説明

磁気信号再生装置および磁気信号再生方法

【課題】位置決め精度の向上やヘッドの位置補正を伴わずとも、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラックの出力値を高い信頼度で算出可能な、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法を提供する。
【解決手段】トラックTの幅方向に配置された複数の再生素子REを有する再生ヘッドRHを用いて、トラック毎に記録されているバースト信号をトラック上の複数の再生素子で再生するとともに、データトラックDT毎に記録されているデータ信号を、データトラック上の2以上の再生素子で同時に再生し、トラック中心Tcに対する再生ヘッドの位置ずれ量rをトラック毎のバースト信号から算出し、再生ヘッドの位置ずれ量に相当する位置誤差eから、データトラック上の2以上の再生素子とデータトラックの位置関係を判定し、判定結果に基づきデータトラック毎に同時に再生されたデータ信号xを重み付け合成し、データトラックの出力値yを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置のディスクには、現在、数十nmのトラック幅でデータが記録されている。一方、将来技術として有望視される二次元磁気記録(TDMR)では、現在の十分の一のトラック幅でデータが記録されると想定されている。TDMRでは、瓦記録(shingle write)用のアレイヘッドを用いて、トラック幅方向に重ねてデータが記録され、1トラックの幅方向に複数のデータトラックが形成される(下記非特許文献1、2参照)。
【0003】
一般に、ハードディスク装置では、データを正確に記録・再生するために、トラック中心をヘッドにトレースさせる必要がある。よって、ヘッドの位置制御を実現するために、トラックとヘッドの相対距離を示す位置ずれ情報がバースト信号から算出されて利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“The Feasibility of Magnetic Recording at 10 Terabits Per Square Inch on Conventional Media”、IEEE Transactions on Magnetics、Vol.45、No.2、Feb.2009、Roger Wood et al.
【非特許文献2】“Shingle Recording for 2−3 Tbit/in2”、IEEE Transactions on Magnetics、Vol.45、No.10、Oct.2009、Simon Greaves et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、TDMRでは、データトラック幅が数nmと非常に狭くなる。このため、現在の位置決め精度では、再生ヘッドに搭載された再生素子にデータトラックの中心をトレースさせることが困難となり、また、位置決め精度の向上も、ほぼ限界に近づいているといわれている。
【0006】
そこで、本発明は、位置決め精度の向上やヘッドの位置補正を伴わずとも、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラックの出力値を高い信頼度で算出可能な、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、トラックの幅方向に配置された複数の再生素子を有し、トラック毎に記録されているバースト信号を、トラック上に位置する複数の再生素子で再生するとともに、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラック毎に記録されているデータ信号を、データトラック上に位置する2以上の再生素子で同時に再生する再生ヘッドと、信号再生時におけるトラックの中心に対する再生ヘッドの位置ずれ量を、トラックに記録されているバースト信号から算出する位置ずれ量算出部と、再生ヘッドの位置ずれ量に相当する位置誤差から、データトラック上に位置する2以上の再生素子とデータトラックの位置関係を判定し、判定結果に基づきデータトラック毎に同時に再生されたデータ信号を重み付け合成し、データトラックの出力値を算出する出力値算出部と、を備える、磁気信号再生装置が提供される。
【0008】
