説明

磁気ヘッドおよび磁気記録方法

【課題】垂直配向型の磁気記録媒体に高密度で情報の記録を行うことができる簡易な構造の磁気ヘッド、および、この磁気ヘッドを用いた磁気記録方法を得ること。
【解決手段】非磁性体の支持体11上に形成された磁性体層12が、前記支持体11の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体10に情報を書き込む磁気ヘッド1であって、磁気ギャップ4を挟んで対向する一対の磁極2、3を備え、前記一対の磁極の内の一方の磁極2の前記磁気記録媒体10に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極3の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体10から後退して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に情報を記録する磁気ヘッドおよび磁気記録方法に関し、特に、垂直配向型の磁気記録媒体への記録を行う磁気ヘッドおよび磁気記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材である非磁性体の支持体上に磁性体層を塗布した磁気記録媒体である磁気テープに情報の書き込みを行う磁気ヘッドは、所定の磁気ギャップを介して配置された一対の磁極を有していて、この一対の磁極に磁場を印加しながら磁気テープ上を摺動させることで磁性体層を磁化する。一般に、情報が記録される磁気テープの磁性体層は、テープの進行方向、すなわち支持体の面に平行な方向な長手方向の磁化方向を有している。
【0003】
近年の磁気テープの利用分野の一つとして、コンピュータのハードディスクに保存されているデータのバックアップに用いる、情報バックアップ用途がある。この情報バックアップ用途の磁気テープとして、一巻あたり数百GBの大容量のものが既に商品化されているが、バックアップ対象のハードディスクの大容量化に伴い磁気テープのさらなる大容量化が求められている。このような大容量の磁気テープとして、高密度での記録を実現させるために、非磁性体の支持体上に塗布された磁性体層の磁化容易軸の方向を支持体の面方向に対して垂直な方向とした、垂直配向型の磁気テープが実用化されている。
【0004】
垂直配向型の磁気テープに情報を記録する磁気記録再生装置の一例として、磁気テープの走行方向に対して傾斜した回転軸を有する傘状の回転部材に設けられた磁気ヘッドを備え、この磁気ヘッドが回転しながら磁気テープ面に円弧状の記録パターンを形成するものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−221916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の磁気記録再生装置は、高密度での情報の記録を可能とするものであるが、磁気ヘッドの構造が複雑であり、磁気テープと磁気ヘッドとの位置関係の精度を確保して高密度記録を行う必要があるために装置全体が複雑高価なものとなる。
【0007】
一方、磁気ギャップを介して配置された一対の磁極を備えた磁気ヘッドによって、垂直配向型の磁気テープに情報を記録する場合には、支持体が非磁性体であるために磁性体層に対して長手方向の磁界が印加されて情報記録を行うこととなる。垂直配向型の磁気テープに長手方向に情報記録を行おうとすると、記録電流カーブが飽和しにくいために大電流での磁化の書き込みが必要となって、ヘッド材料の変更を余儀なくされるなどコストアップにつながり好ましくない。
【0008】
本発明は、上記従来の磁気記録方法における課題を解決し、垂直配向型の磁気記録媒体に高密度で情報の記録を行うことができる簡易な構造の磁気ヘッド、および、この磁気ヘッドを用いた磁気記録方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明の磁気ヘッドは、非磁性体の支持体上に形成された磁性体層が、前記支持体の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体に情報を書き込む磁気ヘッドであって、磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極を備え、前記一対の磁極の内の一方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体から後退して配置されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の磁気記録方法は、非磁性体の支持体上に形成された磁性体層が、前記支持体の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体に磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