説明

磁気光学特性測定装置及び磁気光学特性の測定方法

【課題】強磁性体の異方性磁場等の磁気光学特性を精度よく、安価で簡便に測定する磁気光学特性測定装置及び磁気光学特性の測定方法を提供する。
【解決手段】磁気光学特性測定装置1は、レーザ光源2が試料Fの磁化の光励起歳差運動の周期に同期可能な高繰り返し周期の光パルス列を発生し試料に照射するモードロックレーザであり、外部磁場印加手段4が試料に所定の外部磁場を電磁石により印加させ、偏光検出器5は光パルス列が試料で反射した反射光を検出して、偏光成分を磁気光学信号として出力し、制御装置6が外部磁場印加手段を制御して試料の磁化の光励起歳差運動が光パルス列の周期に同期したときの外部磁場と磁気光学信号とを共鳴条件として取得し、共鳴条件での光パルス列の周期と外部磁場の強度と磁気光学信号とを用いてLLG方程式に基づき試料の磁気光学特性である有効内部磁場又は異方性磁場とダンピングファクタとを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の磁気特性を測定する測定装置及びその測定方法に関し、特に光誘起歳差運動と高繰り返し光パルス励起との共鳴現象を利用した強磁性体の磁気光学特性測定装置及び磁気光学特性の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)やスピンMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)に代表されるスピントロニクスデバイスは、スピン注入磁化反転という新技術に基づいて作製されている。スピン注入磁化反転は、デバイス中の磁化の向きを、スピンが揃った電子の流れ(電流)で制御するものである。このスピン注入磁化反転の技術分野においては、近年、理論と実験の両面から非常に多くの研究が行われており、磁化を制御するために必要な臨界電流Icを低減することが強く求められている。これが実現すれば、スピントロニクスデバイスにおいて、飛躍的な性能向上が期待され、応用の幅も広がる。
【0003】
従来の理論研究から、臨界電流Icの値を小さくするためには、異方性磁場Haniの値が小さい磁性体や、ダンピングファクタと呼ばれるパラメータαの値が小さい磁性体を選べばよいという指針が得られる。ここで、異方性磁場Haniは、磁性イオンの交換相互作用等に起因する有効的な内部磁場であり、ダンピングファクタαは、磁化の歳差運動の緩和過程を表す現象論的なパラメータである。しかしながら、異方性磁場Haniやダンピングファクタαが物質によってどのように変化するのかについては、明らかにされてはいない。以上の理由により、様々な物質の異方性磁場Hani及びダンピングファクタαに関する研究が進められている。
【0004】
近年、例えば、非特許文献1に示すように、超高速時間分解磁気光学分光法を用いて、異方性磁場Haniやダンピングファクタαを決定する研究成果等が報告されている。これらの研究は、以下の原理に基づくものである。強磁性体に光を照射すると、温度上昇やキャリア濃度の変化により、磁気異方性が変化し、磁化(磁化ベクトル)が歳差運動を始めるという現象が生じる。そこで、これらの研究では、フェムト秒の時間分解磁気光学測定法を駆使して、磁化の歳差運動を観測し、理論モデルを用いた計算により観測データを解析して、異方性磁場Haniとダンピングファクタαとを決定する。
【0005】
また、常磁性体の化合物半導体に円偏光を照射すると、スピン偏極したキャリア(キャリアスピン)が生成することが知られている。そして、フォイクト配置(Voigt配置、フォークト配置ともいう)で、磁場を印加すると、キャリアスピンは、印加磁場の大きさを反映した周期で歳差運動を始める。この振る舞いは、およそ80[MHz]のパルス繰り返し周期のモードロックパルスレーザから出力されるパルス光を使用した超高速時間分解分光法により観測することができる。なお、フォイクト配置は、光の進行方向と直交する方向に磁界が印加されるような配置である。
【0006】
そして、常磁性体のキャリアスピンの緩和時間よりもパルス光(レーザ光)の繰り返し周期の方が短い場合、複数のパルス光励起により注入されたスピンの歳差運動が互いに干渉する。その結果、パルス光の繰り返し周期が、キャリアスピンの歳差運動の周期の整数倍になるときに、キャリアスピンの歳差運動の振幅が、共鳴的に増幅する現象が生じる(非特許文献2参照)。この現象は、Resonant Spin Accumulation(RSA)と称されている。
【0007】
一方、強磁性体においてスピンの挙動は、常磁性体におけるスピンの挙動とは異なる。すなわち、強磁性体の場合には、互いに相互作用し合って一方向に配向した集団的な多数のスピンの挙動を考える必要がある。ただし、この場合にも、強磁性体に複数のパルス光を照射することで、常磁性体と同様に、スピンの歳差運動の干渉が起こることは、実験的に示され、理論的にもよく説明されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y.Hashimoto et al.,"Photoinduced Precession of Magnetization in Ferromagnetic (Ga,Mn)As" Phys. Rev. Lett., 100, 067202(2008)
【非特許文献2】J.M.Kikkawa and D.D.Awschalom,"Resonant Spin Amplification in n-Type GaAs" Phys. Rev. Lett. Vol.80, No.19, 4313(1998)
【非特許文献3】Y.Hashimoto et al.,"Coherent manipulation of magnetization precession in ferromagnetic semiconductor (Ga,Mn)As with successive optical pumping" Appl. Phys. Lett., 93, 202506(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、強磁性体の異方性磁場Haniとダンピングファクタαとを決定するために従来から用いられている強磁性共鳴法や超高速時間分解磁気光学分光法には、以下の問題がある。
例えば、超高速時間分解磁気光学分光法は、1本のパルス光照射により誘起される磁気光学効果の変化を観測する。そのために、測定精度が充分とは言えず、また、強磁性体の試料の種類によっては評価することができない。さらに加えて、実験には大きく高価な測定装置と、熟練した実験技術とが必要不可欠である。また、強磁性共鳴法も、実験には大きく高価な測定装置と、熟練した実験技術とが必要不可欠である。
【0010】
そこで、本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、強磁性体の試料の異方性磁場等の磁気光学特性を精度よく、安価で簡便に測定することができる磁気光学特性測定装置及び磁気光学特性の測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の磁気光学特性装置は、強磁性体の試料の磁化の光励起歳差運動の周期と、レーザ光源から当該試料に照射される高繰り返しパルスレーザ光の周期とを同期させ、前記試料の磁気光学特性を測定する磁気光学特性測定装置であって、レーザ光を発生して前記試料に照射する前記レーザ光源と、前記試料に外部磁場を印加する外部磁場印加手段と、前記試料からの検出光の偏光成分を検出して磁気光学信号として出力する偏光成分検出手段と、前記磁気光学特性を算出する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の磁気光学特性装置によれば、レーザ光源は、前記試料の磁化の光励起歳差運動の周期に同期可能な高繰り返し周期の光パルス列を発生し前記試料に照射するモードロックレーザである。そして、前記外部磁場印加手段は、前記試料に隣接して設けられ、前記試料に所定の外部磁場を電磁石により印加させる。前記偏光成分検手段は、照射された前記光パルス列が前記試料で反射した反射光、又は、前記光パルス列が前記試料を透過した透過光を検出して、その偏光成分を磁気光学信号として前記制御装置に出力する。この偏光成分検出手段において、反射光を検出する場合は、カー効果の原理により磁気特性としての偏光成分を検出し、また、透過光を検出する場合は、ファラデー効果の原理により磁気特性としての偏光成分を検出する。