かかる構成によれば、トラック上に位置する複数の再生素子でバースト信号が再生されるとともに、データトラック上に位置する2以上の再生素子でデータ信号が同時に再生される。そして、バースト信号から再生ヘッドの位置ずれ量が算出され、位置ずれ量から2以上の再生素子とデータトラックの位置関係が判定され、判定結果に基づきデータ信号が重み付け合成されてデータトラックの出力値が算出される。これにより、再生ヘッドの位置ずれ量に基づき、2以上の再生素子で再生されたデータ信号が重み付け合成されるので、位置決め精度の向上やヘッドの位置補正を伴わずに、データトラックの出力値を高い信頼度で算出することができる。
【0009】
上記磁気信号再生装置は、トラックの幅方向に配置された複数の記録素子を有し、1トラックの幅方向に複数のデータトラックを形成するようにデータ信号を瓦記録する記録ヘッドと、記録ヘッドの位置ずれ量を格納する位置ずれ量格納部と、をさらに備え、上記位置ずれ量算出部は、信号記録時におけるトラックの中心に対する記録ヘッドの位置ずれ量を、トラックに記録されているバースト信号から算出し、上記位置ずれ量格納部は、記録ヘッドの位置ずれ量を、信号記録先を示す論理アドレスに関連付けて格納し、上記出力値算出部は、信号再生時において、同一論理アドレスにおける再生ヘッドと記録ヘッドの位置ずれ量の差に相当する位置誤差から、データトラック上に位置する2以上の再生素子とデータトラックの位置関係を判定し、判定結果に基づきデータトラック毎に同時に再生されたデータ信号を重み付け合成し、データトラックの出力値を算出してもよい。
【0010】
上記位置ずれ量算出部は、信号記録時におけるトラックとデータトラックのオフセットを考慮して、トラックの中心に対する記録ヘッドの位置ずれ量を算出してもよい。
【0011】
上記出力算出部は、2以上の再生素子中のいずれかがデータトラック内に位置し、他の再生素子がデータトラックのエッジ上に位置すると判定された場合、データトラック内に位置する再生素子で再生されたデータ信号を、他の再生素子で再生されたデータ信号よりも重み付けてデータトラックの出力値を算出してもよい。
【0012】
上記出力値算出部は、2以上の再生素子がデータトラック内に位置すると判定された場合、2以上の再生素子中、ディスク媒体の内周側に位置する再生素子で再生されたデータ信号を、他の再生素子で再生されたデータ信号よりも重み付けてデータトラックの出力値を算出してもよい。
【0013】
上記位置ずれ量算出部は、トラックの中心に対して一方の側に位置する1以上の再生素子で再生されたバースト信号と、他方の側に位置する1以上の再生素子で再生されたバースト信号の比率に基づき、ヘッドの位置ずれ量を算出してもよい。
【0014】
また、本発明の別の観点によれば、トラックの幅方向に配置された複数の再生素子を有する再生ヘッドを用いて、トラック毎に記録されているバースト信号を、トラック上に位置する複数の再生素子で再生するステップと、再生ヘッドを用いて、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラック毎に記録されているデータ信号を、データトラック上に位置する2以上の再生素子で同時に再生するステップと、信号再生時におけるトラックの中心に対する再生ヘッドの位置ずれ量を、トラックに記録されているバースト信号から算出するステップと、再生ヘッドの位置ずれ量に相当する位置誤差から、データトラック上に位置する2以上の再生素子とデータトラックの位置関係を判定し、判定結果に基づきデータトラック毎に同時に再生されたデータ信号を重み付け合成し、データトラックの出力値を算出するステップと、を備える、磁気信号再生方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、位置決め精度の向上やヘッドの位置補正を伴わずとも、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラックの出力値を高い信頼度で算出可能な、磁気信号再生装置および磁気信号再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】二次元磁気記録に用いられる瓦記録を説明する図である。
【図2】瓦記録用の記録ヘッドによる記録状況を示す図である。
【図3】再生ヘッドによる再生状況を示す図である。
【図4】瓦記録用の記録フォーマットを示す図である。
【図5A】バースト信号とアレイヘッドの位置関係を示す図(1/2)である。
【図5B】バースト信号とアレイヘッドの位置関係を示す図(2/2)である。
