説明

磁気吸引力測定装置及び磁気吸引力測定方法

【課題】被測定磁石が吸着対象物から所定の距離だけ離れた状態を再現しつつ、この状態で被測定磁石が基準吸着体に作用させる磁気吸引力を精度良く、かつ簡単に測定する。
【解決手段】磁気吸引力測定装置10では、調整ナット82及びスクリュー軸76が永久磁石100の吸着面101から基準吸着体74までの高さ方向H(吸引方向)に沿った測定間隔Gを調整可能とする。これにより、永久磁石100を基準吸着体74から離間させつつ、吸引方向に沿った永久磁石100から基準吸着体74までの測定距離Gを所望の値に調整することができるので、永久磁石100が実際に使用される条件に近似した状態を再現しつつ、この状態で永久磁石100が基準吸着体74に作用させる磁気吸引力を荷重測定器14によって精度良く、かつ簡単に測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性金属材料を含む吸着対象物が吸着可能とされた磁石の磁気吸引力を測定するために用いられる磁気吸引力測定装置及び磁気吸引力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気選別装置では、選別対象材料から強磁性の金属異物を除去する際には、一般的に、選別対象材料に対して永久磁石から磁気吸引力を作用させ、選別対象から金属異物を吸着し、除去している。このため、磁気選別装置では、永久磁石の磁気吸引力に対する管理が重要になり、所望の性能を発揮するためには、永久磁石の磁気吸引力が予め設定された管理範囲にあることが必須となる。
【0003】
従来、上記のような永久磁石の磁気吸引力を測定する装置(磁気吸引力測定装置)としては、特許文献1に記載されているように、引張試験機により磁気力の測定対象となる永久磁石(被測定磁石)と磁性体ヨークとを磁気的に吸引させた状態で引張り、両者が分離するときの荷重を測定するものや、ホール素子を被測定磁石の表面に接触又は近接させた状態で、ホール素子により被測定磁石の表面付近に形成される開磁路の磁束密度を測定するものが知られている。
【0004】
ここで、引張試験機を用いた磁気吸引力測定装置は、被測定磁石が磁性体ヨークに作用させる磁気吸引力の大きさを直接的に測定するものであるが、ホール素子を用いた測定装置は、単に磁束密度を測定するものである。
【特許文献1】特開平5−264702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本出願の発明者等の研究及び調査によれば、被測定磁石が磁性体と接触した状態で測定される磁気吸引力や、被測定磁石の表面付近で測定された磁束密度は、吸着対象物を、どれだけの距離からどれだけの力で吸引できるかの指標として必ずしも適当ではない、ということが明らかになった。すなわち、被測定磁石が磁性体と接触した状態で測定される磁気吸引力又は、被測定磁石の表面付近で測定された磁束密度を測定しても、これらの測定値に基づいて被測定磁石が所定距離、離れた金属異物に作用させる磁気吸引力の大きさを精度良く評価することはできない。
本発明の目的は、上記事実を考慮し、被測定磁石が吸着対象物から所定の距離だけ離れた状態を再現しつつ、この状態で被測定磁石が基準吸着体に作用させる磁気吸引力を精度良く、かつ簡単に測定できる磁気吸引力測定装置及び磁気吸引力測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る磁気吸引力測定装置は、磁石の磁気吸引力により吸引可能な基準吸着体と、前記基準吸着体に連結され、所定の吸引方向に沿って前記基準吸着体に対して作用する荷重の大きさを検出する荷重測定手段と、前記荷重測定手段を支持すると共に、前記基準吸着体が磁気吸引力の測定対象となる被測定磁石と対向するように、測定対象となる被測定磁石に装填されるフレーム部材と、前記フレーム部材に配置され、前記被測定磁石から前記基準吸着体までの前記吸引方向に沿った測定間隔を調整可能とするとギャップ調整機構と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記請求項1に係る磁気吸引力測定装置では、フレーム部材に配置されたギャップ調整機構が、被測定磁石から基準吸着体までの吸引方向に沿った測定間隔を調整可能とすることにより、被測定磁石を基準吸着体から離間させつつ、吸引方向に沿った被測定磁石から基準吸着体までの距離(測定距離)を所望の値に調整することができるので、例えば、前記測定距離を、被測定磁石が使用される装置における被測定磁石から吸着対象物までの距離に対応する長さに設定するようにすれば、被測定磁石が実際に使用される条件に近似した状態を再現しつつ、この状態で被測定磁石が基準吸着体に作用させる磁気吸引力を荷重測定手段によって精度良く、かつ簡単に測定できる。
