説明

磁気記録媒体、その製造方法、及び磁気記録再生装置

【課題】 磁気記録層が所定のパターンに加工された磁気記録媒体において、良好な記録再生特性を得る。
【解決手段】 磁気記録媒体は、垂直磁気記録層、チタン、及びシリコンから選択される磁性失活元素を含むRu非磁性下地層、及び非磁性基板を含む積層に、磁性失活ガスを用いてガスイオン照射を行なうことにより形成される。ガスイオン照射を行なう前の垂直磁気記録層は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する。ガスイオン照射には、ヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスの混合ガス、あるいは単独の窒素ガスのいずれかを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気記録媒体、その製造方法、及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)に対する、高容量化のニーズは年々高まっている。現在、主流となっている磁気記録媒体は、記録媒体を構成する各層を、基板全面に一様に形成した構成となっているものである。しかしながら、500Gb/inを超える記録容量を達成する場合、隣り合うデータ信号同士が近接しすぎるために、そのデータ信号を記録再生する際に、本来、記録再生すべきでない近接データまで読み込んだり書き込んだりする現象が発生していた。
【0003】
そこで近年、この様な現象を回避し、さらなる記録密度の向上を実現する技術として、パターンド媒体が盛んに研究されてきた。パターンド媒体とは、磁性膜をあらかじめ決められたパターンに加工し、パターンに応じて記録再生ヘッドで情報を記録再生するという特徴を持っている。加工パターンの形態に関しては、サーボ情報と記録トラックのみを加工し、従来と同じ方法で周方向に記録を行うディスクリートトラック媒体(DTM)と、サーボ情報だけでなく周方向にビット単位のパターンも加工する、いわゆるビットパターンド媒体(BPM)とが検討されている。
【0004】
このようなディスクリート媒体(DTM)やビットパターンド媒体(BPM)は、媒体上にサーボ情報をあらかじめ形成するため、従来必要であったサーボ情報を磁気記録するための時間を短縮でき、装置コストを下げることができる。また、トラック間または磁化反転単位間(ビット間)に磁性膜がなく、そこから発生するノイズがないため、信号品質(信号/ノイズ比:SNR)を向上させることができ、高密度の磁気記録媒体および磁気記録装置を作製できる。
【0005】
しかしながら、DTMやBPMにおいては、磁性膜を微細なパターンに加工するため、加工中における磁性膜のダメージが懸念される。例として、Coなどの磁性元素の酸化により磁性膜の磁気特性が劣化し、媒体の記録再生特性が悪化する可能性がある。
【0006】
このため、記録再生特性の維持しつつ、簡便なプロセスを、実現することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−238332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施形態は、磁気記録層が所定のパターンに加工された磁気記録媒体において、良好な記録再生特性を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、非磁性基板上に形成されたルテニウムからなる第1の非磁性層、及び該第1の非磁性層上に形成されたチタン及びシリコンのうち少なくとも1種、及びルテニウムからなる第2の非磁性層を有する非磁性下地層、及び該非磁性下地層上に接触するように設けられ、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する垂直磁気記録層を含み、
該垂直磁気記録層は、面内方向に規則的に配列されたパターンを有する記録部と非記録部とを含み、
該記録部は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナとを含有し、
該非記録部は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナと、さらに該非磁性下地層の構成成分であるチタン及びシリコンのうち少なくとも1種の元素と、窒素とを含有し、50emu/cc以下の磁化Msを有し、
該非磁性下地層は、前記垂直磁気記録層の非記録部と接触する面から厚さ方向に該非磁性下地層の構成成分の少なくとも一部と前記垂直磁気記録層の構成成分の少なくとも一部とが混合された混合領域を有し、
該混合領域は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナと、チタン及びシリコンのうち1つの元素と、ルテニウムと、窒素とを含有することを特徴とする垂直磁気記録媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態にかかる磁気記録媒体の一例を模式的に表す断面図である。
【図2】実施形態にかかる磁気記録再生装置の一例を一部分解した斜視図である。
【図3】実施形態にかかる磁気記録媒体の製造方法の一例を表す図である。
【図4】記録トラック及び記録再生ヘッドの位置決めをするための情報を記録した凹凸パターンの一例を表す正面図である。
【図5】記録トラック及び記録再生ヘッドの位置決めをするための情報を記録した凹凸パターンの他の一例を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態にかかる垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に、非磁性下地層、及び非磁性下地層上に接触するように設けられた垂直磁気記録層を積層する工程、垂直磁気記録層上に、面内方向に規則的に配列されたパターンを有するマスク層を設ける工程、及びマスク層を介して、垂直磁気記録層、非磁性下地層、及び非磁性基板を含む積層にガスイオン照射を行なうことにより形成される。
【0012】
ガスイオン照射を行なう前の垂直磁気記録層は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する。
【0013】
ガスイオン照射を行なう前の非磁性下地層は、クロム、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種、及びルテニウムからなる。
【0014】
ガスイオン照射には、ヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスの混合ガス、あるいは単独の窒素ガスのいずれかを使用することができる。
【0015】
