磁気記録再生装置
【課題】記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープを使用し、また、長時間にわたって連続して記録再生させなければならない磁気記録再生装置に対しても、良好に磁気テープに潤滑剤を供給することができる磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】潤滑剤供給手段10により、潤滑剤を供給する部分を、磁気テープ1に対して回転しながら摺接する回転ドラム11の磁気ヘッド2に接触させることで、潤滑剤を、回転自在に支持された磁気ヘッド2を介して、磁気テープ1に供給させるよう構成した。
【解決手段】潤滑剤供給手段10により、潤滑剤を供給する部分を、磁気テープ1に対して回転しながら摺接する回転ドラム11の磁気ヘッド2に接触させることで、潤滑剤を、回転自在に支持された磁気ヘッド2を介して、磁気テープ1に供給させるよう構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープへ潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置に使用される磁気テープとしては、磁性層中に潤滑剤や研磨剤をバインダーとともに混入し、これらを基材に塗布してなるいわゆる塗布型の磁気テープが、既に広く用いられてきた。
【0003】
この塗布型の磁気テープを用いている磁気記録再生装置では、バインダーに混入された潤滑剤により、磁気ヘッド表面と磁気テープとの潤滑機能の維持および磁性膜を保護するよう構成されている。しかし、この種の磁気記録再生装置においては、磁気テープにバインダーが含まれているために、磁気記録再生装置の磁気ヘッドに磁気テープが摺接する際にバインダーの粉末が発生する短所がある。したがって、磁気記録再生装置を長期間使用すると、バインダーの粉末からなる汚れが磁気ヘッドに付着し易くなり、この汚れを除去するために適宜クリーニングする必要がある。例えば、特許文献1、2等には、クリーニング液に潤滑剤を含有させ、磁気ヘッドをクリーニングする際に、潤滑剤も供給する構造が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献1には、クリーニング用カセットの筐体内に、潤滑剤を含有するクリーニング液を貯蔵するタンクを収容し、このタンクが磁気テープに接触して回転することで、潤滑剤を含有するクリーニング液を磁気テープに供給する構造が開示されている。また、特許文献2には、ヘッドクリーナに潤滑剤を含浸した軟質材料を使用して、記録再生時以外のクリーニング時に、前記軟質材料が磁気ヘッドに当接するように切り換えて接触させ、磁気ヘッドの摺動部分へ潤滑剤を供給するように構成したものが提案されている。なお、塗布型の磁気テープは、磁性層中に潤滑剤も含まれており、磁性層が磨り減らない限り潤滑剤も供給されるので、磁気テープに含まれている潤滑剤とは別途にさらに潤滑剤を供給する必要性は比較的少ない。
【0005】
ところで、このような塗布型の磁気テープは、磁性層中に非磁性材料であるバインダーが混入されているため、磁性体の充填密度を高めることに限界があり、記録容量を増大させることが困難である短所がある。
【0006】
このように記録容量の増大が困難である塗布型の磁気テープの短所を改善できて、高密度磁気記録化に対応可能な磁気テープとして、Co−Ni系合金、Co−Cr系合金、Co−O等の金属磁性材料を、メッキや真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空薄膜形成技術によって、ポリエステルフィルムやポリアミド、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に被着した、記録再生面にバインダーを含まない、いわゆる金属薄膜型の磁気テープが提案されている。
【0007】
この種の金属薄膜型の磁気テープは、抗磁力や角形比等の磁気特性に優れ、また、磁性層を極めて薄層に形成できることから、短波長領域での電磁変換特性に優れ、記録減磁や再生時の厚み損失が著しく小さく、更には前記塗布型の磁気テープと異なり、磁性層中に非磁性材料であるバインダーが混入されないので、強磁性金属粒子の充填密度(すなわち、磁気記録密度)を高めて、記録容量を増大させることができる等、種々の利点を有している。したがって、例えば、サーバー装置のデータバックアップ用磁気記録再生装置などの極めて大きな記録容量を必要とする記録媒体などとしても特に適している。
【0008】
ここで、この金属薄膜型の磁気テープは、記録再生面にバインダーを含有せず、磁性層中に潤滑剤や研磨剤を混入することが困難なので、磁性層上に極薄い保護層を備え、かつ保護層上に極薄い潤滑剤を含有させることで、潤滑機能を得ている。なお、金属薄膜型の磁気テープは、記録再生面にバインダーを含有しないので、塗布型の磁気テープを用いる場合のような汚れの発生は少なく、したがってクリーニングの必要性も殆どない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−11455公報
【特許文献2】特開平11−328636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、記録再生面にバインダーを含有していない金属薄膜型の磁気テープは、記録容量の増大に良好に対応できる長所を有する一方で、長期間連続的に使用されるなどして、極めて多くの摺動を繰り返すことで、表面の潤滑剤が枯渇して保護層が減少することがある短所を有している。このように磁気テープの潤滑機能が低減すると、磁性層が損傷するなどの深刻な問題が発生する。一方、過剰量の潤滑剤を供給すると、過剰量の潤滑剤が供給されたテープ面と接触する磁気ヘッドなどがメニスカス現象により磁気テープに絡みやすくなるほか、余剰の潤滑剤が飛散やダストとして磁気記録再生装置内またはテープカートリッジ内の本来潤滑剤を供給する必要のない部分へ付着して一般ダストを吸着し、潤滑剤の塊であるダストや一般ダストを吸着した潤滑剤が磁気ヘッドと磁気テープの記録再生面へ転写されることでドロップアウト(データの欠落)を生じるなどの深刻な問題が発生する。
【0011】
この問題に対処する方法として、特許文献1や特許文献2に開示されているような塗布型の磁気テープに対応する手法、すなわち、クリーニング液に潤滑剤を混ぜて、クリーニング時(記録再生時以外の時)に、潤滑剤を含む液を磁気ヘッドなどに供給する方法を、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープを用いる磁気記録再生装置に転用することが考えられる。しかし、金属薄膜型の磁気テープを用いる場合には、磁気ヘッドにバインダーなどによる汚れは付着せず、クリーニングの必要性がないので、クリーニングを行う際にクリーニング液に含ませた潤滑剤も供給する方法は採用できない。また、クリーニング時ではなくても、記録再生時以外の時に、潤滑剤を含む液を磁気ヘッドなどに供給する方法を用いる場合、サーバー装置のデータバックアップ用磁気記録再生装置など、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置に対しては、記録再生時以外の時間が極めて少ないので、潤滑剤を良好に供給することができない可能性が高く、この点でも不具合を生じる。
【0012】
本発明は、前記問題や不具合を解決するもので、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープを使用し、また、長時間にわたって連続して記録再生させなければならない磁気記録再生装置に対しても、良好に磁気テープに潤滑剤を供給することができる磁気記録再生装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の共通構成は、前記問題や不具合を解決するために、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、潤滑剤供給手段によって記録再生時に磁気テープに潤滑剤を供給できるので、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置で使用される磁気テープに対しても潤滑剤を良好に供給できる。
【0015】
また、本発明は、前記潤滑剤供給手段により、潤滑剤を供給する部分を、磁気テープに対して回転しながら摺接する磁気ヘッドに接触させることで、潤滑剤を、回転自在に支持された磁気ヘッドを介して、磁気テープに供給させるよう構成したことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、磁気ヘッドを潤滑剤供給手段の一部として兼用できるので、潤滑剤を供給する専用の回転ヘッドを別途に設けなくても済む。したがって、回転式(ヘリキャルスキャン型)の磁気ヘッドを有する磁気記録再生装置において、構成を簡素化することが可能となる。
【0017】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、前記磁気ヘッドへの接触面に、接触面潤滑剤膜を形成させていると共に、当該接触面潤滑剤膜に連続して形成される非接触面潤滑剤膜を形成させており、前記非接触面潤滑剤膜は、当該非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤が、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したため、磁気ヘッド表面へ潤滑剤を適量供給することができる。
【0019】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性の薄板状物で構成され、潤滑剤膜が形成された面を前記磁気ヘッドに対向させ、前記潤滑剤膜が形成された面の一部を磁気ヘッドに接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする。この構成によれば、可撓性の薄板状物により磁気ヘッド接触面の形状に柔軟に対応できる。
【0020】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された少なくとも1つの凸部を有する塊状物に構成され、前記凸部を前記磁気ヘッドに対向させて接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする。この構成によれば、薄板状物による場合に比べて磁気ヘッドへ十分な接触圧を与えることができる。
【0021】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤として、1種類または融点の異なる複数種類の潤滑剤が設けられ、少なくとも1つの潤滑剤の融点が28℃以上であることを特徴とする。この構成によれば、潤滑剤が、駆動されない常温では溶融することがない一方で、使用雰囲気の温度に対応して溶融することとなる。
【0022】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤を磁気テープに定期的に供給するよう構成したことを特徴とする。
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、磁気記録再生装置の動作時間に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする。この構成により、磁気記録再生装置の動作時間が長くなってから潤滑剤を磁気テープに供給することなどができる。したがって、磁気記録再生装置の動作時間が短い間は潤滑剤を磁気テープに供給しなくても済んで、潤滑剤を節約することができるとともに、磁気記録再生装置の動作時間が短くて、潤滑剤を含有する保護層が十分存在する可能性の高い磁気テープに対して、過剰に潤滑剤を供給することを防止できる。
【0023】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの走行距離に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする。この構成により、磁気テープの走行距離が大きくなってから潤滑剤を磁気テープに供給することなどができ、磁気テープの走行距離が小さい間は潤滑剤を磁気テープに供給しなくても済んで、潤滑剤を節約することができるとともに、磁気テープの走行距離が短くて、潤滑剤を含有する保護層が十分存在する可能性の高い磁気テープに対して、過剰に潤滑剤を供給することを防止できる。
【0024】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの種類または磁気テープの製造年月の少なくとも一方の情報に応じて、潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする。この構成により、磁気テープの種類に適した状態や製造年月からの経過時間に応じて、潤滑剤を供給が必要と考えられるタイミングなどに潤滑剤を供給することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備えたことにより、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置の磁気テープに対しても潤滑剤を良好に供給できる。
【0026】
また、磁気ヘッドを潤滑剤供給手段の一部として兼用して用いることで、別途に、潤滑剤を供給する専用の回転ヘッドを用いる場合と比較して構成を簡素化することが可能となる。
【0027】
また、潤滑剤供給手段を、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性の薄板状物で構成し、潤滑剤膜が形成された面を磁気ヘッドに対向させ、前記潤滑剤膜が形成された面の一部を磁気ヘッドに接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことにより、可撓性の薄板状物により磁気ヘッド接触面の形状に柔軟に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図3】(a)は本発明の第3の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図、(b)は同磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段の構成を簡略的に示す拡大平面断面図
【図4】同磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す斜視図
【図5】同磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す側面図
【図6】同磁気記録再生装置における他の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す側面図
【図7】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図
【図8】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図
【図9】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図
【図10】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図
【図11】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図
【図12】同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図
【図13】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第6の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第6の実施の形態の形状例の説明図
【図14】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(c)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(d)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図
【図15】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(c)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図
【図16】本発明の第7の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図17】本発明の第8の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図18】本発明の第8の実施の形態の変形例に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図19】本発明の第9の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る磁気記録再生装置の要部(後述する潤滑剤供給手段およびその近傍箇所)の構成を簡略的に示す平面図である。
【0030】
図1に示すように、磁気記録再生装置は、バインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープ1に対して記録や再生を行う磁気ヘッド2と、記録時および再生時に磁気テープ1が磁気ヘッド2に摺接するように磁気テープ1を案内する複数(図1においては2つ)のガイドポスト3A、3Bと、テープの走行方向(図1における矢印B方向)に対して上流側のガイドポスト3A側に磁気テープ1が送られるように磁気テープ1を案内する回転ポスト4と、磁気テープ1の記録再生走行経路に接触する位置に配設されて、磁気ヘッド2による磁気テープ1への記録再生時に、磁気テープ1に潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段10とを備えている。
【0031】
なお、この実施の形態においては、潤滑剤供給手段10は、吸液性および弾性を有し、潤滑剤を含浸させたスポンジ状の潤滑剤供給体5と、この潤滑剤供給体5が、記録時および再生時に磁気テープ1が走行する走行経路に突出するように支持する支持体6とから構成されているが、これに限るものではない。また、潤滑剤供給体5として、支持体6に着脱可能なカートリッジ式のものを用いてもよいが、これに限るものではない。また、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープ1とは、Co−Ni系合金、Co−Cr系合金、Co−O等の金属磁性材料を、メッキや真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空薄膜形成技術によって、ポリエステルフィルムやポリアミド、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に被着した構成のものである。
【0032】
