説明

磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録装置

【課題】 高い規格化保磁力を有するとともに、熱的な安定性に優れる磁気記録媒体およびその製造方法、並びに磁気記録装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性基体1と、該非磁性基体1上に金属下地層2を介して形成されたコバルト基合金からなる強磁性金属層3とを備える磁気記録媒体10において、保磁力Hcが2000(Oe)以上であり、かつ異方性磁界Hkgrainが10000(Oe)以上であることを特徴とする。また、前記金属下地層2および/または強磁性金属層3が、到達真空度10-9Torr台の成膜室において、不純物濃度1ppb以下の成膜用ガスを用いて成膜されてなるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録装置に係り、より詳細には、高い保磁力と異方性磁界を有する磁気記録媒体およびその製造方法と、この磁気記録媒体を備えた磁気記録装置に関するもので、本発明に係る磁気記録媒体は、ハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープなどに好適に用いられる。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気記録媒体は、高密度で大容量な記録媒体としてハードディスク装置等で多用されているが、更なる高密度化を図るためにその記録再生特性の向上が求められている。図10と図11は、磁気記録媒体の一例であるハードディスクを示す概略図である。図10は、円盤型の磁気記録媒体の斜視図であり、図11は図10に示すA−A線に沿う模式断面図である。図10R>0に示す磁気記録媒体90は、図11に示すように円盤型の非磁性体からなる基体91と、この基体91上に形成された金属下地層94と強磁性金属層95と保護層96とを備えて構成されている。
【0003】この例の磁気記録媒体90では、非磁性体からなる基体91として例えばAl合金またはガラスからなる基板92の表面上にNi−Pからなる非磁性層93を設けてなるものが用いられている。そして、この基体91の上には、例えばCrからなる金属下地層94,CoCrTaあるいはCoCrTaPtなどからなる磁性膜の強磁性金属層95、カーボンなどからなる保護層96が順次積層されている。典型的な各層の厚さは、非磁性(Ni−P)層93が5μm〜15μm、金属(Cr)下地層94が50nm〜150nm、強磁性金属層95が30nm〜100nm、保護層96が20nm〜50nmである。尚、保護層96上には、図示されないが、パーフルオロポリエーテルなどのフッ素系の潤滑剤などが被覆されることもある。
【0004】上記構成の磁気記録媒体において記録再生特性を向上させるためには、強磁性金属層95として機能する磁性膜を構成する磁性結晶粒子の粒間相互作用の低減、並びに磁性膜の膜厚の低減が必要不可欠であることが、本発明者らにより報告されている。(M.Takahashi, A.Kikuchi and S.Kawakita:IEEE Trans. On Magn., 33, 2938(1997))
特に、媒体の低ノイズ化を図るためには、強磁性金属層95をなす膜厚を低減することにより、磁性膜を構成する磁性結晶粒子を微細化させることが有効な手法の一つとして同文献に紹介されている。
【0005】強磁性金属層95をなす磁性膜の薄膜化による、微細組織形成や、磁性粒子の体積低減には限界がある。なぜならば、強磁性金属層95をなす磁性膜の膜厚の低減に伴い、磁性膜を構成する結晶粒子は微細化し、磁性膜に記録された磁化(残留磁化)等の磁気特性が経時的に大きく変化してしまうという問題、すなわち熱擾乱の影響を受けやすくなるという問題が生じるためである。
【0006】本発明者は、金属下地層94の膜厚を薄くすることにより、磁性膜を構成する結晶粒子の粒径を低減させる手法、換言すれば磁性膜の結晶粒子の体積を小さくする手法の開発を鋭意進めてきた。具体的には、超清浄なプロセス条件でCr下地層/Co基磁性層からなる媒体を作成する方法を開発することにより、金属下地層94として厚さが2.5nmという極めて薄いCr層を用いても、2000(Oe)を越える保磁力が得られる媒体の開発に成功した。(国際出願PCT/JP97/01092号公報)
【0007】しかしながら、高記録密度化に伴い磁気記録媒体に記録される磁化パターンはさらに小型化すると考えられており、これに対応するための磁性膜の膜厚を低減することにより磁性膜を構成する結晶粒の粒径がさらに微細化しても、残留磁化等の磁気特性が時間に対して大きく変化しない、すなわち熱擾乱を抑制して熱的に安定な磁気特性を確保できる磁性膜が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高い規格化保磁力を有するとともに、熱的な安定性に優れる磁気記録媒体を提供することを目的の1つとする。本発明は、上述の特性を有する磁気記録媒体を製造する方法を提供することを目的の1つとする。本発明は、上述の優れた特性を有する磁気記録媒体を備える磁気記録装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これまでの背景に鑑み、磁性材料に関して更なる研究を重ねた結果、最近に至り、以下に記述する研究成果を得ており、これらの研究成果に基づいて本願発明に到達した。
【0010】記録再生特性に優れた高記録密度用磁気記録媒体を実現するためには、前記記録層95を構成する磁性膜として、保磁力(Hc)および異方性磁界(Hkgrain)が高く、かつ規格化保磁力(Hc/Hkgrain)が0.3以上であるものが望ましいこと、および、このような磁気特性を備えた磁気記録媒体について、超清浄プロセス(ultra clean process)を用いて作成可能なことを、本発明者らが国際出願PCT/JP94/01184号公報において開示している。
【0011】ここで、規格化保磁力(Hc/Hkgrain)とは、保磁力Hcを、磁性膜の結晶粒の異方性磁界(Hkgrain)で割った値であり、磁性膜の結晶粒の磁気的孤立性が高まる度合いを表している。すなわち、磁性膜の規格化保磁力が高いということは、磁性膜を構成する個々の結晶粒の磁気的な相互作用が低下し、結果的に高い保磁力を実現できることを意味する。同公報によれば、上記超清浄プロセスにより、金属下地層および/または強磁性金属層の酸素濃度が100wtppm以下である磁化反転を利用した磁気記録媒体が形成可能であり、このような磁気記録媒体を作製する超清浄プロセスの成膜条件は、従来の一般プロセスの成膜条件と比べて、次のような点で異なることが開示されている。
【0012】すなわち、同公報によれば、超清浄プロセスの成膜条件と従来の一般的な成膜条件とを比較して示すと、成膜室の背圧において、超清浄プロセスが10-9Torr台であるのに対して、一般的な成膜プロセスの背圧が10-7Torr台であり、成膜に用いたArガスにおいて、超清浄プロセスがUC−Ar(不純物濃度が100ppb以下、好適には10ppb以下のAr「Ultra Clean Ar」)であるのに対し、一般的な成膜プロセスがnormal-Ar(不純物濃度が1ppm以上)を意味すると記載されている。
【0013】また、本発明者らが特許出願した国際出願PCT/JP97/01092号公報には、記録層95をなす磁性膜の飽和磁化(Ms)と、異方性磁界(Hkgrain)との関係を(4πMs/Hkgrain)≦1.0とすることにより、磁性膜の結晶粒径に依存せず0.35以上の高い規格化保磁力が得られること、および、(4πMs/Hkgrain)≦1.0となる磁気記録媒体は、超清浄プロセス(国際出願PCT/JP94/01184号公報において開示された技術)を用いて形成されることが開示されている。
