説明

磁気共鳴イメージング装置および関心領域特定方法

【課題】造影MRIを用いたリウマチ検査に関して、後処理の簡便化と高精度化を実現する。
【解決手段】静磁場内に配置される検査対象の所望の領域を核磁気共鳴により撮像する撮像手段と、撮像手段による撮像結果に後処理を施す後処理手段とを備える磁気共鳴イメージング装置であって、前記撮像手段は、前記造影剤の注入前と注入後とに、それぞれ、予め定めた関心領域を含む画像を取得し、前記後処理手段は、前記造影剤注入前に取得した造影前画像上で、前記関心領域を第一関心領域として抽出する第一関心領域抽出手段と、前記造影剤注入後に取得した造影後画像上で、前記関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出手段と、前記第一関心領域と前記候補領域とを用い、前記造影後画像上の前記関心領域を第二関心領域として抽出する第二関心領域抽出手段とを備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)技術に関し、特に、同一部位の、造影剤注入前後の信号変化を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI技術を用いて画像を取得するMRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生する核磁気共鳴(NMR)信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化(撮像)する装置である。NMR信号は、撮像時に傾斜磁場によって異なる位相エンコードと周波数エンコードが付与され、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
このMRI装置を用いて、造影剤を下肢静脈などから注入し、注入前後で画像を連続的に撮像(以下、dynamic撮像)し、同一部位における信号変化を観察する技術(以下、造影MRI)が実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2、および、特許文献3参照)。特許文献1に開示されているように、造影MRI技術を用いる検査は、主に、血管を、明瞭に描出する、動脈と静脈とを分離して描出する、腫瘍を識別する、といった目的で行われる。
【0004】
造影MRI技術を用いる検査は、取得後の画像を解析することにより、上記目的を達成する。腫瘍の識別を目的とする造影MRIを例に用いて、取得画像の代表的な解析法を説明する。
【0005】
上述したdynamic撮像で取得した造影前後の画像に関して、造影前の画像と、その画像より後に得た画像との間で差分画像を作成する。例えば、三次元画像をdynamic撮像して10時相のデータ(三次元画像)を取得した場合、最初に取得した第1時相の三次元画像と、残りの第2から第10時相の各三次元画像との間でそれぞれ差分処理を行う。これにより、第2から第10時相の三次元差分画像を作成する。これらの三次元差分画像上で高信号となる領域は、造影剤濃度が高い部位である。この様な領域を関心領域として選択して、その体積を計測し、その変化を観察する、或いは同領域における信号強度の変化を観察する。信号強度変化を観察する場合、信号強度を縦軸、計測開始からの時間或いは時相番号を横軸とするグラフを作成する。例えば、当該組織における単位時間当たりの信号強度の変化から、血液の流入速度を導出できる。
【0006】
造影MRI検査の他の適用分野に、リウマチがある。リウマチを対象とする検査では、手指の関節に造影剤が流入することによる信号強度変化を観察する。関節の撮像では高い空間分解能が望ましいこと、数秒単位で信号変化を観察する重要性は低いことから、造影剤の注入前後にそれぞれ1画像を撮像する。両者の差分画像において、信号差が大きい領域を関心領域として抽出し、同領域の信号変化と体積とを計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4379559号公報
【特許文献2】特許3152669号公報
【特許文献3】特許3486615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなリウマチを対象とした造影MRI検査は、関節領域を高分解能で撮像するため、特有の問題点がある。
【0009】
第1の問題点は、被検者の体動により、造影前後の画像で関節の位置がずれることである。特に、手指の関節を磁場中心にセッティングする場合、被検者の体位が不安定になり、体動が生じ易い。また、他部位を撮像する場合と同程度の体動であったとしても、関節を対象部位とする場合は、空間分解能の高い画像を撮像することから、画素サイズに対する体動での位置ずれの比は大きくなる。その結果、信号変化量に及ぼす体動の影響は、相対的に大きくなる。
【0010】
第2の問題点は、関節以外の領域における信号強度の変化とその量である。前述した様に、造影MRI検査では、血管で信号強度が大きく変化する。関節領域での信号強度変化は血管より小さいため、差分画像において関心領域の抽出が困難な場合がある。また、造影剤の注入により表皮でも信号が上昇する。表皮での信号強度の変化は、差分画像上において関節部の視認性を低下させ、関心領域の決定が困難になる。
【0011】
すなわち、リウマチを対象として造影MRI検査を行うことは、有効ではあるものの、体動による位置ずれと関節での信号強度の変化の小ささから、関心領域の抽出が難しく、高精度な解析が困難である。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、造影MRIを用いたリウマチ検査に関して、後処理の簡便化と高精度化を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、造影前の画像を用いて関心領域を第一関心領域として抽出し、次いで、造影後の画像上で関心領域の候補領域を抽出する。そして、第一関心領域と候補領域とを用いて造影後の画像上で関心領域を第二関心領域として抽出する。
【0014】
具体的には、静磁場内に配置される検査対象の所望の領域を核磁気共鳴により撮像する撮像手段と、撮像手段による撮像結果に後処理を施す後処理手段と、前記検査対象に造影剤を注入する造影剤注入手段と、前記撮像手段による撮像結果および前記後処理手段が用いるユーザインタフェース画面を表示する表示手段と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、前記撮像手段は、前記造影剤の注入前と注入後とに、それぞれ、予め定めた関心領域を含む画像を取得し、前記後処理手段は、前記造影剤注入前に取得した造影前画像上で、前記関心領域を第一関心領域として抽出する第一関心領域抽出手段と、前記造影剤注入後に取得した造影後画像上で、前記関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出手段と、前記第一関心領域と前記候補領域とを用い、前記造影後画像上の前記関心領域を第二関心領域として抽出する第二関心領域抽出手段と、前記第一関心領域と前記第二関心領域との間の差分画像を作成する差分画像作成手段と、前記作成した差分画像に画像処理を施し、処理後画像を作成する画像処理手段と、を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【0015】