【図6】本実施形態に係る信号再生装置を示す図である。
【図7】本実施形態に係る信号再生方法の手順を示すフロー図である。
【図8】位置誤差eと、合成係数αおよび出力値算定式の適用関係を示す図である。
【図9】瓦記録による誤ったデータの記録状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[1.瓦記録]
まず、図1〜図3を参照して、二次元磁気記録に用いられる瓦記録について説明する。
【0019】
図1には、データdi−1、d、di+1と、各データdi−1、d、di+1から符号化された符号データdj−1、d、dj+1が示されている。各データdi−1、d、di+1は、例えば2×5ビットからなる。
【0020】
データdi−1、d、di+1は、各符号データdj−1、d、dj+1に符号化され、瓦記録用のアレイヘッド(不図示)を用いて、ディスクD上のトラックTj−1、T、Tj+1上に各々に記録される。各データdi−1、d、di+1は、例えば8×20ビットの符号データdj−1、d、dj+1として記録される。
【0021】
図2には、記録素子WE1〜WE4を搭載した瓦記録用の記録ヘッドWHによるデータの記録状況が示されている。記録ヘッドWHでは、1トラックTの幅方向に4のデータトラックDT1〜DT4を形成するように、データa〜aが瓦記録される。
【0022】
記録ヘッドWHでは、記録素子WE1によりデータトラックDT1、DT2にデータaが記録され、同様に、記録素子WE2によりデータトラックDT2、DT3、記録素子WE3によりデータトラックDT3、DT4、記録素子WE4によりデータトラックDT4と隣接データトラックにデータa〜aが各々に重ねて記録される。瓦記録用の記録ヘッドWHによれば、位置決め精度の向上を伴わずとも、均等なトラック幅で高密度なデータを記録することができる。
【0023】
図3には、再生素子RE1〜RE12を搭載した再生ヘッドRHによる信号の再生状況が示されている。図3では、aがデータトラックDTの間隔、bが再生素子REの幅、cが再生素子REの間隔、dが再生素子REとデータトラックDTのエッジとの間隔、yがk時点のデータトラックlの出力値を示している。
【0024】
図3に示すように、トラックT上では、記録データa〜aに対応するように、磁性体粒子が磁化されている。再生ヘッドRHでは、トラックTに記録されている磁界分布MDに基づき、記録データa〜aに対応する信号が2の再生素子REによりデータトラックDT1〜DT12毎に再生される。
【0025】
つまり、再生ヘッドRHがトラック中心Tcに位置する場合、データトラックDT1の信号が再生素子RE3、RE4により、データトラックDT2の信号が再生素子RE5、RE6により、データトラックDT3の信号が再生素子RE7、RE8により、データトラックDT4の信号が再生素子RE9、RE10により各々に再生される。
【0026】
これにより、再生装置では、図2に示した記録データaに対応する出力値yが再生素子RE3、RE4により再生される。同様に、記録データaに対応する出力値y、記録データaに対応する出力値y、記録データaに対応する出力値yが再生素子RE5、RE6;RE7、RE8;RE9、RE10により各々に再生される。
【0027】
図4には、瓦記録用の記録フォーマットが示されている。フォーマットF1、F2は、サーボ領域とデータ領域に区分されている。サーボ領域には、プリアンブル、シンクマーク、グレイコード、バースト信号に対応する信号が記録される。サーボ領域の信号、特にバースト信号は、トラックTとアレイヘッドWH、RHの相対距離を示す位置ずれ情報を求めるために利用される。
【0028】
データ領域には、プリアンブル、シンクマーク、データ、CRC、ECCに対応する信号が4のデータトラックに瓦記録される。ここで、フォーマットF1では、データ領域の信号がデータトラックDT1〜DT4に連続して記録され、フォーマットF2では、データ領域の信号がデータトラックDT1〜DT4に並列して記録されている。
【0029】
つまり、フォーマットF1では、データトラックDT1〜DT4にプリアンブル、シンクマーク、データ、CRC、ECCに対応する一組の信号が記録されており、一次元的な信号処理により復号される。一方、フォーマットF2では、データトラックDT1〜DT4にプリアンブル、シンクマーク、データ、CRC、ECCに対応する一組の信号が各々に記録されており、二次元的な信号処理により復号される。
