説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】SSFPシーケンスを用いた撮像において、スピンの位相連続性を維持しつつラベリング、脂肪抑制、インバージョン等の所望の目的のためのパルスによって画像コントラストを変化させることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、複数回の高周波励起を一定間隔で繰り返し行うSteady-State Free Precessionパルスシーケンス上において、隣接する高周波励起間の中心時刻を実質的に中心とし、かつ0次モーメント量がゼロとなるようなコヒーレントコントロールパルスを付加したシーケンスに従ってデータを収集するデータ収集手段と、データから画像データを生成する画像データ生成手段と、を有し、前記コヒーレントコントロールパルスの印加領域は、撮像領域と独立に任意に設定可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴(MR:magnetic resonance)信号から画像を再構成する磁気共鳴イメージング装置に係り、特に、定常状態自由歳差運動(SSFP: Steady-State Free Precession)を利用して磁気共鳴画像を取得する磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数のRF信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。磁気共鳴イメージング装置は、撮像条件を規定するパルスシーケンスに従って動作するが、近年の磁気共鳴イメージング装置では心臓のシネ撮像や冠状動脈の撮像用にSSFPと呼ばれる現象を用いたパルスシーケンス(SSFPシーケンス)が用いられることが多い。
【0003】
図1は、従来のSSFPシーケンスを示す図である。
【0004】
図1において、RFは被検体に送信されるRF信号を、Gssはスライス選択(slice selection)用に被検体に印加されるスライス傾斜磁場パルスを、Groは、被検体からのエコーデータの読み出し(RO: readout)用に被検体に印加されるRO傾斜磁場パルス(周波数エンコード傾斜磁場パルスとも言う)を、Gpeは、位相エンコード(PE: phase encode)用に被検体に印加されるPE傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0005】
SSFPシーケンスは、RF励起を繰り返し、静磁場中の磁化スピンを定常状態にした上で、エコーデータの収集を行うものである。具体的には、図1に示すようにSSFPシーケンスでは、スタートアップ用の+α/2励起パルスまたは-α/2励起パルスの印加に続いて、一定の繰返し時間(TR: repetition time)で+α励起パルス(フリップパルス)および-α励起パルスが交互に繰り返し印加される。そして、+α励起パルスおよび-α励起パルスの印加によって静磁場中の磁化スピンが定常状態に維持される。また、通常、所望のスライスを選択励起するためにスライス傾斜磁場パルスGssとともに±α励起パルスが印加される。また、空間情報を付加するためにRO傾斜磁場パルスGroやPE傾斜磁場パルスGpeが印加される。尚、スタートアップ用の+α/2励起パルスまたは-α/2励起パルスが印加されない場合もある。
【0006】
スライス傾斜磁場パルスGss、RO傾斜磁場パルスGroおよびPE傾斜磁場パルスGpeのTR内における積分値はゼロとなるように制御される。励起パルスの印加位相は一定角度ずつシフトするように制御される。通常、一定角度はオンレゾナンススピンに対して180°となるようにされる。
【0007】
このようなSSFPシーケンスは信号の一部をスポイルすることがないので、比較的高いSN (signal to noise)比の画像を高速に取得できることが大きなメリットとされる。SSFPシーケンスは、定常状態を維持することにより一定の画像コントラストを得ることができるが、一方で高SN比の画像を高速に取得できるというメリットを生かして異なる画像コントラストを得ることができないか、という要求が高くなっている。
【0008】
異なる画像コントラストが要求される一例として脂肪抑制されたSSFP画像が挙げられる。脂肪は比較的短い縦緩和(T1)時間を有するので、定常状態では脂肪から強度が大きい信号が得られることが知られている。従って、腹部の画像をSSFPシーケンスで取得しようとする場合には、信号強度が大きい脂肪から信号によって構造や病変部の描出が困難な場合がある。そこで、腹部の画像をSSFPシーケンスで取得する場合には、脂肪からの信号を抑制することが求められる。
【0009】
これに対して、SSFPシーケンスにおいてpreparation blockという区間を設け、preparation blockにおいて脂肪抑制用のプリパルスを印加することによって脂肪からの信号を抑制する技術が考案されている(例えば非特許文献1参照)。
【0010】
図2は従来のpreparation blockを伴うSSFPシーケンスを示す図である。
【0011】
図2は被検体に時系列に印加されるRF信号を示す。図2に示すように、preparation blockを伴うSSFPシーケンスでは、スタートアップ用の-α/2励起パルスの印加に続いて、励起角度が一定角度±αの励起パルス系列が印加されるが、励起パルス系列の途中で、+α/2フリップバックパルスが印加される。+α/2フリップバックパルスの印加後には、preparation blockという区間が設けられ、preparation blockの後に、+α/2スタートアップパルスが印加される。そして、+α/2スタートアップパルスの印加後に、再び励起角度が一定角度±αのα励起パルス系列の印加が再開される。
【0012】
preparation blockでは脂肪信号を抑制するために脂肪抑制パルス等のいわゆるRFプリパルスが印加される。この方法は、α/2フリップバックパルスにてスピンが縦磁化に戻された状態において、preparation blockが設けられているのが特徴である。preparation blockでは、通常RFプリパルスの他に横磁化をスポイルするためのスポイラ傾斜磁場パルスが印加される。このように、SSFPシーケンスにおいて画像コントラストを変化させるためにpreparation blockが設けられる。
【0013】
また、従来からSSFPシーケンスを反転回復法(IR: inversion recovery)による撮像に用いることもある。IRは、180°IRパルスを印加し、スピンが反転した状態からT1による回復に依存した信号強度を持つ画像を得る撮像法である。