マスク層が設けられていない領域の垂直磁気記録層には、垂直磁気記録層の構成成分の一部と非磁性下地層の構成成分の一部が混合されることにより選択的に非磁性化して、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナ、クロム、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、窒素とを含有する非記録部が形成される。
【0016】
マスクが設けられた領域の垂直磁気記録層には、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つとプラチナを含有する記録部が形成される。
【0017】
また、実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上にクロム、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種、及びルテニウムからなる非磁性下地層を形成する工程、非磁性下地層上に接触するように形成され、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する磁気記録層を形成する工程、垂直磁気記録層上に面内方向に規則的に配列されたパターンを有するマスク層を形成する工程、及びマスク層を介して、磁気記録層、非磁性下地層、及び基板の積層に対し、窒素ガス、またはヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスとの混合ガスを用いてガスイオン照射を行う工程を有する。このガスイオン照射により、マスク層に覆われていない領域の磁気記録層と非磁性下地層を厚さ方向に混合して、非磁性化せしめ、磁気記録層中に、規則的に配列されたパターンを有する記録部と、非磁性化された非記録部とを形成することができる。
【0018】
また、実施形態にかかる磁気記録再生装置は、垂直磁気記録媒体と、垂直磁気記録媒体を支持および回転駆動する機構と、垂直磁気記録媒体に対して情報の記録を行うための素子及び記録された情報の再生を行うための素子を有する磁気ヘッドと、磁気ヘッドを垂直磁気記録媒体に対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリとを具備する。
【0019】
磁気記録再生装置に用いられる垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に、クロム、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種、及びルテニウムからなる非磁性下地層、及び非磁性下地層上に接触するように設けられ、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する垂直磁気記録層を積層し、垂直磁気記録層上に、面内方向に規則的に配列されたパターンを有するマスク層を設け、ヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスの混合ガス、及び窒素ガスのうち一方を用いてガスイオン照射を行なうことにより形成される。ガスイオン照射により、垂直磁気記録層のうち、マスク層に覆われていない領域には、垂直磁気記録層の構成成分の少なくとも一部と該非磁性下地層の構成成分の少なくとも一部とが厚さ方向に混合されることにより非磁性化され、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナ、クロム、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、窒素とを含有する非記録部が形成され、マスク層に覆われた領域には、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つとプラチナを含有する記録部が形成される。
【0020】
実施形態によれば、クロム、チタン、及びシリコンから選択される磁性失活元素を含むRu非磁性下地層に接触して磁気記録層を形成し、マスク層を介して、ヘリウム、水素、あるいはBとNとの混合ガス、あるいはN単独ガスから選択される磁性失活ガスを用いてガスイオン照射を行うだけで、磁気記録層の成分と失活元素を混合して非磁性化し、磁気記録層を所定のパターンに加工することが可能であり、かつ磁気記録層のダメージが少なく、良好な記録再生特性が得られる。
【0021】
以下、図面を参照し、実施形態をより詳細に説明する。
【0022】
図1に、実施形態にかかる磁気記録媒体の一例を模式的に表す断面図を示す。
【0023】
図示するように、この磁気記録媒体10は、非磁性基板1と、非磁性基板1上に設けられた非磁性下地層2と、非磁性下地層2上に直接設けられた垂直磁気記録層5と、垂直磁気記録層5上に設けられた保護層6とを含む。垂直磁気記録層5は、記録部4と、非磁性下地層2の構成成分の少なくとも一部が混合された非記録部3とを含む。非磁性下地層2には、垂直磁気記録層5の構成成分の少なくとも一部が混合された混合領域2’がある。
【0024】
非磁性基板としては、たとえばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板などを用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラスおよび結晶化ガラスが挙げられる。アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスが挙げられる。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスが挙げられる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが挙げられる。非磁性基板としては、上述した金属基板や非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。
【0025】
以下においては、基板上への薄膜の形成方法としてスパッタリングのみを記載しているが、真空蒸着や電解メッキなどでも同様の効果を得ることができる。
【0026】
非磁性基板と非磁性下地層との間に、軟磁性下地層を設けることができる。
【0027】
