説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】平滑度のよいグラニュラ構造の磁性膜を備え、磁気ヘッドとの摩擦が小さく耐久性に優れた磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板1上に下地膜2を形成し、その下地膜2上に、強磁性材料と電気抵抗が106 Ωcm以下の非磁性材料との混合物からなるターゲットを用いたスパッタリング法で、あるいは、強磁性材料からなるターゲットと電気抵抗が106 Ωcm以下の非磁性材料からなるターゲットを用いた二元スパッタリング法で、グラニュラ構造の磁性膜3を成膜し、その上に保護膜4を成膜して磁気記録媒体とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、磁気ディスク装置に用いられる磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】コンピュータなどの情報処理装置の外部記憶装置として用いられる磁気ディスク装置に用いられる磁気記録媒体(以下、媒体とも略記する)は、アルミニウム合金基板あるいはガラス基板上に磁性膜が設けられてなる。磁性膜の材料としては、Coを主成分とする合金,例えばCoCrPtTa合金が多用され、記録密度は約6Gb/in2 のものが市販されており、さらに記録密度の増大が要求されている。記録密度を増大するためには、媒体のノイズを低減することが重要であり、Coを主成分とする合金の組成の改善あるいは媒体の層構成の工夫,磁性膜中の強磁性体の結晶粒径の低減などが行われている。しかしながら、従来のCoを主成分とする合金からなるターゲットをスパッタして磁性膜を成膜する方法では、媒体ノイズを現在の市場の要求レベルまで低減することは困難な状況になっている。そこで、媒体ノイズの低減に有効と考えられるグラニュラ構造の磁性膜を備えた媒体の開発が進められている(例えば、特開平7−311929号公報、特開平8−255342号公報)。グラニュラ構造の磁性膜は非磁性材料のマトリックス中に強磁性体の粒子が分散した構造の,いわゆるグラニュラ膜であり、強磁性体の粒子は非磁性材料により囲まれ粒子が相互に直接接触しない構造となっている。そのために、強磁性体の粒子間の磁気的な相互作用が弱くなり、媒体ノイズが低減される。このような媒体は、例えば、特開平7−311929号公報に開示されているような強磁性材料と非磁性材料との混合物からなるターゲットをスパッタして磁性膜を成膜する方法で作製される。
【0003】媒体ノイズは磁性膜の非磁性材料の体積分率を変えることにより制御できる。強磁性材料としてはCoを主成分とする合金であるCoPtなどが、非磁性材料としてはSiO2 ,Al2 3 ,Si3 4 ,AlNなどが用いられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】非磁性材料として用いられるSiO2 ,Al2 3 ,Si3 4 ,AlNなどは電気抵抗が大きく絶縁体である。グラニュラ構造の磁性膜は、例えば、CoPtとSiO2 を混合しHIPあるいはCIPなどにより固めたターゲットを用いてスパッタリング法で成膜される。ターゲットが電気導電性の良いCoPtと電気導電性の悪いSiO2 からなるため、直流電源あるいはRF電源を用いてスパッタした場合、SiO2 は粒状となって基板に到着付着していく。そのため、グラニュラ構造の磁性膜の平滑度が悪くなり、その上に保護膜を成膜し媒体とすると、磁気ディスク装置に使用したとき媒体と書き込み・再生用の磁気ヘッドとの摩擦が増大し、媒体あるいは磁気ヘッドが損傷するという問題が発生する。
【0005】この発明は、上述の点に鑑みてなされたものであって、平滑度の良いグラニュラ構造の磁性膜を備えた磁気ヘッドとの摩擦が少ない耐久性に優れた媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題は、この発明によれば、磁性膜が非磁性材料のマトリックスの中に強磁性体の粒子を分散させたグラニュラ構造である磁気記録媒体において、磁性膜中の非磁性材料の電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下である媒体とすることによって解決される。
【0007】磁性膜に用いる非磁性材料の電気抵抗を比抵抗106 Ωcm以下と小さくすることにより、スパッタリングに際して非磁性材料に電荷がたまることを防止し、非磁性材料が粒状となって基板に付着することを避けることができて、磁性膜を表面平滑に成膜することが可能となり、その上に保護膜を成膜することにより、磁気ヘッドとの摩擦が小さい耐久性に優れた磁気記録媒体が得られる。