また、造影磁気共鳴イメージング画像において、造影剤注入前後の画像それぞれにおいて、関心領域を特定する関心領域特定方法であって、造影剤注入前に取得した造影前画像から、前記関心領域を第一関心領域として抽出する第一関心領域抽出ステップと、造影剤注入後に取得した造影後画像から、前記関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出ステップと、前記第一関心領域と前記候補領域とを用い、前記造影後画像から前記関心領域を第二関心領域として抽出する第二関心領域抽出ステップと、を備えることを特徴とする関心領域特定方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、造影MRIを用いたリウマチ検査に関して、高精度な後処理を簡便に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態のMRI装置の全体構成のブロック図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態のMRI装置の制御処理系の機能ブロック図であり、(b)は、制御処理系の後処理部の機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施形態の後処理のフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態のUI画面を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施形態の第一適用領域決定処理のフローチャートである。
【図6】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本実施形態の造影前画像から作成した、加算平均画像、分散画像、MIP画像である。
【図7】本発明の実施形態のUI画面の表示例を説明するための説明図である。
【図8】(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本実施形態の造影後画像から作成した、加算平均画像、分散画像、MIP画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用する実施形態について説明する。本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
最初に、本実施形態のMRI装置の一例の全体概要を説明する。図1は、本実施形態のMRI装置100の全体構成を示すブロック図である。本実施形態のMRI装置100は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生系120と、傾斜磁場発生系130と、シーケンサ140と、送信系150と、受信系160と、制御処理系170と、とを備える。
【0020】
静磁場発生系120は、垂直磁場方式であれば、被検体101の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に、均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに配置される永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源を備える。
【0021】
傾斜磁場発生系130は、MRI装置100の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル131と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源132とを備え、後述のシ−ケンサ140からの命令に従ってそれぞれの傾斜磁場コイル131の傾斜磁場電源132を駆動することにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzを印加する。
【0022】
送信系150は、被検体101の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体101に高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」と呼ぶ。)を照射するもので、高周波発振器(シンセサイザ)152と変調器153と高周波増幅器154と送信側の高周波コイル(送信コイル)151とを備える。高周波発振器152はRFパルスを生成し、シーケンサ140からの指令によるタイミングで出力する。変調器153は、出力されたRFパルスを振幅変調し、高周波増幅器154は、この振幅変調されたRFパルスを増幅し、被検体101に近接して配置された送信コイル151に供給する。送信コイル151は供給されたRFパルスを被検体101に照射する。
【0023】
受信系160は、被検体101の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出される核磁気共鳴信号(エコー信号、NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)161と信号増幅器162と直交位相検波器163と、A/D変換器164とを備える。受信コイル161は、被検体101に近接して配置され、送信コイル151から照射された電磁波によって誘起された被検体101の応答のNMR信号を検出する。検出されたNMR信号は、信号増幅器162で増幅された後、シーケンサ140からの指令によるタイミングで直交位相検波器163により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器164でディジタル量に変換されて、制御処理系170に送られる。
【0024】
シーケンサ140は、RFパルスと傾斜磁場パルスとを所定のパルスシーケンスに従って繰り返し印加する。なお、パルスシーケンスは、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したもので、予め制御処理系170に保持される。シーケンサ140は、制御処理系170からの指示に従って動作し、被検体101の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系150、傾斜磁場発生系130、および受信系160に送信する。
【0025】
制御処理系170は、MRI装置100全体の制御、各種データ処理等の演算、処理結果の表示及び保存等を行うもので、CPU171と記憶装置172と表示装置173と入力装置174とを備える。
【0026】
CPU171は、ユーザが入力した指示に従って、記憶装置172に予め保持されるプログラムを実行することにより、MRI装置100の動作の制御、各種のデータ処理等の制御処理系170の各処理を実現する。例えば、受信系160からのデータが制御処理系170に入力されると、CPU171は、信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の断層像を表示装置173に表示するとともに、記憶装置172に記憶する。
【0027】
記憶装置172は、ハードディスクと、光ディスク、磁気ディスクなどの外部記憶装置とにより構成される。表示装置173は、CRT、液晶などのディスプレイ装置である。
【0028】
入力装置174は、MRI装置100の各種制御情報や制御処理系170で行う処理の制御情報の入力のインタフェースであり、例えば、トラックボールまたはマウスとキーボードとを備える。入力装置174は、表示装置173に近接して配置される。ユーザは、表示装置173を見ながら入力装置174を通してインタラクティブにMRI装置100の各種処理に必要な指示、データを入力する。