軟磁性下地層(SUL)は、垂直磁磁気記録層を磁化するための単磁極ヘッドからの記録磁界を水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる作用を有する。軟磁性下地層には、Co,FeまたはNiを含む材料を用いることができる。このような材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を挙げることができる。Co合金には80原子%以上のCoが含まれることが好ましい。このようなCo合金は、スパッタ法により製膜した場合にアモルファス層が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示すとともに、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、たとえばCoZr、CoZrNbおよびCoZrTa系合金などを挙げることができる。他の軟磁性下地層の材料として、CoFe系合金たとえばCoFe、CoFeVなど、FeNi系合金たとえばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金たとえばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金たとえばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金たとえばFeZrNなどを挙げることができる。また、Feを60原子%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。
【0028】
さらに、スパイクノイズ防止のために軟磁性下地層を複数の層に分け、0.5〜1.5nmの非磁性分断層を挿入することで反強磁性結合させることができる。その場合、Ru、Ru合金、Pd、Cu、Ptなどを用いることができる。
【0029】
また、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持つ硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させてもよい。交換結合力を制御するために、非磁性分断層の上下に磁性膜(たとえばCo)または非磁性膜(たとえばPt)を積層してもよい。
【0030】
軟磁性下地層の下に、基板との密着性の向上のために、さらに密着層を設けることができる。こうした密着層の材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、これらを含む合金、またはこれらの酸化物もしくは窒化物を用いることができる。
【0031】
実施形態においては、軟磁性層と磁気記録層との間に、磁気記録層と接触するように、非磁性下地層を形成する。
【0032】
非磁性下地層は、軟磁性下地層と垂直磁気記録層との交換結合相互作用を遮断し、記録層の結晶性を制御するという2つの作用を有する。非磁性下地層の材料としては、Ru合金を用いることができる。Ru合金としては、Ti,Cr,Siから選ばれる少なくとも一つからなる。Ru合金層とRu層との積層構造を用いることもできる。その場合、Ru層は基板側、Ru合金層は垂直磁気記録層と接触する側に作製する必要がある。
【0033】
Ru合金において、Ti、Cr、Siから選ばれる一種を用いる理由は、下地層として必要な良結晶性が実現できることと、垂直磁気記録層とのエピタキシャル性が良いこと、さらに、垂直磁気記録層とミキシングすることで、垂直磁気記録層の磁性を失活できることが挙げられる。Ruに対するTi、Cr、Siの添加量は、10原子%以上、50原子%以下であることが望ましい。10原子%未満であると、垂直磁気記録層とミキシングした際に磁性失活効果が不十分で、垂直磁気記録層の磁性を十分失活させることができない。また、50原子%より多いと、非磁性下地層としての結晶配向性が不十分となり、直上の垂直磁気記録層の配向性も悪化する傾向がある。非磁性下地層の膜厚は5nm以上24nm以下であることが望ましく、16nm以下であることがさらに望ましい。下地層の膜厚が薄いと、磁気ヘッドと軟磁性裏打ち層との距離が小さくなり、磁気ヘッドからの磁束を急峻にすることができ、信号の書き込み容易性を改善することができる。下地層の膜厚が5nm未満であると、結晶配向性が悪化する傾向がある。一方、24nm以上であると、スペーシングロスが発生し、記録再生特性が悪化する傾向がある。
【0034】
非磁性下地層と軟磁性層の間に、さらに配向制御層を用いることができる。
【0035】
配向制御層は、直上の非磁性下地層や磁気記録層の結晶配向性や結晶粒径を制御するためのものである。配向制御層は、Ni合金、Pt合金、Pd合金、Ta合金、Cr合金、Si合金、Cu合金のいずれかを用いることができる。これらを用いると、結晶配向性の改善、結晶粒径の低減が可能となる傾向がある。また、下地層との結晶格子サイズの整合性を高めることを目的として、所定の元素を添加することができる。結晶サイズの低減を目的として添加する元素としては、特に、B、Mn、Al、Si酸化物、Ti酸化物などを挙げることができる。下地層との結晶格子サイズの整合性を高めることを目的として添加する元素としては、Ru,Pt,W,Mo,Ta,Nb,Tiなどを用いることができる。配向制御層の膜厚は、1nm以上10nm以下とすることができる。配向制御層の膜厚が1nm未満であると、配向制御層としての効果が不十分となり、粒径の微細化の効果を得ることができず、また結晶配向性も悪化する傾向がある。また、配向制御層の膜厚が10nmを超えると、スペーシングもロスし、結晶粒径も大きくなる傾向がある。また、配向制御層は、一層ではなく複数の層から形成され得る。その場合、配向制御層全体の膜厚は、2nm以上15nmにすることができる。2nm以下では、配向制御層としての効果が不十分となる傾向がある。下地層全体の膜厚が15nmを超えると、スペーシングロスが無視できなくなり、記録再生特性が悪化する傾向がある。
【0036】
実施形態に使用される垂直磁気記録層としては、CoまたはFeを主成分とし、かつPtを含むことが好ましい。垂直磁気記録層は、必要に応じて、Cr、Ru、Mn、B、Ta、Cu、Pdから選ばれる1種類以上の元素や酸化物を含んでいてもよい。酸化物としては、酸化シリコン、酸化チタン、酸化クロムが好適である。垂直磁気記録層としては、CoPt系合金、FePt系合金、CoCrPt系合金、FePtCr系合金、CoPtO、FePtO、CoPtCrO、FePtCrO、CoPtSi、FePtSi、ならびにPt、Pd、およびCuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造などを使用することもできる。
【0037】
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは3ないし30nm、より好ましくは5ないし15nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置を作製することができる。垂直磁気記録層の厚さが3nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。垂直磁気記録層の厚さが30nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【0038】
