説明

磁気記録媒体およびこれを用いた磁気記録再生方法

【課題】 媒体表面の脂肪酸金属塩の生成を抑制し、記録密度の高い磁気記録再生システムにおいても、優れた走行耐久性、信頼性、電磁変換特性を兼ね備えた磁気記録媒体およびこれを用いた磁気記録再生方法を提供すること。
【解決手段】 支持体の一方の面に、少なくとも鉄を有する強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を設け、前記強磁性粉末が、平均長軸長20〜60nmの強磁性金属粉末または平均板径5〜30nmの六方晶フェライト粉末であり、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)により測定された、前記磁性層表面の脂肪酸金属塩のフラグメント強度が、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下であることを特徴とする磁気記録媒体と、これを用いる磁気記録再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびこれを用いた磁気記録再生方法に関するものであり、詳しくは、記録密度の高い磁気記録システムにおいても、優れた走行耐久性、信頼性、電磁変換特性を兼ね備えた磁気記録媒体およびこれを用いた磁気記録再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、コンピューター用あるいは放送用として用途を拡大しているが、これらの分野では耐久性や保存性に関わる信頼性が非常に重要である。磁気記録媒体はヘッドや機構部品と接触するために、これらの間で安定な摺動特性を保持することが必要である。良好な摺動性を付与するために磁性層や磁性層下層の非磁性層には高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル等の化合物が配合されている(例えば特許文献1および2参照)。
これらの化合物のうち高級脂肪酸は酸性の極性基であるカルボキシル基を有しており、このカルボキシル基が磁性体や無機粉体の塩基性点に吸着し、比較的低速の摺動性確保に大きく寄与している。また、磁性体や無機粉体の表面を被覆して粉体の分散性向上に役立っている。
しかし、磁性体や無機粉体あるいは配合した他の素材中に微量の無機陽イオンが存在すると、長期の経時や高温高湿雰囲気下に試料を保存した場合、配合された高級脂肪酸と無機陽イオンは徐々に反応して脂肪酸金属塩を生成する場合がある。たとえば、脂肪酸のカルシウム塩が磁性層表面に生成すると表面に突起を形成してスペーシングにより電磁変換特性を低下し、また走行によりヘッドに付着し、あるいはドロップアウトやエラーレート劣化の原因となり、走行耐久性、電磁変換特性を悪化させる。また微量の鉄イオンと脂肪酸が反応した脂肪酸鉄塩はやや粘着性を有するため摩擦係数を上昇させ、テープ表面でデブリを生じ、さらにヘッド汚れやヘッド目詰まりを引き起こし、著しく走行耐久性を悪化させる。
高級脂肪酸エステルは比較的高速の摩擦係数を低下させるが、高温高湿等の悪条件が重なると加水分解により脂肪酸を生成し、生成した脂肪酸は前記のようにして微量の無機陽イオンと反応して金属塩を生成する場合もある。
【0003】
一方、近年では高記録密度化に対応するため、磁性体の微粒子化が必須となっている。そのため、磁性層には、微粒子化と磁気特性確保のためにイットリウムを多く含有させる傾向にある。しかし、イットリウムは、前記のカルシウムや鉄と同様に、脂肪酸と反応し金属塩を発生させ、結果として前記のように、電磁変換特性の低下、脂肪酸イットリウム塩のヘッドの付着によるドロップアウトやエラーレート劣化、走行耐久性の悪化を引き起こすという問題点があった。
また、ノイズの低減という観点からは、磁性金属粉末からなる磁性体よりもバリウムフェライト磁性体の方が好ましく用いられる。しかし、微粒子化が進むと磁性体に由来するバリウムと脂肪酸が反応し易くなり、生じた脂肪酸バリウム塩が、ヘッドの目詰まりを引き起こすという問題点がある。
以上より、高信頼性を求められる磁気記録媒体の開発においては、磁性層表層の脂肪酸金属塩生成、とくに脂肪酸イットリウム塩やバリウム塩の生成を抑制することが重要である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−76333号公報
【特許文献2】特開2003−85733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、媒体表面の脂肪酸金属塩の生成を抑制し、記録密度の高い磁気記録再生システムにおいても、優れた走行耐久性、信頼性、電磁変換特性を兼ね備えた磁気記録媒体およびこれを用いた磁気記録再生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
1)支持体の一方の面に、少なくとも強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を設けた磁気記録媒体において、
前記強磁性粉末が、平均長軸長20〜60nmの強磁性金属粉末または平均板径5〜30nmの六方晶フェライト粉末であり、
飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)により測定された、前記磁性層表面の脂肪酸金属塩のフラグメント強度が、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
2)前記支持体の一方の面に、該支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を設けるとともに、前記支持体の他方の面にバック層を設けたことを特徴とする上記1)に記載の磁気記録媒体。
3)前記強磁性金属粉末が、少なくともFeおよびYを含有し、前記Feに対するYの割合が、5〜20原子%であることを特徴とする上記1)または2)に記載の磁気記録媒体。
4)前記六方晶フェライトが、バリウムフェライトであることを特徴とする上記1)または2)に記載の磁気記録媒体。
5)記録された信号を再生する素子としてシールド型磁気抵抗効果型素子が用いられ、かつ前記の素子のシールド間距離が80nm〜300nmであるシールド型磁気抵抗効果型素子が含まれる記録再生ヘッドが用いられるシステムで使用されることを特徴とする上記1)〜4)の何れかに記載の磁気記録媒体。
5)支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を少なくとも設けた磁気記録媒体を用い、情報の記録または再生を行う磁気記録再生方法において、前記磁気記録媒体が、上記1)〜5)のいずれかに記載の磁気記録媒体であるとともに、情報の再生手段としてシールド型磁気抵抗効果型素子を使用した再生ヘッドが用いられ、かつ前記素子のシールド間距離が、80nm〜300nmであることを特徴とする磁気記録再生方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、媒体表面の脂肪酸金属塩量を抑制しているので、記録密度の高い磁気記録再生システムにおいても、優れた走行耐久性、信頼性、電磁変換特性を兼ね備えた磁気記録媒体およびこれを用いた磁気記録再生方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の磁気記録媒体は、飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)により測定された、磁性層表面の脂肪酸金属塩のフラグメント強度が、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下であることを一つの特徴としている。該数値は、好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。該数値が5%を超えると、脂肪酸金属塩の生成量が多く、走行耐久性および電磁変換特性が悪化する。
本発明は、磁気記録媒体の磁性層表面に存在している脂肪酸金属塩を、飛行時間型二次イオン質量分析計(以下、TOF−SIMSという)を用いて測定する。本発明において、磁性層表面とは、TOF−SIMSにおいて測定可能な塗布層表面から厚み方向に、通常、2〜3nm程度の非常に浅い範囲である。
【0009】
本発明で使用されるTOF−SIMSは、当業界で広く知られており、汎用製品の中から適宜選択して用いることができる。なお本明細書においては、TOF−SIMSとして、ION−TOF社製TOF−SIMS IV型を用い、Au3モード0.1pAにて磁性層表面をそのまま測定し、磁性層表面に存在する脂肪酸金属塩をフラグメント化して検出している。
【0010】
本発明者が検討したところ、脂肪酸金属塩、とくにステアリン酸イットリウム塩のフラグメントは、C18363Y、m/z=389.17であり、ステアリン酸バリウム塩のフラグメントは、C18352Ba、m/z=421.17であることが判明した。また、コバルトのm/zは58.93であり、鉄のメインピークのm/zは55.93であった。なお、その他の脂肪酸金属塩についても、例えば標品を用いて分析することにより、フラグメントのピークを求めることができる。
【0011】
TOF−SIMSにより脂肪酸金属塩を定量するには、磁気記録媒体の磁性層表面をそのまま測定すればよい。
ヘキサン等の有機溶媒による抽出により脂肪酸エステルおよび未吸着の脂肪酸を除去する前処理を行ってもよいが、溶媒中の水分により脂肪酸金属塩が解離するおそれがあるので注意が必要である。
【0012】
また、記録密度を高くすると磁気記録媒体からの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドに微小磁束でも高い出力が得られる磁気抵抗効果型素子を使用した再生ヘッドを使用する必要があるが、本発明の磁気記録媒体は、磁性層表面の脂肪酸金属塩量を抑制し、ドロップアウトやエラーレート劣化を低減しているので、とくに、情報の再生手段としてシールド型磁気抵抗効果型素子を使用した再生ヘッドを用いて、記録された情報を良好に再生することができる。前記素子のシールド間距離は、例えば80nm〜300nmであり、好ましくは80nm〜250nmであり、更に好ましくは80〜200nmである。
【0013】
次に、本発明で製造される磁気記録媒体の層構成について説明する。
[支持体]
本発明における支持体は、通常、非磁性支持体であり、ポリエステル支持体(以下、単にポリエステルという)が好ましい。このようなポリエステルはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどジカルボン酸およびジオールからなるポリエステルである。
主要な構成成分のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを挙げることができる。
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオールなどを挙げることができる。
これらを主要な構成成分とするポリエステルの中でも透明性、機械的強度、寸法安定性などの点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸及び/または2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコール及び/または1,4−シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。
