説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】オフレゾナンスRFパルスの印加を伴って、より良好なコントラスト及び画質を有するMR画像を収集することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段及びデータ処理手段を備える。データ収集手段は、励起パルスの印加後かつ磁気共鳴信号の読出し前において前記磁気共鳴信号に位相シフトを発生させる第1のオフレゾナンス高周波パルスを印加し、前記磁気共鳴信号の読出し後かつ次の励起パルスの印加前において前記位相シフトを補償する第2のオフレゾナンス高周波パルスを印加する撮像条件に従って前記磁気共鳴信号を収集する。データ処理手段は、前記磁気共鳴信号に対するデータ処理によって取得対象となる情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴(MR: magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。すなわち、MRI装置では核磁気共鳴現象を発生させるために静磁場の強度に比例する共鳴周波数のRFパルスが被検体に印加される。
【0003】
MRI装置では、MR信号が発生するスライスを選択するために、スライス選択励起がしばしば行われる。スライス選択励起は、スライス選択 (SS: slice selection)用の傾斜磁場を印加することによって行われる。SS用の傾斜磁場が印加される場合、MR信号の共鳴周波数が実際には静磁場のみによって定まる共鳴周波数とは異なる。但し、磁気スピンは、スライス選択励起の有無に関わらず、オンレゾナンス、すなわち共鳴状態で励起されるとみなすことができる。
【0004】
これに対して、オフレゾナンスのRF信号の印加を利用するMR信号の収集方法が知られている。この方法では、共鳴周波数から数kHz程度異なる搬送波周波数を有するオフレゾナンスRFパルスが被検体に収集される。オフレゾナンスRFパルスを利用する撮像法の代表例としては、磁化移動コントラスト(MTC: magnetization transfer contrast)法、Bloch-Siegert shiftを利用したRF磁場(B1)の測定法、MTC(magnetization transfer contrast)及び化学交換飽和移動(CEST: chemical exchange saturation transfer)法等が知られている。
【0005】
MTC法では、フィールドエコー(FE: field echo)法(グラディンエントエコー(GE: :gradient echo)法ともいう)によるパルスシーケンスにおいて、オフレゾナンスRFパルスがSS用の傾斜磁場パルスに先だって印加される。また、オフレゾナンスRFパルスの印加後には、横磁化信号を消滅させるための傾斜磁場スポイラパルスが印加される。
【0006】
MTC法において印加されるオフレゾナンスRFパルスは、MT(magnetization transfer)パルスと呼ばれる。MTパルスは組織内の巨大分子や束縛された結合水内におけるプロトンの磁化を飽和させ、自由水内のプロトンへの磁化移動(MT)を発生させる。このMT効果は組織依存性を有するため、MT効果を利用して診断画像を明瞭化することができる。
【0007】
また、オフレゾナンスRFパルスは、B1強度の分布画像の取得にも用いられる。オフレゾナンスRFパルスを利用したB1強度の測定は、Bloch-Siegert shiftを利用している。Bloch-Siegert shiftは、観測周波数に近い周波数のRF信号を照射しながらMR信号を収集すると一定の割合で生じる共鳴周波数のシフトである。具体的には、オンレゾナンスRFパルスによる励起後にオフレゾナンスRFパルスによって更に励起することで発生するMR信号の位相シフトが画像化に利用される。
【0008】
一般的に静磁場の強度が大きくなると、生体内部での電気的な損失や誘電損失によって、B1強度が生体内で不均一となる。このため、画像の均一度が低下する恐れがある。そこで、B1強度の不均一性の改善や評価のために、B1強度の測定が望まれる。B1強度の測定法としては様々な手法が提案されているが、オフレゾナンスRFパルスを利用するB1強度の測定法はB1強度をMR信号の位相にエンコードできる数少ない方法の1つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0315084号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
オフレゾナンスRFパルスの印加を伴う撮像においては、位相シフトによるコントラストの変化やアーチファクトの発生が問題となる。このため、オフレゾナンスRFパルスの印加を伴う撮像では、一層のコントラスト改善及び画質改善が望まれる。
【0011】
本発明は、オフレゾナンスRFパルスの印加を伴って、より良好なコントラスト及び画質を有するMR画像を収集することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段及びデータ処理手段を備える。データ収集手段は、励起パルスの印加後かつ磁気共鳴信号の読出し前において前記磁気共鳴信号に位相シフトを発生させる第1のオフレゾナンス高周波パルスを印加し、前記磁気共鳴信号の読出し後かつ次の励起パルスの印加前において前記位相シフトを補償する第2のオフレゾナンス高周波パルスを印加する撮像条件に従って前記磁気共鳴信号を収集する。データ処理手段は、前記磁気共鳴信号に対するデータ処理によって取得対象となる情報を取得する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示す撮像条件設定部において設定される定常状態自由歳差運動(SSFP: Steady-state free precession)シーケンスの一例を示す図。
【図4】図2に示す撮像条件設定部において設定されるSSFPシーケンスの別の一例を示す図。
【図5】図4に示す第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスと同時に傾斜磁場パルスの印加を設定した例を示す図。
【図6】図3又は図4に示すSSFPシーケンスにおいてTRごとにオフレゾナンス周波数を変えた例を示す図。
【図7】図3又は図4に示すSSFPシーケンスにおいてTRごとにフリップ角を変えた例を示す図。
【図8】図2に示す撮像条件設定部において設定されるB1強度の測定用のパルスシーケンスの一例及びB1強度の取得方法を示す図。