【0008】
このとき、例えば、荷重測定手段に連結される基準吸着体として、吸着対象物の形状、材質及、大きさ等の物理的な属性と近似し、又は対応する物理的な属性を有するものを選択すれば、被測定磁石が実際に使用される条件で、この被測定磁石により吸引される吸着対象物(物質)に実際に作用させる磁気吸引力と精度良く対応する磁気吸引力の測定値を得られる。
【0009】
また、被測定磁石が実際に使用される条件での被測定磁石から吸着対象物までの距離が測定間隔の最大値よりも長いような場合でも、測定間隔を段階的に変えつつ、被測定磁石の磁気吸引力を複数回に亘って測定することで、重回帰等の手法により測定間隔と磁気吸引力との関係式を得ることができるので、この関係式に基づいて、実際に使用される条件で被測定磁石が吸着対象物に作用させる磁気吸引力を精度良く推定することも可能になる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る磁気吸引力測定装置は、請求項1記載の磁気吸引力測定装置において、前記荷重測定手段には、形状、材質及又は大きさが互いに異なる複数個の前記基準吸着体から選択される1個の基準吸着体が連結されることを特徴とする。
また、本発明の請求項3に係る磁気吸引力測定装置は、請求項2記載の磁気吸引力測定装置において、前記荷重測定手段には、被測定磁石により吸着することが想定される吸着対象物に対応する形状を有する前記測定基準吸着体が連結されることを特徴とする。
また、本発明の請求項4に係る磁気吸引力測定装置は、請求項1乃至3の何れか1項記載の磁気吸引力測定装置において、前記ギャップ調整機構には、前記フレーム部材が被測定磁石に装填されると、前記測定間隔を表示するゲージ部材を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係る磁気吸引力測定方法は、請求項1乃至4の何れか1項記載の磁気吸引力測定装置に用いられる被測定磁石の磁気吸引力測定方法であって、被測定磁石にフレーム部材を装填する装填工程と、前記フレーム部材が被測定磁石に装填された状態にて、記ギャップ調整機構により被測定磁石から基準吸着体までの吸引方向に沿った測定間隔を所定の長さに調整するギャップ調整工程と、被測定磁石により前記基準吸着体に対して作用する磁気吸引力を、荷重測定手段荷重により前記基準吸着体に対して作用する荷重として検出する測定工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る磁気吸引力測定装置及び磁気吸引力測定方法によれば、被測定磁石が吸着対象物から所定の距離だけ離れた状態を再現しつつ、この状態で被測定磁石が基準吸着体に作用させる磁気吸引力を精度良く、かつ簡単に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る磁気吸引力測定装置について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る磁気吸引力測定装置及び、この磁気吸引力測定装置による測定対象となる永久磁石が示されている。この磁気吸引力測定装置10は、全体として略コ字状に形成された測定フレーム12及び、この測定フレーム12の内側に配置される荷重測定器14を備えている。ここで、測定フレーム12及び荷重測定器14は、それぞれ本発明に係るフレーム部材及び荷重検出手段を構成している。
【0014】
測定フレーム12には、図1(B)に示されるように、装置の幅方向(矢印W方向)に沿った両端部にそれぞれ円筒状の柱部材16が設けられている。柱部材16は、その中心軸線が幅方向Wに直交する装置の高さ方向(矢印H方向)と平行になっており、一対の柱部材16は、高さ方向Hに沿った寸法が互いに等しいものになっている。一対の柱部材16には、その下端面に肉厚円板状に形成された保護パット18がそれぞれ固着されている。これら一対の保護パット18の下端面は、それぞれ後述する磁気吸引力の測定対象となる永久磁石100に対する当接面20とされている。
