説明

磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム

【課題】保守情報を読み書き可能なICタグを備えた地上コイルについて、簡単且つ短時間の作業によって保守情報の収集を可能とする磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム10は、磁気浮上式鉄道のガイドウェイ12に沿って列設された複数の地上コイル13にそれぞれ設けられ、保守情報を読み書き可能なICタグ14と、該ICタグ14と交信可能なアンテナ16を搭載して、ガイドウェイ12に沿って走行する保守用車両15と、複数の地上コイル13の保守情報をアンテナ16を介して収集するリーダライタ17と、該リーダライタ17が収集した保守情報を管理する保守情報管理装置18と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上式鉄道の軌道に沿って配置され、保守情報を読み書き可能なICタグを備えた地上コイルについて、その保守情報を管理するためのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁力による反発力または吸引力を利用して車体を軌道から浮上させて推進する磁気浮上式鉄道の開発が進められている。この磁気浮上式鉄道は、車両に搭載される超電導磁石と、軌道に沿って複数設置される地上コイルとの相互作用により、車体を軌道から浮上させるための浮上力、車両の移動方向を案内するための案内力、及び車両を走行させるための推進力を得ている。
【0003】
ここで、複数の地上コイルの保守管理を容易且つ確実に行うことを目的として、本出願人は、保守情報を読み書き可能なICタグを備えた地上コイルを従来提唱している(例えば、特許文献1を参照)。このICタグを備えた地上コイルを用いれば、ある地上コイルについて保守作業が完了した後に、作業者が携帯端末等を用いてICタグに保守情報を書き込んでおけば、次回にその地上コイルについて保守作業を行う際に、ICタグから保守情報を読み取ることにより、過去の履歴情報を容易に取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−69607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理方法では、軌道に沿って設置される地上コイルの数が膨大になると、保守作業の作業効率が悪くなるという問題がある。
【0006】
より詳細に説明すると、保守用車両に乗って軌道に沿って走行しながら、保守作業の対象である地上コイルを探し出す場合、地上コイルは外観に差がほとんどないため、その識別が難しいという問題がある。この問題に対処する手段として、地上コイルの表面に識別用の数字や文字を表示し、走行する保守用車両からこの情報を読み取ることによって、目的とする地上コイルを見分ける方法が考えられる。しかし、この識別用の数字や文字は、保守用車両の走行速度を上げた場合や、地上コイルが汚損した場合は、その読み取りが難しくなる。そこで、識別用の数字や文字をより読み取りやすく表示した標識等を地上に設置することも考えられるが、このような標識のみでは地上コイルの位置情報を精度良く取得することは困難である。
【0007】
また、現場にて保守用車両から降りて目的とする地上コイルの保守情報を確認する場合、保守作業の対象である地上コイルの数が多いと、携帯端末等を用いて1個ずつICタグを読み取るのに手間と時間が掛かるという問題もある。そこで、保守情報を現場でICタグから読み取るのではなく、保守情報を記録したものを持ち運ぶ方法も考えられるが、記録を常に最新の保守情報に更新する手間が必要となる。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、磁気浮上式鉄道の軌道に沿って複数設置され、保守情報を読み書き可能なICタグを備えた地上コイルについて、簡単且つ短時間の作業によって保守情報の収集を可能とする磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムは、磁気浮上式鉄道の軌道に沿って列設された複数の地上コイルにそれぞれ設けられ、保守情報を読み書き可能なICタグと、該ICタグと交信可能なアンテナを搭載して、前記軌道に沿って走行する保守用車両と、前記複数の地上コイルの保守情報を前記アンテナを介して収集するリーダライタと、該リーダライタが収集した保守情報を管理する保守情報管理装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、保守用車両で軌道に沿って走行しながら、地上コイルのICタグと交信を行うことにより、複数の地上コイルについてその保守情報を収集することができる。
【0011】