この構成によれば、記録容量の増大に良好に対応できる金属薄膜型の磁気テープ1を用いることができながら、潤滑剤供給手段10によって記録再生時に磁気テープ1に潤滑剤を定常的に供給できるので、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置で使用される磁気テープ1に対しても潤滑剤を良好に供給できる。また、潤滑剤供給体5として、支持体6に着脱可能なカートリッジ式のものを用いることで、潤滑剤がなくなった場合でも、潤滑剤が含浸された潤滑剤供給体5のカートリッジを交換することで、潤滑剤を容易に供給することができる。
【0033】
なお、この実施の形態では、記録再生走行経路における磁気ヘッド2の摺接箇所よりもテープ走行方向に対して上流位置に潤滑剤が供給されるよう潤滑剤供給手段10を配設している場合を図示しており、この場合には、潤滑剤が供給された直後の磁気テープ1が磁気ヘッド2に摺接されることとなり、好適である。しかし、これに限るものではなく、磁気テープ走行方向に対して磁気ヘッド2よりも下流の位置に潤滑剤が供給されるように潤滑剤供給手段を配設するなど、記録再生走行経路の何れの箇所に潤滑剤供給手段を配設してもよい。また、磁気テープ1が記録時や再生時に正逆方向に送られる構成の磁気記録再生装置においては、走行経路の何れの箇所に潤滑剤供給手段を配設してもよい。すなわち、潤滑剤供給手段10の配設位置は、記録再生走行経路に臨んで磁気テープに接触できる箇所であればよく、配設箇所を自由に選択できる利点を有する。
【0034】
(実施の形態2)
前記第1の実施の形態のように、潤滑剤供給手段10として、磁気テープ1の記録再生走行経路に突出して磁気テープ1に直接接触する潤滑剤供給体5を設けた場合には、その接触姿勢によっては、磁気テープ1に対して潤滑剤供給体5が片当たりして、磁気テープ1の幅方向に対して不均一な圧力で潤滑剤を供給してしまう場合がある。この場合には、潤滑剤供給体5が当たっている位置によって、磁気テープ1への供給量が不足したり過剰となったりするので、磁気テープ1に適量の潤滑剤を供給できない不具合や磁気ヘッド2に磁気テープ1が絡み易くなるなどの不具合を生じてしまうおそれがある。また、潤滑剤供給体5の当接状態によっては磁気テープ1を損傷させてしまう不具合を生じるおそれもある。
【0035】
前記不具合を生じないように改良したものが、本発明の第2の実施の形態に係る磁気記録再生装置である。この磁気記録再生装置では、図2に簡略的に示すように、磁気テープ1に潤滑剤供給体5が直接接触するのではなくて、磁気テープ1に対して回転しながら摺接する円筒形の回転ポスト4に潤滑剤供給体5が接触している。すなわち、潤滑剤供給手段10として、前記回転ポスト4を介して、潤滑剤供給体5の潤滑剤が磁気テープ1に供給される構成とされている。
【0036】
この構成によれば、回転ポスト4を磁気テープ1の幅方向に対して均一な圧力で接触させることができ、潤滑剤を、回転ポスト4を介して、磁気テープ1の幅方向に対して均一な接触状態で、定常的にかつ良好に供給することができる。すなわち、潤滑剤を偏った状態で磁気テープ1に供給することを防止できて、潤滑剤を過不足なく磁気テープ1に供給でき、また、磁気テープ1が損傷することも防止できる。
【0037】
なお、この実施の形態でも、潤滑剤供給体5として、図示しない支持体に着脱可能なカートリッジ式のものを用いてもよい。また、図1および図2に示す実施の形態においては、磁気ヘッド2として、回転しない固定ヘッド(いわゆるリニア記録型ヘッドが用いられている場合を述べたが、これに限るものではなく、本発明を、いわゆるヘリカルスキャン型の回転する磁気ヘッド7を備えた磁気記録再生装置に適用することも可能である。
【0038】
(実施の形態3)
図3〜図6は本発明の第3の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す図である。図3〜図6において、10は潤滑剤供給手段であり、磁気記録再生装置の磁気ヘッド2を有する回転ドラム11に対向して配置されている。回転ドラム11は固定ドラム12に回転自在に支持され矢印C方向に回転しており、この両ドラム11,12に磁気テープ1を傾斜する状態に巻き付け、回転ポスト13a及び傾斜ポスト13bによりガイドしながら矢印B方向に走行させている。ここで、両ドラム11,12と磁気テープ1との関係は、磁気ヘッド2がその回転により磁気テープ1の走行方向に対して傾斜して接触するように配置された、ヘリキャルスキャン型のものであり、通常、水平方向に走行する磁気テープ1に対して、両ドラム11,12の回転軸を傾斜させて駆動する構成となっているが、図示では、便宜上、両ドラム11,12の回転軸を垂直方向として示している。
【0039】
潤滑剤供給手段10は、この手段に有する潤滑剤を磁気ヘッド2に転写することにより、磁気ヘッド2を介して磁気テープ1に潤滑剤を供給するように構成したものである。この実施の形態3における潤滑剤供給手段10は、回転軸14に、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性のフィルム(薄板状物)15を配設し、その複数のフィルム15が回転しながら順次磁気ヘッド2に接触できるようになっており、図1(b)に示すように、磁気ヘッド2との接触する面側に潤滑剤膜16を形成している。この潤滑剤膜16は、磁気ヘッド2に接触する接触面潤滑剤膜16aの部分と、この接触面潤滑剤膜16aに連続して形成される非接触面潤滑剤膜16bの部分とを形成しており、この非接触面潤滑剤膜16bは、この非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜16aにおける潤滑剤の磁気ヘッド2への供給による減少に応じて、接触潤滑剤膜16aへ移動供給されるものである。ここで、接触面潤滑剤膜16aの幅Sは、最も狭い場合の幅では先端縁部分のみを接触させる構成としても良く、要は、潤滑剤膜16において非接触面潤滑剤膜16bと連続して形成される接触面潤滑剤膜16aが磁気ヘッド2と接触して潤滑剤が磁気ヘッド2に転写される構成となっていればよい。なお、潤滑剤膜16を構成する潤滑剤等、その詳細については後述する。
【0040】
また、潤滑剤供給手段10は、図4に示すように、回転軸14が揺動可能な可動部としての支持部材17上に立設され、その支持部材17の支軸17aを中心とする矢印D方向への揺動により、フィルム15の先端部が磁気ヘッド2に接触して潤滑剤を供給する供給姿勢となるように配置するか、磁気ヘッド2から離間させて潤滑剤を供給しない非供給姿勢となるように配置するか、その両状態のどちらかを切り換えて選択できるようになっている。フィルム15の先端部が磁気ヘッド2に接触して潤滑剤を供給する状態では、フィルム15の先端部が回転ドラム11の周面と接触してその回転力で矢印E方向に回転される。
【0041】
潤滑剤供給手段10の複数のフィルム15は、短冊状に形成したものを、回転軸14に風車状に配置して構成することができる。そして、磁気ヘッド2に対向する最も近接した位置のフィルム15の先端部が、撓んで磁気ヘッド2と接触するようになっており、接触する面側に前述のように潤滑剤膜16が形成されている。また、このフィルム15は、回転自在として、その複数のフィルム15が磁気ヘッド2に順次接触するが、接触状態から解放されたときに復元するように可撓性を有する構成としている。
【0042】
また、フィルム15は、図5、図6に示すように構成される。図5においては、磁気ヘッド2と対向する部分をほぼ中心として、そのフィルム15の軸方向全幅にわたって、磁気ヘッド2を含む回転ドラム11及び固定ドラム12のそれぞれの周面に接触する構成となっており、その回転ドラム11の回転力で矢印E方向に回転するようになっている。図6においては、フィルム15の先端縁において、磁気ヘッド2の部分に対向する位置に突出部15aを形成し、この突出部15aを接触面潤滑剤膜16aの部分として磁気ヘッド2への接触をこの突出部15aのみで行うようにしたものであり、磁気ヘッド2の部分以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないようにしたものである。ここで、磁気ヘッド2の部分の幅を「H」とした場合、突出部15aの幅「h」は「h≦H」となるように構成される。この図6の例において、突出部15a以外の全面に潤滑剤膜16を形成している場合は、当該磁気ヘッド2に接触しない広い面の潤滑剤膜16部分を非接触面潤滑剤膜16bとすることができる。
【0043】
また、フィルム15の全体の幅については、以上の説明では、磁気ヘッド2部分の幅Hよりも幅広のものとして構成し、図6の突出部15aの幅hを「h≦H」となるように構成したが、フィルム15の全幅「A」を磁気ヘッド2部分の幅Hと同等以下「A≦H」に構成することにより、磁気ヘッド2の部分以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成することができる。
【0044】
以上説明したようにフィルム15は、その表面に潤滑剤膜16を形成することができるものである必要があり、その材質は、例えば、高分子樹脂や金属薄膜などが使用可能である。更に、その高分子樹脂として使用できる材料は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、シリコン樹脂、セルロースなどであり、上記高分子樹脂は磁気記録再生装置の使用雰囲気にてアウトガスなどの汚染物を発生しないことが好ましい。ここで、磁気記録再生装置の使用雰囲気にてアウトガスなどの汚染物を発生しないフィルムとして、金属または半導体の材料が使用でき、膜に形成可能な材料であれば単体でも混合材料でも良い。また、加工によるチッピング、バリなどを除去するために表面や端面を加工等処理しても良く、腐食防止のために耐侵性の高い無機または有機または金属または上記複合材料を鍍金やスパッタや塗布などで表面を被覆しても良い。
【0045】
また、潤滑剤膜16に有する潤滑剤を磁気ヘッド2に転写するためには、適度の接触圧が必要であり、その必要な接触圧を向上する手段として、潤滑剤膜16を形成したフィルム15の潤滑剤膜16表面を面として磁気ヘッド2に接触する以上に、端縁を含む端面を磁気ヘッド2に接触する方がより有効に転写され、その効果が高い。
【0046】
また、フィルム15について、その厚みは特に規定しないが、磁気ヘッド2における磁気テープ1の摺動部分の面全体に接触して潤滑剤を転写できるよう、その可撓性を調整すれば良く、極薄いもので曲がり易いフィルムを用いる場合であっても当該フィルムを積層して調整することにより、磁気ヘッド2へ十分な接触圧を与えることが可能である。
【0047】
この構成によれば、磁気ヘッド2の表面へ潤滑剤を適量供給することができる。また、磁気ヘッド2を潤滑剤供給手段10の一部として兼用して用いる、すなわち、上記第2の実施の形態の回転ポスト4の代わりに磁気ヘッド2を用いることで、別途に、潤滑剤を供給するための専用の回転ポスト4を用いる場合と比較して構成を簡素化することが可能となる。なお、この構成においても、潤滑剤供給手段10によって記録再生時に磁気テープ1に潤滑剤を供給できるので、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置で使用される磁気テープ1に対しても潤滑剤を良好に供給できる。
【0048】
次に、前述した潤滑剤膜16を形成する潤滑剤について説明する。この潤滑剤膜16に使用する潤滑剤は、フィルム15の表面に潤滑剤膜16が形成され、その際に過度の潤滑剤が保持されて、磁気ヘッド2に過剰量の潤滑剤が供給されることがなく、磁気記録再生装置が使用される環境下において塊状にならないものである必要がある。
【0049】
潤滑剤膜16を形成する潤滑剤は、潤滑剤供給手段10を設置する雰囲気において過度の流動性がない潤滑剤を使用できる。具体的には、潤滑剤供給手段10を設置する温度雰囲気は、通常の磁気記録再生装置の使用雰囲気(23℃とする)に、磁気記録再生装置が駆動されることによって発熱して潤滑剤供給手段10を昇温する温度(5℃)を加えた温度(28℃)とした場合、潤滑剤の過剰な流動による磁気ヘッド2以外の磁気テープ1の摺動部への潤滑剤の過剰供給による磁気テープ1の走行不良を防ぐためには、潤滑剤の融点は23℃以上であることが好ましく、より好ましい融点は28℃以上である。
【0050】
ここで、潤滑剤の融点とは、本発明の潤滑剤供給手段10を備えた磁気記録再生装置の使用環境下での潤滑剤の流動性を意味し、融点以上では流動性が高いことを示すのであって、融点以上でも過剰な流動性を示さない潤滑剤または融点以上でも過剰な流動性を示さない潤滑剤を混合して用いる場合、または融点以上での潤滑剤の流動性を後述する添加剤で安定に制御した場合、または融点以上でも潤滑剤が過剰な流動性を示さないように後述する処理を施したフィルムを用いる場合、または図6に示す形状により潤滑剤が磁気ヘッド2を介して磁気テープ1に集中して供給される場合は、磁気ヘッド2以外の磁気テープ1の摺動部へ過剰な潤滑剤の供給による磁気テープ1の走行不良は発生しない。
【0051】
また、潤滑剤供給手段10を設置する湿度雰囲気は、磁気記録再生装置の使用雰囲気及び磁気記録再生装置が駆動されることによって発熱する温度を考慮した湿度雰囲気であって、高湿度であっても水和物などの偏析を形成し難い潤滑剤が使用できる。また、潤滑剤供給手段10を設置する気圧雰囲気は、磁気記録再生装置の使用雰囲気であって、上述気圧雰囲気で容易に気化しない潤滑剤が使用できる。
【0052】
以上の条件に対応できる潤滑剤としては、分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基、およびアルキル基またはアルケニル基を有する含フッ素モノカルボン酸から選ばれた少なくとも1種類の化合物、および極性基が両末端に結合したパーフルオロポリエーテル系化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含む潤滑剤や、ステアリン酸誘導体、脂肪酸アミド誘導体、パルミチン酸誘導体、ミリスチン酸誘導体、オレイン酸誘導体の群から選択される少なくとも1以上の脂肪酸を含有し、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、リチウムの群から選択される少なくとも1以上の金属を含有する脂肪族金属塩を使用または含有しても構わないし、フッ化グラファイト、グラファイト、硫化モリブテンなどを使用しても構わない。
【0053】
また、前述した潤滑剤は、高温環境下においても潤滑機能を維持するために、球体分子の転がり抵抗を潤滑剤に用いることができ、そのような潤滑剤としては、球状のカーボンクラスターからなるフラーレンを被覆してなる固体潤滑膜が使用でき、フラーレンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種の分子と、少なくとも1種のフッ素系潤滑剤、好ましくは上記パーフルオロポリエーテル系化合物とを混合した潤滑剤とし、または、フラーレン誘導体を必要に応じて少なくとも1種のフッ素系潤滑剤と混合して潤滑剤として使用することができる。
【0054】
また、前述した潤滑剤を高温環境下でも低温環境下でも安定した流動性を得るために使用できる添加剤としては、アニオン界面活性剤(ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルフォン酸塩、など)やノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ノニフェノール、など)やカチオン界面活性剤(アミン系、など)や分散剤(ポリカルボン酸系塩、ポリアクリル酸エステル系塩、フタロシアニン、アゾ化合物、など)である。
【0055】
次に、潤滑剤膜16を形成する潤滑剤の厚みについて説明する。本発明におけるフィルム15の表面に薄膜として形成できる潤滑剤の厚みは、細かく裁断したフィルム15が、隣接するフィルム15に引っ付いて、局部的にかつ接触面潤滑剤膜16aの潤滑剤供給部分以外の不本意な部分で湾曲したり、接触面潤滑剤膜16aの部分がからまって前述したフィルム15の形状特徴を損なったりすることのない厚みであればよい。ここで、隣接するフィルム15同士が引っ付く要因は、滑らかな表面同士に働く表面張力や分子間力、フィルム15間に潤滑剤が満たされている場合のこの潤滑剤内に働く表面張力や分子間力などである。その前者の要因「滑らかな表面同士に働く表面張力や分子間力」はフィルム15の表面粗さを粗くすることで低く抑えることができ、後者の要因「潤滑剤内に働く表面張力や分子間力」はフィルム間距離を大きくする調整でも低く抑えることはできる。しかし、本発明の潤滑剤膜16の厚みは、フィルム15の表面粗さ調整やフィルム15間の距離調整を特に必要としないように、用いるフィルム15の表面粗さが0.05μmである場合、その潤滑剤膜16の厚さは0.05μm以下であることが好ましく0.01μm以下であることがさらに好ましい。なお、潤滑剤厚みが0.01〜0.05μmである場合は、隣接したフィルム15がお互いに引っ付くことはなかった。
【0056】
次に、フィルム15に潤滑剤膜16を形成する方法について説明する。潤滑剤膜16を形成する方法は、塗布、蒸着、ディッピング、転写等、特にその方法・手段は特定する必要はなく、上述した雰囲気で満足する潤滑剤が提供できない場合は、いかなる雰囲気でも潤滑剤を供給できることを目的で異なる物性の潤滑剤を積層しても、混合しても良く、部分的に膜形成しても良い。特に、高温環境下でも低温環境化でも高温と低温を繰り返す温度変化が激しい環境下でも安定した潤滑剤の流動性を得るために、フィルム15への上記処理は、表面に潤滑剤との結合力の強い官能基を付与して、高温環境下でも低融点潤滑剤が過度に流動したり凝集による塊を発生させたりしない目的で、UV光照射、プラズマ処理、などが使用でき、UVアンカー処理、ペルヒドロポリシラザンなどによるアンカー処理なども使用できる。
【0057】
(実施の形態4)
前述の実施の形態3において、潤滑剤供給手段10は、回転軸14に、表面に潤滑剤膜16が形成された可撓性のフィルム(薄板状物)7を複数配設し、その複数のフィルム15が回転しながら順次磁気ヘッド2に接触できるように形成したものについて説明した。また、磁気ヘッド2の部分にのみ潤滑剤を供給できる構成とするために、突起部7aを形成したものについて説明した。同様の作用効果を奏することができるフィルム状の薄板状物として、例えば、図7に示すように、種々の形状のものが考えられる。以下、このフィルム状の潤滑剤供給手段10について、図7〜図9に基づいて説明する。
【0058】
まず、図7Aに示すものは前述の実施の形態3における短冊状のフィルム単体を構成したものであり、この場合は、実施の形態3と同様に回転軸14に取り付けるように構成しても、回転軸14を有せず、単に1枚、もしくは複数枚の短冊状のフィルム15を接触させる構造のものでも良く、何れの場合でも簡単に構成できるが、非接触面潤滑剤膜16bを含む潤滑剤膜16の全体面積が限られる。この図7Aに示す例の場合にも、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等が前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。また、前述の突出部15aを接触面潤滑剤膜16aの部分として形成し、磁気ヘッド2への接触をこの突出部15aのみで行うようにしても良い。また、その全幅Aの寸法を磁気ヘッド2の幅Hと同等以下「A≦H」に構成することにより、磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成することができる。
