説明

磁気ヘッド及び磁気記憶装置

【課題】センス電流を流すことなく、記録媒体からの漏洩磁界を検出でき、高記録密度の媒体に対応することのできる磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】磁化が固定された磁化固定部51と、磁化固定部に接合され外部磁界によって磁化が変化する磁化自由部52と、磁化固定部と磁化自由部にそれぞれ接続された一対の出力端子56,57を備える。磁化固定部と磁化自由部の接合部53は磁壁トラップを構成する。磁化自由部中の磁壁の移動に伴うスピン起電力を用いて外部磁界の変化を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッド及びその磁気ヘッドを搭載した磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記憶装置では年々高記録密度化が進んでおり、再生ヘッドにも高記録密度に対応したものが求められている。この要求に応えるために、薄い非磁性層を2種の強磁性層で挟み込んで構成される磁気抵抗効果膜の膜面内に電流を流すCIP−GMR(Current in Plane-Giant Magneto-resistance)センサが開発され、再生ヘッドとして応用されてきた。現在では、積層膜の膜厚方向に電流を流して用いるTMR(Tunneling Magneto-Resistive)ヘッドや、CPP(Current Perpendicular to the Plane)−GMRヘッドへと移行しつつある。再生出力を高めるためには、MR(Magneto-Resistive)比を高めることが一般的であり、現在ではMR比が最も高いTMRヘッドが広く採用されている。
また、別の技術として、電子伝導性を有する磁性体からなるナノ構造体中での磁壁の移動を利用するメモリデバイスが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−204096号公報
【特許文献2】WO 2007/015475 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体の高記録密度化に伴い、今後は、2Tb/inch2程度の面記録密度を有する磁気記録媒体に対応できる磁気再生ヘッドが必要とされる。2Tb/inch2の面記録密度を有する磁気記録媒体の場合、媒体表面における1ビット当たりの面積は17×17nm2程度と見積もられる。従って、磁気再生ヘッドに設けられる再生素子の媒体対向面における寸法もそれと同程度の寸法に微細化する必要がある。
【0005】
TMRヘッドやCPP−GMRヘッドでは、媒体からの漏洩磁界による抵抗変化を検出するためにセンス電流を流す必要がある。磁性体中に電流を流すと、特許文献2に記載のように、伝導電子のスピンにより磁性体の磁化が影響を受ける。つまり、センス電流自体により、磁気抵抗効果膜中の磁化自由層の磁化を変化させる力が作用する。TMRヘッドやCPP−GMRヘッドの素子部を上記のように微細化した場合、センス電流の伝導電子が磁化自由層に作用する力が、媒体の記録ビットからの漏洩磁界が磁化自由層に作用する力と拮抗し、媒体の記録磁化の検出に好ましくない影響を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、新しい原理に基づき、センス電流を流すことなく、記録媒体からの漏洩磁界を検出でき、高記録密度の媒体に対応することのできる磁気ヘッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、センス電流を流すことなく、磁性体中の磁壁の移動に伴うスピン起電力を用いて外部磁界の変化を検出する。
本発明の磁気ヘッドに用いられる再生素子は、磁化が固定された磁化固定部と、磁化固定部に接合され外部磁界によって磁化が変化する磁化自由部と、磁化固定部と磁化自由部にそれぞれ接続された一対の出力端子を備える。磁化固定部と磁化自由部の接合部は磁壁トラップを構成する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の再生素子は、センス電流を流さずに磁界の変化を検出できるので、伝導電子のスピンと磁性体スピンの相互作用の影響が無く、安定して磁化情報を読み取ることができる。
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例による磁気ヘッドの断面図。
【図2】マイクロ波発生器の構成例を示す模式図。
【図3】本発明による再生素子の一例を示す模式図。
【図4】本発明の再生素子による磁界検出の原理を説明する図。
【図5】媒体の記録磁化と本発明の再生素子からの出力の関係を説明する模式図。
【図6】本発明による再生素子の他の実施例の説明図。
【図7】本発明による再生素子の他の実施例の説明図。
【図8】本発明による再生素子の他の実施例の説明図。