【図9】図2に示す撮像条件設定部において設定されるB1強度の測定用のパルスシーケンスの別の一例及びB1強度の取得方法を示す図。
【図10】図2に示す撮像条件設定部において設定されるECG同期撮像用のパルスシーケンスの例を示す図。
【図11】図2に示す撮像条件設定部において設定されるECG同期シネ撮像用のパルスシーケンスの例を示す図。
【図12】図2に示す撮像条件設定部において設定されるオフレゾナンスRFパルスの強度を示すグラフ。
【図13】図2に示す撮像条件設定部において設定されるFSEシーケンスの一例を示す図。
【図14】図2に示す撮像条件設定部において設定されるHybird EPIシーケンスの一例を示す図。
【図15】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って被検体Pのイメージングを行う際の流れを示すフローチャート。
【図16】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って収集されたMR画像を従来のMR画像と比較した例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0016】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0017】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0018】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0019】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0020】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0021】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0022】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0023】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0024】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0025】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0026】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0027】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0028】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。
【0029】
更に、拍動を表す同期信号の他、呼吸性の周期を有する動きを示す呼吸信号を同期信号として用いることもできる。呼吸信号は、被検体Pの胸部に接触させて呼吸信号を検知する呼吸信号検出ユニット又は時系列のMR信号に基づく公知の信号処理によって取得することができる。
【0030】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0031】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0032】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶部42及び画像データ記憶部43として機能する。特に、撮像条件設定部40は、オフレゾナンスパルス設定部40A及び位相リワインドパルス設定部40Bを有する。
【0033】
撮像条件設定部40は、入力装置33から入力された情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。特に撮像条件設定部40は、所望の目的を有するオフレゾナンスRFパルス及びオフレゾナンスRFパルスの印加によってシフトした位相の回転を戻すための位相リワインドRFパルスの印加を伴う撮像条件を設定する機能を備えている。
【0034】
撮像条件設定部40のオフレゾナンスパルス設定部40Aは、オフレゾナンスRFパルスのフリップ角、周波数及び印加タイミング等のオフレゾナンスRFパルスの印加条件を設定する機能を有する。また、位相リワインドパルス設定部40Bは、位相リワインドRFパルスのフリップ角、周波数及び印加タイミング印加条件を設定する機能を有する。
【0035】
図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるSSFPシーケンスの一例を示す図である。
【0036】
図3において横軸は時間を、RFはRFパルスを、GssはSS方向における傾斜磁場パルスを、Gpeは位相エンコード(PE: phase encode)方向における傾斜磁場パルスを、Groは読出し(RO: readout)方向における傾斜磁場パルスを、DAQはデータ収集を、それぞれ示す。以後示すパルスシーケンスにおいても同様である。
【0037】
図3に示すようにRF励起パルスとしてフリップ角がα、搬送波の周波数がf0'のオンレゾナンスRFパルスがSS用傾斜磁場パルスを伴って、MR信号を発生させるための励起パルスとして撮像対象の所定の領域に印加される。また、励起パルスの直後には、PE用傾斜磁場パルス及びRO方向における傾斜磁場モーメントのコンペンセーションを行うための傾斜磁場パルスが印加される。
【0038】
その後、フリップ角がβ、搬送波の周波数がf0+df(df≠0)の第1のオフレゾナンスRFパルスが照射される。第1のオフレゾナンスRFパルスの搬送周波数f0+dfは、静磁場下におけるMR信号の共鳴周波数f0と、共鳴周波数からの周波数のシフト量に相当するオフレゾナンス周波数dfの和となる。第1のオフレゾナンスRFパルスとしては、フェルミ関数で定義される波形を有するフェルミパルス、矩形パルス又は双曲正割(hyperbolic secant)パルス等の撮像目的に応じた波形を有するRFパルスを用いることができる。
【0039】
第1のオフレゾナンスRFパルスの印加後には、RO用傾斜磁場パルスが印加される。これにより、MR信号のデータ収集が行われる。従って、第1のオフレゾナンスRFパルスは、MR信号の位相を所定の変化量だけシフトさせるRF位相エンコードパルスとして機能する。
【0040】
