説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】抑制すべき信号をより良好に抑制しつつ、収集すべき信号をより大きな信号強度で収集する周波数選択的抑制を行うことが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、脂肪を抑制する第1の抑制パルスを周波数選択的に印加した後、前記第1の抑制パルスとは異なる第2の抑制パルスを前記脂肪に対して周波数選択的に印加してイメージングを行うための撮影条件を設定する撮影条件設定手段と、前記撮影条件に従って画像データを収集する画像データ収集手段と、を有し、前記撮影条件設定手段は、前記第1の抑制パルスと前記第2の抑制パルスのフリップ角を異ならせて、前記第1の抑制パルスの印加によって残った物質の信号を前記第2の抑制パルスの印加によって抑制する撮影条件を設定する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する核磁気共鳴(NMR:nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置に係り、特に、脂肪やシリコーン等の物質からの目的とする信号を抑制する抑制法による撮像が可能な磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するNMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において、脂肪からの信号(脂肪信号)を抑制して信号を収集する脂肪抑制法がある。従来から一般的に広く用いられる脂肪抑制法には、化学シフト選択(CHESS: chemical shift selective)法、SPIR (spectral presaturation with inversion recovery)法(SPECIRとも言う)、短時間反転回復(STIR: short TI inversion recovery)法がある。
【0004】
脂肪抑制法のうち、CHESS法は、水プロトンと脂肪プロトンの共鳴周波数が3.5ppm異なることを利用して脂肪信号のみを周波数選択的に抑制する手法であることから、選択的脂肪抑制法と呼ばれる(例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。
【0005】
図1は、従来のCHESS法による脂肪信号の抑制方法を説明する図である。
【0006】
図1において横軸は周波数を示し、縦軸はNMR信号の信号強度を示す。周波数選択の脂肪抑制法では、撮影に先立ってシミングにより静磁場が均一化される。図1に示すように水プロトンと脂肪プロトンの共鳴周波数は3.5ppm異なるため、シミングによって静磁場の均一性が十分に得られると、脂肪信号の周波数のピークはシャープとなる。そこで、データ収集に先立って脂肪の共鳴周波数に一致するフリップ角(FA: flip angle)が90°の脂肪抑制(Fat saturation)RFパルス、すなわちCHESSパルスを印加して脂肪プロトンの縦磁化のみを周波数選択的に90°倒し、続いてspoiler pulseを用いて脂肪プロトンの磁化を消失させると、概ね脂肪信号を抑制することができる。このようにCHESS法は、静磁場の均一性が高い部位における脂肪抑制に有効である。
【0007】
また、SPIR法も水プロトンと脂肪プロトンの共鳴周波数の差を利用する選択的脂肪抑制法である(例えば特許文献4参照)。
【0008】
図2は、従来のSPIR法による脂肪信号の抑制方法を説明する図であり、図3は、図2に示すSPIRパルスの印加後に励起用のパルスを印加するTIを示す図である。
【0009】
図2において横軸は周波数を示し、縦軸はNMR信号の信号強度を示す。また、図3において横軸はSPIRパルスの印加後における経過時間(time)を示し、縦軸はプロトンスピンの縦磁化zを示す。
【0010】
SPIR法では、脂肪信号の共鳴周波数に合わせた周波数選択的反転RFパルスであるSPIRパルスが印加される。SPIRパルスのFAは90°から180°に設定される。SPIRパルスが印加されると、静磁場によって磁化された脂肪におけるプロトンスピンがFAに応じた角度だけ傾き、周波数選択的に脂肪におけるプロトンスピンの縦磁化zが負の値をとる。そして、縦緩和(T1緩和)により、プロトンスピンの縦磁化zは時間とともに増加し、正の値をとるようになる。そこで、SPIRパルスの印加後、脂肪における縦磁化zがT1緩和によりnull pointに到達したタイミングを反転時間(TI: inversion time)として水信号の励起用のRFパルスが印加される。これにより水信号のみを選択励起することができる。
【0011】
SPIR法においてSPIRパルスのFAを例えば180°とする場合のように、脂肪におけるプロトンスピンを傾ける角度、すなわち抑制効果を大きめに設定すれば、共鳴周波数帯域の裾野が広がった脂肪領域であっても、脂肪信号を抑制することが容易である。このように、SPIRパルスは、90°パルスよりFAが大きいため、通常のCHESSパルスより脂肪信号を抑制できる周波数帯域が広い。また、SPIR法では、SPIRパルスの印加後、励起用のRFパルスの印加タイミングまでTIだけ待ち時間があるため、SPIRパルスの波形をより矩形に近づけることができる。
【0012】
SPIR法では、脂肪信号の強度(プロトンの縦磁化z)がnull pointとなるまでのTIだけ待ってデータ収集する必要があるが、SPIRパルスのFAを小さくしてTIを短くすることもできる。通常、1.5TのMRI装置では、TIは150msから180ms程度であり、3TのMRI装置では、TIは200msから250ms程度である。
【0013】
一方、STIR法は、脂肪信号と水信号との間におけるT1緩和時間の差を利用する脂肪抑制法であり、非選択的脂肪抑制法である。このため、STIR法では、シミングが不要である。STIR法では、脂肪領域および水領域を含む領域がFA=180°のSTIRパルスによって励起される。図2に示すように、点線で示す水のT1緩和時間は、脂肪のT1緩和時間よりも長い。そこで、脂肪プロトンの縦磁化zがnull pointとなったタイミングをTIに設定して励起用のRFパルスが印加される。そうすると、TI経過後に水プロトンの縦磁化zは未だnull pointとなっておらず、水プロトンのみを選択的に励起させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7−327960号公報
【特許文献2】特開平9−182729号公報
【特許文献3】特開平11−299753号公報
【特許文献4】特開2006−149583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながらCHESSパルスはFAが90°のRFパルスであるため、水領域および脂肪領域における静磁場の均一性が良くない場合には、十分に脂肪信号を抑制することができない。
【0016】
図4は、従来のCHESS法によって脂肪抑制を行う場合に十分に脂肪信号が抑制されない場合の例を示す図である。
【0017】
図4において横軸は周波数を示し、縦軸はNMR信号の信号強度を示す。図4に示すようにシミングしても静磁場の均一性が良好とならない場合、脂肪における共鳴周波数のピークの裾野が広がる。特に、乳房や顎のようにSusceptibility(磁化率)が大きい部位では、脂肪信号が、周波数方向に広がる傾向がある。このため、FAが90°のCHESSパルスを印加しても矢印で示すように脂肪信号の成分が残る。このように、CHESS法では、静磁場が不均一な場合に広い周波数帯域に広がる脂肪信号を十分に抑制することが困難であるという欠点を有する。
【0018】
図5は、静磁場が不均一な場合に従来のCHESS法により撮影された被検体の断層像である。
【0019】
図5に示すように、静磁場が不均一な場合には、脂肪信号が十分に抑制されず脂肪領域が被検体の断層像に描出されているのが分かる。
【0020】
また、従来のSPIR法では、TIや脂肪抑制パルスのFAの調整が不適切である結果、脂肪プロトンの縦磁化がnull pointとならない場合には、抑制されない脂肪信号が残ることとなる。尚、脂肪信号がnullとなるか否かは、脂肪のT1値によっても変化する。従って、脂肪のT1値およびTIが固定であると仮定した場合、脂肪抑制パルスのFAを調整することにより理論的には脂肪信号をnullにすることが可能である。しかしながら、実際には、磁場の不均一性、脂肪抑制パルスのRFパワー(FA)の不均一性、生体内における微妙な脂肪のT1値の違い等の要因により脂肪信号が残ってしまうことが多い。
【0021】
図6は、従来のSPIR法において、TIや脂肪抑制パルスのFAの調整が不適切であるために脂肪信号が残る場合の例を示す図である。
【0022】