【0014】さらに、磁性膜厚の低減に伴い、磁性膜を構成する結晶粒が微細になり、熱擾乱の影響を受けやすくなること、および、磁性膜の結晶磁気異方性(Kugrain)の大きな材料ほど残留磁化の経時変化が小さいことを以下の文献において1999年3月に本発明者らが明らかにした。この結晶磁気異方性Kugrainは、飽和磁化(Ms)と、異方性磁界Hkgrainの積を1/2にした数値である。(”Physics of high density recording thin film media established by ultra clean sputtering process”by M.Takahashi and H.Shoji, J. Magn. Magn. Mater, 193 (1999) 44-51)
【0015】そして、従来の磁気記録媒体において、磁性膜として多用されているCo系合金磁性膜における結晶磁気異方性(Kugrain)の最大値は、例えば、CoNiCr合金膜の場合は約1.3×106erg/cm3であり、CoCrTa合金膜の場合は1.4×106erg/cm3であった。これに対して最近になって登場した超清浄プロセスによるCoCrTaPt合金膜の場合は2.5×106erg/cm3程度の結晶磁気異方性(Kugrain)を得ることができ、この値が従来のCo系材料では熱安定性において最も高いことを本発明者らが以下の文献において1997年10月に報告している。しかし、この材料組成では、結晶磁気異方性(Kugrain)の値がある程度大きくても規格化保磁力(Hc/Hkgrain)が0.30以下と小さく、媒体ノイズが大きいことが予想される。清浄雰囲気中で作製したCoCrPt薄膜磁気記録媒体(磁気異方性と微細構造)、高橋研、菊池暁、三ツ矢晴仁、吉村哲、荘司弘樹、第21回日本応用磁気学会講演概要集(1997)165頁
【0016】高記録密度化に伴い磁気記録媒体に記録される磁化パターンがさらに小型化しても熱擾乱を抑制して熱的に安定な磁気特性を確保するためには、高い規格化保磁力、すなわち、磁気結晶粒径および静磁気的相互作用の大きさの指標となる4πMs/Hkgrainの値が1.0以下であり、かつ、従来より高い結晶磁気異方性を有する磁性膜を備えた磁気記録媒体とする必要がある。
【0017】以上のような背景から、上記4πMs/Hkgrainを低減して規格化保磁力を向上させるとともに、熱擾乱の影響を受けにくい磁気記録媒体を得るためには、高Hkgrainの磁性膜を強磁性金属層に適用することが有効であると本発明者は考える。このような高Hkgrainの磁性膜を備える磁気記録媒体の構成を研究した結果として本発明者は本発明に到達した。
【0018】すなわち本発明に係る磁気記録媒体は、非磁性基体と、該非磁性基体上に金属下地層を介して形成されたコバルト基合金からなる強磁性金属層とを備える磁気記録媒体において、保磁力Hcが2000(Oe)以上であり、かつ異方性磁界Hkgrainが10000(Oe)以上であることを特徴とするものである。
【0019】本発明に係る磁気記録媒体は、前記金属下地層および/または強磁性金属層が、到達真空度10-9Torr台の成膜室において、不純物濃度1ppb以下の成膜用ガスを用いて成膜されてなるものであることが好ましい。
【0020】本発明に係る磁気記録媒体は、前記金属下地層が、CrまたはCr合金からなる下地膜を含み、該Cr合金がMoおよび/またはWを含む合金であることが好ましい。
【0021】本発明に係る磁気記録媒体は、前記金属下地層が、CrまたはCr合金からなる下地膜を含み、該Cr合金が、V、Nb、Hf、Zr、Ti、Mn、Ta、Ru、Re、Os、Ir、Rh、Pd、Pt、P、B、Si、Ge、N、Oから選ばれる1種または2種以上の元素を含むことが好ましい。
【0022】本発明に係る磁気記録媒体は、前記金属下地層の膜厚が、3nm以上20nm以下の範囲であることが好ましい。
【0023】本発明に係る磁気記録媒体は、格子定数の異なる2層以上の下地膜からなる積層構造を成していることが好ましい。本発明に係る磁気記録媒体は、前記金属下地層が、第1下地膜上に第2下地膜を積層した2層構造であり、前記第1下地膜の膜厚t1と第2下地膜の膜厚t2の膜厚比t2/t1が、0.2以上5.0以下の範囲であることが好ましい。本発明に係る磁気記録媒体は、前記第1下地膜の膜厚が、1.5nm以上8.5nm以下の範囲であることが好ましい。本発明に係る磁気記録媒体は、前記第2下地膜の膜厚が、1.5nm以上8.5nm以下の範囲であることが好ましい。
【0024】本発明に係る磁気記録媒体は、前記強磁性金属層の直下の金属下地層の結晶格子の格子定数の(√2)倍の長さxと、前記強磁性金属層の結晶格子のc軸長yを用いて(y−x)/(x/2+y/2)×100なる式から導かれる前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれが、0.5%以上2.5%以下であることが好ましい。本発明に係る磁気記録媒体は、前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれが、0.5%以上1.5%以下であることがより好ましい。
【0025】本発明に係る磁気記録媒体は、前記コバルト基合金からなる強磁性金属層の結晶格子において、強磁性金属層の法線方向の原子間距離aが、強磁性金属層の面内方向の原子間距離bよりも大きいことが好ましい。本発明に係る磁気記録媒体は、前記強磁性金属層の結晶格子における非磁性基体の法線方向の原子間距離aと、非磁性基体の面内方向の原子間距離bとの軸長比a/bが、1.005以上1.008以下の範囲であることが好ましい。
【0026】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板上に、金属下地層を介してコバルト基合金からなる強磁性金属層を成膜法により形成する磁気記録媒体の製造方法において、保磁力Hcを2000(Oe)以上とし、かつ異方性磁界Hkgrainを10000(Oe)以上とするために、前記金属下地層の格子定数の(√2)倍の長さxと、前記強磁性金属層の結晶格子のc軸長yとを用いて(y−x)/(x/2+y/2)×100(%)なる式で示される前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれを0.5%以上2.5%以下とすることを特徴とするものである。
【0027】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、上記磁気記録媒体の製造方法において、前記格子のずれを制御するために、前記金属下地層の成膜中に0V以上300V以下の正または負のバイアスを基体に印加することを特徴とする。
【0028】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、上記磁気記録媒体の製造方法において、前記格子のずれを制御するために、前記強磁性金属層の成膜中に0V以上300V以下の正または負のバイアスを基体に印加することを特徴とする。
【0029】本発明に係る磁気記録装置は、先のいずれかに記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を駆動するための駆動部と、磁気情報の記録再生を行うための磁気ヘッドとを備え、該磁気ヘッドにより、移動する前記磁気記録媒体に対して磁気情報の記録再生を行うことを特徴とする。
【0030】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明に係る磁気記録媒体をコンピュータのハードディスクに適用した一実施形態の断面構造を模式的に示すもので、この図において磁気記録媒体10は、円盤状の非磁性体からなる基体1上に、第1の下地膜2a、第2の下地膜2bからなる多層構造の金属下地層2を介して強磁性合金からなる強磁性金属層3と、保護層4とを積層してなる構造とされている。尚、図1に示す本実施形態の磁気記録媒体10の積層構造は、本発明に係る磁気記録媒体の最も基本的な構造であるので、基体1と保護層4との間に他の中間層を必要に応じて設けた構成としても良く、保護層4の上にフッ素系の潤滑剤からなる潤滑層を設けても良いのはもちろんである。
