性体層80aおよび非磁性体層80は、スライダ42のディスク対向面43および磁気ディスク12の表面に対して、ほぼ垂直に延在している。
【0042】
磁性体層80aは、例えば、膜厚12nmの飽和磁束密度が大きなFeCo合金、非磁性体層80bは、例えば、膜厚0.5nmの良好な電気伝導特性を有するTaから構成されている。
【0043】
図7は、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子74近傍の主磁極先端部66aの積層構造との関係を示している。なお、スピントルク発振子74の発振層74dは、大きさ50nm、膜厚13nmのFeCoAl、媒体中心までの距離は20nm、印加した電流は2.8×108A/cm2である。また、積層構造部80を構成する非磁性体層80bの膜厚は一定とし、1組の磁性体層80aと非磁性体層80bの積層の合計膜厚を50nm〜6nmとしている。図7から、1組の積層の合計膜厚が25nmの場合が、発振層74dが最もよく発振し、最も大きな高周波磁界強度が得られることが分かる。
【0044】
図6に示すように、スピントルク発振子74の発振層74dからの高周波磁界により、主磁極66およびリターン磁極68の磁化が動く。その結果、主磁極66およびリターン磁極68にはスピン波が生じることとなる。スピントルク発振子74の発振周波数に応じて、最適なスピン波の波長があるが、主磁極66は磁性体層80aと非磁性体層80bとの積層構造部80を有していることから、磁性体層間の交換結合力が0となり、積層構造部80で分断される。この結果、最適なスピン波の波長でなく、1つの磁性体層80aの膜厚に応じたスピン波が励起されることになり、スピン波の振幅が減少することになる。したがって、スピン波による主磁極66のエネルギーロスが減少する。その結果、スピントルクによるエネルギーは主に、スピントルク発振子74で消費されることになる。すなわち、発振層74dの発振振幅が大きくなる。このことから、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度が大きくなる。
【0045】
図8は、比較例として、積層構造部を持たない主磁極66を有する記録ヘッドを示し、主磁極66、スピントルク発振子74、リターン磁極68の磁化挙動の浮上面からの要部平面図である。この場合、スピントルク発振子74の発振周波数に応じた、最適な波長でのスピン波が励起可能であり、スピン波の振幅が大きくなる。このため、スピン波による主磁極66でのエネルギーロスが大きくなり、スピントルク発振子74の発振層の発振振幅の減少を招き、発生する円偏光高周波磁界強度が小さくなる。
【0046】
高周波アシスト記録時に、主磁極はほぼ飽和し、磁化が垂直の面と水平の面とがあることを考慮すると、主磁極に励起されるスピン波の波長(λ)は、
【数1】
【0047】
で表される。
ここで、A:交換結合定数、Ms:飽和磁化、fSTO:スピントルク発振子(STO)の周波数、γ:ジャイロ定数である。
【0048】
磁性体層80aの膜厚が、スピン波の半波長(1/2λ)から短くなるにつれ、スピン波は徐々に抑制され、膜厚が半整数倍(1/2)、すなわち1/4λの時、最も抑制される。一方、基本スピン波に付随ずる二倍の高調波が生じるため、磁性体層80aの膜厚が、膜厚が1/8λより短くなると、抑制効果が失われることとなる。交換結合定数Aは飽和磁化Msに比例し、ジャイロ定数γは定数であることを考慮すると、磁性体層80aの膜厚tは、下記の式で表される関係を満たすことが望ましい。
【数2】
【0049】
ここで、飽和磁化Msの単位はemu/cc, 周波数fの単位はHz、膜厚tの単位はcmである。
【0050】
ここでは、飽和磁化Msは1900emu/cc、発振周波数fは25GHzを上記式2に代入すると、望ましい磁性体層80aの膜厚tは、7nm<t<30nmとなる。これは図7の結果とよく一致している。
【0051】
非磁性体層80bの材料は、Ru、W、Cu、Reを用い、その膜厚を1nm以下とすることが望ましい。これにより、隣り合う磁性体層80a間の交換結合力が反強磁性結合となるようにすることできる。この場合、磁性体層80aの表面に発生する磁荷が隣接する磁性体層に及ぼす磁界と、交換結合力による交換結合磁界とがお互いに打ち消しあう。その結果、磁性体層80a間の結合が非磁性体層80bにより効果的に分断され、スピン波の振幅が小さくなる。この結果、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。
【0052】
非磁性体層80bの材料は、Ta、Au、Ag、Al、Mgのような、電気伝導度に優れた材料を用いることが望ましい。このような材料を用いた場合、スピントルク発振子74近傍でのジュール発熱を抑えることが可能となり、より大きな駆動電流をスピントルク発振子74に印加可能となる。これにより、効率的にスピントルク発振子74が発振し、大きな高周波磁界強度の実現が可能となる。その結果、優れた記録特性を得ることができる。
【0053】
主磁極66において、積層構造部80以外の部分の磁性体の材料と、積層構造部の磁性体層の材料とは、同一の材料としてもよく、あるいは、別々の材料にしても良い。たとえば、積層構造部80を構成する磁性体層80aに、FeCoTaCといった材料を用いても良い。この材料では、飽和磁束密度を保ったまま、結晶粒間にTaCが偏析し、FeCoで構成される結晶粒間の交換結合力を下げることが可能となる。その結果、磁性体層80a内のスピン波の伝達が抑制され、スピン波の振幅を抑制することできる。このため、効率的にスピントルク発振子74を発振させることが可能となり、良好高周波磁界を発生させ、優れた記録特性を得ることができる。
【0054】
以上のように構成されたHDDによれば、VCM16を駆動することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の所望のトラック上に移動され、位置決めされる。また、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより浮上する。HDDの動作時、スライダ42のディスク対向面43はディスク表面に対し隙間を保って対向している。図2に示すように、磁気ヘッド33は、ヘッド部44の記録ヘッド56部分が最も磁気ディスク12表面に接近した傾斜姿勢をとって浮上する。この状態で、磁気ディスク12に対して、再生ヘッド54により記録情報の読み出しを行うとともに、記録ヘッド56により情報の書き込みを行う。
【0055】
情報の書き込みにおいては、スピントルク発振子74に直流電流を通電して高周波磁界を発生させ、この高周波磁界を磁気ディスク12の垂直磁気記録層22に印加する。また、記録コイル71により主磁極66を励磁し、この主磁極から直下の磁気ディスク12の記録層22に垂直方向の記録磁界を印加することにより、所望のトラック幅にて情報を記録する。記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、高保持力かつ高磁気異方性エネルギーの磁気記録を行うことができる。そして、主磁極66に磁性体層と非磁性体層との積層構造部80を設けることにより、主磁極でのスピン波によるエネルギーロスを抑制し、十分な記録能力の発揮、安定した記録再生特性を得ることができる。これにより、記録信号品質の向上した良好な記録が可能な磁気ヘッドおよびこれを備えたHDDが得られる。
【0056】
次に、他の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドについて説明する。なお、以下に説明する他の実施形態において、前述した第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
【0057】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。本実施形態によれば、磁性体層80aと非磁性体層80bとを交互に積層した積層構造部80は、主磁極66全域に広がっている。すなわち、主磁極66全体が積層構造部80で構成されている。磁性体層80aと非磁性体層80bは、ライトギャップの幅方向に沿って交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。