図6において横軸は周波数を示し、縦軸はNMR信号の信号強度を示す。SPIR法においてTI、脂肪抑制パルスのパワーの調整が不完全である場合や、調整したとしても磁場の不均一性、脂肪抑制パルスのRFパワー(FA)の不均一性の影響、生体内での微妙なT1値の違い等の要因により、図6に示すように脂肪信号が残留することになる。また、SPIR法では、CHESS法と同様に静磁場の均一性が高い部位でしか、十分な脂肪抑制効果が得られないという欠点がある。
【0023】
図7は、脂肪抑制パルスのFAの調整が不十分である場合に従来のSPIR法により撮影された被検体の断層像である。
【0024】
図7は、TIを最短に設定し、脂肪信号がnullとなるように脂肪抑制パルスのFAを調整して得られた画像である。図7に示すように、従来のSPIR法による脂肪抑制効果はCHESS法による脂肪抑制効果よりも良好ではある。しかしながら、脂肪抑制パルスのFAを調整したとしても上述した要因により、脂肪信号が十分に抑制されず脂肪領域が被検体の断層像に描出されているのが分かる。
【0025】
また、STIR法は、周波数選択的に脂肪信号を抑制する脂肪抑制法ではないため、シミングが不要であるものの、TI経過後に水信号が収集されるため、収集すべき水信号の強度が低下する。このため、STIR法では、SNR (noise to signal ratio)が低下し、撮像時間の延長に繋がるという問題がある。
【0026】
このように従来の周波数選択的脂肪抑制法では、顎部分や乳房等の部位を撮像する場合のように、撮影部位の形状の影響によって静磁場の均一性が良好に得られない場合には、脂肪信号を十分に抑制することが困難であるという問題がある。一方、従来の非周波数選択的脂肪抑制法では、収集すべき水信号の強度が低下し、撮像時間が長くなるという問題がある。
【0027】
さらに、従来の周波数選択的脂肪抑制法では、被検体の実質部を抑制する場合に励起パルスの周波数が水の共鳴周波数に合わせられた状態で複数の励起パルスが繰り返し印加される。しかしながら、高速撮像の場合には励起パルスの印加間隔が長くなり、縦磁化の影響により撮影対象物からの信号回復が発生する。この結果、励起パルスの周波数方向に対する抑制効果が一定とならず、設定される励起パルスの周波数によっては信号の抑制効果が十分に得られないという問題がある。
【0028】
すなわち、脂肪信号の抑制効果は、励起パルスの周波数変化に対する信号強度を示すスライスプロファイルによって評価することができるが、励起パルスの印加間隔に応じてプロファイルが変化することになる。例えばFFE (fast field echo)系のシーケンスを用いてセグメントk-space法 (segment k-space method)によりデータ収集を行なう場合において、セグメント数を増やせば励起パルスの印加間隔が短くなるため脂肪信号の抑制効果を表すプロファイルは改善されるがセグメント数を減らすと励起パルスの印加間隔が長くなるため良好なプロファイルが得られない。
【0029】
尚、セグメントk-space法は、k空間上におけるデータをいくつかの領域に分割(セグメント化)し、セグメントごとに順次データを取り込んでいくデータ収集法である。従って、セグメント数は、k空間上における位相エンコード(PE: phase encode)の分割数に相当する。
【0030】
図8は、従来の脂肪抑制法の効果のシミュレーション結果を表すプロファイルを示す図である。
【0031】
図8において横軸は脂肪の共鳴周波数からの励起パルスの周波数のシフト量(ppm)を示し、縦軸は最大値を1としたエコー信号の相対的な信号強度を示す。
【0032】
図8に示すようにセグメント数を2とした場合におけるプロファイルは、セグメント数を64とした場合におけるプロファイルよりも周波数方向における脂肪抑制効果の安定性が劣化していることが確認できる。これは、セグメント数が2の場合には、セグメント数が64の場合に比べて励起パルスの印加間隔が長いためである。
【0033】
このため、脂肪抑制効果を示すスライスプロファイルを改善するために、励起パルスの波形を調整することが必要となる。例えば、励起パルスがsinc波形である場合には、励起パルスの波長を伸縮したり、サイドローブの形状を変更するといった波形制御が必要である。
【0034】
また、脂肪からの信号のみならず、水やシリコーン等の任意の物質からの信号を抑制することも可能であるが、脂肪以外の物質からの信号を抑制する場合においても上述したような問題がある。
【0035】
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、抑制すべき信号をより良好に抑制しつつ、収集すべき信号をより大きな信号強度で収集する周波数選択的抑制を行うことが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、脂肪を抑制する第1の抑制パルスを周波数選択的に印加した後、前記第1の抑制パルスとは異なる第2の抑制パルスを前記脂肪に対して周波数選択的に印加してイメージングを行うための撮影条件を設定する撮影条件設定手段と、前記撮影条件に従って画像データを収集する画像データ収集手段と、を有し、前記撮影条件設定手段は、前記第1の抑制パルスと前記第2の抑制パルスのフリップ角を異ならせて、前記第1の抑制パルスの印加によって残った物質の信号を前記第2の抑制パルスの印加によって抑制する撮影条件を設定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置においては、抑制すべき信号をより良好に抑制しつつ、収集すべき信号をより大きな信号強度で収集する周波数選択的抑制を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】従来のCHESS法による脂肪信号の抑制方法を説明する図。
【図2】従来のSPIR法による脂肪信号の抑制方法を説明する図。
【図3】図2に示すSPIRパルスの印加後に励起用のパルスを印加するTIを示す図。
【図4】従来のCHESS法によって脂肪抑制を行う場合に十分に脂肪信号が抑制されない場合の例を示す図。
【図5】静磁場が不均一な場合に従来のCHESS法により撮影された被検体の断層像。
【図6】従来のSPIR法において、TIや脂肪抑制パルスのFAの調整が不適切であるために脂肪信号が残る場合の例を示す図。
【図7】脂肪抑制パルスのFAの調整が不十分である場合に従来のSPIR法により撮影された被検体の断層像。
【図8】従来の脂肪抑制法の効果のシミュレーション結果を表すプロファイルを示す図。
【図9】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図10】図8に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図11】図10に示す撮影条件設定部において設定可能なSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスを示す図。
【図12】図11に示すSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加による脂肪抑制効果を説明する図。
【図13】図10に示す撮影条件設定部において設定可能な複数の脂肪抑制パルスの印加を伴うパルスシーケンスの具体例を示す図。
【図14】図10に示す撮影条件設定部において設定される1番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスのFAの設定方法を説明する図。
【図15】図10に示す撮影条件設定部において設定される1番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスのFAの別の設定方法を説明する図。
【図16】図10に示す撮影条件設定部において3つの脂肪抑制パルスの印加を伴うシーケンスを設定した例を示す図。
【図17】図10に示す撮影条件設定部において設定可能なSPIRパルスおよび互いに周波数が異なる2つのCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスを示す図。
【図18】図17に示すSPIRパルスおよび2つのCHESSパルスの印加による脂肪抑制効果を説明する図。
【図19】図10に示す撮影条件設定部において設定可能な周波数prepスキャン用のパルスシーケンスの概念図。
【図20】図10に示す撮影条件設定部において設定可能な脂肪抑制パルスの印加を伴って収集されるk空間上におけるデータ領域を示す図。
【図21】図10に示す表示装置に表示される撮影条件設定画面の一例を示す図。
【図22】図9に示す磁気共鳴イメージング装置により被検体の断層画像を撮像する際の手順を示すフローチャート。
【図23】図9に示す磁気共鳴イメージング装置により、脂肪信号の共鳴周波数に周波数を合わせたSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加による脂肪抑制を伴って得られた被検体の断層画像。
