説明

磁気物体の動きを直接感知可能な信号に変換するための方法と装置、およびこの装置を組み込んだ機器

磁気物体の変位を人間が直接感知可能な信号に変換する方法であって、
− 所定の継続時間を有し、スライドする時間窓の中で、物体の変位によって変調された磁界の、時間軸上に連続した一連の測定値を捕捉するステップ(32)と、
− この捕捉した、時間軸上に連続した一連の測定値に基づいて、物体の変位に対応した特性の関数として、測定された磁界の1つの特性をそれぞれ表す、複数の信号を生成するステップ(34)と、
− 直接感知可能な信号のいくつかのパラメータを、これらの信号の関数として設定することにより、これらの特性を直接感知可能なものにするステップ(50)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界センサに対する磁気物体の相対的な動きを、人間が直接感知可能な信号に変換するための方法および装置に関する。本発明はまた、変換するためのこの装置を組み込んだ機器にも関する。
【背景技術】
【0002】
これらの変換方法として公知の方法は、
− 磁気物体の動きの関数として変調された磁界を測定するステップと、
− 直接感知可能な信号の少なくとも1つのパラメータを、測定された磁界の関数として設定するステップとを備えている。
【0003】
例えば、特許文献1は、この種の方法について記述している。この方法においては、1つの方向で測定された磁界の振幅を使用して、可聴信号のパラメータを設定している。
【0004】
しかしながら、振幅だけを使用して、物体の動きの複数の特性を同時に感知可能にすることは容易ではない。例えば、物体の移動の速度、および物体の回転の速度そのもの、およびこれらの速度の変動を同時に感知可能にすることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この欠点を克服することを目的とし、測定された磁界の特性、従って磁気物体の動きの特性を、別個に感知可能にするための変換の方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って本発明の目的は、この種の変換を行うための方法を提供することであり、この方法は、
− 所定の継続時間を有し、スライドする時間窓の中で、時間軸上に連続した一連の磁界の測定値を捕捉するステップと、
− この捕捉した、時間軸上に連続した一連の測定値から、物体の動きに対応した特性の関数として、測定された磁界の特性をそれぞれ表す、複数の信号を生成するステップと、
− 直接感知可能な信号のいくつかのパラメータを、これらの信号の関数として設定し、これらの特性を直接感知可能にするステップとを備えている。
【0007】
時間軸上に連続した一連の測定値を処理することによって、物体の動きによって変調された、複数の磁界の特性を同時に読むことが可能になり、従って物体の動きの複数の特性を直接感知可能にすることができる。
【0008】
この方法の実施形態では、次に示す特性の中の1つ以上を備えることができる。
・生成された信号の内の少なくとも1つの信号は、空間における磁気物体の位置と無関係である。
・信号は無関係に独立に変化させることができ、また、各パラメータは、生成されたそれぞれの信号の関数として設定することができ、従って、磁界のそれぞれの特性は、互いに無関係に、直接かつ同時に感知可能にすることができる。
・信号の生成は、いくつかの直交関数に基づいて、時間軸上に連続した一連の測定値に適応フィルタリングを施すことよって得ることができる。
・直交関数は、アンダーソン関数である。
・信号の生成は、周波数が重なり合わない−3dB帯域幅と等しいQ値とを有する1組のフィルタによって、時間軸上に連続した一連の測定値にフィルタリングを施すよって得られる。
・この1組のフルタは、12個のフィルタからなっている。
・人間が直接感知可能な信号は可聴信号であり、可聴信号に関して設定するパラメータは、音量、音色、音の周波数、および音の継続時間を備えるグループから選定される。
・直接感知可能な信号は、可視信号であり、この可視信号に関して設定するパラメータは、光ビームの方向、光ビームまたはスクリーンのピクセルの色、および、光ビームまたはスクリーンのピクセルの強度を備えるグループから選定される。
【0009】
本方法のこれらの実施形態は、次に示す利点を有する。
− 空間における磁気物体の位置に独立な信号が得られることにより、この物体の位置の変動だけを感知可能にすることができ、その位置は感知されない。
