説明

磁気冷凍装置

【課題】磁石の回転トルクを低減させ、運転効率を高めることができるとともに、磁石の回転を円滑にして安定した運転を行うことができる磁気冷凍装置を提供する。
【解決手段】磁気冷凍装置10を構成する固定子11は円筒状に形成され、その固定子11内の軸心位置には永久磁石17が回転可能に支持されている。前記固定子11と永久磁石17との間には磁性材料21が充填されるとともに、冷却水が流通する複数の熱交換用ダクト22が配置されている。該熱交換用ダクト22内の周方向中央位置には非磁性材料で形成されたダミーダクト板24が、固定子11の半径方向に延び、熱交換用ダクト22内を区画するように配置されている。このダミーダクト板24には、冷却水が流通する複数の連通孔が開口されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば冷凍庫、冷蔵庫等の家電製品、ガス液化装置等に好適に使用され、磁気熱量効果を利用した磁気冷凍装置に関し、特に永久磁石を回転させることにより磁界変化を得る構造を備えた磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒としてフロン系ガスを用いる気体冷凍技術はオゾン層破壊等の環境問題を引き起こす一方、冷媒として磁性材料を用いる磁気冷凍技術はそのような問題を発生しないことから近年注目されている。この磁気冷凍技術では、磁性材料に磁界変化を与える必要があるとともに、磁気冷凍装置を小型化するために永久磁石を回転させる方式が開発されている。
【0003】
この種の磁気冷凍装置が例えば特許文献1に記載されている。この磁気冷凍装置は、永久磁石を固着した回転子と、磁場の増減に応じて温度が変化する磁気作業物質を含む磁気作業体を内周に配置した固定子とを有する装置本体と、磁気作業体間の循環経路に冷却流体を循環させる冷却流体循環手段と、前記循環経路に設けられた熱交換器とを備えている。そして、磁気作業体を固定子の内面全周が磁気的に軸対称になるように配置して回転子のトルクを低減させるようになっている。さらに、固定子内面の磁気作業体間には、磁気作業体と磁気抵抗が等価となる補助磁性体が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−51412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成の磁気冷凍装置においては、固定子内面に複数配置された磁気作業体間、或いは磁気作業体と補助磁性体間には狭い隙間、すなわち非磁性空間が存在する。このような非磁性空間が存在することにより、永久磁石の電磁力反抗トルクが回転角度で不均一となり、大きく変動する。
【0006】
その結果、永久磁石の回転トルクを上げるために余分な動力を必要とし、動力効率が低下する。加えて、トルク変動によって回転速度も変化して不均一回転するため、円滑な回転が得られなくなるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、磁石の回転トルクを低減させ、運転効率を高めることができるとともに、磁石の回転を円滑にして安定した運転を行うことができる磁気冷凍装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の磁気冷凍装置は、円筒状をなす固定子内の軸心位置に磁石を回転可能に支持するとともに、前記固定子と磁石との間には磁性材料が充填され冷却媒体が流通する複数の熱交換用ダクトを配置した磁気冷凍装置であって、前記熱交換用ダクト内には非磁性材料で形成されたダミーダクト体を、熱交換用ダクト内が区画されるように配設したことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項1に係る発明において、前記ダミーダクト体は、熱交換用ダクト内が均等に区画されるように配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記ダミーダクト体はダミーダクト板で構成され、固定子の半径方向に延びるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項3に係る発明において、前記ダミーダクト板には、冷却媒体が流通する複数の連通孔が開口されていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項3又は請求項4に係る発明において、前記ダミーダクト板は、各熱交換用ダクト内の周方向の中央位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項1から請求項5のいずれか一項に係る発明において、前記熱交換用ダクトは、周方向