【0013】
そして、このような構成の磁気光学特性装置において、前記制御装置では、前記外部磁場印加手段を制御して、前記試料の磁化の光励起歳差運動が前記光パルス列の周期に同期したときの外部磁場と前記磁気光学信号とを共鳴条件として取得し、この共鳴条件での前記光パルス列の周期と前記外部磁場の強度と前記磁気光学信号とを用いて、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づいて、前記試料の磁気光学特性である有効内部磁場又は異方性磁場とダンピングファクタとを算出する。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載の磁気光学特性装置は、請求項1に記載の磁気光学測定装置において、前記偏光成分検出手段が、光量検出手段と、光弾性変調器と、ロックインアンプとを備えることを特徴とし、前記光量検出手段は、前記照射された光パルス列が前記試料で反射した反射光、又は、前記光パルス列が前記試料を透過した透過光の強度を検出し、前記光弾性変調器は、前記レーザ光源から前記試料に照射される前記光パルス列の光路の途中に配置され、前記光パルス列を所定周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光とに切り替えて出力し、そして、前記ロックインアンプは、前記光弾性変調器で前記光パルス列を変調した周波数信号を参照信号として、前記光量検出手段が検出する光強度信号から偏光成分を測定した結果を前記磁気光学信号として、ロックイン検出し前記制御装置に出力する。
【0015】
このような構成の磁気光学測定装置によれば、偏光検出手段は、光量検出手段と、光弾性変調器と、ロックインアンプとを備え、時間変調された光強度から間接的に磁気光学信号を検出する。すなわち、照射された光パルス列が試料で反射した反射光、又は、光パルス列が試料を透過した透過光が光量検出手段に入射したときに、ロックインアンプが円二色性の原理に従って、左回り円偏光と右回り円偏光の差から磁気特性としての偏光成分を検出する。
【0016】
また、請求項3に記載の磁気光学測定装置は、請求項1又は請求項2に記載の磁気光学測定装置において、前記外部磁場印加手段が、前記試料の両側面側に配設された電磁石から前記試料表面に平行な面内磁場を発生させ、前記試料表面に面内磁場を印加させる。
そして、請求項4に記載の磁気光学測定装置は、請求項1又は請求項2に記載の磁気光学測定装置において、前記外部磁場印加手段が、前記試料の裏面側に配設された電磁石から前記試料表面に垂直な面直磁場を発生させ、前記試料表面に面直磁場を印加させる。
【0017】
このような構成の磁気光学測定装置によれば、試料の作製条件による試料形態あるいは物理的特性によって、外部磁場印加手段を面内磁場印加方式又は面直磁場印加方式とすることができる。
【0018】
また、請求項5に記載の磁気光学測定装置は、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の磁気光学測定装置において、前記試料と前記レーザ光源との間の光路に光学レンズである集光レンズをさらに備えることを特徴とする。
【0019】
前記集光レンズは、前記レーザ光源であるモードロックレーザからの前記光パルス列を集光し前記試料に照射する光学レンズであり、前記試料の磁気光学特性の測定において、光励起強度を高めることで磁気光学信号の検出分解能を向上させ、かつ、空間分解能を向上させる。
【0020】
また、前記目的を達成するために、本発明の請求項6に記載の磁気光学特性の測定方法は、レーザ光源と、外部磁場印加手段と、偏光成分検出手段と、制御装置とを備えると共に、強磁性体の試料の磁気光学特性を測定する磁気光学特性測定装置の磁気光学特性の測定方法であって、以下の工程を含むこととした。
【0021】
磁気光学特性の測定方法では、第1の工程として、前記レーザ光源であるモードロックレーザにより、前記試料の磁化の光励起歳差運動の周期に同期可能な高繰り返し周期の光パルス列を発生し前記試料に照射する。第2の工程として、前記試料に隣接して設けられた前記外部磁場印加手段により、所定の外部磁場を電磁石により前記試料に印加する。第3の工程として、前記照射された光パルス列が前記試料で反射した反射光、又は、前記光パルス列が前記試料を透過した透過光を前記偏光成分検出手段により検出して、その偏光成分を磁気光学信号として出力する。そして、第4の工程として、前記制御装置により、前記外部磁場印加手段を制御して、前記試料の磁化の光励起歳差運動が前記光パルス列の周期に同期したときの外部磁場と前記磁気光学信号とを共鳴条件として取得し、第5の工程として、前記制御装置によって、前記共鳴条件における前記外部磁場の大きさと、前記光照射の繰り返し周期との各情報を用いて、LLG方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場又は異方性磁場とダンピングファクタとを算出する。
【0022】
このような工程によれば、磁気光学特性の測定方法において、前記請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の磁気光学測定装置を用いて強磁性体の磁気光学特性を測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明による請求項1に記載の磁気光学特性測定装置によれば、強磁性体の試料の異方性磁場等の磁気光学特性を精度よく、安価で簡便に測定することができる。
【0024】
また、磁気光学特性測定装置のレーザ光源を、高繰り返し周期の光パルス列を発生するモードロックレーザとすることで、従来の80[MHz]程度の繰返し周期のレーザ光源、たとえば、1m程度の直線空間を必要とするCO2ガスレーザやTiサファイアレーザ等のバルク型のレーザ光源と比較して、格段にレーザ光源の装置を小型化することができるので、磁気光学特性装置全体としての装置を小型化することができる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、磁気光学特性測定装置は、偏光成分検出手段を安価な光量検出手段、たとえば、フォトダイードを用いて構成することができる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、磁気光学特性測定装置は、試料表面に面内磁場を印加させることができる。また、請求項4に記載の発明によれば、磁気光学特性測定装置は、試料表面に面直磁場を印加させることができる。したがって、試料の作製条件による試料形態あるいは物理的特性に対応した外部磁場印加手段を選択することで試料の磁気特性光学特性を測定することができる。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば、磁気光学特性測定装置は、強磁性体の試料の磁気光学特性の測定において空間分解能を向上させることができる。
【0028】
請求項6に記載の発明によれば、磁気光学特性の測定方法において、請求項1乃至請求項5に記載の磁気光学特性測定装置を用いて、強磁性体の磁気光学特性を精度よく安価で簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態の磁気光学特性測定装置を説明するための構成図である。
【図2】本発明における磁化の歳差運動を説明するための概念図であって、(a)は平衡状態、(b)はパルス光照射直後、(c)はパルス光の照射後に磁化が向く方向をそれぞれ示している。