【0030】
[2.磁気信号の再生装置および再生方法]
つぎに、図5〜図9を参照して、本発明の実施形態に係る磁気信号の再生装置および再生方法について説明する。
【0031】
図5A、5Bには、サーボ領域のバースト信号とアレイヘッドWH、RHの位置関係が示されている。サーボ領域には、トラック中心Tcから一側にバースト信号Aが記録されている領域Aaと、他側にバースト信号Bが記録されている領域Abが設けられている。記録ヘッドWHには、記録素子WE1〜WE6がトラックTの幅方向に並んで配置され、再生ヘッドRHには、再生素子RE1〜RE12がトラックTの幅方向に並んで配置されている。
【0032】
図5Aでは、アレイヘッドWH、RHの中心がトラック中心Tcと一致している。図5Bでは、アレイヘッドWH、RHの中心がトラック中心Tcからずれている。ここで、WがアレイヘッドWH、RHの幅、wが記録ヘッドWHのトラック中心Tcからの位置ずれ量、rが再生ヘッドRHのトラック中心Tcからの位置ずれ量を示している。
【0033】
再生ヘッドRHでは、領域Aaを通過時に、トラック中心Tcより一側に位置する再生素子REにより信号が再生され、領域Abを通過時に、トラック中心Tcより他側に位置する再生素子REにより信号が再生される。ここで、一側に位置する1以上の再生素子REによる再生信号の合成値をバースト信号Aの合成信号、他側に位置する1以上の再生素子REによる再生信号の合成値をバースト信号Bの合成信号とする。
【0034】
ここで、例えば、図5Aに示す例では、バースト信号Aとバースト信号Bが各々に6つの再生素子REにより再生されるので、バースト信号Aの合成信号と、バースト信号Bの合成信号は、同程度の大きさとなる。一方、図5Bに示す例では、バースト信号Aよりもバースト信号Bが多くの再生素子REにより再生されるので、バースト信号Aの合成信号がバースト信号Bの合成信号よりも大きくなる。
【0035】
ここで、再生ヘッドRHのトラック中心Tcからの位置ずれ量rは、式(1)〜(4)を用いて、バースト信号A、Bの合成信号から求めることができる(出展:“Magnetic Information Storage Technology”、Shan X.Wang et al、pp.143)。
【0036】
つまり、バースト信号A、Bの合成信号に同期させたウインドウ内での積分結果をパラメータA、Bとすると、位置誤差信号(PES)が式1により表される。また、パラメータA、Bは、式(2)により表される。式(2)を式(1)に代入すると、PESは、式(3)として表される。そして、式(3)を変形した式(4)を用いて、再生ヘッドRHのトラック中心Tcからの位置ずれ量rを求めることができる。なお、再生ヘッドRHの位置ずれ量rは、絶対量に代えて、相対量として求めてもよい。
【0037】
【数1】

【0038】
一方、記録ヘッドWHのトラック中心Tcからの位置ずれ量wは、信号記録時におけるサーボ領域とデータ領域のオフセットoを考慮して、式(5)を用いて求めることができる。記録ヘッドWHのずれ量sは、式(2)〜(4)中のrをsに置換することで、式(1)〜(4)から求められる。ここで、TWがトラック幅、Δがトラック幅方向におけるサーボ領域とデータ領域のオフセット率(%)を示している。
【0039】
【数2】

【0040】
図6には、本発明の実施形態に係る信号再生装置が示されている。信号再生装置は、図4に示したフォーマットF1に従って記録されたデータを再生するように構成されている。
【0041】
図6に示すように、信号再生装置は、複数の再生素子RE1〜RE12を搭載した再生ヘッドRHを有する。再生ヘッドRHは、互いに隣接する2の再生素子(例えばRE1、RE2)からなる、複数組の素子ペアを有している。各素子ペアの後段には、増幅器を有するプリアンプ11と、再生チャネルが配置されている。再生チャネルは、スイッチリミッタ増幅器13、FFT器15、AD変換器17、乗算器19、加算器21、およびスイッチSW1、SW2、SW3からなる。なお、スイッチSW1、SW2、SW3は、バースト信号処理時に“1”側の接点が接続され、データ処理時に“2”側の接点が接続されるように、コントローラ(不図示)により制御される。各素子ペアと、その後段に配置された増幅器および再生チャネルは、1の再生系列を構成する。なお、図中では、再生素子RE5〜RE10に対応する再生系列の表示が省略されている。
【0042】