【0008】電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下と小さい非磁性材料としては、導電性酸化物または化合物半導体が好適に用いられる。導電性酸化物としては、例えばITO(Indium Tin Oxide),ZnO:Al(AlをドープしたZnO)などが、また、化合物半導体としてはMgあるいはSiをドープしたGaN,AlNなどのが好適である。
【0009】このようなグラニュラ構造の磁性膜を備えた磁気記録媒体は、磁性膜を強磁性材料と電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下の非磁性材料の混合物からなるターゲットを用いてスパッタリング法で成膜することによって作製される。
【0010】または、磁性膜を強磁性材料からなるターゲットと電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下の非磁性材料からなるターゲットとを用いた2元スパッタリング法で成膜することによっても作製できる。
【0011】
【発明の実施の形態】図1は、この発明に係わる媒体の模式的断面図で、非磁性基板1上に下地膜2,グラニュラ構造磁性膜3,保護膜4が順次形成された構成である。
【0012】基板としては、一般に用いられているAl合金基板,ガラス基板などが用いられる。
【0013】これらの基板表面上に、例えばCrからなる下地膜をスパッタリング法で成膜する。
【0014】この下地膜上に、強磁性材料(例えば、CoPt合金)と電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下の非磁性材料(例えば、ITO,ZnO:Alなどの導電性酸化物、あるいはSiまたはMgなどをドープしたAlN,GaNなどの化合物半導体)とを混合してなるターゲットを用いてスパッタリング法により、または、強磁性材料からなるターゲットと非磁性材料からなるターゲットとの二種類のターゲットを用いた二元スパッタリング法により、磁性膜を成膜することによって非磁性材料のマトリックスの中に強磁性体が分散したグラニュラ構造の磁性膜を成膜することができる。スパッタ電源は、直流電源またはRF電源いずれでもよい。
【0015】このようにして成膜されたグラニュラ構造の磁性膜上に、例えばカーボンからなる保護膜をスパッタリング法で成膜して媒体とする。
【0016】
【実施例】以下、この発明の具体的な実施例について説明する。
【0017】実施例1磁性材料としてCoPt,非磁性材料としてITOを用い、CoPt─20%ITOの混合ターゲットを作製した。直径3.5インチのディスク状のガラス基板上に下地膜としてCrをスパッタリング法で50nmの厚さに成膜し、その上に、基板温度室温,スパッタガス圧力10mTorrで、CoPt─20%ITOの混合ターゲットをDC電源を用いてスパッタして膜厚30nmのグラニュラ構造磁性膜を成膜した。光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡で磁性膜表面を観察したところ、表面に付着しているITO粒子の個数は非磁性材料にSiO2 を用いたときの粒子数の1/100以下であった。
【0018】このようにして成膜した磁性膜上にカーボン保護膜をスパッタリング法で成膜して媒体とすることにより、磁気ヘッドとの摩擦の小さい耐久性に優れた媒体が得られた。
【0019】実施例2磁性材料としてCoPt,非磁性材料としてAlドープZnOを用い、CoPt─20%ZnO:Alの混合ターゲットを作製した。
【0020】実施例1において、CoPt─20%ITOの混合ターゲットをCoPt─20%ZnO:Alの混合ターゲットに変えたこと以外は実施例1と同様にして、膜厚30nmのグラニュラ構造磁性膜を成膜した。光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡で磁性膜表面を観察したところ、表面に付着しているITO粒子の個数は非磁性材料にSiO2 を用いたときの粒子数の1/100以下であった。
【0021】このようにして成膜した磁性膜上にカーボン保護膜をスパッタリング法で成膜して媒体とすることにより、磁気ヘッドとの摩擦の小さい耐久性に優れた媒体が得られた。
【0022】実施例3実施例1において、CoPt─20%ITOの混合ターゲットをCoPt─50%ITOの混合ターゲットに変えたこと以外は実施例1と同様にして、膜厚30nmのグラニュラ構造磁性膜を成膜した。光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡で磁性膜表面を観察したところ、表面に付着しているITO粒子の個数は非磁性材料にSiO2 を用いたときの粒子数の1/100以下であった。