に均等長さで配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項1から請求項6のいずれか一項に係る発明において、前記熱交換用ダクトは、固定子内の軸心に対して斜め方向に延びるように配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明の磁気冷凍装置は、請求項1から請求項6のいずれか一項に係る発明において、前記磁石は、固定子内の軸心に対して斜め方向に延びるように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の磁気冷凍装置では、円筒状をなす固定子内の軸心位置に磁石が回転可能に支持されるとともに、前記固定子と磁石との間には磁性材料が充填され冷却媒体が流通する複数の熱交換用ダクトが配置されている。そして、熱交換用ダクト内には非磁性材料で形成されたダミーダクト体が熱交換用ダクト内を区画するように配設されている。このため、熱交換用ダクト内はダミーダクト体によって形成される非磁性部により複数に分割され、複数の熱交換用ダクトを配置したときと同等の機能が得られ、磁場変動によるトルクを軽減させることができる。従って、磁石は少ない回転トルクで滑らかに回転することができる。
【0016】
よって、本発明の磁気冷凍装置によれば、磁石の回転トルクを低減させ、運転効率を高めることができるとともに、磁石の回転を円滑にして安定した運転を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態における磁気冷凍装置を示す側断面図。
【図2】磁気冷凍装置を示す正断面図。
【図3】熱交換用ダクト内のダミーダクト板を示す断面図。
【図4】ダミーダクト板を示す正面図。
【図5】磁気冷凍装置の側面を示す図であって、図2の左側面図。
【図6】回転子とその周囲に配置された熱交換用ダクトを示す斜視図。
【図7】鉄芯と永久磁石とよりなる回転子を示す斜視図。
【図8】熱交換用ダクトの別例を示す斜視図。
【図9】鉄芯と永久磁石とよりなる回転子の別例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の磁気冷凍装置を具体化した実施形態について図1〜図7に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の磁気冷凍装置10においては、円筒状をなす固定子11が脚部12によって支持されるとともに、該固定子11の両端部には円板状をなす側板13が接合されている。前記固定子11と両側板13とにより密閉空間14が形成され、該密閉空間14内において前記固定子11内の軸心位置には回転子15を構成する永久磁石17が両側板13に支持されるように配置されている。
【0019】
図7に示すように、回転子15は四角柱状をなす鉄芯16の両側面に、同じく四角柱状をなし外周面が断面円弧状に形成された永久磁石17が接合されて構成されている。そして、図2に示すように、鉄芯16と永久磁石17とにより構成された回転子15は、駆動手段18により回転可能になっている。
【0020】
図2及び図5に示すように、両側板13には各々4つの流通用長孔19が開口され、冷却媒体としての冷却水が流通できるようになっている。両側板13の流通用長孔19はそれぞれ周方向に45度異なる位置に設けられている。
【0021】
図1及び図6に示すように、前記固定子11と永久磁石17との間の円環状の環状空間20には、粒子状の磁性材料21が充填されるとともに、冷却媒体の冷却水が流通する複数(本実施形態では8個)の熱交換用ダクト22が均等長さで配置されている。磁性材料21としては、ランタン、鉄、コバルト及びケイ素の化合物、ガドリニウム等が使用される。隣接する熱交換用ダクト22間にはわずかの隙間が形成され、非磁性空間23となっている。そして、前記永久磁石17の回転により、熱交換用ダクト22内の磁性材料21に磁界を発生させるように構成されている。
【0022】
図3に示すように、前記各熱交換用ダクト22内の周方向中央位置には、非磁性材料で形成されたダミーダクト体としてのダミーダクト板24が固定子11の半径方向に延び、熱交換用ダクト22内が2つの区画室25に均等に区画されるように接合されている。すなわち、ダミーダクト板24は、周方向に均等間隔となるように配置されている。非磁性材料としては、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂、ガラス、セラミックス等が用いられる。
【0023】
図3及び図4に示すように、前記ダミーダクト板24には、冷却水が流通する多数の連通孔26が一定間隔をおいて開口され、両区画室25内の冷却水が相互に出入りできるようになっている。
