説明

磁気共鳴イメージング装置及び感度補正方法

【課題】 被検体の位置ずれによるアーチファクトや撮像条件の差異による感度補正不良を除去する。
【解決手段】 要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを略同一の撮像条件で取得し、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを用いて、第1の受信コイルの感度分布を求め、該感度分布を用いて、第1の受信コイルの画像を感度補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)における、受信コイルの感度不均一分布に起因する画像の感度むらを補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生する核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
このMRI装置において、被検体から発生するNMR信号を検出する受信コイルとして、「マルチプル受信コイル」もしくは「フェーズドアレイコイル」と呼ばれる高感度受信コイルが近年多用されており、静磁場方式や検出部位に応じて種々のものが提案されている。マルチプル受信コイルは、相対的に高感度な要素受信コイルを複数個並べて構成され、これら各要素受信コイルからのNMR信号をフーリエ変換して得られる要素受信コイル毎の画像を合成して、新たな合成画像を取得(以下、「MAC合成」という)することが行われる。これによれば、要素受信コイル毎に信号雑音比の高い画像を取得し、この要素受信コイル毎の信号雑音比の高い画像を用いて、広範囲に亘って信号雑音比の高い合成画像情報を取得することができる。
【0004】
反面、複数の画像を合成して一枚の合成画像とするので、感度均一度の悪い画像情報を合成すると、合成画像の感度均一度も劣化する。このため、画像合成を行う際には、均一度の良い受信コイル、例えばMRI装置本体に内蔵されるボディコイルを用いて、感度補正を行う。従来、特許文献1に記載されるように、この感度補正を行うために、本計測に先立ち、感度計測が事前に実行される。この感度計測により、マルチプル受信コイルとボディコイルとを用いてそれぞれ3次元感度画像データを取得し、各感度画像データの信号強度SMAC,SWBの除算値である信号強度比(SMAC/SWB)に基づいて、マルチプル受信コイルの3次元感度分布情報が推定される。そして、得られたマルチプル受信コイルの3次元感度分布情報から、本計測画像と同じ断面の感度分布情報を抽出し、これを用いて、合成画像の感度むらが補正される。
【0005】
一方、マルチプル受信コイルで受信したNMR信号から得られた画像自身から後処理によりマルチプル受信コイルの感度分布情報を推定し、得られたマルチプル受信コイルの感度分布情報を用いて、合成画像の感度不均一を補正する方法も利用されている。例えば、マルチプル受信コイルを構成する各要素受信コイルにより得られた、該要素受信コイル毎の画像データにスムージング処理を実行することにより、要素受信コイル毎の低周波成分の画像データを作成して、これらを合成して感度分布情報として代用する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-056928号公報
【特許文献2】特開2001-161657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の感度計測によりマルチプル受信コイルとボディコイルとからそれぞれ得られた各感度画像データの信号強度値SMAC、SWBの除算値(SMAC/SWB)に基づいて、マルチプル受信コイルの3次元感度分布情報を推定して、合成画像の感度分布を補正する方法では、感度計測におけるマルチプル受信コイルを用いた感度画像データの収集とボディコイルを用いた感度画像データの収集との間に、被検体の動き等の原因により、両感度画像データに位置ずれ(ミスレジストレーション)が発生する恐れがあるとう課題が残されている。
【0008】
また、感度計測におけるマルチプル受信コイルとボディコイルを用いた感度画像データの収集の間に、前述のような位置ずれが起こらない場合においても、感度計測と本計測の間に前述のような被検体の動き等の原因により、3次元感度分布情報と本計測画像との間に位置ずれが発生する恐れがある。これらは感度補正後の合成画像にアーチファクトや感度補正の不良を引き起こすことになるという課題が残されている。
【0009】
さらに、本計測と感度計測では、多くの場合、撮像条件が異なる。感度計測では、前述のとおり、マルチプル受信コイルの感度分布情報を取得することが目的であるため、極力、組織間コントラストを抑制するような撮像条件が設定されることが一般的である。例えば、グラジエントエコー法のパルスシーケンスを用いた場合、フリップ角を大きくすることはT1強調につながるので、フリップ角は極力小さくされる。一方、本計測では、画像診断を目的とするので、組織間コントラストが極めて重要であるため、組織間コントラストを際立たせるような撮像条件が設定されることが一般的である。例えば、白質と灰白質の組織間コントラストを強調するために、IR(インバーション・リカバリー)パルスをプレパルスとして印加するようなことである。これらの本計測と感度計測の撮像条件の差異は、送信コイルのRFパワーの空間的不均一の差異や、両計測におけるマルチプル受信コイルの受信感度の差異を生じさせる。その結果、感度計測で取得された感度画像データを用いて感度補正を行っても、これらの差異に起因する感度分布差の影響で、感度補正不良が起こることがある。このため、ある撮像条件下では、感度補正が正しく行われても、撮像条件を変えると、感度補正が正しく行われず、感度補正後も感度むらが生じる場合があるという課題が残されている。
【0010】
一方、マルチプル受信コイルによる画像データ自身から後処理にて推定されたマルチプル受信コイルの感度分布情報を用いて感度不均一を補正する方法では、マルチプル受信コイルの感度分布情報の推定精度が低いため感度補正が不十分となり、最終的に得られる感度補正後の画像の均一性を十分に得ることができない課題が残されている。
【0011】
これらのことから、被検体の位置ずれによるアーチファクトや撮像条件の差異による感度補正不良のない感度補正技術が極めて重要である。