極を備えた磁気ヘッドによって情報を書き込む磁気記録方法であって、前記一対の磁極の内の一方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体から後退して配置され、前記磁気記録媒体に印加される磁界を前記磁気記録媒体の前記支持体の面方向に対して傾斜させて磁化記録を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁気ヘッドは、磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極の内の、一方の磁極の磁気記録媒体に対向する面が、他方の磁極の磁気記録媒体に対向する面よりも磁気記録媒体から後退して配置されている。このため、垂直方向に磁化容易軸を有する磁気記録媒体を斜め方向の磁界によって垂直磁化することができ、高密度な情報記録を簡易な構成の磁気ヘッドで実現できる。
【0012】
また、本発明の磁気記録方法は、磁気ヘッドにより磁気記録媒体に印加される磁界が、磁気記録媒体の支持体の面方向に対して傾斜している斜め磁化記録を行うため、垂直配向型の磁気記録媒体に、簡易な構成の磁気ヘッドを用いて高密度での情報の記録を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態にかかる磁気ヘッドによって、情報を記録している状態を説明する図である。
【図2】本実施形態にかかる磁気ヘッドの磁気ギャップ部分の断面の構成を示す要部拡大図である。
【図3】磁気ヘッドの構成例を示す拡大写真である。
【図4】磁気ヘッドから垂直配向型の磁気テープに印加される磁界を説明するための図である。図4(a)が、本実施形態にかかる磁気ヘッドによる斜め磁化の状態を示し、図4(b)が、比較例の磁気ヘッドによる長手方向磁化の状態を示す。
【図5】本実施形態にかかる磁気ヘッドでの磁気ギャップ部分に生じる磁界の状況を確認するためのシミュレーションデータを示す図である。
【図6】磁気ヘッドの磁気ギャップ近傍の磁界の分布を示す図である。図6(a)が本実施形態にかかる磁気ヘッドでの磁界の分布を、図6(b)が比較例としての従来の磁気ヘッドでの磁界の分布を示す。
【図7】磁気テープの磁性体層に印加される磁界の強さの分布を示す図である。図7(a)が本実施形態にかかる磁気ヘッドでの磁界の分布を、図7(b)が比較例としての従来の磁気ヘッドでの磁界の分布を示す。
【図8】第1の磁極の後退量を10nmとしたときの、磁気テープの磁性体層に印加される磁界の強さ分布を示す図である。
【図9】第1の磁極の後退量を250nmとしたときの、磁気テープの磁性体層に印加される磁界の強さ分布を示す図である。
【図10】第1の磁極の後退量を500nmとしたときの、磁気テープの磁性体層に印加される磁界の強さ分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の磁気ヘッドは、非磁性体の支持体上に形成された磁性体層が、前記支持体の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体に情報を書き込む磁気ヘッドであって、磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極を備え、前記一対の磁極の内の一方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体から後退して配置されている。
【0015】
上記本発明の磁気ヘッドは、磁気記録媒体に磁気記録を行うための一対の磁極の内の一方が、他方の磁極よりも磁気記録媒体から後退して配置されているため、一対の磁極の間に生じる磁界が磁気記録媒体の支持体面に対して斜め方向に傾斜する。この結果、磁気ヘッドから磁気記録媒体に印加される磁界に垂直方向の成分が生じ、大電流を用いることなく垂直方向に磁化容易軸を有する磁性体層に情報の記録を行うことができる。
【0016】
上記本発明の磁気ヘッドにおいて、前記一方の磁極の前記他方の磁極に対する後退量が10nm以上250nm以下とすることが好ましい。このようにすることで、斜め方向の磁界によって垂直磁化する効果を有効に発揮させることができる。
【0017】
また、磁気記録時の前記磁気記録媒体の進行方向に対して、前記一方の磁極が前記他方の磁極の後ろ側に位置していることが好ましい。このようにすることで、磁気記録媒体の磁性体層へのオーバーライトを容易に行うことができる。
【0018】