【0059】
次に、図7(b)に示すものは、複数のフィルム15により構成する点で実施の形態3と同じであるが、この例では、その全幅Aを更にスリット7bにより分割して複数の細幅フィルム15cとしたものである。この例の場合、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を得られると共に、磁気ヘッド2の表面に凹凸がある場合に、各々の細幅フィルム15cがその凹凸に対応して撓むことにより、当該磁気ヘッド2の面に、各々の細幅フィルム15cの表面に形成した潤滑剤膜16より潤滑剤を供給することができる利点がある。この例の場合にも、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。また、前述の回転軸14に対して構成される数量や揺動可能な支持部材17上に設ける点等についても同様である。
【0060】
次に、図8(a)および図8(b)に示すものは、フィルム15により構成する点で実施の形態3と同じであるが、この例では、短冊状のフィルムではなく、円筒状のフィルムにより構成している点で異なる。すなわち、図8Aに示す場合は、全幅Aにおいて1つの円筒状フィルム15dとして構成し、その表面に潤滑剤膜16を形成している。図8Bに示す場合では、スリット15eにより細幅円筒状フィルム15fとして、その表面に潤滑剤膜16を形成している。この例では、筒状フィルム15d,15fの周面を磁気ヘッド2及び両ドラム11、12の周面に接触するように構成し、表面に形成した潤滑剤膜16より潤滑剤を供給するものである。この例の場合も、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を得られると共に、図8(b)に示す場合では、磁気ヘッド2の表面に凹凸がある場合に、各々の細幅円筒状フィルム15fがその凹凸に対応して撓むことにより、当該磁気ヘッド2の面に、各々の細幅円筒状フィルム15fの表面に形成した潤滑剤膜16により潤滑剤を供給することができる。また、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。
【0061】
次に、図9(a)に示すものは、フィルム15を、凹凸部を形成した筒状フィルム15gとして構成し、その表面に潤滑剤膜16を形成して、凸部を磁気ヘッド2に接触するように配置している。また、磁気ヘッド2に接触する前期凸部先端部の潤滑剤膜16を接触面潤滑剤膜16aとし、磁気ヘッド2に接触しない部分を非接触面潤滑剤膜16bとすると共に、複数の凸部が順次磁気ヘッド2と接触可能に構成することにより、潤滑剤膜16より潤滑剤を供給するものである。ここで、矢印は、凹部に形成された非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤が、磁気ヘッド2と接触して当該磁気ヘッド2に潤滑剤を供給することにより当該潤滑剤が減少した凸部の先端に向かって、移動する方向を示している。この例では、断面図で示したが、その幅方向は、前述と同様に全幅Aが磁気ヘッド2部分の幅Hより大きい幅であっても、同等以下「A≦H」であってもよく、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を有する。また、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。
【0062】
次に、図9(b)に示すものは、図9(a)に示すものの変形例で、フィルムの異常な変形を保護可能な筒状フィルム15hとして構成としたものであり、この例では、内部に折曲して形成した保護部15jを有する点で図9(a)に示すものと異なる。このフィルムの異常な変形を保護する構成以外は、図9(a)に示すものと同様の作用を提供する構成である。
【0063】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5は、潤滑剤供給手段10を、以上説明したフィルム(薄板状物)に代えて、ブロック(塊状物)として構成したものであり、例えば、図10〜図12に示すように、種々の形状のものが考えられる。
【0064】
この潤滑剤供給手段10をブロック(塊状物)として構成する場合でも、前述したフィルム(薄板状物)の場合と同様に、磁気ヘッドへの接触面に接触面潤滑剤膜を形成すると共に、当該接触面潤滑剤膜に連続して形成される非接触面潤滑剤膜を形成し、非接触面潤滑剤膜は当該非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したものである。そして、そのブロック(塊状物)は、表面に潤滑剤膜が形成された少なくとも1つの凸部を有する塊状物に構成され、当該凸部を磁気ヘッドに対向させて接触するように構成して、当該部分を接触面潤滑剤膜としている。なお、潤滑剤膜を形成する潤滑剤については、前述のフィルム(薄板状物)の場合と同様である。以下、このブロック(塊状物)として構成した潤滑剤供給手段10について、図10〜図12に基づいて説明する。
【0065】
図10(a)において、19は磁気ヘッド2に接触する接触部20aを有するブロックで、このブロック19には、先端の接触部20aから連続して形成される非接触部20bを有しており、この接触部20aから非接触部20bにかけて潤滑剤膜16(潤滑剤膜そのものについては前述の実施の形態と同様であるため同一の符号で示す)を形成し、接触部20aにおける潤滑剤膜16を接触面潤滑剤膜16aとし、非接触部20bにおける潤滑剤膜16を非接触面潤滑剤膜16bとして構成する。このような構成により、接触部20aにおける潤滑剤が磁気ヘッド2に供給され、その部分の潤滑剤の減少に応じて、非接触部20bにおける潤滑剤が溶融することにより、接触部20aに移動することとなる。ここで、ブロック19の全幅を「A」とし、前述したように磁気ヘッド2の部分の幅を「H」とした場合、「A≦H」となるように構成することにより、磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成することができる。
【0066】
次に、図10(b)に示すものは、ブロック19の全幅Aより狭い幅「h」の突出部19aを形成し、その先端19bを磁気ヘッド2と接触するように構成したものであり、この場合は突出部19aの幅hを「h≦H」となるように構成し、磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成している。この場合は、ブロック19の全幅Aは、磁気ヘッド2の部分の幅を「H」より幅広に構成しても、ブロック19が両ドラム11,12に接触することはない。また、磁気ヘッド2と接触する突出部19aの先端19bに形成した潤滑剤膜部分を接触面潤滑剤膜16aとし、それ以外の部分、すなわち突出部19aの他の部分と突出していないブロック19の面とに潤滑剤膜16を連続して形成することにより非接触面潤滑剤膜16bとすることができる。この場合は、図10(a)において「A≦H」となるように構成した場合に比べ、非接触面潤滑剤膜16bの面を大きくとることができる。
【0067】
次に、図11(a)に示すものは、前述のブロック19の形状を変形した変形例のブロック31であり、その断面を示すものである。図11(a)における矢印は、ブロック31の表面に形成された潤滑剤膜16において、磁気ヘッド2と接触する上端部分21aの接触面潤滑剤膜16aに対して、非接触面潤滑剤膜16bから溶融した潤滑剤が供給される方向を示している。図10(a)および図10(b)に示すもののように片面のみからの潤滑剤供給の構造に比べ、その潤滑剤の移動がより円滑に行われる。この例では、断面図で示したが、その幅方向は、前述と同様に全幅Aが磁気ヘッド2の幅Hより大きい幅であっても、同等以下「A≦H」であってもよく、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を有する。
【0068】
次に、図11(b)に示すものは、図11(a)に示すものの更に変形例で、ブロック12の先端の断面形状が鋭角となっており、図11(a)に示すものと同様、そのブロック12の表面に形成された潤滑剤膜16において、磁気ヘッド2と接触する上端部分22aの接触面潤滑剤膜16aに対して、非接触面潤滑剤膜16bから溶融した潤滑剤が供給される方向を示している。その作用については、図11(a)に示すものと同様である。
【0069】
次に、図12に示すものは、前述したフィルムの例で説明した図9(a)、図9(b)に示すものの場合と同様に、周面に凹凸を形成したブロック23により構成したものであり、その表面に潤滑剤膜16を形成し、凸部を磁気ヘッド2に接触するように配置して、当該凸部先端部の潤滑剤膜16を接触面潤滑剤膜16aとし、接触しない部分を非接触面潤滑剤膜16bとすると共に、複数の凸部が順次磁気ヘッド2と接触可能に構成することにより、潤滑剤膜16より潤滑剤を供給するものである。ここで、図12における矢印は、凹部に形成された非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤が、磁気ヘッド2と接触して当該磁気ヘッド2に潤滑剤を供給することにより当該潤滑剤が減少した凸部の先端に向かって、移動する方向を示している。この例も断面図で示したが、その幅方向は、前述と同様に全幅Aが磁気ヘッド2の幅Hより大きい幅であっても、同等以下「A≦H」であってもよく、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を有する。
【0070】
なお、以上、実施の形態5において説明したブロックを用いた潤滑剤供給手段10においては、前述のフィルムによる場合に比べ、磁気ヘッド2へ十分な接触圧を与えることが可能である。このブロックを用いた場合でも、磁気ヘッド2へ接触する面をフィルムの場合と同様に、磁気ヘッド2への接触面に接触面潤滑剤膜16aを形成すると共に、当該接触面潤滑剤膜16aに連続して形成される非接触面潤滑剤膜16bを形成し、非接触面潤滑剤膜16bは当該非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜16aにおける潤滑剤の磁気ヘッド2への供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜16aへ移動供給されるように構成することにより、所望の効果が得られる。また、ブロックの磁気ヘッド2への接触面部分の表面に接触面潤滑剤膜16aを膜形成すると共に、これに連続してブロック表面に非接触面潤滑剤膜16bを形成するので、過度の潤滑剤が保持されることはなく、したがって、過剰量の潤滑剤が供給されることはなく、磁気記録再生装置が置かれる環境下にて潤滑剤が塊状になることもない。
【0071】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6は、潤滑剤供給手段10を、実施の形態5と同様に、ブロック(塊状物)として構成したものであるが、この形態では、複数のブロックにより構成したものである。例えば、図13(a)、図13(b)に示すような形状のものが考えられる。
【0072】
この実施の形態では、複数のブロックにより構成する際に、各々のブロックに形成される潤滑剤膜として潤滑剤の融点が異なるもを形成することにより、磁気ヘッドに対して、使用環境温度に対応して異なる融点の潤滑剤を容易に供給する潤滑剤供給手段を提供することができる。
【0073】
以下、この複数のブロックにより構成した潤滑剤供給手段10について、図13(a)、図13(b)に基づいて説明する。
図13(a)に示すものは、表面に潤滑剤膜を形成したブロック30、31、32により構成したもので、それぞれのブロック30、31、32を組合せて、中央のブロック30の最先端30aを前述の磁気ヘッド2に接触可能とし、この部分に形成した潤滑剤膜を接触面潤滑剤膜とし、その他の部分及びブロック31、32に形成された潤滑剤膜部分を非接触面潤滑剤膜としており、その断面外形形状は組合せ全体として1つの凸部を有する形状となっている。この例の場合は、ブロック30の最先端30aの潤滑剤膜の潤滑剤が磁気ヘッド2を介して磁気テープ1に転写されて減少することにより、当該ブロック30の他の非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤が溶融して供給されると共に、他のブロック31、32に形成された潤滑剤膜(この潤滑剤膜は全てが非接触面潤滑剤膜)の部分の潤滑剤が溶融して供給されることとなる。このため、前述のように、各々のブロックに形成される潤滑剤膜として潤滑剤の融点が異なるものを形成する場合は、磁気ヘッド2への接触部を有するブロック30に形成する潤滑剤膜に有する潤滑剤を最も融点が低い潤滑剤とし、他のブロック31、32に形成された潤滑剤膜に有する潤滑剤の融点が高いものとして構成することにより、潤滑剤の磁気ヘッド2への供給が円滑に行われる。ここで、各ブロック30、31、32の相互の接触部にも潤滑剤膜を形成することにより、非接触面潤滑剤膜の全体面積をより大きくすることができ、その際、その接触部はそれぞれの潤滑剤膜を形成可能な隙間を有するように構成するものである。
【0074】
次に、図13(b)に示すものは、表面に潤滑剤膜を形成したブロック33、34、35により構成したもので、それぞれのブロック33、34、35は断面形状が凸部を有するように形成され、各々のブロック最先端33a,34a,35aを前述の磁気ヘッド2に接触可能とし、この部分に形成した潤滑剤膜を接触面潤滑剤膜とし、その他の部分に形成された潤滑剤膜部分を非接触面潤滑剤膜としている。この例では、それぞれのブロック33、34、35に形成される潤滑剤膜の潤滑剤の融点がそれぞれ異なるものとして構成した場合でも、それぞれが接触しているため、環境温度に対応して、いずれかのブロック33、34、35の潤滑剤膜が溶融してその潤滑剤が、磁気ヘッド2に転写されることとなる。
【0075】
(実施例)
次に、前述した実施の形態3〜6に係る磁気記録再生装置において、潤滑剤供給手段10を有し、潤滑剤の材質等を変えて実施した、個々の実施例1〜7について説明すると共に、潤滑剤供給手段10を有しない従来例に基づく比較例1〜3について説明し、これらの実施例と比較例との特性評価結果の比較によって、本発明の磁気記録再生装置の効果を確認する。ここで、以下の実施例1〜7は、前述した実施の形態3〜6における潤滑剤供給手段10の種々の構成例について行うもので、具体的には、図14(a)〜図14(d)、図15(a)〜図15(c)に示す(P1)〜(P7)の7種類の形態の構成例について、下記の実施例1〜7の確認を行うものであり、回転ドラム11の周面と接触するフィルム15は自由に回転し得る構成とした。
【0076】
(実施例1)
この実施例1で使用した潤滑剤の融点は、室温を(23℃)において磁気記録再生装置の発熱により昇温した磁気記録再生装置の使用温度環境(28℃)よりも高い55℃のフッ素化合物であり、約6μm厚のポリエチレンテレフタル酸のフィルム、またはポリプロピレンを押し出し成型したブロックの表面および端面へ潤滑剤を塗布して約0.01μm厚みを狙って潤滑剤膜を形成した。また、磁気テープはコバルトまたは酸化コバルトを斜方蒸着した磁性層とする、幅0.5インチで総厚約9μmの蒸着型磁気テープを用いた。
【0077】
(実施例2)
この実施例2では、潤滑剤膜に有する潤滑剤の融点が28℃のものを使用し、それ以外は混合潤滑剤を用いた点等、実施例1と同様である。
【0078】
(実施例3)
この実施例3では、潤滑剤膜に有する潤滑剤として、融点55℃のフッ素化合物と室温(23℃)よりも低い融点20℃のフッ素化合物の2種類の潤滑剤を混合して使用し、それ以外は実施例1と同様である。
【0079】
(実施例4)
この実施例4では、潤滑剤膜の厚みを0.05μmとした形成し、それ以外は実施例1と同様である。
【0080】
(実施例5)
この実施例5では、潤滑剤の融点が28℃未満(具体的には、25℃のものを使用)であった以外は実施例1と同様の形態である。
【0081】
(実施例6)
この実施例6では、2種類の潤滑剤の融点がともに28℃未満(具体的には、25℃のものと20℃のものを使用)であった以外は実施例1と同様の形態である。
【0082】
(実施例7)
この実施例7では、潤滑剤の厚みを0.06μmとした以外は実施例1と同様の形態である。
【0083】
(比較例1)
この比較例1では、種々説明した従来例の中で、潤滑剤供給手段を備えない磁気記録再生装置において、潤滑剤は磁気テープに塗布されたもののみとしたものであり、その潤滑剤は実施例1と同じ55℃のフッ素化合物である。
【0084】
(比較例2)
この比較例2では、磁気テープに塗布された潤滑剤は、実施例2で使用した潤滑剤と同じ28℃のフッ素化合物だが、比較例1同様に潤滑剤供給手段を備えない磁気記録再生装置である。
【0085】
(比較例3)
この比較例3では、磁気テープに塗布された潤滑剤は、実施例3で使用した潤滑剤と同じ融点55℃のフッ素化合物と室温(23℃)よりも低い融点20℃のフッ素化合物の2種類の潤滑剤だが、比較例1および比較例2と同様に滑剤供給手段を備えない磁気記録再生装置である。
【0086】
以上の実施例1から実施例7について、前述した図8に示す(P1)〜(P7)の7種類の構成例についてそれぞれと共に、比較例1から比較例3について、磁気記録再生装置にて、スチル試験を実施した結果を表1に示す。試験は1時間を最大とした。スチル試験は磁気記録媒体の走行が止められ回転ヘッドが同一のヘリカルトラックを繰り返しトレースすることで静止画を再生するスチル再生の試験であり、表1におけるそれぞれの枠内に示す時間は、磁気テープまたは磁気記録再生装置の異常により再生画像がブルーバック異常を発生するまでの時間を示す。
【0087】
【表1】
この表1の実施例1から実施例7において、1時間以内にブルーバック異常を発生しなかった例について、さらに4時間追加してスチル試験すると、実施例1,3,4は全て4時間経ってもブルーバック異常を発生しなかった。また、実施例2は3.5時間以上4時間未満でブルーバック異常を発生した。実施例7は2時間以上3.5時間未満でブルーバック異常を発生し、実施例5、6は10min以内にブルーバック異常を発生した。
【0088】
なお、スチル試験を5℃雰囲気で実施した場合に、比較例は何れも一時的な目詰まりを発生した。常温で液体であった潤滑剤膜が冷却により塊状になり、塊状の潤滑剤が磁気ヘッドと磁気テープの記録再生面に侵入したためと考えられる。
【0089】
また、40℃の雰囲気で10日間保管した磁気テープをスチル試験すると、実施例1から実施例6は表2と同等の結果であったが、比較例1から比較例3と実施例7(P2(200枚))は5分以下でブルーバック異常を発生した。磁気テープ表面に形成した潤滑剤が40℃10日間の雰囲気で枯渇減少したため、従来の磁気記録再生装置でスチル試験すると、磁気テープ表面の潤滑剤の枯渇が促進されるが、本発明の磁気記録再生装置でスチル試験した場合は、潤滑剤供給手段における接触面潤滑剤膜の潤滑剤が減少しても、非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤が溶融して供給できることが確認できた。
【0090】