【0031】以下、本発明の実施形態の磁気記録媒体10をさらに詳細に説明する。
(基体)本発明に係る基体1としては、例えば、アルミニウムとその合金あるいは酸化物、チタンとその合金或いは酸化物、またはシリコン、ガラス、カーボン、セラミック、プラスチック、樹脂およびそれらの複合体化からなる基板1aの表面に、異種材質の非磁性層1bをスパッタ法、蒸着法、メッキ法等の成膜法により、表面コーティング処理を行ったものを例示することができる。基体1の表面に設けられた非磁性層1bは、高温で磁化せず、導電性を有し、機械加工などが施しやすい反面、適度な表面硬度を有していることが好ましい。このような条件を満たす非磁性膜としては、特にメッキ法により作製されたNi−P膜が好ましい。
【0032】基体1の形状としては、ディスク用途の場合、ドーナツ円盤状のものが使われる。後述する強磁性金属層等を設けた基体、すなわち磁気記録媒体は、磁気記録および再生時、円盤の中心を軸として、例えば3600rpm〜15000rpmの速度で回転させて使用する。このとき、磁気記録媒体の表面又は裏面の上空を磁気ヘッドが0.1μm程度の高さ、あるいは数10nmの高さを持って浮上走行する。また、さらに低浮上量の10nm以下の高さで浮上走行する磁気ヘッドの開発もなされている。従って、基体1としては表面又は裏面の平坦性、表裏両面の平行性、基体円周方向のうねり、および表裏面の粗さが適切に制御されたものが望ましい。
【0033】また、基体が回転/停止する場合には、磁気記録媒体と磁気ヘッドの表面同士が接触、摺動するようになっている(Contact Start Stop:CSS)。この対策として、基体の表面には、略同心円状の軽微なキズ(テクスチャ)をダイヤモンドやアルミナなどの砥粒を含むスラリーやテープによる研磨により形成して磁気ヘッド接触時の吸着を防止する場合もある。
【0034】上記テクスチャについては、図11に示す従来構造の如くNi−Pの非磁性層93の上面に研磨テープをあててキズをつけることでV字溝型に形成することが一般的になされているので、本実施形態の構造においてもNi−P等からなる非磁性層1bの表面にテクスチャを形成しても良い。また、上記ヘッド摺動特性改善を目的としたテクスチャに代わるものとして、レーザ加工によるテクスチャや、スパッタリングによる離散的な凹凸膜テクスチャ、保護膜のエッチングによる凹凸型のテクスチャなどを形成した構造も知られているのでこれらの構造を採用し、非磁性層1bの上面に所望の形状の凹凸等を形成しても良いことはもちろんである。さらにまた、最近では磁気ヘッドを磁気記録媒体にロード/アンロードする方式で磁気記録媒体の停止中に磁気ヘッドを磁気記録媒体の外側に待機させるものも登場している。このような方式を採用するならば、場合によってはテクスチャを省略する構成も可能である。
【0035】また、上記テクスチャは、強磁性金属層の面内方向に磁気情報を記録する方式では特に重要な役割を担っており、基体1表面に略同心円状のテクスチャを形成することにより、基体1上に形成される金属下地層2の配向面を変化させ、結果として金属下地層2上に形成される強磁性金属層3の結晶粒を基体円周方向に配向させることができる。このテクスチャ処理による磁性結晶粒の配向制御は、記録再生時の磁気記録媒体の磁気特性や記録再生特性に大きく影響するので、磁性結晶粒の配向制御を目的とするテクスチャは、形成する溝の密度や、溝の深さの均一性を適切に制御することが好ましい。
【0036】(金属下地層)本実施形態の磁気記録媒体10の金属下地層2は、第1下地膜2aおよび第2下地膜2bをスパッタ法や蒸着法などにより順次積層形成した多層構造をなすものである。これらの下地膜2a、2bは、それぞれ格子定数の異なる材料を用いて構成される。このような構造とすることにより、第2下地膜2b上に形成される強磁性金属層3の保磁力を向上させることができる。また、上記金属下地層2は、3層以上の下地膜を積層して構成してもよい。上記下地膜2a、2bにはCrおよびCr合金を用いることが好ましく、特に、CrMo合金、CrW合金を用いることが好ましい。また、Cr合金として上記CrMo合金、CrW合金と同様の効果を奏するものとしてV、Nb、Hf、Zr、Ti、Mn、Ta、Ru、Re、Os、Ir、Rh、Pd、Pt、P、B、Si、Ge、N、O等の元素のうち1種または2種以上の元素と、Crとを合金化したものを挙げることができる。また、これらのCrおよびCr合金は、格子定数が異なる組み合わせであれば下地膜2a、2bいずれにも適用することができる。
【0037】下地膜2a、2bとしてCrあるいはCr合金を用いることにより、金属下地層2上に形成される強磁性金属層3に対して偏析作用を起こすことができる。これにより、強磁性金属層3の結晶粒間の磁気的な相互作用を抑えることができるので、規格化保磁力を高めることができる。また、金属下地層2上の強磁性金属層3の磁化容易軸(c軸)が基体面内方向を取るようにすることができる、すなわち、基体面内方向の保磁力を高める方向に強磁性金属層3の結晶成長を促すものである。
【0038】また、基体1としてガラス基板を用いる場合には、Ni−Alなどのシード層を金属下地層2と基体1との間に設けることが好ましい。このような構成とするならば、金属下地層2や強磁性金属層3の結晶粒が微細化されるので、磁気記録媒体の保磁力を高めることができるとともに、記録再生時のノイズ特性を向上させることができる。
【0039】CrやCr合金からなる金属下地層2をスパッタ法で成膜する場合、その結晶性を制御する因子としては、基体の表面形状(テクスチャの有無など)、表面状態、表面温度、成膜時の圧力、基体に印加するバイアス、および形成する膜厚等が挙げられる。後述する強磁性金属層3の保磁力は金属下地層であるCr膜やCr合金膜の膜厚にほぼ比例して高くなる傾向にあるが、膜厚の増加に伴って成膜面の表面粗さも増大する傾向になる。しかしながら、磁気記録媒体の記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの磁気記録媒体表面からの浮上量をできる限り小さくすることが求められる。従って、金属下地層2の膜厚が薄くても高い保磁力が得られるような材料を用いて金属下地層2は構成されることが望ましい。
【0040】本発明の構成によれば、金属下地層2を薄い2層の下地膜2a、2bを積層した構成とすることにより、2000(Oe)以上の高保磁力が得られるとともに、10000(Oe)以上の高Hkgrainの磁気記録媒体を得ることができる。これは、上記の2層構造の金属下地層2を設けることで、高Hkgrainの強磁性金属層3に対して、良好な整合性を示す下地膜を第2下地膜2bとして強磁性金属層3の直下に配することにより強磁性金属層3の結晶成長を促進し、保磁力を高めることができるとともに、第2下地膜2bと基体1との間に第2下地膜2bとは格子定数の異なる第1下地膜2aを配することにより、第2下地膜2bの結晶粒径のばらつきを抑制するとともに、第2下地膜2bの配向性を向上させることができるためであると考えられる。その結果、強磁性金属層3の結晶粒界へのCr偏析を促進し、異方性磁界Hkgrain、規格化保磁力(Hc/Hkgrain)および保磁力Hcを高め、媒体ノイズを低減することができる。
【0041】(下地膜の膜厚比t2/t1)本発明に係る磁気記録媒体の金属下地層2を第1下地膜2aと、第2下地膜2bを順次積層した構造とする場合、第1下地膜2aの膜厚t1と、第2下地膜2bの膜厚t2との膜厚比t2/t1が、所定の範囲に制御されて形成されていることが好ましい。膜厚比t2/t1をこのような範囲とするならば、これらの下地膜2a、2bと強磁性金属層3の格子の整合性を最適化して高保磁力が得られるとともに、超清浄プロセスではない従来のプロセスを用いた場合でも、高保磁力の磁気記録媒体を得ることができる。