【図3】本発明において、1本のパルス光を試料に照射したときの磁化Mの時間的変化の計算結果を示す図であり、(a)は、Heffの傾き、(b)は、1−Mx成分、(c)は、My成分、(d)は、Mz成分、及び、(e)は、My成分/Mz成分の合成変化をそれぞれ示す。
【図4】本発明において、2本連続したパルス光を試料Fに照射した場合の磁化Mの歳差運動を説明するための概念図であり、(a)は、1本目のパルス光を照射後の磁化Mの振る舞い、(b1)は、共鳴条件での1本目の照射による磁化Mの歳差運動の終了時点、(c1)は、共鳴条件での2本目の照射による磁化Mの歳差運動をそれぞれ示し、(b2)は、非共鳴条件での1本目の照射途中の磁化Mの振る舞い、(c2)は、非共鳴条件での2本目の照射後の磁化Mの振る舞いをそれぞれ示す。
【図5】本発明における磁化の歳差運動の干渉を概念的に示すタイミングチャートであり、(a)は非共鳴時の歳差運動、(b)は共鳴時の歳差運動、(c)はパルスレーザの出力タイミングをそれぞれ示している。
【図6】本発明において、共鳴条件で2本連続したパルス光を試料に照射した場合の磁化Mの時間的経過の挙動を説明するための計算結果を示す図であり、(a)は、Heffの傾き、(b)は、1−Mx成分、(c)は、My成分、(d)は、Mz成分、及び、(e)は、My成分/Mz成分の合成変化をそれぞれ示す。
【図7】本発明において、非共鳴条件で2本連続したパルス光を試料に照射した場合の磁化Mの時間的経過の挙動を説明するための計算結果を示す図であり、(a)は、Heffの傾き、(b)は、1−Mx成分、(c)は、My成分、(d)は、Mz成分、及び、(e)は、My成分/Mz成分の合成変化をそれぞれ示す。
【図8】本発明において、共鳴条件で50本連続したパルス光を試料に照射した場合の磁化Mの時間的経過の挙動を説明するための計算結果を示す図であり、(a)は、Heffの傾き、(b)は、1−Mx成分、(c)は、My成分、(d)は、Mz成分、及び、(e)は、My成分/Mz成分の合成変化をそれぞれ示す。
【図9】本発明において、非共鳴条件で50本連続したパルス光を試料に照射した場合の磁化Mの時間的経過の挙動を説明するための計算結果を示す図であり、(a)は、Heffの傾き、(b)は、1−Mx成分、(c)は、My成分、(d)は、Mz成分、及び、(e)は、My成分/Mz成分の合成変化をそれぞれ示す。
【図10】本発明において、共鳴条件で50本連続したパルス光を試料に照射した場合の磁化Mの時間的経過時間5000ps近傍で磁化Mの挙動を説明するための計算結果を示す図であり、(a)は、1−Mx成分、(b)は、My成分、(c)は、Mz成分変化をそれぞれ示す。
【図11】本発明において、連続して出力されるパルス光の本数nが50のときのδMx、δMy、δMzの有効内部磁場Heff依存性を説明するための計算結果である。
【図12】本発明において、連続して出力されるパルス光の本数nが50のときの磁化Mの有効内部磁場Heffに対するダンピングファクタαをパラメータとした計算結果であり、(a)は、δMx成分、(b)は、δMy成分、及び(c)は、δMz成分についての計算結果である。
【図13】本発明において、連続して出力されるパルス光の本数nが50のときの磁化Mの有効内部磁場Heffに対する緩和時間τをパラメータとした計算結果であり、(a)は、δMx成分、(b)は、δMy成分、及び(c)は、δMz成分についての計算結果である。
【図14】本発明の磁気光学特性の測定方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【図15】第1実施形態の磁気光学特性測定装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図16】本発明の第2の実施形態の磁気光学特性測定装置を説明するための構成図である。
【図17】本発明の第3の実施形態の磁気光学特性測定装置を説明するための構成図である。
【図18】本発明の第4の実施形態の磁気光学特性測定装置を説明するための構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の磁気光学特性測定装置及び磁気光学特性の測定方法の第1の実施形態乃至第4の実施形態について、図1乃至図18を参照して説明する。以下では、説明の都合上、第1の実施形態として、(1)磁気光学特性測定装置の概要、(2)理論モデルの概要と計算結果、(3)磁気光学特性の測定方法の全体の流れ、(4)磁気光学測定装置の制御装置の構成例について説明した後、第2乃至第4の実施形態について順次説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
(1)磁気光学特性測定装置の概要
図1は、本発明の第1の実施形態の磁気光学特性測定装置1を説明するための構成図である。磁気光学特性測定装置1は、所定の繰り返し周期trepのレーザ光を強磁性体の試料Fに照射することで、当該試料Fの異方性磁場Haniを含む磁気光学特性を測定するものである。
磁気光学特性測定装置1は、図1に示すように、レーザ光源2と、光学系3と、外部磁場印加手段4と、偏光検出器5と、制御装置6とを備えている。
【0032】
レーザ光源2は、強磁性体の試料Fの磁化の歳差運動の周期TMに同期可能な繰り返し周期trepの連続した光パルス列のレーザ光をポンプ光として照射するものである。ここで、レーザ光源2の繰り返し周波数νL(=1/trep)は、磁気光学特性測定対象の試料に応じて、例えば、100[MHz]から1[THz]の範囲で予め設定しておく。また、レーザ光源2の繰り返し周期trepは、試料Fの磁化の歳差運動の周期TMよりも小さいことが好ましい。
【0033】
本実施形態では、レーザ光源2として、繰り返し周波数νLが例えば3〜5[GHz]のモードロックレーザを使用する。なお、この場合、レーザ光源2は、3[GHz]の一定の繰り返し周波数の光パルス列のレーザ光を出力する専用装置としてもよいし、繰り返し周波数を3[GHz]で出力するモードと、5[GHz]で出力するモードとを切り替えることのできる汎用装置としてもよい。
【0034】
光学系3は、図1に示すように、光学レンズから構成される集光レンズ10を備えることも可能で、レーザ光源2からの光パルス列のレーザ光を集光して試料Fに照射できるように構成した。
【0035】
外部磁場印加手段4は、基板12に固定された試料Fに所定の磁場を印加するものであり、電磁石で構成される。この外部磁場印加手段4は、後記するように、試料Fに磁場を印加することで、試料Fにおいて磁化の歳差運動の周期を制御する。本実施形態では、外部磁場印加手段4で印加する磁場(外部磁場Hext)の方向を、試料Fの異方性磁場Haniの方向と平行であるものとした。つまり、一例として、試料Fの有効内部磁場Heffの方向が面内方向である場合には、図1に示すように、外部磁場印加手段4は、試料Fの表面に対して平行な面内磁場を印加できるように配設される。なお、試料Fに印加する外部磁場Hextの大きさ(値)の変化に応じて、試料Fにおける有効内部磁場Heffの大きさは変化し、外部磁場Hextが試料Fに印加されていない場合には、有効内部磁場Heffの大きさは異方性磁場Haniの大きさと等しくなる。
【0036】
基板12は、例えば、数〜数十[nm]程度の薄い膜状の試料Fを固定するために設けられており、試料Fを固定することができれば、そのサイズ、形状、材質等が限定されるものではない。例えば、試料Fを基板12上にスパッタリング法等により積層する場合には、シリコン(Si)やガラス等の一般的な基板材料を用いることができる。このとき、基板12の厚さや大きさは数[mm]程度とすることができる。
【0037】
偏光検出器(偏光成分検出手段)5は、レーザ光源2からの光パルス列のレーザ光が試料Fで反射した反射光を受光してその偏光成分を検出し、この検出した、偏光成分を示す磁気光学信号(Magneto-Optical信号:以下、MO信号という)を制御装置6に出力する。
