説明

磁気光学効果計測装置

【課題】試料上の微小領域を加熱し、この加熱に伴う同領域の温度計測並びに磁気計測を実施することが可能な磁気光学効果計測装置を提供するにある。
【解決手段】磁気光学効果計測装置においては、磁気計測モードにおいて、直線偏光又は円偏光の特性を与えられている第1の光ビームが発生され、また、温度計測モードにおいて、赤外波長を有する第2の光ビームが発生される。磁性体試料上の微小領域に第2の光ビームが直入射型反射光学素子によって集光されてこの領域が加熱され、この微小領域の加熱に伴いこの微小領域から輻射される赤外線が直入射型反射光学素子によって伝播されて温度が計測される。また、磁性体試料に磁界が印加された状態で、第1の光ビームが直入射型反射光学素子によって集光照射され、微小領域で磁気光学効果の作用を受けて伝播される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学効果を利用した磁気光学効果計測装置に係り、特に、磁性試料上の微小サイズ領域の加熱に伴う試料温度及び微小サイズ領域の磁気光学効果を計測する磁気光学効果計測装置に関する。
【0002】
この磁気光学効果装置は、次世代ストレージ媒体或いは次世代メモリーの磁気評価に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
情報ストレージ・メモリーは、年々記録密度が増加し、次世代の技術として考えられているビットパターン媒体(BPM)や磁気抵抗メモリー(MRAM)においては、その記録サイズがナノメーターオーダーに突入している。そこで、BPM或いはMRAMを構成する磁性ドットは、一般に電子線リソグラフィー技術を基礎として作成されている。しかし、電子線リソグラフィーのスループットは、極めて低く、通常の試作開発では、マイクロメーターオーダーの領域にしか素子の作製が出来ないため、10-11emu程度の感度がないと磁気計測できない問題がある。現在、主に使われている磁気評価装置、例えば、振動試料型磁力計或いは超電導量子干渉素子磁束計は、10-6〜10-8emu程度の感度しかなく、感度が不足して磁性ドットを測定することができないことが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−224907号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Suzuki, M. Takagaki, Y. Kondo, N. Kawamura, J. Ariake, T. Chiba, H. Mimura,T. Ishikawa, in: Proceedings of the International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation, AIP Conference Series, vol. 879, 2007, p. 1699.
【非特許文献2】T. Mori, G. X. Du, M. Suzuki, S. Saito, H, Fukuda, M. Takahashi, J. Magn. Soc. Jpn., vol. 34, 2010, p. 493
【非特許文献3】電子情報通信学会(IEICE) 近藤祐治、山川清志、中村勇希、石尾俊二、有明順 「反射型結像鏡を用いた顕微カー効果磁気計測装置の開発」、信学技報、MR2010−32 2010年10月7日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
情報ストレージの技術分野においては、更なる高密度を目指して、BPMと熱アシスト記録とを組み合わせた方式が必須として検討されている。上記のストレージ・メモリーを製品化するためには、研究開発段階において、BPMの磁気特性の温度特性を詳細に評価する必要があり、試料上のマイクロメーターオーダーサイズの領域を加熱して、同時又は希望するタイミングでその領域の温度計測および磁気的変化の計測することが望まれている。
【0007】
最近、マイクロメーターオーダーのサイズの磁性試料上の領域を測定する手法として、高輝度放射光をKerkpatrik-Baezミラーで2μm程度に集光して試料に照射し、その領域のみからの磁気円二色性を計測する方法が非特許文献1に提案されている。しかし、この方法は大型の加速器による強力な円偏光X線を使う必要がある。しかしながら、日本では現在、兵庫県にあるSPring-8のみ利用可能であり、地理的な利便性や時間的な迅速性に欠け、メーカー、大学等の研究者、技術者にとって非常に制約が大きい問題がある。
【0008】