また、実施例5〜7において、潤滑剤供給手段10の形態によっては、1時間以内にブルーバック異常を発生した例もあるが、比較例1〜3に比べ、ブルーバック異常を発生迄の時間は、概ね長時間発生しなかった。更に、潤滑剤の融点が28℃以上の化合物による例(実施例1,2,4)のもの、あるいは28℃以上の化合物との混合剤とした例(実施例3)のものについては、より長時間ブルーバック異常を発生防止できた。
【0091】
なお、このように、潤滑剤として、1種類または融点の異なる複数種類の潤滑剤が設けられ、少なくとも1つの潤滑剤の融点が28℃以上であるよう構成したことにより、潤滑剤が、駆動されない常温では溶融することがない一方で、使用雰囲気の温度に対応して溶融することとなる。したがって、磁気記録再生装置を駆動していないにも関わらず、潤滑剤が溶融して下方に流れ落ち、潤滑剤が偏ることなどを最小限に抑えることができる。
【0092】
(実施の形態7)
図16は本発明の第7の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す図である。この磁気記録再生装置では、上記第1、第2の実施の形態と同様に、バインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープ1に対して記録や再生を行う固定ヘッド式(いわゆるリニア記録型)の磁気ヘッド2と、記録時および再生時に磁気テープ1が磁気ヘッド2に摺接するように磁気テープ1を案内する複数(図116においては2つ)のガイドポスト3A、3Bと、テープ走行方向(矢印B方向)に対して上流側のガイドポスト3A側に磁気テープ1が送られるように磁気テープ1を案内する回転ポスト4と、磁気テープ1に潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段10とを備えている。そして、この磁気記録再生装置でも、上記第2の実施の形態と同様に、潤滑剤供給手段10に設けられており潤滑剤が含浸されている潤滑剤供給体5が、磁気テープ1に直接接触するのではなくて、磁気テープ1に対して回転しながら摺接する円筒形の回転ポスト4に接触し、前記回転ポスト4を介して、潤滑剤供給体5の潤滑剤が磁気テープ1に供給されるよう構成されている。
【0093】
しかしながら、この第7の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段10では、図16に示すように、潤滑剤供給体5が、支軸17aを中心として揺動される可動部としての支持部材17の端部に立設された軸を中心に回転自在に支持されている。そして、図外の駆動源の駆動力によって支持部材17を揺動させることにより、潤滑剤供給体5が回転ポスト4に接触して潤滑剤を磁気テープ1に供給する供給姿勢と、潤滑剤供給体5が回転ポスト4から離間して潤滑剤を磁気テープ1に供給しない非供給姿勢とに切換自在に構成されている。
【0094】
この構成によれば、可動部としての支持部材17を揺動させて潤滑剤供給体5を供給姿勢と非供給姿勢との何れかに切り換えることで、潤滑剤の供給が必要な場合のみ潤滑剤を供給できる。
【0095】
ここで、潤滑剤供給体5を供給姿勢に切り換えて潤滑剤を供給するタイミングとしては、毎週1回など定期的に行ったり、動作時間(前回、潤滑剤を供給した後の動作合計時間)や走行距離(前回、潤滑剤を供給した後の合計走行距離)に応じて行ったりする。動作時間や走行距離に応じて行う場合には、再生動作および記録動作の合計時間や、走行距離の合計(走行テープ長と走行回数との積)に応じて潤滑剤を供給する。
【0096】
また、例えば、磁気記録再生装置がサーバー装置やパーソナルコンピュータの大容量データのバックアップ用として使用される場合には、通常、パーソナルコンピュータを使用しない夜中などの時間帯に1本の磁気テープ1を使用してバックアップされることが多いので、この場合における定期的に潤滑剤を供給する例としては、使用回数(1日1回の場合は使用日数と等しくなる)に応じて、月1回から半年に1回、1晩で磁気テープ1の全体に潤滑剤が供給されるよう、例えば約6時間、1000m以上、潤滑剤を供給すればよい。また、潤滑剤の供給が所定回数(例えば5回)行われた場合には、潤滑剤供給体5に潤滑剤を補充することが好ましく、例えば、半年から3年毎などに潤滑剤を補充することが好ましい。
【0097】
上記のように、潤滑剤供給手段10を、磁気記録再生装置の動作時間に応じて潤滑剤を磁気テープ1に供給するよう構成すると、磁気記録再生装置の動作時間が長くなってから潤滑剤を磁気テープに供給することができる。また、磁気テープ1の走行距離に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことにより、磁気テープ1の走行距離が大きくなってから潤滑剤を磁気テープに供給することなどができる。したがって、磁気記録再生装置の動作時間が短い間や磁気テープ1の走行距離が小さい間は潤滑剤を磁気テープ1に供給しなくても済んで、潤滑剤を節約することができる。また、磁気記録再生装置の動作時間や走行距離が短くて、潤滑剤を含有する保護層が十分存在する可能性の高い磁気テープ1に対して、過剰に潤滑剤を供給することを防止でき、ひいては、潤滑剤の過剰供給による磁気テープ1の磁気ヘッド2への絡みや、ドロップアウト(データの欠落)の発生を防止できる。
【0098】
また、磁気テープ1の種類に応じて、潤滑剤を磁気テープ1に供給するよう構成してもよい。磁気テープ1によっては、磁気テープ1を収容するカセットにメモリが内蔵され、このメモリに、磁気テープ1の製造メーカ名や品番、ロット番号(製造製造年月のデータなどを含む場合が多い)、シリアル番号などがデータとして記憶されているものがある。このような構成のものにおいて、例えば、ロット番号より磁気テープ1の製造年月を識別し、この製造年月から、予め決められた期間が経過した場合には、潤滑剤を、定常的または定期的、或いは、動作時間や走行距離などに応じて、供給するよう(潤滑剤供給体5を供給姿勢にするよう)構成してもよい。また、磁気テープ1の製造メーカ名および品番に対応して製造後の潤滑剤の供給開始期間のデータベースを記憶しておき、読み取った磁気テープ1の製造メーカ名および品番と、ロット番号に基づく磁気テープ1の製造年月とから、予め決められた期間が経過した場合に、潤滑剤を、定常的または定期的、或いは、動作時間や走行距離などに応じて、供給するよう(潤滑剤供給体5を供給姿勢にするよう)構成してもよい。例えば、ロット番号より磁気テープ1の製造年月を識別し、製造年月日が5年を超えていた場合には、第1回目の使用から潤滑剤を供給する。この構成によれば、長期使用して、潤滑剤を含有する保護層が磨耗しているおそれのある磁気テープ1に対して潤滑剤を良好に供給することができる。
【0099】
また、磁気テープ1の張り状態(テンション)が所定値を超えた場合や、記録再生時に一定速度で走行する磁気記録再生装置のテンションのばらつき量が所定値を超えた場合に、潤滑剤を供給する(潤滑剤供給体5を供給姿勢にする)よう構成してもよい。例えば、磁気テープ1を送るモータの負荷を電流値で制御する磁気記録再生装置において、モータの電流値よりテンション値を推測し、テンション値が基準値(例えば1N)よりも5%以上大きい場合に潤滑剤の供給を開始したり、記録再生時に一定速度で走行させるテンションのばらつきが、±1%を超えた場合に潤滑剤の供給を開始したりする。なお、このように、テンションが所定値を超えた場合や、テンションのばらつき量が所定値を超えた場合には、その磁気テープ1の一部の領域だけでこのような状態となった場合でも、磁気テープ1の全体に潤滑剤を供給するよう構成する。この構成によれば、潤滑剤を含有する保護層が磨耗するなどして、テンションが所定値を超えたり、テンションのばらつき量が大きくなったりした磁気テープ1に対して潤滑剤を良好に供給することができる。
【0100】
また、このように、潤滑剤供給体5を供給姿勢に切り換えて潤滑剤を供給するタイミングを、定期的、または動作時間、または走行距離、またはテンションや磁気テープ1の種類に基づいて行う構成を、上記第3〜第6の実施の形態の場合にも同様に適用してもよい。
【0101】
(実施の形態8)
図17は本発明の第8の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す図である。この磁気記録再生装置では、2又形状の支持部材17の端部に、互いに融点の異なる潤滑剤を含有する第1の潤滑剤供給体5Aと第2の潤滑剤供給体5Bとが回転自在に取り付けられている。そして、図外の駆動源の駆動力によって支持部材17を揺動させることにより、第1の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触して第1の潤滑剤を磁気テープ1に供給する第1の供給姿勢と、第2の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触して第2の潤滑剤を磁気テープ1に供給する第2の供給姿勢と、第1および第2の潤滑剤供給体5A、5Bが回転ポスト4から離間して潤滑剤を磁気テープ1に供給しない非供給姿勢とに切換自在に構成されている。また、図示しないが、この潤滑剤供給手段10が設けられている箇所には温度センサが設けられ、この温度センサにより、潤滑剤供給手段10が設けられている雰囲気の温度が検知される。ここで、第1の潤滑剤供給体5Aには、第2の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤よりも融点の低い潤滑剤が含有されており、例えば、第1の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤の融点が25℃、第2の潤滑剤供給体5Bの潤滑剤の融点が35℃のものが用いられている。
【0102】
そして、潤滑剤の供給が不要である場合には支持部材17が非供給姿勢とされる。一方、潤滑剤の供給が必要であり、かつ温度センサにより検知された潤滑剤供給手段10の箇所の温度が、第2の潤滑剤の融点より低い場合には、支持部材17が第1の供給姿勢とされ、融点の低い潤滑剤が含有された第1の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触され、回転ポスト4を介して融点の低い潤滑剤が磁気テープ1に供給される。また、潤滑剤の供給が必要であり、かつ温度センサにより検知された潤滑剤供給手段10の箇所の温度が、第2の潤滑剤の融点以上である場合には、支持部材17が第2の供給姿勢とされ、融点の高い潤滑剤が含有された第2の潤滑剤供給体5Bが回転ポスト4に接触され、回転ポスト4を介して融点の高い潤滑剤が磁気テープ1に供給される。
【0103】
この構成によれば、潤滑剤供給手段10の配設箇所の温度にあった潤滑剤を選択して磁気テープ1に供給することができる。つまり、潤滑剤供給手段10の配設箇所が高温となっているにもかかわらず、低い融点の潤滑剤が供給される場合には、過剰量の潤滑剤が磁気テープ1に供給されて、磁気ヘッド2に磁気テープ1が絡み易くなったり、ドロップアウト(データの欠落)を生じたりするおそれがあるが、このような不具合の発生を防止することができる。また、潤滑剤供給手段10の配設箇所が低温である場合には、低い融点の潤滑剤が供給されるので、溶けていない固体の状態の潤滑剤が回転ポスト4に接触して回転ポスト4を損傷させることを防止することができる。
【0104】
なお、この磁気記録再生装置では、2又形状の支持部材17を揺動させることにより、第1の供給姿勢と、第2の供給姿勢と、非供給姿勢とに切換自在に構成した場合を述べたが、これに代えて、図18に示すように、互いに融点の異なる潤滑剤を含有する円筒形状の第1の潤滑剤供給体5Aと第2の潤滑剤供給体5Bとを軸心方向に並べて配設し、これらの潤滑剤供給体5A、5Bを回転自在に支持する支持部材(支持軸)を上下に移動させることで、第1の供給姿勢(第1の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触する姿勢)と、前記第2の供給姿勢(第2の潤滑剤供給体5Bが回転ポスト4に接触する姿勢)と、前記非供給姿勢(何れの潤滑剤供給体5A、5Bも回転ポスト4に接触しない姿勢)とに切換自在に構成してもよく(第8の実施の形態の変形例)、これによっても同様の作用効果を得ることができる。なお、図18に示す場合には、2つの潤滑剤供給体5A、5Bを軸心方向に並べて配設した場合を述べたが、これに限るものではなく、互いに融点の異なる潤滑剤を含有する3つ以上の潤滑剤供給体を軸心方向に並べて配設して、温度センサで検知した温度に対応させて何れかの潤滑剤供給体に接触する姿勢と、何れの潤滑剤供給体にも接触しない姿勢とに切換るように構成してもよい。
【0105】
(実施の形態9)
図19は本発明の第9の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す図である。この磁気記録再生装置では、回転ポスト4に接触する潤滑剤供給体5が、互いに融点の異なる2種類の細幅の潤滑剤供給体5A、5Bが軸心方向に対して交互となる状態で複数並べられ、潤滑剤供給体5全体で、回転ポスト4と同様な高さに構成されている。したがって、潤滑剤供給体5の配設箇所が低温の場合(例えば、第1の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤の融点よりも高いが、第2の潤滑剤供給体5Bの潤滑剤の融点よりは低い場合)には、第1の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤だけが溶融して回転ポスト4を介して磁気テープ1に供給される。一方、潤滑剤供給体5の配設箇所が高温の場合(何れの潤滑剤供給体5A、5Bの潤滑剤の融点よりも高い場合)には、両方の潤滑剤供給体5A、5Bの潤滑剤が回転ポスト4を介して磁気テープ1に供給される。すなわち、このように、温度に応じて、溶融した潤滑剤の供給面積が変化できるよう構成されており、より具体的には、潤滑剤供給手段10(潤滑剤供給体5)の配設箇所の温度が高い場合ほど、溶融した潤滑剤の供給面積が大きくなるように構成されている。
【0106】
この構成によれば、例えば、潤滑剤供給手段10(潤滑剤供給体5A、5B)の配設箇所の温度が低い場合には、潤滑剤供給体5における一部の領域の潤滑剤しか供給されない一方、潤滑剤供給手段10(潤滑剤供給体5A、5B)の配設箇所の温度が高い場合には、全ての(潤滑剤供給体5A、5B)高い温度の場合に、潤滑剤供給体5における全ての領域の潤滑剤を供給することができる。なお、図19では、互いに融点の異なる2種類の潤滑剤供給体5A、5Bを交互に並べた場合を述べたが、これに限るものではなく、融点が互いに異なる3種類以上の潤滑剤供給体を設けてもよく、この場合には、高温であるほど、溶融した潤滑剤の供給面積が大きくなり、多くの潤滑剤が供給されることとなる。また、この構成によれば、上記第9の実施の形態のような温度センサを必要としない利点も有する。
【0107】
なお、上記第1、第2、第7〜第9の実施の形態では、潤滑剤供給体5が円筒形状である場合を述べたが、これに限るものではなく、これに代えて、潤滑剤供給体として、図3〜図15に示したようなものを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の磁気記録再生装置は、磁気ヘッドが回転ドラムと共に回転するヘリキャルスキャン型だけでなく、磁気ヘッドが固定されているリニア記録型ヘッドのものにも適用することができる。また、本発明にかかる潤滑剤供給手段を有する磁気記録再生装置は、磁気テープとして金属薄膜型の磁気テープを用いることができ、磁気ヘッドとして磁気抵抗効果型のものを用いることができる。すなわち、本発明にかかる潤滑剤供給手段を有する磁気記録再生装置は、従来では不可能であった磁気抵抗効果型などの磁気ヘッドを用いた金属薄膜磁性型の磁気記録媒体に対する優れた電磁変換を可能とするものであり、金属薄膜型の磁気テープの小型化及び高密度記録化を技術的に容易とするのみならず、異なるフォーマットへの応用も可能とするものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープへ潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置に使用される磁気テープとしては、磁性層中に潤滑剤や研磨剤をバインダーとともに混入し、これらを基材に塗布してなるいわゆる塗布型の磁気テープが、既に広く用いられてきた。
【0003】
この塗布型の磁気テープを用いている磁気記録再生装置では、バインダーに混入された潤滑剤により、磁気ヘッド表面と磁気テープとの潤滑機能の維持および磁性膜を保護するよう構成されている。しかし、この種の磁気記録再生装置においては、磁気テープにバインダーが含まれているために、磁気記録再生装置の磁気ヘッドに磁気テープが摺接する際にバインダーの粉末が発生する短所がある。したがって、磁気記録再生装置を長期間使用すると、バインダーの粉末からなる汚れが磁気ヘッドに付着し易くなり、この汚れを除去するために適宜クリーニングする必要がある。例えば、特許文献1、2等には、クリーニング液に潤滑剤を含有させ、磁気ヘッドをクリーニングする際に、潤滑剤も供給する構造が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献1には、クリーニング用カセットの筐体内に、潤滑剤を含有するクリーニング液を貯蔵するタンクを収容し、このタンクが磁気テープに接触して回転することで、潤滑剤を含有するクリーニング液を磁気テープに供給する構造が開示されている。また、特許文献2には、ヘッドクリーナに潤滑剤を含浸した軟質材料を使用して、記録再生時以外のクリーニング時に、前記軟質材料が磁気ヘッドに当接するように切り換えて接触させ、磁気ヘッドの摺動部分へ潤滑剤を供給するように構成したものが提案されている。なお、塗布型の磁気テープは、磁性層中に潤滑剤も含まれており、磁性層が磨り減らない限り潤滑剤も供給されるので、磁気テープに含まれている潤滑剤とは別途にさらに潤滑剤を供給する必要性は比較的少ない。
【0005】
ところで、このような塗布型の磁気テープは、磁性層中に非磁性材料であるバインダーが混入されているため、磁性体の充填密度を高めることに限界があり、記録容量を増大させることが困難である短所がある。
【0006】
このように記録容量の増大が困難である塗布型の磁気テープの短所を改善できて、高密度磁気記録化に対応可能な磁気テープとして、Co−Ni系合金、Co−Cr系合金、Co−O等の金属磁性材料を、メッキや真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空薄膜形成技術によって、ポリエステルフィルムやポリアミド、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に被着した、記録再生面にバインダーを含まない、いわゆる金属薄膜型の磁気テープが提案されている。
【0007】
この種の金属薄膜型の磁気テープは、抗磁力や角形比等の磁気特性に優れ、また、磁性層を極めて薄層に形成できることから、短波長領域での電磁変換特性に優れ、記録減磁や再生時の厚み損失が著しく小さく、更には前記塗布型の磁気テープと異なり、磁性層中に非磁性材料であるバインダーが混入されないので、強磁性金属粒子の充填密度(すなわち、磁気記録密度)を高めて、記録容量を増大させることができる等、種々の利点を有している。したがって、例えば、サーバー装置のデータバックアップ用磁気記録再生装置などの極めて大きな記録容量を必要とする記録媒体などとしても特に適している。
