磁気共鳴スペクトロスコピー装置
【課題】一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得る磁気共鳴スペクトロスコピー装置を提供する。
【解決手段】 装置(10)は、特定領域から第1の核磁気共鳴信号を受信する受信部(150)と、受信部で受信した第1の核磁気共鳴信号を記憶する記憶部(172)と、第1の核磁気共鳴信号に基づいて周波数スペクトラムを算出する画像処理部(174)とを備える。さらに装置は、周波数スペクトラムの特定物質のSN比が閾値以下であるか否かを判定するSN比判定部(178)と、SN比が閾値以下である場合に、受信部に特定領域から第2の核磁気共鳴信号を受信させる制御部(171)と、を備える。そして画像処理部は、第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する。
【解決手段】 装置(10)は、特定領域から第1の核磁気共鳴信号を受信する受信部(150)と、受信部で受信した第1の核磁気共鳴信号を記憶する記憶部(172)と、第1の核磁気共鳴信号に基づいて周波数スペクトラムを算出する画像処理部(174)とを備える。さらに装置は、周波数スペクトラムの特定物質のSN比が閾値以下であるか否かを判定するSN比判定部(178)と、SN比が閾値以下である場合に、受信部に特定領域から第2の核磁気共鳴信号を受信させる制御部(171)と、を備える。そして画像処理部は、第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴スペクトロスコピー装置に関する。特に代謝物質毎の分布を測定するスペクトログラムのSN比の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気共鳴現象を利用することで、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像では得られない代謝物質の濃度分布をスペクトルにより視覚的に捉えることができる磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS:Magnetic Resonance Spectroscopy)装置が開発されている。MRSとは、様々な分子の化学結合の違いによる磁気共鳴周波数の差異(ケミカルシフト)に基づいて、分子ごとの信号を分離する方法である。ケミカルシフトは、ある分子中の原子核の磁場が付近に存在する原子核によって作られる磁場の影響を受け、それにより同じ原子核であっても周囲の環境により共鳴周波数の違いが生じることで発生する。
【0003】
MRSにおいて、病態の状況を把握するためには、代謝物質の相対量的情報が重要となる。正確な情報を得るためには撮影回数を増やせばよいが、臨床の現場においては、限られた検査時間に、最良の撮影を行わなくてはならない。現状のMRSでは、撮影が終了してから代謝物質の情報を確認するが、その時点でSN(Signal Noize)比が低い場合でも、代謝物質の量的情報を検討しなくてはならない。
【0004】
特許文献1の装置では、エッジフィルタをSN比が低いスペクトログラムに対して処理することで、高分解能のスペクトログラムを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−301118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エッジフィルタで処理しても、結果としてスペクトログラムが不正確になることもあり、虚部信号によって代謝物質量が実際に存在しているものより多く見えてしまうこともある。そこで操作者又は医師に誤解を与えないスペクトログラム、つまり一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得ることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得る磁気共鳴スペクトロスコピー装置を提供する。
【0008】
第1の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、被検体の特定領域に高周波磁場を照射する送信部と、特定領域から第1の核磁気共鳴信号を受信する受信部と、受信部で受信した第1の核磁気共鳴信号を記憶する記憶部と、第1の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する算出部とを備える。さらに、磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、周波数スペクトラムの特定物質のSN比が閾値以下であるか否かを判定するSN比判定部と、SN比が閾値以下である場合に、送信部に再び高周波磁場を照射させ、受信部に特定領域から第2の核磁気共鳴信号を受信させる制御部と、を備える。そして画像処理部は、第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する。
つまり、SN比が低かった場合でも、さらに第1の核磁気共鳴信号に加えて、必要な受信回数だけ第2の核磁気共鳴信号を得て、周波数スペクトラムを算出する。
【0009】
第2の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置の制御部は、第1の核磁気共鳴信号の受信回数とSN比とに基づいて、閾値に達する不足の受信回数を算出し、受信部に第2の核磁気共鳴信号を不足の受信回数分だけ受信させる。
第3の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置の制御部は、第2の核磁気共鳴信号の撮影時間に基づいて、受信回数を算出する。
【0010】
第4の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、SN比が閾値を入力する入力部をさらに備える。
第5の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、SN比を計算するSN比計算部を備え、SN比計算部は、周波数スペクトラムを信号領域とノイズ領域とに判別分析し、特定物質のピークとノイズ成分の平均値とに基づいてSN比を計算する。
【0011】
第6の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置の画像処理部は、複数のボクセル毎の周波数スペクトラムを算出する際には、複数のボクセルの少なくとも1つが基準ボクセルとして設定され、SN比判定部は、基準ボクセルにおいて、SN比が閾値以下であるか否かを判定する。
第7の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、基準ボクセルが二以上の場合には、SN比判定部は、基準ボクセルにおいて、SN比を平均化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】磁気共鳴イメージング装置10の概略構成図である。
【図2】第1実施形態のスペクトラムの算出フローチャートである。
【図3】第1の核磁気共鳴信号に基づいたスペクトログラムSP1の一例である。
【図4】スペクトログラムSP1の信号領域SAとノイズ領域NAとを示す図である。
【図5】第1及び第2の核磁気共鳴信号に基づいたスペクトログラムSP2の一例である。