また、実験室規模における微小サイズの磁性試料を測定する手法として、レーザー光を屈折レンズで6μmに集光して試料のファラデー回転を検出して磁気計測する方法が非特許文献2に提案されている。しかし、屈折レンズは、磁場発生装置の近くに配置する必要があるため、磁場発生装置から発生する磁場によって屈折レンズを透過した直線偏光の光は、ファラデー回転することが知られている。従って、この非特許文献2で提案された装置では、磁性試料からのファラデー回転やカー回転に重畳してしまい、正しい測定ができない恐れがある。
【0009】
この問題を解決する方法として、外部磁界による集光レンズで発生するファラデー回転を補正するための補正用電磁石を集光レンズの一部に設ける方法が特許文献1に開示されている。しかし、この方法は装置が大掛かりになってしまう問題がある。さらに集光レンズに用いられている屈折レンズは、通常石英ガラス或いはBK7などを用いているため、温度輻射の大勢を占める赤外線の透過率が低いという問題点もある。さらに、上述のように、マイクロメーターオーダー領域における磁気計測を行なう装置は存在するが、加熱と温度計測および磁気計測を同時に行なう装置は我々が知りえる範囲では存在しない。
【0010】
本願の発明者らは、上述した非特許文献2における問題を解決する為に、非特許文献3で反射型結像鏡を用いた顕微カー効果磁気計測装置を発表している。この顕微カー効果磁気計測装置は、ビットパターン媒体(BPM)や磁気抵抗メモリー(MRAM)等の硬磁性ナノ構造体を的確に計測することができる。しかし、この装置のより発展的改良が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の目的は、試料上のマイクロメーターオーダーの領域を加熱し、この加熱に伴う同領域の温度計測並びに当該領域の磁気計測を同時又は希望するタイミングで実施することが可能な磁気光学効果計測装置を提供するにある。
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明によれば、
磁気計測モードにおいて、ある波長を有する第1の光ビームを発生し、第1の光ビームに直線偏光または円偏光の特性を与える第1光源光学系と、
温度計測モードにおいて、赤外波長を有する第2の光ビームを発生する第2光源部と、
前記第1及び第2の光ビームを同一光路に向ける光学系と、
前記磁気計測モードにおいて、前記光路上に配置された磁性体試料に磁界を印加する磁石装置と、
前記温度計測モードにおいて、前記磁性体試料上の微小領域に前記第2の光ビームを集光してこの領域を加熱し、この微小領域の加熱に伴いこの微小領域から輻射される赤外線を伝達する直入射型反射光学素子であって、前記磁気計測モードにおいて、前記試料の微小領域に前記直線偏光または円偏光された前記第1の光ビームを集光照射して、当該試料の前記微小領域で磁気光学効果の作用を受けながら反射され、或いは、当該試料の前記微小領域を磁気光学効果の作用を受けながら透過された前記第1の光ビームを伝播する直入射型反射光学素子と、
前記磁気計測モードにおいて、前記磁気光学効果の作用を受けながら、透過或いは反射された前記第1の光ビームを検出して前記微小領域における磁気光学効果を計測する第1の検出器と、及び
前記温度計測モードにおいて、前記伝播された赤外線を検出して前記微小領域の温度特性を検出する第2の検出器と、
を具備することを特徴とする磁気光学効果計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、実験室規模で利便性が高く実用性を備えた、マイクロメーターオーダー領域の試料加熱と温度計測および磁気計測を同時又は希望するタイミングで行なう装置を実現することができる。また、磁気光学効果計測装置に直入射型反射光学素子を用いることで強磁場中においても、高い空間分解能と偏光面の乱れのない精度の高い計測が可能である。従って、BPMの磁気特性の温度特性を詳細に評価する必要がある場合において、マイクロメーターオーダーサイズの試料を加熱して、同時又は希望するタイミングでその領域の温度計測および磁気的変化を計測する要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る直入射型反射光学素子を用いた磁気光学効果計測装置の計測光学系を示す概略図である。
【図2】図1に示される直入射型反射光学素子を用いた磁気光学効果計測装置における試料加熱並びに温度計測を実施する為の光学系を示す概略図である。
【図3】図1に示される直入射型反射光学素子を用いた磁気光学効果計測装置におけるカー効果を利用した磁気的計測を実施する為の光学系を示す概略図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係る直入射型反射光学素子を用いた磁気光学効果計測装置の計測光学系を示す概略図である。