垂直磁気記録層のPt含有量は、10原子%以上25原子%以下であることが好ましい。Pt含有量として上記範囲が好ましいのは、垂直磁気記録層に必要な一軸結晶磁気異方性定数(Ku)が得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるためである。Pt含有量が上記範囲を超えた場合も、上記範囲未満である場合も、どちらも高密度記録に適した熱揺らぎ特性に十分なKuが得難い傾向がある。垂直磁気記録層のCr含有量は、0原子%以上20原子%以下にすることができる。さらには、5原子%以上15原子%以下にすることができる。Cr含有量は、上記範囲であると、磁性粒子のKuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られる。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くする傾向がある。
【0039】
実施形態に使用される保護膜は、垂直磁気記録層の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐ目的で設けられる。保護膜の材料としては、たとえばC、SiO、ZrOを含むものが挙げられる。保護膜の厚さは1ないし10nmとすることができる。これにより、ヘッドと媒体の距離を小さくできるので、高密度記録が可能となる。カーボンは、sp結合炭素(グラファイト)とsp結合炭素(ダイヤモンド)に分類できる。耐久性、耐食性はsp結合炭素のほうが優れるが、結晶質であることから表面平滑性はグラファイトに劣る傾向がある。通常、カーボンの成膜はグラファイトターゲットを用いたスパッタリング法で形成される。この方法では、sp結合炭素とsp結合炭素が混在したアモルファスカーボンが形成される。sp結合炭素の割合が大きいものはダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれ、耐久性、耐食性に優れ、アモルファスであることから表面平滑性にも優れるため、磁気記録媒体の表面保護膜として利用されている。CVD(chemical vapor deposition)法によるDLCの成膜は、原料ガスをプラズマ中で励起、分解し、化学反応によってDLCを生成させるため、条件を合わせることで、よりsp結合炭素に富んだDLCを形成することができる。
【0040】
図2に、実施形態にかかる磁気記録再生装置の一例を一部分解した斜視図を示す。
【0041】
図2に示されるように、実施形態にかかる垂直磁気記録装置30は、上面の開口した矩形箱状の筐体31と、複数のねじにより筐体31にねじ止めされる筐体の上端開口を閉塞する図示しないトップカバーを有している。
【0042】
筐体31内には、実施形態にかかる垂直磁気記録媒体32、この垂直磁気記録媒体32を支持及び回転させる駆動手段としてのスピンドルモータ33、磁気記録媒体32に対して磁気信号の記録及び再生を行う磁気ヘッド34、磁気ヘッド34を先端に搭載したサスペンションを有し且つ磁気ヘッド34を垂直磁気記録媒体32に対して移動自在に支持するヘッドアクチュエータ35、ヘッドアクチュエータ35を回転自在に支持する回転軸36、回転軸36を介してヘッドアクチュエータ35を回転、位置決めするボイスコイルモータ37、及びヘッドアンプ回路38等が収納されている。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
【0044】
実施例1〜6,比較例1〜13
各実施例に使用した非磁性下地層、磁気記録層、及び注入ガスは以下の通りである。
【0045】
実施例1:非磁性下地層(Ru/RuTi)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
実施例2:非磁性下地層(Ru/RuCr)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
実施例3:非磁性下地層(Ru/RuSi)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
実施例4:非磁性下地層(Ru/RuTi)+磁気記録層(CoPtCr)+N−Heガス
実施例5:非磁性下地層(Ru/RuTi)+磁気記録層(CoPtCr)+N−Hガス
実施例6:非磁性下地層(Ru/RuTi)+磁気記録層(CoPtCr)+N−Bガス
比較例1:非磁性下地層(Ru/Ru)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
比較例2:非磁性下地層(Ru/RuTi)+磁気記録層(CoPtCr)+Arガス
比較例3:非磁性下地層(Ru/RuCr)+磁気記録層(CoPtCr)+Arガス
比較例4:非磁性下地層(Ru/RuSi)+磁気記録層(CoPtCr)+Arガス
比較例5:非磁性下地層(Ru/Ru)+磁気記録層(CoPtCr-TiO2)+Nガス
比較例6:非磁性下地層(Ru/Ru)+磁気記録層(CoPtCr-Cr2O3)+Nガス
比較例7:非磁性下地層(Ru/Ru)+磁気記録層(CoPtCr-SiO2)+Nガス
比較例8:非磁性下地層(Ru/Ru-TiO2)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
比較例9:非磁性下地層(Ru/Ru-Cr2O3)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
比較例10:非磁性下地層(Ru/Ru-SiO2)+磁気記録層(CoPtCr)+Nガス
比較例11:非磁性下地層(Ru/Ru-TiO2)+磁気記録層(CoPtCr-TiO2)+Nガス
比較例12:非磁性下地層(Ru/Ru-Cr2O3)+磁気記録層(CoPtCr-Cr2O3)+Nガス
比較例13:非磁性下地層(Ru/Ru-SiO2)+磁気記録層(CoPtCr-SiO2)+Nガス
実施例1にかかるBPMの製造工程を図3(a)ないし図3(f)を参照して説明する。
【0046】
図3(a)ないし図3(f)は、実施形態にかかる磁気記録媒体の製造方法の一例を表す図を示す。
【0047】
ガラス基板21(コニカミノルタ社製アモルファス基板MEL6、直径2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3010)の製膜チャンバー内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで製膜チャンバー内を排気した。この基板21上に、図示しない密着層として、CrTiを10nm形成した。次いで、図示しない軟磁性層としてCoFeTaZrを40nm製膜して軟磁性層を形成した。図示しない配向制御層として、NiWを10nm形成した。次いで、非磁性下地層22として、Ruを10nmし、さらにRu−30at%Tiを6nm形成した。その後、垂直磁気記録層23として、Co−20at%Pt−10at%Crを10nm形成した。次いで、CVD法により、15nmのダイアモンドライクカーボン(DLC)保護層24を形成した。