再生チャネルの後段には、バースト信号を処理するために、バースト合成回路23、位置ずれ量算出回路25、位置誤差算出回路27、および条件設定回路29が配置され、データを処理するために、バッファ31、CTフィルタ33、AD変換器35、FIRフィルタ37、ビタビ復号器39、ECC検出器41、およびRLL復号器43が配置されている。
【0043】
まず、バースト信号処理時の動作について説明する。再生ヘッドRHでは、同一データトラックDTの信号が2の再生素子(例えばRE1、RE2)により同時に再生され、プリアンプ11により増幅されてスイッチSW1に供給される。スイッチSW1では、再生信号がリミッタ増幅器13に導かれて増幅され、FFT器15によりFFT処理されてスイッチSW2に供給される。
【0044】
ついで、再生信号は、バースト合成回路23に導かれ、他の再生系列から供給される再生信号とともに、バースト信号A、Bの合成信号として合成処理されて位置ずれ量算出回路25に供給される。なお、バースト合成回路23には、再生ヘッドRHが領域Aa、Abを通過中であることを示すゲート信号A、Bも供給される。
【0045】
位置ずれ量算出回路25では、バースト信号A、Bの合成信号からPESが算出され、さらに位置ずれ量rまたは位置ずれ量wが算出されて位置誤差算出回路27に供給される。位置誤差算出回路27では、位置ずれ量r、wから位置誤差e=w−rが算出されて条件設定回路29に供給される。そして、条件設定回路29では、後述するように、データトラックDTの出力値yを算出するための条件(後述する、出力値算定式および合成係数α)が設定され、設定結果が乗算器19に供給される。
【0046】
つぎに、データ処理時の動作について説明する。再生ヘッドRHおよびプリアンプ11では、バースト信号処理時と同様の処理が行われる。スイッチSW1では、再生信号がAD変換器17に導かれて離散化されてスイッチSW2に供給される。スイッチSW2では、2の再生素子REのデータ信号xが乗算器19に導かれて合成係数α、α−1を各々に乗算され、加算器21により合算され、データトラックDTの出力値yとしてスイッチSW3に供給される。
【0047】
ついで、出力値yは、バッファ31に導かれて格納され、他の再生系列から供給される出力値yとともに、CTフィルタ33に供給される。出力値yは、CTフィルタ33、AD変換器35、FIRフィルタ37、ビタビ復号器39、ECC検出器41、およびRLL復号器43により処理を施され、トラックTのデータとして出力される。
【0048】
図7には、本発明の実施形態に係る信号再生方法の手順が示されている。図7に示すように、信号記録時には、バースト信号から信号記録時の位置ずれ量sを算出(ステップS11)するとともに、信号記録時のサーボ領域とデータ領域のオフセットoを算出する(S13)。そして、記録ヘッドWHのトラック中心Tcからの位置ずれ量w=s+oを、信号記録時の論理アドレスとともに不図示のメモリ等に格納しておく(S15)。
【0049】
信号再生時には、バースト信号から再生ヘッドRHのトラック中心Tcからの位置ずれ量rを算出し(S17)、位置誤差算出回路27に供給する。また、論理アドレスに基づき、信号再生時の位置ずれ量rに対応する信号記録時の位置ずれ量wをメモリ等から読出し(S19)、位置誤差算出回路27に供給する。位置誤差算出回路27では、信号再生時の論理アドレスに対して、位置ずれ量w、rから位置誤差e=w−rを算出する(S21)。そして、位置誤差eに基づき、データトラックDTと再生素子REの位置関係を判定し(S23)、判定結果に基づき、データ信号xを重み付け合成してデータトラックDTの出力値yを算出する。
【0050】
なお、図7では、信号記録時および再生時の位置ずれ量w、rから算出された位置誤差eを用いて、出力値yを算出する場合について説明したが、信号再生時の位置ずれ量rを位置誤差eとして用いて、出力値yを算出してもよい。
【0051】
また、ステップS103〜S105の処理を高速に実現できる場合、再生ヘッドRHから順次に出力される再生信号xを用いて、データトラックDTの出力値yを算出してもよい。一方、ステップS103〜S105の処理中に、再生ヘッドRHから出力される再生信号xをAD変換してメモリ等に一旦格納しておき、格納された出力値yを用いて、データトラックDTの出力値yを算出してもよい。
【0052】
