説明

磁気冷凍機及び磁気冷凍方法

【課題】長時間連続して所定の低温状態を維持可能とした磁気冷凍機及び磁気冷凍方法を提供する。
【解決手段】所定の温度とした熱浴と、この熱浴にそれぞれ熱浴側熱スイッチを介して接続した複数の磁性体と、これらの磁性体にそれぞれ磁場を印加する磁場印加部と、この磁場印加部と熱浴側熱スイッチとによって断熱減磁冷却された各磁性体で冷却される被冷却部と、この被冷却部と各磁性体とをそれぞれ接続した接続状態と非接続とした非接続状態とに切替える被冷却部側熱スイッチと、この被冷却部側熱スイッチ、熱浴側熱スイッチ、及び磁場印加部を制御する制御部とを備え、制御部は、被冷却部側熱スイッチによって被冷却部と非接続状態とした磁性体を断熱減磁冷却し、断熱減磁冷却された少なくともいずれか一つの磁性体を被冷却部側熱スイッチによって被冷却部と接続状態として被冷却部を連続的に冷却するように被冷却部側熱スイッチを順次切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍機及び磁気冷凍方法に関するものであり、特に、極低温状態を連続的に保持可能とした磁気冷凍機及び磁気冷凍方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、1K以下の極低温での実験を行う際には、断熱消磁冷却を利用した磁気冷凍機を用いて所要の温度環境を生成している。
【0003】
このような磁気冷凍機は、図4に模式的に示すように、液体ヘリウムの気化を利用して1K程度に冷却された熱浴110と、この熱浴110と熱スイッチ120を介して接続された磁性体130と、この磁性体130に接続された被冷却部である試料室150と、磁性体130に所定の磁場を印加するために磁性体130の周囲に設けた磁場印加部となる円筒状の超伝導コイル160とを備えている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照。ただし、これらの文献中、熱浴の温度は4Kである。)。
【0004】
磁性体130は、超伝導コイル160の中空部分に配置して、図示しない制御部による制御に基づいて超伝導コイル160に所定の電流を流すことによって磁性体130に所定の磁場を印加している。
【0005】
試料室150を所要の温度環境状態とする場合には、熱スイッチ120によって磁性体130を熱浴110と接続状態として磁性体130を熱浴110と同等の温度状態とし、その状態で超伝導コイル160に所定の電流を流すことにより磁性体130に所定の磁場を印加している。このとき、磁性体130をできるだけ熱浴110と同等の温度状態とするために、超伝導コイル160に流す電流は電流値を徐々に増大させるようにしながら磁場を磁性体130に印加している。
【0006】
超伝導コイル160に流した電流の電流値が所定値に達したところで、磁気冷凍機では、熱スイッチ120を非接続状態とすることによって磁性体130を断熱状態とし、その後、超伝導コイル160への通電を停止することにより消磁して、磁性体130に断熱消磁冷却作用を生じさせている。
【0007】
磁性体130の断熱消磁冷却作用によって磁性体130は熱浴110よりも低温の状態となり、磁性体130に接続された試料室150の熱を磁性体130で吸熱することによって、試料室150の温度を1Kより小さい温度としている。
【0008】
磁気冷凍機では、このように1Kよりも低温となった試料室150で所定の測定や実験を実施可能となっている。
【非特許文献1】C. Hagmann and P.L. Richards: Two-stage magnetic refrigerator for astronomical applications with reservoir temperatures above 4K, Cryogenics, Vol. 34, No. 3, 1994, pp. 221-226.