【0012】
そこで本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、被検体の位置ずれによるアーチファクトや撮像条件の差異による感度補正不良を除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成される。即ち、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを略同一の撮像条件で取得し、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを用いて、第1の受信コイルの感度分布を求め、該感度分布を用いて、第1の受信コイルの画像を感度補正する。
【0014】
具体的には、本発明のMRI装置は、複数の要素受信コイルを組み合わせてなる第1の受信コイルと、第1の受信コイルよりも、感度範囲が広い第2のコイルと、を有して、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信部と、所定のパルスシーケンスに基づいて、受信部を用いて、被検体からの核磁気共鳴信号の計測を制御する計測制御部と、核磁気共鳴信号を用いて、被検体の画像を取得する演算処理部と、を備え、計測制御部は、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像の取得を制御し、演算処理部は、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを用いて、第1の受信コイルの感度分布を求め、該感度分布を用いて、第1の受信コイルの画像を感度補正する際に、計測制御部は、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像の取得を略同一の撮像条件で行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の感度補正方法は、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを略同一の撮像条件で取得する感度画像取得ステップと、要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを用いて、第1の受信コイルの感度分布を求める感度分布取得ステップと、感度分布を用いて、第1の受信コイルの画像を感度補正する感度補正ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のMRI装置及び感度補正補法によれば、被検体の位置ずれによるアーチファクトや撮像条件の差異による感度補正不良を除去することができるようになる。その結果、画像の感度むらが低減されて、信号雑音比の高い合成画像を取得できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用される磁気共鳴撮像装置の概略全体構成図。
【図2】本発明が適用される受信系の信号検出部の一部を示す図。
【図3】ボディコイルとマルチプルRFコイルの配置例を示す図。
【図4】グラジエントエコー法のシーケンスを示す図。
【図5】ファストスピンエコー法のシーケンスを示す図。
【図6】請求項1に対応する、本発明の感度補正処理の流れを示す図。
【図7】パラレルイメージング法の計測空間を示す図。
【図8】パラレルイメージング法の折り返しデータと感度データを再構成したファントム画像を示す図。
【図9】請求項2に対応する、本発明の感度補正処理の流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、送信コイル104及びRF送信部110と、受信コイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載してその被検体101を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0020】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0021】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzが発生する。撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0022】
送信コイル104は、被検体101に高周波磁場パルス(以下、RFパルスという)を照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスを振幅変調し、増幅した後に被検体101に近接して配置された送信コイル104に供給することにより、RFパルスが被検体101に照射される。本発明では、送信コイル104として、RFパルスの送信とNMR信号の受信を兼用するボディコイルを備える。この、ボディコイルは、MRI装置本体に内蔵されている。
【0023】
受信コイル105は、被検体101の生体組織を構成する原子核スピンのNMR現象により放出されるNMR信号(エコー信号)を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号を信号検出部106に送る。信号検出部106は、受信コイル105で受信したエコー信号の検出処理を行う。具体的には、送信コイル104から照射されたRFパルスによって誘起された被検体101の応答のエコー信号が被検体101に近接して配置された受信コイル105で受信され、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信したエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128,256,512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。本発明では、受信コイル105は、複数の要素受信コイルを組み合わせて成る「マルチプル受信コイル」もしくは「フェーズドアレイコイル」と呼ばれる受信コイルを用いる。マルチプル受信コイルとは、相対的に高感度な要素受信コイルの高い感度を保ったまま撮像視野を拡大し、広範囲に亘って高感度化を図る受信専用コイルである。