【0038】
制御装置6は、例えば、一般的なパーソナルコンピュータ等から構成される。この制御装置6は、偏光検出器5で検出したMO信号を取得し、取得したデータを、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づく理論モデルを用いて解析することで、試料Fの磁気光学特性として、有効内部磁場Heffの値とダンピングファクタαの値とを算出するものである。
【0039】
(2)理論モデルの概要と計算結果
次に、本発明の磁気光学測定における理論モデルの概要と計算結果について図2乃至図13を参照して説明する。ここでは、2.1磁化の歳差運動、2.2磁化の歳差運動の干渉、2.3MO信号の各節について順次説明する。
【0040】
(2.1)磁化の歳差運動
まず、理論モデルの前提として、磁化の歳差運動について説明する。理論モデルを説明するための概念図を図2に示す。図2では、薄い膜状の試料Fが固定される平面をxy平面、その平面の法線方向をz軸として示した。つまり、レーザ光源2から照射されるパルス光の照射方向は、z軸方向である。また、図2(a)に示す平衡状態においては、試料Fの磁化ベクトルM(以下、単に磁化Mという)と有効内部磁場ベクトルHeff(以下、単に有効内部磁場Heffという)は、図示するようにx軸方向に向いているものとする。
【0041】
つまり、磁化Mは、式(1)で表され、同様に、有効内部磁場Heffは式(2)で表される。なお、式(1)に示すMsは磁化のx成分の大きさ(飽和磁化)を表し、式(2)に示すH0は有効内部磁場のx成分の大きさを表している。
【0042】
【数1】

【0043】
この平衡状態において、光を磁性体に照射すると、物質の温度上昇やキャリア濃度の変化により磁気異方性が変化する。ここでは、図2(b)に示すように、レーザ光源2から試料Fに照射されるパルス光の照射直後に、パルス光に起因した磁気異方性の変化が生じて、有効内部磁場Heffがz軸方向に角度θだけ傾くと仮定する。したがって、パルス光の照射直後においては、有効内部磁場を示す関係式は、前記した式(2)から式(3)へと書き換えられる。また、このとき、スピンには、磁化Mと異方性磁場Haniを含む平面に対して垂直な方向に、式(4)で表されるトルクFがかかる。なお、式(4)において、記号「×」は外積を表し、γは磁気回転比を表す。
【0044】
【数2】

【0045】
したがって、式(4)で表されるトルクFにより磁化Mは歳差運動を始めることになる。パルス光の照射後において、磁化Mの歳差運動は、図2(c)に示すように、有効内部磁場Heffを中心軸とする円運動を示す。この磁化Mの歳差運動の時間変化は、LLG方程式と呼ばれる式(5)を用いてよく再現できる(非特許文献1参照)。
【0046】
【数3】

【0047】
パルス光照射により誘起された磁化Mの歳差運動は、時間の経過にしたがって小さくなる。これをダンピングといい、その挙動は、式(5)に示すダンピングファクタα(Gilbert減衰定数)を用いて表現される。仮にダンピングファクタαを0とすると、磁化Mの歳差運動の周期TMは、式(6)を用いて求められる。式(6)において、νMは歳差運動の振動数(1/TM)、hはプランク定数、μBはボーア磁子、gはg因子をそれぞれ示している。
【0048】
【数4】

【0049】
磁化Mの歳差運動の周期TM(=1/νM)は、式(6)に示す定数部分を無視すると、g因子と有効内部磁場Heffの値に依存していることが分かる。また、周期TMは、試料Fの種類や実験条件などに強く依存し、おおよそピコ秒からサブナノ秒であることが、これまでの実験を通して確かめられている(非特許文献1参照)。
【0050】
ここで、この理論モデルの概要の説明において、簡便のため、次の2つの条件を導入する。
条件1:前記した式(2)に示した角度θ、すなわち、有効内部磁場Heffがz軸方向に傾く角度θは、考慮している時間(例えば、ピコ秒からサブナノ秒)では緩和しないものとする。つまり、角度θは、時間に依存せず一定であって、時間tの関数ではないものとする。言い換えると、光照射による有効内部磁場Heffの向きの変化の緩和時間τが無限大(τ=∞)であるものとする。
条件2:ダンピングファクタαの値を0とする。
【0051】
磁化Mの歳差運動の緩和時間τが、磁性体に照射されるパルス光の繰返し周期trepよりも短いとき、磁化Mの歳差運動の干渉が起こる。このときの磁化Mの挙動は、連続するパルス光照射によって誘起される異方性磁場の変化(複数のパルス光による変化)が、個々のパルス光照射により誘起される異方性磁場の変化(1つのパルス光による変化)の線形和だとすることで計算することができる。このことは、非特許文献3から導かれる。
【0052】
たとえば、1つのパルス光を試料に照射した場合の磁化Mについて、条件1及び条件2における計算結果を図3に示す。なお、計算では、図3(a)のように光照射によりHeffがz軸方向に0.1ラジアン傾くと仮定した。このような条件の下、1本のパルス光を照射したときの1−Mx、My、そしてMzの時間変化を、それぞれ図3(b)乃至図3(d)に示す。それぞれ、磁化Mの歳差運動を反映した顕著な振動構造を示す。Mxは、MyとMzに比べて3桁ほど小さいので、図3(e)にMy成分とMz成分の変化を比較する。Heffが光照射によりz軸方向に傾いたことで、磁化MがHeffを中心軸とする円運動を示すことがわかる。
【0053】
(2.2)磁化の歳差運動の干渉
ここで、磁化Mの歳差運動の干渉を説明するために、計算機シミュレーションにより2本の連続したパルス光を磁性体に照射することを想定する。また、この計算では、レーザの繰返し周波数νL(=1/trep)が5[GHz]であるものと仮定する。つまり、レーザの繰返し周期trepは、200[ps]である。
【0054】
また、磁性体の磁化Mの歳差運動の周期TM(=1/νM)と、レーザの繰り返し周期trep(=1/νL)とが同期するときに磁性体に生じている有効内部磁場Heffのことを、「共鳴が起こる磁場Hres」と表記し、式(7)で表すこととする。また、これを共鳴条件と呼ぶことにする。このとき、共鳴が起こる磁場Hresは、式(8)のように表される。
【0055】
【数5】

【0056】
式(8)において、繰返し周波数νLの値を5[GHz]、g因子の値を「2」としたときに、共鳴が起こる磁場Hresの値は、178.5[mT]と見積もられる。
【0057】
式(8)は、前記した式(6)に類似しているが、例えば5[GHz]のように固定されたレーザの繰り返し周波数νL(=1/trep)と、それに伴ってある所定値に固定された有効内部磁場Heff(共鳴が起こる磁場Hres)との関係式である。
【0058】
一方、前記した式(6)は、磁化Mの歳差運動の周期TM(=1/νM)と、有効内部磁場Heffとの関係式であり、いずれも変動する。そのため、磁化Mの挙動は、この変更可能なパラメータとしての有効内部磁場Heffを変化させることで制御可能である。
【0059】
ここで、2本の連続したパルス光を照射した場合の磁化Mの概念図を、図4を参照して説明する。図4(a)、図4(b1)、及び、図4(c1)には、共鳴条件である式(7)の場合における2本の連続したパルス光を照射した場合の磁化Mの歳差運動の振る舞いを示す。また、図4(a)、図4(b2)、及び、図4(c2)には、共鳴条件からずれた場合、ここでは、式(7)において、Heff=Hres/2となる条件での磁化Mの歳差運動の振る舞いを示す。
【0060】
共鳴条件の場合の磁化Mの振る舞いは、図4(a)において、1本目のパルス光を照射後、磁化MはHeffを中心軸とする歳差運動を始める。そして、図4(b1)に示すように、磁化MはHeffを中心軸とする歳差運動して一周する。つぎに、共鳴条件、すなわち、Heff=Hresにおいて、2本目のパルス光を照射すると、磁化MとHeffとがなす角度は、図4(c1)に示すように、1本目のパルス光による歳差運動(図4(a))の場合の角度の2倍になり、歳差運動の振幅も2倍となる。