− 互いに独立な信号を使用することにより、ユーザが本方法を使用すること、およびその学習が単純化される。
− アンダーソン関数を使用した適応フィルタリングを行うことよって、磁気物体が動いている間に、磁気物体が向いている方向そのものを単に変調するだけで、感知可能な信号を調整することが可能になる。
− 隣接した帯域幅と等しいQ値とを有する1組のフィルタを使用することにより、ユーザがこの方法を使用すること、およびその学習が単純化される。これば、特に、このようにすれば、この1組のフィルタと楽譜の理論との間に類似性が生ずるからである。
− この1組のフィルタとして12個のフィルタを使用することにより、1オクターブをカバーすることが可能になる。
【0010】
本発明の目的はまた、磁気物体の動きを人間が直接感知可能な信号に変換するための装置を提供することである。この装置は、
− 磁気物体の動きの関数として変調された磁界を測定することができるセンサと、
− 直接感知可能な信号の少なくとも1つのパラメータを、測定された磁界の関数として設定することができるコンピュータとを備えている。また、このコンピュータは、この動作に関して、
・所定の継続時間を有し、スライドする時間窓の中で、時間軸上に連続した一連の磁界の測定値を捕捉することができ、
・この捕捉した、時間軸上に連続した一連の測定値から、物体の動きに対応した特性の関数として、測定された磁界の1つの特性を表す、複数の信号を生成することができ、かつ、
・直接感知可能な信号のいくつかのパラメータを、これらの信号の関数として設定し、これらの特性を直接感知可能なものにすることができる。
【0011】
最後に、本発明の目的はまた、人間が動かすことのできる磁気物体と磁気物体の動きを、人間が直接感知可能な信号に変換するための上記の装置とを備える機器を提供することである。
【0012】
本発明は、以下の説明より明確に理解しうると思う。この説明は、完全に網羅的ではない例に関するものであり、後に示す図面を参照している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許出願JP2004−085598号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】R. Blanpain, "Traitement en temps reel du signal issu d'une sonde magnetometrique pour la detection d'anomalie magnetique" ("Real-time processing of the signal coming from a magnetometrical probe for the detection of magnetic anomalies", I.N.P.G. thesis, October 1979)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気物体の動きを直接可聴な信号に変換するための装置を組み込んだ機器を示す図である。
【図2】図1の装置によって磁気物体の動きを直接可聴な信号に変換するための方法を示すフローチャートである。
【図3】測定された磁界の波形を示すグラフである。
【図4a】フィールドモードにおけるアンダーソン関数の直交基底の波形を示すグラフである。
【図4b】フィールドモードにおけるアンダーソン関数の直交基底の波形を示すグラフである。
【図4c】フィールドモードにおけるアンダーソン関数の直交基底の波形を示すグラフである。
【図5】磁気物体の動きを直接可聴な信号に変換するための別の方法を示すフローチャートである。
【図6】図5の方法を実施するために使用する、1組のフィルタの帯域幅の分布を示す図である。
【図7】図5の方法で実施される1組のフィルタの内の、3つのフィルタの応答を示す図である。
【図8】直接可聴な信号を形成するように組み立てられた、フィルタの連続的な応答を示す図である。
【図9】磁気物体の動きを、聴くこと以外の方法で直接感知可能な信号に変換するための装置を組み込んだ機器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図において、同じ符号は同じ要素を示している。
【0017】
本明細書の以下の記述では、当業者に公知の特徴および機能については、詳細に説明しない。
【0018】
図1は、人間が直接感知可能な信号を生成する機器2を表す。この実施形態においては、機器2は、人間が直接に聴くことができる信号を生成する、特定のものであり、例えば、楽器である。