【図24】図9に示す磁気共鳴イメージング装置により複数の脂肪抑制パルスを印加することによって改善された信号強度のスライスプロファイルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0040】
図9は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0041】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21と、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0042】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0043】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0044】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0045】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24はガントリに内蔵されず、寝台37や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0046】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0047】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0048】
RFコイル24は、送信器29および受信器30と接続される。RFコイル24は、送信器29から高周波信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンの高周波信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0049】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gzおよび高周波信号を発生させる機能を有する。
【0050】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0051】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいて高周波信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0052】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、特定の回路を設けてコンピュータ32を構成してもよい。
【0053】
図10は、図9に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0054】
コンピュータ32は、プログラムにより撮影条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44、画像処理部45および撮影パラメータ保存部46として機能する。
【0055】
撮影条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンス等の撮影条件を設定し、設定した撮影条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。そのために、撮影条件設定部40は、撮影条件の設定用画面情報を表示装置34に表示させるインターフェースとしての機能を備えている。このインターフェース機能を撮影条件設定部40に設けるために、GUI (Graphical User Interface)技術を利用することができる。
【0056】
特に撮影条件設定部40は、撮影条件として複数の異なる種類の周波数得選択的脂肪抑制パルスまたは複数の同種であるが中心周波数や周波数帯域幅(τ長)等の条件の異なる周波数得選択的脂肪抑制パルスの印加を伴うパルスシーケンスを設定することができるように構成される。脂肪抑制パルスのタイプの組み合わせや数および脂肪抑制パルスの中心周波数や周波数帯域幅(τ長)等の条件は、脂肪信号の抑制効果が向上するように決定される。
【0057】
図11は、図10に示す撮影条件設定部40において設定可能なSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスを示す図である。
【0058】
図11において横軸は時間を示す。図11に示すように、異種の脂肪抑制パルスとして例えばSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスを撮影条件設定部40において設定することができる。SPIRパルスおよびCHESSパルスの印加後には、データ収集用のパルスシーケンスであるイメージングシーケンスが設定される。データ収集用のパルスシーケンスは、2次元(2D)シーケンスまたは3次元(3D)シーケンスのいずれであってもよく、FE (field echo) シーケンス、SE (spin echo) シーケンス、FSE (Fast SE) シーケンス、half-Fourier FSEシーケンス、EPI (echo planar imaging) シーケンス、FFE (Fast FE) シーケンス等の任意のタイプのパルスシーケンスとすることができる。尚、ハーフフーリエ法を利用するhalf-Fourier FSEシーケンスは、FASE (fast advanced SEまたはfast asymmetric SE)シーケンスとも呼ばれる。
【0059】
SPIRパルスおよびCHESSパルスの印加順序は任意である。但し、SPIRパルスは、イメージングシーケンスの開始よりもTIだけ早いタイミングで印加される。従って、SPIRパルスの印加後のTIの期間中にCHESSパルスを印加するようにすれば、撮影時間を短縮することができる。
【0060】
図12は、図11に示すSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加による脂肪抑制効果を説明する図である。
【0061】
図12において横軸は周波数を示し、縦軸は収集されるNMR信号の信号強度を示す。図12に示すように、脂肪と水の共鳴周波数は3.5ppmだけ異なる。そして、FAが90°から180°の脂肪抑制パルスであるSPIRパルスを脂肪の共鳴周波数に一致させて印加するとCHESSパルスの場合よりも広い周波数帯域の脂肪信号を抑制することができる。SPIRパルスのFAおよびTIは、例えばイメージングシーケンスの開始タイミング、すなわち水信号の励起用のRFパルスの印加タイミングにおいてT1緩和により脂肪の縦磁化がnull pointとなるように調整される。
【0062】
しかしながら、SPIRパルスの印加のみでは、SPIRパルスのFAおよびTIの調整が不十分である場合に水信号の励起用のRFパルスの印加時に脂肪の縦磁化がnull pointとならない。この結果、脂肪信号が残留することとなる。そこで、SPIRパルスの印加によって残った脂肪信号がCHESSパルスの印加によって抑制される。この場合、CHESSパルスの周波数はSPIRパルスの周波数と同様に脂肪の共鳴周波数に設定される。
【0063】
ただし、SPIRパルスの周波数が脂肪信号の共鳴周波数と合っていない場合には、残留する脂肪信号の中心周波数がSPIRパルスの中心周波数と異なったり、或いはSPIRパルスにより抑制可能な周波数帯域外に脂肪信号が残留することとなる。このような場合には、SPIRパルスの周波数とCHESSパルスの周波数を変えてもよい。さらに、残留する脂肪信号のスペクトル形状によっては、脂肪信号がより良好に抑制されるようにSPIRパルスとCHESSパルスの周波数のみならず、周波数帯域幅(τ長)も変えることができる。
【0064】
つまり、TIの調整が十分でない場合には、SPIRパルスとCHESSパルスの周波数を一致させることが脂肪抑制上有効である。逆にTIの調整が良好である場合には、SPIRパルスとCHESSパルスの周波数を異なる値に設定すると脂肪抑制効果を向上できる可能性がある。
【0065】
このようにSPIRパルスの印加とCHESSパルスの印加を組合わせれば、FAが大きいSPIRパルスにより広範囲の周波数帯域に亘る脂肪信号のみを励起しておおまかに抑制し、抑制しきれなかった脂肪信号をFA=90°のCHESSパルスで抑制することができる。これにより、脂肪信号を十分に抑制することが可能となる。
【0066】