【図6】第2実施形態のスペクトログラムの算出フローチャートである。
【図7】第3実施形態のマルチボクセルに基づいた、設定とスペクトログラムとを示した図である。
【図8】第3実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1から第3実施形態の磁気共鳴スペクトロスコピー装置(MRS:Magnetic Resonance Spectroscopy)について説明する。また、以下では、本発明に係る磁気共鳴スペクトロスコピー装置の機能を搭載した磁気共鳴イメージング装置を実施形態として説明し、磁気共鳴イメージング装置を「MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置」と呼ぶ。
【0015】
<<第1実施形態>>
<磁気共鳴イメージング装置の構成>
第1実施形態に係るMRI装置の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係るMRI装置の構成を説明するための図である。なお、第1実施形態に係るMRI装置は、MRI画像を撮影するとともに、関心領域における磁気共鳴スペクトルを収集して、複数の代謝物質の濃度分布強度を示すスペクトル画像を生成する装置である。図1を参照して、第1実施形態の磁気共鳴イメージング装置10の構成及びその基本動作について説明する。
【0016】
磁気共鳴イメージング装置10は、マグネットシステム100、勾配コイル駆動部130、RFコイル駆動部140、データ収集部150、パルスシーケンス制御部160、演算部170、表示部180及び操作部190を有する。
【0017】
マグネットシステム100は、主磁場コイル部102、勾配コイル部106及びRFコイル部108を有している。これら各コイル部は概ね円筒状の形状を有し、概ね円柱状のボアに互いに同軸状に配置されている。ボア内には被検者SBが寝台110に載置されており、寝台110は、撮影部位に応じて、マグネットシステム100内のボア内を移動可能になっている。
【0018】
主磁場コイル部102は、マグネットシステム100の内部空間に静磁場を形成する。静磁場の方向は、概ね被検者SBの体軸の方向に平行であり水平磁場を形成する。主磁場コイル部102は、通常、超伝導コイルを用いて構成されるが、超伝導コイルに限らず永久磁石等を用いて構成してもよい。
【0019】
勾配コイル部106は、互いに直交する3軸、すなわち、スライス軸、位相軸及び周波数軸の方向において、それぞれ主磁場コイル部102によって形成された静磁場強度に勾配を持たせるための3種の勾配磁場を発生する。このような勾配磁場の発生を可能にするために、勾配コイル部106は、図示しない3系統の勾配コイルを有する。勾配コイル部106には勾配コイル駆動部130が接続されており、勾配コイル駆動部130は勾配コイル部106に駆動信号を与えて勾配磁場を発生させる。勾配コイル駆動部130は、勾配コイル部106における3系統の勾配コイルに対応して、図示しない3系統の駆動回路を有する。
【0020】
RFコイル部108は、静磁場空間に被検者SBの体内のスピンを励起するための高周波磁場を形成する。高周波磁場を形成することをRF励起信号の送信といい、RF励起信号をRFパルスという。RFコイル部108にはRFコイル駆動部140が接続されており、RFコイル駆動部140はRFコイル部108に駆動信号を与え、その駆動信号に基づいてRFコイル部108はRFパルスを送信する。励起されたスピンが生じる電磁波すなわち核磁気共鳴信号は、RFコイル部108によって受信される。RFコイル部108にはデータ収集部150が接続されている。データ収集部150は、RFコイル部108が受信した核磁気共鳴信号をデジタルデータとして収集する。
【0021】
勾配コイル駆動部130、RFコイル駆動部140及びデータ収集部150にはパルスシーケンス制御部160が接続されている。
【0022】
パルスシーケンス制御部160は、操作者が入力した撮影条件、すなわち撮影プロトコルに従い、勾配コイル駆動部130及びRFコイル駆動部140を駆動させる。より具体的には、パルスシーケンス制御部160は、「MRI画像を撮影するためのシーケンス情報」および「スペクトログラムを撮影するためのシーケンス情報」を生成する。それらシーケンス情報は、勾配コイル駆動部130及びRFコイル駆動部140に送信される。
【0023】
表示部180は、グラフィックディスプレー等で構成されている。表示部180は演算部170に接続されている。表示部180は、GUIの操作画面、MRI画像再構成用の核磁気共鳴信号に基づいて画像再構成された磁気共鳴画像、及びスペクトログラム用の核磁気共鳴信号に基づいてスペクトログラムなどを表示することができる。
【0024】
操作部190は、ポインティングデバイスを有するキーボード等で構成される。操作部190は演算部170に接続されている。操作部190は、操作者によって表示部180を介して操作される。操作部190は、キーボード等の代わりに表示部180にタッチパネルを配置してもよい。
【0025】
演算部170は、制御部171、記憶部172、画像処理部174、SN比計算部176及びSN比判定部178を有する。
演算部170は、各種データの処理及びプログラムを実行する。制御部171は、データ収集部150及びパルスシーケンス制御部160等を制御する。記憶部172は、各種撮影プロトコル、各種プログラム及び各種データを記憶する。また記憶部172は、データ収集部150が収集した核磁気共鳴信号を記憶する。
【0026】
画像処理部174は、MRI画像再構成用の核磁気共鳴信号に基づいて磁気共鳴画像を画像再構成する。また、画像処理部174はスペクトログラム用の核磁気共鳴信号をフーリエ変換して周波数空間のデータに変換する。画像処理部174はその周波数空間のデータを周波数に対してプロットしてスペクトログラムを生成する。
【0027】
SN比計算部176は、このスペクトログラムをまず信号領域とノイズ領域とに二分化する。例えば判別分析法を適用して、スペクトログラムの信号値が、基準値より大きい領域と、信号値が基準値より小さい領域とに、スペクトログラムの周波数の領域を二分化する。信号値が基準値以上の領域を信号領域、信号値が基準値以下の領域をノイズ領域とする。そして、SN比計算部176は、信号領域のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。
【0028】
SN比判定部178は、SN比と閾値とを比較し、SN比が閾値を越えているか否かを判定する。
【0029】
<スペクトログラムの生成工程>
図2は、第1実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。
ステップS11では、操作者は、スペクトログラムに要求するSN比の閾値を入力する。大脳のスペクトログラムを生成する際には、代謝物質として、例えばクロアチン(Creatine)、コリン(Cholin)又はNAA(N-Aceryl-L―aspartate)が選ばれる。部位によっては、代謝物質として、乳酸又はクエン酸等が選ばれることもある。第1実施形態では、操作者は、操作部190を介して、例えば、代謝物質としてクロアチンのピークとノイズ領域の平均値とのSN比の閾値を“8”と入力する。
【0030】