また、本発明に掛かる磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムは、前記ICタグが、複数の前記地上コイルにおける一定の高さ位置にそれぞれ設けられ、前記保守用車両が、前記ICタグと略同じ高さ位置に前記アンテナを有することを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、アンテナが各ICタグと同じ高さ位置に設けられているので、ICタグとの間でより確実に交信を行うことができる。
【0013】
また、本発明に掛かる磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムは、前記ICタグが、前記地上コイルを構成し側面視でループ状に巻回されたコイル導体と側面視で重なる位置に設けられたことを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、アンテナとICタグとの交信可能範囲が、地上コイルを構成するコイル導体の電磁誘導により縮小することを最小限に抑えられるため、アンテナによるICタグの読み取りを正確且つ確実に行うことができる。
【0015】
また、本発明に掛かる磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムは、前記地上コイルが、前記保守用車両の走行方向に向かって左右両側にそれぞれ所定間隔で設けられるとともに、前記アンテナが、前記保守用車両の左右両側部に、走行方向に複数の前記ICタグを同時に読みとらないように交信可能範囲が設定されてそれぞれ設けられ、前記リーダライタは、前記保守用車両の左側部に設けられたアンテナによる走行方向左側の地上コイルからの保守情報の収集と、前記保守用車両の右側部に設けられたアンテナによる走行方向右側の地上コイルからの保守情報の収集と、を交互に行うことを特徴とする。
【0016】
このような構成によれば、保守用車両の左側部に設けられたアンテナが、走行方向左側の地上コイルから保守情報を収集している間は、保守用車両の右側部に設けられたアンテナは、走行方向右側の地上コイルから保守情報の収集を行わない。一方、右側部に設けられたアンテナが、走行方向右側の地上コイルから保守情報を収集している間は、左側部に設けられたアンテナは、走行方向左側の地上コイルから保守情報の収集を行わない。これにより、同時に多量の保守情報を処理する必要がないため、収集した保守情報を正確且つ短時間で処理することができる。
【0017】
また、アンテナの交信可能範囲が、走行方向に複数のICタグを同時に読み取らないように設定されるため、複数のICタグを同時に読み取る場合と比較すると、アンチコリジョンの処理が不要となる分、処理時間を短縮することができ、必要な交信時間が確保されるため、アンテナとICタグとの交信を正確且つ確実に行うことができる。
【0018】
また、本発明に掛かる磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムでは、前記保守用車両の走行方向左側に設けられた前記地上コイル及び走行方向右側に設けられた前記地上コイルは、走行方向への前記ICタグの配設位置が略等しく、前記保守用車両の左側部に設けられたアンテナと右側部に設けられたアンテナとが、走行方向に沿って相対的に位置をずらして配置されたことを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、走行方向への配設位置が左右で相対的に位置ずれしたアンテナによって、走行方向への配設位置が左右で略等しいICタグをそれぞれ読み取ることにより、地上コイルからの保守情報の収集を、走行方向に向かって左右交互に行うことができる。
【0020】
また、本発明に掛かる磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムでは、前記保守用車両の左側部に設けられたアンテナ及び右側部に設けられたアンテナは、走行方向への配設位置が略等しく、前記保守用車両の走行方向左側に設けられた前記地上コイル及び走行方向右側に設けられた前記地上コイルは、前記ICタグが走行方向に沿って相対的に位置をずらして配置されたことを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、走行方向への配設位置が左右で略等しいアンテナによって、走行方向への配設位置が左右で相対的に位置ずれしたICタグをそれぞれ読み取ることにより、地上コイルからの保守情報の収集を、走行方向に向かって左右交互に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムによれば、保守用車両で軌道に沿って走行しながら、アンテナとICタグとの間で交信するだけの簡単且つ短時間の作業によって、複数の地上コイルについて保守情報を収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムを示す概略側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システムを示す概略平面図である。