また、SPIRパルスおよびCHESSパルスのように複数の脂肪抑制パルスを印加する他のメリットとしては、複数回に亘る脂肪抑制パルスの印加により、脂肪における磁化の変化が脂肪抑制パルスの印加回数に応じて減少し、脂肪からの信号が安定するという点が挙げられる。従って、TIの調整が十分であるか否かによらず、SPIRパルスとCHESSパルスの周波数を一致させれば、脂肪信号の安定化という効果を得ることができる。さらに、SPIRパルスとCHESSパルスの組み合わせに限らず、SPIRパルスのみ又はCHESSパルスのみで複数の脂肪抑制パルスを構成しても、脂肪信号の安定化という効果を得ることができる。
【0067】
図13は、図10に示す撮影条件設定部40において設定可能な複数の脂肪抑制パルスの印加を伴うパルスシーケンスの具体例を示す図である。
【0068】
図13において、横軸は時間を、RF&ECHOは、RFパルスおよびエコー信号を、Gseはスライスエンコード(SE: slice encode)用の傾斜磁場パルスを、Groは、リードアウト(RO: readout)用の傾斜磁場パルスを、Gpeは、位相エンコード(PE: phase encode)用の傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0069】
図13に示すように、FAをαとした脂肪の磁化を倒すための1番目の脂肪抑制パルス(1st fat sat pulse)から時間TI1が経過したタイミングでFAをβとした脂肪の磁化を倒すための2番目の脂肪抑制パルス(2nd fat sat pulse)が印加される。また、1番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスの印加後には、それぞれ横磁化を消去するための傾斜磁場スポイラパルスが印加される。後述するように傾斜磁場スポイラパルスは、2番目の脂肪抑制パルスの印加後にのみ印加するようにしても良い。そして、1番目および2番目の脂肪抑制パルスの印加に続いてイメージングシーケンスが設定される。
【0070】
図13は、イメージングシーケンスとしてセグメントk-space法によりデータ収集を行う3DのマルチスライスFFEシーケンスが設定されている例を示す。従って、セグメントごとのデータを収集するシーケンスが調整時間(recovery time)だけ間をおいて繰り返されるシーケンスとなる。すなわちセグメントごとのデータ収集シーケンスの間にはrecovery timeの空き時間が存在する。また、共通のセグメント内におけるデータ収集は、繰り返し時間(TR: repetition time)でイメージングパルスの印加がn回繰り返されるシーケンスの実行によって行われる。そして、イメージングパルスの印加後にエコー信号が収集される。イメージングパルスは、水の磁化を励起するための励起パルスであり、収集されるエコー信号は、水からのエコー信号となる。
【0071】
1番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスは、各セグメントのデータ収集前にそれぞれ印加することも可能であるが、図13に示すように特定のセグメントのデータ収集前にのみ印加すれば、撮像時間の短縮化に繋がる。望ましくは、k空間の中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻から時間TI2だけ前のタイミングで2番目の脂肪抑制パルスが印加されるようにパルスシーケンスが設定される。そうすることで、より良好な脂肪抑制効果が望まれるk空間の中心付近におけるデータに対して十分な脂肪抑制を行いつつ撮像時間の増加を抑えることができる。
【0072】
従って、イメージングシーケンスが3D FFEシーケンスである場合には、Interleave収集やCentric収集等の最初にk空間中心付近のデータ収集を行うシーケンスとすることが望ましい。
【0073】
Interleave収集は、PE方向にはk空間の中心付近から端に向かってデータを収集し、SE方向には端からLinierにデータを収集するデータ収集法である。また、Centric収集は、PE方向およびSE方向の双方についてk空間の中心付近から端に向かってデータを収集するデータ収集法である。尚、他のデータ収集法としては、PE方向およびSE方向の双方についてk空間の端からLinierにデータを収集するSequential収集が知られている。
【0074】
ここで、FAの決定方法について説明する。
【0075】
図14は、図10に示す撮影条件設定部40において設定される1番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスのFAの設定方法を説明する図である。
【0076】
図14(a)は、1番目の脂肪抑制パルス、2番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスに続いて印加されるk空間中心のデータ収集を行うためのイメージングパルスを示す。図14(b)は、脂肪が部分ごとに異なるT1値でT1緩和する場合におけるT1の変化を、図14(c)は、脂肪のT1値が一定であるがRFパルスが不均一であることに起因して見かけのT1値が異なる複数の値となった場合におけるT1の変化を、それぞれ示す。
【0077】
図14(a)に示すように1番目の脂肪抑制パルスを印加すると、脂肪部位であっても周りの組織の影響によりT1値が異なる場合には、図14(b)に示すように異なるT1緩和が起こる。また、図14(c)に示すように、T1値が同一であってもRFパルスが不均一であることに起因して見かけのT1値が異なる場合には、異なるT1緩和が起こる。
【0078】
そこで、1番目の脂肪抑制パルスの印加後の時間TI1だけ経過したタイミングで2番目の脂肪抑制パルスが印加されることによって、T1がnull pointとなるように1番目の脂肪抑制パルスのFAを90°以上(α≧90°)に設定すれば、異なるT1緩和を一旦キャンセルすることができる。すなわち、図14(b)に示すように、脂肪のT1値が部分ごとに異なる場合であっても、2番目の脂肪抑制パルスの印加によって縦磁化の差が減少し、脂肪抑制の不均一性の改善に繋がる。また、図14(c)に示すように、不均一なRFパルスの印加によって縦磁化に差が生じた場合であっても、2番目の脂肪抑制パルスの印加によって差のないT1回復となる。
【0079】
T1は、2番目の脂肪抑制パルスの印加によってnull pointとなるため、1番目の脂肪抑制パルスのFAは例えばα=100-130°程度と大きめの角度に設定される。換言すれば、2番目の脂肪抑制パルスの波形中心においてT1がnull pointとなるように1番目の脂肪抑制パルスの印加時刻と2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻との間における時間TI1に応じて1番目の脂肪抑制パルスのFAを決定することができる。さらに、脂肪信号の抑制の程度応じて、1番目の脂肪抑制パルスのFAを90°から180°degの範囲で調整することができる。そして、脂肪の磁化を90°から180°の角度に倒す1番目の脂肪抑制パルスを設定することができる。
【0080】
また、2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻からk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻までの時間TI2が十分短ければ、2番目の脂肪抑制パルスのFAはβ=90°と設定してもイメージングパルスの印加タイミングにおいて十分な脂肪抑制効果を得ることができる。このため、脂肪の磁化を90°倒す2番目の脂肪抑制パルスを設定することができる。Interleave収集またはCentric収集によってT1強調画像を得るFFEシーケンスでは、2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻からk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻までの時間TI2が十分短い。そして、この時間TI2が短いほど、脂肪信号の回復が少なくなって脂肪抑制効果が向上することとなる。
【0081】
一方、2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻からk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻までの時間TI2が十分に短くない場合には、イメージングパルスの印加時刻においてT1がnull pointとなるように2番目の脂肪抑制パルスのFA β°を設定すればイメージングパルスの印加タイミングにおいて良好な脂肪抑制効果を得ることができる。
【0082】