なお、磁気共鳴イメージング装置10の記憶部172が、これまでの経験値等からデフォルトとして閾値を記憶している場合には、ステップS11を省略してもよい。また、第1実施形態のSN比は、代謝物質のピークの高さとノイズ領域の平均値とのピーク信号対雑音比(PSNR)で説明する。しかし、本発明はこれに限られず、代謝物質の平均値とノイズ領域の平均値とのSN比を適用してもよい。
【0031】
ステップS13では、まず表示部180に撮影条件設定用の初期画面が表示される。操作者は、表示された被検者SBの大脳内に撮影領域を設定し、ボクセルサイズを設定する。さらに操作者は、データ収集部150が収集するスペクトログラム用の核磁気共鳴信号の受信回数を設定する。第1実施形態では、操作者は、1箇所のボクセル(シングルボクセル)を設定し、操作部190を介して、例えば受信回数を“30”と入力する。
【0032】
ステップS15では、演算部170の指令に応じて、パルスシーケンス制御部160が、撮影プロトコルに従い、スペクトログラムを撮影するためのパルスシーケンスを送信する。
【0033】
ステップS17では、データ収集部150が、RFコイル部108が受信した第1の核磁気共鳴信号を収集する。収集された第1の核磁気共鳴信号は、記憶部172に記憶される。記憶部172に記憶された第1の核磁気共鳴信号は、少なくとも本フローチャートの終了ステップに至るまでは記憶されている。
【0034】
ステップS19では、画像処理部174が、記憶された第1の核磁気共鳴信号に基づいて、スペクトログラムを生成する。詳述すると画像処理部174は、第1の核磁気共鳴信号をフーリエ変換し、周波数空間のデータに変換する。画像処理部174は、その周波数空間のデータを周波数に対してプロットしてスペクトログラムSP1を生成する。例えば図3は、その一例である。図3の横軸は基準物質からの周波数のずれの割合(ケミカルシフト量)を示し、縦軸はその周波数の波の波高、すなわち水素原子の量を示している。
【0035】
ステップS21では、SN比計算部176が、代謝物質としてクロアチンのピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。詳細は図4を参照しながら説明する。SN比計算部176は、図4に表示されたスペクトログラムSP1を、例えば判別分析法を適用して、まず信号領域とノイズ領域とに二分化する。スペクトログラムSP1の信号値が、基準値STより大きい領域と、信号値が基準値STより小さい領域とに、スペクトログラムの周波数の領域を二分化する。信号値が基準値以上の領域を信号領域SA、信号値が基準値以下の領域をノイズ領域NA(網掛け領域)とする。
【0036】
さらに、SN比計算部176は、ノイズ領域NAの平均値を計算し、ノイズ領域NAの平均値との信号領域SAのピークとSN比を計算する。例えば第1実施形態では、代謝物質がケミカルシフト量3.02ppmのクロアチンであり、クロアチンのピークの波高PK1とノイズ領域NAの平均値NV1とのSN比を計算する。代謝物質がクロアチンと決まっていれば、すべてのノイズ領域NAの平均値ではなく、クロアチンの周辺のノイズ領域NAの平均値を使用してもよい。第1実施形態では、SN比が“6”であったと仮定する。
【0037】
ステップS23では、SN比判定部178がステップS11で設定された閾値よりSN比が大きいかを判定する。SN比が大きいということは、操作者又は医師が充分にそのスペクトログラムSP1を使って代謝物質を判断することができることを意味する。そのため、スペクトログラムSP1の生成はここで終了する。SN比が閾値を越えない場合には、ステップS25に進む。第1実施形態では、ステップS11で設定された閾値が“8”であり、SN比が“6”であるため、ステップS25に進む。
【0038】
ステップS25では、SN比計算部176が、さらに核磁気共鳴振動を受信する回数を計算する。SN比が“6”のスペクトログラムSP1は、受信回数が30回のパルスシーケンスで生成された。このため、SN比計算部176は、30(受信回数)×8(閾値)/6(SN比)−30(受信回数)=10(不足分の受信回数)と計算する。つまり、10回以上、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を受信すれば、SN比の高いスペクトログラムを得ることができることがわかる。
【0039】
ステップS27では、パルスシーケンス制御部160が、10回以上の核磁気共鳴信号を受信する撮影プロトコルに従い、パルスシーケンスを送信する。
ステップS29では、データ収集部150が、RFコイル部108が受信した第2の核磁気共鳴信号を収集する。収集された第2の核磁気共鳴信号は、記憶部172に記憶される。
【0040】
ステップS31では、画像処理部174が、記憶された第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて、スペクトログラムSP2を生成する。例えば図5は、第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて生成されたスペクトログラムSP2の一例である。図5では、スペクトログラムSP2がスペクトログラムSP1(点線)と併記して描いてある。スペクトログラムSP2は、SN比が大きいため、操作者又は医師が充分にそのスペクトログラムSP2を使って代謝物質を判断することができる。
【0041】
<<第2実施形態>>
<スペクトログラムの生成工程>
図6は、第2実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。第2実施形態では、第1実施形態のフローチャートに撮影時間の条件が加えられている。第1実施形態の生成フローチャートとは、ステップS11、S13、S25及びS27が異なっている。このため、新たなステップS11R、S13R、S25R及びS27Rのみを説明する。磁気共鳴イメージング装置の構成は第1実施形態と同じである。
【0042】
ステップS11Rでは、操作者は、スペクトログラムに要求するSN比の閾値を入力する。第2実施形態でも、操作者は、代謝物質としてクロアチンのピークとノイズ領域の平均値とのSN比の閾値を“8”と入力する。さらに、操作者は、上限の撮影時間を入力する。例えば操作者は、被検者SBの体調などを考慮して、撮影時間の上限を5分と設定する。
【0043】
ステップS13Rでは、操作者は、表示された被検者SBの大脳内に撮影領域を1箇所に設定し、ボクセルサイズ及びスペクトログラム用の核磁気共鳴信号の受信回数を設定する。これにより、演算部170は、パルスシーケンスの送信(撮影開始)から表示部180にスペクトログラムを表示する(撮影終了)までの時間を算出する。例えば、第2実施形態では、操作者は、操作部190を介して、例えば受信回数を“30”と入力したため、撮影時間が4分と算出する。
【0044】
ステップS25Rでは、SN比計算部176が、さらに核磁気共鳴振動を受信する回数を計算する。SN比が“6”のスペクトログラムSP1は、受信回数が30回のパルスシーケンスで生成された。このため、SN比計算部176は、30(受信回数)×8(閾値)/6(SN比)−30(受信回数)=10(不足分の受信回数)と計算する。つまり、10回以上、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を受信すれば、SN比の高いスペクトログラムを得ることができることがわかる。
【0045】
