説明

磁気測定センサ

【課題】測定精度を向上させた磁気測定センサを提供することを目的とする。また、電磁鋼板の絶縁被覆を剥離せずに、正確な磁気特性を得ることができ、コイルの小型化を達成した磁気測定センサを提供することを目的とする。
【解決手段】センサベースと、4本の探針と、2個のコイルとを有している磁気測定センサである。上記センサベースに4箇所の孔が設けられている。この孔にバネが収納されている。このバネが収納された孔に上記探針の基端部が挿入されている。この孔の内周面には螺旋状の溝が形成されている。この螺旋状の溝に螺合されるように探針の基端部の外周面にねじが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板形状の磁性体の二次元平面における磁気特性を得るために用いられる磁気測定センサに関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー化のために電気機器のエネルギーの高効率化が検討されている。この電気機器のエネルギーの高効率化を達成する手段として、電動機や変圧器などの鉄心材料に用いられている電磁鋼板の磁気損失を減らす必要がある。このためには、この電磁鋼板の局所磁気特性を正確に把握する必要がある。
この局所磁気特性を測定するため、二次元ベクトル磁気特性を利用した磁気センサが使用される。
従来の磁気測定センサは、非特許文献1に示すように、X方向とY方向との磁束密度を測定するための2組の探針と、磁界強度を測定するための各方向のコイルとを有している。これらの探針の中にはバネを有しており、圧力を加えることによって確実に試料に接触する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】榎園、藤山、芹川「三相誘導電動機モデル鉄心の局所二次元磁気特性分布」電気学会論文誌A、119巻11号、1336〜1341頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の発明によれば、電磁鋼板は絶縁被覆が施されており、通常の探針では絶縁被覆を貫通することができなかった。そのため、従来の磁気測定センサにて測定する際、絶縁被覆を剥離する必要があった。
さらにまた、従来の磁気測定センサで用いられてきたコイルは、サイズが大きい。しかし、十分な感度を得るためにはコイルの小型化、つまり、磁気測定センサの小型化が困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、測定精度を向上させた磁気測定センサを提供することを目的とする。また、電磁鋼板の絶縁被覆を剥離せずに、正確な磁気特性を得ることができ、コイルの小型化を達成した磁気測定センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、センサベースと、このセンサベースの先端から各探針が四角形の頂点に位置するよう同一長さで突出した4本の探針と、上記センサベースの先端平面にそれぞれの巻き方向が成す角度が90度になるように保持された2個のコイルとを有し、対角位置に存する2本の探針を1組の測定部とすることにより、2組の測定部を構成し、各測定部の2本の探針は2本の配線の一端に、センサベースの先端平面にてそれぞれ接続され、これら配線の他端はそれぞれ電圧検出部に接続された磁気測定センサであって、上記センサベースの先端平面に4箇所の孔が設けられ、これらの孔にバネがそれぞれ収納され、上記探針の基端部が上記孔にそれぞれ挿入され、これらの探針が孔から突出するように上記バネにより付勢されているとともに、この孔の内周面には螺旋状の溝が形成され、この螺旋状の溝に螺合されるように探針の基端部の外周面にねじが形成された磁気測定センサである。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、それぞれの巻き方向が成す角度が90度になるように保持された2個のコイルを有している。このため、電磁鋼板のX方向及びY方向における磁界を検知することができる。
また、この磁気測定センサは4本の探針を有している。これらの探針は四角形の頂点に位置するように同一長さで突出している。対角位置に存する2本の探針を1組の測定部とすることにより、2組の測定部を構成している。このように構成することにより、電磁鋼板のX方向及びY方向における磁束密度、および磁界強度を測定することができる。
この磁束密度を測定するに際し、本発明は、探針の先端部に近い位置、すなわち、センサベースの先端平面に接続している。このため、電磁鋼板の近い位置から測定することにより、従来より測定誤差を小さくすることができる。
また、センサベースに形成された4箇所の孔には螺旋状の溝が形成されている。そして、この螺旋状の溝に螺合されるように探針の基端部の外周面にはねじが形成されている。この孔に探針が挿入されている。このため、探針を押圧すると、螺旋状の溝とねじにより探針が回転する。探針が回転すると、てこの原理により探針は絶縁被覆を貫通し、電磁鋼板に接触させることができる。
また、孔の中にバネが収納されている。このため、押圧を解除すると、探針は逆回転し、探針は押圧前の状態に戻される。
【0008】
探針は、電磁鋼板における磁束密度を求めるために設けられている。導電性の板状の磁性鋼板に探針を接触させる。その後、電磁鋼板が交流励磁される。この際に鋼板に渦電流が発生する。この渦電流を測定することによって、磁束密度を算出することができる。
コイルは、電磁鋼板における磁界強度を求めるために設けられている。電磁鋼板が交流励磁された際に、電磁鋼板表面の磁界から誘起され、コイルに電気が流れる。その電圧を測定することによって、磁界強度を算出することができる。