【図9】本発明による再生素子の他の実施例の説明図。
【図10】本発明による再生素子の他の実施例の説明図。
【図11】磁気記憶装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施例による磁気ヘッドの断面図である。磁気ヘッドは、記録ヘッド10と再生ヘッド20を備える。記録ヘッド10は、主磁極11と補助磁極12の間に、磁性体からなるピラー13と絶縁体14が配置されている。主磁極11、補助磁極12、ピラー13はパーマロイ、CoFe合金などの軟磁性材料からなる。絶縁体14は、主磁極11、補助磁極12、ピラー13が磁気的につながる程度に薄く形成されている。主磁極11には、ヨーク部15に接してポール部16が設けられている。ポール部16は、端面がヘッド浮上面に現れている。ポール部16のトレーリング側には、磁界勾配を急峻にするためのトレーリングシールド17が設けられている。再生ヘッド20は、再生素子21と、これを挟み込む一対の磁気シールド22,23を有する。再生素子の詳細については、後述する。なお、図中の矢印LDはリーディング方向を指し、矢印TRはトレーリング方向を指す。
【0011】
ポール部16のトレーリング側には、マイクロ波発生器30を構成する磁性膜が形成されている。マイクロ波発生器30を構成する磁性膜は、磁気記録媒体40に局所的にマイクロ波を照射することで、その照射箇所に磁気共鳴を励起し、磁化方向の反転しやすさを高める。マイクロ波励起電流は、ポール部16から、マイクロ波発生器30を通して補助磁極12に流される。例えば矢印18a,18bのように流される。磁気記録媒体40としては、垂直磁気記録媒体を用いることができる。
【0012】
図2は、マイクロ波発生器30の構成例を示す模式図である。マイクロ波発生器30は、垂直磁気異方性体31、磁化高速回転体32、スピン伝導層33、スピン注入層34、スピン伝導層35を積層した構造を有する。マイクロ波発生器30は、主磁極のポール部16及びトレーリングシールド17と電気的に接続されており、主磁極側からトレーリングシールド側、あるいはその逆の方向にマイクロ波励起電流が流される。垂直磁気異方性体31としては、六方晶CoCrPtなどが用いられる。磁化高速回転体32は、飽和磁化が大きく、結晶磁気異方性がほとんどない厚さにしたCoFe合金などが使われる。スピン伝導層35及びスピン伝導層33には、Ruやスピン伝導性の高い金属非磁性体であるCu等を用いることができる。スピン注入層34には、CoPtなどの垂直磁気異方性体が用いられる。磁化高速回転体32では、層に沿った面内で磁化が高速回転し、浮上面に出現する磁極からの漏れ磁界が、マイクロ波(高周波磁界)として作用する。
【0013】
主磁極11は、主磁極11と補助磁極12を含む磁気回路に巻回されたコイル19により励磁され、ポール部16の端面から記録磁界を発する。ポール部16から発生された記録磁界は、磁気ディスク40の磁気記録層41及び中間層42を垂直に貫き、軟磁性裏打ち層43を通って、補助磁極12に吸収される。磁気記録層41には、ポール部16から発生された記録磁界の印加と共に、マイクロ波発生器30から発生されたマイクロ波が照射され、記録磁化が書き込まれる。磁気記録層41は磁気異方性が大きく、主磁極11からの記録磁界とマイクロ波発生器30から放射されるマイクロ波磁界とが揃わないと記録できない。
【0014】
図3は、本発明による再生素子の一例を示す模式図である。本発明の再生素子は、磁化固定部51と磁化自由部52とが平面的に接合された構造を有する。磁化固定部51と磁化自由部52は、段差を設けたシリコン基板54上に磁性膜55としてパーマロイを成膜することで形成した。また、磁化固定部51と磁化自由部52は、いずれも接合部53に向かって徐々に幅が狭くなる形状とされ、接合部53が最も幅の狭い狭窄部となっている。接合部53の位置を基板54の段差形成位置と一致させることで、磁化固定部51の膜厚を磁化自由部52の膜厚より厚く設定した。接合部53を挟むように電圧検出用の端子56,57が、典型的には磁化固定部51の上端部と磁化自由部52の下端部に電気的に接続されている。
【0015】
磁化固定部51の磁化は一方向に固定されていて外部磁界によって変化しない。図示の実施例の場合には、磁化固定部51の磁化は磁化固定部51と磁化自由部52を結ぶ方向に固定されている。一方、磁化自由部52の磁化は外部磁界の影響を受けて変化することができる。磁化固定部51と磁化自由部52の接合部53は、磁壁トラップを構成している。
【0016】