【0015】
ここで、保護パット18は、硬質ウレタン等の永久磁石100よりも表面硬度が低いが、磁気吸引力の測定時に高さ方向Hに沿った外部荷重を受けても、変形による寸法変化が十分に小さい材料により成形されている。また一対の柱部材16には、その頂面部が円板状の蓋部材22によりそれぞれ閉塞されており、蓋部材22には高さ方向Hへ貫通するねじ孔24が穿設されている。なお、保護パット18は、その当接面20が測定対象となる永久磁石100の表面形状に対応する形状(例えば、湾曲面、球面)のものに交換可能になっている。
【0016】
測定フレーム12には、高さ方向Hに沿った上端部に連結プレート26が配置されると共に、この連結プレート26の上面側にホルダプレート28が配置されている。連結プレート26は幅方向Wを長手方向とする略長方形の平板状に形成されており、幅方向Wに沿った中心部に高さ方向へ貫通する下側軸受孔32が穿設されると共に、両端部にそれぞれ高さ方向Hへ貫通する挿通孔30が穿設されている。
【0017】
ホルダプレート28には、幅方向Wの中央部に連結プレート26から離間する方向へ略コ字状に屈曲されたホルダ部34が形成されている。ホルダ部34には、幅方向W及び装置の(図1(A)の矢印D方向)に沿って連結プレート26の下側軸受孔32と一致する上側軸受孔36が穿設されている。また、ホルダプレート28の幅方向Wの両端部には、連結プレート26における一対の挿通孔30にそれぞれ一致する挿通孔38が穿設されている。
【0018】
連結プレート26は、その両端部がそれぞれ一対の柱部材16における蓋部材22に突き当てられており、この連結プレート26上にはホルダプレート28が積層されている。ホルダプレート28の挿通孔38及び、これに一致する連結プレート26の挿通孔30には連結ボルト40が挿入されており、この連結ボルト40は、その先端側が蓋部材22のねじ孔24に十分に大きな締結トルクが発生するまで捻じ込まれている。これにより、一対の柱部材16は連結プレート26及びホルダプレート28を介して互いに十分な強度で連結される。すなわち、測定フレーム12は、一対の柱部材16並びに、これら一対の柱部材16を連結した連結プレート26及びホルダプレート28により組立てられている。
【0019】
図1(A)に示されるように、一対の柱部材16の外周面には、それぞれ幅方向Wに沿った内側端部に一対のガイドプレート42が固着されている。一対のガイドプレート42はそれぞれ高さ方向Hと平行に延在しており、一対のガイドプレート42の間には、高さ方向Hに沿って直線的に延在し、かつ奥行方向Dに沿った幅が一定のガイド溝44が形成されている。ここで、一対のガイドプレート42は柱部材16の高さ方向Hに沿った中間部分に配置されており、一方の柱部材16における一対のガイドプレート42と他方の柱部材16における一対のガイドプレート42は、高さ方向H及び奥行方向Dに沿った位置が一致している。
【0020】
一方、荷重測定器14は、測定器本体50及び、この測定器本体50を格納するホルダケーシング52を備えている。ホルダケーシング52は、奥行方向Dに沿って前端側(図1(B)では紙面手前側)の大部分が開口した略立方体状に形成されている。ホルダケーシング52は、測定器本体50の上端側に嵌挿される上部カバー54、測定器本体50の下端側に嵌挿される下部カバー56及び、これら上部カバー54及び下部カバー56の裏面側をそれぞれ閉塞すると共に、上部カバー54と下部カバー56とを連結するバックプレート58とを備えている。
【0021】
バックプレート58は、幅方向Wに沿ったバックプレート58の寸法が上部カバー54及び下部カバー56の寸法よりも長くなっており、バックプレート58には、その両端部にそれぞれ上部カバー54及び下部カバー56に対して幅方向外側へ延出する延出ガイド部60が形成されている。一対の延出ガイド部60は、その先端側がそれぞれガイド溝44内に挿入されている。ここで、図1(A)に示されるように、延出ガイド部60の厚さはガイド溝44の幅よりも僅かに薄くなっており、かつ一対の延出ガイド部60の先端間の間隔は、一対のガイド溝44の底面部間の間隔よりも僅かに短くなっている。これにより、延出ガイド部60はガイド溝44に沿って高さ方向Hへのみ移動可能となる。
【0022】