本発明の磁気記録方法は、非磁性体の支持体上に形成された磁性体層が、前記支持体の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体に磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極を備えた磁気ヘッドによって情報を書き込む磁気記録方法であって、前記一対の磁極の内の一方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体から後退して配置され、前記磁気記録媒体に印加される磁界を前記磁気記録媒体の前記支持体の面方向に対して傾斜させて磁化記録を行う。
【0019】
このようにすることで、磁気ギャップを介して配置された一対の磁極を用いて、垂直方向に磁化容易軸を有する磁気記録媒体の磁性体層に垂直方向の成分を有する磁界を印加することができ、情報の記録を容易に行うことができる。
【0020】
以下、本発明の磁気ヘッドと、この磁気ヘッドを用いた磁気記録方法について、図面を参照して説明する。
【0021】
なお、以下で参照する各図は、説明の便宜上、本発明の磁気ヘッドについて、本発明を説明するために必要な部分のみを簡略化して示したものである。従って、本発明にかかる磁気ヘッド並びに磁気記録方法では、参照する各図に示されていない任意の構成を備えることができる。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率を必ずしも忠実に表したものではない。
【0022】
(実施の形態)
図1は、本実施形態にかかる磁気ヘッドが、磁気記録媒体である垂直配向型の磁気テープに情報を記録する状態を模式的に示す図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の磁気ヘッド1は、上側ポールまたはライトヘッド等と称される一対の磁極のうちの一方の磁極である第1の磁極2と、下側ポールまたはシェアードシールド(shared shield)等と称される他方の磁極である第2の磁極3とが、図1には現れない所定の磁気ギャップを介して配置されている。第1の磁極2および第2の磁極3は、いずれもパーマロイやフェライト系合金、CZT(コバルト、ジルコニア、タンタル)、センダストなどの高透磁率、高Bsを有する金属から構成されている。
【0024】
第2の磁極3の、第1の磁極2に対向する面とは反対側の面に対向するように、第2の磁極3との間に所定の間隔を有してボトムシールド等と称されるシールド部材5が配置され、磁気ギャップに外部の磁界が影響しないようにシールドしている。
【0025】
第1の磁極2の図中上方に位置する根元側部分と、第2の磁極3の図中上方に位置する根元側部分との間には、一対の磁極2および磁極3から磁界を発生させるための導電コイル6が配置されている。磁気テープ10に情報を記録するための磁界を発生させる第1の磁極2の先端部分は、磁界を集中させて磁束密度を高くするために、根元側部分2aよりも幅が狭く構成されている。
【0026】
なお、本実施形態の磁気ヘッド1は、磁気記録媒体10に情報を記録する書き込み側(W)のヘッドであり、磁気ヘッド1と所定の距離を隔てて図示しない読み込み側(R)のヘッドが配置される。書き込み側(W)ヘッドと読み込み側(R)ヘッドとは、互いに背中合わせとなるように逆向きに配置される。また、図1において示した、磁気ヘッドの磁極の具体的な形状等はあくまで例示に過ぎない。本実施形態の磁気ヘッドとしては、図1に図示した形状に限られず、薄膜磁気ヘッド等と称される磁気ギャップを介して一対の磁極が配置された磁気ヘッドに用いられる各種形状の磁極を用いることができる。
【0027】
磁気記録媒体である磁気テープ10は、基材である非磁性体の支持体11上に磁性体層12が積層され、磁性体層12が支持体11の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気テープ10である。
【0028】
支持体11としては、例えば、二軸延伸のポリエチレンテレフタレートフイルム、ポリエチレンナフタレートフイルム、芳香族ポリアミドフィルム、芳香族ポリイミドフィルムなどの厚さ2〜6μm樹脂フィルムを用いることができる。磁性体層12は、粒状の磁性体粉としての、例えば、平均粒子径が5nm〜50nm程度の強磁性鉄系金属磁性粉末、窒化鉄系磁性粉末、六方晶Ba−Fe磁性粉末が、塩化ビニル樹脂とポリウレタン樹脂との混合体などの熱硬化性のバインダ樹脂内に分散配置されたものである。磁性体層12の厚さとしては、例えば、10nm〜100nmとすることができる。
【0029】
なお、垂直配向型の磁気テープ10としては、上記例示したものに限られず、少なくともテープの基材である支持体11の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性体層12を備える、各種の磁気テープを用いることができる。例えば、支持体11上に磁性体層12の表面平滑性を向上させるための下塗り層を形成することができる。また、磁性体層12の磁化方向としても、垂直方向と水平方向との両方向に磁化された磁性体層を用いることもできる。
【0030】