図13に示すイメージングシーケンスは、FFEシーケンスであるが、イメージングシーケンスがFEシーケンス、SEシーケンス、FSEシーケンス、FASEシーケンス等のT2(横緩和)強調画像を得るシーケンスである場合には、一般に2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻からk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻までの時間TI2が長くなるため、イメージングパルスの印加時刻においてT1がnull pointとなるように2番目の脂肪抑制パルスのFA βを設定することが望ましい。また、FFEシーケンスによりSequential収集を行う場合にも、2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻からk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻までの時間TI2が長くなるため、イメージングパルスの印加時刻においてT1がnull pointとなるように2番目の脂肪抑制パルスのFA βを設定することが望ましい。
【0083】
つまり、イメージングシーケンスの種類に応じて2番目の脂肪抑制パルスのFA βを適切な値に設定することが望ましい。
【0084】
図15は、図10に示す撮影条件設定部40において設定される1番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスのFAの別の設定方法を説明する図である。
【0085】
図15(a)は、1番目の脂肪抑制パルス、2番目の脂肪抑制パルスおよび2番目の脂肪抑制パルスに続いて印加されるk空間中心のデータ収集を行うためのイメージングパルスを示す。図14(b)は、脂肪が一定のT1値でT1緩和する場合におけるT1の変化を示す。
【0086】
イメージングシーケンスがFSEシーケンス等のT2強調画像を得るシーケンスである場合やSequential収集を行うFFEシーケンスである場合には、2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻からk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスの印加時刻までの時間TI2が長くなる。この場合に2番目の脂肪抑制パルスのFAをβ=90°に設定すると、2番目の脂肪抑制パルスの印加後に脂肪信号が回復し、イメージングパルスの印加時点において脂肪信号の回復量が無視できなくなる恐れがある。このため、図15(a)(b)に示すように、2番目の脂肪抑制パルスのFAをβ>90°に設定し、イメージングパルスの印加タイミングにおいてT1値がnull pointとなるようにすることが望ましい。
【0087】
この場合、2番目の脂肪抑制パルスのFA βは、1番目の脂肪抑制パルスのFA α、1番目の脂肪抑制パルスの印加時刻と2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻との間における時間TI1、2番目の脂肪抑制パルスの印加時刻とイメージングパルスの印加時刻との間における時間TI2の各値に応じて決定されることとなる。また、2番目の脂肪抑制パルスのFA βは、脂肪のT1値に依存しても決定される。従って、2番目の脂肪抑制パルスのFA βは、関数Fを用いてβ=F(α, TI1, TI2, T1値)として求めることができる。換言すれば、イメージングパルスの印加時刻においてT1値がnull pointとなるようにパラメータα, β, TI1, TI2を調整することができる。
【0088】
FAの具体例としては、例えば、FSEシーケンスによりデータ収集する場合に、1番目の脂肪抑制パルスとしてFAがα=150°のSPIRパルスを印加し、2番目の脂肪抑制パルスとしてFAがβ=95°のCHESSパルスを印加する例が挙げられる。
【0089】
ところで、脂肪抑制パルスは、3つ以上印加することも可能である。脂肪抑制パルスの数を2つに設定すれば、撮像時間の増加を最小限に抑えることができるのに対し、脂肪抑制パルスを3つ以上に設定すれば、脂肪信号の安定化によって脂肪抑制効果を向上させることができる。そして、上述したようなFAの決定方法は、脂肪抑制パルスが3つ以上の場合において同様に用いることができる。
【0090】
図16は、図10に示す撮影条件設定部40において3つの脂肪抑制パルスの印加を伴うシーケンスを設定した例を示す図である。
【0091】
図16において、横軸は時間を、RFは、RFパルスを、Gseはスライスエンコード用の傾斜磁場パルスを、Groは、リードアウト用の傾斜磁場パルスを、Gpeは、位相エンコード用の傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0092】
図16に示すように、1番目の脂肪抑制パルスの印加から時間TI1経過後に2番目の脂肪抑制パルスを印加し、さらに2番目の脂肪抑制パルスの印加から時間TI2経過後に3番目の脂肪抑制パルスを印加することもできる。そして、3番目の脂肪抑制パルスの印加から時間TI3経過後にk空間中心付近のデータを収集するためのイメージングパルスが印加される。また、各脂肪抑制パルスの印加後にはそれぞれ不要な横磁化成分を抑制するための傾斜磁場スポイラパルスが印加される。
【0093】
尚、1番目および2番目の脂肪抑制パルスの後に印加される傾斜磁場スポイラパルスは省略しても良い。すなわち、最後の脂肪抑制パルスの印加後にのみ傾斜磁場スポイラパルスを印加するようにすれば、横磁化の抑制効果をある程度維持しつつ撮像時間の短縮化を図ることができる。
【0094】
図16に示すように、脂肪抑制パルスを多数印加すると、脂肪抑制状態が繰り返されて脂肪の磁化の変化が次第に小さくなり、定常状態を得ることができるため、脂肪信号が安定するというメリットが得られる。
【0095】
3つ以上の脂肪抑制パルスを印加する場合には、全てまたは2番目以降の脂肪抑制パルスのFAを90°とすることができる。ただし、脂肪抑制効果に応じて、90°以上となるようにFAを適宜調整することによって、脂肪抑制効果を向上させることもできる。
【0096】
また、脂肪の磁化の安定性を向上させるためには、脂肪抑制パルスの周波数を全て脂肪の共鳴周波数に合わせることが望ましい。ただし、局所的に磁場が不均一であると、周波数スペクトル上において本来の脂肪の共鳴周波数からシフトした位置に別のピークが現れることがある。このような場合には、一部の脂肪抑制パルスの周波数を、ピークをとる周波数に合わせてオフセットさせることによって、局所的に不均一な磁場がある場合であっても良好な脂肪抑制効果を得ることができる。
【0097】
図17は、図10に示す撮影条件設定部40において設定可能なSPIRパルスおよび互いに周波数が異なる2つのCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスを示す図である。
【0098】
図17において横軸は時間を示す。図17に示すように、異種の脂肪抑制パルスとしてSPIRパルスおよびCHESSパルスを、同種であるが互いに条件が異なる脂肪抑制パルスとして周波数が異なる2つのCHESSパルスをそれぞれ印加するようにパルスシーケンスを撮影条件設定部40において設定することができる。SPIRパルスおよび2つのCHESSパルスの印加後には、データ収集用のパルスシーケンスであるイメージングシーケンスが設定される。
【0099】
SPIRパルスの周波数f1および2つのCHESSパルスのうち一方のCHESSパルス1の周波数f1はいずれも脂肪信号の共鳴周波数に設定され、他方のCHESSパルス2の周波数f2はSPIRパルスの周波数f1と異なる値に設定される。但し、SPIRパルスおよび2つのCHESSパルスの周波数を脂肪信号の周波数スペクトルの形状に応じて全て異なる周波数に設定してもよい。
【0100】
SPIRパルスおよび2つのCHESSパルスの印加順序は任意である。但し、SPIRパルスは、イメージングシーケンスの開始よりもTIだけ早いタイミングで印加される。従って、SPIRパルスの印加後のTIの期間中に2つのCHESSパルスを印加するようにすれば、撮影時間を短縮することができる。
【0101】
図18は、図17に示すSPIRパルスおよび2つのCHESSパルスの印加による脂肪抑制効果を説明する図である。
【0102】
図18において横軸は周波数を示し、縦軸は収集されるNMR信号の信号強度を示す。例えば3Tのような高磁場下においてSusceptibilityの影響を大きく受ける場合或いは顎部分や乳房部分等の形状の影響を受ける場合のように、局所的に静磁場が不均一となる場合がある。静磁場が不均一であると、図18に示すように、脂肪信号の共鳴周波数がシフトして本来の共鳴周波数と異なる周波数に別のピークが現れる場合がある。このような場合、図12に示すように脂肪信号の共鳴周波数f1に一致させたSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加によって脂肪信号の本来の共鳴周波数付近の帯域に広がる脂肪信号を抑制したとしても、依然として別の周波数帯域に脂肪信号が残る場合がある。
【0103】