一方、演算部170は、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を10回分受信する撮影時間を算出する。演算部170は、例えば、パルスシーケンスの送信(撮影開始)から表示部180にスペクトログラムを表示する(撮影終了)までに2分かかると算出する。すでに、ステップS15からステップS23までに撮影時間が4分経過しているため、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を10回分受信すると合計撮影時間が6分になってしまう。これでは、ステップS11Rで設定した上限の撮影時間が5分を越えてしまう。そこで、演算部170は、残りの撮影時間1分で得られるパルスシーケンスをパルスシーケンス制御部160に指示する。例えば、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を5回分受信できるパルスシーケンスになる。
【0046】
ステップS27Rでは、パルスシーケンス制御部160が、5回の核磁気共鳴信号を受信する撮影プロトコルに従い、パルスシーケンスを送信する。
【0047】
第2実施形態では、被検者SBの体調などの許す範囲で、充分にSN比が改善されたスペクトログラムSP2を使って代謝物質を操作者又は医師が判断することができる。
【0048】
<<第3実施形態>>
第1実施形態及び第2実施形態では、シングルボクセルを設定した際に、複数回、核磁気共鳴信号を収集する場合について説明した。第3実施形態では、マルチボクセルを設定する例を説明する。
【0049】
図7(a)は、操作者は、撮影条件設定用の初期画面にマルチボクセルの撮影領域を設定した状態を示した図である。図7(b)は、各ボクセルサイズのスペクトログラムを示した図である。
【0050】
<スペクトログラムの生成工程>
図8は、第3実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。第1実施形態の生成フローチャートとは、ステップS13、及びS21が異なっている。このため、新たなステップS13T、及びS21Tのみを説明する。磁気共鳴イメージング装置の構成は第1実施形態と同じである。
【0051】
ステップS13Tでは、まず表示部180に図7(a)に示されるような、撮影条件設定用の初期画面が表示される。操作者は、表示された被検者SBの大脳内に撮影領域を設定し、ボクセルサイズ及びボクセル数を設定する。図7(a)では9つのボクセルVX(VX1〜VX9)が設定されている。また、第1及び第2実施形態と同様に、操作者は、データ収集部150が収集するスペクトログラム用の核磁気共鳴信号の受信回数を設定する。
【0052】
さらに、操作者は、ボクセルVX(VX1〜VX9)から基準ボクセルSVXを1つ設定する。例えばボクセルVX5が基準ボクセルSVXと設定される。代謝物質のピークの高さとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する場合、9つのボクセルVX(VX1〜VX9)があると、撮影領域の違い等から各々のSN比が異なる。このため、マルチボクセルの撮影領域の場合には、基準ボクセルSVXを1つ設定する。
【0053】
ステップS21Tでは、SN比計算部176が、基準ボクセルSVXであるボクセルVX5における代謝物質のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。
【0054】
なお、第3実施形態の応用例として、基準ボクセルSVXを2つ以上設定するように応用してもよい。例えばステップS13Tで、基準ボクセルSVXをボクセルVX5とボクセルVX6との2つに設定したい場合を考える。この場合には、ステップS21Tで、SN比計算部176が、ボクセルVX5における代謝物質のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算し、且つボクセルVX6における代謝物質のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。そしてSN比計算部176は、ボクセルVX5のSN比とボクセルVX6のSN比とを平均化する。SN比判定部178は、その平均化されたSN比が閾値より大きいかを判定すればよい。
【符号の説明】
【0055】
10 … 磁気共鳴イメージング装置
100 … マグネットシステム
102 … 主磁場コイル部
106 … 勾配コイル部
108 … RFコイル部
110 … 寝台
130 … 勾配コイル駆動部
140 … RFコイル駆動部
150 … データ収集部
160 … パルスシーケンス制御部
170 … 演算部
171 … 制御部
172 … 記憶部
174 … 画像処理部
176 … SN比計算部
178 … SN比判定部
180 … 表示部
190 … 操作部
NA … ノイズ領域
NV1 … 平均値
PK1 … 波高
SA … 信号領域
SB … 被検者
SP1 … スペクトログラム
SP2 … スペクトログラム
ST … 基準値
SVX … 基準ボクセル
VX … ボクセル
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴スペクトロスコピー装置に関する。特に代謝物質毎の分布を測定するスペクトログラムのSN比の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気共鳴現象を利用することで、MRI(Magnetic Resonance Imaging)画像では得られない代謝物質の濃度分布をスペクトルにより視覚的に捉えることができる磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS:Magnetic Resonance Spectroscopy)装置が開発されている。MRSとは、様々な分子の化学結合の違いによる磁気共鳴周波数の差異(ケミカルシフト)に基づいて、分子ごとの信号を分離する方法である。ケミカルシフトは、ある分子中の原子核の磁場が付近に存在する原子核によって作られる磁場の影響を受け、それにより同じ原子核であっても周囲の環境により共鳴周波数の違いが生じることで発生する。
【0003】
MRSにおいて、病態の状況を把握するためには、代謝物質の相対量的情報が重要となる。正確な情報を得るためには撮影回数を増やせばよいが、臨床の現場においては、限られた検査時間に、最良の撮影を行わなくてはならない。現状のMRSでは、撮影が終了してから代謝物質の情報を確認するが、その時点でSN(Signal Noize)比が低い場合でも、代謝物質の量的情報を検討しなくてはならない。
【0004】
特許文献1の装置では、エッジフィルタをSN比が低いスペクトログラムに対して処理することで、高分解能のスペクトログラムを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−301118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エッジフィルタで処理しても、結果としてスペクトログラムが不正確になることもあり、虚部信号によって代謝物質量が実際に存在しているものより多く見えてしまうこともある。そこで操作者又は医師に誤解を与えないスペクトログラム、つまり一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得ることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得る磁気共鳴スペクトロスコピー装置を提供する。