【非特許文献2】Vladimir Shvarts, Levis Bobb, Munir Jirmanus, Zuyu Zhao: Custom-built research refrigerators for ultra-low temperature, Nuclear Instruments & Methods in Physics Research A, Vol. 520, 2004, pp. 631-633.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の磁気冷凍機では、超伝導コイルで磁性体を断熱消磁冷却した後は、熱流入によって試料室の温度が上昇するだけとなるので、低温状態を長時間維持することが不可能であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気冷凍機では、所定の温度とした熱浴と、この熱浴にそれぞれ熱浴側熱スイッチを介して接続した複数の磁性体と、これらの磁性体にそれぞれ磁場を印加し励磁を行う磁場印加部と、前記の各磁性体で冷却される被冷却部と、この被冷却部と前記の各磁性体とをそれぞれ接続した接続状態と非接続とした非接続状態とに切替える被冷却部側熱スイッチと、この被冷却部側熱スイッチ、前記熱浴側熱スイッチ、及び前記磁場印加部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記被冷却部側熱スイッチによって前記被冷却部と非接続状態とした前記磁性体を前記磁場印加手段で励磁しながら、前記熱浴側熱スイッチによって前記熱浴を前記磁性体に接続して排熱したのち、前記熱浴側熱スイッチを非接続状態にして減磁することにより前記磁性体を断熱減磁冷却し、断熱減磁冷却された少なくともいずれか一つの前記磁性体を前記被冷却部側熱スイッチによって前記被冷却部と接続状態として、前記被冷却部を連続的に冷却することとした。
【0011】
さらに、磁場印加部は、磁性体に印加する磁場の大きさを調整可能とし、磁性体を熱浴と非接続状態として、第1の磁場の大きさから、この第1の磁場の大きさよりも小さい第2の磁場の大きさとすることにより冷却した磁性体を被冷却部に接続した後に、磁性体に印加する磁場の大きさを第2の磁場の大きさから漸次小さくすることにも特徴を有するものである。
【0012】
また、本発明の磁気冷凍方法では、断熱減磁冷却された磁性体を被冷却部に熱的に接続して前記被冷却部を冷却する磁気冷凍方法において、それぞれ断熱減磁冷却される磁性体を複数設けるとともに、これらの各磁性体と前記被冷却部とを熱的に断続させる熱スイッチをそれぞれ設け、前記の各熱スイッチを切替制御して、前記の各磁性体のうち、少なくともいずれか1つを前記被冷却部に接続して前記被冷却部を冷却するとともに、前記被冷却部に接続していない磁性体を断熱減磁冷却することとした。
【0013】
さらに、各磁性体は、被冷却部に接続して被冷却部を冷却する状態と、被冷却部に非接続として断熱減磁冷却される状態と繰り返して、被冷却部を連続的に冷却することにも特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、被冷却部側熱スイッチによって被冷却部と非接続状態とした磁性体を前記磁場印加手段で励磁しながら、前記熱浴側熱スイッチによって前記熱浴を前記磁性体に接続して排熱したのち、前記熱浴側熱スイッチを非接続状態にして減磁することにより前記磁性体を断熱減磁冷却し、断熱減磁冷却された少なくともいずれか一つの磁性体を被冷却部側熱スイッチによって被冷却部と接続状態として被冷却部を冷却し、被冷却部側熱スイッチを順次切替えることによって低温状態を連続的に保持することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の磁気冷凍機において、磁場印加部は、磁性体に印加する磁場の大きさを調整可能とし、第1の磁場の大きさから、この第1の磁場の大きさよりも小さい第2の磁場の大きさとすることにより冷却した磁性体を被冷却部に接続した後に、磁性体に印加する磁場の大きさを第2の磁場の大きさから漸次小さくすることによって、被冷却部に接続した磁性体を所定の温度に維持することができ、被冷却部に温度変動が生じることを抑制して安定的な低温状態を保持することができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、それぞれ断熱減磁冷却される磁性体を複数設けるとともに、これらの各磁性体と被冷却部とを熱的に断続させる熱スイッチをそれぞれ設け