【0058】
上記のように構成された第2の実施形態に係る記録ヘッド56によれば、主磁極66に磁性体層と非磁性体層との積層構造部80を設けることにより、主磁極でのスピン波によるエネルギーロスを抑制し、十分な記録能力の発揮、安定した記録再生特性を得ることができる。これにより、記録信号品質の向上した良好な記録が可能な磁気ヘッドおよびこれを備えたHDDが得られる。また、磁性体層80aと非磁性体層80bとの積層膜で、主磁極66全体を作成することで、主磁極66の成膜プロセスを1回で終了することが可能となり、効率的な加工プロセスを可能とすることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。図10に示すように、第3の実施形態によれば、主磁極66全体が磁性体層80aと非磁性体層80bとを積層した積層構造部80で構成され、また、スピントルク発振子74に接触対向するリターン磁極68の先端部68aが磁性体層90aと非磁性体層90bとを積層した積層構造部90で構成されている。
【0060】
積層構造部90において、磁性体層90aと非磁性体層90bは、ライトギャップの幅方向に沿って交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。
【0061】
図11は、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度と、スピントルク発振子近傍のリターン磁極先端部の積層構造部90との関係を示している。ここでは、スピントルク発振子74の発振層は、大きさ50nm、膜厚13nmのFeCoAl、媒体中心までの距離は20nm、印加した電流は2.8×108A/cm2としている。また、リターン磁極68の積層構造部90を構成する非磁性体層90aの膜厚は一定とし、1組の磁性体層90aと非磁性体層90bの積層膜の合計膜厚を50nm〜6nmとしている。図11から、1組の積層膜の合計膜厚が18.75nmの場合が、発振層が最もよく発振し、最も大きな高周波磁界強度を得られることが分かる。
【0062】
ここで、リターン磁極68の飽和磁化Msは、1510emu/cc、発振周波数fは30GHzを前述した式2に代入すると、望ましい膜厚tは、23nm>t>6nmとなり、図11の結果とよく一致する。
【0063】
HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。また、磁性体層90aと非磁性体層90bからなる積層膜の膜構成、材料等は、第1の実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0064】
上記構成の第3の実施形態によれば、主磁極66ならびにリターン磁極68に、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部を設けることにより、スピントルク発振子74が発振した場合に、主磁極66およびリターン磁極68で発生するスピン波の磁化振幅を抑制することが可能となる。このため、主磁極66およびリターン磁極68でのエネルギーロスが抑制され、効率的に発振層の磁化を発振し、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。
【0065】
(第4の実施形態)
図12は、第4の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。第4の実施形態によれば、主磁極66は、磁気ディスク側の先端部66aからリターン磁極68側に突出した突出部92を有し、この突出部92は、ライトギャップGWをおいて、リターン磁極68の先端部68aと対向している。そして、この突出部92とリターン磁極68の先端部68aとの間にスピントルク発振子74が挟まれている。
【0066】
突出部92は、磁性体層80aと非磁性体層80bとを積層した積層構造部80で構成されている。積層構造部80において、磁性体層80aと非磁性体層80bは、ライトギャップの幅方向に沿って、すなわち、突出部92の突出方向に沿って、交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。
【0067】
積層構造部80を構成する積層膜は、膜厚11.7nm、飽和磁化1900emu/ccの磁性体層と、膜厚0.8nm、Ruの非磁性体層との積層構造を有し、合計膜厚は12.5nmとなっている。非磁性体Ruにより、非磁性体Ruに接する両側の磁性体層80aは反強磁性結合している。
【0068】
また、スピントルク発振子74に接触対向するリターン磁極68の先端部68aが磁性体層90aと非磁性体層90bとを積層した積層構造部90で構成されている。積層構造部90において、磁性体層90aと非磁性体層90bは、ライトギャップWGの幅方向に沿って交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。
【0069】
図13は、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度と、スピントルク発振子74近傍のリターン磁極先端部の積層構造との関係を示している。なお、スピントルク発振子74の発振層は、大きさ50nm、膜厚13nmのFeCoAl、媒体中心までの距離は20nm、印加した電流は2.8×108A/cm2である。図13に示すように、積層構造とすることにより、積層構造としない場合に比べて、発振層がよく発振し、良好は高周波磁界強度を得られた。
【0070】
このように、主磁極20の突出部92およびリターン磁極68を、磁性体層と非磁性体層との積層構造部で構成することにより、スピントルク発振子74が発振した場合に、主磁極66およびリターン磁極68で発生するスピン波の磁化振幅を抑制することが可能となる。このため、主磁極66およびリターン磁極68でのエネルギーロスが抑制され、効率的に発振層の磁化を発振し、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。
【0071】
本実施形態では、主磁極66の積層構造部は、主磁極66の突出部92のみとしたが、主磁極の他の部分も積層構造としても良い。また、非磁性体層はRu以外にも、W、Cu、Reを用い、膜厚を1nm以下としてもよい。このような構成にすることで、非磁性体層に接する両側の磁性体層は反強磁性結合し、その結果、エネルギーロスが抑制され、大きな高周波磁界強度を得ることができる。これにより、優れた記録特性を得ることができる。HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。磁性体層と非磁性体層との積層膜の膜構成、材料等は、前述した第1の実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0072】
(第5の実施形態)
図14は、第5の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。主磁極66の先端部66aにおいて、スピントルク発振子74と接触、対向する部分は、磁性体層80aと非磁性体層80bとを積層した積層構造部80を構成している。本実施形態では、積層構造部80は、ライドギャップWGの高さ方向、すなわち、スライダのディスク対向面にほぼ垂直な方向に沿って、複数の磁性体層80aと複数の非磁性体層80bとを交互に積層して形成されている。各磁性体層80aおよび非磁性体層80は、スライダのディスク対向面とほぼ平行に延在している。
【0073】
HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。磁性体層と非磁性体層との積層膜の膜構成、材料等は、前述した第1の実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0074】
上記構成の第3の実施形態によれば、主磁極66に、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部を設けることにより、スピントルク発振子74が発振した場合に、主磁極66で発生するスピン波の磁化振幅を抑制することが可能となる。このため、主磁極66およびリターン磁極68でのエネルギーロスが抑制され、効率的に発振層の磁化を発振し、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。なお、第3の実施形態において、リターン磁極68側にも積層構造部を設けても良い。