リード線の断面積Sc、巻数Nのコイルに流れる電気の電圧Vc、探針の断面積Sp[m]、探針間の電位差Vp[V]の場合、探針間の磁束密度B及び磁界強度Hは、

にて求めることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、上記センサベースの先端平面にフレキシブル基板が設けられ、このフレキシブル基板には上記探針と、電圧検出部とを電気的に接続する導体パターンが形成された請求項1に記載の磁気測定センサである。
【0010】
上記フレキシブル基板の材質は、フェノール、エポキシ、ポリイミド、ポリスチレンなどを採用することができる。好ましいものは、ポリイミド、ポリスチレンである。これらの材質は誘電損失が小さく、基板によるノイズの影響を小さくすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、上記2個のコイルは外径0.03mm以下のエナメル線で構成される請求項1または請求項2に記載の磁気測定センサである。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、上記コイルが使用するエナメル線の外径を0.03mm以下と極細線を使用する。このため、コイルの巻き数が増えてもコイルが大型化することがなく、結果として磁気測定センサを小型化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る磁気測定センサによれば、測定精度を向上させることができる。また、電磁鋼板の絶縁被覆を剥離せずに、正確な磁気特性を得ることができ、コイルの小型化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る磁気測定センサの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係る磁気測定センサの縦断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る磁気測定センサの左側面図である。
【図4】本発明の実施例に係る磁気測定センサの縦断面の拡大図である。
【図5】本発明の実施例に係る磁気測定センサの先端部分における探針とフレキシブル基板との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例に係る磁気測定センサ10は、図1に示すように、メインベース11に嵌め込まれたサブベース12にフレキシブル基板14が設けられている。そして、このサブベース12にコイルベース15が設けられ、このコイルベース15にコイル16が取り付けられている。
上記メインベース11と、上記サブベース12に形成された4箇所の探針挿入孔部に4本の探針13a,13b,13c,13dが、同じ長さだけ突出するように設けられている。
【0016】
上記メインベース11は、プラスチック製で形成された直方体の部材である。このメインベース11の先端には、平面視して四角形の凹部11aが形成され、この凹部11aの周縁部分に4箇所の探針挿入孔11bが形成されている。この探針挿入孔11bの内壁には螺旋状の溝が形成されている。この探針挿入孔11bの内部にはバネ11dが収納されている。
また、この凹部の中央部分に第1のケーブル挿通貫通孔11cが形成されている。
【0017】
上記サブベース12はプラスチック製で形成された略直方体の部材である。このサブベース12の中央部分に第2のケーブル挿通貫通孔12cが形成されている 上記探針挿入孔11bと重なり合う位置に探針挿入貫通孔12bが形成されている。
このサブベース12は、上記凹部11aの大きさと略等しく形成されている。
このサブベース12は、この凹部11aに嵌め込まれている。このサブベース12がこの凹部に嵌め込まれた際に、上記第1のケーブル挿通貫通孔11cと、上記第2のケーブル挿通貫通孔12cとが、重なり合う位置に設けられているため、一つのケーブル挿通貫通孔となる。そして、上記探針挿入貫通孔12bと、上記探針挿入孔11bとが重なり合う位置に設けられているため、4箇所の探針挿入孔部が形成されている。
【0018】
上記探針13a,13b,13c,13dは、それぞれ同じ長さの金属製の4本の棒材で形成されている。これらの探針13a,13b,13c,a3dは対角線が成す角度が90度である四角形の頂点に位置するように設けられている。これらの探針13a,13b,13c,13dは、それぞれ上記探針挿入孔部に挿入されている。
上記探針13a,13b,13c,13dの外周面にはねじが形成されている。このねじが上記探針挿入孔11bの内壁に形成された螺旋状の溝に螺合される。このため、メインベース11を押圧すると、この探針13a,13b,13c,13dに形成されたねじと、この探針挿入孔11bに形成された溝とが螺合することにより、探針13a,13b,13c,13dは回転する。
上記探針のうちの1本13aと、それに対し対角位置に存在する探針13bとをセットで、一方の測定部13Aとする。そして、残りの探針13c,13dを他方の測定部13Bとする。つまり、一方の測定部13Aは、測定対象である電磁鋼板の横方向(X方向)における磁気特性を測定する測定部として使用し、他方の測定部13Bはこの電磁鋼板の縦方向(Y方向)における磁気特性を測定する測定部として使用する。
【0019】