【図5】(a)及び(b)は、図1に示される磁気光学効果計測装置において、メッシュ状に加工したCo80Pt20磁性パターン薄膜試料を用いた薄膜試料上の集光サイズを計測した結果を示すグラフである。
【図6】図1に示される磁気光学効果計測装置において、赤外線レーザーの出力パワーに対する測定された赤外線温度計の出力強度の関係を示す測定結果のグラフである。
【図7】図1に示される磁気光学効果計測装置において、メッシュ状に加工したCo80Pt20磁性パターン薄膜試料に対するカー効果計測の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る磁気光学効果計測装置ついて、詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る直入射型反射光学素子を用いた磁気光学効果計測装置を示している。図2は、図1に示される光学系に含まれ、温度計測モードにおいて試料の加熱及び温度計測する光学系を示し、図3は、図1に示される光学系に含まれ、磁気計測モードにおいてカー効果を利用した磁気的計測光学系を示している。また、図4は、図1に示される磁気光学効果計測装置の磁気的計測光学系が反射光学系で構成されるに対して磁気的計測光学系が透過光学系で構成されている他の実施例を示している。これらの図面において、同一箇所或いは同一部分は、同一符号を付してその説明を省略するものとする。
【0017】
図1に示されるように、磁気光学効果計測装置においては、磁気計測モードにおいて発生される磁気計測のための直線偏光ビーム及び温度計測モードにおいて発生される試料22を加熱するための赤外線が同一の直入射型反射光学素子20によって集光されて磁性体試料22に照射されている。図1に示される磁気光学効果計測装置では、磁気計測モードにおいて発生される直線偏光ビームが集光される試料22上の領域の一部、または全部に、温度計測モードにおいて発生される赤外線が集光され、当該同一領域の試料加熱及び温度計測並びにカー効果計測がこの装置で実施される。ここで、同一領域とは、磁気計測モードにおける直線偏光ビームが集光される領域であって、温度計測モードにおける赤外線が集光され、しかも、温度計測される領域に相当している。また、温度計測モード及び磁気計測モードにおける同一領域の試料加熱及び温度計測が同時又は希望するタイミングで実施され、更に、カー効果計測が同時又は希望するタイミングで実施することが可能である。この装置では、試料上のマイクロメーターオーダー領域のみを加熱して温度計測する機構及び試料22上のマイクロメーターオーダー領域のみのカー効果計測を実施する機構が組み合わされている。直入射型反射光学素子20としてのシュワルツシルド光学素子は、電磁石18−1,18−2の磁極間に設置されているため、光学素子20の全長が15mm、光学素子20から焦点までの距離が10mmとなるよう光学素子20は、コンパクトに設計されている。
【0018】
図2は、図1に示される磁気光学効果計測装置における試料22上のマイクロメーターオーダー領域のみを加熱して、かつ温度計測する光学系を示している。温度計測モードにおいて附勢される加熱用赤外線の光源4として、一例として、波長が785nmで連続発振型の赤外線レーザー4を用いることができる。温度計測モードにおいて赤外線レーザー4から赤外線が発生され、この赤外光線は、ハーフミラー8で反射されてピンホール12に向けられる。このピンホール12の直径(穴の直径)は、一例として200μmに定められ、この温度計測光学系においては、ピンホール12が仮想光源に定められている。ピンホール12を透過した赤外線がピンホール12から発散され、発散光ビーム(発散光線束)としてハーフミラー14を透過し、シュワルツシルド光学素子20で試料22の表面上に集光されている。
【0019】
尚、ピンホール12は、目的に応じて図1中の反射鏡6とハーフミラー14の間の光路内の適切な位置に設置することができる。
【0020】