、前記の各熱スイッチを切替制御して、各磁性体のうち、少なくともいずれか1つを被冷却部に接続して被冷却部を冷却するとともに、被冷却部に接続していない磁性体を断熱減磁冷却することによって、被冷却部に接続する磁性体を常に所定温度に冷却した状態とすることができ、低温状態を連続的に保持することができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の磁気冷凍方法において、各磁性体は、被冷却部に接続して被冷却部を冷却する状態と、被冷却部に非接続として断熱減磁冷却される状態と繰り返して、被冷却部を連続的に冷却することによって、連続的に被冷却部を冷却し続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の磁気冷凍機及び磁気冷凍方法は、それぞれ磁場を印加可能とした磁場印加部によって断熱減磁冷却される複数の磁性体を備えた磁気冷凍機及び磁気冷凍方法であって、これらの磁性体の少なくとも一つを被冷却部に接続して冷却を行っているものであり、被冷却部に接続した磁性体が被冷却部を所定の温度に維持できなくなると、他の磁性体を被冷却部に接続して冷却を行い、被冷却部に温度上昇が生じることを防止しているものである。
【0019】
特に、各磁性体は、被冷却部と熱浴との間に互いに並列させて設けており、被冷却部との接続を熱スイッチの切替えによって制御することにより、被冷却部に接続される磁性体を順次切替え可能としている。
【0020】
図1において、第1磁性体13-1を備えた第1磁気冷却部10-1と、第2磁性体13-2を備えた第2磁気冷却部10-2と、第3磁性体13-3を備えた第3磁気冷却部10-3の3つの磁気冷却部で被冷却部15を冷却する場合の磁気冷凍機の模式図を示す。
【0021】
第1磁性体13-1は、第1熱浴側熱スイッチ12-1を介して熱浴11に接続するとともに、第1被冷却部側熱スイッチ14-1を介して被冷却部15に接続し、磁場印加部である第1超伝導コイル160で断熱減磁冷却されて被冷却部15を冷却可能としている。
【0022】
第2磁性体13-2は、第2熱浴側熱スイッチ12-2を介して熱浴11に接続するとともに、第2被冷却部側熱スイッチ14-2を介して被冷却部15に接続し、磁場印加部である第2超伝導コイル16-2で断熱減磁冷却されて被冷却部15を冷却可能としている。
【0023】
第3磁性体13-3は、第3熱浴側熱スイッチ12-3を介して熱浴11に接続するとともに、第3被冷却部側熱スイッチ14-3を介して被冷却部15に接続し、磁場印加部である第3超伝導コイル16-3で断熱減磁冷却されて被冷却部15を冷却可能としている。
【0024】
本実施形態では、第1〜3磁気冷却部10-1〜3の3つの磁気冷却部を設けているが、3つに限定するものではなく、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。磁場印加手段として第1〜3超伝導コイル16-1〜3を用いているが、これに限定するものではなく、常伝導コイルや永久磁石など他の磁場印加手段であってもよい。
【0025】
第1〜3超伝導コイル16-1〜3はそれぞれ制御部17に接続して、制御部17の制御によって第1〜3磁性体13-1〜3に所定の電流を流すことにより所定の磁場を第1〜3磁性体13-1〜3にそれぞれ印加可能としている。さらに、制御部17には、第1〜3熱浴側熱スイッチ12-1〜3を接続するとともに、第1〜3被冷却部側熱スイッチ14-1〜3を接続して、制御部17によって第1〜3熱浴側熱スイッチ12-1〜3及び第1〜3被冷却部側熱スイッチ14-1〜3の入切制御を行っている。
【0026】
そして、制御部17の制御によって、磁気冷凍機では、断熱減磁冷却された第1〜3磁性体13-1〜3の少なくともいずれか1つの磁性体を被冷却部15に接続して被冷却部15の冷却を行っており、被冷却部15に接続した磁性体での冷却効果が低下する前に他の磁性体を被冷却部15に接続することによって、被冷却部15の低温状態を連続的に保持することができる。
【0027】
しかも、被冷却部に接続していない非接続状態の磁性体は、その磁性体に接続された熱浴側熱スイッチを介して熱浴11に接続するとともに、超伝導コイルで所定の磁場を印加しておくことにより、被冷却部に接続する前の磁性体を常に断熱減磁冷却の直前状態としておくことができ、被冷却部15への接続の直前に磁性体を断熱減磁冷却して被冷却部15に接続することによって十分に冷却されている磁性体を被冷却部15に接続することができ、これを繰り返すことができるので、長時間連続して低温状態を保持することができる。
