説明

磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ

【課題】磁気粘性流体を用いたトルクコンバータにおいて、確実なロックアップが可能で、しかもトルク増幅機能に影響を与えないものとする。
【解決手段】ドライブプレート12とポンプインペラ20をヨーク部30でつないだコンバータハウジング10内に、タービンランナ5に連結されたクラッチ用部材45を配し、ヨーク部30の内周円筒面およびこれに連なる第1クラッチ板部41と、クラッチ用部材45の外周部に形成した第2、第3クラッチ板部47、49とを交互に所定間隙で対向させて多板構成のクラッチ機構CLとする。クラッチ機構はポンプインペラとタービンランナ間に形成される循環路の外部に位置して、ヨーク部30に巻いたコイル38の通電により磁束が各クラッチ板部間の磁気粘性流体の降伏応力を変化させてロックアップ可能である一方、循環路内の磁気粘性流体に影響を与えないのでトルク増幅機能を害しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機等に使用されるトルクコンバータで、とくに作動流体としてオイルの代わりに磁気粘性流体を用いたトルクコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作動流体としてオイルを用いたトルクコンバータがトルク伝達のため多くの分野で利用されてきたが、小型化と伝達効率向上のためオイルよりも比重の大きい磁気粘性流体を用いたトルクコンバータも検討されている。
そして、とくに車両用変速機等に使用するものでは、ロックアップ機能も必須であるので、磁気粘性流体を用いることで磁力制御による精度の高いロックアップ制御が可能となることも期待される。
このような磁気粘性流体を用いたトルクコンバータとして、例えば実開平7−2663号公報に開示されたものがある。
【0003】
この従来の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータでは、インペラ羽根とタービン羽根が対向する外周縁近傍に励磁コイルを配置し、その外方に順次誘導コイルおよび起電コイルを設けて、起電コイル側から誘導コイルを経て励磁コイルに電力を供給するようになっている。
そして、励磁コイルによる磁力で磁気粘性流体を磁化させるとその降伏応力(見掛け上の粘度)が変化する。したがって磁力を制御することによりポンプインペラとタービンランナ間の滑り抵抗を変化させ、例えば負荷側の回転が十分に上がっていない場合は磁気粘性流体に磁力制御をかけないで磁気粘性流体の慣性力でタービンランナにトルクを発生させ、負荷側の回転が上昇してきたら磁気粘性流体に磁力をかけてポンプインペラとタービンランナの滑りを小さくして、ロックアップまできめ細かな制御が可能となることを狙っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平7−2663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インペラ羽根とタービン羽根の対向部位近傍に励磁コイルを配置した構造では効率の良い磁気回路は形成されないので、励磁コイルに大きな磁力を発生させても完全にロックアップできるには至らないと考えられる。
逆に、磁気粘性流体における磁束は発散特性を有するので、インペラ羽根とタービン羽根の外周縁対向部位で励磁コイルからの磁力を磁気粘性流体に及ぼすと、磁束密度の広域の分散化が生じてトルクコンバータの流体回路内に漏れ、循環流に粘度の影響を与えることになり、トルクコンバータ本来のトルク増幅機能を低下させてしまう可能性がある。
したがって上記従来の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータは、その狙いにもかかわらず、いまだ実用は困難であるのが実情である。
【0006】
したがって本発明は、上記従来の問題点にかんがみ、確実なロックアップが可能で、しかも循環流に影響を与えることのないようにした磁気粘性流体を用いたトルクコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポンプインペラとタービンランナの間に作動流体を循環させてトルク伝達を行うトルクコンバータにおいて、
作動流体を磁気粘性流体とし、
トルクコンバータハウジング内であって、作動流体の循環路の外部に、ポンプインペラ側に連結されコイルを備えたヨーク部材と、タービンランナ側に連結された磁性部材とを、所定の間隙をもって対向させて交互に配置し、
ヨーク部材と磁性部材との間にコイルの通電による磁気回路を形成するように構成したものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コイルへの通電の制御によりヨーク部材と磁性部材との間隙に存する磁気粘性流体を磁化してその降伏応力(見掛け上の粘度)を効率よく変化させ、必要に応じてポンプインペラとタービンランナの滑りをなくさせることによりロックアップが可能である。
そして、ヨーク部材と磁性部材との間隙内の磁気粘性流体の見掛け上の粘度を変化させている間、磁気回路の磁束は離間した循環路の磁気粘性流体に影響を与えないので、循環流によるトルク増幅機能を低下させることもない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態を示す断面図である。
【図2】シミュレーションモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は実施の形態を示す断面図である。
トルクコンバータ1は、主軸2を回転中心として、コンバータハウジング10内にインペラ羽根3と、タービンランナ5と、ステータ4とが収納配置され、同じくコンバータハウジング10内にクラッチ用部材が配置されている。
コンバータハウジング10は、エンジンなど不図示の動力源に連結されるドライブプレート12と、ポンプインペラ20と、スリーブ部材25、およびドライブプレート12とポンプインペラ20をつなぐヨーク部30とからコンバータハウジング10を構成し、コンバータハウジング10内にポンプインペラ20と、タービンランナ5と、ステータ4とで作動流体の循環流Bを生起する循環路を形成している。
コンバータハウジング10内にはさらに、クラッチ用部材45が配置されている。
ドライブプレート12は円盤部13の外周にドラム部14を有し、ヨーク部30はドラム部14に結合され軸方向に延びて、内周に平滑な円筒面35を有する。
【0011】
ポンプインペラ20はその外周縁がヨーク部30のドラム部14と反対側の端縁に溶接でつながるとともに、径方向中間にインペラ羽根3を保持する断面湾曲形状のインペラ保持部21を有し、内周縁はスリーブ部材25に溶接でつながっている。
スリーブ部材25は、外周縁をポンプインペラ20の上記内周縁と接続した円盤部26と、円盤部26の中央からドライブプレート12と反対方向へ延びるスリーブ部27とからなり、スリーブ部27において主軸2と同心の例えば固定軸上を回転可能である。
タービンランナ5はインペラ羽根3と対向するタービン羽根6を備え、内周部を主軸2とスプライン結合した出力ハブ7に連結されている。また、クラッチ用部材45もその内周部を出力ハブ7に連結されて、タービンランナ5とドライブプレート12の円盤部13との間を延びている。クラッチ用部材45については後述する。
【0012】
インペラ羽根3とタービン羽根6の間に挟まれて配置されたステータ4はワンウエイクラッチ8により1方向回転可能のステータベース9に支持されている。
コンバータハウジング10内は作動流体として磁気粘性流体で満たされ、出力ハブ7とドライブプレート12の円盤部13間、タービンランナ5とステータベース9間、およびステータベース9とスリーブ部材25の円盤部26間にはシール23a、23b、23cが設けられて、磁気粘性流体の漏れを阻止するようになっている。
【0013】
コンバータハウジング10外周部のヨーク部30まわりには、クラッチ用部材45と協働してクラッチ機構CLが形成される。以下、このクラッチ機構CLについて説明する。
ヨーク部30は鉄など透磁率の高い磁性体で、前述のように、内周が平滑な円筒面となっている。ヨーク部30の外周は、コイル収納溝36が形成されるとともにドライブプレート12のドラム部14でカバーされる第1面31と、ドラム部14の外周面に連続して延びる第2面32とを有する段差形状をなし、その段差部をドラム部14の開口端面に当接させている。これによりヨーク部30はドライブプレート12のドラム部14に挿入された形態となっている。
【0014】
さらに、ドラム部14に挿入されたヨーク部30の奥端には第1面31から削り込んだ小径部34が形成され、ドライブプレート12にはこの小径部34と整合する内径を有する周壁部16が設けられて、インロウが形成されている。
なお、ヨーク部30は、後述するコイルの保守・交換等の便宜のため、とくに図示しないが例えばヨーク部30を軸方向に貫通するボルトで第1面31と第2面32間の段差部をドラム部14の開口端面に連結して、ドライブプレート12と結合すればよい。
【0015】
ヨーク部30のコイル収納溝36は、内径側に向かって2段に尖った断面を有しており、ここにコイル38が巻かれている。コイル38への通電は、ヨーク部30を軸方向に貫通してコイル38から引き出されたリード線38aをスリーブ部27の外周に絶縁状態で設置したスリップリング28に接続して、固定側からの接点ブラシ39をスリップリング28に摺接させることにより行われる。
コイル収納溝36と内周の円筒面35との間には薄い壁部が残されて、磁気粘性流体が漏れないようになっている。
【0016】
コンバータハウジング10内には、タービンランナ5からドライブプレート12側かつ径方向外方部分にスペースが形成されている。このスペースにおいて、ヨーク部30のドラム部14奥端に位置する部位からは第1接続壁40がドライブプレート12の円盤部13に沿って内径方向に延び、第1接続壁40の内径端から第1クラッチ板部41が、円筒面35との間に所定の間隙を保持して、当該円筒面35と平行に軸方向に延びている。第1クラッチ板部41は円筒形状となる。
第1クラッチ板部41の主体は透磁率の高い材質とするが、コイル収納溝36の尖った先端に対向する領域41aはアルミニウムなど透磁率の低い材質とし、第1接続壁40も透磁率の低い材質とするのが好ましい。
【0017】
クラッチ用部材45は、円盤部46と、円盤部46の外周縁につながる第2クラッチ板部47と第3クラッチ板部49を備えている。
すなわち、円盤部46は、出力ハブ7との連結部から径方向にタービン羽根6の中間付近までタービンランナ5と略平行に延びた後、ドライブプレート12の円盤部13寄りに進み、第1クラッチ板部41の根元(第1接続壁40側)近傍まで延びている。
第2クラッチ板部47は円盤部46の外周縁から第1クラッチ板部41より内径側を第1クラッチ板部41との間に一定間隙を保持して軸方向に延び、第3クラッチ板部49は第1クラッチ板部41の先端近傍で第2接続壁48を経て折り返し、第1クラッチ板部41とヨーク部30の円筒面35との間を第1クラッチ板部41の根元近傍まで軸方向に延びている。
【0018】
第1クラッチ板部41とヨーク部30の円筒面35間の所定の間隙は、第3クラッチ板部49と円筒面35間、および第3クラッチ板部49と第1クラッチ板部41間が前述の第2クラッチ板部47と第1クラッチ板部41間の一定間隙と同一になるように設定してある。
第2クラッチ板部47と第3クラッチ板部49間の第2接続壁48、および第3クラッチ板部49におけるコイル収納溝36の尖った先端に対向する領域49aも、透磁率の低い材質とするのが好ましい。
第1クラッチ板部41と第2、第3クラッチ板部47、49、およびヨーク部30とでいわゆる多板クラッチが構成される。すなわち、コイル38に通電することによりヨーク部30から第3クラッチ板部49、第1クラッチ板部41、第2クラッチ板部47を経由する実効的な磁気回路が形成されるので、通電を制御することにより各多板クラッチ構成部材間を埋めている磁気粘性流体の見掛け上の粘度(降伏応力)を制御することができる。
以下では、見掛け上の粘度を、簡単のため単に「粘度」と言う。
【0019】
本実施の形態におけるクラッチ機構CLは、以下に示すモデルの実験シミュレーションから得られた知見に基づいて構成したものである。
図2は実験に用いたシミュレーションモデルを示す図である。
図2のモデル(a)は、コイル38を矩形の断面外形をもつ鉄材で囲んだヨーク60の1面(対向面61)に対して、間隙dをもって磁性体ブロック70を対向させたものである。磁性体ブロック70も鉄材とした。
磁性体ブロック70は略逆三角形をなして、その上部には一定幅部分を有しており、その広い面積をもつ上面をヨーク60の対向面61に平行に対向させている。ただし、磁性体ブロック70の上面の幅はヨーク60の対向面61の幅よりも小さい。
【0020】
コイル38は実施の形態のコイル収納溝36に巻かれたと同様の2段に尖った断面の束を形成し、尖った先端を画するコイル収納溝の底面65は磁性体ブロック70との対向面61に対して薄い壁を残した少面積の平行面となっている。以下では、簡単のため、底面65はコイルの底面とも呼ぶ。
コイル38をヨーク60の磁性体ブロック70との対向面61に向かって尖った形状としたのは、コイル38で生起される磁束Jがヨーク60と磁性体ブロック70間の間隙G(距離d)のできるだけ広範囲にわたって横切るようにするためである。
コイル38の仕様、ヨーク60および磁性体ブロック70のサイズ等は一般の乗用車用トルクコンバータを想定して等価となるように設定した。磁性体ブロック70は後述のようにクラッチ用部材45に対応する。
【0021】
図2のモデル(b)は、モデル(a)を多板クラッチ相当に変形したものである。
ヨーク60における磁性体ブロック70Aとの対向面61の一端側から垂直に延ばした側壁62の下端から、対向面61と平行に他端側へ第1クラッチ板相当部63が延びている。
磁性体ブロック70Aは、モデル(a)の磁性体ブロック70の上部一定幅部分を側方から切り欠いて、第1クラッチ板相当部63を収容可能な空間Kとしたものである。空間Kの上壁を第1クラッチ板相当部63と同等板厚の第3クラッチ板相当部73としている。
第3クラッチ板相当部73は側壁72により磁性体ブロックの残余部(ブロック本体71)に接続している。第1クラッチ板相当部63を収容する空間Kの底面(ブロック本体71の上面)はヨーク60の対向面61と平行である。
【0022】
磁性体ブロック70Aは実施の形態における第2、第3クラッチ板部47、49を含むクラッチ用部材45に相当し、そのうちブロック本体71は第2クラッチ板部47と円盤部46に相当する。
ヨーク60の対向面61と第3クラッチ板相当部73間、第3クラッチ板相当部73と第1クラッチ板相当部63間、および第1クラッチ板相当部63とブロック本体71の上面間はそれぞれ同一の一定距離d(モデル(a)参照)を有する間隙G1、G2、G3となっている。
その他はモデル(a)と同じである。
【0023】
図2のモデル(c)は、モデル(b)に対して、第1クラッチ板相当部63と第3クラッチ板相当部73のそれぞれコイル(束)38の尖った底面65(モデル(a)参照)に対応する中間領域68、78を透磁率の低いアルミニウムとし、また、第1クラッチ板相当部63をヨーク60に接続する側壁62Aおよび第3クラッチ板相当部73をブロック本体71に接続する側壁72Aも同様にアルミニウムとしたものである。
その他はモデル(b)と同じである。
【0024】
図2の(a)、(b)、(c)の各モデルについてコイル38に通電したときの磁気回路は、細線で磁束Jの流れを示すように、いずれもヨーク60と磁性体ブロック70(71)との間で閉じており、磁性体ブロックから他へは実質漏れていなかった。
また、コイル(束)38先端の底面65とヨーク60の対向面61との厚みは薄いので、ヨーク60内において当該部分を通る磁束は極めて少なく、磁束Jの大部分は底面65と対向面61に挟まれた平行面領域を除く広い範囲にわたって磁気粘性流体を横切って磁性体ブロック70(71)へ流れる。
【0025】
次に、3モデルの間で磁束Jの流れの違いを詳細に見ると、まずモデル(a)では磁束Jがヨーク60に対向する磁性体ブロック70の上面の幅全体(ただし、平行面領域を除く)にわたって間隙Gを横切っており、この幅内の磁気粘性流体が磁化され、粘度が変化する。
一方、モデル(b)については、ヨーク60から第1クラッチ板相当部63につながる側壁62、並びに、第3クラッチ板相当部73をブロック本体71に接続する側壁72に磁束Jの若干が流れるが、モデル(a)と同様に、ほとんどがヨーク60の対向面61から間隙G1を横切って第3クラッチ板相当部73の幅全体に流れる。
間隙G1では磁束Jは最短距離で対向面61から垂直に流れるが、第3クラッチ板相当部73や第1クラッチ板相当部63内では板内を流れる方向へ傾斜するので、第3クラッチ板相当部73および第1クラッチ板相当部63を経るごとに次の間隙G2、G3を横切る磁束Jは順次減少していく。
しかしながら、間隙Gが1つだけのモデル(a)と比較して多数の間隙G1、G2、G3を磁束Jが横切るから、磁化される磁気粘性流体の量が大きい。
【0026】
モデル(c)においては、ヨーク60から第1クラッチ板相当部63につながる側壁62Aに磁束が流れ込まず、また第3クラッチ板相当部73をブロック本体71に接続する側壁72Aにも磁束が流れ込まず、その分だけヨーク60の対向面61から間隙G1を横切って第3クラッチ板相当部73に流れる磁束Jの密度が高くなる。
さらに、第3クラッチ板相当部73と第1クラッチ板相当部63の中間領域78、68も磁束を通しにくく、それぞれ磁束が板面に沿って流れるのを阻止するから、第3クラッチ板相当部73に入った磁束Jの大部分が間隙G2を横切って第1クラッチ板相当部63に流れ、順次第1クラッチ板相当部63に入った磁束Jも大部分が間隙G3を横切ってブロック本体71に流れる。ブロック本体71に入った磁束は透磁率の小さい中間領域がないのでブロック本体71内を流れて磁気回路を閉じるから、外部へ漏れない。
【0027】
したがって、モデル(b)に比較して、磁気粘性流体で満たされた各間隙G1、G2、G3を横切る磁束Jの密度が高いので、磁気粘性流体の磁化度合いが大きく、より一層大きな粘度変化を得ることができる。
これは伝達トルクの差として現れ、具体的にモデル(a)において得られた最大伝達トルク71.5Nmに対して、モデル(b)では86.9Nm、モデル(c)では111.4Nmの最大伝達トルクとなった。
これらの伝達トルクは車両の重量・駆動トルクに応じて選択すればいずれもトルクコンバータを十分にロックアップ可能である。
【0028】
図1の実施の形態に戻ると、クラッチ機構CLはコンバータハウジング10内のタービンランナ5から径方向にも軸方向にも離間したスペースに構成され、ポンプインペラ20とタービンランナ5の間に形成される作動流体(磁気粘性流体)の循環路から離間している。そして、クラッチ機構CLで生起される磁束Jはヨーク部30側(ヨーク部30と、これに連なる第1クラッチ板部41)とクラッチ用部材45のヨーク部側対向部分(第2クラッチ板部47、第3クラッチ板部49)との間で閉じた磁気回路を形成してほとんど外部へ漏れないから、循環路内の磁気粘性流体に影響を及ぼさない。
これにより、トルクコンバータ1は上述のクラッチ機構CLを備えることにより、循環流Bに影響を与えることなく、確実なロックアップが可能である。
【0029】
本実施の形態では、コンバータハウジング10が発明におけるトルクコンバータハウジングに該当し、ヨーク部30および第1クラッチ板部41がヨーク部材を構成し、第2クラッチ板部47および第3クラッチ板部49を備えるクラッチ用部材45が磁性部材に該当する。
【0030】
実施の形態は以上のように構成され、磁気粘性流体を用いたトルクコンバータにおいて、コンバータハウジング10内であって、ポンプインペラ20とタービンランナ5間の磁気粘性流体の循環路の外部に、ポンプインペラ20に連結されコイル38を備えたヨーク部30および第1クラッチ板部41と、タービンランナ5に連結された第2クラッチ板部47および第3クラッチ板部49とを所定の間隙をもって対向させて交互に配置したクラッチ機構CLを形成し、ヨーク部30および各クラッチ板部41、47、49の間にコイル38の通電による磁気回路を形成するように構成したので、通電の制御によりこれらのヨーク部および各クラッチ板部の間隙に存する磁気粘性流体の粘度を効率よく変化させ、必要に応じてポンプインペラとタービンランナの滑りをなくさせることによりロックアップが可能である。
そして、ヨーク部30および各クラッチ板部41、47、49の間隙内の磁気粘性流体の粘度を変化させている間、磁気回路の磁束は離間した循環路の磁気粘性流体に影響を与えないので、循環流によるトルク増幅機能を低下させることもない。(請求項1に対応する効果)
【0031】
そしてヨーク部30および各クラッチ板部41、47、49は互いに重合する中空円筒形状をなしており、それぞれの間に複数の間隙を形成するのがとくに容易である。(請求項2に対応する効果)
さらに、第1、第3クラッチ板部41、49はそれぞれの円筒面に沿う磁束の流れを阻止するように透磁率の小さい領域41a、49aが各々設けられているので、各間隙を横切る磁束の密度が高くなり、一層ロックアップ機能を向上させている。(請求項3に対応する効果)
【0032】
また、ヨーク部30および各クラッチ板部41、47、の対向部が循環路より径方向外側に配置され、上述のように互いに径方向に対向しているので、クラッチ機構の重心位置がトルクコンバータの回転軸から遠い距離にあって大きな回転慣性力を生じ、とくにロックアップ時には変動の少ない安定した回転が得られる。(請求項4に対応する効果)
【0033】
なお、実施の形態では第1クラッチ板部41、第2クラッチ板部47、第3クラッチ板部49を径方向に並べた多板クラッチ構成としたが、インペラ、タービンランナおよびステータで形成される作動流体の循環路から独立させて配置する限り、必要に応じて多板クラッチを構成する各クラッチ板部は軸方向に並べることもできる。
【符号の説明】
【0034】
1 トルクコンバータ
2 主軸
3 インペラ羽根
4 ステータ
5 タービンランナ
6 タービン羽根
7 出力ハブ
8 ワンウエイクラッチ
9 ステータベース
10 コンバータハウジング
12 ドライブプレート
13 円盤部
14 ドラム部
16 周壁部
20 ポンプインペラ
21 インペラ保持部
23a、23b、23c シール
25 スリーブ部材
26 円盤部
27 スリーブ部
28 スリップリング
30 ヨーク部
31 第1面
32 第2面
34 小径部
35 円筒面
36 コイル収納溝
38 コイル
38a リード線
39 接点ブラシ
40 第1接続壁
41 第1クラッチ板部
41a 領域
45 クラッチ用部材
46 円盤部
47 第2クラッチ板部
48 第2接続壁
49 第3クラッチ板部
49a 領域
60 ヨーク
61 対向面
62、62A 側壁
63 第1クラッチ板相当部
65 底面
68、78 中間領域
70、70A 磁性体ブロック
71 ブロック本体
72、72A 側壁
73 第3クラッチ板相当部
B 循環流
CL クラッチ機構
G、G1、G2、G3 間隙
J 磁束
K 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプインペラとタービンランナの間に作動流体を循環させてトルク伝達を行うトルクコンバータにおいて、
前記作動流体を磁気粘性流体とし、
トルクコンバータハウジング内であって、前記作動流体の循環路の外部に、前記ポンプインペラ側に連結されコイルを備えたヨーク部材と、前記タービンランナ側に連結された磁性部材とを、所定の間隙をもって対向させて交互に配置し、
前記ヨーク部材と前記磁性部材との間に前記コイルの通電による磁気回路を形成するように構成したことを特徴とする磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。
【請求項2】
前記ヨーク部材と前記磁性部材とを互いに重合する中空円筒形状とし、該ヨーク部材と該磁性部材の間に複数の前記間隙を形成していることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。
【請求項3】
前記ヨーク部材と前記磁性部材は、
それぞれの円筒面に沿う磁束の流れを阻止するように透磁率の小さい部材が各々設けられていることを特徴とする請求項2に記載の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。
【請求項4】
前記ヨーク部材と前記磁性部材の対向部が前記循環路より径方向外側に配置され、前記ヨーク部材と前記磁性部材が互いに径方向に対向していることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体を用いたトルクコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−92204(P2013−92204A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234775(P2011−234775)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)