【0048】
DLC(C)24上に、厚さ50nmになるようにレジスト25をスピンコートし、図3(a)に示すような積層体を得た。
【0049】
次いで、所定の凹凸パターンが形成された図示しないスタンパを用意した。スタンパは、EB描画、Ni電鋳、射出成形を経て製造した。スタンパを、その凹凸面がレジストに対向するように配置した。レジストに対してスタンパをインプリントして、スタンパの凹凸パターンをレジストに転写した。
【0050】
図4に、上記凹凸パターンとして、記録トラック及び記録再生ヘッドの位置決めをするための情報を記録したディスクリートトラック媒体(DTR)用凹凸パターンの一例を表す正面図、図5に、記録ビット、及び記録再生ヘッドの位置決めをするための情報を記録したビットパターンド媒体(BPM)用凹凸パターンの一例を表す正面図を各々、示す。
【0051】
上記EB描画の描画パターンとして、例えば、図4に示すように、データ領域に設けられたトラックパターン11と、サーボ領域に設けられたプリアンブルアドレスパターン12、及びバーストパターン13を含むサーボ領域パターン14に対応するパターン、あるいは、図5に示すように、データ領域に設けられたビットパターン11’と、サーボ領域に設けられた例えばプリアンブルアドレスパターン12、及びバーストパターン13を含むサーボ領域パターン14に対応するパターン等が挙げられる。
【0052】
なお、実施例では、BPMを作製した。
【0053】
その後、図3(b)に示すように、スタンパを取り外した。
【0054】
レジスト25に転写された凹凸パターンの凹部の底にはレジスト残渣が残っているため、誘導結合プラズマ−リアクティブイオンエッチング装置(ICP−RIE)により、プロセスガスとしてCF4を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテン(バイアス)RFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を60秒としてドライエッチングを行うことにより、図3(c)に示すように、凹部のレジスト残渣を除去し、凹部でDLC層24の表面を露出させた。次いで、パターン化されたレジスト25をマスクとして、ICP−RIE装置により、プロセスガスとしてO2を使用し、チャンバー圧を0.1Paとし、コイルRFパワーおよびプラテンRFパワーをそれぞれ100Wおよび50Wとし、エッチング時間を5秒として、DLC層24をエッチングしてパターンを転写し、図3(d)に示すように、凹部で磁気記録層23の表面を露出させた。
【0055】
続いて、以下のように、非記録部の非磁性化を行った。
【0056】
注入ガスとして、Nガスを使用し、ECRイオンガンによって、ガス圧0.1Pa、マイクロ波パワー1000W、加圧電圧10keV、処理時間100秒にて、図3(e)に示すように、磁気記録層への窒素イオンの打ち込みを行った。次いで、図3(f)に示すように、CVD法によりDLCを堆積させて、保護層24を4nmに形成し、ディッピング法により図示しない潤滑剤を塗布し、実施形態に係るパターンド型の垂直磁気記録媒体を得た。
【0057】
同様にして、非磁性下地層、磁気記録層、及び注入ガスとして、下記表1−1及び表1-2に記載の組み合わせを用いて、実施例2〜6および比較例1〜13の垂直磁気記録媒体を得た。
【0058】
実施例1〜6および比較例1〜13について、静磁気特性、断面方向の元素組成分布および記録再生特性を測定した。
【0059】
静磁気特性として、非記録部に相当する磁化を調べるために、マスクを用いずに磁気記録層全面に打ち込み処理を行った媒体(全面が非記録部に相当する媒体)を別途作製して磁化を測定した。静磁気特性の評価には、理研電子社製振動試料型磁力計(VSM)装置を用いた。
【0060】
まず、比較例1のように非磁性下地層としてRuのみを用いた場合、Ru下地層に対してNイオンを注入しても、非記録部の磁化は十分非磁性化できていない。原因としては、Nイオン注入だけではその注入イオンの分布が球状(または水滴状)であるために、四隅に失活不良領域ができてしまうためである。また、ルテニウムがほとんど拡散しないため、十分に非磁性化させることができない。
【0061】
また、比較例2〜4のように、RuTi、RuCr、RuSi下地層を用いても、Arで注入すると、非記録部の磁化は十分非磁性化できていない。原因としてArでミキシングは起こせるものの、その範囲が球状(または水滴状)であるため、四隅に失活不良領域ができてしまうためである。
【0062】
また、比較例5〜13のように、記録層か非磁性下地層のどちらかあるいは両方にTi酸化物、Cr酸化物、Si酸化物を用いた場合も失活は不十分である。理由は、Ti酸化物やCr酸化物、Si酸化物の体積が大きいために拡散が不十分で、やはりミキシングが起こっている領域が球状(または水滴状)のみで、四隅に失活不良領域ができてしまうためである。
【0063】
一方、本願の実施例1〜3のように、失活ガスとしてNガスを用い、非磁性下地層のRuTi、RuCr、RuSiに対して、非磁性下地層と記録層がミキシングするように窒素を注入したところ、磁化が十分に非磁性化できていることが分かった。
【0064】
原因としては、球状(水滴状)のミキシングが起こった後に、窒素が格子間を通って拡散する。その窒素を求めてTiが拡散し、球状(水滴状)の四隅に対しても失活が進んだためであると考えられる。同様に、実施例4〜6のように、非磁性下地層としてRuTiを用い、失活ガスとしてN−He、N−H、N−Bを用いた場合でも、磁化が十分に非磁性化できていることが分かった。
【0065】
次に、これらの媒体の元素組成分布を、基板断面方向の透過型電子顕微鏡(TEM)とエネルギー分散型X線分光(TEM−EDX)、および元素化学状態を、X線光電子分光(XPS)を用いて測定した。
【0066】
実施例1〜6の媒体において、垂直磁気記録層の非記録部領域では、コバルトとクロム、プラチナのほかに、5原子%程度のチタンと窒素が観測された。また、非記録部領域は非晶質である。しかし、記録部領域ではチタンも窒素は観測されなかった。また、非磁性下地層において、非記録部と接触する領域では、ルテニウムとチタンの他に、コバルトとクロム、プラチナ、窒素が観測された一方、記録部と接触する領域では、ルテニウムとチタン以外は検出されなかった。
【0067】
一方、比較例1〜13の媒体では、非磁性下地層と記録層の間で多少の拡散はあるものの、球状(水滴状)のイオンの分布の四隅に当たる部分のコバルトやクロム、プラチナの濃度が高く、失活元素の拡散が不十分であることが分かった。またXPSの分析から、垂直磁気記録層の非記録部領域のTiは、一部が窒化していることが分かった。