【図3】地上コイルを示す概略側面図である。
【図4】地上コイルを示す概略断面図である。
【図5】ICタグを示す概略平面図である。
【図6】地上コイルにおけるICタグの設置場所の変形例を示す概略平面図である。
【図7】保守作業の内容のコード化について説明する図である。
【図8】保守用車両の走行時における、アンテナとICタグとの交信を説明する図である。
【図9】保守情報管理装置に表示される地上コイルの位置検索画面の一例を示す図である。
【図10】保守情報管理装置に表示される地上コイルの保守作業検索画面の一例を示す図である。
【図11】第2実施形態に係る地上コイルの保守情報管理システムの構成を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第1実施形態に係る磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム(以下、単に「地上コイルの保守情報管理システム」と略す。)の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る地上コイルの保守情報管理システム10の構成を示す図であって、図1は概略側面図、図2は概略平面図である。尚、図1では説明の便宜上、地上コイル13の図示を省略し、ICタグ14のみを図示している。
【0025】
地上コイルの保守情報管理システム10は、左右一対の側壁11の間に形成されたガイドウェイ12(軌道)と、このガイドウェイ12に沿って左右両側に列設された複数の地上コイル13と、地上コイル13それぞれに取り付けられたICタグ14と、ガイドウェイ12に沿って走行する保守用車両15と、この保守用車両15の左右両側面にそれぞれ取り付けられた一対のアンテナ16と、保守用車両15の内部に設置されてアンテナ16に接続された一対のリーダライタ17と、同じく保守用車両15の内部に設置されてリーダライタ17が接続された保守情報管理装置18と、を備えるものである。
【0026】
ガイドウェイ12は、磁気浮上式鉄道(不図示)が走行する軌道である。図2に示すように、磁気浮上式鉄道の走行方向に向かってガイドウェイ12の左右両側には、左側壁11Aと右側壁11Bとが相対向するようにしてそれぞれ設けられている。
【0027】
地上コイル13は、磁気浮上式鉄道に搭載された超電導磁石(不図示)との相互作用によって、磁気浮上式鉄道を浮上させるための浮上力、車両の移動方向を案内するための案内力、及び車両を走行させるための推進力を得るためのものである。ここで、図3及び図4は地上コイル13を示す図であって、図3は概略側面図、図4は概略断面図である。地上コイル13は、側面視でループ状に巻回された上部導体131Aと下部導体131Bとを結合することで8の字型に形成されたコイル導体131と、このコイル導体131を覆うモールド樹脂132と、モールド樹脂132の表面を覆って設けられコイル導体131を絶縁及び保護する表面保護層133と、を備えるものである。尚、地上コイル13を構成するコイル導体131の側面視形状は、8の字型に限定されず、適宜設計変更が可能である。また、モールド層や表面保護層133は本発明に必須の構成ではなく、コイル導体131だけで地上コイル13を構成してもよい。
【0028】
このように構成される地上コイル13は、図2に示すように、ガイドウェイ12の左右両側における左側壁11Aと右側壁11Bの内側に、その表面保護層133をガイドウェイ12内側に向けるようにしてそれぞれ設置される。そして、地上コイル13は、走行方向に沿って一定のピッチPcで複数設置されている。本実施形態では、このピッチPcを0.9mに設定している。もちろん、このピッチPcは任意に設定変更が可能である。また、地上コイル13の設置位置は、ガイドウェイ12の左右両側に限られず、ガイドウェイ12の路面上であってもよい。
【0029】
ICタグ14は、地上コイル13の保守情報を書き込むためのものである。図5は、ICタグ14を示す概略平面図である。ICタグ14は、平面視で略矩形の外形を有し、情報を記憶するためのICチップ141と、情報を送信または受信するループアンテナ142と、を備えている。ここで、ICチップ141には、識別子データとユーザデータの2種類のデータが記憶されている。識別子データとは、複数のICタグ14を互いに識別するためにICタグ14ごとに定めた固有の番号を意味し、ユーザには読み取りだけが許されるが書き換えは許されない。一方、ユーザデータは、地上コイル13について保守作業を行った作業日時、及び保守作業の内容をコード化したもの等を意味し、ユーザには自由な読み書きが許される。尚、本発明に係る「地上コイルの保守情報」とは、地上コイル13の製造時における履歴情報、出荷時における検査記録情報、及び設置後の保守履歴情報等を含む概念である。