【0024】
図1の実線に示すように、永久磁石17が対向する位置にある熱交換用ダクト22内の磁性材料21は増磁されて高温になり、冷却水の温度が上がる一方、永久磁石17が対向しない位置にある熱交換用ダクト22内の磁性材料21は減磁されて低温になり、冷却水の温度が下がる。前記磁気冷凍装置10の外部には、図示しない冷却装置が配設され、前記温度が低下した冷却水が図示しない循環ポンプにより循環経路を循環して冷却装置内の被冷却物が冷却されるように構成されている。
【0025】
次に、上記のように構成された磁気冷凍装置10の作用について説明する。
さて、図1の実線に示すように、永久磁石17が対向する位置(0°及び180°)にある高温側の熱交換用ダクト22内の磁性材料21は増磁されて温度が上昇する。その一方、それらと例えば90°異なる位置(90°及び270°)にある低温側の熱交換用ダクト22内の磁性材料21は減磁されて温度が低下する。このとき、低温側の熱交換用ダクト22内を流通する冷却水が図示しない外部の冷却装置内へ流れ、被冷却物を冷却する。被冷却物を冷却した冷却水は前記高温側の熱交換用ダクト22内へと流れ、循環する。この冷却装置内からの冷却水は高温側の熱交換用ダクト22内の冷却水を冷却し、外部の図示しない排熱交換器に到り、そこで所定の熱量が放出される。
【0026】
続いて、図1の二点鎖線に示すように、永久磁石17を90°回転させると、0°及び180°の位置にある低温側の熱交換用ダクト22内の磁性材料21は減磁されて温度が低下する。一方、永久磁石17が90°及び270°の位置にある高温側の熱交換用ダクト22内の磁性材料21は増磁されて温度が上昇する。このため、低温側の熱交換用ダクト22内の冷却水によって冷却装置の被冷却物が冷却される。
【0027】
このように、永久磁石17の回転を繰り返すことにより、低温側の冷却水の温度は、冷凍能力と熱負荷とがバランスする温度まで低下する。一方、高温側の冷却水の温度は、排熱交換器の排熱能力と冷凍能力とがバランスして一定温度に達する。
【0028】
この間、各熱交換用ダクト22内には非磁性材料で形成されたダミーダクト板24が熱交換用ダクト22内を2分の1に区画するように配設されている。このため、各熱交換用ダクト22内はダミーダクト板24によって形成される非磁性部により2等分され、2つの熱交換用ダクト22を配置したときと同等の機能が発現され、磁場変動に伴なうトルクが軽減される。従って、永久磁石17は少ない回転トルクで滑らかに回転することができる。
【0029】
以上詳述した実施形態の磁気冷凍装置10によって発揮される効果を以下にまとめて記載する。
(1)本実施形態における磁気冷凍装置10では、円筒状をなす固定子11内の軸心位置に永久磁石17が回転可能に支持されるとともに、前記固定子11と永久磁石17との間には磁性材料21が充填され冷却水が流通する複数の熱交換用ダクト22が配置されている。そして、熱交換用ダクト22内には非磁性材料で形成されたダミーダクト板24が熱交換用ダクト22内を区画するように配設されている。このため、熱交換用ダクト22内はダミーダクト板24によって形成される非磁性部により複数に分割され、複数の熱交換用ダクト22を配置したときと同等の効果が得られ、磁場変動によるトルクを抑制することができる。
【0030】
よって、本実施形態の磁気冷凍装置10によれば、永久磁石17の回転トルクを低減させ、運転効率を高めることができるとともに、永久磁石17の回転を円滑にして安定した運転を行うことができるという効果を発揮することができる。
(2)前記ダミーダクト板24は、熱交換用ダクト22内が均等に区画されるように配置されている。このため、熱交換用ダクト22内に同じ大きさの区画室25が形成され、永久磁石17の回転を一層円滑にすることができ、安定性の高い運転を行うことができる。
(3)前記ダミーダクト体はダミーダクト板24で構成され、固定子11の半径方向に延びるように配置されている。そのため、ダミーダクト板24は永久磁石17の延びる方向に位置し、熱交換用ダクト22の区画室25内の磁性材料21が永久磁石17の回転方向において均等に配置されている。従って、永久磁石17の回転にむらがなく、一定速度の回転が得られるとともに、回転トルクを減少させることができる。
(4)前記ダミーダクト板24には、冷却水が流通する複数の連通孔26が開口されている。このため、熱交換用ダクト22の区画室25内の冷却水の移動が円滑に行われ、磁気冷凍装置10の冷凍効率を維持することができる。
(5)前記ダミーダクト板24は、各熱交換用ダクト22内の周方向の中央位置に配置されている。そのため、各熱交換用ダクト22内をダミーダクト板24により均等に2分割して同じ容積の区画室25を形成することができ、同じ大きさの熱交換用ダクト22を2つ形成したときの働きが得られる。従って、磁場変動によるトルクを軽減させることができ、運転効率を著しく向上させることができる。