ここで、k時点のデータトラックlの出力値yは、以下の算定条件1〜9に応じて設定される、合成係数αおよび出力値算定式(6)〜(10)を用いて算出される。図8には、位置誤差eと、合成係数αおよび出力値算定式の適用関係が示されている。なお、以下では、位置ずれ量w、rが|w|、|r|<2.5mmの範囲内にある場合を想定し、位置誤差eの範囲を−5.0mm(Emin)<e<+5.0nm(Emax)とする。
【0053】
ここで、RE(i)が再生素子REi、kが時点、lがデータトラック番号(l=1〜4)であり、データトラック番号lは、ディスクDの内周側のデータトラックDTから昇順に付されている。また、xRE(i)がk時点の再生素子REiの出力値、αが合成係数(0≦α≦1)を示している。
【0054】
・条件1:RE(2l+1)、RE(2l+2)がデータトラックl内に位置する場合
この場合、位置誤差eが−d<e<dとなり、式(6)にα=0.9を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0055】
・条件2:RE(2l)がデータトラックlのエッジ上に位置する場合
この場合、位置誤差eがd≦e<b+dとなり、式(6)にα=1.0を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0056】
・条件3:RE(2l)、RE(2l+1)がデータトラックl内に位置する場合
この場合、位置誤差eがb+d≦e<b+c+dとなり、式(7)にα=0.9を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0057】
・条件4:RE(2l−1)がデータトラックlのエッジ上に位置する場合
この場合、位置誤差eがb+c+d≦e<2b+c+dとなり、式(7)にα=1.0を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0058】
・条件5:RE(2l−1)、RE(2l)がデータトラックl内に位置する場合
この場合、位置誤差eが2b+c+d≦e<Emaxとなり、式(8)にα=0.9を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0059】
・条件6:RE(2l+1)がデータトラックlのエッジ上に位置する場合
この場合、位置誤差eが−d≦e<−(b+d)となり、式(6)にα=0.0を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0060】
・条件7:RE(2l+2)、RE(2l+3)がデータトラックl内に位置する場合
この場合、位置誤差eが−(b+d)≦e<−(b+c+d)となり、式(9)にα=0.9を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0061】
・条件8:RE(2l+2)がデータトラックlのエッジ上に位置する場合
この場合、位置誤差eが−(b+c+d)≦e<(2b+c+d)となり、式(9)にα=0.0を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0062】
・条件9:RE(2l+3)、RE(2l+4)がデータトラックl内に位置する場合
この場合、位置誤差eが−(2b+c+d)≦e<Eminとなり、式(10)にα=0.9を代入して、データトラックlの出力値yが算出される。
【0063】
【数3】

【0064】
上記再生方法によれば、位置誤差eが生じていない場合、データトラックlの信号が素子ペアをなす2の再生素子(例えば、再生素子REa、REb)により再生される。よって、位置誤差eが生じて一方の再生素子REaがデータトラックlのエッジ上に位置する場合(算定条件2、4、6、8)でも、他方の再生素子REbがデータトラックl内に位置しているので、他方の再生素子REbの再生信号からデータトラックlの出力値yを算出することができる。
【0065】
また、上記再生方法によれば、2つの再生素子REa、REbがデータトラックl内に位置する場合(算定条件1、3、5、7、9)、データトラックlの出力値yは、合成係数αに従って、ディスクDの内周側に位置する一方の再生素子REaの出力値xRE(a)が他方の再生素子REbの出力値xRE(b)よりも重み付けされて算出される。これにより、以下で説明するように、瓦記録により隣接するデータトラックlに誤ったデータが記録されている場合でも、データトラックlの出力値yの信頼性を維持することができる。
【0066】