中でも、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルや、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールからなる共重合ポリエステル、およびこれらのポリエステルの二種以上の混合物を主要な構成成分とするポリエステルが好ましい。特に好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレートを主要な構成成分とするポリエステルである。
なお、本発明に用いられるポリエステルは、二軸延伸されていてもよいし、2層以上の積層体であってもよい。
また、ポリエステルは、さらに他の共重合成分が共重合されていても良いし、他のポリエステルが混合されていても良い。これらの例としては、先に挙げたジカルボン酸成分やジオール成分、またはそれらから成るポリエステルを挙げることができる。
本発明に用いられるポリエステルには、フィルム時におけるデラミネーションを起こし難くするため、スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、ポリオキシアルキレン基を有するジオールなどを共重合してもよい。
中でもポリエステルの重合反応性やフィルムの透明性の点で、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−ナトリウムスルホフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのナトリウムを他の金属(例えばカリウム、リチウムなど)やアンモニウム塩、ホスホニウム塩などで置換した化合物またはそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体およびこれらの両端のヒドロキシ基を酸化するなどしてカルボキシル基とした化合物などが好ましい。この目的で共重合される割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、0.1〜10モル%が好ましい。
また、耐熱性を向上する目的では、ビスフェノール系化合物、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を有する化合物を共重合することができる。これらの共重合割合としては、ポリエステルを構成するジカルボン酸を基準として、1〜20モル%が好ましい。
【0014】
本発明において、ポリエステルの合成方法は、特に限定があるわけではなく、従来公知のポリエステルの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法を用いることができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、あるいは耐熱安定剤を添加することができる。
また、合成時の各過程で着色防止剤、酸化防止剤、結晶核剤、すべり剤、安定剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、消泡透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、染料、顔料、反応停止剤などの各種添加剤の1種又は2種以上を添加させてもよい。
【0015】
また、ポリエステルにはフィラーが添加されてもよい。フィラーの種類としては、球形シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、アルミナ等の無機粉体、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂等の有機フィラー等が挙げられる。
【0016】
本発明において、支持体であるポリエステルの厚みは、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、とくに好ましくは3〜10μmである。また支持体表面の中心線平均粗さ(Ra)は、8nm以下、より好ましくは6nm以下である。このRaは、WYKO社製TOPO−3Dで測定した。
【0017】
本発明の磁気記録媒体は、前記の支持体上に、塗布層として、強磁性粉末を結合剤に分散してなる磁性層を設けたものであり、必要に応じて支持体と磁性層との間に実質的に非磁性である非磁性層(下層)を設けてもよい。
【0018】
[磁性層]
磁性層に含まれる強磁性粉末として、その体積が(0.1〜8)×10-18mlであることが好ましく、(0.5〜5)×10-18mlであることが更に好ましい。この範囲とすることにより、熱揺らぎにより磁気特性の低下を有効に抑えることができると共に低ノイズを維持したまま良好なC/N(S/N)を得ることができる。
強磁性金属粉末の体積は、形状を円柱と想定して長軸長、短軸長から求める。
六方晶フェライト粉末の場合は、形状を6角柱と想定して板径、軸長(板厚)から体積を求める。
磁性体のサイズは、磁性層を適当量剥ぎ取る。剥ぎ取った磁性層30〜70mgにn−ブチルアミンを加え、ガラス管中に封かんし熱分解装置にセットして140℃で約1日加熱する。冷却後にガラス管から内容物を取り出し、遠心分離し、液と固形分を分離する。分離した固形分をアセトンで洗浄し、TEM用の粉末試料を得る。この試料を日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びkontron製画像解析装置KS−400デジタイザー上に載せ、粉体の輪郭をトレースしてそれぞれの粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定し、測定値を平均して平均サイズとする。
【0019】
<強磁性金属粉末>
本発明の磁気記録媒体における磁性層に用いられる強磁性金属粉末としては、Feを主成分とするもの(合金も含む)であれば、特に限定されないが、α−Feを主成分とする強磁性合金粉末が好ましい。これらの強磁性粉末には所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つがα−Fe以外に含まれるものが好ましく、特に、Co,Al,Yが含まれるのが好ましい。さらに具体的には、CoがFeに対して10〜40原子%、Alが2〜20原子%含まれるのが好ましい。なお前述のように、Yは磁性体の微粒子化と磁気特性確保のために添加されるが、YはFeに対して5〜20原子%、好ましくは5〜15原子%、さらに好ましくは5〜10原子%添加されるのがよい。
【0020】
上記強磁性金属粉末には後述する分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。また、強磁性金属粉末は、少量の水、水酸化物又は酸化物を含むものであってもよい。強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とするのが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化するのが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は通常、6〜12であるが、好ましくは7〜11である。また強磁性金属粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Sr、NH4、SO4、Cl、NO2、NO3などの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましい。各イオンの総和が300ppm以下程度であれば、特性には影響しない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましくその値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。
【0021】
強磁性金属粉末の平均長軸長は、20〜60nmであり、20〜50nmが好ましく、20〜40nmがさらに好ましい。また強磁性金属粉末の結晶子サイズは8〜20nmであることが好ましく、10〜18nmであることが更に好ましく、12〜16nmであることが特に好ましい。この結晶子サイズは、X線回折装置(理学電機製RINT2000シリーズ)を使用し、線源CuKα1、管電圧50kV、管電流300mAの条件で回折ピークの半値幅からScherrer法により求めた平均値である。
【0022】
強磁性金属粉末のBET法による比表面積(SBET)は、50m2/g以上が好ましく、55〜100m2/gであることがさらに好ましく、60〜80m2/gであることが最も好ましい。この範囲であれば良好な表面性と低いノイズの両立が可能となる。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12であるが、好ましくは7〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性金属粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合があるが200ppm以下であれば特に特性に影響を与える事は少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は、空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。
【0023】
また強磁性金属粉末の形状については、先に示した粒子体積を満足する針状強磁性金属粉末を使用する。平均針状比[(長軸長/短軸長)の算術平均]は、4〜12が好ましく、さらに好ましくは5〜12である。強磁性金属粉末の抗磁力(Hc)は、好ましくは159.2〜238.8kA/m(2000〜3000Oe)であり、さらに好ましくは167.2〜230.8kA/m(2100〜2900Oe)である。また、飽和磁束密度は、好ましくは150〜300mT(1500〜3000G)であり、さらに好ましくは160〜290mTである。また飽和磁化(σs)は、好ましくは90〜170A・m2/kg(90〜170emu/g)であり、さらに好ましくは145〜160A・m2/kgである。磁性体自体のSFD(switching field distribution)は小さい方が好ましく、0.8以下であることが好ましい。SFDが0.8以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また磁化反転がシャープでピークシフトが小さくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hc分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲータイトの粒度分布を良くする、単分散αFe23を使用する、粒子間の焼結を防止するなどの方法がある。
【0024】
強磁性金属粉末は、公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。焼結防止処理を行った含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFe又はFe−Co粒子などを得る方法、複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末は公知の徐酸化処理が施される。含水酸化鉄、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元し、酸素含有ガスと不活性ガスの分圧、温度、時間を制御して表面に酸化皮膜を形成する方法が、減磁量が少なく好ましい。
【0025】
<六方晶フェライト粉末>
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライト及びストロンチウムフェライト等が挙げられる。中でも好ましいのはバリウムフェライトである。その他、所定の原子以外にAl、Si、S,Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加した物を使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。好ましいその他の原子およびその含有率は、前記の強磁性金属粉末の場合と同様である。