【0028】
最後に、より具体的な実施形態を説明する。本実施形態の磁気冷凍機は、図2に示すように、熱浴の生成のためにギフォードマクマホンサイクル(GMサイクル)を利用したGM冷凍機を用いているものである。
【0029】
本実施形態の磁気冷凍機は、冷却される試料28と、この試料28が載置されるとともに載置された試料を冷却する被冷却部としての試料ステージ25と、この試料ステージ25を交互に冷却する第1磁気冷却部20-1と第2磁気冷却部20-2と、この第1磁気冷却部20-1内の第1磁性体23-1及び第2磁気冷却部20-2内の第2磁性体23-2を冷却する熱浴としての冷却体21とを収容した第1熱シールド31と、この第1熱シールド31を収容した第2熱シールド32と、この第2熱シールド32を収容した真空容器33と、第1熱シールド31内の冷却体21を冷却するヘリウムを循環させるヘリウム循環配管34と、このヘリウム循環配管34で循環されるヘリウムを冷却するGM冷凍機35を備えている。
【0030】
GM冷凍機35は、真空容器33の上部に本体部を配置し、GM冷凍機35の第1ステージ35-1を第2熱シールド32に熱接触させ、GM冷凍機35の第2ステージ35-2を第1熱シールド31に熱接触させ、第1ステージ35-1及び第2ステージ35-2で、ヘリウム循環配管34によって送給されるヘリウムを冷却している。また、GM冷凍機35は、第1熱シールド31の上部板に取り付けられた超伝導コイル26-1および26-2も、第1熱シールド31の上部板を通して冷却している。図2中、35-3は、GM冷凍機35用のヘリウムコンプレッサである。
【0031】
ヘリウム循環配管34にはコンプレッサ34-4を設けてヘリウムを循環させており、コンプレッサ34-4でヘリウムを加圧して送給し、第1熱シールド31内に設けたジュールトムソン(JT)バルブ34-5からヘリウムを噴射させて膨脹させることにより1.5K程度の温度を生成して、冷却体21を冷却している。図2中、34-1は第1熱交換器、34-2は第2熱交換器、34-3は第3熱交換器であって、コンプレッサ34-4により高温側から降りてくる温度の高いヘリウムを、低温側からコンプレッサ34-4に戻る温度の低いヘリウムで冷却している。
【0032】
冷却体21は円柱状とした銅で形成しており、断熱材で構成した支持体29で第1熱シールド31の上部から支持され、ヘリウム循環配管34との熱交換によって冷却されている。冷却体21は銅に限定するものではなく、熱伝導率の高い適宜の物質を用いることができる。本実施形態では、GM冷凍機35とヘリウム循環配管34によるヘリウムの気化熱とを利用して熱浴である冷却体21を冷却しているが、これ以外の方法によって冷却体21を適宜の温度に冷却してもよい。
【0033】
冷却体21には、熱浴側熱スイッチとなる第1ガスギャップ熱スイッチ22-1を介して第1磁性体23-1を接続するとともに、熱浴側熱スイッチとなる第2ガスギャップ熱スイッチ22-2を介して第2磁性体23-2を接続している。
【0034】
さらに、第1磁性体23-1は、被冷却部側熱スイッチとなる第1超伝導熱スイッチ24-1を介して試料ステージ25と接続し、第2磁性体23-2は、被冷却部側熱スイッチとなる第2超伝導熱スイッチ24-2を介して試料ステージ25と接続して、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2によって試料ステージ25を冷却可能としている。
【0035】
第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2は、本実施形態では鉄アンモニウムミョウバン(FAA)を用いているが、クロムカリミョウバン(CPA)やセリウムマンガン硝酸塩(CMN)などを用いることもでき、所定形状とした第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2を、円筒状とした第1超伝導コイル26-1及び第2超伝導コイル26-2内に配置している。
【0036】
このように構成した磁気冷凍機では、図示しない制御部で第1超伝導熱スイッチ24-1と第2超伝導熱スイッチ24-2の切替制御を行って、断熱減磁冷却された第1磁性体23-1と第2磁性体23-2を交互に試料ステージ25に接続して試料ステージ25を冷却し、この試料ステージ25上に載置された試料28を冷却している。
【0037】