図9には、瓦記録による誤ったデータの記録状況が示されている。ディスクD上には、形状、大きさの異なる磁性粒子Gが不均一に配置されている。図9に示す例では、データトラックDT1に配置された粒子G1、G2とデータトラックDT1、DT2に跨って配置された粒子G3が示されている。
【0067】
記録ヘッドWHでは、記録素子WE1により粒子G1〜G3上にデータ「0」が記録された後、記録素子WE2により粒子G3上にデータ「1」が重ねて記録される。この場合、粒子G3がデータトラックDT1、DT2に跨っているので、データトラックDT1に記録されたデータが重ね書きの影響を受けてしまう。
【0068】
しかし、データトラックDT1の出力値yは、合成係数α=0.9に従って、内周側に位置する再生素子REaの出力値xRE(a)が外周側に位置する再生素子REbの出力値xRE(b)よりも重み付けされて算出される。これにより、粒子G1、G2上のデータ「0」が粒子G3上のデータ「1」よりも重み付けされるので、重ね書きの影響を殆ど受けずに、データトラックDT1の出力値yの信頼度を維持することができる。
【0069】
なお、合成係数αの値は、ビット誤り率等として示される品質基準を満足するように、上記以外の値として設定されてもよい。つまり、算定条件1、3、5、7、9に用いる値がα=0.9以外の値でもよく、算定条件2、4、6、8に用いる値がα=1.0以外の値でもよい。
【0070】
[3.まとめ]
以上説明したように、本発明の実施形態に係る信号再生装置および信号再生方法によれば、再生ヘッドRHの位置ずれ量rに基づき、2以上の再生素子REa、REbで再生されたデータ信号xRE(a)、xRE(b)が重み付け合成される。よって、再生ヘッドRHとトラックTの間に位置ずれが生じた場合でも、位置決め精度の向上や再生ヘッドRHの位置補正を伴わずに、データトラックDTの出力値yを高い信頼度で算出することができる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
例えば、上記説明では、位置ずれ量w、rが|w|、|r|<2.5mmの範囲内にある場合を想定したが、上記再生方法は、位置ずれ量w、rがより大きな範囲に及ぶ場合にも適用することができる。この場合、出力値算定式および算定条件を変更すればよい。
【0073】
また、上記説明では、トラックTに4のデータトラックDT1〜DT4が割当てられる場合を想定したが、上記再生方法は、2以上4未満または5以上のデータトラックDTが割当てられる場合についても適用することができる。この場合も、出力値算定式および算定条件を変更すればよい。
【0074】
また、上記説明では、データトラックDTの出力値yを算出するために、データトラックDT上に位置する2の再生素子REa、REbの出力値xRE(a)、xRE(b)を用いる場合について説明したが、データトラックDT上に位置する3以上の再生素子REa、REb、REc、…の出力値xRE(a)、xRE(b)、xRE(c)、…を用いてもよい。
【符号の説明】
【0075】
RH 再生ヘッド
RE 再生素子
WH 記録ヘッド
WE 記録素子
T トラック
DT データトラック
Tc トラック中心
Aa、Ab バースト信号A、Bの記録領域
W 再生ヘッド、記録ヘッドの幅
r 再生ヘッドの位置ずれ量
w 記録ヘッドの位置ずれ量
e 位置誤差
x 再生素子の出力値
y データトラックの出力値
11 プリアンプ
13 スイッチリミッタ増幅器
15 FFT器
17 AD変換器
19 乗算器
21 加算器
23 バースト合成回路
25 位置ずれ量算出回路
27 位置誤差算出回路
29 条件設定回路
31 バッファ
33 CTフィルタ
35 AD変換器
37 FIRフィルタ
39 ビタビ復号器
41 ECC検出器
43 RLL復号器
SW1、SW2、SW3 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラックの幅方向に配置された複数の再生素子を有し、前記トラック毎に記録されているバースト信号を、前記トラック上に位置する複数の再生素子で再生するとともに、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラック毎に記録されているデータ信号を、前記データトラック上に位置する2以上の再生素子で同時に再生する再生ヘッドと、
信号再生時における前記トラックの中心に対する前記再生ヘッドの位置ずれ量を、前記トラックに記録されている前記バースト信号から算出する位置ずれ量算出部と、