【0075】
以上に述べた種々の実施形態によれば、十分な記録能力の発揮し、安定した記録特性を得ることが可能な磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置を提供することができる。
【0076】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、高周波発振子はスピントルク発振子に限らず、電線による発生源等、他の高周波発生源を用いても良い。積層構造部において、非磁性体層および磁性体層の数は、上述した実施形態に限定されることなく、必要に応じて変更可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…筺体、11…ベース、12…磁気ディスク、13…スピンドルモータ、
14…ヘッドアクチュエータ、25…制御回路基板、27…アーム、
30…サスペンション、42…スライダ、43…ディスク対向面、
44…ヘッド部、54…再生ヘッド、56…記録ヘッド、66…主磁極、
66a…先端部、68…リターン磁極、68a…先端部、
68b…トレーディング側端面、70…電源、71…記録コイル、
74…スピントルク発振子、80、90…積層構造部、
80a、90a…磁性体層、80b、90b…非磁性体層、92…突出部
WG…ライトギャップ
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ディスク装置に用いる垂直磁気記録用の磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置として、例えば、磁気ディスク装置は、ケース内に配設された磁気ディスクと、磁気ディスクを支持および回転するスピンドルモータと、磁気ディスクに対して情報のリード/ライトを行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリと、を備えている。磁気ヘッドのヘッド部は、ライト用の記録ヘッドとリード用の再生ヘッドとを含んでいる。
【0003】
近年、磁気ディスク装置の高記録密度化、大容量化あるいは小型化を図るため、垂直磁気記録用の磁気ヘッドが提案されている。このような磁気ヘッドにおいて、記録ヘッドは、垂直方向磁界を発生させる主磁極と、その主磁極のトレーリング側にライトギャップを挟んで配置されて磁気ディスクとの間で磁路を閉じるリターン磁極、あるいはライトシールド磁極と、主磁極に磁束を流すためのコイルとを有している。
【0004】
記録密度の向上を図る目的で、主磁極とリターン磁極との間に高周波発振素子としてスピントルク発振子を設け、このスピントルク発振子から磁気記録層に高周波磁界を印加する高周波磁界アシスト記録方式の磁気ヘッドが提案されている。この磁気ヘッドは、ギャップ磁界を大きくとるために、主磁極とリターン磁極が対向する面の間の距離を減少させた構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−070541号公報
【特許文献2】特開2010−182361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記磁気ヘッドの場合、主磁極およびリターン磁極と、スピントルク発振子とが近接している。また、主磁極およびリターン磁極は、それぞれ連続膜からなる磁性体で構成されている。このため、スピントルク発振子の発振によって生じる高周波磁界により、主磁極およびリターン磁極の磁化が揺れ、主磁極およびリターン磁極にスピン波が生じることとなる。このスピン波によるエネルギーロスが大きくなり、スピントルク発振子の発振が抑制される。その結果、垂直記録媒体の記録層の磁化反転を行うための高周波磁界の強度が不足し、十分な記録能力を発揮することが困難な場合がある。
【0007】
この発明の課題は、十分な記録能力の発揮し、安定した記録特性を得ることが可能な磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、磁気ヘッドは、記録媒体の記録層に対し記録磁界を印加する主磁極と、前記主磁極にライトギャップを置いて対向するリターン磁極と、前記主磁極とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生する高周波発振素子と、を備え、前記主磁極および前記リターン磁極の少なくとも一方は、前記高周波発振素子に対向し、磁性体層と非磁性体層を積層した積層構造部を有している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)を示す斜視図。
【図2】図2は、前記HDDにおける磁気ヘッドおよびサスペンションを示す側面図。
【図3】図3は、前記磁気ヘッドのヘッド部を拡大して示す断面図。
【図4】図4は、記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図5】図5は、前記記録ヘッドの磁気ディスク側の端部を拡大して示す断面図。
【図6】図6は、前記記録ヘッド部分をスライダのディスク対向面側から見た配置図。
【図7】図7は、スピントルク発振子から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子近傍の積層構造部との関係を示す図。
【図8】図8は、積層構造部を持たない比較例に係る記録ヘッド部分をスライダのディスク対向面側から見た配置図。
【図9】図9は、第2の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図10】図10は、第3の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図11】図11は、前記第3の実施形態において、スピントルク発振子から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子近傍の積層構造部との関係を示す図。
【図12】図12は、第4の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【図13】図13は、前記第4の実施形態において、スピントルク発振子から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子近傍の積層構造部との関係を示す図。
【図14】図14は、第5の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)における記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、ディスク装置として、第1の実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)のトップカバーを取り外して内部構造を示し、図2は、浮上状態の磁気ヘッドを示している。図1に示すように、HDDは筐体10を備えている。この筐体10は、上面の開口した矩形箱状のベース11と、図示しない矩形板状のトップカバーとを備えている。トップカバーは、複数のねじによりベースにねじ止めされ、ベースの上端開口を閉塞している。これにより、筐体10内部は気密に保持され、呼吸フィルター26を通してのみ、外部と通気可能となっている。
【0011】
ベース11上には、記録媒体としての磁気ディスク12および駆動部が設けられている。駆動部は、磁気ディスク12を支持および回転させるスピンドルモータ13、磁気ディスクに対して情報の記録、再生を行なう複数、例えば、2つの磁気ヘッド33、これらの磁気ヘッド33を磁気ディスク12の表面に対して移動自在に支持したヘッドアクチュエータ14、ヘッドアクチュエータを回動および位置決めするボイスコイルモータ(以下VCMと称する)16を備えている。また、ベース11上には、磁気ヘッド33が磁気ディスク12の最外周に移動した際、磁気ヘッド33を磁気ディスク12から離間した位置に保持するランプロード機構18、HDDに衝撃等が作用した際、ヘッドアクチュエータ14を退避位置に保持するイナーシャラッチ20、およびプリアンプ、ヘッドIC等の電子部品が実装された基板ユニット17が設けられている。