MRデータの読出し後には、第2のオフレゾナンスRFパルスが印加される。第2のオフレゾナンスRFパルスは第1のオフレゾナンスRFパルスと同じフリップ角βで照射されるが、搬送波の周波数はf0-dfである。すなわち、第2のオフレゾナンスRFパルスの搬送周波数f0-dfは、静磁場下におけるMR信号の共鳴周波数f0と、共鳴周波数に対するオフレゾナンス周波数-dfの和となる。更に、第2のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数-dfは、第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数dfと絶対値が同じで符号が異なる。
【0041】
従って、第1オフレゾナンスRFパルスによる位相エンコードは、第2オフレゾナンスRFパルスによってリワインドされることになる。換言すれば、第1オフレゾナンスRFパルスによる位相シフトが、第2オフレゾナンスRFパルスによって補償される。
【0042】
第2オフレゾナンスRFパルスの印加後には、PE用傾斜磁場パルス及びRO方向における傾斜磁場モーメントのコンペンセーションを行うための傾斜磁場パルスが印加される。その後、撮像目的によっては次の励起パルスに続く同様なRFパルス及び傾斜磁場パルスの印加を一定のTRで繰返し実行することができる。
【0043】
図4は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるSSFPシーケンスの別の一例を示す図である。
【0044】
図4に示すように、第1のオフレゾナンスRFパルスを、励起パルスとデータ読出し前のPE用傾斜磁場パルスとの間に印加する一方、第2のオフレゾナンスRFパルスをデータ読出し後のPE用傾斜磁場パルスと次の励起パルスとの間に印加するようにしてもよい。すなわち、RO用傾斜磁場パルスが第1のオフレゾナンスRFパルスと第2のオフレゾナンスRFパルスとの間において印加される限り、第1のオフレゾナンスRFパルスと第2のオフレゾナンスRFパルスとの間にRO用傾斜磁場パルス以外の傾斜パルスが印加されるようにしてもよい。
【0045】
図3及び図4に示すように、RO用傾斜磁場パルスの印加、つまりMRデータ収集の前後において互いにオフレゾナンス周波数の絶対値が同じで極性が逆の第1のオフレゾナンスRFパルス及び第2のオフレゾナンスRFパルスを印加することによって、TR内において第1オフレゾナンスRFパルスの印加により生じる位相シフトを第2のオフレゾナンスRFパルスの位相リワインド効果によってキャンセルすることができる。
【0046】
従って、所望の目的を有する第1のオフレゾナンスRFパルスを、所望のフリップβ及びオフレゾナンス周波数dfでMR信号の読出しに先だって励起パルスの印加後において印加することができる。例えば、MTパルス、B1測定用のオフレゾナンスRFパルス、CEST法による撮像用のオフレゾナンスRFパルス等のRFパルスとして励起パルスの印加後に第1のオフレゾナンスRFパルスを印加することができる。尚、撮像目的によっては、必要に応じてプリパルスとしてオフレゾナンスRFパルスを印加するようにしてもよい。
【0047】
図5は、図4に示す第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスと同時に傾斜磁場パルスの印加を設定した例を示す図である。
【0048】
図5に示すように第1のオフレゾナンスRFパルスの印加目的に応じて傾斜磁場パルスを第1のオフレゾナンスRFパルスと同時に任意軸方向に印加することができる。この場合、傾斜磁場モーメントの調整のために、第1のオフレゾナンスRFパルスと同時に印加された傾斜磁場パルスと極性が逆の傾斜磁場パルスが第2のオフレゾナンスRFパルスと同時に印加される。
【0049】
図5に示す例では、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスと同時に領域選択用の傾斜磁場パルスがSS方向及びRO方向に印加されている。もちろん図3に示すSSFPシーケンスにおいて第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスと同時に傾斜磁場パルスを印加するようにしてもよい。領域選択用の傾斜磁場パルスとともに印加されるMTパルスは、SORS(slice-selective off-resonance sinc pulse)とも呼ばれる。
【0050】
上述のように、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの各オフレゾナンス周波数±dfの絶対値は同一となるように設定されるが、オフレゾナンス周波数dfの誤差範囲は、収集目的とする画像の画質やB1強度等の測定対象の精度が要求品質を満たす範囲とされる。従って、オフレゾナンス周波数dfの許容誤差範囲は撮像目的に依存する。実際には、オフレゾナンス周波数dfの誤差範囲を数%以内にすることが現実的である。
【0051】
また、MR信号の収集のTRごとに第1のオフレゾナンスRFパルス及び第2のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数及び強度の少なくとも一方を変えることもできる。図6は図3又は図4に示すSSFPシーケンスにおいてTRごとにオフレゾナンス周波数を変えた例を示す図である。また、図7は図3又は図4に示すSSFPシーケンスにおいてTRごとにフリップ角を変えた例を示す図である。
【0052】
すなわち、図6に示すように第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数dfの極性を、TRごとに交互に変えることができる。また、フリップ角についても図4に示すように異なるTR間において異なる角度β1、β2、β3、...に設定することができる。
【0053】
B1の測定、MTC法による撮像及びCEST法による撮像の場合には、図6に示すようにオフレゾナンス周波数dfの極性を交互に反転させて第1のオフレゾナンスRFパルスを繰返し印加するデータ収集条件が実用的である。この他、異なるTR間においてオフレゾナンス周波数の絶対値を異なる値df1, df2, df3, ...に変えるようにしてもよい。MTC法による撮像及びCEST法による撮像の場合には、撮像目的によって異なるTR間においてオフレゾナンス周波数の絶対値を変えることが有用な場合がある。
【0054】
図8は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるB1強度の測定用のパルスシーケンスの一例及びB1強度の取得方法を示す図である。
【0055】