測定器本体50は、例えば、その内部に起歪体、この起歪体に固着された1乃至複数の歪みゲージ、この歪みゲージの電気抵抗の変化を測定する抵抗測定部等からなる荷重センサ(図示省略)を備えており、この荷重センサは、抵抗測定部により測定された電気抵抗の変化を校正することにより、起歪体に作用している外部荷重(本実施形態では、引張り荷重)を検出する。また測定器本体50には、前側のフロントパネル62にオペレータが操作電源のオン/オフ、風袋設定(イニシャライズ)、測定開始指令等を行うための操作部64が配置されると共に、この操作部64の下側に荷重センサにより検出された外部荷重(測定値)を表示する表示部66が配置されている。
【0023】
測定器本体50には、その底板部にロッド状のジョイント部材68が下方へ突出するように配置されている。また測定器本体50の内部には、一端部が荷重センサの起歪体に連結されると共に、他端部がジョイント部材68に連結された荷重伝達部材(図示省略)が配置されている。これにより、測定器本体50では、ジョイント部材68に高さ方向Hと略平行な外部荷重が伝達され、この外部荷重が荷重伝達部材を介して荷重センサの起歪体に伝達される。このとき、荷重センサは、歪みが発生した歪みゲージの電気抵抗の変化を測定することにより、外部荷重の大きさを検出する。なお、本実施形態では、外部荷重の検出素子として金属抵抗体式の歪みゲージを用いていたが、これ以外にも圧電素子式、半導体式、表面弾性波式、磁歪式、光ファイバ式等の歪みゲージを用いても良い。
【0024】
磁気吸引力測定装置10は、測定器本体50のジョイント部材68に着脱可能に連結される基準カートリッジ70を備えている。基準カートリッジ70には、その上端側に丸棒状の連結軸部72が設けられると共に、この連結軸部72の下端部に連結固定された基準吸着体74が設けられている。連結軸部72は、その上端部がジョイント部材68の内周側に捻じ込み等により連結可能とされており、必要に応じてジョイント部材68から離脱させることも可能になっている。またジョイント部材68は、永久磁石100からの磁気吸引力の影響を避けるため、好ましくは銅合金、オーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性の金属材料により形成される。一方、基準吸着体74は、基本的には強磁性の金属材料を素材として形成され、永久磁石100の磁気吸引力により吸着可能になっている。
【0025】
なお、連結軸部72については、測定フレーム72を永久磁石100に装填したときに、永久磁石100により基準吸着体74が突き上げられることを防止するため、ワイヤ、チェーン等の撓み方向へ変形可能な軸状部材を用いても良い。但し、撓み方向へ変形可能な軸状部材としては、引張り方向及び圧縮方向へ変形が生じないものを用いる必要がある。
磁気吸引力測定装置10では、基準吸着体74の形状、材質及又は大きさが互いに異なる複数個の基準カートリッジ70が予め用意されており、永久磁石100に対する磁気吸引力の測定時には、この永久磁石100により吸着することが想定される吸着対象物に対応する基準吸着体74が選択され、基準吸着体74が連結軸部72及びジョイント部材68を介して測定器本体50に連結される。
【0026】
図1には、基準吸着体74として略真球の形状を有するものが測定器本体50に連結されている例が示されている。この基準吸着体74は、例えば、低炭素鋼等の鉄系金属を素材として形成されているが、吸着対象物の素材等に応じてフェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス等の他の強磁性金属を素材としても良い。また、基準吸着体74は、永久磁石100により吸着可能であれば一部に強磁性金属を含まないものでも良く、例えば、強磁性金属の表面を樹脂材料、非磁性金属等の他の材料により被覆し、又はコーティングしたものでも良い。
【0027】
また、永久磁石100が吸着対象物に作用する磁気吸引力に対する測定精度を高めるためには、後述する理由により、基準吸着体74として、吸着対象物に対応する形状を有しているものを用いることが望ましい。ここで、吸着対象物に対応する基準吸着体74の形状とは、形状が同一で、かつ寸法も同一の場合、形状が同一だが、寸法が異なる(相似の)場合、形状が類似で、かつ寸法(体積)も略同一の場合等が挙げられる。
【0028】
