説明

磁気式回転角検出装置及びブレーキバイワイヤ型制動制御装置

【課題】磁気式回転角検出装置に外乱磁界が作用して回転角検出誤差を生じる状態を的確に判定すること。
【解決手段】回転軸52の回転に伴って回転変位する磁石54と、磁石54の回転面に平行な面上に互いに直交方向する軸線方向に沿って配置され、90度の回転位相をもって磁石54の磁気強度を検出する2個の磁気検出素子58、・60と、磁気検出素子58、60により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルに基づいて回転軸52の回転角を算出する回転角算出部62とを備えた磁気式回転角検出装置において、前記合成ベクトルの値と予め定められた閾値とを比較し、前記合成ベクトルの値が前記閾値を超えれば、異常を判定する異常判定部64を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式回転角検出装置及びブレーキバイワイヤ型制動制御装置に関し、特に、ブレーキペダルセンサ等として用いられる磁気式回転角検出装置及びその磁気式回転角検出装置を含むブレーキバイワイヤ型制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転角を検出する回転角検出装置として、回転軸の回転に伴って回転変位する磁石と、前記磁石の回転面に平行な面上に互いに直交方向する軸線方向に沿って配置され、90度の回転位相をもって前記磁石の磁気強度を検出する2個の磁気検出素子と、前記2個の磁気検出素子により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルに基づいて回転角を算出する回転角算出部とを備えた磁気式回転角検出装置が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−155617号公報
【特許文献2】特開2007−155618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁気式回転角検出装置に、地磁気やその他の事象によって外乱磁界が作用すると、磁気検出素子は外乱磁界の磁気強度にも感応し、回転角算出部は、回転軸の回転に伴って回転変位する磁石による磁界(正規磁界)に外乱磁界を含んだ磁界の合成ベクトルによって回転角を算出するようになり、正しい回転角を算出しなくなる。このため、磁気式回転角検出装置に外乱磁界が作用すると、回転角検出誤差が発生することになる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、磁気式回転角検出装置に外乱磁界が作用して回転角検出誤差を生じる状態を的確に判定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による磁気式回転角検出装置は、回転軸(52)の回転に伴って回転変位する磁石(54)と、前記磁石(54)の回転面に平行な面上に沿って配置され、それぞれ異なる方向への前記磁石の磁気強度を検出する複数個の磁気検出素子58、60)と、前記複数の磁気検出素子(58、60)により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルに基づいて前記回転軸(52)の回転角を算出する回転角算出部(62)とを備えた磁気式回転角検出装置であって、前記合成ベクトルの値と予め定められた閾値とを比較し、前記合成ベクトルの値が前記閾値を超えれば、異常を判定する異常判定部(64)を有する。
【0007】
この構成によれば、異常判定部(64)により磁気強度を合成した合成ベクトルの値と閾値との比較が行われ、合成ベクトルの値が閾値を超えれば、異常を判定する。
【0008】
本発明による磁気式回転角検出装置は、好ましくは、更に、前記異常判定部(64)は、前記合成ベクトルの値と予め定められた閾値とを比較し、前記合成ベクトルの値が前記閾値を超え、且つ前記合成ベクトルの絶対値の時間変化量を算出し、当該時間変化量が予め定められた閾値を上回った場合には、異常を判定する。
【0009】
この構成によれば、異常判定の精度が向上し、誤判定がない高い異常検知性が得られる。