【0029】
なお、送信コイル151と傾斜磁場コイル131とは、被検体101が挿入される静磁場発生系120の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体101に対向して、水平磁場方式であれば被検体101を取り囲むようにして設置される。また、受信コイル161は、被検体101に対向して、或いは取り囲むように設置される。
【0030】
また、本実施形態のMRI装置100は、その周辺機器として、造影剤を被検体101に注入する造影剤インジェクタ181を備える。さらに、被検体101の心電波、脈波などを取得する心電電極脈波センサ182、心電電極脈波センサ182で取得した心電波、脈波をモニタする心電脈波モニタ183、を備えてもよい。造影剤は、入力装置174を介してユーザから受け付けた指示に従って、または、心電電極脈波センサ182で取得した心電波、脈波などに同期して、制御処理系170からの信号により注入される。
【0031】
制御処理系170は、図2(a)に示すように、静磁場内に配置される被検体101の所望の領域を核磁気共鳴により撮像し、画像を得る撮像部190と、撮像部により得た画像に対し後処理を施す後処理部200とを備える。これらの機能は、CPU171が、記憶装置172などに予め格納されるプログラムをメモリにロードして実行することにより実現される。
【0032】
撮像部190による撮像手順は以下のとおりである。まず、パルスシーケンスに従って送信系150に指示を出し、送信コイル151から被検体101にRFパルスを照射する。RFパルスの照射により被検体101から発生するエコー信号に、傾斜磁場により異なる空間エンコードを与える。空間エンコードが付与されたエコー信号は、所定数のサンプリングデータからなる時系列信号として受信コイル161で検出される。検出されたサンプリングデータは、受信系160から制御処理系170に送信され、制御処理系170において、2次元または3次元フーリエ変換等の画像処理が施され、1枚の再構成画像が生成される。
【0033】
現在、MRI装置の撮像対象核種で、臨床で普及しているものは、被検体101の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。MRI装置100では、撮像部190により、プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または機能を、二次元もしくは三次元的に撮像する。
【0034】
造影MRIを用いたリウマチ検査は、上述のように、造影剤の注入前後にそれぞれ1画像を撮像する。そして、両者を用い、関心領域(ここでは、手指の関節)に造影剤が流入することによる信号強度変化を観察する。本実施形態では、造影MRIによるリウマチ検査において、造影前後に取得したそれぞれの画像から、関節を関心領域として抽出する処理を簡便にし、更には体動の影響を軽減することにより、同検査における後処理の簡便化と高精度化を実現する。
【0035】
本実施形態では、関心領域を抽出するために、従来のように差分画像を用いない。すなわち、本実施形態では、造影剤注入前に取得した三次元画像(造影前画像)を用いて関節を関心領域として抽出する。次いで、造影前画像から抽出された関節領域を記憶装置172に保存する。更に、本実施形態では、関節を剛体とみなし、造影前後において、各関節の相対的な位置関係(例えば左中指の第1関節と第2関節の距離)は変化しないと仮定し、造影前画像と、造影剤注入後に取得した三次元画像(造影後画像)との間でパターンマッチングを実施し、造影後画像で関節部位を特定する。
【0036】
パターンマッチングの際に、造影前後での関節領域の位置変動が抽出できる。位置変動が回転移動と平行移動とで構成されると仮定し、造影前画像および造影後画像それぞれに関し、三次元座標軸を仮想し、一方の三次元画像の座標軸を他方の座標軸に一致させる(座標変換)。座標変換後の三次元画像を用いて、関心領域における信号変化を比較する。
【0037】
これらの機能を実現するため、本実施形態の後処理部200は、図2(b)に示すように、造影前画像上で、関心領域(第一関心領域)を抽出する第一関心領域抽出部210と、造影後画像上で、関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出部220と、造影後画像上で関心領域(第二関心領域)を特定する第二関心領域抽出部230と、第一関心領域と第二関心領域との間の差分画像を作成する差分画像作成部240と、作成した差分画像に画像処理を施し、処理後画像を作成する画像処理部250と、後処理時のユーザインタフェース(UI)を作成し、ユーザを支援するUI制御部260と、を備える。
【0038】
まず、上記各部による後処理の流れを、図3に示す処理フローに従って、説明する。
【0039】
第一関心領域抽出部210は、造影前画像を用いて、第一関心領域を抽出する(第一関心領域抽出処理;ステップS1100)。
【0040】
より詳細には、第一関心領域抽出部210は、造影前画像の各画素の信号強度に対する第一の閾値(第一閾値)を設定する(第一閾値設定処理:ステップS1101)。第一閾値は、造影前画像の各画素から抽出する画素を決定するために用いられる。ここでは、第一関心領域抽出部210は、造影前画像を表示装置173に表示し、入力装置174を介してユーザから第一閾値の入力を受け付け、受け付けた第一閾値を記憶装置172等に設定する。
【0041】
次いで、第一関心領域抽出部210は、造影前画像に対して第一閾値を適用する対象領域(第一適用領域)を設定する(第一適用領域設定処理;ステップS1102)。ここでは、第一関心領域抽出部210は、造影前画像を表示装置173に表示し、表示された造影前画像上で、入力装置174を介して、ユーザから第一適用領域の指定を受け付ける。
【0042】
そして、第一関心領域抽出部210は、造影前画像を構成する画素の中から、第一適用領域内の第一閾値以上の信号強度を有する画素を抽出し、第一関心領域とする。抽出した第一関心領域は、記憶装置172または制御処理系170が備えるメモリに保持される。
【0043】
本実施形態の第一閾値設定処理において重要な点は、造影前画像上で第一閾値を設定し、第一関心領域が設定されることである。造影前画像は、緩和時間を強調撮像した画像であるため、造影前画像では、血管や表皮は低信号となるのに対し、関節液は比較的高信号となる。従って、造影前画像上では、注目する部位である関節領域を抽出するための第一閾値の設定が容易であり、関節領域を第一関心領域として容易に精度よく抽出できる。
【0044】
さらに、第一適用領域設定処理において、第一閾値の適用対象領域を制限する。すなわち、位置情報を用いて抽出対象を制限するため、例えば、皮下脂肪の信号が関節部と同等になった場合に対しても、皮下脂肪が抽出される可能性は低い。従って、注目領域である関節領域を第一関心領域として抽出する処理の安定性が向上する。
【0045】
次に、候補領域抽出部220は、造影後画像を用いて、関心領域の候補領域を抽出する(候補領域抽出処理;ステップS1200)。候補領域抽出部220は、基本的には、第一関心領域抽出処理と同様の処理を、造影後画像上で行い、第一関心領域の代わりに候補領域を抽出する。
【0046】
すなわち、候補領域抽出部220は、造影後画像の各画素の信号強度に対する第二の閾値(第二閾値)を設定する(第二閾値設定処理:ステップS1201)。第二閾値は、造影後画像の各画素から抽出する画素を決定するために用いられる。第二閾値も、第一閾値同様、表示装置173に表示された造影後画像上で、ユーザが入力装置174を介して入力する。受け付けた第二閾値は、記憶装置172等に設定される。