図8に示すように、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴うB1強度及びB0強度の測定用のパルスシーケンスを設定することもできる。すなわち、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの各オフレゾナンス周波数を変えて同一のPE量に対応するMR信号を少なくとも2回収集し、かつ第1及び第2のいずれのオフレゾナンスRFパルスも印加せずにエコー時間(TE: echo time)を変えて同一のPE量に対応するMR信号を2回収集するパルスシーケンスによって、B1強度及びB0強度の双方を求めることができる。換言すれば、図8に示すように、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴うMR信号の収集のためのTEとそれぞれ異なり、かつ互いに異なる2つのTEで第1及び第2のいずれのオフレゾナンスRFパルスも印加せずに同一のPE量に対応するMR信号を2回収集するシーケンスを設定することができる。
【0056】
図8に示すように、第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数は、典型的には絶対値が同一で極性が互いに逆になるように設定することができる。また、実用的な例として、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って収集されるMR信号のTEに対して+ΔTEだけ変化させたTEでオフレゾナンスRFパルスを印加せずにMR信号を収集するデータ収集条件と、-ΔTEだけ変化させたTEでオフレゾナンスRFパルスを印加せずにMR信号を収集するデータ収集条件とを設定することができる。
【0057】
図8に示すシーケンスを実行すると、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って互いに異なるオフレゾナンス周波数で収集される2つのMR信号の位相差φ1を求めることができる。そうすると、位相差φ1は、第1のオフレゾナンスRFパルスの各オフレゾナンス周波数±dfの差のみの影響によって生じた位相シフトと考えることができる。従って、位相差φ1からB1分布を測定することができる。
【0058】
また、オフレゾナンスRFパルスを印加せずにTEをTE±ΔEに変えて収集された2つのMR信号の位相差φ0は、静磁場のみの影響によって生じた位相シフトと考えることができる。従って、位相差φ0からb0分布を測定することができる。
【0059】
図9は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるB1強度の測定用のパルスシーケンスの別の一例及びB1強度の取得方法を示す図である。
【0060】
一方、図9に示すように、図8に示すシーケンスにおいてオフレゾナンスRFパルスの印加を伴わないMR信号の収集のいずれか1つを省略することができる。換言すれば、オフレゾナンスRFパルスを印加せずにMR信号を1回収集するシーケンスとしてもよい。この場合、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って互いに異なるオフレゾナンス周波数で収集される収集される2つのMR信号の位相平均φ0aveが求められる。そうすると、この位相平均φ0aveは、近似的にオフレゾナンスRFパルスの影響をキャンセルした位相とみなすことができる。
【0061】
従って、位相平均φ0aveを基準として、オフレゾナンスRFパルスを印加せずに収集されるMR信号の位相平均φ0aveからの位相差φ0'を求めれば、位相差φ0'はTEの差のみの影響によるMR信号の位相シフト量とみなすことができる。このため、位相差φ0'から簡略的なb0分布(b0')を測定することができる。
【0062】
図8及び図9に示すように、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加後に収集されるMR信号のTEと異なるTEで、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加後に収集されるMR信号のPE量と同一のPE量に対応するMR信号を、オフレゾナンスRFパルスを印加せずに少なくとも1回収集すれば、b1強度及びb0強度の双方を求めることができる。尚、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴うMR信号の収集と、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴わないMR信号の収集の順序は、図8及び図9の例に限らず任意に変更することができる。
【0063】
また、図8及び図9に示すデータ収集を、PE量を変えて繰返せば、RO方向及びPE方向の二次元(2D: two dimensional)データとしてB1マップ及びB0マップを得ることができる。一方、PE量を変えなければ、PE方向へのプロジェクションデータとしてB1マップ及びB0マップが得られる。
【0064】
図8及び図9に示すシーケンスによれば、第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数によるMR信号の位相シフトの影響を単一のTR内においてキャンセルできる。このため、高精度にB1マップ及びB0マップを取得することができる。加えてB1及びB0測定用の複数のMR信号を連続的に収集することによってデータ収集時間を短縮化することができる。
【0065】
更に、図9に示すように、同一のPE量でオフレゾナンスRFパルスの印加を伴わないMR信号の収集を1回にすることができる。この結果、B1マップ及びB0マップの測定のためのデータ収集時間を短縮させることができる。
【0066】
そして、図8及び図9に示すようなB1強度及びB0強度の測定用のシーケンスは、プリスキャン用のシーケンスとして用いる他、イメージングシーケンスの一部として用いることもできる。
【0067】
図10は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるECG同期撮像用のパルスシーケンスの例を示す図である。
【0068】
図10においてECGはECG信号を示す。図10に示すように、ECG信号のR波等の基準波をトリガとするECG同期撮像用のマルチエコーデータ収集シーケンスにおいて、隣り合う励起パルス間に第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を設定することができる。