【0030】
このように構成されるICタグ14は、図3及び図4に示すように、地上コイル13を構成する表面保護層133の表面に、その長手方向を地上コイル13の幅方向に向けた状態で埋め込まれている。従って、図2に示すように地上コイル13をガイドウェイ12に設置すると、ICタグ14の長手方向が磁気浮上式鉄道の走行方向に略平行した状態となる。これにより、ICタグ14から発せられる電波の到達範囲が走行方向に長くなり、アンテナ16とICタグ14との交信時間が長くなるので、ICタグ14からより多くの保守情報を確実に読み出すことができる。
【0031】
また、ICタグ14の側面視での位置は、図3に示すように、コイル導体131と重なる位置、より詳細には上部導体131Aと下部導体131Bとの結合箇所134に重なる位置である。このように、ICタグ14を側面視でコイル導体131と重なる位置に設けた場合、アンテナ16とICタグ14の交信可能範囲がコイル導体131の電磁誘導により縮小することを最小限に抑えられるため、アンテナ16によるICタグ14の読み取りを正確且つ確実に行うことができる。
【0032】
また、ICタグ14は、ガイドウェイ12に沿って設置される全ての地上コイル13について、側面視で同じ位置になるように、より詳細には高さ方向にも幅方向にも同じ位置になるように、それぞれ設けられている。これにより、地上コイル13をガイドウェイ12に設置した状態で、図1に示すように、各地上コイル13のICタグ14が路面から一定の高さ位置で水平方向に一列に並んだ状態になる。また、地上コイル13をガイドウェイ12に設置した状態で、図2に示すように、各ICタグ14の走行方向へのピッチPtが、地上コイル13の走行方向へのピッチPcと略等しくなっている。すなわち、本実施形態では、このピッチPtも0.9mとなっている。
【0033】
尚、本実施形態では、ICタグ14を地上コイル13の内部に埋め込んで設けたが、これに限られず、図に詳細は示さないが、ICタグ14を地上コイル13の表面に貼り付けて設けてもよい。また、側面視での地上コイル13におけるICタグ14の位置は、コイル導体131の電磁誘導の影響が小さいコイル導体131と重なる位置であれば足り、本実施形態のように上部導体131Aと下部導体131Bとの結合箇所134に限られない。例えば、図6(a)に示すように、8の字型の最上部であって上部導体131Aとのみ重なる位置にICタグ14を設けてもよいし、或いは図6(b)に示すように、8の字型の最下部であって下部導体131Bとのみ重なる位置にICタグ14を設けてもよい。また、ICタグ14は、地上コイル13の保守情報を読み書き可能なものであれば本実施形態に限定されず、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0034】
保守用車両15は、前記アンテナ16をガイドウェイ12に沿って移動させるためのものである。本実施形態では、この保守用車両15として、図1及び図2に示すように、前後2対の車輪にてガイドウェイ12の路面上を走行する4輪トラックを用いている。また、図に詳細は示さないが、保守用車両15には、その車体が側壁11に接触するのを防ぐための案内輪が側方へ突出して設けられている。
尚、この保守用車両15は、アンテナ16を搭載した状態でガイドウェイ12に沿って走行可能であれば足り、本実施形態に代えて、例えば4輪普通乗用車や2輪車や磁気浮上式鉄道自体を用いてもよい。尚、本発明に係る保守用車両15の走行方向とは、磁気浮上式鉄道の走行方向と略同じ方向である。
【0035】
アンテナ16は、その交信可能範囲の内側に位置するICタグ14と交信を行うものである。このアンテナ16は、図1に示すように、平面視で略矩形形状を有し、その長手方向を保守用車両15の走行方向に沿わせるようにして、保守用車両15の側面に設置されている。このように、アンテナ16の長手方向を保守用車両15の走行方向に沿わせると、ICタグ14の長手方向を保守用車両15の長手方向に沿わせることと相俟って、アンテナ16とICタグ14との交信時間が長くなるので、ICタグ14からより多くの保守情報を確実に読み出すことができる。
【0036】
また、アンテナ16は、図1に示すように、その中心部の路面からの高さHaが、ICタグ14の中心部の路面からの高さHtと略等しくなっている。これにより、保守用車両15の走行時に、左右両側面のアンテナ16が、左右の地上コイル13のICタグ14と略等しい高さ位置を通過するので、アンテナ16とICタグ14との間でより確実に交信を行うことができる。
【0037】