【0047】
ついで、候補領域抽出部220は、造影後画像に対して第二閾値を適用する対象領域(第二適用領域)を設定する(第二適用領域設定処理;ステップS1202)。ここでは、候補領域抽出部220は、第一適用領域設定処理同様、造影後画像を表示装置173に表示し、入力装置174を介して、ユーザから第二適用領域の指定を受け付ける。
【0048】
そして、候補領域抽出部220は、造影後画像を構成する画素の中から、第二適用領域内の第二閾値以上の信号強度を有する画素を抽出し、候補領域とする。抽出した候補領域は、記憶装置172または制御処理系170が備えるメモリに保持される。
【0049】
上述のように、造影後画像では、血管で信号強度が大きく変化する。また、造影剤の注入により表皮でも信号が上昇する。従って、造影後画像では、造影前画像のように、閾値と適用領域とを設定しただけでは、関心領域の抽出は難しい。そこで、本実施形態では、造影後画像では、まず、大まかに候補領域を抽出し、その後、候補領域と第一関心領域とを用い、精度よく関心領域を抽出する。
【0050】
次に、第二関心領域抽出部230が、造影後画像上で関心領域を第二関心領域として抽出する(第二関心領域抽出処理:ステップS1300)。ここでは、パターンマッチングを用い、関心領域を特定することにより、抽出する。ここでは、関節を剛体とみなし、造影前後において、各関節の相対的な位置関係(例えば、左中指の第一関節と第二関節との距離)は、変化しないと仮定し、パターンマッチングを行う。パターンマッチングにより、造影後画像上で関節部位が同定される。
【0051】
すなわち、第二関心領域抽出部230は、造影前画像の第一関心領域をテンプレートとして、造影後画像の候補領域内および近傍領域でパターンマッチングを行い、造影後画像から関心領域(第二関心領域)を抽出する。
【0052】
本実施形態の第二関心領域抽出処理において重要な点は、造影前後の信号強度差を画像化した三次元差分画像を使用しない点である。三次元差分画像を用いて閾値を設定し、設定した閾値を用いて抽出すると、体動により差分信号が大きくなる領域が誤抽出される可能性が高い。一方、本実施形態の第二関心領域抽出処理では、造影後画像を使用して候補領域を抽出し、その近傍でパターンマッチングにより第二関心領域を抽出するため、体動により差分信号が大きくなる領域を誤抽出することを防止できる。
【0053】
そして、差分画像作成部240は、造影前画像上の関心領域(第一関心領域)と造影後画像上の関心領域(第二関心領域)との、信号変化や体積変化などを観察するために差分画像を作成する(差分画像作成処理:ステップS1400)。
【0054】
本実施形態では、差分画像作成部240は、差分画像を作成する前に、まず、第一関心領域と第二関心領域との間の変位量、すなわち、関心領域の造影前後の変位量を検出する(変位量検出処理:ステップS1401)。そして、両者間の変位を補正する(変位補正処理:ステップS1402)。そして、必要に応じて第二関心領域のサイズを第一関心領域に合わせ(サイズ整合処理:ステップS1403)、補正後の両領域の差分画像を作成する(差分処理:ステップS1404)。
【0055】
上述のように、検査対象が関節の場合、撮像時間が異なると、体動による位置ずれを無視できない。従って、造影前の画像と造影後の画像を用いて同一部位の信号差を高精度に求めるためには、造影前画像と造影後画像との間の位置ずれを補正する必要がある。本実施形態では、上述のように、造影前後の関心領域に含まれる注目部位の変位は、回転移動と平行移動とにより構成されると仮定する。そして、差分画像作成部240は、変位量検出処理として、両画像の三次元座標の変位量をまず算出する。
【0056】
変位量は、第二関心領域抽出部230によるパターンマッチングの結果を用い、導出する。このとき、差分画像作成部240は、造影前画像および造影後画像それぞれに設定される三次元座標を用い、変位量(位置ずれ量)として平行移動量および回転移動量を算出する。三次元座標は、例えば、画像撮像時の座標軸を用いる。すなわち、磁場中心を原点とし、リードアウト方向、位相エンコード方向、スライス方向をそれぞれx軸方向、y軸方向、z軸方向とする。なお、MIP(Maximum intensity Projection)画像の投影方向を座標軸のz方向としてもよい。
【0057】
そして、差分画像作成部240は、変位量を補正する変位補正処理を行う。ここでは、差分画像作成部240は、算出した変位量分、第一関心領域および第二関心領域のいずれか一方を、平行移動および/または回転移動させ、両者の三次元座標軸を一致させる。これにより、体動に起因する造影前後での関心領域の位置ずれは解消される。
【0058】
ここで、差分画像作成部240は、差分処理に先行する処理として、必要に応じて、第二関心領域を再設定するサイズ整合処理を行う。再設定は、第二関心領域のサイズを第一関心領域のサイズに合致させることにより行う。
【0059】
第一関心領域と第二関心領域との位置ずれ(変位)は、上記変位補正処理により補正される。しかし、抽出時に適用する閾値(第一閾値、第二閾値)が異なるため、第一関心領域と第二関心領域とは、そのサイズが異なる。一般に、第二関心領域には、第一関心領域として抽出された画素と、それ以外の画素とが混在する。そのため、第二関心領域として抽出された画素の中から、第一関心領域として抽出されなかった画素を削除し、これを再設定後の第二関心領域とする。
【0060】
なお、第二関心領域の方が第一関心領域より小さい場合は、第一関心領域として抽出された画素であって、第二関心領域として抽出されなかった画素を、第二関心領域に追加し、再設定後の第二関心領域とする。また、第一関心領域と第二関心領域とのサイズの差が予め定めた閾値以下であれば、本処理は行わなくてもよい。
【0061】
そして、差分画像作成部240は、第一関心領域と第二関心領域と間で差分処理を行い、その結果を三次元差分画像として記憶装置172などに保存する。
【0062】
そして、画像処理部250は、差分画像作成処理で作成され、保存されている三次元差分画像に対し、予め定めた画像処理を施し、処理後画像を作成し、表示装置173に表示する(ステップS1500)。施す画像処理として、例えば、各画素の信号強度に対応したカラーを付与してカラーマップを作成する。このとき、カラーを付与する対象は、抽出関心領域である。
【0063】
なお、カラーを付与する画像処理に加え、例えば、付与された色毎に画素数を導出する統計処理、2点間のプロファイルを観察する処理、或いは、画面のキャプチャーなどの解析を行ってもよい。これらの解析処理は、公知であるため、詳細説明は省略する。
【0064】
以上、本発明における、撮像後の後処理の流れの一例を説明した。
【0065】
次に、上記後処理に含まれる一連の処理の操作性を向上するための、本実施形態のUIを説明する。本実施形態では、UIとして、UI画面を用意する。UI画面は、UI制御部260により作成され、表示装置173に表示される。また、UI制御部260は、ユーザからの指示に従って、UI画面内の表示内容を更新する。
【0066】
本実施形態のUI画面では、造影前画像と造影後画像とを並べて同時に表示する。また、後処理に含まれる一連の処理を選択可能なメニュー画面もあわせて表示する。例えば、造影前画像を画面右側、造影後画像を画面左側の配置とし、造影前画像として取得した画像をそのまま、造影後画像として、取得した画像をそのまま、または、差分画像を表示する。さらに、パターンマッチングを適用した後の画像については、上記パターンマッチングの際に、回転移動や平行移動を適用していることを考慮し、その座標軸の方向に上記移動量や方向を加えて座標軸の表示を変更する。