そこで、脂肪信号の共鳴周波数に一致させた周波数f1でSPIRパルスおよびCHESSパルス1を印加した後に、続いて脂肪信号の共鳴周波数からシフトさせた周波数f2でCHESSパルス2が印加される。CHESSパルス2の周波数f2は、SPIRパルスおよびCHESSパルス1の印加によって残留する脂肪信号が十分に抑制されるように本来の脂肪信号の共鳴周波数からオフセットした値に設定される。これにより、脂肪信号の共鳴周波数がシフトした場合であっても、十分な脂肪抑制効果を得ることができる。
【0104】
また、別の複数の脂肪抑制パルスの印加例としては、2つのCHESSパルスを印加する場合が挙げられる。つまり、図17におけるパルスシーケンスでSPIRパルスを省略してもよい。この場合、脂肪信号が複数のピークをとるときには、2つのCHESSパルスの周波数を互いに異なる値に設定することによって、脂肪抑制効果を改善することができる。また、2つのCHESSパルスの中心周波数を同一に設定した場合であっても、2つのCHESSパルスの周波数帯域幅を変えれば、脂肪抑制効果が改善される場合がある。
【0105】
このように撮影条件設定部40では、診断画像を撮影するためのイメージングスキャン用に撮影条件を設定することができるが、イメージングスキャン用の撮影条件を決定する際に必要となるCHESSパルスの周波数を求めるために別途プリスキャンを行うことができる。プリスキャンはイメージングスキャンに先立って行われ、CHESSパルスの周波数を変更しながら複数回に亘ってデータ収集を行うものである。このような周波数を変更してデータ収集を行うプリスキャンをここでは周波数prepスキャンと称する。
【0106】
周波数prepスキャンを実施する場合には、周波数prepスキャン用の撮影条件を撮影条件設定部40において設定することができる。
【0107】
図19は、図10に示す撮影条件設定部40において設定可能な周波数prepスキャン用のパルスシーケンスの概念図である。
【0108】
図19において、横軸は時間を示す。図17に示すようにSPIRパルスおよび互いに周波数が異なる2つのCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスを用いてイメージングスキャンを行う場合には、周波数が脂肪の共鳴周波数からオフセットされる側のCHESSパルスの周波数f2を求める必要がある。そこで、周波数が脂肪の共鳴周波数からオフセットされる側のCHESSパルスの周波数f2をf21, f22, …, f2Nに変更させてN回に亘ってデータ収集を行う周波数prepスキャン用のパルスシーケンスを設定することができる。
【0109】
変更させるCHESSパルスの周波数f2の数Nや変更幅は、入力装置33から撮影条件設定部40に指示情報を与えることにより任意に設定することができる。
【0110】
周波数prepスキャン用のパルスシーケンスにおけるイメージングシーケンスはイメージングスキャンにおけるイメージングシーケンスとなるべく同一とすることが適切なCHESSパルスの周波数f2を決定する観点から望ましい。ただし、撮影時間短縮化のために周波数prepスキャン用のシーケンスを2Dシーケンスとすることが望ましい。
【0111】
また、周波数prepスキャン用のパルスシーケンスでは、SPIRパルスや周波数の決定対象とならない他のCHESSパルスの印加を省略してもよい。
【0112】
このように設定された周波数prepスキャン用のパルスシーケンスの実行により、CHESSパルスの周波数が異なる複数の画像が得られ、ユーザが最も望ましいコントラストの画像を例えば目視により選択することによって適切なCHESSパルスの周波数を決定することができる。
【0113】
一方、周波数prepスキャンによらずに、周波数スペクトルを取得するためのプレスキャンを行って、得られた周波数スペクトルに基づいて脂肪抑制パルスの周波数を決定することもできる。すなわち、脂肪抑制画像のためのイメージングスキャンに先立って周波数スペクトルを収集すれば、脂肪信号の周波数オフセットを把握することができる。そして、周波数スペクトル上における脂肪信号の周波数オフセットに合わせて脂肪抑制パルスのオフセットを決定することができる。
【0114】
このように、周波数スペクトルに基づいて得られた脂肪信号の周波数オフセットに合わせて脂肪抑制パルスの周波数を決定すれば、局所的に不均一な磁場の影響を軽減させて脂肪抑制効果を安定的に得ることができる。
【0115】
脂肪信号の周波数オフセットは、周波数スペクトルを表示装置34に表示させて入力装置33の操作によってシフトした脂肪信号のピークに対応する周波数を指定することによって手動で行うことができる。また、脂肪信号のピーク位置の検出やシフトした脂肪信号の周波数を自動的に検出することもできる。脂肪信号のピーク位置を自動検出する場合には、例えば水信号のピークに基づいて脂肪信号のピークが存在すると推定される周波数方向の範囲を指定し、指定された範囲内において閾値を超える信号値を検出すれば良い。そして、本来の脂肪信号の共鳴周波数に対応するピークと別のピークとの間の周波数差を計測すれば、脂肪信号の共鳴周波数のシフト量を自動検出することができる。
【0116】
尚、非選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスを印加することによって脂肪信号を抑制した状態で周波数スペクトルの収集スキャンを実行すれば、水信号のピークを最大値とする周波数スペクトルを取得することができる。そして、水信号のピークに基づいて周波数方向における脂肪信号のピークの検出範囲を設定することができる。
【0117】
以上のような脂肪抑制パルスのパラメータであるFA α, β、パルス間隔TI1, TI2, TI3, …、周波数および周波数帯域幅(τ長)は、表示装置34に表示される撮影条件の設定用画面を通じて入力装置33を操作することによって手動または自動で設定することができる。
【0118】
脂肪抑制パルスのパラメータを自動的に設定できるようにするために、予め試験撮影によってシーケンスの種類、データ収集法、撮像部位等の撮像条件ごとに各パラメータを求めておくこともできる。この場合、各パラメータはシーケンスの種類、データ収集法、撮影部位等の撮像条件に関連付けて取得される。そして、求めた脂肪抑制パルスに関するパラメータは撮影パラメータ保存部46に保存される。
【0119】
そして、好適なパラメータの組合せや、撮影部位ごとに関連付けた最適なパラメータを撮影パラメータ保存部46に保存しておけば、入力装置33の操作によって撮像部位の指定情報を入力したり、シーケンスの種類やデータ収集法に応じたパラメータの組合せを選択するのみで、自動的に各脂肪抑制パルスのFA、パルス間隔、周波数および周波数帯域幅(τ長)等のパラメータが撮影パラメータ保存部46から撮影条件設定部40に読み込まれて撮影条件として設定できるようにすることができる。
【0120】
例えば、ある脂肪抑制パルスのFAに依存して十分に抑制されない脂肪信号の周波数、すなわち追加すべき脂肪抑制パルスの周波数が決まる場合がある。このため、試験撮影によって予め撮影部位ごとに、ある脂肪抑制パルスのFAに応じた別の脂肪抑制パルスの適切な周波数を求めておくことができる。そして、入力装置33の操作によって撮影部位を選択すると、ある脂肪抑制パルスのFAに応じた別の脂肪抑制パルスの周波数が撮影条件として撮影条件設定部40において自動的に決定されるように構成することができる。
【0121】
同様に、ある脂肪抑制パルスのFAに応じて別の脂肪抑制パルスのFAを決定することも可能である。別の例としては、ある脂肪抑制パルスの印加からある励起パルスの印加までの時間に応じて別の脂肪抑制パルスのFAや周波数を決定することもできる。
【0122】
この他、脂肪抑制パルスの条件としては、脂肪抑制パルスの印加を伴って収集するk空間上のデータ領域が挙げられる。
【0123】
図20は、図10に示す撮影条件設定部40において設定可能な脂肪抑制パルスの印加を伴って収集されるk空間上におけるデータ領域を示す図である。
【0124】
図20において横軸はk空間上のRO方向を、縦軸はk空間上のPE方向を示す。
【0125】
図20に示すように、k空間上におけるデータは、PE方向におけるk空間中心(k0)付近の低周波領域のデータとPE方向におけるk空間中心から離れた端部分の高周波領域のデータとに分けられる。そして、より良好な脂肪抑制効果が望まれるのは、k空間中心付近のデータである。そこで、k空間中心付近のデータのみ複数の脂肪抑制パルスの印加を伴って収集する一方、k空間中心から離れた部分のデータを脂肪抑制パルスの印加を伴わずに、或いは1つの脂肪抑制パルスの印加を伴って収集するように撮影条件を設定すれば、撮像時間の短縮化に繋がる。
【0126】