【0068】
最後に、これらの媒体の記録再生特性の評価は、米国GUZIK社製リードライトアナライザRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて、電磁変換特性を測定した。記録再生特性の評価には、書き込みにシールド付(シールドは、磁気ヘッドから出る磁束を収束させる働きを持つ)のシングルポール磁極であるシールディットポール磁極、再生部にTMR素子を用いたヘッドを用いて、記録周波数の条件を線記録密度1400kBPIとして、そのシグナルノイズ比(SNR)を測定した。
【0069】
表1−1及び表1-2に示すように、実施例1〜6の媒体は比較例1〜13の媒体と比較して良好なSNRを示している。
【0070】
比較例の媒体で特性が良くない原因としては、注入イオンの分布は球状(水滴状)になっており、最表層部や最下層部における拡散が十分ではなく、磁性が残ってしまうためであると考えられる。
【0071】
一方、本願の媒体では、実施例に見られるようにイオン注入のミキシングによる磁性失活に加え、非磁性下地層に含まれる失活元素が、格子間を通って広がる少量の窒素を求めて拡散することで、最表層部から最下層部まで、十分に磁性失活ができているものと思われる。事実、実施例1〜6の媒体は、非記録部の磁化(Ms)が0になっており、記録ビット間の磁気的な干渉がなくなっている。一方、比較例1〜13の媒体は非記録部のMsが残っており、記録ビット間に磁気的な干渉が起こり、ノイズが増加していると考えられる。
【0072】
実施形態によれば、非磁性下地層にあらかじめ失活元素を添加しておくことで、イオン注入時に、非磁性下地層と磁気記録層をミキシングすることにより、磁気記録層の磁性を失活させることができる。
【0073】
注入イオンとしては窒素を用いることができる。さらに、窒素に加え、窒素より原子半径の小さい水素、ヘリウム、ホウ素を混ぜることもできる。これにより、注入イオンがより深くまで浸透しやすく、磁気記録層と非磁性下地層を効率良くミキシングさせることができる。非磁性下地層に含まれる失活元素としては、窒化物を形成しやすい元素としてCr,Ti,及びSiからなる群から少なくとも1種の元素を選択することができる。失活元素としてはTiが最も好適である。これにより、イオン注入の球状(水滴状)の失活に加えて、窒素を求めて非磁性下地層の失活元素が拡散し、記録層全体を効率よく失活させることができる。また、非記録部に接触する非磁性下地層を十分に非晶質化させることができるため、より確実に非記録部の磁性を失活させることができる。
【0074】
なお、実施例1〜6においては、磁気記録層として、CoCrPt膜を使用したが、Coの代わりにFeを用いたFePtCr膜を用いても同様の改善効果が見られた。
【表1】

【表2】

【0075】
実施例7〜11および比較例14
各実施例、比較例に用いた非記録部の失活元素濃度は、以下の通りである。
【0076】
実施例7:非記録部(Ti 5at%含有)
実施例8:非記録部(Ti 10at%含有)
実施例9:非記録部(Ti 15at%含有)
実施例10:非記録部(Ti 20at%含有)
実施例11:非記録部(Ti 25at%含有)
比較例14:非記録部(Ti 0at%含有)
非磁性下地層として、Ruを10nmとRu−50at%Tiを6nm形成し、かつ下記表2のようにイオンの打ち込みの処理時間を変えて、磁気記録層内の非記録部のチタン含有量を0原子%から25原子%まで変化させた以外は実施例1と同様にして、実施例7〜11と比較例14の垂直磁気記録媒体を得た。
【0077】
これらの媒体に対して、基板断面方向のTEMおよびTEM−EDX測定を行い、磁気記録層のチタンおよび窒素含有量を測定した。実施例7〜11および比較例14の媒体において、記録部ではチタンおよび窒素とも観測されなかった。一方、非記録部領域では、実施例7〜11の媒体ではチタン及び窒素は観測され、表2の通りになっていることが分かった。
【0078】
これらの媒体に対して、実施例1と同様に、記録再生特性、静磁気特性を測定した。表2から分かるように、実施例7〜11の媒体は良好なSNRを示すことが分かった。特に、非記録部のチタン量が5原子%以上になると、Msがほぼ0になり、良好なSNRを示していることが分かる。
【表3】

【0079】
表中のMsについては、非記録部に相当する磁化を調べるために、マスクを用いずに磁気記録層全面に打ち込み処理を行った媒体(全面が非記録部に相当する媒体)を作製して、磁化を測定した。
【0080】
実施例12〜16および比較例15
各実施例、比較例に用いた非記録部の失活元素濃度は、以下の通りである。
【0081】
実施例12:非記録部(Cr 15at%含有)
実施例13:非記録部(Cr 20at%含有)
実施例14:非記録部(Cr 25at%含有)
実施例15:非記録部(Cr 30at%含有)
実施例16:非記録部(Cr 35at%含有)
比較例15:非記録部(Cr 10at%含有)
非磁性下地層として、Ruを10nmとRu−50at%Crを6nm形成し、かつ表3のようにイオンの打ち込みの処理時間を変えて、Co−20at%Pt−10at%Cr磁気記録層内の非記録部のクロム含有量を10原子%から35原子%まで変化させた以外は実施例1と同様にして、実施例12〜16と比較例15の垂直磁気記録媒体を得た。
【0082】
これらの媒体に対して、基板断面方向のTEMおよびTEM−EDX測定を行い、磁気記録層のクロムおよび窒素含有量を測定した。実施例12〜16および比較例15の媒体において、記録部では10原子%のクロムが観測され、窒素は観測されなかった。一方、非記録部領域では、実施例12〜16の媒体ではクロム及び窒素は観測され、下記表3の通りになっていることが分かった。
【0083】
これらの媒体に対して、実施例1と同様に、記録再生特性、静磁気特性を測定した。表3から分かるように、実施例12〜16の媒体は良好なSNRを示すことが分かった。特に、記録部と非記録部のクロム含有量の差が5原子%以上になると、Msがほぼ0になり、良好なSNRを示していることが分かる。
【表4】

【0084】
表中のMsについては、非記録部に相当する磁化を調べるために、マスクを用いずに磁気記録層全面に打ち込み処理を行った媒体(全面が非記録部に相当する媒体)を作製して、磁化を測定した。
【0085】
実施例17〜20
各実施例、比較例に用いた非記録部の失活元素濃度は、以下の通りである。
【0086】
実施例17:非記録部(N 5at%含有)
実施例18:非記録部(N 10at%含有)
実施例19:非記録部(N 20at%含有)
実施例20:非記録部(N 30at%含有)