図2は、本実施形態の磁気ヘッド1の、一対の磁極である第1の磁極2と、第2の磁極3と、磁気ギャップ4とが構成されている部分の断面の構成を示す要部拡大図である。
【0031】
図2に示すように、本実施形態の磁気ヘッド1では、第1の磁極2と第2の磁極3とが磁気ギャップ4を介してその先端部分が対向して配置されている。磁気ギャップ4は、例えば、磁気ヘッド1の製造時に第2の磁極3を形成した後に絶縁性薄膜などを積層することにより正確な値を保つように構成され、厚さである磁気ギャップ4の大きさxは、一例として0.2μmとすることができる。
【0032】
図2に示すように、本実施形態の磁気ヘッド1は、第1の磁極2の磁気テープ10に対向する面2aが、第2の磁極3の磁気テープ10に対向する面3aよりも磁気テープ10に対して後退して配置されている。すなわち、第1の磁極2の磁気テープ10に対向する面2aと、第2の磁極3の磁気テープ10に対向する面3aとが異なる高さに設定されていて、図2に示すように、第2の磁極3の面3aが磁気テープ10の支持体11上に形成された磁性体層12の表面にちょうど当接している場合に、第1の磁極2の面2aと磁気テープ10との間に後退量y分の間隔が生じる。本実施形態では、後退量yを100nmとしている。
【0033】
なお、シールド部材5の磁気テープ10に対向する面5aは、第2の磁極3の磁気テープ10に対向する面3aと同じ位置にあり、図2の状態において、磁気テープ10の磁性体層12の表面に当接している。
【0034】
参考までに、図3に本実施形態の磁気ヘッドと同様の、第1の磁気ヘッド2’と、第2の磁気ヘッド3’と、磁気シールド材5’とを備えた磁気ヘッドの、磁気テープに当接する側の面を撮影した顕微鏡写真を示す。なお、図3に示した磁気ヘッドでは、第1の磁極2’が第2の磁極3’よりも後退しておらず、以下本明細書で比較例として示す磁気ヘッド1’を撮影したものである。
【0035】
図4は、磁気ヘッドからの磁界が磁気テープの垂直配向型の磁性体層に与える影響を説明するための図である。図4(a)が、第1の磁極2が第2の磁極3に対して後退量y後退している本実施形態の磁気ヘッド1による斜め磁化の状態を示し、図4(b)が、第1の磁極2’と第2の磁極3’とが磁気テープに対して同じ位置にある、比較例の磁気ヘッド1’による長手方向磁化の状態を示している。
【0036】
図4(a)に示すように、本実施形態の磁気ヘッド1では、第1の磁極2が第2の磁極3よりも後退量y(=100nm)だけ磁気テープ10の磁性体層12の表面から離れた位置にある。このため、第1の磁極2と第2の磁極3との間に生じる磁束7は、図4(a)に示すように、下向き方向の成分が小さく上向き方向の成分が大きくなって、上下方向において非対称となる。この結果、垂直方向に磁化容易軸を有する磁性体層に斜め方向の磁界によって垂直磁化が行われる。このとき、垂直方向に配列された磁性体層12では、上向きの磁束によって磁化された上向きの残留磁界B1の方が、下向きの磁界によって磁化された下向きの残留磁界B2よりも大きく、B1>B2という関係が生じる。
【0037】
本実施形態の磁気ヘッド1の場合には、磁気テープ10が図4(a)中に示す白矢印の方向に進むことで、一旦下向きに磁化された部分を上向きに磁化し直すことで情報が記録されることになる。例えば、B2の部分を見ると、下向きの磁界が弱いために逆方向の上向きに容易に磁化することができる。このようにして、磁性体層12への情報の書き込みを容易に行うことができる。
【0038】
これに対し、図4(b)に示す比較例の場合には、第1の磁極2’および第2の磁極3’と、磁性体層12との距離がともに等しいため、垂直配向された磁性体層12に印加される磁界成分は下向きの場合も上向きの場合も同じ大きさとなる。この結果、磁性体層に残留する磁力の大きさも同じとなって、B1’=B2’となる。
【0039】
次に、磁気テープ10が図4(b)中の白矢印方向に走行した状態では、図4(a)に示した場合と同様に、一旦下向きに磁化された部分が上向きに磁化し直されるが、下向きの磁界と上向きの磁界が同じ大きさであるため、容易には情報を書き込めない。このように、比較例の磁気ヘッド1’では、垂直配向型の磁性体層12に情報を記録することが困難となる。
【0040】
ここで、本実施形態の磁気ヘッド1による斜め磁化の状態を、シミュレーションで確認してみる。
【0041】
図5は、発明者らが行ったシミュレーションでの条件設定を示す図であり、図5に示す形状で設定し、第1の磁気ヘッド2および第2の磁気ヘッド3の厚さを4000nmとした。また、磁気テープ10の磁性体層12の厚さを60nm、支持体の厚さを1000nmと、磁気ギャップ4を0.35μmとしている。ヘッド材料は、PBパーマロイ(45Ni−Fe)とし、飽和磁束密度Bs(T)を≧1.4、最大比透磁率(μm)を≧30000とした。磁気ヘッド2と磁気テープ10との間の空気層、および、磁気テープの比透磁率は1とした。なお、シミュレーションは、米国Filed Precision LLC社製の解析ソフト「SATE(Static Field Analysis Toolkit Education)」を用いて行った。