前記再生ヘッドの位置ずれ量に相当する位置誤差から、前記データトラック上に位置する前記2以上の再生素子と前記データトラックの位置関係を判定し、前記判定結果に基づき前記データトラック毎に同時に再生された前記データ信号を重み付け合成し、前記データトラックの出力値を算出する出力値算出部と、
を備える、磁気信号再生装置。
【請求項2】
前記トラックの幅方向に配置された複数の記録素子を有し、前記1トラックの幅方向に前記複数のデータトラックを形成するようにデータ信号を瓦記録する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドの位置ずれ量を格納する位置ずれ量格納部と、をさらに備え、
前記位置ずれ量算出部は、信号記録時における前記トラックの中心に対する前記記録ヘッドの位置ずれ量を、前記トラックに記録されている前記バースト信号から算出し、
前記位置ずれ量格納部は、前記記録ヘッドの位置ずれ量を、信号記録先を示す論理アドレスに関連付けて格納し、
前記出力値算出部は、信号再生時において、同一論理アドレスにおける前記再生ヘッドと前記記録ヘッドの位置ずれ量の差に相当する位置誤差から、前記データトラック上に位置する前記2以上の再生素子と前記データトラックの位置関係を判定し、前記判定結果に基づき前記データトラック毎に同時に再生された前記データ信号を重み付け合成し、前記データトラックの出力値を算出する、請求項1に記載の磁気信号再生装置。
【請求項3】
前記位置ずれ量算出部は、信号記録時における前記トラックと前記データトラックのオフセットを考慮して、前記トラックの中心に対する前記記録ヘッドの位置ずれ量を算出する、請求項1または2に記載の磁気信号再生装置。
【請求項4】
前記出力算出部は、前記2以上の再生素子中のいずれかが前記データトラック内に位置し、他の再生素子が前記データトラックのエッジ上に位置すると判定された場合、前記データトラック内に位置する前記再生素子で再生されたデータ信号を、前記他の再生素子で再生されたデータ信号よりも重み付けて前記データトラックの出力値を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気信号再生装置。
【請求項5】
前記出力値算出部は、前記2以上の再生素子が前記データトラック内に位置すると判定された場合、前記2以上の再生素子中、ディスク媒体の内周側に位置する再生素子で再生されたデータ信号を、他の再生素子で再生されたデータ信号よりも重み付けて前記データトラックの出力値を算出する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気信号再生装置。
【請求項6】
前記位置ずれ量算出部は、前記トラックの中心に対して一方の側に位置する1以上の再生素子で再生されたバースト信号と、他方の側に位置する1以上の再生素子で再生されたバースト信号の比率に基づき、前記ヘッドの位置ずれ量を算出する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気信号再生装置。
【請求項7】
トラックの幅方向に配置された複数の再生素子を有する再生ヘッドを用いて、前記トラック毎に記録されているバースト信号を、前記トラック上に位置する複数の再生素子で再生するステップと、
前記再生ヘッドを用いて、1トラックの幅方向に複数形成されたデータトラック毎に記録されているデータ信号を、前記データトラック上に位置する2以上の再生素子で同時に再生するステップと、
信号再生時における前記トラックの中心に対する前記再生ヘッドの位置ずれ量を、前記トラックに記録されている前記バースト信号から算出するステップと、
前記再生ヘッドの位置ずれ量に相当する位置誤差から、前記データトラック上に位置する前記2以上の再生素子と前記データトラックの位置関係を判定し、前記判定結果に基づき前記データトラック毎に同時に再生された前記データ信号を重み付け合成し、前記データトラックの出力値を算出するステップと、
を備える、磁気信号再生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−134372(P2011−134372A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291071(P2009−291071)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】