【0012】
ベース11の外面には、制御回路基板25がねじ止めされ、ベース11の底壁と対向して位置している。制御回路基板25は、基板ユニット17を介してスピンドルモータ13、VCM16、および磁気ヘッド33の動作を制御する
図1および図2に示すように、磁気ディスク12は、垂直磁気記録膜媒体として構成されている。磁気ディスク12は、例えば、直径約2.5インチの円板状に形成され非磁性体からなる基板19を有している。基板19の各表面には、下地層としての軟磁性層23と、その上層部に、ディスク面に対して垂直方向に磁気異方性を有する垂直磁気記録層22とが順次積層され、さらにその上に保護膜24が形成されている。
【0013】
図1に示すように、磁気ディスク12は、スピンドルモータ13のハブに互いに同軸的に嵌合されているとともにハブの上端にねじ止めされたクランプばね21によりクランプされ、ハブに固定されている。磁気ディスク12は、駆動モータとしてのスピンドルモータ13により所定の速度で矢印B方向に回転される。
【0014】
ヘッドアクチュエータ14は、ベース11の底壁上に固定された軸受部15と、軸受部から延出した複数のアーム27と、を備えている。これらのアーム27は、磁気ディスク12の表面と平行に、かつ、互いに所定の間隔を置いて位置しているとともに、軸受部15から同一の方向へ延出している。ヘッドアクチュエータ14は、弾性変形可能な細長い板状のサスペンション30を備えている。サスペンション30は、板ばねにより構成され、その基端がスポット溶接あるいは接着によりアーム27の先端に固定され、アームから延出している。各サスペンション30の延出端にジンバルばね41を介して磁気ヘッド33が支持されている。サスペンション30、ジンバルばね41、および磁気ヘッド33により、ヘッドジンバルアッセンブリを構成している。なお、ヘッドアクチュエータ14は、軸受部15のスリーブと、複数のアームとを一体に形成したいわゆるEブロックを備えた構成としてもよい。
【0015】
図2に示すように、各磁気ヘッド33は、ほぼ直方体形状のスライダ42とこのスライダの流出端(トレーリング端)に設けられた記録再生用のヘッド部44とを有している。各磁気ヘッド33は、サスペンション30の弾性により、磁気ディスク12の表面に向かうヘッド荷重Lが印加されている。2本のアーム27は所定の間隔を置いて互いに平行に位置し、これらのアームに取り付けられたサスペンション30および磁気ヘッド33は、磁気ディスク12を間に挟んで互いに向かい合っている。
【0016】
各磁気ヘッド33は、サスペンション30およびアーム27上に固定された中継フレキシブルプリント回路基板(以下、中継FPCと称する)35を介して後述するメインFPC38に電気的に接続されている。
【0017】
図1に示すように、基板ユニット17は、フレキシブルプリント回路基板により形成されたFPC本体36と、このFPC本体から延出したメインFPC38とを有している。FPC本体36は、ベース11の底面上に固定されている。FPC本体36上には、プリアンプ37、ヘッドICを含む電子部品が実装されている。メインFPC38の延出端は、ヘッドアクチュエータ14に接続され、各中継FPC35を介して磁気ヘッド33に接続されている。
【0018】
VCM16は、軸受部15からアーム27と反対方向に延出した図示しない支持フレーム、および支持フレームに支持されたボイスコイルを有している。ヘッドアクチュエータ14をベース11に組み込んだ状態において、ボイスコイルは、ベース11上に固定された一対のヨーク34間に位置し、これらのヨークおよびヨークに固定された磁石とともにVCM16を構成している。
【0019】
磁気ディスク12が回転した状態でVCM16のボイスコイルに通電することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は磁気ディスク12の所望のトラック上に移動および位置決めされる。この際、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の径方向に沿って、磁気ディスクの内周縁部と外周縁部との間を移動される。
【0020】
次に、磁気ヘッド33の構成について詳細に説明する。図3は、磁気ヘッド33のヘッド部44を拡大して示す断面図、図4は、記録ヘッドおよい再生ヘッドを模式的に示す斜視図、図5は、記録ヘッドの磁気ディスク側の端部を拡大して示す断面図、図6は、記録ヘッド部分をスライダのABS面側から見た配置図である。
【0021】
図2および図3に示すように、磁気ヘッド33は浮上型のヘッドとして構成され、ほぼ直方体状に形成されたスライダ42と、スライダの流出端(トレーリング)側の端部に形成されたヘッド部44とを有している。スライダ42は、例えば、アルミナとチタンカーバイドの焼結体(アルチック)で形成され、ヘッド部44は薄膜により形成されている。
【0022】
スライダ42は、磁気ディスク12の表面に対向する矩形状のディスク対向面(空気支持面(ABS面))43を有している。スライダ42は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより、磁気ディスク表面から所定量浮上した状態に維持される。空気流Cの方向は、磁気ディスク12の回転方向Bと一致している。スライダ42は、磁気ディスク12表面に対し、ディスク対向面43の長手方向が空気流Cの方向とほぼ一致するように配置されている。
【0023】
スライダ42は、空気流Cの流入側に位置するリーディング端42aおよび空気流Cの流出側に位置するトレーリング端42bを有している。スライダ42のディスク対向面43には、図示しないリーディングステップ、トレーリングステップ、サイドステップ、負圧キャビティ等が形成されている。
【0024】
図3および図4に示すように、ヘッド部44は、スライダ42のトレーリング端42bに薄膜プロセスで形成された再生ヘッド54および記録ヘッド56を有し、分離型磁気ヘッドとして形成されている。
【0025】
再生ヘッド54は、磁気抵抗効果を示す磁性膜50と、この磁性膜のトレーリング側およびリーディング側に磁性膜50を挟むように配置されたシールド膜52a、52bと、で構成されている。これら磁性膜50、シールド膜52a、52bの下端は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。
【0026】
記録ヘッド56は、再生ヘッド54に対して、スライダ42のトレーリング端42b側に設けられている。記録ヘッド56は、トレーリング端側にリターン磁極をもつ単磁極ヘッドとして構成されている。
【0027】
記録ヘッド56は、磁気ディスク12の表面に対して垂直方向の記録磁界を発生させる高透磁率材料からなる主磁極66と、主磁極66のトレーリング側に配置され、主磁極直下の軟磁性層23を介して効率的に磁路を閉じるために設けられたリターン磁極(ライトシールド磁極)68と、磁気ディスク12に信号を書き込む際、主磁極66に磁束を流すために主磁極66およびリターン磁極68を含む磁気磁路に巻きつくように配置された記録コイル71と、を有している。
【0028】
主磁極66とリターン磁極68とに電源70が接続され、この電源から主磁極66、リターン磁極68を通して電流を直列に通電できるように電流回路が構成されている。
【0029】
図3ないし図6に示すように、主磁極66は、磁気ディスク12の表面に対してほぼ垂直に延びている。主磁極66の磁気ディスク12側の先端部66aは、ディスク面に向かって先細に絞り込まれている。主磁極66の先端部66aは、例えば、断面が矩形状に形成され、主磁極66の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。本実施形態において、主磁極66の先端部66aの幅は、磁気ディスク12におけるトラックの幅にほぼ対応している。
【0030】
リターン磁極68は、ほぼU字形状に形成され、その先端部68aは、細長い矩形状に形成されている。リターン磁極68の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。先端部68aのリーディング側端面68bは、磁気ディスク12のトラックの幅方向に沿って延びている。このリーディング側端面68bは、主磁極66のトレーリング側端面67aとライトギャップWGを置いてほぼ平行に対向している。