図1(B)に示されるように、ホルダケーシング52の頂板部53には、スクリュー軸76の基端部がナット78を介して連結固定されている。スクリュー軸76は、その軸心が高さ方向Hと一致しており、先端側が外周面にねじ溝が形成された送りねじ部80とされている。スクリュー軸76の送りねじ部80は、下側軸受孔32及び上側軸受孔36をそれぞれ通って連結プレート26及びホルダプレート28を貫通している。また、ホルダプレート28のホルダ部34内には、全体として略肉厚の円板状に形成された調整ナット82が回転可能に収納されている。調整ナット82の中心部には高さ方向Hに沿って雌ねじ孔84が貫通しており、この雌ねじ孔84には、スクリュー軸76の送りねじ部80が捻じ込まれている。ここで、連結プレート26、ホルダ部34、スクリュー軸76及び調整ナット82は、本発明に係るギャップ調整機構を構成している。
【0029】
調整ナット82の外周面には、軸線方向に沿った中間部に両端部に対して外径が大きい把持回転部86が一体的に形成されており、この把持回転部86は、図1(A)に示されるように、外周側の一部がホルダ部34に対して前方向及び後方向へそれぞれ突出している。磁気吸引力測定装置10では、磁気吸引力の測定を行うオペレータが把持回転部86を把持しつつ、調整ナット82を回転させることにより、測定フレーム12に対し、荷重測定器14が高さ方向Hに沿って調整ナット82の回転方向に対応する方向(上方又は下方)へ、調整ナット82の回転量に対応する距離だけ移動する。このとき、ホルダケーシング52が一対の柱部材16にそれぞれ設けられたガイド溝44に沿って高さ方向Hへガイドされることから、荷重測定器14は、奥行方向D及び幅方向Wへ変位(斜行)することが防止され、調整ナット82の回転量に正確に対応する距離だけ高さ方向Hへ直線的に確実に移動する。
【0030】
ホルダケーシング52には、上部カバー54の一端側(図1では、右側)の側面部にゲージプレート88が幅方向Wの外側へ突出するように固定されている。ゲージプレート88は、先端部に幅方向外側へ向かって序々に幅が狭くなった略二等辺三角形の指針部90が形成されている。また、図1(B)に示されるように、一端側の柱部材16に配置された手前側のガイドプレート42には、その前面部に高さ方向Hに沿って延在するゲージ部92が設けられている。このゲージ部92には、高さ方向Hに沿って一定間隔(例えば、1mm間隔)おきに目盛が印字されている。これにより、荷重測定器14が測定フレーム12に対して高さ方向Hに沿って移動した際に、移動前後に、指針部90が指すゲージ部92の目盛変化をオペレータが読み取ることで、荷重測定器14の測定フレーム12に対する相対的な移動量を簡単に測ることができる。
【0031】
次に、上記のように構成された磁気吸引力測定装置10を用いて永久磁石100の磁気吸引力を測定する方法について説明する。
磁気吸引力測定装置10により永久磁石100の磁気吸引力を測定する際には、オペレータは、先ず、図1(B)に示されるように、測定フレーム12における一対の柱部材16の当接面20をそれぞれ永久磁石100の吸着面101に密着させる。この状態で、オペレータは、調整ナット82を適宜回転させることにより、図1の実線で示されるように、基準吸着体74を吸着面101と接するように位置調整する。次いで、オペレータは、指針部90が指すゲージ部92の目盛を視認した後、調整ナット82を回転させて基準吸着体74を吸着面101から離間させ、図1(B)の2点鎖線で示されるように、基準吸着体74と吸着面101との間に予め設定されている隙間(測定間隔G)を形成する。
【0032】
ここで、測定間隔Gは、例えば、永久磁石100が使用される磁気選別装置等の産業装置において、永久磁石100の吸着面101と金属破片等の吸着対象物との実際の間隔(実機間隔)及び、吸着対象物に対する基準吸着体74の縮尺に応じて設定される。具体的には、吸着対象物に対する基準吸着体74の縮尺が1/1の場合には、測定間隔Gを実機間隔と一致するように設定し、また吸着対象物に対する基準吸着体74の縮尺が1/1以外の場合には、その縮尺に応じて実機間隔に対して校正を行った校正値を測定間隔Gとして設定する。また、産業装置において、前記実機間隔が連続的又は段階的に可変とされている場合には、この実機間隔の範囲に応じて測定間隔Gも段階的に複数設定される。
【0033】