【0042】
図6は、本実施形態の磁気ヘッド1と、上記比較例の磁気ヘッド1’における、磁気ギャップ4(4’)周囲での磁界分布状態のシミュレーション結果を示している。なお、図5に示すように、第1の磁極2(2’)を図中の右側に配置してシミュレーションを行ったため、以下に示すシミュレーション結果においては、それぞれの図中右側に第1の磁極2が、図中左側に第2の磁極3が配置されている。
【0043】
図6(a)は、本実施形態の磁気ヘッド1における磁界分布の状態を示す。図6(a)で示すシミュレーションでは、上記本実施形態の磁気ヘッド1に合わせて、第1の磁極2の後退量yを100nmと設定した。
【0044】
図6(a)に示すように、本実施形態の磁気ヘッド1では、第1の磁極2が第2の磁極3に対して100nm図中上方に後退しているため、特に、第1の磁気ヘッド2の磁気テープ側の端部近傍での磁束が磁気ギャップ部分で図中右上がりになっている。また、第1の磁気ヘッド2、第2の磁気ヘッド3の磁気テープ側の端面よりも磁気テープ側に漏れ出している磁束が、図中の右側上方に少し回転したような形状となっている。
【0045】
これに対し、図6(b)に示す、比較例の磁気ヘッド1’における磁界分布では、磁気ギャップ部分の磁界が、第1の磁気ヘッド2’の磁気テープ側端面部分でも水平になっている。また、第1の磁気ヘッド2’、第2の磁気ヘッド3’から磁気テープ側に漏れ出ている磁界も、図中において左右対称な形となっている。
【0046】
このように、第1の磁極2を後退させた本実施形態の磁気ヘッド1では、第1の磁極2の磁気テープの磁性体層側の部分において、磁界の分布が図中の左右方向において非対称となっていることがわかる。
【0047】
図7は、本実施形態の磁気ヘッド1と比較例の磁気ヘッド1’における、磁気テープの磁性体層に与えられる磁界の強さについてのシミュレーション結果を示した図である。図7(a)が、本実施形態の磁気ヘッド1による磁界の強さを示し、図7(b)が比較例の磁気ヘッド1’による磁界の強さを示している。
【0048】
図7(a)に示すように、本実施形態の磁気ヘッド1による磁界では、図7(a)における左側のマイナス磁界の強さB1(絶対値)が約0.39T、右側のプラス磁界の強さB2が約0.18Tとなっていて、磁界分布にアンバランスが生じてマイナス磁界が残留し、最終的に垂直磁化が行われることがわかる。
【0049】
これに対し、図7(b)に示す比較例の磁気ヘッド1’の場合には、マイナス磁界の強さB1’とプラス磁界の強さB2’とが、ともに約0.41Tとなっていて、垂直方向に磁化する成分が互いにキャンセルされてしまうことがわかる。
【0050】
このように、本実施形態の磁気ヘッド1では、第1の磁極2が第2の磁極3よりも磁気テープに対して後退して位置するため、磁気テープの磁性体層に印加される磁束の分布が傾斜して斜め磁化が行われる。この結果、垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気テープに対しても、磁気ギャップを介して配置された一対の磁極2、3を用いて、情報の記録を行うことができることがわかる。
【0051】
次に、図5に示したシミュレーション条件を用いて、第1の磁極2の後退量yの大きさを変えた場合に生じる磁界分布の変化を確認した。
【0052】
図8は、第1の磁極2の後退量yが10nmの場合、図9は、第1の磁極2の後退量yが250nmの場合、図10は、第1の磁極2の後退量yが500nmの場合の、磁気テープの磁性体層に与えられる磁界の強さを示している。なお、図8から図10は、図7(a)で示した本実施形態の磁気ヘッド1の場合と比較して、第1の磁極2の後退量yのみを変化させてシミュレーションしたものであり、その他のシミュレーション条件は、すべで図7(a)の場合と同じとしている。
【0053】
図8に示す、第1の磁極2の後退量yが10nmの場合、左側のマイナス磁界の強さB1が約0.40T、右側のプラス磁界の強さB2が約0.31Tとなっていて、磁界分布にアンバランスが生じ、後退量yが100nmの場合の本実施形態の磁気ヘッド1と同様に垂直方向の磁界が残留することがわかる。また、図9に示す、第1の磁極2の後退量yが250nmの場合も、左側のマイナス磁界の強さB1が約0.30T、右側のプラス磁界の強さB2が約0.1Tとなっていて、同様に磁界分布にアンバランスが生じている。
【0054】
これに対し、図10に示す、第1の磁極2の後退量yが500nmの場合には、左側のマイナス磁界部分には、約0.24TのピークB1が認められるが、右側のプラス磁界では明確なピークが認められない。このような磁界分布では、磁気テープの磁性体層を正常に磁化することができないと考えられる。