【0061】
また、共鳴条件からずれた場合、Heff=Hres/2においての磁化Mの振る舞いは、図4(a)の状態から、図4(b2)に示すように、磁化MはHeffを中心軸とする歳差運動を始めるが、半周した後に歳差運動を停止する。そして、共鳴条件からずれた条件(非共鳴条件)では、2本目のパルス光を照射すると、図4(c2)に示すように、磁化MとHeffは平行となり、磁化Mの歳差運動はなくなる。
【0062】
ここで、磁化Mの歳差運動と、パルスの繰り返し周期trepとの同期について図5を参照して説明する。図5は、磁化の歳差運動と、パルスの繰り返し周期との同期を概念的に示すタイミングチャートである。図5(a)では、簡便のため、1本のパルス光が照射されたときの磁化の歳差運動のy成分を正弦波形で示した。この例では、磁化の歳差運動の周期TMの最初の値を400[ps]とした。また、レーザの繰返し周期trepの値は、図5(c)に示すように200[ps]とした。例えば、1回目(n=1)のパルス(パルスレーザ)が時刻0[ps]で出力され、2回目(n=2)のパルスが時刻200[ps]で出力され、3回目(n=3)のパルスが時刻400[ps]で出力される。なお、パルス波形の時間幅はフェムト秒程度である。
【0063】
図5(a)に示すように、歳差運動の周期TMの最初の値(400[ps])と、繰り返し周期trepの値(200[ps])とが異なる場合には、磁化の歳差運動はパルスの繰り返し周期trepに同期していないので、複数本のパルス光が照射されたとしても、磁化Mの歳差運動と、パルスレーザとの共鳴は起こらない(非共鳴)。
【0064】
次に、レーザの繰返し周期trepの値を200[ps]に固定した状態で、所定値の外部磁場を印加することで、図5(b)に示すように、磁化Mの歳差運動の周期TMの値を200[ps]に変化させた。図5(b)に示す例の場合には、歳差運動の周期TMの値(200[ps])と、繰り返し周期trepの値(200[ps])とは同じであり、磁化の歳差運動はパルスの繰り返し周期trepに同期する。このとき、例えば、2回目(n=2)のパルスが照射されると、1回目に生じた歳差運動と、2回目に生じた歳差運動とが干渉する。そして、共鳴が起こり、1回目(n=1)のパルスが照射された場合と比較して、磁化Mの歳差運動の振幅がおよそ2倍となる。同様に、共鳴により、3回目(n=3)のパルスが照射されると、初めの振幅のおよそ3倍となる。
【0065】
図5に示した波形は、磁化Mの歳差運動と、パルスの繰り返し周期trepとの同期について概念的に説明するための一例であって、実際の波形とは異なっている。しかしながら、計算機シミュレーションで実際に確かめた結果、次のことが結論付けられた。
【0066】
共鳴条件においては、磁化Mの歳差運動に、次のような特徴がある。すなわち、磁性体の有効内部磁場Heffの値が、その磁性体においてパルス光との共鳴が起こる磁場Hresの値と等しいという条件を満たす場合においては、磁化Mの歳差運動の振幅は、ポンプ光として照射されたパルス光の個数におおよそ比例して増大する。
一方、共鳴条件を満たさない場合(非共鳴条件の場合)、複数のパルス光照射により誘起される磁化Mの歳差運動は、各々が打ち消しあって歳差運動の振幅が小さくなる。
そこで、本実施形態では、連続したパルス光で励起した磁化Mの挙動を、パルス光の反射光が示すMO信号を観測して評価することとした。
【0067】
共鳴条件及び非共鳴条件について、磁化Mの時間的経過の挙動を図6及び図7にそれぞれ示す。
図6(a)乃至図6(e)は、共鳴条件Heff=Hresにおいて、1本目から2本目のパルス光を照射した後までの時間的経過を示している。各図の縦軸及び横軸は、1本目の磁化Mについて示した図3と同様である。ただし、光照射によりHeffがz軸方向に1ミリラジアン傾くと仮定した。計算結果は、図4(a)、図4(b1)、及び、図4(c1)を参照して説明した共鳴条件での磁化Mの振る舞いと同様に歳差運動を継続する。
【0068】
また、図7(a)乃至図7(e)は、共鳴条件からずれた条件、Heff=Hres/2における1本目から2本目のパルス光を照射した後までの時間的経過を示している。計算結果は、図4(a)、図4(b2)、及び、図4(c2)を参照して説明した共鳴条件からずれた場合の磁化Mの振る舞いと同様に磁化Mの歳差運動はない。
【0069】
すなわち、前記式(6)で説明したように、計算結果からも磁化Mの挙動は、有効内部磁場Heffを変化させることで制御可能であることがわかる。
【0070】
さらに、照射するパルス光の数を増やした場合、たとえば、50本の連続したパルス光を照射した場合も、磁化Mの挙動は同様であることが計算結果からわかった。図8及び図9には、照射するパルス光を50本にした場合の、磁化Mの挙動の計算結果について、共鳴条件Heff=Hresの場合と、共鳴条件からずれた条件(非共鳴条件)、Heff=Hres/2の場合についてそれぞれ示した。
【0071】
共鳴条件では、磁化Mの歳差運動の振幅はパルス光の数におよそ比例して増大する。一方、共鳴条件からずれた条件の場合には、複数のパルス光照射により誘起される磁化Mの歳差運動は、各々打ち消し合って歳差運動の振幅は小さくなる。
【0072】
さらに、図10を参照して、共鳴条件における50本の連続したパルス光を照射した時間経過での、すなわち、レーザパルス光の繰り返し周期を200psとした場合の経過時間5000psでの磁化Mの挙動を説明する。図10(a)乃至図10(c)は、磁化Mの1−Mx、My、及び、Mzの時間変化を示している。
【0073】
共鳴条件における磁化Mの挙動の変化の特徴として、パルス光が照射される時間(時刻)での磁化Mの1−Mx、My、及び、Mzの値(図中矢印で示した時刻での値)は、ほぼ零である。このことは、図3及び図6を参照して説明した、共鳴条件での1本目及び2本目のパルス光を照射した場合も同様である。
すなわち、共鳴条件では、磁化Mは、平衡状態での向きに近いということができる。
【0074】
(2.3)MO信号
この節では、2.3.1有効内部磁場とMO信号との関係、2.3.2外部磁場とMO信号との関係、2.3.3ダンピングファクタ及び緩和時間とMO信号との関係の各テーマについて説明する。
(2.3.1)有効内部磁場とMO信号との関係
連続したパルス光により励起した磁化Mの挙動を、パルス光の反射光が示すMO信号を観測することによって評価することにする。観測されるMO信号Θの一例として、式(9a)で定義する。
【0075】
【数6】

【0076】
ここで、nは、レーザ光源2から出力される何番目のパルス光であるかを示す整数である(n=0、1、2、…)。
【0077】
式(9b)に示すΘxδMxnとΘyδMynとは、ともに、MLD(Magnetic Linear Dichroism:磁気線二色性)と縦カー効果とを介して観測される面内磁化成分の変化を表している。また、式(9b)に示すΘzδMznは、極カー効果を介して観測される面直磁化成分の変化を表している。また、Θx、Θy、Θzは、試料Fの種類や温度などの実験条件に依存し、観測されるMO信号Θの偏光依存性や波長依存性などから評価する重みを表している。また、δMxn、δMyn、δMznは、直接観測するものではなく、式(9c)〜式(9e)により計算で求めるものである。
【0078】
式(9c)〜式(9e)の右辺において、trepは、パルスの繰り返し周期(1/νL)を示し、Mxn(ntrep)、Myn(ntrep)、Mzn(ntrep)は、n番目のパルスを受けた時刻での磁化Mのx成分、y成分、z成分の大きさを示し、Msは飽和磁化を示す。
【0079】
また、式(9c)〜式(9e)の左辺にそれぞれ示すδMxn、δMyn、δMznは、n番目のパルスによる磁化Mのx成分、y成分、z成分の変化を表している。ここで、非特許文献3の手法にならって、連続するパルス光照射によって誘起される異方性磁場の変化が、個々のパルス光照射により誘起される異方性磁場の変化の線形和であるものとして、式(10a)〜式(10c)にそれぞれ示すように、n本の連続して出力されるパルスによって誘起される異方性磁場の変化δMx、δMy、δMzを、MO信号の各成分に相当する量として計算する。