上記フレキシブル基板14は、ポリイミド製フィルムに銅箔を貼り合わせた銅張板の表面に上記銅箔をエッチングや金属メッキにより4本の配線が形成された基板である。これらの配線は、2本で1組の配線部14c,14dとすることにより、2組の配線部14c,14dを構成する。一方の配線部14cの配線の一端はそれぞれ一方の測定部13Aを構成する探針13a,13bに接続されている。具体的には、このフレキシブル基板14には対角線が成す角度が90度である四角形の頂点に位置するように設けられた4箇所の孔があり、これらの孔に、上記探針13a,13bがそれぞれ挿入されている。これらの探針13a,13bと、上記配線の一端とが接する位置に、はんだで探針と配線とを接続している。同様に、他方の配線部14dの配線の一端はそれぞれ一方の測定部13Bを構成する探針13c,13dに接続されている。
上記一方の配線部14cの配線の他端は、図示しない電圧計に接続されている。
【0020】
上記コイル16は、0.03mmのリード線を平面視して正方形のセラミックス製板の外周面に巻回したものである。このコイル16は、正方形の横方向に巻回したHxコイル16aと、正方形の縦方向に巻回したHyコイル16bとを有している。つまり、Hxコイル16aの巻き方向と、Hyコイル16bの巻き方向とが成す角度が90°である。このHxコイル16aと、このHyコイル16bとのリード線の巻き数が多くなるに従って、磁気特性の誤差を小さくすることができる。
【0021】
上記の部材から構成された磁気測定センサ10は、次のようにして組み立てられる。
まず、メインベース11の凹部11aにサブベース12を嵌め込む。その後、メインベース11と、サブベース12とによる形成された4箇所の探針挿入孔部にそれぞれ探針13a,13b,13c,13dを挿入する。その後、フレキシブル基板14に形成された孔に探針13a,13b,13c,13dを挿入し、サブベース12に接触させる。フレキシブル基板14に形成された配線の一端と探針13a,13b,13c,13dとの接触する箇所にはんだで固定する。配線の他端は、メインベース11とサブベース12に形成されたケーブル挿通貫通孔を用いて外部に設けられた電圧計に接続される。
その後、コイルベース15をサブベース12に取付、コイル16を、コイルベース15に取り付ける。コイル16のリード線は、上記ケーブル挿通貫通孔を通り、図示しない電圧計に接続される。
【0022】
上記の磁気センサ10を用いて、電磁鋼板の磁気測定を行う方法について説明する。
まず、絶縁被覆が施された電磁鋼板を交流励磁する。次に、この電磁鋼板の表面に、上記探針13a,13b,13c,13dを接触させる。その後、磁気測定センサ10を押圧する。この時、探針13a,13b,13c,13dが回転し、上記絶縁被覆を貫通する。そして、探針13a,13b,13c,13dが電磁鋼板の導電部分に接触する。
交流励磁された電磁鋼板には渦電流と、その表面に磁界が発生している。電磁鋼板が探針13a,13b,13c,13dに接触されると、探針間に、渦電流による電気が流れる。この電気の電圧を電圧計で測定する。同時に、表面の磁界により、コイルに電気が流れる。この電気の電圧を電圧計で測定する。これらの電圧計にて測定された電圧を図示しない演算装置にて演算させることにより、電磁鋼板の探針13a,13b,13c,13d間の磁束密度および磁界強度を求めることができる。
【符号の説明】
【0023】
10 磁気測定センサ、
11 メインベース、
12 サブベース、
13a,13b,13c,13d 探針、
14 フレキシブル基板、
16 コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサベースと、
このセンサベースの先端から各探針が四角形の頂点に位置するよう同一長さで突出した4本の探針と、
上記センサベースの先端平面にそれぞれの巻き方向が成す角度が90度になるように保持された2個のコイルとを有し、
対角位置に存する2本の探針を1組の測定部とすることにより、2組の測定部を構成し、
各測定部の2本の探針は2本の配線の一端に、センサベースの先端平面にてそれぞれ接続され、これら配線の他端はそれぞれ電圧検出部に接続された磁気測定センサであって、
上記センサベースの先端平面に4箇所の孔が設けられ、これらの孔にバネがそれぞれ収納され、
上記探針の基端部が上記孔にそれぞれ挿入され、これらの探針が孔から突出するように上記バネにより付勢されているとともに、
この孔の内周面には螺旋状の溝が形成され、
この螺旋状の溝に螺合されるように探針の基端部の外周面にねじが形成された磁気測定センサ。
【請求項2】
上記センサベースの先端平面にフレキシブル基板が設けられ、
このフレキシブル基板には上記探針と、電圧検出部とを電気的に接続する導体パターンが形成された請求項1に記載の磁気測定センサ。
【請求項3】
上記2個のコイルは外径0.03mm以下のエナメル線で構成された請求項1または請求項2に記載の磁気測定センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−27475(P2011−27475A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171456(P2009−171456)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第21回「電磁力関連のダイナミクスシンポジウム」事務局発行の第21回「電磁力関連のダイナミクスシンポジウム」講演論文集(平成21年5月20日発行)
【出願人】(000196565)西日本電線株式会社 (57)
【出願人】(508324433)財団法人大分県産業創造機構 (17)
【Fターム(参考)】