【0008】
ここで、この金属薄膜型の磁気テープは、記録再生面にバインダーを含有せず、磁性層中に潤滑剤や研磨剤を混入することが困難なので、磁性層上に極薄い保護層を備え、かつ保護層上に極薄い潤滑剤を含有させることで、潤滑機能を得ている。なお、金属薄膜型の磁気テープは、記録再生面にバインダーを含有しないので、塗布型の磁気テープを用いる場合のような汚れの発生は少なく、したがってクリーニングの必要性も殆どない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−11455公報
【特許文献2】特開平11−328636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、記録再生面にバインダーを含有していない金属薄膜型の磁気テープは、記録容量の増大に良好に対応できる長所を有する一方で、長期間連続的に使用されるなどして、極めて多くの摺動を繰り返すことで、表面の潤滑剤が枯渇して保護層が減少することがある短所を有している。このように磁気テープの潤滑機能が低減すると、磁性層が損傷するなどの深刻な問題が発生する。一方、過剰量の潤滑剤を供給すると、過剰量の潤滑剤が供給されたテープ面と接触する磁気ヘッドなどがメニスカス現象により磁気テープに絡みやすくなるほか、余剰の潤滑剤が飛散やダストとして磁気記録再生装置内またはテープカートリッジ内の本来潤滑剤を供給する必要のない部分へ付着して一般ダストを吸着し、潤滑剤の塊であるダストや一般ダストを吸着した潤滑剤が磁気ヘッドと磁気テープの記録再生面へ転写されることでドロップアウト(データの欠落)を生じるなどの深刻な問題が発生する。
【0011】
この問題に対処する方法として、特許文献1や特許文献2に開示されているような塗布型の磁気テープに対応する手法、すなわち、クリーニング液に潤滑剤を混ぜて、クリーニング時(記録再生時以外の時)に、潤滑剤を含む液を磁気ヘッドなどに供給する方法を、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープを用いる磁気記録再生装置に転用することが考えられる。しかし、金属薄膜型の磁気テープを用いる場合には、磁気ヘッドにバインダーなどによる汚れは付着せず、クリーニングの必要性がないので、クリーニングを行う際にクリーニング液に含ませた潤滑剤も供給する方法は採用できない。また、クリーニング時ではなくても、記録再生時以外の時に、潤滑剤を含む液を磁気ヘッドなどに供給する方法を用いる場合、サーバー装置のデータバックアップ用磁気記録再生装置など、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置に対しては、記録再生時以外の時間が極めて少ないので、潤滑剤を良好に供給することができない可能性が高く、この点でも不具合を生じる。
【0012】
本発明は、前記問題や不具合を解決するもので、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープを使用し、また、長時間にわたって連続して記録再生させなければならない磁気記録再生装置に対しても、良好に磁気テープに潤滑剤を供給することができる磁気記録再生装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の共通構成は、前記問題や不具合を解決するために、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、潤滑剤供給手段によって記録再生時に磁気テープに潤滑剤を供給できるので、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置で使用される磁気テープに対しても潤滑剤を良好に供給できる。
【0015】
また、本発明は、前記潤滑剤供給手段により、潤滑剤を供給する部分を、磁気テープに対して回転しながら摺接する磁気ヘッドに接触させることで、潤滑剤を、回転自在に支持された磁気ヘッドを介して、磁気テープに供給させるよう構成したことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、磁気ヘッドを潤滑剤供給手段の一部として兼用できるので、潤滑剤を供給する専用の回転ヘッドを別途に設けなくても済む。したがって、回転式(ヘリキャルスキャン型)の磁気ヘッドを有する磁気記録再生装置において、構成を簡素化することが可能となる。
【0017】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、前記磁気ヘッドへの接触面に、接触面潤滑剤膜を形成させていると共に、当該接触面潤滑剤膜に連続して形成される非接触面潤滑剤膜を形成させており、前記非接触面潤滑剤膜は、当該非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤が、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したため、磁気ヘッド表面へ潤滑剤を適量供給することができる。
【0019】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性の薄板状物で構成され、潤滑剤膜が形成された面を前記磁気ヘッドに対向させ、前記潤滑剤膜が形成された面の一部を磁気ヘッドに接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする。この構成によれば、可撓性の薄板状物により磁気ヘッド接触面の形状に柔軟に対応できる。
【0020】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された少なくとも1つの凸部を有する塊状物に構成され、前記凸部を前記磁気ヘッドに対向させて接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする。この構成によれば、薄板状物による場合に比べて磁気ヘッドへ十分な接触圧を与えることができる。
【0021】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤として、1種類または融点の異なる複数種類の潤滑剤が設けられ、少なくとも1つの潤滑剤の融点が28℃以上であることを特徴とする。この構成によれば、潤滑剤が、駆動されない常温では溶融することがない一方で、使用雰囲気の温度に対応して溶融することとなる。
【0022】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤を磁気テープに定期的に供給するよう構成したことを特徴とする。
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、磁気記録再生装置の動作時間に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする。この構成により、磁気記録再生装置の動作時間が長くなってから潤滑剤を磁気テープに供給することなどができる。したがって、磁気記録再生装置の動作時間が短い間は潤滑剤を磁気テープに供給しなくても済んで、潤滑剤を節約することができるとともに、磁気記録再生装置の動作時間が短くて、潤滑剤を含有する保護層が十分存在する可能性の高い磁気テープに対して、過剰に潤滑剤を供給することを防止できる。
【0023】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの走行距離に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする。この構成により、磁気テープの走行距離が大きくなってから潤滑剤を磁気テープに供給することなどができ、磁気テープの走行距離が小さい間は潤滑剤を磁気テープに供給しなくても済んで、潤滑剤を節約することができるとともに、磁気テープの走行距離が短くて、潤滑剤を含有する保護層が十分存在する可能性の高い磁気テープに対して、過剰に潤滑剤を供給することを防止できる。
【0024】
また、本発明の前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの種類または磁気テープの製造年月の少なくとも一方の情報に応じて、潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする。この構成により、磁気テープの種類に適した状態や製造年月からの経過時間に応じて、潤滑剤を供給が必要と考えられるタイミングなどに潤滑剤を供給することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備えたことにより、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置の磁気テープに対しても潤滑剤を良好に供給できる。
【0026】
また、磁気ヘッドを潤滑剤供給手段の一部として兼用して用いることで、別途に、潤滑剤を供給する専用の回転ヘッドを用いる場合と比較して構成を簡素化することが可能となる。
【0027】
また、潤滑剤供給手段を、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性の薄板状物で構成し、潤滑剤膜が形成された面を磁気ヘッドに対向させ、前記潤滑剤膜が形成された面の一部を磁気ヘッドに接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことにより、可撓性の薄板状物により磁気ヘッド接触面の形状に柔軟に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図3】(a)は本発明の第3の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図、(b)は同磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段の構成を簡略的に示す拡大平面断面図
【図4】同磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す斜視図
【図5】同磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す側面図
【図6】同磁気記録再生装置における他の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す側面図
【図7】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図
【図8】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図
【図9】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段をフィルムで形成する第4の実施の形態の形状例の説明図
【図10】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図
【図11】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図
【図12】同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第5の実施の形態の形状例の説明図
【図13】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第6の実施の形態の形状例の説明図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段を複数のブロックで形成する第6の実施の形態の形状例の説明図
【図14】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(c)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(d)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図
【図15】(a)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(b)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図、(c)は同磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段の実施例として使用した形状を示す図
【図16】本発明の第7の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図17】本発明の第8の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図18】本発明の第8の実施の形態の変形例に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【図19】本発明の第9の実施の形態に係る磁気記録再生装置における潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る磁気記録再生装置の要部(後述する潤滑剤供給手段およびその近傍箇所)の構成を簡略的に示す平面図である。
【0030】
図1に示すように、磁気記録再生装置は、バインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープ1に対して記録や再生を行う磁気ヘッド2と、記録時および再生時に磁気テープ1が磁気ヘッド2に摺接するように磁気テープ1を案内する複数(図1においては2つ)のガイドポスト3A、3Bと、テープの走行方向(図1における矢印B方向)に対して上流側のガイドポスト3A側に磁気テープ1が送られるように磁気テープ1を案内する回転ポスト4と、磁気テープ1の記録再生走行経路に接触する位置に配設されて、磁気ヘッド2による磁気テープ1への記録再生時に、磁気テープ1に潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段10とを備えている。
【0031】
なお、この実施の形態においては、潤滑剤供給手段10は、吸液性および弾性を有し、潤滑剤を含浸させたスポンジ状の潤滑剤供給体5と、この潤滑剤供給体5が、記録時および再生時に磁気テープ1が走行する走行経路に突出するように支持する支持体6とから構成されているが、これに限るものではない。また、潤滑剤供給体5として、支持体6に着脱可能なカートリッジ式のものを用いてもよいが、これに限るものではない。また、記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープ1とは、Co−Ni系合金、Co−Cr系合金、Co−O等の金属磁性材料を、メッキや真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空薄膜形成技術によって、ポリエステルフィルムやポリアミド、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に被着した構成のものである。
【0032】
この構成によれば、記録容量の増大に良好に対応できる金属薄膜型の磁気テープ1を用いることができながら、潤滑剤供給手段10によって記録再生時に磁気テープ1に潤滑剤を定常的に供給できるので、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置で使用される磁気テープ1に対しても潤滑剤を良好に供給できる。また、潤滑剤供給体5として、支持体6に着脱可能なカートリッジ式のものを用いることで、潤滑剤がなくなった場合でも、潤滑剤が含浸された潤滑剤供給体5のカートリッジを交換することで、潤滑剤を容易に供給することができる。
【0033】
なお、この実施の形態では、記録再生走行経路における磁気ヘッド2の摺接箇所よりもテープ走行方向に対して上流位置に潤滑剤が供給されるよう潤滑剤供給手段10を配設している場合を図示しており、この場合には、潤滑剤が供給された直後の磁気テープ1が磁気ヘッド2に摺接されることとなり、好適である。しかし、これに限るものではなく、磁気テープ走行方向に対して磁気ヘッド2よりも下流の位置に潤滑剤が供給されるように潤滑剤供給手段を配設するなど、記録再生走行経路の何れの箇所に潤滑剤供給手段を配設してもよい。また、磁気テープ1が記録時や再生時に正逆方向に送られる構成の磁気記録再生装置においては、走行経路の何れの箇所に潤滑剤供給手段を配設してもよい。すなわち、潤滑剤供給手段10の配設位置は、記録再生走行経路に臨んで磁気テープに接触できる箇所であればよく、配設箇所を自由に選択できる利点を有する。
【0034】
(実施の形態2)
前記第1の実施の形態のように、潤滑剤供給手段10として、磁気テープ1の記録再生走行経路に突出して磁気テープ1に直接接触する潤滑剤供給体5を設けた場合には、その接触姿勢によっては、磁気テープ1に対して潤滑剤供給体5が片当たりして、磁気テープ1の幅方向に対して不均一な圧力で潤滑剤を供給してしまう場合がある。この場合には、潤滑剤供給体5が当たっている位置によって、磁気テープ1への供給量が不足したり過剰となったりするので、磁気テープ1に適量の潤滑剤を供給できない不具合や磁気ヘッド2に磁気テープ1が絡み易くなるなどの不具合を生じてしまうおそれがある。また、潤滑剤供給体5の当接状態によっては磁気テープ1を損傷させてしまう不具合を生じるおそれもある。
【0035】
前記不具合を生じないように改良したものが、本発明の第2の実施の形態に係る磁気記録再生装置である。この磁気記録再生装置では、図2に簡略的に示すように、磁気テープ1に潤滑剤供給体5が直接接触するのではなくて、磁気テープ1に対して回転しながら摺接する円筒形の回転ポスト4に潤滑剤供給体5が接触している。すなわち、潤滑剤供給手段10として、前記回転ポスト4を介して、潤滑剤供給体5の潤滑剤が磁気テープ1に供給される構成とされている。
【0036】
この構成によれば、回転ポスト4を磁気テープ1の幅方向に対して均一な圧力で接触させることができ、潤滑剤を、回転ポスト4を介して、磁気テープ1の幅方向に対して均一な接触状態で、定常的にかつ良好に供給することができる。すなわち、潤滑剤を偏った状態で磁気テープ1に供給することを防止できて、潤滑剤を過不足なく磁気テープ1に供給でき、また、磁気テープ1が損傷することも防止できる。
【0037】
なお、この実施の形態でも、潤滑剤供給体5として、図示しない支持体に着脱可能なカートリッジ式のものを用いてもよい。また、図1および図2に示す実施の形態においては、磁気ヘッド2として、回転しない固定ヘッド(いわゆるリニア記録型ヘッドが用いられている場合を述べたが、これに限るものではなく、本発明を、いわゆるヘリカルスキャン型の回転する磁気ヘッド7を備えた磁気記録再生装置に適用することも可能である。
【0038】
(実施の形態3)