本実施例では磁化固定部51と磁化自由部52を共にパーマロイで形成したが、それぞれ異なる磁性材料で形成してもよい。本実施例の磁化自由部52は膜厚を10nm、底部のX方向の長さを25nm、Z方向の長さを100nmとし、磁化固定部51は膜厚を20nm、上部のX方向の長さを60nm、Z方向の長さを300nmとし、接合部53はX方向の長さを20nmとした。微細加工を要する接合部53のX方向長さは微細加工技術の寸法限界で決まる。また、磁化自由部52の膜厚は、磁化の面内異方性を有する厚さとして3nm以上が望ましい。磁化自由部52の他の寸法は、超常磁性限界として知られるKu×V=60(ここでKuは磁化自由部52をなす磁性体の一軸異方性エネルギー、Vは、磁化自由部52をなす磁性体の体積)を満たすよう構成される。また、磁壁が接合部53に導入され必ずトラップされることを考慮すると、磁化固定部51は磁化自由部52より大きいことが望ましく、好ましくは、磁化固定部のZの寸法を磁化自由部のZの寸法の3〜5倍程度とするのがよい。
【0017】
磁化自由部52の磁化の変化は、磁化自由部52内での磁壁の移動の結果と考えることができる。例えば、図3の状態では、磁化固定部51は下向きの磁化を有し、磁化自由部52は上向きの磁化を有しており、両者の境界である接合部53に磁壁が存在する。このとき再生素子に下向きの外部磁界が印加されると、接合部53にあった磁壁は下方に移動し、接合部53と下方に移動した磁壁の間の磁化自由部の磁化は上向きから下向きに反転する。最終的に磁壁は磁化自由部52の下端に達し、磁化自由部52全体の磁化が下向きに揃う。次に、磁化固定部51の磁化と磁化自由部52の磁化が下向きに揃ったその状態で、上向きの外部磁界が印加されると、磁化自由部52の下端領域に磁壁が発生し、それが上方に移動する。上方に移動した磁壁は磁壁トラップに達すると、そこで止まり、それより上の磁化固定部51には侵入しない。こうして、磁化自由部52の磁化は、図3に示した上向きの状態に戻る。
【0018】
図4は、本発明の再生素子による磁界検出の原理を説明する図である。
ここでは垂直磁気記録媒体用の磁気ヘッドに搭載される再生素子について説明する。磁化自由部は媒体に面する磁気ヘッドの浮上面側に配置され、磁化固定部は磁化自由部より浮上面から遠い位置に配置される。上述のように、磁化自由部52の磁化の変化は、磁化自由部52内での磁壁の移動である。このとき、磁化自由部52内の各位置におけるスピンは回転するが、媒体からの磁場や熱揺らぎによる歳差運動を伴う。このスピンの運動を単位球面上にマップしたとき、例えばスピン回転の始状態を北極、終状態を南極に対応させれば、単位球面上におけるスピンの運動は北極から南極へ至る測地線を描くものではなく、有限の立体角をなす。この立体角がスピンの持つBerry位相であり、スピン起電力として観測にかかる物理量となる。
スピンBerry位相は、(スピン)波動関数の持つトポロジカルな性質によるのであるが、直観的には次のようなエネルギー保存則の見方ができる。磁化自由部52の磁化は媒体の磁場により、エネルギーの低い安定な方向を向く。つまり安定な方向を向く以前は、エネルギーの高い状態にあったことになる。この磁気的なエネルギー差が起電力として電気エネルギーとして放出されることになる。媒体の磁化状態に変化がない場合、当然のことながら磁化自由部52の磁化状態も変化せず、起電力も検出されない。この場合は、隣接したビットに同じシグナルが記録されていることを意味する。
【0019】
図5は、媒体の記録磁化と本発明の再生素子からの出力の関係を説明する模式図である。
磁気ヘッドが矢印方向に移動するとき、再生素子の磁化自由部の磁化は、磁気記録媒体に記録された記録磁化からの漏洩磁束の影響を受けて、再生素子の直下の記録磁化の向きと同じ向きに変化する。そのとき、図4により説明した原理によって電気出力が得られる。こうして、本発明の再生素子の場合、垂直磁気記録媒体の記録磁化が上向きから下向きあるいは下向きから上向きに変化する磁化遷移領域の上を走行するとき出力が得られる。記録磁化が上向きから下向きに変化するときと、下向きから上向きに変化するときとでは、図示するように出力信号の符号が逆になる。この出力信号と記録磁化の関係は、従来の誘導型再生ヘッドの出力と同じであるため、誘導型再生ヘッドの信号処理に用いられる回路と同等の回路を用いることによって記録信号を再生することができる。
【0020】
以下に、再生素子の別の実施例について説明する。図3に示した再生素子は、磁化固定部と磁化自由部の間に磁壁の移動を止める磁壁トラップを構成するための構造として、磁化固定部と磁化自由部に膜厚差を設ける構造と、磁化固定部と磁化自由部の接合部を幅の狭い狭窄部とする構造とを併用したものになっている。しかし、必ずしもこれらの構造を併用する必要はない。
【0021】
図6は、本発明による再生素子の他の実施例の説明図である。
本実施例の再生素子は、磁化固定部51と磁化自由部52の接合部53を幅の最も狭い狭窄部とする構造によって、接合部53を磁壁トラップとしたものである。本実施例では、磁化固定部51と磁化自由部52は、平らなシリコン基板54上に磁性膜55としてパーマロイを20nm成膜することで形成した。磁性膜55には、パーマロイ以外にFe、Co、Ni、およびそれらの合金を用いてもよい。磁化自由部52は、底部のX方向の長さを25nm、Z方向の長さを100nmとした。磁化固定部51は、上部のX方向の長さを60nm、Z方向の長さを300nmとした。接合部53はX方向の長さを20nmとした。図3の構造における記載と同様、デバイス幅の最も狭い部分は、接合部53のX方向の長さで、微細加工技術の寸法限界で決まる。また、図6の構造では、磁化固定部51と磁化自由部52は同一の厚さであり、磁化の面内異方性を有する厚さとした。