【0067】
本実施形態のUI画面の具体例を、図4を用いて説明する。図4に示すUI画面500は、画像を表示する領域として、造影前画像を表示する造影前画像表示領域510および造影後画像を表示する造影後画像表示領域520と、ユーザからの指示を受け付ける指示受付領域530と、を備える。
【0068】
UI制御部260は、後処理開始の指示を受け付けると、UI画面500の初期画面を表示する。初期画面では、例えば、造影前画像表示領域510および造影後画像表示領域520には、それぞれ、取得した造影前画像および造影後画像を表示する。
【0069】
指示受付領域530は、造影前画像表示領域510および造影後画像表示領域520にそれぞれ表示する画像種の指示を受け付ける表示画像種指示領域531、第一閾値および第二閾値の設定を受け付ける閾値受付領域532、差分画像に対する各種の画像処理、解析処理の指示を受け付ける画像処理受付領域533などを備える。なお、第一適用領域および第二適用領域の指定は、造影前画像表示領域510および造影後画像表示領域520上でそれぞれ受け付ける。
【0070】
閾値受付領域532を介して、閾値の設定を受け付けると、UI制御部260は、第一関心領域抽出部210または候補領域抽出部220に、受け付けた第一閾値または第二閾値を設定させる。閾値は、例えば、閾値の上限値および下限値それぞれを、スライドバーの移動、または、直接数値入力などにより受け付ける。なお、このとき、入力される値が変わる毎に(スライドバーの位置が移動される毎に)、UI制御部260は、当該閾値で抽出される画素を特定し、造影前画像表示領域510または造影後画像表示領域520に、特定された画素を識別可能なように表示するよう構成してもよい。識別可能な表示として、例えば、抽出される画素以外の画素値を0とする。
【0071】
なお、ここでは、指示受付領域530の、表示画像種指示領域531、閾値受付領域532、画像処理受付領域533は、造影前画像に対する指示の受付と、造影後画像に対する指示の受付とで兼用する。このため、UI制御部260は、まず、画像の選択を受け付け、その後受け付けた指示は、選択された画像に対する指示として処理する。
【0072】
すなわち、造影前画像表示領域510を介して造影前画像の選択を受け付けると、UI制御部260は、以降の入力を、造影前画像に対する入力と判別する。例えば、閾値受付領域532を介して、閾値の設定を受け付けると、第一閾値の入力を受け付けたものと判別し、第一関心領域抽出部210に、受け付けた第一閾値を設定させる。また、表示画像種指示領域531を介して表示画像種の指示を受け付けると、造影前画像の、指示された画像種(例えば、加算平均画像、分散画像、MIP画像など。各画像種の詳細は後述する。)を造影前画像表示領域510に表示する。
【0073】
一方、造影後画像表示領域520を介して造影後画像の選択を受け付けると、UI制御部260は、以降の入力を、造影後画像に対する入力と判別する。すなわち、閾値受付領域532を介して、閾値の設定を受け付けると、第二閾値の入力を受け付けたものと判別し、候補領域抽出部220に、受け付けた第二閾値を設定させる。また、表示画像種指示領域531を介して表示画像種の指示を受け付けると、造影後画像の、指示された画像種(例えば、加算平均画像、分散画像、MIP画像など。)を造影後画像表示領域520に表示する。
【0074】
なお、範囲の指示は、造影前画像表示領域510および造影後画像表示領域520それぞれにおいて受け付け可能とする。すなわち、UI制御部260は、造影前画像表示領域510を介して、範囲の指示を受け付けると、第一適用領域の指定を受け付けたものと判別し、第一関心領域抽出部210に、受け付けた第一適用領域を設定させる。また、UI制御部260は、造影後画像表示領域520を介して、範囲の指示を受け付けると、第二適用領域の指定を受け付けたものと判別し、候補領域抽出部220に、受け付けた第二適用領域を設定させる。
【0075】
さらに、指示受付領域530は、第一関心領域と候補領域との抽出後、第二関心領域の抽出を開始する指示を受け付ける領域、差分画像作成処理の開始の指示を受け付ける領域などを備える。そして、これらの領域を介して指示を受け付けると、UI制御部260は、対応する処理を実行するよう第二関心領域抽出部230、差分画像作成部240にそれぞれ指示を行う。
【0076】
なお、閾値受付領域532は、例えば、第二閾値として、造影前画像で設定した第一閾値と同じ値を用いる場合、同じ値を用いるとの指示を受け付ける領域を備えていてもよい。
【0077】
また、表示画像種指示領域531、閾値受付領域532は、造影前画像および造影後画像それぞれに対し、別個に備えていてもよい。
【0078】
また、UI制御部260は、画像処理受付領域533を介して、差分画像に対する画像処理の指示を受け付けると、受け付けた指示に従って、画像処理部250に画像処理を行わせ、処理後画像を作成させる。ここでは、例えば、カラー表示に対する各種の指示、例えば、閾値の上限と下限、カラーの透過度、スケール(段階数)などを受け付ける。作成された処理後画像は、例えば、造影後画像表示領域520に表示する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態によれば、静磁場内に配置される検査対象の所望の領域を核磁気共鳴により撮像する撮像部と、撮像手段による撮像結果に後処理を施す後処理部と、前記検査対象に造影剤を注入する造影剤インジェクタと、前記撮像手段による撮像結果および前記後処理手段が用いるユーザインタフェース画面を表示する表示装置と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、前記撮像部は、前記造影剤の注入前と注入後とに、それぞれ、予め定めた関心領域を含む画像を取得し、前記後処理部は、前記造影剤注入前に取得した造影前画像上で、前記関心領域を第一関心領域として抽出する第一関心領域抽出部と、前記造影剤注入後に取得した造影後画像上で、前記関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出部と、前記第一関心領域と前記候補領域とを用い、前記造影後画像上の前記関心領域を第二関心領域として抽出する第二関心領域抽出部と、前記第一関心領域と前記第二関心領域との間の差分画像を作成する差分画像作成部と、前記作成した差分画像に画像処理を施し、処理後画像を作成する画像処理手段と、を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置を実現する。
【0080】
また、前記第一関心領域抽出部は、ユーザから、抽出する画素を決定する信号強度の第一閾値の設定を受け付ける第一閾値設定部と、前記第一閾値を適用する第一の適用領域を前記造影前画像上に設定する第一適用領域設定部と、を備え、前記第一適用領域内の、前記第一閾値以上の画素を、前記第一関心領域として抽出する。
【0081】
また、前記候補領域抽出部は、抽出する画素を決定する信号強度の第二閾値を設定する第二閾値設定部と、前記第二閾値を適用する第二適用領域を前記造影後画像上に設定する第二適用領域設定部と、を備え、前記第二適用領域内の、前記第二閾値以上の画素を、前記第二関心領域として抽出する。
【0082】
さらに、前記第二関心領域抽出部は、前記第一関心領域をテンプレートとしてパターンマッチングにより前記第二関心領域を抽出する。