図3〜図6は本発明の第3の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を概略的に示す図である。図3〜図6において、10は潤滑剤供給手段であり、磁気記録再生装置の磁気ヘッド2を有する回転ドラム11に対向して配置されている。回転ドラム11は固定ドラム12に回転自在に支持され矢印C方向に回転しており、この両ドラム11,12に磁気テープ1を傾斜する状態に巻き付け、回転ポスト13a及び傾斜ポスト13bによりガイドしながら矢印B方向に走行させている。ここで、両ドラム11,12と磁気テープ1との関係は、磁気ヘッド2がその回転により磁気テープ1の走行方向に対して傾斜して接触するように配置された、ヘリキャルスキャン型のものであり、通常、水平方向に走行する磁気テープ1に対して、両ドラム11,12の回転軸を傾斜させて駆動する構成となっているが、図示では、便宜上、両ドラム11,12の回転軸を垂直方向として示している。
【0039】
潤滑剤供給手段10は、この手段に有する潤滑剤を磁気ヘッド2に転写することにより、磁気ヘッド2を介して磁気テープ1に潤滑剤を供給するように構成したものである。この実施の形態3における潤滑剤供給手段10は、回転軸14に、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性のフィルム(薄板状物)15を配設し、その複数のフィルム15が回転しながら順次磁気ヘッド2に接触できるようになっており、図1(b)に示すように、磁気ヘッド2との接触する面側に潤滑剤膜16を形成している。この潤滑剤膜16は、磁気ヘッド2に接触する接触面潤滑剤膜16aの部分と、この接触面潤滑剤膜16aに連続して形成される非接触面潤滑剤膜16bの部分とを形成しており、この非接触面潤滑剤膜16bは、この非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜16aにおける潤滑剤の磁気ヘッド2への供給による減少に応じて、接触潤滑剤膜16aへ移動供給されるものである。ここで、接触面潤滑剤膜16aの幅Sは、最も狭い場合の幅では先端縁部分のみを接触させる構成としても良く、要は、潤滑剤膜16において非接触面潤滑剤膜16bと連続して形成される接触面潤滑剤膜16aが磁気ヘッド2と接触して潤滑剤が磁気ヘッド2に転写される構成となっていればよい。なお、潤滑剤膜16を構成する潤滑剤等、その詳細については後述する。
【0040】
また、潤滑剤供給手段10は、図4に示すように、回転軸14が揺動可能な可動部としての支持部材17上に立設され、その支持部材17の支軸17aを中心とする矢印D方向への揺動により、フィルム15の先端部が磁気ヘッド2に接触して潤滑剤を供給する供給姿勢となるように配置するか、磁気ヘッド2から離間させて潤滑剤を供給しない非供給姿勢となるように配置するか、その両状態のどちらかを切り換えて選択できるようになっている。フィルム15の先端部が磁気ヘッド2に接触して潤滑剤を供給する状態では、フィルム15の先端部が回転ドラム11の周面と接触してその回転力で矢印E方向に回転される。
【0041】
潤滑剤供給手段10の複数のフィルム15は、短冊状に形成したものを、回転軸14に風車状に配置して構成することができる。そして、磁気ヘッド2に対向する最も近接した位置のフィルム15の先端部が、撓んで磁気ヘッド2と接触するようになっており、接触する面側に前述のように潤滑剤膜16が形成されている。また、このフィルム15は、回転自在として、その複数のフィルム15が磁気ヘッド2に順次接触するが、接触状態から解放されたときに復元するように可撓性を有する構成としている。
【0042】
また、フィルム15は、図5、図6に示すように構成される。図5においては、磁気ヘッド2と対向する部分をほぼ中心として、そのフィルム15の軸方向全幅にわたって、磁気ヘッド2を含む回転ドラム11及び固定ドラム12のそれぞれの周面に接触する構成となっており、その回転ドラム11の回転力で矢印E方向に回転するようになっている。図6においては、フィルム15の先端縁において、磁気ヘッド2の部分に対向する位置に突出部15aを形成し、この突出部15aを接触面潤滑剤膜16aの部分として磁気ヘッド2への接触をこの突出部15aのみで行うようにしたものであり、磁気ヘッド2の部分以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないようにしたものである。ここで、磁気ヘッド2の部分の幅を「H」とした場合、突出部15aの幅「h」は「h≦H」となるように構成される。この図6の例において、突出部15a以外の全面に潤滑剤膜16を形成している場合は、当該磁気ヘッド2に接触しない広い面の潤滑剤膜16部分を非接触面潤滑剤膜16bとすることができる。
【0043】
また、フィルム15の全体の幅については、以上の説明では、磁気ヘッド2部分の幅Hよりも幅広のものとして構成し、図6の突出部15aの幅hを「h≦H」となるように構成したが、フィルム15の全幅「A」を磁気ヘッド2部分の幅Hと同等以下「A≦H」に構成することにより、磁気ヘッド2の部分以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成することができる。
【0044】
以上説明したようにフィルム15は、その表面に潤滑剤膜16を形成することができるものである必要があり、その材質は、例えば、高分子樹脂や金属薄膜などが使用可能である。更に、その高分子樹脂として使用できる材料は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、シリコン樹脂、セルロースなどであり、上記高分子樹脂は磁気記録再生装置の使用雰囲気にてアウトガスなどの汚染物を発生しないことが好ましい。ここで、磁気記録再生装置の使用雰囲気にてアウトガスなどの汚染物を発生しないフィルムとして、金属または半導体の材料が使用でき、膜に形成可能な材料であれば単体でも混合材料でも良い。また、加工によるチッピング、バリなどを除去するために表面や端面を加工等処理しても良く、腐食防止のために耐侵性の高い無機または有機または金属または上記複合材料を鍍金やスパッタや塗布などで表面を被覆しても良い。
【0045】
また、潤滑剤膜16に有する潤滑剤を磁気ヘッド2に転写するためには、適度の接触圧が必要であり、その必要な接触圧を向上する手段として、潤滑剤膜16を形成したフィルム15の潤滑剤膜16表面を面として磁気ヘッド2に接触する以上に、端縁を含む端面を磁気ヘッド2に接触する方がより有効に転写され、その効果が高い。
【0046】
また、フィルム15について、その厚みは特に規定しないが、磁気ヘッド2における磁気テープ1の摺動部分の面全体に接触して潤滑剤を転写できるよう、その可撓性を調整すれば良く、極薄いもので曲がり易いフィルムを用いる場合であっても当該フィルムを積層して調整することにより、磁気ヘッド2へ十分な接触圧を与えることが可能である。
【0047】
この構成によれば、磁気ヘッド2の表面へ潤滑剤を適量供給することができる。また、磁気ヘッド2を潤滑剤供給手段10の一部として兼用して用いる、すなわち、上記第2の実施の形態の回転ポスト4の代わりに磁気ヘッド2を用いることで、別途に、潤滑剤を供給するための専用の回転ポスト4を用いる場合と比較して構成を簡素化することが可能となる。なお、この構成においても、潤滑剤供給手段10によって記録再生時に磁気テープ1に潤滑剤を供給できるので、連続して稼動させなければならない磁気記録再生装置で使用される磁気テープ1に対しても潤滑剤を良好に供給できる。
【0048】
次に、前述した潤滑剤膜16を形成する潤滑剤について説明する。この潤滑剤膜16に使用する潤滑剤は、フィルム15の表面に潤滑剤膜16が形成され、その際に過度の潤滑剤が保持されて、磁気ヘッド2に過剰量の潤滑剤が供給されることがなく、磁気記録再生装置が使用される環境下において塊状にならないものである必要がある。
【0049】
潤滑剤膜16を形成する潤滑剤は、潤滑剤供給手段10を設置する雰囲気において過度の流動性がない潤滑剤を使用できる。具体的には、潤滑剤供給手段10を設置する温度雰囲気は、通常の磁気記録再生装置の使用雰囲気(23℃とする)に、磁気記録再生装置が駆動されることによって発熱して潤滑剤供給手段10を昇温する温度(5℃)を加えた温度(28℃)とした場合、潤滑剤の過剰な流動による磁気ヘッド2以外の磁気テープ1の摺動部への潤滑剤の過剰供給による磁気テープ1の走行不良を防ぐためには、潤滑剤の融点は23℃以上であることが好ましく、より好ましい融点は28℃以上である。
【0050】
ここで、潤滑剤の融点とは、本発明の潤滑剤供給手段10を備えた磁気記録再生装置の使用環境下での潤滑剤の流動性を意味し、融点以上では流動性が高いことを示すのであって、融点以上でも過剰な流動性を示さない潤滑剤または融点以上でも過剰な流動性を示さない潤滑剤を混合して用いる場合、または融点以上での潤滑剤の流動性を後述する添加剤で安定に制御した場合、または融点以上でも潤滑剤が過剰な流動性を示さないように後述する処理を施したフィルムを用いる場合、または図6に示す形状により潤滑剤が磁気ヘッド2を介して磁気テープ1に集中して供給される場合は、磁気ヘッド2以外の磁気テープ1の摺動部へ過剰な潤滑剤の供給による磁気テープ1の走行不良は発生しない。
【0051】
また、潤滑剤供給手段10を設置する湿度雰囲気は、磁気記録再生装置の使用雰囲気及び磁気記録再生装置が駆動されることによって発熱する温度を考慮した湿度雰囲気であって、高湿度であっても水和物などの偏析を形成し難い潤滑剤が使用できる。また、潤滑剤供給手段10を設置する気圧雰囲気は、磁気記録再生装置の使用雰囲気であって、上述気圧雰囲気で容易に気化しない潤滑剤が使用できる。
【0052】
以上の条件に対応できる潤滑剤としては、分子内にパーフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基、およびアルキル基またはアルケニル基を有する含フッ素モノカルボン酸から選ばれた少なくとも1種類の化合物、および極性基が両末端に結合したパーフルオロポリエーテル系化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含む潤滑剤や、ステアリン酸誘導体、脂肪酸アミド誘導体、パルミチン酸誘導体、ミリスチン酸誘導体、オレイン酸誘導体の群から選択される少なくとも1以上の脂肪酸を含有し、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、リチウムの群から選択される少なくとも1以上の金属を含有する脂肪族金属塩を使用または含有しても構わないし、フッ化グラファイト、グラファイト、硫化モリブテンなどを使用しても構わない。
【0053】
また、前述した潤滑剤は、高温環境下においても潤滑機能を維持するために、球体分子の転がり抵抗を潤滑剤に用いることができ、そのような潤滑剤としては、球状のカーボンクラスターからなるフラーレンを被覆してなる固体潤滑膜が使用でき、フラーレンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種の分子と、少なくとも1種のフッ素系潤滑剤、好ましくは上記パーフルオロポリエーテル系化合物とを混合した潤滑剤とし、または、フラーレン誘導体を必要に応じて少なくとも1種のフッ素系潤滑剤と混合して潤滑剤として使用することができる。
【0054】
また、前述した潤滑剤を高温環境下でも低温環境下でも安定した流動性を得るために使用できる添加剤としては、アニオン界面活性剤(ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルフォン酸塩、など)やノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ノニフェノール、など)やカチオン界面活性剤(アミン系、など)や分散剤(ポリカルボン酸系塩、ポリアクリル酸エステル系塩、フタロシアニン、アゾ化合物、など)である。
【0055】
次に、潤滑剤膜16を形成する潤滑剤の厚みについて説明する。本発明におけるフィルム15の表面に薄膜として形成できる潤滑剤の厚みは、細かく裁断したフィルム15が、隣接するフィルム15に引っ付いて、局部的にかつ接触面潤滑剤膜16aの潤滑剤供給部分以外の不本意な部分で湾曲したり、接触面潤滑剤膜16aの部分がからまって前述したフィルム15の形状特徴を損なったりすることのない厚みであればよい。ここで、隣接するフィルム15同士が引っ付く要因は、滑らかな表面同士に働く表面張力や分子間力、フィルム15間に潤滑剤が満たされている場合のこの潤滑剤内に働く表面張力や分子間力などである。その前者の要因「滑らかな表面同士に働く表面張力や分子間力」はフィルム15の表面粗さを粗くすることで低く抑えることができ、後者の要因「潤滑剤内に働く表面張力や分子間力」はフィルム間距離を大きくする調整でも低く抑えることはできる。しかし、本発明の潤滑剤膜16の厚みは、フィルム15の表面粗さ調整やフィルム15間の距離調整を特に必要としないように、用いるフィルム15の表面粗さが0.05μmである場合、その潤滑剤膜16の厚さは0.05μm以下であることが好ましく0.01μm以下であることがさらに好ましい。なお、潤滑剤厚みが0.01〜0.05μmである場合は、隣接したフィルム15がお互いに引っ付くことはなかった。
【0056】
次に、フィルム15に潤滑剤膜16を形成する方法について説明する。潤滑剤膜16を形成する方法は、塗布、蒸着、ディッピング、転写等、特にその方法・手段は特定する必要はなく、上述した雰囲気で満足する潤滑剤が提供できない場合は、いかなる雰囲気でも潤滑剤を供給できることを目的で異なる物性の潤滑剤を積層しても、混合しても良く、部分的に膜形成しても良い。特に、高温環境下でも低温環境化でも高温と低温を繰り返す温度変化が激しい環境下でも安定した潤滑剤の流動性を得るために、フィルム15への上記処理は、表面に潤滑剤との結合力の強い官能基を付与して、高温環境下でも低融点潤滑剤が過度に流動したり凝集による塊を発生させたりしない目的で、UV光照射、プラズマ処理、などが使用でき、UVアンカー処理、ペルヒドロポリシラザンなどによるアンカー処理なども使用できる。
【0057】
(実施の形態4)
前述の実施の形態3において、潤滑剤供給手段10は、回転軸14に、表面に潤滑剤膜16が形成された可撓性のフィルム(薄板状物)7を複数配設し、その複数のフィルム15が回転しながら順次磁気ヘッド2に接触できるように形成したものについて説明した。また、磁気ヘッド2の部分にのみ潤滑剤を供給できる構成とするために、突起部7aを形成したものについて説明した。同様の作用効果を奏することができるフィルム状の薄板状物として、例えば、図7に示すように、種々の形状のものが考えられる。以下、このフィルム状の潤滑剤供給手段10について、図7〜図9に基づいて説明する。
【0058】
まず、図7Aに示すものは前述の実施の形態3における短冊状のフィルム単体を構成したものであり、この場合は、実施の形態3と同様に回転軸14に取り付けるように構成しても、回転軸14を有せず、単に1枚、もしくは複数枚の短冊状のフィルム15を接触させる構造のものでも良く、何れの場合でも簡単に構成できるが、非接触面潤滑剤膜16bを含む潤滑剤膜16の全体面積が限られる。この図7Aに示す例の場合にも、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等が前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。また、前述の突出部15aを接触面潤滑剤膜16aの部分として形成し、磁気ヘッド2への接触をこの突出部15aのみで行うようにしても良い。また、その全幅Aの寸法を磁気ヘッド2の幅Hと同等以下「A≦H」に構成することにより、磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成することができる。
【0059】
次に、図7(b)に示すものは、複数のフィルム15により構成する点で実施の形態3と同じであるが、この例では、その全幅Aを更にスリット7bにより分割して複数の細幅フィルム15cとしたものである。この例の場合、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を得られると共に、磁気ヘッド2の表面に凹凸がある場合に、各々の細幅フィルム15cがその凹凸に対応して撓むことにより、当該磁気ヘッド2の面に、各々の細幅フィルム15cの表面に形成した潤滑剤膜16より潤滑剤を供給することができる利点がある。この例の場合にも、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。また、前述の回転軸14に対して構成される数量や揺動可能な支持部材17上に設ける点等についても同様である。
【0060】
次に、図8(a)および図8(b)に示すものは、フィルム15により構成する点で実施の形態3と同じであるが、この例では、短冊状のフィルムではなく、円筒状のフィルムにより構成している点で異なる。すなわち、図8Aに示す場合は、全幅Aにおいて1つの円筒状フィルム15dとして構成し、その表面に潤滑剤膜16を形成している。図8Bに示す場合では、スリット15eにより細幅円筒状フィルム15fとして、その表面に潤滑剤膜16を形成している。この例では、筒状フィルム15d,15fの周面を磁気ヘッド2及び両ドラム11、12の周面に接触するように構成し、表面に形成した潤滑剤膜16より潤滑剤を供給するものである。この例の場合も、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を得られると共に、図8(b)に示す場合では、磁気ヘッド2の表面に凹凸がある場合に、各々の細幅円筒状フィルム15fがその凹凸に対応して撓むことにより、当該磁気ヘッド2の面に、各々の細幅円筒状フィルム15fの表面に形成した潤滑剤膜16により潤滑剤を供給することができる。また、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。
【0061】
次に、図9(a)に示すものは、フィルム15を、凹凸部を形成した筒状フィルム15gとして構成し、その表面に潤滑剤膜16を形成して、凸部を磁気ヘッド2に接触するように配置している。また、磁気ヘッド2に接触する前期凸部先端部の潤滑剤膜16を接触面潤滑剤膜16aとし、磁気ヘッド2に接触しない部分を非接触面潤滑剤膜16bとすると共に、複数の凸部が順次磁気ヘッド2と接触可能に構成することにより、潤滑剤膜16より潤滑剤を供給するものである。ここで、矢印は、凹部に形成された非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤が、磁気ヘッド2と接触して当該磁気ヘッド2に潤滑剤を供給することにより当該潤滑剤が減少した凸部の先端に向かって、移動する方向を示している。この例では、断面図で示したが、その幅方向は、前述と同様に全幅Aが磁気ヘッド2部分の幅Hより大きい幅であっても、同等以下「A≦H」であってもよく、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を有する。また、潤滑剤膜16については、使用される潤滑剤等前述の実施の形態3と同様に形成されるものである。
【0062】
次に、図9(b)に示すものは、図9(a)に示すものの変形例で、フィルムの異常な変形を保護可能な筒状フィルム15hとして構成としたものであり、この例では、内部に折曲して形成した保護部15jを有する点で図9(a)に示すものと異なる。このフィルムの異常な変形を保護する構成以外は、図9(a)に示すものと同様の作用を提供する構成である。