特に、SEシーケンスやFEシーケンスを用いてSequential収集を行う場合において、エンコードごとに複数の脂肪抑制パルスを印加すると、撮像時間の増加が顕著になる場合がある。そこで、例えば、k空間中心付近のデータについては、SPIRパルスとCHESSパルスの双方の印加を伴って収集する一方、k空間中心から離れた領域のデータについては、単一のSPIRパルスのみ又はCHESSパルスのみの印加を伴って収集するように撮影条件を設定すれば、撮像時間の増加を抑えることができる。
【0127】
そして、以上のような各種撮影条件は、表示装置34に表示される撮影条件設定画面を通じた入力装置33の操作によって設定することができる。
【0128】
図21は、図10に示す表示装置34に表示される撮影条件設定画面の一例を示す図である。
【0129】
図21に示すように、撮影条件設定画面は、GUI技術によって構成することができる。図21は、周波数スペクトルの収集スキャンを行って取得された周波数スペクトルに基づいて脂肪抑制パルスの中心周波数を設定する場合における撮影条件設定画面の例を示している。このため、撮影条件設定画面には、プレスキャンによって取得された周波数スペクトルが表示される。
【0130】
非選択IRパルスを印加することによって脂肪信号を抑制した状態で周波数スペクトルの収集スキャンを実行すれば、図21に示すように水信号のピークを最大値とする周波数スペクトルを取得することができる。そして、水信号のピークから一定の周波数帯域(fb)を設定し、設定した周波数帯域内において信号のピークを自動検出するようにすれば、脂肪信号のピークや局所的にシフトした脂肪信号のピークを自動検出することができる。自動検出された脂肪信号の周波数は自動的に所望の脂肪抑制パルスの周波数として自動設定することもできる。また、ユーザがマウス等の入力装置33を用いて脂肪信号のピークに対応する周波数を脂肪抑制パルスの周波数として選択することもできる。
【0131】
また、脂肪抑制パルスの数および種類も任意に設定することができる。図21に示す例では、SPIRパルスとCHESSパルスの2つの脂肪抑制パルスが設定されている。さらに、各脂肪抑制パルスについてそれぞれ、中心周波数およびFAを調整することができる。脂肪抑制パルスの周波数オフセットやFAは、例えばスライドバー(スクロールバー)の操作によって所望の値に設定することができる。
【0132】
さらに、脂肪抑制パルスをk空間上の高周波領域に印加するか否かを撮影条件設定画面を通じて設定することができる。図21の例では、高周波領域に脂肪抑制パルスを印加しない撮影条件が選択されている。この他、周波数prepスキャンを実行して脂肪抑制パルスの周波数オフセットを決定する場合のように、撮影条件の設定方法に応じて様々なインターフェースを作成することができる。
【0133】
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
【0134】
コンピュータ32のシーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33またはその他の構成要素からの情報に基づいて撮影条件設定部40から取得したパルスシーケンスをシーケンスコントローラ31に与えることにより駆動制御させる機能と、シーケンスコントローラ31からk空間(フーリエ空間)データである生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能とを有する。
【0135】
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで2次元または3次元のフーリエ変換処理等の画像再構成処理を施すことにより、k空間データから画像データを生成する機能と、生成した画像データを画像データベース44に書き込む機能とを有する。
【0136】
画像処理部45は、画像データベース44から読み込んだ画像データに必要な画像処理を行って表示装置34に表示させる機能を有する。
【0137】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0138】
図22は、図9に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pの断層画像を撮像する際の手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0139】
ここでは、周波数prepスキャンを実行して脂肪抑制パルスの周波数オフセットを決定する場合の例について記述する。
【0140】
まず寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0141】
次に、ステップS1において、必要に応じて周波数prepスキャンが実行される。周波数prepスキャンは、シミングによっても静磁場の不均一性が改善されない場合のように、脂肪信号の共鳴周波数からシフトした周波数でCHESSパルスを印加する必要があり、かつCHESSパルスの適切な周波数が不明な場合に有効である。
【0142】
そのために、図19に示すような周波数prepスキャン用のパルスシーケンスを含む撮影条件が設定される。すなわち、入力装置33からの指示情報に従って撮影条件設定部40においてCHESSパルスの周波数f2の変更回数Nや変更幅が設定される。そして、ユーザが周波数prepスキャンの実行指示情報を入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41に与えると、周波数prepスキャン用のパルスシーケンスを含む撮影条件が撮影条件設定部40からシーケンスコントローラ制御部41を通じてシーケンスコントローラ31に与えられる。
【0143】
そうすると、シーケンスコントローラ31は、周波数prepスキャン用のパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる。そして、被検体P内部のプロトンスピンの核磁気共鳴によって生じたNMR信号がRFコイル24において受信される。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、デジタルデータのNMR信号である生データを生成し、シーケンスコントローラ31に与える。生データはシーケンスコントローラ制御部41によりk空間データとしてk空間データベース42に形成されたk空間に配置される。
【0144】
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより、画像データを生成し、生成した画像データを画像データベース44に書き込む。また、画像処理部45は、画像データベース44から読み込んだ画像データに必要な画像処理を行って表示装置34に表示させる。
【0145】
この結果、異なる周波数でCHESSパルスが印加されることによって脂肪抑制された複数の画像が表示装置に表示される。
【0146】
次に、ステップS2において、ユーザが、表示された複数の画像の中から最も良好に脂肪が抑制された画像を入力装置33の操作により選択すると、画像の選択情報が入力装置33から撮影条件設定部40に与えられる。そうすると、撮影条件設定部40において、選択された画像に対応するCHESSパルスの周波数がイメージングスキャンにおいて用いられるCHESSパルスの周波数として設定される。すなわちCHESSパルスの周波数が決定される。
【0147】
次に、ステップS3において、イメージングスキャンにおいて用いられる脂肪抑制パルスの組み合わせが決定される。すなわち、入力装置33から脂肪抑制パルスの種類、周波数、周波数帯域幅等の条件を示す指示情報が撮影条件設定部40に与えられる。
【0148】
次に、ステップS4において、イメージングスキャンにおいて用いられるイメージングシーケンスの指示情報が入力装置33から撮影条件設定部40に与えられる。これにより、例えば、図17に示すようなSPIRパルスおよび互いに周波数が異なる2つのCHESSパルスの印加を伴うパルスシーケンスがイメージングスキャン用の撮影条件として設定される。SPIRパルスおよび一方のCHESSパルスの周波数f1は脂肪信号の共鳴周波数とされ、他方のCHESSパルスの周波数f2は、周波数prepスキャンの実行により決定された周波数とされる。
【0149】
次に、ステップS5において、イメージングスキャンが実行される。すなわち、入力装置33からイメージングスキャンの実行指示がシーケンスコントローラ制御部41に与えられ、周波数prepスキャンと同様な流れでイメージングスキャンが実行される。これによりk空間データベース42には、イメージングスキャンによって収集されたk空間データが保存される。
【0150】
次に、ステップS6において、画像再構成部43により、イメージングスキャンによって収集されたk空間データから画像データが生成され、画像処理部45における画像処理を通じてイメージングスキャンにより得られた画像が表示装置34に表示される。
【0151】