【0010】
本発明による磁気式回転角検出装置は、好ましい実施形態として、前記異常判定部(64)は、前記合成ベクトルの値と予め定められた上下限の閾値を比較、あるいは前記合成ベクトルの絶対値と予め定められた閾値とを比較する。
【0011】
この構成によれば、合成ベクトルの値と閾値との比較が的確に行われる。
【0012】
また、本発明による磁気式回転角検出装置は、回転軸(52)の回転に伴って回転変位する磁石(54)と、前記磁石(54)の回転面に平行な面上に沿って配置され、それぞれ異なる方向への前記磁石の磁気強度を検出する複数の磁気検出素子58、60)と、前記複数の磁気検出素子(58、60)により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルに基づいて前記回転軸(52)の回転角を算出する回転角算出部(62)とを備えた磁気式回転角検出装置であって、前記2個の磁気検出素子(58、60)により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルの絶対値の時間変化量を算出し、当該時間変化量が予め定められた閾値を上回った際を超えれば、異常を判定する異常判定部(64)を有する。
【0013】
この構成によれば、異常判定部(64)により磁気強度を合成した合成ベクトルの絶対値の時間変化量が閾値を上回った際を超えれば、異常を判定する。
【0014】
本発明による磁気式回転角検出装置は、ブレーキペダル(11)の踏込量に相関する回転角を検出する回転角検出装置として、請求項1から5の何れか一項に記載に磁気式回転角検出装置(50)により構成され、前記ブレーキペダル(11)の踏込量に相関する回転角を検出するブレーキペダルセンサ(11a)と、前記ブレーキペダルセンサ(11a)によって検出される回転角に基づき車両の制動装置(2)に供給する液圧を発生する電動式液圧発生装置(13)と、前記ブレーキペダルと機械的に連結されて前記ブレーキペダル(11)の踏み込みに応じて前記制動装置(2)に供給する液圧を発生する制動力を発生する機械式液圧発生装置(15)と、前記異常判定部(64)が異常を判定してない場合には、前記電動式液圧発生装置(13)が発生する液圧のみを前記制動装置(2)に供給し、前記異常判定部(64)が異常を判定した場合には、前記機械式液圧発生装置(15)が発生する液圧のみを前記制動装置(2)に供給する切換部とを有する。
【0015】
この構成によれば、磁気式回転角検出装置(50)によるブレーキペダルセンサ(11a)に外乱磁界が作用しておらず、ブレーキペダル(11)の踏込量を正確に検出できる状態下では、電動式液圧発生装置(13)が発生するブレーキ液圧によってブレーキバイワイヤ方式で制動が行われ、磁気式回転角検出装置(50)によるブレーキペダルセンサ(11a)に外乱磁界が作用してブレーキペダル(11)の踏込量を正確に検出できない状態下では、機械式液圧発生装置(15)が発生するブレーキ液圧によって機械方式でフェールセーフの制動が行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による磁気式回転角検出装置によれば、異常判定部により合成ベクトルの値と閾値との比較が行われ、合成ベクトルの値が閾値を超えれば、異常を判定するから、磁気式回転角検出装置に外乱磁界が作用して回転角検出誤差を生じる状態が的確に見出される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による磁気式回転角検出装置の一つの実施形態を示す斜視図。
【図2】本発明による磁気式回転角検出装置に用いられるセンサチップの一つの実施形態を示すブロック図。
【図3】外乱磁界が作用していない状態での2軸磁気強度の合成ベクトルを示すグラフ。
【図4】外乱磁界が作用している状態での2軸磁気強度の合成ベクトルを示すグラフ。
【図5】本発明によるブレーキバイワイヤ型制動制御装置の一つの実施形態を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明による磁気式回転角検出装置の一つの実施形態を、図1、図2を参照して説明する。
【0019】