【0083】
また、前記差分画像作成部は、前記差分画像作成前に、前記第一関心領域と前記第二の関心領域とを比較し、造影剤注入前後の前記関心領域の変位を補正する変位補正部を備える。
【0084】
このように、本実施形態によれば、緩和時間を強調撮像した造影前画像上で第一閾値を設定し、第一関心領域を抽出する。この造影前画像では、血管や表皮は低信号となるのに対し、関節液は比較的高信号となる。従って、注目部位である関節領域を抽出するための第一閾値の設定を容易に行うことができ、第一関心領域の抽出も高い精度で容易に行うことができる。
【0085】
また、第一適用領域設定処理において、第一閾値の適用対象領域を第一適用領域として設定し、制限する。すなわち、位置情報を用いて抽出対象を制限するため、例えば、皮下脂肪の信号が関節部と同等になった場合に対しても、皮下脂肪が抽出される可能性は低い。従って、注目領域である関節領域を第一関心領域として抽出する処理の安定性が向上する。
【0086】
また、本実施形態によれば、造影後画像では、関心領域の候補領域を抽出し、造影前画像で抽出した関心領域を用い、パターンマッチングにより造影後画像から関心領域を抽出する。従って、造影後画像においても、注目領域である関節領域を精度よく抽出できる。すなわち、本実施形態によれば、造影前後の信号強度差を画像化した三次元差分画像を使用しない。この三次元差分画像を用いて閾値を設定し、設定した閾値を用いて抽出すると、体動により差分信号が大きくなる領域が誤抽出される可能性が高い。しかし、本実施形態では、上述のように造影後画像上の関心領域を抽出する。従って、体動により差分信号が大きくなる領域を誤抽出することを防止できる。
【0087】
さらに、パターンマッチング時に得られる変位量を用いて、体動に起因する変位を検出し、変位量、サイズを補正し、造影後画像上の関心領域を最終的に特定する。従って、体動に起因する位置ずれを精度よく補正でき、安定した結果を得ることができる。
【0088】
従って、本実施形態によれば、関節を関心領域として正確かつ簡便に抽出できる。このため、造影MRIを用いたリウマチ検査において、後処理の簡便化と高精度化を実現できる。
【0089】
なお、上記実施形態では、第一適用領域設定処理において、第一適用領域を、入力装置174を介してユーザが指定するよう構成しているが、これに限られない。例えば、検査対象部位が中手指節関節や指節間関節である場合、第一適用領域の設定を自動化できる。
【0090】
例えば、第一関心領域抽出部210は、手の表から裏方向(以下、AP方向)を投影方向とし、加算平均画像および分散画像を作成し、いずれかの画素値が予め定めた閾値より大きい領域を第一適用領域とする。以下、この第一適用領域決定処理の詳細を、図5に示す処理フローに従って、説明する。
【0091】
なお、加算平均画像は、三次元画像のAP方向の全画素値(信号強度値)の加算平均を各画素値とする二次元画像である。また、分散画像は、三次元画像のAP方向の全画素値の分散値を各画素値とする二次元画像である。なお、分散値算出時に、AP方向の全画素の中の、信号強度が小さくて背景ノイズとみなすことができる画素は除外してもよい。加算平均画像および分散画像ともに、各画素値は、AP方向に直交する平面(以下、直交平面)における、投影データである。
【0092】
まず、第一関心領域抽出部210は、三次元画像に関してAP方向の配列を定義する(ステップS2101)。定義した同配列に関して、加算平均を導出して画像化することにより、加算平均画像を得る(ステップS2102)。また、同様に、同配列に関して信号強度が小さく背景ノイズと見なすことが可能な要素を除外して分散値を導出し、それを画像化することにより、分散画像を得る(ステップS2103)。
【0093】
ここで、造影前画像から作成した加算平均画像310および分散画像320と、MIP(Maximum intensity Projection)画像330を、それぞれ、図6(a)、図6(b)および図6(c)に示す。MIP画像330は、AP方向の最大値を直交平面に投影した画像である。いずれも、造影前の三次元画像を使用して作成したものである。これらの図において、加算平均画像310と分散画像320とにおいて、関節部が高信号となっていることが分かる。
【0094】
そこで、第一関心領域抽出部210は、算出した加算平均画像と分散画像との少なくとも一方に対して閾値を設定し(ステップS2104)、設定した閾値以上の信号強度値を持つ画素を抽出する(ステップS2105)。この抽出処理により、直交平面における第一関心領域の抽出に使用する第一適用領域が抽出される。
【0095】
次に、第一関心領域抽出部210は、ステップS2105で抽出された画素の、直交平面での座標と同じ位置に相当するAP方向の配列を特定する(ステップS2106)。そして、第一関心領域抽出部210は、配列内の画素の中から、前記閾値以上の信号強度値を持つ画素を抽出する(ステップS2107)。第一関心領域抽出部210は、抽出された各画素により特定される領域を、第一適用領域とする。
【0096】
以上の手順により、本実施形態の第一関心領域抽出部210は、自動的に第一適用領域を抽出し、設定することができる。なお、自動設定と手動設定とを併用してもよい。すなわち、加算平均画像および/または分散画像を求め、これらの画像上でユーザがマニュアルで領域を指定して第一適用領域を設定するよう構成してもよい。
【0097】
すなわち、前記第一適用領域設定部が、前記造影前画像に対し、上述の第一適用領域決定処理で説明した画像処理を施し、前記第一の適用領域を決定するよう構成する。このように構成することにより、適用領域の設定を自動化できる。従って、ユーザの負担が減る。また、ユーザの熟練度による設定精度の差異が発生しにくく、恒常的に高精度な後処理を実現できる。
【0098】
なお、この自動で第一適用領域を設定する処理は、第二適用領域設定処理にも適用できる。すなわち、前記第二適用領域設定部が、前記造影後画像に対し、画像処理を施し、前記第二適用領域を決定するよう構成する。
【0099】
特に、造影MRI検査では、血管で信号強度が著しく大きくなるため、第二関心領域には、関節以外の領域、例えば、血管や表皮なども含まれる。従って、この第二適用領域設定処理は、煩雑なものとなりがちである。この手法を用いることにより、煩雑な処理を回避できる。
【0100】
また、本実施形態では、造影後画像上で候補領域を抽出するにあたり、造影後画像上で第二閾値、第二適用領域の設定を受け付け、それらを用いている。しかし、候補領域の抽出時に用いる閾値、適用領域はこれに限られない。例えば、造影前画像上で設定された第一閾値、第一適用領域をそのまま用いるよう構成してもよい。
【0101】
このときの処理を、図7に示すUI画面500の表示例を用いて説明する。
【0102】
造影前画像表示領域510には、上述のように造影前画像の素画像(三次元画像)が表示される。また、造影後画像表示領域520には、造影後画像の分散画像が表示される。
【0103】
また、指示受付領域530を介して、対応する画像処理内容の指定を受け付ける。なお、その他、下端にROIの指定や保存、プロファイルの導出などを指定するためのアイコンが配置される。
【0104】
表示画像種指示領域531を介して、ユーザから表示画像種の指定を受け付けると、UI制御部260は、指定された画像を造影前画像表示領域510に表示する。画像処理の指示を受け付けた場合、画像処理部250に指示された画像処理を施した処理後画像を作成させ、それを表示する。
【0105】