【0008】
第1の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、被検体の特定領域に高周波磁場を照射する送信部と、特定領域から第1の核磁気共鳴信号を受信する受信部と、受信部で受信した第1の核磁気共鳴信号を記憶する記憶部と、第1の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する算出部とを備える。さらに、磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、周波数スペクトラムの特定物質のSN比が閾値以下であるか否かを判定するSN比判定部と、SN比が閾値以下である場合に、送信部に再び高周波磁場を照射させ、受信部に特定領域から第2の核磁気共鳴信号を受信させる制御部と、を備える。そして画像処理部は、第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する。
つまり、SN比が低かった場合でも、さらに第1の核磁気共鳴信号に加えて、必要な受信回数だけ第2の核磁気共鳴信号を得て、周波数スペクトラムを算出する。
【0009】
第2の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置の制御部は、第1の核磁気共鳴信号の受信回数とSN比とに基づいて、閾値に達する不足の受信回数を算出し、受信部に第2の核磁気共鳴信号を不足の受信回数分だけ受信させる。
第3の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置の制御部は、第2の核磁気共鳴信号の撮影時間に基づいて、受信回数を算出する。
【0010】
第4の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、SN比が閾値を入力する入力部をさらに備える。
第5の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、SN比を計算するSN比計算部を備え、SN比計算部は、周波数スペクトラムを信号領域とノイズ領域とに判別分析し、特定物質のピークとノイズ成分の平均値とに基づいてSN比を計算する。
【0011】
第6の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置の画像処理部は、複数のボクセル毎の周波数スペクトラムを算出する際には、複数のボクセルの少なくとも1つが基準ボクセルとして設定され、SN比判定部は、基準ボクセルにおいて、SN比が閾値以下であるか否かを判定する。
第7の観点の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、基準ボクセルが二以上の場合には、SN比判定部は、基準ボクセルにおいて、SN比を平均化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気共鳴スペクトロスコピー装置は、一定以上のSN比を有するスペクトログラムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】磁気共鳴イメージング装置10の概略構成図である。
【図2】第1実施形態のスペクトラムの算出フローチャートである。
【図3】第1の核磁気共鳴信号に基づいたスペクトログラムSP1の一例である。
【図4】スペクトログラムSP1の信号領域SAとノイズ領域NAとを示す図である。
【図5】第1及び第2の核磁気共鳴信号に基づいたスペクトログラムSP2の一例である。
【図6】第2実施形態のスペクトログラムの算出フローチャートである。
【図7】第3実施形態のマルチボクセルに基づいた、設定とスペクトログラムとを示した図である。
【図8】第3実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1から第3実施形態の磁気共鳴スペクトロスコピー装置(MRS:Magnetic Resonance Spectroscopy)について説明する。また、以下では、本発明に係る磁気共鳴スペクトロスコピー装置の機能を搭載した磁気共鳴イメージング装置を実施形態として説明し、磁気共鳴イメージング装置を「MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置」と呼ぶ。
【0015】
<<第1実施形態>>
<磁気共鳴イメージング装置の構成>
第1実施形態に係るMRI装置の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係るMRI装置の構成を説明するための図である。なお、第1実施形態に係るMRI装置は、MRI画像を撮影するとともに、関心領域における磁気共鳴スペクトルを収集して、複数の代謝物質の濃度分布強度を示すスペクトル画像を生成する装置である。図1を参照して、第1実施形態の磁気共鳴イメージング装置10の構成及びその基本動作について説明する。
【0016】
磁気共鳴イメージング装置10は、マグネットシステム100、勾配コイル駆動部130、RFコイル駆動部140、データ収集部150、パルスシーケンス制御部160、演算部170、表示部180及び操作部190を有する。
【0017】
マグネットシステム100は、主磁場コイル部102、勾配コイル部106及びRFコイル部108を有している。これら各コイル部は概ね円筒状の形状を有し、概ね円柱状のボアに互いに同軸状に配置されている。ボア内には被検者SBが寝台110に載置されており、寝台110は、撮影部位に応じて、マグネットシステム100内のボア内を移動可能になっている。
【0018】
主磁場コイル部102は、マグネットシステム100の内部空間に静磁場を形成する。静磁場の方向は、概ね被検者SBの体軸の方向に平行であり水平磁場を形成する。主磁場コイル部102は、通常、超伝導コイルを用いて構成されるが、超伝導コイルに限らず永久磁石等を用いて構成してもよい。
【0019】
勾配コイル部106は、互いに直交する3軸、すなわち、スライス軸、位相軸及び周波数軸の方向において、それぞれ主磁場コイル部102によって形成された静磁場強度に勾配を持たせるための3種の勾配磁場を発生する。このような勾配磁場の発生を可能にするために、勾配コイル部106は、図示しない3系統の勾配コイルを有する。勾配コイル部106には勾配コイル駆動部130が接続されており、勾配コイル駆動部130は勾配コイル部106に駆動信号を与えて勾配磁場を発生させる。勾配コイル駆動部130は、勾配コイル部106における3系統の勾配コイルに対応して、図示しない3系統の駆動回路を有する。
【0020】
RFコイル部108は、静磁場空間に被検者SBの体内のスピンを励起するための高周波磁場を形成する。高周波磁場を形成することをRF励起信号の送信といい、RF励起信号をRFパルスという。RFコイル部108にはRFコイル駆動部140が接続されており、RFコイル駆動部140はRFコイル部108に駆動信号を与え、その駆動信号に基づいてRFコイル部108はRFパルスを送信する。励起されたスピンが生じる電磁波すなわち核磁気共鳴信号は、RFコイル部108によって受信される。RFコイル部108にはデータ収集部150が接続されている。データ収集部150は、RFコイル部108が受信した核磁気共鳴信号をデジタルデータとして収集する。
【0021】