磁気式回転角検出装置50は、回転軸52に取り付けられた磁石(ロータ)54と、磁石54に隣接して固定配置されたセンサチップ56とを有する。
【0020】
磁石54は、回転軸52の中心軸線周りに180度回転変位した位置にN極とS極とを有する2極の永久磁石により構成され、回転軸52の回転に伴って回転変位し、回転軸52の中心軸線と直交する回転面に、回転変位によってN極とS極の磁気ベクトルが変化する磁界を生じる。この磁界を正規磁界と云う。
【0021】
センサチップ56は、ICチップにより構成され、磁石54の回転面に平行な面上に互いに直交方向する軸線方向、つまりX軸方向に沿って配置されたホール素子アレイ等によるX軸磁気検出素子58と、Y軸方向に沿って配置されたホール素子アレイ等によるY軸磁気検出素子60と、回転角算出部62とを有する。
【0022】
X軸磁気検出素子58とY軸磁気検出素子60は、互いに90度の回転位相をもって磁石54の磁気強度(磁気密度)を検出し、磁石54の回転変位による磁界の変化に伴って90度だけ位相が偏倚した正弦波信号を出力する。
【0023】
回転角算出部62は、X軸磁気検出素子58とY軸磁気検出素子60より磁気強度を示す信号を入力し、X軸磁気検出素子58によって検出されるX軸方向の磁気強度とY軸磁気検出素子60によって検出されるY軸方向の磁気強度とを合成した合成ベクトルに基づいて回転軸52の回転角を算出し、算出結果(回転角情報)を出力する。
【0024】
図3に示されているように、X軸磁気検出素子58によって検出される磁石54の磁気強度をMx、Y軸磁気検出素子60によって検出される磁石54の磁気強度をMyとすると、回転角算出部62は、下式によって回転軸52のX軸基準の回転角θを算出する。
θ=arctan(My/Mx)
【0025】
X軸方向の磁気強度MxとY軸方向の磁気強度Myとを合成した合成ベクトルMがX軸となす角度が回転軸52のX軸基準の回転角θであり、外乱磁界がセンサチップ56に作用しない限り合成ベクトルMの値(大きさ)は、回転角θの変化に拘らず一定である。換言すると、回転角θの検出全域に亘って合成ベクトルMの大きさは、温度特性による変動を除いて一定であり、変動しない。
【0026】
センサチップ56は、更に、異常判定部64を有する。異常判定部64は、X軸磁気検出素子58によって検出されるX軸方向の磁気強度とY軸方向の磁気強度とを合成した合成ベクトルの値と予め定められた閾値とを比較し、合成ベクトルの値が前記閾値を超えていなければ、正常と判定し、合成ベクトルMの値が前記閾値を超えれば、異常と判定し、これらの判定結果を示す信号を出力する。
【0027】
異常判定部64が行う異常判定として、合成ベクトルの値と予め定められた上下限の閾値を比較する方法と、合成ベクトルの絶対値と予め定められた閾値とを比較する方法とがあり、要求仕様等に応じて何れかの比較判定方法が選ばれればよい。合成ベクトルの値と予め定められた上下限の閾値とを比較する場合には、上限の閾値と下限の閾値とを異なる値に設定することができる。
【0028】
図4に示されているような磁気ベクトルMeの外乱磁界がセンサチップ56に作用すると、X軸磁気検出素子58とY軸磁気検出素子60は、磁石54の正規磁界による磁気強度Mx、Myに、外乱磁界によるX軸方向の磁気強度Mxe、Myeを加えた磁気強度を検出することになり、回転角算出部62は、下式によって回転軸52のX軸基準の回転角θeを算出することになる。
【0029】
θe=arctan{(My+Mye)/(Mx+Mxe)}
θeとθとは等しくなく、θeとθの相違による回転角検出誤差が発生する。
【0030】
センサチップ56に外乱磁界が作用している場合の合成ベクトルは、(M+Me)となり、センサチップ56に外乱磁界が作用していない場合の合成ベクトルMと異なった値になる。このことから、合成ベクトルMに温度特性等による変動を考慮した余裕値を加えた閾値を設定して当該閾値と合成ベクトルの値に比較することにより、外乱磁界によって正しい回転角検出をできない異常状態を簡単に判別することができる。
【0031】