閾値受付領域532を介して、閾値の設定を受け付けると、UI制御部260は、第一関心領域抽出部210に、受け付けた第一閾値を設定させる。また、UI制御部260は、候補領域抽出部220に受け付けた第一閾値を、第二閾値として設定させる。
【0106】
閾値は、例えば、閾値の上限値および下限値それぞれを、スライドバーの移動、または、直接数値入力などにより受け付ける。なお、このとき、入力される値が変わる毎に(スライドバーの位置が移動される毎に)、UI制御部260は、当該閾値で抽出される画素を特定し、造影前画像表示領域510および造影後画像表示領域520に、特定された画素を識別可能なように表示するよう構成してもよい。例えば、閾値以下の信号強度の画素の画素値を0として表示を更新する。
【0107】
造影前画像表示領域510を介して、範囲の指示を受け付けると、UI制御部260は、第一適用領域の指定を受け付けたものと判別し、第一関心領域抽出部210に、受け付けた第一適用領域を設定させる。また、UI制御部260は、範囲の指示を受け付ける毎に、造影後画像表示領域520に表示される造影後画像の同じ画素位置に、範囲を表示するとともに、候補領域抽出部220に、第二適用領域として設定させる。
【0108】
また、造影前画像の第一適用領域内部の画素、および、造影後画像の第二適用領域内部の画素を、特定可能なように表示するよう構成してもよい。
【0109】
なお、第一閾値以上の画素でありかつ第一適用領域内部の画素、および、第二閾値以上の画素でありかつ第二適用領域内部の画素を、それぞれ特定可能なように表示することにより、ユーザに、抽出される第一関心領域、および、候補領域を直感的に把握可能に提示できる。
【0110】
このように、前記第二閾値設定部が、前記第一閾値を、前記第二閾値として設定し、前記第二適用領域設定部が、前記第一適用領域を、前記第二適用領域として設定するよう構成する。すなわち、造影前の画像に対して適用した第一閾値やユーザが指定した第一適用領域を、造影後の画像に対して適用する。
【0111】
このように構成することにより、造影後画像上での候補領域抽出処理を内部処理としているため、全体の処理が簡略化され、ユーザの負担が減る。また、ユーザの熟練度による抽出精度の差異が発生しにくく、恒常的に高精度な後処理を実現できる。
【0112】
また、画面を造影前の三次元画像と造影後の三次元画像とを並べて表示する構成とし、造影前の画像に対して適用した第一閾値やユーザが指定した第一適用領域が造影後の画像に対して適用されている様子を、直感的に把握しやすい態様でユーザに提示できる。
【0113】
さらに、候補領域抽出にあたり、閾値は、造影前画像で設定した閾値(第一閾値)をそのまま用い、適用領域は、上記自動的に設定する手法を用いて設定するよう構成してもよい。
【0114】
造影後画像を用いて同様の手順で作成した、加算平均画像410、分散画像420、および、MIP画像430を、それぞれ、図8(a)、図8(b)および図8(c)に示す。造影後画像においては、血管での信号上昇が大きいことが、図8(c)のMIP画像430からわかる。また、図8(a)の加算平均画像410および図8(b)の分散画像420において、関節の信号強度が相対的に低下していることがわかる。しかし、造影後画像の関節の信号強度は、造影前画像の関節の信号強度と比較すると、上昇している。
【0115】
このため、閾値として、造影前画像の加算平均画像および/または分散画像で決定した第一閾値を用いて、上記手法で第二適用領域を抽出することで、これらの画像上で相対的に信号強度が低い関節領域も第二適用領域として抽出できる。
【0116】
なお、上述のように、撮像前画像で決定した閾値を用いて造影後の加算平均画像および/または分散画像から抽出される領域(第二適用領域)は、造影前画像から同様の手順で抽出した第一適用領域と比較して広範囲に及ぶ。従って、これらの適用領域を適用して抽出した、第一関心領域および第二関心領域も、第二関心領域が第一関心領域と比較して広範囲に及ぶ。
【0117】
従って、位置ずれ量(変位量)の導出および補正の際には、第一関心領域と第二関心領域とは形状が異なること、また、第一関心領域は第二関心領域に含まれること、を念頭におき処理を行う必要がある。
【0118】
また、本実施形態では、造影前後の変位として、平行移動と回転移動との2種の変位を考慮にいれているが、これに限られない。
【0119】
例えば、検査対象部位が中手指節関節や指節間関節の場合、指の屈伸の自由度の観点から、AP方向の移動と直交平面内の平行移動とを考えれば十分であり、回転方向の成分は無視することができる。従って、上記ステップS1401の変位量検出処理において、回転方向の成分の検出は行わず、平行移動の変位量のみ検出するよう構成してもよい。
【0120】
部位に応じて、予め、変位量のいずれの成分を算出すべきか記憶装置172に登録し、それに従って、処理を行うよう構成してもよい。
【0121】
なお、上述のように変位量は、第二関心領域抽出部230が第一関心領域と候補領域との間のパターンマッチングの結果を用いて導出する。従って、パターンマッチングを行う場合も、検査対象部位の変位の特性を考慮して行うことが望ましい。
【0122】
例えば、上記検査対象部位の場合、回転方向の変位は無いものと考えられる。また、直交平面内の平行移動に関して、例えば、図6(a)に示す加算平均画像310おいて、左側から小指・薬指・中指の順番が、造影前と後とで変わることは無い。また、個々の関節領域は位置ずれが生じても殆ど変形しない。これらの特性を考慮し、パターンマッチングを行い、最もマッチする平行移動・回転移動量を導出する。また、その値に従って、位置ずれ補正を施す。
【0123】
なお、部位によっては、変位補正処理は行わなくてもよい。上述のように、検査対象部位が中手指節関節や指節間関節の場合、造影前後での変位は、平行移動に略限られる。従って、差分画像作成部240が、第一関心領域と第二関心領域との、上記手法で検出した変位量分異なる画素間で差分を取り、差分画像を作成するよう構成してもよい。
【0124】
なお、上記実施形態では、後処理部200は、MRI装置100の制御処理系170上に構築されているが、これに限られない。例えば、MRI装置100とデータの送受信が可能な、MRI装置100とは独立した情報処理装置上に構築されていてもよい。また、MRI装置100が、CPU171とは別に、画像処理、後処理用のCPUを備え、当該CPUが実現するよう構成してもよい。
【符号の説明】
【0125】
100:MRI装置、101:被検体、120:静磁場発生系、130:傾斜磁場発生系、131:傾斜磁場コイル、132:傾斜磁場電源、140:シーケンサ、150:送信系、151:送信コイル、152:高周波発振器、153:変調器、154:高周波増幅器、160:受信系、161:受信コイル、162:信号増幅器、163:直交位相検波器、164:A/D変換器、170:制御処理系、171:CPU、172:記憶装置、173:表示装置、174:入力装置、181:造影剤インジェクタ、182:心電電極脈波センサ、183:心電脈波モニタ、190:撮像部、200:後処理部、210:第一関心領域抽出部、220:候補領域抽出部、230:第二関心領域抽出部、240:差分画像作成部、250:画像処理部、260:UI制御部、310:加算平均画像、320:分散画像、330:MIP画像、410:加算平均画像、420:分散画像、430:MIP画像、500:UI画面、510:造影前画像表示領域、520:造影後画像表示領域、530:指示受付領域、531:表示画像種指示領域、532:閾値受付領域、533:画像処理受付領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場内に配置される検査対象の所望の領域を核磁気共鳴により撮像する撮像手段と、撮像手段による撮像結果に後処理を施す後処理手段と、前記検査対象に造影剤を注入する造影剤注入手段と、前記撮像手段による撮像結果および前記後処理手段が用いるユーザインタフェース画面を表示する表示手段と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮像手段は、前記造影剤の注入前と注入後とに、それぞれ、予め定めた関心領域を含む画像を取得し、