【0019】
この機器2は、物体4を備え、それを構成する材料は、磁気特性を有する(希土類、フェライト、鋼等)。またこの物体は、ユーザが手で動かすことができる。物体4は、例えば、バイポーラ型永久磁石であってもよい。
【0020】
ここでは、物体4は、ユーザによって、平面上または3次元空間の中で容易に動かすことができる。物体4の動きは、ユーザの手によって活性化される。例えば、物体4は、直接に手で操作できるような形状とされている。
【0021】
図1においては、物体4に対する可能な、直線に沿った行路6が示されている。本明細書における以下の記述では、Vは、行路6に平行な直線に沿った、物体4の動きの速度を示している。
【0022】
機器2はまた、物体4の動きを人間が直接に聴くことができる信号に変換するための装置10を備えている。この目的のために、装置10は、
【0023】
− 測定された磁界を電気信号に変換することができる磁界センサ12と、
【0024】
− センサ12が生成した電気信号をサンプリング(標本化)して、時間軸上に連続した一連の磁界の測定値を得ることができるアナログ−ディジタル変換器14と、
【0025】
− コンピュータ16とを備えている。このコンピュータ16は、変換器14が生成した、時間軸上に連続した一連の測定値を処理し、それに応答して、ユーザが直接に聴くことができる信号の発生器18を活性化することができる。
【0026】
センサ12は、物体4の近傍に設置されている。物体4のいずれかの動きが、ユーザが感知可能な可聴信号の変調を引き起こす時には、センサ12は物体4の近傍にあると考えることができる。
【0027】
ここで、センサ12と行路6との間の最短距離はDで示されている。
【0028】
センサ12は、3軸センサであることが望ましい。すなわち、磁界の成分を、3つの直交方向X、Y、およびZに沿って測定することができるセンサであることが望ましい。ここで、方向Xは、行路6と平行である。
【0029】
典型的には、コンピュータ16は、情報を記録する媒体の上に記録された命令を実行することができるプログラム可能なコンピュータである。この目的のために、コンピュータ16はメモリ20に接続され、メモリ20は、図2または図5の方法を実行するために必要な命令およびデータを備えている。
【0030】
例えば、発生器18は、1つのスピーカまたはスピーカのセットであってよい。
【0031】
図2の方法を参照して、機器2の動作について説明する。
【0032】
機器2を動作させるために、ユーザは、物体4をセンサ12の近傍に手で移動させる。
【0033】
ステップ30において、センサ12は、物体4の動きによって変調された磁界を測定する。それに応答して、センサ12は、方向X、Y、およびZに沿って測定された磁界のx成分、y成分、およびz成分にそれぞれ比例した3つの電気信号を生成する。
【0034】
以下においては、x成分の処理の動作だけを詳細に記述する。その他の測定成分の処理に対する動作は、同様であり、x成分に対して与えた説明から導き出すことができる。
【0035】
図3は、x成分に対してセンサ12によって生成された電気信号31の波形の可能な例を、時間の関数として示すものである。
【0036】
ステップ32において、変換器14は、電気信号31をサンプリングして、時間軸上に連続した一連の磁界の測定値を生成する。この時間軸上に連続した一連の測定値は、各サンプル(標本値)が生成されたときに毎に、コンピュータ16に送信される。
【0037】
ステップ32において、コンピュータ16は、所定の継続時間を有し現時点tcで終了する時間窓Δtの中で実行したx成分の時間軸上に連続した一連の測定値S(tc)を捕捉する。時間窓Δtは、この図3に示されている。例えば、変換器14のサンプリング周波数は200Hzであり、シーケンスS(tc)のサンプルの数は255である。従って、継続時間Δtは1250msである。
【0038】
ステップ34において、コンピュータは、この時間軸上に連続した一連の測定値からいくつかの信号si(t)を生成し、各信号は、測定された磁界の独立な特性iを表す。「独立な」特性という用語は、本明細書においては、測定された磁界の他の特性とは独立に変化させることができる特性のことを指している。例えば、信号si(t)は相関がないということである。
【0039】
操作40においては、コンピュータ16は、アンダーソン関数に基づいてS(tc)の適応フィルタリングを実行し、信号si(t)を生成する。
【0040】
アンダーソン関数に基づいたこのような適応フィルタリングは、例えば、非特許文献1に記述されている。