【0026】
六方晶フェライト粉末の粒子サイズは、上述の体積を満足するサイズであることが好ましいが、平均板径は、5〜30nmであり、5〜25nmが好ましい。
平均板状比{(板径/板厚)の平均}は1〜15であり、さらに1〜7であることが好ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによりノイズ増大を抑えることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2/gであることが最も好ましい。
【0027】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚を数値化することは、粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定することで比較できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜2.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0028】
六方晶フェライト粉末の抗磁力(Hc)は、159.2〜238.8kA/m(2000〜3000Oe)の範囲とすることができるが、好ましくは175.1〜222.9kA/m(2200〜2800Oe)であり、さらに好ましくは183.1〜214.9kA/m(2300〜2700Oe)である。但し、ヘッドの飽和磁化(σs)が1.4Tを越える場合には159.2kA/m以下にすることが好ましい。抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0029】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)は40〜80A・m2/kg(emu/g)である。飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物及び有機化合物が使用される。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物又は水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。添加量は磁性体の質量に対して0.1〜10質量%である。磁性体のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0%が選ばれる。
【0030】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得ガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し0.1〜10%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0031】
<結合剤>
本発明の磁性層に用いられる結合剤(バインダー)は、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物である。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル等を構成単位として含む重合体又は共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂を挙げることができる。
【0032】
また、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等を挙げることができる。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び反応型樹脂については、いずれも朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。
【0033】
また、電子線硬化型樹脂を磁性層に使用すると、塗膜強度が向上し耐久性が改善されるだけでなく、表面が平滑され電磁変換特性もさらに向上する。これらの例とその製造方法については、特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。
【0034】
以上の樹脂は単独又はこれらを組み合わせた態様で使用することができる。中でもポリウレタン樹脂を使用することが好ましく、さらには水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAのポリプロピレンオキサイド付加物などの環状構造体と、アルキレンオキサイド鎖を有する分子量500〜5000のポリオールと、鎖延長剤として環状構造を有する分子量200〜500のポリオールと、有機ジイソシアネートとを反応させ、かつ極性基を導入したポリウレタン樹脂、又はコハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族二塩基酸と、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等のアルキル分岐側鎖を有する環状構造を持たない脂肪族ジオールからなるポリエステルポリオールと、鎖延長剤として2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の炭素数が3以上の分岐アルキル側鎖をもつ脂肪族ジオールと、有機ジイソシアネート化合物とを反応させ、かつ極性基を導入したポリウレタン樹脂、又はダイマージオール等の環状構造体と、長鎖アルキル鎖を有するポリオール化合物と、有機ジイソシアネートとを反応させ、かつ極性基を導入したポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0035】
本発明で使用される極性基含有ポリウレタン系樹脂の平均分子量は、5,000〜100,000であることが好ましく、さらには10,000〜50,000であることが好ましい。平均分子量が5,000以上であれば、得られる磁性塗膜が脆い等といった物理的強度の低下もなく、磁気記録媒体の耐久性に影響を与えることはないため好ましい。また、分子量が100,000以下であれば、溶剤への溶解性が低下することもないため、分散性も良好である。また、所定濃度における塗料粘度も高くなることはないので、作業性が良好で取り扱いも容易となる。
【0036】
上記ポリウレタン系樹脂に含まれる極性基としては、例えば、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につき、Mは水素原子又はアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CNなどが挙げられ、これらの極性基の少なくとも1つ以上を共重合又は付加反応で導入したものを用いることができる。また、この極性基含有ポリウレタン系樹脂がOH基を有する場合、分岐OH基を有することが硬化性、耐久性の面から好ましく、1分子当たり2〜40個の分岐OH基を有することが好ましく、1分子当たり3〜20個有することがさらに好ましい。また、このような極性基の量は5×10-7〜5×10-2モル/g(0.5〜50000eq/t)であり、好ましくは5×10-5〜5×10-4モル/g(50〜500eq/t)である。
【0037】
結合剤の具体例としては、例えば、ユニオンカーバイト社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210などを挙げることができる。
【0038】
本発明でとくに好ましい結合剤は、(1)高Tgポリウレタン樹脂と(2)シラン変性ポリウレタン樹脂である。これらの樹脂を使用することにより、磁性層表面の脂肪酸金属塩量をさらに低減することができ好ましい。以下、これらの樹脂について説明する。
【0039】
(1)高Tgポリウレタン樹脂
高Tgポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、90〜200℃の範囲であることが好ましく、更に好ましくは140〜180℃の範囲である。Tgを90℃以上に保つことで塗膜の強度、特に高温での強度を確保でき、高い走行安定性が得られるとともに、磁気記録媒体を製造する工程で必要以上に反応熱を加える必要がなく、結果として脂肪酸金属塩の生成が抑制される。しかし、Tgが200℃を超えると、強磁性粉末への分散性が低下し、膜表面の平滑性が失われ、電磁変換特性が低下してしまう。
【0040】
高Tgポリウレタン樹脂は、ウレタン基濃度が2.5〜6.0mmol/gの範囲であることが好ましく、更に好ましくは3.0〜4.5mmol/gであることが適当である。ウレタン基濃度が2.5mmol/g以上であると、塗膜のTgが高く良好な耐久性を得ることができ、6.0mmol/g以下であると、溶剤溶解性が高いため分散性が良好である。ウレタン基濃度が過度に高いと必然的にポリオールを含有することができなくなるため、分子量コントロールが困難になる等、合成上好ましくない。
【0041】
高Tgポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)は、30,000〜200,000の範囲であることが好ましく、更に好ましくは50,000〜100,000の範囲であることが適当である。分子量が30,000以上であると、塗膜強度が高く良好な耐久性を得ることができ、200,000以下であると溶剤溶解性が高く分散性が良好である。
【0042】
高Tgポリウレタン樹脂中のOH基含有量は、1分子当たり2〜20個であることが好ましく、更に好ましくは1分子当たり3〜15個であることが適当である。1分子当たり2個以上のOH基を含むことにより、イソシアネート硬化剤と良好に反応するため、塗膜強度が高く、良好な耐久性を得ることができる。一方、1分子当たり15個以下のOH基を含むと、溶剤溶解性が高く分散性が良好である。OH基を付与するために用いる化合物としては、OH基が3官能以上の化合物、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、無水トリメリット酸、グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサントリオール、3官能以上OH基を持つ分岐ポリエステル又はポリエーテルエステルを用いることができる。これらのなかでも、3官能のものが好ましい。4官能以上になると硬化剤との反応が速くなりすぎポットライフが短くなる。
【0043】
高Tgポリウレタン樹脂のポリオール成分としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ダイマージオール等の環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物等の公知のポリオールを用いることができる。
上記ポリオールの分子量は500〜2000程度が好ましい。分子量が上記範囲内であると、実質的にジイソシアネートの質量比を増やすことができるため、ウレタン結合が増えて分子間の相互作用が強まり、ガラス転移温度が高く、力学強度の高い塗膜を得ることができる。
【0044】
上記ポリオール成分はジオール成分であって、かつ環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物であることが好ましい。ここで、長鎖アルキル鎖とは、炭素数2〜18のアルキル基をいう。環状構造及び長鎖アルキル鎖を有すると、屈曲した構造を有するため、溶剤への溶解性に優れる。これにより、塗布液中で磁性体又は非磁性体表面に吸着したウレタン分子鎖の広がりを大きくできるので、分散安定性を向上させる作用があり、優れた電磁変換特性を得ることができる。また、環状構造を有することにより、ガラス転移温度が高いポリウレタンを得ることができる。