【0031】
記録ヘッド56は、主磁極66の先端部66aとリターン磁極68との間に設けられた高周波発振子、例えば、スピントルク発振子74を備えている。スピントルク発振子74は、主磁極66の先端部66aのトレーリング側端面67aとリターン磁極68のリーディング側端面68bとの間に挟まれ、これらの端面と平行に配置されている。スピントルク発振子74は、その先端がABS面43に露出し、磁気ディスク12の表面に対して、主磁極66の先端面と同一の高さ位置に設けられている。スピントルク発振子74は、前述した制御回路基板25の制御の下、電源70から主磁極66、リターン磁極68に電圧を印加することにより、スピントルク発振子74の膜厚方向に直流電流が印加される。通電することにより、スピントルク発振子74の発振層の磁化が回転し、高周波磁界を発生させることが可能となる。これにより、磁気ディスク12の記録層に高周波磁界を印加する。このように、リターン磁極68と主磁極66はスピントルク発振子74に垂直通電する電極として働くことになる。
【0032】
図3および図4に示すように、リターン磁極68は、ライトギャップWG、すなわち、スライダのディスク対向面から離れた位置で、主磁極66の上部に接近した連結部65を有している。この連結部65は、例えばSiO2等の絶縁体で形成されたバックギャップ部67を介して主磁極66に連結されている。この絶縁体により、主磁極66とリターン磁極68とが電気的に絶縁している。このように、バックギャップ部67を絶縁体で構成することにより、スピントルク発振子74の電極と兼用している主磁極66およびリターン磁極68を通じて、電源790から効率的にスピントルク発振子74に電流を印加することが可能となる。バックギャップ部67の絶縁体はSiO2以外にも、Al2O2を用いてもよい。
【0033】
バックギャップ部67をSi、Geといった半導体で構成してもよい。絶縁体もしくは半導体からなるバックギャップ部67の一部に電気伝導体を含めて主磁極66とリターン磁極68を電気的に接続してもよい。このような構成にすることで、プロセス加工中の静電気の放電がバックギャップ部67を通じて起こるため、スピントルク発振子74の製造プロセス中の損傷を防ぐことが可能となり、歩留まりを向上することができる。また、バックギャップ部67の電気抵抗をスピントルク発振子74の電気抵抗と同程度以上に設定することで、スピントルク発振子74に十分な電流を印加することができる。
【0034】
図3ないし図6に示すように、スピントルク発振子74は、例えば、Ta/Ruの積層膜からなる下地層74a、膜厚20nmのCoPt磁性膜からなるスピン注入層(第2磁性体層)74b、膜厚2nmのCu中間層74c、膜厚13nmのFeCoAl磁性膜からなる発振層(第1磁性体層)74d、Cu/Ruの積層膜からなるキャップ層74eを、主磁極66側からリターン磁極68側に順に積層して構成されている。そして、下地層74aとキャップ層74eが電極を兼用する主磁極66とリターン磁極68とにそれぞれ接続している。主磁極66の先端部66aのトレーリング側端面67aのトラック幅方向長さは、スピントルク発振子74のトラック幅方向長さよりも長いことが好ましい。
【0035】
発振層(第1磁性体層)74dの保磁力は、主磁極66から印加される磁界よりも小さく、また、スピン注入層(第2磁性体層)74bの保磁力は、主磁極66から印加される磁界よりも小さい。
【0036】
スピン注入層74bおよび発振層74dの材料として、CoPt、FeCoAlの他、CoFe、CoNiFe、NiFe、CoZrNb、FeN、FeSi、FeAlSi、FeCoAl、FeCoSi、CoFeB等の、比較的、飽和磁束密度が大きく膜面内方向に磁気異方性を有する軟磁性層やCoIr等の膜面内方向に磁化が配向したCoCr系の磁性合金膜を用いることができる。
【0037】
また、スピン注入層74bおよび発振層74dには、膜面に対して垂直方向に磁化配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNb等のCoCr系磁性、TbFeCo等のRE−TM系アモルファス合金磁性層、Co/Pd、Co/Pt、Co/Ni、CoCrTa/Pd等のCo人工格子磁性層、CoPt系やFePt系の合金磁性層、SmCo系合金磁性層など、垂直配向性に優れた材料も適宜用いることができる。更に、飽和磁化や異方性磁界を調整するために、複数の上記材料を積層した積層膜を用いることもできる。積層膜を用いた場合には、発振層74dとスピン注入層74bとの飽和磁束密度(Bs)及び異方性磁界(Hk)を調整することができる。
【0038】
発振層74dには、例えば、高Bs軟磁性材料(FeCo/NiFe積層膜)の厚さが5nm〜20nmの膜を用いることができる。この時、例えば、スピン注入層74bには、膜面垂直方向に磁化配向したCoPt合金からなる厚さが2nm〜60nmの膜を用いることができる。
【0039】
中間層74cとしては、Cu、Au、Agなどのスピン透過率の高い非磁性材料を用いることができる。中間層74cの膜厚は、1原子層から3nm程度とすることができる。これにより発振層74cとスピン注入層74bの交換結合を少なくすることが可能となる。
【0040】
スピントルク発振子74の素子のサイズ(積層方向に対して垂直な平面で切断したときの断面の大きさ)は、10nm四方から100nm四方にすることが望ましく、素子形状も直方体だけでなく、円柱状や六角柱状としてもよい。ただし、このサイズに限定されることなく、発振層74d、スピン注入層74bおよび中間層74cに用いられる材料及びこれらの大きさは任意に選択可能である。
なお、スピン注入層74b、中間層74c、発振層74dの順に積層したが、発振層、中間層、スピン注入層の順に積層してもよい。この場合、主磁極66と発振層74dとの距離が近くなり、主磁極66が発生する記録磁界と、発振層が発生する高周波磁界とが効率的に重畳する範囲が、媒体上で広くなり、良好な記録が可能となる。
【0041】
主磁極66およびリターン磁極68の少なくとも一方において、スピントルク発振子74と対向する部分は、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部を構成している。本実施形態では、主磁極66の先端部66aにおいて、スピントルク発振子74と対向および接触する部分は、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部80を構成している。すなわち、積層構造部80は、ライトギャップGWの幅方向に沿って、複数の磁性体層80aと複数の非磁性体層80bとを交互に積層して形成されている。すなわち、各磁性体層80aおよび非磁性体層80は、スライダ42のディスク対向面43および磁気ディスク12の表面に対して、ほぼ垂直に延在している。
【0042】
磁性体層80aは、例えば、膜厚12nmの飽和磁束密度が大きなFeCo合金、非磁性体層80bは、例えば、膜厚0.5nmの良好な電気伝導特性を有するTaから構成されている。
【0043】
図7は、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度(c−Hac)と、スピントルク発振子74近傍の主磁極先端部66aの積層構造との関係を示している。なお、スピントルク発振子74の発振層74dは、大きさ50nm、膜厚13nmのFeCoAl、媒体中心までの距離は20nm、印加した電流は2.8×108A/cm2である。また、積層構造部80を構成する非磁性体層80bの膜厚は一定とし、1組の磁性体層80aと非磁性体層80bの積層の合計膜厚を50nm〜6nmとしている。図7から、1組の積層の合計膜厚が25nmの場合が、発振層74dが最もよく発振し、最も大きな高周波磁界強度が得られることが分かる。
【0044】