合成ベクトルの大きさの閾値の設定においては、外乱磁界が作用していない正常時でも発生する検出ばらつき要素(磁石54の発生する磁界強度と磁気検出素子58、60の検出精度の個体ばらつきや、それらの温度特性による変動等)を考慮して、誤検知のない設定値とする。また、この際、センサチップ56に、初期の磁界強度の計測値を記憶する機能を持たせ、その記憶された値からの磁界強度変化量により判定を行うことで、上述の磁石54及び磁気検出素子58、60の検出精度の個体ばらつき分は、闇値設定時に積算する項目から除外することができ、誤異常検知を避けながら、より高い異常検知性を持たせることができる。
【0032】
また、X軸磁気検出素子58、Y軸磁気検出素子60が故障している場合も、合成ベクトルの値は正常状態時の合成ベクトルMとは異なった異なった値になるから、異常判定部64は、外乱による異常判定に併せて、故障による異常判定も行うことができる。
【0033】
異常判定部64は、更に、合成ベクトルの絶対値の時間変化量を算出し、合成ベクトルの値が前記閾値を超え、且つ前記合成ベクトルの絶対値の時間変化量が予め定められた閾値を上回った場合には、異常を判定する構成にすることもできる。
【0034】
外乱磁気による磁界強度変動は、磁石54の温度特性等による変動よりも短時間に急激に生じるから、このように、異常判定の条件を増やすことにより、誤判定がない更に高い異常検知性が得られるようになる。
【0035】
合成ベクトルの絶対値の時間変化率の閾値の設定に於いては、磁石54や磁気検出素子58、60等の温度特性等により、外乱磁界の印加等のない正常時に発生し得る変化率より大きい値に設定することで、誤検知を防ぐことがてきる。
【0036】
また、他の実施形態として、異常判定部64は、合成ベクトルの絶対値の時間変化量が予め定められた閾値を上回ったか否かのみを判別し、合成ベクトルの絶対値の時間変化量が閾値を上回った場合には、異常を判定する構成に簡素化することもできる。
【0037】
次に、本発明によるブレーキバイワイヤ型制動制御装置の一つの実施形態を、図5を参照して説明する。
【0038】
車両の各車輪(図示省略)には、摩擦制動を行う液圧式の摩擦制動装置として、車輪と一体のディスク2aとホイールシリンダ2bを備えるキャリパとにより構成される公知のディスクブレーキ2が設けられている。ホイールシリンダ2bは、配管によってブレーキバイワイヤ型制動制御装置8と接続され、ブレーキバイワイヤ型制動制御装置8よりブレーキ液圧を供給され、ブレーキ液圧に応じた制動力を生じる。
【0039】
ブレーキバイワイヤ型制動制御装置8は、ブレーキペダル11の踏込量に相関する回転角を検出する回転角検出装置として、前述の磁気式回転角検出装置50により構成され、ブレーキペダル11の踏込量に相関する回転角を検出するブレーキペダルセンサ11Aを有する。
【0040】
ブレーキバイワイヤ型制動制御装置8は、電動式液圧発生装置として、モータ駆動シリンダ装置13を有する。モータ駆動シリンダ装置13は、ブレーキペダルセンサ11Aによって検出されるブレーキペダル11の踏込量(回転角)に基づいてホイールシリンダ2bに供給するブレーキ液圧を発生する。
【0041】
モータ駆動シリンダ装置13には、電動サーボモータ12と、電動サーボモータ12に連結されたギアボックス18とが一体的に設けられていると共に、ギアボックス18にボールねじ機構を介してトルク伝達されることにより軸線方向変位するねじ溝付きロッド19と、ねじ溝付きロッド19と同軸かつ互いに直列的に配設された第1ピストン21a及び第2ピストン21bとが設けられている。
【0042】
これにより、ブレーキペダル11の踏込量に応じて電動サーボモータ12が回転し、その回転力がギアボックス18を介してねじ溝付きロッド19の軸力に変換され、第1ピストン21aが直線運動する。このようにして、ブレーキペダル11の操作を機械的にブレーキ液圧発生シリンダに伝達してブレーキ液圧を発生させるのではなく、ブレーキペダル11の踏込量に応じてモータ駆動シリンダ装置13によりブレーキ液圧を発生させる、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤが構成されている。
【0043】