更に、アンテナ16は、図2に示すように保守用車両15の左右両側面にそれぞれ設置され、左側面に設置された左アンテナ16Lと右側面に設置された右アンテナ16Rとの走行方向への離間距離Dが、地上コイル13の走行方向へのピッチPcの略半分程度の大きさとなっている。すなわち、本実施形態では、地上コイル13の走行方向へのピッチPcを約0.9mに設定しているため、このアンテナ16の離間距離Dは約0.45m程度に設定している。もちろん、この離間距離Dも、任意に設定変更が可能である。尚、左アンテナ16Lと右アンテナ16Rとの間で干渉が生じる場合は、走行方向に略直交する方向への左アンテナ16Lと右アンテナ16Rとの離間距離Wとして、ICタグ14の走行方向へのピッチPtの1.5倍程度の大きさを確保すればよい。すなわち、ICタグ14の走行方向へのピッチPtを約0.9mに設定した本実施形態では、この離間距離Wを約1.35mに設定している。
【0038】
更に、アンテナ16は、図2に示す走行方向への交信可能範囲Lが、地上コイル13の走行方向へのピッチPの半分より若干小さい程度となっている。すなわち、地上コイル13の走行方向へのピッチPcを約0.9mに設定した本実施形態では、アンテナ16の走行方向への交信可能範囲Lが0.45mより若干小さく設定している。具体的には、交信可能範囲Lが0.45mより若干小さくなるよう、アンテナ16のサイズ、前記リーダライタ17の出力、及び走行方向に略直交する方向へのICタグ14とアンテナ16との離隔距離をそれぞれ調整している。すなわち、アンテナ16の交信可能範囲Lは、走行方向に複数のICタグ14を同時に読み取らない範囲で、ICタグ14から読み取るデータ量に合わせて設定されている。尚、この交信可能範囲Lも、本実施例に限定されず、任意に設定変更が可能である。
【0039】
リーダライタ17は、アンテナ16によるICタグ14との交信を制御するものである。このリーダライタ17は、図1及び図2に示すように、保守用車両15の内部に設置されて左アンテナ16Lに接続された左リーダライタ17Lと、同じく保守用車両15の内部に設置されて右アンテナ16Rに接続された右リーダライタ17Rとを有している。そして、これら左リーダライタ17L及び右リーダライタ17Rは、前記保守情報管理装置18に対してそれぞれ接続されている。このように構成されるリーダライタ17によれば、左アンテナ16LがICタグ14と交信することによって取得した地上コイル13の保守情報が、左リーダライタ17Lによって保守情報管理装置18へ転送される。同様に、右アンテナ16RがICタグ14と交信することによって取得した地上コイル13の保守情報が、右リーダライタ17Rによって保守情報管理装置18へ転送される。
【0040】
尚、本実施形態では、リーダライタ17とアンテナ16とを有線接続したが、これに代えて、リーダライタ17とアンテナ16とを無線接続してもよい。そして、リーダライタ17とアンテナ16とを無線接続する場合、リーダライタ17は必ずしも保守用車両15の内部に設置する必要はなく、保守用車両15から離れた場所にリーダライタ17を設置することも可能である。
【0041】
保守情報管理装置18は、リーダライタ17によって転送された地上コイル13の保守情報を一括管理するものである。この保守情報管理装置18は、いわゆるパーソナルコンピュータ(PC)であって、図1及び図2に示すように、左リーダライタ17L及び右リーダライタ17Rに対してそれぞれ接続されている。このように構成される保守情報管理装置18は、リーダライタ17から転送された地上コイル13の保守情報に基づいて、地上コイルデータベース(不図示)を作成し、作成した地上コイルデータベースを更新し、または作成した地上コイルデータベースを用いて検索機能を提供する。
【0042】
尚、この保守情報管理装置18についても、リーダライタ17との間を無線接続としてもよく、この場合、保守情報管理装置18は必ずしも保守用車両15の内部に設置する必要はなく、保守用車両15から離れた位置に保守情報管理装置18を設置することも可能である。
【0043】
次に、第1実施形態に係る地上コイル13の保守情報管理システム10の作用効果について、図7から図10を用いて説明する。まず、地上コイル13の保守情報管理システム10を用いた地上コイルデータベースの作成手順について説明する。地上コイルデータベースを作成する場合、作業者は、ガイドウェイ12に地上コイル13を設置する作業を行った後に、図2に示す携帯端末19を用いることにより、設置した複数の地上コイル13のICタグ14に対して前記ユーザデータをそれぞれ書き込む。このユーザデータは、前述のように、保守作業を行った作業日時と、コード化された保守作業の内容と、から構成される。
【0044】