【0014】
図3は従来のIRパルスを伴うSSFPシーケンスを示す図である。
【0015】
図3において、RFは被検体に送信されるRF信号を、Gssはスライス傾斜磁場パルスを、Groは、RO傾斜磁場パルスを、Gpeは、PE傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0016】
SSFPシーケンスにおいてIRパルスを印加する場合には、図3に示すように、TRで連続的に印加されるα励起パルスの印加が一旦停止される。そして、IRパルスに続いてスポイラパルスが印加された後、再び連続する励起パルスの印加が再開される。尚、スタートアップパルスやフリップバックパルスが併用されることもある。
【0017】
さらに、SSFPシーケンスに応用可能なタグ付け技術として、GCFP (global coherent free precession)法が提案されている。GCFP法は、コヒーレントスピンラベリングを応用した技術であり、血液細胞中の水分子のプロトンがMRIスキャン断面を通過する際に、高周波でそのプロトンだけを捕らえる、すなわちタグ付けする技術である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Scheffler et al., Magnetic Resonance in Medicine誌、45巻、1075-1080ページ、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来のpreparation blockを伴うSSFPシーケンスでは、α/2フリップバックパルスからα/2スタートアップパルスまでの間に、スピンのT1緩和が進行する。さらに、preparation blockでは、RFプリパルスやスポイラ傾斜磁場パルスが印加されることによって、スピンの位相の連続性が破壊される。このスピンのT1緩和の進行およびスピンの位相の連続性の破壊の影響は、T1の長い水成分中である場合には小さいとの報告がある。しかしながら、生体中におけるT1の短い組織ではスピンのT1緩和の進行およびスピンの位相の連続性の破壊の影響が無視できないという問題がある。
【0020】
すなわち、SSFPシーケンスの途上において、α/2フリップバックパルスやα/2スタートアップパルスの印加およびpreparation blockを設けることによってT1緩和が起こり、preparation blockによって位相連続性の途絶が発生する。T1緩和および位相連続性の途絶は、SSFPシーケンスによって得られる画像コントラストを変化させる要因となり、SSFP状態からのずれによる画像アーチファクトをもたらす恐れがある。
【0021】
従って、SSFPシーケンスにおけるスピンの位相連続性およびRFプリパルスによる画像コントラストの変化を同時に実現する方法が求められる。
【0022】
また、従来のIRパルスを伴うSSFPシーケンスでは、α励起パルスの印加が途中で途切れるため、励起パルスの印加が再開された直後のスピンは定常状態と異なっている。この結果、画像のコントラスト変化やアーチファクトの発生がもたらされるという問題がある。
【0023】
さらに、GCFP法では、スライス傾斜磁場とRO傾斜磁場が共通であり、かつ固定である。また、GCFP法には、PE傾斜磁場パルスがスライスに直交方向に限られ、Radial収集ができないという欠点がある
本発明はかかる従来の事情に対処するためになされたものであり、SSFPシーケンスを用いた撮像において、スピンの位相連続性を維持しつつラベリング、脂肪抑制、インバージョン等の所望の目的のためのパルスによって画像コントラストを変化させることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、複数回の高周波励起を一定間隔で繰り返し行うSteady-State Free Precessionパルスシーケンス上において、隣接する高周波励起間の中心時刻を実質的に中心とし、かつ0次モーメント量がゼロとなるようなコヒーレントコントロールパルスを付加したシーケンスに従ってデータを収集するデータ収集手段と、
前記データから画像データを生成する画像データ生成手段と、を有し、前記コヒーレントコントロールパルスの印加領域は、撮像領域と独立に任意に設定可能である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、SSFPシーケンスを用いた撮像において、スピンの位相連続性を維持しつつラベリング、脂肪抑制、インバージョン等の所望の目的のためのパルスによって画像コントラストを変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来のSSFPシーケンスを示す図。
【図2】従来のpreparation blockを伴うSSFPシーケンスを示す図。
【図3】従来のIRパルスを伴うSSFPシーケンスを示す図。
【図4】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図。
【図5】図4に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図6】図5に示す撮影条件設定部において設定されるRFコヒーレントコントロールパルスの印加を伴うSSFPシーケンスを示す図。
【図7】図6に示すcoherent control blockを有するSSFPシーケンスの実行により変化するスピンの傾きを示す図。
【図8】図5に示す撮影条件設定部において設定されるRFコヒーレントコントロールパルスおよびスライス傾斜磁場パルスの印加を伴うSSFPシーケンスを示す図。
【図9】図5に示す撮影条件設定部においてcoherent control blockで選択励起させるスライスを励起パルスの印加時に選択励起させるスライスと異なるスライスに設定したSSFPシーケンスを示す図。
【図10】図5に示す撮影条件設定部においてラジアル収集を併用したcoherent control blockを有するSSFPシーケンスを設定した例を示す図。
【図11】図10に示すSSFPシーケンスによるRadial収集においてラベリングするスピンのスライス軸を示す図。
【図12】図5に示す撮影条件設定部においてラベリング用のパルスの印加を伴う複数のcoherent control blockを有するSSFPシーケンスを設定した例を示す図。
【図13】図5に示す画像処理部における差分処理によって動きのあるスピンを選択的に描出する方法を説明する図。