第1超伝導熱スイッチ24-1と第2超伝導熱スイッチ24-2の切替制御は、以下のように行っている。図3(a)は第1磁性体23-1のエントロピー−温度特性曲線図、図3(b)は第2磁性体23-2のエントロピー−温度特性曲線図を示している。
【0038】
まず、磁気冷凍機の動作開始直後は、磁気冷凍機は、GM冷凍機35及びヘリウム循環配管34によって冷却体21を冷却するとともに、第1ガスギャップ熱スイッチ22-1及び第2ガスギャップ熱スイッチ22-2を接続状態として冷却体21によって第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2を冷却する。
【0039】
このとき、第1超伝導コイル26-1及び第2超伝導コイル26-2には電流を流しておらず、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2はそれぞれ零磁場状態となっており、冷却体21によってヘリウムの気化熱を利用して得られる1.5K程度の第1温度Tまで冷却されて、第1磁性体23-1が図3(a)のA1点の状態となり、第2磁性体23-2が図3(b)のA2点の状態となったところで、第1超伝導コイル26-1及び第2超伝導コイル26-2に電流を流し始め、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2にそれぞれ磁場を印加する。
【0040】
第1超伝導コイル26-1及び第2超伝導コイル26-2によって第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2にそれぞれ印加する磁場の大きさを増大させている際に、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2は熱浴である冷却体21に接続して排熱することにより、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2において加熱が生じることがなく、等温励磁過程となる。
【0041】
第1超伝導コイル26-1及び第2超伝導コイル26-2に流す電流が所定値に達することで、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2には、第1の磁場の大きさであるBmaxの磁場をそれぞれ印加している。このBmaxの磁場の印加によって、第1磁性体23-1は、図3(a)のB1点の状態となり、第2磁性体23-2は、図3(b)のB2点の状態となる。図3(a)のA1点からB1点まで、及び図3(b)のA2点からB2点の状態までが、それぞれ等温励磁過程となっている。
【0042】
なお、このとき、磁気冷凍機は、第1超伝導熱スイッチ24-1と第2超伝導熱スイッチ24-2も接続状態として、冷却体21によって試料ステージ25を冷却している。第2超伝導熱スイッチ24-2は、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2による試料ステージ25の冷却が開始される前に非接続状態とする。
【0043】
次いで、磁気冷凍機は、第1ガスギャップ熱スイッチ22-1を非接続状態とし、第1超伝導コイル26-1によって第1磁性体23-1に印加する磁場の大きさをBr2まで小さくすることにより第1磁性体23-1に断熱減磁冷却作用を生じさせて、第1磁性体23-1の温度を第1温度Tよりも低い第2温度Tまで低下させて図3(a)のC1点の状態としている。すなわち、図3(a)のB1点からC1点までは断熱減磁過程となっている。
【0044】
第1磁性体23-1の温度が第2温度Tとなったところで、試料ステージ25と試料28は第2温度Tになっている。
【0045】
磁気冷凍機は、第1超伝導コイル26-1で生成する磁場の大きさをBr2とした後に、第1超伝導コイル26-1に流す電流の大きさを漸次小さくして、第1超伝導コイル26-1で生成する磁場の大きさをBr2から漸次小さくすることによって等温減磁過程として、第1磁性体23-1の温度をTに保持している。
【0046】
磁気冷凍機は、第1超伝導コイル26-1で生成する磁場の大きさが零となるまで、第1磁性体23-1の温度を第2温度Tに維持することができるが、第1超伝導コイル26-1で生成する磁場の大きさが零に達した以降は、第1磁性体23-1の温度を第2温度Tに維持することができず、熱流入によって試料ステージ25に温度上昇が生じる。
【0047】
そこで、磁気冷凍機は、第1超伝導コイル26-1によって生成する磁場の大きさが零となる前の所定の磁場の大きさであるBr1となった際に、第1磁性体23-1による試料ステージ25の冷却から、第2磁性体23-2による試料ステージ25の冷却への切替えを行っている。