【0024】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスと傾斜磁場パルスの印加及び被検体101からのエコー信号の検出を繰り返し実行し、被検体101の画像の再構成に必要なエコーデータを収集する。
【0025】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、CPU及びメモリを有する演算処理部と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、信号処理部107からのエコーデータが入力されると、演算処理部が信号処理、フーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示・操作部108に表示させると共に記憶部に記録させる。特に、演算処理部は、本発明に係る画像合成や感度補正の演算を行う。
【0026】
表示・操作部113は、被検体101の断層画像を表示するディスプレイと、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部はディスプレイに近接して配置され、操作者がディスプレイを見ながら操作部を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0027】
なお、図1において、送信側の送信コイル104と傾斜磁場コイル103は、被検体101が挿入される静磁場発生磁石102の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体101に対向して、水平磁場方式であれば被検体101を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の受信コイル105は、被検体101に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0028】
現在のMRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0029】
(受信コイル及び信号検出部の詳細)
次に、本発明に係る受信コイル及び信号検出部の詳細を図2に基づいて説明する。図2は、ボディコイルおよびマルチプル受信コイルの信号検出部の一部を示す。図2に示す例において、マルチプル受信コイル203は、4個の要素受信コイル2011〜2014が、それぞれプリアンプ2021〜2024に接続されて、構成されている。また、ボディコイル209は、1個の送受信コイル204が、スイッチ回路205、プリアンプ208に接続されて、構成されている。ボディコイル209はRFパルス照射機能も兼ねているため、スイッチ回路205により、送信部として機能するか、受信部として機能するかの切り替えを行う。ボディコイル209が送信部としてとして機能する場合には、送受信コイル204は、スイッチ回路205により、変調器207と高周波増幅器208とを含むRF送信部110に電気的に接続される。ボディコイル209が受信部として機能する場合、送受信コイル204は、スイッチ回路205により、プリアンプ206と電気的に接続される。
【0030】
受信信号セレクタ210は、エコー信号を受信した要素受信コイルを選択的に信号検出部106へ接続する機能を担う。また、受信信号セレクタ210は、ボディコイル209とマルチプル受信コイル203との高速な切り替えに対応する。
【0031】
信号検出部106は、4個のA/D変換・直交検波回路2121〜2124が並列して構成される。A/D変換・直交検波回路2121〜2124で検出されたエコーデータは、信号処理部107に送られる。信号処理部107では、フーリエ変換、フィルタリング、合成演算などを行う。信号処理部107で行うこれらの各種処理は、予めプログラムとして記憶部に組み込まれており、必要に応じてCPUがメモリに読み出して実行する。
【0032】
ボディコイル209とマルチプル受信コイル203の配置例を図3に示す。図3は、被検体の体軸方向に垂直な断面の模式図である。
マルチプル受信コイル203を構成する、各要素受信コイルである表面コイル2011〜2014は、例えば被検体101の関心部位を含む断面の周囲となるZ軸周りに配置される。さらに各表面コイル2011〜2014の外側には、ボディコイル209の送受信コイル204が配置される。そして、送受信コイル204により被検体101に高周波パルスが照射される。送受信コイル204によって、被検体101からのエコー信号を受信する場合は、関心部位を含む断面の各部分からの信号を低信号ではあるが、均一に受信することができる。一方、マルチプル受信コイル203で受信する場合は、空間的に感度不均一があるものの、各表面コイル2011〜2014により、関心部位を含む断面からのエコー信号を高信号で受信できるように構成される。
【0033】
次に、以上の構成を有するMRI装置を用いた撮像法について説明する。
図4は、グラジエントエコー(GrE)法のパルスシーケンスの一例を示す図である。RF,Gs、Gp,Gr,Echoは、それぞれRFパルス、スライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、読み出し傾斜磁場、エコー信号を表す。グラジエントエコー法においては、計測制御部111により、スライス傾斜磁場パルス402と共にRFパルス401が印加され、被検体の特定の領域の核スピンが励起されて横磁化が発生する。その後、位相エンコード傾斜磁場パルス403が印加され、次いで、読み出し傾斜磁場パルス404が印加されて、エコー信号405が計測される。RFパルス401の印加からエコー信号405の計測までの時間(エコー時間)TE、及び、RFパルス401の間隔(繰り返し時間)TRは、画像における組織コントラストを決めるパラメータであり、対象とする組織等を考慮し予め設定される。
【0034】