【0069】
図10は、1心拍(1RR)の間では第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数を一定とし、隣合う心拍間では第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数の極性を変えた例を示している。従って、正負のオフレゾナンス周波数に対応する2つのMR信号が同一のPE量で収集される。例えば、2心拍ごとにPE量を変えることによって、必要なPE量及び正負のオフレゾナンス周波数に対応する全てのMR信号を収集することができる。
【0070】
また、1心拍中に全てのPE量に対応するMR信号を収集せずに、一部のPE量に対応するMR信号を収集するようにしてもよい。この場合、同一のオフレゾナンス周波数に対応するMR信号の収集のためのPE量は1心拍ごとに変わり、必要なPE量に対応するMR信号が複数の心拍に跨って収集される。換言すれば、セグメントk-space法(segment k-space method)によるSSFPシーケンスの励起パルス間に、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を設定することができる。セグメントk-space法は、k空間を複数の領域(セグメント)に分割し、セグメントごとに順次MR信号を収集してk空間内におけるデータを充填するデータ収集法である。
【0071】
尚、同期撮像のための同期信号としては、上述したようにECG信号の他、脈波同期や呼吸信号を用いることも可能である。逆に、セグメントk-space法を用いた非同期撮像用のSSFPシーケンスに第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を設定することもできる。
【0072】
図11は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるECG同期シネ撮像用のパルスシーケンスの例を示す図である。
【0073】
図11に示すようにECG同期シネ撮像用のSSFPシーケンスに第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を設定することもできる。この場合、R波からの遅延時間に相当する心時相ごとに各PE量に対応するMR信号を収集することが必要となる。
【0074】
そこで、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの各オフレゾナンス周波数の極性を反転させたMR信号の収集を図11に示すように連続させることによって、異なるオフレゾナンス周波数に対応する複数のMR信号を同一とみなせる心時相において収集することができる。換言すれば、各心時相に対応するMR信号に対してオフレゾナンスRFパルスによる位相シフト効果を与えることができる。
【0075】
この場合、ECG同期シネ撮像用のSSFPシーケンスは、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの各オフレゾナンス周波数の極性を交互に反転させて繰返しMR信号の連続収集を行う条件となる。つまり、第2のオフレゾナンスRFパルスの位相シフト補償作用によって第1のオフレゾナンスRFパルスによるMR信号の位相シフトがTR内でキャンセルされるため、連続するTR間において高速にオフレゾナンス周波数を変えることができる。尚、PE量は2つのTRごとに変えれば良い。
【0076】
但し、図10に示すように心拍ごとにオフレゾナンス周波数の極性を変えてシネ撮像用に心時相ごとのMR信号を収集してもよい。また、シネ撮像の他、同期ダイナミック撮像又は非同期ダイナミック撮像用のパルスシーケンスにおいても、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を設定することもできる。
【0077】
ところで、オフレゾナンスRFパルスの印加によってMR信号に十分な位相シフトを発生させるためには、オフレゾナンスRFパルスの強度を十分に大きくすることが必要である。しかしながら、オフレゾナンスRFパルスの強度を大きくすると、RF信号の人体への吸収エネルギの大きさを示す指標であるSAR (specific absorption rate)が上昇するという問題がある。
【0078】
そこで、SARを低減するための方法としてオフレゾナンスRFパルスを含むRFパルスが被検体Pに照射されない空き時間を確保する方法と、オフレゾナンスRFパルスの強度を可変にする方法が有効である。
【0079】
空き時間を確保する方法によりSARを低減させる場合には、同期撮像又は非同期撮像用のパルスシーケンスにおいて単位時間当たりのデータ収集回数を一定回数以下とし、間欠的にMR信号のデータ収集を行うようにすればよい。
【0080】
一方、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの強度をPE量、すなわち対応するPE用の傾斜磁場パルスの強度に応じて変化させることによってもSARの上昇を抑制することができる。
【0081】
図12は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるオフレゾナンスRFパルスの強度を示すグラフである。
【0082】
図12において横軸はPE量の指標を示し、縦軸はオフレゾナンスRFパルスのB1強度を示す。オフレゾナンスRFパルスを全身用コイルから送信する場合、被検体Pは全身用コイルの内部に収まるため、B1分布は空間的に緩やかになることが期待できる。従って、大きいPE量に対応するk空間の高周波領域におけるMR信号を収集する場合には、オフレゾナンスRFパルスの強度を小さくしても撮像目的に支障がないことが多い。
【0083】
このような場合には、図12に示すように小さいPE量に対応するk空間の低周波領域におけるMR信号の収集用にはオフレゾナンスRFパルスの強度を相対的に大きくし、大きいPE量に対応するk空間の高周波領域におけるMR信号の収集用にはオフレゾナンスRFパルスの強度を相対的に小さくすることができる。この結果、オフレゾナンスRFパルスの印加強度の合計とともにSARを低減させることができる。
【0084】
ここまでは主としてSSFPシーケンスを例に説明したが、高速フィールドエコー(FFE: fast field echo)シーケンス等の派生シーケンスを含むFE系のシーケンス及び高速スピンエコーFSE(fast spin echo)シーケンス等の派生シーケンスを含むSE系のシーケンスにおいても第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を設定することもできる。