【図14】図4に示す磁気共鳴イメージング装置により脂肪抑制、ラベリング、インバージョン等の所望の目的のためのコヒーレントコントロールパルスの印加を伴うSSFPシーケンスを用いた撮像を行う際の手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0028】
図4は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0029】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21と、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0030】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0031】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0032】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0033】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24はガントリに内蔵されず、寝台37や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0034】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0035】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0036】
RFコイル24は、送信器29および受信器30と接続される。RFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0037】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0038】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0039】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0040】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、特定の回路を設けてコンピュータ32を構成してもよい。
【0041】
図5は、図4に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0042】
コンピュータ32は、プログラムにより撮影条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44、画像処理部45として機能する。
【0043】
撮影条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンス等の撮影条件を設定し、設定した撮影条件をシーケンスコントローラ制御部41に与える機能を有する。そのために、撮影条件設定部40は、撮影条件の設定用画面情報を表示装置34に表示させる機能を備えている。特に撮影条件設定部40は、撮影条件としてSSFPシーケンスを設定することができるように構成される。さらに、SSFPシーケンスには、スピンの位相連続性が維持されるように画像コントラストを変化させるための所望の目的をもったRFコヒーレントコントロールパルスの印加を付加させることができる。
【0044】
図6は、図5に示す撮影条件設定部40において設定されるRFコヒーレントコントロールパルスの印加を伴うSSFPシーケンスを示す図である。
【0045】
図6においてRFは、被検体Pに送信されるRFパルスを示す。図6に示すように、SSFPシーケンスでは、スピンを角度+α/2または-α/2だけ励起させるα/2スタートアップパルスの印加後に、複数のα励起パルスが一定間隔(TR)で繰り返し印加される。各α励起パルスは、それぞれスピンの位相が0、θ、2×θ、3×θ、…となるようにしながらスピンを一定の角度αだけ傾ける励起パルスである。
【0046】
そして、SSFPシーケンス途上の任意の隣接する励起パルス間におけるTRの期間に、coherent control blockが設けられる。図6は、スピンを一定の角度αだけ傾け、かつスピンの位相をθとする(α,θ)励起パルスとスピンの位相を2×θとする(α,2θ)励起パルスとの間にcoherent control blockを設けた例を示している。
【0047】
coherent control blockでは、スピンを任意の角度βだけ傾け、かつスピンの位相をφとする(β,φ)RFコヒーレントコントロールパルスが印加される。RFコヒーレントコントロールパルスの波形、励起角度および励起位相はRFコヒーレントコントロールパルスの印加目的に応じて任意に決定することができる。すなわち、RFコヒーレントコントロールパルスは、例えばラベリング用パルス、脂肪抑制パルス、インバージョンパルス等の画像コントラストを変化させるための任意のパルスとすることができる。
【0048】
ただし、RFコヒーレントコントロールパルスの波形の中心は実質的に隣接するα励起パルス間の中心に位置するように制御される。すなわち、隣接する励起パルスからそれぞれ時間的にTR/2だけ離れた位置にRFコヒーレントコントロールパルスの波形の中心が位置するように撮影条件が設定される。
【0049】
尚、RFコヒーレントコントロールパルスの印加目的によっては、coherent control block前後の単一または複数の励起パルスの印加タイミングにおいて磁化の定常状態を維持することは望ましいがイメージング用のデータを収集する必要がない場合がある。従って、coherent control block前後の任意数の励起パルスをイメージングに用いるためのデータを収集しないダミーパルスとしても良い。例えば、RFコヒーレントコントロールパルスとして脂肪抑制パルスを印加する場合には、脂肪抑制パルスの印加によって脂肪における磁化が倒れて十分な脂肪抑制効果が得られるまでの間に印加される励起パルスをダミーパルスとすることができる。
【0050】
図7は、図6に示すcoherent control blockを有するSSFPシーケンスの実行により変化するスピンの傾きを示す図である。
【0051】