【0042】金属下地層2を超清浄プロセスによって形成するならば、下地膜2a、2bを極めて薄く形成した方が高い保磁力を得られる。より具体的には第1下地膜2a、第2下地膜2bを1.5nm以上8.5nm以下の範囲とすることで、より高い保磁力を得ることができる。従って、強磁性金属層の結晶粒を微細化して良好なS/N比と高い規格化保磁力を有する磁気記録媒体が得られる。また、超清浄プロセスではなく、従来のプロセスによって金属下地層2を形成する場合には、金属下地層2を構成する下地膜2a、2bの膜厚の膜厚比t2/t1を上記範囲とするとともに、上記超清浄プロセスを用いた場合よりも膜厚を厚く形成すればよい。
【0043】(強磁性金属層)本発明で用いられる強磁性金属層3はhcp構造を有する強磁性金属からなる層である。強磁性金属層3を構成する材料としては、Coを主成分とするCo基強磁性合金を用いることが好ましい。その具体的な材料としては、例えばCoNiCr,CoCrTa,CoCrPt,CoNiPt,CoNiCrTa,CoCrPtTa等を挙げることができる。また、これらの合金にB,N,O,Nb,Zr,Cu,Ge,Si等から選ばれる1種又は2種以上の元素を添加した合金を用いることもできる。本発明では、従来の成膜条件より超清浄な雰囲気下(すなわち、上記超清浄プロセス)において、金属下地層2および強磁性金属層3を作製することにより、次の2つの特徴が得られる。
(1)強磁性金属層の飽和磁化Msと異方性磁界Hkgrainが、4πMs/Hkgrain≦1という関係にある媒体では、強磁性金属層の結晶粒径に依存せず、高い規格化保磁力(Hc/Hkgrain)が安定して得られる。
(2)上記(1)の特徴において、強磁性金属層を構成する個々の結晶粒子の粒径が10nm以下の領域にある媒体では、媒体のS/N比を向上させることができるとともに、媒体の表面粗さも低減することができる。
【0044】また、本発明の磁気記録媒体における上記強磁性金属層3を構成する結晶粒子は、その結晶格子の歪みに特徴を有するものである。この結晶格子の歪みについて図2および図3を参照してさらに詳細に説明する。図2は金属下地層2と、強磁性金属層3の界面における各結晶格子の模式図であり、図2(a)は、強磁性金属層3を構成する結晶格子、図2(b)は、金属下地層2を構成する結晶格子を示す。また、図3は、図2(a)に示す磁性粒子の(002)面13を拡大して示す模式図である。
【0045】図2(a)および(b)にそれぞれ示す結晶格子11、12は、それぞれ強磁性金属層3のhcp構造を有する磁性粒子の結晶格子と、金属下地層2(第2下地膜2b)のbcc構造を有する結晶格子である。図1に示す磁気記録媒体10においては、図2(b)に符号15で示す面の原子に、図2(a)に符号14で示す面の原子が整合して強磁性金属層3の結晶粒が金属下地層3上にエピタキシャル成長する。すなわち、磁性粒子の磁化容易軸であるc軸が、基体1の面内方向に配向している。これは、図2(a)に示すhcp結晶格子のc軸長と、図2(b)に示すbcc結晶格子の対角線長とが近い値だからである。
【0046】このような金属下地層2と強磁性金属層3の界面における結晶格子の整合性からエピタキシャル成長を生じる系においては、その整合性が、上側に成長する膜(強磁性金属層3)の結晶性および配向性に大きく影響する。従って、この結晶格子の整合性を適切に制御することにより、保磁力Hc、異方性磁界Hkgrainおよび規格化保磁力(Hc/Hkgrain)を高めることができる。本発明に係る磁気記録媒体においては、金属下地層2の結晶格子の対角線長さ(格子定数aの√2倍の長さ)xと、強磁性金属層3の結晶格子のc軸長yとを用いて、(y−x)/(x/2+y/2)×100(%)なる式で示される金属下地層2と強磁性金属層3の格子のずれが、0.5%以上2.5%以下であることが好ましい。すなわち本発明の磁気記録媒体においては、従来の磁気記録媒体のように、上式で示される格子のずれを0%に近づけるのではなく、金属下地層2の結晶格子の対角線長さxを強磁性金属層3の結晶格子のc軸長yよりも意図的に小さくし、格子のずれが上記範囲となるように制御することが好ましい。これは、金属下地層2の結晶格子の対角線長さxが強磁性金属層3のc軸軸長よりも小さい場合、強磁性金属層3の結晶成長が面内方向に拘束され、その結果強磁性金属層3のc軸が面内方向に優先的に成長するためであると考えられる。その結果、強磁性金属層3の結晶粒界へのCr偏析を促進し、異方性磁界Hkgrain、規格化保磁力(Hc/Hkgrain)および保磁力Hcを向上し、媒体ノイズの低減を図ることができる。さらに、上記格子のずれは、0.5%以上1.5%以下であることがより好ましい。格子のずれをこのような範囲とするならば、より高い保磁力を発現させて、さらなる規格化保磁力の向上を図ることができる。
【0047】また、本発明の磁気記録媒体10の強磁性金属層3は、多層構造の金属下地層2によりその結晶格子に歪みを与えられている。より具体的には、図3に示すように基体面内方向とc軸が平行になるように配向したhcp格子の基体法線方向の原子間距離aが、基体面内方向の原子間距離bよりも大きくなる、基体法線方向に長く伸びる歪みを与えられている。
【0048】本発明に係る磁気記録媒体においては、上記強磁性金属層3の結晶格子の基体法線方向の原子間距離aと、基体面内方向の原子間距離bとの比である軸長比a/bが、1.002以上1.008以下であることが好ましい。強磁性金属層のhcp格子の歪みをこの範囲とすることにより、2000(Oe)以上の高保磁力を得ることができる。従って、高Hkgrainの強磁性金属層3における規格化保磁力(Hc/Hkgrain)を高めて、優れた記録再生特性を有する磁気記録媒体とすることができる。基体法線方向の原子間距離aと、基体面内方向の原子間距離bとの比である軸長比a/bが、1.002以上の場合、強磁性金属層3に含まれるCr原子が基体法線方向へ移動するよりも基体面内方向へ移動する方が系全体のエネルギーが低くなり、Cr原子が優先的に基体面内方向へ移動しやすくなる。また、軸長比a/bが、1.002以上1.008以下の範囲では、基体面内方向の移動度が結晶粒界へのCr偏析の促進に適切であると考えられる。その結果、結晶粒界には非磁性のCr−rich層ができ、結晶粒内にはCr−poorの結晶粒ができ、結晶粒間相互作用の低減およびHkgrainの両立を実現できる。一方、軸長比a/bが、1.002以下の場合、基体法線方向の原子間距離aと基体面内方向の原子間距離bがほぼ同等か小さいため、強磁性金属層3に含まれるCr原子が基体面内方向へ移動する確率が低くなるため、基体面内方向の結晶成長がしにくく、結晶粒界へのCr偏析が起こりにくい状態であると考えられる。その結果、結晶粒間相互作用が大きく、Hkgrainも低い値になる。また、軸長比a/bが、1.008以上の場合、基体法線方向の原子間距離aが基体面内方向の原子間距離bに比べて非常に大きいため、強磁性金属層3に含まれるCr原子が基体面内方向に移動しやすく、また、その移動度が大きいため、Cr原子が膜全体に均一に分布すると考えられる。その結果、Cr偏析が起こらず、高い結晶粒間相互作用および低いHkgrainしか得られない。
【0049】(磁気記録媒体における高記録密度化)本発明に係る磁気記録媒体10は、上述した強磁性金属層の膜面に対し、平行に記録磁化を形成する媒体(面内磁気記録媒体)を指す。このような媒体では、記録密度を向上するために、記録磁化のさらなる小型化を図る必要がある。この小型化は、各記録磁化の漏れ磁束を減少させるため、磁気ヘッドにおける再生信号出力を小さくする。従って、同じS/N比を得るためには隣接する記録磁化の影響と考えられている媒体ノイズは、さらに低減することが望まれている。
【0050】(強磁性金属層の保磁力:Hc、異方性磁界:Hkgrain、規格化保磁力:Hc/Hkgrain)本発明の「強磁性金属層の保磁力:Hc」とは、振動試料型の磁力計(Vibrating Sample Magnetometer,VSMと呼ぶ)を用いて測定した磁化曲線から求めた媒体の抗磁力である。本発明における「結晶粒の異方性磁界:Hkgrain」とは、高感度トルク磁力計を用いて測定した回転ヒステリシス損失が完全に消失する印加磁界である。保磁力および異方性磁界とも、基体の表面上に金属下地層を介して強磁性金属層が形成される磁気記録媒体の場合は、薄膜面内で測定した値である。