ここで、図7は、保守作業の内容のコード化について説明する図である。本実施形態では、保守作業の内容を、16進数4桁からなる2バイトの情報としてコード化している。より詳細には、まず第1桁目を「大項目」として、保守作業の種別を設定し、どのような種類の作業を行ったかによって複数の選択肢を設けている。次に、第2桁目を「中項目」として、保守作業の重要度を設定し、故障等の程度によって複数の選択肢を設けている。更に、第3桁目を「小項目」として、保守作業箇所を設定し、地上コイル13の種類やケーブルの種類によって複数の選択肢を設けている。最後に、第4桁目も「小項目」として、保守作業の詳細を設定し、保守作業箇所の状態によって複数の選択肢を設けている。このようなコード化方法によれば、例えば「PLGコイル」という名称の地上コイル13の設置時には、作業者は、地上コイル13の設置作業を行ったことを示す「0030」というコードをICタグ14に書き込む。
【0045】
次に、作業者は、ガイドウェイ12の地上コイル13を設置した区間において、保守用車両15を走行させる。これにより、保守用車両15に設けられたアンテナ16が、地上コイル13のICタグ14と交信することにより、前記識別子データ及びユーザデータを取得する。ここで、図8は、保守用車両15の走行時における、アンテナ16とICタグ14との交信を説明する図である。図8(a)に示すように、保守用車両15の左側面に設けられた左アンテナ16Lの交信可能範囲L(=0.49Pc)の内側にICタグ14が入ると、左アンテナ16LとICタグ14との交信が開始される。この時、保守用車両15の右側面に設けられた右アンテナ16Rは、走行方向に向かって離間距離D(=0.5Pc)だけ左アンテナ16Lと離れているため、その交信可能範囲Lの内側にICタグ14は位置しておらず、ICタグ14との交信は行わない。
【0046】
その後、図8(b)に示すように、左アンテナ16LがICタグ14と交信を行っている間、右アンテナ16Rの交信可能範囲Lの内側にICタグ14が入ってくることはなく、右アンテナ16RはICタグ14との交信を行わない状態のままである。
【0047】
そして、図8(c)に示すように、左アンテナ16Lの交信可能範囲Lの内側からICタグ14が外れると、左アンテナ16LとICタグ14との交信が終了する。この時、右アンテナ16Rの交信可能範囲Lの内側にICタグ14が入ることにより、右アンテナ16RとICタグ14との交信が開始される。
【0048】
その後、図8に詳細は示さないが、右アンテナ16RがICタグ14と交信を行っている間、左アンテナ16Lの交信可能範囲Lの内側にICタグ14が入ってくることはなく、左アンテナ16LはICタグ14との交信を行わない状態のままである。そして、右アンテナ16Rの交信可能範囲Lの内側からICタグ14が外れると、右アンテナ16RとICタグ14との交信が終了する。この時、左アンテナ16Lの交信可能範囲の内側に、次のICタグ14が入ることにより、左アンテナ16LとICタグ14との交信が再び開始される。
【0049】
このように、走行方向への設置位置が左右で離間したアンテナ16によって、走行方向への設置位置が左右で略等しいICタグ14とそれぞれ交信を行うことにより、ICタグ14からの識別子データ及びユーザデータの取得を、走行方向に向かって左右交互に行うことができる。これにより、保守情報管理装置18で同時に多量の保守情報を処理する必要がないため、収集した保守情報を正確且つ短時間で処理することができる。
【0050】
その後、このようにアンテナ16が取得した識別子データ及びユーザデータは、リーダライタ17によって保守情報管理装置18へ転送される。そして、保守情報管理装置18が、受け取った識別子データ及びユーザデータに基づいて、地上コイルデータベースを作成する。すなわち、保守情報管理装置18は、ICタグ14の識別子データと、地上コイル13の位置情報と、地上コイル13の製品情報データとを互いに対応付けることにより、地上コイルデータベースを作成する。ここで、地上コイル13の位置情報とは、ある地上コイル13について所定の基準位置からの距離を示す情報であって、例えば、地上コイル13の設置作業時に取得した測量データを使用することができる。また、地上コイル13の製品情報とは、ある地上コイル13についてどのような特性を持つかを示す情報であって、例えば、製品出荷時における検査記録情報を使用することができる。
【0051】
次に、地上コイルデータベースの更新手順について説明する。上述のように作成した地上コイルデータベースを更新する場合、作業者は、地上コイル13について点検・修理・交換等の保守作業を行った後に、図2に示す携帯端末19を用いることにより、保守作業を行った地上コイル13のICタグ14に対して前記ユーザデータをそれぞれ書き込む。例えば、「浮上コイル」に「大キズ」が発生したという「重度」の故障に対して「修理」を行った場合、作業者は、携帯端末19を用いてICタグ14に対して「2313」というコードを書き込む。
【0052】
次に、作業者は、ガイドウェイ12の地上コイル13に保守作業を行った区間において、保守用車両15を走行させる。これにより、保守用車両15に設けられたアンテナ16が、地上コイル13のICタグ14と交信することにより、前記識別子データ及びユーザデータを取得する。この時、左アンテナ16Lと右アンテナ16Rとが交互にICタグ14との交信を行う点は、前述と同様である。