また、図5は、ファストスピンエコー(FSE)法のパルスシーケンスの一例を示す図である。各記号の意味は図4と同じである。このファストスピンエコー法においては、計測制御部111により、スライス傾斜磁場パルス5031と共に90°RFパルス501が印加され、被検体の特定の領域の核スピンが励起されて横磁化が発生する。その後、静磁場の不均一などによる横磁化の位相分散を再収束させるために、スライス傾斜磁場パルス5032〜5034と共に180°RFパルス5021〜5023が印加される。さらに、位相エンコード傾斜磁場パルス5041〜5043が印加され、次いで、読み出し傾斜磁場パルス5051〜5053が印加されて、エコー信号5061〜5063(2回目は、5064〜5066)が計測される。
【0035】
グラジエントエコー法は1回のRFパルス401の印加による横磁化の発生で、1つのエコー信号が計測されるのに対し、ファストスピンエコー法は1回の90°RFパルス501の印加による横磁化の発生で、複数のエコー信号が計測されることを特徴とする。90°RFパルス501の印加から、K空間の低周波領域に最も近いエコー信号5062の収集までの時間(実効エコー時間)TEeff、及び、90°RFパルス501の間隔(繰り返し時間)TRは、画像における組織コントラストを決めるパラメータであり、対象とする組織等を考慮し予め設定される。
【0036】
(第1の実施形態)
次に、本発明のMRI装置及び感度補正方法の第1の実施形態を説明する。本実施形態は、本計測で計測した本計測データを用いてマルチプル受信コイルの感度補正を行う。好ましくは、ボディコイルとマルチプル受信コイルとを切り替えてそれぞれエコー信号を計測すると共に、ボディコイルとマルチプル受信コイルの撮像条件を可能な限り同じにする。以下、図6に基づいて本実施形態を詳細に説明する。
【0037】
本実施形態では、感度計測を本計測の前に行うのではなく、本計測において感度計測も行う。或いは、本計測が感度計測を兼ねる。したがって、本実施形態では、従来の事前の感度計測を行わず、本計測のみとなる。ここで本計測とは、感度画像取得を目的としたコントラストのつきにくい撮像条件を用いるものでなく、診断用画像の取得を目的として、コントラストの際立つ撮像条件で行う計測のことである。そして、ボディコイルとマルチプル受信コイルの感度画像の撮像条件を、可能な限り同じにし、システム調整値以外に差異はないようにする。システム調整値とは、送信ゲイン、受信ゲイン、共鳴周波数など、システムを最適化し、良好な画像を取得するための値である。システム調整値は、ボディコイルとマルチプル受信コイルのそれぞれのコイルに合わせて最適化される必要があり、通常、本計測に先立ってチューニング計測が行われて、そのチューニング計測結果に基づいてシステム調節値が設定される。同一にされる感度計測の撮像条件としては、RFパルスの励起角(フリップ角)、繰り返し時間TRやエコー時間TE、スライス位置、スライス厚、撮像視野FOV、等がある。
【0038】
さらに、本実施形態では、本計測において、計測制御部111の制御により、ボディコイルとマルチプル受信コイルとを交互に切り替えて用いることにより、マルチプル受信コイルの本計測画像と感度分布画像を略同時に取得する。そして、演算処理部により、マルチプル受信コイルで取得された本計測画像を該マルチプル受信コイルの感度分布画像で感度補正する。これにより、被検体の位置ずれによるアーチファクトや撮像条件の相違による感度補正不良を除去することが可能となる。また、従来技術の3次元感度画像の取得が必要なくなる。
【0039】
ボディコイルとマルチプル受信コイルを切り替えは種々の方法が考えられる。切り替えるタイミングを速くして、切り替え周期を短くするほど、ボディコイルを用いる本計測データとマルチプル受信コイルを用いる本計測データとの間で、被検体の位置ずれは低減される。さらに、両本計測の撮像条件を、全く同じ組織コントラストを有する画像が取得されるようにする。つまり、計測制御部111が、同じ撮像条件を用いて、略同一の組織コントラストを維持するタイミングで受信コイルの切り替えを行って、両コイルでの撮像を制御することにより、従来技術の課題である、撮像条件の差異によるアーチファクトや感度補正不良を除去する。
【0040】
両受信コイルの切り替え方法の具体例として、図4の例で用いたグラジエントエコー法のパルスシーケンスにおいては、組織コントラストを決めるパラメータの1つであるTR毎に受信コイルを切り替えることが最適である。つまり、計測制御部111は、TR毎に図2の受信信号セレクタ210を制御して両受信コイルを切り替えて、それぞれのエコー信号の計測を交互に行うよう制御する。しかし、これに限らず、励起スライスが変わる毎、位相エンコード傾斜磁場の磁場強度が変わる毎、信号雑音比を向上するための積算を積算回数分繰り返す毎、などのタイミング、或いは、これらの組み合わせのタイミングで受信コイルを切り替えることも可能である。
【0041】
また、図5に示すファストスピンエコー法のパルスシーケンスの例においては、TR毎に受信コイルを切り替えるというパターン以外に、第1エコー5061と第3エコー5063等の奇数エコーにおいて、マルチプル受信コイルでエコー信号を計測し、第2エコー5062等の偶数エコーにおいて、ボディコイルでエコー信号を計測し、次の繰り返しのときに、奇数エコーの時にボディコイルでエコー信号を計測し、偶数エコーの時にマルチプル受信コイルでエコー信号を計測し、これらを交互に繰り返すことも可能である。或いは受信コイルが逆のパターンでも良い。つまり、計測制御部111は、エコー信号の計測毎に、図2の受信信号セレクタ210を制御して両受信コイルを切り替えて、各エコー信号の計測を制御する。
【0042】
(感度補正処理フロー)
次に、本実施形態の感度補正処理の処理フローを図6に基づいて説明する。図6の長円は処理を表し、長方形は処理結果やデータを表す。本処理フローはプログラムとして予め磁気ディスク等の記憶部に記憶されており、CPUが必要に応じてメモリに読み込んで実行することにより実施される。以下、各ステップを詳細に説明する。
【0043】
まず、計測制御部111は、本計測において、受信コイルを切り替えながら、略同一の撮像条件で、マルチプル受信コイルを用いた本計測データ(K空間データ)6011〜6013と、ボディコイルを用いた本計測データ(K空間データ)612を計測する。例えば、前述したように、グラジエントエコー法のパルスシーケンスを用いる場合には、計測制御部111は、TR毎に受信コイルを切り替えてそれぞれの本計測データの計測を制御する。或いは、ファストスピンエコー法のパルスシーケンスを用いる場合は、エコー信号毎に受信コイルを切り替えて、それぞれの本計測データの計測を制御する。