【0051】また本発明における「強磁性金属層の規格化保磁力:Hc/Hkgrain」とは、保磁力Hcを、結晶粒の異方性磁界Hkgrainで割った値であり、結晶粒の磁気的孤立性が高まる度合いを表すことについて、本発明者らが先に、"MagnetizationReversal Mechanism Eva1uated by Rotational HysteresisLoss Ana1ysis forthe Thin Film Media"Migaku Takahashi,T.Shimatsu, M.Suekane,M.Miyamura,K.Yamaguchi and H.Yamasaki: IEEE TRANSACTI0NS 0N MAGNETICS,V0L.28,1992,pp.3285において公表したものである。
【0052】また、Stoner-Wohlfarth理論によれば、結晶粒が完全に磁気的に孤立した場合、この規格化保磁力は0.5をとることが示されており、この値が規格化保磁力の上限値である。また、J.-G.Zhu and H.N.Bertram: Journal of App1ied Physics,V0L.63,1988,pp.3248には、強磁性金属層の規格化保磁力が高いということは、強磁性金属層を構成する個々の結晶粒の磁気的な相互作用が低下し、高い保磁力が実現できることが記載されている。
【0053】本発明における「結晶磁気異方性Kugrain」とは、飽和磁化Msと異方性磁界Hkgrainの積を1/2にした数値であり、この結晶磁気異方性Kugrainの値が大きいほど熱擾乱が抑制され、熱的に安定な磁気記録媒体であると判断することができる。本発明によれば、上述のように異方性磁界Hkgrainが10000(Oe)以上であり、かつ保磁力Hcが2000(Oe)以上という磁気記録媒体を得ることができるので、上記Kugrainを従来の磁気記録媒体よりも大幅に向上させることができるとともに、規格化保磁力も向上させることができるので、熱的に安定であり、かつ記録再生特性に優れる磁気記録媒体を得ることができる。
【0054】以下に、上記の構成の磁気記録媒体10をスパッタ法により製造する場合について説明する。
(スパッタ法)本発明に係る磁気記録媒体10を製造する方法の一例であるスパッタ法として、例えば、基体1がターゲットの前を移動しながら薄膜が形成される搬送型スパッタ法と、基体1をターゲットの前に固定して薄膜が形成される静止型スパッタ法を例示することができる。前者の搬送型スパッタ法は、量産性が高いため、低コストな磁気記録媒体の製造に有利であり、後者の静止型スパッタ法は、基体1に対するスパッタ粒子の入射角度が安定なために、記録再生特性に優れる磁気記録媒体の製造が可能とされる。本発明に係る磁気記録媒体10を製造する際には、搬送型、静止型のいずれかに限定されるものではない。
【0055】本発明における「成膜に用いるArガスの不純物」としては、例えば、H2O、O2、CO2、H2、N2、Cxy、H、C、O、CO等が挙げられる。特に、膜中に取り込まれる酸素量に影響する不純物は、H2O、O2、CO2、O、COと推定される。従って、本発明の不純物濃度は、成膜に用いるArガス中に含まれているH2O、O2、CO2、O、COの和で表すこととする。
【0056】本発明に係る磁気記録媒体を作製する場合、図1に示す金属下地層2および強磁性金属層3を成膜する成膜室の到達真空度を10-9Torr台とし、成膜用ガスの不純物濃度を1ppb以下とする超清浄プロセスを用いることが好ましい。この超清浄プロセスを採用するならば、金属下地層2の膜厚が極めて薄い場合であっても、2000(Oe)以上の保磁力を得ることができる。従って、金属下地層2の薄膜化によって強磁性金属層3の結晶粒が微細化し、記録再生特性に優れる磁気記録媒体とすることができる。ただし、本発明の磁気記録媒体の製造方法において、上記超清浄プロセスは必須とされるものではなく、従来のプロセスを用いて成膜を行った場合でも、成膜条件を適切に制御することにより高Hc、高Hkgrainの磁気記録媒体を作製することができる。
【0057】(高周波スパッタ法によるクリーニング処理)本発明における「高周波スパッタ法によるクリーニング処理」としては、例えば、放電可能なガス圧空間内におかれた基体に対して、RF(Radio Frequency,13.56MHz)電源から交流電圧を印加する手法が挙げられる。この手法の特徴は、基体が導電性でない場合にも適用可能な点である。一般に、クリーニング処理の効果としては、基体への薄膜の密着性向上が挙げられる。しかし、クリーニング処理後、基体の表面上に形成される薄膜自体の膜質に及ぼす影響については不明な点が多い。
【0058】(基体へのバイアス印加)本発明における「基体へのバイアス印加」とは、磁気記録媒体として金属下地層2や強磁性金属層3を成膜する際、基体1に対して直流のバイアス電圧を印加することを指す。基体1に適切なバイアス電圧を印加しながら金属下地層2や強磁性金属層3を成膜することによって金属下地層2や強磁性金属層3の格子定数を変化させることができる。すなわち、基体1へのバイアス印加電圧を調整することにより金属下地層2および強磁性金属層3の界面における結晶格子の整合性を調整して、強磁性金属層3の結晶格子の歪みを適切な範囲に制御することができる。これにより、規格化保磁力が高く、熱安定性に優れる磁気記録媒体を製造することができる。
【0059】また、基体1へのバイアス印加は上記の効果とともに磁気記録媒体の保磁力を増大させる効果を奏する。この効果は、上記どちらか一方の膜を作製するときのみバイアスを印加した場合よりも、2層とも印加した場合の方がより大きくなる傾向がある。
【0060】尚、上記のバイアス印加は、基体近傍の物体、すなわち基体指示部材や基体ホルダにも作用する場合が多く、このために基体近傍の空間中にガスやダストが発生して成膜中の薄膜に取り込まれ、膜特性が不安定になるという不都合な状態が生じやすくなる可能性がある。また、基体へのバイアス印加には、■ガラス基板などの絶縁基板には適用することができない。■成膜された強磁性金属層の飽和磁束密度(Bs)が低下する。■成膜室内に複雑な機構部を設ける必要がある、などの不可避の問題点が存在する。従って、強磁性金属層3の結晶格子に歪みを与えるためにバイアス印加を行う場合には、なるべく上記の現象が起こらない条件で成膜を行うことが好ましい。具体的には、金属下地層2の格子定数を下地膜2a、2bの合金組成により調整することで、印加するバイアス電圧を可能な限り低く抑える方法を一例として挙げることができる。
【0061】(金属下地層および/または強磁性金属層を形成する成膜室の到達真空度)従来、「金属下地層および/または強磁性金属層を形成する成膜室の到達真空度」は、強磁性金属層を構成する材料によっては、保磁力の値を左右する成膜因子の1つとして位置づけられている。特に、強磁性金属層中にTaを含む、Co基合金の磁性材料では、上記の到達真空度が低い場合(例えば、10-6〜10-7Torr台の場合)には影響が大きいと考えられてきた。しかし、上述の構成の金属下地層2および強磁性金属層3を用いるならば、到達真空度が10-6〜10-7Torr台の成膜室にて成膜した場合であってもその成膜条件の最適化により高い規格化保磁力を有する磁気記録媒体を製造することができる。尚、当然のことながら、本発明者らが提供している超清浄プロセスにより本実施形態の金属下地層2および強磁性金属層3を成膜しても良いことはもちろんである。