図6に示すように、スピントルク発振子74の発振層74dからの高周波磁界により、主磁極66およびリターン磁極68の磁化が動く。その結果、主磁極66およびリターン磁極68にはスピン波が生じることとなる。スピントルク発振子74の発振周波数に応じて、最適なスピン波の波長があるが、主磁極66は磁性体層80aと非磁性体層80bとの積層構造部80を有していることから、磁性体層間の交換結合力が0となり、積層構造部80で分断される。この結果、最適なスピン波の波長でなく、1つの磁性体層80aの膜厚に応じたスピン波が励起されることになり、スピン波の振幅が減少することになる。したがって、スピン波による主磁極66のエネルギーロスが減少する。その結果、スピントルクによるエネルギーは主に、スピントルク発振子74で消費されることになる。すなわち、発振層74dの発振振幅が大きくなる。このことから、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度が大きくなる。
【0045】
図8は、比較例として、積層構造部を持たない主磁極66を有する記録ヘッドを示し、主磁極66、スピントルク発振子74、リターン磁極68の磁化挙動の浮上面からの要部平面図である。この場合、スピントルク発振子74の発振周波数に応じた、最適な波長でのスピン波が励起可能であり、スピン波の振幅が大きくなる。このため、スピン波による主磁極66でのエネルギーロスが大きくなり、スピントルク発振子74の発振層の発振振幅の減少を招き、発生する円偏光高周波磁界強度が小さくなる。
【0046】
高周波アシスト記録時に、主磁極はほぼ飽和し、磁化が垂直の面と水平の面とがあることを考慮すると、主磁極に励起されるスピン波の波長(λ)は、
【数1】
【0047】
で表される。
ここで、A:交換結合定数、Ms:飽和磁化、fSTO:スピントルク発振子(STO)の周波数、γ:ジャイロ定数である。
【0048】
磁性体層80aの膜厚が、スピン波の半波長(1/2λ)から短くなるにつれ、スピン波は徐々に抑制され、膜厚が半整数倍(1/2)、すなわち1/4λの時、最も抑制される。一方、基本スピン波に付随ずる二倍の高調波が生じるため、磁性体層80aの膜厚が、膜厚が1/8λより短くなると、抑制効果が失われることとなる。交換結合定数Aは飽和磁化Msに比例し、ジャイロ定数γは定数であることを考慮すると、磁性体層80aの膜厚tは、下記の式で表される関係を満たすことが望ましい。
【数2】
【0049】
ここで、飽和磁化Msの単位はemu/cc, 周波数fの単位はHz、膜厚tの単位はcmである。
【0050】
ここでは、飽和磁化Msは1900emu/cc、発振周波数fは25GHzを上記式2に代入すると、望ましい磁性体層80aの膜厚tは、7nm<t<30nmとなる。これは図7の結果とよく一致している。
【0051】
非磁性体層80bの材料は、Ru、W、Cu、Reを用い、その膜厚を1nm以下とすることが望ましい。これにより、隣り合う磁性体層80a間の交換結合力が反強磁性結合となるようにすることできる。この場合、磁性体層80aの表面に発生する磁荷が隣接する磁性体層に及ぼす磁界と、交換結合力による交換結合磁界とがお互いに打ち消しあう。その結果、磁性体層80a間の結合が非磁性体層80bにより効果的に分断され、スピン波の振幅が小さくなる。この結果、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。
【0052】
非磁性体層80bの材料は、Ta、Au、Ag、Al、Mgのような、電気伝導度に優れた材料を用いることが望ましい。このような材料を用いた場合、スピントルク発振子74近傍でのジュール発熱を抑えることが可能となり、より大きな駆動電流をスピントルク発振子74に印加可能となる。これにより、効率的にスピントルク発振子74が発振し、大きな高周波磁界強度の実現が可能となる。その結果、優れた記録特性を得ることができる。
【0053】
主磁極66において、積層構造部80以外の部分の磁性体の材料と、積層構造部の磁性体層の材料とは、同一の材料としてもよく、あるいは、別々の材料にしても良い。たとえば、積層構造部80を構成する磁性体層80aに、FeCoTaCといった材料を用いても良い。この材料では、飽和磁束密度を保ったまま、結晶粒間にTaCが偏析し、FeCoで構成される結晶粒間の交換結合力を下げることが可能となる。その結果、磁性体層80a内のスピン波の伝達が抑制され、スピン波の振幅を抑制することできる。このため、効率的にスピントルク発振子74を発振させることが可能となり、良好高周波磁界を発生させ、優れた記録特性を得ることができる。
【0054】
以上のように構成されたHDDによれば、VCM16を駆動することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の所望のトラック上に移動され、位置決めされる。また、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより浮上する。HDDの動作時、スライダ42のディスク対向面43はディスク表面に対し隙間を保って対向している。図2に示すように、磁気ヘッド33は、ヘッド部44の記録ヘッド56部分が最も磁気ディスク12表面に接近した傾斜姿勢をとって浮上する。この状態で、磁気ディスク12に対して、再生ヘッド54により記録情報の読み出しを行うとともに、記録ヘッド56により情報の書き込みを行う。
【0055】
情報の書き込みにおいては、スピントルク発振子74に直流電流を通電して高周波磁界を発生させ、この高周波磁界を磁気ディスク12の垂直磁気記録層22に印加する。また、記録コイル71により主磁極66を励磁し、この主磁極から直下の磁気ディスク12の記録層22に垂直方向の記録磁界を印加することにより、所望のトラック幅にて情報を記録する。記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、高保持力かつ高磁気異方性エネルギーの磁気記録を行うことができる。そして、主磁極66に磁性体層と非磁性体層との積層構造部80を設けることにより、主磁極でのスピン波によるエネルギーロスを抑制し、十分な記録能力の発揮、安定した記録再生特性を得ることができる。これにより、記録信号品質の向上した良好な記録が可能な磁気ヘッドおよびこれを備えたHDDが得られる。
【0056】
次に、他の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドについて説明する。なお、以下に説明する他の実施形態において、前述した第1の実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
【0057】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。本実施形態によれば、磁性体層80aと非磁性体層80bとを交互に積層した積層構造部80は、主磁極66全域に広がっている。すなわち、主磁極66全体が積層構造部80で構成されている。磁性体層80aと非磁性体層80bは、ライトギャップの幅方向に沿って交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。
【0058】
上記のように構成された第2の実施形態に係る記録ヘッド56によれば、主磁極66に磁性体層と非磁性体層との積層構造部80を設けることにより、主磁極でのスピン波によるエネルギーロスを抑制し、十分な記録能力の発揮、安定した記録再生特性を得ることができる。これにより、記録信号品質の向上した良好な記録が可能な磁気ヘッドおよびこれを備えたHDDが得られる。また、磁性体層80aと非磁性体層80bとの積層膜で、主磁極66全体を作成することで、主磁極66の成膜プロセスを1回で終了することが可能となり、効率的な加工プロセスを可能とすることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。図10に示すように、第3の実施形態によれば、主磁極66全体が磁性体層80aと非磁性体層80bとを積層した積層構造部80で構成され、また、スピントルク発振子74に接触対向するリターン磁極68の先端部68aが磁性体層90aと非磁性体層90bとを積層した積層構造部90で構成されている。
【0060】
積層構造部90において、磁性体層90aと非磁性体層90bは、ライトギャップの幅方向に沿って交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。
【0061】