SSFPシーケンスでは、図7に示すように+α/2スタートアップパルスが印加されると、プロトンのスピン方向はx軸方向から傾いた状態となる。そしてTRだけ時間が経過すると、プロトンのスピン方向はy軸に対して対称な方向に傾く。ここで、一定角度-αだけスピンを回転させる-α励起パルスが印加されると、スピン方向はx軸に対称な方向に傾く。さらにTRだけ時間が経過すると、スピン方向はy軸に対称な方向に傾き、一定角度+αだけスピンを回転させる+α励起パルスが印加されると、スピン方向はx軸に対称な方向に傾く。つまり、2回のα励起パルスの印加によってスピン方向が元の角度に戻ることとなる。
【0052】
従って、あるα励起パルスの印加後、TR/2だけ時間が経過したときのスピン方向は、y軸方向y(TR/2)となる。このため、スピン方向がy軸方向y(TR/2)となったタイミングで着目するスピンを励起するように例えば180°RFコヒーレントコントロールパルスを印加すれば、着目するスピンのスピン方向はx軸に対称に傾くものの、y軸上y’(TR/2)となる。よって、α励起パルスの印加後、TR/2だけ時間が経過したタイミングで、180°RFコヒーレントコントロールパルスを印加すれば、スピン方向は180°RFコヒーレントコントロールパルスの影響を受けず、連続性を維持することができる。
【0053】
仮に、スピンがRFコヒーレントコントロールパルスの影響を受けて連続性が維持されないと、画像にアーチファクトが発生することとなる。従って、RFコヒーレントコントロールパルスの印加タイミングは、厳密にα励起パルスの印加後、TR/2だけ時間が経過したタイミングである必要はなく、アーチファクトが十分に低減することが可能な程度にスピン方向の連続性を維持できるようなタイミングであればよいということになる。つまり、RFコヒーレントコントロールパルスの印加タイミングは、厳密には励起パルスの印加後、TR/2だけ時間が経過した時点を中心とする誤差範囲内であればよい。具体例としては、RFコヒーレントコントロールパルスの印加タイミングは、α励起パルスの印加後TR/2±TR/4の範囲内に設定することができる。
【0054】
このようにcoherent control blockでは、注目するスピンの位相の連続性が保たれるように撮影条件が制御される。例えば、静止しているスピンに注目する場合には、静止しているスピンの位相が保持されるようにcoherent control blockにおける0次モーメント量がゼロとなるように調整される。そのために、coherent control blockにおける傾斜磁場パルスの印加面積はゼロとなるように撮影条件が決定される。
【0055】
尚、図6は、coherent control blockにおいて傾斜磁場パルスが印加されない例を示しているため、元々coherent control blockにおける0次モーメント量はゼロである。
【0056】
図8は、図5に示す撮影条件設定部40において設定されるRFコヒーレントコントロールパルスおよびスライス傾斜磁場パルスの印加を伴うSSFPシーケンスを示す図である。
【0057】
図8においてRFは、被検体Pに送信されるRFパルスを、Gssは、被検体Pに印加されるスライス傾斜磁場パルスを示す。
【0058】
図8に示すように、スライス傾斜磁場パルスGssの印加を伴うSSFPシーケンスにcoherent control blockを設けることができる。coherent control blockでは、隣接する2つのα励起パルスからそれぞれTR/2だけ時間的に離れたタイミングでRFコヒーレントコントロールパルスが印加される。
【0059】
そして、coherent control blockにもスライス傾斜磁場パルスを設け、α励起パルスの印加時に選択励起されるスライスと同一のスライスを選択励起することができる。励起パルスの印加時におけるスライス励起位置とRFコヒーレントコントロールパルスの印加時におけるスライス励起位置とを同一とすると、RFコヒーレントコントロールパルスは飽和回復(SR: saturation recovery)パルスやIRパルス等のインバージョンパルスと同様な作用をもたらす。つまり、SSFPシーケンス上において、スピンが励起された状態でSRパルスやIRパルス等のインバージョンパルスを印加することが可能となる。
【0060】
従って、インバージョンパルスによって励起されないスピンは定常状態を維持する一方、インバージョンパルスによって励起されたスピンは、T1緩和程度の信号変化を呈するようになる。インバージョンタイムを制御する場合には、インバージョンパルスとインバージョンパルスとの間隔を変えればよい。
【0061】
ここで、印加されるインバージョンパルスの位相を、インバージョンパルスの印加直前に印加された励起パルスの位相と同一とすると、RFの不均一性に対するロバスト効果を向上できるという利点がある。
【0062】
尚、図8の例では、励起パルスとともに印加されるスライス傾斜磁場パルスGssの引き込み部G1とcoherent control blockにおけるスライス傾斜磁場パルスGssの引き込み部G2とが時間的に異なりオーバーラップしないように設定されているが、共通の期間においてオーバーラップさせて印加することも可能である。この点はスライス傾斜磁場パルスGssの印加を伴うcoherent control blockを設けた後述する全てのSSFPシーケンスに共通である。
【0063】
図9は、図5に示す撮影条件設定部40においてcoherent control blockで選択励起させるスライスを励起パルスの印加時に選択励起させるスライスと異なるスライスに設定したSSFPシーケンスを示す図である。
【0064】
図9においてRFは、被検体Pに送信されるRFパルスを、Gss1は、励起パルスの印加用のスライスを選択するために被検体Pに印加されるスライス傾斜磁場パルスを、Gss2は、coherent control block、すなわちRFコヒーレントコントロールパルスの印加用のスライスを選択するために被検体Pに印加されるスライス傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0065】
スライス傾斜磁場パルスGssの印加を伴うSSFPシーケンスにcoherent control blockを設けることができるが、図9に示すように、励起パルスの印加用のスライスとRFコヒーレントコントロールパルスの印加用のスライスとを異なる方向のスライスとすることもできる。この場合には、励起パルスとともに印加されるスライス傾斜磁場パルスGss1の印加方向と、RFコヒーレントコントロールパルスの印加とともに印加されるスライス傾斜磁場パルスGss2の印加方向とが互いに異なる。
【0066】