【0062】(金属下地層および/または強磁性金属層を形成する際の基体の表面温度)本発明における「金属下地層および/または強磁性金属層を形成する際の基体の表面温度」は、強磁性金属層を構成する材料に依存せず、保磁力の値を左右する成膜因子の1つである。基体が損傷しない範囲であれば、高い表面温度で成膜した方がより高い保磁力を実現することができる。この基体の損傷とは、そり、ふくれ、割れ等の外的変化や、非磁性の構成材料の磁化や、デガスの増加等の内的変化を意味する。しかし、高い表面温度を実現するためには、一般的に何らかの加熱処理を、成膜室またはその前室で行う必要がある。この加熱処理においては、基体近傍の空間中にガスやダストが発生し、成膜中の薄膜に取り込まれ、膜特性が不安定になる可能性がある。
【0063】また、高い基体の表面温度は、以下の問題点も有している。
■NiP/Al基体における非磁性NiP層の磁化■基体の歪み■ガラスなど低熱伝導率の基体では基体温度を高温にしたり、保持することが困難である。
従って、上記加熱処理は、行わないか若しくはより低温加熱処理でも目的の膜特性を得られる作成方法を選択することが好ましい。
【0064】(基体の表面粗さ、Ra)本発明における基体の表面粗さとしては、例えば、ディスク形状からなる基体表面を、半径方向に測定した場合の、平均中心線粗さRaが挙げられる。表面粗さRaの測定器としては、RANKTAYLORHOBSON社製TALYSTEP(タリステップ)を用いることができる。基体が停止状態から回転を開始した場合、或いはその逆に回転状態から停止状態になった場合は、磁気記録媒体と磁気ヘッドの表面同士が接触および摺動する(CSS動作)。このとき、磁気ヘッドの媒体表面への吸着や摩擦係数の上昇を抑えるため、表面粗さRaは大きい方が好ましい。一方、基体が最大回転数に達した場合には、磁気記録媒体と磁気ヘッドの間隔、すなわち磁気ヘッドの浮上量をできるだけ小さい値に確保する必要があるので、Raは小さい方が好ましい。従って、基体の表面粗さRaの最大値と最小値は、上述した理由と、磁気記録媒体による要求スペックから適宜決定される。
【0065】例えば、磁気ヘッドの浮上量が、24μinchの場合は、Ra=6nm〜8nmである。しかし、さらに高記録密度化を図るためには、磁気ヘッドの浮上量(記録再生動作をする際、磁気ヘッドが磁気記録媒体から離れている距離)をより小さくする必要がある。この要望に応えるためには、磁気記録媒体の表面をより平坦化することが大切となる。このような理由から基体の表面粗さRaは、より小さなものが望ましい。従って、基体の表面粗さがより小さな場合であっても、目標とする各種の膜特性を得られる作成方法を適宜採用すればよい。一例としてAl基板上にNi−P層を設けた構造の場合にテクスチャを設けた上でRaを1.5nm以下にまで低減することがなされており、特別な研磨処理を施したNiP/Al基板でのRaを0.5nm〜0.7nmとすることもできる。
【0066】(テクスチャ処理)本発明における基体に施すテクスチャ処理としては、例えば、機械的な研磨による方法、科学的なエッチングによる方法、物理的な凹凸膜の付与による方法などが挙げられる。特に、磁気記録媒体の基体として最も広く用いられているアルミニウム合金基体の場合には、機械的な研磨による方法が採用されている。例えば、アルミニウム合金基体の表面に設けた(Ni−P)膜に対して、研削用の砥粒が表面に接着してあるテープを、回転する基体表面に押しつけることにより、同心円状に軽微なキズを付与する方法がある。この方法では、研削用の砥粒を、テープから遊離させて用いる場合もある。しかし、上記「基体の表面粗さ」の項で述べた理由から、上記テクスチャ処理を行わないか、若しくはより軽微なテクスチャ形状でも、目標とする各種の膜特性を得られる作成方法を適宜採用すればよい。
【0067】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】(実施例1)本実施例では、図1に示す下地膜2a、2bが積層された多層構造の金属下地層2を備える磁気記録媒体を、下地膜2bの組成および膜厚を変化させて作製した。成膜法として直流マグネトロン法を用い、成膜室の到達真空度を10-9Torr台、プロセスガス中の不純物濃度を1ppb以下とした超清浄プロセスを用いて成膜を行った。その際、基体温度は放射加熱ヒータを用いて225℃とし、基体加熱後、Arガス圧13.5mTorr、印加電力100Wにて、基体表面を3秒間ドライエッチング処理し、その後Arガス圧2〜4mTorrとして上記金属下地層、強磁性金属層、保護層を成膜した。また、金属下地層および強磁性金属層の成膜時に基体へのバイアス印加は行わなかった。
【0069】本実施例では、基体として、表面を超平滑研磨(Ra<0.3nm)され、テクスチャ処理されていないディスク状のNiPメッキAl基板を用い、第1下地膜形成用のターゲットとしてCrターゲットを用い、第2下地膜形成用のターゲットとしてCrMoターゲットを用い、強磁性金属層形成用のターゲットとしてCo−24at%Cr−12at%Pt−4at%Bターゲットを用いた。尚、本実施例では金属下地層、強磁性金属層の成膜法として直流マグネトロンスパッタ法を用いたが、RFスパッタ法、レーザ蒸着法、イオンビーム成膜などの他の成膜法を実施しても良いのはもちろんである。
【0070】(実施例2)次に、上記第2下地膜として、CrW合金を用い、CrW合金の組成および膜厚を変化させて磁気記録媒体を作製した。尚、上記の条件以外は、実施例1と同様とした。上記実施例1と異なる条件のみを下記に示し、表1に実施例1、2の磁気記録媒体の作製条件を示す。
【0071】
・第2下地膜 CrW・第2下地膜組成 W含有量:25at%、35at%・第2下地膜厚 1.5〜8.5nm
【0072】
【表1】


【0073】以上の実施例1、2にて作製された各磁気記録媒体について、VSM(振動試料型磁力計)および高感度トルク磁力計を用いて磁気特性を測定した。測定結果を表2に示す。また、高感度トルク磁力計による測定の結果、実施例1、2の磁気記録媒体のHkgrainは、10000(Oe)以上であった。
【0074】
【表2】


【0075】次に、上記表2に示すVSM測定の結果をグラフ化したものを図4に示す。図4に示すグラフの縦軸は保磁力(Hc)、図4の横軸は第1下地膜の膜厚t1と第2下地膜の膜厚t2の膜厚比t2/t1を示す。図4のグラフに示すように、膜厚比t2/t1が 1.0以上3.0以下であれば、第2下地膜がCr30Mo合金、Cr40Mo合金、Cr25W合金、Cr35W合金の場合に、2000(Oe)以上の保磁力が得られた。また、Cr20Mo合金を第2下地膜として用いた場合には、膜厚比t2/t1が2.0のとき、2000(Oe)以上の保磁力が得られた。
【0076】(実施例3)次に、実施例3として、第1下地膜をCrとし、その膜厚を2.5nmに固定して、第2下地膜の組成と膜厚を変化させて磁気記録媒体を作製した。尚、上記第1下地膜および第2下地膜以外の構成および作製工程は上記実施例1と同様とした。また、比較のために金属下地層をCrの単層構造とし、その膜厚を2.5nmとした以外は上記実施例1と同様の構成および作製工程にて磁気記録媒体を作製した。本実施例の磁気記録媒体について、VSMおよび高感度トルク磁力計を用いて測定を行った。測定結果を表4に示し、表4の結果をグラフ化したものを図5に示す。図5に示すグラフの縦軸は保磁力(Hc)を示し、横軸は第1下地膜の膜厚t1と第2下地膜の膜厚t2の膜厚比t2/t1を示す。図5に示すように、膜厚比t2/t1が1.0以上3.0以下の範囲の磁気記録媒体は、第2下地膜がCr30Mo合金、Cr40Mo合金、Cr25W合金、Cr35W合金の場合に2000(Oe)以上の保磁力が得られた。その一方で、比較として作製したCr下地単層を用いた磁気記録媒体では極めて低い保磁力しか得られなかった。また、Cr20Mo合金を第2下地膜として用いた磁気記録媒体については、膜厚比t2/t1が1.0以上2.0以下の範囲では2000(Oe)以上の保磁力が得られた。
【0077】
【表3】


【表4】