【0023】このようにして成膜した磁性膜上にカーボン保護膜をスパッタリング法で成膜して媒体とすることにより、磁気ヘッドとの摩擦の小さい耐久性に優れた媒体が得られた。
【0024】実施例4実施例3において、スパッタ電源をDC電源からRF電源に変えたこと以外は実施例3と同様にして、膜厚30nmのグラニュラ構造磁性膜を成膜した。光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡で磁性膜表面を観察したところ、表面に付着しているITO粒子の個数は非磁性材料にSiO2 を用いたときの粒子数の1/100以下であった。 このようにして成膜した磁性膜上にカーボン保護膜をスパッタリング法で成膜して媒体とすることにより、磁気ヘッドとの摩擦の小さい耐久性に優れた媒体が得られた。
【0025】実施例5磁性材料としてCoPt,非磁性材料としてITOを用い、CoPtターゲットとITOターゲットをそれぞれ作製した。
【0026】実施例1において、CoPt─20%ITOの混合ターゲットに代えてCoPtターゲットとITOターゲットの二ターゲットを用いたこと以外は実施例1と同様にして、膜厚30nmのグラニュラ構造磁性膜を成膜した。光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡で磁性膜表面を観察したところ、表面に付着しているITO粒子の個数は非磁性材料にSiO2 を用いたときの粒子数の1/100以下であった。
【0027】このようにして成膜した磁性膜上にカーボン保護膜をスパッタリング法で成膜して媒体とすることにより、磁気ヘッドとの摩擦の小さい耐久性に優れた媒体が得られた。
【0028】
【発明の効果】この発明によれば、磁性膜が非磁性材料のマトリックス中に強磁性体の粒子を分散させたグラニュラ構造である磁気記録媒体において、前記磁性膜中の非磁性材料の電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下である媒体とすることにより、磁気ヘッドとの摩擦が低減された耐久性の優れた媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係わる媒体の一例の模式的断面図
【符号の説明】
1 非磁性基板
2 下地膜
3 グラニュラ構造磁性膜
4 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】磁性膜が非磁性材料のマトリックス中に強磁性体の粒子を分散させたグラニュラ構造である磁気記録媒体において、前記磁性膜中の非磁性材料の電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】非磁性材料が導電性酸化物であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】導電性酸化物がITOまたはAlドープZnOであることを特徴とする請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】非磁性材料が化合物半導体であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項5】化合物半導体がMgあるいはSiをドープしたGaNまたはAlNであることを特徴とする請求項4記載の磁気記録媒体。
【請求項6】磁性膜が非磁性材料のマトリックス中に強磁性体の粒子を分散させたグラニュラ構造である磁気記録媒体の製造方法において、磁性膜が強磁性材料と電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下の非磁性材料との混合物からなるターゲットを用いたスパッタリング法で成膜されることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】磁性膜が非磁性材料のマトリックス中に強磁性体の粒子を分散させたグラニュラ構造である磁気記録媒体の製造方法において、磁性膜が強磁性材料からなるターゲットと電気抵抗が比抵抗106 Ωcm以下の非磁性材料からなるターゲットを用いた2元スパッタリング法で成膜されることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2001−76329(P2001−76329A)
【公開日】平成13年3月23日(2001.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−252646
【出願日】平成11年9月7日(1999.9.7)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】