環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物とは、特に好ましくは下式で示されるジオール化合物である。
【0045】
【化1】

【0046】
式中、Zは、シクロヘキサン環、ベンゼン環及びナフタレン環から選ばれる環状構造であり、R1及びR2は炭素数1〜18のアルキレン基であり、R3及びR4は炭素数2〜18のアルキル基である。
【0047】
上記ジオール成分は、高Tgポリウレタン樹脂中に10〜50質量%含まれることが好ましく、更に好ましくは15〜40質量%含まれることが適当である。10質量%以上であると、溶剤溶解性が高く分散性が良好であり、50質量%以下であると、Tgが高く優れた耐久性を有する塗膜が得られる。
【0048】
高Tgポリウレタン樹脂には、鎖延長剤として上記ジオール成分以外のジオール成分を併用することもできる。ジオール成分の分子量が大きくなると、必然的にジイソシアネート含有量が少なくなるため、ポリウレタン中のウレタン結合が少なくなり、塗膜強度に劣る。よって、十分な塗膜強度を得るためには、併用される鎖延長剤は、分子量500未満、好ましくは300以下である低分子量ジオールであることが好ましい。
具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジオール(CHD)、水素化ビスフェノールA(H−BPA)等の脂環族グリコール及びこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールF等の芳香族グリコール及びこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物を用いることができる。特に好ましいものは水素化ビスフェノールAである。
【0049】
高Tgポリウレタン樹脂に用いるジイソシアネートとしては、公知のものを用いることができる。具体的には、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、p−フェニレンジイソシアネート、o−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が好ましい。
【0050】
本発明では、十分な分散性を確保するため、高Tgポリウレタン樹脂中の極性基濃度を高めることが好ましい。この極性基は、−SO3M,−OSO3M,−PO32,−COOMであることが好ましく、さらに好ましくは−SO3M,−OSO3Mであることが好ましい。極性基濃度は、1×10-5〜4×10-4eq/gであるのがよい。従来のポリウレタン樹脂では、上記のように極性基濃度を高めると、ポリウレタン樹脂は溶剤への溶解性が低下し、分散性が低下するといった弊害が発生してしまう。そこで、ポリウレタン樹脂中のジオール化合物とジイソシアネート化合物の含有量を調整する事で十分な溶剤への溶解性を確保することができる。具体的には、溶剤への溶解性を高める機能を持つダイマージオール等の環状構造及び長鎖アルキル鎖を有するジオール化合物の成分比を高めることが挙げられる。
【0051】
(2)シラン変性ポリウレタン樹脂
シラン変性ポリウレタン樹脂は、分子中に水酸基を有するポリウレタン(a)と加水分解性アルコキシシラン(b)とを反応させて得られるシラン変性ポリウレタン樹脂(2−1)と、分子中に水酸基を有するポリウレタン(a)とイソシアナト基を有するアルコキシシラン(c)とを反応させて得られるシラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)がある。
【0052】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−1)
<ポリウレタン(a)>
分子中に水酸基を有するポリウレタン(a)は、ジオール、ジイソシアネート化合物、及び、好ましくは分子中に3個以上の水酸基を有するポリオールを反応させて得られる。このとき、ジイソシアネート化合物に対し、ジオール及びポリオールの総量を過剰に反応させる。
本発明のポリウレタン樹脂の原料として使用されるジオール、イソシアネート化合物としては、「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、1986年 日刊工業新聞社)に詳しく記載されている長鎖ジオール、短鎖ジオール(鎖延長剤と呼ばれることもある)とジイソシアネート化合物を使用することができる。
【0053】
長鎖ジオールは分子量500〜5000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリオレフィンジオールなどが用いられる。この長鎖ポリオールの種類によりポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリエーテルエステルウレタン、ポリカーボネートウレタン、などと呼ばれる。
【0054】
ポリエステルジオールは、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、などの脂肪族二塩基酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族二塩基酸とグリコールとの縮重合によって得られる。
グリコール成分としてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどがある。
またポリエステルジオールにはこのほかε−カプロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトンを開環重合したポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオールなども用いることができる。ポリエステルジオールは耐加水分解性の観点で分岐側鎖をもつもの、芳香族、脂環族の原料から得られるものが好ましい。
【0055】
ポリエーテルジオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールや、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールP、水素化ビスフェノールAなどの芳香族グリコールや脂環族ジオールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加重合したものなどがある。
これらの長鎖ジオールは単独で使用しても、複数の種類のものを併用、混合して用いてもよい。
【0056】
短鎖ジオールとしては上記ポリエステルジオールのグリコール成分に例示したものと同じ化合物群の中から選ぶことができる。
また、本発明においては分子中に3個以上の水酸基を有するポリオールを使用することが好ましい。具体的には、3官能以上の多価アルコールであるトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられる。これらの多価アルコールを併用すると分岐構造のポリウレタン樹脂が得られ、溶液粘度を低下させたり、ポリウレタンの末端の水酸基を増やすことでイソシアネート系硬化剤との硬化性を高めることができる。
【0057】
ジイソシアネート化合物としてはMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、2,4−TDI(トリレンジイソシアネート)、2,6−TDI、1,5−NDI(ナフタレンジイソシアネート)、TODI(トリジンジイソシアネート)、p−フェニレンジイソシアネート、XDI(キシリレンジイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、H6XDI(水素添加キシリレンジイソシアネート)、H12MDI(水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート)などの脂肪族、脂環族ジイソシアネートなどが用いられる。
【0058】
ポリウレタン(a)中の長鎖ジオール/短鎖ジオール/ジイソシアネートの好ましい組成は(15〜80質量%)/(5〜40質量%)/(15〜50質量%)である。
ポリウレタン(a)中の、分子中に3個以上の水酸基を有するポリオールの割合は、10〜50質量%が好ましい。
【0059】
<加水分解性アルコキシシラン(b)>
加水分解性アルコキシシラン(b)とは、少なくとも1つのSi原子を有し、このSi原子に少なくとも2つのアルコキシ基が結合した化合物であって、加水分解性のものをいう。
【0060】
加水分解性アルコキシシラン(b)は、以下の一般式(1)で表されるテトラアルコキシシランおよび/または、その縮合物であることが好ましい。
【0061】
【化2】

【0062】
一般式(1)において、Rは炭素数6以下の直鎖または分岐鎖の低級アルキル基を示す。炭素数1〜6の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられ、これらのアルキル基は鎖状でも、分岐していてもよい。これらの低級アルキル基の中でもメチル基及びエチル基が好ましい。
一般式(1)において、nは1〜10の整数であるが、1〜5の整数であることが好ましい。
【0063】
一般式(1)で表されるテトラアルコキシシランの具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランが挙げられる。これらの中でも、テトラメトキシシランが好ましい。
また、一般式(1)で表されるテトラアルコキシシランの縮合物としては、ポリテトラエトキシシラン、ポリテトラメトキシシランが例示できる。
テトラアルコキシシランの市販品としては、多摩化学工業(株)製正珪酸エチル、高純度正珪酸エチル、高純度正珪酸エチル(EL)、正珪酸メチル、プロピルシリケート、ブチルシリケート等が挙げられる。
テトラアルコキシシラン縮合物の市販品としては、多摩化学工業(株)製シリケート40、シリケート45、シリケート48、Mシリケート51等が挙げられる。
【0064】
また、加水分解性アルコキシシラン(b)は、一般式(2)で表されるトリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、もしくはこれらの混合物、および/またはそれらの縮合物であることも好ましい。
【0065】
【化3】

【0066】
式中、X1はOR、炭素数6以下の直鎖もしくは分岐鎖の低級アルキル基またはフェニル基を示し、X2は炭素数6以下の直鎖もしくは分岐鎖の低級アルキル基またはフェニル基を示す。Rは炭素数6以下の直鎖または分岐鎖の低級アルキル基を示す。2つ以上のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。炭素数6以下の直鎖または分岐鎖の低級アルキル基は、一般式(1)で説明した低級アルキル基と同じである。一般式(2)においてnは1〜10の整数であるが、1〜5の整数であることが好ましい。
【0067】
一般式(2)で表されるトリアルコキシシランの具体例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリ−iso−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−sec−ブトキシシラン、エチルトリ−sec−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランを挙げることができる。