ブレーキペダル11のアーム部の一端が車体に回動自在に支持されていると共に、そのブレーキペダル11の円弧運動を略直線運動に変換するロッド14の一端がブレーキペダル11のアーム部の中間部に連結されている。ロッド14の他端は、直列的に配設されたマスタシリンダ装置15の第1ピストン15aを押し込むように係合している。マスタシリンダ装置15には第1ピストン15aに対してロッド14とは相反する側に直列的に第2ピストン15bが配設されており、各ピストン15a・15bは戻しばね41a・41bによりそれぞれロッド14側にばね付勢されている。なお、ブレーキペダル11は、図示されない戻しばねにより図2に示されている待機位置に戻す向きにばね付勢され、かつ待機位置で図示されないストッパにより止められている。
【0044】
マスタシリンダ装置15には、各ピストン15a・15bの変位に応じてブレーキ液をやり取りするためのリザーバタンク16が設けられている。なお、各ピストン15a・15bには、リザーバタンク16と連通する各油路16a・16bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。そして、マスタシリンダ装置15のシリンダ内には、第1ピストン15aと第2ピストン15bとの間に第1液室17aが形成され、第2ピストン15bの第1ピストン15aとは相反する側に第2液室17bが形成されている。
【0045】
このようにして、マスタシリンダ装置15は、ブレーキペダル11と機械的に連結されてブレーキペダル11の踏み込みに応じてホイールシリンダ2bに供給するブレーキ液圧を発生する機械式液圧発生装置をなしている。
【0046】
前述したモータ駆動シリンダ装置13において、第2ピストン21bに一端部が固設された連結部材27が第1ピストン21a側に延出して、連結部材20の延出方向他端部が第1ピストン21aに対して相対的に軸線方向に所定量変位可能に支持されている。これにより、第1ピストン21aは前進(第2ピストン21b側変位)時に第2ピストン21bに対して相対的に所定量だけ変位可能であるが、第1ピストン21aの前進状態から図2の初期状態に戻る後退時には、連結部材20を介して第2ピストン21bも初期位置まで引き戻されるようになっている。なお、各ピストン21a、21bは、それぞれに対応して設けられた各戻しばね27a、27bによりロッド19側にばね付勢されている。
【0047】
また、モータ駆動シリンダ装置13には、リザーバタンク16に連通路22を介してそれぞれ連通する各油路22a、22bが設けられている。各ピストン21a、21bには、各油路22a、22bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。モータ駆動シリンダ装置13の筒内には、第1ピストン21aと第2ピストン21bとの間に第1液室23aが形成され、第2ピストン21bの第1ピストン21aとは相反する側に第2液室23bが形成されている。
【0048】
マスタシリンダ装置15の第1液室17a及び第2液室17bは、配管(油路)42a、42b及びVSA装置26を介して複数(図示例では4つ)の各ホイールシリンダ2bと連通するように接続されている。
【0049】
VSA装置26は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクションコントロールシステム)に、旋回時の横すべり抑制を加え、3つの機能をトータルにコントロールする車両挙動安定化制御システムとして公知のものであってよく、その説明を省略する。なお、VSA装置26には、前輪の各ホイールシリンダ2bに対応する第1系統と、後輪の各ホイールシリンダ2bに対応する第2系統とをそれぞれ構成する各種の油圧素子を用いた各ブレーキアクチュエータ26bと、それらを制御するVSA制御ユニット26aとにより構成されている。なお、他の実施形態では、VSA装置26を省略してもよい。
【0050】
配管42aの途中には切換部をなす常時開型の電磁弁である開閉弁24aが設けられ、配管42bの途中にも切換部をなす常時開型の電磁弁である開閉弁24bが設けられている。配管42aの開閉弁24aとVSA装置26との間の部分は、配管43aを介して第1液室23aと連通するように接続されている。配管42bの開閉弁24bとVSA装置26との間の部分は、配管43bを介して第1液室23aと連通するように接続されている。