(6)前記熱交換用ダクト22は、周方向に均等長さで配置されている。このため、熱交換用ダクト22内に充填された磁性材料21が周方向に均一に配置され、永久磁石17の回転むらを抑制し、安定性の高い運転を継続することができる。
【0031】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図8に示すように、各熱交換用ダクト22を固定子11の軸心に対して斜め方向(螺旋方向)に延びるように構成することも可能である。この斜め方向の傾斜角度は任意に設定することができる。このように構成した場合、各熱交換用ダクト22内に充填された磁性材料21が永久磁石17から受ける磁場の変化の時間を連続的に長くすることができるとともに、磁場変化の均一性を高めることができ、前記実施形態の効果を一層向上させることができる。
【0032】
・ 図9に示すように、鉄芯16と永久磁石17とからなる回転子15を固定子11の軸心に対して斜め方向(螺旋方向)に延びるように構成することも可能である。なお、永久磁石17の外周面は常に図9の二点鎖線に示す円柱上に位置している。この場合にも、斜め方向の傾斜角度を自由に設定することができる。この構成によれば、各熱交換用ダクト22内に充填された磁性材料21が永久磁石17から受ける磁場の変化の時間を連続的に長くすることができるとともに、磁場変化の均一性を高めることができ、前記実施形態の効果を一層向上させることができる。
【0033】
・ 前記回転子15を、鉄芯16を用いることなく、永久磁石17のみで構成することもできる。
・ 前記ダミーダクト板24を熱交換用ダクト22内に均等間隔で複数配置することも可能である。
【0034】
・ 前記ダミーダクト体として、ダミーダクト板24以外に薄いシート状に形成したものや厚いブロック状に形成したものを使用することもできる。また、ダミーダクト板24の厚さを熱交換用ダクト22間の非磁性空間23と同じ厚さに設定し、非磁性部分を固定子11の全周に亘って均等に形成することもできる。
【符号の説明】
【0035】
10…磁気冷凍装置、11…固定子、17…永久磁石、21…磁性材料、22…熱交換用ダクト、24…ダミーダクト体としてのダミーダクト板、26…連通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状をなす固定子内の軸心位置に磁石を回転可能に支持するとともに、前記固定子と磁石との間には磁性材料が充填され冷却媒体が流通する複数の熱交換用ダクトを配置した磁気冷凍装置であって、
前記熱交換用ダクト内には非磁性材料で形成されたダミーダクト体を、熱交換用ダクト内が区画されるように配設したことを特徴とする磁気冷凍装置。
【請求項2】
前記ダミーダクト体は、熱交換用ダクト内が均等に区画されるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍装置。
【請求項3】
前記ダミーダクト体はダミーダクト板で構成され、固定子の半径方向に延びるように配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気冷凍装置。
【請求項4】
前記ダミーダクト板には、冷却媒体が流通する複数の連通孔が開口されていることを特徴とする請求項3に記載の磁気冷凍装置。
【請求項5】
前記ダミーダクト板は、各熱交換用ダクト内の周方向の中央位置に配置されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の磁気冷凍装置。
【請求項6】
前記熱交換用ダクトは、周方向に均等長さで配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項7】
前記熱交換用ダクトは、固定子内の軸心に対して斜め方向に延びるように配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項8】
前記磁石は、固定子内の軸心に対して斜め方向に延びるように配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の磁気冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−50284(P2013−50284A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189758(P2011−189758)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)