一般式(2)で表されるジアルコキシシランの具体例として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジ−iso−プロポキシシラン、ジエチルジ−iso−プロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−tert−ブトキシシラン、ジエチルジ−tert−ブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランを挙げることができる。
これらのトリアルコキシシランおよびジアルコキシシランの市販品としては、多摩化学工業(株)製メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)等が挙げられる。
【0068】
ポリウレタン(a)100質量部に対し、加水分解性アルコキシシラン(b)3〜80質量部反応させることが好ましい。
シラン変性の反応温度は、特に限定されないが、反応温度70〜150℃が好ましく、80〜130℃がより好ましい。全反応時間は2〜15時間程度であることが好ましい。
シラン変性ポリウレタンの反応に用いる触媒は、有機酸系、有機錫、有機酸錫が好ましい。これらの中でも、酢酸、ジブチル錫ジラウレートが好ましい。
シラン変性反応において、溶剤は特に必要なく、通常は無溶剤下で反応させるが、溶剤下で反応させてもよい。用いる溶剤は、ポリウレタン及びアルコキシシランが可溶な溶剤であれば特に制限はないが、沸点75℃以上の非プロトン性極性溶剤を用いることが好ましい。これらの例として、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、メチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。
【0069】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−1)のウレタン基濃度は1〜5meq/gが好ましく、1.5〜4.5meq/gが更に好ましい。
この範囲内にあると、大きな力学強度が得られるとともに、良好な粘度のために分散性が向上するので好ましい。
【0070】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−1)は、磁性粉体、非磁性粉体の分散性を向上させるため、これらの粉体表面に吸着する官能基(極性基)を持つことが好ましい。好ましい極性基としては−SO3M、−SO4M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、−COOM、>NSO3M、−NR1SO3M、−NR12、 −N+123-(Mは水素原子、アルカリ金属あるいはアンモニウム塩を表す。 R1、R2、R3は、水素原子あるいはアルキル基を表す。Xは、1価のアニオンを表し、ハロゲンイオンが例示できる。)がある。
この中でも−SO3Mが特に分散性に優れ好ましい。極性基は2種類以上でも良く、例えば、−SO3Mの他に−NR12の導入を行っても良い。
極性基含有量は1×10-5〜2×10-4eq/gが好ましい。この範囲内にあると、十分な磁性粉体への吸着が得られるとともに、溶剤への溶解性が良好なので、分散性が向上するため好ましい。
【0071】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−1)の分子量は、質量平均分子量で10,000〜200,000が好ましく、20,000〜100,000が更に好ましい。この範囲内にあると、十分な塗膜強度が得られるために耐久性が向上し、また安定した分散性が得られるため好ましい。
【0072】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)
<ポリウレタン(a)>
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)におけるポリウレタン(a)は、 シラン変性ポリウレタン樹脂(2−1)におけるポリウレタン(a)と同様である。
【0073】
<イソシアナト基を有するアルコキシシラン(c)>
イソシアナト基を有するアルコキシシランとしては、下記一般式(3)で表されるトリアルコキシシランが好ましい。
一般式(3)
(R1O)3−Si−R2−NCO
一般式(3)中、R1は炭素数6以下の直鎖又は分岐鎖の低級アルキル基を示す。炭素数6以下の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられ、これらのアルキル基は鎖状でも、分岐していてもよい。これらの低級アルキル基の中でもメチル基及びエチル基が好ましい。
一般式(3)中、R2は炭素数6以下の低級アルキレン基を示す。炭素数6以下の低級アルキレン基の具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基が挙げられる。これらの中でも、プロピレン基が好ましい。
【0074】
一般式(3)で表されるイソシアナト基(NCO基)を有するテトラアルコキシシランの具体例としては、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、NCO基を有するテトラアルコキシシランの市販品としては、日本ユニカー(株)製A−1310、Y−5187、信越化学工業(株)製KBE9007等が挙げられる。
【0075】
ポリウレタン(a)100質量部に対し、イソシアナト基を有するアルコキシシラン(c)3〜80質量部反応させることが好ましい。
シラン変性の反応温度は、特に限定されないが、反応温度70〜150℃が好ましく、80〜130℃がより好ましい。全反応時間は2〜15時間程度であることが好ましい。
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)を得るために用いる触媒は、有機酸系、有機錫、有機酸錫が好ましい。これらの中でも、酢酸、ジブチル錫ジラウレートが好ましい。
シラン変性反応において、溶剤は特に必要なく、通常は無溶剤下で反応させるが、溶剤下で反応させてもよい。用いる溶剤は、ポリウレタン及びアルコキシシランが可溶な溶剤であれば特に制限はないが、沸点75℃以上の非プロトン性極性溶剤を用いることが好ましい。これらの例として、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、メチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。
【0076】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)のウレタン基濃度は1〜5meq/gが好ましく、1.5〜4.5meq/gが更に好ましい。
この範囲内にあると、大きな力学強度が得られるとともに、良好な粘度のために分散性が向上するので好ましい。
【0077】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)は、磁性粉体、非磁性粉体の分散性を向上させるため、これらの粉体表面に吸着する官能基(極性基)を持つことが好ましい。好ましい極性基としては−SO3M、−SO4M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、−COOM、>NSO3M、−NR1SO3M、−NR12、−N+123-(Mは水素原子、アルカリ金属あるいはアンモニウム塩を表す。R1、R2、R3は、水素原子あるいはアルキル基を表す。Xは、1価のアニオンを表し、ハロゲンイオンが例示できる。)がある。
この中でも−SO3Mが特に分散性に優れ好ましい。極性基は2種類以上でも良く、例えば、−SO3Mの他に−NR12の導入を行っても良い。
極性基含有量は1×10-5〜2×10-4eq/gが好ましい。この範囲内にあると、十分な磁性粉体への吸着が得られるとともに、溶剤への溶解性が良好なので、分散性が向上するため好ましい。
【0078】
シラン変性ポリウレタン樹脂(2−2)の分子量は、質量平均分子量で10,000〜200,000が好ましく、20,000〜100,000が更に好ましい。この範囲内にあると、十分な塗膜強度が得られるために耐久性が向上し、また安定した分散性が得られるため好ましい。
【0079】
本発明の磁性層に用いられる結合剤の添加量は、強磁性粉末の質量に対して5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲である。ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合には、ポリウレタンのみ又はポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。その他の樹脂として塩化ビニル系樹脂を用いる場合には1〜20質量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは4〜15質量%の範囲である。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜200℃、好ましくは0〜150℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.49〜98MPa(0.05〜10kg/mm2)、降伏点は0.49〜98MPa(0.05〜10kg/mm2)が好ましい。
【0080】
本発明で用いる磁気記録媒体は、例えばフレキシブルディスクである場合、支持体の両面に2層以上から構成できる。したがって、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂量、磁性層を形成する各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ非磁性層、各磁性層とで変えることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきであり、多層磁性層に関する公知技術を適用できる。例えば、各層で結合剤量を変更する場合、磁性層表面の擦傷を減らすためには磁性層の結合剤量を増量することが有効であり、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層の結合剤量を多くして柔軟性を持たせることができる。
【0081】
本発明で使用可能なポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を挙げることができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMRミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住化バイエル社製デスモジュールL,デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL等があり、これらを単独又は硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組み合せで各層とも用いることができる。
【0082】
