説明

磁気冷却材料およびそれを用いた極低温生成方法

【課題】高価で取り扱いが難しい人工元素のヘリウム3を用いずに、ヘリウム4で1K以下の低温を生成する極低温生成方法を提供する。
【解決手段】ヘリウム4による寒材と6テスラ以上の磁場およびPrPd3を磁気冷却材料として使用し、磁気冷却を行うことにより極低温生成方法を実現した。本発明は、プラセオジム元素の4f電子スピンの磁気的な自由度を利用するものである。具体的には、磁気冷却の材料としてのPrPd3および、PrPd3を磁気冷却の材料として使用したヘリウム4と磁場を用いた1K以下の極低温生成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温生成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶対零度に近い極めて低い温度領域(絶対温度4K以下)では、超伝導・超流動・密度波などさまざまな現象が起きる。これらは熱運動による妨げが小さくなった、物質の最も基本的な状態(基底状態)による現象であり、その極低温領域での物性を研究することは、超電導体、磁性体および半導体などの研究において極めて有用であり、世界中で簡便な極低温生成技術の研究・開発がなされている。
極低温を実現する冷凍機によく使用される寒剤として、ヘリウム4が知られている。1気圧の下で液体ヘリウム4の沸点は4.2Kであり、これをポンプ等で減圧することにより通常は2K、特殊な強力ポンプを使用することで1.3Kの低温を生成することができる。これ以下の温度を生成するときには、ヘリウム3とヘリウム4を利用した希釈冷凍機が一般的である。
しかし、ヘリウム3は自然界にはほとんど存在せず、原子炉で人工的に作るため、極めて高価である。
【0003】
一方、プラセオジム
(Praseodymium、元素記号はPr)は、希土類元素の一つであり、Pr化合物の一つであるPrNiは、極低温の生成方法である断熱消磁法において冷却材料として利用されている。
また、PrPdに関しては、1K付近での大きなエントロピー変化(非特許文献1)、極低温での比熱異常(非特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journalof Physics.: Conf. Ser. 150 (2009) 042074.
【非特許文献2】日本物理学会北陸支部定例学術講演会講演予稿集、Vol.64, No.2, 第3分冊,p.432 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高価で取り扱いが難しい人工元素のヘリウム3を用いずに、ヘリウム4で1K以下の低温を生成する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ヘリウム4による寒材と6テスラ以上の磁場およびPrPdを磁気冷却材料として使用し、磁気冷却を行うことにより上記課題を解決した。
【0007】
本発明は、プラセオジム元素の4f電子スピンの磁気的な自由度を利用するものである。具体的には、磁気冷却の材料としてのPrPdおよび、PrPdを磁気冷却の材料として使用したヘリウム4と磁場を用いた1K以下の極低温生成方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、PrPdが極低温で利用可能な磁気冷却材料であることが明らかとなった。
PrPdを磁気冷却材料として使用する本発明方法により、人口元素であるヘリウム3を利用せず、簡便に1K以下の低温を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、PrPdのエントロピーS対温度Tの曲線である。磁場0テスラ、温度2Kから等温過程により磁場8テスラに増加させる(下向きの矢印)。その後、断熱過程により磁場を0に落とし、0.7Kの低温を得る。(左向きの矢印)点線による矢印は磁場の最高磁場を6テスラにした場合の磁気冷却過程を示す。
【図2】図2は、PPMSの電気抵抗測定パックと、PPMSのヘリウム4と6テスラ以上の高磁場を利用した1K以下の低温生成のための構成図である。
【図3】図3は、磁気冷却素子PrPdの温度(点)、磁場(丸)、真空度の対数(×)、抵抗温度計の励起電流(線)の時間変化を示す図である。
【図4】図4は、磁気冷却素子PrPdを用いたPrPdの極低温領域の比熱の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のPrPdは、所定の成分配合になるように原料を溶解することで製造できる。具体的には、希土類金属プラセオジム(Pr)と金属パラジウム(Pd)を原料として、真空中にてアーク炉で溶解することより得ることができる。得られた物質をX線粉末回折装置により回折パターンを測定し、正方晶AuCu型の結晶構造を有していることを確認することが好ましい。
【0011】
PrPdを、磁気冷却材料として使用し、低温を生成するためには熱接触が必要である。その手法として、例えば、PrPdの立方体を薄い銅シートで覆い、さらに銅板を介して磁気冷却装置に設置する形態が挙げられる。
【0012】
本発明の方法により、1K以下の低温を得るには、まず、ヘリウム4を用いてPrPdを2Kに冷却する。次いで、等温過程により磁場を6テスラ以上まで印加する。さらに、断熱状態を作り出し、断熱過程により磁場を0に減少させればよい。
この断熱過程で磁気エントロピーは一定に保たれ、PrPdの温度は1K以下の温度に冷却される。
【0013】
磁気冷却をするために必要な2Kの温度と、6テスラ以上の磁場の生成には、例えば、カンタム・デザイン社の物理特性測定システム(PPMS)の利用が挙げられる。
以下に実施例で本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
所定の成分配合になるように混合した希土類金属プラセオジムと金属パラジウムを真空中にてアーク炉で溶解した。得られた物質をX線粉末回折装置により回折パターンを測定し、正方晶AuCu型の結晶構造を有するPrPdであることを確認した。
得られたPrPdを6mm角のサイコロ状に成形した。このものを0.1mmの厚さの銅のシートで覆い、銅シートに抵抗温度計をアピエゾングリースで接着した。
磁気冷却をするために必要な2Kの温度と、8テスラの磁場の生成には、カンタム・デザイン製のPPMSを利用した。磁気冷却素子はPPMSの電気抵抗測定パックを用いて図2に示すような構成にした。すなわち、断熱を確保するために電気抵抗測定パックの上に熱絶縁体を置き、それに厚さ2mmの銅板を絹糸で固定した。この銅板にPrPdと銅シートと抵抗温度計で構成された磁気冷却素子をアピエゾングリースで固定した。この電気抵抗測定パックをPPMSにより2Kに冷却した。次に磁場をゼロから8テスラに上昇させた。その後、断熱状態にするために、10−4Torr程度の高真空にした。この間、抵抗温度計により、温度が2Kから大きく上昇しないことを確認した。その後、温度を計測しながら、磁場をゼロに下降させた。この過程を図3に示す。最低温度0.9Kが生成されていることが確認できた。なお、0.9Kから1.0Kまで上昇する時間は約10分であった。
【実施例2】
【0015】
本研究により開発されたヘリウム3を用いない冷却システムにより、PrPdの極低温領域での比熱を測定した。図4に示すように、最低温度として絶対温度0.9Kまでの比熱の値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0016】
PrPdは、1K以下の温度を簡便に生成する最適な磁気冷却材料である。既存の物理特性測定システム(PPMS)に付設することで、極めて簡便に1K以下の低温生成が可能となり、1K以下の電気抵抗などの物理量を測定できる。さらに、断熱の方法を改善することにより、より低い低温生成が可能となり、ヘリウム3を利用する低温生成の方法に取って代わる方法となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PrPd3からなる磁気冷却材料。
【請求項2】
磁気冷却材料としてPrPdを使用し、ヘリウム4と磁場を用いた1K以下の極低温生成方法。
【請求項3】
磁気冷却材料としてPrPdを使用し、ヘリウム4と磁場を用いることを特徴とする物理特性測定システム。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−52755(P2012−52755A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197080(P2010−197080)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 国立大学法人富山大学地域連携推進機構産学連携部門ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー年報 平成21年度
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)