【0055】
図7(b)として説明した、比較例の磁気ヘッド1’は、第1の磁極2’の後退量yが0である場合と考えることができ、図7(a)と図7(b)、さらに図8から図10のシミュレーション結果から、斜め方向の磁界によって垂直磁化を行う上での好ましい後退量yは、10nm以上250nm以下であると考えることができる。
【0056】
なお、上記シミュレーション結果は、磁気ヘッド材料やその大きさなどについて一つの例を用いたものであるため、上記シミュレーションの結果が、10nm以上250nm以下の後退量yが好ましい範囲であることを示しているものの、第1の磁極の後退量yが10nm未満や251nm以上の場合に、必ずしも斜め磁化ができないことを示しているものではない。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の磁気ヘッド、および、この磁気ヘッドを用いて記録する磁気記録方法では、磁気ギャップを介して配置された一対の磁極の内の一方の磁極が、磁気テープの磁性体層表面に対して所定距離後退して配置されているため、垂直配向型の磁性体層に対しても容易に情報の記録を行うことができる。
【0058】
このため、磁性体層の磁化方向が長手方向であるテープに比べて、高密度での情報記録が可能な垂直配向型の磁気テープに、簡易な構成の磁気ヘッドで情報記録を行うことができる。
【0059】
なお、上記本実施の形態では、磁気記録媒体として磁気テープを用いる例について説明したが、本発明の磁気ヘッド並びに磁気記録方法は、垂直配向型の磁性体層を有する磁気記録媒体であれば、磁気テープ以外にも磁気ディスクなど各種の媒体に情報の記録を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかる磁気ヘッド、および、磁気記録方法は、高密度での情報記録が可能な垂直配向型の磁気記録媒体に、磁気ギャップを介して一対の磁極が配置された簡易な構成の磁気ヘッドを用いて情報の記録が可能である。このため、コンピュータのハードディスク内データのバックアップ用途をはじめとする各種の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 磁気ヘッド
2 第1の磁極(一方の磁極)
3 第2の磁極(他方の磁極)
4 磁気ヘッド
10 磁気テープ(磁気記録媒体)
11 支持体
12 磁性体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体の支持体上に形成された磁性体層が、前記支持体の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体に情報を書き込む磁気ヘッドであって、
磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極を備え、
前記一対の磁極の内の一方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体から後退して配置されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
前記一方の磁極の前記他方の磁極に対する後退量が10nm以上250nm以下である請求項1に記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
磁気記録時の前記磁気記録媒体の進行方向に対して、前記一方の磁極が前記他方の磁極の後ろ側に位置している請求項1または2に記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
非磁性体の支持体上に形成された磁性体層が、前記支持体の面方向に対して垂直方向に磁化容易軸を有する垂直配向型の磁気記録媒体に磁気ギャップを挟んで対向する一対の磁極を備えた磁気ヘッドによって情報を書き込む磁気記録方法であって、
前記一対の磁極の内の一方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面が、前記一対の磁極の内の他方の磁極の前記磁気記録媒体に対向する面よりも前記磁気記録媒体から後退して配置され、前記磁気記録媒体に印加される磁界を前記磁気記録媒体の前記支持体の面方向に対して傾斜させて磁化記録を行うことを特徴とする磁気記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−37735(P2013−37735A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171970(P2011−171970)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】