【0063】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5は、潤滑剤供給手段10を、以上説明したフィルム(薄板状物)に代えて、ブロック(塊状物)として構成したものであり、例えば、図10〜図12に示すように、種々の形状のものが考えられる。
【0064】
この潤滑剤供給手段10をブロック(塊状物)として構成する場合でも、前述したフィルム(薄板状物)の場合と同様に、磁気ヘッドへの接触面に接触面潤滑剤膜を形成すると共に、当該接触面潤滑剤膜に連続して形成される非接触面潤滑剤膜を形成し、非接触面潤滑剤膜は当該非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したものである。そして、そのブロック(塊状物)は、表面に潤滑剤膜が形成された少なくとも1つの凸部を有する塊状物に構成され、当該凸部を磁気ヘッドに対向させて接触するように構成して、当該部分を接触面潤滑剤膜としている。なお、潤滑剤膜を形成する潤滑剤については、前述のフィルム(薄板状物)の場合と同様である。以下、このブロック(塊状物)として構成した潤滑剤供給手段10について、図10〜図12に基づいて説明する。
【0065】
図10(a)において、19は磁気ヘッド2に接触する接触部20aを有するブロックで、このブロック19には、先端の接触部20aから連続して形成される非接触部20bを有しており、この接触部20aから非接触部20bにかけて潤滑剤膜16(潤滑剤膜そのものについては前述の実施の形態と同様であるため同一の符号で示す)を形成し、接触部20aにおける潤滑剤膜16を接触面潤滑剤膜16aとし、非接触部20bにおける潤滑剤膜16を非接触面潤滑剤膜16bとして構成する。このような構成により、接触部20aにおける潤滑剤が磁気ヘッド2に供給され、その部分の潤滑剤の減少に応じて、非接触部20bにおける潤滑剤が溶融することにより、接触部20aに移動することとなる。ここで、ブロック19の全幅を「A」とし、前述したように磁気ヘッド2の部分の幅を「H」とした場合、「A≦H」となるように構成することにより、磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成することができる。
【0066】
次に、図10(b)に示すものは、ブロック19の全幅Aより狭い幅「h」の突出部19aを形成し、その先端19bを磁気ヘッド2と接触するように構成したものであり、この場合は突出部19aの幅hを「h≦H」となるように構成し、磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないように構成している。この場合は、ブロック19の全幅Aは、磁気ヘッド2の部分の幅を「H」より幅広に構成しても、ブロック19が両ドラム11,12に接触することはない。また、磁気ヘッド2と接触する突出部19aの先端19bに形成した潤滑剤膜部分を接触面潤滑剤膜16aとし、それ以外の部分、すなわち突出部19aの他の部分と突出していないブロック19の面とに潤滑剤膜16を連続して形成することにより非接触面潤滑剤膜16bとすることができる。この場合は、図10(a)において「A≦H」となるように構成した場合に比べ、非接触面潤滑剤膜16bの面を大きくとることができる。
【0067】
次に、図11(a)に示すものは、前述のブロック19の形状を変形した変形例のブロック31であり、その断面を示すものである。図11(a)における矢印は、ブロック31の表面に形成された潤滑剤膜16において、磁気ヘッド2と接触する上端部分21aの接触面潤滑剤膜16aに対して、非接触面潤滑剤膜16bから溶融した潤滑剤が供給される方向を示している。図10(a)および図10(b)に示すもののように片面のみからの潤滑剤供給の構造に比べ、その潤滑剤の移動がより円滑に行われる。この例では、断面図で示したが、その幅方向は、前述と同様に全幅Aが磁気ヘッド2の幅Hより大きい幅であっても、同等以下「A≦H」であってもよく、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を有する。
【0068】
次に、図11(b)に示すものは、図11(a)に示すものの更に変形例で、ブロック12の先端の断面形状が鋭角となっており、図11(a)に示すものと同様、そのブロック12の表面に形成された潤滑剤膜16において、磁気ヘッド2と接触する上端部分22aの接触面潤滑剤膜16aに対して、非接触面潤滑剤膜16bから溶融した潤滑剤が供給される方向を示している。その作用については、図11(a)に示すものと同様である。
【0069】
次に、図12に示すものは、前述したフィルムの例で説明した図9(a)、図9(b)に示すものの場合と同様に、周面に凹凸を形成したブロック23により構成したものであり、その表面に潤滑剤膜16を形成し、凸部を磁気ヘッド2に接触するように配置して、当該凸部先端部の潤滑剤膜16を接触面潤滑剤膜16aとし、接触しない部分を非接触面潤滑剤膜16bとすると共に、複数の凸部が順次磁気ヘッド2と接触可能に構成することにより、潤滑剤膜16より潤滑剤を供給するものである。ここで、図12における矢印は、凹部に形成された非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤が、磁気ヘッド2と接触して当該磁気ヘッド2に潤滑剤を供給することにより当該潤滑剤が減少した凸部の先端に向かって、移動する方向を示している。この例も断面図で示したが、その幅方向は、前述と同様に全幅Aが磁気ヘッド2の幅Hより大きい幅であっても、同等以下「A≦H」であってもよく、全幅Aを「A≦H」とすることにより、前述の磁気ヘッド2以外の回転ドラム11及び固定ドラム12の周面に潤滑剤を転写しないという作用を有する。
【0070】
なお、以上、実施の形態5において説明したブロックを用いた潤滑剤供給手段10においては、前述のフィルムによる場合に比べ、磁気ヘッド2へ十分な接触圧を与えることが可能である。このブロックを用いた場合でも、磁気ヘッド2へ接触する面をフィルムの場合と同様に、磁気ヘッド2への接触面に接触面潤滑剤膜16aを形成すると共に、当該接触面潤滑剤膜16aに連続して形成される非接触面潤滑剤膜16bを形成し、非接触面潤滑剤膜16bは当該非接触面潤滑剤膜16bの潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜16aにおける潤滑剤の磁気ヘッド2への供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜16aへ移動供給されるように構成することにより、所望の効果が得られる。また、ブロックの磁気ヘッド2への接触面部分の表面に接触面潤滑剤膜16aを膜形成すると共に、これに連続してブロック表面に非接触面潤滑剤膜16bを形成するので、過度の潤滑剤が保持されることはなく、したがって、過剰量の潤滑剤が供給されることはなく、磁気記録再生装置が置かれる環境下にて潤滑剤が塊状になることもない。
【0071】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6は、潤滑剤供給手段10を、実施の形態5と同様に、ブロック(塊状物)として構成したものであるが、この形態では、複数のブロックにより構成したものである。例えば、図13(a)、図13(b)に示すような形状のものが考えられる。
【0072】
この実施の形態では、複数のブロックにより構成する際に、各々のブロックに形成される潤滑剤膜として潤滑剤の融点が異なるもを形成することにより、磁気ヘッドに対して、使用環境温度に対応して異なる融点の潤滑剤を容易に供給する潤滑剤供給手段を提供することができる。
【0073】
以下、この複数のブロックにより構成した潤滑剤供給手段10について、図13(a)、図13(b)に基づいて説明する。
図13(a)に示すものは、表面に潤滑剤膜を形成したブロック30、31、32により構成したもので、それぞれのブロック30、31、32を組合せて、中央のブロック30の最先端30aを前述の磁気ヘッド2に接触可能とし、この部分に形成した潤滑剤膜を接触面潤滑剤膜とし、その他の部分及びブロック31、32に形成された潤滑剤膜部分を非接触面潤滑剤膜としており、その断面外形形状は組合せ全体として1つの凸部を有する形状となっている。この例の場合は、ブロック30の最先端30aの潤滑剤膜の潤滑剤が磁気ヘッド2を介して磁気テープ1に転写されて減少することにより、当該ブロック30の他の非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤が溶融して供給されると共に、他のブロック31、32に形成された潤滑剤膜(この潤滑剤膜は全てが非接触面潤滑剤膜)の部分の潤滑剤が溶融して供給されることとなる。このため、前述のように、各々のブロックに形成される潤滑剤膜として潤滑剤の融点が異なるものを形成する場合は、磁気ヘッド2への接触部を有するブロック30に形成する潤滑剤膜に有する潤滑剤を最も融点が低い潤滑剤とし、他のブロック31、32に形成された潤滑剤膜に有する潤滑剤の融点が高いものとして構成することにより、潤滑剤の磁気ヘッド2への供給が円滑に行われる。ここで、各ブロック30、31、32の相互の接触部にも潤滑剤膜を形成することにより、非接触面潤滑剤膜の全体面積をより大きくすることができ、その際、その接触部はそれぞれの潤滑剤膜を形成可能な隙間を有するように構成するものである。
【0074】
次に、図13(b)に示すものは、表面に潤滑剤膜を形成したブロック33、34、35により構成したもので、それぞれのブロック33、34、35は断面形状が凸部を有するように形成され、各々のブロック最先端33a,34a,35aを前述の磁気ヘッド2に接触可能とし、この部分に形成した潤滑剤膜を接触面潤滑剤膜とし、その他の部分に形成された潤滑剤膜部分を非接触面潤滑剤膜としている。この例では、それぞれのブロック33、34、35に形成される潤滑剤膜の潤滑剤の融点がそれぞれ異なるものとして構成した場合でも、それぞれが接触しているため、環境温度に対応して、いずれかのブロック33、34、35の潤滑剤膜が溶融してその潤滑剤が、磁気ヘッド2に転写されることとなる。
【0075】
(実施例)
次に、前述した実施の形態3〜6に係る磁気記録再生装置において、潤滑剤供給手段10を有し、潤滑剤の材質等を変えて実施した、個々の実施例1〜7について説明すると共に、潤滑剤供給手段10を有しない従来例に基づく比較例1〜3について説明し、これらの実施例と比較例との特性評価結果の比較によって、本発明の磁気記録再生装置の効果を確認する。ここで、以下の実施例1〜7は、前述した実施の形態3〜6における潤滑剤供給手段10の種々の構成例について行うもので、具体的には、図14(a)〜図14(d)、図15(a)〜図15(c)に示す(P1)〜(P7)の7種類の形態の構成例について、下記の実施例1〜7の確認を行うものであり、回転ドラム11の周面と接触するフィルム15は自由に回転し得る構成とした。
【0076】
(実施例1)
この実施例1で使用した潤滑剤の融点は、室温を(23℃)において磁気記録再生装置の発熱により昇温した磁気記録再生装置の使用温度環境(28℃)よりも高い55℃のフッ素化合物であり、約6μm厚のポリエチレンテレフタル酸のフィルム、またはポリプロピレンを押し出し成型したブロックの表面および端面へ潤滑剤を塗布して約0.01μm厚みを狙って潤滑剤膜を形成した。また、磁気テープはコバルトまたは酸化コバルトを斜方蒸着した磁性層とする、幅0.5インチで総厚約9μmの蒸着型磁気テープを用いた。
【0077】
(実施例2)
この実施例2では、潤滑剤膜に有する潤滑剤の融点が28℃のものを使用し、それ以外は混合潤滑剤を用いた点等、実施例1と同様である。
【0078】
(実施例3)
この実施例3では、潤滑剤膜に有する潤滑剤として、融点55℃のフッ素化合物と室温(23℃)よりも低い融点20℃のフッ素化合物の2種類の潤滑剤を混合して使用し、それ以外は実施例1と同様である。
【0079】
(実施例4)
この実施例4では、潤滑剤膜の厚みを0.05μmとした形成し、それ以外は実施例1と同様である。
【0080】
(実施例5)
この実施例5では、潤滑剤の融点が28℃未満(具体的には、25℃のものを使用)であった以外は実施例1と同様の形態である。
【0081】
(実施例6)
この実施例6では、2種類の潤滑剤の融点がともに28℃未満(具体的には、25℃のものと20℃のものを使用)であった以外は実施例1と同様の形態である。
【0082】
(実施例7)
この実施例7では、潤滑剤の厚みを0.06μmとした以外は実施例1と同様の形態である。
【0083】
(比較例1)
この比較例1では、種々説明した従来例の中で、潤滑剤供給手段を備えない磁気記録再生装置において、潤滑剤は磁気テープに塗布されたもののみとしたものであり、その潤滑剤は実施例1と同じ55℃のフッ素化合物である。
【0084】
(比較例2)
この比較例2では、磁気テープに塗布された潤滑剤は、実施例2で使用した潤滑剤と同じ28℃のフッ素化合物だが、比較例1同様に潤滑剤供給手段を備えない磁気記録再生装置である。
【0085】
(比較例3)
この比較例3では、磁気テープに塗布された潤滑剤は、実施例3で使用した潤滑剤と同じ融点55℃のフッ素化合物と室温(23℃)よりも低い融点20℃のフッ素化合物の2種類の潤滑剤だが、比較例1および比較例2と同様に滑剤供給手段を備えない磁気記録再生装置である。
【0086】
以上の実施例1から実施例7について、前述した図8に示す(P1)〜(P7)の7種類の構成例についてそれぞれと共に、比較例1から比較例3について、磁気記録再生装置にて、スチル試験を実施した結果を表1に示す。試験は1時間を最大とした。スチル試験は磁気記録媒体の走行が止められ回転ヘッドが同一のヘリカルトラックを繰り返しトレースすることで静止画を再生するスチル再生の試験であり、表1におけるそれぞれの枠内に示す時間は、磁気テープまたは磁気記録再生装置の異常により再生画像がブルーバック異常を発生するまでの時間を示す。
【0087】
【表1】
この表1の実施例1から実施例7において、1時間以内にブルーバック異常を発生しなかった例について、さらに4時間追加してスチル試験すると、実施例1,3,4は全て4時間経ってもブルーバック異常を発生しなかった。また、実施例2は3.5時間以上4時間未満でブルーバック異常を発生した。実施例7は2時間以上3.5時間未満でブルーバック異常を発生し、実施例5、6は10min以内にブルーバック異常を発生した。
【0088】
なお、スチル試験を5℃雰囲気で実施した場合に、比較例は何れも一時的な目詰まりを発生した。常温で液体であった潤滑剤膜が冷却により塊状になり、塊状の潤滑剤が磁気ヘッドと磁気テープの記録再生面に侵入したためと考えられる。
【0089】
また、40℃の雰囲気で10日間保管した磁気テープをスチル試験すると、実施例1から実施例6は表2と同等の結果であったが、比較例1から比較例3と実施例7(P2(200枚))は5分以下でブルーバック異常を発生した。磁気テープ表面に形成した潤滑剤が40℃10日間の雰囲気で枯渇減少したため、従来の磁気記録再生装置でスチル試験すると、磁気テープ表面の潤滑剤の枯渇が促進されるが、本発明の磁気記録再生装置でスチル試験した場合は、潤滑剤供給手段における接触面潤滑剤膜の潤滑剤が減少しても、非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤が溶融して供給できることが確認できた。
【0090】
また、実施例5〜7において、潤滑剤供給手段10の形態によっては、1時間以内にブルーバック異常を発生した例もあるが、比較例1〜3に比べ、ブルーバック異常を発生迄の時間は、概ね長時間発生しなかった。更に、潤滑剤の融点が28℃以上の化合物による例(実施例1,2,4)のもの、あるいは28℃以上の化合物との混合剤とした例(実施例3)のものについては、より長時間ブルーバック異常を発生防止できた。
【0091】
なお、このように、潤滑剤として、1種類または融点の異なる複数種類の潤滑剤が設けられ、少なくとも1つの潤滑剤の融点が28℃以上であるよう構成したことにより、潤滑剤が、駆動されない常温では溶融することがない一方で、使用雰囲気の温度に対応して溶融することとなる。したがって、磁気記録再生装置を駆動していないにも関わらず、潤滑剤が溶融して下方に流れ落ち、潤滑剤が偏ることなどを最小限に抑えることができる。
【0092】
(実施の形態7)
図16は本発明の第7の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す図である。この磁気記録再生装置では、上記第1、第2の実施の形態と同様に、バインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープ1に対して記録や再生を行う固定ヘッド式(いわゆるリニア記録型)の磁気ヘッド2と、記録時および再生時に磁気テープ1が磁気ヘッド2に摺接するように磁気テープ1を案内する複数(図116においては2つ)のガイドポスト3A、3Bと、テープ走行方向(矢印B方向)に対して上流側のガイドポスト3A側に磁気テープ1が送られるように磁気テープ1を案内する回転ポスト4と、磁気テープ1に潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段10とを備えている。そして、この磁気記録再生装置でも、上記第2の実施の形態と同様に、潤滑剤供給手段10に設けられており潤滑剤が含浸されている潤滑剤供給体5が、磁気テープ1に直接接触するのではなくて、磁気テープ1に対して回転しながら摺接する円筒形の回転ポスト4に接触し、前記回転ポスト4を介して、潤滑剤供給体5の潤滑剤が磁気テープ1に供給されるよう構成されている。
【0093】
しかしながら、この第7の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段10では、図16に示すように、潤滑剤供給体5が、支軸17aを中心として揺動される可動部としての支持部材17の端部に立設された軸を中心に回転自在に支持されている。そして、図外の駆動源の駆動力によって支持部材17を揺動させることにより、潤滑剤供給体5が回転ポスト4に接触して潤滑剤を磁気テープ1に供給する供給姿勢と、潤滑剤供給体5が回転ポスト4から離間して潤滑剤を磁気テープ1に供給しない非供給姿勢とに切換自在に構成されている。
【0094】
この構成によれば、可動部としての支持部材17を揺動させて潤滑剤供給体5を供給姿勢と非供給姿勢との何れかに切り換えることで、潤滑剤の供給が必要な場合のみ潤滑剤を供給できる。
【0095】
ここで、潤滑剤供給体5を供給姿勢に切り換えて潤滑剤を供給するタイミングとしては、毎週1回など定期的に行ったり、動作時間(前回、潤滑剤を供給した後の動作合計時間)や走行距離(前回、潤滑剤を供給した後の合計走行距離)に応じて行ったりする。動作時間や走行距離に応じて行う場合には、再生動作および記録動作の合計時間や、走行距離の合計(走行テープ長と走行回数との積)に応じて潤滑剤を供給する。
【0096】
また、例えば、磁気記録再生装置がサーバー装置やパーソナルコンピュータの大容量データのバックアップ用として使用される場合には、通常、パーソナルコンピュータを使用しない夜中などの時間帯に1本の磁気テープ1を使用してバックアップされることが多いので、この場合における定期的に潤滑剤を供給する例としては、使用回数(1日1回の場合は使用日数と等しくなる)に応じて、月1回から半年に1回、1晩で磁気テープ1の全体に潤滑剤が供給されるよう、例えば約6時間、1000m以上、潤滑剤を供給すればよい。また、潤滑剤の供給が所定回数(例えば5回)行われた場合には、潤滑剤供給体5に潤滑剤を補充することが好ましく、例えば、半年から3年毎などに潤滑剤を補充することが好ましい。