代表的な例としては、RFコヒーレントコントロールパルスの印加とともに印加されるスライス傾斜磁場パルスGss2の印加方向を励起パルスとともに印加されるスライス傾斜磁場パルスGss1の印加方向に対して直角に設定し、RO方向とする例が挙げられる。
【0067】
従って、励起パルスの印加時に選択励起されるスライスおよびRFコヒーレントコントロールパルスの印加時に選択励起されるスライスの2つのスライスに含まれるスピン、つまり2つのスライス選択励起を受けたスピンは、coherent control blockのRFコヒーレントコントロールパルスによってサチュレーションあるいはラベリングを受ける。一方、励起パルスの印加時に選択励起されるスライスのみに含まれるスピン、つまり励起パルスの印加時におけるスライス選択励起のみを受けたスピンは定常状態を厳密に維持している。
【0068】
このため、coherent control blockのRFコヒーレントコントロールパルスは、サチュレーションパルスやスピンラベリングパルスとして機能する。このような撮影条件は、例えば、不要な領域の信号を抑制する場合や、動きのあるスピンが特定の面内を移動する様子を観察する場合に適している。
【0069】
図10は、図5に示す撮影条件設定部40においてラジアル収集を併用したcoherent control blockを有するSSFPシーケンスを設定した例を示す図である。
【0070】
図10において、RFは、被検体Pに送信されるRFパルスを、Gssは、被検体Pに印加されるスライス傾斜磁場パルスを、Gro1およびGro2は、それぞれ被検体Pに印加されるRO傾斜磁場パルスを示す。
【0071】
図10に示すSSFPシーケンスは、データ収集をいわゆるラジアル(Radial)収集とした場合におけるシーケンスである。ラジアル収集は、傾斜磁場を変化させ、k空間上で原点を通る放射状にデータ収集を行う収集法であり、血液や脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)等の液体や動きのある器官を撮像する場合にアーチファクトが少ないことが知られている。
【0072】
このラジアル収集用のSSFPシーケンスにおいても、coherent control blockでは、RO傾斜磁場パルスの0次および1次モーメントがゼロとなるように構成されている。そして、coherent control blockでは、血液やCSF等の液体や動きのある器官のラベリングを行うためのインバージョンパルスやラベリング以外の目的を有するその他のあらゆるインバージョンパルスを印加することができる。ラジアル収集用のSSFPシーケンスに、coherent control blockを設けると、静止しているスピンおよび一定速度で動くスピンの位相が常にリフェーズされる。このため、液体等の動きのある部分を良好に描出し、アーチファクトの少ない画像を得ることができる。
【0073】
図11は、図10に示すSSFPシーケンスによるRadial収集においてラベリングするスピンのスライス軸を示す図である。
【0074】
図11において、RO1軸は、Radial収集の始点軸を示し、RO2軸はRO1軸に直交する軸である。また、RO1軸、RO2軸はそれぞれRO傾斜磁場パルスGro1、Gro2の印加方向に対応している。従ってRO1軸を含む面(RO傾斜磁場パルスGro1によって励起される面)およびRO2軸を含む面(RO傾斜磁場パルスGro2によって励起される面)はそれぞれスライス傾斜磁場パルスGssによって選択励起されるスライスSLに垂直な面となる。
【0075】
ラジアル収集では、選択励起されたスライスSL上において、Radial収集の始点軸RO1とRO1軸に直交するRO2軸の交点を中心として回転するようにk空間データが収集される。そして、ラベリングするスライスは、Radial収集の始点軸RO1を含みスライス傾斜磁場パルスGssによって選択励起されるスライスSLに垂直な面に設定される。すなわち、図10に示すように、RO2軸方向成分のRO傾斜磁場パルスGro2がゼロの場合にコヒーレントなインバージョンパルスがラベリング用に印加される。一方、RO2軸方向成分のRO傾斜磁場パルスGro2がゼロでない場合には、データ収集が行われる。
【0076】
このような撮影条件でスピンのラベリングを行うと、Radial収集の始点軸RO1においてスライスSLに直交する面にあるスピンがラベリングされる一方、Radial収集の始点軸RO1にてスライスSLに直交する面の外側ではスピンの定常状態が維持されている。つまり、ラベリングされたスピンのみ移動した場所で描写される。このようにRadial収集によれば動きの影響を抑制して撮影を行うことが可能である。
【0077】
また、coherent control blockを複数設け、複数組のcoherent control blockのRFコヒーレントコントロールパルスによって脂肪抑制やラベリング等の作用が得られるようにすることもできる。
【0078】
例えば、第1の脂肪抑制パルスおよび第1の脂肪抑制パルスよりも後に印加される第2の脂肪抑制パルスの2つのパルスを複数組のRFコヒーレントコントロールパルスとして付加することができる。この場合に、脂肪抑制効果を得る必要がある所望のイメージング用の励起パルスの印加時刻において脂肪抑制効果が得られるように第1の脂肪抑制パルスと第2の脂肪抑制パルスとの印加時刻間における時間および第2の脂肪抑制パルスと所望のイメージング用の励起パルスとの印加時刻間における時間を制御すれば、2つの脂肪抑制パルスの印加によって得られる脂肪抑制効果をSSFPシーケンスによるデータ収集において得ることができる。3つ以上の脂肪抑制パルスを複数組のRFコヒーレントコントロールパルスとして印加する場合も同様である。
【0079】
特に脂肪抑制効果を向上させるためには、脂肪抑制パルスのパルス長を長く設定することが望ましいが、TRの制約上、脂肪抑制パルスのパルス長を十分に長く設定することが困難な場合がある。そこで、制約された周波数特性を有する複数の脂肪抑制パルスを印加すれば、本来設定すべき周波数特性を有する脂肪抑制パルスを印加する場合と同等の脂肪抑制効果を得ることが期待できる。換言すれば、脂肪抑制パルスを複数回に分けて印加することにより、TRを考慮しない場合に設定可能な適切な周波数特性を有する脂肪抑制パルスを印加する場合と同等な脂肪抑制効果を得ることができる。
【0080】