【0044】
次に、演算処理部は、本計測データ6011〜6013をフーリエ変換602することにより、本計測画像6031〜6033を取得する。さらに、これらを画像合成604することにより、合成後本計測画像605を取得する。
【0045】
一方、演算処理部は、ボディコイルとマルチプル受信コイルで計測した本計測データ(K空間データ)の内の低周波領域のデータを用いて、感度分布画像618を取得するため以下の処理を行う。これにより、低周波領域データを用いることにより、組織間コントラストを抑えた、平滑化された感度分布画像を取得することができる。
【0046】
まず、演算処理部は、本計測データ6011〜6013から、それぞれ低周波領域データを抽出する処理606を行い、感度画像用データ6071〜6073を取得する。次に、感度画像用データ6071〜6073をフーリエ変換608することにより、感度画像6091〜6093を取得する。次に、この感度画像6091〜6093を画像合成処理610することにより、合成後感度画像611を取得する。
【0047】
また、演算処理部は、ボディコイルの本計測データ612から、低周波領域データを抽出する処理613を行い、参照画像用データ614を取得する。次に、参照画像用データ614をフーリエ変換615することにより、参照画像616を取得する。
【0048】
合成後感度画像611は、マルチプル受信コイルの各コイルの位置関係や感度などによって決まる、マルチプル受信コイルの感度分布を表す。また、参照画像616は、ボディコイルの感度分布を表す。演算処理部は、これらの感度分布を用いて感度分布算出処理617を行うことにより、マルチプル受信コイルの感度分布画像618を取得する。感度分布算出処理617において、マルチプル受信コイルの感度分布画像618は以下の式により、求まる。
【0049】
C=SMAC/STR (1)
ここで、Cはマルチプル受信コイルの感度分布画像618、SMACは合成後感度画像611、STRは参照画像を表す。なお、感度分布算出処理617には、(1)式の演算の他に、平滑化処理、背景ノイズを除くための処理、組織と背景との境界を滑らかにするスムージング処理、合成後本計測画像605と画像サイズを同じにするための拡大処理などが含まれ、演算処理部は、(1)式の処理と共にこれらの処理を行い、感度分布画像618を取得する。
【0050】
最後に、演算処理部は、感度分布画像618を用いて、合成後本計測画像605を感度補正処理619することにより、感度補正後本計測画像620を取得する。感度補正処理619において、感度補正後本計測画像620は以下の式により、求まる。
【0051】
IFINAL=IMAC/C (2)
ここで、IFINALは感度補正後本計測画像620、IMACは合成後本計測画像605、Cは感度分布画像618である。
以上までが、本実施形態の処理フローの概要である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び感度補正方法によれば、マルチプル受信コイルで取得された、信号雑音比が高いが感度むらのある合成後本計測画像に対して、ほぼ同一の組織コントラストを有して、被検体の位置ずれが低減された、合成後感度画像による感度補正が行われるので、信号雑音比の高い、感度むらのない合成画像を取得することができる。つまり、従来技術の被検体の位置ずれに基づくアーチファクトや、感度計測と本計測の撮像条件の差異による感度補正不良を除去した感度補正を行うことができる。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、本発明のMRI装置及び感度補正方法の第2の実施形態を説明する。本実施形態はパラレルイメージング方法を併用して、マルチプル受信コイルを用いた計測とボディコイルを用いた計測との内の少なくとも一方の計測において、K空間データの一部の計測を間引くことにより、計測時間を短縮する。以下、前述の第1の実施形態と異なる箇所を図9に基づいて説明し、同一の箇所については説明を省略する。
【0054】
最初に、パラレルイメージング法について簡単に説明する。パラレルイメージング法とは、マルチプル受信コイルを用いて、位相エンコード方向のデータ計測を間引くことにより撮像時間を短縮する手法である。具体的には、マルチプル受信コイルの感度分布がお互いに空間的に異なることを利用して、位相エンコード方向のデータ計測が間引かれたK空間データを用いると画像上に折り返しが発生するが、マルチプル受信コイルを構成する各要素受信コイルの感度分布情報を用いて、パラレルイメージング法に基づく演算を行い、折返しの無い一枚の画像を、マルチプル受信コイルの画像として取得する。また、マルチプル受信コイルを構成する要素受信コイルの数が多くなるほど、位相エンコードを間引く最大の割合を多くすることができる。例えば、受信コイルがNのとき、位相エンコードは最大でN分の1に間引くことができる。このように、位相エンコードを一定の割合で間引いて、位相エンコードの繰り返し回数を削減し、撮像時間の短縮を可能としている。
【0055】
パラレルイメージング法には、図7,8を用いて以下に説明するSENSE法と、SMASH法がある。SENSE法は、画像空間上で、要素受信コイル毎の折り返し画像を、該要素受信コイル毎の感度分布情報を用いて展開して合成する方法であり、SMASH法は、K空間上で、未計測データを要素受信コイルの感度分布情報を用いて補間により求める方法である。本実施形態は、いずれの方法にも同じように適用可能である。以下、SENSE法に基づいて、パラレルイメージング法及び本実施形態を説明する。
【0056】
本発明は、本計測前の感度計測を行わないので、本実施形態でパラレルイメージング法を適応する際に、本計測でマルチプル受信コイルを構成する各要素受信コイルの感度分布を取得する必要がある。そのため、位相エンコード傾斜磁場及び読み出し傾斜磁場によって規定されるボディコイル及びマルチプル受信コイルのK空間のデータを、高周波領域においては間引き、低周波領域においては密に充填する。このような高周波領域のみを間引き、折り返し画像と感度分布画像を同時に取得するという技術は特許文献2に記載されており、本実施形態はこの技術を利用する。
【0057】