【0041】
図4a〜図4cは、フィールドモードにおける3つのアンダーソン直交関数e0(t)、e1(t)、およびe3(t)の波形を表わしている。これらの3つの関数は、次の関係式によって定義される。
0(U)=K0・1/(1+U25/2
1(U)=K1・U/(1+U25/2
2(U)=K2・(1−7U2)/(1+U25/2
ここで、U=(V/D)tであり、tは時間である。また、係数K0、K1、およびK2は、直交基底を有するように選定された正規化定数である。
【0042】
関数ei(t)の内の1つの上へのシーケンスS(tc)の射影は、例えば、シーケンスS(tc)と関数ei(t)との間の相関の係数αiを計算することにより行われる。この計算は、上記で参照した非特許文献1の中に詳細に記述されている。
【0043】
より具体的には、各関数ei(t)は、時間tばかりでなく、比V/Dにも依存する。ここで、比V/Dのセットの数jは、事前に設定されており、jは1より大きな値であり、また、2または10より大きな値であることが望ましい。比V/Dの特定の値に対して得られた関数ei(t)は、eij(t)と示され、ここで、iはアンダーソン関数のインデックス(i=0、1、または2)であり、jは事前に設定された値のセットから選定した、比V/Dの特定の値のインデックスである。関数eij(t)は、メモリ20の中に事前に記録されている。
【0044】
ステップ40において、シーケンスS(tc)は、記録された関数eij(t)のそれぞれの上に射影される。従って、このシーケンスS(tc)と対応した関数eij(t)との間の相関のj個の係数αijが得られる。
【0045】
各インデックスjに対して、次の関係式を使用して、エネルギーEj(tc)が計算される。
j(tc)=α0j2+α1j2+α2j2
【0046】
従って、再びステップ40において、コンピュータ16は、エネルギーEj(tc)を最大にするインデックスjの値mを選定する。この値mは、係数αimのセットに対応している。
【0047】
従って、ステップ42において、シーケンスS(tc)とアンダーソン基底の関数との間の尤度を最大にするように、フィルタリングが行われる。例えば、ステップ42において、エネルギーEm(tc)を、それぞれ、ステップ40で以前に行った2回の反復計算で計算されたエネルギーEm(tc−1)およびEm(tc−2)と比較する。
【0048】
新しい信号si(t)は、次の2つの関係式が満足されるときにだけ生成される。
m(tc)<Em(tc−1)、および
m(tc−1)>Em(tc−2)
【0049】
答えが肯定であるときには、コンピュータは次式の信号si(t)を生成する。
0(t)=α0m*e0m(t)、
1(t)=α1m*e1m(t)、および
2(t)=α2m*e2m(t)
ここで、インデックスmおよび係数αimは、ステップ40の以前の反復計算の間に求められた値である。すなわちシーケンスS(tc−1)から求められた値である。
【0050】
新しい信号si(t)が生成された場合には、コンピュータ16はステップ50を実行し、発生器18が生成する可聴信号の異なる独立のパラメータを設定する。例えば、可聴信号のパラメータは、音量、音色、音の周波数、および音の継続時間を備える組から選定される。
【0051】
例えば、値mは、これを使用して3つの異なる音(おん)niのセットを選定する。係数αimの値は、これを使用して、それぞれの音(おん)niの音量を設定する。従って、測定された磁界(従って、物体4の動き)の4つの特性、すなわちアンダーソンフィールド関数との相関の係数αimおよび比V/Dは、ユーザに対して同時に提供される。
【0052】
x成分と関数ei(t)の内の1つとの間の相関は、物体4が方向Xに平行な直線に沿った行路の上を一定速度Vで移動していて、物体4のバイポーラ磁界が、3つの方向X、Y、またはZの内の1つの方向に向いている時に最大になる。この場合には、x成分は、3つの関数ei(t)の中のただ1つだけに対して相関を有する。従って、信号si(t)によって、物体4が向いている方向と物体4が辿る行路とが、同時に感知可能になる。
【0053】
別の実施形態においては、係数αimの値は、生成されるそれぞれの音(おん)niの音色を制御するために使用される。係数αimはまた、音(おん)の周波数または音(おん)の継続時間を制御するために使用することもできる。
【0054】
信号si(t)の波形を使用することもまた可能である。例えば、これらの波形は、これらを直接に使用して、時間軸上で同じ包絡線を有する音信号を生成することができる。