【0053】
その後、アンテナ16から取得した識別子データ及びユーザデータは、リーダライタ17によって保守情報管理装置18へ転送される。そして、保守情報管理装置18が、受け取った識別子データ及びユーザデータに基づいて、地上コイルデータベースを自動更新する。すなわち、保守情報管理装置18は、ICタグ14の識別子データに基づいて、対応する地上コイル13に関する製品情報に対し、今回新たに書き込まれたコードを追加または置換する作業を行う。
【0054】
次に、地上コイルデータベースを用いた、地上コイル13の位置検索について説明する。作業者は、前述のように保守情報管理装置18が作成及び更新する地上コイルデータベースを用いることにより、所望の地上コイル13について、その設置位置を検索することができる。ここで、図9は、保守情報管理装置18に表示される地上コイル13の位置検索画面20の一例を示す図である。作業者は、この位置検索画面20において、位置を検索しようとする地上コイル13の識別情報、例えば固有の識別子等を入力した後、開始ボタンを押下すると、地上コイルデータベース内の検索が開始され、入力した識別子に対応付けられた地上コイル13の位置情報が表示される。この表示は、例えば、路線名、海側山側の別、基準位置からの距離等を表示することにより行われる。
【0055】
そして、作業者は、位置を検索した地上コイル13に向けて保守用車両15を走行させる。そうすると、順次アンテナ16とICタグ14とが交信を行い、識別子データを取得して、図9に示す位置検索画面20において、現在の走行位置や目的とする地上コイル13までの距離が数字データとして表示される。更に、現在位置を示す表示ランプが点灯することにより、目的地までの距離感を視覚的にも認識できるようになっている。その後、位置を検索した地上コイル13に到達すると、その旨が位置検索画面20に表示される。これにより、例えば保守作業を行うべき地上コイル13まで移動する場合に、目的となる地上コイル13に間違いなく到達できるとともに、その移動時間を短縮することができる。
【0056】
また、右アンテナ16Rと左アンテナ16Lは、走行方向に向かって離間距離Dだけ離れて交互にICタグ14と交信を行うため、ICタグ14のピッチPtの半分の精度で位置情報を得ることができる。また、片側のアンテナ16が故障した場合でも、反対側のアンテナ16がICタグ14と交信できれば位置情報が取得でき、いわゆる二重系となっている。
【0057】
次に、地上コイルデータベースを用いた、保守作業検索について説明する。作業者は、前述のように保守情報管理装置18が作成及び更新する地上コイルデータベースを用いることにより、所定の保守作業を行った地上コイル13について検索することができる。ここで、図10は、保守情報管理装置18に表示される地上コイル13の保守作業検索画面21の一例を示す図である。作業者は、この保守作業検索画面21において、検索したい作業の種別や故障等の程度を選択し、設定ボタンを押下することにより検索条件を設定する。
【0058】
そして、作業者は、ガイドウェイ12の所望の区間において保守用車両15を走行させる。そうすると、保守用車両15に設けられたアンテナ16が、地上コイル13のICタグ14と交信することにより、識別子データ及びユーザデータを順次取得する。そして、設定した検索条件に該当する地上コイル13が発見されると、図10に詳細は示さないが、保守作業検索画面21にその旨が表示される。これにより、例えば、保守作業を行った後に再度の点検が必要となった場合に、保守用車両15を走行させるだけで、対象となる地上コイル13を確実に発見することができる。
【0059】
次に、第2実施形態に係る地上コイルの保守情報管理システム30の構成について説明する。図11は、第2実施形態に係る地上コイルの保守情報管理システム30の構成を示す概略平面図である。本実施形態の地上コイルの保守情報管理システム30は、図2に示す第1実施形態と比較すると、保守用車両15におけるアンテナ31の設置位置、及び地上コイル13におけるICタグ32の配置位置が異なっている。尚、それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図11では図2と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0060】
アンテナ31は、図11に示すように、保守用車両15の左右両側面にそれぞれ設置されている点では第1実施形態と同じであるが、左側面に設置された左アンテナ31Lと右側面に設置された右アンテナ31Rとが、走行方向への設置位置が略等しい点で第1実施形態とは異なっている。
【0061】