図7は、上記パラレルイメージング法によって計測されたときのK空間を示す図で、データのうちの白い部分は計測する位相エンコードを示し、グレーの部分は計測しない位相エンコードを示す。位相エンコードステップは、K空間701の領域a702と領域b703とで異なる。位相エンコード方向の低周波領域を占める領域a702は、位相エンコード方向(ky)に密にエコー信号が計測され、高周波領域を占める領域b703は、位相エンコード方向に疎にエコー信号が計測される。取得されたK空間データは折り返し画像用データ704と感画像用データ705とに分割される。領域a702には、感度画像用データ705のみに使われる位相エンコードと、感度画像用データ705及び折り返し画像用データ704に併用される位相エンコードとが交互に繰り返されている。
【0058】
図8は、上記パラレルイメージング法によって得られた折り返し画像用データ704から再構成された折り返し画像803と、感度画像用データ705から再構成された感度画像804とを示す。図8に示す、折り返し画像803は位相エンコードを間引いた分だけ、マトリックスが減少して位相エンコード方向のFOVが縮小し、折り返しの発生した画像となる。この様な折り返し画像が要素受信コイル毎に取得される。一方、感度画像804は位相エンコード数が少ない分だけ分解能が低下したぼけた画像となるが、位相エンコード方向のFOVは縮小せずに同じサイズとなっている。要素受信コイル毎の折り返し画像803は、要素受信コイル毎の感度画像804を用いて得られる該要素受信コイル毎の感度分布画像を用いて、折り返し除去と画像合成が施される。
【0059】
以上のように、本計測データから折り返し画像用データ704と感度画像用データ705とを取得することにより、撮像時間を短縮でき、リアルタイム性に優れたパラレルイメージング法を実現できる。
【0060】
次に、本実施形態の感度補正処理の処理フローを図9に基づいて説明する。図9は、上記のパラレルイメージング法を応用した、本実施形態の感度補正処理の処理フローを示す図である。本処理フローはプログラムとして予め磁気ディスク等の記憶部に記憶されており、CPUが必要に応じてメモリに読み込んで実行することにより実施される。以下、各ステップを詳細に説明する。
【0061】
まず、計測制御部111は、本計測において、マルチプル受信コイルを用いた本計測データ(K空間データ)9011〜9013と、ボディコイルを用いた本計測データ(K空間データ)910の計測を制御する。ここで、マルチプル受信コイルを用いた本計測データ9011〜9013及びボディコイルを用いた本計測データ910は、図7に示すように、K空間の位相エンコード方向の高周波領域においては位相エンコードデータを間引いて疎に、低周波領域においては位相エンコードデータを密に取得する。
【0062】
次に、演算処理部は、本計測データ9011〜9013から折り返し画像用データ抽出処理902を行うことにより、折り返し画像用データ9031〜9033を取得する。さらに、これらをフーリエ変換904することにより、折り返し画像9051〜9053を取得する。
【0063】
一方、演算処理部は、取得された本計測データ(K空間データ)の内の低周波領域のデータを用いて、要素受信コイル毎の感度分布画像9161〜9163と感度分布画像923を取得するために、以下の処理を行う。これにより、低周波領域データを用いることにより、組織間コントラストを抑えた、平滑化された感度分布画像を取得することができる。
【0064】
まず、演算処理部は、本計測データ9011〜9013から、それぞれ低周波領域データを抽出する処理906を行い、感度データ9071〜9073を取得する。次に、感度データ9071〜9073をフーリエ変換908することにより、感度画像9091〜9093を取得する。次に、この感度画像9091〜9093を画像合成処理920することにより、合成後感度画像921を取得する。
【0065】
また、演算処理部は、ボディコイルの本計測データ910から、低周波領域データを抽出する処理911を行い、参照画像用データ912を取得する。次に、参照画像用データ912をフーリエ変換913することにより、参照画像914を取得する。
【0066】
次に、演算処理部は、感度画像9091〜9093と参照画像914を用いて、感度分布算出処理915を行うことにより、要素受信コイル毎の感度分布画像9161〜9163を取得する。感度分布算出処理915において、要素受信コイル毎の感度分布画像9161〜9163は、以下の式により、求まる。
【0067】
CCH=SCH/STR (3)
ここで、CCHは要素受信コイル毎の感度分布画像9161〜9163、SCHは要素受信コイル毎の感度画像9091〜9093、STRは参照画像914を表す。なお、感度分布算出処理915には、(1)式の演算の他に、平滑化処理、背景ノイズを除くための処理、組織と背景との境界を滑らかにするスムージング処理、本計測画像919と画像サイズを同じにするための拡大処理などが含まれ、演算処理部は、(1)式の処理と共にこれらの処理を行い、感度分布画像9161〜9163を取得する。
【0068】
次に、演算処理部は、要素受信コイル毎の感度分布画像9161〜9163と折り返し画像9051〜9053とを用いて、パラレルイメージング法の折り返し除去および画像合成を実現する行列作成処理917及び逆行列計算処理918を行うことにより、合成後本計測画像919を取得する。
【0069】
次に、演算処理部は、合成後感度画像921と参照画像914を用いて、感度分布算出処理922することにより、感度分布画像923を取得する。ここでの処理は感度分布算出617処理と同様であり、感度分布画像923の算出には式(1)を用いる。
【0070】
最後に、パラレルイメージング法で得られた合成後本計測画像919を、感度分布画像923によって、感度補正処理924を行うことにより、感度補正後本計測画像925を取得する。感度補正924においては、式(2)で示された計算式を用いて感度補正後本計測画像925を取得する。
以上までが、本実施形態の処理フローの概要である。
【0071】
なお、本実施形態の説明では、ボディコイルの本計測データの計測についても、K空間の位相エンコード方向の高周波領域においては間引き、低周波領域においては密に充填する場合を説明したが、マルチプル受信コイルの各要素受信コイルの感度画像と、ボディコイルの参照画像とが同じコントラストになる撮像条件であれば、ボディコイルの本計測データの計測に際し、高周波領域のデータ計測を省き低周波領域のデータ計測のみを行っても良い。