ここで表示装置34に表示される画像は、SPIRパルスのより広い周波数帯域の脂肪信号が抑制され、かつSPIRパルスにより抑制しきれなかった脂肪信号がCHESSパルスにより抑制されることによって得られたものである。更に、静磁場が不均一であり脂肪信号の共鳴周波数がシフトしているような場合であっても周波数を適切にオフセットさせたCHESSパルスの印加により脂肪信号が抑制されている。このため、非常に良好に脂肪が抑制された画像が表示装置34に表示される。
【0152】
図23は、図9に示す磁気共鳴イメージング装置20により、脂肪信号の共鳴周波数に周波数を合わせたSPIRパルスおよびCHESSパルスの印加による脂肪抑制を伴って得られた被検体Pの断層画像である。
【0153】
図23に示すように、SPIRパルスおよびCHESSパルスの印加により、脂肪が良好に抑制されているのが確認できる。
【0154】
つまり以上の磁気共鳴イメージング装置20は、複数の脂肪抑制を組合わせることで、脂肪抑制効果を向上できるようにしたものである。例えば、SPIRパルスにより広い周波数帯域の脂肪信号を抑制し、残留した脂肪信号をCHESSパルスでさらに抑制することができる。また、例えば周波数が異なるCHESSパルスを複数回印加すれば、静磁場の不均一性によって脂肪信号の共鳴周波数がシフトしてしまうような顎等の部位において脂肪抑制効果を向上させることができる。
【0155】
このため、複数の周波数選択的脂肪抑制パルスを組合わせた脂肪抑制法は、従来の非周波数選択脂肪抑制法であるSTIR法に代わる脂肪抑制法となる。しかも、STIR法では、励起パルスの印加後に脂肪プロトンの縦磁化がnull pointとなるTIだけ待ち時間が必要であるのみならず、脂肪信号および水信号の双方を含む全体信号を励起させるため水信号の信号強度が低下する。
【0156】
従って、複数の周波数選択的脂肪抑制パルスを組合わせた脂肪抑制法は、STIR法に比べて、撮像時間を短縮させることが可能であり、かつ水信号の強度を大きくすることができる。
【0157】
また、脂肪抑制パルスを連続して印加することにより、脂肪信号が抑制されている状態を定常的に維持させる効果が得られるため、励起パルスの周波数変化に対する信号強度を示すスライスプロファイルを改善することができる。
【0158】
図24は、図9に示す磁気共鳴イメージング装置20により複数の脂肪抑制パルスを印加することによって改善された信号強度のスライスプロファイルを示す図である。
【0159】
図24(a)は、1つのCHESSパルスの印加を伴う従来の脂肪抑制法によって得られる信号強度のスライスプロファイルを示し、図24(b)は、SPIRパルスおよびCHESSパルスの双方の印加を伴う脂肪抑制法によって得られる信号強度のスライスプロファイルを示す。すなわち、図24(a)、(b)において横軸はそれぞれ周波数を示し、縦軸はそれぞれ相対的な信号強度を示す。
【0160】
図24(a)に示す1つのCHESSパルスを印加した場合のスライスプロファイルに比べて図24(b)に示すSPIRパルスおよびCHESSパルスの双方を印加した場合のスライスプロファイルが改善されていることが確認できる。
【0161】
つまり同種であっても異種であっても2つの脂肪抑制パルスを続けて印加することにより、一回の脂肪抑制パルスを印加する場合に比べてプロファイルが改善される。また、セグメントk-space法によりデータ収集を行う場合に、セグメント数に依存して変化する脂肪抑制パルスの印加間隔に依存することなくプロファイルを一定に保つことが可能となる。これにより、脂肪抑制パルスの印加間隔が短くても、十分なサチュレーション効果得が期待できる。また、脂肪抑制パルスのFAを変化させても抑制される信号が反転しないため、抑制ムラが改善される。
【0162】
すなわち、高速撮像において、複数個の脂肪抑制パルスを連続的に印加することにより、抑制したい信号の縦磁化を十分に小さくすることができるため、縦磁化の影響を小さくすることができる。この結果、プロファイルを安定させ、周波数方向の脂肪抑制効果をより均一にすることができる。また、磁場の不均一やRFパルスの不均一の影響を受け難くなるため、1つの脂肪抑制パルスを印加する場合に比べて抑制される信号の周波数帯域を多少広げることができる。
【0163】
尚、上述した実施形態では、脂肪信号を抑制対象としたが、脂肪以外の物質からの目的とする信号を抑制対象とする複数の抑制パルスを印加することもできる。例えばシリコーンからの信号を抑制対象とすることもできるし、脂肪ではなく逆に水からの信号を抑制対象とすることもできる。例えば、水抑制を行う場合には、抑制パルスの周波数を水の共鳴周波数に合わせれば良い。
【0164】
水抑制パルスは、不要な血管からの信号を抑制する場合やTime-SLIP (time spatial labeling inversion pulse)法によりラベリングを行う場合の非選択IRパルスとして用いることができる。Time-SLIP法は、ある空間領域を一定時間をおいてラベリングすることにより、血液の信号を高信号に描出したり低信号に描出したりする技術である。
【0165】
より具体的には、Time-SLIP法では、ECG (electrocardiogram)信号のR波から一定のdelay後にTime-SLIPパルスが印加される。このTime-SLIPパルスは、領域非選択IRパルスと領域選択IRパルスとにより構成されており、領域選択IRパルスで撮像領域に流入する血液をラベリングすると一定時間後に血液が到達した部分の信号強度が高くなるため、血流情報を映像化することができる。ECG同期撮影を行う場合には、図9に示すように被検体PからECG信号を取得するECGユニット38が備えられる。そしてECGユニット38により取得されるECG信号がECG同期撮影に用いられる。
【符号の説明】
【0166】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
40 撮影条件設定部
41 シーケンスコントローラ制御部
42 k空間データベース
43 画像再構成部
44 画像データベース
45 画像処理部
46 撮影パラメータ保存部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪を抑制する第1の抑制パルスを周波数選択的に印加した後、前記第1の抑制パルスとは異なる第2の抑制パルスを前記脂肪に対して周波数選択的に印加してイメージングを行うための撮影条件を設定する撮影条件設定手段と、
前記撮影条件に従って画像データを収集する画像データ収集手段と、
を有し、
前記撮影条件設定手段は、前記第1の抑制パルスと前記第2の抑制パルスのフリップ角を異ならせて、前記第1の抑制パルスの印加によって残った物質の信号を前記第2の抑制パルスの印加によって抑制する撮影条件を設定する、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記撮影条件設定手段は、
前記第1の抑制パルスの印加時刻と前記第2の抑制パルスの印加時刻との間の第1の時間と、前記第2の抑制パルスの印加時刻と前記イメージングを行うためのパルスの印加時刻との間の第2の時間とを異ならせる、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記撮影条件設定手段は、
前記脂肪のT1値に基づいて前記第1の抑制パルスと前記第2の抑制パルスのフリップ角を異ならせる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記撮影条件設定手段は、
前記脂肪のT1値に基づいて前記第1の時間と前記第2の時間とを異ならせる、
ことを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記撮影条件設定手段は、
前記第2の抑制パルスのフリップ角を、前記脂肪のT1値、前記第1の抑制パルスのフリップ角、前記第1の時間及び前記第2の時間に応じて決定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図24】
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【図5】
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【図7】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−63333(P2013−63333A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−3193(P2013−3193)
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2008−13792(P2008−13792)の分割
【原出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】