本発明における磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。これら添加剤としては、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、α−メチルベンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トルイルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホスホン酸及びそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸及びそのアルカリ金属塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エステル及びそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等のリン酸アルキルエステル及びそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステル及びそのアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステル及びそのアルカリ金属塩、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸及びこれらの金属塩、又はステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良い1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良いアルコキシアルコールまたはアルキレンオキサイド重合物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステル又は多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基およびF、Cl、Br、CF3、CCl3、CBr3等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換したアルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
【0083】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウム又はスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸又はリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0084】
上記潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0085】
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオン社製:アーマイドP、ライオン社製:デュオミンTDO、日清オイリオ社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
【0086】
また、本発明における磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0087】
本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化学社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、40、15、RAVEN−MT−P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独又は組み合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、磁性体の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層及び非磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明の磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0088】
本発明で用いられる有機溶剤は公知のものが使用できる。本発明で用いられる有機溶媒は、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0089】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0090】
本発明で使用されるこれらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着又は結合する性質を有しており、磁性層では主に強磁性金属粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着又は結合し、例えば、一度吸着した有機リン化合物は、金属又は金属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、本発明の強磁性金属粉末表面又は非磁性粉末表面は、アルキル基、芳香族基等で被覆されたような状態になるので、該強磁性金属粉末又は非磁性粉末の結合剤樹脂成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性金属粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性も改善される。また、潤滑剤としては遊離の状態で存在するため非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべて又はその一部は、磁性層又は非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0091】
[非磁性層]
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の磁気記録媒体は、支持体上に結合剤及び非磁性粉末を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0092】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独又は2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいのは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0093】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜2μmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0094】
非磁性粉末の比表面積は、1〜100m2/gであり、好ましくは5〜70m2/gであり、さらに好ましくは10〜65m2/gである。比表面積が1〜100m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましいが、pHは6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下又は脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることはない。非磁性粉末の含水率は、0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0095】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0096】
本発明の非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOP及びそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0097】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0098】
本発明の非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は5〜80nm、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0099】
本発明の非磁性層に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0100】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明の非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0101】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0102】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0103】
また、本発明の磁気記録媒体は、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層又は非磁性層との接着力を向上させることができる。下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂が使用される。
【0104】
[層構成]
本発明で用いられる磁気記録媒体の厚み構成は、支持体の好ましい厚みが3〜80μmである。また、支持体と非磁性層又は磁性層の間に下塗り層を設けた場合、下塗り層の厚みは、0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0105】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、とくに好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±40%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0106】
本発明の非磁性層の厚みは、0.5〜2.0μmであり、0.8〜1.5μmであることが好ましく、0.8〜1.2μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下又は抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0107】
[バック層]
本発明の磁気記録媒体には、支持体の他方の面にバック層を設けるのが好ましい。バック層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方が適用される。バック層の厚みは、0.1〜1.0μmが好ましく、0.3〜0.6μmが更に好ましい。
【0108】
[製造方法]
本発明で用いられる磁気記録媒体の磁性層塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性金属粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨材、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初又は途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液及び非磁性層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0109】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある支持体の表面に磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。ここで複数の磁性層塗布液を逐次又は同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次又は同時に重層塗布してもよい。上記磁性塗布液又は非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0110】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性金属粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に磁場配向処理を施す。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0111】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0112】