【0072】
以上説明した様に、本実施形態のMRI装置及び感度補正方法によれば、パラレルイメージング法を併用することにより、感度画像を計測するための時間の増加を極力抑えて、信号雑音比が高く、感度むらのない合成画像を取得することができる。
【0073】
(第3の実施形態)
次に、本発明のMRI装置及び感度補正方法の第3の実施形態を説明する。本実施形態は、ボディコイルで計測するデータ量をマルチプル受信コイルで計測するデータ量より少なくする。これにより、計測時間の延長を抑える。以下、前述の各実施形態と異なる箇所のみを図6,9に基づいて説明し、同一の箇所の説明を省略する。
【0074】
ボディコイルで計測するデータ量をマルチプル受信コイルで計測するデータ量より少なくするための方法は複数あり、いずれを採用しても良い。
第1の例として、ボディコイルでの本計測の積算回数を、マルチプル受信コイルでの本計測の積算回数より少なくする。例えば、積算回数が2以上に設定されている場合、マルチプル受信コイルでの本計測では積算回数分のデータ収集が必要であるが、ボディコイルでの本計測では積算回数1回分のデータ収集のみを行うなどの工夫により、計測時間の延長を抑えることができる。
【0075】
また、第2の例として、ボディコイルでの本計測で取得する、図6の本計測データ612或いは図9の本計測データ910として、それぞれ感度分布画像618或いは感度分布画像923を取得するために十分な低周波領域のみを収集することである。一方、マルチプル受信コイルでの本計測で取得する、図6の本計測データ6011〜6013或いは図9の本計測データ9011〜9013は、低周波領域のみならず高周波領域のデータを含む。そして、演算処理部は、ボディコイルの参照画像のマトリックスサイズと、要素コイルの感度画像のマトリックスサイズとが同じになるようにそれぞれの画像を取得する。マトリックスサイズが異なる場合には、演算処理部は、いずれか一方の画像のマトリックスサイズを、他方の画像のマトリックスサイズに合わせるように、拡大又は縮小した後に感度分布画像618又は923を求めることになる

【0076】
この第2の方法は、1回の繰り返し時間TRにおいて1つのエコー信号を取得する、図4に示したグラジエントエコー法のようなパルスシーケンスに有効である。なぜなら、1回の繰り返し時間TRにおいて、K空間の位相エンコード1つ分のエコー信号のみの計測となるため、マルチプル受信コイルを用いた本計測データ6011〜6013とボディコイルを用いた本計測データ612とが全く同じ組織コントラストを含有するように制御することが容易であるからである。言い換えると、各受信コイルのK空間の各位相エンコード位置において、同じ繰り返し時間TRと同じエコー時間TEを使用して、エコー信号を計測することが容易であるということである。
【0077】
一方、1回の繰り返し時間TRにおいて、複数のエコー信号を取得する図5に示したファストスピンエコー法のようなパルスシーケンスでは、マルチプル受信コイルを用いた本計測データ6011〜6013とボディコイルを用いた本計測データ612が全く同じ組織コントラストを含有するようにするためには、次のような制御が必要である。まず、マルチプル受信コイルを用いた本計測データ6011〜6013の場合、1回の繰り返し時間TRにおいて取得するK空間データは、すべて低周波領域に属するデータか、もしくは、すべて高周波領域に属するデータとする。ボディコイルを用いた本計測データ612の場合、1回の繰り返し時間TRにおいて取得するK空間データは、すべて低周波領域に属するデータとする。
【0078】
しかし、このような計測制御の結果、各コイルのK空間データにおいて、多くの隣接するデータ同士が異なるTEで取得されることになる。横磁化はT2減衰とよばれる緩和現象を有するため、異なるTEで取得すると信号値に大きな差が生じる。この信号値の差は、K空間において、段差となって現れる。この段差は、本計測データをフーリエ変換することによって取得した画像に、アーチファクトとして現れる。このため、T2減衰に起因するアーチファクトを除去するためには、さらなる高度な補正技術が必要となる。例えば、マルチプル受信コイルを用いた本計測データの信号強度を揃えて段差が生じないように、位相エンコード方向に、位相エンコードに応じた適当な重み係数を該本計測データに掛ける、等を行うことができる。
【0079】
また、第3の例は、前述の第2の実施形態で説明したパラレルイメージング法を用いる際に、前述の第1の方法又は第2の方法を併用することである。特に、第2の方法を併用する場合は、ボディコイルを用いた本計測データの計測を、K空間の低周波領域のみとすることになり、ボディコイルで計測するデータ量をマルチプル受信コイルで計測するデータ量より少なくすることができる。パラレルイメージング法を用いることの詳細は第2の実施形態の説明で詳述したので、ここでは省略する。
【0080】
以上の各例のいずれかを用いることにより、ボディコイルでの本計測で取得するデータ量をマルチプル受信コイルでの本計測で取得するデータ量より少なくすることができる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び感度補正法によれば、ボディコイルでの本計測で計測するデータ量をマルチプル受信コイルでの本計測で計測するデータ量より少なくすることにより、計測時間の延長を極力抑えて、信号雑音比が高く、感度むらのない画像を取得することができる。
【0082】
以上までが、本発明のMRI装置及び感度補正方法の各実施形態の説明である。しかし、本発明のMRI装置及び感度補正方法は、上記実施形態の説明で開示された内容にとどまらず、本発明の趣旨を踏まえた上で他の形態を取り得る。
【0083】