【0022】
図7は、本発明による再生素子の他の実施例の説明図である。
本実施例の再生素子は、磁化固定部51と磁化自由部52の磁性膜に膜厚差を設け、接合部53に段差を形成することにより、接合部53を磁壁トラップとしたものである。本実施例では、磁化固定部51と磁化自由部52は、段差を形成したシリコン基板54上に磁性膜55としてパーマロイを成膜することで形成した。磁性膜55には、パーマロイ以外にFe、Co、Ni、およびそれらの合金を用いてもよい。磁化自由部52は、膜厚を20nm、X方向の長さを20nm、Z方向の長さを100nmとした。磁化固定部51は、膜厚を40nm、X方向の長さを20nm、Z方向の長さを300nmとした。図7の構造においてはデバイスの幅(X方向の長さ)は同一であり、図3の構造における記載と同様、微細加工技術の寸法限界で決まる。
【0023】
図8は、本発明による再生素子の他の実施例の説明図である。
本実施例の再生素子は、磁化固定部51の磁性膜55aの保磁力を磁化自由部52の磁性膜55bの保磁力より大きく設定することにより、2つの磁性膜の境界部である接合部53を磁壁トラップとしたものである。本実施例では、磁化固定部51を構成する磁性膜55aの材料としてCoを用い、磁化自由部52を構成する磁性膜55bの材料としてパーマロイを用い、平らなシリコン基板の上にそれぞれ膜厚が20nmとなるように形成した。磁性膜55aの保磁力の目安となる結晶磁気異方性エネルギー(密度)は50KJ/m、磁性膜55bの結晶磁気異方性エネルギー(密度)はほぼゼロである。磁性膜55aと磁性膜55bは、50Oe程度以上の保磁力差を生じるものであれば他の材料の組み合わせでもよく、例えばFeとパーマロイ、FePtとパーマロイを組み合わせてもよい。磁化自由部52は、X方向の長さを20nm、Z方向の長さを100nmとした。磁化固定部51は、X方向の長さを20nm、Z方向の長さを200nmとした。。
【0024】
図9は、本発明による再生素子の他の実施例の説明図である。
本実施例の再生素子は、磁化固定部51と磁化自由部52を直線的にではなく、角度を持たせて接合することにより、屈曲した接合部53を磁壁トラップとしたものである。本実施例では、磁化固定部51と磁化自由部52は、平らなシリコン基板54上に磁性膜55としてパーマロイを20nm成膜することで形成した。磁性膜55には、パーマロイ以外にFe、Co、Ni、およびそれらの合金を用いてもよい。磁化自由部52は、X方向の長さを20nm、中心軸のZ方向の長さを100nmとした。磁化固定部51は、X方向の中心軸の長さを200nm、Z方向の長さを20nmとした。本実施例では、磁化固定部51の中心軸と磁化自由部52の中心軸のなす屈折角度θは90度とした。屈折角度θは、60〜120度の範囲が好ましい。
【0025】
図10は、本発明による再生素子の他の実施例の説明図である。
本実施例の再生素子は、磁化固定部51と磁化自由部52を構成する磁性膜55の下地膜として反強磁性膜を形成したものである。磁化自由部52は体積が小さいため熱的に不安定になり、磁化方向が乱れランダムな方向を向いてしまう可能性がある。本実施例では、基板54上に反強磁性膜からなる下地膜58を形成し、その上に磁化固定部51と磁化自由部52を構成する磁性膜55を形成することで、磁性膜55、特に磁化自由部52を構成する磁性膜に一軸異方性を付与し、磁化自由部52の磁化方向が熱的に不安定になることを抑制する。反強磁性膜としては、MnIr,MnPtなどを、10nm程度の膜厚に形成して用いればよい。
【0026】
図10には、図6で説明した再生素子に反強磁性体からなる下地膜58を形成した例を示したが、他の実施例の再生素子においても磁性膜の下地膜として反強磁性膜を用いることで同様の効果を得ることができる。
【0027】
図11は磁気記憶装置の概略図であり、図11(a)はその概略平面図、図11(b)は略断面図である。この磁気記憶装置は、垂直磁気記録媒体60、これを回転駆動する駆動部61、磁気ヘッド62、その駆動手段であるボイスコイルモータ63、磁気ヘッドの記録再生信号処理手段65を備える。磁気ヘッド62は、上述した本発明の磁気ヘッドである。磁気ヘッド62はジンバル64の先端に装着され、ボイスコイルモータ63によって垂直磁気記録媒体60に対して相対的に駆動されて所望のトラック上に位置決めされる。ホストから送信されてきた記録信号は、信号処理回路65を介して磁気ヘッド62の記録ヘッドに送られ、垂直磁気記録媒体60に磁化反転を生じさせて記録される。また、垂直磁気記録媒体60の記録磁化による漏洩磁界は磁気ヘッド62に組み込まれた本発明の再生素子によって検出され、検出された信号は信号処理回路65で処理された後、再生信号としてホストに送信される。