【0085】
図13は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるFSEシーケンスの一例を示す図である。
【0086】
図13に示すようにFSAシーケンスでは、フリップ角α、搬送周波数f0'のオンレゾナンスRFパルスがSS用傾斜磁場パルスを伴って、励起パルスとして撮像対象の所定の領域に印加される。次にフリップ角を180度とし、搬送の周波数がf0'の反転リフォーカスパルスがSS用傾斜磁場パルスを伴って繰返し印加される。隣り合う反転リフォーカスパルスの間には、符号が互いに逆の2つのPE用傾斜磁場パルスが印加され、PE用傾斜磁場パルスの間においてRO用傾斜磁場パルスが印加される。また、反転リフォーカスパルスが印加される度にPE量が変わるように、反転リフォーカスパルスが印加される度に絶対値が異なる強度を有するPE用傾斜磁場パルスが順次印加される。
【0087】
このようなFSAシーケンスでは、異なるPE量に対応する複数のMR信号が各PE用傾斜磁場パルスの間において連続的に収集される。また、PE量がゼロのk空間における中心に対応するMR信号が励起パルスの印加からTE後において収集される。
【0088】
更に、RO用傾斜磁場パルスの印加によるMRデータの読出し前に第1のオフレゾナンスRFパルスを印加し、RO用傾斜磁場パルスの印加によるMRデータの読出し後に第2のオフレゾナンスRFパルスを印加することができる。このため、第2のオフレゾナンスRFパルスの位相リフェーズ機能により、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相シフトをリフェーズすることができる。
【0089】
従ってFSEシーケンスをCPMG (Carr-Purcell Meiboom-Gill sequence)とする場合に重要となる位相コヒーレンスを維持することができる。尚、CPMGは、RFパルスの印加による位相誤差を抑制するためにRFパルスの位相を変えてMR信号を収集するシーケンスである。
【0090】
また、図12に示すグラフを参照して説明したように、大きい強度のPE用傾斜磁場パルスが印加されるk空間の高周波領域におけるMR信号の読出し前後では第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの強度をゼロ又は小さな値にすることができる。これによりSARの低減を図ることができる。
【0091】
尚、図13に示すような単一の極性を有する1つのRO用傾斜磁場パルスを反転リフォーカスパルス間に印加するFSEシーケンスの他、反転リフォーカスパルス間に極性を反転させた複数のRO用傾斜磁場パルスを印加することによって複数のMR信号を収集するHybird EPI(hybrid echo planer imaging)シーケンスにおいて第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスを印加するようにしてもよい。尚、Hybird EPIシーケンスはGRASE(gradient and spin echo) シーケンスとも呼ばれる。
【0092】
図14は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるHybird EPIシーケンスの一例を示す図である。
【0093】
図14に示すように、Hybird EPIシーケンスでは、フリップ角をα、搬送波の周波数をf0'とするオンレゾナンスRF励起パルスに続いてフリップ角をγ、搬送波の周波数をf0''とするオンレゾナンスRFリフォーカスパルスがSS用傾斜磁場パルスとともに繰返し印加される。また、隣合うリフォーカスパルス間には、極性が交互に反転する複数のRO用傾斜磁場パルスが印加され、RO傾斜磁場パルス間にはPE用傾斜磁場パルスが印加される。このため、互いに異なるPE量に対応する複数のMR信号が隣合うリフォーカスパルス間において連続的に収集される。
【0094】
そこで、TR内におけるSS用傾斜磁場パルスとMR信号の読出し前に印加される最初のPE用傾斜磁場パルスとの間又はMR信号の読出し前に印加される最初のPE用傾斜磁場パルスとRO用傾斜磁場パルスとの間に第1のオフレゾナンスRFパルスを印加することができる。また、TR内における最後のRO用の傾斜磁場パルスと最後のPE用傾斜磁場パルスとの間又は最後のPE用傾斜磁場パルスとSS用傾斜磁場パルスとの間に第2のオフレゾナンスRFパルスを印加することができる。これにより、上述したような第1のオフレゾナンスRFパルスによるMR信号の位相エンコード効果及び第2のオフレゾナンスRFパルスによるMR信号の位相リワインド効果をHybird EPIシーケンスにおいても得ることができる。
【0095】
一方、コンピュータ32のデータ処理部41は、撮像条件設定部40において設定された撮像条件下におけるイメージングスキャンによって収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置する機能、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能、再構成して得られた画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、画像データ記憶部43から取り込んだ画像データに必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。
【0096】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0097】
図15は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って被検体Pのイメージングを行う際の流れを示すフローチャートである。
【0098】
まずステップS1において、撮像条件設定部40は、所望の目的を有するオフレゾナンスRFパルス及びオフレゾナンスRFパルスの印加によってシフトした位相の回転を戻すための位相リワインドRFパルスの印加を伴うパルスシーケンスを含む撮像条件を設定する。すなわち、図3から図11、図13又は図14に示すように励起パルスの印加後かつMR信号の読出し前においてMR信号に位相シフトを発生させる第1のオフレゾナンスRFパルスを印加し、MR信号の読出し後かつ次の励起パルスの印加前において位相シフトを補償する第2のオフレゾナンスRFパルスを印加する撮像条件が撮像条件設定部40において設定される。