【0080】
【数7】

【0081】
一例として、連続して出力されるパルス光の本数nを「50」として計算したδMx、δMy、δMzの磁場依存性を図11に示す。図11のグラフにおいて、横軸は、有効内部磁場Heffを示し、縦軸は、δMx、δMy、δMzのそれぞれの大きさを任意単位(a.u.:arbitrary unit)で重ねて示している。ここでは、繰返し周波数νLの値を5[GHz]として、前記の2つの条件(ダンピングファクタα=0、緩和時間τ=∞)を課して計算した。
【0082】
なお、δMxは、δMyやδMzに比べて3桁ほど小さい。また、計算負荷を低減するためにn=50としたが、パルス本数nの個数は、50に限定されるものではない。さらに、パルス光を照射し続けると磁化の傾く角度θの大きさは増え続けるが、充分な時間が経過すると緩和するためにある擬平衡状態となる。この擬平衡状態も計算により求めることができる。
【0083】
図11のグラフから、有効内部磁場Heffの値がおよそ178.5[mT]である場合に、δMx、δMy、δMzの値がそれぞれ「0」となっていることが分かる。これは、共鳴条件が満たされる条件下では、磁化Mは、図2(a)に示すような平衡状態の向きとほぼ同じ向きになるためである。また、このときの有効内部磁場Heffの値は、前記した式(8)において、g因子の値を「2」として見積もられた、共鳴が起こる磁場Hresの値と同様なものである。一方、共鳴条件が満たされないときの有効内部磁場Heffの範囲では、図11に示すように、δMx、δMy、δMzの値が有効内部磁場Heffにほとんど依存せずに一定値を取っている。つまり、δMx、δMy、δMz(MO信号の各成分に相当する量)の値は、共鳴条件を満たす磁場近辺で顕著な変化を示すと結論付けられる。
【0084】
(2.3.2)外部磁場とMO信号との関係
また、外部磁場Hext中にある強磁性体の有効内部磁場Heffは、式(11)で記述される。この式(11)において、Hdemは反磁場を示す。ここでは、異方性磁場Haniが反磁場Hdemに比べて十分大きいものと仮定しHdem=0とした式(12)を用いることとする。このとき、異方性磁場Haniは、式(13)より求められる。
【0085】
【数8】

【0086】
共鳴が起こる磁場Hresは、前記した式(8)の関係式から、レーザの繰返し周期trep(=1/νL)によって決まる。そのため、有効内部磁場Heffの値が、共鳴が起こる磁場Hresの値と等しいとき、すなわち、共鳴条件を満たすときに、外部磁場Hextを決定できれば、異方性磁場Haniが決定できることを式(12)および式(13)は示唆している。なお、本実施形態では、外部磁場Hextの方向と、異方性磁場Haniの方向とを平行であるものとして取り扱うことで、式(13)においてベクトルである磁場をスカラーとして取り扱うこととする。
【0087】
共鳴条件を満たす外部磁場Hextを決定することは、MO信号を外部磁場Hextに対して系統的に観測することで実現できる。つまり、試料Fに所定値の外部磁場Hextを印加した状態で、連続パルスを照射したときに、偏光検出器5でMO信号を検出し、制御装置6で解析した結果、共鳴条件を満たさなければ、外部磁場Hextの値を変更して同様な操作を繰り返せばよい。
【0088】
例えば、試料Fに外部磁場を印加していない場合に磁化Mの歳差運動の振動数をνM1とすると、前記した式(6)は式(14)のように書き換えられる。また、外部磁場Hext中でパルス光に共鳴するときの磁化Mの歳差運動の振動数をνM2とすると、前記した式(6)は式(15)のように書き換えられる。
【0089】
【数9】

【0090】
(2.3.3)ダンピングファクタ及び緩和時間とMO信号との関係
また、前記の2つの条件(ダンピングファクタα=0、緩和時間τ=∞)は、簡便のために導入した。ただし、実際には、例えば、強磁性金属の緩和時間τは数マイクロ秒から数ミリ秒であり、強磁性半導体の緩和時間τはサブナノ秒であることが知られている。また、実際のダンピングファクタαは、強磁性金属でも強磁性半導体でも、0.1乃至0.001のオーダにあることが知られている。強磁性体の磁気特性において、異方性磁場Haniに加えて、ダンピングファクタαの決定も重要な課題である。
【0091】
そこで、MO信号のダンピングファクタα依存性と緩和時間τ依存性について記載する。
【0092】
連続して出力されるパルス本数nを「50」として計算したδMx、δMy、δMzの磁場依存性およびα依存性を図12(a)乃至図12(c)に示す。図12(a)乃至図12(c)のグラフにおいて、横軸は、有効内部磁場Heffを示し、縦軸は、δMx、δMy、δMzのそれぞれの大きさを任意単位で示している。ここでは、繰返し周波数νLの値を5[GHz]として、前記の2つの条件のうち緩和時間τ=∞だけを課して、ダンピングファクタαの値を0、0.001、0.01、0.1、及び、1としたときのそれぞれのケースについて計算した。
【0093】
図12(a)乃至図12(c)に示すように、δMx、δMy、δMzの磁場依存性を示すグラフは、それぞれ特徴的な形状をしていることが分かる。具体的には、ダンピングファクタαの値が0である場合には、図11に示したグラフと同じ形状となる。つまり、有効内部磁場Heffの値が共鳴条件(およそ178.5[mT])の前後の非共鳴条件の範囲では、グラフはほぼ平坦に形成されているが、共鳴条件の範囲では、グラフに凸形状または凹形状の突出部が形成されている。この突出部はグラフにおいて所定磁場範囲を示す線幅を有している。まず、ダンピングファクタαの値を、0から0.001に増加しても、δMx、δMy、δMz(MO信号の各成分に相当する量)に大きな変化は見られない。つまり、グラフにおいて、αの値が0であるときの線幅と、αの値が0.001であるときの線幅とはほとんど同じであるが、これは、計算の精度不足に起因する。
【0094】
一方、一般的な強磁性体が示すダンピングファクタαの値の範囲(0.1乃至0.001のオーダ)では、ダンピングファクタαの値を増加すると、線幅が広くなる傾向にある。つまり、グラフの形状において、特に、線幅はダンピングファクタαの値に強く依存すると結論付けられる。このことは、試料Fを用いたときに観測されるMO信号Θ(δMx、δMy、δMzに相当する量)の磁場依存性を解析することで、試料Fのダンピングファクタαの値を決定できることを示唆するものである。
【0095】
また、連続して出力されるパルス本数nを「50」として計算したδMx、δMy、δMzの磁場依存性およびτ依存性を図13(a)乃至図13(c)に示す。図13(a)乃至図13(c)のグラフにおいて、横軸は、有効内部磁場Heffを示し、縦軸は、δMx、δMy、δMzのそれぞれの大きさを任意単位で示している。ここでは、繰返し周波数νLの値を5[GHz]として、前記の2つの条件のうちダンピングファクタα=0.01だけを課して、緩和時間τの値を10ps、30ps、100ps、1ns、及び、∞としたときのそれぞれのケースについて計算した。
【0096】
図13(a)乃至図13(c)に示すように、δMx、δMy、δMzの磁場依存性を示すグラフは、それぞれ特徴的な形状をしていることが分かる。この結果から、磁気性金属のように緩和時間τがレーザ光の繰返し周期(200ps)よりも十分長いときには、MO信号Θはほとんどτに依存しない。しかし、強磁性半導体など緩和時間τがレーザ光の繰り返し周波数と同等、もしくは短いときには、MO信号Θは緩和時間τに依存することがわかる。
【0097】
したがって、強磁性金属などのようにτが十分長い試料を測定対象とする場合には、緩和時間τの寄与を無視することができるが、強磁性半導体などのように緩和時間τがサブナノ秒である試料を測定対象とする場合には、緩和時間τの長さを考慮する必要がある。ただし、後者の場合には、超高速時間分解磁気光学分光測定法を用いて緩和時間τの値を直接決定することで、実験精度を向上することが考えられる。