【0078】(実施例3)次に、上記実施例1の磁気記録媒体と同等の構成の磁気記録媒体を、超清浄プロセスを用いない従来のプロセスで作製した。すなわち、本例においては成膜室の到達真空度は10-7Torr台とされており、成膜用ガスの不純物濃度が1ppm以下とされている。作製条件を以下の表5に示す。上記実施例3の磁気記録媒体について上記実施例1と同様の測定を行った結果を表6に示す。表2に示す超清浄プロセスにより作製された実施例1の磁気記録媒体と、従来のプロセスで作製された本実施例の磁気記録媒体では、保磁力が最大となる第1下地膜、第2下地膜の膜厚が、表2に示す超清浄プロセスによって作製された磁気記録媒体よりも大きくなり、保磁力の最大値こそ若干低くなるものの、2000(Oe)以上の保磁力が得られることがわかる。従って、本発明の構成を用いるならば、成膜法として従来のプロセスを用いる場合であっても、金属下地層2の膜厚を適切に制御することにより高保磁力の磁気記録媒体が得られることが確認された。
【0079】
【表5】


【表6】


【0080】(実施例4)次に、以下の表7に示す金属下地層構成の磁気記録媒体を作製した。これらの磁気記録媒体は下地層の構成以外は上記実施例1と同様とした。これらの磁気記録媒体についてXRD(X-ray Diffractometer)による構造解析を行った結果を表7示し、表7に示す結果をグラフ化したものを図6に示す。図6の縦軸は保磁力を示し、横軸は金属下地層の格子定数と強磁性金属層の格子定数から算出した両層の界面における格子のずれを示す。表7および図6から、上記格子のずれを0.5%以上2.5%以下の範囲とするならば、2000(Oe)以上の保磁力が得られることが確認された。また、格子のずれを0.5%以上1.5%以下の範囲とするならば、2500(Oe)以上の高保磁力が得られることが確認された。一方、下地層をCrMoあるいはCrWの単層構造とした磁気記録媒体は、いずれも2000(Oe)未満の保磁力であった。
【0081】
【表7】


【0082】次に、表8に示す構成の磁気記録媒体について、XRD測定の測定結果から強磁性金属層の膜厚方向の原子間距離aおよび基体面内方向の原子間距離bを算出し、両者の軸長比a/bを算出した結果を以下の表8に示し、表8に示す結果をグラフ化したものを図7に示す。表8および図7に示すように、上記軸長比a/bが1.002以上1.008以下の磁気記録媒体は、いずれも2000(Oe)以上の保磁力が得られた。一方、軸長比a/bが上記範囲をはずれるもの、あるいは金属下地層が単層構造のものは、いずれも2000(Oe)未満の保磁力であった。
【0083】
【表8】


【0084】(磁気記録装置)次に、本発明に係る磁気記録装置を図面を参照して以下に説明する。図8は、本発明に係る磁気記録装置であるハードディスク装置の一例を示す側断面図であり、図9は、図8に示す磁気記録層の平断面図である。図8および図9において、50は磁気ヘッド、70はハードディスク装置、71は筐体、72は磁気記録媒体、73はスペーサ、79はスイングアーム、78はサスペンションである。本実施形態に係るハードディスク装置70は、先に記載の本発明の磁気記録媒体を搭載している。
【0085】ハードディスク装置70は、円盤状の磁気記録媒体72や、磁気ヘッド50などを収納する内部空間を備えた直方体形状の筐体71が外径を成しており、この筐体71の内部には複数枚の磁気記録媒体72がスペーサ73と交互にスピンドル74に挿通されて設けられている。また、筐体71にはスピンドル74の軸受け(図示せず)が設けられ、筐体71の外部にはスピンドル74を回転させるためのモータ75が配設されている。この構成により、全ての磁気記録媒体72は、スペーサ73によって磁気ヘッド50が入るための間隔を空けて複数枚重ねた状態で、スピンドル74の周回りに回転自在とされている。
【0086】筐体71の内部であって磁気記録媒体72の側方位置には、軸受け76によってスピンドル74と平行に支持されたロータリ・アクチュエータと呼ばれる回転軸77が配置されている。この回転軸77には複数個のスイングアーム79が各磁気記録媒体72の間の空間に延出するように取り付けられている。各スイングアーム79の先端には、その上下位置にある各磁気記録媒体72の表面と傾斜して向かう方向に固定された、細長い三角板状のサスペンション78を介して磁気ヘッド50が取り付けられている。この磁気ヘッド50は、図示されていないが、磁気記録媒体72に対して情報を書き込むための記録素子と、磁気記録媒体72から情報を読み出すための再生素子を備えるものである。
【0087】磁気記録媒体72は、上述のように、非磁性基板とこの非磁性基板上に形成された金属下地層と、強磁性合金からなる強磁性金属層とを備え、保磁力Hcが2000(Oe)以上であり、かつ異方性磁界Hkgrainが10000(Oe)以上とされた磁気記録媒体である。
【0088】上記構成によれば、磁気記録媒体72を回転させ、磁気ヘッド50をスイングアーム79の移動により磁気記録媒体72の半径方向に移動させることができるので、磁気ヘッド50は磁気記録媒体72上の任意の位置に移動可能となっている。上述した構成のハードディスク装置70では、磁気記録媒体72を回転させるとともに、スイングアーム79を移動させて磁気ヘッド50を磁気記録媒体72を構成している強磁性金属層に磁気ヘッド50が発生した磁界を作用させることにより磁気記録媒体72に所望の磁気情報を書き込むことができる。また、スイングアーム79を移動させて磁気ヘッド50を磁気記録媒体72上の任意の位置に移動させ、磁気記録媒体72を構成している強磁性金属層からの漏れ磁界を磁気ヘッドの再生素子で検出することにより磁気情報を読み出すことができる。
【0089】このように磁気情報の読み出しと書き込みを行う場合において、磁気記録媒体72の強磁性金属層が、先に説明した如く優れた規格化保磁力と熱安定性を有しているならば、ハードディスク装置70の内部がモータ75の熱を受けて、例えば、100℃を越える高い温度に加熱されつつ使用された場合であっても、磁気記録媒体72の強磁性金属層が劣化することがない。また、長期間使用し、長時間加熱されることがあっても、磁気記録媒体72の記録再生特性に劣化を生じないハードディスク装置70を提供することができる。
【0090】尚、図8、9を基に先に説明したハードディスク装置70は、磁気記録装置の一例を示すものであるので、磁気記録装置に搭載する磁気記録媒体の枚数は、1枚以上の任意の枚数で良く、搭載する磁気ヘッドの数も1個以上であれば任意の数設けてもよい。また、スイングアーム79の形状や駆動方式も図面に示すものに限らず、リニア駆動方式、その他の方式でも良いのはもちろんである。
【0091】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように本発明によれば、磁気記録媒体の保磁力Hcを2000(Oe)以上とし、かつ異方性磁界Hkgrainを10000(Oe)以上とすることにより、結晶磁気異方性エネルギーKugrainを高めることができるので、高い規格化保磁力と優れた熱安定性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0092】また、前記金属下地層および/または強磁性金属層を、到達真空度10-9Torr台の成膜室において、不純物濃度1ppb以下の成膜用ガスを用いて成膜するならば、金属下地層を薄膜化した場合も十分に高い保磁力を得ることができるので、より高い規格化保磁力を得ることができる。
【0093】また本発明によれば、保磁力Hcを2000(Oe)以上とし、かつ異方性磁界Hkgrainを10000(Oe)以上とするために、前記金属下地層の格子定数の(√2)倍の長さxと、前記強磁性金属層の結晶格子のc軸長yとを用いて(y−x)/(x/2+y/2)×100(%)なる式で示される前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれを0.5%以上2.5%以下とすることにより、前記優れた特性を有する磁気記録媒体を安定して製造できる製造方法を提供することができる。