ここで、試料22としては、一例として、ガラスを基板としてこの基板上にメッシュ状に加工したCo80Pt20磁性セグメント(微小領域)が行列に配列されているCo80Pt20磁性パターン薄膜試料が用いられている。赤外線レーザー・ビーム(光束)は、一例として、4.77μm(径)の集光サイズで試料22上に集光される。図5(a)及び(b)は、実際の光学系で赤外線レーザー・ビーム(光束)を計測した結果を示し、試料22上のメッシュパターンが一方向に走査されてメッシュ試料からの反射光強度が計測されて集光サイズが計測されている。ここで、図5(a)は、集光ビームがメッシュ端部の集光位置を横切ったときの反射光強度変化を示している。また、図5(a)の反射光強度変化が微分されて図5(b)に示される集光した光(集光ビーム)の強度プロファイルが獲得される。赤外線レーザー・ビーム(光束)は、図5(b)に示すように集光サイズとして4.77μm(径)に集光することができる。この図1及び図4に示す磁気光学効果計測装置においては、直入射型反射光学素子20を用いることでマイクロメーターオーダーの集光が実現でき、このマイクロメーターオーダーの領域のみを加熱することができる。赤外線レーザーによって加熱された試料22の表面から輻射された電磁波(可視光〜赤外線)は、シュワルツシルド光学素子20で拡大投影され、ハーフミラー16によって光路が90°曲げられて、赤外透過フィルター26に向けられる。電磁波(可視光〜赤外線)は、赤外透過フィルター26を透過された後、赤外線温度計24に導かれ、温度計測モードでの温度計測に供される。試料22の表面からは、この放射電磁波のみだけでなく、試料22の表面に入射した赤外線レーザービームの反射成分も放射電磁波と同一光路を辿り、赤外線温度計24に向けられ、赤外線温度計24で検出される虞がある。しかし、赤外線温度計24の直前には、赤外透過フィルター26が設置されるため、放射電磁波のみが赤外線温度計24で検出される。即ち、この赤外透過フィルター26は、波長が850nm以上の赤外線(放射電磁波)のみを透過できるため、波長785nmの入射赤外線の影響を取り除くことができる。入射赤外線のレベル(横軸)に対する試料表面温度(縦軸)との関係を示す図6から明らかなように、レーザー出力値が増加されると、赤外線温度計24の出力値も増加される。図1及び図2に示す装置によれば、マイクロメーターオーダー領域のみの加熱および温度計測を実現することが可能となる。
【0021】
次に、図3を参照して、磁気計測モードにおいて、試料22上のマイクロメーターオーダー領域のみをカー効果計測する原理を説明する。ここで、試料22上のマイクロメーターオーダー領域は、温度計測モードにおいて、赤外線レーザービームで加熱され、その領域からの赤外線(放射電磁波)を計測する領域と同一とすることができる。
【0022】
図3に示す光学系においては、磁気計測モードにおいて、連続発振型のHe-Neレーザー2から光ビーム(一例として、波長633nmを有する。)が発生され、偏光子10を透過させることによって直線偏光ビームに変換される。生成された直線偏光ビームは、その後、一例として穴の直径200μmのピンホール12を仮想光源として透過される。ピンホール12からの発散性の直線偏光ビームは、ハーフミラー14を透過してシュワルツシルド光学素子20によって試料22上に集光される。直線偏光ビームは、図5に示すように、試料22の表面上で同様に4.77μm(径)の集光サイズにまで集光される。従って、図1及び図3に示す磁気光学効果計測装置においても、直入射型反射光学素子20によるマイクロメーターオーダー領域のみの磁気光学効果の計測が可能となる。
【0023】
尚、ピンホール12と偏光子10は、目的に応じて図1の反射鏡6とハーフミラー14の間の光路内の適切な位置にそれぞれ設置できる。
【0024】
試料表面からの反射光ビームは、ハーフミラー14でその光路が90°(直角に)曲げられて偏光ビームスプリッタ28を経て受光素子32および34に導かれる。磁気計測モードにおいて、受光素子32および34において得られた検出信号が差動検出されてカー回転が計測される。
【0025】
ここで、75μmのハーフピッチのメッシュ状に加工された磁性パターン薄膜試料Co80Pt20(膜厚15 nm)に対し、カー効果を計測した結果が図7に示されている。図7に示すグラフにおいては、磁性パターン薄膜試料Co80Pt20上の磁区(微小領域)の磁界強さ(横軸)に対するカー効果信号の出力(縦軸)が示されている。図7から明なように、磁界の方向(プラス或いはマイナス方向)が変化されるに従ってカー効果信号の出力が明確に変化されている。図1に示す光学系では、直入射型反射光学素子22(22−1,22−2)は、電磁石18−1,18−2で発生される磁場中に配置されているが、この図7からも明らかなように、この磁場の影響を受けずに、マイクロメーターオーダー領域までのビーム集光性能を有さない市販装置で得られた磁化曲線と同様な結果が得られる。よって、直入射型反射光学素子22(22−1,22−2)が採用されることによって、試料22の磁化変化に基づく偏光面の回転以外の不要な偏光面の回転は、観測されず、試料22の磁化変化に関して、精度の高い磁気光学効果の計測を実現することができる。