ICタグ32は、図11に示すように、走行方向左側に設けられた地上コイル13及び走行方向右側に設けられた地上コイル13は、ICタグ32の配設位置が、走行方向に向かって離間距離Xだけ離れている点で第1実施形態とは異なっている。
【0062】
このような構成によれば、走行方向への設置位置が左右で略等しいアンテナ31によって、走行方向への配設位置が左右で離間したICタグ32とそれぞれ交信を行うことにより、ICタグ32からの識別子データ及びユーザデータの取得を、走行方向に向かって左右交互に行うことができる。これにより、第1実施形態と同様に、保守情報管理装置18で同時に多量の保守情報を処理する必要がないため、収集した保守情報を正確且つ短時間で処理することができる。
【0063】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 地上コイルの保守情報管理システム
11 側壁
11A 左側壁
11B 右側壁
12 ガイドウェイ
13 地上コイル
131 コイル導体
131A 上部導体
131B 下部導体
132 モールド樹脂
133 表面保護層
134 結合箇所
14 ICタグ
141 ICチップ
142 ループアンテナ
15 保守用車両
16 アンテナ
16L 左アンテナ
16R 右アンテナ
17 リーダライタ
17L 左リーダライタ
17R 右リーダライタ
18 保守情報管理装置
19 携帯端末
20 位置検索画面
21 保守作業検索画面
30 地上コイルの保守情報管理システム
31 アンテナ
31L 左アンテナ
31R 右アンテナ
32 ICタグ
D 離間距離
Ha 高さ
Ht 高さ
L 交信可能範囲
Pc ピッチ
Pt ピッチ
W 離間距離
X 離間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上式鉄道の軌道に沿って列設された複数の地上コイルにそれぞれ設けられ、保守情報を読み書き可能なICタグと、
該ICタグと交信可能なアンテナを搭載して、前記軌道に沿って走行する保守用車両と、
前記複数の地上コイルの保守情報を前記アンテナを介して収集するリーダライタと、
該リーダライタが収集した保守情報を管理する保守情報管理装置と、
を備えることを特徴とする磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム。
【請求項2】
前記ICタグが、複数の前記地上コイルにおける一定の高さ位置にそれぞれ設けられ、前記保守用車両が、前記ICタグと略同じ高さ位置に前記アンテナを有することを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム。
【請求項3】
前記ICタグが、前記地上コイルを構成し側面視でループ状に巻回されたコイル導体と側面視で重なる位置に設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム。
【請求項4】
前記地上コイルが、前記保守用車両の走行方向に向かって左右両側にそれぞれ所定間隔で設けられるとともに、
前記アンテナが、前記保守用車両の左右両側部に、走行方向に複数の前記ICタグを同時に読みとらないように交信可能範囲が設定されてそれぞれ設けられ、
前記リーダライタは、前記保守用車両の左側部に設けられたアンテナによる走行方向左側の地上コイルからの保守情報の収集と、前記保守用車両の右側部に設けられたアンテナによる走行方向右側の地上コイルからの保守情報の収集と、を交互に行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム。
【請求項5】
前記保守用車両の走行方向左側に設けられた前記地上コイル及び走行方向右側に設けられた前記地上コイルは、走行方向への前記ICタグの配設位置が略等しく、
前記保守用車両の左側部に設けられたアンテナと右側部に設けられたアンテナとが、走行方向に沿って相対的に位置をずらして配置されたことを特徴とする請求項4に記載の磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム。
【請求項6】
前記保守用車両の左側部に設けられたアンテナ及び右側部に設けられたアンテナは、走行方向への配設位置が略等しく、
前記保守用車両の走行方向左側に設けられた前記地上コイル及び走行方向右側に設けられた前記地上コイルは、前記ICタグが走行方向に沿って相対的に位置をずらして配置されたことを特徴とする請求項4に記載の磁気浮上式鉄道用地上コイルの保守情報管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−85400(P2012−85400A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227899(P2010−227899)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】