【0055】
ステップ50の終わりに、本方法はステップ30に戻る。本明細書の上記に記述した手順は、時間軸で1つのサンプルだけオフセットした1つの時間窓Δtに対して、再び反復される。従って、処理するべき時間軸上でのシーケンスはシーケンスS(tc+1)になる。
【0056】
測定された磁界のx成分の特定の場合に関してこれまでに説明した事柄はまた、それぞれ、y成分およびz成分に対して、ステップ52およびステップ54において並行して行うことができる。従って、発生器18は、y成分およびz成分の特性を表す可聴信号も、並行して生成する。
【0057】
図5は、物体4の動きを、人間が直接に聴くことができる信号に変換するための別の方法を示す。この方法は、装置10の中で実施することができる。図5の方法は、ステップ34およびステップ50を、それぞれ、ステップ60およびステップ62で置換したことを除いて、図2の方法と同一である。
【0058】
ステップ60において、コンピュータ16は、12個のフィルタFiのグループを使用して、信号si(t)を生成する。ここで、iはフィルタのインデックスである。
【0059】
図6は、フィルタFiのそれぞれの−3dB帯域幅66〜77をグラフに示したものである。ここで、x軸は周波数で目盛られている。図6を簡単にするために、x軸のスケールは線形になってはいない。これらの帯域幅は、隣接しており、重なり合ってはいない。ここで、各フィルタFiの帯域幅は、中心周波数fciおよび−3dB帯域幅dfiによって特徴付けられる。各フィルタFiのQ値Qiは、次の関係式によって定義される。
i=fci/dfi
【0060】
ここで、Q値Qiは、全て等しい。このように選定することによって、生成される信号si(t)と楽譜の理論との間の類似性を引き出すことができる。この類似性によれば、各フィルタの応答は1つの音(おん)に対応し、フィルタのグループの応答は1つの和音に対応する。最も低い中心周波数fcminと最も高い中心周波数fcmaxとの間の周波数間隔の幅は、1オクターブと等価な領域をカバーし、フィルタの数は、半音の数と等価である。周波数fcminおよび周波数幅dfminは、測定された磁界の連続成分を除去するように選定される。
【0061】
ステップ60において、コンピュータ16は、入力がシーケンスS(tc)で励振された各フィルタFiの応答si(t)を生成する。
【0062】
図7は、明白に異なった3つのフィルタFiの、同一のシーケンスS(tc)に対する応答によって生成された3つの信号si(t)の波形を示す。
【0063】
ステップ62において、信号si(t)を使用して、生成される可聴信号を設定する。例えば、操作80では、コンピュータ16は、応答の継続時間がサンプリング周期と等しくなるように、フィルタFiの応答si(t)を圧縮する。この操作80は、フィルタのグループの各フィルタのそれぞれの応答si(t)に対して実行される。
【0064】
従って、操作82では、シーケンスS(tc)、S(tc+1)、S(tc+2)、...に応答して連続して得られた、同一のフィルタFiの圧縮した応答si(t)を、端と端とをつないで連続的に配置して、連続した音信号を形成する。発生器18は、上記のように各フィルタFiの応答から得られた、異なる連続音信号を同時に生成する。
【0065】
上で述べた連続音信号の例を、図8に示す。この図では、連続したシーケンスsi(t)は、si(tc)、si(tc+1)、...として示してある。
【0066】
図9は、人間が聴覚以外の方法で、直接感知可能な信号を生成する機器90を示す。機器90は、物体4の動きを聴覚以外の方法で直接感知可能な信号に変換するための装置として、装置10が装置92で置換されているという点を除いて、機器2と同一である。例えば、この直接感知可能な信号は、視覚、嗅覚、または手を触れて感知可能な信号である。この目的のために、装置92は、発生器18が聴覚以外の方法で直接感知可能なこの信号の発生器94によって置換されているという点を除いて、装置10と同一である。
【0067】
例えば、発生器94は、可視信号を生成する。この場合には、信号si(t)は、この可視信号の1つのパラメータを変調するために使用される。この可視信号の1つのパラメータは、光ビームの方向、光ビームまたは画像のピクセルの色、光ビームまたは画像のピクセルの強度を備えるグループから選定される。
【0068】
例えば、信号si(t)を使用して、
− 情景の照明の角度、
− 情景の照明の範囲(暖色から寒色にわたる、情景の照明の陰影)または
− 照明の強度