【0099】
まずステップS2において、シーケンスコントローラ31や静磁場用磁石21等の磁気共鳴イメージング装置20のスキャンを行うための構成要素は、撮像条件設定部40において設定された撮像条件に従ってMR信号を収集する。
【0100】
そのために予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0101】
そして、入力装置33から撮像条件設定部40にデータ収集開始指示が与えられると、撮像条件設定部40はパルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する。このため、シーケンスコントローラ31は、撮像条件に従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0102】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、MR信号に所要の信号処理を実行した後、A/D (analog to digital)変換することにより、デジタルデータのMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に出力する。シーケンスコントローラ31は、生データをコンピュータ32に出力する。
【0103】
そうすると、コンピュータ32のデータ処理部41は、生データをk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する。このようなk空間データの収集及びk空間への配置は、パルスシーケンスに従って繰返し実行される。
【0104】
k空間データの収集をパルスシーケンスに沿って説明すると、まずステップS21においてオンレゾナンスRFパルスがMR信号を発生させるための励起パルスとして被検体Pに照射される。また、FSEシーケンスやHybird EPIシーケンスの場合には、リフォーカスパルスとしてオンレゾナンスRFパルスが印加される。次に、ステップS22において、第1のオフレゾナンスRFパルスがMR信号に対するRF位相エンコードパルスとして印加される。
【0105】
これにより、ステップS23において、RO用傾斜磁場パルスの印加によって位相エンコードされたMR信号がサンプリングされる。次にステップS24において、MR信号の読出し後に、第2のオフレゾナンスRFパルスがRF位相リワインドパルスとして印加される。これにより、第1のオフレゾナンスRFパルスにより磁気スピンに生じた位相シフトが補償される。
【0106】
次に、ステップS25において、診断画像やB1分布等の目的とする医用情報を得るために必要な全てのMR信号が収集されたか否かがデータ処理部41において判定される。必要なMR信号が全て収集されていない場合には、ステップS21からステップS24までのRFパルスの印加及びMR信号のサンプリングが繰返される。この結果、医用情報を得るためのデータ処理の対象となる全てのMR信号が収集される。
【0107】
尚、励起パルスを1回印加するシングルショットのFSEシーケンスやHybird EPIシーケンスの場合には、ステップS21においてリフォーカスパルスが印加されることとなる。また、セグメントk-space法によるデータ収集の場合には、k空間を分割して得られる複数のセグメントに対応するMR信号を順次収集することによって医用情報を得るためのデータ処理の対象となる全てのMR信号が収集される。
【0108】
ステップS25において、全てのMR信号が収集されたと判定された場合には、ステップS3において、MR信号に基づく画像再構成処理や画像解析処理等の目的に応じたデータ処理が実行される。すなわち、データ処理部41は、k空間データとして収集されたMR信号に対するデータ処理によって、MR画像やB1強度等の取得対象となる情報を取得する。
【0109】
例えば、MTC法による撮像であれば、第1のオフレゾナンスRFパルスのB1強度等の条件を変えて収集されたMR信号の強度比がMT比として求められる場合がある。また、B1強度の測定が目的であれば、第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数等の条件を変えて収集されたMR信号の位相差がB1強度に換算される。
【0110】
更に、図9に示すように第1のオフレゾナンスRFパルスの印加後に収集されるMR信号のTEと異なるTEで、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加後に収集されるMR信号のPE量と同一のPE量に対応するMR信号が、オフレゾナンス高周波パルスを印加せずに少なくとも1回収集されている場合には、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加後に収集されたMR信号及びオフレゾナンスRFパルスを印加せずに収集されたMR信号に基づいてB1の強度分布及びB0の強度分布が取得される。
【0111】
図16は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴って収集されたMR画像を従来のMR画像と比較した例を示す図である。
【0112】
図16の各MR画像は、生理食塩水と硫酸銅を付加した水を封入したファントムを、15[T]の静磁場下においてSSFPシーケンスを用いて撮像したものである。
【0113】
図16(A)は、第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数を±dfに変化させ、かつ第2のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相リワインドを行って得られた位相差画像である。すなわち、図16(A)に示す位相差画像は、搬送周波数をf0+dfとする第1のオフレゾナンスRFパルスに対応する位相画像と、搬送周波数をf0-dfとする第1のオフレゾナンスRFパルスに対応する位相画像との差分画像である。
【0114】
一方は、図16(B)は、第1のオフレゾナンスRFパルスのオフレゾナンス周波数を±dfに変化させ、かつ第2のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相リワインドを行わずに得られた位相差画像である。
【0115】
図16(A)及び(B)に示す位相差画像は、いずれも輝度の調整によってB1強度がグレースケールで表示されるようにした画像である。すなわち、B1強度が大きいピクセル程、白く表示される。
【0116】