図11は、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度と、スピントルク発振子近傍のリターン磁極先端部の積層構造部90との関係を示している。ここでは、スピントルク発振子74の発振層は、大きさ50nm、膜厚13nmのFeCoAl、媒体中心までの距離は20nm、印加した電流は2.8×108A/cm2としている。また、リターン磁極68の積層構造部90を構成する非磁性体層90aの膜厚は一定とし、1組の磁性体層90aと非磁性体層90bの積層膜の合計膜厚を50nm〜6nmとしている。図11から、1組の積層膜の合計膜厚が18.75nmの場合が、発振層が最もよく発振し、最も大きな高周波磁界強度を得られることが分かる。
【0062】
ここで、リターン磁極68の飽和磁化Msは、1510emu/cc、発振周波数fは30GHzを前述した式2に代入すると、望ましい膜厚tは、23nm>t>6nmとなり、図11の結果とよく一致する。
【0063】
HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。また、磁性体層90aと非磁性体層90bからなる積層膜の膜構成、材料等は、第1の実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0064】
上記構成の第3の実施形態によれば、主磁極66ならびにリターン磁極68に、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部を設けることにより、スピントルク発振子74が発振した場合に、主磁極66およびリターン磁極68で発生するスピン波の磁化振幅を抑制することが可能となる。このため、主磁極66およびリターン磁極68でのエネルギーロスが抑制され、効率的に発振層の磁化を発振し、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。
【0065】
(第4の実施形態)
図12は、第4の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。第4の実施形態によれば、主磁極66は、磁気ディスク側の先端部66aからリターン磁極68側に突出した突出部92を有し、この突出部92は、ライトギャップGWをおいて、リターン磁極68の先端部68aと対向している。そして、この突出部92とリターン磁極68の先端部68aとの間にスピントルク発振子74が挟まれている。
【0066】
突出部92は、磁性体層80aと非磁性体層80bとを積層した積層構造部80で構成されている。積層構造部80において、磁性体層80aと非磁性体層80bは、ライトギャップの幅方向に沿って、すなわち、突出部92の突出方向に沿って、交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。
【0067】
積層構造部80を構成する積層膜は、膜厚11.7nm、飽和磁化1900emu/ccの磁性体層と、膜厚0.8nm、Ruの非磁性体層との積層構造を有し、合計膜厚は12.5nmとなっている。非磁性体Ruにより、非磁性体Ruに接する両側の磁性体層80aは反強磁性結合している。
【0068】
また、スピントルク発振子74に接触対向するリターン磁極68の先端部68aが磁性体層90aと非磁性体層90bとを積層した積層構造部90で構成されている。積層構造部90において、磁性体層90aと非磁性体層90bは、ライトギャップWGの幅方向に沿って交互に積層され、各層は、スライダのディスク対向面および磁気ディスクの表面に対してほぼ垂直に延在している。
【0069】
図13は、スピントルク発振子74から発生する円偏光高周波磁界強度と、スピントルク発振子74近傍のリターン磁極先端部の積層構造との関係を示している。なお、スピントルク発振子74の発振層は、大きさ50nm、膜厚13nmのFeCoAl、媒体中心までの距離は20nm、印加した電流は2.8×108A/cm2である。図13に示すように、積層構造とすることにより、積層構造としない場合に比べて、発振層がよく発振し、良好は高周波磁界強度を得られた。
【0070】
このように、主磁極20の突出部92およびリターン磁極68を、磁性体層と非磁性体層との積層構造部で構成することにより、スピントルク発振子74が発振した場合に、主磁極66およびリターン磁極68で発生するスピン波の磁化振幅を抑制することが可能となる。このため、主磁極66およびリターン磁極68でのエネルギーロスが抑制され、効率的に発振層の磁化を発振し、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。
【0071】
本実施形態では、主磁極66の積層構造部は、主磁極66の突出部92のみとしたが、主磁極の他の部分も積層構造としても良い。また、非磁性体層はRu以外にも、W、Cu、Reを用い、膜厚を1nm以下としてもよい。このような構成にすることで、非磁性体層に接する両側の磁性体層は反強磁性結合し、その結果、エネルギーロスが抑制され、大きな高周波磁界強度を得ることができる。これにより、優れた記録特性を得ることができる。HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。磁性体層と非磁性体層との積層膜の膜構成、材料等は、前述した第1の実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0072】
(第5の実施形態)
図14は、第5の実施形態に係るHDDの磁気ヘッドにおける記録ヘッドを模式的に示している。主磁極66の先端部66aにおいて、スピントルク発振子74と接触、対向する部分は、磁性体層80aと非磁性体層80bとを積層した積層構造部80を構成している。本実施形態では、積層構造部80は、ライドギャップWGの高さ方向、すなわち、スライダのディスク対向面にほぼ垂直な方向に沿って、複数の磁性体層80aと複数の非磁性体層80bとを交互に積層して形成されている。各磁性体層80aおよび非磁性体層80は、スライダのディスク対向面とほぼ平行に延在している。
【0073】
HDDおよび磁気ヘッドの他の構成は、前述した第1の実施形態と同一である。磁性体層と非磁性体層との積層膜の膜構成、材料等は、前述した第1の実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0074】
上記構成の第3の実施形態によれば、主磁極66に、磁性体層と非磁性体層とを積層した積層構造部を設けることにより、スピントルク発振子74が発振した場合に、主磁極66で発生するスピン波の磁化振幅を抑制することが可能となる。このため、主磁極66およびリターン磁極68でのエネルギーロスが抑制され、効率的に発振層の磁化を発振し、大きな高周波磁界強度を得ることができ、優れた記録特性を得ることができる。なお、第3の実施形態において、リターン磁極68側にも積層構造部を設けても良い。
【0075】
以上に述べた種々の実施形態によれば、十分な記録能力の発揮し、安定した記録特性を得ることが可能な磁気ヘッド、これを備えたヘッドジンバルアッセンブリ、およびディスク装置を提供することができる。
【0076】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、高周波発振子はスピントルク発振子に限らず、電線による発生源等、他の高周波発生源を用いても良い。積層構造部において、非磁性体層および磁性体層の数は、上述した実施形態に限定されることなく、必要に応じて変更可能である。
【符号の説明】
【0077】
10…筺体、11…ベース、12…磁気ディスク、13…スピンドルモータ、
14…ヘッドアクチュエータ、25…制御回路基板、27…アーム、
30…サスペンション、42…スライダ、43…ディスク対向面、
44…ヘッド部、54…再生ヘッド、56…記録ヘッド、66…主磁極、
66a…先端部、68…リターン磁極、68a…先端部、
68b…トレーディング側端面、70…電源、71…記録コイル、
74…スピントルク発振子、80、90…積層構造部、
80a、90a…磁性体層、80b、90b…非磁性体層、92…突出部
WG…ライトギャップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の記録層に対し記録磁界を印加する主磁極と、
前記主磁極にライトギャップを置いて対向するリターン磁極と、