オペレータは、測定間隔Gの調整完了後、測定器本体50の操作部64に対して所定の操作を実行することにより、永久磁石100から基準吸着体74に作用している外部荷重(磁気吸引力)の測定を開始する。これにより、測定器本体50は荷重センサにより検出された磁気吸引力を表示部66に表示する。測定間隔Gが複数設定されている場合には、オペレータは、測定フレーム12を一旦、永久磁石100から離間させた後、測定器本体50に対する風袋設定を行った後、他の測定間隔Gについても上記の作業を繰り返すことにより、他の測定間隔Gにおける磁気吸引力を測定する。
なお、測定間隔Gが複数設定されている場合でも、測定フレーム12を永久磁石100から離間させることなく、調整ナット82により測定間隔Gを段階的(例えば、10mm、15mm、20mm)に調整しつつ、各測定間Gに調整された状態で、測定器本体50により磁気吸引力を測定しても良い。
【0034】
以上説明した本実施形態に係る磁気吸引力測定装置10では、ギャップ調整機構として構成された調整ナット82及びスクリュー軸76が永久磁石100の吸着面101から基準吸着体74までの高さ方向H(吸引方向)に沿った測定間隔Gを調整可能とすることにより、永久磁石100を基準吸着体74から離間させつつ、吸引方向に沿った永久磁石100から基準吸着体74までの測定距離Gを所望の値に調整することができるので、例えば、測定距離Gを、永久磁石100が実際に使用される装置における永久磁石100から吸着対象物までの距離(実機間隔)に対応する長さに設定するようにすれば、永久磁石100が実際に使用される条件に近似した状態を再現しつつ、この状態で永久磁石100が基準吸着体74に作用させる磁気吸引力を荷重測定器14によって精度良く、かつ簡単に測定できる。
【0035】
このとき、例えば、荷重測定器14に連結される基準吸着体74として、実際の吸着対象物の形状、材質及、大きさ等の物理的な属性と近似し、又は対応する物理的な属性を有するものを選択すれば、永久磁石100が実際に使用される条件で、この永久磁石100により吸引される吸着対象物に実際に作用させる磁気吸引力と精度良く対応する磁気吸引力の測定値を得られる。
【0036】
また、永久磁石100が実際に使用される条件での実機間隔が、調整ナット82及びスクリュー軸76により調整される測定間隔Gの最大値よりも長いような場合でも、実機間隔を適当な自然数で除した値毎に、測定間隔Gを段階的に変えつつ、永久磁石100の磁気吸引力を複数回に亘って測定することで、重回帰等の手法により測定間隔Gと磁気吸引力との関係式を得ることができるので、この関係式に基づいて、実際に使用される条件で永久磁石100が吸着対象物に作用させる磁気吸引力を精度良く推定することも可能になる。
この結果、本実施形態に係る磁気吸引力測定装置10によれば、永久磁石100が吸着対象物から所定の距離だけ離れた永久磁石100が実際に使用される装置における状態を近似的に再現しつつ、この状態で永久磁石100が基準吸着体74に作用させる磁気吸引力を精度良く、かつ簡単に測定できる。
【0037】
次に、以上説明した本実施形態に係る磁気吸引力測定装置10を用いた磁気吸引力の測定方法について理論的に説明する。
本出願の発明者等は、従来の基準吸着体に密着した被測定磁石を基準吸着体から離すときの荷重を測定する方法や、ホール素子により永久磁石の表面付近の磁束密度(ガウス値)を測定する方法が、吸着対象物をどれだけの距離から、どれだけの力(磁気吸引力)で吸着対象物を引き付けることができるかを正確に測定できないことを勘案し、フォース・インデックス・メソッド(Force Index Method)を利用した本実施形態に係る磁気吸引力の測定方法及び磁気吸引力測定装置を開発した。先ず、このフォース・インデックス・メソッドについて簡単に説明する。
【0038】
既に知られている知見として、均一の磁場のなかでは、その強度に影響されることなく、吸着対象物には磁気吸引力が作用せず、吸着対象物に磁気吸引力を作用させるには、磁場の不均一性(傾き)が必要となる。すなわち、吸着対象物に作用する磁気吸引力の大きさは、磁場自体の強度ではなく、ガウス値の微分値により適正に評価できると考えられる。このガウス値の微分値をフォース・インデックス(FI)とする、このFIは、下記(1)式により表される。
FI=B(ΔB/Δx) ・・・ (1)
ここで、B:磁場の強さ、ΔB:磁場の変化量、Δx:距離とする。