乾燥された後、通常、塗布層に表面平滑化処理が施される。表面平滑化処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどが利用される。表面平滑化処理を行うことにより、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性金属粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダ処理ロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用する。また金属ロールで処理することもできる。
本発明の磁気記録媒体は、表面の中心面平均粗さが、カットオフ値0.25mmにおいて0.1〜4nm、好ましくは1〜3nmの範囲という極めて優れた平滑性を有する表面であることが好ましい。その方法として、例えば上述したように特定の強磁性金属粉末と結合剤とを選んで形成した磁性層を上記カレンダ処理を施すことにより行われる。カレンダ処理条件としては、カレンダーロールの温度を60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲の条件で作動させることによって行われることが好ましい。
【0113】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等が選定される。
【0114】
[物理特性]
本発明に用いられる磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は100〜300mTが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hr)は、143.3〜318.4kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.6kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFD及びSFDrは0.6以下、さらに好ましくは0.2以下である。
【0115】
本発明で用いられる磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜1012Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0116】
磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0117】
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0118】
磁性層の最大高さSRmaxは、0.5μm以下、十点平均粗さSRzは0.3μm以下、中心面山高さSRpは0.3μm以下、中心面谷深さSRvは0.3μm以下、中心面面積率SSrは20〜80%、平均波長Sλaは5〜300μmが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールやカレンダ処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0119】
本発明の磁気記録媒体として非磁性層と磁性層で構成した場合、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くすることができる。
【0120】
前記のようにして得られた磁気記録媒体は、本発明に従い、TOF−SIMSを用いて測定することにより、例えば磁性層の強磁性粉末と反応して形成された脂肪酸金属塩を分析することができる。前述のように脂肪酸のカルシウム塩のような脂肪酸金属塩は、磁性層表面に突起を形成してスペーシングにより電磁変換特性を低下し、また脂肪酸イットリウム塩や脂肪酸バリウム塩は、ヘッドの目詰まりを引き起こし、ドロップアウトやエラーレート劣化の原因となり、走行耐久性、電磁変換特性を悪化させる。
磁性層表面に存在している脂肪酸金属塩を分析する時期は、磁気記録媒体の製造工程のいずれの工程後で行ってもよいが、少なくとも最終段階後でのTOF−SIMS測定が含まれることが好ましい。該最終段階でのTOF−SIMS測定において、多量の脂肪酸金属塩が認められる場合には、製品出荷から除外されると共に各製造工程における磁気記録媒体の組成及び処理条件が見直されることにより常に一定の品質の磁気記録媒体を製造することができる。
なお、TOF−SIMSにより求めた磁性層表面における脂肪酸金属塩の量は、前記のように、脂肪酸金属塩のフラグメント強度が、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下であるが、同様に、脂肪酸イットリウム塩のフラグメント強度が、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。脂肪酸バリウム塩のフラグメント強度は、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。
磁性層が鉄を含有する場合、脂肪酸金属塩のフラグメント強度が、前記鉄のフラグメント強度の合計に対し、小さいほどヘッドの走行特性が良好となることが判明した。
【0121】
本発明において、上記脂肪酸金属塩量を制御する手段としては、例えば、以下の手段を幾つか組み合わせることが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)結合剤の強磁性粉末への吸着性を向上させる。例えば、前記の好ましい結合剤を使用する、SO3M基などの官能基量を高める、塩化ビニル系樹脂の使用量を増加するなどの手段がある。
(2)カレンダ処理後に、例えば硬化剤の硬化反応を促進する加熱処理を省略する。このためには、前記の高Tgポリウレタン樹脂を使用するのが有利である。
(3)磁気記録媒体の製造工程中に、例えばふき取り効果の高い起毛タイプのポリエステル布などを用い、磁気記録媒体の表面をワイピング処理し、表面の脂肪酸金属塩量を低減すること。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明下記例に限定されるものではない。
なお実施例中の「部」の表示は「質量部」を示す。
【0123】
(実施例1)
磁性層塗布液の調製
強磁性針状金属粉末 100部
組成(原子比):Fe/Co/Al/Y=62/25/5/8
表面処理層:Al23、Y23
Hc:167kA/m(2,100Oe)、結晶子サイズ:110Å、
平均長軸長:45nm、平均針状比:6、BET比表面積:70m2/g、
σs:110A・m2/kg(emu/g)
シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液(下記参照) 17.5部(固形分)
塩化ビニル共重合体(MR110、日本ゼオン社製) 7.5部
フェニル燐酸 3部
α−Al23(平均粒子サイズ0.15μm) 2部
カーボンブラック(平均粒子サイズ20nm) 2部
各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
を加えてサンドミルで120分間分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製コロネート3041)を6部加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0124】
非磁性層塗布液の調製
非磁性無機質粉体
α−酸化鉄 85部
表面処理層:Al23、SiO2、平均長軸長:0.15μm、
タップ密度:0.8、平均針状比:7、BET比表面積:52m2/g、
pH8、DBP吸油量:33ml/100g
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g、pH:8、
BET比表面積:250m2/g、揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂溶液PU−1 15部(固形分)
フェニル燐酸 3部
α−Al23(平均粒径0.2μm) 1部
各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
を加えてサンドミルで120分間分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
【0125】
さらに6μm厚みのポリエチレンナフタレート(PEN)ベースに上記非磁性層塗布液を乾燥後の厚さが1.8μmになるように塗布し、さらにその直後、磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.08μmになるように同時重層塗布した。両層が未乾燥の状態で300mT(3,000ガウス)の磁石で磁場配向を行ない、さらに乾燥後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧線圧294kN/m(300kg/cm)、温度90℃で表面平滑化処理を行なった後、80℃で48時間加熱硬化処理(サーモ処理)を行い6.35mm幅にスリットし磁気テープを作成した。
続いて、磁気テープの表面に以下のワイピング処理を行った。
(1)起毛したポリエステル布を磁気テープに接触させ、10m/sでテープを走行させる。
(2)ワイピング処理回数を増やす場合は、テープ走行方向に直列にワイピング部を増設する。
【0126】
シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液は、次のようにして得た。
温度計、撹拌基、還流式冷却器を取り付けた反応容器にアジピン酸及びネオペンチルグリコールを仕込み(アジピン酸:ネオペンチルグリコール=1:1.05(モル比))、触媒として酢酸亜鉛2wt%、酢酸ナトリウム3wt%を仕込み180〜220℃で3時間エステル化反応を行い、220〜280℃で0.13kPa〜1.33kPa(1〜10mmHg)の減圧下で2時間重縮合反応を行った。このようにして分子量520のポリエステルポリオールを得た。
次に、前記ポリエステルポリオール41部、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート45部、鎖延長剤としてジメチロールヘプタン3部およびトリメチロールプロパン8部並びにスルホイソフタル酸エチレンオキサイド付加物(DEIS)3部を用い、1分子中の水酸基を6.5個のOH基及びSO3Na基を70eq/tonを導入したポリウレタンPU−1を重合生成した。
ポリウレタンの重合反応は、還流式冷却器、撹拌機を具備し、予め窒素置換した容器に、ポリオール及び鎖延長剤をシクロヘキサノン30%溶液に窒素気流下60℃で溶解した。次いで触媒として、ジブチルスズジラウレート60ppmを加え更に15分間溶解し、ジイソシアネートを加え90℃にて6時間加熱反応したことにより行った。溶液濃度30質量%のポリウレタンPU−1を得た。PU−1の質量平均分子量は41000であった。
次に、上記のポリウレタン(PU−1)溶液に、テトラメトキシシランを加え、よく撹拌しながら、同温度で5時間、付加反応させ、シラン変性ポリウレタン樹脂Si−PU1溶液(溶液濃度30質量%)を得た。なお、テトラメトキシシランの添加量は、テトラメトキシシランの添加モル数/PU−1のOH基当量が1.00となる量である。
Si−PU1の脱アルコール反応後のアルコキシル基は、19.5個/分子であった。
【0127】
(実施例2)
シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液の替わりに、下記のシラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU2)溶液を用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。
シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU2)溶液は、実施例1のポリウレタンPU−1に、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランを加え、よく撹拌しながら、同温度で5時間、脱アルコール反応させ、シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU2)溶液(溶液濃度30質量%)を得た。なお、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランの添加量は、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランの添加モル数/PU−1のOH基当量が1.00となる量である。
Si−PU2の付加反応後のアルコキシル基は、19.5個/分子であった。
【0128】
(実施例3〜6)
実施例1において、シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液の替わりに、下記表1に示すようにPUを用い、その添加量を変えることにより塩化ビニル樹脂比率を変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。なお、官能基量(SO3Na基量)は、DEISの添加量を変えることにより変化させた。ここで、塩化ビニル樹脂比率は以下のとおりである。塩化ビニル樹脂比率=100×(塩化ビニル樹脂質量)/(塩化ビニル樹脂質量+ポリウレタン樹脂質量)
(PUの調製)
0.045モルのビスフェノールAプロピレンオキシド付加物(分子量1000)、0.083モルの水素化ビスフェノールA及び所定のモル数のDEISを還流式冷却器、攪拌機を具備し、予め窒素置換した容器にシクロヘキサノン30%溶液に窒素気流下60℃で溶解した。次いで触媒として、ジ−n−ジブチルスズジラウレート60ppmを加え、更に15分間溶解した。更に0.132モルの4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を加え90℃において6時間加熱反応し、PU溶液を得た。PUの質量平均分子量は50500、エーテル基濃度は、5.6mmol/gである。
【0129】
(実施例7)
実施例1において、シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液の替わりに、下記表1に示すようにPUを用い、ワイピング処理を4回繰り返したこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0130】
(実施例8)
ダイマージオール、水素化ビスフェノールA、スルホイソフタル酸エチレンオキサイド付加物を、30%の濃度となるようにシクロヘキサノンに加え、これを、還流式冷却器、攪拌機を具備し、予め窒素置換した容器に投入し、窒素気流下60℃で溶解した。次いで触媒として、ジブチルスズジラウレート60ppmを加え更に15分間溶解した。更にジフェニルメタンジイソシアネートを加え90℃にて6時間加熱反応し、高Tgポリウレタン樹脂Aを得た。なお、ダイマージオール、水素化ビスフェノールA、スルホイソフタル酸エチレンオキサイド付加物、ジフェニルメタンジイソシアネートは、50/50/3/100のモル比で使用した。高Tgポリウレタン樹脂Aの質量平均分子量は47000、Tgは90℃であった。
シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液の替わりに、上記の高Tgポリウレタン樹脂Aを用い、サーモ処理を行わなかったこと以外は、実施例1を繰り返した。
(実施例9)
実施例5において、ポリウレタン樹脂PUの替わりに、以下のPUaを用いたこと以外は、実施例5を繰り返した。
(PUaの調製)
アジピン酸/2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール=1/1(モル比)からなるポリエステルポリオール(分子量2045)6モル、アジピン酸/スルホイソフタル酸/2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール/1,6−ヘキサンジオール=9/1/7/3(モル比)からなるポリエステルポリオール(分子量2150)3モル、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール100モル及びMDI 107モルを用い、前記PUと同様にしてPUa溶液を得た。PUの質量平均分子量は49500、エーテル基濃度は、3.5mmol/gである。
(実施例10)
実施例1において、強磁性針状金属粉末の替わりに、バリウムフェライト(平均板径:25nm)を用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0131】
(比較例1)
実施例1において、シラン変性ポリウレタン樹脂(Si−PU1)溶液の替わりに、下記表1に示すようにPUを固形分として21.3質量部用い、結合剤中の塩化ビニル樹脂を3.7質量部に変更したこと以外は、実施例1を繰り返した。
【0132】
(比較例2)
実施例7において、ワイピング処理を1回のみ行ったこと以外は、実施例7を繰り返した。
【0133】
(比較例3)
実施例8において、サーモ処理を行ったこと以外は、実施例8を繰り返した。
(比較例4)
比較例1において、強磁性針状金属粉末の替わりに、バリウムフェライト(平均板径:25nm)を用いたこと以外は、比較例1を繰り返した。
【0134】
【表1】

【0135】
上記で得られた各種磁気テープについて、以下の評価を行った。
(1)TOF−SIMSによる脂肪酸イットリウム塩および鉄の評価:ION−TOF社製TOF−SIMS IV型を用い、Au3モード0.1pAにて磁性層表面をそのまま測定し、磁性層表面に存在する脂肪酸イットリウム塩および鉄をフラグメント化して検出した。本発明者が検討したところ、脂肪酸イットリウム塩のフラグメントは、C18363Yであり、m/z=389.17にピークを有することが判明した。また、鉄のm/zは55.93であった。検出した脂肪酸イットリウム塩のフラグメント強度と、鉄のフラグメント強度との関係である、(脂肪酸イットリウム塩フラグメント強度)/(Feのフラグメント強度の合計)を、百分率として求めた。
(2)TOF−SIMSによる脂肪酸バリウム塩、および鉄の評価:ION−TOF社製TOF−SIMS IV型を用い、Au3モード0.1pAにて磁性層表面をそのまま測定し、磁性層表面に存在する脂肪酸バリウム塩、および鉄をフラグメント化して検出した。本発明者が検討したところ、脂肪酸バリウム塩のフラグメントとして、C18352Ba、m/z=421.17検出されることが判明した。検出した脂肪酸バリウム塩のフラグメント強度と、鉄のフラグメント強度との関係である、(脂肪酸バリウム塩フラグメント強度)/(Feのフラグメント強度)を、百分率として求めた。
(3)電磁変換特性:磁気テープに記録トラック幅15μm、記録波長0.36μm、テープ送り速度2.5m/秒で信号を300m長に記録する。これをシールド間距離が250nmであるシールド型磁気抵抗素子が含まれる再生ヘッドを用いて、リードトラック幅7.5μm、テープ送り速度2.5m/秒で信号を再生する。信号を再生させながら、300m長のテープを100往復させ、その前後の出力低下およびエラーレートの上昇を観察した。出力は、テープの走行1往復後を0dBとする。エラーレートは、テープの走行1往復後を1としたときの、300往復後の比を記載した。
(4)摩擦係数:40℃80%RH環境下で、4mmφのSUS420Jに180度の角度でテープを渡し、荷重500g、秒速14mmでテープを0.5m摺動させて、オイラーの式に基づいて摩擦係数(μ値)を求めた。
オイラーの式:(1/π)ln(T2/10) T2:摺動抵抗値(g)
測定は繰り返し100パスまで行い、100パス目のμ値を求めた。
結果を表2に示す。
【0136】
【表2】

【0137】
実施例1〜6、9及び10は、特に好適なポリウレタン樹脂を用いるか、官能基量を高めるか、塩化ビニル樹脂の比率を適切な範囲に設定しているため、結合剤の強磁性粉末への吸着が良好となり、脂肪酸金属塩の生成が抑えられ、出力、エラーレートが安定している。摩擦係数も低い。
実施例7は、ワイピング処理を強化しているため、磁性層表面の脂肪酸金属塩がふき取られ、脂肪酸金属塩の生成が抑えられ、出力、エラーレートが安定している。摩擦係数も低い。
実施例8は、サーモ処理を行なっていないため、脂肪酸金属塩の生成が抑えられ、出力、エラーレートが安定している。摩擦係数も低い。
比較例1及び4は、結合剤の磁性体への吸着が乏しいため、脂肪酸金属塩が著しく生成し、出力低下、エラーレートの上昇、摩擦係数の増加が大きい。
比較例2は、実施例7に比べてワイピング処理が不十分であるため、磁性層表面の脂肪酸金属塩がふき取りきれず、脂肪酸金属塩が著しく生成し、出力低下、エラーレートの上昇、摩擦係数の増加が大きい。
比較例3は、不必要なサーモ処理を行っているため、脂肪酸金属塩が著しく生成し、出力低下、エラーレートの上昇、摩擦係数の増加が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を設けた磁気記録媒体において、
前記強磁性粉末が、平均長軸長20〜60nmの強磁性金属粉末または平均板径5〜30nmの六方晶フェライト粉末であり、
飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)により測定された、前記磁性層表面の脂肪酸金属塩のフラグメント強度が、鉄のフラグメント強度に対し、5%以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記支持体の一方の面に、該支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を設けるとともに、前記支持体の他方の面にバック層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記強磁性金属粉末が、少なくともFeおよびYを含有し、前記Feに対するYの割合が、5〜20原子%であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記六方晶フェライトが、バリウムフェライトであることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
記録された信号を再生する素子としてシールド型磁気抵抗効果型素子が用いられ、かつ前記の素子のシールド間距離が80nm〜300nmであるシールド型磁気抵抗効果型素子が含まれる記録再生ヘッドが用いられるシステムで使用されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を少なくとも設けた磁気記録媒体を用い、情報の記録または再生を行う磁気記録再生方法において、前記磁気記録媒体が、請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体であるとともに、情報の再生手段としてシールド型磁気抵抗効果型素子を使用した再生ヘッドが用いられ、かつ前記素子のシールド間距離が、80nm〜300nmであることを特徴とする磁気記録再生方法。