【0051】
第1液室23aには、配管42a、常時開状態の開閉弁24a及び配管43aを介してマスタシリンダ装置15の第1液室17aが連通し、第2液室23bには、配管42b、常時開型の開閉弁24b及び配管43bを介してマスタシリンダ装置15の第2液室17bが連通する。なお、第1液室17aと開閉弁24aとの間にはマスタシリンダ側ブレーキ圧センサ25aが接続され、開閉弁24bと第2液室23bとの間にはモータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ25bが接続されている。
【0052】
第2液室17bと開閉弁24bとの間には、常時閉型の電磁弁であるシミュレータ弁24cを介してシリンダ型の反力シミュレータ28が接続されている。反力シミュレータ28には、そのシリンダ内を分断するピストン28aが設けられ、ピストン28aのシミュレータ弁24c側に貯液室28bが形成され、ピストン28aの貯液室28b側とは相反する側には圧縮コイルばね28cが受容されている。両開閉弁24a・24bが閉じかつシミュレータ弁24cが開くことにより、第2液室17bと貯液室28bとが連通し、その状態でブレーキペダル11を踏み込むと、第2液室17b内のブレーキ液が貯液室28bに入り込む。それにより圧縮される圧縮コイルばね28cの付勢力がブレーキペダル11に伝達されるため、公知のマスタシリンダとホイールシリンダとが直結されているブレーキ装置と同様の踏み込みに対する反力が得られる。
【0053】
このようにして構成されたブレーキバイワイヤ型制動制御装置8は、制御ユニット6により総合的に制御される。制御ユニット6には、ブレーキペダルセンサ11aと各ブレーキ圧センサ25a・25bとの各検出信号が入力し、また車両の挙動を検出するための各種センサ(図示せず)からの検出信号が入力し、さらに電動サーボモータ12に設けられたモータ回転角センサ44からのモータ回転角信号も入力している。
【0054】
制御ユニット6は、センサチップ56の異常判定部64(図2参照)から異常判定信号を入力し、異常を判定してない場合には、開閉弁24a・24bを閉弁状態、シミュレータ弁24cを開弁状態にする制御を行う。これにより、異常を判定してない場合には、モータ駆動シリンダ装置13が発生するブレーキ液圧のみがホイールシリンダ2bに供給され、ブレーキバイワイヤ方式で制動が行われる。
【0055】
これに対し、異常判定部64が異常を判定した場合には、制御ユニット6は、モータ駆動シリンダ装置13の制御を取り止め、開閉弁24a・24bを開弁状態、シミュレータ弁24cを閉弁状態にする制御を行う。これにより、異常を判定した場合には、マスタシリンダ装置15が発生するブレーキ液圧のみがホイールシリンダ2bに供給され、機械方式で制動が行われる。
【0056】
このように、磁気式回転角検出装置50によるブレーキペダルセンサ11aに外乱磁界が作用しておらず、ブレーキペダル11の踏込量を正確に検出できる状態下では、モータ駆動シリンダ装置13が発生するブレーキ液圧によってブレーキバイワイヤ方式で制動が行われ、磁気式回転角検出装置50によるブレーキペダルセンサ11aに外乱磁界が作用してブレーキペダル11の踏込量を正確に検出できない状態下では、マスタシリンダ装置15が発生するブレーキ液圧によって機械方式でフェールセーフの制動が行われる。
【0057】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。たとえば、上述の実施形態では、軸磁気検出素子58とY軸磁気検出素子60によって互いに90度の回転位相をもって磁石54の磁気強度を検出しているが、2個以上の複数個の磁気検出素子が磁石54の回転面に平行な面上に沿って配置され、各磁気検出素子がそれぞれ異なる方向への磁石54の磁気強度を検出する構成であってもよい。