勾配コイル駆動部130、RFコイル駆動部140及びデータ収集部150にはパルスシーケンス制御部160が接続されている。
【0022】
パルスシーケンス制御部160は、操作者が入力した撮影条件、すなわち撮影プロトコルに従い、勾配コイル駆動部130及びRFコイル駆動部140を駆動させる。より具体的には、パルスシーケンス制御部160は、「MRI画像を撮影するためのシーケンス情報」および「スペクトログラムを撮影するためのシーケンス情報」を生成する。それらシーケンス情報は、勾配コイル駆動部130及びRFコイル駆動部140に送信される。
【0023】
表示部180は、グラフィックディスプレー等で構成されている。表示部180は演算部170に接続されている。表示部180は、GUIの操作画面、MRI画像再構成用の核磁気共鳴信号に基づいて画像再構成された磁気共鳴画像、及びスペクトログラム用の核磁気共鳴信号に基づいてスペクトログラムなどを表示することができる。
【0024】
操作部190は、ポインティングデバイスを有するキーボード等で構成される。操作部190は演算部170に接続されている。操作部190は、操作者によって表示部180を介して操作される。操作部190は、キーボード等の代わりに表示部180にタッチパネルを配置してもよい。
【0025】
演算部170は、制御部171、記憶部172、画像処理部174、SN比計算部176及びSN比判定部178を有する。
演算部170は、各種データの処理及びプログラムを実行する。制御部171は、データ収集部150及びパルスシーケンス制御部160等を制御する。記憶部172は、各種撮影プロトコル、各種プログラム及び各種データを記憶する。また記憶部172は、データ収集部150が収集した核磁気共鳴信号を記憶する。
【0026】
画像処理部174は、MRI画像再構成用の核磁気共鳴信号に基づいて磁気共鳴画像を画像再構成する。また、画像処理部174はスペクトログラム用の核磁気共鳴信号をフーリエ変換して周波数空間のデータに変換する。画像処理部174はその周波数空間のデータを周波数に対してプロットしてスペクトログラムを生成する。
【0027】
SN比計算部176は、このスペクトログラムをまず信号領域とノイズ領域とに二分化する。例えば判別分析法を適用して、スペクトログラムの信号値が、基準値より大きい領域と、信号値が基準値より小さい領域とに、スペクトログラムの周波数の領域を二分化する。信号値が基準値以上の領域を信号領域、信号値が基準値以下の領域をノイズ領域とする。そして、SN比計算部176は、信号領域のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。
【0028】
SN比判定部178は、SN比と閾値とを比較し、SN比が閾値を越えているか否かを判定する。
【0029】
<スペクトログラムの生成工程>
図2は、第1実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。
ステップS11では、操作者は、スペクトログラムに要求するSN比の閾値を入力する。大脳のスペクトログラムを生成する際には、代謝物質として、例えばクロアチン(Creatine)、コリン(Cholin)又はNAA(N-Aceryl-L―aspartate)が選ばれる。部位によっては、代謝物質として、乳酸又はクエン酸等が選ばれることもある。第1実施形態では、操作者は、操作部190を介して、例えば、代謝物質としてクロアチンのピークとノイズ領域の平均値とのSN比の閾値を“8”と入力する。
【0030】
なお、磁気共鳴イメージング装置10の記憶部172が、これまでの経験値等からデフォルトとして閾値を記憶している場合には、ステップS11を省略してもよい。また、第1実施形態のSN比は、代謝物質のピークの高さとノイズ領域の平均値とのピーク信号対雑音比(PSNR)で説明する。しかし、本発明はこれに限られず、代謝物質の平均値とノイズ領域の平均値とのSN比を適用してもよい。
【0031】
ステップS13では、まず表示部180に撮影条件設定用の初期画面が表示される。操作者は、表示された被検者SBの大脳内に撮影領域を設定し、ボクセルサイズを設定する。さらに操作者は、データ収集部150が収集するスペクトログラム用の核磁気共鳴信号の受信回数を設定する。第1実施形態では、操作者は、1箇所のボクセル(シングルボクセル)を設定し、操作部190を介して、例えば受信回数を“30”と入力する。
【0032】
ステップS15では、演算部170の指令に応じて、パルスシーケンス制御部160が、撮影プロトコルに従い、スペクトログラムを撮影するためのパルスシーケンスを送信する。
【0033】
ステップS17では、データ収集部150が、RFコイル部108が受信した第1の核磁気共鳴信号を収集する。収集された第1の核磁気共鳴信号は、記憶部172に記憶される。記憶部172に記憶された第1の核磁気共鳴信号は、少なくとも本フローチャートの終了ステップに至るまでは記憶されている。
【0034】
ステップS19では、画像処理部174が、記憶された第1の核磁気共鳴信号に基づいて、スペクトログラムを生成する。詳述すると画像処理部174は、第1の核磁気共鳴信号をフーリエ変換し、周波数空間のデータに変換する。画像処理部174は、その周波数空間のデータを周波数に対してプロットしてスペクトログラムSP1を生成する。例えば図3は、その一例である。図3の横軸は基準物質からの周波数のずれの割合(ケミカルシフト量)を示し、縦軸はその周波数の波の波高、すなわち水素原子の量を示している。
【0035】
ステップS21では、SN比計算部176が、代謝物質としてクロアチンのピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。詳細は図4を参照しながら説明する。SN比計算部176は、図4に表示されたスペクトログラムSP1を、例えば判別分析法を適用して、まず信号領域とノイズ領域とに二分化する。スペクトログラムSP1の信号値が、基準値STより大きい領域と、信号値が基準値STより小さい領域とに、スペクトログラムの周波数の領域を二分化する。信号値が基準値以上の領域を信号領域SA、信号値が基準値以下の領域をノイズ領域NA(網掛け領域)とする。
【0036】
さらに、SN比計算部176は、ノイズ領域NAの平均値を計算し、ノイズ領域NAの平均値との信号領域SAのピークとSN比を計算する。例えば第1実施形態では、代謝物質がケミカルシフト量3.02ppmのクロアチンであり、クロアチンのピークの波高PK1とノイズ領域NAの平均値NV1とのSN比を計算する。代謝物質がクロアチンと決まっていれば、すべてのノイズ領域NAの平均値ではなく、クロアチンの周辺のノイズ領域NAの平均値を使用してもよい。第1実施形態では、SN比が“6”であったと仮定する。
【0037】
ステップS23では、SN比判定部178がステップS11で設定された閾値よりSN比が大きいかを判定する。SN比が大きいということは、操作者又は医師が充分にそのスペクトログラムSP1を使って代謝物質を判断することができることを意味する。そのため、スペクトログラムSP1の生成はここで終了する。SN比が閾値を越えない場合には、ステップS25に進む。第1実施形態では、ステップS11で設定された閾値が“8”であり、SN比が“6”であるため、ステップS25に進む。
【0038】