別の例としては、脂肪抑制パルスおよびラベリング用のパルスを複数組のRFコヒーレントコントロールパルスとして付加することもできる。この場合には、脂肪抑制およびラベリングの双方をSSFPシーケンスによるデータ収集において行うことができる。尚、所望のイメージング用の励起パルスの印加時刻において脂肪抑制効果を得るためには、脂肪抑制パルスと脂肪抑制効果を得る必要がある励起パルスとの印加時刻間における時間を制御して、脂肪抑制効果を得る必要がある励起パルスの印加タイミングにおいて脂肪抑制効果が得られるようにする必要がある。
【0081】
更に別の例としては、複数のラベリング用のパルスを複数組のコヒーレントコントロールパルスとして付加することもできる。例えば、ラベリング用のTagパルスを印加する場合において、ハードウェアの構成に制約によってTagパルスに付与すべき必要なパワーを得ることができない場合がある。そこで、複数回に分けてTagパルスを印加することによってラベリングの対象となる磁化を180度倒すことができる。また、複数のラベリング用のパルスの印加を伴うラベリング法として、t-SLIP (Time-SLIP: Time Spatial Labeling Inversion Pulse)法が挙げられる。
【0082】
t-SLIP法では、t-SLIPパルスが印加され、撮影領域に流入する血液がラベリングされる。すなわちt-SLIPシーケンスは、撮像断面に流入する血液にタグ付けを行うことによってタグ付けされた血液を選択的に描出或いは抑制するためのASL(arterial spin-labeling)パルスの印加を伴う撮像シーケンスである。このt-SLIPシーケンスにより、反転時間(TI: inversion time)後に撮影断面に到達した血液のみの信号強度を選択的に強調または抑制することができる。尚、必要に応じてt-SLIPパルスはECG (electrocardiogram)信号のR波から一定の遅延時間(delay time)経過後に印加され、心電同期下において撮像が行われる。
【0083】
t-SLIPパルスは、領域非選択インバージョンパルスや領域選択インバージョンパルスとで構成される。領域非選択インバージョンパルスはON/OFFの切換が可能である。つまり、t-SLIPパルスは、領域選択インバージョンパルスを少なくとも含み、領域選択インバージョンパルスのみで構成される場合や領域選択インバージョンパルスおよび領域非選択インバージョンパルスの双方で構成される場合がある。
【0084】
領域選択インバージョンパルスは、撮影断面と独立に任意に設定することが可能である。この領域選択インバージョンパルスで撮影領域に流入する血液をラベリングすると、TI後に血液が到達した部分の信号強度が高くなる。尚、領域非選択インバージョンパルスをOFFにすると、TI後に血液が到達した部分の信号強度が低くなる。このため血液の移動方向や距離を把握することができる。
【0085】
そこで、t-SLIP法における領域非選択インバージョンパルスおよび領域選択インバージョンパルスを複数組のラベリング用のコヒーレントコントロールパルスとしてSSFPシーケンスに付加することができる。
【0086】
尚、t-SLIP法によるラベリングにおいて、心電情報に同期させて心電信号の基準波から所定の遅延時間後にラベリング用のパルスを印加する場合には、被検体PのECG 信号を取得するECGユニット38が磁気共鳴イメージング装置20に備えられる。そして、ECGユニット38により取得されたECG信号がシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。また、ECG信号の代わりに脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。
【0087】
図12は、図5に示す撮影条件設定部40においてラベリング用のパルスの印加を伴う複数のcoherent control blockを有するSSFPシーケンスを設定した例を示す図である。
【0088】
図12においてRFは、被検体Pに送信されるRFパルスを、Gss1は、励起パルスおよび領域非選択インバージョンパルスの印加用のスライスを選択するために被検体Pに印加されるスライス傾斜磁場パルスを、Gss2は、領域選択インバージョンパルスの印加用のスライスを選択するために被検体Pに印加されるスライス傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0089】
図12に示すように、SSFPシーケンスに第1および第2のc2つのoherent control blockを設けることができる。第1および第2のcoherent control block内には、それぞれ第1の(β1,φ1)RFコヒーレントコントロールパルスおよび第2の(β2,φ2)RFコヒーレントコントロールパルスの印加を設定することができる。これら第1および第2のRFコヒーレントコントロールパルスは、例えば、第1および第2のラベリング用のパルスとしてそれぞれ領域選択インバージョンパルスおよび領域非選択インバージョンパルスとすることができる。
【0090】
領域選択インバージョンパルスは、撮影断面と独立して任意に印加断面を選択できるためイメージング用に選択励起されるスライスと異なるスライスを選択するためのスライス傾斜磁場パルスが領域選択インバージョンパルスとともに印加される。一方、領域非選択インバージョンパルスは、撮像領域に印加されるためイメージング用に選択されるスライスと平行なスライスを選択するためのスライス傾斜磁場パルスが領域非選択インバージョンパルスとともに印加される。
【0091】
次に、コンピュータ32の他の機能について説明する。
【0092】
コンピュータ32内に構築されるシーケンスコントローラ制御部41は、入力装置33またはその他の構成要素からの撮影開始指示情報に基づいてシーケンスコントローラ31に撮影条件設定部40から取得したパルスシーケンスを含む撮影条件を与えることにより駆動制御させる機能と、シーケンスコントローラ31からk空間(フーリエ空間)データである生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能とを有する。
【0093】
このため、k空間データベース42には、受信器30において生成された各生データがk空間データとして保存される。
【0094】
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで2次元または3次元のフーリエ変換処理等の画像再構成処理を施すことにより、k空間データから画像データを生成する機能と、生成した画像データを画像データベース44に書き込む機能とを有する。
【0095】