【0094】また、前記優れた磁気特性を有する磁気記録媒体を備えた磁気記録装置であるならば、加熱状態で長時間使用しても磁気特性に劣化を生じることのない磁気記録装置を提供することができる。また、先の優れた磁気特性を有する磁気記録媒体を備えた磁気記録装置であるならば、S/N比が高く、記録再生特性に優れた磁気記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の一実施形態である磁気記録媒体を模式的に示す部分断面図である。
【図2】 図2(a)は、本発明に係る磁気記録媒体の強磁性金属層の結晶格子を模式的に示す斜視図であり、図2(b)は金属下地層の結晶格子を模式的に示す斜視図である。
【図3】 図3は、図2(a)に示すhcp結晶格子の(002)面を模式的に示す平面図である。
【図4】 図4は、本発明の実施例1の磁気特性を示すグラフである。
【図5】 図5は、本発明の実施例2の磁気特性を示すグラフである。
【図6】 図6は、本発明の実施例4の基体面内方向のXRD測定結果を示すグラフである。
【図7】 図7は、本発明の実施例4の基体面内方向XRD測定結果を示すグラフである。
【図8】 図8は、本発明にかかる磁気記録装置の一例を示す側断面図である。
【図9】 図9は、図8に示す磁気記録装置の平断面図である。
【図10】 図10は、磁気記録媒体の一例である従来のハードディスクを示す斜視図である。
【図11】 図11は、磁気記録媒体の一例である従来のハードディスクの断面構造を示す図である。
【符号の説明】
1 (非磁性)基体
2 金属下地層
2a 第1下地膜
2b 第2下地膜
3 強磁性金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性基体と、該非磁性基体上に金属下地層を介して形成されたコバルト基合金からなる強磁性金属層とを備える磁気記録媒体において、保磁力Hcが2000(Oe)以上であり、かつ異方性磁界Hkgrainが10000(Oe)以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】 前記金属下地層および強磁性金属層が、到達真空度10-9Torr台の成膜室において、不純物濃度1ppb以下の成膜用ガスを用いて成膜されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】 前記金属下地層が、CrまたはCr合金からなる下地膜を含み、該Cr合金がMoおよびまたはWを含む合金であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】 前記金属下地層が、CrまたはCr合金からなる下地膜を含み、該Cr合金が、V、Nb、Hf、Zr、Ti、Mn、Ta、Ru、Re、Os、Ir、Rh、Pd、Pt、P、B、Si、Ge、N、Oから選ばれる1種または2種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】 前記金属下地層の膜厚が、3nm以上20nm以下の範囲であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】 前記金属下地層が、格子定数の異なる2層以上の下地膜からなる積層構造を成していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 前記金属下地層が、第1下地膜上に第2下地膜を積層した2層構造であり、前記第1下地膜の膜厚t1と、第2下地膜の膜厚t2との膜厚比t2/t1が、0.2以上5.0以下の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】 前記第1下地膜が、1.5nm以上8.5nm以下の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】 前記第2下地膜の膜厚が、1.5nm以上8.5nm以下の範囲であることを特徴とする請求項7または8に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】 前記金属下地層の格子定数の(√2)倍の長さxと、前記強磁性金属層の結晶格子のc軸長yとを用いて(y−x)/(x/2+y/2)×100(%)なる式で示される前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれが、0.5%以上2.5%以下であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】 前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれが、0.5%以上1.5%以下であることを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】 前記コバルト基合金からなる強磁性金属層の結晶格子において、強磁性金属層の法線方向の原子間距離aが、強磁性金属層の面内方向の原子間距離bよりも大きいことを特徴する請求項1ないし11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】 前記強磁性金属層の法線方向の原子間距離aと、強磁性金属層の面内方向の原子間距離bとの比である軸長比a/bが、1.002以上1.008以下の範囲であることを特徴とする請求項12に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】 非磁性基板上に、金属下地層を介してコバルト基合金からなる強磁性金属層を成膜法により形成する磁気記録媒体の製造方法において、保磁力Hcを2000(Oe)以上とし、かつ異方性磁界Hkgrainを10000(Oe)以上とするために、前記金属下地層の格子定数の(√2)倍の長さxと、前記強磁性金属層の結晶格子のc軸長yとを用いて(y−x)/(x/2+y/2)×100(%)なる式で示される前記金属下地層と前記強磁性金属層の格子のずれを0.5%以上2.5%以下とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】 前記格子のずれを制御するために、前記金属下地層の成膜中に0V以上300V以下の正または負のバイアスを基体に印加することを特徴とする請求項14に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】 前記格子のずれを制御するために、前記強磁性金属層の成膜中に0V以上300V以下の正または負のバイアスを基体に印加することを特徴とする請求項14または15に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項17】 請求項1ないし13のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を駆動するための駆動部と、磁気情報の記録再生を行うための磁気ヘッドとを備え、移動する前記磁気記録媒体に対して前記磁気ヘッドにより磁気情報の記録再生を行うことを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2002−197631(P2002−197631A)
【公開日】平成14年7月12日(2002.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−396894(P2000−396894)
【出願日】平成12年12月27日(2000.12.27)
【出願人】(592259129)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100086379
【弁理士】
【氏名又は名称】高柴 忠夫 (外2名)
【出願人】(000227294)アネルバ株式会社 (564)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【上記3名の代理人】
【識別番号】100086379
【弁理士】
【氏名又は名称】高柴 忠夫 (外1名)
【Fターム(参考)】