下記表4のようにイオンの打ち込みガス圧を変えて、磁気記録層内の非記録部の窒素含有量を5原子%から30原子%まで変化させた以外は実施例1と同様にして、実施例17〜20の垂直磁気記録媒体を得た。
【0087】
これらの媒体に対して、基板断面方向のTEMおよびTEM−EDX測定を行い、磁気記録層の窒素含有量を測定した。実施例17〜20の媒体において、記録部では窒素は観測されなかった。一方、非記録部領域では、実施例17〜20の媒体では窒素は観測され、表4の通りになっていることが分かった。
【0088】
これらの媒体に対して、実施例1と同様に、記録再生特性、静磁気特性を測定した。表4から分かるように、実施例17〜20の媒体は良好なSNRを示すことが分かった。特に、非記録部の窒素含有量が10原子%以上になると、Msがほぼ0になり、良好なSNRを示していることが分かる。
【0089】
尚、非記録部の窒素含有量が50原子%を超えると、非磁性層が膨張する傾向がある。
【表5】

【0090】
表中のMsについては、非記録部に相当する磁化を調べるために、マスクを用いずに磁
気記録層全面に打ち込み処理を行った媒体(全面が非記録部に相当する媒体)を作製して
、磁化を測定した。
【0091】
実施例21〜24および比較例16]
各実施例、比較例に用いた非記録部の失活元素濃度は、以下の通りである。
【0092】
実施例21:非記録部直下の非磁性下地層(Si 45at%含有)
実施例22:非記録部直下の非磁性下地層(Si 40at%含有)
実施例23:非記録部直下の非磁性下地層(Si 30at%含有)
実施例24:非記録部直下の非磁性下地層(Si 25at%含有)
比較例16:非記録部直下の非磁性下地層(Si 50at%含有)
非磁性下地層として、Ruを10nmとRu−50at%Siを6nm形成し、かつ表
5のようにイオンの打ち込みの処理時間を変えて、非記録部直下の非磁性下地層内のシリ
コン含有量を50原子%から25原子%まで変化させた以外は実施例1と同様にして、実
施例21〜24と比較例16の垂直磁気記録媒体を得た。
【0093】
これらの媒体に対して、基板断面方向のTEMおよびTEM−EDX測定を行い、非記
録部直下および記録部直下の非磁性下地層のシリコン含有量を測定した。実施例21〜2
4および比較例16の媒体において、記録部ではシリコン含有量に変化は見られなかった
。一方、非記録部領域では、実施例21〜24の媒体ではシリコン含有量に変化は観測さ
れ、下記表5の通りになっていることが分かった。
【0094】
これらの媒体に対して、実施例1と同様に、記録再生特性、静磁気特性を測定した。表
5から分かるように、実施例21〜24の媒体は良好なSNRを示すことが分かった。特
に、非記録部直下と記録部直下の非磁性下地層のシリコン量に5原子%以上の差があると
、非記録部のMsがほぼ0になり、良好なSNRを示していることが分かる。
【表6】

【0095】
表中のMsについては、非記録部に相当する磁化を調べるために、マスクを用いずに磁気記録層全面に打ち込み処理を行った媒体(全面が非記録部に相当する媒体)を作製して、磁化を測定した。
【0096】
これらの実施形態又は実施例によれば、非磁性下地層にあらかじめ失活元素を添加しておくことで、イオン注入時に、非磁性下地層と磁気記録層をミキシングせしめ、磁気記録層の磁性を失活させることが可能となる。また、これにより、垂直磁気記録層を所定のパターンに加工する際に垂直磁気記録層のダメージが少なく、良好な記録再生特性が得られる。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0098】
以下に、本願出願の分割直前の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0099】
[1]
非磁性基板上に、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種、及びルテニウムからなる非磁性下地層、及び該非磁性下地層上に接触するように設けられ、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する垂直磁気記録層を積層し、
該垂直磁気記録層上に、面内方向に規則的に配列されたパターンを有するマスク層を設け、
ヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスの混合ガス、及び窒素ガスのうち一方を用いてガスイオン照射を行なうことにより、前記垂直磁気記録層のうち、該マスク層に覆われていない領域には、該垂直磁気記録層の構成成分の少なくとも一部と該非磁性下地層の構成成分の少なくとも一部とが厚さ方向に混合されることにより非磁性化され、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナ、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、窒素とを含有する非記録部が形成され、該マスク層に覆われた領域には、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つとプラチナを含有する記録部が形成された垂直磁気記録媒体。
【0100】
[2]
前記垂直磁気記録層の構成成分の少なくとも一部が混合された、前記非磁性下地層の混合領域は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナ、チタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、ルテニウムと、窒素とを含有する[1]に記載の垂直磁気記録媒体。
【0101】
[3]
前記非記録部及び前記混合領域は、各々チタンを含有する[2]に記載の垂直磁気記録媒体。
【0102】
[4]
前記非記録部中のチタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の含有量は、前記記録部中の該元素の含有量と比べて5at%以上多い[1]に記載の垂直磁気記録媒体。
【0103】
[5]
前記非記録部は、窒化チタン、窒化シリコンから選ばれる少なくとも一つの窒化物を含有する[1]に記載の垂直磁気記録媒体。
【0104】
[6]
前記非記録部は、10at%以上の窒素を含有する[1]に記載の垂直磁気記録媒体。
【0105】
[7]
前記非磁性下地層の混合領域の中のチタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の含有量は、前記非磁性下地層の該元素の含有量より、5at%以上少ないことを特徴とする[2]に記載の垂直磁気記録媒体。
【0106】
[8]
非磁性基板上にチタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種、及びルテニウムを含有する非磁性下地層を形成する工程、