を駆動することができる。
【0069】
信号si(t)が3つの直交関数の上への射影の結果得られたものである場合には、3つの係数αimを使用して、ピクセルまたはピクセルのセットの色を符号化することができる。例えば、各係数αimは、RGB色符号化方式における基本色の内の1つのレベルを駆動する。
【0070】
多くの他の実施形態が可能である。例えば、信号si(t)は、図4a〜図4cを参照して説明したアンダーソン関数とは異なるタイプのアンダーソン関数に基づく適応フィルタリングによって得ることができる。例えば、グラディエントモードにおけるアンダーソン関数に基づくこともできる。
【0071】
アンダーソン関数とは異なる他の関数の基底を利用することもまた可能である。例えば、ウェーブレットを使用して、測定された磁界をウェーブレットに基づいて分解することもできる。
【0072】
信号si(t)はまた、音楽的観点から「興味深い」信号を生成するように注意深く調整した低域フィルタまたは高域フィルタまたは帯域フィルタによって、この時間軸上に連続した一連の測定値をフィルタリングすることにより、生成することができる。
【0073】
1つの変形例として、磁界センサは、磁界ベクトルセンサ、または磁界スカラーセンサであってもよい。磁界ベクトルセンサは、1軸、または2軸、または3軸以上のセンサであってもよい。
【0074】
物体4は、必ずしも永久磁石である必要はない。物体4はまた、その材料が、物体4を動かしたときに磁界を変化させて、それがセンサ12によって測定できるものであれば、電磁石であってもよいし、または他の任意の物体であってもよい。従って、物体4は、事前に存在する磁力線に変形を与える単純な磁気コアであってもよい。事前に存在する磁界は、センサ12に対して固定された電磁石によって形成することができる。例えば、後者の場合には、磁気コアは強磁性体コアである。
【0075】
物体4の動きは、1つまたはそれ以上の方向に導き、物体4の動きの自由度を、この方向またはこれらの方向に限定することができる。
【0076】
1つの変形例として、生成する信号si(t)は、互いに相関を有する信号であってもよい。
【0077】
直接感知可能な信号のパラメータはまた、係数αimの任意の関数を使用して設定することもできる。例えば、パラメータの内の少なくとも1つは、αim2の関数として設定することができる。
【0078】
発生器18は、スピーカ以外のものであってもよい。例えば、発生器18は、電気的に活性化可能ないくつかのハンマ、およびこれらのハンマのそれぞれに面する、いくつかの異なるロッドまたはコードを有する。コンピュータ16は、生成された信号si(t)に従って、異なるハンマの動きを活性化する。従って、このようにして得られる楽器は、打楽器に近い楽器である
【0079】
別の実施形態においては、図1および図9の実施形態を組み合わせて、直接に聴くことができる信号、および聴覚以外の感覚で直接感知可能な信号の両方を生成することができる。例えば、発生器は、可聴信号と可視信号との両方を生成する。
【0080】
さらに、本明細書の上記に記載した直接感知可能な信号の上に、物体4の動きに独立な他の直接感知可能な信号を重畳することもまた可能である。例えば、これらの他の信号は、センサ12の環境の中に自然に存在する磁気信号を表す。これらの信号は、
− 地球から、磁気圏から、また太陽風と磁気圏との相互作用から生ずる地球磁場における信号、
− 波等の海の運動、磁気嵐、等によって生成される信号、および
− 電源供給電流、車両等の種々の物体の運動、特定の物体の動いている部分によって作り出される磁界等の、人間の活動によって生成された人工的な信号等である。
【0081】
本明細書の上記の記述は、磁気物体がセンサに対して相対的に動くという特定の場合に対してであったが、これらはまた、磁気物体に対して相対的に動くのはセンサであるという逆の場合にも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界センサに対する磁気物体の相対的な動きを人間が直接感知可能な信号に変換するための方法であって、
− 前記磁気物体の動きの関数として変調された磁界を測定するステップ(30)と、
− 前記直接感知可能な信号の少なくとも1つのパラメータを、前記測定された磁界の関数として設定するステップ(50、62)とを備え、さらに、
− 所定の継続時間を有し、スライドする時間窓の中で、時間軸上に連続した一連の前記磁界の測定値を捕捉するステップ(32)と、