そして、本出願の発明者等は、上記FIにより被測定磁石(永久磁石100)の磁気吸引力を評価すれば、永久磁石100の磁気吸引力、形状又は構造が異なる場合や、吸着対象物の形状、大きさ(重量)又は材質が異なる場合でも、永久磁石100が吸着対象物に作用させる磁気吸引力を適正に評価できるとの知見を得た。この点を更に具体的に説明する。
【0039】
(1)吸着対象物の形状
重心が同一の水平面に位置するように、吸着対象物として、一定重量の鉄製の球体、立方体及び細長い棒状体をそれぞれ試験台上に載置する。これらの吸着対象物の上方に十分な距離を空けて永久磁石100を設置し、この永久磁石100を低速度で試験台側へ下降させると、ある地点で何れか1個の吸着対象物に作用する磁気吸引力が重力と等しくなり、この永久磁石100を微小距離でも下降させると、何れか1個の吸着対象物のみが永久磁石100により吸着される。このとき、永久磁石100に吸着される順番は、棒状体、立方体及び球体の順になる。このとから、重量が同一であっても、永久磁石100から受ける磁気吸引力は、表面積の大きい吸着対象物のほうが大きいことが容易に理解される。
【0040】
(2)吸着対象物の重量
また、図2に示されるように、吸着対象物として、一辺の長さが10mmの立方体102及び100mmの立方体104をそれぞれ試験台106上に載置し、これらの立方体102、104の重心をそれぞれ同一水平面上に位置させる。図2において、F1及びF2は、永久磁石100により立方体102及び立方体104にそれぞれ作用する磁気吸引力、W1及びW2は、立方体102及び立方体104にそれぞれ作用する重力(重量)、GP1及びGP2は、それぞれ立方体102及び立方体104の重心である。
【0041】
これらの立方体102、104の上方に十分な距離を空けて永久磁石100を設置し、この永久磁石100を低速度で試験台側へ下降させると、これらの立方体102、104が測定誤差の範囲内で、同時に永久磁石100に吸着される。このことは、大きな立方体104が小さい立方体102の1000倍の鉄原子からなることから、永久磁石100により立方体104には立方体102の1000倍の磁気力が作用するが、立方体104の重量は立方体102の重量の1000倍になる。このため、永久磁石100により立方体102、104が吸着されるタイミングは同一になる。
【0042】
(3)フォース・インデックス係数
上述した吸着対象物の形状及び重量と永久磁石100の磁気吸引力との関係を考えると、吸着対象物の形状毎に永久磁石100により吸着し易さを相対的に表す係数(フォース・インデックス係数=FI係数)を設定することができる。
下記(表1)に各種形状の吸着対象物のFI係数を試算した結果を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
図3のグラフには、2種類の永久磁石の磁束密度と吸着面からの距離との関係及び、フォース・インデックス(FI)と吸着面からの距離との関係がそれぞれ概念的に示されている。
永久磁石Aは、表面で測定された磁束密度が永久磁石Bよりも高いものになっているが、磁石表面から約120mmの地点で永久磁石Bとの磁束密度の高低が逆転する。一方、磁石表面から20mmの地点で測定されたFIも、永久磁石Aの方が永久磁石Bに対して高いものになっているが、FIの高低が逆転する地点は磁石表面から約300mmの地点になっている。
【0045】
ここで、球体のFI係数は、(表1)に示されるように3000であるが、この3000のFIレベルを図3に直線Lとして示す。この直線LとFIの変化を表す破線A、Bとの交点から横軸(磁石吸着面からの距離)に下ろした点は、それぞれ160mm及び200mmとなる。これらは、それぞれ永久磁石A及び永久磁石Bにより球体が吸着可能となる距離(捕集距離)を表しており、これらの値は、永久磁石A及び永久磁石Bにより実際に球体を吸着した場合の測定値と十分な精度で一致することが確認されている。
【0046】
また、下記(表2)には、球体のFI係数を用いて各種形状の吸着対象物に対する永久磁石A、Bの捕集距離を算出した結果が示されている。この(表2)に示される結果を、各種形状の吸着対象物に対する永久磁石A、Bの捕集距離の実測値と比較した場合にも、FI係数を用いて算出した各種形状の吸着対象物の捕集距離は、実測値と十分な精度で一致することが確認されている。