例えば、前述の各実施形態の説明においては、感度の均一な受信コイルとして、MRI装置本体に内蔵されているボディコイルを使用する例を示したが、本発明の本質は、ボディコイルを使用することに限られず、感度の均一な受信コイルが他に存在すれば、それを用いることによっても、本発明で述べられた効果と同様な効果を得ることができる。例えば、MRI装置本体に内蔵されたボディコイルが存在しない場合、マルチプル受信コイルにおいて、撮像視野を比較的感度むらがなく撮像できるコイルモードやコイルチャンネルを感度の均一なコイルとして使用し、上記に述べられた感度補正を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0084】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信コイル、105 受信コイル、106 信号検出部、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、203 マルチプルRFコイル、2011〜2014 マルチプルRFコイルを構成するRF受信コイル、204 ボディコイルを構成するRF送受信コイル、208 高周波増幅器、209 ボディコイル、211 信号検出部、401 RFパルス、402 スライスエンコード傾斜磁場パルス、403 位相エンコード傾斜磁場パルス、404 読み出し傾斜磁場パルス、405 エコー信号、501 90°RFパルス、5021〜5023 180°RFパルス、5031〜5034 スライスエンコード傾斜磁場パルス、5041〜5043 位相エンコード傾斜磁場パルス、5051〜5053 読み出し傾斜磁場パルス、5061〜5066 エコー信号、701 K空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の要素受信コイルを組み合わせてなる第1の受信コイルと、前記第1の受信コイルよりも、感度範囲が広い第2のコイルと、を有して、被検体からの核磁気共鳴信号を受信する受信部と、
所定のパルスシーケンスに基づいて、前記受信部を用いて、前記被検体からの核磁気共鳴信号の計測を制御する計測制御部と、
前記核磁気共鳴信号を用いて、前記被検体の画像を取得する演算処理部と、
を備え、
前記計測制御部は、前記要素受信コイル毎の感度画像と前記第2の受信コイルの感度画像の取得を制御し、
前記演算処理部は、前記要素受信コイル毎の感度画像と前記第2の受信コイルの感度画像とを用いて、前記第1の受信コイルの感度分布を求め、該感度分布を用いて、前記第1の受信コイルの画像を感度補正する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像の取得を略同一の撮像条件で行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記第1の受信コイルの画像を撮像している間に、前記第2の受信コイルの感度画像の撮像を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記パルスシーケンスの繰り返し時間(TR)毎に、前記第1の受信コイルを用いた核磁気共鳴信号の計測と、前記第2の受信コイルを用いた核磁気共鳴信号の計測と、を切り替えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、励起スライスが変わる毎、位相エンコード傾斜磁場の磁場強度が変わる毎、信号雑音比を向上するための積算を積算回数分繰り返す毎、の少なくとも1つのタイミングで、前記第1の受信コイルを用いた核磁気共鳴信号の計測と、前記第2の受信コイルを用いた核磁気共鳴信号の計測と、を切り替えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、少なくとも、RFパルスの励起角と、前記パルスシーケンスの繰り返し時間(TR)と、エコー時間(TE)と、を同一にして、前記要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像の撮像を制御することを特徴する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記第1の受信コイルを用いて計測した画像用の核磁気共鳴信号の少なくとも一部を用いて、該第1の受信コイルの感度分布を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記第1の受信コイルを用いた計測を、K空間データの一部の計測を間引くように制御し、
前記演算処理手段は、パラレルイメージング法に基づく演算を前記一部間引かれたK空間データに施して、前記第1の受信コイルの画像を取得することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記第2の受信コイルを用いた計測の際の積算回数を、前記第1の受信コイルを用いた計測の際の積算回数よりも少なくなるように制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記第2の受信コイルを用いて計測するK空間データを該K空間の低周波領域のみとすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
複数の要素受信コイルを組み合わせてなる第1の受信コイルと、前記第1の受信コイルよりも、感度範囲が広い第2のコイルと、を有する磁気共鳴イメージング装置が作動して、前記第1の受信コイルの画像を感度補正する感度補正方法であって、
前記要素受信コイル毎の感度画像と第2の受信コイルの感度画像とを略同一の撮像条件で取得する感度画像取得ステップと、
前記要素受信コイル毎の感度画像と前記第2の受信コイルの感度画像とを用いて、前記第1の受信コイルの感度分布を求める感度分布取得ステップと、
前記感度分布を用いて、前記第1の受信コイルの画像を感度補正する感度補正ステップと、
を有することを特徴とする感度補正方法。
【請求項11】
請求項10記載の感度補正方法において、
前記感度画像取得ステップでは、前記要素受信コイル毎の感度画像を撮像している間に、前記第2の受信コイルの感度画像の撮像を行うことを特徴とする感度補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−233907(P2010−233907A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86874(P2009−86874)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】