【0026】
上述したように図1に示される装置は、図2及び図3に示される光学系の構成を組み合わせて実現されている。従って、図1に示される装置においては、磁気計測のための光ビームと加熱のための光ビームはその光路を共有し、加熱するための赤外線を集光する直入射型反射光学素子20及びカー効果計測を行なうために用いるレーザーを集光するための直入射型反射光学素子20は同一とされ、共用することができる。従って、温度計測モードにおける同一の微小領域の加熱及びその温度変化の計測並びに磁気計測モードにおける同一領域のカー効果計測を光学系の調整を要することなく実現することができ、しかも、その微小領域の高精度の計測を実現することが可能となる。
【0027】
このような組み合わせ光学系においては、加熱のための赤外線と試料からの輻射電磁波および磁気計測のためのレーザーのいずれも効率良く反射させるために幅広い波長領域で高い反射率を与えることが必要とされる。そこで、本実施例では直入射型反射光学素子20(20−1,20−2)の反射材料としてアルミニウムを適用することで高い反射率を実現することができる。
【0028】
尚、アルミニウムは、波長が100nmから10μmまで高い反射特性を有するために、本実施例で用いたHe−Neレーザーの波長633nmよりもさらに短い波長、具体的には、100nmの波長以上のレーザーに対して使用することができる。波長が100nmの場合、回折限界は約250nmであるためサブミクロンオーダー領域の計測が可能となる。ただし、反射材料は、アルミニウムに限定されるものではなく、他の反射材料であっても良い。
【0029】
図4に示される透過系の装置においては、温度計測モードにおいて、試料22上のマイクロメーターオーダー領域のみの加熱とその領域のみの温度計測並びに、磁気計測モードにおいて、その同一領域に関してもファラデー効果を計測することができる。加熱するための赤外線を集光する直入射型反射光学素子20−1と、ファラデー効果計測を行なうために用いるレーザーを集光するための直入射型反射光学素子20−1は同一のものを共用することができる。直入射型反射光学素子20−1、20−2の反射材料としては実施例1と同様にアルミニウムが適用される。ただし、反射材料はこれに限定されるものではない。
【0030】
ファラデー効果計測用レーザー2と加熱用赤外線レーザー4からのレーザービームは、シュワルツシルド光学素子20−1を用いて試料22上に集光される。この集光サイズは、図5で示したように4.77μmを実現することができる。集光された領域からの輻射電磁波は、シュワルツシルド光学素子20−1によって拡大投影されて赤外線温度計24を用いて温度計測される。図1に示した反射型の装置と同様に、入射赤外線の試料22からの反射成分が赤外線温度計24に取り込まれないように赤外透過フィルター26が赤外線温度計24の直前に設置されている。ファラデー効果を計測するための試料22を透過したレーザービーム(光ビーム)は、シュワルツシルド光学素子20−2で拡大投影され、偏光ビームスプリッタ28を経て受光素子32および34に導かれている。ここで、磁気計測モードにおいて、受光素子32および34で得られた信号が差動検出されることによってファラデー回転の計測が実現される。図1に示した装置と同様に、ただ一つの直入射型反射光学素子20−1を用いることにより、加熱する領域と温度計測する領域およびファラデー効果計測する領域を同一とすることが容易に可能となっている。
【0031】
尚、図1及び図4に示される装置において、加熱用赤外線レーザーおよび磁気光学計測用レーザーとしてパルスレーザ―を適用することができ、或いは、連続発振の加熱用赤外線レーザーおよび磁気光学効果計測用レーザーが採用された光学系にあっては、光路中にシャッタを設けて、加熱用赤外線レーザー及び/又は磁気光学効果計測用レーザーを間欠的に試料22の表面に照射するように構成しても良い。また、レーザーを一つのみ備え、出射されるビームの光路を2分割し、一方のビームに非線形光学素子を適用して波長変換することで2種類の波長を有する光源とすることも可能である。
【0032】
上述した図1及び図4に示す実施の形態では、直入射型反射光学素子20−1、20−2の反射材料としてアルミニウムが適用されているが、アルミニウムのような単層膜ではなく、二つの物質を周期的に交互に積層した多層膜構造にすることで波長100nm以下の領域の光線、つまり真空紫外や軟X線領域の光も反射することが可能になる。軟X線領域における磁気光学効果は、内殻吸収を用いたものであるため、検査対象の目的とする元素のスピン状態を直接見ることができ、可視光以上の長い波長を用いた磁気光学効果と比較すると、大きなアドバンテージがある。また、波長100nm以下の光を用いた場合には、回折限界が250nm以下であるため、ディープサブミクロン領域における磁気光学効果の計測が可能である。