前記主磁極とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生する高周波発振素子と、を備え、
前記主磁極および前記リターン磁極の少なくとも一方は、前記高周波発振素子に対向し、磁性体層と非磁性体層を積層した積層構造部を有している磁気ヘッド。
【請求項2】
前記高周波発振素子は、前記主磁極とリターン磁極との間に並んで設けられた第1磁性体層および第2磁性体層を有し、前記第1磁性体層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さく、前記第2磁性体層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さい請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記リターン磁極および主磁極を通して前記高周波発振子に電流を流す電流源を備え、
前記リターン磁極は、前記ライトギャップから離間した位置で絶縁体あるいは半導体を介して前記主磁極に接続された連結部を有する請求項1又は2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
前記高周波発振子の発振周波数f(Hz)と、前記磁性体層の飽和磁化Ms(emu/cc)と、前記磁性体層の1層あたりの膜厚t(cm)とは、
【数1】
の関係を有している請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項5】
前記非磁性体は、Ru、W、Cu、Re、Au、Ag、Ta、Al、Mgのうち、少なくなくとも1つの元素を含んでいる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項6】
前記非磁性体層の膜厚は、0.2nm以上、1nm以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
前記主磁極は、前記高周波発振子側に突出する突出部を有し、この突出部は、前記積層構造部を構成している請求項1ないし6のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項8】
前記主磁極および前記リターン磁極は、それぞれ前記積層構造部を有している請求項1ないし6のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項9】
前記主磁極は、その全体が前記積層構造部で構成されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項10】
前記積層構造部において、前記磁性体層および非磁性体層は、前記ライトギャップの幅方向に交互に積層されている請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項11】
前記積層構造部において、前記磁性体層および非磁性体層は、前記ライトギャップの高さ方向に交互に積層されている請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項12】
スライダと、このスライダに設けられた請求項1ないし11のいずれか1項に記載の磁気ヘッドと、前記スライダを支持するサスペンションと、を備えたヘッドジンバルアッセンブリ。
【請求項13】
媒体面に対して垂直方向に磁気異方性を有する記録層を有するディスク状の記録媒体と、
前記記録媒体を支持しているとともに回転する駆動部と、
前記記録媒体に対し情報処理を行う請求項1ないし11のいずれか1項に記載の磁気ヘッドと、
を備えるディスク装置。
【請求項1】
記録媒体の記録層に対し記録磁界を印加する主磁極と、
前記主磁極にライトギャップを置いて対向するリターン磁極と、
前記主磁極とリターン磁極とが対向する面の間に設けられ、高周波磁界を発生する高周波発振素子と、を備え、
前記主磁極および前記リターン磁極の少なくとも一方は、前記高周波発振素子に対向し、磁性体層と非磁性体層を積層した積層構造部を有している磁気ヘッド。
【請求項2】
前記高周波発振素子は、前記主磁極とリターン磁極との間に並んで設けられた第1磁性体層および第2磁性体層を有し、前記第1磁性体層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さく、前記第2磁性体層の保磁力は、前記主磁極から印加される磁界よりも小さい請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記リターン磁極および主磁極を通して前記高周波発振子に電流を流す電流源を備え、
前記リターン磁極は、前記ライトギャップから離間した位置で絶縁体あるいは半導体を介して前記主磁極に接続された連結部を有する請求項1又は2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
前記高周波発振子の発振周波数f(Hz)と、前記磁性体層の飽和磁化Ms(emu/cc)と、前記磁性体層の1層あたりの膜厚t(cm)とは、
【数1】
の関係を有している請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項5】
前記非磁性体は、Ru、W、Cu、Re、Au、Ag、Ta、Al、Mgのうち、少なくなくとも1つの元素を含んでいる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項6】
前記非磁性体層の膜厚は、0.2nm以上、1nm以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
前記主磁極は、前記高周波発振子側に突出する突出部を有し、この突出部は、前記積層構造部を構成している請求項1ないし6のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項8】
前記主磁極および前記リターン磁極は、それぞれ前記積層構造部を有している請求項1ないし6のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項9】
前記主磁極は、その全体が前記積層構造部で構成されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項10】
前記積層構造部において、前記磁性体層および非磁性体層は、前記ライトギャップの幅方向に交互に積層されている請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項11】
前記積層構造部において、前記磁性体層および非磁性体層は、前記ライトギャップの高さ方向に交互に積層されている請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気ヘッド。
【請求項12】
スライダと、このスライダに設けられた請求項1ないし11のいずれか1項に記載の磁気ヘッドと、前記スライダを支持するサスペンションと、を備えたヘッドジンバルアッセンブリ。
【請求項13】
媒体面に対して垂直方向に磁気異方性を有する記録層を有するディスク状の記録媒体と、
前記記録媒体を支持しているとともに回転する駆動部と、
前記記録媒体に対し情報処理を行う請求項1ないし11のいずれか1項に記載の磁気ヘッドと、
を備えるディスク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−226793(P2012−226793A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91447(P2011−91447)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【特許番号】特許第5039223号(P5039223)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【特許番号】特許第5039223号(P5039223)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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