ステップS25では、SN比計算部176が、さらに核磁気共鳴振動を受信する回数を計算する。SN比が“6”のスペクトログラムSP1は、受信回数が30回のパルスシーケンスで生成された。このため、SN比計算部176は、30(受信回数)×8(閾値)/6(SN比)−30(受信回数)=10(不足分の受信回数)と計算する。つまり、10回以上、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を受信すれば、SN比の高いスペクトログラムを得ることができることがわかる。
【0039】
ステップS27では、パルスシーケンス制御部160が、10回以上の核磁気共鳴信号を受信する撮影プロトコルに従い、パルスシーケンスを送信する。
ステップS29では、データ収集部150が、RFコイル部108が受信した第2の核磁気共鳴信号を収集する。収集された第2の核磁気共鳴信号は、記憶部172に記憶される。
【0040】
ステップS31では、画像処理部174が、記憶された第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて、スペクトログラムSP2を生成する。例えば図5は、第1の核磁気共鳴信号及び第2の核磁気共鳴信号に基づいて生成されたスペクトログラムSP2の一例である。図5では、スペクトログラムSP2がスペクトログラムSP1(点線)と併記して描いてある。スペクトログラムSP2は、SN比が大きいため、操作者又は医師が充分にそのスペクトログラムSP2を使って代謝物質を判断することができる。
【0041】
<<第2実施形態>>
<スペクトログラムの生成工程>
図6は、第2実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。第2実施形態では、第1実施形態のフローチャートに撮影時間の条件が加えられている。第1実施形態の生成フローチャートとは、ステップS11、S13、S25及びS27が異なっている。このため、新たなステップS11R、S13R、S25R及びS27Rのみを説明する。磁気共鳴イメージング装置の構成は第1実施形態と同じである。
【0042】
ステップS11Rでは、操作者は、スペクトログラムに要求するSN比の閾値を入力する。第2実施形態でも、操作者は、代謝物質としてクロアチンのピークとノイズ領域の平均値とのSN比の閾値を“8”と入力する。さらに、操作者は、上限の撮影時間を入力する。例えば操作者は、被検者SBの体調などを考慮して、撮影時間の上限を5分と設定する。
【0043】
ステップS13Rでは、操作者は、表示された被検者SBの大脳内に撮影領域を1箇所に設定し、ボクセルサイズ及びスペクトログラム用の核磁気共鳴信号の受信回数を設定する。これにより、演算部170は、パルスシーケンスの送信(撮影開始)から表示部180にスペクトログラムを表示する(撮影終了)までの時間を算出する。例えば、第2実施形態では、操作者は、操作部190を介して、例えば受信回数を“30”と入力したため、撮影時間が4分と算出する。
【0044】
ステップS25Rでは、SN比計算部176が、さらに核磁気共鳴振動を受信する回数を計算する。SN比が“6”のスペクトログラムSP1は、受信回数が30回のパルスシーケンスで生成された。このため、SN比計算部176は、30(受信回数)×8(閾値)/6(SN比)−30(受信回数)=10(不足分の受信回数)と計算する。つまり、10回以上、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を受信すれば、SN比の高いスペクトログラムを得ることができることがわかる。
【0045】
一方、演算部170は、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を10回分受信する撮影時間を算出する。演算部170は、例えば、パルスシーケンスの送信(撮影開始)から表示部180にスペクトログラムを表示する(撮影終了)までに2分かかると算出する。すでに、ステップS15からステップS23までに撮影時間が4分経過しているため、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を10回分受信すると合計撮影時間が6分になってしまう。これでは、ステップS11Rで設定した上限の撮影時間が5分を越えてしまう。そこで、演算部170は、残りの撮影時間1分で得られるパルスシーケンスをパルスシーケンス制御部160に指示する。例えば、スペクトログラム用の核磁気共鳴信号を5回分受信できるパルスシーケンスになる。
【0046】
ステップS27Rでは、パルスシーケンス制御部160が、5回の核磁気共鳴信号を受信する撮影プロトコルに従い、パルスシーケンスを送信する。
【0047】
第2実施形態では、被検者SBの体調などの許す範囲で、充分にSN比が改善されたスペクトログラムSP2を使って代謝物質を操作者又は医師が判断することができる。
【0048】
<<第3実施形態>>
第1実施形態及び第2実施形態では、シングルボクセルを設定した際に、複数回、核磁気共鳴信号を収集する場合について説明した。第3実施形態では、マルチボクセルを設定する例を説明する。
【0049】
図7(a)は、操作者は、撮影条件設定用の初期画面にマルチボクセルの撮影領域を設定した状態を示した図である。図7(b)は、各ボクセルサイズのスペクトログラムを示した図である。
【0050】
<スペクトログラムの生成工程>
図8は、第3実施形態のスペクトログラムの生成フローチャートである。第1実施形態の生成フローチャートとは、ステップS13、及びS21が異なっている。このため、新たなステップS13T、及びS21Tのみを説明する。磁気共鳴イメージング装置の構成は第1実施形態と同じである。
【0051】
ステップS13Tでは、まず表示部180に図7(a)に示されるような、撮影条件設定用の初期画面が表示される。操作者は、表示された被検者SBの大脳内に撮影領域を設定し、ボクセルサイズ及びボクセル数を設定する。図7(a)では9つのボクセルVX(VX1〜VX9)が設定されている。また、第1及び第2実施形態と同様に、操作者は、データ収集部150が収集するスペクトログラム用の核磁気共鳴信号の受信回数を設定する。
【0052】
さらに、操作者は、ボクセルVX(VX1〜VX9)から基準ボクセルSVXを1つ設定する。例えばボクセルVX5が基準ボクセルSVXと設定される。代謝物質のピークの高さとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する場合、9つのボクセルVX(VX1〜VX9)があると、撮影領域の違い等から各々のSN比が異なる。このため、マルチボクセルの撮影領域の場合には、基準ボクセルSVXを1つ設定する。
【0053】
ステップS21Tでは、SN比計算部176が、基準ボクセルSVXであるボクセルVX5における代謝物質のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。
【0054】
なお、第3実施形態の応用例として、基準ボクセルSVXを2つ以上設定するように応用してもよい。例えばステップS13Tで、基準ボクセルSVXをボクセルVX5とボクセルVX6との2つに設定したい場合を考える。この場合には、ステップS21Tで、SN比計算部176が、ボクセルVX5における代謝物質のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算し、且つボクセルVX6における代謝物質のピークとノイズ領域の平均値とのSN比を計算する。そしてSN比計算部176は、ボクセルVX5のSN比とボクセルVX6のSN比とを平均化する。SN比判定部178は、その平均化されたSN比が閾値より大きいかを判定すればよい。