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…ブレーキ装置、2b…ホイールシリンダ、6…制御ユニット(制御手段)、8…ブレーキバイワイヤ型制動制御装置、11…ブレーキペダル、11a…ブレーキペダルセンサ、12…電動サーボモータ、13…モータ駆動シリンダ装置(電動式液圧発生装置)、15…マスタシリンダ装置(機械式液圧発生装置)、17a…第1液室、17b…第2液室、23a…第1液室、23b…第2液室、24a・24b…開閉弁(切換部)、24c…シミュレータ弁、25a…マスタシリンダ側ブレーキ圧センサ、25b…モータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ、26…VSA装置、28…反力シミュレータ、42a・42b…配管、43a・43b…配管、44…モータ回転角センサ、50…磁気式回転角検出装置、52…回転軸、54…磁石、56…センサチップ、58…X軸磁気検出素子、60…Y軸磁気検出素子、62…回転角算出部、64…異常判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の回転に伴って回転変位する磁石と、前記磁石の回転面に平行な面上に沿って配置され、それぞれことなる方向への前記磁石の磁気強度を検出する複数の磁気検出素子と、前記複数の磁気検出素子により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルに基づいて前記回転軸の回転角を算出する回転角算出部とを備えた磁気式回転角検出装置であって、
前記合成ベクトルの値と予め定められた閾値とを比較し、前記合成ベクトルの値が前記閾値を超えれば、異常を判定する異常判定部を有する磁気式回転角検出装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、前記合成ベクトルの値と予め定められた閾値とを比較し、前記合成ベクトルの値が前記閾値を超え、且つ前記合成ベクトルの絶対値の時間変化量を算出し、当該時間変化量が予め定められた閾値を上回った場合には、異常を判定する請求項1に記載の磁気式回転角検出装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記合成ベクトルの値と予め定められた上下限の閾値を比較する請求項1また2に記載の磁気式回転角検出装置。
【請求項4】
前記異常判定部は、前記合成ベクトルの絶対値と予め定められた閾値とを比較する請求項1または2に記載の磁気式回転角検出装置。
【請求項5】
回転軸の回転に伴って回転変位する磁石と、前記磁石の回転面に平行な面上に沿って配置され、それぞれ異なる方向への前記磁石の磁気強度を検出する複数の磁気検出素子と、前記複数の磁気検出素子により検出される磁気強度を合成した合成ベクトルに基づいて前記回転軸の回転角を算出する回転角算出部とを備えた磁気式回転角検出装置であって、
前記2個の磁気検出素子により検出される磁気強度の合成ベクトルの絶対値の時間変化量を算出し、当該時間変化量が予め定められた閾値を上回った際を超えれば、異常を判定する異常判定部を有する磁気式回転角検出装置。
【請求項6】
ブレーキペダルの踏込量に相関する回転角を検出する回転角検出装置として、請求項1から5の何れか一項に記載に磁気式回転角検出装置により構成され、前記ブレーキペダルの踏込量に相関する回転角を検出するブレーキペダルセンサと、
前記ブレーキペダルセンサによって検出される回転角に基づき車両の液圧式の制動装置に供給する液圧を発生する電動式液圧発生装置と、
前記ブレーキペダルと機械的に連結されて前記ブレーキペダルの踏み込みに応じて前記制動装置に供給する液圧を発生する機械式液圧発生装置と、
前記異常判定部が異常を判定してない場合には、前記電動式液圧発生装置が発生する液圧のみを前記制動装置に供給し、前記異常判定部が異常を判定した場合には、前記機械式液圧発生装置が発生する液圧のみを前記制動装置に供給する切換部と、
を有するブレーキバイワイヤ型制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−251809(P2012−251809A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123105(P2011−123105)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】