図16(B)に示す位相差画像では、ファントムの左右のピクセルが極端に白く表示されているのが確認できる。すなわち、ファントムの左右において異常なB1強度が示されている。これに対して図16(A)に示す位相差画像では、ファントムの左右における異常な表示が改善されていることが確認できる。また、1.5[T]の静磁場下において予想されるB1強度分布が示されている。
【0117】
また、図16(C)は、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相エンコード及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相リワインドを行って得られたMR信号の絶対値画像である。これに対して図16(D)は、第1のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相エンコードを行い、第2のオフレゾナンスRFパルスの印加による位相リワインドを行わずに得られたMR信号の絶対値画像である。
【0118】
図16(D)に示す絶対値画像では、一方の画像にバンディングアーチファクトが確認できる。これは、第1のオフレゾナンスRFパルスによる位相シフトがリワインドされず、MR信号の強度及び位相が位相シフトの影響を受けたためであると考えられる。これに対して、図16(C)に示す絶対値画像からはバンディングアーチファクトが消滅していることが確認できる。
【0119】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、第1及び第2の2つのオフレゾナンスRFパルスの照射を利用してMR信号に対する位相エンコードと位相リワインドの双方をTR内において行えるようにしたものである。
【0120】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、TR内においてオフレゾナンスRFパルスの印加により生じたMR信号の位相シフトをキャンセルすることができる。この結果、MT画像の収集やB1強度の測定等を目的とするオフレゾナンスRFパルスの印加を伴うデータ収集を、従来は困難であったFFEシーケンス、SSFPシーケンス及びFSEシーケンス等の短いTRで読出しを繰返すパルスシーケンスを用いて実行することができる。換言すれば、FFEシーケンス、SSFPシーケンス及びFSEシーケンス等の高速撮像用のパルスシーケンスにおいて、画質を劣化させることなくオフレゾナンスRFパルスによるMR信号に対する所望の位相シフトや飽和効果を得ることができる。
【0121】
特に、従来のMT法による撮像では、オフレゾナンスRFパルスがMTプリパルスとして印加されている。これに対して、磁気共鳴イメージング装置20によれば、プリパルスを印加せずに、MT効果を得ることができる。このため、データ収集期間の間に生じる空き時間を低減させ、単位時間当たりのデータ収集効率を増加することができる。加えて、プリパルスの印加に伴う間欠的なデータ収集に起因するコントラストの変化及びアーチファクトの発生を回避することができる。
【0122】
また、比較的強度が小さいオフレゾナンスRFパルスを飽和パルスとして印加しても、十分なコントラストの改善効果を得ることができる。
【0123】
更に、高速撮像用のパルスシーケンスを用いたセグメントk-space法によるデータ収集においても、オフレゾナンスRFパルスの付加が可能となる。
【0124】
また、第1及び第2のオフレゾナンスRFパルスの印加を伴うTRに、オフレゾナンスRFパルスの印加を伴わないTEを変えたTRを付加することにより、B1分布及びB0分布の双方の情報を得ることができる。
【0125】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0126】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮像条件設定部
40A オフレゾナンスパルス設定部
40B 位相リワインドパルス設定部
41 データ処理部、
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起パルスの印加後かつ磁気共鳴信号の読出し前において前記磁気共鳴信号に位相シフトを発生させる第1のオフレゾナンス高周波パルスを印加し、前記磁気共鳴信号の読出し後かつ次の励起パルスの印加前において前記位相シフトを補償する第2のオフレゾナンス高周波パルスを印加する撮像条件に従って前記磁気共鳴信号を収集するデータ収集手段と、
前記磁気共鳴信号に対するデータ処理によって取得対象となる情報を取得するデータ処理手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ収集手段は、k空間を分割して得られる複数のセグメントに対応する磁気共鳴信号を順次収集することによって前記データ処理の対象となる前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ収集手段は、位相エンコード量に応じて前記第1及び第2のオフレゾナンス高周波パルスの強度を変化させるように構成される請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、前記磁気共鳴信号の収集の繰返し時間ごとに前記第1及び第2のオフレゾナンス高周波パルスのオフレゾナンス周波数及び強度の少なくとも一方を変えるように構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記データ収集手段は、前記第1のオフレゾナンス高周波パルスの印加後に収集される前記磁気共鳴信号のエコー時間と異なるエコー時間で、前記第1のオフレゾナンス高周波パルスの印加後に収集される前記磁気共鳴信号の位相エンコード量と同一の位相エンコード量に対応する磁気共鳴信号を、オフレゾナンス高周波パルスを印加せずに少なくとも1回収集するように構成され、
前記データ処理手段は、前記第1のオフレゾナンス高周波パルスの印加後に収集された磁気共鳴信号及び前記オフレゾナンス高周波パルスを印加せずに収集された磁気共鳴信号に基づいて高周波磁場の強度分布及び静磁場の強度分布を前記情報として取得するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−85557(P2013−85557A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225458(P2011−225458)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】