− この捕捉した、時間軸上に連続した一連の測定値から、前記物体の動きに対応した特性の関数として、前記測定された磁界の特性をそれぞれ表す、複数の信号を生成するステップ(34、60)と、
− 前記直接感知可能な信号のいくつかのパラメータを、これらの信号の関数として設定し、これらの特性を直接感知可能なものにするステップ(50、62)とを備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記生成された信号の内の少なくとも1つは、空間における前記磁気物体の位置に独立であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 前記信号は、互いに独立的に変化させることができ、
− 前記各パラメータの設定(50、62)は、生成したそれぞれの信号の関数として行い、前記磁界の特性のそれぞれは、直接にかつ同時に、互いに独立に感知可能とすることができることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記信号を生成するステップ(34)は、いくつかの直交関数に基づいて前記時間軸上に連続した一連の測定値を適応フィルタリングすることにより得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記直交関数は、アンダーソン関数であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記信号を生成するステップ(62)は、周波数が重なり合っていない−3dB帯域幅と等しいQ値とを有する1組のフィルタを使用して、前記時間軸上に連続した一連の測定値をフィルタリングすることにより得ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1組のフィルタは、12個のフィルタで形成されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
人間が直接感知可能な前記信号は、可聴信号であり、設定する前記可聴信号のパラメータは、音量、音色、音の周波数、および音の継続時間を備えるグループから選定されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記直接感知可能な信号は、可視信号であり、設定するこの可視信号のパラメータは、光ビームの方向、光ビームまたはスクリーンのピクセルの色、および、光ビームまたはスクリーンのピクセルの強度を備えるグループから選定されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
磁界センサに対する磁気物体の相対的な動きを人間が直接感知可能な信号に変換するための装置であって、
− 前記磁気物体の動きの関数として変調された磁界を測定することができるセンサ(12)と、
− 前記直接感知可能な信号の少なくとも1つのパラメータを、測定した前記磁界の関数として設定することができるコンピュータ(16)とを備え、
このコンピュータ(16)は、
− 所定の継続時間を有し、スライドする時間窓の中で、時間軸上に連続した一連の前記磁界の測定値を捕捉し、
− この捕捉した、時間軸上に連続した一連の測定値から、前記物体の動きに対応した特性の関数として、前記測定された磁界の1つの特性をそれぞれ表す、複数の信号を生成し、
− 前記直接感知可能な信号のいくつかのパラメータを、これらの信号の関数として設定し、これらの特性を直接感知可能なものにすることができることを特徴とする装置。
【請求項11】
人間が動かすことができる磁気物体と、前記磁気物体の動きを人間が直接感知可能な信号に変換するための装置(10、90)とを備えている機器であって、この変換装置は、請求項10によるものであることを特徴とする機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−530922(P2012−530922A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516771(P2012−516771)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059089
【国際公開番号】WO2010/149781
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510132347)コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ (51)
【Fターム(参考)】