前記後処理手段は、
前記造影剤注入前に取得した造影前画像上で、前記関心領域を第一関心領域として抽出する第一関心領域抽出手段と、
前記造影剤注入後に取得した造影後画像上で、前記関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出手段と、
前記第一関心領域と前記候補領域とを用い、前記造影後画像上の前記関心領域を第二関心領域として抽出する第二関心領域抽出手段と、
前記第一関心領域と前記第二関心領域との間の差分画像を作成する差分画像作成手段と、
前記作成した差分画像に画像処理を施し、処理後画像を作成する画像処理手段と、を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第二関心領域抽出手段は、前記第一関心領域をテンプレートとしてパターンマッチングにより前記第二関心領域を抽出すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記差分画像作成手段は、前記差分画像作成前に、前記第一関心領域と前記第二の関心領域とを比較し、造影剤注入前後の前記関心領域の変位を補正する変位補正手段を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第一関心領域抽出手段は、
ユーザから、抽出する画素を決定する信号強度の第一閾値の設定を受け付ける第一閾値設定手段と、
前記第一閾値を適用する第一の適用領域を前記造影前画像上に設定する第一適用領域設定手段と、を備え、
前記第一適用領域内の、前記第一閾値以上の画素を、前記第一関心領域として抽出すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第一適用領域設定手段は、前記造影前画像を前記表示手段に表示し、前記表示された造影前画像上で、ユーザから前記第一の適用領域の設定を受け付けること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第一適用領域設定手段は、前記造影前画像に対し、画像処理を施し、前記第一の適用領域を決定すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1から6いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記候補領域抽出手段は、
抽出する画素を決定する信号強度の第二閾値を設定する第二閾値設定手段と、
前記第二閾値を適用する第二適用領域を前記造影後画像上に設定する第二適用領域設定手段と、を備え、
前記第二適用領域内の、前記第二閾値以上の画素を、前記第二関心領域として抽出すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第二閾値設定手段は、前記第一閾値を、前記第二閾値として設定すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項7記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第二閾値設定手段は、ユーザから前記第二閾値の設定を受け付けること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項7から9いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第二適用領域設定手段は、前記第一適用領域を、前記第二適用領域として設定すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項7から9いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第二適用領域設定手段は、前記造影後画像を前記表示手段に表示し、前記表示された造影後画像上で、ユーザから前記第二適用領域の設定を受け付けること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項7から9いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第二適用領域設定手段は、前記造影後画像に対し、画像処理を施し、前記第二適用領域を決定すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
請求項1から12いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記差分画像作成手段は、
前記差分画像を作成する前に、前記第一関心領域と前記第二関心領域とのサイズを揃えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
請求項1から13いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像処理手段は、前記作成した差分画像の各画素の信号強度に応じたカラーを付与したカラーマップを前記処理後画像として作成すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
請求項1から14いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記後処理手段は、前記ユーザインタフェース画面の表示を制御する画面制御手段をさらに備え、
前記ユーザインタフェース画面は、
前記造影前画像と前記造影後画像とを並べて表示する画像表示領域と、
ユーザからの指示を受け付ける指示受付領域と、を備え、
前記画面制御手段は、前記指示受付領域を介して受け付けた指示を、前記画像表示領域に表示される前記造影前画像および前記造影後画像に反映させること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項16】
造影磁気共鳴イメージング画像において、造影剤注入前後の画像それぞれにおいて、関心領域を特定する関心領域特定方法であって、
造影剤注入前に取得した造影前画像から、前記関心領域を第一関心領域として抽出する第一関心領域抽出ステップと、
造影剤注入後に取得した造影後画像から、前記関心領域の候補領域を抽出する候補領域抽出ステップと、
前記第一関心領域と前記候補領域とを用い、前記造影後画像から前記関心領域を第二関心領域として抽出する第二関心領域抽出ステップと、を備えること
を特徴とする関心領域特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−39147(P2013−39147A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175961(P2011−175961)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】