画像処理部45は、画像データベース44から画像データを読み込んで、必要な画像処理を行う機能と、画像処理後の画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。特に、画像処理部45は、SSFPシーケンス上に設けられたcoherent control blockの前後において収集されたデータからそれぞれ得られた画像データ間で差分処理を行う機能と、差分処理により得られた差分画像データを表示用の画像データとして表示装置34に表示させる機能を備えている。すなわち、画像処理部45は、差分法により画像データを生成する機能を備えているが、特に、ラベリングを行う場合に、ラベリング前後における画像データに差分法を適用するニーズが顕在化している。
【0096】
図13は、図5に示す画像処理部45における差分処理によって動きのあるスピンを選択的に描出する方法を説明する図である。
【0097】
図13においてRFは、被検体Pに送信されるRFパルスを、Gss1は、励起パルス用のスライス傾斜磁場パルスを、Gss2は、coherent control block、すなわちRFコヒーレントコントロールパルス用のスライス傾斜磁場パルスをそれぞれ示す。
【0098】
図13に示すように、図9に示すSSFPシーケンスのcoherent control block前におけるデータ収集期間を第1のデータ収集期間DAQ1とする一方、coherent control block後におけるデータ収集期間を第2のデータ収集期間DAQ2とする。そして、第1のデータ収集期間DAQ1において収集されたk空間データを用いて第1の画像データIMAGE1が再構成される一方、第2のデータ収集期間DAQ2において収集されたk空間データを用いて第2の画像データIMAGE2が再構成されるように画像再構成部43を構成すると、画像データベース44には、それぞれ第1のデータ収集期間DAQ1に対応する第1の画像データIMAGE1および第2のデータ収集期間DAQ2に対応する第2の画像データIMAGE2がそれぞれ保存される。
【0099】
そして、画像処理部45は、第1の画像データIMAGE1と第2の画像データIMAGE2との間で差分処理することで、動きのあるスピンのみが選択的に描出された差分画像データ| IMAGE1-IMAGE2|を生成するように構成される。すなわち、coherent control block前のデータから得られた第1の画像データIMAGE1では、着目するスピンがラベリングされていないが、coherent control block後のデータから得られた第2の画像データIMAGE2では、インバージョンパルスによって着目するスピンがラベリングされる。一方、励起パルスの印加時におけるスライス選択励起のみを受けたスピンはcoherent control block前後に亘って定常状態を厳密に維持している。従って、第1の画像データIMAGE1と第2の画像データIMAGE2間で差分処理を実施すると、定常状態にあるスピンからのデータは打ち消され、ラベリングしたスピンからのデータのみが差分画像データ| IMAGE1-IMAGE2|として残存することとなる。
【0100】
尚、第1のデータ収集期間DAQ1においてスピンが定常状態となっているように十分な励起回数が必要である。
【0101】
また、coherent control block前後における収集データからそれぞれ得られる画像データ間の差分処理は、図9に示す撮影条件のみならず、図6、図8、図10に示す撮影条件の場合にも同様に行うことができる。例えば、図10に示すラジアル収集において第1のデータ収集期間DAQ1と第2のデータ収集期間DAQ2を設定し、画像データを差分することにより、動くスピンの画像データを選択的に得ることができる。
【0102】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0103】
図14は、図4に示す磁気共鳴イメージング装置20により脂肪抑制、ラベリング、インバージョン等の所望の目的のためのコヒーレントコントロールパルスの印加を伴うSSFPシーケンスを用いた撮像を行う際の手順の一例を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0104】
まずステップS1において、撮影条件設定部40は、撮影条件の設定用画面情報を表示装置34に表示させる。ユーザは撮影条件の設定用画面を閲覧し、入力装置33から撮影条件の指示情報としてSSFPシーケンスの選択指示および付随する傾斜磁場パルスの印加方法等の条件が撮影条件設定部40に与えられる。そうすると、撮影条件設定部40は、撮影条件としてSSFPシーケンスを設定する。
【0105】
次に、ステップS2において、入力装置33から撮影条件の指示情報としてcoherent control blockにおける撮影条件の指示情報が撮影条件設定部40に与えられ、coherent control blockにおける撮影条件として設定される。すなわち、coherent control blockにおけるRFコヒーレントコントロールパルスの波形、励起角度および励起位相がコヒーレントコントロールパルスの印加目的に応じて決定される。また、coherent control blockにおける傾斜磁場パルスの印加方法も撮影目的に応じて決定される。
【0106】
次に、ステップS3において、撮影条件設定部40において設定された撮影条件に従ってデータ収集が行われる。
【0107】
すなわち、寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0108】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にデータ収集指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮影条件設定部40からcoherent control blockが設けられたSSFPシーケンスを取得してシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたSSFPシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0109】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0110】