【0048】
すなわち、磁気冷凍機は、第1超伝導コイル26-1によって生成する磁場の大きさがBr1となる前に第2ガスギャップ熱スイッチ22-2を非接続状態とし、第2超伝導コイル26-2に流す電流の大きさを小さくすることにより第2磁性体23-2に印加する磁場の大きさをBr2まで小さくして第2磁性体23-2に断熱減磁冷却作用を生じさせ、第2磁性体23-2の温度を第2温度Tまで低下させる。
【0049】
そして、第2磁性体23-2が図3(b)のC2点の状態となったところで、磁気冷凍機は、第2超伝導熱スイッチ24-2を接続状態として第2磁性体23-2による試料ステージ25の冷却を開始する。図3(b)のB2点からC2点までも断熱減磁過程となっている。
【0050】
磁気冷凍機は、第2超伝導コイル26-2でも、第2超伝導コイル26-2で生成する磁場の大きさをBr2とした後に、第2超伝導コイル26-2に流す電流の大きさを漸次小さくして、第2超伝導コイル26-2で生成する磁場の大きさをBr2から漸次小さくすることによって等温減磁過程として、第1磁性体23-1の温度をTに保持している。
【0051】
また、磁気冷凍機は、第2超伝導コイル26-2で生成する磁場の大きさが零となるまで、第2磁性体23-2の温度を第2温度Tに維持することができるが、第2超伝導コイル26-2で生成する磁場の大きさが零に達した以降は、第2磁性体23-2の温度を第2温度Tに維持することができず、熱流入によって試料ステージ25に温度上昇が生じる。
【0052】
そこで、磁気冷凍機は、第2超伝導コイル26-2によって生成する磁場の大きさが零となる前の所定の磁場の大きさであるBr1となった際に、第2磁性体23-2による試料ステージ25の冷却から、以下のように再冷却された第1磁性体23-1による試料ステージ25の冷却への切替えを行っている。
【0053】
すなわち、第1磁性体23-1の再冷却では、第1磁性体23-1に印加する磁場の大きさがBr1となって図3(a)のD1点に達し、試料ステージ25の冷却を第1磁性体23-1から第2磁性体23-2に切替えた後に、磁気冷凍機は、まず、第1超伝導熱スイッチ24-1を非接続状態として、次いで、第1磁性体23-1の温度が熱浴である冷却体21の温度と等しくなるまで、第1超伝導コイル26-1によって第1磁性体23-1に印加する磁場の大きさを増大させて、断熱励磁過程によって第1磁性体23-1を加熱する。
【0054】
ここで、第1超伝導コイル26-1によって生成した磁場の大きさがBr3に達した図3(a)のE1点で、第1磁性体23-1の温度が冷却体21の温度と等しくなるものとする。なお、図3(a)のC1点からD1点までは等温励磁過程であって、D1点からE1点までは断熱励磁過程となっている。
【0055】
磁気冷凍機は、断熱励磁過程によって第1磁性体23-1の温度が冷却体21の温度と同じになる図3(a)のE1点の状態に達したところで第1ガスギャップ熱スイッチ22-1を接続状態とし、冷却体21で第1磁性体23-1を冷却しながら、第1超伝導コイル26-1によって第1磁性体23-1に印加する磁場の大きさをBmaxとして、等温励磁過程によって第1磁性体23-1を図3(a)のB1点の状態にする。なお、第1磁性体23-1の温度が冷却体21の温度と等しくなる前に第1ガスギャップ熱スイッチ22-1を接続状態としてもよい。
【0056】
図3(a)のB1点の状態に達した第1磁性体23-1は、第1ガスギャップ熱スイッチ22-1が非接続状態とされ、第1超伝導コイル26-1によって第1磁性体23-1に印加する磁場の大きさがBr2まで小さくされることにより第1磁性体23-1に断熱減磁冷却作用を生じさせ、第1磁性体23-1の温度を第2温度Tとする再冷却を行っている。
【0057】
第1磁性体23-1が、図3(a)におけるD1点からE1点の断熱励磁過程、図3(a)におけるE1点からB1点の等温励磁過程、図3(a)におけるB1点からC1点の断熱減磁過程を順次経て再冷却されるのに要する時間の間、試料ステージ25には、図3(b)におけるC2点からD2点の等温減磁過程の第2磁性体23-2と接続して温度を第2温度Tに保持しており、再冷却された第1磁性体23-1を試料ステージ25に接続した後は、第1磁性体23-1が図3(a)におけるC1点からD1点の等温減磁過程の間に、図3(b)におけるD2点からE2点の断熱励磁過程、図3(b)におけるE2点からB2点の等温励磁過程、図3(b)におけるB2点からC2点の断熱減磁過程を順次経て第2磁性体23-2を再冷却している。