【0033】
さらに、材料の選定次第では、この短波長領域の光線の他に赤外線も反射でき、軟X線領域における磁気光学効果計測(X線磁気円二色性やX線カー効果)と加熱の組合せ計測が可能になる。この内殻吸収による磁気光学効果と加熱による計測が可能になると、放射光による計測も凌駕することになる。
【0034】
以上のように、只一つの直入射型反射光学素子を用いることにより、加熱する領域と温度計測する領域および磁気光学効果計測する領域を一致させることが容易に実現することができる。また、加熱用赤外線レーザー4およびカー効果計測用レーザー4としてパルスレーザ―を適用することができる。加熱用赤外線レーザー及び/又はカー効果計測用レーザーとしてパルスレーザ―を用いることによって、同一領域において、同時又は希望するタイミングで加熱過程および磁性材料の磁化過程を時分割計測することができ、BPMと熱アシスト記録への非常に有意義な情報を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明によれば、実験室規模で利便性が高く実用性を備えた、マイクロメーターオーダー領域の試料加熱と温度計測および磁気計測を同時に行なう装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0036】
2・・・磁気光学効果計測用レーザー、4・・・加熱用赤外レーザー、6・・・反射鏡、8、14、16・・・ハーフミラー、10・・・偏光子、12・・・ピンホール、18−1、18−2・・・電磁石、20、20−1、20−2・・・シュワルツシルド光学素子、22・・・試料、24・・・赤外温度計、26・・・赤外透過フィルター、28・・・偏光ビームスプリッタ、32、34・・・受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気計測モードにおいて、ある波長を有する第1の光ビームを発生し、第1の光ビームに直線偏光または円偏光の特性を与える第1光源光学系と、
温度計測モードにおいて、赤外波長を有する第2の光ビームを発生する第2光源部と、
前記第1及び第2の光ビームを同一光路に向ける光学系と、
前記磁気計測モードにおいて、前記光路上に配置された磁性体試料に磁界を印加する磁石装置と、
前記温度計測モードにおいて、前記磁性体試料上の微小領域に前記第2の光ビームを集光してこの領域を加熱し、この微小領域の加熱に伴いこの微小領域から輻射される赤外線を伝達する直入射型反射光学素子であって、前記磁気計測モードにおいて、前記試料の微小領域に前記直線偏光または円偏光された前記第1の光ビームを集光照射して、当該試料の前記微小領域で磁気光学効果の作用を受けながら反射され、或いは、当該試料の前記微小領域を磁気光学効果の作用を受けながら透過された前記第1の光ビームを伝播する直入射型反射光学素子と、
前記磁気計測モードにおいて、前記磁気光学効果の作用を受けながら、透過或いは反射された前記第1の光ビームを検出して前記微小領域における磁気光学効果を計測する第1の検出器と、及び
前記温度計測モードにおいて、前記伝播された赤外線を検出して前記微小領域の温度特性を検出する第2の検出器と、
を具備することを特徴とする磁気光学効果計測装置。
【請求項2】
前記直入射型反射光学素子は、磁石装置が発生する磁場中に配置されることを特徴とする請求項1に記載の磁気光学効果計測装置。
【請求項3】
前記直入射型反射光学素子として、シュワルツシルド光学素子を用いることを特徴とする請求項2に記載の磁気光学効果計測装置。
【請求項4】
第1光源光学系は、前記第1の光ビームに直線偏光または円偏光の特性を与えたレーザービームを発生するレーザー光源を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の磁気光学効果計測装置。
【請求項5】
前記第2光源部は、赤外線レーザービームを発生するレーザー光源を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の磁気光学効果計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251797(P2012−251797A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122769(P2011−122769)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】