【0098】
(3)磁気光学特性の測定方法の全体の流れ
次に、磁気光学特性の測定方法の全体の流れについて、フローチャートとして図14を参照(適宜図1参照)して説明する。
【0099】
磁気光学特性測定装置1は、制御装置6によって、試料Fの磁化Mの歳差運動が、連続した複数パルスに共鳴するときの外部磁場を共鳴条件として探索する共鳴条件探索段階(ステップS1〜S7)と、共鳴条件が探索されたときに、試料Fの異方性磁場Haniを求める異方性磁場算出段階(ステップS8)とを実行する。
【0100】
この共鳴条件探索段階は、所定条件が成立するまで繰り返す一連の処理として、外部磁場印加手段4による処理(ステップS1)と、レーザ光源2による処理(ステップS2)と、偏光検出器5による処理(ステップS3)と、制御装置6による処理(ステップS4、S5)とを協働して実行する。すなわち、ステップS1にて、外部磁場印加手段4は、予め定めた順番で外部磁場Hextを変化させて試料Fに印加する。ステップS2にて、レーザ光源2は、連続した複数パルスのレーザ光を試料Fに照射する。ステップS3にて、偏光検出器5は、レーザ光を試料Fが反射した反射光が示す磁気光学効果(偏光成分)を検出する。
【0101】
また、ステップS4にて、制御装置6は、偏光検出器5で検出した偏光成分を、MO信号Θとして取得する。そして、ステップS5にて、制御装置6は、現在の外部磁場Hextの値で試料のMO信号Θの絶対値が最小となったか否かを判定することで所定条件が成立したか否かを判定する処理を実行する。MO信号Θの絶対値が最小となっていない場合に(ステップS5:No)、制御装置6は、外部磁場Hextを変化させる処理(ステップS6、S1)を実行する。一方、MO信号Θの絶対値が最小となった場合に(ステップS5:Yes)、制御装置6は、外部磁場Hextの値を共鳴条件として求める処理(ステップS7)を実行する。
【0102】
異方性磁場算出段階(ステップS8)は、制御装置6によって、共鳴条件が取得されたときに、この共鳴条件において最小のMO信号Θの絶対値を検出したときの外部磁場の大きさHextと、繰り返し周期trepとの各情報を用いて、LLG方程式に基づいて、試料Fの異方性磁場Haniを求める。
【0103】
(4)磁気光学特性測定装置の制御装置の構成例
次に、磁気光学特性測定装置1の制御装置6の構成例について図15を参照して(適宜図1参照)説明する。
ここでは、制御装置6は、レーザ光源制御部61と、外部磁場制御部62と、MO信号取得部63と、MO信号蓄積部64と、MO信号判定部65と、異方性磁場算出部66と、フィッティングデータ記憶部67と、減衰パラメータ算出部68とを備えることとした。
【0104】
レーザ光源制御部61は、レーザ光源2を制御して、パルスレーザのオン/オフを切り替えるものである。
【0105】
外部磁場制御部62は、外部磁場印加手段4を制御して、磁場のオン/オフを切り替えたり、所定の外部磁場Hextの値の磁場を試料Fに印加させたりするものである。
外部磁場制御部62は、予め定めた順番で外部磁場第Hext変化させる。
そして、MO信号取得部63は、偏光検出器5からMO信号Θを取得し、MO信号蓄積部64に格納する。MO信号蓄積部64は、例えば、一般的なメモリやハードディスク等から構成される。なお、MO信号蓄積部64は、外部磁場制御部62から外部磁場Hextの値も記憶する。
【0106】
MO信号判定部65は、レーザ光源制御部61及び外部磁場制御部62を統括すると共に、MO信号蓄積部64に蓄積されているMO信号Θのデータを参照して、各データを比較することにより、現在の試料のMO信号Θの絶対値が最小となったか否かを判定するものである。このMO信号判定部65は、判定の結果、MO信号Θの絶対値が最小となったと判定したときに、現在の外部磁場Hextの値を異方性磁場算出部66に出力する。また、MO信号判定部65は、判定の結果、MO信号Θの絶対値が最小ではないと判定したときに、レーザ光源制御部61及び外部磁場制御部62と協働して、前記したステップS6から共鳴条件探索段階を続行する。
【0107】
異方性磁場算出部66は、レーザ繰り返し周期trep(=1/νL)の値に基づいて、前記した式(8)により、共鳴が起こる磁場Hresを算出する。
また、異方性磁場算出部66は、算出した共鳴が起こる磁場Hresと、MO信号判定部65から共鳴条件として取得した外部磁場Hextの値とを用いて、前記した式(12)により、有効内部磁場Heffの値を決定する。
そして、異方性磁場算出部66は、決定した有効内部磁場Heffの値と、MO信号蓄積部64から取得した外部磁場Hextの情報とを用いて、前記した式(13)により、試料Fの異方性磁場Haniを算出する。
異方性磁場算出部66は、算出した異方性磁場Haniを図示しないディスプレイに表示すると共に、決定した有効内部磁場Heffの値を減衰パラメータ算出部68に出力する。
【0108】
フィッティングデータ記憶部67は、LLG方程式による理論計算から予め求められた、MO信号の磁場依存性及びα依存性のデータ(以下、フィッティングデータという)を記憶するものであって、例えば一般的なメモリやハードディスク等から構成される。なお、有効内部磁場Heffに対してMO信号Θの絶対値が最小となるときの磁場の範囲に対して最適なダンピングファクタαの値を算出することが可能であれば、フィッティングデータは、予め変換テーブルとして備えるものでもよいし、演算に用いる所定の関数等の情報でもよい。
【0109】
減衰パラメータ算出部68は、異方性磁場算出部66から有効内部磁場Heffの値を取得し、MO信号蓄積部64に蓄積されているMO信号Θのデータを参照して、フィッティングデータ記憶部67に記憶されたフィッティングデータとフィッテイングすることで、試料の磁気特性として、試料固有のダンピングファクタαの値を算出するものである。
【0110】
つづいて、本発明の第2の実施形態乃至第4の実施形態の磁気光学特性測定装置について、図16乃至図18を参照して説明する。なお、各図において第1の実施形態の磁気光学特性測定装置1と同様な機能及び作用を有する部位については、同様な符号を付し、場合によっては説明を省略することがある。
【0111】
(第2の実施形態)
図16に示すように、第2の実施形態の磁気光学特性測定装置1Aは、外部磁場印加手段4Aが試料Fに対して面直磁場を印加できるように配設されている点を除いて、図1に示した磁気光学特性測定装置1と同じ構成である。これにより、有効内部磁場Heffの方向が面直方向である試料Fも測定対象とすることができる。
なお、外部磁場印加手段が、面直磁場を印加するモードと、面内磁場を印加するモードに対応するように、両方の構成を備えるか、または、両方のモードを兼ねるように配置を切り替えることができるように構成するようにしてもよい。
【0112】
(第3の実施形態)
図17に示すように、第3の実施形態の磁気光学特性測定装置1Bは、レーザ光源2からの光パルス列のレーザ光が試料Fを透過した透過光をそれぞれ偏光検出器5で受光してその偏光成分を検出できるように配設されると共に、試料Fを固定する基板12Bと、試料Fの裏面とにより凹部13が形成されている点を除いて、図1に示した磁気光学特性測定装置1と同じ構成である。
【0113】
この場合、MO信号は、カー効果の代わりに、ファラデー効果を介して観測されるが、MO信号は、第1の実施形態と同様に定義することができる。また、凹部13のサイズや形状は任意であり、基板12Bの貫通孔である必要も無い。例えば、中心からビーム透過可能な薄さの領域を残して基板材料を剥離してもよい。なお、基板12Bは、薄い膜状の試料Fを表面および裏面から挟み込んで固定するようにしてもよい。
【0114】
(第4の実施形態)