ここで、SSFPシーケンスには、コヒーレントコントロールパルスを印加するためのcoherent control blockが設けられているため、coherent control block後に収集されたk空間データのうち、励起された着目するスピンからのk空間データは、コヒーレントコントロールパルスの作用を受けている。一方、着目していないスピンの位相が保持されるようにcoherent control blockにおける0次モーメント量がゼロとなるように調整されるため、coherent control block前後に亘って着目していないスピンの定常状態は厳密に維持されている。
【0111】
次に、ステップS4において、画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで画像再構成処理を施すことにより画像データを生成する。生成された画像データは画像データベース44に書き込まれて保存される。
【0112】
次に、ステップS5において、画像処理部45は、画像データベース44から画像データを読み込んで、必要な画像処理を行うことにより表示用の画像データを生成する。例えば、画像処理部45は、SSFPシーケンス上に設けられたcoherent control blockの前後において収集されたデータからそれぞれ得られた画像データ間で差分処理を行うことにより、動きのあるスピンが選択的に描出された画像データを生成する。
【0113】
次に、ステップS6において、画像処理部45は、画像処理によって生成された画像データを表示装置34に与える。これにより、表示装置34には、coherent control blockにおけるコヒーレントコントロールパルスによって着目するスピンを含む部分の画像コントラストが変化した画像が表示される。
【0114】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、撮影条件の1つであるSSFPシーケンスにコヒーレントなスピンを付加できるようにしたものである。このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、SSFPシーケンスにおけるスピンの位相連続性を維持しつつコヒーレントコントロールパルスによる画像コントラストの変化を実現することができる。
【0115】
さらにcoherent control blockにおけるスライス傾斜磁場パルスの印加方法を、励起用の励起パルスの印加時におけるスライス傾斜磁場パルスの印加方法と異なるように設定することで、coherent control blockにおけるスライス傾斜磁場パルスおよび励起パルスの印加時におけるスライス傾斜磁場パルスの双方によって励起されるスピンを選択的にラベリングすることができる。この場合にも、励起パルスの印加時におけるスライス傾斜磁場パルスのみで励起されるスピンの定常状態を厳密に維持することができる。
【0116】
また、SSFPシーケンスにおけるラジアル収集時にcoherent control blockを設けることによって動きのあるスピンを選択的にラベリングし、スピンの移動を描出することができる。
【符号の説明】
【0117】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
40 撮影条件設定部
41 シーケンスコントローラ制御部
42 k空間データベース
43 画像再構成部
44 画像データベース
45 画像処理部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数回の高周波励起を一定間隔で繰り返し行うSteady-State Free Precessionパルスシーケンス上において、隣接する高周波励起間の中心時刻を実質的に中心とし、かつ0次モーメント量がゼロとなるようなコヒーレントコントロールパルスを付加したシーケンスに従ってデータを収集するデータ収集手段と、
前記データから画像データを生成する画像データ生成手段と、
を有し、
前記コヒーレントコントロールパルスの印加領域は、撮像領域と独立に任意に設定可能である、
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ収集手段は、前記コヒーレントコントロールパルスとして、ラベリング用の領域選択パルスを付加して前記データを収集するように構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ収集手段は、前記コヒーレントコントロールパルスが印加されるコヒーレントブロック前後の単一又は複数の励起パルスを、イメージングに用いるためのデータを収集しないダミーパルスとして、前記データを収集するように構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、
前記コヒーレントコントロールパルスが印加される際に、前記複数回の高周波励起の際にそれぞれ印加される各傾斜磁場パルスによって励起されるスライスと同一のスライスが励起されるように前記コヒーレントコントロールパルスの傾斜磁場パルスを付加して前記データを収集し、
前記コヒーレントコントロールパルスはインバージョンパルスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記コヒーレントコントロールパルスの直前の励起パルスと共に印加されるスライス傾斜磁場パルスの引き込み部と、前記コヒーレントコントロールパルスと共に印加されるスライス傾斜磁場パルスの引き込み部とは、オーバーラップさせることができる、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記画像データ生成手段は、前記コヒーレントコントロールパルスの印加前に収集された第1のデータから第1の画像データを、前記コヒーレントコントロールパルスの印加後に収集された第2のデータから第2の画像データをそれぞれ生成し、前記第1の画像データおよび前記第2の画像データとの間で差分処理を行うように構成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記データ収集手段は、複数組のコヒーレントコントロールパルスを付加して前記データを収集するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−75198(P2013−75198A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−13332(P2013−13332)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2008−18965(P2008−18965)の分割
【原出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】