【0028】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0029】
例えば、図3から図10の実施例によって説明した各構成を適宜組み合わせて再生素子を製造することができるのは明かである。逐一説明はしないが、例えば、図9に示した再生素子に、図7に示した構成を適用して磁化固定部51の膜厚を磁化自由部52の膜厚より厚く設定することで、より安定に作動する再生素子を得ることができる。更に、それに図8に示した構成を適用して、磁化固定部51に磁化自由部52よりも保磁力の大きな磁性膜を用いてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10 記録ヘッド
11 主磁極
12 補助磁極
13 ピラー
14 絶縁体
15 ヨーク部
16 ポール部
17 トレーリングシールド
19 コイル
20 再生ヘッド
21 再生素子
22,23 磁気シールド
30 マイクロ波発生器
31 垂直磁気異方性体
32 磁化高速回転体
33 スピン伝導層
34 スピン注入層
35 スピン伝導層
40 磁気記録媒体
41 磁気記録層
42 中間層
43 軟磁性裏打ち層
51 磁化固定部
52 磁化自由部
53 接合部
54 シリコン基板
55 磁性膜
56,57 端子
58 下地膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の磁気シールドと、その間に配置された再生素子とを備える磁気ヘッドにおいて、
前記再生素子は、磁化が固定された磁化固定部と、前記磁化固定部に接合され外部磁界によって磁化が変化する磁化自由部と、前記磁化固定部と前記磁化自由部にそれぞれ接続された一対の出力端子を備え、
前記磁化固定部と前記磁化自由部の接合部は磁壁トラップを構成していることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ヘッドにおいて、前記磁化自由部内の磁壁移動に伴うスピン起電力を出力することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気ヘッドにおいて、前記接合部は幅の狭まった狭窄部であることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気ヘッドにおいて、前記磁化固定部を構成する磁性膜の膜厚は前記磁化自由部を構成する磁性膜の膜厚より厚く、前記接合部で前記磁化固定部の磁性膜と前記磁化自由部の磁性膜に段差が形成されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気ヘッドにおいて、前記磁化固定部を構成する磁性膜の保磁力は前記磁化自由部を構成する磁性膜の保磁力より大きいことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気ヘッドにおいて、前記磁化固定部と前記磁化自由部は前記接合部で角度をなして接合されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ヘッドにおいて、前記磁化固定部を構成する磁性膜及び前記磁化自由部を構成する磁性膜は、反強磁性膜の上に形成されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気ヘッドにおいて、前記磁化固定部の体積は前記磁化自由部の体積より大きいことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気ヘッドにおいて、記録磁界を発生する磁極とマイクロ波を照射するマイクロ波発生器を有する記録ヘッドを備えることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項10】
垂直磁気記録媒体と、前記垂直磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と、前記垂直磁気記録媒体に対して情報の書き込み及び読み出しを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記垂直磁気記録媒体の所望トラックに位置決めするヘッド駆動部とを有する磁気記憶装置において、
前記磁気ヘッドとして請求項9に記載の磁気ヘッドを用いることを特徴とする磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−209005(P2012−209005A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75721(P2011−75721)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】