【0047】
【表2】

【0048】
従って、本実施形態に係る磁気吸引力測定装置10においては、吸着対象物の形状が概略的に分かっていれば、吸着対象物の大きさが基準吸着体74と一致しておらず、又は永久磁石100から基準吸着体74までの測定間隔Gが永久磁石100が使用される実機間隔と一致しない場合でも、図2により示される知見及びFI係数を用いることにより、磁気吸引力測定装置10により測定された磁気吸引力を、永久磁石100が実際に使用される装置において永久磁石100が吸着対象物に作用させる磁気吸引力に換算することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気吸引力測定装の構成を示す平面図及び正面図である。
【図2】永久磁石が吸着対象物に作用させる磁気吸引力と吸着対象物の大きさとの関係を明らかにするために用いられる試験装置の概略構成を示す正面図である。
【図3】2種類の永久磁石A及びBの磁束密度と吸着面からの距離との関係及び、フォース・インデックス(FI)と吸着面からの距離との関係をそれぞれ概念的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10 磁気吸引力測定装置
12 測定フレーム
14 荷重測定器
16 柱部材
18 保護パット
20 当接面
22 蓋部材
24 ねじ孔
26 連結プレート
28 ホルダプレート
30 挿通孔
32 下側軸受孔
34 ホルダ部
36 上側軸受孔
38 挿通孔
40 連結ボルト
42 ガイドプレート
44 ガイド溝
50 測定器本体
52 ホルダケーシング
53 頂板部
54 上部カバー
56 下部カバー
58 バックプレート
60 延出ガイド部
62 フロントパネル
64 操作部
66 表示部
68 ジョイント部材
70 基準カートリッジ
72 連結軸部
74 基準吸着体
76 スクリュー軸
78 ナット
80 送りねじ部
82 調整ナット
84 雌ねじ孔
86 把持回転部
88 ゲージプレート
90 指針部
92 ゲージ部
100 永久磁石
101 吸着面
102、104 立方体
106 試験台
A 永久磁石
B 永久磁石
G 測定間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石の磁気吸引力により吸引可能な基準吸着体と、
前記基準吸着体に連結され、所定の吸引方向に沿って前記基準吸着体に対して作用する荷重の大きさを検出する荷重測定手段と、
前記荷重測定手段を支持すると共に、前記基準吸着体が磁気吸引力の測定対象となる被測定磁石と対向するように、測定対象となる被測定磁石に装填されるフレーム部材と、
前記フレーム部材に配置され、前記被測定磁石から前記基準吸着体までの前記吸引方向に沿った測定間隔を調整可能とするとギャップ調整機構と、
を有することを特徴とする磁気吸引力測定装置。
【請求項2】
前記荷重測定手段には、形状、材質及又は大きさが互いに異なる複数個の前記基準吸着体から選択される1個の基準吸着体が連結されることを特徴とする請求項1記載の磁気吸引力測定装置。
【請求項3】
前記荷重測定手段には、被測定磁石により吸着することが想定される吸着対象物に対応する形状を有する前記測定基準吸着体が連結されることを特徴とする請求項2記載の磁気吸引力測定装置。
【請求項4】
前記ギャップ調整機構には、前記フレーム部材が被測定磁石に装填されると、前記測定間隔を表示するゲージ部材を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の磁気吸引力測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項記載の磁気吸引力測定装置に用いられる被測定磁石の磁気吸引力測定方法であって、
被測定磁石にフレーム部材を装填する装填工程と、
前記フレーム部材が被測定磁石に装填された状態にて、
前記ギャップ調整機構により被測定磁石から基準吸着体までの吸引方向に沿った測定間隔を所定の長さに調整するギャップ調整工程と、
被測定磁石により前記基準吸着体に対して作用する磁気吸引力を、荷重測定手段により前記基準吸着体に対して作用する荷重として検出する測定工程と、
を有することを特徴とする磁気吸引力測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate