説明

磁気記録テープ用ポリエステルフィルム

【課題】 高密度での記録が可能である大容量磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとして、電磁変換特性に非常に優れ、かつ磁気ヘッドとの走行耐久性を改良し、特にDVCAM用途などの高画質、高信頼性が要求される用途に好適なベースとなるポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】 ポリエステル層の磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、表面Iの皮膜層は水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分とし、この皮膜層には平均粒径の異なる少なくとも2種の不活性粒子が含有され、この不活性粒子のうち最も平均粒径の大きい粒子(粒子L)の平均粒径をDL(nm)、粒子Lに起因する突起密度をNL(個/mm)、最も平均粒径が小さい粒子(粒子S)の平均粒径をDS(nm)、および粒子Sに起因する突起密度をNS(個/mm)としたとき、DS、NS、DLおよびNSが下記式(1)、(2)および(3)をすべて満足し、さらに表面Iの皮膜層の表面粗さRaが1.5〜6.0nmであり、かつ粒子Sに起因する突起の凝集率が20%未満である磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとする。
(1)25<D<70
(2)1.5<D/D<6
(3)100<N/N<10,000

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録テープ用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフイルムに代表されるポリエステルフィルムは、その優れた物理的、化学的特性の故に広い用途に、特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。
【0003】
金属薄膜型磁気記録媒体の一つとして、1995年に実用化された民生用デジタルビデオテープ、デジタルビデオカセット(DVC)テープは、厚さ6〜7μmのベースフィルムの片側表面上に、Coの金属磁性薄膜を真空蒸着により設け、その表面にダイヤモンド状カーボン膜をコーティングしてなり、DVミニカセットを使用したカメラ一体型ビデオの場合には基本仕様(SD仕様)で1時間の録画時間をもつ。また、この民生用DVフォーマットを用いて、テープ走行速度を1.5倍に上げ、記録トラック幅をDVの10μmから15μmへと広幅化し、業務用途に要求される高画質、高信頼性を実現した同一テープ幅(1/4インチ)のDVCAMフォーマットが1996年に開発された。DVCAMフォーマットは高画質・高音質で小型・軽量化を実現した業務用VTRとして、また優れたダンピング特性、高品位の編集性能など業務用途に優れ、企業、プロダクション、ケーブルテレビ、ビデオジャーナリストの間で極めて高い評価を得ている。そのベースフィルムとしては、(1)ポリエステルフィルムと、該フィルムの少なくとも片面に密着されたポリマーブレンド体と粒径5〜50nmの微細粒子を主体とした不連続皮膜とからなり、該不連続皮膜には水溶性ポリエステル共重合体が含有され、微細粒子により不連続皮膜上に突起が形成されたポリエステルフィルム(例えば特許文献1参照)、(2)ポリエステル層Aの一方の面が、水性ポリエステル樹脂からなる連続皮膜Cで被覆されたポリエステルフィルムであり、皮膜Cが平均粒径10〜50nm、体積形状係数0.1〜π/6の不活性粒子Cを0.5〜30重量%含有し、皮膜Cの厚みが3〜50nmであり、皮膜Cを形成する水性ポリエステル樹脂が1万以上100万以下の数平均分子量を有し、該フィルムの皮膜C側の表面粗さWRaが0.1〜4nmであり、かつ該フィルムを120℃で30分間保持したときに皮膜Cの表面に析出する異物の数が1,000個/ mm 以下であるポリエステルフィルム(例えば特許文献2参照)等が用いられている。
【0004】
さらに、2001年秋にMICRO MV規格のDVミニカセットに比べ容積比30%の大きさで1時間の録画時間を有するビデオ規格が登場した。この新しいビデオ規格はDVCと同じ蒸着テープを用いるデジタル記録であるが、画像圧縮方式はDVC規格のDV圧縮ではなくMPEG2圧縮であり、テープ幅は6.35mmから3.8mmに、最短記録波長は0.49μmから0.29μmに、トラックピッチはDVの10μm、DVLPの6.7μmから5μmと変わり、大幅に高密度化されている。蒸着テープの磁性層はDVCのCo酸化膜厚さの160〜220nmからMICRO MVテープではCo酸化膜厚さが50nmと大幅に薄膜化されている。この高密度記録、再生を可能としたのは再生用に磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)を適用したからである。このMRヘッドは、磁気記録媒体からの微小な漏洩磁束を高感度に検出することができるという特性を有するため、磁気記録層の薄層化を進めることにより、低ノイズ化することが可能になり、面記録密度の向上を図ることが可能になる。
【0005】
しかしながら、このMRヘッドの適用にあたり、デジタル記録方式の上記(1)、(2)のようなベースフィルムを用いることは可能であるが、(2)のような連続皮膜を有するベースフィルムから作成した磁気テープでは、記録ヘッドによる磁気テープ表面の耐久性と磁気テープ表面磁性層による再生MRヘッドの耐久性の問題の両立が困難である。すなわちMRヘッドの金属薄膜の膜厚は20nm程度と非常に薄く、非常に削れやすいので、DVCテープで使用している上記(2)の従来ベースから作成したMICRO MVテープではMRヘッドの走行寿命が極端に短くなり(連続再生100時間程度)、頻繁なMRヘッド交換が必要となる。また、上記(1)のようなベースフィルムから作製した磁気テープで、磁気テープの電磁変換特性が高くなるように、ベースフィルム表面の微細粒子の個数を減らす、または微細粒子の大きさを小さくする等の方法をとり、表面粗さを低減させた場合、電磁変換特性の向上は極めて向上するが、MRヘッドとの摩擦が増加し走行耐久性が著しく低下する。
【0006】
さらに近年の例として(3)磁気記録テープ長手方向に対してリニアーにデジタル記録される磁気記録テープ用のベースフィルムであって、ポリエステルフィルムの一方の片側表面に微細粒子と有機化合物を含有する皮膜が形成され、皮膜側表面の高さ120nm以上の表面傷個数が10個/100cm以下であり、フィルム長手方向のヤング率が6000MPa以上であり、かつ、フィルム長手方向と幅方向の屈折率の差(Δn)が30×10−3以上であることを特徴とする磁気記録テープ用ポリエステルフィルム(例えば特許文献3参照)がある。(3)のベースフィルムをDVCAM用途などに用いることは可能であるが、フィルムの走行耐久性の向上を図るためには滑剤粒子をより多く含有させる必要があり、その場合、滑剤粒子同士の凝集による粗大突起が多く発生する。そのため、磁気ヘッドとのスペーシングロスが大きくなりすぎて、結果として電磁変換特性が著しく低下する問題が生じる。
ところで、近年は、ハードディスクの記録容量が非常に速い速度で増大してきているため、これらハードディスクのバックアップに用いる磁気記録媒体の記録容量も更なる増大が望まれている。磁気記録媒体においては、高密度化、高容量化が進められており、電磁変換特性の点よりベースフィルムの表面はできるだけ平滑であることが求められている。しかし、磁気記録テープとして使用する際、磁気ヘッドとの摩擦が増加し走行耐久性が低下する。すなわち、超高密度磁気記録テープを得るためには、電磁変換特性の向上と走行耐久性の改良という相反する特性を両立する手段が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63−57238号公報
【特許文献2】特開2002−160336号公報
【特許文献3】特開2004−234825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来の問題を解決し、高密度での記録が可能である大容量磁気記録テープ用ポリエステルフィルムとして、電磁変換特性に非常に優れ、かつ磁気ヘッドとの走行耐久性を改良し、特にDVCAM用途などの高画質、高信頼性が要求される用途に好適なベースとなるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するための本発明は以下の特徴を有する。
【0010】
[1]ポリエステル層の磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、表面Iの皮膜層は水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分とし、この皮膜層には平均粒径の異なる少なくとも2種の不活性粒子が含有され、この不活性粒子のうち最も平均粒径の大きい粒子(粒子L)の平均粒径をDL(nm)、粒子Lに起因する突起密度をNL(個/mm2)、最も平均粒径が小さい粒子(粒子S)の平均粒径をDS(nm)、および粒子Sに起因する突起密度をNS(個/mm2)としたとき、DS、NS、DLおよびNSが下記式(1)、(2)および(3)をすべて満足し、さらに表面Iの皮膜層の表面粗さRaが1.5〜6.0nmであり、かつ粒子Sに起因する突起の凝集率が20%未満である、磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0011】
(1)25<DL<70
(2)1.5<DL/DS<6
(3)100<N/N<10,000
[2]粒子Lに起因する突起密度NL(個/mm2)が5,000<NL<300,000である、上記[1]に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0012】
[3]粒子Lおよび/または粒子Sが球状シリカ粒子である、上記[1]または[2]に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0013】
[4]粒子Lおよび/または粒子Sがスチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよびジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体または共重合体を構成成分とする高分子粒子である、上記[1]または[2]に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0014】
[5]総厚みが4〜9μmである、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【0015】
[6]ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン-2,6-ナフタレートを構成成分として含んでいる、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電磁変換特性に非常に優れ、且つ磁気ヘッドとの走行耐久性が良好な超高密度磁気記録テープの製造が可能となる。
【0017】
また、本発明の磁気記録テープ用ポリエステルフィルムを用いると、超高密度にデジタル記録することが可能であり、かつ繰り返し走行させても走行耐久性が良好であるMRヘッド対応の磁気記録テープを製造することができる。特に、DVCAM用途などの高画質、高信頼性を実現するため厳しい走行耐久性が要求される用途のベースフィルムとして使用すると優れた結果を得ることができ、好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においてポリエステル層(ポリエステルフィルム)を構成するポリマー(構成成分)は、分子配向により高強度フィルムを形成するポリエステルであればよい。中でもポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)を構成成分として含んでいることが好ましい。このポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、それぞれ、全構成成分の80モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート以外の共重合成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸(ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの場合)、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリエチレンテレフタレートの場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多価カルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。上記ポリエステルは、また、ポリエステルとは非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つが5質量%を超えない範囲で混合してもよい。
【0019】
本発明におけるポリエステル層の磁性面を形成する側の表面(以下、表面Iとする)とは、磁気テープを製造する際に磁性層を設け、磁気記録をする側の面である。
【0020】
本発明におけるポリエステルフィルムは単層構造のフィルムであっても、共押出法等による二層以上の多層構造を有するフィルムであってもよい。例えば、二層構造フィルムの場合は、磁性層形成面側ポリエステル(以下ポリエステルPとする)とその反対側のポリエステル(走行面側、以下ポリエステルQとする)からなり、ポリエステルPは実質的に不活性粒子を含有してもしなくてもよいが、ポリエステルP内の不活性粒子同士の凝集の観点から、不活性粒子を含有しないことが好ましい。不活性粒子を含む場合は、ポリエステルP内の不活性粒子の凝集による粗大突起の影響で、磁気テープにした際に電磁変換特性が低下することがある。ポリエステルQはフィルムの巻取り性の観点より不活性粒子を含有することが好ましい。ポリエステルP、Qは同じ種類でも異なる種類であってもよい。
【0021】
ポリエステルPに不活性粒子を含有させる場合、ポリエステルに含有させる好ましい不活性粒子としては、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子が挙げられる。これらのうち、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、またはカオリンからなる粒子が好ましい。さらに好ましくは、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、または炭酸カルシウムからなる粒子である。これらの不活性粒子は1種または2種以上を混合して使用してもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0022】
ポリエステルQに含有させる好ましい不活性粒子としては、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子が挙げられる。これらのうち、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、またはカオリンからなる粒子が好ましい。さらに好ましくは、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、または炭酸カルシウムからなる微粒子である。これらの不活性粒子は1種または2種以上を混合して使用してもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
本発明においては、表面Iに皮膜層が設けられており、その皮膜層は、水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分としている。
【0023】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が好ましく挙げられ、なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体の高分子ブレンド体が特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70質量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。セルロース誘導体は特にフィルム表面の微細凹凸構造の形成に寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性向上に寄与する。
【0024】
水分散性高分子としては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0025】
本発明においては、表面Iの皮膜層中には平均粒径が異なる少なくとも2種の不活性粒子を含んでいる。
【0026】
表面Iの皮膜層中に含まれる、上記不活性粒子の材質としては、同じ材質のものでもよいし、異なる材質のものを用いてもかまわない。
【0027】
材質はポリスチレン、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、およびジビニルベンゼンから選ばれた、各単量体の重合体、あるいは共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン、シリコーン等の有機質、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、グラファイト等の無機質のいずれを用いてもよい。一般に無機質からなる粒子は硬度が高く変形しにくいため磁気ヘッドのクリーニング性に優れており、また種々のサイズの微粒子の製造が容易である。一方、有機質からなる粒子は分散性に優れており粒子同士の凝集が少ない。
【0028】
また、本発明においては、上記した不活性粒子のうち、最も平均粒径の大きい粒子(粒子L)の平均粒径をDL(nm)、粒子Lに起因する突起密度をNL(個/mm2)、最も平均粒径が小さい粒子(粒子S)の平均粒径をDS(nm)、および粒子Sに起因する突起密度をNS(個/mm2)としたとき、DS、NS、DLおよびNSが下記式(1)、(2)および(3)をすべて満足し、かつ粒子Sに起因する突起の凝集率が20%未満である。
【0029】
(1)25<DL<70
(2)1.5<DL/DS<6
(3)100<N/N<10,000
ここで、粒子Lは磁気テープとした際、磁気ヘッドとの摩擦を低減させ走行耐久性を維持する他、磁気ヘッドのクリーニング性を向上させる役割を果たす。粒子Lの平均粒径は25〜70nmであり、より好ましくは30nm〜50nmである。粒子Lの平均粒径Dが70nmを超えると、粒子の脱落が発生し、磁気ヘッドとの摩擦が大きくなり、表面が削れて走行耐久性が低下することがある。また、粒子Lの平均粒径が25nm未満であると、磁気ヘッドのクリーニング効果が低下するため、走行耐久性が低下することがある。粒子Lに起因する突起の個数密度は5,000〜300,000個/mmであり、好ましくは10,000〜100,000個/mmである。突起密度が300,000個/mmを超えると粒子の脱落が発生し、表面が削れて磁気テープのドロップアウトが増加しがちとなる。また、磁気ヘッドとのスペーシングが大きくなり高密度の磁気記録媒体として供することが困難となる。粒子Lに起因する突起の個数密度が5,000個/mm未満であると磁気ヘッドのクリーニング効果が低下し、走行耐久性が低下する傾向にある。また、粒子Lと粒子Sの粒径比(D/D)は1.5より大きく、6未満である。この粒径比が6より大きいと、磁気テープにしたときに磁気ヘッドとのスペーシングが大きくなり電磁変換特性が低下しやすくなる。また、粒子の脱落が発生し、磁気テープの表面が削れやすくなる傾向にある。また、粒子による突起個数密度比(N/N)は100〜10,000であり、より好ましくは160〜1,000である。突起個数密度比(N/N)が10,000より大きいと磁気ヘッドのクリーニング効果が低下し、走行耐久性が低下する傾向にある。また、個数密度比(N/N)が100より小さいと、磁気ヘッドとのスペーシングが大きくなり高密度の磁気記録媒体として供することが困難となる。特に、DVCAM用途においては、粒子Lの平均粒径Dは35〜45nm、その突起の個数密度は10,000〜100,000個/mm、最も平均粒径の小さい粒子Sの平均粒径Dは20nm以下、その突起の個数密度は1,000万個/mmから5,000万個/mmの範囲であることが電磁変換特性、走行耐久性の観点から好ましいといえる。
【0030】
また、皮膜層中の粒子Sに起因する突起の凝集率は20%未満であり、より好ましくは10%未満である。該突起の凝集率が20%以上であると、粗大突起により磁気ヘッドとのスペーシングロスが大きくなるため、電磁変換特性が低下することがある。
【0031】
なお、上述の特性を満足させやすいという観点から、粒子Lおよび/または粒子Sが球状シリカ粒子であることが好ましく、また、粒子Lおよび/または粒子Sが、スチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよびジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体または共重合体を構成成分とする高分子粒子であることも好ましい。
【0032】
本発明において、表面Iの皮膜層上の表面粗さRa値は1.5〜6nmであり、より好ましくは2.5nm以上5nm未満である。Ra値が6nmを超えると、磁気テープの磁気ヘッドとの走行耐久性は向上するが、電磁変換特性が低下する傾向にある。また、Ra値が1.5未満であると、磁気ヘッドとの摩擦が増え走行耐久性が低下しやすい。
【0033】
本発明において、表面Iの反対側の表面(以下表面IIとする)には、シリコーン等の潤滑剤が含まれた、表面Iより粗い被覆層が設けられるか、より多くの不活性粒子を含有するポリエステルQ層が積層された二層構造とするか、あるいは更にその上に粗い皮膜層が設けられたものが特に好ましく用いられる。表面IIに皮膜層を設けると、フィルム−フィルム相互の滑り性が向上し、加工工程でのフィルムの巻取り、巻き出し等のハンドリング性が良くなる。
【0034】
表面IIに設ける皮膜層としては、易滑性であって削られにくく、かつ、ポリエステルフィルムからの分解物を通さない機能を有するものであればよく、主として、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成され、好ましくは、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤とが加わった組成物から形成されることが好ましい。皮膜層に用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0035】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより皮膜層の易滑性が向上し、表面II側のフィルムの走行性、耐削れ性が確保される。またポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止される。なおフッ素化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0036】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンの易滑剤層からの遊離防止に寄与し、さらに、皮膜層とポリエステルとの接着性向上にも寄与する。
【0037】
本発明におけるポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムと皮膜層を含む総厚みが4〜9μmであることが好ましく、さらには5〜7μmであることが好ましい。
【0038】
本発明におけるポリエステルフィルムは種々の方法により製造することが可能である。例えば、二層構造の積層ポリエステルフィルムを得るには、共押出し法により製造するのが好ましく、表面Iおよび表面IIの皮膜層や被覆層の形成は塗布法により行うのが好ましい。
【0039】
以下、本発明におけるポリエステルフィルムの製造方法の例を説明する。
【0040】
押出機にて必要に応じて不活性粒子を含有させたポリエステルPを溶融状態にしてさらにそのままフィルターにて高精度濾過し、また、二層構造からなるポリエステルフィルムを得るには、別の押出機にて不活性粒子を含有させたポリエステルQを溶融状態にしてさらに別のフィルターにて高精度濾過したのち、フィードブロックにそれぞれ導き、溶融状態にて複合積層せしめる。ポリエステルPとポリエステルQとの積層厚みの比は、各層の押出機の押出量を調整することにより、所望の積層厚み比にすることができる。このようにして溶融、好ましくは積層せしめた後、融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で口金より押出もしくは共押出ししたのち、10〜50℃のキャスティングドラム上で急冷固化して未延伸積層フィルムシートを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg)〜(Tg+80)℃の温度(ただし、Tgはポリエステルのガラス転移温度)で2〜8倍の倍率で、好ましくは3〜7.5倍で延伸する。さらに表面I、必要に応じて表面IIに皮膜層や被覆層を形成するための塗液をフィルム表面に塗布して乾燥し、その後上記延伸方向とは直角方向に(一軸延伸方向とは直交する方向に)延伸配向させ、熱固定する製造方法により、本発明のフィルムを製造することができる。
【0041】
表面Iに皮膜層を形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.01〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜0.6質量%である。そして水性塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。皮膜層中に含まれる粒子に起因する突起の凝集率、特に粒子Sに起因する突起の凝集率を20%未満とするためには、表面Iに塗布する塗液のpHは8〜11に調整することが好ましい。より好ましくはpH9〜10.5である。pHが8未満であると、粒子同士が凝集しやすい傾向にあるため、pHを管理することが重要である。塗液のpHを調整するには塩酸、水酸化ナトリウム水溶液などの酸・塩基成分を適量使用して調整することができる。また、フィルムに塗布する直前の塗液温度は12℃〜28℃、より好ましくは19℃から25℃に調整して塗布することが好ましい。塗液温度が28℃以上でフィルムに塗布すると、上記皮膜成分の水溶性高分子、水分散性高分子、シランカップリング剤などの固形物が発生することがある。また、塗液温度が12℃未満であると、粒子の凝集が発生しやすい傾向にある。
【0042】
表面IIに皮膜層を形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.01〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.3〜0.8質量%である。そして水性塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0043】
二軸延伸は例えば逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法で行うことができるが、所望するならば熱固定前にさらに縦方向あるいは横方向、またはその両方(縦と横方向)に再度延伸させ機械的強度を高めた、いわゆる強力化タイプとすることもできる。
【0044】
表面Iに皮膜層を形成するためには、前述した通り、1軸方向への延伸を終えた段階で所定組成・濃度の塗液を基層フィルム上に塗布する方法をとればよい。その塗布方法としては、ドクターブレード方式、グラビア方式、リバースロール方式、メイヤーバー方式のいずれであってもよい。表面IのRa値は皮膜層中の粒子の量を調整することにより制御することができる。表面IIの皮膜層の形成に関しても同様の方法を用いればよく、皮膜層の厚みは、塗布液の固形分濃度、塗布液厚みの調整により所望値に制御することができる。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムは磁気記録媒体のベースフィルムとして、特にデジタルデータを記録しMRヘッドで再生する磁気テープ用途に使用すると、高密度で記録が可能であり、かつ耐久性に優れた結果を得ることができる。特に業務用VTRなどの高画質、高信頼性が要求される用途のベースフィルムとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0047】
(1)粒子Lおよび粒子Sの平均粒径
(1−1)表面Iの皮膜層中の粒子の平均粒径の測定
表面Iの皮膜層中に含まれる不活性粒子の平均粒径は、フィルムに塗布する前の不活性粒子をpH11のアンモニア水にて希釈し、0.2μmフィルターでろ過したものをParticle Sizing System社製「NICOMP model 380 Dynamic Light Scattering」にて測定した値をもって平均粒径(DおよびD)とした。
【0048】
(1−2)表面Iの粒子に起因する突起の個数密度の測定
表面Iに設けられた皮膜層上の、異なる平均粒径をもつ2種以上の粒子の個数密度は、皮膜層上に、金スパッター装置により金薄膜蒸着層を20〜30nmの厚みで設け、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により、粒子Lは5万倍の拡大倍率で観察し、10枚写真撮影を行うことにより測定し(写真1枚あたりの面積は3.9×10−6mmである)、粒子Sは1万倍の拡大倍率で観察し、10枚写真撮影を行うことにより測定する(写真1枚あたりの面積は9.7×10−5mmである)。撮影された10枚の写真から、写真に観察されるそれぞれの粒径を有する粒子の個数をカウントし、1mmあたりの粒子数に換算して、粒子個数とした。
【0049】
(1−3)表面Iの粒子に起因する突起の凝集率の測定
(1−2)の突起の個数密度の観測の際に、ある突起がその周辺(突起の長径程度の距離以内)に他の突起が存在するか否かを確認し、存在する場合はその突起を凝集状態で存在する突起とみなす。この凝集状態で存在する突起の個数を、同じ視野内の突起の全個数で割り、凝集率(%)を求める。
【0050】
(2)フィルムの表面粗さRa値、Rz値
フィルムの表面の表面粗さRa値、Rz値は、原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。具体的には、セイコーインスツルメント(株)製の卓上小型プローブ顕微鏡(“Nanopics” 1000)を用い、ダンピングモードで、フィルムの表面を40μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS・B0601・1996・Raに相当する算術平均粗さよりRaを、十点平均粗さよりRz値を求めた。なお、測定条件の詳細は以下のとおりである。
測定面 表面I 表面II
測定モード ダンピングモード ダンピングモード
測定方向 幅方向 幅方向
測定領域 40×40μm 40×40μm
スキャンスピード 380s/FRAME 380s/FRAME
スキャン回数 512本 512本
振幅モード LL(20%) HH(100%)
(3)フィルム全体の総厚み
フィルム全体の総厚みはマイクロメーターにてランダムに10点測定し、その平均値を用いた。
【0051】
(4)フィルム長手方向のヤング率
引張試験測定により得られる応力−ひずみ曲線におけるスタート点の立ち上がり勾配からASTM−D882−02(2002)に準じてヤング率を求め、MPaで表す。サンプル幅、実効長さは、それぞれ10mm、100mmとした。引張速度は100mm/minとした。
【0052】
(5)磁気テープ(MICRO MVテープ)の特性
磁気テープの特性は以下のようにして評価した。
【0053】
本発明のフィルムの表面Iに、真空蒸着装置を用いて、コバルト-酸素皮膜を50nmの膜厚で形成した。次いで、コバルト-酸素皮膜層上に、スパッタリング法によりダイヤモンド状カーボン膜を10nmの厚さで形成させ、フッ素含有脂肪酸エステル系潤滑剤を3nmの厚さで塗布した。続いて表面II上に、カーボンブラック、ポリウレタン、シリコーンからなるバックコート層を500nmの厚さで設け、スリッターにより3.8mm幅にスリットし、リールに巻き取り磁気テープ(MICRO MVテープ)を作製した。
【0054】
(5−1)走行耐久性の評価
磁気テープ(MICRO MVテープ)の走行耐久性は、市販のMICRO MV方式ビデオカメラ(MICRO MVビデオカメラ)を用いて静かな室内で録画し、1分間の再生をして画面にあらわれたブロック状のモザイク個数(ドロップアウト(DO)個数)を数えることによって、評価した。DO個数は常温(25℃)でテープ製造後の初期特性(初回のDO個数)を最初に調べた。次にテープの再生を全長にわたり200回くり返し、200回目の再生時のDO個数を測定した。
【0055】
走行耐久性は、
(200回目再生時の1分間あたりのDO個数)−(初回再生時の1分間あたりのDO個数)
により以下のように判定した。
【0056】
0個/分 :◎
1〜2個/分 :○
3〜5個/分 :△
6個以上/分 :×
(5−2)電磁変換特性(C/N)の評価
上記で作製したテープについて、市販のMICRO MV方式ビデオカメラ(MICRO MVビデオカメラ)を用いて、7MHz±1MHzのC/Nの測定を行った。このC/Nを市販のMICRO MVテープと比較して、以下のように判定した。
【0057】
+3dB以上 :◎
+2dB以上〜+3dB未満 :○
+1dB以上〜+2dB未満 :△
+1dB未満 :×
次に実施例に基づき、本発明を説明する。
【0058】
[実施例1]
(ポリエステルPの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、実質的に不活性粒子を含有しないポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。
【0059】
(ポリエステルQの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、その後吐出ノズルより水中に押出しカッターによって直径約5mm長さ約7mmの円柱状のチップとした。こうして得られたポリマーに数平均粒径300nmのポリスチレン球を0.50wt%含有させポリエステルQを得た。
【0060】
得られたポリエステルP、ポリエステルQを、それぞれ170℃で3時間乾燥後、2台の押出し機に、厚みの比が6:1となるように調整して共押出しにより供給し、溶融温度280〜300℃にて溶融し、平均目開き1μmの鋼線フィルターで高精度ろ過したのち、マルチマニホールド型共押出しダイを用いて、ポリエステルAの片面にポリエステルBを積層させ、温度25℃のキャスティングドラム上にて急冷して未延伸フィルムを得た。次にこのようにして得られた未延伸フィルムを予熱し、ロール延伸法にて110℃で3倍に縦延伸した。
【0061】
縦延伸後の工程にて、片側表面Iの外側に下記組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が25mg/mとなるようメイヤーバー方式にて塗布した。
【0062】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.40質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.47質量%
粒子L 平均粒径45nmの球状シリカ粒子 1.2×10−3質量%
粒子S 平均粒径18nmの球状シリカ粒子 3.6×10−2質量%
また、表面II側に皮膜層Bを設けるため、ポリエステル層Bの外側に下記組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が45mg/mとなるようエアナイフ方式にて塗布した。
【0063】
表面IIへの塗布水溶液の組成
水 99.44質量%
メチルセルロース 0.26質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.29質量%
アミノエチルシランカップリング剤 1.1×10−3質量%
その後、ステンターにて横方向に110℃で4倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを220℃の熱風で4秒間熱固定し、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。これをスリッターで小幅にスリットし、円筒コアーにロール状に巻取り、厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0064】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0065】
[実施例2]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.1μmのポリエステルフィルムを得た。
【0066】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.55質量%
メチルセルロース 0.091質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.47質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 1.1×10−5質量%
粒子S 平均粒径20nmのスチレン-アクリル酸メチル-ジビニルベンゼン共重合体の粒子 3.8×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0067】
[実施例3]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.1μmのポリエステルフィルムを得た。
【0068】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.40質量%
メチルセルロース 0.089質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径40nmの球状シリカ粒子 9.5×10−6質量%
粒子S 平均粒径25nmの球状シリカ粒子 3.8×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0069】
[実施例4]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.4μmのポリエステルフィルムを得た。
【0070】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.55質量%
メチルセルロース 0.089質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径65nmの球状シリカ粒子 2.5×10−5質量%
粒子S 平均粒径18nmの球状シリカ粒子 3.6×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0071】
[実施例5]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ5.9μmのポリエステルフィルムを得た。
【0072】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.55質量%
メチルセルロース 0.087質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.47質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 9.4×10−6質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 3.6×10−4質量%
その他の粒子 平均粒径20nmのスチレン-アクリル酸メチル-ジビニルベンゼン共重合体の粒子 1.8×10−2質量%
[実施例6]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0073】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.41質量%
カルボキシメチルセルロース 0.087質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.47質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 8.7×10−6質量%
粒子S 平均粒径18nmの球状シリカ粒子 3.6×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0074】
[実施例7]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0075】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.41質量%
ヒドロキシメチルセルロースメチルセルロース 0.087質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.47質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 9.3×10−6質量%
粒子S 平均粒径20nmのスチレン-アクリル酸メチル-ジビニルベンゼン共重合体の粒子 3.3×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0076】
[実施例8]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0077】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.55質量%
メチルセルロース 0.086質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径60nmの球状シリカ粒子 1.3×10−4質量%
粒子S 平均粒径18nmの球状シリカ粒子 3.6×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0078】
[実施例9]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0079】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.61質量%
メチルセルロース 0.093質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.29質量%
粒子L 平均粒径45nmの球状シリカ粒子 1.6×10−5質量%
粒子S 平均粒径8nmの球状シリカ粒子 8.6×10−5質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0080】
[実施例10]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.7μmのポリエステルフィルムを得た。
【0081】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.65質量%
メチルセルロース 0.087質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.26質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 1.0×10−6質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 1.1×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0082】
[実施例11]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0083】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.64質量%
メチルセルロースメチルセルロース 0.087質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.26質量%
粒子L 平均粒径30nmのスチレン-アクリル酸メチル-ジビニルベンゼン共重合体の粒子 3.5×10−6質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 1.5×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0084】
[比較例1]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.4μmのポリエステルフィルムを得た。
【0085】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.59質量%
メチルセルロース 0.089質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径80nmの球状シリカ粒子 3.3×10−5質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 4.3×10−5質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0086】
[比較例2]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.1μmのポリエステルフィルムを得た。
【0087】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.54質量%
メチルセルロース 0.093質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径45nmの球状シリカ粒子 6.8×10−5質量%
粒子S 平均粒径20nmのスチレン-アクリル酸メチル-ジビニルベンゼン共重合体の粒子 4.5×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0088】
[比較例3]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.4μmのポリエステルフィルムを得た。
【0089】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.41質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 1.3×10−5質量%
粒子S 平均粒径30nmの球状シリカ粒子 1.7×10−3質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0090】
[比較例4]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.2μmのポリエステルフィルムを得た。
【0091】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.58質量%
メチルセルロース 0.093質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 3.5×10−5質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 7.2×10−5質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0092】
[比較例5]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0093】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.57質量%
メチルセルロース 0.093質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径20nmの球状シリカ粒子 2.6×10−6質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 1.4×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0094】
[比較例6]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.3μmのポリエステルフィルムを得た。
【0095】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.56質量%
メチルセルロース 0.093質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 1.3×10−5質量%
粒子S 平均粒径12nmの球状シリカ粒子 3.2×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0096】
[比較例7]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にして厚さ6.1μmのポリエステルフィルムを得た。
【0097】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.49質量%
メチルセルロース 0.093質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
粒子L 平均粒径41nmの球状シリカ粒子 1.3×10−5質量%
粒子S 平均粒径18nmの球状シリカ粒子 9.7×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1、2に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
表1から明らかなように、本発明によるポリエステルフィルムをベースフィルムに用いて製造された磁気記録テープは、電磁変換特性に非常に優れ、繰り返し走行させても走行耐久性の良好な磁気記録テープであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル層の磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録テープ用ポリエステルフィルムであって、表面Iの皮膜層は水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分とし、この皮膜層には平均粒径の異なる少なくとも2種の不活性粒子が含有され、この不活性粒子のうち最も平均粒径の大きい粒子(粒子L)の平均粒径をDL(nm)、粒子Lに起因する突起密度をNL(個/mm2)、最も平均粒径が小さい粒子(粒子S)の平均粒径をDS(nm)、および粒子Sに起因する突起密度をNS(個/mm2)としたとき、DS、NS、DLおよびNSが下記式(1)、(2)および(3)をすべて満足し、さらに表面Iの皮膜層の表面粗さRaが1.5〜6.0nmであり、かつ粒子Sに起因する突起の凝集率が20%未満である磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
(1)25<DL<70
(2)1.5<DL/DS<6
(3)100<N/N<10,000
【請求項2】
粒子Lに起因する突起密度NL(個/mm2)が5,000<NL<300,000である、請求項1に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
粒子Lおよび/または粒子Sが球状シリカ粒子である、請求項1または2に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
粒子Lおよび/または粒子Sがスチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよびジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体または共重合体を構成成分とする高分子粒子である、請求項1または2に記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
総厚みが4〜9μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステルフィルムが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを構成成分として含んでいる、請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録テープ用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−225249(P2010−225249A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73352(P2009−73352)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】