【符号の説明】
【0055】
10 … 磁気共鳴イメージング装置
100 … マグネットシステム
102 … 主磁場コイル部
106 … 勾配コイル部
108 … RFコイル部
110 … 寝台
130 … 勾配コイル駆動部
140 … RFコイル駆動部
150 … データ収集部
160 … パルスシーケンス制御部
170 … 演算部
171 … 制御部
172 … 記憶部
174 … 画像処理部
176 … SN比計算部
178 … SN比判定部
180 … 表示部
190 … 操作部
NA … ノイズ領域
NV1 … 平均値
PK1 … 波高
SA … 信号領域
SB … 被検者
SP1 … スペクトログラム
SP2 … スペクトログラム
ST … 基準値
SVX … 基準ボクセル
VX … ボクセル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の特定領域に高周波磁場を照射する送信部と、
前記特定領域から第1の核磁気共鳴信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した前記第1の核磁気共鳴信号を記憶する記憶部と、
前記第1の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する算出部と、
前記周波数スペクトラムの特定物質のSN比が閾値以下であるか否かを判定するSN比判定部と、
前記SN比が閾値以下である場合に、前記送信部に再び高周波磁場を照射させ、前記受信部に前記特定領域から第2の核磁気共鳴信号を受信させる制御部と、を備え、
前記画像処理部は、前記第1の核磁気共鳴信号及び前記第2の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の核磁気共鳴信号の受信回数と前記SN比とに基づいて、前記閾値に達する不足の受信回数を算出し、前記受信部に前記第2の核磁気共鳴信号を不足の受信回数分だけ受信させる請求項1に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の核磁気共鳴信号の撮影時間に基づいて、前記受信回数を算出する請求項2に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項4】
前記前記SN比が閾値を入力する入力部をさらに備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項5】
前記SN比を計算するSN比計算部を備え、
前記SN比計算部は、前記周波数スペクトラムを信号領域とノイズ領域とに判別分析し、前記特定物質のピークと前記ノイズ成分の平均値とに基づいて前記SN比を計算する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項6】
前記画像処理部が、複数のボクセル毎の前記周波数スペクトラムを算出する際には、前記複数のボクセルの少なくとも1つが基準ボクセルとして設定され、
前記SN比判定部は、前記基準ボクセルにおいて、前記SN比が閾値以下であるか否かを判定する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項7】
前記基準ボクセルが二以上の場合には、前記SN比判定部は、前記基準ボクセルにおいて、前記SN比を平均化する請求項6に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項8】
前記磁気共鳴スペクトロスコピー装置において、前記算出された周波数スペクトラムをグラフにして表示する表示部を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項1】
被検体の特定領域に高周波磁場を照射する送信部と、
前記特定領域から第1の核磁気共鳴信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した前記第1の核磁気共鳴信号を記憶する記憶部と、
前記第1の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する算出部と、
前記周波数スペクトラムの特定物質のSN比が閾値以下であるか否かを判定するSN比判定部と、
前記SN比が閾値以下である場合に、前記送信部に再び高周波磁場を照射させ、前記受信部に前記特定領域から第2の核磁気共鳴信号を受信させる制御部と、を備え、
前記画像処理部は、前記第1の核磁気共鳴信号及び前記第2の核磁気共鳴信号に基づいて、周波数スペクトラムを算出する磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の核磁気共鳴信号の受信回数と前記SN比とに基づいて、前記閾値に達する不足の受信回数を算出し、前記受信部に前記第2の核磁気共鳴信号を不足の受信回数分だけ受信させる請求項1に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の核磁気共鳴信号の撮影時間に基づいて、前記受信回数を算出する請求項2に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項4】
前記前記SN比が閾値を入力する入力部をさらに備える請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項5】
前記SN比を計算するSN比計算部を備え、
前記SN比計算部は、前記周波数スペクトラムを信号領域とノイズ領域とに判別分析し、前記特定物質のピークと前記ノイズ成分の平均値とに基づいて前記SN比を計算する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項6】
前記画像処理部が、複数のボクセル毎の前記周波数スペクトラムを算出する際には、前記複数のボクセルの少なくとも1つが基準ボクセルとして設定され、
前記SN比判定部は、前記基準ボクセルにおいて、前記SN比が閾値以下であるか否かを判定する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項7】
前記基準ボクセルが二以上の場合には、前記SN比判定部は、前記基準ボクセルにおいて、前記SN比を平均化する請求項6に記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【請求項8】
前記磁気共鳴スペクトロスコピー装置において、前記算出された周波数スペクトラムをグラフにして表示する表示部を備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の磁気共鳴スペクトロスコピー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−111097(P2013−111097A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257122(P2011−257122)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】
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