【0097】
上記のように、潤滑剤供給手段10を、磁気記録再生装置の動作時間に応じて潤滑剤を磁気テープ1に供給するよう構成すると、磁気記録再生装置の動作時間が長くなってから潤滑剤を磁気テープに供給することができる。また、磁気テープ1の走行距離に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことにより、磁気テープ1の走行距離が大きくなってから潤滑剤を磁気テープに供給することなどができる。したがって、磁気記録再生装置の動作時間が短い間や磁気テープ1の走行距離が小さい間は潤滑剤を磁気テープ1に供給しなくても済んで、潤滑剤を節約することができる。また、磁気記録再生装置の動作時間や走行距離が短くて、潤滑剤を含有する保護層が十分存在する可能性の高い磁気テープ1に対して、過剰に潤滑剤を供給することを防止でき、ひいては、潤滑剤の過剰供給による磁気テープ1の磁気ヘッド2への絡みや、ドロップアウト(データの欠落)の発生を防止できる。
【0098】
また、磁気テープ1の種類に応じて、潤滑剤を磁気テープ1に供給するよう構成してもよい。磁気テープ1によっては、磁気テープ1を収容するカセットにメモリが内蔵され、このメモリに、磁気テープ1の製造メーカ名や品番、ロット番号(製造製造年月のデータなどを含む場合が多い)、シリアル番号などがデータとして記憶されているものがある。このような構成のものにおいて、例えば、ロット番号より磁気テープ1の製造年月を識別し、この製造年月から、予め決められた期間が経過した場合には、潤滑剤を、定常的または定期的、或いは、動作時間や走行距離などに応じて、供給するよう(潤滑剤供給体5を供給姿勢にするよう)構成してもよい。また、磁気テープ1の製造メーカ名および品番に対応して製造後の潤滑剤の供給開始期間のデータベースを記憶しておき、読み取った磁気テープ1の製造メーカ名および品番と、ロット番号に基づく磁気テープ1の製造年月とから、予め決められた期間が経過した場合に、潤滑剤を、定常的または定期的、或いは、動作時間や走行距離などに応じて、供給するよう(潤滑剤供給体5を供給姿勢にするよう)構成してもよい。例えば、ロット番号より磁気テープ1の製造年月を識別し、製造年月日が5年を超えていた場合には、第1回目の使用から潤滑剤を供給する。この構成によれば、長期使用して、潤滑剤を含有する保護層が磨耗しているおそれのある磁気テープ1に対して潤滑剤を良好に供給することができる。
【0099】
また、磁気テープ1の張り状態(テンション)が所定値を超えた場合や、記録再生時に一定速度で走行する磁気記録再生装置のテンションのばらつき量が所定値を超えた場合に、潤滑剤を供給する(潤滑剤供給体5を供給姿勢にする)よう構成してもよい。例えば、磁気テープ1を送るモータの負荷を電流値で制御する磁気記録再生装置において、モータの電流値よりテンション値を推測し、テンション値が基準値(例えば1N)よりも5%以上大きい場合に潤滑剤の供給を開始したり、記録再生時に一定速度で走行させるテンションのばらつきが、±1%を超えた場合に潤滑剤の供給を開始したりする。なお、このように、テンションが所定値を超えた場合や、テンションのばらつき量が所定値を超えた場合には、その磁気テープ1の一部の領域だけでこのような状態となった場合でも、磁気テープ1の全体に潤滑剤を供給するよう構成する。この構成によれば、潤滑剤を含有する保護層が磨耗するなどして、テンションが所定値を超えたり、テンションのばらつき量が大きくなったりした磁気テープ1に対して潤滑剤を良好に供給することができる。
【0100】
また、このように、潤滑剤供給体5を供給姿勢に切り換えて潤滑剤を供給するタイミングを、定期的、または動作時間、または走行距離、またはテンションや磁気テープ1の種類に基づいて行う構成を、上記第3〜第6の実施の形態の場合にも同様に適用してもよい。
【0101】
(実施の形態8)
図17は本発明の第8の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す図である。この磁気記録再生装置では、2又形状の支持部材17の端部に、互いに融点の異なる潤滑剤を含有する第1の潤滑剤供給体5Aと第2の潤滑剤供給体5Bとが回転自在に取り付けられている。そして、図外の駆動源の駆動力によって支持部材17を揺動させることにより、第1の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触して第1の潤滑剤を磁気テープ1に供給する第1の供給姿勢と、第2の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触して第2の潤滑剤を磁気テープ1に供給する第2の供給姿勢と、第1および第2の潤滑剤供給体5A、5Bが回転ポスト4から離間して潤滑剤を磁気テープ1に供給しない非供給姿勢とに切換自在に構成されている。また、図示しないが、この潤滑剤供給手段10が設けられている箇所には温度センサが設けられ、この温度センサにより、潤滑剤供給手段10が設けられている雰囲気の温度が検知される。ここで、第1の潤滑剤供給体5Aには、第2の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤よりも融点の低い潤滑剤が含有されており、例えば、第1の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤の融点が25℃、第2の潤滑剤供給体5Bの潤滑剤の融点が35℃のものが用いられている。
【0102】
そして、潤滑剤の供給が不要である場合には支持部材17が非供給姿勢とされる。一方、潤滑剤の供給が必要であり、かつ温度センサにより検知された潤滑剤供給手段10の箇所の温度が、第2の潤滑剤の融点より低い場合には、支持部材17が第1の供給姿勢とされ、融点の低い潤滑剤が含有された第1の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触され、回転ポスト4を介して融点の低い潤滑剤が磁気テープ1に供給される。また、潤滑剤の供給が必要であり、かつ温度センサにより検知された潤滑剤供給手段10の箇所の温度が、第2の潤滑剤の融点以上である場合には、支持部材17が第2の供給姿勢とされ、融点の高い潤滑剤が含有された第2の潤滑剤供給体5Bが回転ポスト4に接触され、回転ポスト4を介して融点の高い潤滑剤が磁気テープ1に供給される。
【0103】
この構成によれば、潤滑剤供給手段10の配設箇所の温度にあった潤滑剤を選択して磁気テープ1に供給することができる。つまり、潤滑剤供給手段10の配設箇所が高温となっているにもかかわらず、低い融点の潤滑剤が供給される場合には、過剰量の潤滑剤が磁気テープ1に供給されて、磁気ヘッド2に磁気テープ1が絡み易くなったり、ドロップアウト(データの欠落)を生じたりするおそれがあるが、このような不具合の発生を防止することができる。また、潤滑剤供給手段10の配設箇所が低温である場合には、低い融点の潤滑剤が供給されるので、溶けていない固体の状態の潤滑剤が回転ポスト4に接触して回転ポスト4を損傷させることを防止することができる。
【0104】
なお、この磁気記録再生装置では、2又形状の支持部材17を揺動させることにより、第1の供給姿勢と、第2の供給姿勢と、非供給姿勢とに切換自在に構成した場合を述べたが、これに代えて、図18に示すように、互いに融点の異なる潤滑剤を含有する円筒形状の第1の潤滑剤供給体5Aと第2の潤滑剤供給体5Bとを軸心方向に並べて配設し、これらの潤滑剤供給体5A、5Bを回転自在に支持する支持部材(支持軸)を上下に移動させることで、第1の供給姿勢(第1の潤滑剤供給体5Aが回転ポスト4に接触する姿勢)と、前記第2の供給姿勢(第2の潤滑剤供給体5Bが回転ポスト4に接触する姿勢)と、前記非供給姿勢(何れの潤滑剤供給体5A、5Bも回転ポスト4に接触しない姿勢)とに切換自在に構成してもよく(第8の実施の形態の変形例)、これによっても同様の作用効果を得ることができる。なお、図18に示す場合には、2つの潤滑剤供給体5A、5Bを軸心方向に並べて配設した場合を述べたが、これに限るものではなく、互いに融点の異なる潤滑剤を含有する3つ以上の潤滑剤供給体を軸心方向に並べて配設して、温度センサで検知した温度に対応させて何れかの潤滑剤供給体に接触する姿勢と、何れの潤滑剤供給体にも接触しない姿勢とに切換るように構成してもよい。
【0105】
(実施の形態9)
図19は本発明の第9の実施の形態に係る磁気記録再生装置の潤滑剤供給手段およびその近傍箇所の構成を簡略的に示す図である。この磁気記録再生装置では、回転ポスト4に接触する潤滑剤供給体5が、互いに融点の異なる2種類の細幅の潤滑剤供給体5A、5Bが軸心方向に対して交互となる状態で複数並べられ、潤滑剤供給体5全体で、回転ポスト4と同様な高さに構成されている。したがって、潤滑剤供給体5の配設箇所が低温の場合(例えば、第1の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤の融点よりも高いが、第2の潤滑剤供給体5Bの潤滑剤の融点よりは低い場合)には、第1の潤滑剤供給体5Aの潤滑剤だけが溶融して回転ポスト4を介して磁気テープ1に供給される。一方、潤滑剤供給体5の配設箇所が高温の場合(何れの潤滑剤供給体5A、5Bの潤滑剤の融点よりも高い場合)には、両方の潤滑剤供給体5A、5Bの潤滑剤が回転ポスト4を介して磁気テープ1に供給される。すなわち、このように、温度に応じて、溶融した潤滑剤の供給面積が変化できるよう構成されており、より具体的には、潤滑剤供給手段10(潤滑剤供給体5)の配設箇所の温度が高い場合ほど、溶融した潤滑剤の供給面積が大きくなるように構成されている。
【0106】
この構成によれば、例えば、潤滑剤供給手段10(潤滑剤供給体5A、5B)の配設箇所の温度が低い場合には、潤滑剤供給体5における一部の領域の潤滑剤しか供給されない一方、潤滑剤供給手段10(潤滑剤供給体5A、5B)の配設箇所の温度が高い場合には、全ての(潤滑剤供給体5A、5B)高い温度の場合に、潤滑剤供給体5における全ての領域の潤滑剤を供給することができる。なお、図19では、互いに融点の異なる2種類の潤滑剤供給体5A、5Bを交互に並べた場合を述べたが、これに限るものではなく、融点が互いに異なる3種類以上の潤滑剤供給体を設けてもよく、この場合には、高温であるほど、溶融した潤滑剤の供給面積が大きくなり、多くの潤滑剤が供給されることとなる。また、この構成によれば、上記第9の実施の形態のような温度センサを必要としない利点も有する。
【0107】
なお、上記第1、第2、第7〜第9の実施の形態では、潤滑剤供給体5が円筒形状である場合を述べたが、これに限るものではなく、これに代えて、潤滑剤供給体として、図3〜図15に示したようなものを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の磁気記録再生装置は、磁気ヘッドが回転ドラムと共に回転するヘリキャルスキャン型だけでなく、磁気ヘッドが固定されているリニア記録型ヘッドのものにも適用することができる。また、本発明にかかる潤滑剤供給手段を有する磁気記録再生装置は、磁気テープとして金属薄膜型の磁気テープを用いることができ、磁気ヘッドとして磁気抵抗効果型のものを用いることができる。すなわち、本発明にかかる潤滑剤供給手段を有する磁気記録再生装置は、従来では不可能であった磁気抵抗効果型などの磁気ヘッドを用いた金属薄膜磁性型の磁気記録媒体に対する優れた電磁変換を可能とするものであり、金属薄膜型の磁気テープの小型化及び高密度記録化を技術的に容易とするのみならず、異なるフォーマットへの応用も可能とするものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段により、潤滑剤を供給する部分を、磁気テープに対して回転しながら摺接する磁気ヘッドに接触させることで、潤滑剤を、回転自在に支持された磁気ヘッドを介して、磁気テープに供給させるよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項2】
前記潤滑剤供給手段は、前記磁気ヘッドへの接触面に、接触面潤滑剤膜を形成させていると共に、当該接触面潤滑剤膜に連続して形成される非接触面潤滑剤膜を形成させており、
前記非接触面潤滑剤膜は、当該非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したことを特徴とする請求項1記載の磁気記録再生装置。
【請求項3】
前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性の薄板状物で構成され、潤滑剤膜が形成された面を前記磁気ヘッドに対向させ、前記潤滑剤膜が形成された面の一部を磁気ヘッドに接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項4】
前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された少なくとも1つの凸部を有する塊状物に構成され、前記凸部を前記磁気ヘッドに対向させて接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項5】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤として、1種類または融点の異なる複数種類の潤滑剤が設けられ、少なくとも1つの潤滑剤の融点が28℃以上であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項6】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤を磁気テープに定期的に供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項7】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、磁気記録再生装置の動作時間に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項8】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの走行距離に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項9】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの種類および磁気テープの製造年月の少なくとも一方の情報に応じて、潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項1】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段により、潤滑剤を供給する部分を、磁気テープに対して回転しながら摺接する磁気ヘッドに接触させることで、潤滑剤を、回転自在に支持された磁気ヘッドを介して、磁気テープに供給させるよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項2】
前記潤滑剤供給手段は、前記磁気ヘッドへの接触面に、接触面潤滑剤膜を形成させていると共に、当該接触面潤滑剤膜に連続して形成される非接触面潤滑剤膜を形成させており、
前記非接触面潤滑剤膜は、当該非接触面潤滑剤膜部分の潤滑剤がその融点以上の温度で溶けることにより、接触面潤滑剤膜部分における潤滑剤の磁気ヘッドへの供給による減少に応じて、当該接触潤滑剤膜部分へ移動供給されるように構成したことを特徴とする請求項1記載の磁気記録再生装置。
【請求項3】
前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された可撓性の薄板状物で構成され、潤滑剤膜が形成された面を前記磁気ヘッドに対向させ、前記潤滑剤膜が形成された面の一部を磁気ヘッドに接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項4】
前記潤滑剤供給手段は、表面に潤滑剤膜が形成された少なくとも1つの凸部を有する塊状物に構成され、前記凸部を前記磁気ヘッドに対向させて接触するように構成して当該部分を接触面潤滑剤膜とし、磁気ヘッドに接触しない潤滑剤膜部分を非接触潤滑剤膜としたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項5】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤として、1種類または融点の異なる複数種類の潤滑剤が設けられ、少なくとも1つの潤滑剤の融点が28℃以上であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項6】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、潤滑剤を磁気テープに定期的に供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項7】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、磁気記録再生装置の動作時間に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項8】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの走行距離に応じて潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項9】
記録再生面にバインダーを含有しない金属薄膜型の磁気テープに潤滑剤を供給するように構成された磁気記録再生装置であって、
磁気ヘッドによる磁気テープへの記録再生時に、磁気テープに対して潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給手段を備え、
前記潤滑剤供給手段は、磁気テープの種類および磁気テープの製造年月の少なくとも一方の情報に応じて、潤滑剤を磁気テープに供給するよう構成したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−153024(P2010−153024A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19903(P2010−19903)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【分割の表示】特願2009−534378(P2009−534378)の分割
【原出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【分割の表示】特願2009−534378(P2009−534378)の分割
【原出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
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