図18に示すように、第4の実施形態の磁気光学特性測定装置1Cは、偏光成分検出手段5Cを備えている点を除いて、図1に示した磁気光学特性測定装置1と同じ構成である。この偏光成分検出手段5Cは、図1に示す偏光検出器5に相当するものであって、PD51と、光弾性変調器52と、ロックインアンプ53とを備えている。
【0115】
PD51は、光量検出手段であって、例えば、一般的なフォトダイオードから構成される。PD51は、試料Fで反射した反射光の強度を検出する。検出した反射光の光強度信号は、ロックインアンプ53に入力される。
【0116】
光弾性変調器52は、例えば、レーザ光源2と試料Fとの間に配設される。光弾性変調器52は、レーザ光源2からの光パルス列のレーザ光を所定周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光に切り替えて集光レンズ10を介して試料Fに向けて出力する。これにより、出力ビームは円二色性を示すビームとなる。
【0117】
また、光弾性変調器52は、この変調周波数の信号を参照信号としてロックインアンプ53に入力する。なお、この変調周波数は、例えば、50[kHz]とすることができる。また、光弾性変調器52の配置は、図18に示したものに限定されず、レーザ光源2から試料Fに照射されるパルス光の光路の途中に配置されていればよい。
【0118】
ロックインアンプ53は、光弾性変調器52から入力する参照信号を用いて、PD51が検出する光強度信号から偏光成分を測定した結果をMO信号として制御装置6に出力するものである。この場合、MO信号は、カー効果の代わりに、円二色性を介して観測されるが、MO信号は、第1の実施形態と同様に定義することができる。
この磁気光学特性測定装置1Cによれば、偏光成分検出手段5Cを安価なPD51を用いて構成することができる。
【0119】
以上、各実施形態についての磁気光学測定装置について説明したが、本発明の磁気光学測定装置はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲で様々に実施することができる。例えば、第4の実施形態のように偏光成分検出手段5Cを備えている磁気光学特性測定装置において、面直磁場を印加するように構成したり、試料Fを透過した透過光の偏光成分を検出したりするように構成することもできる。
【符号の説明】
【0120】
1、1A、1B、1C 磁気光学特性測定装置
2 レーザ光源(モードロックレーザ)
3 光学系
4、4A 外部磁場印加手段(電磁石)
5 偏光検出器(偏光成分検出手段)
5C 偏光成分検出手段
51 PD(光量検出手段)
52 光弾性変調器
53 ロックインアンプ
6 制御装置
61 レーザ光源制御部
62 外部磁場制御部
63 MO信号取得部
64 MO信号蓄積部
65 MO信号判定部
66 異方性磁場算出部
67 フィッティングデータ記憶部
68 減衰パラメータ算出部
10 集光レンズ(光学レンズ)
12、12B 基板
F 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体の試料の磁化の光励起歳差運動の周期と、レーザ光源から当該試料に照射される高繰り返しパルスレーザ光の周期とを同期させ、前記試料の磁気光学特性を測定する磁気光学特性測定装置であって、
レーザ光を発生して前記試料に照射する前記レーザ光源と、前記試料に外部磁場を印加する外部磁場印加手段と、前記試料からの検出光の偏光成分を検出して磁気光学信号として出力する偏光成分検出手段と、前記磁気光学特性を算出する制御装置とを備え、
前記レーザ光源は、前記試料の磁化の光励起歳差運動の周期に同期可能な高繰り返し周期の光パルス列を発生し前記試料に照射するモードロックレーザであり、
前記外部磁場印加手段は、前記試料に隣接して設けられ前記試料に所定の外部磁場を電磁石により印加させ、
前記偏光成分検出手段は、照射された前記光パルス列が前記試料で反射した反射光、又は、前記光パルス列が前記試料を透過した透過光を検出して、その偏光成分を磁気光学信号として出力し、
前記制御装置は、前記外部磁場印加手段を制御して、前記試料の磁化の光励起歳差運動が前記光パルス列の周期に同期したときの外部磁場と前記磁気光学信号とを共鳴条件として取得し、この共鳴条件での前記光パルス列の周期と前記外部磁場の強度と前記磁気光学信号とを用いて、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づいて、前記試料の磁気光学特性である有効内部磁場又は異方性磁場とダンピングファクタとを算出する
ことを特徴とする磁気光学特性測定装置。
【請求項2】
前記偏光成分検出手段は、光量検出手段と、光弾性変調器と、ロックインアンプとを備え、
前記光量検出手段は、前記照射された光パルス列が前記試料で反射した反射光、又は、前記光パルス列が前記試料を透過した透過光の強度を検出し、
前記光弾性変調器は、前記レーザ光源から前記試料に照射される前記光パルス列の光路の途中に配置され、前記光パルス列を所定周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光とに切り替えて出力し、
前記ロックインアンプは、前記光弾性変調器で前記光パルス列を変調した周波数信号を参照信号として、前記光量検出手段が検出する光強度信号から偏光成分を測定した結果を前記磁気光学信号として、ロックイン検出し前記制御装置に出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気光学特性測定装置。
【請求項3】
前記外部磁場印加手段は、
前記試料の両側面側に配設された電磁石から前記試料表面に平行な面内磁場を発生させ、前記試料表面に面内磁場を印加させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気光学特性測定装置。
【請求項4】
前記外部磁場印加手段は、
前記試料の裏面側に配設された電磁石から前記試料表面に垂直な面直磁場を発生させ、前記試料表面に面直磁場を印加させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気光学特性測定装置。
【請求項5】
前記試料と前記レーザ光源との間の光路に光学レンズである集光レンズをさらに備える
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の磁気光学測定装置。
【請求項6】
レーザ光源と、外部磁場印加手段と、偏光成分検出手段と、制御装置とを備えると共に、強磁性体の試料の磁気光学特性を測定する磁気光学特性測定装置の磁気光学特性の測定方法であって、
前記レーザ光源であるモードロックレーザにより、前記試料の磁化の光励起歳差運動の周期に同期可能な高繰り返し周期の光パルス列を発生し前記試料に照射する工程と、
前記試料に隣接して設けられた前記外部磁場印加手段により、所定の外部磁場を電磁石により前記試料に印加する工程と、
前記照射された光パルス列が前記試料で反射した反射光、又は、前記光パルス列が前記試料を透過した透過光を前記偏光成分検出手段により検出して、その偏光成分を磁気光学信号として出力する工程と、
前記制御装置により、前記外部磁場印加手段を制御して、前記試料の磁化の光励起歳差運動が前記光パルス列の周期に同期したときの外部磁場と前記磁気光学信号とを共鳴条件として取得する工程と、
前記制御装置によって、前記共鳴条件における前記外部磁場の大きさと、前記光照射の繰り返し周期との各情報を用いて、LLG方程式に基づいて、前記試料の有効内部磁場又は異方性磁場とダンピングファクタとを算出する工程と
を含むことを特徴とする磁気光学特性の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−39008(P2011−39008A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189456(P2009−189456)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】