該非磁性下地層上に接触するように形成され、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する磁気記録層を形成する工程、
該垂直磁気記録層上に面内方向に規則的に配列されたパターンを有するマスク層を形成する工程、及び
窒素ガス、またはヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスとの混合ガスを用いてガスイオン照射を行うことにより、
該マスク層に覆われていない領域の磁気記録層と非磁性下地層を厚さ方向に混合して、非磁性化せしめ、磁気記録層中に、規則的に配列されたパターンを有する記録部と、非磁性化された非記録部とを形成する工程を具備する磁気記録媒体の製造方法。
【0107】
[9]
[1]ないし[7]のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体と、
前記垂直磁気記録媒体を支持および回転駆動する機構と、
前記垂直磁気記録媒体に対して情報の記録を行うための素子及び記録された情報の再生を行うための素子を有する磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記垂直磁気記録媒体に対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリとを具備する磁気記録再生装置。
【符号の説明】
【0108】
1,21…非磁性基板、2,22…非磁性下地層、5,23…垂直磁気記録層、6,24…保護層、25…マスク層、3,27…非記録部、26,4…記録部、10,20…垂直磁気記録媒体、22’…混合領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に形成された、ルテニウムからなる第1の非磁性層、及び該第1の非磁性層上に形成された、チタン及びシリコンのうち少なくとも1種、及びルテニウムからなる第2の非磁性層を有する非磁性下地層、及び該非磁性下地層上に接触するように設けられ、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する垂直磁気記録層を含み、
該垂直磁気記録層は、面内方向に規則的に配列されたパターンを有する記録部と非記録部とを含み、
該記録部は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナとを含有し、
該非記録部は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナと、さらに該非磁性下地層の構成成分であるチタン及びシリコンのうち少なくとも1種の元素と、窒素とを含有し、50emu/cc以下の磁化Msを有し、
該非磁性下地層は、前記垂直磁気記録層の非記録部と接触する面から厚さ方向に該非磁性下地層の構成成分の少なくとも一部と前記垂直磁気記録層の構成成分の少なくとも一部とが混合された混合領域を有し、
該混合領域は、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つと、プラチナと、チタン及びシリコンのうち1つの元素と、ルテニウムと、窒素とを含有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非記録部及び前記混合領域は、各々チタンを含有する請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非記録部中のチタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の含有量は、前記記録部中の該元素の含有量と比べて5at%以上多い請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非記録部は、窒化チタン、窒化シリコンから選ばれる少なくとも一つの窒化物を含有する請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記非記録部は、10at%以上の窒素を含有する請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記混合領域の中のチタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素の含有量は、前記非磁性下地層の該元素の含有量より、5at%以上少ないことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
非磁性基板上に、ルテニウムを含有する第1の非磁性層を形成し、及び該第1の非磁性層上にチタン、及びシリコンからなる群から選択される少なくとも1種、及びルテニウムを含有する第2の非磁性層を形成することにより非磁性下地層を形成する工程、
該非磁性下地層上に接触するように形成され、鉄及びコバルトのうち少なくとも1つ、及びプラチナを含有する磁気記録層を形成する工程、
該垂直磁気記録層上に面内方向に規則的に配列されたパターンを有するマスク層を形成する工程、及び
窒素ガス、またはヘリウム、水素、及びBからなる群から選択される少なくとも1種のガスと窒素ガスとの混合ガスを用いてガスイオン照射を行うことにより、
該マスク層に覆われていない領域の磁気記録層と非磁性下地層を厚さ方向に混合して、非磁性化せしめ、磁気記録層中に、規則的に配列されたパターンを有する記録部と、非磁性化された非記録部とを形成する工程を具備する磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体と、
前記垂直磁気記録媒体を支持および回転駆動する機構と、
前記垂直磁気記録媒体に対して情報の記録を行うための素子及び記録された情報の再生を行うための素子を有する磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記垂直磁気記録媒体に対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリとを具備する磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−54819(P2013−54819A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−280007(P2012−280007)
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2011−57116(P2011−57116)の分割
【原出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】