【0058】
このように、磁気冷凍機では、等温減磁過程とした一方の磁性体で試料ステージ25を冷却している間に、他方の磁性体を、断熱励磁過程→等温励磁過程→断熱減磁過程の順で処理することにより再冷却して、試料ステージ25に接続させる磁性体の切替えを行うことにより、試料ステージ25を連続的に所定温度に維持することができる。特に、第1磁性体23-1及び第2磁性体23-2は、等温減磁過程→断熱励磁過程→等温励磁過程→断熱減磁過程の熱サイクルを繰り返して、カルノーサイクルに則って冷却することにより熱効率を向上させることができ、高効率な磁気冷凍機とすることができる。
【0059】
前述した実施形態では、Br1>0として説明しているが、Br1=0であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気冷凍機の概略模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気冷凍機の概略模式図である。
【図3】エントロピー−温度特性曲線図である。
【図4】従来の磁気冷凍機の概略模式図である。
【符号の説明】
【0061】
10-1 第1磁気冷却部
10-2 第2磁気冷却部
10-3 第3磁気冷却部
11 熱浴
12-1 第1熱浴側熱スイッチ
12-2 第2熱浴側熱スイッチ
12-3 第3熱浴側熱スイッチ
13-1 第1磁性体
13-2 第2磁性体
13-3 第3磁性体
14-1 第1被冷却部側熱スイッチ
14-2 第2被冷却部側熱スイッチ
14-3 第3被冷却部側熱スイッチ
15 被冷却部
16-1 第1超伝導コイル
16-2 第2超伝導コイル
16-3 第3超伝導コイル
17 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度とした熱浴と、
この熱浴にそれぞれ熱浴側熱スイッチを介して接続した複数の磁性体と、
これらの磁性体にそれぞれ磁場を印加し励磁を行う磁場印加部と、
前記の各磁性体で冷却される被冷却部と、
この被冷却部と前記の各磁性体とをそれぞれ接続した接続状態と非接続とした非接続状態とに切替える被冷却部側熱スイッチと、
この被冷却部側熱スイッチ、前記熱浴側熱スイッチ、及び前記磁場印加部を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記被冷却部側熱スイッチによって前記被冷却部と非接続状態とした前記磁性体を前記磁場印加手段で励磁しながら、前記熱浴側熱スイッチによって前記熱浴を前記磁性体に接続して排熱したのち、前記熱浴側熱スイッチを非接続状態にして減磁することにより前記磁性体を断熱減磁冷却し、
断熱減磁冷却された少なくともいずれか一つの前記磁性体を前記被冷却部側熱スイッチによって前記被冷却部と接続状態として、前記被冷却部を連続的に冷却する磁気冷凍機。
【請求項2】
前記磁場印加部は、前記磁性体に印加する磁場の大きさを調整可能とし、前記磁性体を前記熱浴と非接続状態として、第1の磁場の大きさから、この第1の磁場の大きさよりも小さい第2の磁場の大きさとすることにより冷却した前記磁性体を前記被冷却部に接続した後に、前記磁性体に印加する磁場の大きさを前記第2の磁場の大きさから漸次小さくすることを特徴とする請求項1記載の磁気冷凍機。
【請求項3】
断熱減磁冷却された磁性体を被冷却部に熱的に接続して前記被冷却部を冷却する磁気冷凍方法において、
それぞれ断熱減磁冷却される磁性体を複数設けるとともに、これらの各磁性体と前記被冷却部とを熱的に断続させる熱スイッチをそれぞれ設け、
前記の各熱スイッチを切替制御して、前記の各磁性体のうち、少なくともいずれか1つを前記被冷却部に接続して前記被冷却部を冷却するとともに、前記被冷却部に接続していない磁性体を断熱減磁冷却することを特徴とする磁気冷凍方法。
【請求項4】
前記の各磁性体は、前記被冷却部に接続して前記被冷却部を冷却する状態と、前記被冷却部に非接続として断熱減磁冷却される状態と繰り返して、前記被冷却部を連続的に冷却することを特徴とする請求項3記載の磁気冷凍方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−255746(P2007−255746A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77907(P2006−77907)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)